特許第6845149号(P6845149)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6845149マトリックスメタロプロテイナーゼに対する光プローブ
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845149
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】マトリックスメタロプロテイナーゼに対する光プローブ
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20210308BHJP
   A61K 49/00 20060101ALI20210308BHJP
   C12Q 1/37 20060101ALI20210308BHJP
   C07K 7/06 20060101ALI20210308BHJP
   G01N 21/64 20060101ALI20210308BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20210308BHJP
   G01N 33/483 20060101ALI20210308BHJP
   G01N 33/68 20060101ALI20210308BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C12N15/09 Z
   A61K49/00ZNA
   C12Q1/37
   C07K7/06
   G01N21/64 F
   G01N21/64 C
   G01N21/78 C
   G01N33/483 C
   G01N33/68
   C09K11/06
【請求項の数】14
【全頁数】54
(21)【出願番号】特願2017-549297(P2017-549297)
(86)(22)【出願日】2016年3月18日
(65)【公表番号】特表2018-515427(P2018-515427A)
(43)【公表日】2018年6月14日
(86)【国際出願番号】GB2016050765
(87)【国際公開番号】WO2016151299
(87)【国際公開日】20160929
【審査請求日】2019年3月13日
(31)【優先権主張番号】1504778.0
(32)【優先日】2015年3月20日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】501337513
【氏名又は名称】ザ ユニバーシティ コート オブ ザ ユニバーシティ オブ エジンバラ
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マーク・ブラッドリー
(72)【発明者】
【氏名】スナイ・ヴィジャイクマール・チャンケシュワラ
(72)【発明者】
【氏名】アリシア・メギア−フェルナンデス
【審査官】 井関 めぐみ
(56)【参考文献】
【文献】 特表2014−511855(JP,A)
【文献】 Molecular & Cellular Proteomics,2010年,Vol.9,p.894-911
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
A61K 49/00
C07K 7/06
C09K 11/06
C12Q 1/37
G01N 21/64
G01N 21/78
G01N 33/483
G01N 33/68
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酵素切断可能なペプチド配列によって少なくとも1つのクエンチャーに連結されている少なくとも1つのフルオロフォアを含む光プローブであって;前記フルオロフォア又は各フルオロフォアが、前記酵素切断可能なペプチド配列に連結されている場合に、前記少なくとも1つのクエンチャーによって実質的に蛍光消光され;前記フルオロフォア又は各フルオロフォアが、少なくとも1つのプローブエレメントの前記酵素切断可能なペプチド配列が切断される場合に、前記少なくとも1つのクエンチャーから分離され;前記酵素切断可能なペプチド配列が、配列番号7を含み1つ又は複数のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)によって選択的に切断可能であり、前記酵素切断可能なペプチド配列に連結されている前記少なくとも1つのフルオロフォアのユニットが、プローブエレメントに相当し;前記プローブが、複数のプローブエレメントを含み、各プローブエレメントが、コアに連結されており、前記コアが、前記少なくとも1つのクエンチャーを含むか、又は各プローブエレメントが、少なくとも1つのクエンチャーを、前記コアに対する前記プローブエレメントの近位端に含む、プローブ。
【請求項2】
前記酵素切断可能なペプチド配列が、MMP-2及び/又はMMP-9及び/又はMMP-13によって選択的に切断可能である、請求項1に記載のプローブ。
【請求項3】
前記少なくとも1つのクエンチャーが、前記少なくとも1つのフルオロフォアと同じタイプのフルオロフォアであり、前記少なくとも1つのクエンチャー及び前記少なくとも1つのフルオロフォアが、自己消光するか、又は前記少なくとも1つのクエンチャーが、前記少なくとも1つのフルオロフォアとは異なるタイプのフルオロフォアであり、蛍光クエンチャーである、請求項1又は2に記載のプローブ。
【請求項4】
前記少なくとも1つのフルオロフォアが、フルオレセイン、シアニンフルオロフォア、例えばCy2、Cy3、Cy5、若しくはCy7、ローダミン、蛍光タンパク質、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、若しくはシアン蛍光タンパク質(CFP)、又は7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(NBD)から選択される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項5】
前記少なくとも1つのフルオロフォア及び前記少なくとも1つのクエンチャーが、FRETペアを形成し、以下の一覧(フルオロフォア/クエンチャー):Cy3/Cy5、Cy3/QSY21、Cy5/QSY21、Cy5/BHQ-3、フルオレセイン/テトラメチルローダミン、フルオレセイン/メチルレッド、NBD/メチルレッド、シアン蛍光タンパク質(CFP)/黄色蛍光タンパク質(YFP)、及びカルボキシフルオレセイン/メチルレッドから選択される、請求項3に記載のプローブ。
【請求項6】
前記少なくとも1つのフルオロフォアが、スペーサーによって前記酵素切断可能なペプチド配列に連結されており、任意で、前記スペーサーが、6-アミノヘキサン酸(Ahx)、ポリエチレングリコール(PEG)を含、請求項1〜5のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項7】
前記複数のプローブエレメントの各々が、独立してリンカーを介して前記コアに間接的に連結されている、請求項1〜6のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項8】
前記リンカーが、D-アミノ酸を含む、請求項7に記載のプローブ。
【請求項9】
第1のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアが第2のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアを実質的に蛍光消光するように、前記複数のプローブエレメント内の各プローブエレメントの前記少なくとも1つのフルオロフォアが自己消光する、請求項7又は8に記載のプローブ。
【請求項10】
前記プローブが、実質的に蛍光消光されない少なくとも1つのレポーターフルオロフォアを含み、任意で、前記少なくとも1つのレポーターフルオロフォアが、前記複数のプローブエレメントの前記少なくとも1つのフルオロフォアが蛍光を発する光の波長とは異なる波長で蛍光を発する、請求項1〜9のいずれか一項に記載のプローブ。
【請求項11】
標的ゾーンのMMPを検出する方法であって、前記標的ゾーンがin vitro又はex vivoであり、前記方法が、
a. 請求項1〜10のいずれか一項に記載のプローブを準備する工程;
b. 前記プローブを前記標的ゾーンに適用する工程;
c. 適切な波長の光で標的領域を照射して前記プローブの前記フルオロフォア又は各フルオロフォアを励起させる工程;及び
d. 前記フルオロフォア又は各フルオロフォアの蛍光強度を決定する工
を含み、
前記プローブの前記フルオロフォア又は各フルオロフォアの有意な蛍光が、前記標的ゾーンにおけるMMPの存在を示す、方法。
【請求項12】
前記標的ゾーンが、ヒト又は非ヒト動物から取り出された組織の一部であり、好ましくは、前記組織タイプが、心臓、肺、肝臓、結合組織、皮膚、又は腸である、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記標的ゾーンにおけるMMPの存在が、前記標的ゾーン内の進行中の線維増殖を示す、及び/又は、前記標的ゾーンにおけるMMPの存在が、前記標的ゾーン内のがんを示す、請求項11又は12に記載の方法。
【請求項14】
前記標的ゾーンが、対象の関節から取り出された組織の一部であり、前記標的ゾーンにおけるMMPの存在が、前記標的ゾーンにおける進行中の関節炎を示す、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光プローブの分野に関し、より詳しくは、とりわけ、がん、線維症及び関節炎の検出に使用され得る光プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
肺及び他の臓器の線維増殖性疾患では、罹患率及び早過ぎる死亡が非常に負担となっている。線維症は、組織が最適に機能する能力を永久に喪失させる。肺においては、ガス交換能力が瘢痕組織の形成によって損なわれる。特発性肺線維症(IPF)は、(CTスキャン/肺生検により)後期で診断され、死亡率が高く、診断からの生存期間中央値は3年であることが多い。成人呼吸窮迫症候群(ARDS)及び二次線維症を発症している他の炎症性肺疾患の罹患患者を同定することは、現在不可能である。更に、線維症は、処置介入を受けやすいと予想される極めて活発な細胞過程であるにもかかわらず、有効な治療法は存在していない。その問題の一部は、in vivoでの医薬品有効性を確立するのに時間を要することと、既存のバイオマーカーの有用性が低いことである。したがって、疾患活動性及び抗線維症薬で得られる有効性の両方を、より効果的かつ迅速に決定することができる診断方法を速やかに開発する必要性がある。
【0003】
分子画像診断は、技術的計測装置を光撮像プローブと併用する場合、リアルタイムに空間分解能で生体試料を非侵襲的に調べる実行可能な手法を提供する。光プローブは、典型的には、効果的な画像診断のそれぞれの特定の標的に対して開発されている(Biochemistry 2010, 49, 1364-1376)。活性化可能な光プローブは、分子事象の機能上の詳細を提供し、分子レベルで情報を提供する等の利点を提供することができる。更に、光プローブは小型の携帯装置と共に使用され、情報を迅速に提供することができ、また微量投与(<100μg)することによって副作用のリスクを減らすことができる。
【0004】
fCFM(ファイバー共焦点蛍光顕微鏡)を使用して、気管支鏡検査の際にヒト肺の肺胞構造がin vivoで研究されてきた[Eur. Resp. J 2009, 33, 974-985. Proc. Am. Thorac. Soc. 2009, 4, 444-449]。特定の酵素に対する光プローブと組み合わせてfCFMを使用することにより、有用な情報を提供することができる。
【0005】
マトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)は、細胞外マトリックスを分解することができる細胞外亜鉛依存性エンドペプチダーゼである。MMPは、医薬標的として長年関心がもたれてきており、例えば、形態形成、血管新生、組織修復、肝硬変、関節炎及び転移等の様々な生理学的又は病理学的過程に関連した組織リモデリングで重要な役割を果たしている(Cancer Metastasis Rev. 2008, 27, 679-690)。MMPはまた、標識ペプチドで標的化する分子に理想的とされる、線維症の肺において過剰発現されるバイオマーカーと考えることができ[Eur. Respir. J. 2011, 38 (6) 1461-1467; Am. J. Respir. Crit. Care Med 2000, 162(5) 1949-1956, Eur. Respir. J. 2009, 33, 77-84]、光撮像によって疾患を早期診断するための有用なツールとして役立てることができる。マウスでの過剰発現及びノックアウトの研究は、肺線維症におけるプロテイナーゼ(MMP-2/9)の重要な役割を示すとともに、それらの発現が、健康な肺でのレベル及び他の肺疾患の患者でのレベルの両方と比較した場合、線維症の対象の肺洗浄液では高いことが一貫して示された[Cell Biol. Toxicol. 2002,18(1), 51-61]。
【0006】
多くのプロテイナーゼプローブは、酵素活性の検出にFRET(蛍光共鳴エネルギー転移としても知られているフォースター共鳴エネルギー転移(Forster Resonance Energy Transfer))現象を利用するが[Biotechnol. J. 2014, 9, 266-281, Chem. Comm., 2008, 4250-4260]、この場合、プロテアーゼ基質はフルオロフォア/クエンチャーの対の間に配置される。或いは、AspNエンドプロテイナーゼの検出[Angew. Chem. 2002, 41, 17, 3233-3236]については、既に多分枝系における「自己消光」効果が開示されており、更に最近では、HNE [Org. Biomol. Chem., 2013, 11, 4414-4418]が、カテプシンSに対して同様に適用されている[J. Med Chem. 2006, 49, 4715-4720]。
【0007】
いくつかのマトリックスメタロプロテイナーゼプローブが、長年にわたり、有効なMMP阻害剤及び活性化可能な蛍光プローブに基づいて開示されてきている。現在まで、これらの酵素に関する標識基質の設計及び開発は、主として、腫瘍関連の活動性を感知すること[Cancer biotherapy and Radiopharmaceuticals, 21, 5, 2006, 409-416を参照]、加えて変形性関節炎又はアテローム性動脈硬化に関して感知すること[Chem. BioChem. 2012, 13, 2002-2020; Contrast Media Mol. Imaging 2014, 9,187-210]に焦点をあててきた。多大な努力が払われてきたにもかかわらず、当技術分野で公知のプローブの大部分は、特異性及びin vivoでの安定性が良好でないことから、少なくともin vivoでの有用性において限界がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2012/136958 A2号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biochemistry 2010, 49, 1364-1376
【非特許文献2】Eur. Resp. J 2009, 33, 974-985
【非特許文献3】Proc. Am. Thorac. Soc. 2009, 4, 444-449
【非特許文献4】Cancer Metastasis Rev. 2008, 27, 679-690
【非特許文献5】Eur. Respir. J. 2011, 38 (6) 1461-1467
【非特許文献6】Am. J. Respir. Crit. Care Med 2000, 162(5) 1949-1956
【非特許文献7】Eur. Respir. J. 2009, 33, 77-84
【非特許文献8】Cell Biol. Toxicol. 2002,18(1), 51-61
【非特許文献9】Biotechnol. J. 2014, 9, 266-281, Chem. Comm., 2008, 4250-4260
【非特許文献10】Angew. Chem. 2002, 41, 17, 3233-3236
【非特許文献11】Org. Biomol. Chem., 2013, 11, 4414-4418
【非特許文献12】J. Med Chem. 2006, 49, 4715-4720
【非特許文献13】Cancer biotherapy and Radiopharmaceuticals, 21, 5, 2006, 409-416
【非特許文献14】Chem. BioChem. 2012, 13, 2002-2020
【非特許文献15】Contrast Media Mol. Imaging 2014, 9,187-210
【非特許文献16】Mol. and Cell. Proteomics 2010, 9, 894-911
【非特許文献17】Pharmacol. Ther. Vol. 75, No. 1, pp. 69-75, 1997
【非特許文献18】E. Kaiser, R. L. Colescott, C. D. Bossinger and P. I. Cook, Analytical Biochemistry, 1970, 34, 595-598
【非特許文献19】M. Ternon, J. J. Diaz-Mochon, A. Belsom, M. Bradley, Tetrahedron, 2004, 60, 8721
【非特許文献20】H. J. Knolker, T. Braxmeier, G. Schlechtingen, Angew. Chem. Int. Ed., 1995, 34, 2497
【非特許文献21】Diaz-Mochon, J. J.; Bialy, L.; Bradley, M. Org. Lett. 2004, 6 (7), 1127-1129
【非特許文献22】Lequin et al., 2006; Lequin, O. et al. Dermaseptin S., Biochemistry 45, 468-480 (2006)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、本発明の目的は、好ましくはin vivoで安定性のある、MMP又はMMPのタイプを特異的に検出することができる、改良された光プローブを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様によれば、酵素切断可能なペプチド配列によって少なくとも1つのクエンチャーに連結されている少なくとも1つのフルオロフォアを含む光プローブであって;フルオロフォア又は各々のフルオロフォアは、酵素切断可能なペプチド配列に連結されている場合に、少なくとも1つのクエンチャーによって実質的に蛍光消光され;フルオロフォア又は各々のフルオロフォアは、少なくとも1つのプローブエレメントの酵素切断可能なペプチド配列が切断される場合に、少なくとも1つのクエンチャーから分離され;ここで、酵素切断可能なペプチド配列は、配列番号1〜配列番号14(Table 1(表1))のうちの1つを含み、1つ又は複数のマトリックスメタロプロテイナーゼ(MMP)によって選択的に切断可能である、光プローブが提供される。
【0012】
【表1】
【0013】
配列番号1は、公知のペプチド配列に対応する。しかし、このような配列は、本明細書に記載の光プローブのタイプにおいては公知ではない。
【0014】
一実施形態において、酵素切断可能なペプチド配列が配列番号2〜配列番号14(Table 1(表1))のうちの1つを含む、本明細書に記載の光プローブが提供される。
【0015】
用語「実質的に蛍光消光された」とは、本発明者らは、消光されたフルオロフォアの蛍光が、消光されていないフルオロフォアの蛍光の30%未満、好ましくは20%未満、より好ましくは10%未満であることを意味する。
【0016】
MMPにより酵素切断可能なペプチド配列が切断された結果、プローブの少なくとも1つのフルオロフォアがクエンチャーから分離されるため、少なくとも1つのフルオロフォアの蛍光は、もはやクエンチャーによって消光されない。したがって、適切な光の波長でプローブを励起した際、プローブの少なくとも1つのフルオロフォアが蛍光を発する。
【0017】
このため、本発明の光プローブの蛍光は、MMPの存在を示す。典型的には、本発明の光プローブの蛍光は、活性MMP及び機能性MMPの存在を示す。
【0018】
好ましくは、酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-2及び/又はMMP-9及び/又はMMP-13によって選択的に切断可能である。例えば、酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-2によって選択的に切断可能であり得る。酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-9によって選択的に切断可能であり得る。酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-13によって選択的に切断可能であり得る。
【0019】
より好ましくは、酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-9及び/又はMMP-13によって選択的に切断可能である。酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-9及び/又はMMP-13のみによって選択的に切断可能であり得る。例えば、一実施形態において、酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-9及びMMP-13によって切断可能である。
【0020】
本発明の好ましい実施形態において、酵素切断可能なペプチド配列は、1つ又は複数のMMP-2、MMP-9及びMMP-13によって切断され、プローブの蛍光の増加が生じ、バックグラウンド蛍光よりも少なくとも5倍大きくなる。より好ましくは、酵素切断可能なペプチド配列は、1つ又は複数のMMP-2、MMP-9及びMMP-13によって切断され、蛍光の増加が生じ、バックグラウンド蛍光より少なくとも8倍大きくなる。
【0021】
好ましくは、酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-2、MMP-9及びMMP-13以外のMMPによっては切断されない。酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-2、MMP-9及びMMP-13に対する基質であり得るが、他のMMPの基質ではない。例えば、酵素切断可能なペプチド配列は、MMP-1、MMP-3、MMP-7、MMP-8及びMMP-11によっては切断されることはない。
【0022】
MMPは、組織リモデリングに重要な役割を果たし、このように、様々な病理過程に関連する酵素である。したがって、MMPの活性を検出する光プローブを用いて、それらの病理過程を検出することができる。病理の例としては、線維症、関節炎、特に変形性関節炎、がん、アテローム性動脈硬化及び肝硬変が挙げられる。実際、MMPはいずれかの炎症性疾患において上方調節され、このように、これらのプローブはそれらの診断に有用であり得る。
【0023】
MMP、特にMMP-9及びMMP-13は、線維症組織において過剰発現されることが示されている。したがって、蛍光が、配列番号1〜配列番号14、典型的には配列番号2〜配列番号14を含む酵素切断可能なペプチド配列のその選択的な切断によってMMP-9及び/又はMMP-13の存在を示す、光プローブは、線維症組織の存在を検出することができる。
【0024】
線維症組織は、心臓、肺、肝臓、結合組織、皮膚、腸又は関節等の多くの組織タイプで生じ得る。したがって、これらの組織タイプにおけるMMP-9又はMMP-13の検出によって、線維症組織の存在を示すことができる。例えば、対象の肺におけるMMP-9及び/又はMMP-13の検出によって、肺の線維症領域内の進行中の線維増殖を示すことができる。
【0025】
MMPは、関節炎に関連していることが示されている。例えば、MMP-13は、変形性関節炎で過剰発現されることが示されている。したがって、蛍光がMMPの存在を示す光プローブを提供することで、関節炎の存在を検出することができる。例えば、対象の関節内又は関節周囲でのMMP-13の検出によって、その関節における変形性関節炎を示すことができる。
【0026】
更なる実施例において、組織におけるMMPの検出によって、がんを示すことができる。一実施形態において、組織におけるMMPの検出によって、良性新生物を悪性新生物から識別することができる。別の実施形態において、組織におけるMMPの検出によって、がん性組織と正常組織の間の境界を決定することができる。例えば、MMPはガン組織と正常組織の間の境界で検出することができ、又はMMPはがん性組織内で検出され、正常組織においては検出される可能性はない。したがって、本発明のプローブは、腫瘍の存在を検出し、及び/又はその腫瘍が良性であるか悪性であるかを決定することができる。
【0027】
がんはMMP9を高度に発現する。組織の異常領域とMMP活性の分子署名との組み合わせによって、これががんである可能性があることを臨床医に警告することができる。また、腫瘍辺縁もMMPを高度に発現するため、本明細書に記載のプローブは、例えば、腫瘍が切除される場合、外科医が腫瘍の辺縁を同定するのを助ける。
【0028】
典型的には、当技術分野で公知の光プローブは、MMP-2、MMP-9及びMMP-13に対する選択性は低く、一般に、MMPの存在を検出することしかできない。
【0029】
驚いたことに、本発明者らは、本発明のプローブがMMP-2、MMP-9及びMMP-13に対する選択性が高く、又はMMP-2、MMP-9及びMMP-13のみに対する基質であり、また、これらのMMPが他の類似の酵素の存在下においてin vitro及びin vivoで検出され得ることを見出した。したがって、本発明のプローブは、MMP-2、MMP-9及びMMP-13を過剰発現する疾患、例えば、線維症、肝硬変、関節炎及びがん等の線維増殖を、他の類似の酵素の存在下であっても正確に検出することができる。これは、他のMMPが正常組織で発現される場合に特に有益である。
【0030】
酵素切断可能なペプチド配列は、配列番号3、配列番号4、配列番号5、及び配列番号7〜配列番号14のうちの1つを含み得る。好ましくは、酵素切断可能なペプチド配列は、配列番号3、配列番号4、配列番号5、及び配列番号7〜配列番号14のうちの1つを含む。より好ましくは、酵素切断可能なペプチド配列は、配列番号3、配列番号5及び配列番号7のうちの1つを含む。より更に好ましくは、酵素切断可能なペプチド配列は、配列番号5及び配列番号7のうちの1つを含むか、又は配列番号7を含む。本発明者らは、これらの配列を含む酵素切断可能な配列がMMP-9及びMMP-13、又はMMP-2、MMP-9及びMMP-13に対する高い選択性を示すこと、及び/或いは当技術分野で公知のもの以外の他のプロテイナーゼによる非特異的切断に対してより抵抗性があることを見出した。
【0031】
好ましくは、酵素切断可能なペプチド配列は、配列番号7を含む。本発明者らは、配列番号7を含むプローブがMMP-2、MMP-9及びMMP-13に対して共に特異的であること、またプラスミン、トロンビン及び第Xa因子等の他のプロテイナーゼによる非特異的切断に対して高い抵抗性があることを見出した。したがって、配列番号7を含む本発明のプローブは、例えば、組織又は組織試料等の他のプロテイナーゼの存在下において、MMP-2、MMP-9及びMMP-13の活性を選択的に検出することができる。
【0032】
本プローブは、酵素切断可能なペプチド配列のいずれかの側に、1個又は複数の追加のアミノ酸を含んでいてもよい。これは、x-配列-y、x-配列-、又は-配列-yとして図示することができ、式中、x及びyは1〜10個のアミノ酸、好ましくは1〜5個のアミノ酸、更に好ましくは1〜2個のアミノ酸を表す。
【0033】
典型的には、第1のフルオロフォアの蛍光は、隣接部分によって、抑制又は「消光」され得る。隣接部分、又は「クエンチャー(消光剤)」は、フルオロフォアであってもよい。第1のフルオロフォア及び隣接する第2のフルオロフォアが同じタイプである場合(すなわち、それらが同じ励起及び発光スペクトルを有する同じ化学物質である場合)、第1のフルオロフォア及び第2のフルオロフォアは、互いの蛍光を消光し、「自己消光」し得る。例えば、カルボキシフルオレセイン、Cy5、及び7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(NBD)は、自己消光し得る。
【0034】
第1のフルオロフォア及び隣接する第2のフルオロフォアが異なるタイプである場合(すなわち、それらが異なる化学物質であり、異なる励起及び発光スペクトルを有する場合)、次いで、第1のフルオロフォアの発光スペクトル及び第2のフルオロフォアの励起スペクトルがオーバーラップするならば、エネルギーが蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence(又はForster) Resonance Energy Transfer;FRET)を介して一方から他方に転移され得る。言い換えると、これらは「FRETペア」を形成し、第2のフルオロフォアは、第1のフルオロフォアの蛍光を消光させることができる。第2のフルオロフォアは、第1のフルオロフォアの蛍光を吸収し、異なる波長でそれ自体を蛍光発光する。したがって、第2のフルオロフォアは、「蛍光クエンチャー」であり得る。例えば、2つのフルオロフォアを含むFRETペアは、(フルオロフォア/クエンチャー)Cy3/Cy5、及びカルボキシフルオレセイン/セミナフトローダミンカルボキシレート誘導体を含む。
【0035】
隣接部分は、蛍光を発しない化学物質であってもよい。隣接部分は、第1のフルオロフォアの蛍光を引き続き消光することができるが、それ自体を蛍光発光する代わりに、隣接部分は熱としてフルオロフォアから受け取ったエネルギーをその周囲に分散させ、「ダーククエンチャー(dark quencher)」である。例えば、ダーククエンチャーを含むFRETペアとしては、(フルオロフォア/クエンチャー)フルオレセイン/ジメチルアミノアゾベンゼンスルホン酸(DABSYL)、カルボキシフルオレセイン/BHQ-1、カルボキシフルオレセイン/メチルレッド、NBD/メチルレッド、カルボキシナフトフルオレセイン/QSY21、カルボキシナフトフルオレセイン/BHQ-3、セミナフトローダミンカルボキシレート誘導体/BHQ-3、セミナフトローダミンカルボキシレート誘導体/QSY21、Cy3/QSY21、Cy5/QSY21、及びCy5/BHQ-3が挙げられる。
【0036】
少なくとも1つのクエンチャー及び少なくとも1つのフルオロフォアは消光することができる。消光するクエンチャー及び少なくとも1つのフルオロフォアを含むプローブは、実質的に暗く、酵素切断可能なペプチド配列の切断前に蛍光を生じない。例えば、少なくとも1つのクエンチャーは、少なくとも1つのフルオロフォアと同じタイプのフルオロフォアであってもよく、少なくとも1つのクエンチャー及び少なくとも1つのフルオロフォアは、自己消光し得る。
【0037】
少なくとも1つのフルオロフォア及び少なくとも1つのクエンチャーが自己消光する(すなわち、少なくとも1つのフルオロフォア及び少なくとも1つのクエンチャーが同じタイプのフルオロフォアである)実施形態において、フルオロフォアは、フルオレセイン又はその誘導体、セミナフトローダミンカルボキシレート又はその誘導体、シアニンフルオロフォア、例えばCy2、Cy3、Cy5、Cy5.5又はCy7、ローダミン又はその誘導体、蛍光タンパク質、例えば、緑色蛍光タンパク質(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YFP)、又はシアン蛍光タンパク質(CFP)、又は7-ニトロベンズ-2-オキサ-1,3-ジアゾール(NBD)から選択することができる。
【0038】
別の実施形態において、少なくとも1つのクエンチャーは、少なくとも1つのフルオロフォアとは異なるタイプのフルオロフォアであり、蛍光クエンチャーである。したがって、酵素切断可能なペプチド配列が切断される前に、少なくとも1つの蛍光クエンチャーを含むプローブは、蛍光クエンチャーによって放出される光の波長で蛍光を発し、少なくとも1つのフルオロフォアによって放出される光の波長で蛍光を発しない。
【0039】
更なる実施形態において、少なくとも1つのクエンチャーは、ダーククエンチャーであってもよい。したがって、ダーククエンチャーを含むプローブは、実質的に暗く、酵素切断可能なペプチド配列が切断される前に蛍光を生じない。
【0040】
少なくとも1つのフルオロフォア及び少なくとも1つのクエンチャーが異なる化学物質である実施形態において、少なくとも1つのフルオロフォアは、適切なクエンチャーとFRETペアを形成する任意のフルオロフォアであり得る。したがって、フルオロフォア及びクエンチャーは、フルオロフォアからクエンチャーにエネルギーを転移するための適切な励起及び発光スペクトルを確実に有するようにペアとして選択される(すなわち、フルオロフォア及びクエンチャーは、FRETペアを形成する)。例えば、典型的なフルオロフォア/クエンチャーペアとしては、Cy3/Cy5、Cy3/QSY21、Cy5/QSY21、Cy5/BHQ-3、カルボキシフルオレセイン/テトラメチルローダミン、フルオレセイン/メチルレッド、カルボキシフルオレセイン/BHQ-1、NBD/メチルレッド、カルボキシナフトフルオレセイン/QSY21、カルボキシナフトフルオレセイン/BHQ-3、セミナフトローダミンカルボキシレート誘導体/BHQ-3、セミナフトローダミンカルボキシレート誘導体/QSY21、シアン蛍光タンパク質(CFP)/黄色蛍光タンパク質(YFP)、カルボキシフルオレセイン/メチルレッド等が挙げられる。FRETペアの更なる例は、当業者によって容易に認識され得る。
【0041】
好ましくは、少なくとも1つのフルオロフォア及び少なくとも1つのクエンチャーは、Cy5/QSY21、カルボキシフルオレセイン/メチルレッド、カルボキシフルオレセイン/BHQ-1、及びCy5/BHQ-3から選択される。
【0042】
典型的には、本発明のプローブは、標的ゾーンのMMPの検出に対して使用されるように操作することができる。標的ゾーンは対象内の組織の一部であってもよく、本方法はin vivoで実施することができる。組織の一部は、対象の心臓、肺、肝臓、結合組織、皮膚、腸又は関節の一部であり得る。本発明のプローブは、循環系、神経系、消化器系又は生殖器系において使用することができる。例えば、標的領域は、対象の肺の一部であってもよい。
【0043】
標的ゾーンは、細胞培養物、生検試料等の組織試料、又は体液試料等の液体試料の一部であってもよい。
【0044】
したがって、本発明のプローブは、in vivo、ex vivo又はin vitroで使用することができる。
【0045】
本発明のプローブは、当技術分野で公知の任意の手段によって標的ゾーンに送達することができる。例えば、本発明のプローブは、内視鏡、スプレー、注射、局所的又は摂取によって送達することができる。例えば、プローブが肺の一部に送達される場合、プローブは気管支鏡を使用して標的ゾーンに送達することができる。
【0046】
プローブのフルオロフォアを励起するのに好適な波長の照明光は、当技術分野で公知の任意の従来の手段によって標的ゾーンに送達され得る。典型的には、プローブが対象の体内で使用される実施形態において、光は、光ファイバー等の手段によって送達される。標的ゾーンにおけるプローブからの蛍光は、光ファイバー等によって収集することができる。標的ゾーンのプローブからの蛍光は、照明光を送達したのと同じ光ファイバーによって収集されてもよい。例えば、標的ゾーンにプローブを送達すること、標的領域に光を送達すること、及び標的ゾーンからの蛍光を検出することの両方が可能である。収集された蛍光は、典型的には、電荷結合素子(CCD)等の記録装置に送られる。或いは、標的ゾーンのプローブからの蛍光は、CCD等の記録装置によって直接収集することができる。或いは、個々の機器を使用して、標的領域にプローブを送達し、標的ゾーンに光を送達し、標的領域からの蛍光を検出することができる。
【0047】
例えば、蛍光は、ファイバー共焦点蛍光顕微鏡(fCFM)を使用して、標的領域の組織から検出することができる。
【0048】
プローブからの蛍光は、間接的に画像化することができる。例えば、蛍光は光音響撮像を使用することにより音波に変換することができる。光音響撮像は、標的領域の高解像度画像を生成し得る。
【0049】
好ましくは、対象はヒト対象である。しかし、対象は、非ヒト動物、例えば、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ネコ、又は齧歯類であってもよい。
【0050】
少なくとも1つのフルオロフォアは、スペーサーによって酵素切断可能なペプチド配列に連結させることができる。少なくとも1つのクエンチャーは、スペーサーによって酵素切断可能なペプチド配列に連結させることができる。スペーサーは、飽和又は不飽和の炭化水素鎖、エーテル、ポリマー、ポリエチルグリコール(PEG)、ポリグリコール、ポリエーテル等であってよい。スペーサーは、ペプチドであってもよい。スペーサーがペプチドである実施形態において、ペプチドは、1〜10個のアミノ酸長、1〜20個のアミノ酸長、又は1〜30個のアミノ酸長であってよい。スペーサーは、アミノ酸と、飽和又は不飽和の炭化水素鎖、エーテル、ポリマー、PEG、ポリグリコール、ポリエーテル等の混合物であってもよい。例えば、スペーサーは、6-アミノヘキサン酸(Ahx)、又はPEG、又はPEGとアミノ酸の交互鎖を含むことができる。
【0051】
スペーサーが、例えばPEG又はポリエーテル等の極性基又は親水性基を含む実施形態において、リンカーは、水性媒体中でのプローブの溶解性を増加させることができる。したがって、例えば、極性基又は親水性基を含む少なくとも1つのスペーサーを含むプローブを提供することにより、追加の界面活性剤を必要とすることなく、標的領域に直接適用するのに生物学的に許容され得る媒体にプローブをより容易に溶解させることができる。
【0052】
本プローブは、実質的に蛍光消光されない少なくとも1つのレポーターフルオロフォアを含むことができる。好ましくは、少なくとも1つのレポーターフルオロフォアは、少なくとも1つのフルオロフォアが蛍光を発する光の波長とは異なる波長で蛍光を発する。したがって、少なくとも1つのレポーターフルオロフォアは、酵素切断可能なペプチド配列が切断される前及び後に蛍光を発するため、少なくとも1つのレポーターフルオロフォアは、適切な波長の光が照射された場合に蛍光を発する。したがって、標的ゾーンのプローブの存在又は配置は、MMPの存在の有無にかかわらずモニターされ、基準として使用することができる。
【0053】
いくつかの実施形態において、本発明のプローブは、次のように示すことができる:
F-A-Seq-B-Q (1)
式中、
Fは、少なくとも1つのフルオロフォアであり、
A、Bは、それぞれ、存在していても存在していなくてもよいスペーサーであり、
Seqは、酵素切断可能なペプチド配列を含むペプチド配列であり、
Qは、少なくとも1つのクエンチャーである。
【0054】
酵素切断可能なペプチド配列に連結されている少なくとも1つのフルオロフォアのユニットは、便宜的に、「プローブエレメント」と定義される。言い換えると、プローブエレメントは、酵素切断可能なペプチド配列に連結されている少なくとも1つのフルオロフォアを含み得る。
【0055】
したがって、プローブエレメントは、次のように示すことができる:
(F-A-Seq)- (2)
【0056】
本発明の一実施形態において、プローブは、単一のプローブエレメント及びクエンチャーを含む。
【0057】
好ましくは、プローブは、複数のプローブエレメントを含み、また、各々の複数のプローブエレメントは、酵素切断可能なペプチド配列に連結されている少なくとも1つのフルオロフォアを含む。
【0058】
当技術分野で公知の光プローブは、酵素によるプローブの非特異的切断等の過程のため、in vivoで、又は他の場合に、例えば、組織溶解産物、組織試料又は体液の試料等において不安定であることが多い。このような非特異的切断は、プローブの蛍光を生じる可能性があり、標的領域のMMPの存在を示すものとして誤認される可能性がある。或いは、非特異的切断は、プローブを分解する可能性があり、プローブが全く観察されないようになる可能性がある。
【0059】
驚いたことに、決定した配列と組み合わせた複数のプローブエレメントを含む光プローブを提供することにより、in vivoでのプローブの安定性が改善される。理論によって拘束されることは望まないが、本発明者らは、複数のプローブエレメントの提供によって、各々のプローブエレメントを非特異的切断から保護し、それによってプローブの構造的適応力を向上させることができることを示唆する。
【0060】
更に、複数のプローブエレメントを含むプローブを提供することにより、プローブ1つ当たりのフルオロフォアの数が増加し、その結果、プローブ1つ当たりの蛍光が増加する。更に、プローブ1つ当たりの蛍光のこの増加によって、低濃度のMMPの検出、又は低濃度のプローブの使用が可能となる、より大きなシグナルノイズ比を提供することができる。
【0061】
プローブはコアを含んでいてもよく、複数のプローブエレメントはコアに連結されていてもよい。複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントは、独立してコアに直接連結されていてもよい。複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントは、独立してリンカーを介してコアに間接的に連結されていてもよい。リンカーは、飽和又は不飽和の炭化水素鎖、エーテル、ポリマー、ポリエチルグリコール(PEG)、ポリグリコール、ポリエーテル等であってよい。リンカーは、1つ又は複数のアミノ酸を含んでいてもよい。例えば、リンカーは、以下の一覧:[-(リジン)-(PEG2)-]1-2、[-(PEG-k)-]1-3、及び[-(PEG-k)0-2-NH-(CH2)3-O-CH2-]から選択することができる。
【0062】
用語「コア」とは、本発明者らは、複数のプローブエレメントを連結して単一のユニットを形成する共通の部分を意味する。したがって、コアは、単一の原子であってもよく、或いは官能基、飽和若しくは不飽和の炭化水素鎖、又はポリグリコール(直鎖状、分枝状若しくは環状)、ペプチド配列、複素環又はポリマーを含むことができる。コアは、典型的には、コアに連結されるのに必要なプローブエレメントの数に関して正確な原子価を有するように選択される。例えば、3つのプローブエレメントを有する実施形態において、コアは、3つのプローブエレメントがコアに連結され得るように、3以上の原子価を有するように選択される。
【0063】
コアは、各々の複数のプローブエレメントに結合し得る複数のコネクターを含み、それによって、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントをコアに連結させることができる。
【0064】
したがって、本発明のいくつかの実施形態は、次のように示すことができる:
[F-A-Seq-B-Q-L]n-C (3)、又は、
[Q-A-Seq -B-F-L]n-C (4)
式中、
Fは、少なくとも1つのフルオロフォアであり、
A、Bは、それぞれ、存在していても存在していなくてもよいスペーサーであり、
Seqは、酵素切断可能なペプチド配列を含むペプチド配列であり、
Qは、少なくとも1つのクエンチャーであり、
Lは、存在していても存在していなくてもよいリンカーであり、
nは、2〜6であり、
Cは、コアである。
【0065】
リンカーが、例えばPEG又はポリエーテル等の極性基又は親水性基を含む実施形態において、リンカーは、水性媒体中でのプローブの溶解性を増加させることができる。したがって、例えば、極性基又は親水性基を含む少なくとも1つのリンカーを含むプローブを提供することにより、追加の界面活性剤を必要とすることなく、標的領域に直接適用するのに生物学的に許容され得る媒体にプローブをより容易に溶解させることができる。
【0066】
好ましくは、リンカーは、少なくとも1つのD-アミノ酸を含む。より好ましくは、リンカーは、少なくとも1つのD-リジン残基を含む。D-リジン残基等のD-アミノ酸を含むリンカーを提供すると、驚いたことに、プラスミン、トロンビン及び第Xa因子等の酵素の存在下において、プローブの安定性及び寿命が増加することが分かった。したがって、例えばリンカー中に少なくとも1つのD-リジン残基を提供することで、in vivoに存在する酵素によるリンカーの非特異的切断を防止することができる。
【0067】
数種類のプローブエレメントが単一のプローブで提供される場合、第1のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアが第2のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアを実質的に蛍光消光するようにして、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアが自己消光することができる。したがって、第1のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアは、第2のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアに対するクエンチャーとして作用し、またその逆もあり、追加の消光部分は必要とされない可能性がある。したがって、本プローブは、製造するのにより簡単で、よりコストが安価となり得る。
【0068】
コアは、少なくとも1つのクエンチャー又は各々のクエンチャーを含む。言い換えると、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントはクエンチャーを含んでいなくてもよく、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアは、コアのクエンチャーによって消光され得る。したがって、プローブは、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントが少なくとも1つのクエンチャーを含むプローブに比べ、少ないクエンチャー又は消光部分を含有することができる。したがって、プローブは、より少ない成分でより容易に合成することができ、プローブは、低コストで製造することができる。
【0069】
複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントは、酵素切断可能なペプチド配列によって少なくとも1つのフルオロフォアに連結されている少なくとも1つのクエンチャーを含んでいてもよい。したがって、酵素切断可能なペプチド配列がMMPによって切断される場合、少なくとも1つのフルオロフォアは、少なくとも1つのクエンチャーから分離され得る。複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアは同じであってもよい。各々の複数のプローブエレメントの少なくとも1つのクエンチャーは同じであってもよい。
【0070】
或いは、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントの少なくとも1つのクエンチャー及び少なくとも1つのフルオロフォアは異なっていてもよい。第1の波長で蛍光を発する第1のフルオロフォアは酵素活性を検出するために使用されるが、第1の波長とは異なる第2の波長で蛍光を発する第2のフルオロフォアが基準として働く場合、これは有用であり得る。このような二重のエレメントプローブは、第1の波長及び第2の波長の両方で蛍光をモニターする、多重波長検出において使用され得る。
【0071】
いくつかの実施形態において、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントは、少なくとも2つのクエンチャーを含むことができる。例えば、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントは、1つのフルオロフォア及び2つのクエンチャーを含むことができるか、又は、各々のプローブエレメントは、2つのフルオロフォア及び2つのクエンチャーを含むことができる。少なくとも2つのクエンチャーを含むプローブエレメントを提供することにより、単一のクエンチャーを含むプローブエレメントよりもより完全にプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアの蛍光を消光して、より大きなシグナルノイズ比を提供し、酵素切断可能なペプチド配列が切断される場合により大きな蛍光の変化を提供することができる。
【0072】
プローブがコアに直接的又は間接的に連結されている複数のプローブエレメントを含む実施形態において、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントの少なくとも1つのクエンチャーは、コアに対するプローブエレメントの近位端にあってもよく、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアは、コアに対するプローブエレメントの遠心端にあってもよい。したがって、酵素切断可能なペプチド配列が切断される場合、フルオロフォアは、クエンチャー及びコアから分離され、クエンチャーはコアに連結されたままである。
【0073】
或いは、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントの少なくとも1つのクエンチャーは、コアに対してプローブエレメントの遠心端にあってもよく、複数のプローブエレメント内の各々のプローブエレメントの少なくとも1つのフルオロフォアは、コアに対してプローブエレメントの近位端にあってもよい。したがって、酵素切断可能なペプチド配列が切断される場合、クエンチャーはフルオロフォア及びコアから分離され、フルオロフォアはコアに連結されたままであり得る。例えば、コアに連結されているフルオロフォアは自己消光する可能性はなく、クエンチャーがフルオロフォアの蛍光の消光に必要となり得る。
【0074】
複数のプローブエレメントの1つ又は複数は、少なくとも2つのフルオロフォアを含むことができる。少なくとも2つのフルオロフォアを含む複数のプローブエレメントの1つ又は複数を提供することにより、プローブのより高いシグナルノイズ比を提供することができ、複数のプローブエレメントの酵素切断可能なペプチド配列が切断される場合、より大きな蛍光シグナルを提供することができる。したがって、本発明のプローブが標的領域に適用される場合、MMPが存在しない標的領域とMMPが存在する標的領域との間で、より高いコントラストを得ることができる。
【0075】
プローブは、少なくとも2つのプローブエレメント、少なくとも3つのプローブエレメント、少なくとも4つのプローブエレメント、又は少なくとも5つのプローブエレメントを含むことができる。一実施形態において、プローブが少なくとも2つのプローブエレメントを含む場合、酵素切断可能なペプチド配列は配列番号1である。
【0076】
好ましくは、プローブは3つのプローブエレメントを含む。より多くのプローブエレメントでは、酵素切断可能なペプチド配列が切断される際、蛍光の増強がより大きくなる。
【0077】
プローブは、プローブが重合し得るように、重合可能な部分を含むことができる。したがって、プローブは重合可能なプローブであってもよい。重合可能な部分は、好ましくはエチレン系不飽和部分である。重合可能な部分は、好ましくは、重合可能な部分が、少なくとも1つのクエンチャーによって少なくとも1つのフルオロフォアの蛍光消光を妨げることのないように配置される。
【0078】
本発明の一実施形態において、重合可能なプローブは、溶媒の存在下で重合させてゲルを形成させることができる。例えば、重合可能なプローブは、水性媒体中で重合され、ヒドロゲルを形成することができ、重合されたプローブは、水によって膨張されたポリマーネットワークを形成する。ゲルは、追加の成分を含むことができる。追加の成分は、ゲルの1つ又は複数の特性を調節することができる。例えば、追加の成分がポロゲン(例えば糖)である場合、ゲルはより多孔性になる可能性があり、したがって、媒体はゲル全体に容易に分散し得る。したがって、重合可能なプローブ及びポロゲンを含むゲルは、ゲルの表面積を増加させ、より高い濃度のMMPがゲルに浸透するようになり、重合されたプローブの酵素切断可能なペプチド配列の切断が可能になる。
【0079】
重合可能なプローブは、1つ又は複数の追加のモノマーと重合してポリマー組成物を形成することができる。1つ又は複数の追加のモノマーとしては、スチレン、メチルメタクリレート、エチレングリコールジアクリレート、アクリルアミド等を挙げることができる。1つ又は複数の追加のポリマーは、構造強度、可撓性、多孔性等のポリマー組成物に望ましい特性を提供することができる。
【0080】
重合可能なプローブは、1つ又は複数のイニシエーター、通常、テトラメチルエチレンジアミン(TEMED)及び過硫酸アンモニウム、TEMED及び過硫酸カリウム、又はTEMED及びリボフラビンで重合させることができる。
【0081】
1つ又は複数の追加のポリマーは、重合可能なプローブに支持体として作用し得る。
【0082】
本発明の第2の態様によれば、標的ゾーンのMMP活性を検出する方法であって、
a. 第1態様に記載のプローブを標的ゾーンに適用する工程と;
b. 適切な波長の光で標的ゾーンを照射してプローブのフルオロフォアを励起させる工程と;
c. プローブの蛍光強度を決定する工程と
を含み、
プローブのフルオロフォア又は各々のフルオロフォアの有意な蛍光が、標的ゾーンにおけるMMPの存在を示す、方法が提供される。
【0083】
標的ゾーンにおけるMMPの存在の検出は、線維症、肝硬変、がん及び関節炎等の症状の診断で使用することができる。
【0084】
用語「有意な蛍光」とは、本発明者らは、プローブのクエンチャーからフルオロフォアを十分に分離して、クエンチャーがバックグラウンド上のフルオロフォアの蛍光、又は存在する場合、標的領域における自己蛍光を消光することが防止された、フルオロフォアの蛍光を意味する。標的領域内の固有の細胞又は組織の自己蛍光は、第1プローブのフルオロフォアよりも短い蛍光寿命を有し得る。標的領域内の固有の細胞又は組織の自己蛍光は、プローブのフルオロフォアよりも速い速度で経時的に低減し得る。したがって、標的領域で観察された経時的にゆっくりと減衰する蛍光は、プローブを示し得る。また、標的領域で観察された経時的に速く低減する蛍光は、自己蛍光を示し得る。
【0085】
したがって、本方法は、標的ゾーンの蛍光強度をある期間にわたって決定する工程と、その期間にわたって蛍光の減衰率を決定する工程と、減衰率が遅いその蛍光の蛍光強度を決定する工程を含み、減衰率が遅い蛍光がプローブの蛍光に対応する。
【0086】
好ましくは、MMPは、MMP-2、及び/又はMMP-9及び/又はMMP-13である。好ましくは、MMPは、MMP-9及び/又はMMP-13である。
【0087】
当技術分野で公知の光プローブを使用してMMPの活性を決定する方法は、異なる様々なタイプのMMPを、例えば、MMP-1、MMP-3及びMMP-8に対してMMP-2、MMP-9及びMMP-13等を識別することは困難である。いくつかのタイプのMMPだけが、いくつかの疾患、例えば、線維症、がん及び関節炎等において過剰発現されることが明らかになっている。例えば、MMP-2、MMP-9及びMMP-13は、線維症組織で過剰発現されることが明らかになっている。したがって、例えば、MMP-2、MMP-9及びMMP-13を特異的に検出する方法を提供することにより、他の関連酵素の存在下においてMMP-2、MMP-9及びMMP-13を過剰発現する疾患を特異的かつ確実に検出することができる。
【0088】
プローブの少なくとも1つのフルオロフォアは、標的ゾーンの配置に応じて選択され得る。例えば、標的ゾーンが対象の皮膚上で、又は対象の肺内等で直接観察することができる場合、少なくとも1つのフルオロフォアは、スペクトルの可視領域で蛍光を発するように選択することができる。標的領域が皮膚又は組織を通って観察される場合、少なくとも1つのフルオロフォアは、プローブの蛍光が皮膚又は組織によって有意に吸収されないようにスペクトルの赤外領域で蛍光を発するように選択することが可能であり、それによって、組織の皮膚を通して観察することができる。例えば、少なくとも1つのフルオロフォアは、近赤外線(600nm〜950nmの間の蛍光波長)で蛍光を発するように選択され得る。赤外線撮像技術は、当業者には周知である。
【0089】
標的ゾーンは、対象内の組織の一部であってもよく、本方法はin vivoで実施することができる。組織の一部は、例えば、対象の心臓、肺、肝臓、結合組織、皮膚、腸又は関節の一部であり得る。例えば、標的ゾーンは、対象の肺の一部であってもよい。更に、本発明の方法は、循環系、神経系、消化器系又は生殖器系において実施することができる。
【0090】
標的ゾーンは、細胞培養物、生検試料等の組織試料、又は体液試料等の液体試料の一部であってもよい。
【0091】
標的ゾーンは、標的領域であってもよい。標的ゾーンは、標的量であってもよい。
【0092】
したがって、本発明の方法は、in vivoで、ex vivoで、又はin vitroで実施することができる。
【0093】
本発明のプローブは、当技術分野で公知の任意の手段によって標的ゾーンに送達することができる。例えば、本発明のプローブは、内視鏡、スプレー、注射、局所的又は摂取によって送達することができる。例えば、プローブが肺の一部に送達される場合、プローブは気管支鏡等の内視鏡を使用して標的ゾーンに送達することができる。
【0094】
プローブのフルオロフォアを励起するのに好適な波長の照明光は、当技術分野で公知の任意の従来の手段によって標的ゾーンに送達され得る。典型的には、プローブが対象の体内で使用される実施形態において、光は、光ファイバー等の手段によって送達される。標的ゾーンにおけるプローブからの蛍光は、光ファイバー等によって収集することができる。標的ゾーンのプローブからの蛍光は、照明光を送達したのと同じ光ファイバーによって収集されてもよい。収集された蛍光は、典型的には、電荷結合素子(CCD)等の記録装置に送られる。或いは、標的ゾーンのプローブからの蛍光は、CCD等の記録装置によって直接収集することができる。例えば、標的ゾーンにプローブを送達すること、標的領域に光を送達すること、及び標的ゾーンから蛍光を検出することである。或いは、個々の機器を使用して、標的領域にプローブを送達し、標的ゾーンに光を送達し、標的領域からの蛍光を検出することができる。
【0095】
例えば、蛍光は、ファイバー共焦点蛍光顕微鏡(fCFM)を使用して、標的領域の組織から検出することができる。
【0096】
またフルオロフォアは、光音響フルオロフォアであってもよい。光音響フルオロフォアは、強い照明によって、例えばフルオロフォアの吸収範囲に調整されたレーザーによって励起された場合、超音波を生成する。その後、生成された超音波を検出することができる。光音響フルオロフォアを含むプローブは、マルチスペクトル光音響トモグラフィ(MSOT)によって照射及び検出され得る。MSOTは、複数の波長の光パルスで標的ゾーンを照射し、パルスに応じて光音響フルオロフォアを取り囲んでいる環境の熱弾性膨張によって生成された音波を検出する。
【0097】
好ましくは、対象はヒト対象である。しかし、対象は、非ヒト動物、例えば、ウマ、ヒツジ、ウシ、イヌ、ネコ又は齧歯類であってもよい。
【0098】
標的ゾーンが対象の肺の一部である実施形態において、標的領域におけるMMPの存在は、標的ゾーン内の線維症を示し得る。
【0099】
MMPを検出するための当技術分野で公知の光プローブは、典型的には、in vivoで、又は他のプロテイナーゼが存在する試料、例えば、組織溶解産物又は体液の試料等の中で安定性が低く、そのため、MMPの信頼性の高い検出を提供することができない。例えば、光プローブは、対象の肺の中で急速に崩壊し、肺におけるMMPのあらゆる有意な検出を妨げることが観察されている。したがって、信頼性の高いデータを得ることができるように、in vivoで十分に安定しているプローブを使用して標的領域のMMPを検出する方法を提供することで、MMPのin situ検出が可能になり、その結果、疾患のある局所的領域でMMPの過剰発現が生じる疾患を検出することができる。したがって、侵襲的手順は回避することができる。
【0100】
標的ゾーンが対象の関節にある実施形態において、標的ゾーンにおけるMMPの存在は、標的領域の関節炎を示し得る。例えば、標的ゾーンにおけるMMPの存在は、変形性関節炎又は慢性関節リウマチを示し得る。
【0101】
標的ゾーンにおけるMMPの存在は、標的領域の悪性新生物を示し得る。標的ゾーンにおける低レベルのMMPは、標的ゾーンにおける良性新生物を示し得る。したがって、本態様の方法は、新生物又は腫瘍の性質を決定する方法であり得、新生物又は腫瘍の性質を、生検等の侵襲的手法を必要とすることなく、視覚的に決定することができる。
【0102】
標的ゾーンにおけるMMPの存在は、がん性組織と正常組織との間の境界を示し得る。腫瘍の程度を任意の精度で視覚的に決定することは現時点では不可能であり、このため、腫瘍を外科手術によって除去する場合、全腫瘍を確実に除去しようと目視で明らかな腫瘍及び周囲組織が除去されている。これは、必要以上に多くの組織が切除され、又は腫瘍の一部が切除されない可能性がある。したがって、本態様の方法は、標的ゾーンにおける腫瘍の検出を可能にし、腫瘍の境界の決定を可能にし、その結果、最低限の量の組織を外科手術によって切除することができるため、全腫瘍切除の可能性を最大限にしつつ、対象への外傷を最小限にすることができる。
【0103】
本発明は、第3の態様において、組織の一部を評価する方法にも及び、本方法は、
a. 第1の態様に記載のプローブを組織の一部に適用する工程と;
b. 適切な波長の光で組織の一部を照射してプローブのフルオロフォアを励起させる工程と;
c. プローブの蛍光強度を決定する工程と
を含み、
プローブの有意な蛍光が組織の一部におけるMMPの存在を示し、組織の一部におけるMMPの存在が、MMPが発現又は過剰発現される疾患を示す。
【0104】
プローブの有意な蛍光は、組織の一部における活性MMPの存在を示し得る。組織の一部におけるMMPの存在は、MMPが活性化されている疾患を示し得る。
【0105】
好ましくは、MMPは、MMP-2、及び/又はMMP-9及び/又はMMP-13である。好ましくは、MMPは、MMP-9及び/又はMMP-13である。
【0106】
組織の一部は、例えば、生検等によって対象から除去された組織試料の一部であってもよく、また本方法はin vitroで実施することができる。組織の一部は対象の一部であってもよく、また本方法はin vivoで実施することができる。例えば、組織の一部は、肺、心臓、肝臓、皮膚、結合組織又は関節の一部であり得る。
【0107】
疾患は線維症であってもよく、また組織の一部は線維症組織を含んでいてもよい。疾患はがんであってもよく、また組織の一部は腫瘍又は新生物を含んでいてもよい。疾患は関節炎であってもよい。
【0108】
組織の一部におけるMMPの存在の決定によって、対象が進行中の線維増殖を有するか否かを臨床医が決定することができる。組織の一部におけるMMPの活性の決定によって、対象が進行中の線維増殖を有するか否かを臨床医が決定することができる。したがって、本方法は、対象が線維症を有するか否か、又は臨床的に進行中の線維症を有する否かを決定する方法であり得る。組織の一部におけるMMPの存在の決定によって、対象ががんを有するか否かを臨床医が決定することができる。したがって、本方法は、対象ががんを有するか否かを決定する方法であり得る。組織の一部におけるMMPの存在の決定によって、対象が関節炎を有するか否かを臨床医が決定することができる。したがって、本方法は、対象が関節炎を有しているか否かを決定する方法であり得る。組織の一部におけるMMPの存在の決定によって、対象が肝硬変を有するか否かを臨床医が決定することできる。したがって、本方法は、対象が肝硬変を有しているか否かを決定する方法であり得る。
【0109】
第1の態様及び第2の態様の好ましい任意選択の特徴は、第2の態様の好ましい任意選択の特徴である。
【0110】
いくつかの実施形態において、組織の一部は、新生物又は腫瘍を含むことが知られている。プローブに有意な蛍光が欠如しているのは、良性新生物を示し得る。プローブの有意な蛍光は、悪性新生物を示し得る。
【0111】
蛍光プローブの配置は、がん性組織と正常組織との間の境界を示し得るため、本発明の方法は、がん性組織の程度を決定することができる。したがって、外科的切除のための組織の適切な部分を決定することができ、それによって、がん性組織のすべてが切除される機会を最大限にしつつ、最小限の組織を切除することができる。
【0112】
本発明の第4の態様によれば、第1の態様に記載のプローブを適切な希釈剤又は緩衝液中に含むパーツのキットが提供される。
【0113】
本発明の実施形態を、添付の図面を参照して、非限定的な例としてここで説明する。
【図面の簡単な説明】
【0114】
図1】プローブ蛍光(励起485nm/発光528nm)を、マリマスタット(20μM)の非存在下又は存在下において、MMP-9(30nM)を用いてすべてのFRETモノマー(10μM)について測定した図である。
図2】プローブ蛍光(励起485nm/発光528nm)を、エラスターゼ(30nM)の非存在下及び存在下において、すべてのFRETモノマー(10μM)について5分後に測定した図である。
図3A】プローブ蛍光(励起485nm/発光528nm)を、MMP(30nM)を用いてFRETモノマー(10μM)について測定した図である。プローブSVC-24:FAM-PEG2-G-P-K-G-L-K-G-K(MR)-NH2である。(赤色の点線は、各プローブのバックグラウンド蛍光を示す)。
図3B】プローブ蛍光(励起485nm/発光528nm)を、MMP(30nM)を用いてFRETモノマー(10μM)について測定した図である。プローブSVC-25(対照):FAM-PEG2-G-P-K-G-(D)L-K-G-K(MR)-NH2である。(赤色の点線は、各プローブのバックグラウンド蛍光を示す)。
図4】3つのプローブエレメントを含む本発明の実施形態に記載のプローブが、MMP-9及びMMP-13の存在下でどのように蛍光を発するかを示した図である。
図5-1】本発明の実施形態に記載のプローブの例の概略図である。
図5-2】本発明の実施形態に記載のプローブの例の概略図である。
図5-3】本発明の実施形態に記載のプローブの例の概略図である。
図6】プローブバックグラウンド:MMPプローブに関するバックグラウンド蛍光シグナルを示す図である。10μMのプローブをMMP緩衝液中で37℃にてインキュベートし、励起/発光485/528nmで蛍光計(Synergy H1 Hybrid Reader、BioTek instruments社)により評価した。シグナルは、6分後に相対蛍光ユニットとして示された。足場構造とフルオロフォア及びクエンチャーの数/位置は、消光率において、したがって蛍光性バックグラウンドシグナルにおいて重要な影響を有する。
図7】プローブA、プローブB及びプローブCの概略図である。
図8-1】FRET分枝状プローブA及びBの酵素特異性を示す図である。データは、励起/発光485/528nmでマルチウェルプレート蛍光計(Synergy H1 Hybrid Reader, BioTek instruments社)を使用し、外因性酵素を用いてプローブ(10μM)によって提供されるバックグラウンドシグナルに対する蛍光の平均倍差を表す。組換えヒト触媒ドメインMMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MMP-10、MMP-11、MMP-12及びMMP-13は30nMで使用した。組換えヒトトロンビン、プラスミン及び第Xa因子は、それぞれ、5U/ml、30nM、0.5μMで使用した。
図8-2】FRET分枝状プローブCの酵素特異性を示す図である。
図9】プローブA及びプローブBに対する標的阻害によるプローブ特異性を示す図である。データは、励起/発光485/528nmでマルチウェルプレート蛍光計を使用し、30分後にプローブ(1μM)によって提供される蛍光シグナルを示す。標的酵素を検出する分子プローブの特異性及び能力を確認するために、プローブ蛍光(切断によって開始される)を、阻害剤を含む/含まない酵素の存在下において測定した。阻害剤のマリマスタット(pan-MMP阻害剤)、AZD1236(MMP-2/9阻害剤)、阻害剤I(MMP-9阻害剤)は200nMで使用した。
図10】MMP-9活性の分子プローブ検出のex vivo分析を示す図である。MMP-9阻害剤の存在下又は非存在下における、ヒツジザイモグラフィー(A)、ヒトザイモグラフィー(B)である。
図11-1】ヒツジ肺における分子プローブを使用したMMP-9活性のex vivo分析を示す図である。蛍光データは、「正常セグメント」(%)からの増加として示した。ヒツジ線維症肺組織生検は、ヒツジ肺腺癌(OPA)から取得した。
図11-2】ヒツジ肺における分子プローブを使用したMMP-9活性のex vivo分析を示す図である。
図12-1】ヒト肺における分子プローブを使用したMMP-9活性のex vivo分析を示す図である。蛍光データは、「正常セグメント」(%)からの増加として示した。
図12-2】ヒト肺における分子プローブを使用したMMP-9活性のex vivo分析を示す図である。
図13】分子プローブA及びBの溶血アッセイを示す図である。分子プローブの溶血活性は、ヒト赤血球において評価した。
図14】本発明の一実施形態に記載のプローブの例を示す図である。プローブは、実質的に消光されていない1つのレポーターフルオロフォアとFRETペアを含む。
図15】FRETモノマーAMF-92と比較した重合可能なプローブSVC-180(SVC-01-180)の酵素特異性を示す図である。
図16】プローブSVC-180(SVC-01-180)の重合したヒドロゲルによるMMP-9活性の検出のex vivo分析を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0115】
本発明の様々な実施形態の作製及び使用を以下に詳細に説明するが、本発明は、広範囲の特定の文脈において具体化することができる多くの適用可能な本発明に係る概念を提供するものと理解されたい。本明細書で論じている特定の実施形態は、本発明を作製及び使用するための特定の方法に関する単なる例示であり、本発明の範囲を限定するものではない。
【0116】
本発明の理解を容易にするために、いくつかの用語を以下に定義する。本明細書で定義されている用語は、本発明に関連する分野の当業者によって一般に理解される意味を有する。「1つの(a)」、「1つの(an)」及び「その(the)」等の用語は、単数の実体のみを意味することを意図するものではなく、特定の例の例示に使用することができる一般的なクラスが含まれる。本明細書における用語は、本発明の特定の実施形態を説明するために使用されているが、それらの使用は、特許請求の範囲に記載されている場合を除き、本発明を限定するものではない。
【0117】
MMP-2/9基質としての酵素切断可能なペプチド配列の最適化
MMP-2/9活性を最適に測定するための分子プローブ配列の生成:
最初の活性化可能なプローブは、標的酵素によって切断可能なアミノ酸配列(酵素切断可能なペプチド配列として作用する)に結合されているフルオロフォア及びクエンチャーを含有する。不活性状態においては、フルオロフォア部分からの発光は、蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)によってクエンチャーに吸収されるが、標的酵素の存在下においては、アミノ酸配列が切断され、クエンチャーからフルオロフォアが分離されることによって、蛍光の顕著な増加が生じる。
【0118】
最初の基質G-P-K-G-L-K-G(配列番号1)は、プロテオミクス研究[Mol. and Cell. Proteomics 2010, 9, 894-911]に従って選択した。
【0119】
フルオロフォア(供与体)としてのFAM(カルボキシフルオレセイン)及びクエンチャー(受容体)としてのメチルレッド(MR)及び様々なペプチド配列を含有するプローブのライブラリー(下記のTable 2(表2)に列挙)は、手動標準固相Fmocペプチド化学(下記に記載)によって合成した。プローブのMMPに対する特異性は、MMP-9の存在下において、またMMP阻害剤マリマスタットの非存在下又は存在下において、プローブの蛍光を測定することにより評価した。結果を図1に示す。
【0120】
【表2】
【0121】
肺疾患に関連する別のプロテイナーゼであるエラスターゼに対するMMPを検出するために、プローブの選択性を、更なるプローブAMF-14b、SVC-030(両方とも下記のTable 6(表6)に定義)及びSVC-068(下記のTable 4(表4)に定義)と共に試験し、すべてのプローブについての結果を図2に示す。
【0122】
リードプローブの外因性酵素との酵素特異性は、励起/発光485/528nmでマルチウェルプレート蛍光計を使用して試験した(Table 3(表3))。組換えヒト触媒ドメインMMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13は30nMで使用した。各配列の切断部位は、イタリック体で示している。プローブSVC-24については、結果をSVC-24cとして図3Aに示している。プローブSVC-025については、結果をSVC-25bとして図3Bに示している。
【0123】
【表3】
【0124】
蛍光の増加がMMP-9で観察され、部位特異的切断は、MALDIによって明らかにされたように、すべての配列に対して確認された。試験した他のMMPは、同じ切断部位を共有していた。切断部位にD-アミノ酸を有する対照プローブ(配列-G-P-K-G-(D)L-K-G-及び-P-F-G-(D)M-K-βA-を含有する)を試験したところ、蛍光の増加は観察されなかった。
【0125】
マリマスタットを使用した蛍光シグナルの特異的阻害は、すべてのプローブで成功した。本発明者らの用途に最適なプローブを選択するため、追加のパラメーターを特性決定し比較した。他の関連酵素(トロンビン、エラスターゼ)、マクロファージ及び気管支肺胞洗浄液(BALF)の存在下における蛍光の増加も測定し、選択基準として使用した。切断部位にメチオニンを含有するプローブに関する結果が陽性であるにもかかわらず、これらのプローブは、硫化物の酸化によって引き起こされる潜在的な安定性の問題があるため回避した。また最良のプローブは、-G-P-K-G-L-K-G-K(MR)-(配列番号15)及び-P-F-G-Nle-K-βA-K(MR)-(配列番号16)のマリマスタットによる特異的切断及び阻害のみを確認するヒト組織ホモジネートを用いるex vivoアッセイにおいて評価した。いずれの場合にも、MMPによって特異的に切断される酵素切断可能なペプチド配列を太字で示す。すべてのアッセイは、in vivoでプローブを適用する際に確認される主たる障害の1つである、特異性及びin vivoでの安定性が低いことによって最終MMPプローブに有効性がないことを解消するため、FRETモノマー(すなわち、FRETモノマーは1つのプローブエレメントを含む)を使用して実施した。
【0126】
フルオロフォア(供与体)としてFAM(カルボキシフルオレセイン)、クエンチャー(受容体)としてのメチルレッド(MR)及び様々なペプチド配列を含有する対照プローブを下記のTable 4(表4)に列挙している。対照プローブは、手動標準固相Fmocペプチド化学(以下に記載)によって合成した。SVC-068は、SVC-01-16の酸化型であり、これは切断可能な配列中にメチオニンを含有する。SVC-01-16を酸化するとS=O基が導入される。酸化された切断可能な配列がMMPによって認識されなかったことは、図2から明白である。
【0127】
【表4】
【0128】
水性可溶性分子プローブの合成:選択した2つの配列A及び配列Bを、エチレングリコールユニット及びLys残基が隣接する新しいプローブに実装し、溶解性を高めた。代替のD-Lys及びPEGユニットで良好な結果が得られた。
【0129】
いくつかの構造上の修飾を実施してプローブの溶解性を改善し、使用するのに最適なフルオロフォア及びクエンチャーを決定した。
【0130】
溶解性:親水性基/疎水性基又は荷電基からなる様々なリンカー/スペーサー組成物:エチレングリコールユニット(PEG)、L-リジン、及び代替のエチレングリコールユニット(PEG)及びD-リジンを生成した。リンカーは化合物の水溶性を改善する。非天然D-アミノ酸が存在すると、化合物のin vivoでの安定性が改善され、化合物がタンパク質分解に対して耐性を有するようになる。更に、これは、プローブの構造及び機能に対するリンカーの効果をより深く理解させた。
【0131】
フルオロフォア及びFRETシステムの増大:FAM、Cy5及びカルボキシナフトフルオレセイン(NF)を含む様々なフルオロフォア、並びにクエンチャー(MR、BHQ-1/3及びQSY-21)を最適化した配列で標識し、低有効プローブ濃度で低レベルのMMPを検出することができるより高いシグナルノイズ比を得る目的で、プローブの範囲を、限定するものではないが、近赤外線領域に拡張する(すなわち、約0.75〜1.4μmの波長を有する放射線を発するプローブ)とともに、基準色素となるように意図された追加の標識を導入することにより非特異的活性化を除外する(例えば、図13を参照)。構造の例を以下のTable 5(表5)に示すが、式中、「-k-」は「-(D)-リジン」を表す。
【0132】
以下のTable 5(表5)のプローブSVC-01-180は、エチレン系不飽和モノマー部分を含有する重合可能なプローブである。これは、水の存在下で重合してヒドロゲルを形成することができるが、下記でより詳細に論じる。
【0133】
【表5】
【0134】
PEGユニットのブロックの有無にかかわらず認識部位配列にD-アミノ酸を構成する変異体を合成し、評価した。D-アミノ酸変異体、並びにペプチド配列の末端にPEG又はアセチルをブロックする基を有する変異体は、in vitroでMMPによる活性化の低減を示した。
【0135】
更にいくつかの構造上の修飾を実施してシグナルノイズ比を改善し、in vivoでのプローブの構造安定性を改善した。試験した構造を下のTable 6(表6)に示す。
【0136】
【表6】
【0137】
分枝状プローブ:様々なプローブ足場の設計、フルオロフォア位置の変化、フルオロフォア-クエンチャー間のスペーサーの長さ及び配置、又はプローブエレメント当たりのフルオロフォア(FAM)若しくはクエンチャー(メチルレッド、BHQ-1/3又はQSY-21)の数の増加を試験することより、シグナルノイズ比を増加させる。図4は、3つのプローブエレメント又は「分枝」を含むプローブがMMP-9又はMMP-13の存在下においてどのように蛍光を発するのかを示す。図5は、直鎖状プローブ(「FRETモノマー」)、3つのプローブエレメント(「3デンドリマー」、「6デンドリマー」及び「9デンドリマー」、ここで、数字はプローブ中のフルオロフォアの数の合計を示す)を含む分枝状プローブ、並びに、フルオロフォア及びクエンチャーを含む3つのプローブエレメント(「FRETデンドリマー」)を含む分枝状プローブを含む、いくつかの異なるプローブ構造の概略的な例を示す。
【0138】
配列番号7を多分枝状プローブ(すなわち、複数のプローブエレメントを含むプローブ)に導入し、アッセイの増幅性質を利用した。これらのプローブは、自己消光システム又はFRET消光システムとして設計した。これらのプローブは、親水性スペーサー及び酵素切断後に放出される(自己消光される)N末端フルオロフォアを含むMMP基質、並びに追加のメチルレッドを含む(FRET消光される)プローブからなる。これらのすべての化合物を用いて、スペーサー配置、フルオロフォアの異なる数及び位置(3、6又は9)、並びにメチルレッド部分(3又は6)の非存在又は存在によって引き起こされる効果を評価した。
【0139】
バックグラウンドシグナルの比較は、様々な構造に対して非常に異なる結果を示した。図7から明らかなように、概略的に示した3デンドリマーだけがMMPの非存在下においていくらかの有意なバックグラウンド蛍光を示し、大多数のプローブ構造のフルオロフォアが順調に消光されたことが示された。バックグラウンドシグナルにおける実質的な減少は、3ユニットから6ユニット又は9ユニットのFAMにした場合に自己消光プローブから観察されたが、最大消光効率は、FRETデンドリマープローブ(SVC-01-186)により達成された。
【0140】
また様々な化合物をMMP-9及びMMP-13の存在下における蛍光シグナルの倍数変化によって評価した。その結果をTable 7(表7)に示す。この比較から、配列番号1及び配列番号7を含むFRETデンドリマー(AMF-106及びSVC-186)を、配列番号7を含む9デンドリマー(SVC-196)と共に、更なる評価のため選択した。これらのデンドリマーは、図7においてプローブA(AMF-106)、プローブB(SVC-186)、プローブC(SVC-196)を示す。
【0141】
【表7】
【0142】
本発明者らは、各プローブエレメントに対して最大で3つのフルオロフォア又は2つのクエンチャーを含めることによって、FRETプローブ又は自己消光プローブの効果を評価及び検証するとともに、安定性及び特異性を増強するように設計したβ-アミノ酸変異体も用いてこれを評価した。
【0143】
本発明者らは、低い有効プローブ濃度で低レベルのMMPを検出することができるより高いシグナルノイズ比を得る目的で、一連の代替クエンチャー、メチルレッド、BHQ-1/3又はQSY-21を評価した。
【0144】
タンパク質分解及びプラスミン分解に対する特異性及び耐性を改善する
本発明者らは、プラスミン分解に感受性のある部位として、親SVC-01-024及びTWB-140化合物をMALDI分析することによって同定した選択位置にD-アミノ酸及びβ-アミノ酸が組み込まれている変異体を含むいくつかの化合物を評価した。また、アミノ酸構成を変えることなく分解を低減させるため、本発明者らは、アミノ末端及び/又はカルボキシ末端にPEGユニットを含む変異体を合成し、ペプチド配列の末端からの分解を阻止した。
【0145】
IC50が3〜5nMの範囲にあるいくつかの阻害剤について、プローブA及びプローブBと組み合わせて試験した。蛍光強度は、マリマスタットとのインキュベーション後に、有意に低下した。
【0146】
酵素を予め公知のMMP阻害剤とインキュベートした場合のノックダウンは、MMPによる選択的タンパク質分解活性がプローブ活性化の原因であることを実証している(図9)。
【0147】
本発明者らのプローブの有用性を評価する適切なモデルは、ヒツジ及びヒトの肺組織ホモジネート試料におけるMMP-9の発現を、ゼラチンザイモグラフィーを使用して測定することにより確立した(図10)。このモデルは、下記の「ex vivoアッセイにおける分子プローブ応答」の項目で、より詳細に論じる。
【0148】
すべての化合物について生物学的評価を実施した。安定性については、本発明者らは、0.9% NaCl(生理食塩水)又は急性肺障害罹患患者からプールされた洗浄液の存在下において各化合物を評価し、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化法(MALDI)又はフーリエ変換質量分析(FTMS)によって解析した。in vitroでの活性化は、化合物の存在下において肺組織試料を用いてベンチトップ共焦点で評価した。ex vivo及びin vivoでのヒツジ肺実験(図11)及びヒト肺組織実験(図12)については、各化合物を対照肺部分(2mlのPBSを注入したもの)又は線維症/がん部分において評価し、化合物を目的の部分に投与して、これをプローブベースのfCFMによって画像化した。
【0149】
様々なMMPプローブ変異体の評価は、肺環境におけるプローブの機能に影響を及ぼす様々な機序的因子を示した。また、すべてのMMPプローブ変異体のうちSVC-01-186(プローブB)のみが肺においてMMP-2/9/13の存在下において活性化され、プラスミン環境において安定している理由を詳細に明らかにした。
【0150】
代替の足場は、この用途のためのSVC-01-186、SVC-01-196及びAMF-106の設計よりも劣っていた。C末端付近に2つのフルオロフォアを有するプローブ変異体(SVC-01-198)は、MMPによる活性化の際に極端に低い強度を示し、追加のクエンチャー(SVC-01-187)の存在により、シグナルノイズ比はそれ以上改善されなかった。
【0151】
in vitroでの生物学的試験:リード分子プローブの特異性
選択した3つのプローブ(A:AMF-106、B:SVC-186 B、及びC:SVC-196)を、MMPファミリーの他のメンバー(MMP-1、MMP-2、MMP-3、MMP-7、MMP-8、MMP-9、MMP-10、MMP-11、MMP-12、MMP-13)、並びにトロンビン、プラスミン及び第Xa因子を含めて、in vitroでの新しい実験において評価した。その結果を図8に示す。プローブA(AMF-106)及びプローブB(SVC-01-186)は、シグナルノイズ(バックグラウンドを超える倍数変化)が低く、選択性が低いプローブCに比べ、MMP-2/9に対する良好な選択性を示した。プローブAはプラスミン感受性であるが、プローブBはプラスミン耐性である。プラスミン切断部位を同定し、これらの位置でD-aaと置き換える耐性型を作製しようと試みたが成功しなかった。
【0152】
ヒトMMP-2、MMP-9、MMP-13及びプラスミンに対する分子プローブ特異性の酵素動態。速度定数KM及びVmaxをプローブA及びプローブBについて計算した(以下のTabel 8(表8))。
【0153】
【表8】
【0154】
プローブの検証:
IC50が3〜5nMの範囲にあるいくつかの阻害剤について、プローブA及びプローブBと組み合わせて試験した。その結果を図9に示す。AZD1236及びヒドロキサマート系のMMP阻害剤、例えばMMP-9-阻害剤I又はマリマスタットも使用した。マリマスタットは、すべての主要MMPの有効な広域スペクトル阻害剤であり、MMP-9及びMMP-2に対するIC50値が3nM及び6nMである、前臨床及び臨床開発に関して最も進んだMMP阻害剤の1つである[Pharmacol. Ther. Vol. 75, No. 1, pp. 69-75, 1997]。このグループの阻害剤は、MMP酵素の活性部位の亜鉛原子に結合するヒドロキサメート基を含有する。
【0155】
蛍光強度は、マリマスタットとのインキュベーション後に、有意に低下した。酵素を予め公知のMMP阻害剤とインキュベートした場合のノックダウンは、MMPによる選択的タンパク質分解活性がプローブ活性化の原因であることを実証している。
【0156】
ex vivoアッセイにおける分子プローブ応答
MMP-9の発現は、ヒツジ及びヒト肺組織ホモジネートのいくつかの試料において、ゼラチンザイモグラフィー(図10)を用いて阻害剤の存在下又は非存在下で分析した。様々な試料における可変量のMMP-9の存在が確認された後、事前に予測されたように、このホモジナイズした肺組織は本発明者らのプローブの有用性を評価するための適切なモデルと考えられた。
【0157】
更に、ヒト血液における溶血活性及び動物における毒性予備試験を分子プローブについて評価し、化合物の安全性及び非毒性を確認した(図13)。
【0158】
材料及び方法
全般
市販の試薬は、更に精製を行うことなく使用した。NMRスペクトルは、1時間500MHzで操作するBruker AC分光計を使用して記録した。化学シフトはppmのδスケールで報告し、残留の非重水素化溶媒の共鳴を標準としている。カラムクロマトグラフィーによる順相精製は、シリカゲル60(230〜400メッシュ)で実施した。分析逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)は、流速1mL/分で、Discovery C18逆相カラム(5cm×4.6mm、5μm)を装備したHP1100システムで実施し、H2O/CH3CN/HCOOH(95/5/0.1)からH2O/CH3CN/HCOOH(5/95/0.1)で6分間かけて溶出し、2分間、95%ACNで保持し、254nm、495nmで、蒸発光散乱により検出した。セミ分取RP-HPLCは、流速2.0mL/分で、Zorbax Eclipse XDB-C18逆相カラム(250×9.4mm、5μm)を装備したHP1100システムで実施し、H2O中0.1% HCOOH(A)及びCH3CN中0.1% HCOOH(B)を用いて、30分間かけて5〜95%のBの勾配と追加の5分間の均一溶媒で溶出した。エレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI-MS)分析は、ESIモードでAgilent Technologies LC/MSDシリーズ1100四重極質量分析計(QMS)において実施した。MALDIスペクトルは、H2O/CH3CN/TFA(50/50/0.1)中のシナピン酸(10mg/mL)のマトリックス溶液を使用し、Bruker Ultraflextreme MALDI TOF/TOFで得た。
【0159】
プローブの合成方法
直鎖状MMPプローブの合成(「FAM-PEG2-G-P-K-G-L-K-G-K(メチルレッド)-NH2」及び「FAM-PEG2-P-F-G-Nle-K-βA-K(MR)-NH2」)
【0160】
【化1】
【0161】
化合物1[FAM-PEG2-G-P-K-G-L-K-G-K(メチルレッド)-NH2(SVC-01-24)]断片は、約0.1M試薬濃度のペプチドグレードDMF中のDIC及びオキシマとの標準アミノ酸カップリングサイクルにより、Fmoc戦略を使用して固相上で合成した。Fmoc脱保護工程は、DMF中20%ピペリジンで実施した(2×5分)。各工程の間、樹脂をDMF、DCM及びMeOHで洗浄した。
【0162】
樹脂は、アミノメチルPS樹脂(1.6mmol/g、1% DVB、100〜200メッシュ)に付着させた4-[(2,4-ジメトキシフェニル)-(Fmoc-アミノ)メチル]フェノキシ酢酸(Rinkアミドリンカー)を使用して合成した。したがって、Fmoc-Rink-アミドリンカー(2.6g、4.8mmol)をDMF(16ml)に溶解し、HOBt(0.7g、4.8mmol)を添加し、混合物を10分間撹拌した。次いで、DIC(0.7ml、4.8mmol)を添加し、得られた混合物を更に5分間撹拌した。この溶液をアミノメチルポリスチレン樹脂(1g、1.6mmol/g)に添加し、2時間振盪した。得られた樹脂をDMF(3×10ml)、DCM(3×10ml)及びMeOH(3×10ml)で洗浄した。洗浄及びFmoc脱保護を行った後、Fmoc-PEG2-G-P-K-G-L-K-G-K(Dde)配列は、上記のように、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Leu-OH、Fmoc-Pro-OH及びFmoc-PEG2-OHを使用して合成した。
【0163】
FAM及びメチルレッド色素カップリング:Fmoc脱保護を行った後、5-カルボキシフルオレセイン(FAM)を、上記のようにN末端にカップリングさせた。配列が完了した後、Dde保護基をDMF中2%ヒドラジンで除去し(5×10分)、続いて、上記のようにしてLys側鎖にメチルレッドをカップリングさせた。カップリング反応は、ニンヒドリン試験によってモニターした(E. Kaiser, R. L. Colescott, C. D. Bossinger and P. I. Cook, Analytical Biochemistry, 1970, 34, 595-598)。
【0164】
スルホ-Cy5色素カップリング:スルホ-Cy5(1当量)をanh(無水)DMF(10mg/ml)中に含有する溶液を、N,N,N',N'-ビス(テトラメチレン)-O-(N-スクシンイミジル)ウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HSPyU)(1当量)及びDIPEA(3当量)と1時間、40℃で活性化させた。活性化が完了したら、この溶液をDIPEA(3当量)と共に樹脂に加え、室温(rt)で一晩振盪させる。溶液を排出し、無色の洗浄液になるまでDMF、DCM(3×5ml)及びMeOH(3×5ml)で樹脂を洗浄した。
【0165】
QSY21カップリング:QSY21-NHSエステル(1当量)を用いたN末端キャッピングは、DIPEA(3当量)を含有する無水DMF(0.1M)中、室温で12時間実施した。溶液を排出し、無色の洗浄液になるまでDMF、DCM(3×5ml)、MeOH(3×5ml)、最後にエーテル(3×5ml)で樹脂を洗浄した。
【0166】
切断する前に、樹脂を20%ピペリジンで洗浄し、すべてのフルオレセインフェノールエステルを除去した。洗浄後、断片をTFA-TIS-H2O(95:2.5:2.5)を用いて樹脂から切断し(90分)、冷エーテルで沈殿させてSVC-01-24を得た(MALDI-ToF m/z: 1538.1988、>95% HPLC純度、tR=6.357分)。
【0167】
上記の手順に従い、化合物2[FAM-PEG2-P-F-G-Nle-K-βA-K(MR)-NH2(AMF-025)]は、Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-β-Ala-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Nle-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Pro-OH、及びFmoc-PEG2-OHを使用して合成した後、FAM及びメチルレッドのカップリングを行った。洗浄後、断片をTFA-TIS-H2O(95:2.5:2.5)を用いて樹脂から切断し(90分)、冷エーテルで沈殿させて化合物2を得た(MALDI-ToF m/z:1514.6800;>95% HPLC純度、tR=6.330分)。
【0168】
【化2】
【0169】
【化3】
【0170】
手動ペプチド合成は、Rinkアミドリンカーを使用し、アミノメチル-ChemMatrix樹脂上で実施した。
【0171】
rinkアミドリンカーのカップリング:Fmoc-Rinkリンカー(4-[(R,S)-a-[1-(9H-フルオレン-9-イル)-メトキシ-ホルムアミド]-2,4-ジメトキシベンジル-フェノキシ酢酸(0.54g、1.0当量)をDMF(10mL)中に溶解させ、オキシマ(0.14g、1.0当量)を添加し、混合物を10分間撹拌した。次いで、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC、155μL、1.0当量)を添加し、溶液を1分間撹拌した後、アミノメチル-ChemMatrix樹脂(1.0g、1.0mmol/g)にそれを添加した。得られた混合物を50℃で45分間撹拌し、DMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。最後に、残っているすべての遊離アミノ基をキャッピングするため、樹脂をAc2O:Py:DMF(2:3:15)で30分間、室温にて処理し、再度それをDMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。樹脂ローディングは、その後約0.58mmol/gと計算された。
【0172】
Fmoc脱保護:一般に、DCM中で予め膨潤させた樹脂に、DMF中の20%ピペリジンを添加し、室温で撹拌した(2×10分)。溶液を排出し、樹脂をDMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。Fmoc脱保護がCy5含有ペプチド中で行われた場合、代わりにDMF中の2%DBU溶液(2×10分、室温)を使用した。
【0173】
アミノ酸カップリング:DMF(0.1M)中の適切なD-又はL-アミノ酸(アミン当たり3.0当量)及びオキシマ(3.0当量)の溶液を10分間撹拌した。DIC(3.0当量)を添加し、1分間撹拌した。次いで、予め活性化した混合物を、DCM中で予め膨潤させた樹脂に加え、反応物を50℃で30分間加熱した。溶液を排出し、DMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。カップリング反応と脱保護の反応の完了は、第二級アミンが含まれている場合、カイザー試験又はクロラニル試験によってモニターした。使用した側鎖保護基は、アルギニン、トリプトファン及びリジンに対してBocであった。Fmoc-Lys(Dde)-OHは、色素を導入するオルトゴナル性試薬(orthogonal reagent)として使用した。
【0174】
他のカルボン酸のカップリング:{2-[2-(Fmoc-アミノ)エトキシ]エトキシ}酢酸(PEG)、5-カルボキシフルオレセイン(FAM)及びFmoc-Lys(N3)-OHのカップリングは、アミノ酸カップリングについて記載したのと同様の手順に従って実施した。
【0175】
Dde脱保護:DCM中で予め膨潤させた樹脂にDMF中の2%ヒドラジンを加え、室温で撹拌した(5×10分間)。溶液を排出し、樹脂をDMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。
【0176】
メチルレッド-NHSカップリング:固相でのメチルレッド-NHSエステル(1当量)カップリングは、DIPEA(3当量)を含有する無水DMF(0.1M)中、室温で12時間実施した。溶液を排出し、無色の洗浄溶液になるまで、樹脂をDMF、DCM(3×5mL)、MeOH(3×5mL)、最後にエーテル(3×5mL)で洗浄した。
【0177】
切断及び精製:DCM中で予め膨潤させた樹脂を、TFA:トリイソプロピルシラン(TIS):水(95:2.5:2.5)の切断カクテルで、3時間室温にて処理した。反応溶液を排出し、樹脂を再度、切断カクテルで洗浄した。合わせた溶液を冷エーテルに対して沈殿させ、遠心分離を行い(×3)、C18セミ分取カラムでRP-HPLCにより精製した。生成物を含有する所望の画分を収集し、凍結乾燥し、化合物AMF-209を取得し、これをMALDI及び分析用HPLCで特性決定した:tR=4.174分、C127H187N28O33に関するMALDI計算値[M+H]+:2634.056;実測値:2634.031。
【0178】
スルホ-Cy5-アルキンの合成:スルホ-Cy5-カルボン酸(75mg、0.11mmol)を無水DMF(8mL)に溶解させた。HSPyU(46mg、0.11mmol)及びDIPEA(58μL、0.33mmol)を添加し、混合物を40℃で1時間撹拌した。プロパルギルアミン(30mg、0.55mmol)をDIPEA(58μL、0.33mmol)と共に添加し、反応物を一晩撹拌した。溶媒を真空下で除去した。カラムクロマトグラフィー(10:1 ACN-H2O)により精製したところ、濃青色の固体(55mg、70%)として化合物スルホ-Cy5-アルキンが得られた。1H-NMR (500 MHz, DMSO-d6) δ: 9.28 (t, J = 5.5 Hz, NH), 9.23 (d, J = 2.3 Hz, 1H), 8.47 (s, 1H), 8.44 (s, 1H), 8.38 (dd, J = 8.1, 2.3 Hz, 1H), 7.84 (s, 2H), 7.64 (m, 3H), 7.32 (d, J = 8.3 Hz, 2H), 5.84 (m, 2H), 4.15 (dd, J = 5.5, 2.5 Hz, 2H), 3.34 (s, 6H), 3.20 (t, J = 2.5 Hz, 1H), 1.78 (s, 12H); 13C-NMR (125 MHz, , DMSO-d6) δ: 174.2, 164.2, 157.3, 152.2, 149.0, 145.6, 142.4, 140.4, 135.9, 127.6, 125.8, 125.2, 119.7, 110.2, 100.7, 80.9, 73.0, 49.0, 31.0, 28.4, 26.7; MS (ES)+ m/z 701 [M]+; HPLC tR 3.921分 (GE10).
【0179】
【化4】
【0180】
スルホ-Cy5-アルキンによる標識:スルホ-Cy5-アルキン(AMF-208)とアジド-FRETペプチド(AMF-209)との間のクリック反応は溶液相において実施した:エッペンドルフチューブ中で、以下の水性試薬:アジド-ペプチド(AMF-209)(50μL、10mM)、スルホ-Cy5-アルキン(AMF-208)(50μL、30mM)、予混合したCuSO4及びTHPTA(40μL CuSO4 20mM及び80μL THPTA 50mM)、塩酸アミノグアニジン(250μL、100mM)及び最後にアスコルビン酸ナトリウム(250μL、100mM)を混合した。クリックケミストリー反応は、30℃で5時間進行させ、反応混合物を凍結乾燥し、HPLCによって精製したところ、最終的なFRETplus MMPプローブのAMF-210が得られ、これをMALDI及び分析用HPLCによって特性決定した:AMF-210:HPLC tR=3.921分、C163H223N32O40S2に関するMALDI計算値[M]+:3334.880;実測値:3334.398。
【0181】
分枝状デンドリマー足場の合成:デンドリマー足場は、国際公開第2012/136958 A2号パンフレット(Aslam et al.)に報告されている先行技術に従って合成した。
【0182】
モノマー(V)の合成
モノマー(V)の調製が必要とされる多価プローブ合成は、スキーム3で示したように、6工程で合成した(M. Ternon, J. J. Diaz-Mochon, A. Belsom, M. Bradley, Tetrahedron, 2004, 60, 8721)。モノマー(V)は、アクリロニトリルに1,1,1-トリ(ヒドロキシメチル)アミノ-メタンのヒドロキシ基を1,4付加し、続いてアミノ基保護(Boc)を行うことによって調製した。PtO2/H2でニトリル基を還元することにより(III)が得られ、これをDdeOHで処理し、tris-Dde保護アミン(IV)を得た。Boc保護基を除去した後、イソシアネート(V)をKnolkerの手順に従って調製した(H. J. Knolker, T. Braxmeier, G. Schlechtingen, Angew. Chem. Int. Ed., 1995, 34, 2497)。
【0183】
Fmoc-RinkアミドChemMatrix樹脂(VI):
ペプチド合成は、アミノメチル-ChemMatrix樹脂で、4-[(2,4-ジメトキシフェニル)-(Fmoc-アミノ)メチル]フェノキシ酢酸(Rinkアミドリンカー)を使用し、手順に従って実施した。したがって、Fmoc-Rink-アミド(0.54g、1.0当量)をDMF(10mL)に溶解させ、オキシマ(0.14g、1.0当量)を添加し、混合物を10分間撹拌した。次いで、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC、155μL、1.0当量)を添加し、溶液を1分間撹拌した後、アミノメチル-ChemMatrix樹脂(1.0g、1.0mmol/g)にそれを添加した。得られた混合物を50℃で45分間撹拌し、DMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。最後に、残りのすべての遊離アミノ基をキャッピングするため、樹脂を室温で30分間、Ac2O:Py:DMF(2:3:15)で処理し、DMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で再度洗浄した。樹脂ローディングは、その後、約0.58mmol/gと計算された。カップリング反応は、上記で論じたように、ニンヒドリン試験によってモニターした。
【0184】
プローブは、Fmoc-Rinkアミドタイプリンカーで誘導体化したChemMatrix樹脂で合成した(スキーム3)。リンカー(VI)をモノマー(V)にロードし、三分枝状の足場(VII)を得た。適切なFmoc-スペーサー(ペグ化)、Fmoc-可溶化剤(D-アミノ酸)及び特異的配列を順次カップリングし、続いてFAMを付着させた。Dde基の除去後(DMF中2%ヒドラジン)、メチルレッドNHSエステル(MR-NHS)をカップリングし、樹脂をDMF中20%ピペリジンで洗浄し、その後、TFA/TIS/DCM(90/5/5)を使用してプローブを樹脂から切断した。
【0185】
【化5】
【0186】
Fmoc Rink-アミドリンカー
ペプチド合成は、アミノメチル-ChemMatrix樹脂で、Rinkアミドリンカーを使用し、手順に従って実施した。Fmoc-Rink-アミド(0.54g、1.0当量)をDMF(10mL)に溶解させ、オキシマ(0.14g、1.0当量)を添加し、混合物を10分間撹拌した。次いで、ジイソプロピルカルボジイミド(DIC、155μL、1.0当量)を添加し、溶液を1分間撹拌した後、アミノメチル-ChemMatrix樹脂(1.0g、1.0mmol/g)にそれを加えた。得られた混合物を50℃で45分間撹拌し、DMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。最後に、残りのすべての遊離アミノ基をキャッピングするため、樹脂を室温で30分間、Ac2O:Py:DMF(2:3:15)で処理し、DMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で再度洗浄した。樹脂ローディングは、その後、約0.58mmol/gと計算された。
【0187】
Fmoc脱保護の一般的手順
樹脂(DCM中で予め膨潤させたもの)に、DMF(5mL)中20%ピペリジンを加え、反応混合物を10分間振盪した。溶液を排出し、樹脂をDMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。この手順を2回繰り返した。カップリング反応は、上記で論じたように、ニンヒドリン試験によってモニターした。
【0188】
(VII)を得るためのイソシアネートカップリング
DCM(10mL)中で予め膨潤させた樹脂(0.30mmol)に、イソシアネート(6)(920g、0.93mmol)、DIPEA(0.2mL、0.93mmol)及びDMAP(22mg、0.17mmol)を含むDCM/DMF(1:1、5mL)の混合物中溶液を加え、混合物を一晩振盪させ、反応をニンヒドリン試験によってモニターした。溶液を排出し、樹脂をDMF(3×20mL)、DCM(3×20mL)、及びMeOH(3×20mL)及びエーテル(3×20mL)で洗浄した。(3×20mL)。カップリング反応は、上記で論じたように、ニンヒドリン試験によってモニターした。
【0189】
ペグ化({2-[2-(Fmocアミノ)エトキシ]エトキシ}酢酸又はPEG2-OH)
DMF中のPEG2-OH(アミン当たり3.0当量、0.1M)及びオキシマ(3.0当量、0.1M)溶液を10分間撹拌した。DIC(3.0当量、0.1M)を加え、1分間撹拌した。次いで、予め活性化した混合物を、DCM中で予め膨潤させた樹脂に加え、反応物を50℃30分間加熱した。溶液を排出し、DMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。
【0190】
ペプチド合成
ペプチド配列:-P-F-G-Nle-K-βA
適切なFmocアミノ酸(3.0mmol、10当量)[Fmoc-Lys(Dde)-OH、Fmoc-β-Ala-OH、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Nle-OH、Fmoc-Gly-OH、Fmoc-Phe-OH、Fmoc-Pro-OH]及びオキシマ(3.0mmol、10当量)の溶液を加え、混合物を5〜10分間撹拌した。次いで、DIC(3.0mmol、10当量)を添加し、得られた混合物を更に2分間撹拌した。この溶液を、DCM中で予め膨潤させた樹脂に加え、反応混合物を0.5時間60℃で混合した。溶液を排出し、樹脂をDMF(3×20mL)、DCM(3×20mL)及びMeOH(3×20mL)で洗浄した。カップリング反応は、上記で論じたように、ニンヒドリン試験によってモニターした。
【0191】
5-カルボキシフルオレセイン(FAM)標識
DMF(0.1M)中のFAM(3〜10当量)及びオキシマ(3〜10当量)溶液を10〜15分間撹拌し、続いてDIC(3〜10当量)及び得られた溶液を更に1〜2分間撹拌した。この溶液を、DCM中で予め膨潤させた適切な樹脂(1当量)に加え、反応混合物を室温又は60℃で0.5〜1時間撹拌した。溶液を排出し、樹脂をDMF(×3)、DCM(×3)及びMeOH(×3)で洗浄した。カップリング反応は、ニンヒドリン試験によってモニターした。切断前に、樹脂を20%ピペリジンで洗浄し、すべてのフルオレセインフェノールエステルを除去した。
【0192】
Dde脱保護
選択的Dde脱保護は、NMP(5mL)中のイミダゾール(1.35mmol)及び塩酸ヒドロキシルアミン(1.80mmol)を含有する溶液を用いて実施した。[Diaz-Mochon, J. J.; Bialy, L.; Bradley, M. Org. Lett. 2004, 6 (7), 1127-1129]。完全に溶解させた後、この溶液の5容量を1容量のCH2Cl2で希釈し、樹脂を最終混合物で3時間、室温にて処理した。溶液を排出し、樹脂をDMF(3×10mL)、DCM(3×10mL)及びMeOH(3×10mL)で洗浄した。
【0193】
メチルレッド(MR)NHSエステル標識
DMF(0.1M)中のMR-NHSエステル(3〜10当量)及びDIPEA(3〜10当量)の溶液を、DCM中で予め膨潤させた適切な樹脂(1当量)に加え、反応混合物を室温又は60℃で0.5〜1時間撹拌した。溶液を排出し、樹脂をDMF(×3)、DCM(×3)及びMeOH(×3)で洗浄した。カップリング反応は、上記で論じたように、ニンヒドリン試験によってモニターした。
【0194】
7-ニトロベンゾフラザン(NBD)カップリング
DMF(3mL)中のNBD-PEG-NHS(3.0mmol、10当量)溶液に、DIPEA(3.0mmol、10当量)を添加した。得られた溶液を、DCM中で予め膨潤させた樹脂(1当量)に加え、反応混合物を0.5時間振盪した。溶液を排出し、樹脂をDMF(×3)、DCM(×3)及びMeOH(×3)で洗浄した。カップリング反応は、上記で論じたように、ニンヒドリン試験によってモニターした。
【0195】
レポーター化合物4(SVC-01-188)のTFA切断及び精製
DCM中で予め膨潤させた樹脂を、TFA/TIS/DCM(90/5/5、0.5mL)の切断カクテルを用いて1.5時間処理した。溶液を排出し、樹脂を切断カクテルで洗浄し、氷冷エーテル(7.5mL)に添加した。沈殿した固体(22mg)を遠心分離によって収集し、溶媒をデカンテーションによって除去し、沈殿物を冷エーテル(3×5mL)で洗浄した。次いで、沈殿物を分取逆相HPLCによって精製し、所望の画分をプールし、凍結乾燥させて生成物を取得し、これをMALDI及び分析用HPLCによって特性決定した。
【0196】
【化6】
【0197】
【化7】
【0198】
【化8】
【0199】
【化9】
【0200】
【化10】
【0201】
【化11】
【0202】
MALDI-TOF:プローブを、生理食塩水又は線維症患者からのプールしたBALFに添加し、30分間インキュベートした。ZipTip(C-18、0.2μL)を5μLのMeCNで(添加剤としての0.1%TFAを含む)続いて20μLのH2Oで洗浄した。ZipTipに試料をロードし、洗浄し、80%水性MeCN 5μL(添加剤としての0.1%TFAを含む)に溶出させた。試料をMALDI TOF/TOF(Bruker Ultraflextreme質量分析計)により解析した。
【0203】
化合物10:重合可能なプローブSVC-01-180(SVC-180)。重合可能なプローブSVC-180(SVC-01-180)の特異性をMMP-9及びMMP-13を用いて試験し、FRETモノマーAMF-92と比較した。結果を図15に示す。
【0204】
【化12】
【0205】
化合物1の合成に関する手順に従い、選択的Dde基脱保護、続いて最後のFmoc-Lys(Dde)-OHのカップリングによりFAMをプローブに導入し、プローブを仕上げた。メチルレッドをN末端に導入し、最後に重合可能なアクリロイル部分をカップリングさせて、固相支持体上のプローブの合成を完了した。DMF中20%ピペリジン、続いてDCMで樹脂を洗浄した後、TFA-TIS-H2O(95:2.5:2.5)を用いて断片を樹脂から切断し(90分)、冷エーテルで沈殿させ、化合物10を得た(MALDI-ToF m/z: 2265.7; >95% HPLC純度、tR=4.178分)。
【0206】
アクリロイルカップリング:アクリロイル-NHSエステル(1当量)によるN末端キャッピングは、DIPEA(3当量)を含有する無水DMF(0.1M)中、12時間室温で実施した。溶液を排出し、樹脂をDMF(3×5ml)、DCM(3×5ml)、MeOH(3×5ml)、最後にエーテル(3×5ml)で洗浄した。
【0207】
化合物11:重合可能なプローブ化合物10(SVC-01-180)を水中で重合させてヒドロゲルを形成させた。モノマー化合物10の重合によって得られるヒドロゲルは、高分子構造によって示すことができる。重合は、糖の存在下で実施することにより、得られるヒドロゲルの多孔性を高めることができる。多孔性が高まると、重合されたプローブへの酵素のアクセスが改善される。
【0208】
【化13】
【0209】
アクリルアミド重合:
A) ヒドロゲルモノマー溶液は、アクリルアミド(1.20g)、PEGDA 700(100μL)、TMED(10μL)を蒸留水(3.20mL)中で混合することにより調製し、10分間N2でパージして脱気した;
B) プローブモノマー溶液は、重合可能なプローブ(25mg)を蒸留水(1mL)中で混合することにより調製し、10分間N2でパージして脱気した;
C) モノマー溶液(500μL)及び過硫酸アンモニウム又は過硫酸カリウム(水中10%、60μL)、及び蒸留水(250μL)は、糖/塩(50μL、蒸留水中50%)及び重合可能なプローブ溶液(50μL)を用いて、又は用いることなく、1分間混合した。得られた溶液(100μL/ウェル)を96ウェルプレートに移し、40℃で重合させた。12時間後、過剰のモノマー溶液を、洗浄液が透明になるまで蒸留水で洗い流した(5×100μL/ウェル)。ヒドロゲルは、直射日光から保護した真空下で、12時間40℃で乾燥させた。
【0210】
対照ヒドロゲルは、上記の手順に従って、プローブ溶液なしで調製した。
【0211】
重合したプローブヒドロゲルをMMP-9による切断について試験した。結果を図16に示す。プローブは96ウェルプレートにヒドロゲルとして既に固定化されて調製されているので、MMP-9酵素(39kDa及び83kDa、緩衝液中5〜30nm)をウェルに添加し、緩衝液で放出された切断断片由来の蛍光を、対照ウェル及びヒドロゲル含有プローブウェルからプレートリーダを使用して測定した。
【0212】
動物
特定病原体に感染していない成体(25〜35g)のBALB/c及びCD1野性型マウスを使用した。すべての試験は、英国内務省許可60/4434に基づいて実施した。
【0213】
酵素アッセイ
酵素アッセイは、PCR不透明マイクロプレート(Thermo Scientific社)上で、384ウェルフォーマットにおいて実施した。すべての希釈液及び反応物は、MMP緩衝液(50mM Tris、10mM CaCl2、0.15M NaCl、0.05% Brij-35、pH7)中で調製した。タンパク質分解活性は、励起/発光485/528nmでマルチウェルプレート蛍光計(Synergy H1 Hybrid Reader、BioTek instruments社)を使用して、対応するプローブ及び/又は阻害剤の希釈液と外因性酵素によって提供されるバックグラウンドシグナルに対する蛍光の倍数変化を計算することにより決定した。組換えヒトMMP(触媒ドメインMMP-1、-2、-3、-7、-8、-9、-10、-11、-12、-13(Enzo Life Sciences社)並びに完全長MMP-2、-9、-12及び-13(Merck/Millipore社))は30nMで使用した。Pro-MMP-13(R & D Systems社)を、1mMの酢酸4-アミノフェニル水銀(APMA)と37℃で2時間インキュベートすることにより活性化した。ヒト好中球エラスターゼ(Elastase Product社、2.5ug/mlで使用)、好中球溶解産物(溶解させたヒト好中球)、及び組換えヒトトロンビン(Sigma-Aldrich社、5U/mlで使用)、プラスミン(Sigma-Aldrich社、30nMで使用)、及び第Xa因子(Sigma-Aldrich社、0.5μMで使用)を使用し、リード分子プローブ配列を同定した。阻害アッセイについては、酵素及び阻害剤を37℃で1時間予めインキュベートした後、分子プローブを添加した。阻害剤マリマスタット(Toris Bioscience社)、AZD1236(AstraZeneca社)、阻害剤I(Sigma-Aldrich社)及びSb3CT(Sigma-Aldrich社)は、それぞれ、in vitroアッセイでは200nMで使用し、ex vivoアッセイでは50μMで使用した。
【0214】
ヒト及びヒツジ組織上清
ヒト線維症肺組織生検は、エジンバラ公立診療所(Royal Infirmary)の特発性肺線維症患者(IPF)から得た。無菌条件下で、組織を切除し、更なる分析のために-70℃で保存した。ヒツジ線維性肺組織生検は、エジンバラのロズリン研究所(Roslin Institute)のヒツジ肺腺癌動物(OPA)から得た。無菌条件下で、組織を切除し、更なる分析のために-70℃で保存した。組織上清の調製については、凍結組織をPBSに懸濁し、氷上でホモジナイズした(Bio-Gen PRO200ホモジナイザー、Pro-Scientific社)。試料を4℃で15分間、13000rpmで遠心分離し、死細胞片を含まない上清を収集した。総タンパク質濃度は、Pierce(商標) BCAキット(Thermo Scientific社)を使用して決定した。試料を等分し、更なる分析まで-20℃又は-70℃で保存した。
【0215】
ゼラチンザイモグラフィー
ヒト組織及びヒツジ組織におけるMMP活性を評価するため、ゼラチンザイモグラフィー(Novex(登録商標)、Life technologies社)を実施した。組織上清の全タンパク質濃度を標準化し(1mg/μl、ヒト及び1.5μg/μl、ヒツジ)、20μlの上清を、20μlの2×トリス-グリシンSDS試料緩衝液と沸騰させずに混合した。次に、15μlの混合試料を、0.1%ゼラチン含有10%トリス-グリシンゲル上で90分間、4℃、150Vで電気泳動した。電気泳動後、ゲルを脱イオン水で室温にて洗浄し、SDSを除去した。ゲルを1×復元緩衝液に4℃で90分間懸濁した後、阻害剤(50μM マリマスタット、pan-MMP阻害剤)を使用して、又は使用することなく、展開緩衝液中、37℃で一晩展開させた(1×展開緩衝液)。ゲルを洗浄し、固定し、コロイドブルー染色キット(Novex(登録商標)、Life technologies社)を用いて3時間室温で染色し、室温で脱イオン水により脱染した。プロテアーゼ活性の領域は、ダークバックグラウンドに対して明確なバンドとして出現する。
【0216】
溶血毒性アッセイ
分子プローブの溶血活性は、以前に報告されている方法(Lequin et al., 2006; Lequin, O. et al. Dermaseptin S., Biochemistry 45, 468-480 (2006))を使用し、ヒト赤血球において評価した。新鮮なヒト赤血球を分子プローブ(最終濃度10μM)と37℃で45分間インキュベートした。遠心分離(350gで10分間)した後、上清の吸光度を350nmで測定した。更に、0%及び100%溶血の対照試料を、0.9%(w/v) NaCl(陰性対照)又はTriton-X-100(陽性対照)とそれぞれインキュベートした。溶血パーセントは、以下の式によって計算した:溶血(%)=(プローブ/陽性対照)×100。各測定は、それぞれ二連で実施した。HC50は、50%の溶血を生じた平均プローブ濃度として定義した。
【0217】
統計解析
統計値は、平均標準誤差(SEM)として表される。統計分析は、Microsoft Excelを使用して実施し、データセットはスチューデントt検定を使用して試験した。有意性の指標は、p<0.05(*)及びp<0.01(**)に対応する。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5-1】
図5-2】
図5-3】
図6
図7
図8-1】
図8-2】
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図12-1】
図12-2】
図13
図14
図15
図16
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]