特許第6844836号(P6844836)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844836
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】液体現像剤受容層形成用水性分散液
(51)【国際特許分類】
   G03G 7/00 20060101AFI20210308BHJP
   G03G 15/22 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   G03G7/00 B
   G03G15/22 103Z
【請求項の数】8
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2016-253853(P2016-253853)
(22)【出願日】2016年12月27日
(65)【公開番号】特開2018-106058(P2018-106058A)
(43)【公開日】2018年7月5日
【審査請求日】2019年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100089185
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100118131
【弁理士】
【氏名又は名称】佐々木 渉
(74)【代理人】
【識別番号】100149250
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 耕一郎
(72)【発明者】
【氏名】水畑 浩司
(72)【発明者】
【氏名】相馬 央登
【審査官】 川村 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−117588(JP,A)
【文献】 特開平09−218527(JP,A)
【文献】 特開2001−171062(JP,A)
【文献】 特開2004−045845(JP,A)
【文献】 特開2005−062845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂粒子(A)と、ポリウレタン樹脂粒子及び変性ポリオレフィン樹脂粒子から選ばれる少なくとも1種の樹脂粒子(B)と、沸点100℃以上250℃以下の有機溶剤と、を含有し、
ポリエステル樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)との質量比が55/45以上95/5以下である、液体現像剤受容層形成用水性分散液。
【請求項2】
ポリエステル樹脂粒子(A)が、ガラス転移温度40℃以上80℃以下のポリエステルを含有する、請求項1に記載の水性分散液。
【請求項3】
有機溶剤がアルキレングリコール系有機溶剤である、請求項1又は2に記載の水性分散液。
【請求項4】
ポリエステル樹脂粒子(A)と、樹脂粒子(B)との合計含有量が、水性分散液中、5質量%以上50質量%以下である、請求項1〜3のいずれかに記載の水性分散液。
【請求項5】
樹脂製記録媒体上に、液体現像用トナーの受容層を形成するための、請求項1〜4のいずれかに記載の水性分散液の使用。
【請求項6】
樹脂製記録媒体上に、請求項1〜4のいずれかに記載の水性分散液から形成された受容層を有する、液体現像剤受容層付樹脂製記録媒体。
【請求項7】
樹脂製記録媒体上に、請求項1〜4のいずれかに記載の水性分散液を用いて受容層を形成する工程を有する、液体現像剤受容層付樹脂製記録媒体の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の方法により得られた樹脂製記録媒体の受容層上に、トナー粒子を含む液体現像剤を用いて画像形成する工程を有する、画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体現像剤受容層形成用水性分散液、樹脂製記録媒体、樹脂製記録媒体の製造方法、及び画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真用現像剤には、着色剤及び結着樹脂を含む材料からなるトナー粒子を乾式状態で用いる乾式現像剤と、トナー粒子が絶縁性の担体液中に分散した液体現像剤がある。液体現像剤は、トナー粒子の小粒径化が可能であることから画質の面で優れており、商業印刷用途に適している。
商品包装印刷や広告などに用いられる商業用ラベル印刷等の分野では、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン等の樹脂製記録媒体に対し、印刷が行われてきた。
【0003】
特許文献1には、被記録材がプラスチックフィルム又はシートである静電荷液体現像システムにおいて、該プラスチックフィルム又はシートにプライマーがコートしてあることを特徴とする静電荷現像液体トナー用被記録材が記載されており、当該被記録材により電子写真液体現像法におけるフィルムあるいはシートとトナーとの密着性が著しく向上すると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−179329号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液体現像剤を用いた電子写真法により樹脂製記録媒体に印刷を行う場合、記録媒体の樹脂の極性等の要因によって、トナー粒子の記録媒体への定着性等の特性が変動を受けやすく、樹脂製記録媒体へトナー粒子の定着性を向上させる樹脂等が塗工される。しかしながら、樹脂等を塗工した記録媒体を重ねて長期保存すると塗工面が張り付く等、塗工後の保存性に課題があり、当該保存性に優れ、更に、液体現像剤に含まれるトナー粒子の樹脂記録媒体への定着に優れた、液体現像剤受容層形成用水性分散液が求められている。
本発明は、液体現像剤に含まれるトナー粒子の樹脂製記録媒体への定着性を向上させ、更に、塗工後の保存性に優れる液体現像剤受容層形成用水性分散液、樹脂製記録媒体、樹脂製記録媒体の製造方法、及び画像形成方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、所定のポリエステル樹脂粒子(A)と、ポリウレタン樹脂粒子及び変性ポリオレフィン樹脂粒子から選ばれる少なくとも1種の樹脂粒子(B)と、所定の有機溶剤と、を組み合わせた水性分散液を用いることで前述の課題を解決しうることを見出した。
【0007】
本発明は、下記〔1〕〜〔4〕に関する。
〔1〕ポリエステル樹脂粒子(A)と、ポリウレタン樹脂粒子及び変性ポリオレフィン樹脂粒子から選ばれる少なくとも1種の樹脂粒子(B)と、沸点100℃以上250℃以下の有機溶剤と、を含有し、
ポリエステル樹脂粒子(A)と、樹脂粒子(B)との質量比が55/45以上95/5以下である、液体現像剤受容層形成用水性分散液。
〔2〕〔1〕に記載の水性分散液を施された樹脂製記録媒体。
〔3〕樹脂製記録媒体上に、〔1〕に記載の水性分散液を用いて受容層を形成する工程を有する、液体現像剤受容層付樹脂製記録媒体の製造方法。
〔4〕〔3〕の方法により得られた樹脂製記録媒体の受容層上に、トナー粒子を含む液体現像剤を用いて画像形成する工程を有する、画像形成方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、液体現像剤に含まれるトナー粒子の樹脂製記録媒体への定着性を向上させ、更に、塗工後の保存性に優れる液体現像剤受容層形成用水性分散液、樹脂製記録媒体、樹脂製記録媒体の製造方法、及び画像形成方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[液体現像剤受容層形成用水性分散液]
本発明の液体現像剤受容層形成用水性分散液(以下、単に「水性分散液(I)」ともいう)は、ポリエステル樹脂粒子(A)と、ポリウレタン樹脂粒子及び変性ポリオレフィン樹脂粒子から選ばれる少なくとも1種の樹脂粒子(B)と、沸点100℃以上250℃以下の有機溶剤と、を含有し、
ポリエステル樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)との質量比が55/45以上95/5以下である。
これにより、液体現像剤に含まれるトナー粒子の樹脂製記録媒体への定着性(以下、単に「定着性」ともいう)を向上させ、更に、塗工後の保存性(以下、単に「保存性」ともいう)に優れる液体現像剤受容層形成用水性分散液、樹脂製記録媒体、樹脂製記録媒体の製造方法、及び画像形成方法を提供することができる。
【0010】
本発明の効果が得られるメカニズムは定かではないが以下のように考えられる。
バインダー樹脂としてポリエステルを用いた液体現像剤はポリエチレンテレフタレート(以下、「PET」ともいう)フィルム、ポリプロピレン(以下、「PP」ともいう)フィルム等の樹脂製記録媒体との親和性が低く、樹脂製記録媒体への定着性が十分でない。これに対して、液体現像剤受容層形成用水性分散液として、PETフィルムやPPフィルムとの親和性が高いポリウレタン樹脂又は変性ポリオレフィン樹脂の少なくとも一方を含有させることにより、これらの樹脂製記録媒体と液体現像剤受容層形成用水性分散液により形成される受容層との密着性が良好となる。更に、液体現像剤受容層形成用水性分散液にポリエステル樹脂を含有させることにより、ポリエステル樹脂を用いた液体現像剤のトナー粒子との親和性も高くなり密着性が良好となる。このようにトナー粒子及び樹脂製記録媒体との密着性が良好な樹脂の両者を特定の質量比で含有したものを液体現像剤受容層形成用水性分散液として用いることにより、液体現像剤に含まれるトナー粒子の樹脂製記録媒体への定着性を向上させられると考えられる。
さらに、沸点が100℃以上250℃以下の有機溶剤を含有させることにより、液体現像剤受容層形成用水性分散液により受容層を形成する際の良好な印刷適性を保持しながら、樹脂の造膜性が向上し、処理後には有機溶剤が速やかに乾燥するため、処理後の記録媒体同士の貼り付きを抑制できるものと考えられる。
【0011】
「水性分散液」とは、常温で液体の成分中、水の割合が50質量%以上である分散液を意味する。
水性分散液(I)において、ポリエステル樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)との質量比(A/B)は、定着性に優れる水性分散液(I)を得る観点から、55/45以上であり、好ましくは60/40以上、より好ましくは70/30以上、更に好ましくは75/25以上であり、そして、保存性に優れる水性分散液(I)を得る観点から、95/5以下であり、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下である。
水性分散液(I)において、ポリエステル樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)との合計含有量は、定着性及び保存性に優れる水性分散液(I)を得る観点から、水性分散液(I)中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
以下、水性分散液(I)の各成分について詳細に説明する。
【0012】
<ポリエステル樹脂粒子(A)>
ポリエステル樹脂粒子(A)は、定着性及び保存性に優れる水性分散液(I)を得る観点から、ポリエステルを含有する。
【0013】
〔ポリエステル〕
ポリエステルは、アルコール成分とカルボン酸成分とを重縮合して得られる。すなわち、該ポリエステルは、アルコール成分及びカルボン酸成分の重縮合物である。
【0014】
(アルコール成分)
アルコール成分としては、ジオール、3価以上の多価アルコール等が挙げられ、好ましくはジオールである。
ジオールとしては、炭素数2以上20以下の直鎖又は分岐の脂肪族ジオール、芳香族ジオール、及び脂環式ジオールが挙げられる。
【0015】
脂肪族ジオールは、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは第二級炭素原子に結合したヒドロキシ基を有する炭素数3以上8以下の脂肪族ジオールである。
脂肪族ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,12−ドデカンジオールが挙げられる。
第二級炭素原子に結合したヒドロキシ基を有する炭素数3以上8以下の脂肪族ジオールとしては、例えば、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、2,4−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、3,3−ジメチル−1,2−ブタンジオール等が挙げられる。これら中でも、1,2−プロパンジオール、2,3−ブタンジオールが好ましく、1,2−プロパンジオールがより好ましい。
【0016】
芳香族ジオールとしては、例えば、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物が挙げられる。
ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは式(I):
【化1】

〔式中、RO及びORはオキシアルキレン基であり、Rはエチレン基及びプロピレン基から選ばれる少なくとも1種であり、x及びyはアルキレンオキシドの平均付加モル数を示し、それぞれ正の数であり、xとyの和の値は、1以上であり、好ましくは1.5以上であり、そして、16以下であり、好ましくは8以下、より好ましくは4以下である。〕で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物である。
式(I)で表されるビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物としては、例えば、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキシド付加物、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのエチレンオキシド付加物が挙げられる。これらは1種又は2種以上を用いることができる。これらの中でも、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのプロピレンオキシド付加物が好ましい。
【0017】
脂環式ジオールとしては、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA等が挙げられる。
【0018】
これらの中でも、アルコール成分は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、水素添加ビスフェノールA、及び第二級炭素原子に結合したヒドロキシ基を有する炭素数3以上8以下の脂肪族ジオールから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、及び第二級炭素原子に結合したヒドロキシ基を有する炭素数3以上8以下の脂肪族ジオールから選ばれる少なくとも1種、更に好ましくはビスフェノールAのアルキレンオキシド付加物、更に好ましくはビスフェノールAのプロピレンオキシド付加物である。
【0019】
ポリエステルのアルコール成分中におけるジオールの含有量は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは50モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上であり、そして、100モル%以下である。
【0020】
(カルボン酸成分)
カルボン酸成分としては、例えば、ジカルボン酸、3価以上の多価カルボン酸が挙げられる。
明細書中、ポリエステルのカルボン酸成分には、その化合物のみならず、反応中に分解して酸を生成する無水物、及び、各カルボン酸の、炭素数1以上3以下のアルキルエステルも含まれる。
【0021】
ジカルボン酸としては、例えば、芳香族ジカルボン酸、直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸、及び脂環式ジカルボン酸が挙げられる。
芳香族ジカルボン酸としては、例えば、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸が挙げられる。これらの中でも、テレフタル酸が好ましい。
直鎖又は分岐の脂肪族ジカルボン酸としては、例えば、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、アゼライン酸、コハク酸、炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸が挙げられる。炭素数1以上20以下のアルキル基又は炭素数2以上20以下のアルケニル基で置換されたコハク酸としては、例えば、ドデシルコハク酸、ドデセニルコハク酸、オクテニルコハク酸が挙げられる。これらの中でも、アジピン酸、フマル酸が好ましい。
【0022】
脂環式ジカルボン酸としては、例えば、シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。
3価以上の多価カルボン酸は、好ましくは3価のカルボン酸であり、例えば、トリメリット酸、2,5,7−ナフタレントリカルボン酸、ピロメリット酸が挙げられる。
これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0023】
カルボン酸成分は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、アジピン酸、セバシン酸、及びドデセニルコハク酸から選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくは、テレフタル酸、フマル酸及びアジピン酸から選ばれる少なくとも1種である。
【0024】
アルコール成分のヒドロキシ基(OH基)に対するカルボン酸成分のカルボキシ基(COOH基)のモル当量比(COOH基/OH基)は、好ましくは0.65以上、より好ましくは0.80以上であり、そして、好ましくは1.2以下、より好ましくは1.1以下である。
【0025】
(ポリエステルの製造方法)
ポリエステルは、カルボン酸成分とアルコール成分とを、重縮合反応させることによって製造することができる。例えば、アルコール成分とカルボン酸成分とを不活性ガス雰囲気中にて、必要に応じエステル化触媒及び重合禁止剤を用いて、120℃以上250℃以下の温度で重縮合することにより製造することができる。
エステル化触媒としては、酸化ジブチル錫、ジ(2−エチルヘキサン酸)錫(II)等の錫化合物、チタンジイソプロピレートビストリエタノールアミネート等のチタン化合物等のエステル化触媒を使用することができる。
エステル化触媒の使用量に制限はないが、カルボン酸成分とアルコール成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上であり、そして、好ましくは1.5質量部以下、より好ましくは1.0質量部以下である。
また、必要に応じてラジカル重合禁止剤を使用することができる。ラジカル重合禁止剤としては、4−tert−ブチルカテコール等が挙げられる。ラジカル重合禁止剤の使用量は、カルボン酸成分とアルコール成分との総量100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.005質量部以上であり、そして、好ましくは0.5質量部以下、より好ましくは0.1質量部以下である。
【0026】
(ポリエステルの物性)
ポリエステルのガラス転移温度は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは40℃以上、より好ましくは45℃以上、更に好ましくは50℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは70℃以下、更に好ましくは65℃以下、更に好ましくは60℃以下である。
ポリエステルのガラス転移温度は、示差走査熱量計を用いて測定されるものであり、具体的には実施例の方法によって測定される。
ポリエステルの軟化点は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは70℃以上、より好ましくは80℃以上、更に好ましくは90℃以上であり、そして、好ましくは165℃以下、より好ましくは130℃以下、更に好ましくは110℃以下である。
【0027】
ポリエステルの酸価は、水性媒体中での樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは5mgKOH/g以上、より好ましくは10mgKOH/g以上、更に好ましくは15mgKOH/g以上であり、そして、好ましくは35mgKOH/g以下、より好ましくは30mgKOH/g以下、更に好ましくは25mgKOH/g以下である。
【0028】
ポリエステルの軟化点、ガラス転移温度、及び酸価は、いずれも、ポリエステルの製造に用いるモノマーの種類、配合比率、重縮合の温度、反応時間を適宜調節することにより所望のものを得ることができる。
ポリエステルは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なお、ポリエステルを2種以上混合して使用する場合は、そのガラス転移温度及び軟化点は、各々2種以上のポリエステルの混合物として、実施例記載の方法によって得られる値である。
【0029】
ポリエステル樹脂粒子(A)は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエステル以外の樹脂、例えば、スチレン−アクリル共重合体、エポキシ樹脂、ポリカーボネート等の樹脂を含有してもよい。
また、ポリエステル樹脂粒子(A)には、本発明の効果を損なわない範囲で、繊維状物質等の補強充填剤、酸化防止剤、老化防止剤等の添加剤等を任意成分として含有させてもよい。
【0030】
(ポリエステル樹脂粒子(A)の製造方法)
ポリエステル樹脂粒子(A)は、前述のポリエステルを含む樹脂を水性媒体中に分散して、ポリエステル樹脂粒子(A)の分散液(以下、水性分散液(I)の原料となるポリエステル樹脂粒子(A)の分散液を意味して「分散液(Ia)」ともいう)として得る方法により製造することが好ましい。
水性媒体としては、水を主成分とするものが好ましい。水性媒体中の水の含有量は、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、そして、更に好ましくは100質量%である。水としては、脱イオン水、イオン交換水又は蒸留水が好ましく用いられる。水以外の成分としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;テトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒等の水に溶解する有機溶媒が挙げられる。
【0031】
ポリエステル樹脂粒子(A)の分散液(Ia)を得る方法としては、例えば、ポリエステルを含む樹脂を水性媒体に添加して分散機等によって分散処理を行う方法、ポリエステルを含む樹脂に水性媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法等が挙げられる。これらの中でも、転相乳化による方法が好ましい。
転相乳化法としては、先ずポリエステルを含む樹脂を有機溶媒に溶解させ、次いで、この溶液に水性媒体を添加して転相し、その後、有機溶媒を除去することが好ましい。以下、転相乳化法について述べる。
【0032】
(転相乳化法)
まず、ポリエステルを含む樹脂を有機溶媒に溶解させて、ポリエステルを含む溶液を得る。複数種のポリエステル又はポリエステル以外の樹脂を含む場合には、予め、これらポリエステルとその他の樹脂とを混合したものを用いてもよいが、これらの樹脂を同時に有機溶媒に添加して溶解させ、ポリエステルを含む溶液を得てもよい。
また、ポリエステルを含む樹脂の水性媒体への親和性を向上させ、樹脂粒子分散液の分散安定性を向上させる観点から、塩基性化合物を使用することが好ましい。
ポリエステルを含む溶液を得る方法としては、ポリエステルを含む樹脂及び有機溶媒を容器に入れて溶解させ、次いで塩基性化合物を容器に入れ、撹拌器によって撹拌して溶液を得る方法が好ましい。
ポリエステルを含む樹脂の有機溶媒への溶解操作、及びその後の塩基性化合物の添加は、通常、有機溶媒の沸点以下の温度で行う。
有機溶媒としては、ポリエステルを含む樹脂を溶解し、乳化物からの除去が容易である観点から、アセトン、メチルエチルケトン等の炭素数1以上3以下のアルキル基を有するジアルキルケトンが好ましく、より好ましくはメチルエチルケトンである。
【0033】
有機溶媒とポリエステルを含む樹脂との質量比〔有機溶媒/樹脂〕は、樹脂を溶解し水性媒体への転相を容易にする観点、樹脂粒子分散液の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは30/100以上、より好ましくは50/100以上、更に好ましくは70/100以上であり、そして、好ましくは500/100以下、より好ましくは300/100以下、更に好ましくは200/100以下、更に好ましくは150/100以下である。
【0034】
塩基性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アンモニア、ジエチルアミン、トリエチルアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の含窒素塩基性化合物等が挙げられる。分散液(Ia)の分散安定性を向上させる観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアが好ましく、水酸化ナトリウムがより好ましい。
樹脂の酸基に対する塩基性化合物の使用当量(モル%)は、樹脂粒子の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上、更に好ましくは50モル%以上であり、そして、好ましくは150モル%以下、より好ましくは120モル%以下、更に好ましくは100モル%以下である。
なお、塩基性化合物の使用当量(モル%)は、次の式によって求めることができる。塩基性化合物の使用当量は、100モル%以下の場合、中和度と同義であり、下記式で塩基性化合物の使用当量が100モル%を超える場合には、塩基性化合物が樹脂の酸基に対して過剰であることを意味し、この時の樹脂の中和度は100モル%とみなす。
塩基性化合物の使用当量(モル%)=〔{塩基性化合物の添加質量(g)/塩基性化合物の当量}/[{樹脂の酸価(mgKOH/g)×樹脂の質量(g)}/(56×1000)]〕×100
塩基性化合物は水溶液として使用することが好ましい。塩基性水溶液中の塩基性化合物の濃度は、樹脂粒子分散液の分散安定性及び生産性を向上させる観点から、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上であり、そして、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。
【0035】
次に、ポリエステルを含む溶液に水性媒体を添加して、転相し、ポリエステルを含む樹脂粒子の分散液(Ia)を得る。
水性媒体を添加する際の温度は、分散液(Ia)の分散安定性を向上させる観点から、好ましくは10℃以上、より好ましくは20℃以上、更に好ましくは25℃以上であり、そして、好ましくは80℃以下、より好ましくは65℃以下、更に好ましくは50℃以下である。
【0036】
水性媒体の添加速度は、分散液(Ia)の分散安定性を向上させる観点から、転相が終了するまでは、樹脂粒子を構成する樹脂100質量部に対して、好ましくは0.5質量部/分以上、より好ましくは1質量部/分以上、更に好ましくは3質量部/分以上であり、そして、好ましくは50質量部/分以下、より好ましくは20質量部/分以下、更に好ましくは15質量部/分以下である。転相後、樹脂粒子が得られた後の水性媒体の添加速度には制限はない。
水性媒体の添加量は、分散液(Ia)の生産性を向上させる観点から、樹脂粒子を構成する樹脂100質量部に対して、好ましくは50質量部以上、より好ましくは100質量部以上、更に好ましくは150質量部以上であり、そして、好ましくは900質量部以下、より好ましくは500質量部以下、更に好ましくは300質量部以下である。
【0037】
転相乳化の後に、必要に応じて、転相乳化で得られた分散液から有機溶媒を除去してもよい。
有機溶媒の除去方法は、特に限定されず、任意の方法を用いることができるが、水と溶解しているため蒸留するのが好ましい。
このようにして得られたポリエステル樹脂粒子(A)の分散液(Ia)は、金網等で濾過し、粗大粒子等を除去するのが好ましい。また、前記有機溶媒の除去を行った場合には、有機溶媒とともに水も共沸して減じているため、水を添加して固形分濃度を調整することが好ましい。
調整後のポリエステル樹脂粒子(A)の分散液(Ia)の固形分濃度は、各種樹脂製記録媒体への優れた密着性を得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0038】
分散液(Ia)中のポリエステル樹脂粒子(A)の体積平均粒径(D)は、水性分散液(I)中での分散安定性を向上させる観点、各種樹脂製記録媒体への優れた密着性を得る観点から、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上、更に好ましくは30nm以上であり、そして、好ましくは500nm以下、より好ましくは200nm以下、更に好ましくは100nm以下である。当該体積平均粒径(D)は、動的光散乱法で測定されるものであり、実施例に記載の方法で求められる。
【0039】
ポリエステルの含有量は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、ポリエステル樹脂粒子(A)を構成する樹脂中、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、更に好ましくは100質量%である。
水性分散液(I)中に含まれるポリエステル樹脂粒子(A)の含有量は、水性分散液(I)中、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは15質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下である。
【0040】
<ポリウレタン樹脂粒子>
ポリウレタン樹脂粒子は、ポリウレタンを含有する。
ポリウレタン樹脂粒子は、ポリウレタンを含む樹脂を水性媒体中に分散して、ポリウレタン樹脂粒子の分散液として得られるものが好ましい。すなわち、ポリウレタン樹脂粒子の分散液(以下、水性分散液(I)の原料となるポリウレタン樹脂粒子の分散液を意味して「分散液(Ib1)」ともいう)として用いられるものが好ましい。
ポリウレタンは、例えば、2個以上の活性水素原子を有する活性水素化合物成分と、ポリイソシアネート成分とを反応させて得られる。
【0041】
(ポリイソシアネート成分)
ポリイソシアネート成分としては、ジイソシアネートが好ましい。ジイソシアネートとしては、例えば、直鎖又は分岐の鎖状脂肪族ジイソシアネート、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート、又はこれらジイソシアネートの変性物(カルボジイミド、ウレトジオン、ウレトイミン含有変性物等)が挙げられる。
直鎖又は分岐の鎖状脂肪族ジイソシアネートとしては、例えば、テトラメチレンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、ドデカメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネートが挙げられる。
脂環式ジイソシアネートとしては、例えば、1,3−シクロヘキシレンジイソシアネート、1,4−シクロヘキシレンジイソシアネート、水素添加キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、4,4′−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネートが挙げられる。
芳香族ジイソシアネートとしては、例えば、トリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネートが挙げられる。
【0042】
(活性水素化合物成分)
活性水素化合物成分としては、ポリオールが好ましい。
ポリオールとしては、例えば、低分子量ポリオール、高分子量ポリオールが挙げられる。ここで、「低分子量」とは、分子量500未満であることを意味し、「高分子量」とは、分子量500以上であることを意味する。
低分子量ポリオールとしては、低分子量ジオールが好ましい。
低分子量ジオールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ヘプタンジオール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール、ドデカンジオール等の鎖状脂肪族ジオール、シクロヘキサンジオール、水添キシリレングリコール等の脂環式ジオール、キシリレングリコール等の芳香族ジオールが挙げられる。
【0043】
高分子量ポリオールとしては、例えば、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオールが挙げられる。これらの中でも、ポリエーテルポリオールがより好ましい。
【0044】
ポリカーボネートポリオールは、例えば、カーボネート化合物とジオールとのエステル交換反応により得られるポリカーボネートポリオールが挙げられる。
カーボネート化合物としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、エチレンカーボネート、ジエチレンカーボネートが挙げられる。
【0045】
ポリエステルポリオールは、低分子量ジオールとジカルボン酸とを縮合することにより得ることができる。
低分子量ジオールは、前述の例示と同様であり、好ましくは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオールである。
ジカルボン酸としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ブラシル酸等の脂肪族ジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸が挙げられる。
【0046】
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシド、スチレンオキシド、テトラヒドロフラン、エピクロロヒドリン等の環状エーテル化合物の、開環重合体が挙げられる。
ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0047】
水性媒体中に安定に分散させる観点から、ポリウレタンにアニオン性親水基等を導入することが好ましい。
例えば、ジメチロール酢酸、ジメチロールプロピオン酸等のジアルカノールカルボン酸をポリウレタンのポリイソシアネート成分と反応させ、これらのカルボキシ基を中和剤で中和することで、安定な水性分散液が得られる。
中和剤としては、例えば、ブチルアミン、トリエチルアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン、モルホリン、アンモニア、水酸化ナトリウム等の無機塩基性化合物等が挙げられる。
活性水素化合物成分とポリイソシアネート成分との反応物は、必要に応じて鎖伸長剤を用いて、更に分子量を増加させてもよい。鎖伸長剤としては、例えば、ポリオールやポリアミンが挙げられる。また、反応停止剤としては、例えば、モノアルコール、モノアミンが挙げられる。
【0048】
ポリウレタンは、活性水素化合物成分とポリイソシアネート成分とを反応させて得られる。
ポリウレタンは、活性水素化合物成分、ポリイソシアネート成分に加えて、更にジアルカノールカルボン酸を反応させてもよい。当該ポリウレタン中のカルボキシ基を、中和剤で中和して水分散させることで水性溶媒中での分散性を高めることができる。
ポリウレタンの合成は、より具体的には、活性水素化合物成分、ポリイソシアネート成分、及び必要に応じてジアルカノールカルボン酸を反応させることにより行うことができる。
活性水素化合物成分とポリイソシアネート成分との反応に用いる溶媒としては、例えば、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、酢酸エチル、トルエン、キシレンが挙げられる。
上記反応では、必要に応じて鎖伸長剤や反応停止剤を併用してもよい。
また、ポリウレタンを多段階法により反応させてウレタンプレポリマーを合成し、次いで、このプレポリマーを中和剤で中和しながら水と混合して水伸長反応を行わせて同時に水性媒体中に分散させて製造してもよい。この場合は、粘度調整や溶媒留去が容易であり、製造上好適である。このようにして、平均粒径0.01〜1μmのポリウレタン樹脂粒子を分散液(Ib1)の形態で得ることができる。
ポリウレタン樹脂粒子の分散液(Ib1)には、必要に応じて界面活性剤のような分散剤を含有していてもよい。
【0049】
ポリウレタン樹脂粒子の分散液(Ib1)の固形分濃度は、各種樹脂製記録媒体への優れた密着性を得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0050】
ポリウレタン樹脂粒子の分散液(Ib1)の市販品としては、例えば、「WBR」シリーズのポリエーテル系ポリウレタン「WBR−016U」、ポリカーボネート系ポリウレタン「WBR−2101」、ポリエステル系ポリウレタン「WBR−2122C」(以上、大成ファインケミカル株式会社製)、「スーパーフレックス」シリーズのポリエステル・ポリエーテル系ポリウレタン「150」、「170」、ポリエステル系ポリウレタン「210」、「500M」、「820」、ポリエーテル系ポリウレタン「870」(以上、第一工業製薬株式会社製)、「ユーコート」シリーズのポリエステル系ポリウレタン「UWS−145」、ポリカーボネート系ポリウレタン「UX−485」、「パーマリン」シリーズのポリエーテル系ポリウレタン「UA−200」、ポリカーボネート系ポリウレタン「UA−368T」(以上、三洋化成工業株式会社製)が挙げられる。
【0051】
ポリウレタンの含有量は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、ポリウレタン樹脂粒子を構成する樹脂中、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、更に好ましくは98質量%以上であり、そして、100質量%以下であり、そして、更に好ましくは100質量%である。
水性分散液(I)中に含まれるポリウレタン樹脂粒子の含有量は、水性分散液(I)中、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0052】
<変性ポリオレフィン樹脂粒子>
変性ポリオレフィン樹脂粒子は、変性ポリオレフィンを含有する。
変性ポリオレフィン樹脂粒子は、変性ポリオレフィンを含む樹脂を水性媒体中に分散して、変性ポリオレフィン樹脂粒子の分散液(以下、水性分散液(I)の原料となる変性ポリオレフィン樹脂粒子の分散液を意味して「分散液(Ib2)」ともいう)として得られるものが好ましい。すなわち、変性ポリオレフィン樹脂粒子の水性分散液として用いられるものが好ましい。
変性ポリオレフィンは、例えば、オレフィンの単独重合体又は2種以上のオレフィンの共重合体の変性物である。変性ポリオレフィンとしては、例えば、ポリプロピレン、プロピレン−α−オレフィン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等の変性物が挙げられる。共重合体は、ブロック共重合体、又はランダム共重合体のいずれを用いることもできる。
プロピレン−α−オレフィン共重合体における、α−オレフィンの炭素数は、好ましくは4以上であり、そして、好ましくは15以下、より好ましくは10以下、更に好ましくは8以下である。
α−オレフィンとしては、例えば、エチレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、4−メチル−1−ペンテンが挙げられる。
これらの中でも、定着性及び保存性をより向上させる観点から、ポリプロピレン、又はプロピレン−α−オレフィン共重合体である。
【0053】
変性ポリオレフィンの重量平均分子量は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは10,000以上、より好ましくは15,000以上、更に好ましくは50,000以上であり、そして、好ましくは200,000以下、より好ましくは、150,000以下である。重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(標準物質:ポリスチレン)によって測定された値である。
【0054】
変性ポリオレフィンとしては、例えば、塩素を含む極性付与剤で変性されたポリオレフィン(以下、単に「塩素化ポリオレフィン」ともいう)、不飽和カルボン酸系化合物で変性されたポリオレフィン(以下、単に「酸変性ポリオレフィン」ともいう)、ヒドロキシ変性されたポリオレフィン(以下、単に「ヒドロキシ変性ポリオレフィン」ともいう)が挙げられる。これらの中でも、塩素化ポリオレフィンが好ましい。
【0055】
塩素化ポリオレフィンは、ポリオレフィンの塩素化反応により得られる。
塩素化反応は、通常の反応方法で実施することができる。例えば、前述のポリオレフィンを水又は四塩化炭素、クロロホルム等の媒体に分散又は溶解し、触媒の存在下あるいは紫外線の照射下において加圧又は常圧下に50℃以上120℃以下の温度範囲で塩素ガスを吹き込むことにより行われる。
【0056】
得られた塩素化ポリオレフィンの製造で使用された塩素系溶媒は、通常、減圧等により留去、あるいは有機溶媒で置換される。
【0057】
塩素化ポリオレフィンの塩素含有率は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。本明細書において、塩素含有率はJIS−K7229に準じて測定した値である。
【0058】
酸変性ポリオレフィンは、不飽和カルボン酸系化合物で変性されたポリオレフィンである。
不飽和カルボン酸系化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸誘導体、不飽和カルボン酸無水物が挙げられる。不飽和カルボン酸とは、カルボキシ基を含有する不飽和化合物を意味する。不飽和カルボン酸誘導体とは該化合物のモノ又はジエステル、アミド、イミド等を意味する。不飽和カルボン酸無水物とは該化合物の無水物を意味する。これらの中でも、不飽和カルボン酸が好ましい。
不飽和カルボン酸系化合物としては、例えば、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、アコニット酸、ナジック酸及びこれらの無水物、フマル酸メチル、フマル酸エチル、フマル酸プロピル、フマル酸ブチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジプロピル、フマル酸ジブチル、マレイン酸メチル、マレイン酸エチル、マレイン酸プロピル、マレイン酸ブチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジプロピル、マレイン酸ジブチル、マレイミド、N−フェニルマレイミド、(メタ)アクリル酸、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。これらの中でも、マレイン酸、又はアクリル酸が好ましい。
酸変性の方法としては、ポリオレフィンに不飽和カルボン酸系化合物と必要に応じて特定の(メタ)アクリル酸エステルをモノマーとして併用し、グラフト共重合して変性する方法が挙げられる。
不飽和カルボン酸系化合物のグラフト量は、酸変性前のポリオレフィンに対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは5質量%以上、更に好ましくは8質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下である。
【0059】
変性の条件は、例えば、溶融法、溶液法等の方法に従って行うことができる。
溶融法による場合には、ラジカル反応開始剤の存在下でポリオレフィンを加熱融解(加熱溶融)して反応させる。
溶液法による場合には、ポリオレフィンを有機溶媒に溶解させた後、ラジカル反応開始剤の存在下に加熱撹拌して反応させる。有機溶媒としては、トルエン、キシレン等の芳香族系溶媒が挙げられる。反応の際の温度は、好ましくは100℃以上180℃以下である。
溶融法及び溶液法で用いるラジカル反応開始剤としては、有機過酸化物系化合物、アゾニトリル類等が挙げられる。
【0060】
酸変性ポリオレフィンは、更に塩素化反応させたものを用いることもできる。塩素化反応方法及び塩素含有率は、前述の好ましい例と同様である。
【0061】
また、ヒドロキシ変性の方法としては、水酸基を有するラジカル開始剤又は停止剤を用いてオレフィンの重合を行うことで、ポリオレフィンの末端にヒドロキシ基を導入する方法等が挙げられる。
その他、水酸基又はアミノ基を導入することでの変性ポリオレフィンとしては、特許2768475号に記載の通り、ポリオレフィンと水酸基又はアミノ基を有するエチレン性不飽和化合物をラジカル開始剤の存在下で接触させることで得る方法が挙げられる。
【0062】
(変性ポリオレフィン樹脂粒子の製造方法)
変性ポリオレフィン樹脂粒子は、前述の変性ポリオレフィンを含む樹脂を水性媒体中に分散して、変性ポリオレフィン樹脂粒子の分散液(Ib2)として得る方法により製造することが好ましい。また、水性品、或いは、水性分散品として市販されている変性ポリオレフィン樹脂粒子を使用することもできる。
【0063】
変性ポリオレフィン樹脂粒子の製造方法は、前述のポリエステル樹脂粒子(A)と同様の方法が好ましい例として挙げられる。例えば、変性ポリオレフィンを含む樹脂を水性媒体に添加して分散機等によって分散処理を行う方法、変性ポリオレフィンを含む樹脂に水性媒体を徐々に添加して転相乳化させる方法等が挙げられる。転相乳化法としては、先ず変性ポリオレフィンを含む樹脂を有機溶媒に溶解させ、次いで、この溶液に水性媒体を添加して転相し、その後、有機溶媒を除去することが好ましい。
【0064】
有機溶媒としては、変性ポリオレフィンを含む樹脂を溶解させる観点から、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、及びジエチルケトン等のケトン系溶媒;ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、及びジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸イソプロピル等の酢酸エステル系溶媒;ジクロロメタン、クロロホルム等のハロゲン化アルキル系溶媒;トルエン等の炭化水素系溶媒が挙げられる。水性媒体添加後の混合液からの除去が容易である観点からは、ケトン系溶媒及び酢酸エステル系溶媒から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
また、変性ポリオレフィンを含む樹脂の水性媒体への親和性を向上させ、分散液(Ib2)の分散安定性を向上させる観点から、前述の塩基性化合物、及び界面活性剤等を使用してもよい。
その他、分散条件等の好ましい態様も、前述のポリエステル樹脂粒子(A)の製造方法と同様である。
【0065】
変性ポリオレフィン樹脂粒子の分散液(Ib2)の固形分濃度は、各種樹脂製記録媒体への優れた密着性を得る観点から、好ましくは5質量%以上、より好ましくは10質量%以上、更に好ましくは20質量%以上、更に好ましくは25質量%以上であり、そして、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下、更に好ましくは40質量%以下、更に好ましくは35質量%以下である。
【0066】
変性ポリオレフィン樹脂粒子の分散液(Ib2)の市販品としては、例えば、「スーパークロン」シリーズの、「E−415」、「E−480T」、「E−604」、「E−723」(以上、日本製紙株式会社製)、「ハードレン」シリーズの、「EH−801」、「NA−3002」、「NZ−1001」、「NZ−1004」、「EW−5303」、「EZ−1001」(以上、東洋紡株式会社製)、「アウローレン」シリーズの、「AE−202」、「AE−301」(以上、日本製紙株式会社製)、「アプトロック」シリーズの、「BW−5550」(三菱化学株式会社製)、「アローベース」シリーズの、「SA−1200」、「SB−1200」、「SB−1010」、「SE−1200」(以上、ユニチカ株式会社製)等が挙げられる。
【0067】
変性ポリオレフィン樹脂粒子は、本発明の効果を損なわない範囲で、変性ポリオレフィン以外の樹脂、例えば、スチレン−アクリル共重合体、エポキシ樹脂、ポリカーボネート、ポリウレタン等の樹脂を含有してもよい。
【0068】
変性ポリオレフィン樹脂粒子を構成する樹脂中の変性ポリオレフィンの含有量は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは70質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは90質量%以上であり、更に好ましくは95質量%以上であり、そして、100質量%以下である。
【0069】
水性分散液(I)中の変性ポリオレフィン樹脂粒子の含有量は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは0.5質量%以上、より好ましくは1.0質量%以上、更に好ましくは1.5質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下、更に好ましくは20質量%以下である。
【0070】
<有機溶剤>
水性分散液(I)に配合される有機溶剤は、定着性及び保存性に優れる水性分散液(I)を得る観点から、100℃以上250℃以下の沸点を有する。
有機溶剤の沸点は、定着性及び保存性をより向上させる観点から、好ましくは120℃以上、より好ましくは150℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、そして、好ましくは230℃以下、より好ましくは210℃以下、更に好ましくは200℃以下である。
「沸点」とは、760mmHgでの沸点を意味する。
有機溶剤としては、水性有機溶剤が好ましい。水性有機溶剤とは、25℃で水100質量部中に10質量部以上溶解する有機溶剤である。
有機溶剤としては、例えば、プロピレングリコール(沸点187℃)、1,2−ブタンジオール(沸点190℃)、1,3−ブタンジオール(沸点207℃)等のアルコール系溶剤;ジエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点193℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点135℃)、ジエチレングリコールモノプロピルエーテル(沸点151℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点141℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルメチルエーテル(沸点179℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点230℃)、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル(沸点220℃)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(沸点171℃)等のアルキレングリコール系溶剤が挙げられる。これらの中でも、アルキレングリコール系溶剤が好ましい。
水性分散液(I)において、有機溶剤の含有量は、水性分散液(I)中、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
水性分散液(I)において、有機溶剤の含有量は、水と有機溶剤との合計量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは2質量%以上、更に好ましくは4質量%以上であり、そして、好ましくは30質量%以下、より好ましくは20質量%以下、更に好ましくは15質量%以下である。
【0071】
有機溶剤は、沸点100℃以上250℃以下の有機溶剤以外のその他の有機溶剤を併用することができる。沸点250℃超の有機溶剤の含有量は、水性分散液中、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下、更に好ましは1質量%以下であり、そして、好ましくは0質量%である。
沸点250℃超の有機溶剤としては、例えば、トリエチレングルコールモノブチルエーテル、グリセリン等が挙げられる。
【0072】
<水>
水性分散液(I)に用いる水としては、脱イオン水、イオン交換水及び蒸留水等の純水、超純水が好ましい。
水の含有量は、水性分散液(I)中、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上であり、そして、好ましくは80質量%以下、より好ましくは70質量%以下である。
【0073】
[水性分散液(I)の製造方法]
水性分散液(I)は、例えば、ポリエステル樹脂粒子(A)の分散液(Ia)と、ウレタン樹脂粒子の分散液(Ib1)及び変性ポリオレフィン樹脂粒子の分散液(Ib2)から選ばれる少なくとも1種の分散液とを混合する工程と、
混合された分散液と、沸点100℃以上250℃以下の有機溶剤を混合する工程とを有する製造方法により得られる。
上記有機溶剤を混合する工程後、金網等でろ過を行い粗大粒子を除去してもよい。
【0074】
水性分散液(I)は、白色顔料等の下地材に用いられる顔料を含有していてもよい。
ただし、水性分散液(I)は、着色剤を含有しないことが好ましい。なお、着色剤とは、可視光領域に極大吸収波長を有する着色剤である。
着色剤の含有量は、水性分散液中、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下、更に好ましくは0.1質量%以下、そして好ましくは0質量%である。
【0075】
水性分散液(I)は、液体現像剤受容層形成用として用いられる。
受容層とは、液体現像剤のトナー粒子の定着性を高めるために設けられる層である。例えば、トナー受容層は、水性分散液を樹脂製記録媒体上に塗工することで形成される。水性分散液は、より具体的には、後述の液体現像剤受容層付樹脂製記録媒体の製造方法で使用される。
【0076】
[樹脂製記録媒体の製造方法]
液体現像剤受容層付樹脂製記録媒体の製造方法は、例えば、樹脂製記録媒体上に、水性分散液を用いてトナー受容層を形成する工程を有する。
樹脂製記録媒体としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリプロピレン(PP)、ナイロン(NY)等の非吸水性又は低吸水性の樹脂製記録媒体へ好適に用いることができることから、商業又は産業用印刷への使用に適している。樹脂製記録媒体は、コロナ処理された基材を用いてもよい。
なお、「非吸水性又は低吸水性」とは、記録媒体と水との接触時間100m秒における記録媒体の吸水量が0g/m2以上10g/m2以下であることを意味する。
【0077】
樹脂製記録媒体としては、好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム、ポリプロピレンフィルム及びナイロンフィルムから選ばれる少なくとも1種であり、より好ましくはポリエチレンテレフタレートフィルム及びポリプロピレンフィルムである。
フィルムの市販品としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート「ルミラーT60」(東レ株式会社製)、ポリ塩化ビニル「PVC80B P」(リンテック株式会社製)、ポリ塩化ビニル「DGS−210WH」(ローランドディージー株式会社製)、透明塩化ビニル「RE−137」(株式会社ミマキエンジニアリング製)、ポリエチレン「カイナスKEE70CA」(リンテック株式会社製)、ポリプロピレン「ユポSG90 PAT1」(リンテック株式会社製)、ポリプロピレン「FOR」、「FOA」(いずれもフタムラ化学株式会社製)、ナイロン「ボニールRX」(興人フィルム&ケミカルズ株式会社製)、ナイロン「エンブレムONBC」(ユニチカ株式会社製)が挙げられる。
【0078】
水性分散液(I)を用いてトナー受容層を形成する方法は特に限定されないが、公知の塗工方法を使用することができる。
塗工に用いられる塗工機としては、例えば、バーコータ、エアードクターコータ、ブレードコータ、リバースロールコータ、グラビアコータ、キスロールコータ、キャストコータ、カーテンコータが挙げられる。これらの中でも、バーコータが好ましい。
また、塗工と同様にトナー受容層を形成する方法として、例えば、グラビア印刷方式(凹版)、フレキソ印刷方式(凸版)、インクジェット印刷方式、電子写真方式等、各種の公知の印刷方式を用いて、トナー受容層を形成してもよい。
【0079】
[画像形成方法]
本発明の画像形成方法は、例えば、
トナー受容層上に、トナー粒子を含む液体現像剤を用いて画像形成する工程を有する。
液体現像剤は、例えば、トナー粒子及び絶縁性液体を含有し、当該トナー粒子は絶縁性液体中に分散している。
トナー粒子としては、例えば、ポリエステル樹脂を含有するトナー粒子が用いられる。
絶縁性液体とは、1.0×10−10s/m以下の導電率を有する液体を意味する。絶縁性液体としては、例えば、流動パラフィン、イソパラフィン等の脂肪族炭化水素、脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、ハロゲン化炭化水素等の炭化水素系溶媒、ポリシロキサン、植物油等が挙げられる。
画像形成は、公知の液体現像方式の印刷機を用いた、液体現像方式の電子写真法により行われる。液体現像方式の印刷機の市販品としては、例えば、「IndigoPress 3500」、「Indigo Press 4500」、「EPRINT1000」(以上、ヒューレットパッカード社製)、「CT−5085」(株式会社リコー製)が挙げられる。
【実施例】
【0080】
以下に実施例等により、本発明を更に具体的に説明する。以下の実施例等においては、各物性は次の方法により測定した。
【0081】
[測定方法]
〔樹脂の酸価〕
JIS K0070に従って測定した。但し、測定溶媒をアセトンとトルエンの混合溶媒〔アセトン:トルエン=1:1(容量比)〕とした。
【0082】
〔樹脂の軟化点〕
フローテスター「CFT−500D」(株式会社島津製作所製)を用い、1gの試料を昇温速度6℃/minで加熱しながら、プランジャーにより1.96MPaの荷重を与え、直径1mm、長さ1mmのノズルから押し出した。温度に対し、フローテスターのプランジャー降下量をプロットし、試料の半量が流出した温度を軟化点とした。
【0083】
〔樹脂のガラス転移温度〕
示差走査熱量計「Q−100」(ティー エイインスツルメント ジャパン株式会社製)を用いて、試料0.01〜0.02gをアルミパンに計量し、200℃まで昇温し、その温度から降温速度10℃/minで0℃まで冷却し、測定用サンプルを調製した。その後、昇温速度10℃/minで昇温し、熱量を測定した。観測される吸熱ピークのうち、ピーク面積が最大のピーク温度を吸熱の最大ピーク温度とし、吸熱の最大ピーク温度以下のベースラインの延長線と、該ピークの立ち上がり部分からピークの頂点までの最大傾斜を示す接線との交点の温度をガラス転移温度とした。
【0084】
〔樹脂粒子の体積平均粒径(DV)〕
(1)測定装置:ゼータ電位・粒径測定システム「ELSZ−2」(大塚電子株式会社製)
(2)測定条件:キュムラント解析法。測定する粒子の濃度が約5×10-3質量%になるように水で希釈した分散液を測定用セルに入れ、温度25℃、入射光と検出器との角度90°、積算回数100回、分散溶媒の屈折率として水の屈折率(1.333)を入力して測定した。
【0085】
〔樹脂粒子の分散液の固形分濃度〕
赤外線水分計「FD−230」(株式会社ケツト科学研究所製)を用いて、測定試料5gを乾燥温度150℃、測定モード96(監視時間2.5分/変動幅0.05%)の条件にて乾燥させ、水性分散液の水分(質量%)を測定した。固形分濃度は次の式に従って算出した。
固形分濃度(質量%)=100−水分(質量%)
【0086】
[樹脂の製造例]
製造例A1
樹脂A−1の製造
窒素導入管、脱水管、撹拌機、及び熱電対を装備した四つ口フラスコの内部を窒素置換し、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンのポリオキシプロピレン(2.2)付加物6160g、フマル酸2125g、酸化ジブチル錫10g、及び4−tert−ブチルカテコール4gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、5時間かけて210℃まで昇温し、210℃で2時間保持した後、フラスコ内の圧力を下げ、8.3kPaにて軟化点が100℃に達するまで反応を行い、ポリエステル樹脂A−1を得た。物性を表1に示す。
【0087】
製造例A2
樹脂A−2の製造
温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサーを備えた脱水管及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコの内部を窒素置換し、1,2−プロパンジオール2921g、フマル酸1114g、テレフタル酸4466g、酸化ジブチル錫10g、及び4−tert−ブチルカテコール4gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、180℃に昇温した後、5時間かけて210℃まで昇温した。更に220℃まで昇温し、フラスコ内の圧力を下げ、8.3kPaにて3時間保持させて、樹脂A−2を得た。物性を表1に示す。
【0088】
【表1】
【0089】
[原料分散液の製造例]
製造例EM1〜EM2;分散液(Ia)の製造(分散液EM−1〜EM−2)
窒素導入管、還流冷却管、撹拌器「スリーワンモーターBL300」(新東科学株式会社製)及び熱電対を装備した2L容の四つ口フラスコに、表2に示す種類及び配合量の樹脂を入れ、30℃でメチルエチルケトン200gと混合し溶解させた。次いで、表に示す量の5質量%水酸化ナトリウム水溶液を添加して30分撹拌後、30℃で撹拌しながら、20mL/minの速度でイオン交換水を滴下し、60℃に昇温した。次いで、60℃にて、80kPaから30kPaに段階的に減圧しながらメチルエチルケトンを留去し、更に一部の水を除去した。25℃まで冷却後、150メッシュの金網で濾過し、イオン交換水にて固形分濃度を40質量%に調整し、ポリエステル樹脂粒子の分散液EM−1〜EM−2を得た。
【0090】
【表2】
【0091】
[水性分散液(I)の製造]
実施例1
還流冷却管、撹拌器、及び熱電対を装備した四つ口フラスコに、ポリエステル樹脂粒子の分散液EM−1を304g、ポリウレタン樹脂粒子の分散液「WBR−016U」(大成ファインケミカル株式会社製、固形分濃度30質量%)を101g入れて混合した。次いで撹拌しながら、65℃に昇温し、65℃で80kPaから30kPaに段階的に減圧しながら一部の水を除去し固形分濃度を41質量%にした。次に25℃まで冷却した後、撹拌しながら、ジエチレングリコールモノメチルエーテルを30g添加して60分混合し、150メッシュの金網でろ過し、水性分散液1を得た。水性分散液1の組成を表1に示す。
【0092】
実施例2〜8、比較例1〜3
表3に示す種類及び配合量の原料の分散液、水性有機溶剤とした以外は、実施例1と同様にして、水性分散液(I)2〜8,51〜53を得た。各水性分散液の組成を表1に示す。
【0093】
[評価、樹脂製記録媒体の製造、及び画像形成方法]
得られた水性分散液(I)は、以下の方法により評価した。
〔定着性の評価〕
作製した水性分散液(I)をバーコータ(NO.3)にて、二軸延伸PETフィルム「ルミラー75T60」(東レ株式会社製)、及びコロナ処理PPフィルム「FOR−15」(フタムラ化学株式会社製)に塗工し、80℃の乾燥機にて5分乾燥し、室温25℃、相対湿度50%の環境室にて1日静置して試料(受容層付樹脂製記録媒体)を調製した。
次に、液体現像方式の印刷機「IndigoPress 3500」(ヒューレットパッカード社製)に以下の製造例で述べる液体現像剤を充填し、現像量1.2g/mとなるように、水性分散液を塗工したPETフィルム及びPPフィルムにそれぞれベタ画像を印字し、画像形成した。
その後、試料の印刷面にテープ「セロテープ(登録商標)CT15」(ニチバン株式会社製)を貼りつけ、角度90°で10cm/secの速度で該テープを剥がし、試料の塗工面の残存面積を目視により次の5段階で評価した。点数が高いほど各種フィルムへの定着性に優れる。
<評価基準>
剥離なし、又は剥離があるが剥離面積5%未満:5点
剥離面積5%以上25%未満:4点
剥離面積25%以上50%未満:3点
剥離面積50%以上75%未満:2点
剥離面積75%以上:1点
【0094】
〔保存性の評価〕
作製した水性分散液(I)をバーコータ(NO.3)にて、二軸延伸PETフィルム「ルミラー75T60」(東レ株式会社製)に塗工し、80℃の乾燥機にて5分乾燥し、室温25℃、相対湿度50%の環境室にて1日静置して試料(受容層付樹脂製記録媒体)を調製した。
この試料を、水性分散液(I)の塗工面同士が接触するように重ね合せた状態で、1kgの重りを載せ1日静置したものについて、重ね合せた面の貼り付きについて次の5段階で評価した。
<評価基準>
貼り付きなし、又は貼り付きあるが極わずか:5点
貼り付き面積10%未満:4点
貼り付き面積10%以上25%未満:3点
貼り付き面積25%以上50%未満:2点
貼り付き面積50%以上:1点
【0095】
〔評価用の液体現像剤の製造〕
前述の評価で使用した液体現像剤は、以下の方法で製造した。
(樹脂の製造)
温度計、ステンレス製攪拌棒、流下式コンデンサーを備えた脱水管及び窒素導入管を装備した10リットルの四つ口フラスコの内部を窒素置換し、1,2−プロパンジオール3640g、テレフタル酸6360g、酸化ジブチル錫10gを入れ、窒素雰囲気下、撹拌しながら、180℃に昇温した後、5時間かけて210℃まで昇温した。更に220℃まで昇温し、フラスコ内の圧力を下げ、8.3kPaにて2時間保持させて、液体現像剤用樹脂D−1を得た。軟化点は87℃、ガラス転移温度は47℃、酸価は10mgKOH/gであった。
【0096】
(液体現像剤用トナーの作製)
得られた樹脂D−1を85質量部、顔料「ECB−301」(大日精化工業株式会社製、フタロシアニンブルー15:3)を15質量部、予め20L容のヘンシェルミキサー内で、回転速度1500r/min(周速度21.6m/sec)で3分間攪拌混合した後、連続式二本オープンロール型混練機「ニーデックス」(三井鉱山株式会社製、ロール外径:14cm、有効ロール長:55cm)を使用して溶融混練した。混練条件は、高回転側ロール(フロントロール)回転速度75r/min(周速度32.4m/min)、低回転側ロール(バックロール)回転速度35r/min(周速度15.0m/min)、混練物供給口側端部のロール間隙0.1mm、ロール内の加熱媒体温度及び冷却媒体温度は、高回転側ロールの原料投入側が90℃及び混練物排出側が85℃であり、低回転側ロールの原料投入側が35℃及び混練物排出側が35℃であった。また、原料混合物の上記混練機への供給速度は10kg/hで混練した。
得られた混練物を冷却ロールで圧延冷却した後、ハンマーミルを用いて1mm程度に粗粉砕した。得られた粗粉砕物を気流式ジェットミル「IDS」(日本ニューマチック工業株式会社製)により微粉砕及び分級し、体積中位粒径D50が10μmのトナー粒子を得た。
【0097】
(液体現像剤の製造)
液体現像剤用トナー105g、絶縁性液体「エクソールD80」(エクソンモービル社製)を187.1g、分散剤「ソルスパース13940」(ルーブリゾール社製)を7.9gを2L容のポリエチレン製容器に入れ、「T.K.ロボミックス」(プライミクス株式会社製)を用いて、氷冷しながら、回転数7000r/minにて30分間攪拌を行い、トナー粒子分散液を得た。
次に、得られたトナー粒子分散液を、直径0.8mmのジルコニアビーズを用いて、体積充填率60体積%にて、6連式サンドミル「TSG‐6」(アイメックス株式会社製)で回転速度1300r/min(周速度4.8m/sec)にて4時間湿式粉砕した。ジルコニアビーズを金網ろ過により除去し、絶縁性液体で25質量%に希釈後、粒径2.2μm、粘度24mPa.s、固形分濃度25質量%の液体現像剤を得た。
【0098】
【表3-1】
【0099】
【表3-2】
【0100】
表3中、各略語は以下のとおりの意味である。
BU−1:ポリウレタン樹脂粒子分散液「WBR−016U」(大成ファインケミカル株式会社製、固形分濃度30質量%)
BU−2:ポリウレタン樹脂粒子分散液「スーパーフレックス170」(第一工業製薬株式会社製、固形分濃度33質量%)
BO−1:ポリオレフィン樹脂粒子分散液「スーパークロンE−480T」(日本製紙株式会社製、固形分濃度30質量%)
DEGMM:ジエチレングリコールモノメチルエーテル
DPGDM:ジプロピレングリコールジメチルエーテル
DEGPM:ジエチレングリコールイソプロピルメチルエーテル
【0101】
以上、実施例及び比較例を対比することで、所定範囲のガラス転移温度を有するポリエステル樹脂粒子(A)と、ポリウレタン樹脂粒子及び変性ポリオレフィン樹脂粒子から選ばれる少なくとも1種の樹脂粒子(B)と、沸点100℃以上250℃以下の有機溶剤と、を含有し、ポリエステル樹脂粒子(A)と樹脂粒子(B)との質量比が所定範囲内であることで、液体現像剤に含まれるトナー粒子の樹脂製記録媒体への定着性を向上し、更に、塗工後の記録媒体の保存性にも優れた結果を示すことが理解できる。