(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ノズル本体部の先端部に設けられたスリット状の吐出口から塗布液を吐出した後で、前記吐出口の延設方向の一方側から他方側に相対的に移動するノズル当接部材により前記先端部に付着した塗布液が掻き取られるノズルであって、
前記先端部は、前記吐出口が形成された吐出口形成部と、
前記吐出口形成部の一方側端部から前記延設方向の一方側かつ前記塗布液が吐出される方向の反対側に延びる傾斜部と、前記吐出口形成部の他方側で前記塗布液が吐出される方向の反対側に延びる段差部と、を有し、
前記傾斜部が前記延設方向に沿って相対的に移動する前記ノズル当接部材と当接して前記吐出口形成部に案内することを特徴とするノズル。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は本発明にかかる塗布装置の一実施形態の全体構成を模式的に示す図である。この塗布装置1は、
図1の左手側から右手側に向けて水平姿勢で搬送される基板Wの上面Wfに塗布液を塗布するスリットコータである。なお、以下の各図において装置各部の配置関係を明確にするために、基板Wの搬送方向を「X方向」とし、
図1の左手側から右手側に向かう水平方向を「+X方向」と称し、逆方向を「−X方向」と称する。また、X方向と直交する水平方向Yのうち、装置の正面側を「−Y方向」と称するとともに、装置の背面側を「+Y方向」と称する。さらに、鉛直方向Zにおける上方向および下方向をそれぞれ「+Z方向」および「−Z方向」と称する。
【0014】
まず
図1を用いてこの塗布装置1の構成および動作の概要を説明し、その後でメンテナンスユニットのより詳細な構造について説明する。なお、塗布装置1の基本的な構成や動作原理は、本願出願人が先に開示した特許文献1に記載されたものと共通している。そこで、本明細書では、塗布装置1の各構成のうちこれらの公知文献に記載のものと同様の構成を適用可能なもの、およびこれらの文献の記載から構造を容易に理解することのできるものについては詳しい説明を省略し、本実施形態の特徴的な部分を主に説明することとする。
【0015】
塗布装置1では、基板Wの搬送方向Dt(+X方向)に沿って、入力コンベア100、入力移載部2、浮上ステージ部3、出力移載部4、出力コンベア110がこの順に近接して配置されており、以下に詳述するように、これらにより略水平方向に延びる基板Wの搬送経路が形成されている。なお、以下の説明において基板Wの搬送方向Dtと関連付けて位置関係を示すとき、「基板Wの搬送方向Dtにおける上流側」を単に「上流側」と、また「基板Wの搬送方向Dtにおける下流側」を単に「下流側」と略することがある。この例では、ある基準位置から見て相対的に(−X)側が「上流側」、(+X)側が「下流側」に相当する。
【0016】
処理対象である基板Wは
図1の左手側から入力コンベア100に搬入される。入力コンベア100は、コロコンベア101と、これを回転駆動する回転駆動機構102とを備えており、コロコンベア101の回転により基板Wは水平姿勢で下流側、つまり(+X)方向に搬送される。入力移載部2は、コロコンベア21と、これを回転駆動する機能および昇降させる機能を有する回転・昇降駆動機構22とを備えている。コロコンベア21が回転することで、基板Wはさらに(+X)方向に搬送される。また、コロコンベア21が昇降することで基板Wの鉛直方向位置が変更される。このように構成された入力移載部2により、基板Wは入力コンベア100から浮上ステージ部3に移載される。
【0017】
浮上ステージ部3は、基板の搬送方向Dtに沿って3分割された平板状のステージを備える。すなわち、浮上ステージ部3は入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33を備えており、これらの各ステージの上面は互いに同一平面の一部をなしている。入口浮上ステージ31および出口浮上ステージ33のそれぞれの上面には浮上制御機構35から供給される圧縮空気を噴出する噴出孔がマトリクス状に多数設けられており、噴出される気流から付与される浮力により基板Wが浮上する。こうして基板Wの下面Wbがステージ上面から離間した状態で水平姿勢に支持される。基板Wの下面Wbとステージ上面との距離、つまり浮上量は、例えば10マイクロメートルないし500マイクロメートルとすることができる。
【0018】
一方、塗布ステージ32の上面では、圧縮空気を噴出する噴出孔と、基板Wの下面Wbとステージ上面との間の空気を吸引する吸引孔とが交互に配置されている。浮上制御機構35が噴出孔からの圧縮空気の噴出量と吸引孔からの吸引量とを制御することにより、基板Wの下面Wbと塗布ステージ32の上面との距離が精密に制御される。これにより、塗布ステージ32の上方を通過する基板Wの上面Wfの鉛直方向位置が規定値に制御される。浮上ステージ部3の具体的構成としては、例えば特許第5346643号(特許文献1)に記載のものを適用可能である。なお、塗布ステージ32での浮上量については後で詳述するセンサ61、62による検出結果に基づいて制御ユニット9により算出され、また気流制御によって高精度に調整可能となっている。
【0019】
なお、入口浮上ステージ31には、図には現れていないリフトピンが配設されており、浮上ステージ部3にはこのリフトピンを昇降させるリフトピン駆動機構34が設けられている。
【0020】
入力移載部2を介して浮上ステージ部3に搬入される基板Wは、コロコンベア21の回転により(+X)方向への推進力を付与されて、入口浮上ステージ31上に搬送される。入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33は基板Wを浮上状態に支持するが、基板Wを水平方向に移動させる機能を有していない。浮上ステージ部3における基板Wの搬送は、入口浮上ステージ31、塗布ステージ32および出口浮上ステージ33の下方に配置された基板搬送部5により行われる。
【0021】
基板搬送部5は、基板Wの下面周縁部に部分的に当接することで基板Wを下方から支持するチャック機構51と、チャック機構51上端の吸着部材に設けられた吸着パッド(図示省略)に負圧を与えて基板Wを吸着保持させる機能およびチャック機構51をX方向に往復走行させる機能を有する吸着・走行制御機構52とを備えている。チャック機構51が基板Wを保持した状態では、基板Wの下面Wbは浮上ステージ部3の各ステージの上面よりも高い位置に位置している。したがって、基板Wは、チャック機構51により周縁部を吸着保持されつつ、浮上ステージ部3から付与される浮力により全体として水平姿勢を維持する。なお、チャック機構51により基板Wの下面Wbを部分的に保持した段階で基板Wの上面の鉛直方向位置を検出するために板厚測定用のセンサ61がコロコンベア21の近傍に配置されている。このセンサ61の直下位置に基板Wを保持していない状態のチャック(図示省略)が位置することで、センサ61は吸着部材の上面、つまり吸着面の鉛直方向位置を検出可能となっている。
【0022】
入力移載部2から浮上ステージ部3に搬入された基板Wをチャック機構51が保持し、この状態でチャック機構51が(+X)方向に移動することで、基板Wが入口浮上ステージ31の上方から塗布ステージ32の上方を経由して出口浮上ステージ33の上方へ搬送される。搬送された基板Wは、出口浮上ステージ33の(+X)側に配置された出力移載部4に受け渡される。
【0023】
出力移載部4は、コロコンベア41と、これを回転駆動する機能および昇降させる機能を有する回転・昇降駆動機構42とを備えている。コロコンベア41が回転することで、基板Wに(+X)方向への推進力が付与され、基板Wは搬送方向Dtに沿ってさらに搬送される。また、コロコンベア41が昇降することで基板Wの鉛直方向位置が変更される。コロコンベア41の昇降により実現される作用については後述する。出力移載部4により、基板Wは出口浮上ステージ33の上方から出力コンベア110に移載される。
【0024】
出力コンベア110は、コロコンベア111と、これを回転駆動する回転駆動機構112とを備えており、コロコンベア111の回転により基板Wはさらに(+X)方向に搬送され、最終的に塗布装置1外へと払い出される。なお、入力コンベア100および出力コンベア110は塗布装置1の構成の一部として設けられてもよいが、塗布装置1とは別体のものであってもよい。また例えば、塗布装置1の上流側に設けられる別ユニットの基板払い出し機構が入力コンベア100として用いられてもよい。また、塗布装置1の下流側に設けられる別ユニットの基板受け入れ機構が出力コンベア110として用いられてもよい。
【0025】
このようにして搬送される基板Wの搬送経路上に、基板Wの上面Wfに塗布液を塗布するための塗布機構7が配置される。塗布機構7はスリットノズルであるノズル71を有している。ノズル71には、図示しない塗布液供給部から塗布液が供給され、ノズル下部に下向きに開口する吐出口から塗布液が吐出される。
【0026】
ノズル71は、位置決め機構79によりX方向およびZ方向に移動位置決め可能となっている。位置決め機構79により、ノズル71が塗布ステージ32の上方の塗布位置(点線で示される位置)に位置決めされる。塗布位置に位置決めされたノズルから塗布液が吐出されて、塗布ステージ32との間を搬送されてくる基板Wに塗布される。こうして基板Wへの塗布液の塗布が行われる。
【0027】
ノズル71に対しメンテナンスを行うためのメンテナンスユニット8が設けられている。メンテナンスユニット8は、バット8a内に設けられた、洗浄液貯留槽8bと、ノズルクリーナ8cと、洗浄液貯留槽8bおよびノズルクリーナ8cの動作を制御するメンテナンス制御機構8dとを備えている。
【0028】
ノズル71がノズルクリーナ8cの上方位置(ノズル清掃位置)にある状態では、ノズルクリーナ8cによりノズル71の吐出口の周囲に付着した塗布液が除去される。このように塗布位置へ移動させる前のノズル71に対して清掃処理を行わせることにより、塗布位置での塗布液の吐出をその初期段階から安定させることができる。なお、ノズル71およびノズルクリーナ8cの詳しい構成、ならびにノズルクリーナ8cによるノズル71のノズル清掃処理については後で詳述する。
【0029】
また、位置決め機構79は、ノズル71をノズル下端が洗浄液貯留槽8b内に貯留される洗浄液に接液する位置(待機位置)に位置決めすることが可能である。ノズル71を用いた塗布処理が実行されないときには、ノズル71はこの待機位置に位置決めされる。なお、上記洗浄液に超音波を付与してノズル下端を洗浄する構成としてもよい。
【0030】
この他、塗布装置1には、装置各部の動作を制御するための制御ユニット9が設けられている。制御ユニット9は所定の制御プログラムや各種データを記憶する記憶手段、この制御プログラムを実行することで装置各部に所定の動作を実行させるCPUなどの演算手段、ユーザや外部装置との情報交換を担うインターフェース手段などを備えている。本実施形態では、後述するように演算手段が装置各部を制御して上記ノズル清掃処理を実行する。
【0031】
図2はノズルの斜め下方から見た斜視図である。なお、同面においては清掃対象となるノズル71の吐出口711の近傍の構成を明確にするためにノズル先端の寸法を実際とは異ならせて示している。この点については後で説明する
図3Aや
図3Bなどにおいても同様である。
【0032】
このノズル71はY方向に延びる長尺スリット状の開口部である吐出口711を有している。吐出口711はY方向においてノズル71の全長より短い吐出口範囲71Rで開口し、吐出口形成部72の主要構成となっている。一方、ノズル71のY方向の両端では吐出口711が開口せず、吐出口形成部72の(+Y)側で傾斜部73が設けられるとともに、(−Y)側で段差部74が設けられている。
【0033】
このノズル71は浮上ステージ部3により浮上されながらX方向に搬送される基板Wの上面Wfに向けて吐出口711から鉛直下方、つまり(−Z)方向に塗布液を吐出可能な構成を有する。具体的には、ノズル71は、図示を省略するノズル支持体によって固定支持されるノズル本体部75と、ノズル本体部75より下方に突出するリップ部76とを有している。そして、ノズル71に対して塗布液が図外の供給機構から圧送されると、ノズル本体部75の内部に形成される内部流路を経由して吐出口711に送液され、吐出口711から(−Z)方向に吐出される。
【0034】
リップ部76は、その長手方向であるY方向からの側面視において先細りの凸形状を有し、その先端(下端)に設けられた先端面761と、先端面761の(+X)側に形成されるリップ側面762aと、(−X)側に形成されるリップ側面762bとを有している。以下の説明では、リップ側面762aとリップ側面762bとを区別しないときは、単にリップ側面762と呼ぶ。また、リップ部76には、上記した吐出口形成部72、傾斜部73および段差部74が設けられている。
【0035】
吐出口形成部72では、上記先端面761の中央部で平坦状の先端面721が鉛直下方(−Z方向)に向けて設けられ、当該先端面721に吐出口範囲71Rの吐出口711が設けられている。
【0036】
また、傾斜部73は、吐出口形成部72の(+Y)側端部P2から吐出口711の延設方向Yの(+Y)側かつ塗布液の吐出方向の反対側、つまり(+Z)側に延設されている。より詳しくは、リップ部76の(+Y)側端部を斜め上方から切り欠き、鉛直下方から見たときに傾斜部73が略三角形状(あるいは台形形状)を呈するように設けられている。このため、傾斜部73ののうち鉛直下方を臨む傾斜面731のX方向寸法は吐出口711に近づくにつれて狭くなり、吐出口形成部72の先端面721と接続する位置で先端面721のX方向寸法と一致する。
【0037】
一方、吐出口形成部72を挟んで傾斜部73の反対側では、段差部74が吐出口形成部72の(−Y)側端部P3から(+Z)側に延びて設けられている。つまり、段差部74の表面741は吐出口形成部72の先端面721を(−Y)方向に延長させた仮想水平面よりも(+Z)方向に後退され、表面741と先端面721との間に段差が形成されている。
【0038】
なお、
図2中の符号P1は次に説明するノズルクリーナ8cのスクレーパがノズル清掃動作において最初に当接する傾斜面接触位置であり、符号P2はノズルクリーナ8cによる吐出口形成部72のノズル清掃動作が開始される清掃開始位置、つまり吐出口711の(+Y)側端部の位置を示し、符号P3はノズルクリーナ8cによる吐出口形成部72の吐出口終端位置、つまり吐出口711の(−Y)側端部の位置を示している。
【0039】
図3Aはノズルクリーナの構成を示す斜視図であり、
図3Bは
図3Aに示すノズルクリーナの部分拡大斜視図である。また、
図4はノズルクリーナのスプレッダを示す斜視図である。ノズルクリーナ8cは、ノズル71のリップ部76に沿った清掃方向Dcへノズル清掃部材81を伴って移動することでリップ部76に付着する付着物を除去する除去ユニット8c1と、除去ユニット8c1を清掃方向Dcに駆動する駆動ユニット8c2とを備えている。ここで、清掃方向Dcは吐出口711の延設方向Yと平行で(+Y)側から(−Y)側に向かう方向を意味しており、駆動ユニット8c2は除去ユニット8c1をY方向へ往復移動させることが可能となっている。なお、除去ユニット8c1による除去対象となる付着物としては、ノズル71のリップ部76に付着しうる種々の物質が挙げられ、例えば塗布液の溶質が乾燥・固化したものがある。例えば塗布液がカラーフィルター用のフォトレジストである場合には、塗布液に含まれる顔料が付着物としてノズル71のリップ部76に付着する。
【0040】
また図示を省略しているが、ノズルクリーナ8cは上記した除去ユニット8c1および駆動ユニット8c2以外に、洗浄部およびリンス液供給部を備えている。洗浄部は、ノズル清掃部材81を密閉することで形成した密閉空間の内部でノズル清掃部材81を洗浄するものである。つまり、洗浄部は、ノズル71のリップ部76に付着する付着物を拭き取って除去したノズル清掃部材81に対して、上記密閉空間内で洗浄液を供給することでノズル清掃部材81に付着する上記付着物を洗い流す。この洗浄部としては、例えば特開2014−176812号公報に記載されたものを用いることができる。また、リンス液供給部は、その先端が除去ユニット8c1に取り付けられた可撓性のリンス液供給管を介して除去ユニット8c1にリンス液を供給する機能を有している。
【0041】
除去ユニット8c1は主として、ノズル71のリップ部76に対応する凹部(本実施形態では略V字型のV字溝)を有するノズル清掃部材81と、ノズル清掃部材81を支持する支持部82とを有する。なお、
図3Aでは、ノズル71の清掃方向Dcの上流側端部よりさらに清掃方向Dcの上流側の位置に除去ユニット8c1が位置するときの、ノズル71および除去ユニット8c1の構成が示されている。
【0042】
除去ユニット8c1は、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bの2種類のノズル清掃部材81を有する。これらノズル清掃部材81のうち、スプレッダ81Aはリンス液をノズル71のリップ部76に塗り広げるリンス液供給機能を担い、スクレーパ81Bはスプレッダ81Aの清掃方向Dcの上流側でノズル71のリップ部76からリンス液を除去する液切り機能を担う。これによって、ノズル71のリップ部76の付着物をリンス液とともに除去することができる。つまり、乾燥して固化した塗布液等の付着物がリップ側面762に付着している場合、スプレッダ81Aにより塗り広げられたリンス液が付着物をある程度溶解し、この溶解物(付着物)を含むリンス液がスクレーパ81Bによって除去される。このようにノズル清掃部材81は、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bを用いて、ノズル71のリップ部76から付着物を除去するノズル清掃処理を実行する。これらスプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bはリンス液を供給する液供給孔810の有無を除いて共通する外形を有する。そのため、
図4ではスプレッダ81Aの外形が2種類のノズル清掃部材81を代表して示されている。
【0043】
図4に示すように、ノズル清掃部材81は支持部82により支持可能な本体811で構成されている。スクレーパ81Bの本体811は例えば900〜4000MPa(メガパスカル)の弾性率を有する弾性体で形成されており、スプレッダ81Aの本体811はスクレーパ81Bの本体811より硬い硬質体で形成されている。そして、本体811の中央部が支持部82に支持される被支持部812となっている。本体811は、被支持部812から延設された延設部813を有し、この延設部813の先端に、略V字型の溝であるV字溝814が形成されている。V字溝814は、ノズル71のリップ部76に対応した形状をしており、リップ側面762aに応じた傾斜を持った内側面815aと、リップ側面762bに応じた傾斜を持った内側面815bとを有する。そして、スプレッダ81Aの各内側面815a、815bには、リンス液供給部のリンス液供給管が取り付けられた液供給孔810が形成されており、リンス液供給管を介して供給されたリンス液が液供給孔810から吐出される。一方、スクレーパ81Bの各内側面815a、815bには液供給孔810が形成されていない。なお、以下において、内側面815a、815bを区別しないときには単に内側面815と称する。
【0044】
このように構成された各ノズル清掃部材81は
図3Aや
図3Bに示すように2本の締結金具、例えばボルト84によって支持部82に着脱自在に固定される。つまり、支持部82は、Z方向に昇降可能な昇降部821と、昇降部821の上面にZ方向へ立設されてX方向に並ぶ2本の柱部822A、822Bとを有する。そして、柱部822A、822Bのうち、清掃方向Dcの下流側の柱部822Aの上端に対してスプレッダ81Aが締結され、清掃方向Dcの上流側の柱部822Bの上端に対してスクレーパ81Bが締結されている。より具体的には、各ノズル清掃部材81の被支持部812は、対応する柱部822A、822Bの上端部に係合可能な形状に仕上げられている。そして、各ノズル清掃部材81は、それぞれのV字溝814をスリットノズル2側に向けつつ、X方向に延設されるスリットノズル2に対して所定の傾斜角度で傾いた状態で、柱部822A、822Bの上端部に締結される。なお、柱部822Bの上端は柱部822Aの上端よりも高く、スクレーパ81Bはスプレッダ81Aよりも高い位置に支持される。
【0045】
支持部82は、このように各ノズル清掃部材81が固定された昇降部821の下方にベース部823を有する。そして、昇降部821はベース部823によって昇降可能に支持されている。つまり、支持部82では、ベース部823の上面からZ方向に立設されたガイドレール824と、ベース部823と昇降部821との間に設けられた付勢部材825(例えば、圧縮バネ)とが設けられている。そして、ガイドレール824が昇降部821の移動をZ方向に案内しつつ、付勢部材825がベース部823に対して昇降部821を上方へ付勢する。そのため、昇降部821に固定された各ノズル清掃部材81は、付勢部材825の付勢力により上方へ付勢される。
【0046】
また、支持部82のベース部823は、駆動ユニット8c2に取り付けられている。この駆動ユニット8c2は、Y方向においてノズル71の両外側に配置された一対のローラ851、851と、ローラ851、851に掛け渡された無端ベルト852とを有し、無端ベルト852の上面に支持部82のベース部823が取り付けられている。このように構成された駆動ユニット8c2は、ローラ851、851を回転させて無端ベルト852の上面をY方向へ駆動して、支持部82に伴って各ノズル清掃部材81をY方向へ移動させる。
【0047】
そして、以上のように構成されたノズルクリーナ8cは、上記したノズル清掃位置に相当する傾斜面接触位置P1に位置するノズル71のリップ部76に各ノズル清掃部材81を下方から近接させると、ノズル清掃部材81のうちスクレーパ81Bのみがノズル71の傾斜面731に当接し、付勢部材825により押し付けられる。つまり、スクレーパ81BのV字溝814がノズル71と当接する。このときのV字溝814とノズル71との当接状態をコントロールするために、本実施形態では、スクレーパ81Bに対応して開口調整部86が設けられている。
【0048】
開口調整部86は、
図3Bに示すように、昇降部821上でV字溝814の幅方向Xと平行に延設されたベースプレート861と、スクレーパ81Bの(+X)側および(−X)側に配置される押圧部材862、863と、押圧部材862、863をベースプレート861に固定する締結部材864、864とを備えている。ベースプレート861は昇降部821に固定されている。そして、ベースプレート861に対して押圧部材862、863が幅方向Xに移動自在となっている。押圧部材862の上端部には、スクレーパ81Bに向けて突起部位862aが設けられている。このため、ユーザやオペレータが押圧部材862をベースプレート861に沿って(−X)方向にスライドさせることで、突起部位862aがスクレーパ81Bの一部を押圧する。
【0049】
より詳しくは、スクレーパ81Bでは、V字溝814の形成により延設部813に幅方向Xに2つのショルダ部位816a、816bが形成されている。これらのうち(+X)側に位置するショルダ部位816aに対いて突起部位862aが(−X)方向に押圧力(応力)を加える。これにより、ショルダ部位816aが(−X)側に変形し、V字溝814を構成する内側面815aの傾斜が変更される。また、押圧部材863の上端部にも、押圧部材862と同様に、スクレーパ81Bに向けて突起部位863aが設けられている。このため、ユーザらが押圧部材863をベースプレート861に沿って(+X)方向にスライドさせることで、(−X)側に位置するショルダ部位816bに対いて突起部位863aが(+X)方向に押圧力(応力)を加える。これにより、ショルダ部位816bが(+X)側に変形し、V字溝814を構成する内側面815bの傾斜が変更される。こうして、V字溝814の開口形状が変更される。そして、当該開口形状が所望形状となった時点で、ボルトなどの締結部材864、864により押圧部材862、863をベースプレート861に固定する。ここでは、(+X)側および(−X)側の両方向から開口調整を行っているが、一方からのみ調整してもよい。なお、開口形状を変更させる理由および変更態様については、後で詳述する。
【0050】
上記したようにノズル71のリップ部76からスプレッダ81Aを離間しつつスクレーパ81BのV字溝814をノズル71のリップ部76に押し付けた状態で、各ノズル清掃部材81を清掃方向Dcに移動させることで、ノズル71のリップ部76を清掃する。
【0051】
図5はノズルクリーナによるノズル清掃処理の一例を示すフローチャートである。
図6は
図5のフローチャートに従って実行される動作を模式的に示す正面図である。塗布装置1では、制御ユニット9の記憶手段に記憶されている制御プログラムにしたがって演算手段が装置各部を以下のように制御することによってノズル清掃部材81によるノズル71の清掃動作が実行される。
【0052】
ステップS101では、駆動ユニット8c2による駆動を受けて、除去ユニット8c1が傾斜面接触位置P1に移動する。これにより傾斜面接触位置P1に位置決めされたノズル71の傾斜部73の下方に除去ユニット8c1が位置し、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bは傾斜部73の傾斜面731に下方から対向する(
図6の「S101」の欄)。この時点では、清掃方向Dcにおいてスプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bはいずれも吐出口711を有する吐出口形成部72よりも上流側に位置している。また、ステップS101においては、ノズル71の傾斜部73と、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81BとはZ方向に離間している。
【0053】
こうして傾斜面接触位置P1への除去ユニット8c1の移動が完了すると、
図6の「S102」の欄に示すように、ノズル71は吐出口711から所定量の塗布液Laを吐出する(ステップS102)。ここでの塗布液Laの吐出は、吐出口711に部分的に入り込んでいるエアや洗浄液を排出することを主目的のひとつとして実行している。したがって、
図6では誇張されているが、塗布液Laは吐出口711から下方に僅かに出る程度に吐出される。
【0054】
次のステップS103では、
図6の「S103」の欄中の矢印で示すように、上方位置より低い下方位置へノズル71が下降する。詳しくは、ノズル71が下降を開始するとノズル71の傾斜部73とスクレーパ81Bとの間の間隔が減少し、傾斜部73においてリップ側面762とスクレーパ81Bの内側面815とが接触する。ノズル71はさらに下降し、付勢部材825の付勢力に抗してスクレーパ81Bを下方へ押し下げる。また、スプレッダ81Aは、その両内側面815の間に入り込んだリップ側面762と各内側面815との間に一定の間隔を保ったまま、スクレーパ81Bとともに下方へ移動する。こうして、傾斜部73においてスクレーパ81Bの内側面815が付勢部材825の付勢力によりリップ側面762に押し付けられるとともに、スプレッダ81Aの内側面815とリップ側面762との間には一定の間隔が確保される。なお、スクレーパ81Bはリップ側面762に当接するが、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bのそれぞれと傾斜部73の傾斜面731との間には間隔が形成され、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bのそれぞれは傾斜面731の幅方向における中央部に接触しない。ただし、ステップS103の実行によってスクレーパ81Bの内側面815がリップ側面762に当接するのであれば、スクレーパ81Bが傾斜面731の中央部に当接するように構成しても構わない。
【0055】
上述のように、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bは共通する外形を有し、また、スクレーパ81Bはスプレッダ81Aよりも高い位置に支持される。その結果、スクレーパ81Bの内側面815はリップ側面762に押し付けられて当接する一方、スプレッダ81Aの内側面815はリップ側面762に一定の間隔を空けて対向した状態となる。このようにスプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bを共通する外形とすることにより(特にV字溝814を同じ形状とすることにより)、上記間隔を確実に形成することができる。なお、スプレッダ81AのV字溝814を、スクレーパ81BのV字溝814より大きくすることにより、上記間隔を確保しても良い。
【0056】
こうしてノズル71の下降が完了すると、スプレッダ81Aの液供給孔810からリンス液Lbが吐出され、ノズル71の傾斜部73とスプレッダ81Aとの間へのリンス液の供給が開始される(ステップS104)。本実施形態では、塗布液Laの吐出のみならず、リンス液Lbを吐出しているが、その理由はスクレーパ81Bの高速移動に対応するためである。つまり、スクレーパ81Bによるノズル清掃時の潤滑液として塗布液Laを利用することは可能であるが、その際のスクレーパ81Bの移動速度が高くなると、塗布液のみでは十分な潤滑作用を得ることが難しくなることがある。そこで、本実施形態では、スクレーパ81Bの移動速度を高めてノズル清掃処理に要する時間の短縮化を図るために、ノズル清掃処理時に潤滑剤として塗布液Laとリンス液Lbとを併用している。ただし、リンス液Lbの吐出量は一定以下に抑えられている。より具体的には、ノズル清掃処理後の吐出口711に対し、リンス液と塗布液の混合液(塗布処理に影響を与えない程度でリンス液で薄められた塗布液)または、塗布液のみが残存するように、リンス液Lbの単位時間あたりの供給量(吐出量)を調整するのが好適である。なお、リンス液Lbとしては種々の液体を利用でき、例えば塗布液を組成する溶媒であっても良い。この場合、溶媒であるリンス液に溶質を溶かした溶液が塗布液となる。
【0057】
続いて、駆動ユニット8c2が清掃方向Dcへ除去ユニット8c1を駆動することで、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bを清掃方向Dcへ移動させる部材移動動作を開始する(ステップS105)。この部材移動動作の初期段階では、傾斜面731に沿ってスクレーパ81Bは付勢部材825の付勢力に抗して徐々に押し下げられながらスプレッダ81Aとともに吐出口形成部72に向かって移動する。こうして吐出口形成部72に移動した際にもスプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bは傾斜面731と同様の位置関係を有している。つまり、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bのそれぞれは、リップ側面762に当接する位置関係であるため、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bのそれぞれと吐出口形成部72の先端面721との間には間隔が形成される一方、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bのそれぞれは先端面721に接触しない。ただし、スクレーパ81Bの内側面815がリップ側面762に当接するのであれば、スクレーパ81Bが先端面721に当接するように構成しても構わない。
【0058】
こうしてスプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bが傾斜面接触位置P1から清掃開始位置P2に移動した後も部材移動動作は継続され、清掃開始位置P2で吐出口形成部72の清掃動作が開始される。さらに、
図6の「S104−S105」の欄に示すように、清掃開始位置P2から清掃方向Dcに移動している間も液供給孔810からのリンス液Lbの供給が継続されている。したがって、吐出口形成部72においても、スプレッダ81Aは液供給孔810から供給されたリンス液Lbをリップ側面762に広げつつ清掃方向Dcへ移動する。その結果、清掃方向Dcにおけるスプレッダ81Aとスクレーパ81Bとの間では、リップ側面762にリンス液Lbが塗り広げられている。
【0059】
また、部材移動動作において、その内側面815で当接しながら清掃方向Dcに移動するスクレーパ81Bは、スプレッダ81Aにより広げられたリンス液Lbをリップ側面762から除去する。この際、スプレッダ81Aより広げられたリンス液Lbがスクレーパ81Bの内側面815とリップ側面762との間の僅かな隙間に毛細管現象により入り込む。こうして、リンス液Lbがスクレーパ81Bの内側面815とノズル71のリップ側面762との間を満たして、これらの間に生じる摩擦力を緩和する。また、スクレーパ81Bは、リンス液Lbの除去と並行して、ノズル71の吐出口711から下方に突出した塗布液Laを掻き取って、吐出口711を満たす塗布液Laの下部を清掃方向Dcに沿って均す。このような一連の動作は、吐出口711の(−Y)側端部の位置である吐出口終端位置P3まで実行されるが、さらに段差部74を通過する間も、吐出口形成部72と同様にしてノズル清掃処理が継続される。
【0060】
そして、除去ユニット8c1が段差通過位置P4に到達して、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bがノズル71よりも清掃方向Dcの下流側に移動すると、駆動ユニット8c2が除去ユニット8c1を停止させる(ステップS106)。また、液供給孔810からのリンス液の供給が停止する(ステップS107)。
【0061】
なお、こうしてノズル71のノズル清掃処理が完了すると、位置決め機構79がノズル71を塗布ステージ32の上方の塗布位置(点線で示される位置)に移動させる。そして、塗布位置に位置決めされたノズルから塗布液が吐出されて、塗布ステージ32との間を搬送されてくる基板Wに塗布される(塗布工程)。
【0062】
以上のように構成された第1実施形態では、吐出口形成部72の(+Y)側に傾斜部73が設けられるとともに(−Y)側に段差部74が設けられている。このため、吐出口711の延設方向Yにおける吐出口形成部72の両端部において毛細管現象による塗布液の広がりを防止することができ、塗布液を適正範囲に塗布することができる。しかも、傾斜面接触位置P1でスクレーパ81Bがノズル71に当接した後、傾斜部73は当接状態を維持したままスクレーパ81Bを吐出口形成部72に案内してノズル清掃を行っている。このため、スクレーパ81Bによるノズル71の摩耗や破損を効果的に抑制することができる。その結果、ノズル71やスクレーパ81Bの長寿命化が可能となり、ランニングコストやメンテナンス性を向上させることができる。
【0063】
ところで、上記したノズル清掃処理を繰り返して行っている間にノズル清掃部材81は摩耗する。特に、スクレーパ81BのV字溝814がノズル71のリップ部76(=傾斜部73、吐出口形成部72および段差部74)と当接しながら摺動するため、スプレッダ81Aに比べて摩耗し易い。しかも、上記特許文献2に記載の装置と同様に、V字溝814がノズル71のリップ部76にフィットするようにスクレーパ81Bが構成された場合、局部的な摩耗が進行してノズル清掃能力が低下することがある。そこで、本実施形態では、スクレーパ81Bの内側面815がリップ側面762に押し付けられるまでのV字溝814の開口形状を次のように調整している。
【0064】
図7は清掃方向の下流側から見たときのノズルのリップ部とスクレーパとの位置関係を模式的に示す図である。同図中の(a−1)ないし(a−4)欄にはV字溝814をノズル71のリップ部76にフィットさせる例(以下「比較例」という)が図示される一方、(b−1)ないし(b−4)欄には上記実施形態が図示されている。なお、同図中の(a−1)および(b−1)欄には、ノズル71のリップ部76とスクレーパ81BとがZ方向に離間している状態が図示されている。同欄中の1点鎖線はノズル71とスクレーパ81Bとの近接方向、つまりZ方向と平行な仮想線であり、符号θa1、θb1は近接方向Zに対するリップ側面762の傾斜角を示し、符号θa2、θb2は近接方向Zに対するV字溝814の内側面815の傾斜角を示している。
【0065】
また、(a−2)および(b−2)欄にはノズル71のリップ部にスクレーパ81Bが接触した状態でのスクレーパ81Bに印加されると推測される応力が実線矢印で図示され、(a−3)および(b−3)欄にはノズル71のリップ部76にスクレーパ81Bが押し付けられた状態でのスクレーパ81Bに印加されると推測される応力が実線矢印で図示されている。これらの実線矢印の長さは応力の大きさを示している。さらに、(a−4)および(b−4)欄にはノズル清掃処理を繰り返して行った後のスクレーパ81BのV字溝814の形状が模式的に示されている。
【0066】
ここでは、まず比較例について説明する。比較例では、傾斜角θa1、θa2が同じであり、ノズル71のリップ側面762とV字溝814の内側面815とが平行となるように構成されている。このため、ノズル71を下降させてリップ側面762をスクレーパ81Bの内側面815に接触させると、(a−2)欄に示すように比較的広い範囲で力が均等に印加される。そして、ノズル71をさらに下降させることで、付勢部材825の付勢力に抗してスクレーパ81Bを弾性変形させながら下方へ押し下げることになるが、このとき、(a−3)欄中の点線で描かれた丸印で示すようにスクレーパ81Bの内側面815に印加される力はノズル71の先端、つまりリップ部76の先端角部に集中する。ノズル清掃処理においては、この状態でノズル71に対してスクレーパ81Bが摺動するため、(a−4)欄に示すように、ノズル71の先端と接する部分が大きく摩耗して摩耗部位816が発生し、V字溝814の開口形状が変化してしまう。その結果、十分な液切り性能が得られないことがある。また、摩耗箇所が吐出口711に近いために、摩耗粉が吐出口711に入ってしまい、塗布処理中において基板Wに塗布された塗布液に混入する可能性がある。
【0067】
そこで、本実施形態では、
図7の(b−1)欄に示すように、開口調整部86によりV字溝814を構成する内側面815の傾斜角θb2がノズル71のリップ側面762の傾斜角θb1よりも小さくなるように傾斜角調整を行い、ノズル71のリップ側面762とV字溝814の内側面815とを非平行状態に調整している。こうしてV字溝814の開口形状を変更させたまま、ノズル71を下降させてリップ側面762をスクレーパ81Bの内側面815に接触させると、(b−2)欄に示すように、当該接触はV字溝814の開口側の端部のみとなる。この段階では、リップ側面762へのスクレーパ81Bの押し付けは作用しておらず、この状態で内側面815のうちV字溝814の開口側の端部でノズル71のリップ部76が係止されている。そして、ノズル71をさらに下降させることで、付勢部材825の付勢力に抗してスクレーパ81Bを弾性変形しながら下方へ押し下げることになるが、このとき、スクレーパ81Bの内側面815に印加される力が及ぶ範囲、つまり内側面815によるリップ部76の押圧範囲は徐々に広がり、リップ部76の先端角部に集中することなく、分散される。本実施形態では、この状態でノズル71に対してスクレーパ81Bが摺動してノズル清掃処理を実行するため、摩耗量は少なく、(b−4)欄に示すように、摩耗部位816は比較例に比べて小さく、V字溝814の変化が抑制される。その結果、液切り性能の低下を抑え、スクレーパ81Bの寿命を長くすることができる。また、摩耗粉の発生を効果的に抑えることができ、塗布処理を良好に行うことができる。
【0068】
また、ノズル71やスクレーパ81BのV字溝814の仕様変更が発生した場合にも柔軟に対応することができる。つまり、開口調整部86を有さない塗布装置1(
図7の「比較例」の欄を参照)では、変更後の仕様に対応した開口形状を有するスクレーパ81Bを再製作する必要があり、仕様変更に対して迅速に対応することが難しい。特に、スクレーパ81Bを成型品で提供する場合にはバリやパーティングラインの課題を解消するために、新たなスクレーパ81Bの提供に時間がかかることが多い。また、ノズル清掃処理を繰り返している間に、摩耗によってV字溝814の開口形状が変形して所望のノズル清掃効果が得られず、スクレーパ81Bの新品交換が必要となることもある。これに対し、開口調整部86を有する塗布装置1(
図7の「実施形態」の欄を参照)では、吐出口711の延設方向Yと交差する方向(本実施形態では、X方向)からスクレーパ81Bに応力を加えることでV字溝814の開口形状を調整可能となっている。その結果、ノズルの仕様変更に柔軟に対応することができるとともに、ノズル当接部材の消耗に応じた開口形状の調整によりノズル当接部材の長寿命化を図ることができ、高い汎用性が得られる。
【0069】
以上のように上記実施形態では、駆動ユニット8c2が本発明の「駆動部」の一例に相当している。また、リップ部76が本発明の「ノズル本体部の先端部」の一例に相当し、吐出口形成部72の(+Y)側端部が本発明の「吐出口形成部の一方側端部」の一例に相当している。また、また、スクレーパ81Bが本発明の「ノズル当接部材」の一例に相当し、スクレーパ81BのV字溝814が本発明の「凹部」の一例に相当している。また、Y方向が本発明の「吐出口の延設方向」に相当し、(+Y)側および(−Y)側がそれぞれ本発明の「延設方向の一方側」および「延設方向の他方側」に相当し、(+Z)方向および(−Z)方向がそれぞれ本発明の「塗布液が吐出される方向の反対側」および「塗布液が吐出される方向」に相当している。さらに、
図5に示すノズル清掃処理が本発明の「清掃工程」の一例に相当し、ノズル清掃処理後のノズル71を用いて基板Wに塗布液を塗布する塗布処理が本発明の「塗布工程」の一例に相当している。
【0070】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上述したもの以外に種々の変更を行うことが可能である。例えば上記実施形態では、スクレーパ81Bよりも清掃方向Dcの下流側(
図3Aの左手側)にスプレッダ81Aを設けているが、スプレッダの個数は「1」に限定されず、複数であってもよい。また、本発明については、スプレッダを装備しない塗布装置や塗布方法にも適用可能である。
【0071】
また、上記実施形態ではノズル71のリップ部76に広げる液体としてリンス液Lbが用いられていたが、塗布液Laをリップ部76に広げ、これをスクレーパ81Bが液切りしてノズル清掃処理を行うように構成してもよい。
【0072】
また、上記実施形態では、スクレーパ81Bの高速移動時の潤滑剤として塗布液とリンス液を併用しているが、移動速度に応じて塗布液のみを潤滑剤として用いてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、ノズル71の吐出口711から塗布液Laを吐出するステップS102が設けられていた。しかしながら、このステップS102は省略しても構わない。
【0074】
また、上記実施形態ではスプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bを一体的に清掃方向Dcに移動させていた。しかしながら、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bをそれぞれ個別に清掃方向Dcに移動させても良い。
【0075】
また、スプレッダ81Aおよびスクレーパ81Bが同一の外形を有することは必須ではなく、複数のスプレッダを設ける場合に、それらのスプレッダが同一の外形を有することも必須ではない。
【0076】
また、上記実施形態では、塗布液が吐出される方向Zの下流側(鉛直下方側)から見た傾斜部73の形状が略三角形あるいは台形形状となるように傾斜面731が設けられているが、傾斜面731の形状はこれに限定されるものではない。例えば吐出口形成部72の(+Y)側端部から(+Y)側に向かって広がる形状に仕上げ、傾斜面接触位置P1で当接したスクレーパ81BのV字溝814を吐出口形成部72に連続的に案内してもよい。また、上記実施形態では、傾斜面731を平面状に設けているが、湾曲状に設けてもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、吐出口形成部72の(−Y)側に段差部74が設けられ、これによって毛細管現象による(−Y)側への塗布液の広がりを防止しているが、段差部74の形状については任意である。ただし、塗布膜の膜厚均一性を考慮すると、段差を極力小さくするのが好適である。
【0078】
また、上記実施形態では、除去ユニット8c1を延設方向Yの(+Y)側から(−Y)側に移動させているが、除去ユニット8c1を固定してノズル71を延設方向Yに移動させたり、除去ユニット8c1とともにノズル71を延設方向Yに移動させたりしてもよい。要は、本発明はノズル71に対してスクレーパ81Bを延設方向Yの(+Y)側から(−Y)側に相対的に移動させてノズル清掃処理を行う塗布技術全般に適用することができる。
【0079】
また、上記実施形態では、基板Wの下面に気体を吹き付けて基板Wを塗布ステージ32から浮上させた状態で当該基板Wを搬送する塗布装置1に対して本発明を適用しているが、その他の方式で基板を搬送する塗布装置に対しても本発明を適用することができる。また、板をステージに固定した状態で塗布する塗布装置にも本発明を適用することができる。
【0080】
さらに、上記実施形態では、開口調整部86を設けてスクレーパ81BのV字溝814の開口形状を調整しているが、開口調整部86を設けていない塗布装置や塗布方法にも本発明を適用することができる。また、
図7の「比較例」の欄に示すようにリップ側面762の傾斜角θa1とV字溝814の内側面815の傾斜角θa2とが一致するスクレーパ81Bを用いてノズル清掃処理を行う塗布装置にも本発明を適用することができる。