(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6844981
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】酸性油の中和方法及び腐食性が低減した油
(51)【国際特許分類】
C10G 19/00 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
C10G19/00
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-202547(P2016-202547)
(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公開番号】特開2017-119826(P2017-119826A)
(43)【公開日】2017年7月6日
【審査請求日】2019年9月3日
(31)【優先権主張番号】特願2015-253764(P2015-253764)
(32)【優先日】2015年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000116747
【氏名又は名称】旭カーボン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100102255
【弁理士】
【氏名又は名称】小澤 誠次
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【弁理士】
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100113860
【弁理士】
【氏名又は名称】松橋 泰典
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【弁理士】
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【弁理士】
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【弁理士】
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100198074
【弁理士】
【氏名又は名称】山村 昭裕
(74)【代理人】
【識別番号】100096013
【弁理士】
【氏名又は名称】富田 博行
(74)【代理人】
【識別番号】100116481
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 利郎
(72)【発明者】
【氏名】赤澤 みなみ
(72)【発明者】
【氏名】坂本 直也
【審査官】
齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−006704(JP,A)
【文献】
特開平01−135896(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0023809(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G1/00−99/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性油に対し、分子内に脂環式の6員環を2つ有し、疎水性で沸点が100℃以上の一級アミンを添加することを特徴とし、前記アミンが4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)又は4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)である酸性油の中和方法。
【請求項2】
酸性油中の酸と等しい化学当量のアミンを添加することを特徴とする請求項1に記載の酸性油の中和方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の酸性油の中和方法によって得られる腐食性が低減した油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸性油の中和方法、及び該方法によって得られる腐食性が低減した油に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、広く工業界で用いられている化石原料、特に石炭・石油系の原料油は、昨今の不安定な世界情勢や将来における埋蔵量を考慮すると、その供給が長期に亘って安定であるとは言えず、代替原料等の検討が行われてきた。
例えば非化石原料、即ち動植物油又はその改質品に関する検討が行われており、タイヤの原料等の広い分野に応用されている。また、ナフテン酸等の有機酸を含む低品質の重質油、高分子廃棄物である廃プラスチックや廃ゴムなどを不活性雰囲気下で熱分解することにより得られる熱分解油の利用の検討も行われており、マテリアルリサイクルの面からもより環境に配慮した手法として注目されている。
しかし、上記重質油や一部の熱分解油は酸性物質を多く含有することから、熱交換器、受入タンク、配管等の各種設備に対して強い腐食性を有するため、機器の損耗、破壊を引き起こすといった問題がある。
【0003】
これらの問題に対し、種々の化合物による中和反応を利用した腐食の低減が検討されており、リン酸化合物(特許文献1)、チオール類(特許文献2)、各種アミン(特許文献3)等が報告されている。
しかし、これらの技術には様々な問題があり、例えばリン酸化合物は毒性が高く、取扱いに制限が生じるといった問題があるし、チオール類の腐食低減効果は十分でなく、且つ比較的処理時間が長いため、効率的な手法とは言えない。また、各種アミンは種々の形態があるため広く検討されており、シクロヘキシルアミン、トリブチルアミン等が取り上げられているが、やはり腐食低減効果が不十分な事例が多く、そのため多量に用いる必要があって効率的でない。また、手法によっては水溶液添加であるため油水分離工程が必要であり、更なる改良が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012−524167号公報
【特許文献2】特表2007−514797号公報
【特許文献3】特開平03−150380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、酸性油の簡便かつ効果的な中和方法、及び該方法によって得られる腐食性が低減した油の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、酸性物質を多く含有する所謂酸性油の効率的な中和方法について検討した結果、特定の化学構造及び物性を備えたアミンを用いると、従来の中和方法に見られる加熱や加圧、及び油水分離工程が不要となり、また、酸性油に対し油中の酸と等しい化学当量のアミンを添加するだけで十分に腐食性が低減した油が得られることを見出した。
即ち、上記課題は、次の1)〜4)の発明によって解決される。
1) 酸性油に対し、分子内に脂環式の6員環を2つ有し、疎水性で沸点が100℃以上の一級アミンを添加することを特徴とする酸性油の中和方法。
2) 前記アミンが、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、又は、4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)であることを特徴とする1)に記載の酸性油の中和方法。
3) 酸性油中の酸と等しい化学当量のアミンを添加することを特徴とする1)又は2)に記載の酸性油の中和方法。
4) 1)〜3)のいずれかに記載の酸性油の中和方法によって得られる腐食性が低減した油。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、酸性油の簡便かつ効果的な中和方法を提供できるとともに、該手法により腐食性が低減した油を得ることができる。また、各種設備に腐食対策を行うことなく熱分解油などの酸性油を用いることが可能となり、マテリアルサイクルの構築や安定した原料供給を実現できるので、工業上極めて有用である。
【0008】
以下、本発明について詳しく説明する。
本発明の対象となる酸性油とは酸性物質を含有する油のことであり、その例としては、ナフテン酸等の有機酸を含む低品質の重質油、廃プラスチックや廃ゴムを不活性雰囲気下で熱分解することにより得られる熱分解油の一部などが挙げられる。これらの油は酸性物質を多く含有することから、熱交換器、受入タンク、配管等の各種設備に対して強い腐食性を有し、機器の損耗、破壊を引き起こすため、酸性物質を中和する必要がある。
【0009】
本発明では中和用のアミンとして、分子内に脂環式の6員環を2つ有し、疎水性で沸点が100℃以上の一級アミンを用いる。その例としては、4,4′−メチレンビス(シクロヘキシルアミン)、4,4′−メチレンビス(2−メチルシクロヘキシルアミン)などが挙げられる。
なお、「疎水性」とは、分子構造等に由来して、水に対する親和性が低く混和しにくい性質のことであるが、一般的には水に対する溶解度が1g/100mL以下程度の物質を疎水性物質と呼んでいる。
一級アミンを用いると高い中和効果が得られるのは、立体障害が少なく中和反応が速やかに進行するためであると考えられる。また、分子内に脂環式の6員環を2つ有するアミンは、酸性油との親和性が高く容易に分散するので、腐食原因物質の酸との反応が効率よく進行すると推測される。更に、沸点が100℃以上であると、高温条件での中和反応に耐えることができるし、工業プラントでは重質油が100℃近い温度で保管されていることも考慮すると、沸点が100℃以上であることが好ましい。なお、沸点の上限は特にないが、実用可能な一級アミンの沸点は最高でも400℃程度である。
【0010】
本発明における中和操作は、油の流動性が保たれ均一な反応が進行するように留意すること以外に特に留意点はなく、アミンを適宜混合撹拌すればよい。
具体的には、まず中和対象となる酸性油に含まれる酸の量〔TAN(全酸価)値〕を測定する。測定方法は公知の方法、例えば全酸価測定法(JIS K2501)などを採用すればよい。
次いで、適当な反応容器に酸性油を入れ、そこに酸性油中の酸と等しい化学当量のアミンを添加して十分に混合撹拌する。混合撹拌の時間は酸性油の量などに応じて変わるので特定できないが、要するに酸とアミンの中和反応が完了すればよく、通常は1〜2分程度である。なお、上記「酸性油中の酸と等しい化学当量」とは、化学量論的に厳密に等しい量である必要はなく、実際の操作では多少の増減は問題ない。しかしアミンを過剰に添加すればアミンが無駄になるし、アミンが少なすぎると中和されない酸が増えて十分な腐食防止効果が得られない惧れもあるので、できるだけ「酸性油中の酸と等しい化学当量」とすることが好ましい。
そして、後述する実施例、比較例から分かるように、本発明に係る一級アミンの場合は顕著な効果が得られるが、比較例で用いたアミンでは酸と等しい量を加えても腐食を防止することはできない。
【実施例】
【0011】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0012】
実施例1〜2、比較例1〜7
廃ゴム1、及び廃ゴム2を、ロータリーキルン内で600℃×2時間加熱処理した後、軽質分を抜いて熱分解油1(TAN値:11.5)、熱分解油2(TAN値:0.58)を得た。
また、FCC油(流動接触分解油)に、ナフタレンカルボン酸とシクロヘキサンカルボン酸を加えてTAN値を調整し、酸性油1(TAN値:7.1)、酸性油2(TAN値:2.2)を得た。
また、課粒状のポリスチレン(PS)とポリエチレンテレフタレート(PET)の重量比5:1の混合物を熱分解して、PS/PET熱分解油(TAN値:20.5)を得た。
上記各酸性油を用い、表1の実施例1〜2の一級アミン、及び、比較例1〜6の各欄に示すアミン(本発明の条件を一つ以上満たさないアミン)を用いて中和反応を行った後、鉄片を用いて腐食の程度を調べた。
まず、全酸価測定法(JIS K2501)により各酸性油中の酸の量を測定した。
次いで、50mLのガラス瓶に各酸性油を30g入れ、該油中の酸と等しい化学当量のアミンを添加して十分に混合撹拌した。得られた混合物に鉄片(20mm×24mm×3mm)を浸漬した後、ガラス瓶ごとオイルバスで90℃×45日間加熱した。
その後、鉄片を取り出し、油分を除去し洗浄した後、重量を測定し、下記式により重量減少率を算出した。
また、比較例7として、アミンを添加することなく同様にテストを行った。
結果を表1に示すが、重量減少率が大きい程、鉄片の腐食が進行していることになる。
重量減少率(%)=〔(浸漬前鉄片重量−浸漬後鉄片重量)/浸漬前鉄片重量〕×100
【0013】
【表1】
【0014】
表1から分かるように、実施例の減少率は、どの酸性油についても0%であり、腐食が全く生じなかった。これに対し比較例では、効果にバラツキがあるものの、いずれも腐食低減効果は不十分であった。
なお、アミンを添加しない比較例7よりも腐食が進行した比較例があるが、これは、各アミンに特有の腐食に対する悪影響によるものと推測される。つまり、アミンによる中和反応が常に腐食に対してプラスの効果があるわけではなく、アミンの種類によっては却って悪影響を及ぼす場合もあり、アミンの選択は非常に重要且つ微妙であることが分かる。