(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0031】
〔第1の実施形態〕
本発明の第1の実施形態に係る補正レンズについて、
図1〜
図4を参照して以下に説明する。
【0032】
図1の(a)は、拡大観察の対象物である試料が収容されている容器の斜視図である。
図1の(b)は、本実施形態に係る補正レンズ10及び
図1の(a)に示した容器20を載置した状態の顕微鏡50の斜視図である。
図2は、補正レンズ10の斜視図である。
図2の(a)は、補正レンズ10を構成する光透過面11を上にした状態の斜視図であり、
図2の(b)は、補正レンズ10を構成する光透過面12を上にした状態の斜視図である。
図3は、容器内に収容された対象物がレンズを介して結像される様子を示した断面図である。
図3の(a)及び(c)の各々は、容器20の中心軸に直交する面(yz面)において得られた断面図であり、
図3の(b)及び(d)の各々は、容器20の中心軸を通る面(zx面)において得られた断面図である。
図4は、補正レンズ10を設計するときに用いる光学モデルの模式図である。
【0033】
(補正レンズ10の概要)
本実施形態において用いる容器20は、
図1の(a)に示すように収容部21と蓋22とからなる。収容部21は、可視光に対して少なくとも透光性を有する樹脂製である。収容部21を構成する樹脂材料は、ユーザが容器20の内部に収容された試料(特許請求の範囲に記載の対象物)を目視することができる程度の透光性を有する。なお、収容部21を構成する樹脂材料は、高い透光性を有することが好ましく、透明であることがより好ましい。本実施形態においては、収容部21を構成する樹脂材料として、透明なポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂を採用する。また、収容部21は、円筒形の外側壁211を有する。その外側壁211の、一方の端部は、底壁により封止されており、他方の端部は、解放されている(
図1の(a)には不図示)。
【0034】
外側壁211の解放された側の端部と、蓋22とは、対をなす。外側壁211の解放された側の端部に対して蓋22が勘合されることによって、容器20の内部は、完全に封止される。外側壁211の解放された側の端部近傍には、雄ねじが設けられており、蓋22の内側壁には、外側壁211に設けられた雄ねじに対応する雌ねじが設けられている。これらの雄ねじ及び雌ねじが設けられていることによって、意図しない場合には、収容部21から蓋22が外れることを防止でき、且つ、意図した場合には収容部21から蓋22を容易に外すことができる。このように、容器20は、確実且つ簡便に操作することができる。
【0035】
収容部21は、例えば、透明な樹脂材料であるPET樹脂製であり、PET樹脂を射出成形することによって製造することができる。また、蓋22は、例えば、ポリプロピレン(PP)樹脂製であり、PP樹脂を射出成形することによって製造することができる。したがって、容器20は、安価に大量生産することができる。ユーザは、容器20を容易に入手することができるため、容器20を気軽に使用する(消費する)ことができる。そのため、円筒形且つ透明な容器20は、化学・生物の分野において広く普及している。
【0036】
容器20の内部には、微粒子状の試料40が収容されている。本実施形態において、試料40は、溶媒30中に分散された状態で、容器20の内部に収容されている。
【0037】
図1の(b)に示すように、本実施形態に係る補正レンズ10は、容器20の内部に収容された試料40を、顕微鏡50を用いて拡大観察するために用いられる。試料40は、特許請求の範囲に記載の対象物に対応する。
【0038】
顕微鏡50は、鏡台51、鏡柱52、ステージ53、調整ダイヤル54、対物レンズ55、及び接眼レンズ56を備えている。対物レンズ55は、鏡柱52の上端部521に対して、上端部521からステージ53に向かって突出するように固定されている。接眼レンズ56は、上端部521に対して、上端部521からステージ53の逆側に向かって突出するように載置されている。
【0039】
容器20は、収容部21の中心軸(円筒形の外側壁211の中心軸)がステージ53の上面に沿うように、且つ、この中心軸が顕微鏡50の光軸(対物レンズ55及び接眼レンズ56の中心軸)と交わるように、ステージ53の上面上に配置される。このとき、ステージ53の上面上において容器20が転がることを防止するために、容器20は、治具531により保持される。治具531は、互いに対向する一対の板状部材により構成されている。一対の板状部材の各々には、長方形を構成する一対の長辺のうち一方の長辺から他方の長辺に向かって切り込まれた、V字型の切り欠きが設けられている。このV字型の切り欠き上に容器20を載置することによって、容器20は、ステージ53の上面上に確実に固定される。
【0040】
補正レンズ10は、容器20の外側壁211と対物レンズ55との間に挿入される。より詳しくは、補正レンズ10は、
図1の(b)に示すように、互いに対向する光透過面11と光透過面12とを備えており、光透過面11が対物レンズ55に対向し、且つ、光透過面12が外側壁211に接するように、外側壁211上に載置される。このとき、補正レンズ10の光軸(中心軸)は、顕微鏡50の光軸に沿っている。
【0041】
以上のように、外側壁211と対物レンズ55との間に補正レンズ10を介在させることによって、円筒形且つ透明な容器20の内部に収容された試料40を、容器20から取り出すことなく、顕微鏡50を用いてそのまま拡大観察することができる。
【0042】
なお、顕微鏡50は、接眼レンズ56の上側に配置される撮像素子(例えばCMOSイメージセンサなど、
図1には不図示)をさらに備えていてもよい。撮像素子を更に供えていることによって、試料40を観察した結果として得られた顕微鏡像を、デジタルデータとして容易に保存することができる。
【0043】
(補正レンズ10の構成)
補正レンズ10は、可視光に対して透光性を有する樹脂材料又は光学ガラス材料によって構成された光学レンズである。上述したように、補正レンズ10は、互いに対向する光透過面11(
図2の(a)参照)と光透過面12(
図2の(b)参照)とを備えている。光透過面11及び光透過面12の各々は、それぞれ、特許請求の範囲に記載の第1の光透過面及び第2の光透過面に対応する。
【0044】
なお、補正レンズ10を構成する材料は、樹脂材料又は光学ガラス材料から適宜選択することができる。樹脂材料を用いて補正レンズ10を構成することによって、補正レンズ10を容易に、また大量に製造することができる。その一方、試料40を偏光観察したい場合には、光学ガラス材料を用いて補正レンズ10を構成することが好ましい。樹脂材料の代わりに光学ガラス材料を用いることによって、補正レンズ10の製造が難しくなるものの偏光観察を満足に行うことができる。
【0045】
光透過面11を平面視した場合、光透過面11の外縁の輪郭は、円形である。また、光透過面12を平面視した場合、光透過面12の外縁の輪郭は、円形である。補正レンズ10において、光透過面11と光透過面12とは、同心円となるように配置されている。したがって、光透過面11を平面視した場合あるいは光透過面12を平面視した場合、光透過面11の中心と光透過面12の中心とは、一致する。
【0046】
図2の(a)及び(b)に示した座標系において、(1)補正レンズ10の中心軸(光透過面11の中心と光透過面12の中心とを通る軸)に沿う方向をz軸方向とし、(2)容器20の収容部21の中心軸に沿う方向をx軸方向とし、(3)z軸方向及びx軸方向の各々に対して直交する方向をy軸方向とする。また、(1)z軸方向のうち光透過面12から光透過面11に向かう方向をz軸正方向としている。また、x軸方向及びy軸方向については、上述したz軸正方向とともに、x軸正方向及びy軸正方向が右手系の直交座標系を構成するように各々の軸の正方向を定めている。また、この座標系において、光透過面11の頂点(光透過面11の中心)を原点としている。
【0047】
光透過面11の形状は、トーリック面又はトーリック面を非球面多項式にて補正した非軸対称非球面である。本実施形態においては、光透過面11の形状として、トーリック面を非球面多項式にて補正した非軸対称非球面を採用している。すなわち、光透過面11の形状は、
図2に示した座標系において式(1)により規定される。
【0048】
【数1】
式(1)の右辺第1項は、トーリック面(トーラスの一部を構成する曲面)を表している。Cx及びCyの各々は、それぞれ、光透過面11のzx面に沿った断面における曲率、及び、光透過面11のyz面に沿った断面における曲率を表す。式(1)の右辺第2項は、x軸方向に関する非球面多項式を表す。αkは、k次の非球面係数である。
【0049】
光透過面12は、収容部21の外側壁211に沿った円筒面に成形されている。すなわち、光透過面12は、(1)収容部21の中心軸に沿うx軸方向に対して曲率を有さず、(2)外側壁211の円周方向に沿うy軸方向に沿う方向に対して円筒形である外側壁211に沿う形状に成形されている。
【0050】
このように成形された光透過面11は、x軸方向及びy軸方向の各々に対して異なる対称性を有する、非軸対称非球面である。
【0051】
円筒面である光透過面12の直径は、外側壁211の直径と同じ或いは外側壁211の直径よりわずかに大きく構成されている。光透過面12の直径を外側壁211の直径と同じになるように構成することによって、光透過面12と外側壁211との間に生じる空隙を抑制することができる。その一方で、この構成によれば、容器20の製造公差或いは補正レンズ10の加工誤差に起因して、外側壁211の直径が光透過面12の直径を上回り、結果として光透過面12と外側壁211との間に大きな空隙が生じることも考えられる。
【0052】
このような場合に備えて、光透過面12の直径を外側壁211の直径よりわずかに大きく構成してもよい。この構成によれば、外側壁211の直径が光透過面12の直径を上回ることを防止でき、結果として光透過面12と外側壁211との間に大きな空隙が生じることを防止することができる。なお、光透過面12と外側壁211との間に生じるわずかな空隙は、その空隙内にマッチングオイルを塗布(充填)することによって埋めることができる。マッチングオイルは、補正レンズ10を構成する材料の屈折率、或いは、収容部21を構成する材料の屈折率と略同じ屈折率を有する材料からなるオイルである。マッチングオイルを用いて光透過面12と外側壁211との間に生じるわずかな空隙を埋めることによって、光透過面12と外側壁211との界面近傍において屈折率が急激に変化することを防止することができる。
【0053】
光透過面11及び光透過面12の外縁を取り囲む領域には、外縁部131と外縁部132とを備えたフランジ13が形成されている。フランジ13は、その外縁が円形に成形された板状部材であり、光透過面11及び光透過面12と同心円となるように成形されている。外縁部131は、フランジ13の一方の表面を構成する環状の領域であり、光透過面11の外縁を取り囲む。外縁部132は、フランジ13の他方の表面を構成する環状の領域であり、光透過面12の外縁を取り囲む。
【0054】
フランジ13が設けられていることにより、光透過面11及び光透過面12を汚すことなく補正レンズ10を素手で取り扱うことができる。したがって、補正レンズ10の取り扱いが簡便になる。また、フランジ13が設けられていることによって、複数の補正レンズ10を同一平面に沿って容易に配列させることができる。その結果、拡大観察時に用いる補正レンズ10をように交換可能な顕微鏡を構成することもできる。このような顕微鏡については、参照する図を代えて後述する。
【0055】
(補正レンズ10の効果)
上述したように、光透過面11が式(1)により規定される形状に成形されていることによって、補正レンズ10は、容器20の外側壁211の形状が円筒形である(その形状がx軸方向及びy軸方向の各々に対して等価ではない)ことに起因して生じる非点収差を解消することができる。したがって、外側壁211と対物レンズ55との間に補正レンズ10を挿入することによって、容器20の内部に収容された試料40を、顕微鏡を用いてそのまま拡大観察することができる。
【0056】
ここでは、円筒形の透明な容器の内部に収容された試料を、従来の顕微鏡を用いてそのまま用いて拡大観察することができなかった理由を、
図14及び
図15を参照して説明する。そのうえで、補正レンズ10を用いることによって、容器20の内部に収容された試料40を、顕微鏡50を用いてそのまま拡大観察できるようになった理由を、
図3を参照して説明する。
【0057】
<従来の拡大観察方法1>
図14の(a)は、拡大観察の対象物である試料640が収容されている容器620の斜視図である。
図14の(b)及び(c)は、
図14の(a)に示した容器620の内部に収容された試料640を観察する観察方法であって、従来の観察方法を示す斜視図である。
図15の(a)は、試料640が理想レンズIL601を介して像面に結像する様子を示す概念図である。
図14の(b)〜(e)の各々は、容器620の内部に収容された試料640が理想レンズIL601を介して結像されるときに生じる非点収差について説明する断面図である。
図15の(b)及び(d)の各々は、容器620を構成する収容部621の外側壁6211の中心軸に直交する面(yz面に沿った面)において得られた断面図(横断面図)であり、
図15の(c)及び(e)の各々は、容器620の中心軸を通る面(zx面に沿った面)において得られた断面図(縦断面図)である。
【0058】
図14の(a)に示す容器620は、
図1の(a)に示す容器20と同様に構成されている。したがって、容器620は、収容部621と蓋122とからなり、収容部621は、可視光に対して透明な樹脂製(本実施形態においては、PET樹脂製)である。収容部621は、円筒形の外側壁6211を有する。容器620の内部には、微粒子状の試料640が収容されている。試料640は、溶媒630中に分散された状態で、容器620の内部に収容されている。
【0059】
また、
図14の(b)及び(c)に示す顕微鏡650は、
図1の(b)に示す顕微鏡50と同様に構成されている。すなわち、顕微鏡650を構成する鏡台651、鏡柱652、ステージ653、調整ダイヤル654、対物レンズ655、及び接眼レンズ656の各々は、それぞれ、顕微鏡50を構成する鏡台51、鏡柱52、ステージ53、調整ダイヤル54、対物レンズ55、及び接眼レンズ56の各々に対応する。そこで、ここでは、これらの説明を省略する。
【0060】
円筒形の透明な容器620の内部に収容された試料640を顕微鏡650を用いて拡大観察する場合、
図14の(b)に示すように、顕微鏡650のステージ653上に容器20を載置して、収容部621の外側壁6211越しに試料640を観察する方法が最も容易である。このとき、容器620の収容部621の中心軸がステージ653の上面に沿うように、容器20は、ステージ653の上面上に載置される。
【0061】
しかしながら、試料640を外側壁6211越しに観察する場合、外側壁の異方的な形状に起因して、非点収差が生じる。そのため、試料640を外側壁6211越しに観察した場合、満足な顕微鏡像を得ることができない。非点収差が生じる原理は、以下の通りである。
【0062】
ここでは、説明を簡単にするために、物面上に配置された試料640を理想レンズIL601を介して観察する光学モデルを用いる。そのため、この光学モデルでは、試料640を等倍観察する場合について生じる非点収差について説明することになるが、この非点収差が生じる原理は、対物レンズ655及び接眼レンズ656を介して顕微観察する場合にも適用できる。
【0063】
図15の(a)に示すように、この光学モデルにおいて、試料640が大気中に露出しており、試料640を直接観察することができる。この場合、試料640の上端から発せられた光を表す光線(代表的なものとして光線B601,B602を
図15に示す)は、理想レンズIL601を通して、像面上の1点(顕微鏡像641の下端)に収束する。また、試料640の下端から発せられた光を表す光線(代表的なものとして光線B603,B604を
図15に示す)は、理想レンズIL601を通して、像面上の別の1点(顕微鏡像641の上端)に収束する。
【0064】
このように、試料640を構成する各点と、顕微鏡像641を構成する各点とが、それぞれ、1対1の対応関係を有する場合、鮮明な顕微鏡像641を得ることができる。
【0065】
一方、試料640が容器620の内部に収容されている場合、試料640を構成する各点から発せられた光は、溶媒630と外側壁6211との界面、及び、外側壁6211と空気との界面において、各界面の形状と屈折率差とに応じて屈折する。
【0066】
ここで、容器620の横断面における試料640の一方の端部から発せられた光を表す光線B601,B602が像面上の1点に収束し、横断面における試料640の他方の端部から発せられた光を表す光線B603,B604が像面上の1点に収束する位置に理想レンズIL601を配置した場合(
図15の(b)参照)、容器620の縦断面における試料640の一方の端部から発せられた光を表す光線B605,B606は、像面上の1点に収束せず、容器620の縦断面における試料640の他方の端部から発せられた光を表す光線B607,B608は、像面上の1点に収束しない(
図15の(c)参照)。
【0067】
この場合、容器620の横断面においては、上述した1対1の対応関係が成立しているのに対し、容器620の縦断面においては、上述した1対1の対応関係が成立していない。したがって、像面上において鮮明な顕微鏡像641を得ることはできない。
【0068】
また、容器620の縦断面における試料640の一方の端部から発せられた光を表す光線B605,B606が像面上の1点に収束し、縦断面における試料640の他方の端部から発せられた光を表す光線B607,B608が像面上の1点に収束する位置に理想レンズIL601を配置した場合(
図15の(e)参照)、容器620の横断面における試料640の一方の端部から発せられた光を表す光線B601,B602は、像面上の1点に収束せず、容器620の横断面における試料640の他方の端部から発せられた光を表す光線B603,B604は、像面上の1点に収束しない(
図15の(d)参照)。したがって、像面上において鮮明な顕微鏡像641を得ることはできない。
【0069】
このような収差は、非点収差と呼ばれている。シリンドリカルレンズとして機能する外側壁6211に起因する収差は、非点収差の極端な態様として理解できる。
【0070】
なお、試料640の大きさが非点収差に起因するぼやけ具合よりも十分に大きい場合には、非点収差が存在する環境であっても、顕微鏡像641から大まかな情報を得ることができる。しかしながら、試料640の大きさが数μm〜数十μm程度である場合、非点収差に起因するぼやけ具合が試料640の大きさを上回り、試料640の大まかな情報すら得ることができなくなる。当然のことながら、このような場合、試料640の詳細な情報をえることは、不可能である。
【0071】
<従来の拡大観察方法2>
以上のように、外側壁6211の形状に起因する非点収差のため、容器620の内部に収容された試料640を外側壁6211越しに拡大観察するという方法を用いても鮮明な顕微鏡像641を得ることができない。そこで、従来は、試料640を容器620からプレパラート上に溶媒630と共に滴下し、顕微鏡650を用いて拡大観察する方法を採用していた(
図14の(c)参照)。
【0072】
この方法によれば、試料640と対物レンズ155との間に収容部621の外側壁6211が介在しないため、試料640の鮮明な顕微鏡像641を得ることができる。その反面、この方法には、以下に示す欠点がある。
(1)容器620の開閉に伴い、空気中の物質により試料640が汚染される。
(2)観察のたびにプレパラートに滴下した試料640を捨てることになる。
(3)容器620の内部に収容されている状態の試料640を観察することができない。
(4)容器620の内部において試料640を反応させる場合に、その反応の経過を観察することができない。
(5)試料640が危険性を有する試料である場合、大気中で観察することができず、ドラフトなどの大がかりな設備が必要となる。
(6)複数の容器620の各々に収容された試料640の各々を観察したい場合、観察の準備作業(プレパラート上に滴下するなど)に手間が掛かる。
【0073】
したがって、容器620の内部に収容された試料640を、そのまま顕微鏡650を用いて拡大観察する方法が強く求められていた。
【0074】
<補正レンズ10を用いた拡大観察方法>
補正レンズ10の光透過面11は、上述したように式(1)により規定される形状に成形されている。すなわち、光透過面11は、トーリック面をベースとして、x軸方向(外側壁211の中心軸に沿った方向)に対して非球面多項式による補正を加えた形状に成形されている。
【0075】
そのため、容器20の横断面における試料40の一方の端部から発せられた光を表す光線B1,B2が像面上の1点に収束し、横断面における試料40の他方の端部から発せられた光を表す光線B3,B4が像面上の1点に収束する位置に理想レンズIL1を配置した場合(
図3の(a)参照)、容器20の縦断面における試料40の一方の端部から発せられた光を表す光線B5,B6は、像面上の1点に収束し、容器20の縦断面における試料40の他方の端部から発せられた光を表す光線B7,B8は、像面上の1点に収束する(
図3の(b)参照)。
【0076】
このように、補正レンズ10を用いることによって、試料40を構成する各点と顕微鏡像41を構成する各点とにおける1対1の対応関係を成立させることができる。したがって、補正レンズ10を用いることによって、あたかも容器20が存在しないかのような鮮明な顕微鏡像41を得ることができる。その結果、試料40を容器20から取り出すことなしに拡大観察することができるため、上述した(1)〜(6)の欠点を解消することができる。
【0077】
なお、補正レンズ10を構成する光透過面11の形状は、z軸方向における試料40の位置に応じて最適化されている。そのため、観察したい試料40のz軸方向における位置に応じて、複数種類の補正レンズ10を用意しておくことが好ましい。
【0078】
例えば、
図3の(a)及び(b)に示した場合において、試料40のz軸方向における位置は、収容部21の中心近傍である。それに対し、
図3の(c)及び(d)に示すように、試料40のz軸方向における位置が収容部21の中心よりも遠い側の外側壁211(z軸負方向側の外側壁211)近傍である場合、この位置に応じて最適化された光透過面11を備えた補正レンズ10を用意しておくことが好ましい。この位置に応じて最適化された光透過面11を備えた補正レンズ10を用意しておくことによって、
図3の(c)及び(d)に示すように、試料40のz軸方向における位置がz軸負方向側の外側壁211近傍である場合であっても、試料40を構成する各点と顕微鏡像41を構成する各点とにおける1対1の対応関係を成立させることができる。
【0079】
同様に、試料40のz軸方向における位置がz軸正方向側の外側壁211近傍である場合に備えて、位置に応じて最適化された光透過面11を備えた補正レンズ10を用意しておくことが好ましい。
【0080】
以上のように、試料40のz軸方向における位置に応じて最適化された、複数種類の補正レンズ10を用意しておくことにより、試料40がどのような位置に存在する場合であっても、鮮明な顕微鏡像41を得ることができる。
【0081】
なお、試料40のz軸方向における位置に応じて最適化した補正レンズ10を数多く用意するほど、試料40のz軸方向における位置変化に対してきめ細かく対応することができる。その反面、試料40のz軸方向における位置が少し変化する度に、補正レンズ10を適切に変更する必要が生じる。したがって、試料40のz軸方向における位置に応じて最適化した補正レンズ10の数は、ユーザが求める使用方法に応じて適宜選択することが好ましい。
【0082】
例えば、複数の容器20の各々の内部に収容されている試料40の各々を、短時間で数多く観察したい場合には、観察可能な試料40の位置を限定し、小数の補正レンズ10を用いることが好ましい。本願の発明者らが得た知見によれば、3つの補正レンズ10(収容部21の中心よりもz軸負方向側の外側壁211近傍用、収容部21の中心近傍用、及び収容部21の中心よりもz軸正方向側の外側壁211近傍用)を用意することによって、補正レンズ10を変更する手間を無用に増やすことなく、収容部21の内部の全域をカバーすることができる。
【0083】
(補正レンズ10の変形例)
本実施形態において、補正レンズ10の光透過面11は、上述した式(1)により規定される形状に成形されているものとして説明した。しかし、光透過面11の形状は、トーリック面であってもよい。すなわち、光透過面11の形状は、
図2に示した座標系において式(2)により規定されてもよい。
【0084】
【数2】
式(2)は、式(1)からx軸に関する非球面多項式を省略することによって得られる。すなわち、式(2)によって規定される形状に成形された光透過面11は、トーリック面を成す。
【0085】
式(2)によって規定される形状に成形された光透過面11を備えた補正レンズ10は、式(1)によって規定される形状に成形された光透過面11を備えた補正レンズ10と比較した場合、解消できる非点収差の度合いが劣る。とはいえ、式(2)によって規定される形状に成形された光透過面11を備えた補正レンズ10を用いた場合であっても、像面上において鮮明な顕微鏡像41を得ることができる。
【0086】
また、本実施形態において、補正レンズ10の光透過面12は、収容部21の外側壁211に沿った円筒面に成形されているものとして説明した。しかし、光透過面12は、上述した円筒面以外の形状に成形されていてもよく、例えば、平面に成形されていてもよい。光透過面12が平面に成形されている場合、光透過面12が円筒形に成形されている場合と比較して、外側壁211と光透過面12との間に大きな空隙が生じる。このような場合、マッチングオイルを用いてこの空隙を埋めることによって(或いは、容器20及び補正レンズ10をマッチングオイル中に液浸することによって)、光透過面12が円筒形に成形されている場合と同様に鮮明な顕微鏡像41を得ることができる。
【0087】
(光透過面11の設計方法)
光透過面11の設計方法について、以下に説明する。本実施形態では、
図4に示す光学モデルを用い、光線追跡シミュレーションを行うことにより光透過面11の形状を最適化する。
【0088】
光透過面11を設計するときに用いる光学モデルでは、
図4に示すように、容器20を構成する収容部21の外側壁211に対して、光透過面12が接するように補正レンズ10が配置されている。補正レンズ10と像面PL1との間には、補正レンズ10側から順番に、絞りA1及び理想レンズIL11(対物レンズに対応)と、理想レンズIL12(接眼レンズに対応)とが挿入されている。ここで、本光学モデルに係る各パラメータは、以下の通りである。なお、
図4に示した座標系は、
図2の示した座標系と同様に定められている。
(1)収容部21の外径(外側壁211の外径)を外径d0とする。
(2)収容部21の内径(外側壁211の内径)を外径diとする。
(3)収容部21を構成する材料の屈折率を屈折率n0とする。
(4)溶媒30の屈折率を屈折率niとする。
(5)試料40のz軸方向における位置を観察位置Zsとする。このとき、観察位置Zsは、収容部21の中心を原点とし、z軸正方向に正をとるものとする。
(6)理想レンズIL11の焦点距離を焦点距離fとする。
(7)理想レンズIL11の開口数を開口数NAとする。
(8)理想レンズIL12の焦点距離を焦点距離mfとする。すなわち、本光学モデルの倍率は、m倍である。
(9)補正レンズ10の厚さ(z軸方向に沿った長さ)をtとする。
(10)補正レンズ10を構成する材料の屈折率をnlとする。
【0089】
厚さtに関しては、試料40と理想レンズIL11との間隔Zdとの兼ね合いで検討する必要がある。間隔Zdに余裕がある場合(厚さtに対して十分に大きい場合)、厚さtは、補正レンズ10を製作するときの都合に合わせて決めることができる。一方、間隔Zdが狭い場合、実際に用いる顕微鏡50において、対物レンズ55と補正レンズ10とが干渉しないように、厚さtを薄くする必要がある。
【0090】
補正レンズ10を構成する材料は、上述したように透明な樹脂材料或いは光学ガラス材料から適宜選択することができる。
【0091】
なお、理想レンズIL11と理想レンズIL12との間隔ΔLは、光線追跡シミュレーションの結果に影響を与えるパラメータではない。したがって、間隔ΔLは、任意の値でよい。また、試料40と理想レンズIL11との間隔Zdを、実際に用いる顕微鏡50の構成に基づき予め定めておくことによって、光線追跡シミュレーションを効率よく行うことができる。
【0092】
これらのパラメータと、上述した式(1)とを用いて光線追跡シミュレーションを行う。光線追跡シミュレーションにおいては、試料40を構成する1点から発せられた光を表す光線B1、B2、・・・、Bn−2、Bnの各々について、外側壁211、補正レンズ10、理想レンズL11、及び理想レンズL12を透過した結果として像面PL1の何れの位置に交わるか(到達するか)を計算する。そして、光線B1、B2、・・・、Bn−2、Bnの各々の軌跡の計算を繰り返し、像面PL1上における、光線B1、B2、・・・、Bn−2、Bnの各々と像面PL1との交点の分布(スポットサイズ)を最小化するように、次の各パラメータを最適化する。
(1)式(1)における係数Cx(zx断面における曲率を表す)。
(2)式(1)における係数Cy(yz断面における曲率を表す)。
(3)非球面係数であるαk。
(4)試料40と理想レンズIL11との間隔Zd。
【0093】
なお、上述したように、試料40と理想レンズIL11との間隔Zdを定めていた場合には、間隔Zdを最適化する必要がない。
【0094】
以上の方法を用いて、光透過面11の形状を表す式(1)が含む各パラメータを最適化することができる。すなわち、光透過面11の形状を設計することができる。
【0095】
なお、スポットサイズの目標は、例えば、(1)顕微鏡が備えている撮像素子の分解能と、(2)Rayleighの解像限界との何れか大きい方を基準値として、この基準値を下回るように設定すればよい。
【0096】
また、式(1)における非球面多項式の次数については、上述した目標を達成できるように適宜定めることができる。
【0097】
(補正レンズ10の製造方法)
補正レンズ10は、その形状に対応した金型を用いたプレス成形法により製造することもできるし、射出成形法により製造することもできるし、精密な機械加工法を用いてその形状を削り出すことによっても製造することができる。
【0098】
何れの製造方法を選択するかは、補正レンズ10を構成する材料や、製造する補正レンズ10の個数などに応じて適宜定めればよい。少量の補正レンズ10を試験的に製造する場合には、機械加工法が好適である。一方、大量の補正レンズを商業的に製造する場合には、プレス成形法或いは射出成形法が好適である。
【0099】
(補正レンズ10を販売する場合の態様)
本実施形態に係る補正レンズ10は、例えば、(1)補正レンズ10単体として販売することもできるし、(2)容器20のパッケージの一部として販売することもできるし、(3)顕微鏡(
図1に示した顕微鏡50或いは
図10に示す顕微鏡150)のパッケージの一部として販売することもできる。すなわち、補正レンズ10を備えている顕微鏡、或いは、補正レンズ10をその販売パッケージの一部に含む容器20も、本発明の範疇に含まれる。また、後述する補正レンズシステム1531を備えている顕微鏡、或いは、補正レンズシステム1531をその販売パッケージの一部に含む容器20も、本発明の範疇に含まれる。
【0100】
〔第1の実施例群〕
第1の実施形態に係る補正レンズ10の第1の実施例群について、
図5〜
図9を参照して説明する。
【0101】
図5の(a)〜(i)は、本実施例群に係る補正レンズ10を製造する製造方法の各工程を示す模式図である。
図6は、本実施例群に係る補正レンズ10を設計するときに用いる観察視野内における試料40の代表位置である点P1〜P4を示す平面図である。
図7の(a)〜(d)は、本実施例群に係る補正レンズ10のうち1つの補正レンズ10の各パラメータを最適化した結果として得られた、対象物のスポットダイアグラムである。
図8の(a)〜(d)は、補正レンズ10を用いない場合に得られた対象物のスポットダイアグラムである。
図9の(a)は、
図5に示した製造方法を用いて製造した、本実施例群に係る補正レンズ10の1つである補正レンズ10Aの光透過面11における形状誤差の分布図である。
図9の(b)は、
図6の(a)に示した分布図における破線に沿った領域の形状誤差を示すグラフである。
図9の(c)の上図及び下図は、それぞれ、
図9の(a)に示した補正レンズ10Aの光透過面11の一部における表面粗さの分布図、及び、上図に示した分布図における実線に沿った領域の表面粗さを示すグラフである。
【0102】
(補正レンズ10の製造方法)
図5に示すように、本実施例群では、精密な機械加工法を用いて補正レンズ10を製造した。なお、補正レンズ10を製造するための出発原料として、アクリル樹脂の一例であるPMMA樹脂の棒状部材を採用した(
図5の(a)参照)。
【0103】
ターニングセンターを用いて、棒状部材を粗加工することにより、補正レンズ10の光透過面11に対応する部分を球面形状に成形するとともに、光透過面11の外縁部131に対応する部分を切削する(
図5の(b)参照)。
【0104】
ターニングセンターを用いて、棒状部材に対して溝加工を施すことにより、光透過面12の外縁部132に対応する部分を切削する(
図5の(c)参照)。
【0105】
ドリルを用いて、棒状部材に下穴加工を施す(
図5の(d)参照)。さらに、エンドミルを用いて、
図5の(d)において設けた下穴を拡大するとともに、光透過面12に対応する部分を円筒形に成形する(
図5の(e)参照)。
【0106】
棒状部材の先端部から、光透過面11,12が粗加工されるとともに、フランジ13が成形された補正レンズ10を切り離す(
図5の(f)参照)。
【0107】
粗加工された補正レンズ10の光透過面11は、超精密加工機を用いた3軸同時制御加工法を用いて、式(1)により規定される形状に成形される(
図5の(g)参照)。この工程により、光透過面11の形状は、仕上げられる。なお、
図5の(g)においては、光透過面11の近傍のみを図示している。この3軸同時制御加工法は、補正レンズ10を回転させながら、その回転に同期するようにダイヤモンド製の工具を3次元的に動かすことによって実現される。
【0108】
粗加工された補正レンズ10の光透過面12は、超精密加工機を用いたシェーパ加工法を用いて、円筒面に成形される(
図5の(h)参照)。この工程により、光透過面12の形状は、仕上げられる。このシェーパ加工法は、補正レンズ10を固定したままダイヤモンド製の工具をx軸方向に沿って動かすことによって実現される。
【0109】
以上の工程によって、光透過面11が式(1)により規定される形状に成形され、光透過面12が円筒形に成形された補正レンズ10が得られる(
図5の(i)参照)。
【0110】
(光線追跡シミュレーションに用いた各パラメータ)
本実施例群では、(株)伊藤製作所製のシリンジ及びHamilton Co.製のシリンジの内部に収容された試料40を観察するための補正レンズ10を5つ用意した。以下において、(株)伊藤製作所製のシリンジ用の3つの補正レンズ10を、それぞれ、補正レンズ10A〜10Cとする。また、Hamilton Co.製のシリンジ用の2つの補正レンズ10を、それぞれ、補正レンズ10D〜10Eとする。
【0111】
(株)伊藤製作所製のシリンジ及びHamilton Co.製のシリンジの各々は、何れも、円筒形であり透明な容器の一態様である。(株)伊藤製作所製のシリンジ及びHamilton Co.製のシリンジにおける各パラメータを表1に示す。
【表1】
表1に示すように、補正レンズ10Aは、シリンジ内におけるz軸方向における位置である観察位置ZsをZs=0mmとした補正レンズであり、補正レンズ10B,10Cの各々は、それぞれ、シリンジ内における観察位置ZsをZs=+0.8mm,−0.8mmとした補正レンズである。なお、補正レンズ10A〜10Cの各々において、厚さtをt=5mmとした。
【0112】
補正レンズ10Dは、シリンジ内における観察位置ZsをZs=0mmとした補正レンズであり、補正レンズ10Eは、シリンジ内における観察位置ZsをZs=+0.5mmとした補正レンズである。なお、補正レンズ10D〜10Eの各々において、厚さtをt=6.5mmとした。
【0113】
また、補正レンズ10A〜10Eの各々を構成する光透過面11は、ミツトヨ製の対物レンズを用いて観察する前提で設計した。ミツトヨ製の対物レンズにおける各パラメータを表2に示す。
【表2】
なお、補正レンズ10A〜10Eを構成する材料としては、上述したようにPMMA樹脂を採用した。PMMA樹脂の屈折率nlは、実測値でnl=1.448である。
【0114】
(光線追跡シミュレーションによる最適化)
以上の各パラメータを用いて、光線追跡シミュレーションを行うことにより、補正レンズ10A〜10Eの各々を構成する光透過面11を規定する式(1)を最適化した。
【0115】
なお、本実施例群では、観察する試料40の代表位置として、
図6に示した点P1〜P4を用いた。本実施例群においては、試料40の代表位置である各点P1〜P4から発せられた光線の像面における分布(スポットサイズ)の二乗平均平方根(RMS)半径を最小化するように、式(1)を最適化した。なお、本実施例群においては、式(1)に含まれる非球面多項式として4次項(k=4)のみを採用した。後述する結果に示すように、4次項のみを採用することによって、スポットサイズの基準値を下回ることができたためである。
【0116】
また、本実施例群では、ピクセル分解能が3.75μmであるCCDセンサを撮像素子として採用することを前提とした。3.75μmというピクセル分解能は、実空間に存在する物面に換算した場合、0.375μmとなる(表2に示した対物レンズの倍率が10倍であるため)。この物面に換算した場合の分解能と、表2に示したRayleighの解像限界(=3.2μm)とを比較した場合、Rayleighの解像限界の方が大きい。したがって、本実施例群においては、光線追跡シミュレーションを行った結果として得られるRMS半径が下回るべき基準値として、Rayleighの解像限界を採用した。本実施例群におけるRayleighの解像限界は、物面に換算した場合において3.2μmであり、像面換算で32μmである。
【0117】
補正レンズ10A〜10Eを構成する光透過面11に関して、最適化された式(1)を表す各パラメータと、像面におけるスポットサイズ(RMS半径)を表3に示す。
【表3】
表3を参照すれば、最適化された光透過面11を有する補正レンズ10A〜10Eの各々によって得られるスポットサイズは、何れも上述した基準値を下回ることが分かった。したがって、補正レンズ10A〜10Eの各々は、シリンジの内部に収容された試料を拡大観察するために好適に用いることができる。
【0118】
図7の(a)〜(d)は、補正レンズ10A〜10Eのうち補正レンズ10Aを挿入した光学モデルによって得られた試料40の代表位置から発せられた光のスポットダイアグラムである。
図7の(a)は、
図6に示した点P3から発せられた光のスポットダイアグラムを示し、
図7の(b)は、
図6に示した点P4から発せられた光のスポットダイアグラムを示し、
図7の(c)は、
図6に示した点P1から発せられた光のスポットダイアグラムを示し、
図7の(d)は、
図6に示した点P2から発せられた光のスポットダイアグラムを示す。
【0119】
このように、点P1〜P4の各々から発せられた光のスポットサイズ(RMS半径)は、何れもRayleighの解像限界である32μmを下回っている。
【0120】
本発明の参考例として、補正レンズ10Aを省略した光学モデルによって得られた試料40の代表位置から発せられた光のスポットダイアグラムを
図8に示す。
図8に示すように、補正レンズ10Aを省略した場合、点P1〜P4の各々から発せられた光のスポットサイズ(RMS半径)は、1.95mmであり、何れもRayleighの解像限界である32μmを大きく上回る。この結果は、無限小である1つの点から発せられた光が約2mm程度の領域に広がる(ぼやける)ことを意味している。したがって、円筒形且つ透明な容器と対物レンズとの間に補正レンズ10Aを挿入しない場合、対象物を拡大観察できないことが分かった。
【0121】
(補正レンズ10Aの形状誤差)
最適化された各パラメータ(表3参照)を有する式(1)によって規定される光透過面11を備えた補正レンズ10Aにおける形状誤差を測定した。その形状誤差の結果を
図9に示す。
【0122】
図9の(a)によれば、x軸に沿った方向及びy軸に沿った方向に微小な凹凸が見られる。この微小な凹凸は、象限突起と呼ばれる凹凸であり、
図5の(g)に示した工程に起因する凹凸である。この微小な凹凸は、補正レンズ10Aの性能に影響を与えない程度の凹凸である。
【0123】
図9の(b)によれば、補正レンズ10Aの形状誤差は、1μm以下であることが分かった。したがって、
図5の(g)及び(h)の各々に示した工程によって仕上げられた光透過面11,12の各々は、光学的な観点から見ても高精度な面に仕上がっていることが分かった。
【0124】
また、
図9の(c)によれば、補正レンズ10Aの表面粗さは、100nm以下であり、算術平均粗さRaは、14nmであることが分かった。
【0125】
〔第2の実施形態〕
本発明の第2の実施形態に係る顕微鏡について、
図10を参照して説明する。
図10の(a)は、本実施形態に係る顕微鏡150と、パーソナルコンピュータ(以下、PC)170とを備えた顕微鏡システムの斜視図である。
図10の(b)は、顕微鏡150が備えているステージ153の斜視図である。本実施形態では、円筒形の透明な容器の一態様であるシリンジ120の内部に収容された試料を観察するために、顕微鏡150を用いる。
【0126】
なお、シリンジ120は、シリンダ121と、ピストン122とを備えている(
図10の(b)参照)。シリンダ121は、円筒形の透明な外側壁1211と、外側壁1211の一方の端部に設けられたつば部1212と、外側壁1211の他方の端部に設けられた吐出口1213とを備えている。例えば、
図10の(b)に示したシリンジ120において、ピストン122をx軸正方向に押し込むことによって、シリンダ121の内部に収容された試料は、吐出口1213からシリンダ121の外部へ押し出される。
【0127】
図10の(a)に示すように、顕微鏡150は、鏡台151と、鏡柱152と、ステージ153と、調整ダイヤル154と、対物レンズ155A,155Bと、ターレット156と、鏡筒157と、CCDセンサ158と、光源159とを備えている。
【0128】
鏡台151は、顕微鏡150の基部をなす金属製のブロックである。鏡台151の上面上には、鏡柱152が起立した状態で固定されている。また、鏡台151の上面上には、鏡筒157を保持する保持部材(
図10には不図示)が固定されている。
【0129】
鏡柱152は、その上端部近傍に、ステージ153と光源159とを保持している。ステージ153は、鏡柱152の中途に設けられた調整ダイヤル154を用いることによって、対物レンズ155A又は対物レンズ155Bとの距離が該対物レンズの作動距離に整合するように、その高さを調整することができる。
【0130】
図10の(b)に示すように、ステージ153の上面上には、3つの補正レンズ110A〜110Cを備えた補正レンズシステム1531が配置されている。補正レンズ110A〜110Cの各々は、第1の実施形態に係る補正レンズ10と同様に構成されている。ただし、シリンジ120内の広い範囲を観察可能にするために、補正レンズ110A〜110Cの各々は、それぞれ、観察位置Zsが異なる第1の光透過面を有する。本実施形態において、(1)補正レンズ110Aは、第1の実施例群に係る補正レンズ10Aと同様に構成されており、Zs=0mmである第1の光透過面を有し、(2)補正レンズ110Bは、第1の実施例群に係る補正レンズ10Bと同様に構成されており、Zs=+0.8mmである第1の光透過面を有し、(3)補正レンズ110Cは、第1の実施例群に係る補正レンズ10Cと同様に構成されており、Zs=−0.8mmである第1の光透過面を有する。
【0131】
補正レンズシステム1531は、補正レンズ110A〜110Cの各々の第1の光透過面の外縁部を下方から保持する保持部(
図10の(b)には不図示)を更に供えている。この保持部によって、補正レンズ110A〜110Cの各々は、第2の光透過面が光源159と対向するように、換言すれば、第1の光透過面が対物レンズ155A,155Bと対向するように、ステージ153の上面上に設置されている。
【0132】
補正レンズシステム1531は、ステージ153の上面上に設けられたスライド部(
図10の(b)には不図示)を更に備えている。そのため、補正レンズシステム1531は、補正レンズ110A〜110Cをy軸方向に沿ってスライドさせることができる。この構成によれば、ユーザは、顕微鏡150の光軸上に配置する補正レンズを補正レンズ110A〜110Cの中から容易に選択することができる。
【0133】
また、補正レンズ110A〜110Cを構成する第2の光透過面が光源159と対向するように配置されている。なお、光源159は、透過照明用の光源である。
【0134】
補正レンズ110A〜110Cを構成する第2の光透過面が光源159と対向するように配置されていることにより、ユーザは、選択した補正レンズ(
図10の(b)においては補正レンズ110A)の第2の光透過面上にシリンジ120の外側壁1211を容易に載置することができる。したがって、ステージ153の上面上に、シリンジ120を容易に固定することができる。
【0135】
なお、ステージ153の上面上には、保持部1532A〜1532Cの各々が設置されている。ここでは、保持部1532Aを例に説明するが、保持部1532B及び保持部1532Cは、対をなす補正レンズが異なる以外、保持部1532Aと同様に構成されている。
【0136】
保持部1532Aは、補正レンズ110Aと対をなす保持部である。シリンジ120の外側壁1211が補正レンズ10Aの第2の光透過面上に載置された場合に、外側壁1211の中心軸がx軸に沿うように、つば部1212を保持する(
図10の(b)参照)。また、保持部1532Aは、ステージ153の上面上に設けられたスライド部(
図10の(b)に不図示)によって、x軸方向に沿ってスライドする。この構成によれば、ユーザは、シリンダ121の内部に収容された試料の観察する位置を、シリンダ121の中心軸方向(x軸方向)に沿って容易に移動することができる。
【0137】
顕微鏡150がこのように構成されたステージ153を備えていることによって、ユーザは、シリンジ120の内部に収容された試料を、顕微鏡150の光軸上に容易に配置することができる。
【0138】
また、
図10の(b)に示すように、光源159の下層には、偏光フィルタ160が設けられている。偏光フィルタ160は、ユーザの意思に応じて、顕微鏡150の光軸上に配置することも、顕微鏡150の光軸を避けて配置することもできる。ユーザは、偏光観察を実施したい場合に、偏光フィルタ160と、後述する鏡筒157内に設置された偏光フィルタとを顕微鏡150の光軸上に配置する。
【0139】
対物レンズ155A及び対物レンズ155Bの各々の倍率は、互いに異なるように選択されている。ターレット156は、鏡筒157の上端に対して回転自在なように固定されている。ターレット156は、4つの対物レンズポートを備えており、本実施形態においては、そのうちの2つの対物レンズポートに対物レンズ155A,155Bが装着されている。ユーザは、ターレット156を回転させることによって、対物レンズ155A,155Bのうち好ましい倍率を有する対物レンズを選択することができる。
【0140】
鏡筒157の内部には、偏光フィルタ160と対をなす偏光フィルタ(
図10の(a)には不図示)と、落射照明用の光源(
図10の(b)には不図示)と、接眼レンズとが収容されている。
【0141】
また、鏡筒157の下端部には、撮像素子であるCCDセンサ158が、その受光面を上向きに配置されている。このように、顕微鏡150は、倒立型の顕微鏡である。
【0142】
PC170は、CCDセンサ158を制御することによって顕微鏡像を表すデジタルデータを取得するとともに、取得した顕微鏡像を表すデジタルデータの画像処理を行う。
【0143】
このように構成された顕微鏡システムを用いることによって、ユーザは、シリンジ120を構成するシリンダ121の内部に収容された試料を容易に拡大観察することができ、且つ、拡大観察した結果得られた顕微鏡像を表すデジタルデータを容易に取得することができる。
【0144】
なお、本実施形態においては、顕微鏡150が3つの補正レンズ110A〜110Cを備えた補正レンズシステムを備えているものとして説明した。しかし、顕微鏡150は、1つの補正レンズのみを備えるように構成されていてもよい。
【0145】
〔第2の実施例〕
本発明の第2の実施例として、
図10に示した顕微鏡150と、PC170とによって構成される顕微鏡システムを製作した。本実施例において、補正レンズ110A〜110Cの各々は、それぞれ、第1の実施例群に記載の補正レンズ10A〜10Cの各々と同様に構成されている。この顕微鏡システムを用いて、表1に記載した伊藤製作所製のシリンジを構成するシリンダの内部に収容された複数のラテックスビーズを拡大観察した。
【0146】
ラテックスビーズの直径は、10μmである。このような複数のラテックスビーズを寒天に分散させた状態でシリンダ内に充填した。
図11に示した顕微鏡像は、3つの観察位置Zs、すなわち、Zs=+0.8mm(シリンジ中央より対物レンズ側に0.8mm),0mm(シリンジ中央),−0.8mm(シリンジ中央より透過照明側に0.8mm)に位置するラテックスビーズを、補正レンズ110A〜110Cの各々で観察した結果として得られた顕微鏡像である。
【0147】
図11を参照すれば、(1)補正レンズ110Aを選択することによって、シリンジの中央に位置するラテックスビーズの鮮明な顕微鏡像を取得することができ、(2)補正レンズ110Bを選択することによって、シリンジの中央から対物レンズ側に0.8mmの場所に位置するラテックスビーズの鮮明な顕微鏡像を取得することができ、(3)補正レンズ110Cを選択することによって、シリンジの中央から透過照明側に0.8mmの場所に位置するラテックスビーズの鮮明な顕微鏡像を取得することができることが分かった。また、上述した以外の組み合わせでは、ラテックスビーズの鮮明な顕微鏡像を取得できないことが分かった。
【0148】
〔適用例〕
本発明の一態様である補正レンズ210の適用例について、
図12を参照して説明する。
図12は、補正レンズ210の適用例を示す概念図である。本適用例において用いる補正レンズ210は、第1の実施例群の補正レンズ10Aと同様に構成されている。
【0149】
補正レンズ210は、X線自由電子レーザ(XFEL)を用いた膜タンパク質結晶のX線構造解析用の試料(膜タンパク質結晶)を、円筒形であり透明な容器であるシリンジの外側壁越しに観察する場合に好適に用いることができる。本適用例においては、
図12の(b)に示すように、顕微鏡250及び補正レンズ210を用いてシリンジ420の内部に収容された膜タンパク質結晶を観察する。本適用例において用いるシリンジ220,320,420の各々は、それぞれ、第2の実施形態において説明したシリンジ120と同様に構成されている。また、本適用例において用いる顕微鏡250は、第1の実施形態において説明した顕微鏡50と同様に構成されている。
【0150】
膜タンパク質は、細胞内外のシグナルや物質などの輸送を担うタンパク質であり、創薬ターゲットとして極めて重要なタンパク質である。XFELを用いたシリアルフェムト秒X線構造解析法(SFX)は、膜タンパク質結晶の立体構造を調べるための有効な手法である。
【0151】
この膜タンパク質結晶の立体構造は、例えば国内では、SACLA(SPring-8 Angstrom Compact Free Electron Laser)において進められている。SACLAは、日本における唯一のXFEL施設である。そのため、多くの研究者は、限られたリソースを分かち合いながらSACLAを利用している。したがって、その限られたリソースを最大限に活用するために、SACLAにおける膜タンパク質結晶のX線構造解析においては、高い実験効率(高い成功率)が求められる。そのために、X線構造解析の前段階において高品質な(SFX実験に最適のサイズと密度を持った)膜タンパク質結晶を成長させておき、これらの高品質な膜タンパク質結晶を用いてX線構造解析を実施することが求められる。
【0152】
膜タンパク質を結晶化するための方法として、脂質メソフェーズ結晶化法が知られている。脂質メソフェーズ結晶化法は、典型的には60部の脂質と40部の膜タンパク質溶液とを混合し、膜タンパク質を脂質キュービック相内に再構成した膜タンパク質含有脂質キュービック相を得ることからスタートする。高粘度の脂質と膜タンパク質溶液とを均一に混合するために、例えば、脂質が充填されたシリンジ220と、膜タンパク質溶液が充填されたシリンジ320とを好適に用いることができる。
【0153】
図12の(a)に示すように、脂質が充填されたシリンジ220と膜タンパク質溶液が充填されたシリンジ320とを中央に連結穴を有するカップラー400を介して互いに連結する。シリンジ220のピストン222及びシリンジ320のピストン322の各々を交互にスライドさせることによって、脂質と膜タンパク質溶液とを均一に混合し膜タンパク質含有脂質キュービック相を得る。次いでピストン322をスライドさせて膜タンパク質含有脂質キュービック相の全量をシリンジ220に集める。次いで、この膜タンパク質含有脂質キュービック相が充填されたシリンジ220とシリンジ420とをカップラー400を介して結合し、シリンジ220のピストン222をスライドさせ、膜タンパク質含有脂質キュービック相をシリンダ421内に移す。シリンジ420は、膜タンパク質含有脂質キュービック相内の膜タンパク質を結晶化させるための結晶化剤水溶液430を前もって充填した、結晶化用のシリンジである。したがって、膜タンパク質含有脂質キュービック相内に含有された膜タンパク質は、シリンジ420内の結晶化剤水溶液430の作用で結晶化が誘起され、脂質キュービック相441中に分散した膜タンパク質結晶440が生成される(シリンジ420の拡大図参照)。
【0154】
図12の(b)に示すように、補正レンズ210をシリンジ420のシリンダ421と顕微鏡250の対物レンズとの間に挿入することによって、生成された膜タンパク質結晶440をシリンジ420の外部に取り出すことなく観察することができる。そのため、補正レンズ210を用いることによって以下の効果を得ることができる。
【0155】
(1)顕微鏡250のステージ上においてシリンジ420の内部において進む膜タンパク質の結晶化の過程をその場観察することができるため、結晶化スクリーニングに利用できる。
【0156】
(2)X線構造解析の前段階において、貴重な膜タンパク質結晶440を無駄にすることなく膜タンパク質結晶440のサイズと密度を確認することができる。
【0157】
(3)シリンジ220の内部に収容された状態における、膜タンパク質結晶440のサイズ及び密度分布に関する情報を得ることができる。
【0158】
このようにして膜タンパク質結晶440の品質を事前に評価しておくことによって、高品質な膜タンパク質結晶440(X線構造解析を実施する価値のある膜タンパク質結晶440)を予め選択することができる。
【0159】
これらの選択された高品質な膜タンパク質結晶440は、XFEL設備に持ち込まれ、X構造解析を実施される。
図12の(c)に示すように、脂質キュービック相441中に分散した膜タンパク質結晶440は、シリンジ420から実験施設に備え付けられたインジェクター520に移される。インジェクター520の吐出口から膜タンパク質結晶440が吐出される。その吐出された膜タンパク質結晶440に対してX線を照射することによって、膜タンパク質結晶440のX線構造解析を実施することができる。
【0160】
〔第3の実施例〕
図10に図示した顕微鏡150と、PC170とによって構成される顕微鏡システムを用いて、実際に脂質キュービック相441中に分散した状態で結晶化させた膜タンパク質結晶440を拡大観察した結果を
図13に示す。
図13の(a)は、顕微鏡150を用いて膜タンパク質結晶440を拡大観察した結果得られた顕微鏡像である。
図13の(b)は、
図13の(a)に示した顕微鏡像と同視野の顕微鏡像であって、偏光観察した結果得られた顕微鏡像である。
【0161】
図13の(a)を参照すれば、脂質キュービック相441中に分散した膜タンパク質結晶440が鮮明に確認できる。したがって、本実施例の顕微鏡システムを用いて拡大観察を実施することによって、膜タンパク質結晶440の鮮明な顕微鏡像を得られることが分かった。
【0162】
図13の(b)を参照すれば、
図13の(a)と比較して、膜タンパク質結晶440に干渉色が現れ、明瞭な結晶の色調変化が確認できる。したがって、本実施例の顕微鏡システムを用いて偏光観察を実施することによって、偏光観察の効果が得られていることが分かった。なお、顕微鏡150が備えている補正レンズシステム1531を構成する補正レンズ110A〜110Cは、PMMA樹脂製である。これらの補正レンズ110A〜110Cの各々を光学レンズ製の補正レンズに置き換えることによって、偏光観察により得られる効果を更に高めることができる。
【0163】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。