(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
酸化処理工程において、表面の少なくとも一部がグラファイトで被覆されたナノダイヤモンドと混酸との反応を、凝縮器を備えた反応器中において、0.5〜2atm下、凝縮器の冷媒温度を、反応圧力下における二酸化窒素の沸点を超え、100%硝酸の沸点より低い温度に設定した状態で行う、請求項1又は2に記載のナノダイヤモンドの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[ナノダイヤモンドの製造方法]
本発明のNDの製造方法は、少なくとも、下記酸化処理工程と下記熟成工程とをこの順で有する。
酸化処理工程:表面の少なくとも一部がグラファイトで被覆されたナノダイヤモンド(以後、「粗ND」と称する場合がある)と混酸とを反応させる工程
熟成工程:反応系内の硫酸濃度を85質量%以下に低下させた後、130℃以上の温度で1時間以上静置する工程
【0017】
本発明のNDの製造方法は、上記酸化処理工程と熟成工程以外にも必要に応じて他の工程を有していてもよく、酸化処理工程の前には例えば、生成工程を有していてもよい。また、熟成工程の後には、例えば、アルカリ加水処理工程、解砕工程、遠心分離工程、乾燥工程等を有していてもよい。
【0018】
(酸化処理工程)
本発明においては、グラファイトを酸化する酸化剤として、特定の割合で硫酸と硝酸とを含む混酸を使用することを特徴とする。尚、本発明においては、予め硫酸と硝酸とを混合し、混酸を形成してから反応器内に添加しても、硫酸と硝酸のそれぞれを連続的若しくは間欠的に反応器内に添加し、反応器内において混酸を形成させてもよい。
【0019】
前記硫酸としては濃硫酸(硫酸濃度:約90質量%以上)を使用することが、グラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましい。
【0020】
前記硝酸としては濃硝酸(硝酸濃度:約60〜70質量%)又は発煙硝酸(硝酸濃度:約70質量%超)を使用することが、グラファイトを酸化・除去する作用に優れる点で好ましく、とりわけ発煙硝酸が好ましい。発煙硝酸としては特に限定されず、例えば濃硝酸に二酸化窒素を吹き込んで調製したものを使用できる。また、市販品を用いることもできる。
【0021】
前記混酸における硫酸と硝酸との混合割合(前者/後者;質量比)は、例えば60/40〜95/5であることが、常圧付近の圧力(例えば、0.5〜2atm)の下でも、例えば130℃以上(特に好ましくは150℃以上。尚、上限は、例えば200℃)の温度で、効率よくグラファイトを酸化して除去することができるで点で好ましい。下限は、好ましくは65/35、特に好ましくは70/30である。また、上限は、好ましくは90/10、特に好ましくは85/15、最も好ましくは80/20である。
【0022】
混酸における硝酸の割合が上記範囲を上回ると、高沸点を有する硫酸の含有量が少なく、常圧付近の圧力下では、反応温度が例えば120℃以下となり、グラファイトの除去効率が低下する傾向がある。一方、混酸における硝酸の割合が上記範囲を下回ると、グラファイトの酸化に大きく貢献する硝酸の含有量が少なく、グラファイトの除去効率が低下する傾向がある。
【0023】
また、本発明では酸化剤として混酸(=硫酸及び硝酸)以外にも他の酸化剤を併用しても良いが、酸化剤の使用量全量における混酸の使用量の占める割合は、例えば80質量%以上、好ましくは90質量%以上、特に好ましくは95質量%以上、最も好ましくは99質量%以上である。尚、上限は100質量%である。従って、他の酸化剤の使用量は、酸化剤の使用量全量の、例えば20質量%以下、好ましくは10質量%以下、特に好ましくは5質量%以下、最も好ましくは1質量%以下である。他の酸化剤の使用量が過剰となると、本願の効果が得られにくくなる傾向がある。
【0024】
従来は、酸化剤としてクロム酸、無水クロム酸、二クロム酸、及びこれらの塩等を使用していたが、クロム等の重金属は環境有害物質であり使用を控えることが望まれている。本発明では前記重金属を使用する必要がなく、環境に優しい。酸化処理工程におけるクロム化合物(=クロム酸、無水クロム酸、二クロム酸及びこれらの塩からなる群より選択される少なくとも1種)の使用量(CrO
3換算)は、粗ND1質量部に対して例えば1質量部以下(好ましくは0.5質量部以下、特に好ましくは0.1質量部以下、最も好ましくは0.05質量部以下)である。尚、前記化合物の使用量の下限はゼロである。
【0025】
酸化剤(特に、前記混酸)の使用量は、粗ND1質量部に対して例えば10〜50質量部、好ましくは15〜40質量部、特に好ましくは20〜40質量部である。また、前記混酸中の硫酸の使用量は、粗ND1質量部に対して例えば5〜48質量部、好ましくは10〜35質量部、特に好ましくは15〜30質量部であり、前記混酸中の硝酸の使用量は、粗ND1質量部に対して例えば2〜20質量部、好ましくは4〜10質量部、特に好ましくは5〜8質量部である。
【0026】
酸化処理工程における反応系内の硫酸濃度は、例えば85質量%超(好ましくは87質量%以上、特に好ましくは90質量%以上、最も好ましくは92質量%以上)であることが、反応温度を高く設定することができ、効率よくグラファイトを酸化して除去することができるで点で好ましい。尚、硫酸濃度の上限は、例えば95質量%である。
【0027】
また、粗NDと混酸との反応は、触媒の存在下で行ってもよい。触媒の使用により、グラファイトの除去効率を一層向上することができる。前記触媒としては、例えば、炭酸銅(II)等を挙げることができる。触媒の使用量は、粗ND100質量部に対して例えば0.01〜10質量部程度である。
【0028】
粗NDと混酸とを反応させると、グラファイトが混酸中の硝酸によって酸化される。前記酸化反応の主反応式を下記に示す。
C+2HNO
3→CO
2+NO
2+NO+H
2O
【0029】
酸化反応により生成したNO
2は、これを凝縮し反応系に戻すと、水と下記の様に反応する。当該反応は吸熱反応であり、当該反応が進行するとグラファイトの酸化反応温度を、硝酸と水の共沸混合物の沸点(常圧下においては、121℃)以上に上昇させることが困難となり、グラファイトの酸化効率が低下する傾向がある。
3NO
2+H
2O→2HNO
3+NO
【0030】
そこで、凝縮器を備えた反応器を使用して反応を行い、更に凝縮器の冷媒温度を、反応圧力下における二酸化窒素の沸点を超え、反応圧力下における100%硝酸の沸点より低い温度に設定して、グラファイトの酸化反応の進行に伴って生成した窒素酸化物(NO、NO
2等のNOx)は反応系外に排気することが好ましい。一方、反応中に蒸発した硝酸や、生成した水は凝縮器で凝縮して反応器に還流することが好ましい。グラファイトの酸化反応の進行に伴って生成した炭素酸化物(CO、CO
2等のCOx)は、窒素酸化物と共に反応系外に排気することが好ましい。
【0031】
また、反応系外に排気される窒素酸化物や炭素酸化物は、ガス捕集装置等を利用して捕集することが好ましい。ガス捕集装置としては周知慣用の装置を使用することができ、例えば、アルカリトラップ(水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ溶液中に窒素酸化物や炭素酸化物をバブリングして捕集する装置)を使用することが好ましい。
【0032】
凝縮器の冷媒の設定温度は、反応圧力下における二酸化窒素の沸点を超え、100%硝酸の沸点より低い温度でることが好ましく、より好ましくは[反応圧力下における二酸化窒素の沸点(℃)+5℃]〜[反応圧力下における100%硝酸の沸点(℃)−5℃]の範囲、特に好ましくは[反応圧力下における二酸化窒素の沸点(℃)+10℃]〜[反応圧力下における100%硝酸の沸点(℃)−10℃]の範囲である。
【0033】
従って、反応圧力が1atmの場合の凝縮器の冷媒の設定温度は、例えば21℃以上、83℃未満、好ましくは25〜75℃、特に好ましくは30〜70℃、最も好ましくは30〜60℃である。
【0034】
凝縮器の冷媒温度が上記範囲を下回ると、グラファイトの酸化反応の進行に伴って生成した窒素酸化物が還流することにより上述の吸熱反応が進行し、経時で反応温度を例えば130℃以上とすることが困難となる傾向がある。一方、凝縮器の冷媒温度が上記範囲を上回ると、硝酸を反応器に還流することができなくなり、硝酸濃度の低下に伴い酸化力が低下する傾向がある。
【0035】
粗NDと混酸との反応は加熱しつつ行うことが好ましい。加熱手段としては、特に制限がなく、周知慣用の手段を利用することができる。
【0036】
粗NDと混酸との反応時間は、例えば1〜100時間である。反応時間の上限は、好ましくは80時間、特に好ましくは70時間、最も好ましくは60時間、とりわけ好ましくは50時間である。反応時間の下限は、好ましくは5時間、特に好ましくは10時間、最も好ましくは20時間、とりわけ好ましくは30時間である。
【0037】
粗NDと混酸との反応温度は130℃以上であり、好ましくは140℃以上、特に好ましくは145℃以上、最も好ましくは150℃以上である。尚、反応温度の上限は、例えば200℃、好ましくは180℃、特に好ましくは170℃、最も好ましくは160℃である。反応温度が上記範囲を下回ると、グラファイトの除去効率が低下するため好ましくない。
【0038】
反応圧力は、耐圧性の反応器を使用する必要がなく、高圧下では使用が困難なガラス製反応器やグラスライニング反応器も使用することができる点で、常圧付近の圧力(例えば、0.5〜2atm)が好ましく、特に好ましくは常圧である。そして、ガラス製反応器やグラスライニング反応器を使用する場合は、生成物に反応器由来の金属成分の混入を抑制することができる。
【0039】
粗NDと混酸との反応は、粗ND中のグラファイト含有量が、ラマン分光法によるグラファイトピーク面積/ナノダイヤモンドピーク面積(比)が、例えば1.0以下(好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.7以下)になるまで行うことが好ましい。
【0040】
(熟成工程)
本発明においては、上記酸化処理工程終了後に熟成工程を設ける。
【0041】
前記粗ND(特に、爆轟法により得られた粗ND)は、反応器由来の金属性不純物(例えば、鉄等)の混入が避けられない。そして、前記金属性不純物は、硫酸が高濃度に存在する水溶液中(例えば、上記酸化処理工程の反応系内等)においてはイオン化し、硫酸イオンと共に錯塩(例えば、Fe(H
3O)(SO
4)
2)を形成する。前記錯塩は、水洗では除去することが非常に困難である。
【0042】
そのため、本発明においては当該熟成工程を設けることで、水洗による除去が困難な錯塩の形成を抑制することを特徴とする。
【0043】
本発明における熟成工程では、反応系内の硫酸濃度を低下させた後、加熱熟成する。
【0044】
硫酸濃度は、85質量%以下(好ましくは80質量%以下、特に好ましくは75質量%以下)まで低下させる。これにより、上記錯塩の形成を抑制することが可能となる。硫酸濃度を低下させる手段は特に制限されないが、例えば、反応系内に水を添加して、反応液を希釈することで行うことができる。
【0045】
また、反応系内の硝酸濃度が3質量%を超える場合は、周知慣用の方法で硝酸の除去を行って、硝酸濃度を3質量%以下にまで低下させることが好ましい。
【0046】
熟成温度は130℃以上であり、好ましくは140℃以上、特に好ましくは145℃以上、最も好ましくは150℃以上である。尚、反応温度の上限は、例えば200℃、好ましくは180℃、特に好ましくは170℃、最も好ましくは160℃である。また、熟成時間は1時間以上であり、好ましくは2時間以上、特に好ましくは3時間以上、最も好ましくは5時間以上である。尚、上限は、例えば10時間程度である。
【0047】
熟成後は、例えばデカンテーションまたは遠心沈降法により、固形分(ND凝着体を含む)の水洗を行うことが好ましい。水洗当初の上清液は着色しているが、この上清液が目視で透明になるまで、当該固形分の水洗を反復して行うのが好ましい。
【0048】
(生成工程)
本発明のNDの製造方法において使用する粗NDは、例えば、爆轟法や、高温高圧法を用いて製造することができる。本発明においては、なかでも、より分散性に優れるNDが得られる点で、爆轟法を採用することが好ましい。
【0049】
前記爆轟法には、空冷式爆轟法と水冷式爆轟法が含まれる。本発明においては、なかでも、空冷式爆轟法が一次粒子がより小さいNDを得ることができる点で好ましい。また、爆轟は大気雰囲気下で行っても良く、窒素雰囲気、アルゴン雰囲気、二酸化炭素雰囲気等の不活性ガス雰囲気下で行っても良い。
【0050】
爆轟法では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置し、容器内において大気組成の常圧の気体と使用爆薬とが共存する状態で、容器を密閉する。容器は例えば鉄製で、容器の容積は例えば0.5〜40m
3である。爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)とシクロトリメチレントリニトロアミンすなわちヘキソーゲン(RDX)との混合物を使用することができる。TNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、例えば40/60〜60/40の範囲とされる。
【0051】
次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させる。爆轟とは、化学反応に伴う爆発のうち反応の生じる火炎面が音速を超えた高速で移動するものをいう。爆轟の際、使用爆薬が部分的に不完全燃焼を起こして遊離した炭素を原料として、爆発で生じた衝撃波の圧力とエネルギーの作用によってNDが生成する。爆轟法により得られるNDは、隣接する一次粒子ないし結晶子の間がファンデルワールス力の作用に加えて結晶面間クーロン相互作用が寄与して非常に強固に集成し、凝着体をなす。
【0052】
生成工程では、次に、例えば室温において24時間程度放置することにより放冷し、容器およびその内部を降温させる。以上のような方法で、粗NDを得ることができる。
【0053】
(アルカリ加水処理工程)
熟成工程後のNDは、一次粒子間が非常に強く相互作用して集成している凝着体(二次粒子)の形態をとりやすい。この凝着体から一次粒子の分離を促すために、NDに対して水溶媒中で所定のアルカリおよび過酸化水素を作用させる工程を設けてもよい。これにより、NDに含まれる金属性不純物を除去することができ、ND凝着体からND一次粒子の分離を促進することができる。爆轟法で得られる粗NDには金属性不純物が含まれやすく、この金属性不純物は、主に、爆轟法に使用される容器等に由来するFe、Co、Ni等の酸化物である。
【0054】
この処理に用いられるアルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、アンモニア、水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリの濃度は例えば0.1〜10質量%であり、過酸化水素の濃度は例えば1〜15質量%である。処理温度は例えば40〜100℃であり、処理時間は例えば0.5〜5時間である。
【0055】
また、この処理は、減圧下、常圧下、または加圧下で行うことが可能である。この処理を経たND含有溶液から例えばデカンテーションによって上澄みが除かれた後、残留物を乾燥処理に付して乾燥紛体を得てもよい。乾燥処理の手法としては、例えば、噴霧乾燥装置を使用して行う噴霧乾燥や、エバポレーターを使用して行う蒸発乾固が挙げられる。
【0056】
(解砕工程)
解砕工程は、ND凝着体を含有する溶液を解砕処理ないし分散化処理に付すことによってND凝着体(二次粒子)をND一次粒子に解砕ないし分散化するための工程である。
【0057】
当該解砕処理は、例えば、高剪断ミキサー、ハイシアーミキサー、ホモミキサー、ボールミル、ビーズミル、高圧ホモジナイザー、超音波ホモジナイザー、コロイドミル等を使用して行うことができる。
【0058】
(遠心分離工程)
遠心分離工程は、上述の解砕工程を経たNDを含有する溶液から、遠心力の作用を利用して粗大粒子を除去する工程である。本工程の遠心分離処理において、遠心力は例えば15000〜25000×gであり、遠心時間は例えば10〜120分である。これにより、ND粒子の分散する黒色透明の上清液(ND水分散液)が得られる。得られたND水分散液については、水分量を低減することによってND濃度を高めることができる。この水分量低減は、例えばエバポレーターを使用して行うことができる。以上のようにして、ND水分散液を得ることができる。
【0059】
ND分散液中のNDの平均粒子径(D50、メディアン径)は、例えば50nm以下であり、好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下、より好ましくは20nm以下である。表面修飾NDの平均粒子径の下限は、例えば1nmである。NDの平均粒子径は、動的光散乱法によって測定することができる。
【0060】
(乾燥工程)
乾燥工程は、エバポレーターを使用して溶液から水分量を低減させた後の残留固形分を乾燥用オーブン内での加熱乾燥によって乾燥させる工程である。加熱乾燥温度は、例えば40〜150℃である。このような乾燥工程を経てNDの粉体(ND(粉体))が得られる。
【0061】
上記工程を経て得られるND(粉体)は、NDの一次粒子を含み、その他、前記一次粒子が数個〜数十個程度凝集した二次粒子が含まれていても良い。ND(粉体)の集合体の平均粒子径(D50、メディアン径)は、例えば50nm以下であり、好ましくは30nm以下、より好ましくは25nm以下、より好ましくは20nm以下である。ND(粉体)の平均粒子径の下限は、例えば1nmである。ND粒子の平均粒子径は、動的光散乱法によって測定することができる。
【0062】
上記工程を経て得られるND(粉体)のグラファイト含有量は、ラマン分光法によるグラファイトピーク面積/ナノダイヤモンドピーク面積(比)が、例えば1.0以下(好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.7以下)である。また、上記工程を経て得られるND(粉体)のクロム含有量(金属元素換算)は、例えば100質量ppm以下、好ましくは50質量ppm以下、特に好ましくは10質量ppm以下である。
【0063】
また、NDのpH9〜10の範囲の少なくとも1点におけるゼータ電位は、例えば−40〜−10mV程度、好ましくは−30〜−15mVである。尚、NDのゼータ電位とは、0.2質量%ND水分散液中のNDの25℃における値とする。ND濃度0.2質量%のND水分散液の調製のためにND水分散液の原液を希釈する必要がある場合には、希釈液として超純水を用いるものとする。
【実施例】
【0064】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
尚、ND水分散液に含まれるND粒子に関する上記のゼータ電位は、スペクトリス社製の装置(商品名「ゼータサイザー ナノZS」)を使用して、レーザードップラー式電気泳動法によって測定した値である。測定に供されたND水分散液は、超純水を使用してND濃度を0.2質量%に希釈した後、超音波洗浄機を用いて超音波照射を行ったものである。また、測定に供されたND水分散液のpHは、pH試験紙(商品名「スリーバンドpH試験紙」、アズワン(株)製)を使用して確認した。
【0065】
〔実施例1〕
(生成工程)
生成工程では、まず、成形された爆薬に電気雷管が装着されたものを爆轟用の耐圧性容器の内部に設置して容器を密閉した。容器は鉄製で、容器の容積は15m
3である。爆薬としては、TNTとRDXとの混合物0.50kgを使用した。当該爆薬におけるTNTとRDXの質量比(TNT/RDX)は、50/50であった。次に、電気雷管を起爆させ、容器内で爆薬を爆轟させた。次に、室温での24時間の放置により、容器およびその内部を降温させた。この放冷の後、容器の内壁に付着しているND粗生成物(上記爆轟法で生成した粗NDの凝着体と煤を含む)をヘラで掻き取る作業を行って回収した。ND粗生成物の回収量は0.025kgであった。
【0066】
(酸化処理工程)
次に、酸化処理を行った。具体的には、50℃の冷媒を循環させた凝縮器と前記凝縮器に接続されたアルカリトラップとを備えた反応器中において、1atm下、反応器を加熱しつつ、生成工程で得られたND粗生成物(3g)と濃硫酸(80.6g)と炭酸銅(触媒量)とを反応器に仕込んだ。
そこへ、発煙硝酸(20.4g、硫酸と硝酸の割合が80/20(前者/後者(質量比))となる量)を滴下した。反応温度は150℃であった。その後、反応の進行に伴って蒸発した硝酸、及び生成したH
2Oは凝縮器で凝縮して反応器内に戻した。一方、NO、NO
2、CO、及びCO
2は凝縮器に接続されたアルカリトラップで捕集した。発煙硝酸の滴下開始から48時間後、酸化処理工程における反応を終了した。終了時の反応器内の硫酸濃度は92質量%であった。また、硝酸濃度は検出限界以下であった。
【0067】
(熟成工程)
酸化処理工程における反応終了後、反応器内の温度を150℃に維持した状態で、水を加えて反応器内の硫酸濃度を73質量%とし、5時間静置した。その後、反応器内の温度を室温まで冷却後、デカンテーションにより、固形分(ND凝着体を含む)の水洗を行った。水洗当初は着色していた上清液が、目視で透明になるまで、デカンテーションによる当該固形分の水洗を反復して行った。
【0068】
(アルカリ加水処理工程)
次に、加熱熟成後のデカンテーションを経て得た沈殿液(ND凝着体を含む)に対して1Lの10質量%水酸化ナトリウム水溶液と1Lの30質量%過酸化水素水溶液とを加えてスラリーとした後、このスラリーに対し、常圧条件での還流下で1時間の加熱処理を行った。この処理における加熱温度は50〜105℃であった。次に、冷却後、デカンテーションによって上澄みを除いてスラリー(ND凝着体を含む)を得た。
【0069】
(解砕工程)
次に、ビーズミル(商品名「ウルトラアペックスミルUAM−015」、寿工業(株)製)を使用して、前工程を経て得られたスラリー300mLを解砕処理に付した。本処理では、解砕メディアとしてジルコニアビーズ(直径0.03mm)を使用し、ミル容器内に充填されるビーズの量はミル容器の容積に対して60%とし、ミル容器内で回転するローターピンの周速は10m/sとした。また、装置を循環させるスラリーの流速を10L/hとして90分間の解砕処理を行った。
【0070】
(遠心分離工程)
次に、上述の解砕工程を経たNDを含有する溶液から、遠心力の作用を利用した分級操作によって粗大粒子を除去した(遠心分離処理)。本工程の遠心分離処理において、遠心力は20000×gとし、遠心時間は10分とした。これにより、黒色透明のND水分散液を得た。本分散液の一部についてND濃度0.2質量%への超純水による希釈を行った後に当該分散液中のND粒子のゼータ電位を測定したところ、−20.9mV(25℃,pH10.0)であった。
【0071】
(乾燥工程)
次に、遠心分離工程で得られたND水分散液からエバポレーターを使用して液分を蒸発させた後、これによって生じた残留固形分を乾燥用オーブン内での加熱乾燥によって乾燥させた。加熱乾燥温度は120℃とした。以上のようにして、ND(1)(粉体、動的光散乱法によって測定したメディアン径(粒径D50):4.6nm、クロム含有量:検出限界以下)を得た。
【0072】
〔比較例1〕
熟成工程を設けなかった以外は実施例1と同様にして、ND水分散液(2)(ゼータ電位(25℃,pH9.8);−30.6mV)、及びND(2)(粉体、動的光散乱法によって測定したメディアン径(粒径D50):4.6nm、クロム含有量:検出限界以下)を得た。
【0073】
実施例1で得られたND(1)、比較例1で得られたND(2)、及び参考例として実施例の生成工程で得られたND粗生成物(図中では(3)と示す)について、X線回折分析を行った。結果を
図1に示す。
図1より、ND粗生成物はグラファイトが多く検出されたのに対し、ND(1)、(2)は何れもグラファイトがわずかに検出されたのみであり、硫酸と硝酸の混酸を用いた酸化処理によりグラファイトが除去できていることが確認された。
しかし、丸で囲った領域において、ND(1)はピークが検出されたかったのに対し、ND(2)はピークが多く検出されたことから、ND(1)は水洗で金属不純物が除去できたが、ND(2)は水洗しても金属不純物が除去できなかったことがわかった。