特許第6844966号(P6844966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844966
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】無線式列車制御システム
(51)【国際特許分類】
   B61L 3/12 20060101AFI20210308BHJP
   B60L 15/40 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   B61L3/12 Z
   B60L15/40 Z
【請求項の数】4
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-146177(P2016-146177)
(22)【出願日】2016年7月26日
(65)【公開番号】特開2018-16124(P2018-16124A)
(43)【公開日】2018年2月1日
【審査請求日】2019年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004651
【氏名又は名称】日本信号株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129425
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 護晃
(74)【代理人】
【識別番号】100087505
【弁理士】
【氏名又は名称】西山 春之
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(72)【発明者】
【氏名】村上 聡
(72)【発明者】
【氏名】山口 瑛史
(72)【発明者】
【氏名】白井 稔人
(72)【発明者】
【氏名】栗田 晃
【審査官】 吉村 俊厚
(56)【参考文献】
【文献】 特開平07−228251(JP,A)
【文献】 特開2013−078212(JP,A)
【文献】 特開2003−224506(JP,A)
【文献】 特開2013−212713(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B61L 3/12
B60L 15/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無線通信を利用した無線式列車制御システムであって、
列車に搭載された車上装置、前記列車の前部側に搭載された第1車上無線機及び前記列車の後部側に搭載された第2車上無線機を含み、
前記車上装置は、前記列車が第1路線から第2路線に進入する際、前記第1及び第2車上無線機のうち、まず前記第1車上無線機の通信方式を前記第1路線用の通信方式から前記第2路線用の通信方式に切り替える、
無線式列車制御システム。
【請求項2】
無線通信を利用した無線式列車制御システムであって、
車に搭載された車上装置、前記列車の前部側に搭載された第1車上無線機及び前記列車の後部側に搭載された第2車上無線機を含み、
前記車上装置は、第1路線を走行する前記列車が前記第1路線と第2路線の境界手前の所定位置に到達すると、前記第1車上無線機の通信方式を前記第1路線用の通信方式から前記第2路線用の通信方式に切り替える、
無線式列車制御システム。
【請求項3】
前記車上装置は、前記第1路線を走行する前記列車が前記境界を通過してから前記第2車上無線機の通信方式を前記第1路線用の通信方式から前記第2路線用の通信方式に切り替える、請求項に記載の無線式列車制御システム。
【請求項4】
前記通信方式は、通信規格及び通信プロトコルを含む、請求項1〜3のいずれか一つに記載の無線式列車制御システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線通信を利用した無線式列車制御システムに関する。
【背景技術】
【0002】
CBTC(Communication Based Train Control)システムとして知られる無線式列車制御システムの多くは、地上側に設置された地上装置及び地上無線機と、列車に搭載された車上装置及び車上無線機とを含み、前記地上装置と前記車上装置との間で無線通信が行われることによって列車の安全な走行が確保される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−162548号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、一般に、無線式列車制御システムは路線単位で導入されており、また、無線式列車制御システムごと(すなわち、路線ごと)に独自の通信方式が用いられている。このため、例えば隣接する路線同士を接続してこれらの路線の間で列車の乗り入れを可能にするためには、両路線で用いられている通信方式を統一せざるを得ず、多くの手間及びコストがかかるという課題があった。
【0005】
そこで、本発明は、互いに異なる通信方式が用いられる複数の路線間で列車の乗り入れを可能とする無線式列車制御システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一側面によると、無線通信を利用した無線式列車制御システムは、列車に搭載された車上装置、前記列車の前部側に搭載された第1車上無線機及び前記列車の後部側に搭載された第2車上無線機を含み、前記車上装置は、前記列車が第1路線から第2路線に進入する際、前記第1及び第2車上無線機のうち、まず前記第1車上無線機の通信方式を前記第1路線用の通信方式から前記第2路線用の通信方式に切り替える。また、本発明の他の側面によると、無線通信を利用した無線式列車制御システムは、列車に搭載された車上装置、前記列車の前部側に搭載された第1車上無線機及び前記列車の後部側に搭載された第2車上無線機を含み、前記車上装置は、第1路線を走行する前記列車が前記第1路線と第2路線の境界手前の所定位置に到達すると、前記第1車上無線機の通信方式を前記第1路線用の通信方式から前記第2路線用の通信方式に切り替えるように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
このような無線式列車制御システムにおいては、第1路線を走行する列車が第1路線と第2路線との境界手前の所定位置に到達すると、列車の車上装置によって列車の車上無線機の通信方式が第1路線用の通信方式から第2路線用の通信方式へと切り替えられる。このため、第2路線に進入しようとする列車の車上装置は、事前に第2路線の地上装置との間で無線通信を行って列車の制御に必要な情報を取得することができる。これにより、前記無線式列車制御システムは、列車が第1路線から第1路線とは異なる通信方式が用いられている第2路線へと進入する(乗り入れる)ことを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る無線式列車制御システムの概略構成を示す図である。
図2】前記無線式列車制御システムの列車側設備を示す図である。
図3】前記列車側設備を構成する車上無線機の概略構成の一例を示すブロック図である。
図4】列車が第1路線において切り替えポイントよりも手前を走行している状態を示す図である。
図5】列車が切り替えポイントに到達した状態を示す図である。
図6】列車が第1路線と第2路線との境界を通過した後の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本発明に係る無線式列車制御システムの概要を説明する。本発明に係る無線式列車制御システムは、互いに接続され、かつ、列車を制御するために必要な情報が互いに異なる通信方式を用いて送受信される少なくとも二つの路線に適用され、列車が前記少なくとも二つの路線の線路を安全に走行することを可能とする。ここで、「路線」とは、主に一の管理者(鉄道事業者等)が管轄する線路区間のことをいい、典型的には前記管理者が管轄する線路の起点から終点までの区間が該当する。また、「通信方式」は、通信規格や通信プロトコルなどを含み、「通信方式が異なる」とは、前記通信規格や前記通信プロトコルなどの少なくとも一つが異なるこという。
【0010】
以下に説明する実施形態においては、本発明に係る無線式列車制御システムが、互いに接続され、かつ、互いに異なる通信方式が用いられる二つの路線に適用されている。しかし、これに限られるものではなく、本発明に係る無線式列車制御システムは、互いに異なる通信方式が用いられる二つの路線を含む三つ以上の路線に適用され得るものであり、それぞれ異なる通信方式が用いられる三つ以上の路線にも適用され得る。
【0011】
以下、添付図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る無線式列車制御システムの概略構成を示している。本実施形態に係る無線式列車制御システム1は、列車を制御するために必要な情報の送受信に第1通信方式が用いられる第1路線Aと、第1路線Aに接続されると共に、列車を制御するために必要な情報の送受信に前記第1通信方式とは異なる第2通信方式が用いられる第2路線Bとに適用され、列車10が第1路線Aの線路Raと第2路線Bの線路Rbとを安全に走行することを可能とする。
【0012】
なお、以下では、第1路線A(の線路Ra)を走行する列車10が第2路線B(の線路Rb)に進入する(乗り入れる)場合について説明する。但し、これに限られるものではなく、第2路線B(の線路Rb)を走行する列車10が第1路線A(の線路Ra)に進入する(乗り入れる)ことも可能である。この場合には、列車10の進行方向を逆にすると共に、以下の説明における第1路線Aに関する記載と第2路線Bに関する記載とを逆にすればよい。
【0013】
図1に示されるように、無線式列車制御システム1は、地上側設備として、第1路線A用の複数の第1地上無線機2a及び第1地上装置3aと、第2路線B用の複数の第2地上無線機2b及び第2地上装置3bと、複数の地上子4とを含む。
【0014】
複数の第1地上無線機2aは、第1路線Aの線路Ra沿って互いに間隔をあけて配置されている。第1地上無線機2aは、前記第1通信方式にしたがって無線通信を行うことが可能に構成されている。第1地上装置3aは、複数の第1地上無線機2aのそれぞれに接続されている。第1地上装置3aは、主に第1路線Aの線路Raを走行する各列車の列車制御情報を生成する。前記列車制御情報は、列車の走行可能距離や列車の制限速度などである。例えば、第1地上装置3aは、第1路線Aの線路Raを走行する列車10の位置とその先行列車(図示省略)の位置とに基づいて列車10の走行可能距離を算出し、算出した走行可能距離に基づいて列車10の列車制御情報を生成する。
【0015】
複数の第2地上無線機2bは、第2路線Bの線路Rbに沿って互いに間隔をあけて配置されている。第2地上無線機2bは、前記第2通信方式に従って無線通信を行うことが可能に構成されている。第2地上装置3bは、複数の第2地上無線機2bのそれぞれに接続されている。第2地上装置3bは、主に第2路線Bの線路Rbを走行する各列車の列車制御情報を生成する。例えば、第2地上装置3bは、第2路線Bの線路Rbを走行する列車10の位置とその先行列車(図示省略)の位置とに基づいて列車10の列車制御情報を生成する。また、本実施形態において、第2地上装置3bは、後述するように、第2路線B(の線路Rb)に進入する直前の列車10、すなわち、第1路線A(の線路Ra)を走行している列車10の列車制御情報を生成することも可能である。
【0016】
本実施形態において、第1地上装置3aと第2地上装置3bとは、通信線を介して接続されており、相互に信号や情報を送受信することができる。
【0017】
地上子4は、いわゆる位置補正用の地上子である。各地上子4は、第1路線Aの線路Raの所定位置又は第2路線Bの線路Rbの所定位置に設置されている。各地上子4は、列車10が各地上子4を通過する際、それぞれの位置(絶対位置)を示す位置情報を後述する車上子13に送信するように構成されている。
【0018】
次に、無線式列車制御システム1の列車側設備について説明する。図2は、無線式列車制御システム1の列車側設備を示す図であり、列車10の概略構成を示している。図2に示されるように、無線式列車制御システム1は、列車側設備として、列車10の進行方向の前部側に搭載された第1車上無線機11fと、列車10の進行方向の後部側に搭載された第2車上無線機11rと、速度発電機12と、車上子13と、車上装置14とを含む。
【0019】
なお、列車10が複数車両からなる編成列車である場合、第1車上無線機11fは先頭車両に搭載され、第2車上無線機11rは後尾車両に搭載され、前記先頭車両と前記後尾車両のそれぞれに車上装置が搭載され得る。この場合においては、例えば前記編成列車の進行方向に応じて先頭車両に搭載された車上装置が車上装置14として機能する。
【0020】
本実施形態において、第1車上無線機11f及び第2車上無線機11rは、第1路線Aで用いられている前記第1通信方式と第2路線Bで用いられている前記第2通信方式とを切り替えて無線通信を行うことができるように構成されている。
【0021】
図3は、第1車上無線機11f及び第2車上無線機11rの概略構成の一例を示すブロック図である。図3に示されるように、第1、第2車上無線機11f、11rは、第1RF処理部111a及び第2RF処理部111bと、アンテナ112と、第1路線A用の第1地上無線機2aと通信を行うための第1プロトコル部113a及び第2路線B用の第2地上無線機2bと通信を行うための第2プロトコル部113bと、制御部114と、を含む。
【0022】
第1RF処理部111aは、前記第1通信方式の通信規格にしたがって無線信号の送受信処理を行う。第2RF処理部111bは、前記第2通信方式の通信規格にしたがって無線信号の送受信処理を行う。
【0023】
アンテナ112は、第1RF処理部111a及び第2RF処理部111bに接続されている。アンテナ112は、第1地上無線機2a又は第2地上無線機2bからの無線信号を受信し、第1地上無線機2a又は第2地上無線機2bに対して無線信号を送信する。本実施形態において、第1、第2車上無線機11f、11rは、第1RF処理部111a及び第2RF処理部111bに共通する一つのアンテナ112を有している。しかし、これに限られるものではない。第1、第2車上無線機11f、11rは、第1RF処理部111aと第2RF処理部111bとで別々のアンテナを有してもよいし、指向特性等の異なる複数のアンテナを有してもよい。
【0024】
制御部114は、第1、第2車上無線機11f、11rの全体動作を制御すると共に、主に車上装置14からの指示に基づいて第1、第2車上無線機11f、11rを前記第1通信方式の無線機又は前記第2通信方式の無線機として機能させる。具体的には、制御部114は、第1RF処理部111a及び第1プロトコル部113aを選択することによって第1、第2車上無線機11f、11rを前記第1通信方式の無線機として機能させ、第2RF処理部111b及び第2プロトコル部113bを選択することによって第1、第2車上無線機11f、11rを前記第2通信方式の無線機として機能させる。
【0025】
図2に戻って、速度発電機12は、列車10の所定の車輪の車軸に取り付けられ、当該車軸の回転速度に比例した周波数の電圧を出力する。車上子13は、列車10の前部の下部に設けられ、列車10が地上子4を通過する際に、当該地上子4から前記位置情報(絶対位置)を受信する。
【0026】
車上装置14は、第1車上無線機11f、第2車上無線機11r、速度発電機12及び車上子13に接続されている。車上装置14は、速度発電機12の出力に基づいて、自身を搭載した列車10の走行速度及び走行距離を算出することができる。また、車上装置14は、算出した走行距離と、地上子4から受信した前記位置情報(絶対位置)と、列車10の長さとに基づいて、自身を搭載した列車10の位置(先頭位置及び後尾位置)を検出することができる。
【0027】
車上装置14は、検出した列車10の位置を、第1車上無線機11f及び第2車上無線機11rを介して第1地上装置3a及び/又は第2地上装置3bに送信する。また、車上装置14は、第1地上装置3aが第1地上無線機2aを介して送信した列車制御情報及び/又は第2地上装置3bが第2地上無線機2bを介して送信した列車制御情報を、第1車上無線機11f又は第2車上無線機11rを介して受信し、受信した列車制御情報に基づいて列車10の走行を制御する。
【0028】
次に、無線式列車制御システム1の動作、特に車上装置14が実行する第1車上無線機11f及び第2車上無線機11rの通信方式の切り替え動作の一例を説明する。
【0029】
図4図6は、第1路線Aの線路Raを走行する列車10が第1路線Aと第2路線Bとの境界Cを超えて第2路線Bの線路Rbに進入するまでの様子を時系列で示している。本実施形態において、列車10の前部側の第1車上無線機11fの通信方式を切り替える切り替えポイントDが、列車10の進行方向における境界Cの手前の所定位置(すなわち、第1路線A内)に設定されている。切り替えポイントDは、最も第1路線A側に位置する第2地上無線機2bの通信範囲内に設定される。また、車上装置14は、境界Cの位置及び切り替えポイントDの位置を図示省略のメモリ等に記憶(保持)しているものとする。
【0030】
図4は、列車10が第1路線Aにおいて切り替えポイントDよりも手前の線路Raを走行している状態を示している。この場合、第1車上無線機11fの制御部114及び第2車上無線機11rの制御部114は、第1RF処理部111a及び第1プロトコル部113aを選択している。すなわち、第1車上無線機11f及び第2車上無線機11rは、前記第1通信方式の無線機として機能しており、第1路線A用の複数の第1地上無線機2aのそれぞれと無線通信を行うことが可能である。
【0031】
図4に示される状態において、車上装置14は、列車10の現在位置(列車10の先頭位置及び後尾位置を含む。以下、同じ。)を検出し、検出した列車10の現在位置を第1車上無線機11f及び特定の第1地上無線機2aを介して第1地上装置3aに送信すると共に、検出した列車10の現在位置を第2車上無線機11r及び前記特定の第1地上無線機2aとは別の第1地上無線機2aを介して第1地上装置3aに送信する。すなわち、車上装置14は、列車10の現在位置を二つの経路で第1地上装置3aに送信する。したがって、第1地上装置3aは、第1路線Aにおける列車10の現在位置を確実に取得することができる。ここで、列車10の現在位置が送信される前記二つの経路のうちの一方が主経路とされ、前記二つの経路のうちの他方がバックアップ経路とされ得る。
【0032】
列車10の現在位置を取得した第1地上装置3aは、取得した列車10の現在位置に基づいて列車10の列車制御情報を生成し、生成した列車10の列車制御情報を特定の第1地上無線機2a及び第1車上無線機11fを介して車上装置14に送信すると共に、生成した列車10の列車制御情報を前記特定の第1地上無線機2aとは別の第1地上無線機2a及び第2車上無線機11rを介して車上装置14に送信する。つまり、第1地上装置3aは、列車10の列車制御情報を二つの経路で車上装置14に送信する。したがって、車上装置14は、列車10の列車制御情報を確実に取得することができる。そして、車上装置14は、取得した列車制御情報に基づいて列車10の走行を制御する。ここで、列車10の列車制御情報が送信される前記二つの経路のうちの一方が主経路とされ、前記二つの経路のうちの他方がバックアップ経路とされ得る。
【0033】
図5は、列車10(の先頭)が切り替えポイントDに到達した状態、換言すれば、列車10の先頭が境界Cに対して所定距離まで接近した状態を示している。車上装置14は、自身を搭載した列車10の先頭位置が切り替えポイントDの位置になると、列車10の前部側の第1車上無線機11fの制御部114に対して、前記第2通信方式(第2RF処理部111b及び第2プロトコル部113b)を選択するように指示する。これにより、第1車上無線機11fは、前記第2通信方式の無線機として機能するようになり、第2路線B用の複数の第2地上無線機2bのそれぞれと無線通信を行うことが可能になる。すなわち、車上装置14は、列車10の前部側の第1車上無線機11fの通信方式を第1路線A用の前記第1通信方式から第2路線B用の前記第2通信方式に切り替える。なお、列車10の後部側の第2車上無線機11rの通信方式は、第1路線A用の前記第1通信方式のまま保持される。
【0034】
図5に示される状態において、車上装置14は、検出した列車10の現在位置を第1車上無線機11f及び最も第1路線A側の第2地上無線機2bを介して第2地上装置3bに送信すると共に、検出した列車10の現在位置を第2車上無線機11r及び特定の第1地上無線機2aを介して第1地上装置3aに送信する。第1地上装置3aは、取得した列車10の現在位置を第2地上装置3bに送信し、第2地上装置3bは、取得した列車10の現在位置を第1地上装置3aに送信する。つまり、第1地上装置3a及び第2地上装置3bは、列車10の現在位置を二重に取得する。したがって、第1路線A用の第1地上装置3a及び第2路線B用の第2地上装置3bの双方が列車10の現在位置を確実に取得することができる。ここで、第1地上装置3aは、第2車上無線機11r及び第1地上無線機2aを介して受信した列車10の現在位置をメインデータ、第2地上装置3bから受信した列車10の現在位置をバックアップデータとして取り扱うことができる。同様に、第2地上装置3bは、第1車上無線機11f及び第2地上無線機2bを介して受信した列車10の現在位置をメインデータ、第1地上装置3aから受信した列車10の現在位置をバックアップデータとして取り扱うことができる。
【0035】
列車10の現在位置を取得した第2地上装置3bは、取得した列車10の現在位置に基づいて列車10の列車制御情報を生成し、生成した列車制御情報を最も第1路線A側の第2地上無線機2b及び第1車上無線機11fを介して車上装置14に送信すると共に、生成した列車制御情報を第1地上装置3aにも送信する。一方、第1地上装置3aは、列車10の列車制御情報を生成せず、第2地上装置3bが生成した列車10の列車制御情報を第2地上装置3bから取得し、取得した列車10の列車制御情報を第1地上無線機2a及び第2車上無線機11rを介して車上装置14に送信する。つまり、車上装置14は、列車10の列車制御情報を二重に取得する。したがって、車上装置14は、列車10の列車制御情報を確実に取得することができる。そして、車上装置14は、取得した列車制御情報に基づいて列車10の走行を制御する。ここで、車上装置14は、第1車上無線機11fを介して受信した列車制御情報(すなわち、第2地上装置3bが送信した列車制御情報)をメインデータ、第2車上無線機11rを介して受信した列車制御情報(すなわち、第1地上装置3aが送信した列車制御情報)をバックアップデータとして取り扱うことができる。そして、図5に示される状態は、列車10(の後尾)が境界Cを通過するまで維持される。
【0036】
図6は、列車10(の後尾)が境界Cを通過した後の状態を示している。車上装置14は、列車10の後尾位置が境界Cの位置を超えると、列車10の後部側の第2車上無線機11rの制御部114に対して、前記第2通信方式(第2RF処理部111b及び第2プロトコル部113b)を選択するように指示する。これにより、第1車上無線機11fと同様、第2車上無線機11rは前記第2通信方式の無線機として機能するようになり、第2路線B用の複数の第2地上無線機2bのそれぞれと無線通信を行うことが可能になる。すなわち、車上装置14は、第2車上無線機11rの通信方式を第1路線A用の前記第1通信方式から第2路線B用の前記第2通信方式に切り替える。
【0037】
図6に示される状態において、車上装置14は、列車10の現在位置を検出し、検出した列車10の現在位置を第1車上無線機11f及び特定の第2地上無線機2bを介して第2地上装置3bに送信すると共に、検出した列車10の現在位置を第2車上無線機11r及び前記特定の第2地上無線機2bとは別の第2地上無線機2bを介して第2地上装置3bに送信する。すなわち、図4に示された状態と同様に、車上装置14は、列車10の現在位置を二つの経路で第2地上装置3bに送信する。したがって、第2地上装置3bは、第2路線Bにおける列車10の現在位置を確実に取得することができる。なお、列車10の現在位置が送信される前記二つの経路のうちの一方が主経路とされ、前記二つの経路のうちの他方がバックアップ経路とされ得る。
【0038】
また、列車10の現在位置を取得した第2地上装置3bは、取得した列車10の現在位置に基づいて列車10の列車制御情報を生成し、生成した列車10の列車制御情報を特定の第2地上無線機2b及び第1車上無線機11fを介して車上装置14に送信すると共に、生成した列車10の列車制御情報を前記特定の第2地上無線機2bとは別の第2地上無線機2b及び第2車上無線機11rを介して車上装置14に送信する。すなわち、図4に示された状態と同様、第2地上装置3bは、列車10の列車制御情報を二つの経路で車上装置14に送信する。したがって、車上装置14は、列車10の列車制御情報を確実に取得することができる。そして、車上装置14は、受信した列車制御情報に基づいて列車10の走行を制御する。なお、列車10の列車制御情報が送信される前記二つの経路のうちの一方が主経路とされ、前記二つの経路のうちの他方がバックアップ経路とされ得る。
【0039】
以上説明したように、本実施形態に係る無線式列車制御システム1においては、第1路線Aを走行する列車10が第1路線Aと第2路線Bとの境界Cの手前の所定位置に設定された切り替えポイントDに到達したとき、列車10の車上装置14は列車10の前部側の第1車上無線機11fの通信方式を第1路線A用の前記第1通信方式から第2路線B用の前記第2通信方式に切り替える。このため、車上装置14は、列車10がこれから進入する第2路線B用の第2地上装置3bと事前に無線通信を行って、列車10の列車制御情報を取得することができる。この結果、車上装置14は、列車10を停止させることなく、列車10を安全に第2路線Bに進入させることが可能になる。
【0040】
また、車上装置14は、列車10が境界Cを通過するまでの間、第2車上無線機11rの通信方式を第1路線A用の前記第1通信方式のまま維持し、列車10が境界Cを通過してから第2車上無線機11rの通信方式を第1路線A用の前記第1通信方式から第2路線B用の第2通信方式に切り替える。このため、第1路線A用の第1地上装置3aは、列車10の一部が第2路線Bに進入した後においても、列車10が完全に第1路線Aから進出するまでは列車10の位置を取得することができる。これにより、特に列車10の後続列車の安全な走行が確保され得る。
【0041】
さらに、列車10の先頭が切り替えポイントDを超えてから列車10の後尾が境界Cを超えるまでの間、第1地上装置3aは、第2車上無線機11r及び第1地上無線機2aを介して受信した列車10の現在位置を第2地上装置3bに送信し、第2地上装置3bは、第1車上無線機11f及び第2地上無線機2bを介して受信した列車10の現在位置を第1地上装置3aに送信する。このため、列車10が第1路線Aを走行している場合(図4)や列車10が第2路線Bを走行している場合(図6)と同様に、列車10が境界C及びその近傍を走行しているときにおいても(図5)、第1地上装置3a及び第2地上装置3bは列車10の現在位置を二重に取得することができるので、第1地上装置3a及び第2地上装置3bが列車10の現在位置を取得し損なうことがない。また、第2地上装置3bは、列車10の列車制御情報を生成して車上装置14に送信し、第1地上装置3aは、第2地上装置3bが生成した列車10の列車制御情報を第2地上装置3bから取得して車上装置14に送信する。このため、車上装置14は列車10の列車制御情報を二重に取得できるので、車上装置14が列車10の列車制御情報を取得し損なうことがない。したがって、境界C及びその近傍を走行する列車10の安全性が確保されることはもちろん、列車10の後続列車の安全性も確保され得る。
【0042】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想に基づいて更なる変形や変更が可能である。以下にいくつか例示する。
【0043】
上述の実施形態においては、列車10の前部と後部とに車上無線機が一つずつ設けられている。しかし、これに限られるものではなく、列車10の前部及び/又は後部に複数の車上無線機が設けられてもよい。また、上述の実施形態において、車上装置14は、自身を搭載した列車10の先頭位置が切り替えポイントDの位置になると列車10の前部側の第1車上無線機11fの通信方式を切り替えるようにしている。しかし、これに限られるものではなく、車上装置14は、切り替えポイントD又はその近傍に設置された地上子などの地上側設備から送信される切り替え信号に基づいて列車10の前部側の第1車上無線機11fの通信方式を切り替えるようにしてもよい。同様に、車上装置14は、境界C又はその近傍に設置された地上子などの地上側設備から送信される切り替え信号に基づいて列車10の後部側の第2車上無線機11rの通信方式を切り替えるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0044】
1…無線式列車制御システム
2a…第1地上無線機
2b…第2地上無線機
3a…第1地上装置
3b…第2地上装置
4…地上子
10…列車
11f…第1車上無線機
11r…第2車上無線機
12…速度発電機
13…車上子
14…車上装置
A…第1路線
B…第2路線
C…第1路線と第2路線の境界
D…切り替えポイント
Ra…第1路線の線路
Rb…第2路線の線路
図1
図2
図3
図4
図5
図6