【実施例】
【0021】
図1〜
図11に実施例とその変形を示す。各図において同じ符号は同じものを表す。
図1は天井搬送車2を示し、天井搬送車2はクリーンルーム等の天井空間に設置された軌道4に支持されて走行する。なお3は天井搬送車2の走行ユニットで、例えば駆動輪5と従動輪5bを備えている。天井搬送車2は、物品10をハンドユニット9の開閉自在なチャック18により把持し、ハンドユニット9を昇降ユニット8により昇降させる。なお15は、昇降ユニット8が図示しないホイストにより巻き上げと繰り出しを行う吊持材で、ハンドユニット9を支持する。天井搬送車2は昇降ユニット8をθユニット7により鉛直軸回りに回動させ、ラテラルユニット6によりθユニット7〜物品10を水平面内で軌道4と直角な方向に横移動させる。なおラテラルユニット6とθユニット7は設けなくても良い。
【0022】
昇降ユニット8は、軌道4に直角な水平の軸12を介して、θユニット7に支持されている。これにより、天井搬送車2が傾斜軌道を走行しても、昇降ユニット8は水平に保たれる。軸12を中心として昇降ユニット8〜物品10が振動することを防止するため、粘弾性のゲル、ダンパ、バネとダンパの組み合わせ等から成る制振部材13,16,17,19を
図1のように配置する。軸12と制振部材13,16,17,19により、昇降ユニット8の水平維持機構を構成する。なお制振部材13,16,17,19は、全てを設ける必要はない。またアクティブ制振用の駆動ユニット14を設けると共に、制振部材13をアクティブ制振用の部材に変更することにより、アクティブ制振しても良い。例えば駆動ユニット14に変位センサを設け、天井搬送車2の走行方向に水平面内で直角な軸回りの、θユニット7に対する昇降ユニット8の角度を検出し、微分して角速度を求める。制振部材13をレシプロモータ等のアクチュエータで構成し、求めた角速度に比例しかつ逆向きの力を昇降ユニット8に加える。これによって、昇降ユニット8に回転速度に比例する制動力を加え制振する。
【0023】
天井搬送車2は、走行方向の前後に一対のクレードルユニット20,20を備え、駆動ユニット22により、制振部材を備えるプッシャ21を進退させ、物品10を水平に保つ。軌道4が水平でも、物品10が軸12を中心に回動自在なため、加減速により物品10は傾斜しようとする。これをプッシャ21,21により防止する。傾斜軌道では、物品10はクレードルユニット20に対して傾斜し、物品10とクレードルユニット20とが側面視で成す角は軌道の傾斜角と等しい。そこでこの傾斜を打ち消すように、駆動ユニット22はプッシャ21を駆動する。
【0024】
なお天井搬送車2は傾斜軌道から物品10を昇降させて移載できるものであれば良く、実施例の構造には限らない。
【0025】
図2は天井搬送車2の構成をブロック図で示し、通信ユニット25は図示しない天井搬送車システムのコントローラ等と通信し、走行ユニット24は天井搬送車2を走行させる。ラテラルユニット6は昇降ユニット8を横移動させ、軸12等の水平維持機構は昇降ユニット8の姿勢を水平に維持する。θユニット7は昇降ユニット8を回動させ、昇降ユニット8はハンドユニット9を昇降させる。クレードルユニット20は、物品の前面と後面とをガイドし、水平維持機構と共に物品の傾斜を防止する。
【0026】
天井搬送車2の機上のコントローラ26は、マップメモリ27に、軌道のトポロジー(軌道の配置)と、バッファ、ストッカ等への移載データを記憶する。またこれ以外に、ロードポート毎の移載データを記憶する。移載データには、天井搬送車の停止位置、ハンドユニット9を昇降させる昇降距離、ラテラルユニット6により物品を横移動させる距離、θユニット7により物品の向きを回転させる角度等がある。同じ高さの同種の載置部が複数近接して、例えば一定のピッチで存在する場合、載置部毎に完全な移載データを記憶する代わりに、例えば1個の基準となる載置部に対し、完全な移載データを記憶する。そして近接した載置部は規則的に配置されているので、隣接した載置部間での移載データの変化分をマップメモリ27に記憶させる。演算部28は、基準となる載置部への移載データと、移載データの変化分とから、基準となる載置部以外の載置部への移載データを演算する。
【0027】
図3は傾斜軌道を用いる天井搬送車システムの基本的な実施例を示し、この実施例をさらに発展させた種々の実施例を
図4〜
図11に示す。
図3では、水平な軌道4,4間に傾斜軌道32を設け、天井搬送車2を走行させる。また傾斜軌道32に沿ってバッファ33を設ける。バッファ33は、傾斜軌道32に平面視で平行な例えば一対のフレーム33a,33aと、フレーム33a,33aの例えば両端部に設けた支柱33b,33bとを備えている。また一対のフレーム33a,33aは、図示しない水平な短辺方向のフレーム(フレーム33a,33aと水平面内で直角なフレーム)により、互いに接続されている。そして一対のフレーム33a,33a間を掛け渡すように複数の載置部36を設け、一対のフレーム33a,33aに複数の載置部36を取り付ける。なおバッファ33は傾斜軌道32の直下に設けるが、側部下方に設けても良い。また複数の載置部36は同じ高さに設けられている。また昇降ユニット8によりハンドユニット9を上限まで上昇させた状態で、天井搬送車2は傾斜軌道32を走行する。すなわち、天井搬送車2の走行時におけるハンドユニット9の位置は、ハンドユニット8の最上位置である。
【0028】
天井搬送車2は、物品10を移載しようとする載置部36の直上部(直上、あるいは直上から側方にずれた位置)に走行ユニット24を停止させた状態で、載置部36に対して物品10の移載を行う。この際、載置部36に対して物品10を移載するためのハンドユニット9の昇降量は、載置部36毎に異なる。すなわち、複数の載置部36は、水平でかつ同じ高さに配置されている一方、傾斜軌道32は水平面に対して傾斜しているため、傾斜軌道32において走行ユニット24が停止している部分と、物品10を移載しようとする載置部36との距離(高さの差)は、載置部36毎に異なってくる。即ち、物品10を移載しようとする載置部36の直上部に走行ユニット24を停止させた状態の天井搬送車2を考える。この状態の天井走行車における、最上位置まで上昇させられたハンドユニット9により保持されている物品10の底面と、物品10を移載しようとする載置部36との距離(前記の高さの差)は、載置部36毎に異なる。コントローラ26は、上記距離に応じてハンドユニット9の昇降ストロークが変化するように、昇降ユニット8を制御する。また
図3の最も左側の載置部36に関して、載置部36上の物品10と天井搬送車2及び天井搬送車2が搬送している物品10とが干渉しない範囲で、載置部36と傾斜軌道32との間隔を小さくすることが好ましい。
【0029】
半導体工場を増築すると、天井搬送車2の軌道4の高さが異なる複数の棟30,31が生じることがある。これらの棟30,31間を天井搬送車2の傾斜軌道32で接続する実施例を、
図4に示す。傾斜軌道32の水平面からの傾斜角を例えば3°とすると、tan3°≒0.05 であるため、高低差1m当たり20m長の傾斜軌道32が必要になる。そこで傾斜軌道32に沿って複数のバッファ33〜35を設けると、多数の物品を一時保管できる。
【0030】
バッファ33〜35は傾斜軌道32の側部下方に設けるサイドトラックバッファである。これらのバッファは1個のバッファ毎に複数の水平な載置部36を備え、また傾斜軌道32の例えば両サイドにバッファ33〜35が配置されている。なお傾斜軌道32の側部下方ではなく、直下にアンダーバッファを設けても良く、両サイドと直下の各々にバッファを設けても良い。また38は棟30,31間の通路の天井である。
【0031】
図5,
図6は、棟40,41間で天井搬送車の規格が異なるため、天井搬送車が棟40,41間を跨ぐように走行できない状況に対応する実施例を示す。棟40から棟41へ向けて下向きに傾斜する傾斜軌道42が、棟40内の水平な軌道4に連続して設けられている。また棟41から棟40へ向けて上向きに傾斜する傾斜軌道43が、棟41内の水平な軌道4'に連続して設けられている。傾斜軌道42,43のいずれに位置する天井搬送車2からも物品を移載自在な位置に、バッファ44〜49が配置されている。建屋40,41間の天井39が
図5に示すように傾斜しているため、棟40の水平な軌道4を天井39の下部へ延長できない。そこで水平な軌道4に、傾斜軌道42を接続する。バッファ44〜49は、傾斜軌道42,43のいずれに位置する天井搬送車2よりも、下方に配置する必要がある。このため、棟41の水平な軌道4'を水平なまま天井39の下部へ延長すると、バッファ44等を
図6の位置よりも下方に配置する必要が生じる。従って、傾斜軌道42に位置する天井搬送車2が、バッファ44等に対して物品10を移載する際の昇降ストロークが大きくなる。そこで棟41の水平な軌道4'にも傾斜軌道43を接続し、傾斜軌道42,43は棟40,41の間でU字状に折り返す。傾斜軌道42,43は例えば上下に重なり平行で、これらのいずれからも天井搬送車2が物品を移載可能なように、バッファ44〜49を設ける。
【0032】
なお
図5,
図6において、バッファ44〜49は、棟40側の天井搬送車システムと棟41側の天井搬送車システムとの間の、物品10の受け渡しポートとして機能する。天井搬送車2は棟40,41間を跨ぐように走行できない。そこで軌道4,42を走行する天井搬送車2はバッファ44〜49に物品を載置し、軌道4',43を走行する天井搬送車2がバッファ44〜49から物品を受け取る。このようにすることにより、棟40側の天井搬送車システムから棟41側の天井搬送車システムへ物品10を受け渡すことができる。棟41側の天井搬送車システムから棟40側の天井搬送車システムへも、同様にして物品10を受け渡すことができる。
図5,
図6の実施例では、棟40側の天井搬送車システムと棟41側の天井搬送車システムの間の、傾斜軌道42,43とバッファ44〜49により、大容量の受け渡しポートを設けることができる。
【0033】
図7,
図8は1つの棟内で、上下複数層の軌道52,53を設ける実施例を示す。天井搬送車システムの搬送能力を高めるため、一対の水平軌道51a,51bの水平軌道51aを傾斜軌道54を介して水平な上層軌道52に接続する。また他方の水平軌道51bを傾斜軌道55を介して水平な下層軌道53に接続する。傾斜軌道54,55は例えば平面視で平行で、傾斜軌道54,55のいずれからも、天井搬送車が物品を移載自在にバッファ57,58を設ける。傾斜軌道54,55が上下に重なる場合、例えばこれらの両側にサイドトラックバッファを設け、重ならない場合は、例えば傾斜軌道54,55の間にサイドトラックバッファを設ける。なお50は天井である。
【0034】
図9,
図10は、傾斜軌道61と水平軌道60のいずれからも、天井搬送車が物品を保管自在なバッファ63〜72を設ける実施例を示す。傾斜軌道61の右端は例えば水平軌道62に接続され、左端は例えば
図10のように向きを変更する。軌道60,61,62は例えば各々一対の軌道から成り、
図10に示すように、軌道60,61の両サイドにサイドトラックバッファ63〜72を設ける。
【0035】
図11は、傾斜軌道81から天井搬送車が、ストッカ82の入出庫用のコンベヤ84、及び処理装置83のロードポート85との間で、物品を移載する実施例を示す。なお処理装置83は天井搬送車システムが物品を移載する対象で、天井搬送車システムの一部ではない。コンベヤ84は例えば2個水平かつ同じ高さに配置され、これらの配列ピッチは既知である。このため傾斜軌道81の傾斜角と配列ピッチを用いると、天井搬送車のコントローラは、一個のコンベヤへの昇降量から他のコンベヤへの昇降量を演算できる。処理装置83は水平かつ高さが同じ複数個のロードポート85を備えている。これらの配列ピッチは既知なので、同様に一個のロードポートへの昇降量から他のロードポートへの昇降量を演算できる。従って、コンベヤ84及びロードポート85への昇降量を求める処理を簡単にできる。
【0036】
図12に、基準となる載置部以外の載置部への移載データの演算を示す。近接した載置部間で、移載データが異なるのは通常は昇降量である。載置部が規則的に一定のピッチで配置されている場合、昇降量は載置部のアドレス(載置部の番号)nが1変化する毎に、一定の変化分bだけ変化する。例えばNo.1の載置部が基準で昇降量がh1の場合、3番目の載置部への昇降量は h1+2b、5番目の場合 h1+4b となり、n番目の載置部への昇降量は h1+(n-1)b となる。このようにすると、複数個の近接した載置部に対して昇降量を求める処理を簡単化できる。なお移載の都度、昇降量を演算する代わりに、マップメモリに載置部毎に昇降量の演算結果を記憶させても良い。
【0037】
図13に、天井搬送車2の制御アルゴリズムを示す。走行ユニットは目的地(載置部)までの走行を行い、θユニットは載置部に合わせて物品を鉛直軸回りに回転させる。昇降ユニットは載置部に応じた昇降量で、物品を昇降させる。そして
図12に示したように、例えばアドレスnが1の載置部が基準となる場合、近接した同種の載置部(アドレスn)に対し、隣接した載置部間での昇降量の変化分をbとして、n番目の載置部への昇降量を
h1+(n-1)b により求める。またクレードルユニットは、傾斜軌道で物品が傾斜しないように、プッシャを進退させる。
【0038】
実施例では以下の効果が得られる。
1) 傾斜軌道に沿ってバッファ、ストッカなどを設けることができ、天井搬送車システムが一時的に保管できる物品の数が増す。
2) 半導体工場等での棟間の傾斜軌道を利用して、多数のバッファを設けることができる。また他の棟に天井搬送車が直接乗り入れることができない場合でも、棟間のバッファを介して物品を交換できる。
3) 一対の水平軌道を2本の傾斜軌道を介して上層軌道と下層軌道とに接続する際に、傾斜軌道に沿って多数のバッファを設けることができる。
4) 複数の載置部に対する昇降量を、基準となる載置部への昇降量と、載置部の配列ピッチと、軌道の傾斜角から演算できる。従って、載置部毎に昇降量を測定する必要がない。