【文献】
小西良弘著,マイクロ波回路の基礎とその応用 −基礎知識から新しい応用まで−,総合電子出版社,1990年,pp.45-47
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記層間ビア(7b)は、前記層間伝送線路から前記層間ビアの方向へ漏洩し前記層間ビアと前記グランドプレーンとの間を進む漏洩電界である第1電界と、前記層間伝送線路から前記層間ビアの方向へ漏洩し前記層間ビア内へ進入した第2電界とが、打消し合うような寸法に構成されている、
請求項5に記載の高周波伝送線路。
前記層間ビアは、前記信号ビアの中心及び前記層間ビアの中心を通る断面において、高さが前記層間伝送線路を伝搬する前記高周波信号の管内波長の1/4で、且つ、幅が前記管内波長の1/2となるように構成されている、
請求項6に記載の高周波伝送線路。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の実施例1の高周波伝送線路を示す平面図である。
【
図2】
図1においてII−II線で切断した断面図である。
【
図4】シングルモード伝送によって信号が伝搬する場合における、高周波伝送線路での電界分布を示す垂直断面図である。
【
図5】マルチモード干渉伝送によって信号が伝搬する場合における、高周波伝送線路での電界分布を示す垂直断面図である。
【
図6】同軸線路におけるシングルモード伝送及びマルチモード干渉伝送の周波数に対する伝送損失を示す図である。
【
図7】第1実施形態の実施例2の高周波伝送線路を示す平面図である。
【
図8】
図7においてVIII−VIII線で切断した断面図である。
【
図9】第1実施形態の実施例3の高周波伝送線路を示す平面図である。
【
図10】第1実施形態の実施例4の高周波伝送線路を示す平面図である。
【
図11】第1実施形態の実施例5の高周波伝送線路を示す平面図である。
【
図12】
図11においてXII−XII線で切断した断面図である。
【
図13】信号ビアとグランドビア間の基板内に亀裂が生じて、信号ビアとグランドビアとが導通する様子を説明する説明図である。
【
図14】第2実施形態の実施例1の高周波伝送線路の表面を示す平面図である。
【
図15】第2実施形態の実施例1の高周波伝送線路の内面を示す平面図である。
【
図16】
図14においてXVI−XVI線で切断した断面図である。
【
図17】内層ランドを備える高周波伝送線路を信号が伝搬した場合における、高周波伝送線路での電界分布を示す垂直断面図である。
【
図18】内層ランドを備えない高周波伝送線路を信号が伝搬した場合における、高周波伝送線路での電界分布を示す垂直断面図である。
【
図19】内層ランドを備える高周波伝送線路及び内層ランドを備えない高周波伝送線路での周波数に対する伝送損失をそれぞれ示す図である。
【
図20】第2実施形態の実施例2の高周波伝送線路を示す鉛直断面図である。
【
図21】第2実施形態の実施例3の高周波伝送線路を示す鉛直断面図である。
【
図22】第3実施形態の実施例1の高周波伝送線路を示す平面図である。
【
図23】
図22においてXXIII−XXIII線で切断した断面図である。
【
図24】従来の高周波伝送線路の一例の平面図である。
【
図25】従来の高周波伝送線路の一例の鉛直断面図である。
【
図26】従来の高周波伝送線路の他の一例の平面図である。
【
図27】従来の高周波伝送線路の他の一例の鉛直断面図である。
【
図28】第3実施形態の高周波伝送線路での電界分布を示す鉛直断面図である。
【
図29】比較例の高周波伝送線路での電界分布を示す鉛直断面図である。
【
図30】比較例及び第3実施形態の高周波伝送線路での周波数に対する伝送損失を示す図である。
【
図31】第3実施形態における第2実施例の高周波伝送路の平面図である。
【
図32】第4実施形態における高周波伝送線路での電界分布を示す鉛直断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、発明を実施するための形態を説明する。
<1.第1実施形態>
<1−1.実施例1>
<1−1−1.構成>
本開示の高周波伝送線路は、高周波信号、特に70GHz以上の周波数の高周波信号の伝送に適用されることを想定している。詳しくは、本開示の高周波伝送線路は、アンテナの給電に用いられることを想定している。
【0012】
まず、第1実施形態における実施例1の高周波伝送線路10の構成について、
図1及び
図2を参照して説明する。高周波伝送線路10は、多層基板2と、信号線路3,4と、信号ビア5と、6個の貫通ビア7と、を備える。
【0013】
多層基板2は、2層の誘電体層L1,L2と、誘電体層L1,L2のそれぞれを挟む3層のパターン層P1〜P3と、を有する。以下では、パターン層P1〜P3のうち、多層基板2の外面に配置されたパターン層P1,P3を外層と称し、誘電体層L1とL2との間に配置されたパターン層P2を中間層と称する。
【0014】
外層P1,P3には、それぞれ高周波信号を伝送する導波路となる信号線路3,4が形成されている。信号線路3は外層P1に形成された導体パターンであり、信号線路4は外層P3に形成された導体パターンである。信号線路3,4は、例えば、エッチングによって形成された銅箔が用いられる。信号線路3,4の先端は、2層の誘電体層L1,L2を挟んで対向する位置に配置されており、多層基板2を貫通する信号ビア5を介して相互に接続されている。信号ビア5は、金属製の導体である。
【0015】
中間層P2は、グランドプレーン6が形成されている。グランドプレーン6は、銅箔等を用いて中間層P2に形成された導体パターンであり、接地電位に接続されている。グランドプレーン6は、誘電体層L1と誘電体層L2とが当接する面のうち、除去領域61以外の全体を覆うように形成されている。除去領域61は、信号ビアを中心とする円形の領域である。つまり、信号ビア5は、グランドプレーン6とは非導通となるように形成されている。
【0016】
6個の貫通ビア7は、多層基板2を積層方向に貫通し、グランドプレーン6と導通する金属製の導体である。つまり、貫通ビア7はグランドビアである。以下では、貫通ビア7をグランドビア7とも称する。本実施形態では、貫通ビア7のビア径は、信号ビア5のビア径r1と等しい。6個の貫通ビア7は、信号ビア5を中心とする円C上に、貫通ビア7のスルーホールが外接するように設けられている。そして、信号ビア5と6個の貫通ビア7との間には、積層方向に高周波信号を伝送する層間伝送線路62が形成される。層間伝送線路62は、積層方向に垂直な断面が2つの同心円で囲まれた円環状、いわゆるドーナツ形状になっている。
【0017】
円Cは、除去領域61の外周縁によって形成される円である。円Cの半径は、信号ビア5を内部導体とする同軸線路において、外部導体が配置されるべき位置が円C上に一致するように設定される。これにより、高周波伝送線路10は、信号ビア5を内部導体、6個の貫通ビア7を外部導体とした疑似的な同軸線路を備える。円Cの半径は、層間伝送線路62を伝搬する高周波信号の周波数、層間伝送線路62のインピーダンス、誘電体層L1,L2の誘電率等から求められる。
【0018】
<1−1−2.伝送モード>
次に、同軸線路の伝送モードについて説明する。
図3に、同軸線路の模式図を示す。
図3に示すように、内部導体の外径をd、外部導体の内径をD、内部導体と外部導体の間の誘電体の比誘電率をεr、光速をcとした場合、同軸線路の限界周波数fcは、次の式(1)により算出される。
【0020】
限界周波数fc以下の周波数の信号は、基底モードのTEMモードだけで信号を伝送するシングルモード伝送によって、同軸線路を伝搬する。
図4は、高周波信号がシングルモード伝送によって層間伝送線路を伝搬した場合の電界強度分布を示す。
図4に示すように、高周波信号の周波数を限界周波数fc以下にした場合、信号ビアの近傍に積層方向に連続して電界強度の強い強領域が形成される。そのため、導波路と層間伝送線路との接続部分、詳しくは層間伝送線路から信号線路への出力部分での伝送損失が抑制される。
【0021】
ただし、式(1)に示すように、限界周波数fcを高くするためには、外径d又は内径Dを小さくする必要がある。内径D、つまり、信号ビアの側壁とグランドビアの側壁とのビア間距離Rdは、信号ビアとグランドビアが導通しないように、信頼性の観点から、ある程度の長さにする必要がある。よって、限界周波数fcを高くするためには、ビア間距離Rdを所定の値にして、外径d、つまり、信号ビアのビア径r1を小さくすることになる。77GHzの高周波信号を伝送する場合は、限界周波数fcを77GHz帯の最大周波数である81GHz以上にする必要がある。限界周波数fcを81GHz以上にするためには、ビア径r1を0.2mm以下にする必要がある。
図4に示す例では、ビア径r1を0.15mmに形成している。
【0022】
しかしながら、ビア径r1が小さすぎると、高周波伝送線路の量産が困難になる。高周波伝送線の量産を可能にするためには、ビア径r1を0.3mm以上にすることが望ましい。つまり、77GHzの高周波信号の伝送に用いる高周波伝送線路を量産可能な大きさにすると、層間伝送線路はシングルモード伝送の条件を満たさなくなり、層間伝送線路に内には、基底モードだけでなく高次モードが複数励振される。そして、高周波信号は、励振された複数のモード間で共振をしながら層間伝送線路を伝搬する。つまり、高周波信号は、高周波信号は多モード干渉伝送によって層間伝送線路を伝搬する。
【0023】
高周波信号が多モード干渉伝送によって層間伝送線路を伝搬すると、伝送方向に電界強度の強い強領域と、強領域よりも電界強度の弱い弱領域とが形成される。
図5は、ビア径r1を0.7mmに形成し、高周波信号が多モード干渉伝送によって層間伝送線路を伝送した場合の電界強度分布を示す。
図5に示すように、層間伝送線路には、伝送方向に強領域と弱領域とが交互に形成されている。層間伝送線路の出力部分に弱領域が形成されると伝送損失が増大するが、出力部分に強領域が形成されると伝送損失が抑制される。そして、多モード干渉伝送では、層間伝送線路の長さや幅を調整することで、信号線路から層間伝送線路への入力部分のモードを、層間伝送線路から信号線路への出力部分に再現することができる。つまり、層間伝送線路から信号線路への出力部分に強領域を形成することができる。
【0024】
よって、本実施形態では、高周波伝送線路10の信号ビア5のビア径r1を、量産可能な寸法、すなわち、多モード干渉伝送によって伝搬するような寸法に形成した。さらに、本実施形態では、高周波信号が、電界の強領域において層間伝送線路62から信号線路4へ導入されるように、多層基板2の基板厚Ho、ビア間距離Rd、及びビア径r1の少なくとも一つを設計した。以下、高周波信号が、電界の強領域において層間伝送線路62から信号線路4へ導入されるように、多層基板2の基板厚Ho、ビア間距離Rd、及びビア径r1の少なくとも一つを調整することを、電界分布調整と称する。
【0025】
<1−1−3.解析結果>
図6に、ビア径r1を0.15mmにした場合と、ビア径を0.7mmにし、電界分布調整した場合における周波数に対する伝送損失を示す。
図6に示すように、ビア径r1を0.15mmにした場合、周波数が70GHz〜80GHzの範囲では、ビア径を0.7mmにした場合よりも伝送損失が低くなっているが、周波数が80GHzを超えた辺りから、伝送損失が急激に大きくなっている。
【0026】
これは、ビア径を0.15mmにした場合、周波数が70GHz〜80GHzの範囲では、層間伝送線路がシングルモード条件を満たしているのに対して、周波数が80GHzを超えた辺りから、層間伝送線路がシングルモード条件を満たさなくなっていることを示している。すなわち、ビア径r1を0.15mmにした場合、周波数が80GHzを超えた辺りから、高周波信号は多モード干渉伝送によって層間伝送線路を伝搬しているが、電界分布調整されていないため、伝送損失が急激に大きくなっている。一方、ビア径を0.7mmにして電界分布調整した場合は、周波数70GHz〜85GHzの範囲で、伝送損失が略1dB以下に抑制されており、良好な伝送損失が実現されている。
【0027】
<1−2.実施例2>
次に、
図7及び
図8に、第1実施形態における実施例2の高周波伝送線路10aを示す。高周波伝送線路10aは、多層基板2aと、信号線路3,4と、信号ビア5と、6個の貫通ビア7と、2個の層間ビア7aと、を備える。
【0028】
多層基板2aは、3層の誘電体層L1〜L3と、誘電体層L1〜L3のそれぞれを挟む4層のパターン層P1〜P4と、を備える。以下では、パターン層P1〜P4のうち、多層基板2aの外面に配置されたパターン層P1,P4を外層と称し、それ以外のパターン層P2,P3を中間層と称する。
【0029】
外層P1,P4には、信号線路3,4が形成されている。そして、中間層P2,P3には、それぞれグランドプレーン6が形成されている。さらに、多層基板2aには、2個の層間ビア7aが形成されている。2個の層間ビア7aは、3層の誘電体層L1〜L2のうち、信号線路3,4が形成された誘電体層を除いた誘電体層L2を貫通し、中間層P2,P3に形成された2つのグランドプレーン6を相互に導通させるように形成されている。つまり、層間ビア7aは、層内に形成されたグランドビアである。よって、高周波伝送線路10aのグランドビアは、6個の貫通ビア7と2個の層間ビア7aとを含む。以下では、層間ビア7aを、グランドビア7aとも称する。
【0030】
また、積層方向において、2個の層間ビア7aのうちの1個は、信号線路3に重なる位置に配置されており、残りの1個は信号線路4に重なる位置に配置されている。つまり、層間ビア7aは、外層P1,P4に信号線路3,4が形成されているために、多層基板2aを貫通させることができない位置に形成されている。
【0031】
よって、高周波伝送線路10aは、高周波伝送線路10の構成に、グランドビアとして2個の層間ビア7aを追加したことにより、高周波伝送線路10よりもさらに伝送損失を低減させることができる。
【0032】
高周波伝送線路10aは、一例として、基板厚Hoを1mm、信号ビア5の中心から信号線路3,4の端までの長さLlを4.5mm、誘電体層L1,L2,L3の厚さをそれぞれ0.1mm,0.8mm,0.1mm、信号ビア5、貫通ビア7及び層間ビア7aのビア径r1を0.7mm、信号ビア5及び貫通ビア7のランド径r2を0.95mm、信号線路3,4の幅を0.3mmとするとよい。
【0033】
なお、積層方向において、2個の層間ビア7aのうち信号線路3,4に重なる位置に配置されている層間ビア7aは、中間層と信号線路3,4が配線されていない側の外層を貫通し、多層基板2aの2つの外面のうちの一方に露出していてもよい。すなわち、2個の層間ビア7aのうち信号線路3に重なる位置に配置されている層間ビア7aは、誘電体層L2,L3を貫通し、外層P4に露出していてもよい。また、2個の層間ビア7aのうち信号線路4に重なる位置に配置されている層間ビア7aは、誘電体層L2,L1を貫通し、外層P1に露出していてもよい。
【0034】
<1−3.実施例3>
次に、
図9に、第1実施形態における実施例3の高周波伝送線路10bを示す。高周波伝送線路10bは、多層基板2bと、信号線路3,4と、信号ビア5と、8個の層間ビア7aと、を備える。つまり、高周波伝送線路10bは、高周波伝送線路10aと比べて、6個の貫通ビア7の代わりに6個の層間ビア7aを備え、グランドビアが全て層間ビア7aである点で異なる。
【0035】
<1−4.実施例4>
次に、
図10に、第1実施形態における実施例4の高周波伝送線路10cを示す。高周波伝送線路10cは、多層基板2cと、信号線路3,4と、信号ビア5と、4個の貫通ビア7と、2個の層間ビア7aと、を備える。つまり、高周波伝送線路10cは、高周波伝送線路10aと比べて貫通ビア7の数が2個少ない。グランドビアの数は、高周波信号を層間伝送線路62内に十分に閉じ込めることができる数であればよく、限定されるものではない。
【0036】
<1−5.実施例5>
次に、
図11及び
図12に、第1実施形態における実施例5の高周波伝送線路10dを示す。高周波伝送線路10dは、多層基板2dと、信号線路3a,3b,4と、信号ビア5と、6個の貫通ビア7と、2個の層間ビア7aと、を備える。多層基板2dは、多層基板2aと同様の構成である。つまり、高周波伝送線路10dは、高周波伝送線路10aと比べて、信号線路3の代わりに信号線路3aと信号線路3bとを備える点で異なる。
【0037】
信号線路3a,3bは、外層P1に形成された導体パターンである。積層方向において、信号線路3bは、信号線路4と重なる位置に配置されている。信号線路3aと信号線路3bは、信号ビア5に接続されており、信号ビア5を介して直線上に配置されている。これにより、信号線路4から層間伝送線路62へ入力された高周波信号を、信号線路3aと信号線路3bとに分岐して出力させることができる。
【0038】
<1−6.効果>
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果が得られる。
(1)ビア径r1は、層間伝送線路62において、高周波信号が多モード干渉伝送によって伝搬するような寸法に形成されている。すなわち、ビア径r1は、層間伝送線路62において、高周波信号がシングルモード伝送によって伝搬するような寸法と比べて大きな寸法に形成されている。そのため、高周波伝送線路10,10a〜10dを量産化することができる。そして、高周波伝送線路10,10a〜10dの基板厚Ho、ビア間距離Rd、及びビア径r1の少なくとも一つは、高周波信号が、電界強度の強い強領域において層間伝送線路62から信号線路3又は信号線路4へ導入されるように、設計されている。これにより、高周波信号が層間伝送線路62を伝搬する際における伝送損失が抑制される。したがって、量産化可能で且つ伝送損失を抑制可能な高周波伝送線路10,10a〜10dを実現することができる。
【0039】
(2)実施例2〜4の高周波伝送線路10a〜10dは、信号線路3,4の下側又は上側の位置に配置された層間ビア7aを備える。これにより、高周波伝送線路10a〜10dは、高周波信号をより効果的に層間伝送線路62内に閉じ込めることができ、伝送損失をより抑制することができる。
【0040】
<2.第2実施形態>
<2−1.実施例1>
<2−1−1.第1実施形態との相違点>
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態の各実施例と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0041】
第2実施形態の高周波伝送線路は、層間伝送線路の幅を狭くするような複数の内層ランドを備える点で、第1実施形態の各実施例と相違する。
第1実施形態において、基板厚Ho、ビア間距離Rd、及びビア径r1の少なくとも1つを調整して、電界分布調整することを説明した。ここで、基板厚Hoは、適用する機器の制約を受け、自由に調整できないことがある。そこで、基板厚Hoは一定とし、ビア間距離Rdを短くして電界分布調整することが考えられる。ビア間距離Rdを短くすると、信号ビア5とグランドビア7,7aとの間で、高周波信号の電界が分布できる領域が狭くなり、層間伝送線路62において励振される高次モードの数が減少する。そのため、層間伝送線路62の出力部分に電界分布の強領域を形成しやすくなる。
【0042】
しかしながら、
図13に示すように、ビア間距離Rdを短くすると、信号ビア5とグランドビア7,7aとが導通する可能性がある。グランドビア7,7aは、ドリルで誘電体層に孔を開け、その孔にめっき処理して形成する。ここで、ドリルで誘電体層に孔を開ける際に誘電体層に亀裂C1,C2が生じ、亀裂C1,C2にめっきが溶け込むことがある。ビア間距離Rdが短いと、亀裂C1,C2に溶け込んだめっきによって信号ビア5とグランドビア7,7aが導通することがある。よって、ビア間距離Rdは、信頼性の観点から一定の距離以上にする必要がある。一例として、ビア間距離Rdは0.45mm以上にすることが望ましい。
【0043】
そこで、第2実施形態の高周波伝送路は、複数の内層ランドを備える。複数の内層ランドによって、高周波伝送線路に、信号ビア5の側壁及びグランドビア7,7aの側壁の少なくとも一方よりも層間伝送線路62の側へ突出した疑似的な壁が形成され、層間伝送線路62の幅が狭くなる。
【0044】
第2実施形態における実施例1の高周波伝送線路10eの構成について、
図14〜16を参照して説明する。高周波伝送線路10eは、多層基板2eと、信号線路3,4と、信号ビア5と、6個の貫通ビア7と、2個の層間ビア7aと、3個の第1内層ランド6aと、3個の第2内層ランド6bと、を備える。
【0045】
多層基板2eは、4層の誘電体層L1〜L4と、誘電体層L1〜L4のそれぞれを挟む5層のパターン層P1〜P5と、を備える。以下では、パターン層P1〜P5のうち、多層基板2eの外面に配置されたパターン層P1,P5を外層と称し、それ以外のパターン層P2〜P4を中間層と称する。
【0046】
外層P1,P5には、信号線路3,4が形成されている。そして、中間層P2〜P4には、それぞれグランドプレーン6と、第1内層ランド6aと、第2内層ランド6bと、が形成されている。つまり、中間層P2〜P4のそれぞれにおいて、導体パターンの一部がグランドプレーン6となり、導体パターンの他の一部が第1内層ランド6aとなり、導体パターンの別の他の一部が第2内層ランド6bとなっている。
【0047】
第1内層ランド6aは、8個のグランドビア7,7aに接続され、グランドプレーン6と一体で形成された導体パターンである。
図15に示すように、第1内層ランド6aは、8個のグランドビア7,7aの信号ビア5と対向する側壁に接続され、信号ビア5に向かって突出した円環状の導体パターンである。また、第2内層ランド6bは、信号ビア5に接続され、信号ビア5の側壁から8個のグランドビア7,7aへ向かって突出した円環状の導体パターンである。第1内層ランド6a及び第2内層ランド6bのいずれも、信号ビア5の中心を中心とした2つの同心円で囲まれた円環状の導体パターンである。
【0048】
また、3個の第1内層ランド6a及び3個の第2内層ランド6bは、積層方向において、層間伝送線路62を伝搬する高周波信号の管内波長λgの1/4以下の間隔で設けられている。すなわち、誘電体層L2,L3の厚さは、λg/4以下になっている。これにより、
図16に示すように、3個の第1内層ランド6aの先端で、8個のグランドビア7,7aの側壁よりも信号ビア5に近づいた疑似壁面が形成される。また、3個の第2内層ランド6bの先端で、信号ビア5の側壁よりもグランドビア7,7aに近づいた疑似壁面が形成される。そして、形成された2つの疑似壁面の間に、ビア間距離Rdよりも幅が狭い層間伝送線路62が形成される。
【0049】
<2−1−2.解析結果>
次に、内層ランドを備える高周波伝送線路10eの鉛直断面における電界分布の解析結果を
図17に示す。また、比較例として、高周波伝送線路10eから第1内層ランド6aと第2内層ランド6bを除いた内層ランドを備えない高周波伝送線路の鉛直断面における電界分布の解析結果を
図18に示す。
図18に示すように、高周波伝送線路10eは、比較例と比べて、層間伝送線路62における電界分布の広がりが狭くなっていることがわかる。また、高周波伝送線路10eと比較例の周波数に対する伝送損失を
図19に示す。
図19に示すように、周波数74GHz〜82GHzの範囲では、高周波伝送線路10eは、比較例よりも伝送損失が小さくなっていることがわかる。
【0050】
<2−2.実施例2>
次に、
図20に、第2実施形態における実施例2の高周波伝送線路10fを示す。高周波伝送線路10fは、多層基板2fと、信号線路3,4と、信号ビア5と、6個の貫通ビア7(図示なし)と、2個の層間ビア7aと、第1内層ランド6aと、を備える。すなわち、高周波伝送線路10fは、高周波伝送線路10eと比べて、第2内層ランド6bを備えていない点で異なる。その代り、高周波伝送線路10fの第1内層ランド6aは、高周波伝送線路10eの第1内層ランド6aよりも、信号ビア5に向かって突出している長さが長くなっている、すなわち円環の幅が広くなっている。このような高周波伝送線路10fによれば、高周波伝送線路10eと同程度、層間伝送線路62の幅を狭くすることができる。
【0051】
<2−3.実施例3>
次に、
図21に、第2実施形態における実施例3の高周波伝送線路10gを示す。高周波伝送線路10gは、多層基板2gと、信号線路3,4と、信号ビア5と、6個の貫通ビア7(図示なし)と、2個の層間ビア7aと、第2内層ランド6bと、を備える。すなわち、高周波伝送線路10gは、高周波伝送線路10eと比べて、第1内層ランド6aを備えていない。その代り、高周波伝送線路10gの第2内層ランド6bは、高周波伝送線路10eの第2内層ランド6bよりも、8個のグランドビア7,7aに向かって突出している長さが長くなっている、すなわち円環の幅が広くなっている。このような高周波伝送線路10gによれば、高周波伝送線路10eと同程度、層間伝送線路62の幅を狭くすることができる。
【0052】
<2−4.効果>
以上説明した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)又は(2)に加え、以下の効果が得られる。
【0053】
(3)高周波伝送線路10e〜10gが、複数の第1内層ランド6a及び複数の第2内層ランド6bの少なくとも一方を備えることにより、高周波伝送線路10e〜10gの層間伝送線路62に励振される高周波信号の高次モードの数が低減され、高次モードの影響が抑制される。その結果、層間伝送線路62の出力部分に電界分布の強領域が形成され、高周波伝送線路10e〜10gの伝送損失が抑制される。すなわち、高周波伝送線路10e〜10gは、複数の第1内層ランド6a及び複数の第2内層ランド6bの少なくとも一方を備えることにより、ビア間距離Rdを短くした場合と等価な効果を奏する。
【0054】
(4)高周波伝送線路10e〜10gは、複数の第1内層ランド6a及び複数の第2内層ランド6bの積層方向の間隔が、λg/4以下に構成される。これにより、信号ビア5の側壁よりもグランドビア7,7aに向かって突出した疑似的な壁面、及び/又は、グランドビア7,7aの側壁よりも信号ビア5に向かって突出した疑似的な側面が形成されるため、高周波伝送線路10e〜10gは、ビア間距離Rdを短くした場合と等価な効果を奏する。
【0055】
(5)第1内層ランド6a及び第2内層ランド6bは、グランドプレーン6と同じ層に形成することができる。
【0056】
<3.第3実施形態>
<3−1.実施例1>
<3−1−1.第1実施形態との相違点>
第3実施形態は、基本的な構成は第1実施形態の実施例2と同様であるため、共通する構成については説明を省略し、相違点を中心に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0057】
第3実施形態の高周波伝送線路は、層間ビアがいわゆるスタブ構造になっている点で、第1実施形態の実施例2と相違する。
第3実施形態における実施例1の高周波伝送線路10hの構成について、
図22及び
図23を参照して説明する。高周波伝送線路10hは、多層基板2hと、信号線路3,4と、信号ビア5と、6個の貫通ビア7と、2個の層間ビア7bと、を備える。高周波伝送線路10hは、第1実施形態と同様に、電界分布調整されている。
【0058】
多層基板2hは、6層の誘電体層L1〜L6と、誘電体層L1〜L6のそれぞれを挟む7層のパターン層P1〜P7と、を備える。以下では、パターン層P1〜P7のうち、多層基板2hの外面に配置されたパターン層P1,P7を外層と称し、それ以外のパターン層P2〜P6を中間層と称する。
【0059】
外層P1,P7には、信号線路3,4が形成されている。そして、中間層P2〜P6には、それぞれグランドプレーン6が形成されている。2個の層間ビア7bは、6層の誘電体層L1〜L6のうち、中央の誘電体層L3,L4を貫通し、中間層P3,P5に形成された2つのグランドプレーン6を相互に導通させるように形成されている。
【0060】
各層間ビア7bの上には誘電体層L2が配置されており、誘電体層L2の上にはグランドプレーン6が配置されている。また、各層間ビア7bの下には誘電体層L5が配置されており、誘電体層L5の下にはグランドプレーン6が配置されている。誘電体層L2,L5は、グランドプレーン6を設置するための接着剤になっている。つまり、各層間ビア7bの上と下には必ず誘電体層が配置される。また、各層間ビア7bのスルーホール内には、誘電体層L1〜L6と同じ誘電体が充填されている。
【0061】
ここで、層間ビアを備えていない高周波伝送線路20aを、
図24及び
図25に示す。高周波伝送線路20aは、信号線路3,4に重なる位置にグランドビアを備えていない。そのため、高周波伝送線路20aは、信号線路3の下側及び信号線路4の上側において、層間伝送線路62から誘電体層L2〜L5へ高周波信号の電界Eaが漏洩する。
【0062】
また、層間ビア7aを備えている高周波伝送線路20bを、
図26及び
図27に示す。高周波伝送線路20bは、層間伝送線路62から層間ビア7aの上下に設けられた誘電体層L2,L5へ電界Ebが漏洩する。層間伝送線路62から電界が漏洩すると、その分の伝送損失が増加するため、漏洩電界の抑制することが望ましい。
【0063】
そこで、本実施形態では、層間ビア7bのそれぞれをいわゆるスタブ構造に形成して、漏洩電界を抑制し、伝送損失の低減を図った。すなわち、層間ビア7bは、層間伝送線路62から層間ビア7bの方向へ漏洩した第1電界E1と第2電界E2とが、打消し合うような寸法に構成されている。第1電界E1は、層間ビア7bと層間ビア7bの上側と下側のグランドプレーン6との間の誘電体層L2,L5を進む漏洩電界である。第2電界E2は、層間ビア7b内へ進入した漏洩電界である。第2電界E2は、層間ビア7bへ進入し、層間ビア7bの上側又は下側のグランドプレーン6に反射される。
【0064】
具体的には、層間ビア7bは、層間ビア7b内に定在波が形成されるように、層間ビア7bと信号ビア5の中心を通る鉛直断面において、積層方向に垂直な方向の幅Wがλg/2となるように構成されている。また、層間ビア7bは、第1電界E1の位相に対して第2電界E2の位相が180度ずれるように、上記鉛直断面において、積層方向の高さHがλg/4となるように構成されている。つまり、層間ビア7bは、直径λg/2、高さλg/4の円筒となるように構成されている。
【0065】
<3−1−2.解析結果>
次に、上記鉛直断面における高周波伝送線路10hの鉛直断面における電界分布の解析結果を
図28に示す。また、比較例として、高さHをλg/4、幅Wをλg/6とした層間ビアを備える高周波伝送線路の鉛直断面における電界分布の解析結果を
図29に示す。
図28及び
図29において楕円で囲んだ部分を比較すると、比較例では、層間ビアとその上下のグランドプレーン6との間の誘電体層に電界が漏洩しているが、高周波伝送線路10hでは、電界の漏洩が抑制されていることがわかる。また、高周波伝送線路10hと比較例の周波数に対する伝送損失を
図30に示す。
図30に示すように、周波数63GHz〜83GHzの範囲では、高周波伝送線路10hは、比較例よりも伝送損失が小さくなっていることがわかる。特に、周波数77GHzでは、高周波伝送線路10hは、比較例と比べて伝送損失が0.5dB改善している。
【0066】
<3−2.実施例2>
次に、
図31に、第3実施形態における実施例2の高周波伝送線路10iを示す。高周波伝送線路10iは、多層基板2iと、信号線路3,4と、信号ビア5と、6個の貫通ビア7と、6個の層間ビア7bと、を備える。つまり、高周波伝送線路10iは、高周波伝送線路10hと比べて、4個の層間ビア7bを追加で備えている。追加の4個の層間ビア7bは、6個の貫通ビア7よりも信号ビア5から離れて、6個の貫通ビア7の外側に配置されている。このような高周波伝送線路10iによれば、高周波伝送線路10hよりもさらに電界の漏れを抑制して、伝送損失を低減することができる。
【0067】
<3−3.効果>
以上説明した第2実施形態によれば、前述した第1実施形態の効果(1)又は(2)に加え、以下の効果が得られる。
【0068】
(6)層間ビア7bを、第1電界E1と第2電界E2とが打消し合うような寸法に構成することにより、層間伝送線路62から誘電体層への電界の漏洩を抑制することができる。ひいては、高周波信号の伝送損失を抑制することができる。
【0069】
(7)層間ビア7bの幅Wをλg/2とすることで、層間ビア7b内に進入した第2電界E2は定在波となる。そして、層間ビア7bの高さHをλg/4とすることで、誘電体層を進む第1電界E1に対して、定在波である第2電界E2の位相が180°ずれる。これにより、第1電界E1と第2電界E2とが打消し合い、漏洩電界を抑制することができる。
【0070】
<4.第4実施形態>
<4−1.第2実施形態との相違点>
第3実施形態は、基本的な構成は第2実施形態の実施例1と同様である。第4実施形態の高周波伝送線路10jは、多層基板2iと同様の構成の多層基板2jを備え、高周波伝送線路10eの層間ビア7aを、第3実施形態における実施例1の高周波伝送線路10hの層間ビア7bに置き換えたものである。すなわち、高周波伝送線路10jは、電界分布調整され、内層ランドとスタブ構造の内層ビアを備えている。
【0071】
高周波伝送線路10jの鉛直断面における電界分布の解析結果を
図32に示す。
図32に示す高周波伝送線路10jの電界分布と、
図18に示す高周波伝送線路10eの電界分布と比較すると、高周波伝送線路10jでは、高周波伝送線路10eと比べて、層間ビアとその上下のグランドプレーンとの間の誘電体層への電界漏洩が抑制されていることがわかる。すなわち、高周波伝送線路10jでは、層間伝送線路における電界分布の広がりが抑制されているとともに、層間ビアとその上下のグランドプレートの間の誘電体層への電界漏洩が抑制されていることがわかる。
【0072】
<4−2.効果>
以上説明した第4実施形態によれば、前述した第1〜3実施形態の効果(1)〜(7)が得られる。
【0073】
<他の実施形態>
以上、本開示を実施するための形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0074】
(a)上記各実施形態において、多層基板2,2a〜2jの積層数は限定されるものではない。多層基板2,2a〜2jの積層数は適宜決めればよい。また、グランドビア7,7aの個数も適宜決めればよい。
【0075】
(b)貫通ビア7は、スルーホールを備える構造に限定されるものではない。貫通ビア7は、信号ビア5を囲むように設けられ、グランドプレーンに接続された金属壁でもよい。例えば、円C上に設けられた円弧形状の金属壁でもよい。また、貫通ビア7は、信号ビア5を囲むように設けられた、積層方向に垂直な断面が矩形状の金属溝でもよい。例えば、高周波伝送線路10において、3個の貫通ビア7を1つの金属溝にして、信号線路3,4を挟むように2つの金属溝を設置してもよい。
【0076】
(c)実施形態3及び4において、層間ビア7bの高さH及び幅Wはλg/2及びλg/4に完全に一致した寸法でなくてもよい。層間ビア7bは、第1電界E1と第2電界E2が完全に打消し合わなくても、伝送損失の低減効果が得られる程度打消し合えばよい。層間ビア7bの高さHは、0<Ho<λgを満たせばよく、(λg/4)×0.8<Ho<(λg/4)×1.2を満たすことが望ましい。また、層間ビア7bの幅Wは、0<Wo<λgを満たせばよく、(λg/2)×0.8<Wo<(λg/2)×1.2を満たすことが望ましい。
【0077】
(d)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。なお、特許請求の範囲に記載した文言のみによって特定される技術思想に含まれるあらゆる態様が本開示の実施形態である。
【0078】
(e)上述した高周波伝送線路の他、当該高周波伝送線路を構成要素とするシステム、高周波伝送線路の製造方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。