(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844766
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】加飾樹脂製品の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 67/00 20170101AFI20210308BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20210308BHJP
B33Y 40/00 20200101ALI20210308BHJP
【FI】
B29C67/00
B33Y10/00
B33Y40/00
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-167259(P2016-167259)
(22)【出願日】2016年8月29日
(65)【公開番号】特開2018-34336(P2018-34336A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】595067877
【氏名又は名称】株式会社丸三金属
(74)【代理人】
【識別番号】100084043
【弁理士】
【氏名又は名称】松浦 喜多男
(74)【代理人】
【識別番号】100142240
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 優
(74)【代理人】
【識別番号】100135460
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 康利
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 一晴
【審査官】
岩下 直人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2016−140800(JP,A)
【文献】
特表2015−512816(JP,A)
【文献】
独国特許出願公開第102015114604(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 67/00−67/24
B33Y 10/00
B33Y 40/00−40/20
B29C 51/00−51/46
B29C 64/00−64/40
B29C 69/00−69/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸形状をなす樹脂基材の表面に加飾フィルムが接合された加飾樹脂製品の製造方法であって、
加飾フィルムを凹凸形状に賦形する賦形工程と、
該賦形工程の後に、積層造形法によって加飾フィルムの裏面側に樹脂層を積層することにより、加飾フィルムと一体的に接合された樹脂基材を造形する積層造形工程と
を含むことを特徴とする加飾樹脂製品の製造方法。
【請求項2】
積層造形工程では、裏面側を上向きにした状態で加飾フィルムを治具に保持し、加飾フィルムの裏面側にノズルから樹脂材料を射出して所要断面形状の樹脂層を形成する工程を繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の加飾樹脂製品の製造方法。
【請求項3】
前記積層造形法は、熱溶解積層法であって、
積層造形工程の前に、加飾フィルムの裏面に熱可塑性の接着層を形成する工程を含み、
積層造形工程では、加飾フィルムを金属製の治具に保持するとともに、該治具の温度を調節することで、前記加飾フィルムの温度を調節することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の加飾樹脂製品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、凹凸形状をなす樹脂基材の表面に加飾フィルムが接合された加飾樹脂製品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂基材の表面を加飾フィルムで覆ってなる加飾樹脂製品は、自動車や電化製品など様々な分野で使用されている。こうした加飾樹脂製品の製造方法としては、フィルムインサート成形がよく用いられている(例えば、特許文献1)。フィルムインサート成形では、賦形した加飾フィルムを射出成形金型にセットして、加飾フィルムの裏面側に樹脂基材を射出成形することにより、樹脂基材の成形と同時に、樹脂基材の表面に加飾フィルムを一体的に接合する。かかる製造方法によれば、樹脂基材の成形後に加飾フィルムを接合する場合に比べて、樹脂基材と加飾フィルムの一体性が高くなるため、高品質の製品が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−030053号公報(
図8,9参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィルムインサート成形で製造する加飾樹脂製品は、品質は良いものの、射出成形金型の製造コストが高いため、試作品やパーツ等の少量生産には適していない。
【0005】
本発明は、かかる現状に鑑みて為されたものであり、少量生産の加飾樹脂製品を、品質を低下させることなく、低廉に製造可能な製造方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、凹凸形状をなす樹脂基材の表面に加飾フィルムが接合された加飾樹脂製品の製造方法であって、 加飾フィルムを凹凸形状に賦形する賦形工程と、該賦形工程の後に、積層造形法によって加飾フィルムの裏面側に樹脂層を積層することにより、加飾フィルムと一体的に接合された樹脂基材を造形する積層造形工程とを含むことを特徴とする加飾樹脂製品の製造方法である。
【0007】
かかる製造方法によれば、射出成形金型を用いずに加飾樹脂製品を製造できるため、少量生産の場合であれば、フィルムインサート成形による製造方法に比べて加飾樹脂製品を低コストで製造できる。また、かかる製造方法では、樹脂基材を構成する樹脂層を、凹凸形状に賦形した加飾フィルムの裏面側に積層するため、積層造形工程で樹脂基材を造形した時点で、樹脂基材は加飾フィルムの裏面に密着して、加飾フィルムと一体化される。したがって、かかる製造方法によれば、フィルムインサート成形による製造方法と同等の品質の加飾樹脂製品を製造できる。
【0008】
積層造形工程の具体的方法として、裏面側を上向きにした状態で加飾フィルムを治具に保持し、加飾フィルムの裏面側にノズルから樹脂材料を射出して所要断面形状の樹脂層を形成する工程を繰り返すことが提案される。かかる積層造形工程は、3次元プリンタで実現可能である。一般的な3次元プリンタは、平坦な造形用のステージの上に樹脂層を積層して立体物を造形するものであるため、本発明の積層造形工程のように、加飾フィルムを治具に保持する場合には、3次元プリンタのステージ上に治具を固定するか、ステージに替えて治具を配設すればよい。また、かかる積層造形工程においては、先細形状のノズルを採用したり、ノズルと加飾フィルムの距離を長めにしたり、ノズルの軌跡を調整したりすることにより、ノズルが加飾フィルムと干渉しないようにすることが提案される。
【0009】
また、積層造形法には、光造形法、熱溶解積層法、インクジェット法、石膏粉末法、粉末焼結法などの方式があるが、本発明の積層造形工程における積層造形法は、熱溶解積層法であることが望ましい。熱溶解積層法は、現時点で最も低廉な積層造形法であり、また、樹脂材料をノズルから射出する方式であるため、凹凸形状に賦形された加飾フィルムの裏面側に樹脂層を積層するのが容易であるためである。
【0010】
また、上記のように積層造形工程を熱溶解積層法で行う場合には、積層造形工程の前に、加飾フィルムの裏面に熱可塑性の接着層を形成する工程を含むことが提案される。接着層の形成方法としては、アクリル系インキ又はウレタン系インキの印刷や、ホットメルト接着剤の塗布などが挙げられる。かかる構成によれば、積層造形工程において加飾フィルムの裏面に樹脂材料を射出した際に、樹脂材料の熱で接着層を溶かすことで、加飾フィルムの裏面に樹脂基材を容易に接合させることが可能となる。
【0011】
また、上記のように加飾フィルムの裏面に熱可塑性の接着層を形成する場合は、加飾フィルムを治具に保持するとともに、該治具の温度を調節することで、前記加飾フィルムの温度を調節することが提案される。かかる場合には、加飾フィルムの温度を、雰囲気温度を介して調節するよりも精密に調整可能となるため、接着層の溶融度合いをより精密に制御して、加飾フィルムと樹脂基材をより適切に接合させることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
以上に述べたように、本発明によれば、少量生産の加飾樹脂製品を、品質を低下させることなく、低廉に製造可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】加飾樹脂製品1の使用状態を示す説明図である。
【
図2】加飾樹脂製品1の(a)表面図、(b)裏面図、(c)側面図、(d)中央縦断面図である。
【
図3】加飾樹脂製品1の(a)正面図、(b)背面図、(c)
図2中のA−A線断面図、(d)
図2中のB−B線断面図である。
【
図5】加飾樹脂製品1の製造方法を示す説明図である。
【
図6】
図5から続く加飾樹脂製品1の製造方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施例の製造方法によって製造される加飾樹脂製品1は、
図1に示すように、自動車のドアDの内側に配設されたアームレストRの上部に装着されるパネル状の上部カバーである。
【0015】
図2,3に示すように、加飾樹脂製品1は、樹脂基材4の表面に加飾フィルム5を接合してなるものである。加飾樹脂製品1は、外周部が裏側に湾曲することにより、表側全体が凸形状、裏側全体が凹形状をなしている。加飾樹脂製品1の中央には、操作スイッチS(
図1参照)を装着する矩形状の開口部6が設けられる。また、加飾樹脂製品1の裏側には、加飾樹脂製品1をアームレストRに係止する複数の係止突起7が複数箇所に配設される。なお、
図2,3中の加飾樹脂製品1の形状は、実物を模式化したものであり、係止突起7を除いた加飾樹脂製品1の厚さは約5〜10mm、加飾フィルム5の厚さは約125〜475μm、加飾樹脂製品1の裏側の凹みの深さは約3〜5mm程度である。
【0016】
樹脂基材4は、ABS樹脂からなるものである。図示は省略しているが、後述するように、樹脂基材4は3次元プリンタによって造形された、厚さ約100μmのABS樹脂層を多数積層してなる積層体である。なお、樹脂基材4の材料はABS樹脂に替えて、PC−ABS樹脂などを用いてもよい。
【0017】
加飾フィルム5は、樹脂基材4の表側の凹凸形状に倣うように賦形され、樹脂基材4の表側全体を覆うようにして樹脂基材4と一体的に接合されている。
図4に示すように、加飾フィルム5は、透明樹脂からなるフィルム基材8の裏面側に、意匠を形成する意匠層9を印刷し、さらに意匠層9の裏面側にホットメルト接着剤からなる接着層10を塗布してなるものであり、透明なフィルム基材8を透して意匠層9の形成する意匠を視認させることで、加飾樹脂製品1の表面に光沢感のある意匠面を形成している。なお、透明なフィルム基材8は、ポリカーボネートや、PET樹脂、アクリル樹脂、ABS樹脂などによって構成できる。また、意匠層9は、グラビア印刷やラミネート加工によって形成してもよい。また、接着層10は、ホットメルト接着剤の塗布に替えて、アクリル系インキ又はウレタン系インキの印刷によって形成してもよい。
【0018】
以下に、上記加飾樹脂製品1の製造方法を説明する。
上記加飾樹脂製品1の製造方法は、加飾フィルム5を作製して賦形する加飾フィルム製造工程と、加飾フィルム製造工程の後に、加飾フィルム5の裏面側に樹脂基材4を造形する樹脂基材製造工程とを備えている。
【0019】
加飾フィルム製造工程は、以下の(1)〜(3)の工程を順次行うことによって実現される。
(1)意匠層形成工程
透明樹脂からなる平坦なフィルム基材8の裏面側にインキからなる意匠層9を印刷する。
(2)接着層形成工程
意匠層9の裏面側にホットメルト接着剤からなる接着層10を印刷して、フィルム基材8、意匠層9及び接着層10からなる平坦な加飾フィルム5を得る。
(3)賦形工程
図5(a)→5(b)のように、圧空成形によって、平坦な加飾フィルム5を、樹脂基材4の表側の凹凸形状に倣う凹凸形状に賦形する。なお、本製造方法では、かかる賦形工程の後は加飾フィルム5を成形しないため、本工程において加飾フィルム5を高圧で成形することにより、加飾フィルム5を加飾樹脂製品1の表面形状に、精密に成形する。
【0020】
樹脂基材製造工程では、3次元プリンタを用いて熱溶解積層法により、賦形した加飾フィルム5の裏面に樹脂基材4を造形する。3次元プリンタには、通常は立体物が直接造形されるステージ13の上に治具12を固定して、ステージ13の所定位置に加飾フィルム5を正確に保持し得るようにする。具体的には、治具12は上面に凹部を備え、加飾フィルム5の表側の凸形状を該凹部に嵌合させることにより、加飾フィルム5を保持するものである。また、3次元プリンタは、ステージ13の下方に温度調節装置(図示省略)を備えており、該温度調節装置によってステージ13及び治具12の温度を調節することにより、治具12に保持した加飾フィルム5を所定温度に加熱し得るよう構成される。なお、治具12は、温度調節を容易とするために、熱伝導率の高い金属で形成することが望ましい。
【0021】
樹脂基材製造工程は、以下の(1)〜(3)の工程を順次行うことによって実現される。
(1)準備工程
図5(c)に示すように、加飾フィルム5の表面側の凸形状を治具12の凹部に嵌合させることにより、裏面側を上向きにした状態で加飾フィルム5を治具12の上に保持する。また、3次元プリンタは、温度調整装置によって治具12及びステージ13を所定温度に加熱することで、接着層10が溶融し易い温度に加飾フィルム5を温めておく。なお、加飾フィルム5の温度調整は、以下の積層造形工程が終了するまで継続する。
(2)積層造形工程
図5(d)→6(a)→6(b)に示すように、溶融したフィラメント状のABS樹脂を3次元プリンタのノズル14の先端から加飾フィルム5の裏面側に射出して、加飾フィルム5の裏面側に所要の断面形状の樹脂層を形成する工程を繰り返し、加飾フィルム5の裏面側に樹脂層を積層することによって樹脂基材4を造形する。樹脂層の厚さは特に限定されないが、100μm程度が好適である。本積層造形工程において、樹脂基材4と加飾フィルム5は、加飾フィルム5の裏面に溶融した樹脂材料を射出した際に、樹脂材料の熱で接着層10が一時的に溶融することで一体的に接合される。なお、本積層造形工程に際しては、ノズル14と加飾フィルム5が干渉することのないノズル14の動かし方を予め3次元プリンタにプログラムしておく。なお、かかる工程では、ノズル14を加飾フィルム5の裏面に対して3次元方向に相対移動させるが、ノズル14のかかる相対移動は、ステージ13とノズル14の一方又は双方を動かすことによって実現される。
(3)後処理工程
図6(c)に示すように、加飾樹脂製品1を治具12から取り外し、加飾フィルム5の余剰部分を裁断する。また、加飾フィルム5を裁断して開口部6の部分を開口させる。なお、加飾フィルム5の裁断や開口部6の開口は、加飾フィルム製造工程で行ってもかまわない。また、本工程では、必要に応じて樹脂基材4の研磨や、ネジ孔の形成、サポート材の除去等を行ってもよい。
【0022】
以上の製造方法によれば、射出成形金型を用いずに加飾樹脂製品1を製造できるため、少量生産の場合であれば、フィルムインサート成形で製造する場合に比べて低廉に製造可能となる。上述のように、本実施例に係る加飾樹脂製品1は、自動車の内装品(アームレストRの上部カバー)であるため、生産数の少ないカスタムパーツの製造に際しては、本実施例の製造方法が、フィルムインサート成形による製造する場合に比べて有効となる。
【0023】
また、上記製造方法によれば、積層造形工程で樹脂基材4を造形した時点で、樹脂基材4が加飾フィルム5の裏面に接合して、加飾フィルム5と一体化されるため、かかる製造方法によれば、フィルムインサート成形で製造したものと同等品質の加飾樹脂製品1を製造できる。なお、3次元プリンタで造形した樹脂基材4であれば、自動車の内装品に必要な強度は十分に確保できる。
【0024】
なお、本発明は、上記実施例の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更可能である。例えば、上記実施例の加飾樹脂製品1は、自動車のドアのアームレストの上部カバーであるが、本発明は様々な加飾樹脂製品の製造に適用可能であり、特に、少量生産品の製造に有効である。例えば、自動車の他の内装品であれば、カスタムパーツのドアトリムやシフトパネルの製造に適用することが挙げられる。
【0025】
また、加飾フィルムについても、上記実施例の装飾や、材料、層構造、厚さに限らず適宜変更可能である。例えば、加飾フィルムは金属調装飾のフィルムであってもかまわない。また、上記実施例の加飾フィルムは、裏面側全体が凹形状となっていたが、本発明に係る加飾フィルムは、裏面側に部分的な凸形状が形成されていてもよいし、裏面側全体に凸形状が形成されていてもよい。また、加飾樹脂製品は、複数種類の加飾フィルムで覆われていてもよい。なお、一部の規格では、厚さ250μm未満のものを「フィルム」、厚さ250μm以上のものを「シート」と分類しているが、本発明に係る加飾フィルムは、厚さ250μm未満のものに限られず、厚さ250μm以上のものを含む。ただし、加飾フィルムが厚すぎると、賦形の難易度が高くなるため、加飾フィルムの厚みは500μm以下とすることが望ましい。
【0026】
また、上記樹脂基材の積層造形方法としては、上記実施例の熱溶解積層法に限らず、他の積層造形方法を適宜採用可能であり、積層造形方法に応じて樹脂基材の材料も適宜変更可能である。また、樹脂基材は一種類の樹脂で造形するものに限られず、多種類の樹脂で造形してもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 加飾樹脂製品
4 樹脂基材
5 加飾フィルム
6 開口部
7 係止突起
8 フィルム基材
9 意匠層
10 接着層
12 治具
13 ステージ
14 ノズル
D ドア
R アームレスト
S 操作スイッチ