(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844849
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】振動締固め機用前後進切換ハンドポンプ
(51)【国際特許分類】
E01C 19/34 20060101AFI20210308BHJP
E01C 19/38 20060101ALI20210308BHJP
F16K 15/06 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
E01C19/34 A
E01C19/38
F16K15/06
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-212676(P2017-212676)
(22)【出願日】2017年11月2日
(65)【公開番号】特開2019-85721(P2019-85721A)
(43)【公開日】2019年6月6日
【審査請求日】2019年6月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000175386
【氏名又は名称】三笠産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107375
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 明広
(72)【発明者】
【氏名】永澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 康太
【審査官】
荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2002−317405(JP,A)
【文献】
特開2002−195112(JP,A)
【文献】
特開2017−145578(JP,A)
【文献】
特開2000−017607(JP,A)
【文献】
特開2002−339313(JP,A)
【文献】
特開2005−179976(JP,A)
【文献】
特開2005−200830(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/00−19/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動締固め機の機体内に搭載される起振装置と油圧ホースを介して接続されて用いられる振動締固め機用前後進切換ハンドポンプであって、
シリンダと、シリンダの内部に挿入された駆動ピストンと、駆動ピストンの後方側に形成されたオイルタンクと、シリンダの開口部側の内部に配置されたガイドチューブと、ガイドチューブの外周面とシリンダの内周面との間に配置されたリング状の補助ピストンとを有し、
ガイドチューブは、シリンダに対して固定された基端部から駆動ピストンに向かって突出するように形成されるとともに、シリンダの開口部とシリンダの内部との間で作動油を流通させる内部流路を有し、
補助ピストンは、ガイドチューブの軸線方向へ摺動可能なように構成されるとともに、ガイドチューブの基端部と補助ピストンの間に配置された補助スプリングによって駆動ピストン側へ常時付勢され、
ガイドチューブの基端部と補助ピストンとの間の空間が、基端部内に形成されている空気流路、及び、シリンダの先端部の内周側に形成され、防塵フィルターが配置された環状の空気流路、及び、環状の空気流路からシリンダの長手方向に沿って延在し、シリンダの開口部と同方向へ向かって開口する空気流路を介して外気と連通していることを特徴とする振動締固め機用前後進切換ハンドポンプ。
【請求項2】
補助ピストンを駆動ピストン側へ付勢する補助スプリングとして、起振装置側からの機械的押し戻し力よりも大きな付勢力を有しているものが用いられていることを特徴とする、請求項1に記載の振動締固め機用前後進切換ハンドポンプ。
【請求項3】
駆動ピストンが、シリンダの内周面と摺接する外筒部と、外筒部の内側に配置された内挿部とによって構成され、
駆動ピストンの後方側には、前後進レバーが接続されるとともに先端にローラが枢着されたカムが配置され、
駆動ピストンの内挿部の後半部には、ローラの前方側と後方側を押さえて内側に保持するリンク機構部が形成され、
駆動ピストン内に、シリンダの油圧ホース側とオイルタンク側とを連通させる流通路、及び、当該流通路を開閉するチェック弁が形成され、
チェック弁は、内挿部において形成されたオイルタンク側の弁体と、外筒部において形成された油圧ホース側の弁座とによって構成され、外筒部と内挿部との間に配置されているチェック弁スプリングによって、オイルタンク側の弁体が油圧ホース側の弁座に押し付けられて、チェック弁が閉じる方向へ常時付勢されていることを特徴とする、請求項1又は請求項2に記載の振動締固め機用前後進切換ハンドポンプ。
【請求項4】
チェック弁スプリングとして、起振装置側から作用する機械的押し戻し力よりも大きな付勢力を有するものが用いられていることを特徴とする、請求項3に記載の振動締固め機用前後進切換ハンドポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤等の締固め作業に用いられる振動締固め機用のハンドポンプに関し、特に、起振装置における一対の偏心振子のうち、一方の偏心振子の回転の位相を変化させて、その合成ベクトルにより機体を前後進させるように構成された振動締固め機において用いられる前後進切換ハンドポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、起振装置における一対の偏心振子のうち、一方の偏心振子の回転の位相(他方の偏心振子に対する位相)を変化させ、その合成ベクトルによって機体を前進或いは後進させることができるように(前後進を切り換えることができるように)構成された振動締固め機が知られている。この種の振動締固め機は、操作ハンドルに取り付けられた前後進レバーを回動させることによって油圧動力を発生させ、この油圧動力によって偏心振子の位相を自在に変更できるように構成されていることが多い。
【0003】
より具体的には、起振装置の前後進切換軸(一方の偏心振子の位相を変更する軸)を動作させる油圧シリンダ(従動ピストンを内蔵)と、機体の操作ハンドルに設けられた前後進切換ハンドポンプ(以下、単に「ハンドポンプ」と称する。)の油圧シリンダ(駆動ピストンを内蔵)との間が、油圧ホースによって接続され、ハンドポンプの駆動ピストンと起振装置の従動ピストンとが油圧力によって連動するように構成されており、ハンドポンプに取り付けられた前後進レバーを回動操作(前傾〜後傾)すると、ハンドポンプの駆動ピストンが動作するとともに、起振装置の従動ピストン(及び前後進切換軸)が動作し、これによって偏心振子の位相が変更され、前後進の切り換え及び速度調節が行われるようになっている。
【0004】
このような振動締固め機のうち、機体重量が200kg以下のいわゆる軽量級の振動締固め機においては、操作の簡便性等を考慮して、操作者が前後進レバーから手を放すと、最終的に機体の進行方向と速度が「全速前進」となる仕組みが採られている。つまり、起振装置において偏心振子が回転している際、起振装置の従動ピストンは、偏心振子の回転によって生じる反力(機械的押し戻し力)により、常にハンドポンプ(駆動ピストン)側へ作動油を吐出する方向に付勢されており、操作者が前後進レバーから手を放すと、この機械的押し戻し力によって起振装置からハンドポンプ側へ作動油が押し出されることになる。そしてこの状態を継続すると、最終的にハンドポンプの油圧シリンダ内に最大量の作動油が流入し、駆動ピストンが後方側(油圧ホースとは反対側)へ押し込まれ、機体の進行方向と速度は「全速前進」となる。
【0005】
前後進レバーが「全速前進」の位置にある状態(駆動ピストンがハンドポンプ内の最も後方側に押し込まれた状態)から、操作者が前後進レバーを操作すると、その操作量に応じてハンドポンプ内の駆動ピストンが油圧ホース側へ移動し、ハンドポンプから作動油が吐出されるとともに、起振装置の油圧シリンダ内に作動油が流入し、偏心振子の回転による機械的押し戻し力に抗して従動ピストンが後方側(油圧ホースとは反対側)へ押し込まれ、偏心振子の位相が変更される。その結果、機体の進行方向が切り換えられ、速度調節が行われる。
【0006】
この種のハンドポンプに関しては、現在まで、種々の観点から様々な改良が行われており、例えば、特許文献1には、操作力を低減し、操作者への負担を軽減し、操作追従性を向上させることができるハンドポンプが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017−145578号公報
【特許文献2】特開2000−17607号公報
【特許文献3】特開2002−317405号公報
【特許文献4】特開2002−339313号公報
【特許文献5】特開2005−179976号公報
【特許文献6】特開2005−200830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示されているハンドポンプは、前後進レバーが後進側から前進側へ急激に操作された場合において、駆動ピストンに配置されたチェック弁が開放され、シリンダ内の空間とオイルタンクとが連通するように構成されているため、急激な切換操作によって機体に生じ得る衝撃を和らげることができるが、前後進レバーが前進側から後進側へ急激に操作された場合には、大量の作動油がシリンダ内の空間から油圧ホース側へ瞬時に吐出され、起振装置の従動ピストン及び前後進切換軸が急激に切り換わることによって、機体に衝撃が生じかねないという問題がある。
【0009】
本発明は、このような従来技術における問題を解決しようとするものであって、前後進レバーが後進側から前進側へ急激に操作された場合だけでなく、前進側から後進側へ急激に操作された場合においても、機体の動作方向を滑らかに切り換えることができる振動締固め機用前後進切換ハンドポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る振動締固め機用前後進切換ハンドポンプは、振動締固め機の機体内に搭載される起振装置と油圧ホースを介して接続されて用いられ、シリンダと、シリンダの内部に挿入された駆動ピストンと、駆動ピストンの後方側に形成されたオイルタンクと、シリンダの開口部側の内部に配置されたガイドチューブと、ガイドチューブの外周面とシリンダの内周面との間に配置されたリング状の補助ピストンとを有し、ガイドチューブは、シリンダに対して固定された基端部から駆動ピストンに向かって突出するように形成されるとともに、シリンダの開口部とシリンダの内部との間で作動油を流通させる内部流路を有し、補助ピストンは、ガイドチューブの軸線方向へ摺動可能なように構成されるとともに、ガイドチューブの基端部と補助ピストンの間に配置された補助スプリングによって駆動ピストン側へ付勢され、ガイドチューブの基端部と補助ピストンとの間の空間が、空気流路を介して外気と連通していることを特徴としている。
【0011】
尚、このハンドポンプにおいては、空気流路内のいずれかの位置に、防塵フィルターが配置されていることが好ましく、また、補助ピストンを駆動ピストン側へ付勢する補助スプリングとして、起振装置側からの機械的押し戻し力よりも大きな付勢力を有しているものを用いることが好ましい。
【0012】
また、駆動ピストンが、シリンダの内周面と摺接する外筒部と、外筒部の内側に配置された内挿部とによって構成され、駆動ピストンの後方側には、前後進レバーが接続されるとともに先端にローラが枢着されたカムが配置され、駆動ピストンの内挿部の後半部には、ローラの前方側と後方側を押さえて内側に保持するリンク機構部が形成され、駆動ピストン内に、シリンダの油圧ホース側とオイルタンク側とを連通させる流通路、及び、当該流通路を開閉するチェック弁が形成され、 チェック弁は、内挿部において形成されたオイルタンク側の弁体と、外筒部において形成された油圧ホース側の弁座とによって構成され、外筒部と内挿部との間に配置されているチェック弁スプリングによって、オイルタンク側の弁体が油圧ホース側の弁座に押し付けられて、チェック弁が閉じる方向へ常時付勢されていることが好ましく、更にこの場合、チェック弁スプリングとして、起振装置側から作用する機械的押し戻し力よりも大きな付勢力を有するものを用いることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の振動締固め機用前後進切換ハンドポンプは、前後進レバーが後進側から前進側へ急激に操作された場合だけでなく、前進側から後進側へ急激に操作された場合においても、機体に生じ得る衝撃を和らげることができ、動作方向を滑らかに切り換えることができる。また、急激な操作によって油圧回路内に生じた余剰圧力を吸収する補助ピストンが、シリンダ内に配置されているため、塵埃が浮遊する作業環境から好適に保護することができ、塵埃等の異物に起因する補助ピストンの摺動摩擦抵抗の増大という問題を好適に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明に係るハンドポンプ1の内部構造を示す断面図であって、機体が「全速前進」となる状態を示す図である。
【
図2】
図2は、本発明に係るハンドポンプ1の内部構造を示す断面図であって、機体の進行方向が「中立」となる状態を示す図である。
【
図3】
図3は、本発明に係るハンドポンプ1の内部構造を示す断面図であって、機体が「全速後進」となる状態を示す図である。
【
図4】
図4は、本発明に係るハンドポンプ1の内部構造を示す拡大断面図であって、チェック弁54が閉じている状態を示す図である。
【
図5】
図5は、本発明に係るハンドポンプ1の内部構造を示す拡大断面図であって、チェック弁54が開いた状態を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明に係るハンドポンプ1の内部構造を示す拡大断面図であって、補助ピストン10が基本位置にある状態を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明に係るハンドポンプ1の内部構造を示す拡大断面図であって、補助ピストン10が基端部11b側へ移動した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、添付図面に沿って本発明「振動締固め機用前後進切換ハンドポンプ」(以下、単に「ハンドポンプ」と称する。)の実施形態について説明する。本発明に係るハンドポンプは、振動締固め機(図示せず)の後方に突設される操作ハンドル(図示せず)の上部に傾斜姿勢で装着され、振動締固め機の機体内に搭載される起振装置(図示せず)側の油圧シリンダ(従動ピストンが内挿され、前後進切換軸を軸線方向へ移動させて一方の偏心振子の位相を変更する)と油圧ホース(図示せず)を介して接続されて用いられる。
【0016】
図1は、本発明に係るハンドポンプ1の内部構造を示す断面図である。図示されているようにこのハンドポンプ1は、ケーシング2内に、シリンダ3(油圧シリンダ)と、オイルタンク4が形成されている。尚、このハンドポンプ1は、
図1においては、シリンダ3等が水平となる向きで表示されているが、実際には、オイルタンク4側(
図1において右側)が上方となる傾斜姿勢で、振動締固め機の操作ハンドル(図示せず)に取り付けられる。
【0017】
シリンダ3の前方(
図1において左側)には、図示しない油圧ホースと接続され、作動油が出入りする開口部3aが形成されており、シリンダ3の内部には、シリンダ3の軸線方向へ往復動可能なように挿入された駆動ピストン5が配置されている。この駆動ピストン5は、シリンダ3の内周面と摺接する外筒部51と、外筒部51の内側に配置された内挿部52とによって構成されている。
【0018】
ケーシング2内(オイルタンク4内)には、水平な中心軸線C周りに回動可能なように保持されたカム6が配置されており、カム6の先端には、カム6の回動動作を駆動ピストン5へ円滑に伝達するためのローラ7が枢着されている。また、オイルタンク4内においては、駆動ピストン5の内挿部52の後半部が突出した状態となっており、この内挿部52の後半部には、ローラ7の前方側(
図1において左側)と後方側(
図1において右側)を押さえてローラ7を内側に保持するリンク機構部52aが形成されている。
【0019】
尚、カム6には、前後進レバー9の基端部が固定されており、操作者が前後進レバー9を回動させると、カム6が軸線C周りに回動し、その先端のローラ7が所定範囲内で揺動する。より具体的には、前後進レバー9を前傾させるとローラ7が後方側(
図1において右側)へ移動し、前後進レバー9を後傾させるとローラ7が前方側(
図1において左側)へ移動する。このようなローラ7の揺動動作は、ローラ7を内側に保持しているリンク機構部52aを介して、シリンダ3内における駆動ピストン5の往復動作に変換される。そして、駆動ピストン5の往復動作により、作動油が、シリンダ3内から油圧ホース側へ吐出され、或いは、油圧ホース側からシリンダ3内へ流入し、起振装置の従動ピストン及び前後進切換軸が動作して偏心振子の位相が変更され、振動締固め機の進行方向(前後進又は中立)の切り換え、及び、速度調節が行われる。
【0020】
ここで、本発明に係るハンドポンプ1の動作態様について説明する。
図1は、駆動ピストン5の外筒部51が、シリンダ3内において最も後方側(オイルタンク4側)に位置した状態を示しており、この状態にあるとき、駆動ピストン5よりも前方側(油圧ホース側)のシリンダ3内の空間S1(容積)は、ほぼ最大となる。この場合、油圧ホース側からシリンダ3内への作動油の流入量は最大となり、振動締固め機の機体は「全速前進」となる。
【0021】
この状態から前後進レバー9を後方側へ操作し、カム6を回動させて、ローラ7を
図2に示す位置まで移動させる(シリンダ3側へ押し出す)と、リンク機構部52aにより、起振装置側からの機械的押し戻し力(従動ピストンからの油圧力)に抗して駆動ピストン5が前方(オイルタンク4とは反対側、
図2において左側)に移動し、シリンダ3内の空間S1が半分に狭まり、シリンダ3内から油圧ホース側へキャパシティの半量の作動油が流出し、起振装置の従動ピストン及び前後進切換軸が動作して、振動締固め機の機体は「中立」となる。
【0022】
この状態から更に前後進レバー9を後方側へ操作し、カム6を更に回動させて、ローラ7を
図3に示す位置まで移動させる(シリンダ3側へ押し出す)と、リンク機構部52aにより、起振装置側からの機械的押し戻し力に抗して駆動ピストン5が更に前方(オイルタンク4とは反対側、
図3において左側)に移動し、シリンダ3内の空間S1が最小となり、シリンダ3内から油圧ホース側への作動油の流出量が最大となり、起振装置の従動ピストン及び前後進切換軸が動作して、振動締固め機の機体は「全速後進」となる。
【0023】
そして、この状態から(或いは、
図1に示す状態以外のいずれかの状態から)、前後進レバー9から手を放して非操作状態とすると、起振装置側からの機械的押し戻し力に従って、油圧ホース側からハンドポンプ1のシリンダ3内の空間S1へ作動油が流入し、駆動ピストン5が後方側(オイルタンク4側)へ押し出されて、
図1に示す位置(「全速前進」位置)に復帰する。
【0024】
尚、本発明に係るハンドポンプ1においては、
図4に示すように、駆動ピストン5内に、油圧ホース側(
図4において左側)とオイルタンク4側とを連通させる流通路53、及び、この流通路53を開閉するチェック弁54(オイルタンク4側に配置された円錐状の弁体54aと、油圧ホース側に配置された円形段部形状の弁座54bとによって構成される)が形成されている。
【0025】
このチェック弁54は、外筒部51と内挿部52との間に配置されているチェック弁スプリング55によって、オイルタンク4側から油圧ホース側へ向かって閉じる方向(オイルタンク4側の弁体54aが油圧ホース側の弁座54bに向かって押し付けられる方向)へ常時付勢されている。
【0026】
そして、このチェック弁スプリング55は、起振装置側からの機械的押し戻し力よりも大きな付勢力を有しているため、
図3に示す状態(或いは、
図1に示す状態以外のいずれかの状態)において、操作者が前後進レバー9から手を放した場合、起振装置側からの機械的押し戻し力に従って油圧ホース側からシリンダ3内に作動油が流入しても、この流入した作動油によってチェック弁54が押し開かれることはなく(流通路53が連通状態とはならず)、その結果、駆動ピストン5がオイルタンク4側へ押し出されて、「全速前進」位置(
図1参照)に復帰する。
【0027】
尚、作動油中に混入した空気をシリンダ3内の空間S1からオイルタンク4へ逃がし(油圧回路内のエア抜き)、或いは、オイルタンク4からシリンダ3内の空間へ作動油を補充しようとする場合には、駆動ピストン5の外筒部51が、シリンダ3内の最も後方側にある状態、即ち、
図1に示す「全速前進」位置にある状態から、前後進レバー9を更に前傾させて、ローラ7を僅かに後方へ移動させる。
【0028】
そうすると、チェック弁スプリング55の付勢力に抗して内挿部52が僅かに後退し、
図5に示すように、弁体54aが弁座54bから離れてチェック弁54が開放され、シリンダ3内の空間S1とオイルタンク4とが流通路53によって連通した状態となる。そして、上述の通りこのハンドポンプ1は、オイルタンク4側(
図1において右側)が上方となる傾斜姿勢で、振動締固め機の操作ハンドル(図示せず)に取り付けられるため、シリンダ3内の空間S1とオイルタンク4とを連通させることにより、シリンダ3内の作動油中に混入した空気をオイルタンク4へ逃がし、オイルタンク4からシリンダ3内の空間S1へ作動油を補充することが可能となる。
【0029】
また、前後進レバー9が後進側(
図3に示す位置)から前進側(
図1に示す位置)へ急激に操作された場合、油圧回路内(ハンドポンプ1の駆動ピストン5から起振装置の従動ピストンまでの間)が負圧となってしまうが、このとき、油圧回路内の負圧力がチェック弁スプリング55(
図5参照)の付勢力よりも大きい場合には、チェック弁54が開放され、シリンダ3内の空間S1とオイルタンク4とが流通路53によって連通することになるため、そのような急激な切換操作によって機体に生じ得る衝撃を和らげることができる。
【0030】
反対に、前後進レバー9が前進側(
図1に示す位置)から後進側(
図3に示す位置)へ急激に操作された場合には、駆動ピストン5が瞬時に前方へ移動することにより、シリンダ内の空間S1が劇的に狭められて、油圧回路内における作動油の圧力が瞬間的に急上昇することになるが、この場合には、
図6に示す補助ピストン10が動作することによって作動油の余剰圧力が吸収され、急激な切換操作によって機体に生じ得る衝撃を和らげることができる。
【0031】
この点について具体的に説明すると、本発明に係るハンドポンプ1は、
図6に示すように、開口部3a側から駆動ピストン5に向かって突出するように形成された円筒状のガイドチューブ11が、シリンダ3内において同軸的に配置され、このガイドチューブ11の内部流路11cを介して、シリンダ3内の空間S1と開口部3aとの間で作動油が流通するように構成されている。そして、このガイドチューブ11の外周側(ガイドチューブ11の外周面とシリンダ3の内周面との間)であって、作動油が充満するシリンダ3内の空間S1に接する位置(空間S1を仕切る位置)に、リング状の補助ピストン10が配置されている。
【0032】
この補助ピストン10は、ガイドチューブ11の先端(駆動ピストン5側)に形成されているストッパ11aと、ガイドチューブ11の基端部11b(シリンダ3の内周面に当接し、ガイドチューブ11をシリンダ3に対して固定する部分)との間の領域において、ガイドチューブ11の軸線方向へ摺動可能となっているが、ガイドチューブ11の基端部11bと補助ピストン10との間に配置された補助スプリング12(起振装置側からの機械的押し戻し力よりも大きな付勢力を有する)によって、ストッパ11a側(駆動ピストン5側)へ常時付勢されている。
【0033】
このため、前後進レバー9の急激な操作(前進側から後進側への操作)によって油圧回路内の圧力が急上昇したような場合(余剰圧力が補助スプリング12の付勢力を超えた場合)、
図7に示すように、補助ピストン10が、余剰圧力によって基端部11b側へ移動することになり、シリンダ3内の空間S1が一時的に拡張された状態となって、余剰圧力が吸収されることになる。その後(余剰圧力の吸収後)、補助ピストン10は、補助スプリング12の付勢力によって元の位置(
図3及び
図6に示す位置)に復帰し、シリンダ3内の空間S1も元の大きさに戻ることになる。
【0034】
仮に、この補助ピストン10がシリンダ3内に配置されていない場合において、前後進レバー9を前進側から後進側へ急激に操作した場合、余剰圧力が生じ、大量の作動油がシリンダ3内の空間S1から油圧ホース側へ瞬時に吐出され、起振装置の従動ピストン及び前後進切換軸が急激に切り換わることによって、機体に衝撃が生じかねないが、本発明のハンドポンプ1においては、前後進レバー9の急激な操作によって油圧回路内で余剰圧力が生じた場合でも、上述の通り補助ピストン10が基端部11b側へ移動することによって余剰圧力が吸収され、その結果、機体動作を前進側から後進側へ滑らかに切り換えることができ、機体に生じ得る衝撃を和らげることができる。
【0035】
尚、
図7に示すように、ガイドチューブ11の基端部11bと補助ピストン10との間の空間S2(補助スプリング12が配置されている空間)は、基端部11b内に形成されている空気流路13a、及び、シリンダ3の先端部の内周側(開口部3aの外周側)に形成されている環状の空気流路13b等を介して外気と連通しているため、補助ピストン10の軸線方向への移動が、空間S2内の気圧変動によって妨げられないようになっている。また、環状の空気流路13b内には、図示しない防塵フィルターが配置されており、空間S2内への異物(塵埃等)の流入、及び、異物の流入に起因する補助ピストン10の摺動摩擦抵抗の増大という問題を好適に回避することができる。
【符号の説明】
【0036】
1:ハンドポンプ、
2:ケーシング、
3:シリンダ、
3a:開口部、
4:オイルタンク、
5:駆動ピストン、
6:カム、
7:ローラ、
9:前後進レバー、
10:補助ピストン、
11:ガイドチューブ、
11a:ストッパ、
11b:基端部、
11c:内部流路、
12:補助スプリング、
13a,13b:空気流路、
51:外筒部、
52:内挿部、
52a:リンク機構部、
53:流通路、
54:チェック弁、
54a:弁体、
54b:弁座、
55:チェック弁スプリング