(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
一般に使用される油圧式(多板)クラッチ装置は、例えば駆動軸に周方向に係合し、軸方向ついては摺動自在に備えられた、いわゆる摩擦プレートと、被駆動軸に周方向に係合し、軸方向については摺動自在に備えられた、いわゆるスチールプレートと、油圧によって軸方向に押圧可能なピストンとシリンダ等から構成され、駆動軸から被駆動軸への動力の伝達、及び、動力の切断をおこなう。
【0003】
図5(A)に、従来の油圧クラッチ装置201の説明図を示す。油圧クラッチ装置201は、第一軸260と第二軸270の間の動力伝達を制御する。油圧クラッチ装置201は、シリンダ230と、ピストン220を備える油圧式押圧機構210と、摩擦伝達機構280と、挟持部276等を備える。ピストン220と、シリンダ230を構成する外側筒部237と、内側筒部238は、圧力空間240を形成する。圧力空間240には作動油案内経路250が接続され、作動油を注入し油圧を供給することができる。摩擦伝達機構280は、複数の第一プレート282と、複数の第二プレート284を備える。摩擦伝達機構280は、ピストン220と挟持部276の間に設けられる。
【0004】
第一軸260には、駆動リング262が固定され、駆動リング262のスプラインには、周方向に複数の第一プレート282が係合され、複数の第一プレート282は、軸方向には摺動自在に保持される。第二軸270にはクラッチハブ275が固定され、クラッチハブ275の外周側に設けられたスプラインには、周方向に複数の第二プレート284が係合され、複数の第二プレート284は、軸方向には摺動自在に保持される。複数の第一プレート282と、複数の第二プレート284は、それぞれ交互に相手を挟み込む様に配設される。すなわち、第一プレート282と第二プレート284は、軸方向に交互に積層される。
【0005】
図5(B)で、油圧式押圧機構210の動作を説明する。まず作動油案内経路250から作動油を注入することでピストン220を、軸方向、矢印で示す摩擦伝達機構280の向きに移動させる。すると、ピストン220と挟持部276に挟み込まれた複数の第一プレート282と複数の第二プレート284が互いに近接し、摩擦又は油の粘性抵抗を生じる。すると第一軸260と第二軸270の間で動力が伝達されるようになり、第二軸270を通じて動力がさらに推進装置等に伝達される。
【0006】
さて第一軸260が駆動軸である場合を考える。油圧クラッチ装置が大型になり、回転速度が高速になると、第一軸260の回転による遠心力によって、圧力空間240内部の作動油が影響を受け、いわゆる遠心油圧が発生し、ピストンを押すことになる。
図6(A)に、油圧式押圧機構210の説明図を示す。第一軸260を周方向に覆うように、油圧式押圧機構210は設けられる。
図6(B)には、
図6(A)におけるA−A'矢視断面図を示す。圧力空間240は環状に形成される。ここで、第一軸260の中心軸からの距離をLとすると、径方向にLが大きくなるに従って、圧力空間240の内部にある作動油にかかる遠心力が大きくなることで、遠心油圧が大きくなる(
図6(C)参照)。このように遠心油圧が生じると、圧力空間240に供給される作動油圧をゼロにして、クラッチを開放される状態にしようとしても、ピストン220に押圧力が働き、摩擦伝達機構280が係合状態になり、大きなトルクが第二軸270側に生じる可能性がでてくる。またこのように遠心油圧が生じるとトルクを細かく高精度に制御することも困難になる。
【0007】
このような遠心油圧の影響を避けるために、ある程度押圧ピストンが移動すると、排油孔が開放されて、作動油が抜ける仕組み、および、ピストンの軸方向に複数の油室を設ける技術が開示されている(特許文献1参照)。また伝達トルクの制御性を良くするために、複数のピストンを組み合わせて、それぞれが摩擦伝達機構を押圧する技術も知られている(特許文献2参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1のような構造は部品点数が多く、構造が複雑となるため大型の油圧クラッチ装置には不向きである。また特許文献2のような複数のピストンを押圧する構造であると、クラッチを構成するクラッチプレートを局所的に押すことになり、プレートの変形を生じる可能性がある。
【0010】
本発明は、斯かる実情に鑑み、大型油圧クラッチにおいて、高速回転に伴う遠心油圧による影響を避け、低圧のクラッチ作動油圧でもトルクを細かく高精度に制御可能な油圧クラッチ装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明は、第一軸と、前記第一軸と同軸状に配置される第二軸と、前記第一軸と前記第二軸の間に配置されて、摩擦力又は油の粘性抵抗によって回転動力を伝達する摩擦伝達機構と、前記第一軸又は前記第二軸と共に回動し、前記摩擦伝達機構を軸方向に押圧して、該摩擦伝達機構の動力伝達トルクを変化させる油圧押圧機構と、を備え、前記油圧押圧機構は、軸方向に往復移動して前記摩擦伝達機構を押圧するピストンと、前記ピストンを収容するシリンダと、前記ピストンと前記シリンダの間に形成されて、前記ピストンに油圧を印加する第一圧力空間と、前記ピストンと前記シリンダの間に形成されて、前記ピストンに油圧を印加する第二圧力空間と、を有することを特徴とする、油圧クラッチ装置を提供する。
【0012】
上記(1)に記載する発明によれば、油圧押圧機構が第一圧力空間と、第二圧力空間という異なる2つの圧力空間を有するので、例えば第二圧力空間のみを使用してピストンを押圧することができる。したがって摩擦伝達機構を押圧するピストンの押圧面積を変えることなく弱い押圧力が実現でき、トルクを細かく高精度に制御することが可能になるという極めて優れた効果を奏する。
【0013】
(2)本発明は、前記ピストンが、前記第一圧力空間と対向する第一受圧面と、前記第二圧力空間と対向する第二受圧面と、を有し、前記第二受圧面の面積は、前記第一受圧面と比較して小さいことを特徴とする、上記(1)に記載の油圧クラッチ装置を提供する。
【0014】
上記(2)に記載する発明によれば、第二圧力空間の第二受圧面の面積は、第一圧力空間の第一受圧面と比較して小さいので、大きなトルクを生じさせたい場合には第一油圧空間を使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には、第二油圧空間を使用するといった使い分けができる。また小さな第二圧力空間を使用する場合には、遠心油圧の影響を避けることもできるので、細かなトルク制御が可能になる油圧クラッチ装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【0015】
(3)本発明は、前記第一受圧面及び前記第二受圧面が、リング状又は円状の面となっており、前記第二受圧面の径方向の距離は、前記第一受圧面と比較して小さいことを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の油圧クラッチ装置を提供する。
【0016】
上記(3)に記載する発明によれば、第二受圧面の径方向の距離が第一受圧面と比較して小さいので、第二圧力空間の作動油に働く遠心力の影響が小さくなり、遠心油圧による、意図しないトルクの発生が抑えやすくなり、細かなトルク制御が可能になる油圧クラッチ装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【0017】
(4)本発明は、前記第一受圧面及び前記第二受圧面が、リング状又は円状の面となっており、前記第二受圧面は、前記第一受圧面における外周縁と比較して、径方向内側に配置されることを特徴とする、上記(1)乃至(3)のいずれかに記載の油圧クラッチ装置を提供する。
【0018】
上記(4)に記載する発明によれば、第二圧力空間を構成する第二受圧面が、第一圧力空間を構成する第一受圧面の外周縁よりも内側に配置されるので、第二圧力空間内の作動油に働く遠心力の影響が小さくなり、第二圧力空間内の遠心油圧を生じにくくするという優れた効果を奏する。
【0019】
(5)本発明は、前記第一圧力空間と前記第二圧力空間が、円筒状又は円柱状の空間となっており、前記ピストンは、前記第一圧力空間と前記第二圧力空間の境界に位置して軸方向に伸びる筒状のピストン用隔離壁を有すると共に、前記シリンダは、前記ピストン用隔離壁と接近して対向する筒状のシリンダ用隔離壁を有し、前記ピストン用隔離壁と前記シリンダ用隔離壁によって、前記第一圧力空間と前記第二圧力空間が隔離されることを特徴とする、上記(1)乃至(4)のいずれかに記載の油圧クラッチ装置を提供する。
【0020】
上記(5)に記載する発明によれば、ピストン用隔離壁と、ピストン用隔離壁と接近して対向する筒状のシリンダ用隔離壁により、第一圧力空間と第二圧力空間を実現するので、簡単な構造で、細かなトルク制御が可能な油圧クラッチ装置を実現できるという極めて優れた効果を奏する。
【0021】
(6)本発明は、前記第一圧力空間と前記第二圧力空間が、軸方向において互いに異なる位置に設けられることを特徴とする、上記(1)乃至(5)のいずれかに記載の油圧クラッチ装置を提供する。
【0022】
上記(6)に記載する発明によれば、第一圧力空間と第二圧力空間が、軸方向において互いに異なる位置に設けられるので、ピストンの径方向に第一圧力空間と第二圧力空間を併設することができてスペースの有効活用が可能になり、またピストン用隔離壁と、ピストン用隔離壁と接近して対向する筒状のシリンダ用隔離壁も最小限の数に抑えることができるので油圧押圧装置の製造が容易になり、製造コストを低廉なものにできるというという優れた効果を奏する。
【0023】
(7)本発明は、前記第一圧力空間に第一油圧を案内する第一作動油案内経路と、前記第二圧力空間に第二油圧を案内する第二作動油案内経路と、を備え、前記第二油圧は、前記第一油圧と比較して低圧であることを特徴とする、上記(1)乃至(6)のいずれかに記載の油圧クラッチ装置を提供する。
【0024】
上記(7)に記載する発明によれば、油圧押圧機構が異なる油圧を印加できる二つの圧力空間を備えるので、大きなトルクを生じさせたい場合には第一油圧空間を使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には第二圧力空間を使用することで、簡単な構造で細かなトルク制御が可能になる油圧クラッチ装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【発明の効果】
【0025】
本発明の請求項1〜7記載の油圧クラッチ装置によれば、クラッチを押圧するピストンは単一のまま、遠心油圧の影響が少なくでき、弱い押圧力で小さなトルクを高精度に制御できるというという優れた効果を奏し得る。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0028】
図1〜
図4は発明を実施する形態の一例であって、図中、同一の符号を付した部分は同一物を表わす。なお、各図において一部の構成を適宜省略して、図面を簡略化する。そして、部材の大きさ、形状、厚みなどを適宜誇張して表現する。
【0029】
図1には、第一実施形態に係る油圧クラッチ装置1の説明図を示す。第一軸60は、例えば船舶におけるディーゼルエンジンの駆動軸である。第二軸70は、例えば船舶においてスクリュー等の推進装置に繋がる被駆動軸に接続され、動力を伝達する。なお
図1は、第一軸60の軸方向をY軸、径方向鉛直上向きをZ軸正の向き、としたときのX軸方向から見た油圧クラッチ装置1の断面を示す。
【0030】
油圧クラッチ装置1には、潤滑油を摩擦伝達機構80に供給する潤滑油経路56と、第一作動油案内経路52と、第二作動油案内経路54が備えられ、第一作動油案内経路52を通じて、後述する外側第一圧力空間42Aと、内側第一圧力空間42Bに作動油が供給される。なお潤滑油経路56は、シール部材97を通じて摩擦伝達機構80に潤滑油を供給する。
【0031】
油圧クラッチ装置1は、摩擦伝達機構80を軸方向に押圧する油圧式押圧機構10と、第一軸60と第二軸70の間に配置されて、摩擦力又は油の粘性抵抗によって動力を伝達する摩擦伝達機構80を備える。摩擦伝達機構80は、第一軸60の周囲に形成される。
【0032】
複数の第一プレート82と、複数の第二プレート84は、軸方向に交互に積層される。第一プレート82は、第一軸60と周方向に係合する。形状はリング状であり、内縁に凹凸を有する。凹凸は、第一軸60の駆動リング62に設けられたスプラインと周方向に係合する。第一プレート82は、駆動リング62のスプラインに案内されることで、第一軸60に対して軸方向に摺動自在となっている。第二プレート84は、第二軸70と周方向に係合する。形状はリング状であり、内縁に凹凸を有する。凹凸は、第二軸70に固定されたクラッチハブ75の外周側に設けられたスプラインと周方向に係合する。第二プレート84は、クラッチハブ75の外周側に設けられたスプラインに案内されることで、第二軸70に対して軸方向に摺動自在となっている。
【0033】
第二軸70と第一軸60の間には軸受け93、軸受け94が配設され、摩擦伝達機構80がトルクを生じていないときには、第一軸60と第二軸70は互いに自在に回動可能である。
【0034】
摩擦伝達機構80はピストン20と挟持部76により挟まれており、ピストン20が摩擦伝達機構80向きに押圧することで、第一プレート82と第二プレート84の間隙が狭まり、摩擦力又は油の粘性抵抗を生じることで第一軸60と第二軸70の間で動力を伝達する。
【0035】
すなわち摩擦伝達機構80が押圧されると、シリンダ30とピストン20を含む油圧式押圧機構10、摩擦伝達機構80、挟持部76、第二軸70は一体となって回動する。
【0036】
なお、貫通ボルト78は、軸方向に伸び、挟持部材76、駆動リング62、シリンダ30、およびピストン20から連続して設けられた爪部95を貫通する。貫通ボルト78の周囲には復帰用弾性部材79が設置され、後述する外側第一圧力空間42Aや第二圧力空間44の油圧が回収される際に、ピストン20を基底部31側に復帰させる。
【0037】
すなわち爪部95と挟持部76の間に復帰用弾性部材79が設けられることにより、油圧が下がった際に、ピストン20を、軸方向シリンダ30の基底部31向きに復帰させることで、摩擦伝達機構80にかかる力を低減させ、油圧クラッチ装置1を開放状態、切断状態にすることができる。
【0038】
図1(B)には、油圧式押圧機構10の説明図を示す。油圧式押圧機構10は、摩擦伝達機構80を軸方向に押圧するピストン20と、ピストン20を内部に保持し、自身の内壁とピストン20の間に、後述する圧力空間を形成する有底の中空構造を有するシリンダ30を備える。
【0039】
ピストン20は、第一軸60が内部に挿入される略リング形状であり、シリンダ30内で軸方向に移動自在に保持される。
【0040】
ピストン20とシリンダ30は、外側第一圧力空間42Aと、内側第一圧力空間42Bからなる第一圧力空間42と、第二圧力空間44を、その間に形成する。外側第一圧力空間42Aと、内側第一圧力空間42Bは、それぞれ環状の空間であり、第一作動油経路52により油圧が供給される。第二圧力空間44には、第二作動油案内経路54により油圧が供給される。
【0041】
外側第一圧力空間42Aは、外側筒部37とピストン20によって形成され、外側筒部37の内周面と、後述する第二対向面34の外周側に配置される外側第一対向面32Aと、後述する第二受圧面24の外周側に配置される外側第一受圧面22Aと、第一受圧面と第二受圧面の境界に位置するピストン用外側隔離壁26Aで形成されている。ピストン用外側隔離壁26Aは、軸方向に伸び、筒状であり、シール部材100が配置される(
図1(C)参照)。
【0042】
内側第一圧力空間42Bは、内側筒部38とピストン20によって形成され、内側筒部38の内周面と、後述する第二対向面34の内周側に配置される内側第一対向面32Bと、後述する第二受圧面24の内周側に配置される内側第一受圧面22Bと、第一受圧面と第二受圧面の境界に位置するピストン用内側隔離壁26Bで形成されている。ピストン用外側隔離壁26Bは、軸方向に伸び、筒状であり、シール部材100が配置される(
図1(C)参照)。
【0043】
なお
図1(C)において、内側筒部38のピストン20側周面に設けられるシール部材100と、シリンダ用内側隔離壁36Bに設けられるシール部材100は、図上異なった表現で表しているが、いずれもVリングである。シール部材100は、ダブルシールであってもよい。材質としてはニトリル、クロロプレン、フッ素樹脂等が考えられる。ピストン用外側隔離壁26Aに設けられるシール部材100と、外側筒部37の内周面と対向するピストン20の外周面に設けられるシール部材100についても同様である。
【0044】
以下、外側第一圧力空間42Aと内側第一圧力空間42Bを合わせて第一圧力空間42と定義する。また外側第一受圧面22Aと内側第一受圧面22Bを合わせて第一受圧面22と定義する。同様に、ピストン用外側隔離壁26Aとピストン用内側隔離壁26Bを合わせてピストン用隔離壁26、外側第一対向面32Aと内側第一対向面32Bを合わせて第一対向面32と定義する。シリンダ用外側隔離壁36Aとシリンダ用内側隔離壁36Bを合わせて、シリンダ用隔離壁36と定義する。
【0045】
第二圧力空間44は、互いに対向する第二受圧面24と第二対向面34と、第一圧力空間42と第二圧力空間44の境界に位置するシリンダ用外側隔離壁36A、及び、シリンダ用内側隔離壁36Bで形成される。第二圧力空間44は、環状の空間であり、第一圧力空間42より体積が小さい。また径方向の距離が、第一圧力空間42よりも小さい。第一圧力空間42と軸方向の位置が異なる。第二受圧面24は、径方向の距離が、第一受圧面22よりも小さい。また第二受圧面24は、第一受圧面22と軸方向の位置が異なり、
第一受圧面22より面積が小さいリング状の平面である。
【0046】
なおシリンダ用外側隔離壁36Aは、ピストン用隔離壁26Aと対向し、軸方向に伸び、環状となる。またシール部材100が配置される(
図1(C)参照)。
【0047】
外側第一圧力空間42Aと、内側第一圧力空間42Bには、それぞれ第一圧力空間42に案内される油圧を回収する第一作動油回収経路90が接続される。第一作動油回収経路90には、内部に細い流路を有し流動抵抗を生成するオリフィス92を備える(
図1(C)参照)。
【0048】
また第二圧力空間44には、第二圧力空間44に案内される油圧を回収する第二作動油回収経路91が接続される。第二作動油回収経路91には、内部に細い流路を有し流動抵抗を生成するオリフィス92を備える(
図1(C)参照)。
【0049】
第一作動油案内経路52と第二作動油案内経路54から供給される油圧は、油圧制御ユニット(図示省略)により制御される。
【0050】
油圧制御ユニットはCPU、RAMおよびROMなどから構成され、各種制御を実行する。CPUはいわゆる中央演算処理装置であり、各種プログラムが実行されて様々な機能を実現する。RAMはCPUの作業領域、記憶領域として使用され、ROMはCPUで実行されるオペレーティングシステムやプログラムを記憶する。
【0051】
すなわち、油圧クラッチ装置1は、第一軸60と、第一軸60と同軸状に配置される第二軸70と、第一軸60と第二軸70の間に配置されて、摩擦力又は油の粘性抵抗によって回転動力を伝達する摩擦伝達機構80と、第一軸60又は第二軸70と共に回動し、摩擦伝達機構80を軸方向に押圧して、該摩擦伝達機構80の動力伝達トルクを変化させる油圧押圧機構10とを備え、油圧押圧機構10は、軸方向に往復移動して摩擦伝達機構80を押圧するピストン20と、ピストン20を収容するシリンダ30と、ピストン20とシリンダ30の間に形成されて、ピストン20に油圧を印加する第一圧力空間42と、ピストン20とシリンダ30の間に形成されて、ピストン20に油圧を印加する第二圧力空間44とを有する。
【0052】
ピストン20は、第一圧力空間42、すなわち外側第一圧力空間42A及び内側第一圧力空間42Bと対向する第一受圧面22、すなわち外側第一受圧面22A及び内側第一受圧面22Bと、第二圧力空間44と対向する第二受圧面24と、を有し、第二受圧面24の面積は、第一受圧面22の面積、すなわち外側第一受圧面22Aの面積と内側第一受圧面22Bの面積の合計と比較して小さい。
【0053】
第一受圧面22、すなわち外側第一受圧面22A及び内側第一受圧面22Bと、第二受圧面24は、それぞれリング状又は円状の面となっており、第二受圧面24の径方向の距離は、第一受圧面22、すなわち外側第一受圧面22A及び内側第一受圧面22Bと比較して小さい。
【0054】
第一受圧面22、すなわち外側第一受圧面22A及び内側第一受圧面22Bと、第二受圧面24は、リング状又は円状の面となっており、第二受圧面24は、第一受圧面22における外周縁と比較して、径方向内側に配置される。
【0055】
第一圧力空間42、すなわち外側第一圧力空間42A及び内側第一圧力空間42B、と第二圧力空間44は、それぞれ円筒状又は円柱状の空間となっており、ピストン20は、第一圧力空間42、すなわち外側第一圧力空間42A及び内側第一圧力空間42Bと、第二圧力空間44の境界に位置して軸方向に伸びる筒状のピストン用隔離壁26を有すると共に、シリンダ30は、ピストン用隔離壁26と接近して対向する筒状のシリンダ用隔離壁36を有し、ピストン用隔離壁26とシリンダ用隔離壁36によって、第一圧力空間42と第二圧力空間44が隔離される。
【0056】
第一圧力空間42、すなわち外側第一圧力空間42A及び内側第一圧力空間42Bと、第二圧力空間44は、軸方向において互いに異なる位置に設けられる。
【0057】
第一圧力空間42に第一油圧を案内する第一作動油案内経路52と、第二圧力空間44に第二油圧を案内する第二作動油案内経路54とを備え、第二油圧は、第一油圧と比較して低圧である。
【0058】
本発明の第一実施形態に係る油圧クラッチ装置1によれば、油圧押圧機構80が第一圧力空間42と、第二圧力空間44という異なる2つの圧力空間を有するので、例えば第二圧力空間44のみを使用してピストンを押圧することができる。したがって摩擦伝達機構80を押圧するピストンの押圧面積を変えることなく、弱い押圧力が実現でき、トルクを細かく高精度に制御することが可能になるという極めて優れた効果を奏する。
【0059】
本発明の第一実施形態に係る油圧クラッチ装置1によれば、第二圧力空間44の第二受圧面24の面積は、第一圧力空間42の第一受圧面22の面積、すなわち外側第一受圧面22Aの面積と、内側第一受圧面22Bの面積を合わせた面積と比較して小さいので、大きなトルクを生じさせたい場合には第一油圧空間42を使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には、第二油圧空間44を使用するといった使い分けができる。また小さな第二圧力空間を使用する場合には、遠心油圧の影響を避けることもできるので、細かなトルク制御が可能になる油圧クラッチ装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【0060】
本発明の第一実施形態に係る油圧クラッチ装置1によれば、第二受圧面24の径方向の距離が第一受圧面22と比較して小さいので、第二圧力空間44の作動油に働く遠心力の影響が小さくなり、遠心油圧による、意図しないトルクの発生を抑えやすくなり、細かなトルク制御が可能になる油圧クラッチ装置を実現できるという優れた効果を奏する。
【0061】
本発明の第一実施形態に係る油圧クラッチ装置1によれば、第二圧力空間44を構成する第二受圧面24が、第一圧力空間42を構成する第一受圧面22の外周縁よりも内側に配置されるので、第二圧力空間内44の作動油に働く遠心力の影響が小さくなり、第二圧力空間44内の遠心油圧を生じにくくするという優れた効果を奏する。
【0062】
本発明の第一実施形態に係る油圧クラッチ装置1によれば、ピストン用隔離壁26と、ピストン用隔離壁26と接近して対向する筒状のシリンダ用隔離壁36により、第一圧力空間42と第二圧力空間44を実現するので、簡単な構造で、細かなトルク制御が可能な油圧クラッチ装置1を実現できるという極めて優れた効果を奏する。
【0063】
本発明の第一実施形態に係る油圧クラッチ装置1によれば、第一圧力空間42と第二圧力空間が44、軸方向において互いに異なる位置に設けられるので、ピストン20の径方向に第一圧力空間42と第二圧力空間44を併設することができてスペースの有効活用が可能になり、またピストン用隔離壁26と、ピストン用隔離壁26と接近して対向する筒状のシリンダ用隔離壁36も最小限の数に抑えることができるので油圧押圧装置1の製造が容易になり、製造コストを低廉なものにできるというという優れた効果を奏する。
【0064】
本発明の第一実施形態に係る油圧クラッチ装置1によれば、油圧押圧機構10が、異なる油圧を印加できる二つの圧力空間を備えるので、大きなトルクを生じさせたい場合には第一油圧空間42を使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には第二圧力空間44を使用することで、簡単な構造で、細かなトルクが可能な油圧クラッチ装置を実現できるという極めて優れた効果を奏する。
【0065】
図2で上記した第一実施形態の動作を説明する。
【0066】
図2(A)は、外側第一圧力空間42Aと、内側第一圧力空間42Bに油圧をかけて押圧する態様を説明する説明図である。大きなトルクを生じさせたい場合に、第一作動油案内経路52から油圧を供給し、ピストン20を摩擦伝達機構80側に押圧する。
【0067】
なお、第二圧力空間44の作動油は、第二作動油回収経路91(
図1(C)参照)を通じて回収され、油圧の供給はせず、第二受圧面24には圧力をかけない。
【0068】
図2(B)には、第二圧力空間44に油圧をかけて押圧する態様を示す。低圧のクラッチ作動油圧を第二作動油案内経路54から供給することにより、小さなトルクを高精度に制御可能である。
【0069】
なお、外側第一圧力空間42Aと内側第一圧力空間42Bの油圧は、第一作動油回収経路90(
図1(C)参照)を通じて回収され、油圧の供給はせず、外側第一受圧面22Aと内側第一受圧面22Bには、圧力をかけない。
【0070】
図2(C)には、外側第一圧力空間42Aと、内側第一圧力空間42Bと、第二圧力空間44に同時に油圧をかけて押圧する態様を示す。大きなトルクを発生させたい場合に、第一作動油案内経路52と第二作動油案内経路54からそれぞれ、外側第一圧力空間42A、内側第一圧力空間42B、第二圧力空間44へ油圧を供給する。このとき外側第一受圧面22A、内側第一受圧面22B、第二受圧面24にかかる圧力は、略同じ大きさであることが望ましい。
【0071】
図3(A)では、本発明の第二実施形態に係る油圧クラッチ装置1の油圧式押圧機構10を説明する。油圧式押圧機構10は、外側第一圧力空間42Aと第二圧力空間44を備える。外側第一受圧面22Aは第二受圧面24の外側に設けられる。第二受圧面24の面積は、外側第一受圧面22Aの面積より小さい。外側第一圧力空間42Aには、第一作動油案内経路52(図示省略)から油圧が供給され、第二圧力空間44には、第二作動油案内経路54(図示省略)から油圧が供給される。
【0072】
本発明の第二実施形態に係る油圧クラッチ装置1の油圧式押圧機構10は、本発明の第一実施形態の油圧式押圧機構10より簡単な構造であり、大きなトルクを生じさせたい場合には外側第一油圧空間42Aを使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には第二圧力空間44を使用することで、細かなトルク制御が可能な油圧クラッチ装置を実現できるという極めて優れた効果を奏する。また径方向内側に第二圧力空間44が配置されているため、第二圧力空間44には遠心油圧による影響が生じにくい。またシール部材100が、少なくて済むので、コスト的にも低廉になる(
図1(C)参照)。
【0073】
図3(B)では、本発明の第三実施形態に係る油圧クラッチ装置1の油圧式押圧機構10を説明する。油圧式押圧機構10は、内側第一圧力空間42Bと、第二圧力空間44を備える。内側第一受圧面22Bは、第二受圧面24の内側に設けられる。第二受圧面24の面積は、内側第一受圧面22Bの面積より小さい。内側第一圧力空間42Bには、第一作動油案内経路52(図示省略)から油圧が供給され、第二圧力空間44には、第二作動油案内経路54(図示省略)から油圧が供給される。
【0074】
本発明の第一実施形態より簡単な構造であり、大きなトルクを生じさせたい場合には内側第一圧力空間42Bを使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には第二圧力空間44を使用することで、細かなトルクが可能な油圧クラッチ装置を実現できるという極めて優れた効果を奏する。
【0075】
図3(C)では、本発明の第四実施形態に係る油圧クラッチ装置1の油圧式押圧機構10を説明する。外側第一圧力空間42Aと第二圧力空間44を備える。外側第一受圧面22Aは第二受圧面24の外側に設けられる。第二受圧面24の面積は、外側第一受圧面22Aの面積より小さい。外側第一圧力空間42Aには、第一作動油案内経路52(図示省略)から油圧が供給され、第二圧力空間44には、第二作動油案内経路54(図示省略)から油圧が供給される。
【0076】
本発明の第一実施形態より簡単な構造であり、大きなトルクを生じさせたい場合には外側第一油圧空間42Aを使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には第二圧力空間44を使用することで、細かなトルク制御が可能な油圧クラッチ装置を実現できるという極めて優れた効果を奏する。
【0077】
図4(A)には、本発明の第五実施形態に係る油圧クラッチ装置1の油圧式押圧機構10を示す。本発明の第一実施形態におけるピストン20とシリンダ30の凹凸の関係が逆になった態様である。油圧式押圧機構10は、外側第一圧力空間42Aと、内側第一圧力空間42Bと、第二圧力空間44を備える。第二圧力空間44における第二受圧面24の面積は、外側第一受圧面22Aの面積と、内側第一受圧面22Bの面積を合計した面積より小さい。
【0078】
外側第一圧力空間42A及び内側第一圧力空間42Bには、第一作動油案内経路52(図示省略)から油圧が供給され、第二圧力空間44には、第二作動油案内経路54(図示省略)から油圧が供給される。
【0079】
大きなトルクを生じさせたい場合には外側第一圧力空間42A及び内側第一圧力空間42Bを使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には第二圧力空間44を使用することで、細かなトルク制御が可能な油圧クラッチ装置を実現できるという極めて優れた効果を奏する。
【0080】
図4(B)には、本発明の第六実施形態に係る油圧クラッチ装置1の油圧式押圧機構10を示す。油圧式押圧機構10は、外側第一圧力空間42Aと第二圧力空間44を備える。第二受圧面24の面積は、外側第一受圧面22Aの面積より小さい。外側第一圧力空間42Aには、第一作動油案内経路52(図示省略)から油圧が供給され、第二圧力空間44には、第二作動油案内経路54(図示省略)から油圧が供給される。
【0081】
大きなトルクを生じさせたい場合には外側第一圧力空間42Aを使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には第二圧力空間44を使用することで、細かなトルク制御性が可能な油圧クラッチ装置を実現できるという極めて優れた効果を奏する。
【0082】
図4(B)には、本発明の第七実施形態に係る油圧クラッチ装置1の油圧式押圧機構10を示す。油圧式押圧機構10は、内側第一圧力空間42Bと第二圧力空間44を備える。第二受圧面24の面積は、内側第一受圧面22Bの面積より小さい。内側第一圧力空間42Bには、第一作動油案内経路52(図示省略)から油圧が供給され、第二圧力空間44には、第二作動油案内経路54(図示省略)から油圧が供給される。
【0083】
大きなトルクを生じさせたい場合には内側第一圧力空間42Bを使用し、小さなトルクを生じさせたい場合には第二圧力空間44を使用することで、細かなトルク制御が可能な油圧クラッチ装置を実現できるという極めて優れた効果を奏する。
【0084】
尚、本発明の油圧クラッチ装置は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。