特許第6844850号(P6844850)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6844850ポリイミド化合物、ポリアミド酸および該ポリイミド化合物を含む成形物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844850
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ポリイミド化合物、ポリアミド酸および該ポリイミド化合物を含む成形物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/16 20060101AFI20210308BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C08G73/16
   C08G73/10
【請求項の数】9
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2017-226250(P2017-226250)
(22)【出願日】2017年11月24日
(65)【公開番号】特開2019-94451(P2019-94451A)
(43)【公開日】2019年6月20日
【審査請求日】2020年5月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】517030859
【氏名又は名称】ウィンゴーテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100091487
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 行孝
(74)【代理人】
【識別番号】100082991
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 泰和
(74)【代理人】
【識別番号】100105153
【弁理士】
【氏名又は名称】朝倉 悟
(74)【代理人】
【識別番号】100120617
【弁理士】
【氏名又は名称】浅野 真理
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100187207
【弁理士】
【氏名又は名称】末盛 崇明
(72)【発明者】
【氏名】五 島 敏 之
(72)【発明者】
【氏名】ウィンモーソー
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6240798(JP,B2)
【文献】 特開2007−112990(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/027020(WO,A1)
【文献】 Polymer Journal,2005年,Vol.37, No.10,759-766
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/16
C08G 73/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表されるジアミン化合物と、下記一般式(2)および/または(3)で表される酸無水物との反応物である、ポリイミド化合物。
【化1】
(上記式中、
〜Rが、水素であり、
〜Rのいずれかが、炭素数6〜10の芳香族基、フェノキシ基、ベンジル基またはベンジルオキシ基であり、それ以外のR〜Rが水素である。)
【化2】
【化3】
(上記式中、
は、下記連結基群から選択される連結基であり、
【化4】
上記式中、
Xは、ハロゲンであり、
〜R18は、それぞれ独立して、水素、置換のアルキル基および無置換のアルキル基からなる群より選択され、
*は結合位置を表す。)
【請求項2】
前記芳香族基が、フェニル基またはメチルフェニル基である、請求項1に記載のポリイミド化合物。
【請求項3】
〜R18が、それぞれ独立して、水素または無置換であり、炭素数1〜10のアルキル基である、請求項1または2に記載のポリイミド化合物。
【請求項4】
が、下記連結基群から選択される連結基である、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリイミド化合物。
【化5】
【請求項5】
下記一般式(1)で表されるジアミン化合物と、下記一般式(2)および/または(3)で表される酸無水物との反応物である、ポリアミド酸。
【化6】
(上記式中、
〜Rが、水素であり、
〜Rのいずれかが、炭素数6〜10の芳香族基、フェノキシ基、ベンジル基またはベンジルオキシ基であり、それ以外のR〜Rが水素である。)
【化7】
【化8】
(上記式中、
は、下記連結基群から選択される連結基であり、
【化9】
上記式中、
Xは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基およびヨード基から選択されるハロゲン基であり、
〜R18は、それぞれ独立して、水素、置換のアルキル基および無置換のアルキル基からなる群より選択され、
*は結合位置を表す。)
【請求項6】
前記芳香族基が、フェニル基またはメチルフェニル基である、請求項5に記載のポリアミド酸。
【請求項7】
〜R18が、それぞれ独立して、水素または無置換であり、炭素数1〜10のアルキル基である、請求項5または6に記載のポリアミド酸。
【請求項8】
が、下記連結基群から選択される連結基である、請求項5〜7のいずれか一項に記載のポリアミド酸。
【化10】
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか一項に記載のポリイミド化合物を含んでなる、成形物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なポリイミド化合物およびポリアミド酸に関し、より詳細には、有機溶剤に対する溶解性が顕著に改善された新規なポリイミド化合物およびこのポリイミド化合物を合成することのできる新規なポリアミド酸、並びに該ポリイミド化合物を含む成形物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ポリイミド樹脂は、高い耐熱性に加え、機械的強度、耐摩耗性、寸法安定性、耐薬品性等、絶縁性等が優れており、フレキシブルプリント基板やプリント配線板などの電子材料分野で広く使用されている。また、電子機器分野に以外にも、宇宙・航空分野、自動車分野等において幅広く利用されている。これらポリイミドのなかでも、機械的強度や耐熱性に優れるポリイミドとして、芳香族系のジアミンと芳香族酸無水物とを原料とするポリイミドが知られている。例えば、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート等の芳香族ジアミンとピロメリット酸二酸無水物とを原料とするポリイミド化合物は、耐熱性、機械的特性、電気絶縁性等に優れており、電子機器分野において保護材料や絶縁材料として好適に用いられている(特許文献1等)。
【0003】
一方、上記した芳香族ポリイミド化合物は、剛直な構造ゆえ有機溶剤に対する溶解性が低い。そのため、フレキシブルプリント配線基材(FPC)のカバーフィルム、電子回路の絶縁層等を作製する場合、ポリイミド化合物を使用するのではなく、ジアミン化合物と酸無水物とを有機溶剤中で反応させ、高い有機溶剤溶解性を有するポリアミド酸とし、ポリアミド酸を含む有機溶剤を基材等に塗布した後、高温で加熱乾燥し、環化脱水反応(ポリイミド化)させることにより行われていた(特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014−173071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ポリイミド膜を設ける基材は、環化脱水反応における加熱(一般的には300−400℃)に耐えることのできる高い耐熱性を有していなければならない。さらに、環化脱水反応のための特殊な加熱装置を使用することのできる環境において行わなければならず、ポリイミド化合物を用いた成形品の作製には様々な制限があった。
【0006】
本発明は、上記問題に鑑みなされたものであり、その目的は、有機溶剤に対する高い溶解性を有するポリイミド化合物を提供することである。
また、本発明の目的は、このポリイミド化合物を合成することのできるポリアミド酸を提供することである。
さらに、本発明の目的は、このポリイミド化合物を含んでなり、従来のポリイミド化合物を含んでなる成形物と同程度の耐熱性および機械的特性等を有するポリイミドフィルム等の成形物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のポリイミド化合物は、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物と、下記一般式(2)および/または(3)で表される酸無水物との反応物であることを特徴とする。
【化1】
(上記式中、
〜Rが、水素であり、
〜Rのいずれかが、炭素数6〜10の芳香族基、フェノキシ基、ベンジル基またはベンジルオキシ基であり、それ以外のR〜Rが水素である。)
【化2】
【化3】
(上記式中、
は、下記連結基群から選択される連結基であり、
【化4】
上記式中、
Xは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基およびヨード基から選択されるハロゲン基であり、
〜R18は、それぞれ独立して、水素、置換のアルキル基および無置換のアルキル基からなる群より選択され、
*は結合位置を表す。)
【0008】
上記態様においては、芳香族基は、フェニル基またはメチルフェニル基であることが好ましい。
【0009】
上記態様においては、R〜R18が、それぞれ独立して、水素または無置換であり、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。
【0010】
上記態様においては、Lが、下記連結基群から選択される連結基であることが好ましい。
【化5】
【0011】
本発明のポリアミド酸は、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物と、下記一般式(2)および/または(3)で表される酸無水物との反応物であることを特徴とする。
【化6】
(上記式中、
〜Rが、水素であり、
〜Rのいずれかが、炭素数6〜10の芳香族基、フェノキシ基、ベンジル基またはベンジルオキシ基であり、それ以外のR〜Rが水素である。)
【化7】
【化8】
(上記式中、
は、下記連結基群から選択される連結基であり、
【化9】
上記式中、
Xは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基およびヨード基から選択されるハロゲン基であり、
〜R18は、それぞれ独立して、水素、置換のアルキル基および無置換のアルキル基からなる群より選択され、
*は結合位置を表す。)
【0012】
上記態様においては、芳香族基は、フェニル基またはメチルフェニル基であることが好ましい。
【0013】
上記態様においては、R〜R18が、それぞれ独立して、水素または無置換であり、炭素数1〜10のアルキル基であることが好ましい。
【0014】
上記態様においては、Lが、下記連結基群から選択される連結基であることが好ましい。
【化10】
【0015】
本発明の成形物は、上記ポリイミド化合物を含んでなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、有機溶剤溶解性が顕著に改善されたポリイミド化合物、言い換えると、基材の耐熱性等を考慮することなく、成形品を作製することができるポリイミド化合物およびこのポリイミド化合物の合成に用いることのできるポリアミド酸を提供することができる。また、成形品の作製に、加熱処理のための特殊な装置を用いる必要がないため、様々な場所で成形品の作製を行うことができる。
さらに、本発明の成形物は、従来のポリイミド化合物を用いて製造した成形物と同程度の5%重量減少率、ガラス転移温度(Tg)、熱膨張係数、引張強度および/または弾性率を有し、高い耐熱性および機械的特性を有するため、電子機器分野、宇宙・航空分野、自動車分野等といった様々な分野において幅広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、実施例により得られたジアミン化合物のH−NMRチャートを表す。
図2図2は、実施例により得られたジアミン化合物の13C−NMRチャートを表す。
図3図3は、実施例により得られたジアミン化合物のFT−IRチャートを表す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(ポリイミド化合物およびポリアミド酸)
本発明のポリイミド化合物およびポリアミド酸は、下記一般式(1)で表されるジアミン化合物と、下記一般式(2)および/または(3)で表される酸無水物との反応物であることを特徴とする。
【化11】
(上記式中、
〜Rが、水素であり、
〜Rのいずれかが、炭素数6〜10の芳香族基、フェノキシ基、ベンジル基またはベンジルオキシ基であり、それ以外のR〜Rが水素である。)
上記した位置に芳香族基等を有することにより、ジアミン化合物の立体障害性を抑えることができ、下記する一般式(2)および/または(3)で表される酸無水物との重合反応を良好に進めることができる。
上記一般式(1)を満たすジアミン化合物としては、具体的には、以下のような化合物が挙げられる。
【化12】
【0019】
本発明において、芳香族基には、酸素原子、窒素原子や炭素原子を介して主骨格と結合する置換基が含まれる。さらに、芳香族基には、ピロール基等のヘテロ芳香族基が含まれる。
【0020】
芳香族基は、本発明のジアミン化合物の合成容易性および電子部品材料分野への利用という観点からは無置換であることが好ましいが、置換基を有していてもよく、例えば、アルキル基、フルオロ基やクロロ基等のハロゲン基、アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、シアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。アルキル基、芳香族基は、これらの置換基を1以上または2以上有するものであってもよい。
【0021】
炭素数6〜10の芳香族基としては、例えば、フェニル基、トリル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、ジエチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、クロルフェニル基、ブロモフェニル基、メトキシフェニル基、ジメトキシフェニル基、エトキシフェニル基、ジエトキシフェニル基、アミノフェニル基、ニトロフェニル基、ニトロベンジル基、シアノフェニル基、シアノベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基、フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基、ビフェニル基、ナフチル基、フェニルナフチル基、ジフェニルナフチル基、アントリル基、アントリルフェニル基、フェニルアントリル基、ナフタセニル基、フェナントリル基、フェナントリルフェニル基、フェニルフェナントリル基、ピレニル基、フェニルピレニル基、フルオレニル基、フェニルフルオレニル基、ナフチルエチル基、ナフチルプロピル基、アントラセニルエチル基、フェナントリルエチル基、やピロール基、イミダゾール基、チアゾール基、オキサゾール基、フラン基、チオフェン基、トリアゾール基、ピラゾール基、イソオキサゾール基、イソチアゾール基、ピリジン基、ピリミジン基、ベンゾフラン基、ベンゾチオフェン基、キノリン基、イソキノリン基、インドリル基、ベンゾチアゾリル基、カルバゾリル基等のヘテロ芳香族基等が挙げられる。
上記した芳香族基の中でも、出発原料入手容易性、合成コスト面からは、フェニル基およびメチルフェニル基が好ましい。
【0022】
本発明においては、2種以上の一般式(1)で表されるジアミン化合物が使用されてもよい。
【0023】
ジアミン化合物と反応させる酸無水物は、下記一般式(2)または(3)で表される。
【化13】
【化14】
(上記式中、
は、下記連結基群から選択される連結基であり、
【化15】
上記式中、
Xは、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基およびヨード基から選択されるハロゲン基であり、フルオロ基であることが好ましく、
〜R18は、それぞれ独立して、水素、置換のアルキル基および無置換のアルキル基からなる群より選択され、
*は結合位置を表す。)
【0024】
本発明において、アルキル基には、直鎖状のもの、分岐鎖状のものおよび環状のものが含まれ、さらに、酸素原子や窒素原子を介して主骨格と結合するアルコキシ基やアルキルアミノ基等が含まれる。
【0025】
アルキル基は、本発明のジアミン化合物の合成容易性および電子部品材料分野への利用という観点からは無置換であることが好ましいが、置換基を有していてもよく、例えば、アルキル基、フルオロ基やクロロ基等のハロゲン基、アミノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、シアノ基、カルボキシル基、スルホン酸基等が挙げられる。アルキル基、芳香族基は、これらの置換基を1以上または2以上有するものであってもよい。
【0026】
アルキル基は、炭素数1〜10であることが好ましく、炭素数1〜3であることがより好ましい。
炭素数1〜10のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、sec−ペンチル基、n−へキシル基、シクロへキシル基、n−へプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、トリフルオロメチル基、クロロメチル基、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ジブロモメチル基、トリブロモメチル基、フルオロエチル基、ジフルオロエチル基、トリフルオロエチル基、クロロエチル基、ジクロロエチル基、トリクロロエチル基、ブロモエチル基、ジブロモエチル基、トリブロモエチル基、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシルプロピル基、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、sec−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基、シクロへキシルオキシ基、n−へプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基、トリフルオロメトキシ基、メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、トリメチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基等が挙げられる。
上記したアルキル基の中でも、立体障害性、耐熱性という理由からメチル基、エチル基、メトキシ基、エトキシ基およびトリフルオロメチル基が好ましい。
【0027】
好ましくは、Lは、下記連結基群から選択される連結基である。
【化16】
【0028】
したがって、一般式(2)または(3)を満たす酸無水物としては、以下のような化合物を挙げることができる。
【化17】
【0029】
【化18】
【0030】
本発明においては、2種以上の一般式(2)および/または(3)で表される酸無水物が使用されてもよい。
【0031】
本発明のポリイミド化合物またはポリアミド酸において、全ジアミン中における上記した一般式(1)で表されるジアミン化合物の含有量は、10モル%〜100モル%であることが好ましく、30モル%〜100モル%であることがより好ましく、50モル%〜100モル%であることがさらに好ましい。ジアミン化合物の含有量を上記数値範囲とすることにより、剛直なエステル構造を導入すると共に有機溶剤に対する溶解性をさらに向上させることができる。
【0032】
本発明のポリイミド化合物の数平均分子量は、2000〜200000であることが好ましく、4000〜100000であることがより好ましい。
なお、本発明において、数平均分子量とはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)装置により標準ポリスチレンを用いて作成した検量線を基礎としたポリスチレン換算値である。
数平均分子量を上記数値範囲とすることにより、このポリイミド化合物を用いて得られるフィルムの機械的物性を向上させることができる。
【0033】
本発明のポリイミド化合物またはポリアミド酸は、一般式(1)で表されるジアミン化合物以外のその他のジアミン化合物を構成要素として含んでいてもよい。
その他のジアミン化合物としては、例えば、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,4−ジアミノトルエン、2,4(6)−ジアミノ−3,5−ジエチルトルエン、5(6)−アミノ−1,3,3−トリメチル−1−(4−アミノフェニル)−インダン、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、4,4’−ジアミノ−2,2’−ジトリフルオロメチル−1,1’−ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジメチル−1,1’−ビフェニル、3,4’−ジアミノジフェニルエーテル、4,4’−ジアミノジフェニルエーテル、3,3’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルホン、4,4’−ジアミノジフェニルスルフィド、4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエート、4,4’−(9−フルオレニリデン)ジアニリン、9,9’−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)フルオレン、1,3−ビス(3−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(4−アミノフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)プロパン、4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジアニリン、2,2−ビス(3−アミノ−4−メチルフェニル)ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス(3−メチル−4−アミノフェニル)ベンゼン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、α,α−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,3−ジイソプロピルベンゼン、α,α−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]−1,4−ジイソプロピルベンゼン、3,7−ジアミノ−ジメチルジベンゾチオフェン 5,5−ジオキシド、ビス(3−カルボキシー4−アミノフェニル)メチレン、3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、4,4’−ジアミノ−3,3’−ジヒドロキシ−1,1’−ビフェニル、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−アミノ−4−ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、1、3−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2−ビス(3−ヒドロキシ−4−アミノフェニル)ベンゼンおよび3,3’−ジアミノ−4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフォン等が挙げられる。
【0034】
また、本発明のポリイミド化合物またはポリアミド酸は、一般式(2)および(3)で表される酸無水物以外のその他の酸無水物を構成要素として含んでいてもよい。
その他の酸無水物としては、例えば、エチレンテトラカルボン酸二無水物、シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、4,4’−(エチン−1,2−ジイル)ジフタル酸無水物、5,5’−[p−フェニレンビス(オキシカルボニル)]ジ無水フタル酸、5,5’−[(4,4’−ビフェニル)ビス(オキシカルボニル)]ジ無水フタル酸、5,5’−[(3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニル)ビス(オキシカルボニル)]ジ無水フタル酸および5,5’−[(2,2’,3,3’,5,5’−ヘキサメチル−4,4’−ビフェニル)ビス(オキシカルボニル)]ジ無水フタル酸等が挙げられる。
【0035】
本発明のポリイミド化合物は、後記するようにフィルム等に成形し、フレキシブルプリント配線基材(FPC)のベースフィルムやカバーフィルムとして使用することができる。また、フレキシブル配線基板等における接着剤としても使用することができる。
また、これ以外にも、電線の電気絶縁被覆材料、断熱材、液晶表示素子の透明基材、薄膜トランジスタ基材等として使用することができる。
【0036】
(ポリイミド化合物およびポリアミド酸の合成方法)
本発明のポリイミド化合物およびポリアミド酸は、従来公知の方法により合成することができる。具体的には、一般式(1)で表されるジアミン化合物と、一般式(2)および/または(3)で表される無水物とを反応させることにより、ポリアミド酸を得ることができる。さらに、このポリアミド酸に対し、環化脱水反応を行うことにより、ポリイミド化合物を合成することができる。
【0037】
酸無水物と、ジアミン化合物の混合比は、酸無水物の総量1モル%に対し、ジアミン化合物の総量を0.5モル%〜1.5モル%であることが好ましく、0.9モル%〜1.1モル%であることがより好ましい。
【0038】
ジアミン化合物と酸無水物との反応は、有機溶媒中において行うことが好ましい。
有機溶媒としては、本発明のジアミン化合物および酸無水物と反応することがなく、ジアミン化合物と酸無水物との反応物を溶解することができるものであれば特に限定されるものではなく、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、ジメチルスルホキシド、スルホラン、1,3−ジオキソラン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジベンジルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、ブチルアセテート、イソブチルアセテート、3−メトキシブチルアセテート、3−メチル−3−メトキシブチルアセテート、ンジルアセテート、ブチルカルビトールアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸ブチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、トリグライム、テトラグライム、アセチルアセトン、メチルプロピルケトン、メチルブチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノン、2−ヘプタノン、ブチルアルコール、イソブチルアルコール、ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、3−メチル−2−ブタノール、3−メチル−3−メトキシブタノール、ジアセトンアルコール、トルエン、キシレン等が挙げられる。
本発明のポリイミド化合物の溶解性という観点からは、N−メチル−2−ピロリドン、N,N’−ジメチルイミダゾリジノン、γ−ブチロラクトンがポリイミドにおいて好ましい。
【0039】
ジアミン化合物と酸無水物との反応温度は、化学的イミド化の場合は40℃以下であることが好ましい。また、熱イミド化の場合は150〜220℃であることが好ましく、170〜200℃であることがより好ましい。
【0040】
環化脱水反応時には、イミド化触媒を使用してもよく、例えば、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、プロピルアミン、トリプロピルアミン、ブチルアミン、トリブチルアミン、tert−ブチルアミン、へキシルアミン、トリエタノールアミン、N,N−ジメチルエタノールアミン、N,N−ジエチルエタノールアミン、トリエチレンジアミン、N−メチルピロリジン、N−エチルピロリジン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン、ピリジン、コリジン、ルチジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、バレロラクトン等を使用することができる。
また、必要に応じて、トルエン、キシレン、エチルシクロヘキサンのような共沸脱水剤、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸、無水安息香酸等の酸触媒を使用することができる。
【0041】
ジアミン化合物と酸無水物との反応において、安息香酸、無水フタル酸、水添無水フタル酸等の封止剤を使用することができる。
さらに、無水マレイン酸、エチニルフタル酸無水物、メチルエチニルフタル酸無水物、フェニルエチニルフタル酸無水物、フェニルエチニルトリメリット酸無水物、3−又は4−エチニルアニリン等を用いることにより、ポリイミド化合物の末端に二重結合または三重結合を導入することもできる。
二重結合または三重結合をポリイミド化合物に導入することにより、本発明のポリイミド化合物を、熱硬化性樹脂として使用することができる。
【0042】
本発明のポリイミド化合物の合成に用いられる一般式(1)で表されるジアミン化合物は、下記一般式(4)で表される化合物と、下記一般式(5)で表される化合物とを反応させた後、ニトロ基を還元することにより得ることができる。
【化19】
【化20】
【0043】
上記式中、
’〜R’が、水素であり、
’〜R’のいずれかが、炭素数6〜10の芳香族基、フェノキシ基、ベンジル基またはベンジルオキシ基であり、それ以外のR’〜R’が水素であり、
Yは、水酸基またはフルオロ基、クロロ基、ブロモ基およびヨード基から選択されるハロゲン基を表す。一般式(5)で表される化合物との反応性という観点からは、Yは、ハロゲン基であることが好ましく、クロロ基、ブロモ基であることが特に好ましい。
【0044】
上記一般式(4)中、Yが水酸基である場合、上記一般式(4)および(5)で表される化合物の反応は、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)のような脱水縮合剤またはP−トルエンスルホン酸のような有機酸触媒の存在下で行うことが好ましい。
また、上記一般式(4)中、Yがハロゲン基である場合、上記一般式(4)および(5)で表される化合物の反応は、トリエチルアミンのような受酸剤存在下で行われることが好ましい。
【0045】
より具体的には、下記式で表される化合物を反応させることによって、上記式(1)で表されるジアミン化合物を得ることができる。
【化21】
【化22】
【0046】
上記一般式(5)で表される化合物は、市販される、または合成した下記一般式(6)で表される化合物をニトロ化することにより得ることができる。下記一般式(6)で表される化合物のニトロ化は、濃硫酸と濃硝酸との混酸、硝酸、発煙硝酸、濃硫酸中酸アルカリ金属塩、硝酸アセチル、ニトロニウム塩、窒素酸化物等を使用した従来公知のニトロ化法により行うことができる。
【化23】
【0047】
上記式中、R’’〜R’’のいずれかが、炭素数6〜10の芳香族基、フェノキシ基、ベンジル基またはベンジルオキシ基であり、それ以外のR’’〜R’’が水素である。
【0048】
本発明のジアミン化合物は、後述するポリイミド化合物以外の化合物の合成にも使用することができる。
例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ジフェニルエーテルカルボン酸、ジフェニルスルホンカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、ターフェニルジカルボン酸、ジフェニルメタンジカルボン酸、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−カルボキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、シクロヘキサンジカルボン酸、ジシクロヘキサンジカルボン酸およびこれらの酸ハライド等のジカルボン酸誘導体と反応させることにより、ポリアミド化合物を合成することができる。
また、ポリアミドイミド化合物、ポリウレタン化合物、エポキシ化合物の合成にも本発明のジアミン化合物を使用することができる。
【0049】
本発明のポリイミド化合物の合成に用いられる一般式(2)または(3)で表される酸無水物は、従来公知の方法により合成してもよく、市販されるものを使用してもよい。
【0050】
(成形物)
本発明の成形物は、上記ポリイミド化合物を含んでなる。
ポリイミド化合物を含んでなる成形品としては、例えば、シリンダーヘッドカバー、ベアリングリテーナー、インテークマニホールド、ペダル等の自動車部品、パーソナルコンピューター、携帯電話等に使用される筐体やフレキシブルプリント基板やプリント配線板等の電子材料部品、イオン導電性セパレーター等の燃料電池部品等が挙げられる。
【0051】
本発明の成形物の形状は、特に限定されるものではなく、その用途に応じて適宜変更することができる。例えば、フィルム状やシート状とすることができる。
【0052】
本発明の成形物におけるポリイミド化合物の含有量は、30質量%以上、100質量%以下であることが好ましく、50質量%以上、100質量%以下であることがより好ましく、60質量%以上、100質量%以下であることがさらに好ましい。
【0053】
本発明の成形物は、その特性を損なわない範囲において、その他の化合物を含んでいてもよく、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、セルロース系樹脂、ビニル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、スチレン系樹脂、アイオノマー樹脂等が挙げられる。
【0054】
また、本発明の成形物は、その特性を損なわない範囲において、各種の添加剤を含んでいてもよい。例えば、添加剤として、可塑剤、紫外線安定化剤、着色防止剤、艶消し剤、消臭剤、難燃剤、耐候剤、帯電防止剤、糸摩擦低減剤、スリップ剤、離型剤、抗酸化剤、イオン交換剤、分散剤、紫外線吸収剤および顔料や染料等の着色剤等が挙げられる。
【0055】
本発明の成形物の5%重量減少温度は、400℃以上であることが好ましく、410℃以上であることがより好ましい。
本発明において、成形物の5%重量減少温度は、JIS K 7120に準拠し、熱機械分析装置(例えば、島津製作所社製、商品名:TGA−50)を使用し、窒素中、5℃/分の昇温速度にて測定することができる。
【0056】
本発明の成形物のガラス転移温度(Tg)は、180℃以上であることが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、220℃以上であることがさらに好ましい。
本発明において、成形物のガラス転移温度(Tg)は、JIS K 7121に準拠し、熱機械分析装置(島津製作所社製、商品名:DSC−60Plus)を使用し、窒素気流下、10℃/分の昇温速度にて測定することができる。
【0057】
本発明の成形物の熱膨張係数(CTE)は、70×10−6/K以下であることが好ましく、65×10−6/K以下であることがより好ましい。
本発明において、成形物の熱膨張係数(CTE)は、成形物を、島津製作所社製のTMA−60(商品名)を用い、5gの加重を加えながら10℃/分の昇温温度にて、室温から450℃まで昇温させ、100℃から250℃までの平均熱膨張係数(CTE)を指す。
【0058】
本発明の成形物の引張強度は、45MPa以上であることが好ましく、50MPa以上であることがより好ましく、55MPa以上であることがさらに好ましい。
本発明において、成形物の引張強度は、成形物を、引張試験機(島津製作所社製、商品名:AG−Xplus 50kN)を用いて、引張速度10mm/分にて測定したMD方向およびTD方向の引張強度の平均値を指す。
【0059】
本発明の成形物の弾性率は、2.5GPa以上であることが好ましく、3.0GPa以上であることがより好ましい。
本発明の成形物の弾性率は、成形物を、引張試験機(島津製作所社製、商品名:AG−Xplus 50kN)を用いて、引張速度10mm/分にて測定したMD方向およびTD方向の弾性率の平均値を指す。
【0060】
(成形物の製造方法)
一実施形態において、本発明の成形物は、上記したポリイミド化合物をN−メチル−2−ピロリドン(NMP)等の上記有機溶剤に可溶し、銅箔等の基材上に塗布し、乾燥することにより製造することができる。これにより、フィルム状の成形物を得ることができる。
また、用途に応じ、成形物から基材を剥がしたり、エッチング処理を施すことにより、基材を除去してもよい。
本発明のポリイミド化合物を使用した成形物は、基材上にポリイソイミド化合物またはポリイミド化合物を塗布し、乾燥する工程のみで製造することができ、従来の方法で行われていたイミド化反応を伴う高温の加熱乾燥工程を省略することができる。また、加熱乾燥工程を省略することができるため、基材の耐熱性を考慮しなくてもよく、様々な基材上に本発明の成形物を製造することができる。
また、本発明の成形物は、プレス成形、トランスファー成形、射出成形等の従来公知の方法により作製することもできる。
【0061】
他の実施形態において、本発明の成形物は、ポリアミド酸溶液またはポリイソイミド溶液を使用した従来方法によっても製造することができる。
【0062】
例えば、40℃以下、好適には0〜25度の温度を保ちながら、テトラカルボン酸二無水物と一般式(1)で表されるジアミン化合物を有機溶媒中で撹拌しながら、好適には2〜24時間反応させてポリアミド酸溶液を得る。得られたポリアミド酸溶液を所望の基材(銅箔等)により塗布し、最終乾燥温度250〜450℃、より好適には350〜400℃で加熱乾燥し、ポリアミド酸化合物をイミド化し、本発明のポリイミド化合物を含む成形物を基材上に製造することができる。
【0063】
また、ポリイソイミド溶液は、ポリアミド酸溶液に、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドやトリフルオロ酢酸無水物等の脱水縮合剤を添加することにより得ることができ、これを基材上に塗布し、加熱乾燥することによって、本発明のポリイミド化合物を含む成形物を基材上に製造することができる。
なお、N,N’−ジシクロヘキシルカルボジイミドを使用した場合、反応で生じるN,N’−ジシクロヘキシル尿素は、ろ過により除去することが好ましい。また、トリフルオロ酢酸無水物を使用した場合、ポリイソイミド化合鬱の単離精製にメタノールのような貧溶媒を使用することが好ましい。単離精製したポリイソイミド化合物は、140℃以上、より好ましくは180℃以上の温度で加熱することにより、ポリイミド化合物に熱転換することができる。
【実施例】
【0064】
(実施例1−1)
ジアミン化合物の合成
【0065】
温度計、攪拌機を備えた1Lの4口フラスコに、トルエン500gと市販品のo−フェニルフェノール51.06g(0.30モル)(和光純薬工業社製)を加え、冷却して反応温度を−5〜0℃に保ちながら70重量%硝酸(d=1.42)30g(0.33モル)を2時間かけて滴下した。さらに、同温度で3時間撹拌して反応を終了した。
生成物のスラリーをろ取し、炭酸水素ナトリウム水溶液、次いで水により洗浄した。
次いで、減圧乾燥して、下記式で表される淡黄色〜黄色の2−ヒドロキシ−5−アミノビフェニルを得た。
HPLC分析(面積%)による純度は97.01%、DSC測定による融点は128℃(吸熱ピーク)であった。H−NMR(CDCl3)σ5.84ppm(フェノールのOHの1H)、σ6.99ppm(フェノールのo−位の1H)、σ7.15〜7.50ppm(o−フェニルの5H)、σ8.12〜8.20ppm(フェノールのm−位の2H)であり、フェノールのp−位にニトロ基が導入されたことが確認された。
【化24】
【0066】
温度計、攪拌機、還流冷却管を備えた1Lの4口フラスコに、上記のようにして合成した2−ヒドロキシ−5−ニトロビフェニル43.04g(0.20モル)、市販品の下記式で表される4−ニトロベンゾイルクロリド45.53g(0.24モル)、N,N’−ジメチルホルムアミド500gを加え、約15℃に保ち撹拌した。
【化25】
【0067】
次いで、トリエチルアミン30.36g(0.30モル)をゆっくり添加した。添加終了後、50℃で加熱しながら3時間反応を続けた。反応終了後、25℃まで冷却し、イオン交換水を投入し、析出物を得た。25℃になった後、析出物をろ取し、メタノール、イオン交換水でそれぞれ数回洗浄を行ない、減圧乾燥させることにより、下記式で表される化合物を得た。
【化26】
【0068】
温度計、攪拌機を備えた500ccオートクレーブに、上記化合物22g(0.06モル)、ジメチルアセトアミド150ml、5%Pd−炭素(乾燥品として)を加え、窒素置換後、水素置換した。
水素圧9kg/cm2(ゲージ圧)、80℃に保持して還元すると約2時間で水素の吸収が止まった。さらに1時間80℃で熟成した後、室温まで冷却した。窒素置換後、生成物溶液を取り出し、ろ過することにより触媒を取り除いた。ろ液を50%メタノール中に投入し、結晶を析出させ、結晶を採取した。
50℃、真空下で乾燥させることにより、一般式(2)を満たす下記式で表されるジアミン化合物を得た。HPLC分析(面積%)による純度は99.04%、DSC測定による融点154℃(吸熱ピーク)であった。
また、H−NMR、13C−NMR、FT−IR、元素分析により同定し、構造確認した結果、化学式(2)で表されるジアミン化合物であることが確認された。H−NMR(300MHz,測定機器:Varian 300−MR spectrometer、重溶媒:DMSO−d)、13C−NMR(75MHz,測定機器:Varian 300−MR spectrometer、重溶媒:DMSO−d)およびFT−IR(KBr法、測定機器:FTIR−410 spectrometer)の結果を図1乃至3に示した。
【化27】
【0069】
ジアミン化合物と、酸無水物の反応
窒素導入管、撹拌装置を備えた500mlセパラブルフラスコに、上記のようにして得られたジアミン化合物30.43g(100ミリモル)、下記式で表される酸無水物A44.43g(100ミリモル)、N−メチル−2−ピロリドン285g、ピリジン1.6g(20ミリモル)、トルエン30gを投入し、窒素雰囲気下、180℃で、途中トルエンを系外にのぞきながら6時間反応させることにより、20重量%のポリイミド溶液を得た。ポリイミド溶液において、合成したポリイミド化合物の析出は見られなかった。DSC測定において、258℃のガラス転移温度が観察され、非晶性ポリイミドであった。
【化28】
【0070】
(実施例1−2)
ジアミン化合物と、酸無水物の反応
酸無水物Aに代え、下記式で表される酸無水物Bを使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ポリイミド溶液を得た。ポリイミド溶液において、合成したポリイミド化合物の析出は見られなかった。DSC測定において、258℃のガラス転移温度が観察され、非晶性ポリイミドであった。
【化29】
【0071】
(実施例1−3)
ジアミン化合物と、酸無水物の反応
酸無水物Aに代え、下記式で表される酸無水物Cを使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ポリイミド溶液を得た。ポリイミド溶液において、合成したポリイミド化合物の析出は見られなかった。DSC測定において、181℃のガラス転移温度が観察され、非晶性ポリイミドであった。
【化30】
【0072】
(実施例1−4)
ジアミン化合物と、酸無水物の反応
酸無水物Aに代え、下記式で表される酸無水物Dを使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ポリイミド溶液を得た。ポリイミド溶液において、合成したポリイミド化合物の析出は見られなかった。DSC測定において、231℃のガラス転移温度が観察され、非晶性ポリイミドであった。
【化31】
【0073】
(実施例1−5)
ジアミン化合物と、酸無水物の反応
酸無水物Aに代え、下記式で表される酸無水物Eを使用した以外は、実施例1−1と同様にして、ポリイミド溶液を得た。ポリイミド溶液において、合成したポリイミド化合物の析出は見られなかった。DSC測定において、253℃のガラス転移温度が観察され、非晶性ポリイミドであった。
【化32】
【0074】
(比較例1−1)
ジアミン化合物を、下記式で表される4−アミノフェニル−4−アミノベンゾエートに変更した以外は、実施例1−1と同様にして、ポリイミド溶液を作製したが、ポリイミド溶液において、合成したポリイミド化合物が析出してしまっていた。
【化33】
【0075】
(実施例2−1)
成形物の作製
実施例1にて作製したポリイミド酸溶液を、スピンコート法にて銅箔上に塗布し、100℃で0.5時間、200℃で0.5時間、250℃で1時間乾燥した。その後、銅箔をエッチングにて除去し、厚さ約15μmのフィルム状の成形物を得た。
【0076】
(実施例2−2)
成形物の作製
酸無水物Aを、酸無水物Bに変更した以外は、実施例2−1と同様にしてフィルム状の成形物を得た。
【0077】
(実施例2−3)
成形物の作製
酸無水物Aを、酸無水物Cに変更した以外は、実施例2−1と同様にしてフィルム状の成形物を得た。
【0078】
(実施例2−4)
成形物の作製
酸無水物Aを、酸無水物Dに変更した以外は、実施例2−1と同様にしてフィルム状の成形物を得た。
【0079】
(実施例2−5)
成形物の作製
酸無水物Aを、酸無水物Eに変更した以外は、実施例2−1と同様にしてフィルム状の成形物を得た。
【0080】
<<成形物の性能評価>>
<5%重量減少温度>
JIS K 7120に準拠し、島津製作所製のTGA−50(商品名)を使用し、空気中、10℃/分の昇温速度にて、上記実施例において得られた成形物の5%重量減少温度を測定した。測定結果を表1に記載した。
【0081】
<ガラス転移温度(Tg)>
JIS K 7121に準拠し、島津製作所製のDSC−60Plus(商品名)およびTMA−60(商品名)を使用し、窒素気流下、10℃/分の昇温速度にて、上記実施例において得られた成形物のガラス転移温度(Tg)を測定した。測定結果を表1に記載した。
なお、比較例2−1において得られた成形物は、明確な変位点を示さなかったためガラス転移温度を測定することができなかった。
【0082】
<熱膨張係数(CTE)>
上記実施例において得られた成形物を5mm×20mmのサイズの試験片とし、島津製作所社製のTMA−60(商品名)を用い、5gの加重を加えながら10℃/分の昇温温度にて、室温から450℃まで昇温させ、100℃から250℃までの平均熱膨張係数(CTE)を求めた。測定結果を表1に記載した。
【0083】
<引張強度>
上記実施例において得られた成形物を10mm×80mmのサイズの試験片とし、引張試験機(島津製作所社製、商品名:AG−Xplus 50kN)を用いて、引張速度10mm/分にてMD方向およびTD方向の引張強度を測定した。MD方向の引張強度およびTD方向の引張強度の平均値を算出し、表1に記載した。
【0084】
<弾性率>
上記実施例において得られた成形物を10mm×80mmのサイズの試験片とし、引張試験機(島津製作所社製、商品名:AG−Xplus 50kN)を用いて、引張速度10mm/分にてMD方向およびTD方向の弾性率を測定した。MD方向の弾性率およびTD方向の弾性率の平均値を算出し、表1に記載した。
【0085】
【表1】
図1
図2
図3