特許第6844770号(P6844770)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844770
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】高周波整流回路
(51)【国際特許分類】
   H02M 7/06 20060101AFI20210308BHJP
   H02J 50/12 20160101ALI20210308BHJP
【FI】
   H02M7/06 E
   H02J50/12
【請求項の数】5
【全頁数】43
(21)【出願番号】特願2016-237969(P2016-237969)
(22)【出願日】2016年12月7日
(65)【公開番号】特開2018-61414(P2018-61414A)
(43)【公開日】2018年4月12日
【審査請求日】2019年12月5日
(31)【優先権主張番号】特願2016-190456(P2016-190456)
(32)【優先日】2016年9月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】304027349
【氏名又は名称】国立大学法人豊橋技術科学大学
(72)【発明者】
【氏名】大平 孝
(72)【発明者】
【氏名】坂井 尚貴
(72)【発明者】
【氏名】山田 恭平
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 陽一朗
(72)【発明者】
【氏名】阿部 晋士
【審査官】 土井 悠生
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2015/097801(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2016/0248339(US,A1)
【文献】 特開2009−044933(JP,A)
【文献】 特開2006−345637(JP,A)
【文献】 特開2013−165389(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2011/0298296(US,A1)
【文献】 中国特許出願公開第104426393(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 7/00−7/40
H02J 50/00−50/90
H04B 1/18−1/24
H01P 1/20−1/219
H01P 7/00−7/10
H01Q 3/00−3/46
H01Q 21/00−25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子とグラウンドとの間に接続される少なくとも一つの第1のインダクタと、
前記入力端子にカソードを接続し前記グラウンドにアノードを接続し、かつ前記第1のインダクタに並列に接続された第1のダイオード素子と、
前記入力端子にアノードを接続し出力端子にカソードを接続する第2のダイオード素子と、
前記第2のダイオード素子のカソードに直列に接続された一つの伝送線路および一つの第2のインダクタとを備え、
前記第1のダイオード素子は、前記伝送線路と前記第2のインダクタとの間にカソードが接続されているものであり、
次の基本条件を満たすものであることを特徴とする高周波整流回路。
【数1】
【請求項2】
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子とグラウンドとの間に接続される少なくとも一つの第1のインダクタと、
前記入力端子にカソードを接続し前記グラウンドにアノードを接続し、かつ前記第1のインダクタに並列に接続された第1のダイオード素子と、
前記入力端子にアノードを接続し出力端子にカソードを接続する第2のダイオード素子と、
入力端子と出力端子の間に接続された第2のインダクタと、
二つのキャパシタとを備え、
前記二つのキャパシタの一方は、前記第2のインダクタよりも入力端子側において直列に接続され、他方は、前記第1のダイオード素子に並列に接続されるものであり、
前記第1のダイオード素子は、前記一方のキャパシタと前記第1のインダクタとの間にカソードが接続されるものであり、第2のダイオード素子は、前記一方のキャパシタおよび前記第2のインダクタに対して並列に接続されているものであり、
次の基本条件を満たすものであることを特徴とする高周波整流回路。
【数2】
【請求項3】
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子と出力端子との間に順次直列に接続される第1のキャパシタ、伝送線路および第1のダイオード素子と、
前記入力端子とグラウンドとの間に並列に接続される第2のダイオードおよび第2のキャパシタとを備え、
前記第1のダイオード素子は、アノードを入力側にカソードを出力側に接続されるものであり、
前記第2のダイオード素子は、アノードをグラウンド側にカソードを入力端子側に接続され、該カソードが前記第1のキャパシタと前記伝送線路の間に接続されており、
前記第2のキャパシタは、前記第1のダイオード素子のカソード側とグラウンドとの間に接続されるものであり、
次の基本条件を満たすものであることを特徴とする高周波整流回路。
【数3】
【請求項4】
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子と出力端子との間に順次直列に接続されるキャパシタ、伝送線路およびインダクタと、
前記入力端子とグラウンドとの間に並列に接続される第1のダイオード素子および第2のダイオード素子とを備え、
前記第1のダイオード素子は、アノードをグラウンド側にカソードを入力端子側に接続され、該カソードが前記キャパシタと前記伝送線路の間に接続されており、
前記第2のダイオード素子は、アノードをグラウンド側にカソードを入力端子側に接続され、該カソードが前記伝送線路と前記インダクタとの間に接続されているものであり、
次の基本条件を満たすものであることを特徴とする高周波整流回路。
【数4】
【請求項5】
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子と出力端子との間に順次直列に接続される第1のダイオード素子、伝送線路および第2のダイオード素子と、
前記入力端子とグラウンドとの間に並列に接続されるインダクタおよびキャパシタとを備え、
前記第1のダイオード素子は、アノードを入力端子側にカソードを前記伝送線路側に接続され、
前記第2のダイオード素子は、アノードを前記伝送線路側にカソードを出力端子側に接続されるものであり、
前記インダクタは、前記第1のダイオード素子のアノード側とグラウンドとの間に接続され、
前記キャパシタは、前記第2のダイオード素子のカソード側とグラウンドとの間に接続されているものであり、
次の基本条件を満たすものであることを特徴とする高周波整流回路。
【数5】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高周波電力を直流電力に変換する高周波整流回路に関する。特に、高周波電力を直流電力に変換する整流回路であって、負荷抵抗が変化しても変換効率を維持する高周波整流回路に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、高周波回路において基準インピーダンスからインピーダンスが変動すると、反射係数が増大し、電力の反射が起こる。電力反射が起こると、高周波電力が負荷で消費されず高周波電源に戻ってしまうため、電力反射分の電力が損失となり、すなわち電力の変換効率が低下する。
【0003】
例えば、無線電力伝送システムにおいて、モータや電池を直流負荷とするとき、従来の高周波整流回路では、その電力変換効率が低下する。ここで、無線電力伝送システムとは、直流電力を空気や水、ゴム、アスファルトといった絶縁体の先にある負荷に対して伝える電力伝送のことである。絶縁体は伝道電流が流れないため直流電力を通さないが、高周波であれば変移電流や電磁誘導、電波伝搬を介してエネルギーを伝えることができる。したがって、無線電力伝送システムは、直流を高周波に変換し、さらに該高周波を絶縁体を通して伝送し、該高周波を直流に戻すことで実現される。
【0004】
よく使われている高周波整流回路は、高周波入力インピーダンスと直流負荷の抵抗値が線形の関係にある。モータや電池はその状態によって抵抗値が変動するため、直流負荷の抵抗値が時間変動する。よって、前記直流負荷の抵抗値の時間変動により従来の高周波整流回路において、高周波入力インピーダンスも時間変動する。
【0005】
反射による電力の変換効率の低下を防ぐために、例えば、直流負荷の抵抗値を一定に制御する方法(例えば、非特許文献2を参照)が報告されている。直流負荷変動を解決する技術として、DC/DCコンバータ回路装荷整流回路が用いられる。整流回路と直流負荷の間にDC/DCコンバータ回路を装荷したものである。該DC/DCコンバータをインピーダンスレギュレータとして動作させることで負荷変動を抑え、該DC/DCコンバータ回路により、直流負荷の変動に対し入力インピーダンスは常に一定となる。従って、直流負荷の変動によらず、該整流回路の入力インピーダンスは一定となる。
【0006】
さらに、直流負荷変動を解決する技術として、高周波電源と整流回路の間にResistance Compression Networks (RCNs)を挿入したResistance Compression Networks挿入整流回路がある(例えば、特許文献1および非特許文献3を参照)。該RCNsにより直流抵抗を変化させたとき、入力インピーダンスの変化の範囲が直流抵抗の変化の範囲よりも圧縮され、小さくなるように構成されていることを特徴としている。また、同様に伝送線路を用いた同性能の技術Transmission Line Resistance Compression Networks (TLRCNs)が報告されている(例えば、特許文献2および非特許文献4を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】U.S. Patent No. 7,535,133
【特許文献2】U.S. Patent No. 8,830,709 B2
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献2】森脇悠介,他,“磁界共振結合を用いたワイヤレス電力伝送のDC/DCコンバータを用いた負荷変動時の反射電力抑制に関する検討”,平成23年電気学会産業応用部門大会講演論文集,no.2-10,pp.403-406,Sep. 2011.
【非特許文献3】Y. Han, O. Leitermann, D. A. Jackson, J. M. Rivas and D. J. Perreault, "Resistance Compression Networks for Radio-Frequency Power Conversion," in IEEE Transactions on Power Electronics, vol. 22, no. 1, pp. 41-53, Jan. 2007. (doi: 10.1109/TPEL.2006.886601)
【非特許文献4】T. W. Barton, J. M. Gordonson and D. J. Perreault, "Transmission Line Resistance Compression Networks and Applications to Wireless Power Transfer," in IEEE Journal of Emerging and Selected Topics in Power Electronics, vol. 3, no. 1, pp. 252-260, March 2015. (doi:10.1109/JESTPE.2014.2319056)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記DC/DCコンバータ回路装荷整流回路の技術は、半導体素子を含むDC/DCコンバータ回路が必要であり、DC/DCコンバータ回路による電力損失や応答速度に課題がある。この問題を解決するためには制御回路なしで高周波入力インピーダンスの変動を抑える必要がある。
【0010】
一方、上記RCNsおよびTLRCNsの技術は、同じ入力インピーダンスを持つ独立した整流回路が少なくとも二つ必要であり、その他にもRCNsを構成する回路素子が必要となる。そのため構成要素の多さによる作成精度や回路規模の増大が問題となる。また、伝送線路を用いた同様の回路も提案されているが問題は変わらない。
【0011】
本発明は、上述したような従来技術の課題を鑑みてなされたものであり、直流負荷抵抗値が変動しても制御なしで反射が小さい整流回路を開示する。本発明に係る整流回路は直流負荷抵抗に対して自律的に動作を切り替えることができる。この切り替えにスイッチや制御回路は不要であることを特徴としている。一般に、整流回路の動作を切り替えると高周波入力インピーダンスの直流負荷抵抗特性に山もしくは谷ができることが知られており、前記山もしくは谷の頂点の周りでは直流負荷抵抗の変動に対して高周波入力インピーダンスの変動が小さくなることを利用して、反射損失が小さい直流負荷抵抗の範囲を拡大することにより、自律的に整流回路の動作を切り替える。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明係る第1の高周波整流回路は、
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子とグラウンドとの間に接続される少なくとも一つの第1のインダクタと、
前記入力端子にカソードを接続し前記グラウンドにアノードを接続し、かつ前記第1のインダクタに並列に接続された第1のダイオード素子と、
前記入力端子にアノードを接続し出力端子にカソードを接続する第2のダイオード素子と、
一つの伝送線路、一つの第2のインダクタおよび二つのキャパシタの中から二種類を組み合わせて接続してなる
ことを特徴とする。
【0013】
本発明係る第2の高周波整流回路は、請求項1に記載の高周波整流回路であって、
一つの伝送線路、一つの第2のインダクタおよび二つのキャパシタの中から組み合わされる二種類は、一つの伝送線路および一つの第2のインダクタであり、該伝送線路および該第2のインダクタは、前記第2のダイオード素子のカソードに直列に接続され、前記第1のダイオード素子は、前記伝送線路と前記第2のインダクタとの間にカソードが接続されているものであり、次の基本条件を満たすものであることを特徴とする。
【0014】
【数1】
【0015】
本発明係る第3の高周波整流回路は、請求項1に記載の高周波整流回路であって、
一つの伝送線路、一つの第2のインダクタおよび二つのキャパシタの中から組み合わされる二種類は、二つのキャパシタおよび一つの第2のインダクタであり、第2のインダクタは、入力端子と出力端子の間に接続され、前記キャパシタの一方は、前記第2のインダクタよりも入力端子側において直列に接続され、他方は、前記第1のダイオード素子に並列に接続されるものであり、前記第1のダイオード素子は、前記一方のキャパシタと前記第1のインダクタとの間にカソードが接続されるものであり、第2のダイオード素子は、前記一方のキャパシタおよび前記第2のインダクタに対して並列に接続されているものであり、次の基本条件を満たすものであることを特徴とする。
【0016】
【数2】
【0017】
本発明係る第4の高周波整流回路は、
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子と出力端子との間に順次直列に接続される第1のキャパシタ、伝送線路および第1のダイオード素子と、
前記入力端子とグラウンドとの間に並列に接続される第2のダイオードおよび第2のキャパシタとを備え、
前記第1のダイオード素子は、アノードを入力側にカソードを出力側に接続されるものであり、
前記第2のダイオード素子は、アノードをグラウンド側にカソードを入力端子側に接続され、該カソードが前記第1のキャパシタと前記伝送線路の間に接続されており、
前記第2のキャパシタは、前記第1のダイオード素子のカソード側とグラウンドとの間に接続されるものであり、
次の基本条件を満たすものであることを特徴とする。
【0018】
【数3】
【0019】
本発明係る第5の高周波整流回路は、
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子と出力端子との間に順次直列に接続されるキャパシタ、伝送線路およびインダクタと、
前記入力端子とグラウンドとの間に並列に接続される第1のダイオード素子および第2のダイオード素子とを備え、
前記第1のダイオード素子は、アノードをグラウンド側にカソードを入力端子側に接続され、該カソードが前記キャパシタと前記伝送線路の間に接続されており、
前記第2のダイオード素子は、アノードをグラウンド側にカソードを入力端子側に接続され、該カソードが前記伝送線路と前記インダクタとの間に接続されているものであり、
次の基本条件を満たすものであることを特徴とする。
【0020】
【数4】
【0021】
本発明係る第6の高周波整流回路は、
高周波電源から直流負荷に対し高周波電力を供給するための高周波整流回路であって、
入力端子と出力端子との間に順次直列に接続される第1のダイオード素子、伝送線路および第2のダイオード素子と、
前記入力端子とグラウンドとの間に並列に接続されるインダクタおよびキャパシタとを備え、
前記第1のダイオード素子は、アノードを入力端子側にカソードを前記伝送線路側に接続され、
前記第2のダイオード素子は、アノードを前記伝送線路側にカソードを出力端子側に接続されるものであり、
前記インダクタは、前記第1のダイオード素子のアノード側とグラウンドとの間に接続され、
前記キャパシタは、前記第2のダイオード素子のカソード側とグラウンドとの間に接続されているものであり、
次の基本条件を満たすものであることを特徴とする。
【0022】
【数5】
【発明の効果】
【0023】
本発明に係る高周波整流回路により、負荷抵抗が最適な値から変化しても整流回路の入力インピーダンスの変化が小さく、高い変換効率が実現できる。また、本発明に係る高周波整流回路は、制御器を必要とせず簡素な構成が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る第二の高周波整流回路の模式図である。
図2】本発明に係る第三の高周波整流回路の模式図である。
図3】本発明に係る第四の高周波整流回路の模式図である。
図4】本発明の実施例1に係る高周波整流回路の入力反射係数の数値解析結果(l=λ/4,ZC=10)を示すグラフである。
図5】本発明の実施例1に係る高周波整流回路の入力反射係数の数値解析結果(l=λ/4,ZC=20)を示すグラフである。
図6】本発明の実施例1に係る高周波整流回路の入力反射係数の数値解析結果(l=λ/4,ZC=30)を示すグラフである。
図7】本発明の実施例1に係る高周波整流回路の入力反射係数の数値解析結果(l=λ/4,ZC=40)を示すグラフである。
図8】本発明の実施例1に係る高周波整流回路の入力反射係数の数値解析結果(l=λ/4,ZC=50)を示すグラフである。
図9】解析に用いた本発明の実施例1に係る高周波整流回路の構成を示す模式図である。
図10】解析に用いた本発明の実施例2に係る高周波整流回路の構成を示す模式図である。
図11】本発明の実施例2に係る高周波整流回路の高周波入力インピーダンスのグラフである。
図12】本発明の実施例2に係る高周波整流回路の電圧反射係数を示すスミスチャートである。
図13】本発明の実施例2に係る高周波整流回路の電圧反射係数を示すスミスチャートの拡大図である。
図14】本発明の実施例2に係る高周波整流回路の電力反射係数のグラフである(バンドパスフィルタなし)。
図15】本発明の実施例2に係る高周波整流回路の電力反射係数のグラフである(バンドパスフィルタあり)。
図16】本発明の実施例2に係る高周波整流回路における高周波−直流電力変換効率の負荷特性を示すグラフである。
図17】本発明の実施例2に係る高周波整流回路におけるダイオード素子の電圧電流波形を示すグラフである。
図18】本発明の実施例2に係る高周波整流回路におけるダイオード素子の電圧電流波形を示すグラフである。
図19】本発明の実施例2に係る高周波整流回路におけるダイオード素子の電圧電流波形を示すグラフである。
図20】本発明の実施例2に係る高周波整流回路におけるダイオード素子の電圧電流波形を示すグラフである。
図21】本発明の実施例2に係る高周波整流回路におけるダイオード素子の電圧電流波形を示すグラフである。
図22】本発明の実施例2に係る高周波整流回路におけるダイオード素子の電圧電流波形を示すグラフである。
図23】本発明の実施例3に係る高周波整流回路の入力反射係数の数値解析を示す模式図である。
図24】解析に用いた本発明の実施例3に係る高周波整流回路の構成を示す模式図である。
図25】本発明の実施例3に係る高周波整流回路の導通モードのタイミングチャートの模式図である。
図26】本発明の実施例3に係る高周波整流回路に対する回路シミュレーションによる入力インピーダンスのグラフである。
図27】本発明の実施例3に係る高周波整流回路に対する回路シミュレーションによる電力反射係数のグラフである。
図28】本発明の実施例3に係る倍電圧型および倍電流型高周波整流回路の入力インピーダンスの振る舞いを示すグラフである。
図29】本発明の実施例4に係る高周波整流回路の構成を示す模式図である。
図30】本発明の実施例4に係る高周波整流回路に対する回路シミュレーションによる入力インピーダンスのグラフである。
図31】本発明の実施例5に係る高周波整流回路の構成を示す模式図である。
図32】本発明の実施例5に係る高周波整流回路に対する回路シミュレーションによる入力インピーダンスのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明について、適宜、図を用いて説明する。なお、高周波をRF、直流をDCと記すことがある。
【0026】
本発明に係る負荷変動圧縮性を有する整流回路(以下、resistance compression rectifier : RCRということがある。)として、倍電圧整流器をベースとした本発明に係る整流回路の構成を示し、さらに、該整流回路の双対回路も示す。また、本発明係る整流回路の動作解析を行い、その結果を示す。本発明に係る整流回路に対する動作解析は矩形波近似による。該整流回路の動作を説明するとともに、回路定数と入力インピーダンスの関係を示す。これにより、本発明に係る整流回路が、二つの導通モード、例えば、シングルシャントモードおよび位相進みモードを持つことがわかる。つまり、本発明に係る整流回路の動作においては、負荷インピーダンスの変動により前記二つの導通モードが切り替わることで、負荷変動の圧縮が実現されることが示される。
【0027】
本発明の実施形態としては、入力端子から出力端子までの間に接続される一つのインダクタと二つのダイオードを有する回路を基本構成とし、さらに、一つの伝送路線、もう一つのインダクタおよび二つのキャパシタを組み合わせて追加することによって構成されるものである。具体的には、基本構成に含まれる一つのインダクタは、入力端子とグラウンドとの間に接続され、一方のダイオード(第1のダイオード)は上記インダクタに並列に設けられ、他方のダイオード(第2のダイオード)は入力端子と出力端子との間に接続される。このとき、第1のダイオードは、アノードをグランド側に接続されるものであり、第2のダイオードは、アノードを入力端子側に接続されるものである。上記のような基本構成に対して、伝送線路、インダクタおよびキャパシタを追加して接続することにより、本発明に係る整流回路全体が構成されるものであり、その接続位置および数等によって回路特性が変化するため、上記の基本構成中の適宜位置において適宜な素子が追加的に接続されるものである。
【0028】
本発明に係る第2の整流回路(以下、整流回路Aという。)は、図1に示す回路から成る。該整流回路Aは倍電流整流回路を基本構成とし、一つの1/4波長線路を装荷したものである。
【0029】
次に、本発明に係る第3の整流回路として、直流負荷抵抗値の変動に対しても安定かつ高効率であるK整流回路(以下、整流回路Bということがある。)を示す。ここで、Kとは、グラフ理論の4頂点完全グラフから名付け、以下の説明に用いる。図2に示すように、整流回路Bはダイオード、コイル、コンデンサをそれぞれ二つずつという少ない素子数で構成される。さらに直流負荷抵抗値が広い範囲に変動しても制御なしで高効率に整流できる。まず、整流回路Bの構成を示し、次に、直流負荷抵抗が変動したとき、該整流回路Bの高周波入力抵抗値、高周波電力反射係数、高周波―直流変換効率の変化を解析し、その解析結果から、直流負荷抵抗値が変動しても、高い高周波―直流変換効率を実現できることを示す。
【0030】
最後に、前記整流回路Aの双対回路として、本発明に係る第4の整流回路(以下、整流回路Cという。)を図3に示す。前記整流回路Aと同様に、矩形波近似による解析から、整流回路Cの動作は、二つの導通モード、すなわち、シングルシャントモードおよび位相進みモードを持ち、負荷インピーダンスの変動により導通モードが切り替わることで、負荷変動の圧縮を実現できることを示す。
【0031】
<整流回路の評価指標>
整流回路の直流負荷変動耐性の評価指標について説明する。整流回路の直流負荷抵抗が最適な値から変動すると反射損失が発生する。直流負荷抵抗が変動しても反射損失が小さい整流回路が好ましい。そこで反射係数の基準を定め、それよりも反射係数が小さい直流負荷の範囲の広さによって整流回路を評価する。
【0032】
具体的には、ある基準インピーダンスZ0に対して反射係数Γ=20log10|Γ|がある基準反射係数−GdB以下(Γ≦−G)となる直流負荷抵抗の範囲[Rmin,Rmax]の最小値Rminと最大値Rmaxの比を整流回路の許容負荷変動率W=Rmax/Rminと呼び、これが大きい整流回路ほど負荷変動耐性が強い整流回路、と評価する。例えば、前記基準反射係数−10dB以下となる前記許容負荷変動率W10と表記する。また、従来の整流回路の許容負荷変動率は、We10と表記して区別する。
【0033】
許容負荷変動率を抵抗値の差ではなく比によって定義した理由は無損失線形回路によるインピーダンス変換において不変にするためである。これは基準インピーダンスZ0が変わっても同様の性能が得られることを意味する。
【実施例1】
【0034】
<回路構成>
本発明の実施例1に係る高周波整流回路の回路図を図1に示す。この回路は二つのインダクタL1,L2、二つのダイオードD1,D2、一つの伝送線路(長さl、特性インピーダンスZC)によって構成される。負荷抵抗Rを変動させたときの入力インピーダンスZinの変動が従来手法の整流回路と比べて小さいことが特徴である。
【0035】
<基本条件とその回路特性>
整流回路Aの素子値の基本条件を示し、基本条件における反射係数の大きさを回路シミュレータにより数値解析する。
【0036】
整流回路Aの基本条件は
【0037】
【数4】
である。ただし、角周波数をω=2πf、波長をλ=c/fとする。cは光速である。この条件にはZCに自由度がある。
【0038】
上記の基本条件に従い回路の素子値を設定し、基準インピーダンスZ0=50Ωにおける直流負荷抵抗Rを0.1Ωから1000Ωまで変化させた時の反射係数Γを、回路シミュレータを用いて数値解析した。自由度ZCは10から50までの範囲で解析した。電源周波数はf=1GHz、波長はλ〜0.03mとする。この基本条件における回路の素子値と解析結果図の関係を表1にまとめる。図4はA図5はA図6はA図7はA図8はAの解析結果である。
【0039】
【表1】
両対数グラフの横軸を直流負荷抵抗R、縦軸を反射係数Γとし、整流回路Aの反射係数の解析結果を濃い黒色の三角形でプロットし、従来のシングシャント整流回路の反射係数の解析結果を白抜きの四角形で、従来の倍電流整流回路の反射係数の解析結果を薄い黒色の円形でプロットした。それぞれのプロットは平滑線で結線している。基準インピーダンスZ0が50Ωのときの整流回路Aの許容負荷変動率W20,W10を調べ、従来手法の許容負荷変動率We20,We10と比較する。解析結果が基準反射係数−20dBもしくは基準反射係数−10dBを下回る範囲を白抜きの矢印で示している。矢印の下に許容負荷変動率の計算式と計算結果を記している。ただし、数値は有効桁3桁までを表記し、4桁目は切り捨てている。この両対数グラフ上の矢印の大きさが許容負荷変動率を示しており、その長さで直観的に比較が可能である。特に許容負荷変動率が大きいものを従来手法の許容負荷変動率We20=1.58,We10=5.02と比較する。
【0040】
自由度をZC=30に設定した整流回路A3では基準反射係数−20dBを下回る負荷抵抗の範囲が12.5Ωから39.8Ωの範囲であるため、許容負荷変動率はW20=39.8/12.5=3.18である。したがって、整流回路A4は従来手法と比べて許容負荷変動率W20が2.01倍である。
【0041】
また、自由度をZC=20に設定した整流回路A2では基準反射係数−10dBを下回る負荷抵抗の範囲が2.81Ωから70.7Ωの範囲であるため、許容負荷変動率はW10=70.7/2.81=25.1である。したがって、整流回路A2は従来手法と比べて許容負荷変動率W10が5.00倍である。
【0042】
以上のように整流回路Aは従来回路と比べて大きな許容負荷変動率を示し、優れた負荷変動耐性を持つ。基本条件の自由度Xを調整することで所望の反射係数を満たす大きな許容負荷変動率を得られる。また、基本条件からずれてもよい。
【0043】
<基本条件からずれたときの回路特性>
整流回路Aの素子値が基本条件からずれた場合(l≠λ/4)の解析結果を示す。特に優れた許容負荷変動率W20を持つ整流回路A3の伝送線路の長さlがλ/4からずれた場合の解析結果を示す。解析結果の表記方法は基本条件における解析結果の表記方法と同様である。
【0044】
基準インピーダンスZ0が50Ωのときの基本条件からずれた整流回路Aの許容負荷変動率W20,W10を調べ、従来手法の許容負荷変動率W20,W10と比較する。許容負荷変動率の表記方法は基本条件における解析結果の表記方法と同様である。これらの結果を基本条件における解析結果と比べると劣ることがわかる。しかし、従来手法の許容負荷変動率We20=1.58,We10=5.02と比較すると、どの解析結果も従来手法よりも優れている。このように整流回路Aは基本条件からずれていてもよい。
【0045】
図9に示す回路において、励振電圧波形が矩形波であるという近似の下で、整流回路Aの理論解析を行う。解析は以下のような流れで行われる。
1. 伝送線路の時間領域での振る舞いを定式化
2. 各ダイオードのON/OFFに対応した回路方程式を導出
3. ダイオードのON/OFFを組み合わせ、考えうる動作モードを列挙
4. 動作モードごとに解析を行い、回路方程式を解く
5. 動作モードの切り替わる条件と入力インピーダンスを導出
前記4.のモードごとの解析では、まず伝送線路に関する電流、電圧を先に解く必要がある。回路全体の振る舞いは、その後インダクタの端子間電圧に対してvoltage-second balance (VSB) を適応することで得られる。
【0046】
<矩形波近似による解析>
本発明に係る整流回路Aを解析する。解析する対象は電源に並列に装荷されるインダクタの電圧VL1、電流iL1と負荷に直列に装荷されるインダクタの電圧VL2、電流iL2、および伝送線路の1次側(電源側)の電圧v1、電流i1、と2次側(負荷側)の電圧v2、電流i2である。これを図9に示す。
【0047】
理論解析をするにあたり、図1および図9の回路で厄介なのは、非線形素子と分布定数素子の両方を含んでいるところである。分布定数素子を含まない一般的な整流回路であれば、従来のような時間領域での解析でうまく振る舞いが記述できる。ところが、分布定数素子が入ることで途端に時間領域の解析が難しくなり、提案回路の振る舞いは周波数領域、時間領域のどちらにおいてもうまく記述できず、“厳密”な理論解析はほとんど不可能のように思われる。であれば、多少荒っぽい近似でも良いから、何らかの形で回路の近似的な振る舞いだけでもわからないだろうか。このような考えから、今回の矩形波励振というアイデアが生まれた。名前の通り、この解析法では本来正弦波である整流回路への入力信号を、矩形波に置き換えて解析を行う。この解析を通してわかるよう、矩形波と1/4波長線路の時間領域での振る舞いはとても相性が良い。
【0048】
解析は以下のような流れで行われる。
(1)伝送線路の時間領域での振る舞いを定式化
(2)ダイオードのON/OFFに対応した回路方程式を導出
(3)考えうる導通モード(ON/OFFの組み合わせ)を列挙
(4)導通モードごとに解析を行い、回路方程式を解く
(5)導通モードの発生条件と入力インピーダンスを導出
前記(4)のモードごとの解析では、まず伝送線路に関する電流・電圧を先に解く必要がある。回路全体の振る舞いは、その後インダクタの端子間電圧に対してvoltage-secound balance(VSB) を適応することで得られる。
【0049】
その他、解析を簡単にするために以下の条件を仮定する。
(A)ダイオードの特性は理想である(0VでON、OFFし、導通損失やリーク電流などがない)。
(B)インダクタの誘導量は、インダクタ電流が一定とみなせる程度に大きい。
(C)伝送線路は無損失かつ無歪み(非分散)である。
【0050】
<伝送線路の時間領域での振る舞い>
伝送線路のFパラメータを考える。伝送線路のFパラメータは、
【0051】
【数5】
に示される通り、電圧と電流の遅れによって表される。ここでωは電源の角周波数、δtは遅延時間、Zc=1/Ycは特性インピーダンスである。簡単のため、以下では基本波の周波数を1Hzとする。Fourier変換の平行移動に関する性質を用いれば、ある関数g(t)のδt進みとδt遅れの和のFourier変換をg(t)と余弦関数の積
【0052】
【数6】
【0053】
【数7】
として書ける。ここでg(t)=V2(t)と置き、数5を用いることで、ある時刻tにおける一次側の電圧と電流を二次側の電圧のδt進みとδt遅れの和を用いて書ける。
【0054】
【数8】
【0055】
【数9】
ここで小文字のvn,inはそれぞれVn,Inの逆Fourier変換である。特にδt=1/4 secの場合は、ある時刻tから1/4位相進みと1/4位相遅れの和
【0056】
【数10】
【0057】
【数11】
となる。
【0058】
上記の電圧、電流について、tの一周期を4等分し、4つの区間
【0059】
【数12】
に分けて考える。もし励振電圧が矩形波ならば、回路中の電圧、電流はすべて、各区間内において一定の値をとる。そこで各区間内での電流、電圧を区間番号nを用いて
【0060】
【数13】
のように表現することにする。例えば励振電圧vS(t)は、矩形波の振幅をVとすれば
【0061】
【数14】
と表される。この表記によれば、数10、数11に示す伝送線路の振る舞いは
【0062】
【数15】
【0063】
【数16】
と簡潔に記述できる。さらに行列を用いれば、奇数区間の電圧、電流は偶数区間の電圧、電流を用いて
【0064】
【数17】
と表すことができ、偶数区間の電圧、電流は奇数区間の電圧、電流を用いて
【0065】
【数18】
と表すことができる。ここで注目すべきなのは、伝送線路の電圧・電流の関係が、互いに独立した2組の式で表される点である。例えば、数17はnが奇数がときのポート1側の状態が、nが偶数のときのポート2側の状態で決まり、nが奇数のときの状態には影響しないことを示している。この性質によって整流回路の解析を劇的に簡単化できる。回路は大きく伝送線路の電源側と負荷側に分かれる。このそれぞれに回路について、電源側はnが奇数のときのみ、負荷側についてはnが偶数のときのみ考えれば良いのである。残りの時間での回路の振る舞いは、数17と数18の行列が全く同じ形をしているのだから、すでに求まっている回路の振る舞いを時間方向に+1/4 secだけシフトすれば求めることができる。
【0066】
<電源側/負荷側の回路方程式>
前節で述べたよう、回路の方程式は伝送線路の電源側と負荷側に分かれ、それぞれ独立に式を立ててよい。立てられた式を結びつけるのは、数17の役目である。
【0067】
まず電源側について考える。ダイオードの整流作用により常にiが常に0以上である。また、i1=(v0−vL1)/Rs+IL1 が言えるから、1周期にわたって積分することでインダクタの電流IL1が0以上であることが分かる。以下ではダイオードの状態ごとに式を立ててゆく。
【0068】
a)電源側のダイオードがONのとき
立式の際に注意すべきは、伝送線路の電圧、電流に関する式中にインダクタ電圧vL1を含めないことである。最初に述べたよう、vL1を求めるのは各モードごとに、数15、数16を解いてv1,i1を求めた後になる。その前の段階で式中に vL1が含まれていると、式を解く上で都合が悪い。逆にインダクタ電流iL1は、積極的に立式に用いた方が後々の計算が簡単になる。
【0069】
電源側ダイオードがONであるため1次側電圧v1が電源の入力電圧、インダクタの電圧は1次側電圧と等しい。まとめると回路方程式は
【0070】
【数19】
となる。回路方程式中の・・・はまだ決まらないことを表す。これは、一次側の電流が、前記回路方程式の時間上の状態や負荷側の回路に依存し、まだ決まらないためである。同様に、本発明に係る回路方程式で用いる・・・は他の回路の影響により決まるため、未定なものを表すことにする。
【0071】
b)電源側のダイオードがOFFのとき
この時の一次側の電圧が未定で、電流は0になる。インダクタに流れる電流は電源に流れる電流と等しい。まとめると回路方程式は
【0072】
【数20】
となる。
【0073】
続いて負荷側について考える。電源側と同様、ダイオードの
整流作用により常にv2が常に0以上である。また、v2+vL2=Rl IL2が言えるから、周期積分によりインダクタ電流IL2が0以上である。
【0074】
c)負荷側ダイオードがONのとき
伝送線路の2次側電圧v2が0になる。伝送線路の2次側の電流i2が未定でインダクタにかかる電圧は負荷抵抗RLにかかる電圧と等しい。まとめると回路方程式は
【0075】
【数21】
となる。
【0076】
d)負荷側ダイオードがOFFのとき
伝送線路の2次側の電圧がv2が未定で、電流i2がインダクタの電流IL2に等しい。インダクタにかかる電圧は負荷抵抗にかかる電圧と2次側の電圧の差と等しい。これらをまとめると回路方程式は
【0077】
【数22】
となる。
【0078】
<導通モード>
上の式を見てわかるよう、ダイオードの状態によって伝送線路に関する電圧、電流は決まったり、決まらなかったりする。
【0079】
しかし、ダイオード1つの状態を決めることにより、それらのうちのどれか1つが必ず決まる。数18の自由度は4であるから、ダイオードの状態を4つ指定すれば、数18を解いてv1,i1,v2,i2の全てを決めることができる。このダイオードの状態のセットを、導通モードと呼ぶことにする。
【0080】
すでに述べたように、我々が注目すべきなのはt∈T1,T3のときの電源側回路の動作、そしてt∈T2,T4のときの負荷側回路の動作である。そこで、これらの状態におけるダイオードのON/OFFを抜き出して、モードを区別する記号として用いる。例えば、“ON,OFF,OFF,ON”というモードは先頭から順番に
(1)t∈T1に電源側のダイオードD1がON
(2)t∈T2に負荷側のダイオードD2がOFF
(3)t∈T3に電源側のダイオードD1がOFF
(4)t∈T4に負荷側のダイオードD2がON
となることを表す。
【0081】
ONあるいはOFFを4つ選ぶのであるから、考えうるモードというのは全部で16種類あるように思われる。しかし、以下に示すような明らかに無意味なモード7つは取り扱う必要がない:
【0082】
a)電源側のダイオードD1が常にOFF
・OFF, OFF, OFF, OFF
・OFF, OFF, OFF, ON
・OFF, ON, OFF, OFF
・OFF, ON, OFF, ON
【0083】
b)負荷側のダイオードD2が常にON
・ON, ON, ON, ON
・ON, ON, OFF, ON
・OFF, ON, ON, ON
・(OFF, ON, OFF, ON)
ただし、括弧つきのモードは重複を表す。加えて、ON,OFF,ON,OFFについてはダイオードが動作していないので整流動作は期待できない。
【0084】
残ったモードは以下に示す8つである。
・ON, ON, OFF, OFF
・ON, OFF, OFF, ON
・ON, OFF, OFF, OFF
・ON, ON, OFF, OFF,
・OFF, ON, ON, OFF
・OFF, OFF, ON, ON
・OFF, OFF, ON, OFF
・ON, OFF, ON, ON
しかし、実際に回路方程式を解いてみると、これらのモードの中にも実現不可能なものが含まれていることがわかる。
【0085】
前述した条件に合わないモードを除いてゆくと、実際に起こりそうなモードはON,OFF,OFF,OFFとON,OFF,OFF,ONの2つであることがわかる。動作の特徴からそれぞれに名前をつけ、ON,OFF,OFF,OFFをシングルシリーズモード、ON,OFF,OFF,ONを位相進みモードと呼ぶことにする。
【0086】
<シングルシリーズモード>
このモード(ON,OFF,OFF,OFF)では電源側のD1のみがスイッチング動作をしており、シングルシリーズ整流回路のような動作になる。回路方程式は行列を用いて
【0087】
【数23】
となる。これを解くと、インダクタの電流IL1、IL2を用いて区間T1,T2,T3,T4の電圧v1,v2、電流i1,i2
【0088】
【数24】
に表すように得られる。さらに、インダクタにかかる電圧も区間ごとに
【0089】
【数25】
と求まる。さらにこれらにVSBを適応することで、インダクタの定常電流
【0090】
【数26】
が求まる。これは負荷抵抗RLに現れる出力電流と等しい。これらの結果から、今回の解析の目的であった入力インピーダンスZinを求めると
【0091】
【数27】
となり、シングルシリーズモードにおける入力インピーダンスは負荷インピーダンスそのものとなることがわかる。
【0092】
<位相進みモード>
このモード(ON,OFF,OFF,ON)では負荷側のダイオードのスイッチングが、電源側のダイオードのスイッチングに比べて1/4 secだけ進んで起こるため、このように呼んでいる。回路方程式は行列を用いて
【0093】
【数28】
で表すことができる。これを解くと、インダクタの電流IL1、IL2を用いて区間T1,T2,T3,T4の電圧v1,v2、電流i1,i2
【0094】
【数29】
が得られる。さらにインダクタにかかる電圧
【0095】
【数30】
より、IL1,IL2を求めると、
【0096】
【数31】
となる。入力インピーダンスZin
【0097】
【数32】
であり、こちらのモードでは入力インピーダンスが負荷インピーダンスに反比例する。これら2つのモードが切り替わる条件は、Zinについての交点を求めることで得られ、
【0098】
【数33】
より、RL=Zcとなる。
【0099】
数29を見ると、RL>Zcの場合、T4において負荷側ダイオードDがOFFする状態が発生する。そのため位相進みモードにならない。まとめると、図9の回路の入力インピーダンスZin
【0100】
【数34】
となる。
【実施例2】
【0101】
本発明に係るK整流回路は、制御を必要とせず、素子数が少なく、直流負荷抵抗値変動に耐性を持つものである。以下に、まず、K整流回路の構成として回路図と素子の値が満たすべき条件を示す。次に回路シミュレータを用いて回路の特性を示す。最後に回路上のダイオードの電圧電流波形を観察しその動作を示す。
【0102】
<回路構成>
本発明の実施例2に係る高周波整流回路、すなわち、K整流回路は、ダイオード、コイル、コンデンサをそれぞれ二つずつ用いて構成される回路である。回路上の4点を
点A:RF成分のみを持つ点
点B:DC成分のみを持つ点
点C:RF成分とDC成分を両方もつ点
点D:RF成分とDC成分をどちらも持たない点
と呼び、K整流回路の構成を説明する。点AはRF電源と、点BはDC負荷と、点Dはグラウンドと接続する。点Aをアノードとし点BをカソードとするダイオードをD1と呼ぶ。点Dをアノードとし点CをカソードとするダイオードをD2と呼ぶ。点Aと点Dの間に接続するコイルをL1、点Bと点Cの間に接続するコイルをL2と呼ぶ。点Aと点Cの間に接続するコンデンサをC1、点Bと点Dの間に接続するコンデンサをC2と呼ぶ。K整流回路の回路図を図2および図10に示す。図10では、図2の回路にバンドパスフィルタが装荷されている。
【0103】
RF電源は電源インピーダンスZ0、電源角周波数ω=2πfの正弦波を出力する。電源電圧振幅vsは電源電力Psと電源インピーダンスZ0から次の数式によって与えられる。
【0104】
【数35】
DC負荷はDC負荷抵抗値Rとする。この負荷はDCモータや二次電池のような変動する負荷を想定している。したがって、DC負荷抵抗値Rは一定ではなく変動する。
【0105】
電源からRF整流回路を見たRF入力インピーダンスをzin=rin+jxinとする。実部rinをRF入力抵抗値、虚部xinをRF入力リアクタンスと呼ぶ。
【0106】
素子の値が満たすべき条件は次の数式の通りである。
【0107】
【数36】
コンデンサC2のリアクタンスはDC負荷抵抗値Rに対して十分に小さいものとする。コイルL1とコイルL2は等しいインダクタンスとする。コンデンサC1はコイルL1と電源角周波数で共振するキャパシタンスとする。このときコイルL1,L2とコンデンサC1の値に自由度がある。この自由度を使うために素子リアクタンスXとおき、次の数式で定義する。
【0108】
【数37】
この回路は4つの点を「頂点」、6つの素子を「辺」と見るとグラフ理論における4頂点完全グラフKになる。そのため、この整流回路をK整流回路と名付ける。
【0109】
<特性>
図1の回路においてDC負荷抵抗値Rが変動した時に
(1)RF入力抵抗値rin
(2)RF電圧反射係数Γ
(3)RF電力反射係数|Γ|
(4)RF-DC変換効率η
がどのように変化するかを回路シミュレータにより数値解析する。その結果を以下に述べる。回路シミュレータはAdvanced Design System(ADS) のHarmonic Balance法を用いる。数値解析の基本波周波数は10MHz、高調波の最大次数は10とする。
【0110】
<RF入力抵抗値>
DC負荷抵抗値Rが変動した時のRF入力抵抗値rinを示す。ただし、素子リアクタンスXはX=10,100,1000の三種類を示す。数値解析結果を縦軸にRF入力抵抗値rin、横軸にDC負荷抵抗値Rをとった両対数グラフにプロットし図11に示す。
【0111】
DC負荷抵抗値Rが変動するとRF入力抵抗値rinが山型になることがグラフから確認できる。また、この山の位置はDC負荷抵抗Rと素子リアクタンスXが等しくなるR=X点である。これは従来の回路ではDC負荷抵抗値とRF入力抵抗値が正比例して増加し続けるのに対して、本発明に係るK整流回路ではDC負荷抵抗値がある抵抗値R=Xを超えるとDC負荷抵抗値とRF入力抵抗値が反比例の関係になるためである。
【0112】
この山の周辺のDC負荷抵抗値の変動比とRF入力抵抗値の変動比を比較する。これはDC負荷抵抗値RをRminからRmaxに変動させたときにどれだけRF入力抵抗値が変動するかを評価するものである。RF入力抵抗値の変動の最小値をrinmin最大値をrinmaxと置き、変動比ρRを次の数式に定義する。
【0113】
【数38】
この山の周辺でDC負荷抵抗値の変動比ρRに対してRF入力抵抗値の変動比ρrが小さくなる。例えばX=100の結果では、DC負荷抵抗値Rを10Ωから1000Ωに変動させた時、RF入力抵抗値rinの変動は13.2Ωから76.4Ωとなる。したがって、DC負荷抵抗値の変動比ρR=1000/10=100に対してRF入力抵抗値の変動比r=76.4/13.2=5.78が小さい。これは山型の特性によりDC負荷抵抗の変動に対してrinmaxが小さくなったためである。
【0114】
<RF電圧反射係数>
電源インピーダンスがZ0=50ΩのときのK整流回路のRF反射係数Γを示す。素子リアクタンスはX=100Ωとする。数値解析結果をスミスチャートにプロットし図12に示す。電圧波形の軌跡に注目し図13に拡大する。特にR=10,100,1000のときの反射係数を方形マーカーで表している。拡大図の破線円は電圧反射係数の大きさ|Γ|が0.25となる円である。
【0115】
DC負荷抵抗値が0.1Ωから増えるにしたがって、RF反射係数が左から右に単調に移動している。さらにスミスチャートの中心付近を通り越し進んでいき、DC抵抗値がR=100(=X)に到達すると折り返す。折り返した後はDC負荷抵抗値の増加に従って今度は左に単調に移動し、スミスチャートの中心付近を再び通り越して左端に戻る。この折り返しによってRF反射係数がDC負荷抵抗値の変動に対して2回スミスチャートの中心に近づくため、反射が小さい範囲が広くなる。
【0116】
<RF電力反射係数>
電源インピーダンスがZ0=50ΩのときのK整流回路のRF電力反射係数|Γ|を示す。素子リアクタンスはX=100Ωとする。RF電力反射係数はRF入力電力とRF反射電力の比から求める。ただし、RF入力電力は正弦波であるため基本波成分のみであるが、RF反射電力はダイオードの非線形動作により高調波成分が含まれている。RF反射電力Prの内、基本波成分をPr1、2次高調波成分をPr2、n次高調波成分をPrnと表す(n=1,2,3,....)。RF入力電力PsとRF反射電力Prnを用いてRF電力反射係数を次の数式に定義する。
【0117】
【数39】
数値解析結果を縦軸にRF反射電力係数|Γ|、横軸にDC負荷抵抗値Rをとった片対数グラフにプロットした。結果を図14に示す。3種の線は
実線基本波のRF反射電力の割合|Γ
破線2次高調波のRF反射電力の割合|Γ
点線3次高調波のRF反射電力の割合|Γ
を表している。4次以降の高調波は非常に小さいため省略する。
【0118】
<基本波成分>
基本波のRF電力反射係数|Γが2点(R=50,250)において小さくなっていることがグラフからわかる。従来の回路ではこれが1点のみである。本発明に係るK整流回路はこの点の分RF反射電力が小さい範囲が広くなっている。
【0119】
<高調波成分>
次に高調波に注目する。R=50において基本波のRF反射電力の割合|Γが0.005であるが、2次高調波のRF反射電力の割合|Γは0.162となっている。また、R=250においても基本波|Γは0.005に対して2次高調波|Γは0.141である。このRF反射電力はそのままRF-DC変換効率の低下につながるため無視できない。
【0120】
そこで、この高調波の反射を抑えるためにK整流回路のRF入力側にLC直列共振によるBPF(Band Pass Filter:帯域通過フィルタ)を挿入した構成を提案する。さらにBPFに加えてインピーダンス調整用の並列Lpも接続した構成を図10に示す。LC直列共振素子のリアクタンスは電源インピーダンスに比べて十分に大きいものとする。インピーダンス調整用の並列Lpはインピーダンスのズレに応じて値を決める。この時のRF電力反射係数|Γ|2をBPFなしの時と同様に片対数グラフにプロットし図15に示す。
【0121】
基本波の電力反射がBPFなしの時と同様に2度R=50とR=250において小さくなっていることがグラフからわかる。BPFなしのものと比べて基本波の電力反射がわずかに上昇しているが、高調波の反射はBPFの効果によりR=50のとき|Γ=0.0003に、R=250のとき|Γ=0.0005に抑制されている。高調波の反射はグラフでは読み取れない小ささである。
【0122】
整流回路は単体で負荷抵抗の変動に対して反射が小さい範囲が広いことを示した。しかし、2次、3次高調波の反射が従来の整流回路と同様に発生する。これは整流効率の低下につながる。そこで、BPFを挿入すると高調波の反射が小さくなることを確認した。
【0123】
<RF-DC変換効率>
DC負荷抵抗Rが変動したときのK整流回路のRF-DC変換効率ηを示す。RF-DC変換効率はRF入力電力PsとDC出力電力PDCの比から求める。DC出力電力PDCはDC出力電圧VDCとDC負荷抵抗値より算出する。
【0124】
BPFなしのものとBPFあり、BPFと調整コイルありの3種類で比較した。数値解析結果を縦軸にRF-DC変換効率、横軸にDC負荷抵抗をとった片対数グラフにプロットし、図16に示す。BPFと調整コイルありの数値解析結果を実線、BPFありを破線、BPFなしを点線でプロットした。
【0125】
それぞれの状態の最大効率、変換効率が80%,90%を超えるDC負荷抵抗値の範囲を表2にまとめる。K整流回路のRF-DC変換効率が高い範囲がDC負荷抵抗の変動に対して広いことを確認した。
【0126】
【表2】
また、従来の整流回路と同様にBPFによって高調波反射が抑制され、RF-DC変換効率が向上する。調整コイルLpを入れると最大変換効率は低下するが、高効率な負荷範囲が広がる。
【0127】
<動作>
整流回路の動作を調べるために図11のRF入力抵抗値rinの山に注目して、山の前(R<X)、山頂(R=X)、山の後(R>X)の状態の
(1)ダイオードD1,D2にかかる電圧波形
(2)ダイオードD1,D2に流れる電流波形
をそれぞれ数値解析する。電源インピーダンスは50Ω、RF電源電力は100W、素子リアクタンスはX=100Ωとする。解析条件は上記と同様である。
【0128】
山の前からR=10、山頂のR=100、山の後からR=1000を選んだ。解析結果を横軸に電源位相、縦軸の左にダイオードにかかる電圧VD1,2、縦軸の右にダイオードに流れる電流ID1,2をとり2周期分プロットする。電圧は実線で、電流は破線でプロットする。また、電流が正の区間をダイオードがON、電圧が負の区間をダイオードがOFFとして記している。プロットした電圧電流波形を図17から図22に示す。
【0129】
山の後を除く4つの図、図17図18図20図21を見ると、D1,D2どちらもDC負荷抵抗値によってON区間とOFF区間の割合が変化していることがわかる。また、割合が変化してもその中心は変化しておらず、同じ周期でdutyのみが変化している。これらの条件ではD1,D2がどちらも動作している。
【0130】
山の後の図19を見ると、ダイオードD1にかかる電圧が常に負、流れる電流が常に0になっている。これはDC負荷抵抗値が大きくなり、RF入力電圧の瞬時値よりもDC出力電圧が常に高い状態になっているためと考えられる。DC負荷抵抗値が小さい状態ではDC出力電圧が小さいが、DC負荷抵抗値が大きい状態では同じDC出力電力でもDC出力電圧が大きくなる。同様に流れる電流が常に0である。したがって、山の後(R>X)においてダイオードD1が常にOFFになる。このときダイオードD2は、図22の通り、変わらず動作している。
【0131】
これらの結果からK整流回路はDC負荷抵抗値Rと素子リアクタンス値Xの関係によって動作が自律的に切り替わっていることがわかる。R<=Xの状態ではD1,D2がともに動作するが、R>Xの状態ではD1が常にOFFになりD2のみで動作する。この自律動作切替が上述した負荷抵抗特性を実現している。
【実施例3】
【0132】
本発明の実施例3に係る高周波整流回路、すなわち、整流回路Aの双対回路(図3)の素子値の基本条件を示し、基本条件における反射係数の大きさを回路シミュレータにより数値解析する。
【0133】
整流回路Aの双対回路(整流回路C)の基本条件は
【0134】
【数40】
である。ただし、角周波数をω=2πfとする。この条件にはZCに自由度がある。
【0135】
整流回路Cの特性の例として、自由度をZC=62としたときの解析結果を図23に示す。この条件では許容負荷変動率W20は3.15、W10は8.92である。
【0136】
このように整流回路Cは数値解析において優れた特性を示す。次に整流回路Aと同様に矩形波近似を用いて理論解析を行いその動作を明らかにする。
【0137】
整流回路Cは整流回路Aの解析と同様の手順で解析できる。違いは回路方程式と実現する動作モードの種類である。整流回路Aではシングルシャントモードと位相進みモードが実現したが、該整流回路Aの双対回路である整流回路Cでは、シングルシリーズモードと位相進みモードが実現する。
【0138】
<矩形波近似による解析>
整流回路Cを矩形波近似により解析する。解析する対象は電源に直列に装荷されるコンデンサの電圧VC1、電流iC1と負荷に並列に装荷されるコンデンサの電圧VC2、電流iC2、および伝送線路の1次側(電源側)の電圧v1、電流i1、と2次側(負荷側)の電圧v2、電流i2である。これを図24に示す。
【0139】
理論解析をするにあたり、図1および図24の整流回路で厄介なのは、非線形素子と分布定数素子の両方を含んでいるところである。分布定数素子を含まない従来の整流回路であれば、従来のような時間領域での解析でうまく振る舞いが記述できる。ところが、分布定数素子が入ることで途端に時間領域の解析が難しくなり、本発明に係る整流回路Aの振る舞いは周波数領域、時間領域のどちらにおいてもうまく記述できず、“厳密”な理論解析はほとんど不可能のように思われる。であれば、多少荒っぽい近似でも良いから、何らかの形で回路の近似的な振る舞いだけでもわからないだろうか。このような考えから、今回の矩形波励振というアイデアが生まれた。名前の通り、この解析法では本来正弦波である整流回路への入力信号を、矩形波に置き換えて解析を行う。この解析を通してわかるよう、矩形波と1/4波長線路の時間領域での振る舞いはとても相性が良い。
【0140】
解析は以下のような流れで行われる。
(1)伝送線路の時間領域での振る舞いを定式化
(2)ダイオードのON/OFFに対応した回路方程式を導出
(3)考えうる導通モード(ON/OFFの組み合わせ)を列挙
(4)導通モードごとに解析を行い、回路方程式を解く
(5)導通モードの発生条件と入力インピーダンスを導出
前記(4)のモードごとの解析では、まず伝送線路に関する電流・電圧を先に解く必要がある。回路全体の振る舞いは、その後キャパシタに対してamp-second balance (ASB)を適応することで得られる。
【0141】
その他、解析を簡単にするために以下の条件を仮定する。
(A)ダイオードの特性は理想である(0VでON、OFFし、導通損失やリーク電流などがない)。
(B)キャパシタの容量は、端子間電圧が一定とみなせる程度に大きい。
(C)伝送線路は無損失かつ無歪み(非分散)である。
【0142】
<伝送線路の時間領域での振る舞い>
伝送線路のFパラメータを考える。伝送線路のFパラメータは、
【0143】
【数41】
に示される通り、電圧と電流の遅れによって表される。ここでωは電源の角周波数、δtは遅延時間、Zc=1/Ycは特性インピーダンスである。簡単のため、以下では基本波の周波数を1Hzとする。Fourier変換の平行移動に関する性質を用いれば、ある関数g(t)のδt進みとδt遅れの和のFourier変換をg(t)と余弦関数の積
【0144】
【数42】
【0145】
【数43】
として書ける。ここでg(t)=V2(t)と起き、数41を用いることで、ある時刻tにおける一次側の電圧と電流を二次側の電圧のδt進みとδt遅れの和を用いて書ける。
【0146】
【数44】
【0147】
【数45】
ここで小文字のvn,inはそれぞれVn,Inの逆Fourier変換である。特にδt=1/4 secの場合は、ある時刻tから1/4位相進みと1/4位相遅れの和
【0148】
【数46】
【0149】
【数47】
となる。
【0150】
上記の電圧、電流について、tの一周期を4等分し、4つの区間
【0151】
【数48】
に分けて考える。もし励振電圧が矩形波ならば、回路中の電圧、電流はすべて、各区間内において一定の値をとる。そこで各区間内での電流、電圧を区間番号nを用いて
【0152】
【数49】
のように表現することにする。例えば励振電圧vS(t)は、矩形波の振幅をVとすれば
【0153】
【数50】
と表される。この表記によれば、数46、数47に示す伝送線路の振る舞いは
【0154】
【数51】
【0155】
【数52】
と簡潔に記述できる。さらに行列を用いれば、奇数区間の電圧、電流は偶数区間の電圧、電流を用いて
【0156】
【数53】
と表すことができ、偶数区間の電圧、電流は奇数区間の電圧、電流を用いて
【0157】
【数54】
と表すことができる。ここで注目すべきなのは、伝送線路の電圧・電流の関係が、互いに独立した2組の式で表される点である。例えば、数53はnが奇数がときのポート1側の状態が、nが偶数のときのポート2側の状態で決まり、nが奇数のときの状態には影響しないことを示している。この性質によって整流回路の解析を劇的に簡単化できる。回路は大きく伝送線路の電源側と負荷側に分かれる。このそれぞれに回路について、電源側はnが奇数のときのみ、負荷側についてはnが偶数のときのみ考えれば良いのである。残りの時間での回路の振る舞いは、数53および数54の行列が全く同じ形をしているのだから、すでに求まっている回路の振る舞いを時間方向に+1/4 secだけシフトすれば求めることができる。
【0158】
<電源側/負荷側の回路方程式>
上述したように、回路の方程式は伝送線路の電源側と負荷側に分かれ、それぞれ独立に式を立ててよい。立てられた式を結びつけるのは数54の役目である。
【0159】
まずは電源側について、ダイオードの整流作用によりv1が常に0以上である。キャパシタにかかる電圧VC1についてvS+VC1=v1が言えるから、これを1周期にわたって積分することでv1の直流成分VC1が0である。以下ではダイオードの状態ごとに式を立ててゆく。
【0160】
a)電源側のダイオードがONのとき
立式の際に注意すべきは、伝送線路の電圧、電流に関する式中にキャパシタの電流iC1を含めないことである。最初に述べたよう、iC1を求めるのは各モードごとに数54を解いてv1,i1を求めた後になる。その前の段階で式中にiC1が含まれていると、式を解く上で都合が悪い。逆にキャパシタの電圧VC1は、積極的に立式に用いた方が後々の計算が簡単になる。
【0161】
電源側ダイオードがONであるため1次側電圧v1が0、コンデンサの電流は電源電圧vSとコンデンサの電圧VC1によって電源の内部抵抗RSに流れる電流と等しい。まとめると回路方程式は
【0162】
【数55】
となる。回路方程式中の・・・はまだ決まらないことを表す。これは、一次側の電流が、前記回路方程式の時間上の状態や負荷側の回路に依存し、まだ決まらないためである。同様に、本発明に係る回路方程式で用いる・・・は他の回路の影響により決まるため、記述上は未定なものを表すことにする。
【0163】
b)電源側のダイオードがOFFのとき
この時の一次側の電圧が未定で、電流は電源電圧とコンデンサの電圧の和と一次側電圧の差によって電源の内部抵抗RSに流れる電流と等しく、コンデンサに流れる電流は1次側電流と等しい。まとめると回路方程式は
【0164】
【数56】
となる。
【0165】
続いて負荷側について考える。電源側と同様、ダイオードの整流作用により常にi2が常に0以上である。また、i2+iC2=VC2/RLが言えるから、ASBによりコンデンサの電圧VC2が0以上である。
【0166】
c)負荷側ダイオードがONのとき
伝送線路の2次側電圧v2がコンデンサの電圧VC2と等しく、伝送線路の2次側の電流i2が未定でコンデンサに流れる電流はコンデンサの電圧VC2によって負荷RLに 流れる電流と2次側の電流の差と等しい。まとめると回路方程式は
【0167】
【数57】
となる。
【0168】
d)負荷側ダイオードがOFFのとき
伝送線路の2次側の電圧がv2が未定で、電流i2が常に0、コンデンサに流れる電流iC2はコンデンサの電圧VC2によって負荷RLに 流れる電流と等しい。これらをまとめると回路方程式は
【0169】
【数58】
となる。
【0170】
<導通モード>
上の式を見てわかるよう、ダイオードの状態によって伝送線路に関する電圧、電流は決まったり、決まらなかったりする。
【0171】
しかし、ダイオード一つの状態を決めることにより、それらのうちのどれか一つが必ず決まる。数54の自由度は4であるから、ダイオードの状態を4つ指定すれば数54を解いてv1,i1,v2,i2の全てを決めることができる。このダイオードの状態のセットを、導通モードと呼ぶことにする。
【0172】
すでに述べたように、我々が注目すべきなのはt∈T1,T3のときの電源側回路の動作、そしてt∈T2,T4のときの負荷側回路の動作である。そこで、これらの状態におけるダイオードのON/OFFを抜き出して、モードを区別する記号として用いる。例えば、“ON,OFF,OFF,ON”というモードは先頭から順番に
(1)t∈T1に電源側のダイオードD1がON
(2)t∈T2に負荷側のダイオードD2がOFF
(3)t∈T3に電源側のダイオードD1がOFF
(4)t∈T4に負荷側のダイオードD2がON
となることを表す(図25を参照)。
【0173】
ONあるいはOFFを4つ選ぶのであるから、考えうるモードというのは全部で16種類あるように思われる。しかし、以下に示すような明らかに無意味なモード7つは取り扱う必要がない。
【0174】
a)電源側のダイオードD1が常にON
・ON,ON,ON,ON
・ON,ON,ON,OFF
・ON,OFF,ON,ON
・ON,OFF,ON,OFF
【0175】
b)負荷側のダイオードD2が常にOFF
・OFF,OFF,OFF,OFF
・OFF,OFF,ON,OFF
・ON,OFF,OFF,OFF
・(ON,OFF,ON,OFF)
ただし、括弧つきのモードは重複を表す。加えて、OFF,ON,OFF,ONについてはダイオードが動作していないので整流動作は期待できない。
【0176】
残ったモードは以下に示す8つである。
・OFF,OFF,OFF,ON
・OFF,OFF,ON,ON
・OFF,ON,ON,OFF
・OFF,ON,ON,ON
・OFF,ON,OFF,OFF
・ON,OFF,OFF,ON
・ON,ON,OFF,OFF
・ON,ON,OFF,ON
しかし、実際に回路方程式を解いてみると、これらのモードの中にも実現不可能なものが含まれていることがわかる。
【0177】
条件に合わないモードを除いてゆくと、実際に起こりそうなモードはOFF,ON,ON,ONとOFF,ON,ON,OFFの二つであることがわかる。動作の特徴からそれぞれに名前をつけ、OFF,ON,ON,ONをシングルシャントモード、OFF,ON,ON,OFFを位相進みモードと呼ぶことにする。
【0178】
<シングルシャントモード>
このモード(OFF,ON,ON,ON)では電源側のD1のみがスイッチング動作をしており、シングルシャント整流回路のような動作になる。回路方程式は行列を用いて
【0179】
【数59】
となる。これを解くと、コンデンサの電圧VC1,VC2を用いて区間T1,T2,T3,T4の電圧v1,v2、電流i1,i2をことで
【0180】
【数60】
に表すように得られる。さらに、コンデンサを流れる電流も区間ごとに
【0181】
【数61】
と求められ、これらにASBを適応することで、コンデンサの定常電圧
【0182】
【数62】
が求められる。これは負荷抵抗RLに現れる出力電圧と等しい。これらの結果から、今回の解析の目的であった入力インピーダンスZinを求めると
【0183】
【数63】
となり、シングルシャントモードにおける入力インピーダンスは負荷インピーダンスそのものとなることがわかる。
【0184】
<位相進みモード>
このモード(OFF,ON,ON,OFF)では負荷側のダイオードのスイッチングが、電源側のダイオードのスイッチングに比べて1/4 secだけ進んで起こるため、このように呼んでいる。回路方程式は行列を用いて
【0185】
【数64】
で表すことができる。これを解くと、コンデンサの電圧VC1,VC2を用いて区間T1,T2,T3,T4の電圧v1,v2、電流i1,i2
【0186】
【数65】
が得られる。コンデンサを流れる電流
【0187】
【数66】
より、VC1,VC2を求めると、
【0188】
【数67】
となる。入力インピーダンスZin
【0189】
【数68】
であり、こちらのモードでは入力インピーダンスが負荷インピーダンスに反比例する。これら二つのモードが切り替わる条件は、Zinについての交点を求めることで得られ、
【0190】
【数69】
より、RL=Zcとなる。実際、数60を見てみると、RL>Zcの場合にはi24が負になるため、ダイオードがOFFする状態が発生することになり、もはやシングルシャントモードにはならないことがわかる。まとめると、図24の回路の入力インピーダンスZin
【0191】
【数70】
となる。
【0192】
<シミュレーションとの比較>
矩形波近似による解析結果を検証するため、Keysight, Advanced Design System (ADS)による回路シミュレーションとの比較を行った。シミュレーションの結果は、矩形波ではなく正弦波で励振したときのものである。電源のインピーダンスを1Ω、線路の特性インピーダンスを5Ωとし、負荷インピーダンスを0.01〜1000Ωの範囲で変化させる。結果を図26、27に示す。図26、27はそれぞれ、入力インピーダンスと電力反射係数の二つの観点で同じデータを比較したものである。シミュレーションの結果については、入力インピーダンスZinとして基本波に対するインピーダンスを採用している。すなわち、入力端での電流、電圧波形をそれぞれVin(t),Iin(t)とするとき、Zin
【0193】
【数71】
で与えられる。Zinの虚部はかなり小さい(1nΩ以下)ため、グラフでは実部のみを示している。また、電力反射係数は電源のインピーダンスである1Ωに対する値
【0194】
【数72】
を示している。どちらのグラフについても、矩形波近似による解析結果は、回路の特性をよく反映しており、特に各モードの切り替わりが正確に予測できている。今回の解析により、回路設計を行う上で重要になる回路定数と入力インピーダンスとの関係を明らかにすることができたと言える。
【0195】
最後に、図28は倍電流型のRCR(線路の特性インピーダンス0.2Ω)と倍電圧型のRCR(線路の特性インピーダンス5Ω)の、負荷抵抗値の変化に対する入力インピーダンスの振る舞いを比較したものである。倍電流型では、入力インンピーダンスが下に凸であるのに対し、倍電圧型では上に凸になっており、見事な双対性を示している。
【実施例4】
【0196】
前述の負荷変動圧縮性を持つ整流回路に加えて、本発明の実施例4に係る並列-並列型トポロジ(以下、単に「並列-並列型トポロジ」という。)を説明する。前記実施例3に係る並列-直列型トポロジの2次側だけを双対にした構成になっている。
【0197】
並列-並列型トポロジの回路図を図29に示す。該並列-並列型トポロジは電源から直流電力成分を遮断する直列コンデンサC、並列ダイオードD1、特性インピーダンスZCのλ/4線路、並列ダイオードD2、交流電力成分を遮断する直列インダクタLを接続した構成であり、次の基本条件を満たすものである。
【0198】
【数73】
【0199】
並列-並列型トポロジは「位相遅れモード」と「シングルシャント2モード」が負荷抵抗によって切り替わる。前記位相遅れモードでは、並列ダイオードD2のスイッチングが並列ダイオードD1のスイッチングに比べて1/4周期だけ遅れて起こる。さらに、前記シングルシャント2モードでは、並列ダイオードD2のみがスイッチングをして、並列ダイオードD1が常にOFFになる。
【0200】
前記二つの動作モードが切り替わると、負荷抵抗と入力インピーダンスの関係が比例と反比例で切り替わる。前記位相遅れモードでは、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に比例する。一方、前記シングルシャント2モードでは、シングルシャント整流回路の入力側にλ/4線路が追加された回路と等価であるため、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に反比例する。
【0201】
次に、前記負荷抵抗が変化した時、前記入力インピーダンスの変化を説明する。シミュレーションにより解析した結果を両対数グラフにプロットし、図30に示す。並列-並列型トポロジにおいても、前記負荷抵抗がある値になると、グラフのプロットが折れ曲がる。該グラフのプロットが折れ曲がる特性を示す前記負荷抵抗は、λ/4線路の特性インピーダンスZCと一致する。
【0202】
つまり、並列-並列型トポロジは、前記負荷抵抗及び前記特性インピーダンスの値の関係がR<ZCとなるときには、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に比例する前記位相遅れモードで動作し、前記グラフプロットの傾きが1となる。
【0203】
また、前記負荷抵抗の値が大きくなり、前記特性インピーダンスの値との関係がZC<Rとなるときには、並列ダイオードD1が動作しなくなり、前記負荷抵抗に反比例する前記シングルシャント2モードで動作し、前記グラフプロットの傾きが-1となる。
【0204】
上述した解析結果より本発明の実施例4に係る並列-並列型トポロジの負荷変動圧縮率を示す。特性インピーダンスZC=100のときの並列-並列型トポロジにおいて、負荷抵抗の値が10≦R≦1000の範囲で変動する場合、入力インピーダンスの実部は13.3≦rin≦87.3で変動する。負荷変動圧縮率を計算するとρ=ρr/ρR=6.56/100=0.0656となる。前述のように動作切替による前記入力インピーダンスの特性によって、その実部の最大値rmaxが小さくなり、負荷抵抗の変動が圧縮される。
【実施例5】
【0205】
前述の負荷変動圧縮性を持つ整流回路に加えて、本発明の実施例5に係る直列-直列型トポロジ(以下、単に「直列-直列型トポロジ」という。)を説明する。前記実施例1に係る直列-並列型トポロジの2次側だけを双対にした構成になっている。
【0206】
直列-直列型トポロジの回路図を図31に示す。直列-直列型トポロジは、電源から直流電力成分を遮断する並列インダクタL、直列ダイオードD1、特性インピーダンスZCのλ/4線路、直列ダイオードD2、交流電力成分を遮断する並列キャパシタンスCを接続した構成であり、次の基本条件を満たすものである。
【0207】
【数74】
【0208】
直列-直列型トポロジは「シングルシリーズ2モード」と「位相遅れモード」が負荷抵抗によって切り替わる。前記シングルシリーズ2モードでは、直列ダイオードD2のみがスイッチングをして、直列ダイオードD1が常にONになる。さらに、前記位相遅れモードではD2のスイッチングが直列ダイオードD1のスイッチングに比べて1/4周期だけ遅れて起こる。
【0209】
前記二つの動作モードが切り替わると、負荷抵抗と入力インピーダンスの関係が比例と反比例で切り替わる。前記シングルシリーズ2モードでは、シングルシリーズ整流回路の入力側にλ/4線路が追加された回路と等価であるため、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に反比例する。前記位相遅れモードでは、前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に比例する。
【0210】
次に、前記負荷抵抗が変化した時、前記入力インピーダンスの変化を説明する。シミュレーションにより解析した結果を両対数グラフにプロットし、図32に示す。直列-直列型トポロジにおいて、前記負荷抵抗がある値になると、グラフのプロットが折れ曲がる。該グラフのプロットが折れ曲がる特性を示す前記負荷抵抗は、λ/4線路の特性インピーダンスZCと一致する。
【0211】
つまり、直列-直列型トポロジは、前記負荷抵抗及び前記特性インピーダンスの値の関係がR<ZCとなるときには前記入力インピーダンスが前記負荷抵抗に比例する前記シングルシリーズ2モードで動作し、前記グラフプロットの傾きが-1となる。
【0212】
また、前記負荷抵抗の値が大きくなり、前記特性インピーダンスの値との関係がZC<Rとなるときには、直列ダイオードD1が動作するようになり、前記負荷抵抗に比例する前記位相遅れモードで動作し、前記グラフプロットの傾きが1となる。
【0213】
上述した解析結果より本発明の実施例5に係る直列-直列型トポロジの負荷変動圧縮率を示す。特性インピーダンスZC=100のときの直列-直列型トポロジにおいて、負荷抵抗の値が10≦R≦1000の範囲で変動する場合、入力インピーダンスの実部は115.9≦rin≦727.8で変動する。負荷変動圧縮率を計算するとρ=ρr/ρR=6.27/100=0.0627となる。前述のように動作切替による前記入力インピーダンスの特性によって、その実部の最小値rminが大きくなり、負荷抵抗の変動が圧縮される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32