(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844977
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】新規水溶性ジイモニウム化合物又はその塩、及び水性組成物
(51)【国際特許分類】
C09B 67/44 20060101AFI20210308BHJP
C09B 53/02 20060101ALI20210308BHJP
C09K 3/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
C09B67/44 A
C09B53/02CSP
C09K3/00 105
【請求項の数】2
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-184393(P2016-184393)
(22)【出願日】2016年9月21日
(65)【公開番号】特開2018-48256(P2018-48256A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年9月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】森田 陵太郎
【審査官】
川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2005/044782(WO,A1)
【文献】
特開2009−223054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09B 53/00,53/02,67/44
C09K 3/00
C07C 251/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)
【化1】
(式(1)中、Xは1乃至3の整数を表す。)で表されるジイモニウム化合物
の塩及び水性媒体を含有する水性組成物。
【請求項2】
式(1)におけるXが3である請求項1に記載の水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、近赤外線領域に幅広い吸収を有するジイモニウム化合物またはその塩、及びその水性組成物に関する。特に劇物に該当せず、水溶性に優れ、保存安定性の高い水溶液、並びにそれを用いた赤外線吸収水溶性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
700乃至2000nmの近赤外領域に吸収を有する近赤外線吸収色素は、例えばCD−R等の光情報記録媒体分野、サーマルCTP、フラッシュトナー並びに レーザー感熱記録等の印刷分野及び熱遮断フィルム分野等、産業上の様々な用途への応用が検討されている。また、選択的に特定の波長域の光を吸収するという近赤外線吸収色素の特性を利用して、PDP等に用いられる近赤外線カットフィルターや植物成長調整用フィルム等にも使用されている。更には、近赤外線吸収色素を溶媒に溶解又は分散させてインク化することにより、目視では認識できず近赤外線検出器等のみで読み取り可能な近赤外線吸収インクとして使用することも可能である。近赤外線吸収インク等のインクは、近赤外線吸収色素を溶解又は分散させる溶媒の主成分によって水系のインクと有機溶剤系のインクとに大別されるが、環境問題等の観点から水系のインクが強く求められており、水(水性媒体)に対する溶解度の高い近赤外線吸収色素の開発が望まれている。
【0003】
ジイモニウム化合物は、他の赤外線吸収色素と比べて幅広い吸収波長領域を有しており、近赤外線吸収フィルター、断熱フィルム及びサングラス等に広く利用されている。しかしながら、その多くは水(水性媒体)に対する溶解度が低いことから、これまで主に有機溶剤系のインクとして、堅牢性や安全性の向上を目的とした検討や、溶剤に対する溶解性の向上を目的とした検討がなされてきた(特許文献1乃至3)。
またその一方で、シアニン化合物やオキソノール化合物と同様に、水溶性の近赤外線吸収剤としてのジイモニウム化合物の開発も行われてきた(特許文献4乃至7)。
【0004】
対イオンが六フッ化アンチモン酸イオンや六フッ化砒素イオン等の水溶性のジイモニウム化合物が従来知られているが、その多くは劇物や危険物に該当し各種法規制を受けるものである。そのため、例えば重金属等の使用が規制される産業分野、特に電気関係の材料分野ではこれらの金属を含まない化合物の開発が望まれている。対イオンを持たない分子内塩型のジイモニウム化合物であれば重金属等を含まないため高く、使用範囲が広がると考えられるが、水(水性媒体)に対する充分な溶解性、及び得られた水(性)溶液の安定性に優れたジイモニウム化合物はこれまで見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第3699464号公報
【特許文献2】特許第4800769号公報
【特許文献3】特許第4553962号公報
【特許文献4】特開2001−42511号公報
【特許文献5】特開2008−144004号公報
【特許文献6】特開2001−181184号公報
【特許文献7】特開2002−173474号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、重金属を含まず、水(水性媒体)に対する高い溶解性を有し、かつ水(性)溶液とした場合の保存安定性に優れるジイモニウム化合物(近赤外線吸収色素)、及び該ジイモニウム化合物(赤外線吸収色素)を含有する水性組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は前記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、特定構造のジイモニウム化合物またはその塩によって上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
即ち、本発明は、
(1)下記式(1)
【0008】
【化1】
【0009】
(式(1)中、Xは1乃至3の整数を表す。)で表される水溶性ジイモニウム化合物またはその塩、
(2)式(1)におけるXが3である前項(1)に記載の水溶性ジイモニウム化合物又はその塩、
(3)前項(1)または(2)に記載の水溶性ジイモニウム化合物又はその塩及び水性媒体を含有する水性組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0010】
上記式(1)で表される本発明の新規水溶性ジイモニウム化合物またはその塩は、水(水性媒体)に対する溶解性が高く、該化合物又はその塩を含有する水(性)溶液を用いることにより、保存安定性に優れた水性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に本発明を詳細に説明する。
上記式(1)で表される本発明のジイモニウム化合物またはその塩は、近赤外線吸収色素として機能する水溶性の化合物である。
尚、本明細書においては特に断りが無い限り、カルボキシ基は遊離酸の形で表す。また、本明細書の以下の記載では、ジイモニウム化合物またはその塩を、単に「ジイモニウム化合物」と簡略して記載する。
【0012】
本発明のジイモニウム化合物は前記式(1)で表される構造を有する。
式(1)中、Xは1乃至3の整数を表し、3であることが好ましい。
【0013】
本発明のジイモニウム化合物は遊離酸、あるいはその塩としても存在する。形成し得る塩としては、無機又は有機陽イオンとの塩が挙げられる。無機陽イオンの塩の具体例としてはリチウム塩、ナトリウム塩及びカリウム塩等のアルカリ金属塩やアンモニウム塩(NH
4+)が挙げられる。また、有機陽イオンの具体例としては、たとえば下記式(10)で表される4級アンモニウムが挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0015】
式(10)中、Z
1〜Z
4はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1乃至4アルキル基、ヒドロキシ炭素数1乃至4アルキル基、又はヒドロキシ炭素数1乃至4アルコキシ炭素数1乃至4アルキル基を表し、Z
1乃至Z
4の少なくとも1つは水素原子以外の基である。
【0016】
式(10)のZ
1乃至Z
4が表す炭素数1乃至4アルキル基の具体例としては、メチル基及びエチル基等が挙げられる。
式(10)のZ
1乃至Z
4が表すヒドロキシ炭素数1乃至4アルキル基の具体例としては、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、3−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシプロピル基、4−ヒドロキシブチル基、3−ヒドロキシブチル基及び2−ヒドロキシブチル基等が挙げられる。
式(10)のZ
1乃至Z
4が表すヒドロキシ炭素数1乃至4アルコキシ炭素数1乃至4アルキル基の具体例としては、ヒドロキシエトキシメチル基、2−ヒドロキシエトキシエチル基、3−(ヒドロキシエトキシ)プロピル基、3−(ヒドロキシエトキシ)ブチル基及び2−(ヒドロキシエトキシ)ブチル基等が挙げられる。
【0017】
本発明のジイモニウム化合物が形成する塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩及びリチウム塩等のアルカリ金属塩、モノエタノールアンモニウム塩、ジエタノールアンモニウム塩、トリエタノールアンモニウム塩、モノイソプロパノールアンモニウム塩、ジイソプロパノールアンモニウム塩及びトリイソプロパノールアンモニウム塩等の有機4級アンモニウム塩、及びアンモニウム塩等が好ましく、リチウム塩、ナトリウム塩、及びアンモニウム塩がより好ましい。
【0018】
本発明のジイモニウム化合物は、例えば次に記載する方法で合成することができる。
先ず特開2005−336150号公報に記載の方法に準じて下記式(A)で表される中間体化合物を合成する、
【0020】
次いで前記で得られた式(A)で表される中間体化合物を塩酸中、反応温度60乃至100℃で加水分解することにより、式(B)で表される中間体化合物が得られる。得られた式(B)で表される中間体化合物を、反応温度30乃至80℃、pH5乃至10の条件で、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド銀塩を用いて水溶液中で酸化することにより、式(1)で表されるジイモニウム化合物が得られる。
【0022】
上記の方法で得られた本発明の式(1)で表されるジイモニウム化合物は、塩酸等の鉱酸の添加により固体の遊離酸として単離することができ、得られた遊離酸の固体を水又は例えば塩酸水等の酸性水で洗浄すること等により、不純物として含有する無機塩(無機不純物)、例えば塩化ナトリウムや硫酸ナトリウム等を除去することができる。不純物を除去した後、本発明のジイモニウム化合物の遊離酸のウェットケーキやその乾燥固体を水中で所望の無機又は有機塩基と処理することにより、対応する化合物の塩の溶液を得ることができる。無機塩基としては、例えば水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物;炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属の炭酸塩;及び水酸化アンモニウム(アンモニア水);等が挙げられる。有機塩基の例としては、例えば上記式(10)で表される4級アンモニウムに対応する有機アミン、例えばジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。
【0023】
以下に式(1)で表されるジイモニウム化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0025】
本発明の水性組成物は、上記式(1)で表されるジイモニウム化合物及び水性媒体を含有する。
本発明の水性組成物における式(1)で表されるジイモニウム化合物の含有量は、通常0.1乃至20質量%、好ましくは0.2乃至10質量%、より好ましくは0.2乃至5質量%である。
【0026】
水性媒体としては、水または水溶性有機溶媒が挙げられる。水溶性有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ペンタノール及びベンジルアルコール等のアルコール類;エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,3−ペンタンジオール及び1,5−ペンタンジオール等の多価アルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル及びジプロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコール誘導体;エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン及びモルホリン等のアミン類;2−ピロリドン、NMP、1,3−ジメチル−イミダゾリジノン等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもよい。
【0027】
本発明の水性組成物には、酸またはアルカリを添加してもよい。
水性組成物に添加し得る酸としては、塩酸、硫酸及びリン酸等の無機酸並びにシュウ酸及びクエン酸等の有機酸等が挙げられる。
水性組成物に添加し得るアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム及び水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物並びに炭酸ナトリウム、炭酸リチウム及び炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩等が挙げられる。水性組成物に添加し得る酸またはアルカリの含有量は、通常0.1乃至30質量%、好ましくは0.2乃至20質量%、より好ましくは0.3乃至15質量%である。
【0028】
本発明の水性組成物は、CD−R等の光情報記録媒体分野、サーマルCTP、フラッシュトナー並びにレーザー感熱記録等の印刷分野及び熱遮断フィルム分野等、更にはPDP等に用いられる近赤外線カットフィルターや植物成長調整用フィルム等の用途に有用である。
【実施例】
【0029】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものでは無い。実施例中、合成によって得られた化合物の極大吸収波長を分光光度計「(株)島津製作所製UV−3150」により測定し評価した。
【0030】
実施例1(下記式(4)で表される本発明のジイモニウム化合物の合成)
特開2005−336150に記載の方法で合成した下記式(2)で表される中間体20部を23%塩酸100部に加え、90℃で8時間撹拌した後、室温まで冷却した。得られた反応液に塩化ナトリウム20部を加え室温で30分間撹拌した後、析出した固体をろ別することにより、下記式(3)で表される中間体40部をウェットケーキとして得た。得られたウェットケーキを水200部に添加し、水酸化ナトリウム水溶液でpH6.5に調製して溶解させた。得られた溶解液を50℃に昇温し、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド銀塩31部を加えて3時間撹拌した後に液ろ過し、室温においてろ液を35%塩酸でpH4.5に調製した。30分間撹拌して析出した固体をろ過分取し、水洗後に乾燥することにより、下記式(4)で表されるジイモニウム化合物10部を得た。該ジイモニウム系化合物のpH7乃至10の水溶液中での極大吸収波長は1062nmであった。
【0031】
【化6】
【0032】
【化7】
【0033】
【化8】
【0034】
比較例1(下記式(5)で表される比較用のジイモニウム化合物の合成)
実施例1で得られた上記式(3)で表される中間体を空気酸化する事によって、特開2001−181184号公報の表1、No.15に示されるジイモニウム化合物の遊離酸(下記式(5)で表されるジイモニウム化合物)を得た。
【0035】
【化9】
【0036】
比較例2(下記式(6)で表される比較用のシアニン化合物の合成)
特開昭63−33477号公報に記載の方法に準じて下記式(6)で表される水溶性シアニン化合物を得た。
【0037】
【化10】
【0038】
(A)溶解度試験
実施例1及び比較例1、2で得られたそれぞれの化合物を水と10%炭酸ナトリウム水溶液を用いてナトリウム塩とし、該ナトリウム塩の水への溶解度を評価した。評価基準は以下の通りである。
水への溶解性が4%以上・・・・・・・・・○
水への溶解性が1%以上4%未満・・・・・△
水への溶解性が1%未満・・・・・・・・・×
【0039】
表1 水への溶解度試験
実施例1 ○
比較例1 ○
比較例2 ×
【0040】
(B)保存安定性試験
上記「(A)溶解度試験」で得られた実施例1及び比較例1、2それぞれの溶液を、20乃至30℃で2週間静置した前後の分光を測定し、下記の計算式により色素残存率を算出した。
色素残存率(%)=(試験後OD/試験前OD)×100
尚、色素残存率の評価基準は以下の通りであり、値の大きいものほど保存安定性に優れることを意味する。
色素残存率が80%以上・・・・・・・・・○
色素残存率が80%未満・・・・・・・・・×
【0041】
表2 保存安定性試験
実施例1 ○
比較例1 ×
比較例2 ○
【0042】
表1及び2の結果から、本発明のジイモニウム化合物は、比較例1及び2の化合物に比べて水への高い溶解度と優れた保存安定性を示した。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明のジイモニウム化合物を用いる事により、重金属を含まず、高い水溶性を持ち、水溶液としての保存安定性の高い水性組成物を提供することが出来る。