特許第6845102号(P6845102)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845102
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】改質構造体および改質装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/38 20060101AFI20210308BHJP
   C01B 13/02 20060101ALI20210308BHJP
   B01J 23/86 20060101ALI20210308BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20210308BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20210308BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20210308BHJP
   H01M 8/0612 20160101ALN20210308BHJP
【FI】
   C01B3/38
   C01B13/02 Z
   B01J23/86 M
   B01D69/10
   B01D69/12
   B01D71/02 500
   !H01M8/0612
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-128463(P2017-128463)
(22)【出願日】2017年6月30日
(65)【公開番号】特開2019-11220(P2019-11220A)
(43)【公開日】2019年1月24日
【審査請求日】2020年5月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004547
【氏名又は名称】日本特殊陶業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001911
【氏名又は名称】特許業務法人アルファ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 峻太郎
(72)【発明者】
【氏名】近藤 智紀
(72)【発明者】
【氏名】舟橋 佳宏
【審査官】 山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−519195(JP,A)
【文献】 特開2009−062258(JP,A)
【文献】 特開2017−001003(JP,A)
【文献】 特表2005−535434(JP,A)
【文献】 特開2009−149459(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101733048(CN,A)
【文献】 特開2002−012401(JP,A)
【文献】 国際公開第03/040058(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B3/00−6/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭化水素と酸素との部分酸化改質反応を利用して、炭化水素を含む燃料ガスから一酸化炭素と水素とを含む改質ガスを生成する筒状の改質構造体において、
前記改質構造体は、
酸化物イオン伝導性と、電子伝導性または正孔伝導性と、を有する酸素透過層と、
前記酸素透過層に対して前記改質構造体の内周側に位置する内周側空間と前記改質構造体の外周側に位置する外周側空間との一方側に配置され、部分酸化改質反応を促進する触媒を含む改質触媒層と、
前記酸素透過層に対して前記内周側空間と前記外周側空間との他方側に配置され、酸素をイオン化させる反応を促進する触媒を含む酸素解離触媒層と、を含んでおり、
前記改質触媒層における前記改質構造体の軸方向の一方側の第1の端部は、前記改質構造体における前記軸方向の前記一方側の第2の端部より前記軸方向の他方側に位置しており、
前記酸素解離触媒層における前記軸方向の前記一方側の第3の端部は、前記改質構造体の前記第2の端部より前記軸方向の前記他方側に位置しており、
前記改質触媒層の前記第1の端部は、前記軸方向において、前記酸素解離触媒層の前記軸方向の全長の1%の長さ分だけ前記酸素解離触媒層の前記第3の端部より前記軸方向の前記一方側に位置する基準位置と同じ位置、または、前記基準位置より前記軸方向の前記他方側に位置していることを特徴とする、改質構造体。
【請求項2】
請求項1に記載の改質構造体において、
前記改質触媒層の前記第1の端部は、前記軸方向において、前記酸素解離触媒層の前記第3の端部と同じ位置、または、前記酸素解離触媒層の前記第3の端部より前記軸方向の前記他方側に位置していることを特徴とする、改質構造体。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の改質構造体において、
前記改質触媒層における前記改質構造体の軸方向の前記他方側の第4の端部は、前記改質構造体における前記軸方向の前記他方側の第5の端部より前記軸方向の前記一方側に位置していることを特徴とする、改質構造体。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の改質構造体において、
前記改質構造体の径方向において、前記改質触媒層の厚さは50(μm)以下であることを特徴とする、改質構造体。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の改質構造体において、
前記酸素透過層は、安定化ジルコニアとランタンクロマイトとを含む材料により形成されていることを特徴とする、改質構造体。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の改質構造体において、
前記改質構造体は、さらに、
前記酸素透過層および前記改質触媒層とは別体である筒状の支持体を含んでおり、
前記支持体の少なくとも一部は、部分安定化ジルコニアと安定化ジルコニアと酸化マグネシウムとスピネルとの少なくとも1つの種類を含む材料により形成されていることを特徴とする、改質構造体。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれか一項に記載の改質構造体と、
前記内周側空間と前記外周側空間との一方に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給部と、
前記内周側空間と前記外周側空間との他方に酸素を供給する酸素供給部と、
を備えることを特徴とする、改質装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書によって開示される技術は、改質構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化水素(例えばメタン)を含む燃料ガスから一酸化炭素と水素とを含む改質ガスを生成する改質構造体が知られている。改質構造体は、例えば、燃料電池に供給する水素を得るために、あるいは、水素および一酸化炭素をさらに炭化水素転換することによって液体炭化水素燃料を製造する技術(GTL(Gas to Liquid)と呼ばれる)のために利用される。
【0003】
炭化水素の改質技術の1つとして、炭化水素と水との反応(C+nHO→nCO+(n+m/2)H)を利用する水蒸気改質がある。水蒸気改質は、反応が安定して進行しやすいという利点を有するため、広く利用されている。しかし、水蒸気改質反応は吸熱反応であり、反応の進行のために改質構造体を加熱する必要があるため、効率が低いという問題がある。
【0004】
炭化水素の改質技術の他の1つとして、部分酸化改質反応(C+(n/2)O→nCO+(m/2)H)を利用する部分酸化改質がある。部分酸化改質反応は、発熱反応であるため、改質構造体を加熱する必要はない。しかし、部分酸化改質のために改質構造体に酸素を含む空気を供給すると、空気中に含まれる窒素を改質構造体の運転温度まで加熱するためのエネルギーが必要となり、その分だけ効率が低くなるという問題がある。
【0005】
従来、酸素透過層を含む筒状の改質構造体を用いて空気から酸素を選択的に取り出し、取り出された酸素を部分酸化改質に利用する技術が知られている(例えば、特許文献1参照)。改質構造体は、酸素透過層と、改質触媒層とを含む。酸素透過層は、酸化物イオン伝導性と、電子伝導性または正孔伝導性と、を有し、改質構造体の内周側に位置する内周側空間と改質構造体の外周側に位置する外周側空間との間の酸素分圧差を駆動力として改質構造体の外周側空間と内周側空間との間で酸素イオンを透過させる層である。改質触媒層は、例えば、酸素透過層に対して外周側空間側に配置され、部分酸化改質反応を促進する触媒を含む層である。酸素透過層を含む改質構造体において、例えば、内周側空間に改質構造体の軸方向に沿って空気を供給すると共に、外周側空間に該軸方向に沿って炭化水素を含む燃料ガスを供給すると、内周側空間に供給された空気中の酸素が酸素透過層を透過して外周側空間へと進入し、外周側空間において炭化水素と酸素との部分酸化改質反応が生じ、これにより炭化水素が改質される。また、改質触媒層によって部分酸化改質反応が促進される。このような酸素透過層を備える改質構造体では、窒素を加熱するためのエネルギーが不要であるため、高い効率を実現することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−195863号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記従来の酸素透過層を備える筒状の改質構造体では、改質構造体における燃料ガスの入口側の端部に近い部分では、炭化水素の改質反応より炭化水素の直接分解(C→nC+(m/2)H)が優先的に起こることによって部分酸化改質反応の効率が低下するおそれがある。この原因としては次のことが考えられる。改質構造体における燃料ガスの入口側の端部に近い部分では、改質構造体における燃料ガスの出口側の端部に近い部分に比べて、改質前の炭化水素が多く存在するとともに、酸素透過層を透過して改質構造体の外周側空間へと進入した酸素は燃料ガスによって改質構造体における燃料ガスの出口側に流される。このため、改質構造体における燃料ガスの入口側の端部に近い部分では、改質構造体における燃料ガスの出口側の端部に近い部分に比べて、酸素分圧が低い。このような酸素分圧が低い状態では、改質触媒層は、部分酸化改質反応より上記炭化水素の直接分解を促進すると考えられる。このため、改質構造体における燃料ガスの入口側の端部に近い部分では、炭化水素の改質反応より炭化水素の直接分解が優先的に起こりやすい。炭化水素の直接分解が起こると、改質反応に利用される炭化水素が少なくなるため、その結果、部分酸化改質反応の効率が低下すると考えられる。
【0008】
なお、このような問題は、改質触媒層が酸素透過層に対して改質構造体の内周側空間側に配置され、内周側空間に改質構造体の軸方向に沿って燃料ガスを供給すると共に、改質構造体の外周側空間に該軸方向に沿って空気(酸素)を供給する構成にも共通の問題である。
【0009】
本明細書では、上述した課題を解決することが可能な技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本明細書に開示される技術は、例えば、以下の形態として実現することが可能である。
【0011】
(1)本明細書に開示される改質構造体は、炭化水素と酸素との部分酸化改質反応を利用して、炭化水素を含む燃料ガスから一酸化炭素と水素とを含む改質ガスを生成する筒状の改質構造体において、前記改質構造体は、酸化物イオン伝導性と、電子伝導性または正孔伝導性と、を有する酸素透過層と、前記酸素透過層に対して前記改質構造体の内周側に位置する内周側空間と前記改質構造体の外周側に位置する外周側空間との一方側に配置され、部分酸化改質反応を促進する触媒を含む改質触媒層と、を含んでおり、前記改質触媒層における前記改質構造体の軸方向の一方側の第1の端部は、前記改質構造体における前記軸方向の前記一方側の第2の端部より前記軸方向の他方側に位置している。本改質構造体によれば、改質触媒層における改質構造体の軸方向の一方側の第1の端部は、改質構造体における該軸方向の一方側の第2の端部より軸方向の他方側に位置している。すなわち、改質構造体の第2の端部に近い部分には、改質触媒層が存在しない。そして、改質構造体の内周側空間または外周側空間に、改質構造体の第2の端部から燃料ガスを供給すると、改質構造体の第2の端部に近い部分で酸素分圧が低くなるが、該第2の端部に近い部分には、改質触媒層が存在しない。そのため、改質触媒層による炭化水素の直接分解の促進が抑制される。これにより、炭化水素の直接分解による炭素水素の減少を原因とする部分酸化改質反応の効率の低下を抑制することができる。
【0012】
(2)上記改質構造体において、前記改質構造体は、さらに、前記酸素透過層に対して前記内周側空間と前記外周側空間との他方側に配置され、酸素をイオン化させる反応を促進する触媒を含む酸素解離触媒層を含んでおり、前記酸素解離触媒層における前記軸方向の前記一方側の第3の端部は、前記改質構造体の前記第2の端部より前記軸方向の前記他方側に位置しており、前記改質触媒層の前記第1の端部は、前記軸方向において、前記酸素解離触媒層の前記軸方向の全長の1%の長さ分だけ前記酸素解離触媒層の前記第3の端部より前記軸方向の前記一方側に位置する基準位置と同じ位置、または、前記基準位置より前記軸方向の前記他方側に位置している構成としてもよい。本改質構造体によれば、改質触媒層の第1の端部が、基準位置(酸素解離触媒層の軸方向の全長の1%の長さ分酸素解離触媒層の第3の端部より軸方向の一方側(改質構造体の第2の端部側)に位置する位置)より改質構造体の第2の端部側に位置する構成に比べて、酸素解離触媒層が存在しないために特に酸素分圧が低くなる部分について改質触媒層による炭化水素の直接分解の促進が効果的に抑制される。
【0013】
(3)上記改質構造体において、前記改質触媒層の前記第1の端部は、前記軸方向において、前記酸素解離触媒層の前記第3の端部と同じ位置、または、前記酸素解離触媒層の前記第3の端部より前記軸方向の前記他方側に位置している構成としてもよい。本改質構造体によれば、改質触媒層の第1の端部が、酸素解離触媒層の第3の端部より改質構造体の第2の端部側に位置する構成に比べて、酸素解離触媒層が存在しないために特に酸素分圧が低くなる部分について改質触媒層による炭化水素の直接分解の促進がさらに効果的に抑制される。
【0014】
(4)上記改質構造体において、前記改質触媒層における前記改質構造体の軸方向の前記他方側の第4の端部は、前記改質構造体における前記軸方向の前記他方側の第5の端部より前記軸方向の前記一方側に位置している構成としてもよい。改質構造体の軸方向の他方側の第5の端部(下流側の端部)に近い部分に、例えば排出側接続管等の接続部材が接続されることがある。該第5の端部に近い部分に接続部材が接続されると、該接続部材の存在によって酸素透過層からの酸素透過が少ないために酸素分圧が低くなる。そこで、改質触媒層における軸方向の他方側の第4の端部は、改質構造体における軸方向の他方側の第5の端部より軸方向の一方側に位置している。すなわち、改質構造体の第5の端部に近い部分には、改質触媒層が存在しない。このため、改質構造体の第5の端部に近い部分において改質触媒層による炭化水素の直接分解の促進が抑制される。
【0015】
(5)上記改質構造体において、前記改質構造体の径方向において、前記改質触媒層の厚さは50(μm)以下である構成としてもよい。本改質構造体によれば、改質触媒層の厚さは50(μm)より厚い構成に比べて、改質構造体の第2の端部に近い部分で酸素分圧が低くなることが抑制されるため、炭化水素の直接分解による炭素水素の減少を原因とする部分酸化改質反応の効率の低下を抑制することができる。
【0016】
(6)上記改質構造体において、前記酸素透過層は、安定化ジルコニアとランタンクロマイトとを含む材料により形成されている構成としてもよい。本改質構造体によれば、酸素透過層は、安定化ジルコニア(ScSZ、YSZ、CSZ等)とランタンクロマイト(La0.8Sr0.2CrO3−Z等)とを含む材料により形成されているため、他の層の形成材料との反応を抑制しつつ、幅広い酸素分圧範囲下で安定的に酸素を透過させることができる。
【0017】
(7)上記改質構造体において、前記改質構造体は、さらに、前記酸素透過層および前記改質触媒層とは別体である筒状の支持体を含んでおり、前記支持体の少なくとも一部は、部分安定化ジルコニアと安定化ジルコニアと酸化マグネシウムとスピネルとの少なくとも1つの種類を含む材料により形成されている構成としてもよい。本改質構造体によれば、支持体は、部分安定化ジルコニアと安定化ジルコニアと酸化マグネシウム(MgO)とスピネル(MgAl)との少なくとも1つの種類を含む材料により形成されているため、化学的安定性が高く、支持体と酸素透過層との熱膨張係数の相違を原因とする機械的クラックの発生を抑制することができる。
【0018】
(8)上記改質装置において、上記(1)から(7)までのいずれか一つの改質構造体と、前記内周側空間と前記外周側空間との一方に前記燃料ガスを供給する燃料ガス供給部と、前記内周側空間と前記外周側空間との他方に酸素を供給する酸素供給部と、を備えることを特徴とする構成としてもよい。本改質装置によれば、炭化水素の直接分解による炭素水素の減少を原因とする部分酸化改質反応の効率の低下を抑制することができる。
【0019】
なお、本明細書に開示される技術は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、改質構造体、該改質構造体を備える改質装置、改質装置の制御方法等の形態で実現することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の改質装置10の構成を概略的に示す説明図である。
図2】酸素透過膜構造体110の詳細構成を示す説明図である。
図3】酸素透過膜構造体110の詳細構成を示す説明図である。
図4】酸素透過膜構造体110の詳細構成を示す説明図である。
図5】性能評価結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
A.実施形態:
A−1.装置の構成:
図1は、本実施形態の改質装置10の構成を概略的に示す説明図である。図1には、方向を特定するための互いに直交するXYZ軸が示されている。本明細書では、便宜的に、Z軸正方向を上方向と呼び、Z軸負方向を下方向と呼ぶものとする。図2以降についても同様である。
【0022】
改質装置10は、炭化水素を含む燃料ガスFGから、一酸化炭素と水素とを含む改質ガスRGを生成する装置である。改質装置10は、燃料ガス供給部210と、燃料ガス供給配管220と、酸素供給部225と、反応部100と、改質ガス排出配管230とを備える。
【0023】
燃料ガス供給部210は、燃料ガスFGを反応部100に向けて供給するための装置である。燃料ガス供給部210は、ガス源211と、流量調整部212とを備えている。ガス源211は、例えば、燃料ガスFGを貯蔵するガスボンベまたはガスタンク、もしくは、燃料ガスFGが供給される燃料ラインに接続される接続流路等により構成されている。また、流量調整部212は、例えば、流量調整弁により構成されており、ガス源211から供給される燃料ガスFGの流量を調整する。なお、燃料ガス供給部210により供給される燃料ガスFGは、例えば、メタン、エタン、プロパン、ブタン等の炭化水素を含んでいる。燃料ガスFGは、1種類の炭化水素を含むとしてもよいし、複数種類の炭化水素を含むとしてもよい。また、燃料ガスFGは、炭化水素以外のガス(例えば二酸化炭素)を含んでいてもよい。
【0024】
燃料ガス供給配管220は、燃料ガス供給部210と反応部100とを接続する配管であり、反応部100の一方の端部に接続されている。また、改質ガス排出配管230は、反応部100において生成された改質ガスRGを取り出すための配管であり、反応部100の他方の端部に接続されている。酸素供給部225は、酸素または酸素を含むガス(例えば、空気(AIR))を反応部100に向けて供給するための装置(例えば送風機)である。
【0025】
反応部100は、燃料ガスFGの改質のための改質反応を生じさせる部分である。反応部100は、酸素透過膜構造体110と、供給側接続管121と、排出側接続管122と、収容管130とを備える。酸素透過膜構造体110は、特許請求の範囲における改質構造体に相当する。
【0026】
収容管130は、略円筒形状の部材であり、例えばガラス管により構成されている。収容管130の内部空間には、酸素透過膜構造体110が収容されている。収容管130の内部空間における酸素透過膜構造体110の外周側の部分は、空気室S1を構成している。空気室S1には、上述の酸素供給部225により空気(AIR)が供給される。空気室S1は、特許請求の範囲における外周側空間に相当する。
【0027】
酸素透過膜構造体110は、略円筒形状の部材である。酸素透過膜構造体110の内部の空間は、燃料室S2を構成している。酸素透過膜構造体110の構成については、後に詳述する。燃料室S2は、特許請求の範囲における内周側空間に相当する。
【0028】
供給側接続管121は、酸素透過膜構造体110の一方の端部に接続されており、燃料ガス供給部210から燃料ガス供給配管220を介して供給された燃料ガスFGを、酸素透過膜構造体110内の燃料室S2へと導く。排出側接続管122は、酸素透過膜構造体110の他方の端部に接続されており、酸素透過膜構造体110内の燃料室S2から排出された改質ガスRGを、改質ガス排出配管230へと導く。供給側接続管121および排出側接続管122は、例えば、ジルコニアにより構成されている。なお、供給側接続管121と酸素透過膜構造体110とは、図示しないガスシール部を介して接続されており、同様に、排出側接続管122と酸素透過膜構造体110とも、ガスシール部を介して接続されている。
【0029】
図2から図4は、酸素透過膜構造体110の詳細構成を示す説明図である。図2には、図1のII−IIの位置における酸素透過膜構造体110のYZ断面構成が示されており、図3には、図2のIII−IIIの位置における酸素透過膜構造体110のXZ断面構成が示されており、図4には、図2のIV−IVの位置における酸素透過膜構造体110のXZ断面構成が示されている。上述したように、酸素透過膜構造体110は、略円筒形状の部材である。図2および図3に示すように、酸素透過膜構造体110は、支持体114と、改質触媒層112と、酸素透過膜111と、酸素解離触媒層113とから構成されている。支持体114は、酸素透過膜構造体110の最内周側(燃料室S2に面する側)に配置されており、そこから外周側(空気室S1に面する側)に向けて順に、改質触媒層112と、酸素透過膜111と、酸素解離触媒層113とが積層されている。
【0030】
支持体114は、多孔質の略円筒形状部材であり、酸素透過膜構造体110を構成する各層(改質触媒層112、酸素透過膜111、酸素解離触媒層113)を支持する。支持体114は、例えば、安定化ジルコニア等により形成される。特に、支持体114は、部分安定化ジルコニアと安定化ジルコニア(ScSZ、YSZ、CSZ等)と酸化マグネシウム(MgO)とスピネル(MgAl)との少なくとも1つの種類を含む材料により形成されていることが好ましい。これにより、化学的安定性が高く、支持体114と酸素透過膜111との熱膨張係数の相違を原因とする機械的クラックの発生を抑制することができる。また、酸素透過膜111がランタンクロマイトを含み、支持体114が部分安定化ジルコニアまたは安定化ジルコニアを含む場合、酸素透過膜111の形成材料と支持体114の形成材料との反応が抑制され、酸素透過膜構造体110の耐久性を高くすることができる。
【0031】
酸素解離触媒層113は、多孔質の略円筒形状部材であり、空気室S1に供給された空気中の酸素をイオン化させる反応(1/2O+2e→O2−)を促進する触媒層として機能する。酸素解離触媒層113は、例えば、La0.8Sr0.2MnOやLa0.8Sr0.2CrO3−Zのような複合酸化物等により形成される。
【0032】
酸素透過膜111は、酸化物イオン伝導性と電子伝導性または正孔伝導性とを有するガス不透過性の略円筒形状の膜である。なお、以下の説明では、電子伝導性と正孔伝導性とをまとめて電気伝導性という。酸素透過膜111は、酸素透過膜111により隔離された空気室S1と燃料室S2との間の酸素分圧差を駆動力として、高酸素分圧側の空気室S1から低酸素分圧側の燃料室S2へと酸素を選択的に透過させる。酸素透過膜111は、例えば、酸化物イオン伝導性を有する物質(以下、「酸化物イオン伝導体」という)と、電気伝導性を有する物質(以下、「電気伝導体」という)との混合物により形成される。なお、酸素透過膜111は、酸化物イオン伝導性と電気伝導性との両方を備える物質(以下、「混合伝導体」という)により形成されてもよい。また、酸素透過膜111は、酸化物イオン伝導体と電気伝導体との少なくとも一方と、混合伝導体との混合物により形成されてもよい。酸素透過膜111は、特許請求の範囲における酸素透過層に相当する。
【0033】
なお、酸化物イオン伝導体としては、例えば、安定化ジルコニア、部分安定化ジルコニア、セリア系固溶体等を用いることができる。電気伝導体としては、例えば、ペロブスカイト構造を有する酸化物、スピネル型結晶構造を有するフェライト、貴金属等の金属材料等を用いることができる。混合伝導体としては、例えば、LaGaO系化合物において、SrをLaサイトに添加すると共にFeをGaサイトに添加したペロブスカイト構造を有するLSGF系酸化物、SrCoO系化合物において、BaをSrサイトに添加すると共にFeをCoサイトに添加したペロブスカイト構造を有するBSCF系酸化物、層状ペロブスカイト構造を有する酸化物、蛍石型構造を有する酸化物、オキシアパタイト構造を有する酸化物、メリライト構造を有する酸化物等を用いることができる。また、特に、酸素透過膜111は、安定化ジルコニアとランタンクロマイト(La0.8Sr0.2CrO3−Z等)とを含む材料により形成されていることが好ましい。これにより、酸素透過膜111と他の層(改質触媒層112や酸素解離触媒層113等)の形成材料との反応を抑制しつつ、幅広い酸素分圧範囲下で安定的に酸素を透過させることができる。
【0034】
改質触媒層112は、多孔質の略円筒形状部材であり、燃料室S2から多孔質部材である支持体114内を通って供給された燃料ガスFG中の炭化水素と、酸素透過膜111を透過してきた酸素(酸化物イオン)との部分酸化改質反応(C+nO2−→nCO+(m/2)H+2ne)を促進する触媒層として機能する。改質触媒層112は、例えば、ペロブスカイト構造を有するLaCrO系酸化物であって、SrをLaサイトに添加すると共に、NiをCrサイトに添加した複合酸化物等により形成される。
【0035】
次に、酸素透過膜構造体110の各構成要素(酸素透過膜111、改質触媒層112、酸素解離触媒層113、支持体114)について、改質触媒層112の軸方向(X軸方向)における位置関係を説明する。以下、酸素透過膜構造体110における供給側接続管121側(X軸負方向側)を単に「供給側」といい、排出側接続管122側(X軸正方向側)を単に「排出側」という。供給側は、特許請求の範囲における軸方向の一方側に相当し、排出側は、特許請求の範囲における軸方向の他方側に相当する。
【0036】
図4に示すように、改質触媒層112の軸方向(X軸方向)の長さは、酸素解離触媒層113の軸方向の長さより短く、また、支持体114の軸方向の長さより短い。改質触媒層112の供給側の端部112Uは、支持体114の供給側の端部114Uより排出側に位置している。また、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、酸素透過膜111の供給側の端部111Uより排出側に位置している。なお、改質触媒層112の供給側の端部112Uより供給側では、酸素透過膜111と支持体114とが直接接している。これにより、改質触媒層112の供給側の端部112Uより供給側において酸素透過膜111と支持体114とが離間している構成に比べて、支持体114に対する酸素透過膜111の剥離を抑制することができる。改質触媒層112の供給側の端部112Uは、特許請求の範囲における第1の端部に相当し、支持体114の供給側の端部114Uは、特許請求の範囲における第2の端部に相当する。
【0037】
また、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uは、支持体114の供給側の端部114Uより排出側(X軸正方向側)に位置している。また、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向(X軸方向)において、第1の基準位置X1と同じ位置、または、該第1の基準位置X1より排出側に位置している。第1の基準位置X1は、酸素解離触媒層113の軸方向の全長(L1)の1%の長さΔL1(=L1×0.01)分だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側(X軸負方向側)の位置である。なお、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、第2の基準位置X2と同じ位置、または、該第2の基準位置X2より供給側に位置している。第2の基準位置X2は、酸素解離触媒層113の軸方向の全長(L1)の10%の長さΔL2(=L1×0.1)分だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより排出側の位置である。
【0038】
また、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向(X軸方向)において、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより排出側(X軸正方向側)に位置している。また、改質触媒層112の排出側の端部112Dは、支持体114の排出側の端部114Dより供給側(X軸負方向側)に位置している。改質触媒層112の排出側の端部112Dは、特許請求の範囲における第4の端部に相当し、支持体114の排出側の端部114Dは、特許請求の範囲における第5の端部に相当する。
【0039】
A−2.改質装置10の動作:
改質装置10において、空気室S1に空気が供給されると、空気室S1に面する酸素解離触媒層113の触媒効果により、空気中の酸素をイオン化させる反応(1/2O+2e→O2−)が起こる。この反応により生じた酸化物イオンは、酸化物イオン伝導性を有する酸素透過膜111内を燃料室S2側へと移動する(図3参照)。
【0040】
また、燃料ガス供給部210から燃料ガス供給配管220を介して反応部100に燃料ガスFGが供給されると、供給された燃料ガスFGは、供給側接続管121を介して酸素透過膜構造体110の内部の燃料室S2に進入する。燃料室S2に進入した燃料ガスFGが多孔質部材である支持体114の内部を通って改質触媒層112に至ると、改質触媒層112の触媒効果により、燃料ガスFG中の炭化水素と酸素透過膜111を透過してきた酸素(酸化物イオン)との部分酸化改質反応(C+nO2−→nCO+(m/2)H+2ne)が起こる。この反応により、炭化水素を含む燃料ガスFGが、水素と一酸化炭素とを含む改質ガスRGに改質される。なお、部分酸化改質反応により生じた電子は、電気伝導性を有する酸素透過膜111内を空気室S1側へと移動し、上述した酸素のイオン化反応に供される(図3参照)。
【0041】
反応部100において生成された改質ガスRGは、排出側接続管122を介して、改質ガス排出配管230から取り出される。取り出された改質ガスRG(水素および一酸化炭素を含むガス)は、例えば、燃料電池における発電に利用されたり、水素および一酸化炭素をさらに炭化水素転換することによって液体炭化水素燃料を製造するGTLに利用されたりする。なお、改質ガスRGに占める一酸化炭素の体積比率に対する水素の体積比率の比(以下、「H/CO比」という)が、1.9以上、2.1以下になるように、燃料室S2における部分酸化改質反応の反応量を制御することが好ましい。このようにすれば、改質ガスRGの組成を、安定的に、例えばFischer−Tropsch反応過程で合成する飽和炭化水素に必要となる原料ガスの水素−一酸化炭素比とほぼ同じ組成とすることができる。
【0042】
A−3.本実施形態の効果:
以上説明したように、本実施形態の酸素透過膜構造体110では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、支持体114の供給側の端部114Uより排出側に位置している。すなわち、支持体114(酸素透過膜構造体110)の供給側の端部114Uに近い部分(以下、「酸素透過膜構造体110の供給側の部分」という)には、改質触媒層が存在しない。そして、酸素透過膜構造体110の燃料室S2に、支持体114の供給側の端部114Uから燃料ガスFGを供給すると、酸素透過膜構造体110の供給側の部分で酸素分圧が低くなるが、該端部114Uに近い部分には、改質触媒層112が存在しない。そのため、改質触媒層112による炭化水素の直接分解の促進が抑制される。これにより、炭化水素の直接分解による炭素水素の減少を原因とする部分酸化改質反応の効率の低下を抑制することができる。
【0043】
また、本実施形態によれば、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向(X軸方向)において、第1の基準位置X1と同じ位置、または、該第1の基準位置X1より排出側に位置している。これにより、改質触媒層112の供給側の端部112Uが第1の基準位置X1より供給側に位置している構成に比べて、酸素解離触媒層113が存在しないために特に酸素分圧が低くなる部分(酸素透過膜構造体110の供給側の部分)について改質触媒層112による炭化水素の直接分解の促進が効果的に抑制される。なお、本実施形態では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、第2の基準位置X2と同じ位置、または、該第2の基準位置X2より供給側に位置している。このため、本実施形態によれば、改質触媒層112の供給側の端部112Uが第2の基準位置X2より排出側に位置している構成に比べて、改質触媒層112の軸方向(X軸方向)の形成範囲が広いため、改質触媒層112が少ないことを原因とする部分酸化改質反応の効率の低下を抑制することができる。
【0044】
また、本実施形態によれば、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向(X軸方向)において、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより排出側(X軸正方向側)に位置している。このため、本実施形態によれば、改質触媒層112の供給側の端部112Uが酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側(X軸負方向側)に位置している構成に比べて、酸素解離触媒層113が存在しないために特に酸素分圧が低くなる部分(酸素透過膜構造体110の供給側の部分)について改質触媒層112による炭化水素の直接分解の促進がさらに効果的に抑制される。
【0045】
図1および図4に示すように、支持体114の排出側の端部114Dに近い部分(以下、「酸素透過膜構造体110の排出側の部分」という)には、排出側接続管122が接続されており、この排出側接続管122の存在によって酸素透過膜111からの酸素透過が少ないために酸素分圧が低くなる。そこで、本実施形態によれば、改質触媒層112の排出側の端部112Dは、支持体114の排出側の端部114Dより供給側(X軸負方向側)に位置している。すなわち、酸素透過膜構造体110の排出側の部分には、改質触媒層112が存在しない。このため、酸素透過膜構造体110の排出側の部分において改質触媒層112による炭化水素の直接分解の促進が抑制される。
【0046】
A−4.性能評価:
後述するように、例えば改質触媒層112の供給側の端部112Uの位置等が互いに異なる酸素透過膜構造体を備える評価用の改質装置について、性能評価を行った。なお、評価用の改質装置は、以下に説明する酸素透過膜構造体110の構成(改質触媒層112の供給側の端部112Uの位置等)を除いて、残りの構成は上述した改質装置10と共通である。
【0047】
(酸素透過膜構造体の作製)
酸素透過膜用の原料粉末として、酸化ランタン(La)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、および酸化クロム(Cr)の粉末を準備し、これらの原料粉末を、金属元素の割合がLa0.8Sr0.2CrO3−zの組成式となる比率で秤量した。なお、組成式中のzは、酸素の欠損量を表す酸素不定比である(以下同様)。これらの原料粉末にエタノールを加え、セラミックスボールと樹脂ポットを用いて15時間、湿式混合粉砕を行なった。その後、湯煎乾燥してエタノールを除去し、得られた混合粉末を1500℃で24時間仮焼成して、仮焼粉末であるLa0.8Sr0.2CrO3−zの粉末を得た。
【0048】
さらに、市販のScSZ(Sc0.1Ce0.01Zr0.89)の粉末とLa0.8Sr0.2CrO3−zとの混合物におけるLa0.8Sr0.2CrO3−zの混合割合が30(vol%)となるように、上述した仮焼粉末を含む粉末をScSZに混合し、ScSZとLa0.8Sr0.2CrO3−zとの混合粉末を得た。
【0049】
また、支持体材料として、イットリア安定化型ジルコニア(YSZ)粉末に、セルロース系バインダーと、造孔材としてポリメタクリル酸メチル(PMMA)ビーズ粉末をYSZ粉末の体積に対し、60(vol%)が気孔となるように加え、十分に混合した後、水を添加して粘土状になるまで混合した。その粘土を、押出成形機に投入して、例えば外径12(mm)の円筒状(チューブ)の支持体用成形体を作製した。
【0050】
また、改質触媒層材料として、La0.8Sr0.2Cr0.85Ni0.153−zを作製した。原料としては、酸化ランタン(La)、炭酸ストロンチウム(SrCO)、酸化クロム(Cr)、酸化ニッケル(NiO)粉末を用いた。これらの原料粉末を金属元素の割合が、La0.8Sr0.2Cr0.85Ni0.153−zの組成式となる比率で秤量した。これらの原料粉末にエタノールを加え、セラミックスボールと樹脂ポットを用いて24時間、湿式混合粉砕を行なった。その後、湯煎乾燥してエタノールを除去し、得られた混合粉末を1500℃にて24時間仮焼成して、仮焼粉末であるLa0.8Sr0.2Cr0.85Ni0.153−zの粉末を得た。作製したLa0.8Sr0.2Cr0.85Ni0.153−zの粉末と、NiO粉末と市販のScSZの粉末を体積比率で、25:25:50(体積%)となる比率で秤量し、ポリビニルブチラールと、アミン系分散剤と、可塑剤とを、メチルエチルケトン及びエタノールを溶媒として混合し、改質触媒層形成用コーティング用スラリーを作製した。
【0051】
また、酸素透過膜を形成するために、前述の手法で作製したScSZとLa0.8Sr0.2CrO3−zとの混合粉末と、ポリビニルブチラールと、アミン系分散剤と、可塑剤とを、メチルエチルケトン及びエタノールを溶媒として混合し、酸素透過膜形成用コーティング用スラリーを作製した。
【0052】
次に、上述した支持体用成形体を所定の長さに切断し、改質触媒層を形成しない位置にマスキングを行った上で、上述した改質触媒層形成用コーティング用スラリーに浸漬させた後、ゆっくりと引き上げることで、支持体用成形体の表面に、改質触媒層前駆体を形成した。さらに、酸素透過膜を形成しない位置にマスキングを行った上で、酸素透過膜形成用コーティング用スラリーに浸漬させた後、ゆっくりと引き上げることで、支持体用成形体表面に形成された改質触媒層前駆体の表面に、酸素透過膜前駆体を形成した。その後、1500℃にて、支持体用成形体と改質触媒層前駆体と酸素透過膜前駆体とを同時焼成することで、改質触媒層112と酸素透過膜111と支持体114とを備える筒状焼結体を得た。
【0053】
次に、酸素解離触媒層材料として、市販のLa0.8Sr0.2MnOと市販のScSZ(Sc0.1Ce0.01Zr0.89)の粉末とを体積比率で70:30となるように混合し、ポリビニルブチラール、アミン系分散剤、可塑剤を添加して、メチルエチルケトン及びエタノールを溶媒として混合し、酸素解離触媒層形成用スラリーを作製した。上述した筒状焼結体の酸素解離触媒層を形成しない位置にマスキングを行った上で、酸素解離触媒層形成用スラリーに浸漬させた後、ゆっくりと引き上げることで、酸素解離触媒層前駆体を形成した。その後、1300℃にて焼付け処理を行うことにより、酸素解離触媒層113を作製した。以上の方法により、支持体114と改質触媒層112と酸素透過膜111と酸素解離触媒層113とを備える酸素透過膜構造体110を作製した。本評価では、軸方向の長さが160(mm)の酸素透過膜構造体110と、軸方向の長さが300(mm)の酸素透過膜構造体110とを作製した。
【0054】
(評価方法)
図5は、性能評価結果を示す説明図である。本性能評価では、評価用の改質装置において、酸素透過膜構造体110の改質触媒層112側に燃料ガスFGとしてのメタンを供給すると共に、酸素透過膜構造体110の酸素解離触媒層113側に空気を供給することにより、酸素透過膜構造体110の改質触媒層112の表面で改質反応をおこして改質ガスRGを生成した。なお、このとき、メタンの供給量を一定(例えば30(sccm))とした。また、酸素透過膜111を透過する酸素の透過速度は、酸素透過膜111の膜厚で調整し、約15(sccm)になるようにした。そして、改質ガス排出配管230から取り出される改質ガスRGの組成を、四重極質量分析計(不図示)を使用して測定した。酸素通過速度は、測定された改質ガスRGの組成とメタンの流量と透過面積とから下記の式によって算出した。ここで、[A]は、Aの濃度を表すものとする。
酸素通過速度=「メタンの流量」×{([CO]+[HO])/2+[CO]}/100/「透過面積」
また、測定された改質ガスRGの組成から、上述したH/CO比を算出した。また、改質後の酸素透過膜構造体110への炭素析出量は、各酸素透過膜構造体110を燃焼させたときに発生した二酸化炭素の量と一酸化炭素の量とから求めた。本評価では、炭素析出量が0.010(wt%)以上の場合に、炭素析出有りと評価した。
【0055】
(評価結果)
<実験1>
実験1における実験1〜6では、酸素解離触媒層113の供給側の端部113U(支持体114の供給側の端部114U)に対する改質触媒層112の供給側の端部112Uの位置(以下、単に「改質触媒層112の供給側の相対位置」という)が互いに異なる。該改質触媒層112の供給側の相対位置は、改質触媒層112の供給側の端部112Uが、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uに対して供給側(X軸負方向側)に位置している場合に正の値を示すものとする。なお、実験1〜6では、軸方向(X軸方向)の長さが160(mm)の酸素透過膜構造体110を用いており、酸素解離触媒層113の軸方向の長さは100(mm)であり、改質触媒層112の径方向の厚さは、50(μm)である。
【0056】
実施例1では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向(X軸方向)において、1(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより排出側(X軸正方向側)に位置している。図5に示すように、実施例1の評価結果では、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行した。また、H/CO比は、1.9以上、2.1以下であるため、良好な改質特性(部分酸化改質反応の効率)が得られた。また、実験例2では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uと同じ位置に位置している。図5に示すように、実施例2の評価結果では、実施例1と同様、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行し、H/CO比は、1.9以上、2.1以下であるため、良好な改質特性が得られた。また、実験例3では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、1(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側(X軸負方向側)に位置している。図5に示すように、実施例3の評価結果では、実施例1,2と同様、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行し、H/CO比は、1.9以上、2.1以下であるため、良好な改質特性が得られた。
【0057】
次に、実験例4では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、2(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側に位置している。図5に示すように、実施例4の評価結果では、実施例1〜3と同様、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行したが、H/CO比は、2.3であり、実施例1〜3に対して改質特性が若干悪化した。さらに、実験例5では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、3(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側に位置している。図5に示すように、実施例5の評価結果では、実施例1〜3と同様、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行したが、H/CO比は、2.9であり、実施例4より改質特性がさらに悪化した。実験例2〜5の評価結果から、改質触媒層112が酸素解離触媒層113に対して供給側にはみ出す長さが長いほど、改質特性が悪化し、若干、炭素析出量も増加することが分かる。
【0058】
一方、実験例6では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、15(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側に位置している。これは、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、支持体114の供給側の端部114Uと同じ位置に位置していることを意味する。図5に示すように、実験例6の評価結果では、炭素析出が有り、また、H/CO比は、3.8であり、実施例1〜5に比べて改質特性がかなり悪化した。このことは、改質触媒層112が支持体114の供給側の端部114Uまで形成されている場合、改質触媒層112によって炭化水素の直接分解が促進され、その結果、改質特性が悪化することを意味する。
【0059】
<実験2>
実験2における実験7〜11では、実験1と同様、改質触媒層112の供給側の相対位置が互いに異なる。ただし、実験7〜11では、実験1とは異なり、軸方向(X軸方向)の長さが300(mm)の酸素透過膜構造体110を用いており、酸素解離触媒層113の軸方向の長さは200(mm)である。なお、改質触媒層112の径方向の厚さは、実験1と同様、50(μm)である。
【0060】
実験例7では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uと同じ位置に位置している。図5に示すように、実施例7の評価結果では、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行し、H/CO比は、1.9以上、2.1以下であるため、良好な改質特性が得られた。また、実験例8では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、1(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側に位置している。図5に示すように、実施例8の評価結果では、実施例7と同様、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行し、H/CO比は、1.9以上、2.1以下であるため、良好な改質特性が得られた。また、実験例9では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、2(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側に位置している。図5に示すように、実施例9の評価結果では、実施例7,8と同様、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行し、H/CO比は、1.9以上、2.1以下であるため、良好な改質特性が得られた。すなわち、実験2では、改質触媒層112が酸素解離触媒層113に対して供給側にはみ出す長さが2(mm)以下であれば、炭素析出は無く、良好な改質特性が得られることが分かる。
【0061】
次に、実験例10では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、4(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側に位置している。図5に示すように、実施例10の評価結果では、実施例7〜9と同様、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行したが、H/CO比は、2.3であり、実施例7〜9に対して改質特性が若干悪化した。
【0062】
一方、実験例11では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、15(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側に位置している。これは、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、支持体114の供給側の端部114Uと同じ位置に位置していることを意味する。図5に示すように、実験例11の評価結果では、炭素析出が有り、また、H/CO比は、3.9であり、実施例7〜10に比べて改質特性がかなり悪化した。このことは、改質触媒層112が支持体114の供給側の端部114Uまで形成されている場合、改質触媒層112によって炭化水素の直接分解が促進され、その結果、改質特性が悪化することを意味する。
【0063】
また、実験1および実験2の評価結果から、酸素透過膜構造体110の長さに関係なく、改質触媒層112の供給側の端部112Uが、支持体114の供給側の端部114Uより排出側に位置することによって、炭化水素の直接分解による炭素水素の減少を原因とする部分酸化改質反応の効率の低下を抑制できることが分かる。
【0064】
<実験3>
実験3における実験12,13では、改質触媒層112の有無の点で異なる。なお、実験12,13では、実験1と同様、軸方向の長さが160(mm)の酸素透過膜構造体110を用いており、酸素解離触媒層113の軸方向の長さは100(mm)である。ただし、実験例12では、改質触媒層112の径方向の厚さは、100(μm)である。
【0065】
実施例12では、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、軸方向において、1(mm)だけ、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより排出側に位置している。図5に示すように、実施例12の評価結果では、炭素析出は無く、安定して部分酸化改質反応が進行したが、H/CO比は、2.2であり、例えば上記実施例1に対して改質特性が若干悪化した。これは、改質触媒層112の厚さが厚いと、酸素透過性が低下し、炭化水素の直接分解による炭素水素の減少を原因とする部分酸化改質反応の効率が低下することを意味する。なお、改質触媒層112の厚さは、2(μm)以上、50(μm)以下であることが好ましい。
【0066】
一方、実施例13では、改質触媒層112が形成されていない。図5に示すように、実施例13の評価結果では、改質触媒層112が形成されていないため、酸素透過量が少なく、酸素分圧が低い。また、炭素析出は無い。このことは、酸素分圧が低い状態でも、改質触媒層112が形成されていなければ、炭化水素の直接分解が促進されないことを意味する。
【0067】
B.変形例:
本明細書で開示される技術は、上述の実施形態に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の形態に変形することができ、例えば次のような変形も可能である。
【0068】
上記実施形態における改質装置10の構成は、あくまで一例であり、種々変形可能である。例えば、上記実施形態では、酸素透過膜構造体110は、支持体114と、改質触媒層112と、酸素透過膜111と、酸素解離触媒層113とから構成されるとしているが、酸素透過膜構造体110は、支持体114を備えない形態としてもよいし、酸素解離触媒層113を備えない形態としてもよい。例えば、酸素透過膜構造体110は、独立の支持体を備えずに、酸素透過膜111(酸素透過層)が支持体の機能を備える形態、改質触媒層112が支持体の機能を備える形態(支持体の軸方向の端部には改質触媒層の形成材料が含まれておらず、該端部以外の部分に改質触媒層の形成材料が含まれている形態を含む)や、酸素解離触媒層113が支持体の機能を備える形態でもよい。
【0069】
また、上記実施形態では、酸素透過膜構造体110は、略円筒形状の部材であるとしているが、酸素透過膜構造体110の形状は様々変形可能であり、例えば角筒状であってもよい。要するに、酸素透過膜構造体110は、筒状であればよく、より具体的には、酸素透過膜構造体110の構成要素(酸素透過膜111、改質触媒層112、酸素解離触媒層113等)の少なくとも1つが筒状であればよい。また、上記実施形態では、酸素透過膜111は略円筒形状の部材であるとしているが、酸素透過膜111の形状は種々変形可能であり、例えば平板形状であってもよい。また、上記実施形態では、酸素解離触媒層113は、多孔質の略円筒形状部材であるとしているが、酸素解離触媒層113の形状は種々変形可能であり、例えば平板形状であってもよい。また、上記実施形態では、改質触媒層112は、多孔質の略円筒形状部材であるとしているが、改質触媒層112の形状は種々変形可能であり、例えば平板形状であってもよい。
【0070】
また、上記実施形態では、酸素透過膜111(酸素透過膜構造体110)の内周側が燃料室S2として利用され、外周側が空気室S1として利用されているが、反対に、酸素透過膜111の内周側が空気室S1として利用され、外周側が燃料室S2として利用されるとしてもよい。また、改質装置10において、複数の酸素透過膜111を積層し、積層された各酸素透過膜111の間に、空気室S1と燃料室S2とを交互に設ける構成を採用することもできる。また、中間層(例えば反応防止層)が、酸素透過膜111と酸素解離触媒層113との間や、改質触媒層112と酸素透過膜111との間に介在する形態でもよい。
【0071】
また、上記実施形態では、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uは、軸方向(X軸方向)において、支持体114の供給側の端部114Uより排出側に位置しているとしているが、支持体114の供給側の端部114Uと同じ位置であるとしてもよい。また、上記実施形態において、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、第1の基準位置X1より供給側に位置しているとしてもよい。また、上記実施形態において、改質触媒層112の供給側の端部112Uは、酸素解離触媒層113の供給側の端部113Uより供給側(X軸負方向側)に位置しているとしてもよい。また、上記実施形態において、改質触媒層112の排出側の端部112Dは、軸方向において、支持体114の排出側の端部114Dと同じ位置に位置しているとしてもよい。
【0072】
また、上記実施形態における各部材を構成する材料は、あくまで例示であり、各部材が他の材料により構成されていてもよい。
【0073】
また、上記実施形態では、空気室S1に空気が供給されるとしているが、酸素を含有する気体であれば空気以外の気体が供給されるとしてもよい。
【符号の説明】
【0074】
10:改質装置 100:反応部 110:酸素透過膜構造体 111:酸素透過膜 111U:端部 112:改質触媒層 112D:端部 112U:端部 113:酸素解離触媒層 113U:端部 114:支持体 114D:端部 114U:端部 121:供給側接続管 122:排出側接続管 130:収容管 210:燃料ガス供給部 211:ガス源 212:流量調整部 220:燃料ガス供給配管 225:酸素供給部 230:改質ガス排出配管 FG:燃料ガス RG:改質ガス S1:空気室 S2:燃料室 X1:第1の基準位置 X2:第2の基準位置
図1
図2
図3
図4
図5