(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
長手方向に垂直な断面において、前記複数の第1周線のそれぞれの外周のうち前記中心線と接触している領域の割合は5%以上である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の撚り線。
長手方向に垂直な断面において、前記複数の第1周線のそれぞれの外周のうち前記中心線と接触している領域の割合は10%以下である、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の撚り線。
長手方向に垂直な断面において、前記複数の第1周線のそれぞれの外周のうち、前記複数の第2周線のうち一の前記第2周線と接触している領域の割合は5%以上である、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の撚り線。
長手方向に垂直な断面において、前記複数の第1周線のそれぞれの外周のうち、前記複数の第2周線のうち一の前記第2周線と接触している領域の割合は10%以下である、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の撚り線。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
上記撚り線においては、伸縮によるエネルギー吸収量の増大が求められている。そこで、伸縮によるエネルギー吸収量を増大させることが可能な撚り線を提供することを目的の1つとする。
【0007】
[本開示の効果]
本開示の撚り線によれば、伸縮によるエネルギー吸収量を増大させることができる。
【0008】
[本願発明の実施形態の説明]
最初に本願発明の実施態様を列記して説明する。本願の撚り線は、複数の鋼線が撚り合わされた撚り線である。この撚り線は、長手方向に垂直な断面において、上記鋼線である中心線と、上記鋼線であって、中心線に接触し、中心線の外周側を取り囲むように並べて配置される複数の第1周線と、上記鋼線であって、第1周線に接触し、第1周線が配置される領域の外周側を取り囲むように並べて配置され、中心線および第1周線よりも降伏応力が大きい複数の第2周線と、を備える。中心線と第1周線とは面接触している。第1周線と第2周線とは面接触している。
【0009】
撚り線が伸縮してエネルギーを吸収する際、撚り線を構成する鋼線が他の鋼線に対して長手方向に移動する現象(鋼線の抜け)が発生することにより、エネルギーの吸収量が低下する。本願の撚り線においては、中心線と第1周線とが面接触しており、かつ第1周線と第2周線とが面接触している。そのため、第1周線と中心線および第2周線との間の摩擦力が大きくなり、鋼線の抜けが抑制される。その結果、撚り線が伸縮する際のエネルギーの吸収量が大きくなる。このように、本願の撚り線によれば、伸縮によるエネルギー吸収量を増大させることができる。
【0010】
上記撚り線において、上記複数の第1周線は9本の第1周線から構成されてもよい。上記複数の第2周線は9本の第2周線から構成されてもよい。このような構造は、本願の撚り線の構造として好適である。
【0011】
上記撚り線において、中心線の第1周線との接触による径方向における変形量は0.3mm以上であってもよい。このようにすることにより、第1周線と中心線との間の十分な摩擦力を得ることが容易となる。第1周線と中心線との間の摩擦力をさらに向上させる観点から、中心線の第1周線との接触による径方向における変形量は0.5mm以上であってもよい。
【0012】
上記撚り線において、中心線の第1周線との接触による径方向における変形量は1.5mm以下であってもよい。このようにすることにより、撚り線の柔軟性を確保することが容易となる。撚り線の柔軟性をより確実に確保する観点から、中心線の第1周線との接触による径方向における変形量は1.2mm以下であってもよく、1.0mm以下であってもよい。
【0013】
上記撚り線において、第1周線の第2周線との接触による径方向における変形量は0.3mm以上であってもよい。このようにすることにより、第1周線と第2周線との間の十分な摩擦力を得ることが容易となる。第1周線と第2周線との間の摩擦力をさらに向上させる観点から、第1周線の第2周線との接触による径方向における変形量は0.5mm以上であってもよい。
【0014】
上記撚り線において、第1周線の第2周線との接触による径方向における変形量は1.5mm以下であってもよい。このようにすることにより、撚り線の柔軟性を確保することが容易となる。撚り線の柔軟性をより確実に確保する観点から、第1周線の第2周線との接触による径方向における変形量は1.2mm以下であってもよく、1.0mm以下であってもよい。
【0015】
上記撚り線の長手方向に垂直な断面において、上記複数の第1周線のそれぞれの外周のうち中心線と接触している領域の割合は5%以上であってもよい。このようにすることにより、第1周線と中心線との間の十分な摩擦力を得ることが容易となる。
【0016】
上記撚り線の長手方向に垂直な断面において、上記複数の第1周線のそれぞれの外周のうち中心線と接触している領域の割合は10%以下であってもよい。このようにすることにより、撚り線の柔軟性を確保することが容易となる。
【0017】
上記撚り線の長手方向に垂直な断面において、複数の第1周線のそれぞれの外周のうち、上記複数の第2周線のうち一の第2周線と接触している領域の割合は5%以上であってもよい。このようにすることにより、第1周線と第2周線との間の十分な摩擦力を得ることが容易となる。
【0018】
上記撚り線の長手方向に垂直な断面において、複数の第1周線のそれぞれの外周のうち、複数の第2周線のうち一の第2周線と接触している領域の割合は10%以下であってもよい。このようにすることにより、撚り線の柔軟性を確保することが容易となる。
【0019】
上記撚り線において、中心線、第1周線および第2周線の外周面の面粗さはRaで0.5μm以上であってもよい。このようにすることにより、第1周線と中心線および第2周線との間の十分な摩擦力を得ることが容易となる。
【0020】
上記撚り線において、中心線、第1周線および第2周線の外周面の面粗さはRaで10μm以下であってもよい。このようにすることにより、適切な精度の撚り線を得ることが容易となる。
【0021】
上記撚り線において、中心線および第1周線の降伏応力は200N/mm
2以上600N/mm
2以下であってもよい。このようにすることにより、撚り線の伸縮に際して中心線および第1周線を降伏させて、エネルギーを吸収させることが容易となる。中心線および第1周線の降伏応力は350N/mm
2以上450N/mm
2以下であってもよい。
【0022】
上記撚り線において、第2周線の降伏応力は1800N/mm
2以上2300N/mm
2以下であってもよい。このようにすることにより、撚り線の伸長に際して第2周線が降伏しない状態を維持することが容易となる。伸縮によるエネルギー吸収量を一層増大させる観点から、第2周線の降伏応力は2200N/mm
2以上2300N/mm
2以下であってもよい。撚り線の製造コストを低減する観点から、第2周線の降伏応力は1800N/mm
2以上2000N/mm
2以下であってもよい。
【0023】
[本願発明の実施形態の詳細]
次に、本発明にかかる撚り線の実施の形態を、以下に図面を参照しつつ説明する。なお、以下の図面において同一または相当する部分には同一の参照番号を付しその説明は繰返さない。
【0024】
(実施の形態1)
(1)撚り線の構造
図1および
図2を参照して、本実施の形態における撚り線1は、複数の鋼線が撚り合わされた撚り線である。撚り線1は、長手方向に垂直な断面において、中心線10と、複数の(本実施の形態では9本の)第1周線20と、複数の(本実施の形態では9本の)第2周線30とを備えている。中心線10、第1周線20および第2周線30は、いずれも鋼線である。中心線10、第1周線20および第2周線30の長手方向に垂直な断面は、いずれも円形である。中心線10の直径は、第1周線20の直径よりも大きい。第2周線30の直径は、第1周線20の直径よりも大きい。複数の第1周線20の直径は同一である。複数の第2周線30の直径は同一である。中心線10と第1周線20とは、同種の鋼からなっている。中心線10および第1周線20としては、たとえばJIS規格G3505に規定される軟鋼線材などを採用することができる。第2周線30としては、たとえばJIS規格G3536に規定されるPC鋼線などを採用することができる。
【0025】
中心線10の外周面に接触し、中心線10の外周側を取り囲むように、9本の第1周線20が環状に並べて配置されている。隣り合う第1周線20同士は、互いに接触している。第1周線20の外周面に接触し、第1周線20が配置される領域の外周側を取り囲むように第2周線30が環状に並べて配置されている。隣り合う第2周線30同士は、互いに接触している。第2周線30は、中心線10および第1周線20よりも降伏応力が大きい。
【0026】
次に、
図3および
図4を参照して、中心線10と第1周線20との接触状態および第1周線20と第2周線30との接触状態について説明する。
図3は、撚り線1の長手方向に垂直な断面のうち、中心線10と第1周線20との接触部を拡大して示す概略断面図である。
図4は、撚り線1の長手方向に垂直な断面のうち、第2周線30と第1周線20との接触部を拡大して示す概略断面図である。
【0027】
図3を参照して、撚り線1の長手方向に垂直な断面において、中心線10の外周面10Aと各第1周線20の外周面20Aとは、長さα
2にわたって接触している。すなわち、中心線10の外周面10Aと各第1周線20の外周面20Aとは面接触している。本実施の形態において、各第1周線20の外周のうち中心線10と接触している領域の割合は5%以上10%以下である。すなわち、各第1周線20の外周長さに対する長さα
2の割合は5%以上10%以下である。
【0028】
第1周線20の外周面20Aの硬度は、中心線10の外周面10Aの硬度よりも高い。そのため、各第1周線20が中心線10に対して押し込まれるように、各第1周線20と中心線10とが面接触している。その結果、中心線10の外周面10Aのうち第1周線20と接触する領域は凹形状となっている。中心線10の第1周線20との接触による径方向における変形量(接触領域と接触領域以外の領域との半径との差)α
1は0.3mm以上1.5mm以下となっている。
【0029】
図4を参照して、撚り線1の長手方向に垂直な断面において、各第1周線20の外周面20Aと一の第2周線30の外周面30Aとは、長さβ
2にわたって接触している。すなわち、第1周線20の外周面20Aと第2周線30の外周面30Aとは面接触している。本実施の形態において、第1周線20の外周のうち一の第2周線30と接触している領域の割合は5%以上10%以下である。すなわち、各第1周線20の外周長さに対する長さβ
2の割合は5%以上10%以下である。
【0030】
第2周線30の外周面の硬度は、第1周線20の外周面の硬度よりも高い。そのため、第2周線30が第1周線20に対して押し込まれるように、第2周線30と第1周線20とが面接触している。その結果、第1周線20の外周面20Aのうち第2周線30と接触する領域は凹形状となっている。第1周線20の第2周線30との接触による径方向における変形量(接触領域と接触領域以外の領域との半径との差)β
1は0.3mm以上1.5mm以下となっている。
【0031】
(2)撚り線によるエネルギーの吸収
次に、
図5を参照して、撚り線1の伸縮によるエネルギーの吸収について説明する。
図5において、横軸は撚り線1の長手方向における伸び、縦軸は撚り線1の長手方向における引張荷重を示している。
図5において、細線Aは中心線10および第1周線20の挙動を示している。
図5において、破線Bは第2周線30の挙動を示している。
図5において、太線Cは撚り線1全体の挙動を示している。
【0032】
まず、作用する引張荷重が小さい領域では、中心線10、第1周線20および第2周線30の全てが弾性範囲にあり、降伏していない状態となっている。そのため、細線A、破線Bともに直線状となっている。すなわち、中心線10、第1周線20および第2周線30の全てが引張荷重に比例して伸びが増大する状態となっている。引張荷重が中心線10および第1周線20の降伏点を超えると、中心線10および第1周線20は一定の引張荷重のままで伸びが増大する。そのため、細線Aは、横軸に平行な領域を有している。一方、中心線10および第1周線20よりも降伏応力の大きい第2周線30は、依然として弾性範囲にある。
【0033】
ここで、撚り線1に作用する引張荷重が増減すると、中心線10および第1周線20はループEに示すように引張降伏と圧縮降伏とを繰り返す。このとき、中心線10および第1周線20が降伏応力の高い第2周線30に取り囲まれていることにより、中心線10および第1周線20は座屈することが抑制されつつ、引張降伏と圧縮降伏とを繰り返すことができる。また、第2周線30は破線B上を往復するように弾性範囲内での伸縮を繰り返す。その結果、撚り線1全体としては、ループDに沿う挙動を示す。そして、中心線10および第1周線20の引張降伏と圧縮降伏との繰り返しにより、撚り線1を伸縮させるエネルギーが吸収される。
【0034】
(3)本実施の形態の撚り線1の効果
本実施の形態の撚り線1においては、中心線10と第1周線20とが面接触しており、かつ第1周線20と第2周線30とが面接触している。そのため、第1周線20と中心線10および第2周線30との間の摩擦力が大きくなり、撚り線1を構成する鋼線の抜けが抑制されている。その結果、撚り線1が伸縮する際のエネルギーの吸収量が大きくなっている。このように、本実施の形態の撚り線1は、伸縮によるエネルギー吸収量を増大させることが可能な撚り線となっている。
【0035】
(4)本実施の形態の好ましい構成
撚り線1において、中心線10、第1周線20および第2周線30の外周面の面粗さはRaで0.5μm以上であることが好ましい。これにより、第1周線20と中心線10および第2周線30との間の十分な摩擦力を得ることが容易となる。
【0036】
また、撚り線1において、中心線10、第1周線20および第2周線30の外周面の面粗さはRaで10μm以下であることが好ましい。これにより、適切な精度の撚り線1を得ることが容易となる。
【0037】
また、撚り線1において、中心線10および第1周線20の降伏応力は200N/mm
2以上600N/mm
2以下とすることが好ましい。これにより、撚り線1の伸縮に際して中心線10および第1周線20を降伏させて、エネルギーを吸収させることが容易となる。中心線10および第1周線20の降伏応力は350N/mm
2以上450N/mm
2以下とすることがより好ましい。
【0038】
撚り線1において、第2周線30の降伏応力は1800N/mm
2以上2300N/mm
2以下であることが好ましい。これにより、撚り線1の伸長に際して第2周線30が降伏しない状態を維持することが容易となる。伸縮によるエネルギー吸収量を一層増大させる観点から、第2周線30の降伏応力は2200N/mm
2以上2300N/mm
2以下とすることが好ましい。撚り線1の製造コストを低減する観点から、第2周線30の降伏応力は1800N/mm
2以上2000N/mm
2以下とすることが好ましい。
【0039】
(5)撚り線の製造方法
次に、本実施の形態における撚り線1の製造方法の一例について説明する。
図6を参照して、本実施の形態における撚り線1の製造方法では、まず工程(S10)として鋼線準備工程が実施される。この工程(S10)では、所望の形状および機械的性質を有し、適切な成分組成の鋼からなる鋼線である中心線10、第1周線20および第2周線30が準備される。具体的には、たとえば適切な成分組成の鋼からなる鋼線が準備され、必要に応じて伸線加工が実施されることにより、中心線10、第1周線20および第2周線30が準備される。
【0040】
次に、工程(S20)として撚り加工工程が実施される。この工程(S20)では、工程(S10)において準備された中心線10、第1周線20および第2周線30が
図1および
図2に基づいて説明した位置関係となるように撚り合わされる。
【0041】
次に、工程(S30)として圧縮工程が実施される。この工程(S30)では、工程(S20)において中心線10、第1周線20および第2周線30が撚り合わされて得られた撚り線1に対して、径方向に圧縮する圧縮加工が実施される。
図7および
図8は、圧縮工程を実施するための装置の概略を示している。
図7は互いに垂直なX軸方向およびY軸方向に垂直なZ軸方向から見た圧縮加工装置の概略平面図である。
図8は互いに垂直なX軸方向およびZ軸方向に垂直なY軸方向から見た圧縮加工装置の概略平面図である。圧縮加工装置90は、第1ローラ91と、第2ローラ92と、第3ローラ93と、第4ローラ94とを含んでいる。
【0042】
図7および
図8を参照して、工程(S20)において得られた撚り線1は、矢印γに沿って直線状の形状を維持しつつ長手方向(X軸方向)に搬送される。このように搬送される撚り線1に外周面において接触するように、第1ローラ91、第2ローラ92、第3ローラ93および第4ローラ94が配置される。
【0043】
より具体的には、撚り線1の径方向(Z軸方向)において撚り線1を挟んで互いに反対側となるように第1ローラ91と第2ローラ92とが配置される。X軸方向において、第1ローラ91と第2ローラ92とは交互に配置される。第1ローラ91および第2ローラ92の下流側に、第3ローラ93と第4ローラ94とが配置される。撚り線1の径方向(Y軸方向)において撚り線1を挟んで互いに反対側となるように第3ローラ93と第4ローラ94とが配置される。X軸方向において、第3ローラ93と第4ローラ94とは交互に配置される。
【0044】
そして、撚り線1がX軸方向に搬送されつつ、第1ローラ91および第2ローラ92がZ軸方向に交互に押し付けられた後、第3ローラ93および第4ローラ94がY軸方向に交互に押し付けられる。これにより、撚り線1は、Z軸方向に圧縮された後、Y軸方向に圧縮される。これにより、中心線10と第1周線20とが面接触し、かつ第1周線20と第2周線30とが面接触する状態となる。
【0045】
次に、工程(S40)として張力導入工程が実施される。この工程(S40)では、工程(S30)が実施された撚り線1に対して、長手方向に張力が付与される。これにより、撚り線1が伸直される。その後、必要に応じて熱処理工程(S50)が実施された後、巻取り工程(S60)が実施されることにより、本実施の形態の撚り線1が完成する。工程(S50)における熱処理としては、たとえばブルーイング熱処理を実施することができる。
【0046】
(6)撚り線の用途
次に、撚り線1の用途の一例について説明する。撚り線1は、以下に説明するように、たとえば炭鉱において使用することができる。
図9を参照して、炭層83と、炭層83以外の領域である非炭層82とが存在する炭鉱80において、まず炭層83に坑道81を形成する。次に、坑道81の上面81Bから炭層83を貫通し、非炭層82に到達する穴84を形成する。形成された穴84には、エポキシ樹脂などの硬化樹脂(図示しない)を注入する。その後、穴84に撚り線1が挿入される。硬化樹脂としては、たとえば数時間〜数日程度で硬化するものを採用する。そうすると、撚り線1が穴84内に固定される。そして、撚り線1が緊張され、坑道81の上面に存在する穴84の開口部付近にくさび部材71が設置される。これにより、所定の引張応力が付与された状態で撚り線1が固定される。
【0047】
石炭の採取に際しては、たとえば坑道81の上部に位置する炭層83の下面の所望の領域に爆薬が仕掛けられ、発破されることにより、石炭が坑道81の下面81A上に落下する。落下した石炭は、たとえば坑道81の下面81A上を走行可能なホイルローダなどの作業機械72により集められ、坑道81の外部へと搬送される。ここで、坑道81の上部に位置する炭層83に引張応力を付与された撚り線1が設置されることにより、隣接する領域での発破の振動エネルギーが撚り線1の伸縮により吸収される。その結果、所望の領域以外の領域における炭層83の崩落が抑制され、石炭の採取を安全かつスムーズに進めることができる。なお、本実施の形態においては、坑道81の上部に位置する炭層83に撚り線1が設置される場合について説明したが、撚り線1は、たとえば坑道81の側壁に設置され、側壁の崩落を抑制する目的で使用されてもよい。また、撚り線1の用途は炭鉱での使用に限られず、振動などのエネルギーの吸収を目的とした用途に、広く使用することができる。
【0048】
(実施の形態2)
次に、本発明の他の実施の形態である実施の形態2について説明する。実施の形態2における撚り線は、基本的には実施の形態1の場合と同様の構成を有し、同様の効果を奏する。しかし、実施の形態2の撚り線は、実施の形態1の場合と鋼線の配置において異なっている。
【0049】
図10および
図11ならびに
図1および
図2を参照して、実施の形態2の撚り線1は、中心線10と、複数の(6本の)第1周線20と、複数の(6本の)太径第2周線31と、複数の(6本の)細径第2周線32とを備えている。中心線10の直径は、第1周線20の直径と同等である。太径第2周線31の直径は、第1周線20の直径よりも大きい。細径第2周線32の直径は、第1周線20の直径よりも小さい。複数の第1周線20の直径は同一である。複数の太径第2周線31の直径は同一である。複数の細径第2周線32の直径は同一である。
【0050】
中心線10の外周面に接触し、中心線10の外周側を取り囲むように、6本の第1周線20が環状に並べて配置されている。隣り合う第1周線20同士は、互いに接触している。第1周線20の外周面に接触し、第1周線20が配置される領域の外周側を取り囲むように太径第2周線31と細径第2周線32とが交互に配置されている。隣り合う太径第2周線31と細径第2周線32とは、互いに接触している。太径第2周線31および細径第2周線32は、中心線10および第1周線20よりも降伏応力が大きい。
【0051】
次に、
図12〜
図14を参照して、中心線10と第1周線20との接触状態、第1周線20と太径第2周線31および細径第2周線32との接触状態について説明する。
図12は、撚り線1の長手方向に垂直な断面のうち、中心線10と第1周線20との接触部を拡大して示す概略断面図である。
図13は、撚り線1の長手方向に垂直な断面のうち、太径第2周線31と第1周線20との接触部を拡大して示す概略断面図である。
図14は、撚り線1の長手方向に垂直な断面のうち、細径第2周線32と第1周線20との接触部を拡大して示す概略断面図である。
【0052】
図12を参照して、実施の形態2の撚り線1の長手方向に垂直な断面において、中心線10の外周面10Aと各第1周線20の外周面20Aとは、長さα
4にわたって接触している。すなわち、中心線10の外周面10Aと各第1周線20の外周面20Aとは面接触している。本実施の形態において、各第1周線20の外周のうち中心線10と接触している領域の割合は5%以上10%以下である。すなわち、各第1周線20の外周長さに対する長さα
4の割合は5%以上10%以下である。
【0053】
第1周線20の外周面20Aの硬度は、中心線10の外周面10Aの硬度と同等である。そのため、各第1周線20と中心線10とが同等程度変形して各第1周線20と中心線10とが面接触している。その結果、中心線10の外周面10Aのうち第1周線20と接触する領域は平坦な状態となっている。中心線10の第1周線20との接触による径方向における変形量(接触領域と接触領域以外の領域との半径との差)α
3は0.3mm以上1.5mm以下となっている。
【0054】
図13を参照して、撚り線1の長手方向に垂直な断面において、各第1周線20の外周面20Aと一の太径第2周線31の外周面31Aとは、長さβ
4にわたって接触している。すなわち、第1周線20の外周面20Aと太径第2周線31の外周面31Aとは面接触している。本実施の形態において、第1周線20の外周のうち一の太径第2周線31と接触している領域の割合は5%以上10%以下である。すなわち、各第1周線20の外周長さに対する長さβ
4の割合は5%以上10%以下である。
【0055】
太径第2周線31の外周面31Aの硬度は、第1周線20の外周面20Aの硬度よりも高い。そのため、太径第2周線31が第1周線20に対して押し込まれるように、太径第2周線31と第1周線20とが面接触している。その結果、第1周線20の外周面20Aのうち太径第2周線31と接触する領域は凹形状となっている。第1周線20の太径第2周線31との接触による径方向における変形量(接触領域と接触領域以外の領域との半径との差)β
3は0.3mm以上1.5mm以下となっている。
【0056】
図14を参照して、撚り線1の長手方向に垂直な断面において、各第1周線20の外周面20Aと一の細径第2周線32の外周面32Aとは、長さβ
6にわたって接触している。すなわち、第1周線20の外周面20Aと細径第2周線32の外周面32Aとは面接触している。本実施の形態において、第1周線20の外周のうち一の細径第2周線32と接触している領域の割合は5%以上10%以下である。すなわち、各第1周線20の外周長さに対する長さβ
6の割合は5%以上10%以下である。
【0057】
細径第2周線32の外周面32Aの硬度は、第1周線20の外周面20Aの硬度よりも高い。そのため、細径第2周線32が第1周線20に対して押し込まれるように、細径第2周線32と第1周線20とが面接触している。その結果、第1周線20の外周面20Aのうち細径第2周線32と接触する領域は凹形状となっている。第1周線20の細径第2周線32との接触による径方向における変形量(接触領域と接触領域以外の領域との半径との差)β
5は0.3mm以上1.5mm以下となっている。
【0058】
本実施の形態の撚り線1によっても、上記実施の形態1の場合と同様の効果を得ることができる。また、本実施の形態の撚り線1によれば、第1周線20が配置される領域の外周側を取り囲むように太径第2周線31と細径第2周線32とが交互に配置されることにより、撚り線1の長手方向に垂直な断面の外形形状を真円に近づけることができる。一方、実施の形態1の撚り線1によれば、細径第2周線32を採用する必要が無く、線径の大きい第2周線30を採用することが可能であるため、撚り線1の伸縮時における中心線10および第1周線20の座屈を第2周線30によって抑制することが容易となる。
【実施例】
【0059】
本願の撚り線を作製し、伸縮によるエネルギー吸収を確認する実験を行った。実験の手順は以下の通りである。
【0060】
まず、上記実施の形態1と同様の構成を有する撚り線1を作製した。中心線10、第1周線20および第2周線30の外径は、それぞれ5.04mm、2.57mmおよび4.53mmとした。撚り線1の外径(長手方向に垂直な断面に対する外接円の直径)は18mmとした。中心線10および第1周線20としては、JIS規格G3505に規定される軟鋼線材を採用した。第2周線30としては、JIS規格G3536に規定されるPC鋼線を採用した。この撚り線1に対して引張試験を実施した結果、破断荷重は371kN、破断時の伸びは7.8%であった。
【0061】
そして、撚り線1の伸縮を繰り返し、延びと引張荷重との関係の挙動を確認する実験を実施した。この実験において、撚り線1には引張荷重が付与されている状態を維持した。引張荷重の上限は、上記引張試験の結果得られた第2周線30の弾性範囲の上限である275.0kNとした。引張荷重の下限は36.4kNとした。実験の結果を
図15に示す。
【0062】
図15を参照して、撚り線1の伸縮により、伸びと引張荷重との関係において
図5の場合と同様のループが形成されている。このことから、撚り線1の伸縮によりエネルギー吸収が達成できることが確認される。
【0063】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、どのような面からも制限的なものではないと理解されるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなく、請求の範囲によって規定され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。