特許第6844715号(P6844715)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 村田機械株式会社の特許一覧

特許6844715天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法
<>
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000002
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000003
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000004
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000005
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000006
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000007
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000008
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000009
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000010
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000011
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000012
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000013
  • 特許6844715-天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844715
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】天井搬送車システム及び天井搬送車システムでの物品の一時保管方法
(51)【国際特許分類】
   B65G 1/04 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   B65G1/04 551A
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-549912(P2019-549912)
(86)(22)【出願日】2018年9月10日
(86)【国際出願番号】JP2018033358
(87)【国際公開番号】WO2019087571
(87)【国際公開日】20190509
【審査請求日】2020年4月10日
(31)【優先権主張番号】特願2017-212597(P2017-212597)
(32)【優先日】2017年11月2日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006297
【氏名又は名称】村田機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086830
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 明
(74)【代理人】
【識別番号】100096046
【弁理士】
【氏名又は名称】塩入 みか
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 良樹
【審査官】 中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−35657(JP,A)
【文献】 特開昭59−149207(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2014−0079102(KR,A)
【文献】 特開平10−250978(JP,A)
【文献】 特開2005−170554(JP,A)
【文献】 特開2017−105586(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0079041(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0194181(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B65G 1/04
H01L 21/677
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水平面に対して傾斜している傾斜軌道を含む軌道と、
前記傾斜軌道を走行自在な走行ユニットと、物品を保持するハンドユニットと、前記ハンドユニットを昇降させる昇降ユニットと、前記傾斜軌道で前記昇降ユニットを水平に保つ水平維持機構と、コントローラとを備える、天井搬送車と、
前記傾斜軌道に沿って設けられ、水平でかつ同じ高さに配置された複数の載置部とを備え、
前記天井搬送車は、物品を移載しようとする前記載置部の直上部に前記走行ユニットを停止させた状態で、前記載置部に対して物品の移載を行うものであり、
前記コントローラは、前記移載時に、前記傾斜軌道において前記走行ユニットが停止している部分と、前記物品を移載しようとする載置部との距離に応じた昇降量で前記ハンドユニットを昇降させるように前記昇降ユニットを制御する天井搬送車システム。
【請求項2】
前記傾斜軌道が棟と棟とを接続するように設けられ、
前記載置部が棟と棟の間に設けられていることを特徴とする、請求項1の天井搬送車システム。
【請求項3】
前記傾斜軌道は、一方の棟から他方の棟へ向けて配置された第1の傾斜軌道と、前記他方の棟から前記一方の棟へ向けて配置された第2の傾斜軌道とを備え、
前記載置部は、前記第1の傾斜軌道と前記第2の傾斜軌道のいずれに位置する天井搬送車からも物品を移載自在に配置されていることを特徴とする、請求項1の天井搬送車システム。
【請求項4】
前記軌道は、一対の水平軌道の一方に上向きの傾斜軌道を介して接続されている上層の軌道と、前記一対の水平軌道の他方に下向きの傾斜軌道を介して接続されている下層の軌道とを備え、
前記載置部は、前記上向きの傾斜軌道と前記下向きの傾斜軌道のいずれからも物品を移載自在に配置されていることを特徴とする、請求項1の天井搬送車システム。
【請求項5】
前記軌道は、前記傾斜軌道と平面視で平行に配置されている水平軌道を含み、
前記載置部は、前記水平軌道と前記傾斜軌道のいずれに位置する天井搬送車からも物品を移載自在に配置されていることを特徴とする、請求項1の天井搬送車システム。
【請求項6】
前記複数の載置部は平面視で前記傾斜軌道に平行でかつ水平なフレームに取り付けられ、前記複数の載置部と前記フレームとがバッファを構成することを特徴とする、請求項1〜5のいずれかの天井搬送車システム。
【請求項7】
前記載置部としてのコンベヤを複数有するストッカを備えることを特徴とする、請求項1〜5のいずれかの天井搬送車システム。
【請求項8】
前記コントローラは、前記傾斜軌道の傾斜角と載置部間の距離とに基づいて、ハンドユニットの昇降量を載置部毎に変化させることを特徴とする、請求項1〜7のいずれかの天井搬送車システム。
【請求項9】
前記軌道は水平軌道を含み、
前記水平軌道に位置する天井搬送車が物品を移載自在でかつ水平に配置され高さが等しい複数の第2の載置部を備え、
前記コントローラは、複数の第2の載置部の各載置部に対するハンドユニットの昇降量を一定にするように構成されていることを特徴とする、請求項8の天井搬送車システム。
【請求項10】
前記第1の傾斜軌道と前記第2の傾斜軌道は共に、前記一方の棟と前記他方の棟との間でU字状に折り返すように配置されていることを特徴とする、請求項3の天井搬送車システム。
【請求項11】
水平面に対して傾斜している傾斜軌道を含む軌道と、
前記傾斜軌道を走行自在な走行ユニットと、物品を保持するハンドユニットと、前記ハンドユニットを昇降させる昇降ユニットと、前記傾斜軌道で前記昇降ユニットを水平に保つ水平維持機構と、コントローラとを備える、天井搬送車と、
前記傾斜軌道に沿って設けられ、水平でかつ同じ高さに配置された複数の載置部とを備える天井搬送車システムを用い、
前記天井搬送車は、物品を移載しようとする前記載置部の直上部に前記走行ユニットを停止させた状態で、前記載置部に対して物品の移載を行うものであり、
前記コントローラは、前記移載時に、前記傾斜軌道において前記走行ユニットが停止している部分と、前記物品を移載しようとする載置部との距離に応じた昇降量で前記ハンドユニットを昇降させるように前記昇降ユニットを制御して、前記載置部との間で物品を移載する天井搬送車システムでの物品の一時保管方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、天井搬送車システムと、天井搬送車システムでの物品の一時保管方法に関する。
【背景技術】
【0002】
天井搬送車の軌道を水平面から傾斜させると、1層の軌道を上下2層に分岐させる、天井空間の高さが異なる2つの棟(建屋)を接続する、等のことができる。水平面から傾斜した軌道(傾斜軌道)を走行する場合、物品が傾斜しないようにすることが好ましいが、このような天井搬送車の構造は特許文献1(JPH10-250978A)で既に提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】JPH10-250978A
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
発明者は以下のことに着目した。天井搬送車は大きな傾斜角では上昇できず、上昇する高さが例えば1m程度でも、傾斜軌道は例えば10〜20m程度と長くなる。そこで傾斜軌道に沿って複数の載置部を設けると、多数の物品を一時保管できる。
【0005】
この発明の課題は、傾斜軌道を利用することにより、天井搬送車システムが多数の物品を一時保管できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明の天井搬送車システムは、水平面に対して傾斜している傾斜軌道を含む軌道と、
前記傾斜軌道を走行自在な走行ユニットと、物品を保持するハンドユニットと、前記ハンドユニットを昇降させる昇降ユニットと、前記傾斜軌道で前記昇降ユニットを水平に保つ水平維持機構と、コントローラとを備える、天井搬送車と、
前記傾斜軌道に沿って設けられ、水平でかつ同じ高さに配置された複数の載置部とを備え、
前記天井搬送車は、物品を移載しようとする前記載置部の直上部に前記走行ユニットを停止させた状態で、前記載置部に対して物品の移載を行うものであり、
前記コントローラは、前記移載時に、前記傾斜軌道において前記走行ユニットが停止している部分と、前記物品を移載しようとする載置部との距離に応じた昇降量で前記ハンドユニットを昇降させるように前記昇降ユニットを制御する。
【0007】
この発明の天井搬送車システムでの物品の一時保管方法は、
水平面に対して傾斜している傾斜軌道を含む軌道と、
前記傾斜軌道を走行自在な走行ユニットと、物品を保持するハンドユニットと、前記ハンドユニットを昇降させる昇降ユニットと、前記傾斜軌道で前記昇降ユニットを水平に保つ水平維持機構と、コントローラとを備える、天井搬送車と、
前記傾斜軌道に沿って設けられ、水平でかつ同じ高さに配置された複数の載置部とを備える天井搬送車システムを用い、
前記天井搬送車は、物品を移載しようとする前記載置部の直上部に前記走行ユニットを停止させた状態で、前記載置部に対して物品の移載を行うものであり、
前記コントローラは、前記移載時に、前記傾斜軌道において前記走行ユニットが停止している部分と、前記物品を移載しようとする載置部との距離に応じた昇降量で前記ハンドユニットを昇降させるように前記昇降ユニットを制御して、前記載置部との間で物品を移載する。
【0008】
天井搬送車の場合、両端での高低差が僅かでも、傾斜角が小さいため、傾斜軌道は一般に長くなる。この発明では、傾斜軌道に沿って複数の載置部を有するバッファ、ストッカ等を設け、バッファを傾斜軌道に沿って設けると、多数のバッファを簡便に設けることができる。また載置部としてのコンベヤを複数有するストッカを、傾斜軌道に沿って設けても良い。この場合、ストッカが物品を多数ストックでき、天井搬送車はコンベヤとの間で物品を移載し、コンベヤはストッカの内部との間で物品を移動させる。
【0009】
載置部は傾斜軌道に沿って設けられ、水平に配置された複数の載置部を備え、各載置部の高さは等しい。これに対して天井搬送車は傾斜軌道を走行するので、載置部毎に、天井搬送車がその載置部に物品を移載する際のハンドの昇降量が異なる。そこでコントローラにより昇降ユニットを制御し、傾斜軌道と個々の載置部との間の高さの差に応じた昇降量でハンドユニットを昇降させることにより、傾斜軌道における天井搬送車が各載置部との間で物品を移載できるようにする。なおこの明細書において、天井搬送車システムに関する記載は、そのまま天井搬送車システムでの物品の一時保管方法にも当てはまる。
【0010】
好ましくは、傾斜軌道が半導体工場等の棟と棟とを接続するように設けられ、バッファ等が棟と棟の間に設けられている。このようにすると、半導体工場等の棟と棟の間に、載置部を多数設けることができる。
【0011】
好ましくは、傾斜軌道は、一方の棟から他方の棟へ向けて配置された第1の傾斜軌道と、他方の棟から一方の棟へ向けて配置された第2の傾斜軌道とを備え、バッファ等の各載置部が第1の傾斜軌道と第2の傾斜軌道のいずれに位置する天井搬送車からも物品を移載自在に配置されている。ここで、第1の傾斜軌道は他方の棟内に入り込まず、棟間に先端があるループを構成し、第2の傾斜軌道も一方の棟内に入り込まず、棟間に先端があるループを構成していることが好ましい。
【0012】
半導体工場等の棟と棟とで、天井搬送車の規格が異なるため、天井搬送車を相互に乗り入れることができないことがある。このような場合に、第1の傾斜軌道と第2の傾斜軌道を、棟間のバッファ等を介して接続できる。従って、天井搬送車の規格が異なっていても、2つの半導体工場等の棟を接続できる。
【0013】
好ましくは、軌道は、一対の水平軌道の一方に上向きの傾斜軌道を介して接続されている上層の軌道と、一対の水平軌道の他方に下向きの傾斜軌道を介して接続されている下層の軌道とを備え、バッファ等の各載置部が、上向きの傾斜軌道と下向きの傾斜軌道のいずれからも物品を移載自在に配置されている。
【0014】
1つの棟内でも、天井搬送車の軌道を上下複数に配置し、搬送能力を増すことがある。この場合、共通の水平軌道に上向きの傾斜軌道を介して上層の軌道を接続し、共通の水平軌道に下向きの傾斜軌道を介して下層の軌道を接続することが多い。ここで2つの傾斜軌道のいずれからも移載自在にバッファ等を設けると、多数の物品を一時保管でき、しかもいずれの傾斜軌道からもバッファ等にアクセスできる。
【0015】
好ましくは、軌道は傾斜軌道と平面視で平行に配置されている水平軌道を含み、前記載置部が水平軌道と傾斜軌道のいずれに位置する天井搬送車からも物品を移載自在に配置されている。この場合も、多数の物品を一時保管でき、しかもいずれの軌道からもバッファ等にアクセスできる。
【0016】
好ましくは、前記複数の載置部は平面視で前記傾斜軌道に平行でかつ水平なフレームに取り付けられ、前記複数の載置部と前記フレームとがバッファを構成する。水平なフレームに複数の載置部を取り付けてバッファとすると、バッファの構造が簡単になる。その一方で、物品を移載する際のハンドユニットの昇降量が、載置部毎に変化する。この発明では、傾斜軌道と個々の載置部との間の高さの差に応じた昇降量でハンドユニットを昇降させるように、天井搬送車のコントローラにより昇降ユニットを制御する。このため、所要の昇降量が載置部毎に異なっても、物品を天井搬送車と載置部との間で移載できる。
【0017】
好ましくは、天井搬送車のコントローラは、傾斜軌道の傾斜角と載置部間の距離とに基づいて、ハンドユニットの昇降量を変化させる。バッファの場合、複数の載置部が一定のピッチで配列されている。個々の載置部毎に昇降量をティーチングするのは手間なので、それらの内の基準となる載置部に対する昇降量を求め、他の載置部に対しては、傾斜軌道の傾斜角と載置部間の距離に基づいて演算等により求める。このようにすると、多数の載置部への昇降量を求める処理を簡単化できる。
【0018】
なお軌道が水平軌道を含み、水平軌道に位置する天井搬送車が物品を移載自在な水平に配置された複数の載置部を備える場合、コントローラは、載置部毎に昇降量を変化させるのではなく、各載置部に対するハンドユニットの昇降量を一定にすれば良い。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例で用いる天井搬送車と軌道の側面図
図2】天井搬送車のブロック図
図3】実施例の要部側面図
図4】半導体工場の棟間を、天井搬送車の傾斜軌道で接続する実施例を模式的に示す図
図5】半導体工場の棟間を、2層の傾斜軌道とバッファとにより接続する実施例を模式的に示す図
図6図5の実施例での天井搬送車の軌道を示す平面図
図7】半導体工場の棟内に傾斜軌道とバッファとを設ける実施例の模式的側面図
図8図7の実施例の要部平面図
図9】半導体工場の棟内に、傾斜軌道と水平軌道とバッファとを設ける実施例の模式的側面図
図10図9の実施例での天井搬送車の軌道を示す平面図
図11】傾斜軌道とストッカと処理装置とを模式的に示す側面図
図12】傾斜軌道から載置部への昇降量の決定アルゴリズムを模式的に示す図
図13】天井搬送車の制御アルゴリズムを示す図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に本発明を実施するための最適実施例を示す。この発明の範囲は、特許請求の範囲の記載に基づき、明細書の記載とこの分野での周知技術とを参酌し、当業者の理解に従って定められるべきである。
【実施例】
【0021】
図1図11に実施例とその変形を示す。各図において同じ符号は同じものを表す。図1は天井搬送車2を示し、天井搬送車2はクリーンルーム等の天井空間に設置された軌道4に支持されて走行する。なお3は天井搬送車2の走行ユニットで、例えば駆動輪5と従動輪5bを備えている。天井搬送車2は、物品10をハンドユニット9の開閉自在なチャック18により把持し、ハンドユニット9を昇降ユニット8により昇降させる。なお15は、昇降ユニット8が図示しないホイストにより巻き上げと繰り出しを行う吊持材で、ハンドユニット9を支持する。天井搬送車2は昇降ユニット8をθユニット7により鉛直軸回りに回動させ、ラテラルユニット6によりθユニット7〜物品10を水平面内で軌道4と直角な方向に横移動させる。なおラテラルユニット6とθユニット7は設けなくても良い。
【0022】
昇降ユニット8は、軌道4に直角な水平の軸12を介して、θユニット7に支持されている。これにより、天井搬送車2が傾斜軌道を走行しても、昇降ユニット8は水平に保たれる。軸12を中心として昇降ユニット8〜物品10が振動することを防止するため、粘弾性のゲル、ダンパ、バネとダンパの組み合わせ等から成る制振部材13,16,17,19を図1のように配置する。軸12と制振部材13,16,17,19により、昇降ユニット8の水平維持機構を構成する。なお制振部材13,16,17,19は、全てを設ける必要はない。またアクティブ制振用の駆動ユニット14を設けると共に、制振部材13をアクティブ制振用の部材に変更することにより、アクティブ制振しても良い。例えば駆動ユニット14に変位センサを設け、天井搬送車2の走行方向に水平面内で直角な軸回りの、θユニット7に対する昇降ユニット8の角度を検出し、微分して角速度を求める。制振部材13をレシプロモータ等のアクチュエータで構成し、求めた角速度に比例しかつ逆向きの力を昇降ユニット8に加える。これによって、昇降ユニット8に回転速度に比例する制動力を加え制振する。
【0023】
天井搬送車2は、走行方向の前後に一対のクレードルユニット20,20を備え、駆動ユニット22により、制振部材を備えるプッシャ21を進退させ、物品10を水平に保つ。軌道4が水平でも、物品10が軸12を中心に回動自在なため、加減速により物品10は傾斜しようとする。これをプッシャ21,21により防止する。傾斜軌道では、物品10はクレードルユニット20に対して傾斜し、物品10とクレードルユニット20とが側面視で成す角は軌道の傾斜角と等しい。そこでこの傾斜を打ち消すように、駆動ユニット22はプッシャ21を駆動する。
【0024】
なお天井搬送車2は傾斜軌道から物品10を昇降させて移載できるものであれば良く、実施例の構造には限らない。
【0025】
図2は天井搬送車2の構成をブロック図で示し、通信ユニット25は図示しない天井搬送車システムのコントローラ等と通信し、走行ユニット24は天井搬送車2を走行させる。ラテラルユニット6は昇降ユニット8を横移動させ、軸12等の水平維持機構は昇降ユニット8の姿勢を水平に維持する。θユニット7は昇降ユニット8を回動させ、昇降ユニット8はハンドユニット9を昇降させる。クレードルユニット20は、物品の前面と後面とをガイドし、水平維持機構と共に物品の傾斜を防止する。
【0026】
天井搬送車2の機上のコントローラ26は、マップメモリ27に、軌道のトポロジー(軌道の配置)と、バッファ、ストッカ等への移載データを記憶する。またこれ以外に、ロードポート毎の移載データを記憶する。移載データには、天井搬送車の停止位置、ハンドユニット9を昇降させる昇降距離、ラテラルユニット6により物品を横移動させる距離、θユニット7により物品の向きを回転させる角度等がある。同じ高さの同種の載置部が複数近接して、例えば一定のピッチで存在する場合、載置部毎に完全な移載データを記憶する代わりに、例えば1個の基準となる載置部に対し、完全な移載データを記憶する。そして近接した載置部は規則的に配置されているので、隣接した載置部間での移載データの変化分をマップメモリ27に記憶させる。演算部28は、基準となる載置部への移載データと、移載データの変化分とから、基準となる載置部以外の載置部への移載データを演算する。
【0027】
図3は傾斜軌道を用いる天井搬送車システムの基本的な実施例を示し、この実施例をさらに発展させた種々の実施例を図4図11に示す。図3では、水平な軌道4,4間に傾斜軌道32を設け、天井搬送車2を走行させる。また傾斜軌道32に沿ってバッファ33を設ける。バッファ33は、傾斜軌道32に平面視で平行な例えば一対のフレーム33a,33aと、フレーム33a,33aの例えば両端部に設けた支柱33b,33bとを備えている。また一対のフレーム33a,33aは、図示しない水平な短辺方向のフレーム(フレーム33a,33aと水平面内で直角なフレーム)により、互いに接続されている。そして一対のフレーム33a,33a間を掛け渡すように複数の載置部36を設け、一対のフレーム33a,33aに複数の載置部36を取り付ける。なおバッファ33は傾斜軌道32の直下に設けるが、側部下方に設けても良い。また複数の載置部36は同じ高さに設けられている。また昇降ユニット8によりハンドユニット9を上限まで上昇させた状態で、天井搬送車2は傾斜軌道32を走行する。すなわち、天井搬送車2の走行時におけるハンドユニット9の位置は、ハンドユニット8の最上位置である。
【0028】
天井搬送車2は、物品10を移載しようとする載置部36の直上部(直上、あるいは直上から側方にずれた位置)に走行ユニット24を停止させた状態で、載置部36に対して物品10の移載を行う。この際、載置部36に対して物品10を移載するためのハンドユニット9の昇降量は、載置部36毎に異なる。すなわち、複数の載置部36は、水平でかつ同じ高さに配置されている一方、傾斜軌道32は水平面に対して傾斜しているため、傾斜軌道32において走行ユニット24が停止している部分と、物品10を移載しようとする載置部36との距離(高さの差)は、載置部36毎に異なってくる。即ち、物品10を移載しようとする載置部36の直上部に走行ユニット24を停止させた状態の天井搬送車2を考える。この状態の天井走行車における、最上位置まで上昇させられたハンドユニット9により保持されている物品10の底面と、物品10を移載しようとする載置部36との距離(前記の高さの差)は、載置部36毎に異なる。コントローラ26は、上記距離に応じてハンドユニット9の昇降ストロークが変化するように、昇降ユニット8を制御する。また図3の最も左側の載置部36に関して、載置部36上の物品10と天井搬送車2及び天井搬送車2が搬送している物品10とが干渉しない範囲で、載置部36と傾斜軌道32との間隔を小さくすることが好ましい。
【0029】
半導体工場を増築すると、天井搬送車2の軌道4の高さが異なる複数の棟30,31が生じることがある。これらの棟30,31間を天井搬送車2の傾斜軌道32で接続する実施例を、図4に示す。傾斜軌道32の水平面からの傾斜角を例えば3°とすると、tan3°≒0.05 であるため、高低差1m当たり20m長の傾斜軌道32が必要になる。そこで傾斜軌道32に沿って複数のバッファ33〜35を設けると、多数の物品を一時保管できる。
【0030】
バッファ33〜35は傾斜軌道32の側部下方に設けるサイドトラックバッファである。これらのバッファは1個のバッファ毎に複数の水平な載置部36を備え、また傾斜軌道32の例えば両サイドにバッファ33〜35が配置されている。なお傾斜軌道32の側部下方ではなく、直下にアンダーバッファを設けても良く、両サイドと直下の各々にバッファを設けても良い。また38は棟30,31間の通路の天井である。
【0031】
図5図6は、棟40,41間で天井搬送車の規格が異なるため、天井搬送車が棟40,41間を跨ぐように走行できない状況に対応する実施例を示す。棟40から棟41へ向けて下向きに傾斜する傾斜軌道42が、棟40内の水平な軌道4に連続して設けられている。また棟41から棟40へ向けて上向きに傾斜する傾斜軌道43が、棟41内の水平な軌道4'に連続して設けられている。傾斜軌道42,43のいずれに位置する天井搬送車2からも物品を移載自在な位置に、バッファ44〜49が配置されている。建屋40,41間の天井39が図5に示すように傾斜しているため、棟40の水平な軌道4を天井39の下部へ延長できない。そこで水平な軌道4に、傾斜軌道42を接続する。バッファ44〜49は、傾斜軌道42,43のいずれに位置する天井搬送車2よりも、下方に配置する必要がある。このため、棟41の水平な軌道4'を水平なまま天井39の下部へ延長すると、バッファ44等を図6の位置よりも下方に配置する必要が生じる。従って、傾斜軌道42に位置する天井搬送車2が、バッファ44等に対して物品10を移載する際の昇降ストロークが大きくなる。そこで棟41の水平な軌道4'にも傾斜軌道43を接続し、傾斜軌道42,43は棟40,41の間でU字状に折り返す。傾斜軌道42,43は例えば上下に重なり平行で、これらのいずれからも天井搬送車2が物品を移載可能なように、バッファ44〜49を設ける。
【0032】
なお図5図6において、バッファ44〜49は、棟40側の天井搬送車システムと棟41側の天井搬送車システムとの間の、物品10の受け渡しポートとして機能する。天井搬送車2は棟40,41間を跨ぐように走行できない。そこで軌道4,42を走行する天井搬送車2はバッファ44〜49に物品を載置し、軌道4',43を走行する天井搬送車2がバッファ44〜49から物品を受け取る。このようにすることにより、棟40側の天井搬送車システムから棟41側の天井搬送車システムへ物品10を受け渡すことができる。棟41側の天井搬送車システムから棟40側の天井搬送車システムへも、同様にして物品10を受け渡すことができる。図5図6の実施例では、棟40側の天井搬送車システムと棟41側の天井搬送車システムの間の、傾斜軌道42,43とバッファ44〜49により、大容量の受け渡しポートを設けることができる。
【0033】
図7図8は1つの棟内で、上下複数層の軌道52,53を設ける実施例を示す。天井搬送車システムの搬送能力を高めるため、一対の水平軌道51a,51bの水平軌道51aを傾斜軌道54を介して水平な上層軌道52に接続する。また他方の水平軌道51bを傾斜軌道55を介して水平な下層軌道53に接続する。傾斜軌道54,55は例えば平面視で平行で、傾斜軌道54,55のいずれからも、天井搬送車が物品を移載自在にバッファ57,58を設ける。傾斜軌道54,55が上下に重なる場合、例えばこれらの両側にサイドトラックバッファを設け、重ならない場合は、例えば傾斜軌道54,55の間にサイドトラックバッファを設ける。なお50は天井である。
【0034】
図9図10は、傾斜軌道61と水平軌道60のいずれからも、天井搬送車が物品を保管自在なバッファ63〜72を設ける実施例を示す。傾斜軌道61の右端は例えば水平軌道62に接続され、左端は例えば図10のように向きを変更する。軌道60,61,62は例えば各々一対の軌道から成り、図10に示すように、軌道60,61の両サイドにサイドトラックバッファ63〜72を設ける。
【0035】
図11は、傾斜軌道81から天井搬送車が、ストッカ82の入出庫用のコンベヤ84、及び処理装置83のロードポート85との間で、物品を移載する実施例を示す。なお処理装置83は天井搬送車システムが物品を移載する対象で、天井搬送車システムの一部ではない。コンベヤ84は例えば2個水平かつ同じ高さに配置され、これらの配列ピッチは既知である。このため傾斜軌道81の傾斜角と配列ピッチを用いると、天井搬送車のコントローラは、一個のコンベヤへの昇降量から他のコンベヤへの昇降量を演算できる。処理装置83は水平かつ高さが同じ複数個のロードポート85を備えている。これらの配列ピッチは既知なので、同様に一個のロードポートへの昇降量から他のロードポートへの昇降量を演算できる。従って、コンベヤ84及びロードポート85への昇降量を求める処理を簡単にできる。
【0036】
図12に、基準となる載置部以外の載置部への移載データの演算を示す。近接した載置部間で、移載データが異なるのは通常は昇降量である。載置部が規則的に一定のピッチで配置されている場合、昇降量は載置部のアドレス(載置部の番号)nが1変化する毎に、一定の変化分bだけ変化する。例えばNo.1の載置部が基準で昇降量がh1の場合、3番目の載置部への昇降量は h1+2b、5番目の場合 h1+4b となり、n番目の載置部への昇降量は h1+(n-1)b となる。このようにすると、複数個の近接した載置部に対して昇降量を求める処理を簡単化できる。なお移載の都度、昇降量を演算する代わりに、マップメモリに載置部毎に昇降量の演算結果を記憶させても良い。
【0037】
図13に、天井搬送車2の制御アルゴリズムを示す。走行ユニットは目的地(載置部)までの走行を行い、θユニットは載置部に合わせて物品を鉛直軸回りに回転させる。昇降ユニットは載置部に応じた昇降量で、物品を昇降させる。そして図12に示したように、例えばアドレスnが1の載置部が基準となる場合、近接した同種の載置部(アドレスn)に対し、隣接した載置部間での昇降量の変化分をbとして、n番目の載置部への昇降量を
h1+(n-1)b により求める。またクレードルユニットは、傾斜軌道で物品が傾斜しないように、プッシャを進退させる。
【0038】
実施例では以下の効果が得られる。
1) 傾斜軌道に沿ってバッファ、ストッカなどを設けることができ、天井搬送車システムが一時的に保管できる物品の数が増す。
2) 半導体工場等での棟間の傾斜軌道を利用して、多数のバッファを設けることができる。また他の棟に天井搬送車が直接乗り入れることができない場合でも、棟間のバッファを介して物品を交換できる。
3) 一対の水平軌道を2本の傾斜軌道を介して上層軌道と下層軌道とに接続する際に、傾斜軌道に沿って多数のバッファを設けることができる。
4) 複数の載置部に対する昇降量を、基準となる載置部への昇降量と、載置部の配列ピッチと、軌道の傾斜角から演算できる。従って、載置部毎に昇降量を測定する必要がない。
【符号の説明】
【0039】
2 天井搬送車 3 走行ユニット 4 軌道 5 駆動輪
6 ラテラルユニット 7 θユニット 8 昇降ユニット
9 ハンドユニット 10 物品 12 軸 13 制振部材
14 駆動ユニット 15 吊持材 16,17 制振部材
18 チャック 19 制振部材 20 クレードルユニット
21 プッシャ 22 駆動ユニット 24 走行ユニット
25 通信ユニット 26 コントローラ 27 マップメモリー
28 演算部 30,31 棟 32 傾斜軌道
33〜35 バッファ 33a フレーム 33b,33c 支柱
36 載置部 38,39 天井 40,41 棟
42,43 傾斜軌道 44〜49 バッファ 50 天井
51a,b 水平軌道 52 上層軌道 53 下層軌道
54,55 傾斜軌道 57,58 バッファ 60,62 水平軌道
61 傾斜軌道 63〜72 バッファ 81 傾斜軌道
82 ストッカ 83 処理装置 84 コンベヤ
85 ロードポート

h1 基準の載置部への昇降量
n 載置部のアドレス(載置部の番号)
b (昇降量の)変化分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13