(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明について、適宜、図を用いて説明する。なお、高周波をRF、直流をDCと記すことがある。
【0026】
本発明に係る負荷変動圧縮性を有する整流回路(以下、resistance compression rectifier : RCRということがある。)として、倍電圧整流器をベースとした本発明に係る整流回路の構成を示し、さらに、該整流回路の双対回路も示す。また、本発明係る整流回路の動作解析を行い、その結果を示す。本発明に係る整流回路に対する動作解析は矩形波近似による。該整流回路の動作を説明するとともに、回路定数と入力インピーダンスの関係を示す。これにより、本発明に係る整流回路が、二つの導通モード、例えば、シングルシャントモードおよび位相進みモードを持つことがわかる。つまり、本発明に係る整流回路の動作においては、負荷インピーダンスの変動により前記二つの導通モードが切り替わることで、負荷変動の圧縮が実現されることが示される。
【0027】
本発明の実施形態としては、入力端子から出力端子までの間に接続される一つのインダクタと二つのダイオードを有する回路を基本構成とし、さらに、一つの伝送路線、もう一つのインダクタおよび二つのキャパシタを組み合わせて追加することによって構成されるものである。具体的には、基本構成に含まれる一つのインダクタは、入力端子とグラウンドとの間に接続され、一方のダイオード(第1のダイオード)は上記インダクタに並列に設けられ、他方のダイオード(第2のダイオード)は入力端子と出力端子との間に接続される。このとき、第1のダイオードは、アノードをグランド側に接続されるものであり、第2のダイオードは、アノードを入力端子側に接続されるものである。上記のような基本構成に対して、伝送線路、インダクタおよびキャパシタを追加して接続することにより、本発明に係る整流回路全体が構成されるものであり、その接続位置および数等によって回路特性が変化するため、上記の基本構成中の適宜位置において適宜な素子が追加的に接続されるものである。
【0028】
本発明に係る第2の整流回路(以下、整流回路Aという。)は、
図1に示す回路から成る。該整流回路Aは倍電流整流回路を基本構成とし、一つの1/4波長線路を装荷したものである。
【0029】
次に、本発明に係る第3の整流回路として、直流負荷抵抗値の変動に対しても安定かつ高効率であるK
4整流回路(以下、整流回路Bということがある。)を示す。ここで、K
4とは、グラフ理論の4頂点完全グラフから名付け、以下の説明に用いる。
図2に示すように、整流回路Bはダイオード、コイル、コンデンサをそれぞれ二つずつという少ない素子数で構成される。さらに直流負荷抵抗値が広い範囲に変動しても制御なしで高効率に整流できる。まず、整流回路Bの構成を示し、次に、直流負荷抵抗が変動したとき、該整流回路Bの高周波入力抵抗値、高周波電力反射係数、高周波―直流変換効率の変化を解析し、その解析結果から、直流負荷抵抗値が変動しても、高い高周波―直流変換効率を実現できることを示す。
【0030】
最後に、前記整流回路Aの双対回路として、本発明に係る第4の整流回路(以下、整流回路Cという。)を
図3に示す。前記整流回路Aと同様に、矩形波近似による解析から、整流回路Cの動作は、二つの導通モード、すなわち、シングルシャントモードおよび位相進みモードを持ち、負荷インピーダンスの変動により導通モードが切り替わることで、負荷変動の圧縮を実現できることを示す。
【0031】
<整流回路の評価指標>
整流回路の直流負荷変動耐性の評価指標について説明する。整流回路の直流負荷抵抗が最適な値から変動すると反射損失が発生する。直流負荷抵抗が変動しても反射損失が小さい整流回路が好ましい。そこで反射係数の基準を定め、それよりも反射係数が小さい直流負荷の範囲の広さによって整流回路を評価する。
【0032】
具体的には、ある基準インピーダンスZ
0に対して反射係数Γ=20log
10|Γ|がある基準反射係数−GdB以下(Γ≦−G)となる直流負荷抵抗の範囲[R
min,R
max]の最小値R
minと最大値R
maxの比を整流回路の許容負荷変動率W
G=R
max/R
minと呼び、これが大きい整流回路ほど負荷変動耐性が強い整流回路、と評価する。例えば、前記基準反射係数−10dB以下となる前記許容負荷変動率W
10と表記する。また、従来の整流回路の許容負荷変動率は、We
10と表記して区別する。
【0033】
許容負荷変動率を抵抗値の差ではなく比によって定義した理由は無損失線形回路によるインピーダンス変換において不変にするためである。これは基準インピーダンスZ
0が変わっても同様の性能が得られることを意味する。
【実施例1】
【0034】
<回路構成>
本発明の実施例1に係る高周波整流回路の回路図を
図1に示す。この回路は二つのインダクタL
1,L
2、二つのダイオードD
1,D
2、一つの伝送線路(長さl、特性インピーダンスZ
C)によって構成される。負荷抵抗Rを変動させたときの入力インピーダンスZ
inの変動が従来手法の整流回路と比べて小さいことが特徴である。
【0035】
<基本条件とその回路特性>
整流回路Aの素子値の基本条件を示し、基本条件における反射係数の大きさを回路シミュレータにより数値解析する。
【0036】
整流回路Aの基本条件は
【0037】
【数4】
である。ただし、角周波数をω=2πf、波長をλ=c/fとする。cは光速である。この条件にはZ
Cに自由度がある。
【0038】
上記の基本条件に従い回路の素子値を設定し、基準インピーダンスZ
0=50Ωにおける直流負荷抵抗Rを0.1Ωから1000Ωまで変化させた時の反射係数Γを、回路シミュレータを用いて数値解析した。自由度Z
Cは10から50までの範囲で解析した。電源周波数はf=1GHz、波長はλ〜0.03mとする。この基本条件における回路の素子値と解析結果図の関係を表1にまとめる。
図4はA
1、
図5はA
2、
図6はA
3、
図7はA
4、
図8はA
5の解析結果である。
【0039】
【表1】
両対数グラフの横軸を直流負荷抵抗R、縦軸を反射係数Γとし、整流回路Aの反射係数の解析結果を濃い黒色の三角形でプロットし、従来のシングシャント整流回路の反射係数の解析結果を白抜きの四角形で、従来の倍電流整流回路の反射係数の解析結果を薄い黒色の円形でプロットした。それぞれのプロットは平滑線で結線している。基準インピーダンスZ
0が50Ωのときの整流回路Aの許容負荷変動率W
20,W
10を調べ、従来手法の許容負荷変動率We
20,We
10と比較する。解析結果が基準反射係数−20dBもしくは基準反射係数−10dBを下回る範囲を白抜きの矢印で示している。矢印の下に許容負荷変動率の計算式と計算結果を記している。ただし、数値は有効桁3桁までを表記し、4桁目は切り捨てている。この両対数グラフ上の矢印の大きさが許容負荷変動率を示しており、その長さで直観的に比較が可能である。特に許容負荷変動率が大きいものを従来手法の許容負荷変動率We
20=1.58,We
10=5.02と比較する。
【0040】
自由度をZ
C=30に設定した整流回路A
3では基準反射係数−20dBを下回る負荷抵抗の範囲が12.5Ωから39.8Ωの範囲であるため、許容負荷変動率はW
20=39.8/12.5=3.18である。したがって、整流回路A
4は従来手法と比べて許容負荷変動率W
20が2.01倍である。
【0041】
また、自由度をZ
C=20に設定した整流回路A
2では基準反射係数−10dBを下回る負荷抵抗の範囲が2.81Ωから70.7Ωの範囲であるため、許容負荷変動率はW
10=70.7/2.81=25.1である。したがって、整流回路A
2は従来手法と比べて許容負荷変動率W
10が5.00倍である。
【0042】
以上のように整流回路Aは従来回路と比べて大きな許容負荷変動率を示し、優れた負荷変動耐性を持つ。基本条件の自由度Xを調整することで所望の反射係数を満たす大きな許容負荷変動率を得られる。また、基本条件からずれてもよい。
【0043】
<基本条件からずれたときの回路特性>
整流回路Aの素子値が基本条件からずれた場合(l≠λ/4)の解析結果を示す。特に優れた許容負荷変動率W
20を持つ整流回路A
3の伝送線路の長さlがλ/4からずれた場合の解析結果を示す。解析結果の表記方法は基本条件における解析結果の表記方法と同様である。
【0044】
基準インピーダンスZ
0が50Ωのときの基本条件からずれた整流回路Aの許容負荷変動率W
20,W
10を調べ、従来手法の許容負荷変動率W
20,W
10と比較する。許容負荷変動率の表記方法は基本条件における解析結果の表記方法と同様である。これらの結果を基本条件における解析結果と比べると劣ることがわかる。しかし、従来手法の許容負荷変動率W
e20=1.58,W
e10=5.02と比較すると、どの解析結果も従来手法よりも優れている。このように整流回路Aは基本条件からずれていてもよい。
【0045】
図9に示す回路において、励振電圧波形が矩形波であるという近似の下で、整流回路Aの理論解析を行う。解析は以下のような流れで行われる。
1. 伝送線路の時間領域での振る舞いを定式化
2. 各ダイオードのON/OFFに対応した回路方程式を導出
3. ダイオードのON/OFFを組み合わせ、考えうる動作モードを列挙
4. 動作モードごとに解析を行い、回路方程式を解く
5. 動作モードの切り替わる条件と入力インピーダンスを導出
前記4.のモードごとの解析では、まず伝送線路に関する電流、電圧を先に解く必要がある。回路全体の振る舞いは、その後インダクタの端子間電圧に対してvoltage-second balance (VSB) を適応することで得られる。
【0046】
<矩形波近似による解析>
本発明に係る整流回路Aを解析する。解析する対象は電源に並列に装荷されるインダクタの電圧V
L1、電流i
L1と負荷に直列に装荷されるインダクタの電圧V
L2、電流i
L2、および伝送線路の1次側(電源側)の電圧v
1、電流i
1、と2次側(負荷側)の電圧v
2、電流i
2である。これを
図9に示す。
【0047】
理論解析をするにあたり、
図1および
図9の回路で厄介なのは、非線形素子と分布定数素子の両方を含んでいるところである。分布定数素子を含まない一般的な整流回路であれば、従来のような時間領域での解析でうまく振る舞いが記述できる。ところが、分布定数素子が入ることで途端に時間領域の解析が難しくなり、提案回路の振る舞いは周波数領域、時間領域のどちらにおいてもうまく記述できず、“厳密”な理論解析はほとんど不可能のように思われる。であれば、多少荒っぽい近似でも良いから、何らかの形で回路の近似的な振る舞いだけでもわからないだろうか。このような考えから、今回の矩形波励振というアイデアが生まれた。名前の通り、この解析法では本来正弦波である整流回路への入力信号を、矩形波に置き換えて解析を行う。この解析を通してわかるよう、矩形波と1/4波長線路の時間領域での振る舞いはとても相性が良い。
【0048】
解析は以下のような流れで行われる。
(1)伝送線路の時間領域での振る舞いを定式化
(2)ダイオードのON/OFFに対応した回路方程式を導出
(3)考えうる導通モード(ON/OFFの組み合わせ)を列挙
(4)導通モードごとに解析を行い、回路方程式を解く
(5)導通モードの発生条件と入力インピーダンスを導出
前記(4)のモードごとの解析では、まず伝送線路に関する電流・電圧を先に解く必要がある。回路全体の振る舞いは、その後インダクタの端子間電圧に対してvoltage-secound balance(VSB) を適応することで得られる。
【0049】
その他、解析を簡単にするために以下の条件を仮定する。
(A)ダイオードの特性は理想である(0VでON、OFFし、導通損失やリーク電流などがない)。
(B)インダクタの誘導量は、インダクタ電流が一定とみなせる程度に大きい。
(C)伝送線路は無損失かつ無歪み(非分散)である。
【0050】
<伝送線路の時間領域での振る舞い>
伝送線路のFパラメータを考える。伝送線路のFパラメータは、
【0051】
【数5】
に示される通り、電圧と電流の遅れによって表される。ここでωは電源の角周波数、δtは遅延時間、Zc=1/Ycは特性インピーダンスである。簡単のため、以下では基本波の周波数を1Hzとする。Fourier変換の平行移動に関する性質を用いれば、ある関数g(t)のδt進みとδt遅れの和のFourier変換をg(t)と余弦関数の積
【0052】
【数6】
【0053】
【数7】
として書ける。ここでg(t)=V
2(t)と置き、数5を用いることで、ある時刻tにおける一次側の電圧と電流を二次側の電圧のδt進みとδt遅れの和を用いて書ける。
【0054】
【数8】
【0055】
【数9】
ここで小文字のv
n,i
nはそれぞれV
n,I
nの逆Fourier変換である。特にδt=1/4 secの場合は、ある時刻tから1/4位相進みと1/4位相遅れの和
【0056】
【数10】
【0057】
【数11】
となる。
【0058】
上記の電圧、電流について、tの一周期を4等分し、4つの区間
【0059】
【数12】
に分けて考える。もし励振電圧が矩形波ならば、回路中の電圧、電流はすべて、各区間内において一定の値をとる。そこで各区間内での電流、電圧を区間番号nを用いて
【0060】
【数13】
のように表現することにする。例えば励振電圧v
S(t)は、矩形波の振幅をVとすれば
【0061】
【数14】
と表される。この表記によれば、数10、数11に示す伝送線路の振る舞いは
【0062】
【数15】
【0063】
【数16】
と簡潔に記述できる。さらに行列を用いれば、奇数区間の電圧、電流は偶数区間の電圧、電流を用いて
【0064】
【数17】
と表すことができ、偶数区間の電圧、電流は奇数区間の電圧、電流を用いて
【0065】
【数18】
と表すことができる。ここで注目すべきなのは、伝送線路の電圧・電流の関係が、互いに独立した2組の式で表される点である。例えば、数17はnが奇数がときのポート1側の状態が、nが偶数のときのポート2側の状態で決まり、nが奇数のときの状態には影響しないことを示している。この性質によって整流回路の解析を劇的に簡単化できる。回路は大きく伝送線路の電源側と負荷側に分かれる。このそれぞれに回路について、電源側はnが奇数のときのみ、負荷側についてはnが偶数のときのみ考えれば良いのである。残りの時間での回路の振る舞いは、数17と数18の行列が全く同じ形をしているのだから、すでに求まっている回路の振る舞いを時間方向に+1/4 secだけシフトすれば求めることができる。
【0066】
<電源側/負荷側の回路方程式>
前節で述べたよう、回路の方程式は伝送線路の電源側と負荷側に分かれ、それぞれ独立に式を立ててよい。立てられた式を結びつけるのは、数17の役目である。
【0067】
まず電源側について考える。ダイオードの整流作用により常にi
1が常に0以上である。また、i
1=(v
0−v
L1)/R
s+I
L1 が言えるから、1周期にわたって積分することでインダクタの電流I
L1が0以上であることが分かる。以下ではダイオードの状態ごとに式を立ててゆく。
【0068】
a)電源側のダイオードがONのとき
立式の際に注意すべきは、伝送線路の電圧、電流に関する式中にインダクタ電圧v
L1を含めないことである。最初に述べたよう、v
L1を求めるのは各モードごとに、数15、数16を解いてv1,i1を求めた後になる。その前の段階で式中に v
L1が含まれていると、式を解く上で都合が悪い。逆にインダクタ電流i
L1は、積極的に立式に用いた方が後々の計算が簡単になる。
【0069】
電源側ダイオードがONであるため1次側電圧v
1が電源の入力電圧、インダクタの電圧は1次側電圧と等しい。まとめると回路方程式は
【0070】
【数19】
となる。回路方程式中の・・・はまだ決まらないことを表す。これは、一次側の電流が、前記回路方程式の時間上の状態や負荷側の回路に依存し、まだ決まらないためである。同様に、本発明に係る回路方程式で用いる・・・は他の回路の影響により決まるため、未定なものを表すことにする。
【0071】
b)電源側のダイオードがOFFのとき
この時の一次側の電圧が未定で、電流は0になる。インダクタに流れる電流は電源に流れる電流と等しい。まとめると回路方程式は
【0072】
【数20】
となる。
【0073】
続いて負荷側について考える。電源側と同様、ダイオードの
整流作用により常にv
2が常に0以上である。また、v
2+v
L2=R
l I
L2が言えるから、周期積分によりインダクタ電流I
L2が0以上である。
【0074】
c)負荷側ダイオードがONのとき
伝送線路の2次側電圧v
2が0になる。伝送線路の2次側の電流i
2が未定でインダクタにかかる電圧は負荷抵抗R
Lにかかる電圧と等しい。まとめると回路方程式は
【0075】
【数21】
となる。
【0076】
d)負荷側ダイオードがOFFのとき
伝送線路の2次側の電圧がv
2が未定で、電流i
2がインダクタの電流I
L2に等しい。インダクタにかかる電圧は負荷抵抗にかかる電圧と2次側の電圧の差と等しい。これらをまとめると回路方程式は
【0077】
【数22】
となる。
【0078】
<導通モード>
上の式を見てわかるよう、ダイオードの状態によって伝送線路に関する電圧、電流は決まったり、決まらなかったりする。
【0079】
しかし、ダイオード1つの状態を決めることにより、それらのうちのどれか1つが必ず決まる。数18の自由度は4であるから、ダイオードの状態を4つ指定すれば、数18を解いてv
1,i
1,v
2,i
2の全てを決めることができる。このダイオードの状態のセットを、導通モードと呼ぶことにする。
【0080】
すでに述べたように、我々が注目すべきなのはt∈T
1,T
3のときの電源側回路の動作、そしてt∈T
2,T
4のときの負荷側回路の動作である。そこで、これらの状態におけるダイオードのON/OFFを抜き出して、モードを区別する記号として用いる。例えば、“ON,OFF,OFF,ON”というモードは先頭から順番に
(1)t∈T
1に電源側のダイオードD
1がON
(2)t∈T
2に負荷側のダイオードD
2がOFF
(3)t∈T
3に電源側のダイオードD
1がOFF
(4)t∈T
4に負荷側のダイオードD
2がON
となることを表す。
【0081】
ONあるいはOFFを4つ選ぶのであるから、考えうるモードというのは全部で16種類あるように思われる。しかし、以下に示すような明らかに無意味なモード7つは取り扱う必要がない:
【0082】
a)電源側のダイオードD
1が常にOFF
・OFF, OFF, OFF, OFF
・OFF, OFF, OFF, ON
・OFF, ON, OFF, OFF
・OFF, ON, OFF, ON
【0083】
b)負荷側のダイオードD
2が常にON
・ON, ON, ON, ON
・ON, ON, OFF, ON
・OFF, ON, ON, ON
・(OFF, ON, OFF, ON)
ただし、括弧つきのモードは重複を表す。加えて、ON,OFF,ON,OFFについてはダイオードが動作していないので整流動作は期待できない。
【0084】
残ったモードは以下に示す8つである。
・ON, ON, OFF, OFF
・ON, OFF, OFF, ON
・ON, OFF, OFF, OFF
・ON, ON, OFF, OFF,
・OFF, ON, ON, OFF
・OFF, OFF, ON, ON
・OFF, OFF, ON, OFF
・ON, OFF, ON, ON
しかし、実際に回路方程式を解いてみると、これらのモードの中にも実現不可能なものが含まれていることがわかる。
【0085】
前述した条件に合わないモードを除いてゆくと、実際に起こりそうなモードはON,OFF,OFF,OFFとON,OFF,OFF,ONの2つであることがわかる。動作の特徴からそれぞれに名前をつけ、ON,OFF,OFF,OFFをシングルシリーズモード、ON,OFF,OFF,ONを位相進みモードと呼ぶことにする。
【0086】
<シングルシリーズモード>
このモード(ON,OFF,OFF,OFF)では電源側のD
1のみがスイッチング動作をしており、シングルシリーズ整流回路のような動作になる。回路方程式は行列を用いて
【0087】
【数23】
となる。これを解くと、インダクタの電流I
L1、I
L2を用いて区間T
1,T
2,T
3,T
4の電圧v
1,v
2、電流i
1,i
2を
【0088】
【数24】
に表すように得られる。さらに、インダクタにかかる電圧も区間ごとに
【0089】
【数25】
と求まる。さらにこれらにVSBを適応することで、インダクタの定常電流
【0090】
【数26】
が求まる。これは負荷抵抗RLに現れる出力電流と等しい。これらの結果から、今回の解析の目的であった入力インピーダンスZ
inを求めると
【0091】
【数27】
となり、シングルシリーズモードにおける入力インピーダンスは負荷インピーダンスそのものとなることがわかる。
【0092】
<位相進みモード>
このモード(ON,OFF,OFF,ON)では負荷側のダイオードのスイッチングが、電源側のダイオードのスイッチングに比べて1/4 secだけ進んで起こるため、このように呼んでいる。回路方程式は行列を用いて
【0093】
【数28】
で表すことができる。これを解くと、インダクタの電流I
L1、I
L2を用いて区間T
1,T
2,T
3,T
4の電圧v
1,v
2、電流i
1,i
2
【0094】
【数29】
が得られる。さらにインダクタにかかる電圧
【0095】
【数30】
より、I
L1,I
L2を求めると、
【0096】
【数31】
となる。入力インピーダンスZ
inは
【0097】
【数32】
であり、こちらのモードでは入力インピーダンスが負荷インピーダンスに反比例する。これら2つのモードが切り替わる条件は、Z
inについての交点を求めることで得られ、
【0098】
【数33】
より、R
L=Zcとなる。
【0099】
数29を見ると、RL>Zcの場合、T
4において負荷側ダイオードD
2がOFFする状態が発生する。そのため位相進みモードにならない。まとめると、
図9の回路の入力インピーダンスZ
inは
【0100】
【数34】
となる。
【実施例2】
【0101】
本発明に係るK
4整流回路は、制御を必要とせず、素子数が少なく、直流負荷抵抗値変動に耐性を持つものである。以下に、まず、K
4整流回路の構成として回路図と素子の値が満たすべき条件を示す。次に回路シミュレータを用いて回路の特性を示す。最後に回路上のダイオードの電圧電流波形を観察しその動作を示す。
【0102】
<回路構成>
本発明の実施例2に係る高周波整流回路、すなわち、K
4整流回路は、ダイオード、コイル、コンデンサをそれぞれ二つずつ用いて構成される回路である。回路上の4点を
点A:RF成分のみを持つ点
点B:DC成分のみを持つ点
点C:RF成分とDC成分を両方もつ点
点D:RF成分とDC成分をどちらも持たない点
と呼び、K
4整流回路の構成を説明する。点AはRF電源と、点BはDC負荷と、点Dはグラウンドと接続する。点Aをアノードとし点BをカソードとするダイオードをD
1と呼ぶ。点Dをアノードとし点CをカソードとするダイオードをD
2と呼ぶ。点Aと点Dの間に接続するコイルをL
1、点Bと点Cの間に接続するコイルをL
2と呼ぶ。点Aと点Cの間に接続するコンデンサをC
1、点Bと点Dの間に接続するコンデンサをC
2と呼ぶ。K
4整流回路の回路図を
図2および
図10に示す。
図10では、
図2の回路にバンドパスフィルタが装荷されている。
【0103】
RF電源は電源インピーダンスZ
0、電源角周波数ω=2πfの正弦波を出力する。電源電圧振幅v
sは電源電力P
sと電源インピーダンスZ
0から次の数式によって与えられる。
【0104】
【数35】
DC負荷はDC負荷抵抗値Rとする。この負荷はDCモータや二次電池のような変動する負荷を想定している。したがって、DC負荷抵抗値Rは一定ではなく変動する。
【0105】
電源からRF整流回路を見たRF入力インピーダンスをz
in=r
in+jx
inとする。実部r
inをRF入力抵抗値、虚部x
inをRF入力リアクタンスと呼ぶ。
【0106】
素子の値が満たすべき条件は次の数式の通りである。
【0107】
【数36】
コンデンサC
2のリアクタンスはDC負荷抵抗値Rに対して十分に小さいものとする。コイルL
1とコイルL
2は等しいインダクタンスとする。コンデンサC
1はコイルL
1と電源角周波数で共振するキャパシタンスとする。このときコイルL
1,L
2とコンデンサC
1の値に自由度がある。この自由度を使うために素子リアクタンスXとおき、次の数式で定義する。
【0108】
【数37】
この回路は4つの点を「頂点」、6つの素子を「辺」と見るとグラフ理論における4頂点完全グラフK
4になる。そのため、この整流回路をK
4整流回路と名付ける。
【0109】
<特性>
図1の回路においてDC負荷抵抗値Rが変動した時に
(1)RF入力抵抗値r
in
(2)RF電圧反射係数Γ
(3)RF電力反射係数|Γ|
2
(4)RF-DC変換効率η
がどのように変化するかを回路シミュレータにより数値解析する。その結果を以下に述べる。回路シミュレータはAdvanced Design System(ADS) のHarmonic Balance法を用いる。数値解析の基本波周波数は10MHz、高調波の最大次数は10とする。
【0110】
<RF入力抵抗値>
DC負荷抵抗値Rが変動した時のRF入力抵抗値r
inを示す。ただし、素子リアクタンスXはX=10,100,1000の三種類を示す。数値解析結果を縦軸にRF入力抵抗値r
in、横軸にDC負荷抵抗値Rをとった両対数グラフにプロットし
図11に示す。
【0111】
DC負荷抵抗値Rが変動するとRF入力抵抗値r
inが山型になることがグラフから確認できる。また、この山の位置はDC負荷抵抗Rと素子リアクタンスXが等しくなるR=X点である。これは従来の回路ではDC負荷抵抗値とRF入力抵抗値が正比例して増加し続けるのに対して、本発明に係るK
4整流回路ではDC負荷抵抗値がある抵抗値R=Xを超えるとDC負荷抵抗値とRF入力抵抗値が反比例の関係になるためである。
【0112】
この山の周辺のDC負荷抵抗値の変動比とRF入力抵抗値の変動比を比較する。これはDC負荷抵抗値RをR
minからR
maxに変動させたときにどれだけRF入力抵抗値が変動するかを評価するものである。RF入力抵抗値の変動の最小値をr
inmin最大値をr
inmaxと置き、変動比ρ
R,ρ
rを次の数式に定義する。
【0113】
【数38】
この山の周辺でDC負荷抵抗値の変動比ρ
Rに対してRF入力抵抗値の変動比ρ
rが小さくなる。例えばX=100の結果では、DC負荷抵抗値Rを10Ωから1000Ωに変動させた時、RF入力抵抗値r
inの変動は13.2Ωから76.4Ωとなる。したがって、DC負荷抵抗値の変動比ρR=1000/10=100に対してRF入力抵抗値の変動比r=76.4/13.2=5.78が小さい。これは山型の特性によりDC負荷抵抗の変動に対してr
inmaxが小さくなったためである。
【0114】
<RF電圧反射係数>
電源インピーダンスがZ
0=50ΩのときのK
4整流回路のRF反射係数Γを示す。素子リアクタンスはX=100Ωとする。数値解析結果をスミスチャートにプロットし
図12に示す。電圧波形の軌跡に注目し
図13に拡大する。特にR=10,100,1000のときの反射係数を方形マーカーで表している。拡大図の破線円は電圧反射係数の大きさ|Γ|が0.25となる円である。
【0115】
DC負荷抵抗値が0.1Ωから増えるにしたがって、RF反射係数が左から右に単調に移動している。さらにスミスチャートの中心付近を通り越し進んでいき、DC抵抗値がR=100(=X)に到達すると折り返す。折り返した後はDC負荷抵抗値の増加に従って今度は左に単調に移動し、スミスチャートの中心付近を再び通り越して左端に戻る。この折り返しによってRF反射係数がDC負荷抵抗値の変動に対して2回スミスチャートの中心に近づくため、反射が小さい範囲が広くなる。
【0116】
<RF電力反射係数>
電源インピーダンスがZ
0=50ΩのときのK
4整流回路のRF電力反射係数|Γ|
2を示す。素子リアクタンスはX=100Ωとする。RF電力反射係数はRF入力電力とRF反射電力の比から求める。ただし、RF入力電力は正弦波であるため基本波成分のみであるが、RF反射電力はダイオードの非線形動作により高調波成分が含まれている。RF反射電力P
rの内、基本波成分をP
r1、2次高調波成分をP
r2、n次高調波成分をP
rnと表す(n=1,2,3,....)。RF入力電力P
sとRF反射電力P
rnを用いてRF電力反射係数を次の数式に定義する。
【0117】
【数39】
数値解析結果を縦軸にRF反射電力係数|Γ|
2、横軸にDC負荷抵抗値Rをとった片対数グラフにプロットした。結果を
図14に示す。3種の線は
実線基本波のRF反射電力の割合|Γ
1|
2
破線2次高調波のRF反射電力の割合|Γ
2|
2
点線3次高調波のRF反射電力の割合|Γ
3|
2
を表している。4次以降の高調波は非常に小さいため省略する。
【0118】
<基本波成分>
基本波のRF電力反射係数|Γ
1|
2が2点(R=50,250)において小さくなっていることがグラフからわかる。従来の回路ではこれが1点のみである。本発明に係るK
4整流回路はこの点の分RF反射電力が小さい範囲が広くなっている。
【0119】
<高調波成分>
次に高調波に注目する。R=50において基本波のRF反射電力の割合|Γ
1|
2が0.005であるが、2次高調波のRF反射電力の割合|Γ
2|
2は0.162となっている。また、R=250においても基本波|Γ
1|
2は0.005に対して2次高調波|Γ
2|
2は0.141である。このRF反射電力はそのままRF-DC変換効率の低下につながるため無視できない。
【0120】
そこで、この高調波の反射を抑えるためにK
4整流回路のRF入力側にLC直列共振によるBPF(Band Pass Filter:帯域通過フィルタ)を挿入した構成を提案する。さらにBPFに加えてインピーダンス調整用の並列Lpも接続した構成を
図10に示す。LC直列共振素子のリアクタンスは電源インピーダンスに比べて十分に大きいものとする。インピーダンス調整用の並列Lpはインピーダンスのズレに応じて値を決める。この時のRF電力反射係数|Γ|
2をBPFなしの時と同様に片対数グラフにプロットし
図15に示す。
【0121】
基本波の電力反射がBPFなしの時と同様に2度R=50とR=250において小さくなっていることがグラフからわかる。BPFなしのものと比べて基本波の電力反射がわずかに上昇しているが、高調波の反射はBPFの効果によりR=50のとき|Γ
2|
2=0.0003に、R=250のとき|Γ
2|
2=0.0005に抑制されている。高調波の反射はグラフでは読み取れない小ささである。
【0122】
K
4整流回路は単体で負荷抵抗の変動に対して反射が小さい範囲が広いことを示した。しかし、2次、3次高調波の反射が従来の整流回路と同様に発生する。これは整流効率の低下につながる。そこで、BPFを挿入すると高調波の反射が小さくなることを確認した。
【0123】
<RF-DC変換効率>
DC負荷抵抗Rが変動したときのK
4整流回路のRF-DC変換効率ηを示す。RF-DC変換効率はRF入力電力P
sとDC出力電力PDCの比から求める。DC出力電力PDCはDC出力電圧VDCとDC負荷抵抗値より算出する。
【0124】
BPFなしのものとBPFあり、BPFと調整コイルありの3種類で比較した。数値解析結果を縦軸にRF-DC変換効率、横軸にDC負荷抵抗をとった片対数グラフにプロットし、
図16に示す。BPFと調整コイルありの数値解析結果を実線、BPFありを破線、BPFなしを点線でプロットした。
【0125】
それぞれの状態の最大効率、変換効率が80%,90%を超えるDC負荷抵抗値の範囲を表2にまとめる。K
4整流回路のRF-DC変換効率が高い範囲がDC負荷抵抗の変動に対して広いことを確認した。
【0126】
【表2】
また、従来の整流回路と同様にBPFによって高調波反射が抑制され、RF-DC変換効率が向上する。調整コイルLpを入れると最大変換効率は低下するが、高効率な負荷範囲が広がる。
【0127】
<動作>
K
4整流回路の動作を調べるために
図11のRF入力抵抗値r
inの山に注目して、山の前(R<X)、山頂(R=X)、山の後(R>X)の状態の
(1)ダイオードD
1,D
2にかかる電圧波形
(2)ダイオードD
1,D
2に流れる電流波形
をそれぞれ数値解析する。電源インピーダンスは50Ω、RF電源電力は100W、素子リアクタンスはX=100Ωとする。解析条件は上記と同様である。
【0128】
山の前からR=10、山頂のR=100、山の後からR=1000を選んだ。解析結果を横軸に電源位相、縦軸の左にダイオードにかかる電圧V
D1,2、縦軸の右にダイオードに流れる電流I
D1,2をとり2周期分プロットする。電圧は実線で、電流は破線でプロットする。また、電流が正の区間をダイオードがON、電圧が負の区間をダイオードがOFFとして記している。プロットした電圧電流波形を
図17から
図22に示す。
【0129】
山の後を除く4つの図、
図17、
図18、
図20、
図21を見ると、D
1,D
2どちらもDC負荷抵抗値によってON区間とOFF区間の割合が変化していることがわかる。また、割合が変化してもその中心は変化しておらず、同じ周期でdutyのみが変化している。これらの条件ではD
1,D
2がどちらも動作している。
【0130】
山の後の
図19を見ると、ダイオードD
1にかかる電圧が常に負、流れる電流が常に0になっている。これはDC負荷抵抗値が大きくなり、RF入力電圧の瞬時値よりもDC出力電圧が常に高い状態になっているためと考えられる。DC負荷抵抗値が小さい状態ではDC出力電圧が小さいが、DC負荷抵抗値が大きい状態では同じDC出力電力でもDC出力電圧が大きくなる。同様に流れる電流が常に0である。したがって、山の後(R>X)においてダイオードD
1が常にOFFになる。このときダイオードD
2は、
図22の通り、変わらず動作している。
【0131】
これらの結果からK
4整流回路はDC負荷抵抗値Rと素子リアクタンス値Xの関係によって動作が自律的に切り替わっていることがわかる。R<=Xの状態ではD
1,D
2がともに動作するが、R>Xの状態ではD
1が常にOFFになりD
2のみで動作する。この自律動作切替が上述した負荷抵抗特性を実現している。
【実施例3】
【0132】
本発明の実施例3に係る高周波整流回路、すなわち、整流回路Aの双対回路(
図3)の素子値の基本条件を示し、基本条件における反射係数の大きさを回路シミュレータにより数値解析する。
【0133】
整流回路Aの双対回路(整流回路C)の基本条件は
【0134】
【数40】
である。ただし、角周波数をω=2πfとする。この条件にはZ
Cに自由度がある。
【0135】
整流回路Cの特性の例として、自由度をZ
C=62としたときの解析結果を
図23に示す。この条件では許容負荷変動率W
20は3.15、W
10は8.92である。
【0136】
このように整流回路Cは数値解析において優れた特性を示す。次に整流回路Aと同様に矩形波近似を用いて理論解析を行いその動作を明らかにする。
【0137】
整流回路Cは整流回路Aの解析と同様の手順で解析できる。違いは回路方程式と実現する動作モードの種類である。整流回路Aではシングルシャントモードと位相進みモードが実現したが、該整流回路Aの双対回路である整流回路Cでは、シングルシリーズモードと位相進みモードが実現する。
【0138】
<矩形波近似による解析>
整流回路Cを矩形波近似により解析する。解析する対象は電源に直列に装荷されるコンデンサの電圧V
C1、電流i
C1と負荷に並列に装荷されるコンデンサの電圧V
C2、電流i
C2、および伝送線路の1次側(電源側)の電圧v
1、電流i
1、と2次側(負荷側)の電圧v
2、電流i
2である。これを
図24に示す。
【0139】
理論解析をするにあたり、
図1および
図24の整流回路で厄介なのは、非線形素子と分布定数素子の両方を含んでいるところである。分布定数素子を含まない従来の整流回路であれば、従来のような時間領域での解析でうまく振る舞いが記述できる。ところが、分布定数素子が入ることで途端に時間領域の解析が難しくなり、本発明に係る整流回路Aの振る舞いは周波数領域、時間領域のどちらにおいてもうまく記述できず、“厳密”な理論解析はほとんど不可能のように思われる。であれば、多少荒っぽい近似でも良いから、何らかの形で回路の近似的な振る舞いだけでもわからないだろうか。このような考えから、今回の矩形波励振というアイデアが生まれた。名前の通り、この解析法では本来正弦波である整流回路への入力信号を、矩形波に置き換えて解析を行う。この解析を通してわかるよう、矩形波と1/4波長線路の時間領域での振る舞いはとても相性が良い。
【0140】
解析は以下のような流れで行われる。
(1)伝送線路の時間領域での振る舞いを定式化
(2)ダイオードのON/OFFに対応した回路方程式を導出
(3)考えうる導通モード(ON/OFFの組み合わせ)を列挙
(4)導通モードごとに解析を行い、回路方程式を解く
(5)導通モードの発生条件と入力インピーダンスを導出
前記(4)のモードごとの解析では、まず伝送線路に関する電流・電圧を先に解く必要がある。回路全体の振る舞いは、その後キャパシタに対してamp-second balance (ASB)を適応することで得られる。
【0141】
その他、解析を簡単にするために以下の条件を仮定する。
(A)ダイオードの特性は理想である(0VでON、OFFし、導通損失やリーク電流などがない)。
(B)キャパシタの容量は、端子間電圧が一定とみなせる程度に大きい。
(C)伝送線路は無損失かつ無歪み(非分散)である。
【0142】
<伝送線路の時間領域での振る舞い>
伝送線路のFパラメータを考える。伝送線路のFパラメータは、
【0143】
【数41】
に示される通り、電圧と電流の遅れによって表される。ここでωは電源の角周波数、δtは遅延時間、Zc=1/Ycは特性インピーダンスである。簡単のため、以下では基本波の周波数を1Hzとする。Fourier変換の平行移動に関する性質を用いれば、ある関数g(t)のδt進みとδt遅れの和のFourier変換をg(t)と余弦関数の積
【0144】
【数42】
【0145】
【数43】
として書ける。ここでg(t)=V
2(t)と起き、数41を用いることで、ある時刻tにおける一次側の電圧と電流を二次側の電圧のδt進みとδt遅れの和を用いて書ける。
【0146】
【数44】
【0147】
【数45】
ここで小文字のv
n,i
nはそれぞれV
n,I
nの逆Fourier変換である。特にδt=1/4 secの場合は、ある時刻tから1/4位相進みと1/4位相遅れの和
【0148】
【数46】
【0149】
【数47】
となる。
【0150】
上記の電圧、電流について、tの一周期を4等分し、4つの区間
【0151】
【数48】
に分けて考える。もし励振電圧が矩形波ならば、回路中の電圧、電流はすべて、各区間内において一定の値をとる。そこで各区間内での電流、電圧を区間番号nを用いて
【0152】
【数49】
のように表現することにする。例えば励振電圧v
S(t)は、矩形波の振幅をVとすれば
【0153】
【数50】
と表される。この表記によれば、数46、数47に示す伝送線路の振る舞いは
【0154】
【数51】
【0155】
【数52】
と簡潔に記述できる。さらに行列を用いれば、奇数区間の電圧、電流は偶数区間の電圧、電流を用いて
【0156】
【数53】
と表すことができ、偶数区間の電圧、電流は奇数区間の電圧、電流を用いて
【0157】
【数54】
と表すことができる。ここで注目すべきなのは、伝送線路の電圧・電流の関係が、互いに独立した2組の式で表される点である。例えば、数53はnが奇数がときのポート1側の状態が、nが偶数のときのポート2側の状態で決まり、nが奇数のときの状態には影響しないことを示している。この性質によって整流回路の解析を劇的に簡単化できる。回路は大きく伝送線路の電源側と負荷側に分かれる。このそれぞれに回路について、電源側はnが奇数のときのみ、負荷側についてはnが偶数のときのみ考えれば良いのである。残りの時間での回路の振る舞いは、数53および数54の行列が全く同じ形をしているのだから、すでに求まっている回路の振る舞いを時間方向に+1/4 secだけシフトすれば求めることができる。
【0158】
<電源側/負荷側の回路方程式>
上述したように、回路の方程式は伝送線路の電源側と負荷側に分かれ、それぞれ独立に式を立ててよい。立てられた式を結びつけるのは数54の役目である。
【0159】
まずは電源側について、ダイオードの整流作用によりv
1が常に0以上である。キャパシタにかかる電圧V
C1についてv
S+V
C1=v
1が言えるから、これを1周期にわたって積分することでv
1の直流成分V
C1が0である。以下ではダイオードの状態ごとに式を立ててゆく。
【0160】
a)電源側のダイオードがONのとき
立式の際に注意すべきは、伝送線路の電圧、電流に関する式中にキャパシタの電流i
C1を含めないことである。最初に述べたよう、i
C1を求めるのは各モードごとに数54を解いてv
1,i
1を求めた後になる。その前の段階で式中にi
C1が含まれていると、式を解く上で都合が悪い。逆にキャパシタの電圧V
C1は、積極的に立式に用いた方が後々の計算が簡単になる。
【0161】
電源側ダイオードがONであるため1次側電圧v
1が0、コンデンサの電流は電源電圧v
Sとコンデンサの電圧V
C1によって電源の内部抵抗RSに流れる電流と等しい。まとめると回路方程式は
【0162】
【数55】
となる。回路方程式中の・・・はまだ決まらないことを表す。これは、一次側の電流が、前記回路方程式の時間上の状態や負荷側の回路に依存し、まだ決まらないためである。同様に、本発明に係る回路方程式で用いる・・・は他の回路の影響により決まるため、記述上は未定なものを表すことにする。
【0163】
b)電源側のダイオードがOFFのとき
この時の一次側の電圧が未定で、電流は電源電圧とコンデンサの電圧の和と一次側電圧の差によって電源の内部抵抗R
Sに流れる電流と等しく、コンデンサに流れる電流は1次側電流と等しい。まとめると回路方程式は
【0164】
【数56】
となる。
【0165】
続いて負荷側について考える。電源側と同様、ダイオードの整流作用により常にi
2が常に0以上である。また、i
2+i
C2=V
C2/R
Lが言えるから、ASBによりコンデンサの電圧V
C2が0以上である。
【0166】
c)負荷側ダイオードがONのとき
伝送線路の2次側電圧v
2がコンデンサの電圧V
C2と等しく、伝送線路の2次側の電流i
2が未定でコンデンサに流れる電流はコンデンサの電圧V
C2によって負荷R
Lに 流れる電流と2次側の電流の差と等しい。まとめると回路方程式は
【0167】
【数57】
となる。
【0168】
d)負荷側ダイオードがOFFのとき
伝送線路の2次側の電圧がv
2が未定で、電流i
2が常に0、コンデンサに流れる電流i
C2はコンデンサの電圧V
C2によって負荷R
Lに 流れる電流と等しい。これらをまとめると回路方程式は
【0169】
【数58】
となる。
【0170】
<導通モード>
上の式を見てわかるよう、ダイオードの状態によって伝送線路に関する電圧、電流は決まったり、決まらなかったりする。
【0171】
しかし、ダイオード一つの状態を決めることにより、それらのうちのどれか一つが必ず決まる。数54の自由度は4であるから、ダイオードの状態を4つ指定すれば数54を解いてv
1,i
1,v
2,i
2の全てを決めることができる。このダイオードの状態のセットを、導通モードと呼ぶことにする。
【0172】
すでに述べたように、我々が注目すべきなのはt∈T
1,T
3のときの電源側回路の動作、そしてt∈T
2,T
4のときの負荷側回路の動作である。そこで、これらの状態におけるダイオードのON/OFFを抜き出して、モードを区別する記号として用いる。例えば、“ON,OFF,OFF,ON”というモードは先頭から順番に
(1)t∈T
1に電源側のダイオードD
1がON
(2)t∈T
2に負荷側のダイオードD
2がOFF
(3)t∈T
3に電源側のダイオードD
1がOFF
(4)t∈T
4に負荷側のダイオードD
2がON
となることを表す(
図25を参照)。
【0173】
ONあるいはOFFを4つ選ぶのであるから、考えうるモードというのは全部で16種類あるように思われる。しかし、以下に示すような明らかに無意味なモード7つは取り扱う必要がない。
【0174】
a)電源側のダイオードD
1が常にON
・ON,ON,ON,ON
・ON,ON,ON,OFF
・ON,OFF,ON,ON
・ON,OFF,ON,OFF
【0175】
b)負荷側のダイオードD
2が常にOFF
・OFF,OFF,OFF,OFF
・OFF,OFF,ON,OFF
・ON,OFF,OFF,OFF
・(ON,OFF,ON,OFF)
ただし、括弧つきのモードは重複を表す。加えて、OFF,ON,OFF,ONについてはダイオードが動作していないので整流動作は期待できない。
【0176】
残ったモードは以下に示す8つである。
・OFF,OFF,OFF,ON
・OFF,OFF,ON,ON
・OFF,ON,ON,OFF
・OFF,ON,ON,ON
・OFF,ON,OFF,OFF
・ON,OFF,OFF,ON
・ON,ON,OFF,OFF
・ON,ON,OFF,ON
しかし、実際に回路方程式を解いてみると、これらのモードの中にも実現不可能なものが含まれていることがわかる。
【0177】
条件に合わないモードを除いてゆくと、実際に起こりそうなモードはOFF,ON,ON,ONとOFF,ON,ON,OFFの二つであることがわかる。動作の特徴からそれぞれに名前をつけ、OFF,ON,ON,ONをシングルシャントモード、OFF,ON,ON,OFFを位相進みモードと呼ぶことにする。
【0178】
<シングルシャントモード>
このモード(OFF,ON,ON,ON)では電源側のD
1のみがスイッチング動作をしており、シングルシャント整流回路のような動作になる。回路方程式は行列を用いて
【0179】
【数59】
となる。これを解くと、コンデンサの電圧V
C1,V
C2を用いて区間T
1,T
2,T
3,T
4の電圧v
1,v
2、電流i
1,i
2をことで
【0180】
【数60】
に表すように得られる。さらに、コンデンサを流れる電流も区間ごとに
【0181】
【数61】
と求められ、これらにASBを適応することで、コンデンサの定常電圧
【0182】
【数62】
が求められる。これは負荷抵抗R
Lに現れる出力電圧と等しい。これらの結果から、今回の解析の目的であった入力インピーダンスZ
inを求めると
【0183】
【数63】
となり、シングルシャントモードにおける入力インピーダンスは負荷インピーダンスそのものとなることがわかる。
【0184】
<位相進みモード>
このモード(OFF,ON,ON,OFF)では負荷側のダイオードのスイッチングが、電源側のダイオードのスイッチングに比べて1/4 secだけ進んで起こるため、このように呼んでいる。回路方程式は行列を用いて
【0185】
【数64】
で表すことができる。これを解くと、コンデンサの電圧V
C1,V
C2を用いて区間T
1,T
2,T
3,T
4の電圧v
1,v
2、電流i
1,i
2を
【0186】
【数65】
が得られる。コンデンサを流れる電流
【0187】
【数66】
より、V
C1,V
C2を求めると、
【0188】
【数67】
となる。入力インピーダンスZ
inは
【0189】
【数68】
であり、こちらのモードでは入力インピーダンスが負荷インピーダンスに反比例する。これら二つのモードが切り替わる条件は、Z
inについての交点を求めることで得られ、
【0190】
【数69】
より、R
L=Z
cとなる。実際、数60を見てみると、R
L>Z
cの場合にはi
24が負になるため、ダイオードがOFFする状態が発生することになり、もはやシングルシャントモードにはならないことがわかる。まとめると、
図24の回路の入力インピーダンスZ
inは
【0191】
【数70】
となる。
【0192】
<シミュレーションとの比較>
矩形波近似による解析結果を検証するため、Keysight, Advanced Design System (ADS)による回路シミュレーションとの比較を行った。シミュレーションの結果は、矩形波ではなく正弦波で励振したときのものである。電源のインピーダンスを1Ω、線路の特性インピーダンスを5Ωとし、負荷インピーダンスを0.01〜1000Ωの範囲で変化させる。結果を
図26、27に示す。
図26、27はそれぞれ、入力インピーダンスと電力反射係数の二つの観点で同じデータを比較したものである。シミュレーションの結果については、入力インピーダンスZ
inとして基本波に対するインピーダンスを採用している。すなわち、入力端での電流、電圧波形をそれぞれV
in(t),I
in(t)とするとき、Z
inは
【0193】
【数71】
で与えられる。Z
inの虚部はかなり小さい(1nΩ以下)ため、グラフでは実部のみを示している。また、電力反射係数は電源のインピーダンスである1Ωに対する値
【0194】
【数72】
を示している。どちらのグラフについても、矩形波近似による解析結果は、回路の特性をよく反映しており、特に各モードの切り替わりが正確に予測できている。今回の解析により、回路設計を行う上で重要になる回路定数と入力インピーダンスとの関係を明らかにすることができたと言える。
【0195】
最後に、
図28は倍電流型のRCR(線路の特性インピーダンス0.2Ω)と倍電圧型のRCR(線路の特性インピーダンス5Ω)の、負荷抵抗値の変化に対する入力インピーダンスの振る舞いを比較したものである。倍電流型では、入力インンピーダンスが下に凸であるのに対し、倍電圧型では上に凸になっており、見事な双対性を示している。
【実施例4】
【0196】
前述の負荷変動圧縮性を持つ整流回路に加えて、本発明の実施例4に係る並列-並列型トポロジ(以下、単に「並列-並列型トポロジ」という。)を説明する。前記実施例3に係る並列-直列型トポロジの2次側だけを双対にした構成になっている。
【0197】
並列-並列型トポロジの回路図を
図29に示す。該並列-並列型トポロジは電源から直流電力成分を遮断する直列コンデンサC、並列ダイオードD
1、特性インピーダンスZ
Cのλ/4線路、並列ダイオードD
2、交流電力成分を遮断する直列インダクタLを接続した構成であり、次の基本条件を満たすものである。
【0198】
【数73】
【0199】
並列-並列型トポロジは「位相遅れモード」と「シングルシャント2モード」が負荷抵抗によって切り替わる。前記位相遅れモードでは、並列ダイオードD
2のスイッチングが並列ダイオードD
1のスイッチングに比べて1/4周期だけ遅れて起こる。さらに、前記シングルシャント2モードでは、並列ダイオードD
2のみがスイッチングをして、並列ダイオードD
1が常にOFFになる。
【0200】
前記二つの動作モードが切り替わると、負荷抵抗と入力インピーダンスの関係が比例と反比例で切り替わる。前記位相遅れモードでは、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に比例する。一方、前記シングルシャント2モードでは、シングルシャント整流回路の入力側にλ/4線路が追加された回路と等価であるため、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に反比例する。
【0201】
次に、前記負荷抵抗が変化した時、前記入力インピーダンスの変化を説明する。シミュレーションにより解析した結果を両対数グラフにプロットし、
図30に示す。並列-並列型トポロジにおいても、前記負荷抵抗がある値になると、グラフのプロットが折れ曲がる。該グラフのプロットが折れ曲がる特性を示す前記負荷抵抗は、λ/4線路の特性インピーダンスZ
Cと一致する。
【0202】
つまり、並列-並列型トポロジは、前記負荷抵抗及び前記特性インピーダンスの値の関係がR<Z
Cとなるときには、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に比例する前記位相遅れモードで動作し、前記グラフプロットの傾きが1となる。
【0203】
また、前記負荷抵抗の値が大きくなり、前記特性インピーダンスの値との関係がZ
C<Rとなるときには、並列ダイオードD
1が動作しなくなり、前記負荷抵抗に反比例する前記シングルシャント2モードで動作し、前記グラフプロットの傾きが-1となる。
【0204】
上述した解析結果より本発明の実施例4に係る並列-並列型トポロジの負荷変動圧縮率を示す。特性インピーダンスZ
C=100のときの並列-並列型トポロジにおいて、負荷抵抗の値が10≦R≦1000の範囲で変動する場合、入力インピーダンスの実部は13.3≦r
in≦87.3で変動する。負荷変動圧縮率を計算するとρ=ρ
r/ρ
R=6.56/100=0.0656となる。前述のように動作切替による前記入力インピーダンスの特性によって、その実部の最大値r
maxが小さくなり、負荷抵抗の変動が圧縮される。
【実施例5】
【0205】
前述の負荷変動圧縮性を持つ整流回路に加えて、本発明の実施例5に係る直列-直列型トポロジ(以下、単に「直列-直列型トポロジ」という。)を説明する。前記実施例1に係る直列-並列型トポロジの2次側だけを双対にした構成になっている。
【0206】
直列-直列型トポロジの回路図を
図31に示す。直列-直列型トポロジは、電源から直流電力成分を遮断する並列インダクタL、直列ダイオードD
1、特性インピーダンスZ
Cのλ/4線路、直列ダイオードD
2、交流電力成分を遮断する並列キャパシタンスCを接続した構成であり、次の基本条件を満たすものである。
【0207】
【数74】
【0208】
直列-直列型トポロジは「シングルシリーズ2モード」と「位相遅れモード」が負荷抵抗によって切り替わる。前記シングルシリーズ2モードでは、直列ダイオードD
2のみがスイッチングをして、直列ダイオードD
1が常にONになる。さらに、前記位相遅れモードではD
2のスイッチングが直列ダイオードD
1のスイッチングに比べて1/4周期だけ遅れて起こる。
【0209】
前記二つの動作モードが切り替わると、負荷抵抗と入力インピーダンスの関係が比例と反比例で切り替わる。前記シングルシリーズ2モードでは、シングルシリーズ整流回路の入力側にλ/4線路が追加された回路と等価であるため、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に反比例する。前記位相遅れモードでは、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に比例する。
【0210】
次に、前記負荷抵抗が変化した時、前記入力インピーダンスの変化を説明する。シミュレーションにより解析した結果を両対数グラフにプロットし、
図32に示す。直列-直列型トポロジにおいて、前記負荷抵抗がある値になると、グラフのプロットが折れ曲がる。該グラフのプロットが折れ曲がる特性を示す前記負荷抵抗は、λ/4線路の特性インピーダンスZ
Cと一致する。
【0211】
つまり、直列-直列型トポロジは、前記負荷抵抗及び前記特性インピーダンスの値の関係がR<Z
Cとなるときには前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に比例する前記シングルシリーズ2モードで動作し、前記グラフプロットの傾きが-1となる。
【0212】
また、前記負荷抵抗の値が大きくなり、前記特性インピーダンスの値との関係がZ
C<Rとなるときには、直列ダイオードD
1が動作するようになり、前記負荷抵抗に比例する前記位相遅れモードで動作し、前記グラフプロットの傾きが1となる。
【0213】
上述した解析結果より本発明の実施例5に係る直列-直列型トポロジの負荷変動圧縮率を示す。特性インピーダンスZ
C=100のときの直列-直列型トポロジにおいて、負荷抵抗の値が10≦R≦1000の範囲で変動する場合、入力インピーダンスの実部は115.9≦r
in≦727.8で変動する。負荷変動圧縮率を計算するとρ=ρ
r/ρ
R=6.27/100=0.0627となる。前述のように動作切替による前記入力インピーダンスの特性によって、その実部の最小値r
minが大きくなり、負荷抵抗の変動が圧縮される。