(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845100
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ピストン支持部の潤滑構造
(51)【国際特許分類】
F16C 9/04 20060101AFI20210308BHJP
F02F 3/00 20060101ALI20210308BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20210308BHJP
F16J 1/08 20060101ALI20210308BHJP
F16J 1/16 20060101ALI20210308BHJP
F16C 7/02 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
F16C9/04
F02F3/00 Z
F01M1/06 C
F16J1/08
F16J1/16
F16C7/02
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-124811(P2017-124811)
(22)【出願日】2017年6月27日
(65)【公開番号】特開2019-7578(P2019-7578A)
(43)【公開日】2019年1月17日
【審査請求日】2020年5月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005463
【氏名又は名称】日野自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000512
【氏名又は名称】特許業務法人山田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大原 創
(72)【発明者】
【氏名】永吉 学
(72)【発明者】
【氏名】臼井 正一朗
【審査官】
日下部 由泰
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−258194(JP,A)
【文献】
特開平9−49489(JP,A)
【文献】
実開平3−99272(JP,U)
【文献】
実開昭57−36338(JP,U)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0120299(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 3/00− 9/06
F16J 1/00− 1/24, 7/00−10/04
F01M 1/00− 9/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンの裏面に形成されたピンボス部により両端部を回動自在に軸支されたピストンピンを介し前記ピストンをコンロッドの小端部で揺動自在に支持したピストン支持部の潤滑構造であって、前記ピストンピンを円管により構成して貫通部分を収容空間とし、該収容空間の内径より小径の円柱状を成すインナーピンを前記収容空間に収容し、該収容空間の両端部の開口を蓋体により封止し、前記ピストンピンにおける前記ピンボス部と前記コンロッドの小端部とによる軸支領域に前記収容空間の内外を半径方向に連通する油穴を穿設し、前記インナーピンが上死点付近及び下死点付近で慣性力により前記ピストンピンの内周面に押し付けられながら転動し得るように構成したことを特徴とするピストン支持部の潤滑構造。
【請求項2】
ピストンピンのピンボス部による軸支領域に穿設された油穴に向けピストン上部のクーリングギャラリーから潤滑油を導く給油路を備えたことを特徴とする請求項1に記載のピストン支持部の潤滑構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ピストン支持部の潤滑構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図3に示す如く、自動車等に用いられる一般的なレシプロエンジンにおいては、シリンダ1内に収容されたピストン2がピストンピン3を介しコンロッド4の小端部4aにより揺動自在に支持されており、該コンロッド4の大端部4bがクランクピン5を介しクランクシャフト6と連結されるようにしてある。
【0003】
また、クランクピン5はクランクアーム6aによりクランクシャフト6の中心からずらした位置に支持されており、クランクピン5がクランクシャフト6の中心回りに円軌道を描いて移動するようになっているので、コンロッド4がピストンピン3を中心に揺動しつつピストン2がシリンダ1内を昇降することになる。
【0004】
ここで、前記ピストンピン3は、ピストン2の裏面に形成された一対のピンボス部7により両端部を回動自在に軸支されており、前記コンロッド4の小端部4aは、前記各ピンボス部7に挟まれたピストンピン3の中央部を回動自在に軸支するようになっている。
【0005】
そして、このようなピストン2の支持部における潤滑は、コンロッド4内部の油通路8を通して潤滑油を強制給油したり、シリンダ1下部に装備された図示しないオイル噴射ノズルから潤滑油をピストン2の裏面に向け上向きに噴射したり、クランクシャフト6の潤滑油の跳ね上げを利用したりして行われるようになっている。
【0006】
尚、この種のピストン支持部の潤滑構造に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1、2等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−258194号公報
【特許文献2】特開2011−149444号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
近年、エンジンの省燃費化を図るために低回転化によりフリクションを下げることと併せて、低回転化によるパワーの低下を補うために高過給化を組み合わせることが広く行われている。こうした場合に、エンジンにおける筒内圧が全行程において大幅に増加し、ピストン2が常に押し下げられた状態に維持される一方、排気上死点付近でピストン2に働く慣性力が小さくなる結果、その摺動部に潤滑油がうまく行き渡らなくなってピストン2とピストンピン3とコンロッド4との間に焼き付きの虞れが高まることが懸念されている。
【0009】
即ち、従来においては、いくら筒内圧によりピストン2を押し下げる力が作用していても、排気上死点付近では慣性力によりピストン2が浮き上がる力の方が勝り、コンロッド4の小端部4aやピストン2の各ピンボス部7に対して押し付けられていたピストンピン3の摺動部(コンロッド4の小端部4aに対してはピストンピン3の中央部の下側部分、ピストン2の各ピンボス部7に対してはピストンピン3の両端部の上側部分)に隙間ができ、この隙間に潤滑油が入り込んで潤滑と冷却が行われるようになっていたが、前述のように低回転化と高過給化が両立すると、排気上死点付近でも潤滑油を前記摺動部に入り込ませることが難しくなる。
【0010】
本発明は上述の実情に鑑みてなしたもので、ピストンとピストンピンとコンロッドとの間における焼き付きを抑制し得るピストン支持部の潤滑構造を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、ピストンの裏面に形成されたピンボス部により両端部を回動自在に軸支されたピストンピンを介し前記ピストンをコンロッドの小端部で揺動自在に支持したピストン支持部の潤滑構造であって、前記ピストンピンを円管により構成して貫通部分を収容空間とし、該収容空間の内径より小径の円柱状を成すインナーピンを前記収容空間に収容し、該収容空間の両端部の開口を蓋体により封止し、前記ピストンピンにおける前記ピンボス部と前記コンロッドの小端部とによる軸支領域に前記収容空間の内外を半径方向に連通する油穴を穿設し、前記インナーピンが上死点付近及び下死点付近で慣性力により前記ピストンピンの内周面に押し付けられながら転動し得るように構成したことを特徴とするものである。
【0012】
而して、このようにすれば、ピストンの上下動とコンロッドの揺動とによりインナーピンがピストンピンの収容空間内で転動し、特に上死点付近及び下死点付近にて前記インナーピンが慣性力により前記ピストンピンの内周面に押し付けられながら転動することになるが、該ピストンピンの内周面と前記インナーピンとの間には、三日月形断面の油溜まりが形成されていて、前記インナーピンが前記ピストンピンに対し相対的に転動して進む側で前記インナーピンにより油溜まりが押し潰されて縮小し、楔効果により潤滑油が著しく加圧されて油穴を通し前記ピストンピンの外周面に押し出され、コンロッドの小端部やピストンの各ピンボス部に対しピストンピンが押し付けられていた摺動部に強制給油が行われて良好な潤滑と冷却が図られる。
【0013】
一方、前記インナーピンが前記ピストンピンに対し相対的に転動して過ぎ去る側では、油溜まりが一気に拡張されて潤滑油が大幅に減圧されることで負圧状態となり、油穴を通し前記ピストンピンの外周面から潤滑油が吸い込まれることになるので、少なくとも一部の油穴を既存の潤滑系から給油可能な配置としておくだけで収容空間への潤滑油の補給が可能となる。
【0014】
即ち、上死点付近及び下死点付近にて前記インナーピンが慣性力により前記ピストンピンの内周面に押し付けられながら転動することにより、前記インナーピンの各油穴で潤滑油の押し出しと吸い込みが交互に繰り返されることになる。
【0015】
更に、本発明をより具体的に実施するにあたっては、ピストンピンのピンボス部による軸支領域に穿設された油穴に向けピストン上部のクーリングギャラリーから潤滑油を導く給油路を備え、該給油路を通してピストンピンの収容空間へ潤滑油の補給が成されるようにしても良い。
【発明の効果】
【0016】
上記した本発明のピストン支持部の潤滑構造によれば、インナーピンを上死点付近及び下死点付近で慣性力によりピストンピンの内周面に押し付けながら転動させることにより、収容空間から油穴を介し潤滑油を著しく加圧して前記ピストンピンの外周面に押し出すことができるので、コンロッドの小端部やピストンの各ピンボス部に対しピストンピンが押し付けられていた摺動部に強制給油が行われて該摺動部の良好な潤滑と冷却を図ることができ、ピストンとピストンピンとコンロッドとの間における焼き付きを効果的に抑制することができるという優れた効果を奏し得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明を実施する形態の一例を示す側面断面図である。
【
図2】
図1のピストンピン及びインナーピンの正面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下本発明の実施の形態を図面を参照しつつ説明する。
【0019】
図1及び
図2に示す如く、本形態例においては、前述した
図3の場合と略同様に、ピストン2の裏面に形成されたピンボス部7により両端部を回動自在に軸支されたピストンピン3を介し前記ピストン2をコンロッド4の小端部4aで揺動自在に支持するようにしているが、ピストンピン3を円管により構成して貫通部分を収容空間9とし、該収容空間9の内径より小径の円柱状を成すインナーピン10を前記収容空間9に収容し、該収容空間9の両端部の開口をプラグ11,12(蓋体)により封止し、前記ピストンピン3における前記ピンボス部7と前記コンロッド4の小端部4aとによる軸支領域に前記収容空間9の内外を半径方向に連通する油穴13を穿設し、前記インナーピン10が上死点付近及び下死点付近で慣性力により前記ピストンピン3の内周面に押し付けられながら転動し得るように構成している。
【0020】
また、ここに図示している例にあっては、ピストン2の上側内部にクーリングギャラリー14が環状に穿設されており、ピストンピン3のピンボス部7による軸支領域に穿設された油穴13に向け前記クーリングギャラリー14から潤滑油を導く給油路15が穿設され、該給油路15を通して前記ピストンピン3の収容空間9へ潤滑油の補給が成されるようになっている。
【0021】
即ち、前記クーリングギャラリー14には、その周方向適宜位置に下向きに開口するオイル入口(
図1に図示されない位相にて開口)があり、シリンダ1下部に装備された図示しないオイル噴射ノズルから上向きに噴射した潤滑油を、主にピストン2の下降時に前記オイル入口から前記クーリングギャラリー14内へ注入して行き亘らせ、ピストン2の上下動による慣性力でシェーキングして効率良く熱交換させ、この熱交換によりピストン2から熱を奪って昇温した潤滑油をクーリングギャラリー14の周方向適宜位置に下向きに開口されているオイル出口(
図1に図示されない位相にて開口)から流下させて回収するようにしているので、その潤滑油の一部を前記給油路15へ分流させて収容空間9への潤滑油の補給を行うようにしている。
【0022】
ここで、前記給油路15が前記ピストンピン3の外周面に突き当たる位置には、該ピストンピン3の全周に亘り油溝16が形成されており、この位置で周方向に並ぶ全ての油穴13に対し潤滑油を供給できるようにしてある。
【0023】
尚、コンロッド4内部における油通路8については、本形態例においても従前通り残してあるが、前記クーリングギャラリー14から潤滑油を導く給油路15の新設に伴い前記油通路8を廃止する余地があることを付言しておく。
【0024】
また、前記給油路15を新設せずに、ピストンピン3のコンロッド4の小端部4aによる軸支領域に穿設された油穴13の一部がコンロッド4内部の油通路8に連通し得るようにして前記収容空間9への潤滑油の補給を実現することも可能である。
【0025】
而して、このようにした場合、ピストン2の上下動とコンロッド4の揺動とによりインナーピン10がピストンピン3の収容空間9内で転動し、特に上死点付近及び下死点付近にて前記インナーピン10が慣性力により前記ピストンピン3の内周面に押し付けられながら転動することになるが、該ピストンピン3の内周面と前記インナーピン10との間には、三日月形断面(
図2参照)の油溜まりが形成されていて、前記インナーピン10が前記ピストンピン3に対し相対的に転動して進む側(
図2中にAで示す側)で前記インナーピン10により油溜まりが押し潰されて縮小し、楔効果により潤滑油が著しく加圧されて油穴13を通し前記ピストンピン3の外周面に押し出され、コンロッド4の小端部4aやピストン2の各ピンボス部7に対しピストンピン3が押し付けられていた摺動部に強制給油が行われて良好な潤滑と冷却が図られる。
【0026】
一方、前記インナーピン10が前記ピストンピン3に対し相対的に転動して過ぎ去る側(
図2中にBで示す側)では、油溜まりが一気に拡張されて潤滑油が大幅に減圧されることで負圧状態となり、油穴13を通し前記ピストンピン3の外周面から潤滑油が吸い込まれることになるので、少なくとも一部の油穴13を既存の潤滑系から給油可能な配置としておくだけで収容空間9への潤滑油の補給が可能となる。
【0027】
即ち、上死点付近及び下死点付近にて前記インナーピン10が慣性力により前記ピストンピン3の内周面に押し付けられながら転動することにより、前記インナーピン10の各油穴13で潤滑油の押し出しと吸い込みが交互に繰り返されることになる。
【0028】
従って、上記形態例によれば、インナーピン10を上死点付近及び下死点付近で慣性力によりピストンピン3の内周面に押し付けながら転動させることにより、収容空間9から油穴13を介し潤滑油を著しく加圧して前記ピストンピン3の外周面に押し出すことができるので、コンロッド4の小端部4aやピストン2の各ピンボス部7に対しピストンピン3が押し付けられていた摺動部に強制給油が行われて該摺動部の良好な潤滑と冷却を図ることができ、ピストン2とピストンピン3とコンロッド4との間における焼き付きを効果的に抑制することができる。
【0029】
尚、本発明のピストン支持部の潤滑構造は、上述の形態例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0030】
2 ピストン
3 ピストンピン
4 コンロッド
4a 小端部
7 ピンボス部
9 収容空間
10 インナーピン
11 プラグ(蓋体)
12 プラグ(蓋体)
13 油穴
14 クーリングギャラリー
15 給油路
16 油溝