特許第6845162号(P6845162)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845162
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ケタミン経皮送達システム
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/135 20060101AFI20210308BHJP
   A61P 25/24 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 25/04 20060101ALI20210308BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/32 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/10 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/14 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/473 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/167 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/255 20060101ALI20210308BHJP
   A61K 31/165 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   A61K31/135
   A61P25/24
   A61P25/04
   A61P43/00 111
   A61K9/70 401
   A61K47/32
   A61K47/10
   A61K47/14
   A61K47/12
   A61K31/473
   A61K31/167
   A61K31/255
   A61K31/165
【請求項の数】18
【全頁数】26
(21)【出願番号】特願2017-566151(P2017-566151)
(86)(22)【出願日】2016年6月27日
(65)【公表番号】特表2018-518498(P2018-518498A)
(43)【公表日】2018年7月12日
(86)【国際出願番号】US2016039601
(87)【国際公開番号】WO2017003935
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2019年6月17日
(31)【優先権主張番号】62/185,573
(32)【優先日】2015年6月27日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517440427
【氏名又は名称】シェノックス・ファーマシューティカルズ・エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】フアドン・タン
(72)【発明者】
【氏名】ホック・エス・タン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・メイヤーソーン
【審査官】 梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−229045(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/169272(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0197041(US,A1)
【文献】 特表2015−501302(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/135
A61K 9/70
A61K 31/165
A61K 31/167
A61K 31/255
A61K 31/473
A61K 47/10
A61K 47/12
A61K 47/14
A61K 47/32
A61P 25/04
A61P 25/24
A61P 43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
裏張り層、接着剤−薬物層、任意の乱用抑止層、及び剥離ライナーを含み、前記接着剤−薬物層は、10−25重量%のケタミン、結晶化防止剤、皮膚浸透促進剤及び感圧接着剤を含む、経皮送達デバイスであって、前記経皮送達デバイスが、約8時間から約168時間の間、0.1−5mg/日/cmのケタミン浸透速度を提供し、前記結晶化防止剤が、ポリビニルピロリドンコビニルアセテートまたはポリメタクリレートを含み、前記皮膚浸透促進剤が、オレイルオレアート、オレイルアルコール、レブリン酸、及び/又はジエチレングリコールモノエチルエーテルを含み、前記感圧接着剤が、アクリル系感圧接着剤を含む、経皮送達デバイス。
【請求項2】
約40−60重量パーセントの感圧接着剤、約1−10重量パーセントの皮膚浸透促進剤、及び約5−40重量パーセントの結晶化防止剤を含む、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項3】
約0.01−10重量パーセントの乱用抑止剤をさらに含む、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項4】
前記乱用抑止剤が、カプサイシン、アポモルヒネ、デナトニウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ゲル形成剤、及びこれらの組み合わせから選択される、請求項3に記載の経皮送達デバイス。
【請求項5】
前記経皮送達デバイスが、大うつ病性障害を治療するために、1日1回、1週間に2回、又は1週間に1回投与される、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項6】
前記経皮送達デバイスの投与は、大うつ病性障害を治療するために、約8−168時間にわたって、約10−200ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供する、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項7】
前記経皮送達デバイスの投与は、痛みを治療するために、約8−168時間にわたって、約50−1000ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供する、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項8】
約1日間、約3.5日間、又は約7日間、約0.1−5mg/日/cmのケタミンを提供する、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項9】
前記デバイスは約10−300cm、約100−300cm、又は約10−100cmである、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項10】
前記経皮送達デバイスが、ケタミンの即時放出投与と比較して低減されたCmaxを提供する、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項11】
約0.4−4000ng/mlのケタミン血漿中濃度を約8−168時間提供する、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項12】
100ng/ml未満のケタミン血漿中濃度を約8時間から約7日間提供し、即時放出ケタミン製剤からの血漿中濃度と比較してケタミンの有害な副作用を低減する、請求項11に記載の経皮送達デバイス。
【請求項13】
即時放出ケタミン製剤からの血漿中濃度と比較して低減された経時的血漿中変動を提供する、請求項11に記載の経皮送達デバイス。
【請求項14】
即時放出製剤からのケタミン血漿中濃度と比較して、
(a)低減されたCmax変動と、
(b)低減された血漿中濃度の変動と、
(c)低減された有害な副作用と、
を提供する、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項15】
maxが、等価投薬量の即時放出ケタミン製剤からのCmaxの約30%以下である、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項16】
前記ケタミンが、ラセミ、R−エナンチオマー又はS−異性体である、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項17】
前記皮膚浸透促進剤が、オレイルオレアート及びレブリン酸の組み合わせを含む、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【請求項18】
前記皮膚浸透促進剤が、オレイルアルコール、レブリン酸及びジエチレングリコールモノエチルエーテルの組み合わせを含む、請求項1に記載の経皮送達デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年6月27日に出願された米国仮特許出願第62/185,573号に対する優先権を主張する。
【0002】
本発明は、ケタミン及びその製剤を含む経皮送達デバイスを対象にする。本発明はまた、大うつ病性障害(MDD)及び/又は痛みの治療用のケタミンを含む経皮送達デバイスを対象にする。本発明はさらに、ケタミン及び乱用抑止剤を含む経皮送達デバイスを対象にする。
【背景技術】
【0003】
大うつ病性障害(MDD)は、無力にする精神疾患である。MDDの生涯有病率はおよそ16%である(非特許文献1)。MDDに対して一般的に処方されている抗うつ薬には、3つの主な分類がある:(1)モノアミンオキシダーゼ阻害薬(MAOI);(2)三環系;及び(3)セロトニン−ノルエピネフリン再取り込み阻害薬(SNRI)及び選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)。現在の抗うつ薬の使用には、限られた有効性、作用の開始の遅延、及び有害な副作用を含む重大な制限がある。さらに抗うつ薬は、プラセボより約20−30%だけ有効であることが判明している。開始の遅延は数週間から数ヶ月まで変動し、そのことは結果として、自殺の危険性の増大、服薬遵守の低下、並びに社会的及び経済的負担の増加を含むがこれらに限定されない有害事象を生じ得る。これらの抗うつ薬の一般的な副作用には、吐き気、不眠症、不安、体重減少/増加、眠気、頭痛、性欲の喪失、及び/又はぼやけた視力が含まれる(非特許文献2)。
【0004】
痛みは無力にする身体疾患として現れ得る。痛みの1つのタイプである神経因性疼痛は、しばしば組織損傷を伴う複雑な慢性痛状態である。神経因性の特徴を有する痛みの発生は、一般集団の約6.9−10%である(非特許文献3)。神経因性疼痛の症状には、自発的な灼熱痛、射撃痛、痛覚過敏、及びアロディニアが含まれる。神経因性疼痛を有する患者はしばしば、うつ病、睡眠障害、及び自立の喪失を含む他の重大な健康問題に関連する状態を有する(非特許文献4)。神経因性疼痛は、感染、中枢又は末梢神経傷害、卒中、多発性硬化症、糖尿病、サルコイドーシス、毒性物質(例えばアルコール又は化学療法など)、遺伝性(inherited)又は遺伝学的(genetic)神経症、及び複合性局所疼痛症候群(CRPS)を含む様々なメカニズムによって引き起こされ得る。CRPSは難治性の痛みの形態であり、従来の様々な治療法が効かないことがしばしばある(非特許文献5)。神経因性疼痛は治療が困難であり、患者の約40−60%のみが部分的軽減を達成している。神経因性疼痛の治療には、抗うつ薬、抗けいれん薬、及び/又は局所疼痛管理薬が含まれる(非特許文献6;非特許文献7)。
【0005】
ケタミンは、非競合的なN−メチル−D−アスパラギン酸(NMDA)受容体拮抗薬であり、麻酔薬、鎮静薬及び鎮痛薬の治療を対象とする。ケタミンは、迅速な開始(投与の約2時間以内)及び持続した抗うつ効果(投与後数日から場合によっては1又は2週間)を有する有効な抗うつ薬であると実証されている(非特許文献8)。NMDA受容体経路は、神経因性疼痛を含む痛みに対して重要な役割を果たす。動物研究及びヒト臨床研究は、慢性神経因性疼痛の治療におけるケタミンの有効性を示している(非特許文献9;非特許文献10)。
【0006】
ケタミンは、R−ケタミン及びS−ケタミンを含むラセミ混合物である。インビトロでS−ケタミンは、NMDA受容体結合においてR−ケタミンよりも約4倍高い親和性を有するため、ケタミンの麻酔及び/又は抗うつ効果は主にS−ケタミンの作用によるものであると一般に信じられている。しかしながら、動物モデル研究は、R−ケタミンがS−ケタミンよりも抗うつ薬としてより有効であることを示唆している。加えて、R−ケタミンは精神異常副作用及び乱用傾向がないことが示された(非特許文献11)。本発明は、ケタミンのラセミ混合物の投与を対象とする;しかしながら、R−ケタミン又はS−ケタミンのエナンチオマーを含む実施形態は、本発明の範囲内である。
【0007】
ケタミンはまた、乱用薬物として人気を得ている既知の解離麻酔薬であり、不法に「K」又は「スペシャルK」と呼ばれることがある。ケタミンは、視覚及び聴覚の認識を歪め、使用者に疎外感を与えると報告されている。2011年の「将来のモニタリング(Monitoring the Future)」(MTF)調査は、ケタミンの年間使用量を報告しているが、その中で8、10、及び12年生はそれぞれ0.8%、1.2%及び1.7%である(非特許文献12)。不法なケタミンは、乾燥粉末又は液体として分配され、飲料と混合され、及び/又は喫煙可能な材料(例えばマリファナ又はタバコなど)に添加され得る。粉末として、ケタミンは、場合によっては3,4−メチレンジオキシメタンフェタミン(MDMA、不法に「エクスタシー」と呼ばれる)、アンフェタミン、メタンフェタミン、コカイン、及び/又はカリソプロドールを含む他の薬物と組み合わせて、吸い込まれるか(snort)又は錠剤に圧縮され得る。1999年8月12日、ケタミンは、規制物質法下でスケジュールIII非麻薬性物質となった。それ故に、ケタミン乱用のリスクを低減するための乱用抑止機構を開発する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ケスラー(Kessler)ら,ジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・メディカル・アソシエーション(JAMA),289(23):3095−105(2003)
【非特許文献2】ペン(Penn)及びトレーシー(Tracey),セラピックアドバンシーズインサイコファーマコロジー(Ther Adv.Psychopharmacol),2(5):179−188(2012)
【非特許文献3】ヘッケ(Hecke)ら,ペイン(Pain),155(4):654−62(2014)
【非特許文献4】バウハシラ(Bouhassira)ら,ペイン,136(3):380−7(2008)
【非特許文献5】コレル(Correll)ら,ペインメディシン(Pain Med.),5(3):263−75(2004)
【非特許文献6】ニエスターズ(Niesters)ら,エクスパートオピニオンオンドラッグメタボリズム&トキシコロジー(Expert Opin.Drug Metab.Toxicol.),8(11):1409−17(2012)
【非特許文献7】ドーキン(Dworkin)ら,ペイン,132(3):237−51(2007)
【非特許文献8】バーマン(Berman)ら,バイオロジカルサイキアトリー(Biol.Psychiatry),47(4):351−54(2000)
【非特許文献9】コレルら,ペインメディシン,5(3):263−75(2004)
【非特許文献10】シグターマンズ(Sigtermans)ら,ペイン,145(3):304−11(2009)
【非特許文献11】ヤン(Yang)ら,トランスレーショナルサイキアトリー(Transl.Psychiatry),5(e632):1−11(2015)
【非特許文献12】ジョンストン(Johnston)ら,2012,青年期の薬物使用に対する将来の国家的結果のモニタリング(Monitoring the future national results on adolescent drug use):主要な調査結果の総括(Overview of key findings),2011,アナーバー:社会調査研究所(Institute for Social Research),ミシガン大学
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ケタミンのIV投与は、多数の課題を提示する。第1に、患者は、IV投与を受けるための費用増加を被る。第2に、IV投与は患者にとって不便であり、服薬遵守の低下につながり得る。第3に、IV投与後のケタミン血漿中濃度の最大血漿中濃度(Cmax)までの急激な上昇は、薬物毒性、精神異常問題、及び中毒の可能性の増大を含む有害な副作用を引き起こし得る。さらに、ケタミンは短い半減期(約2時間)を有するため、IV投与によるケタミンのこの即時放出送達は、約4−8時間後に血漿中にケタミンがほとんど又は全く残らないという結果をもたらすことがあり、治療的血漿レベルを維持するための頻繁かつ反復した投与を必要とする。第4に、追加の予防手段なしでは、ケタミンのIV投与は乱用されやすい可能性がある。
【0010】
ケタミンのS−エナンチオマー、エスケタミンの鼻腔内製剤が、ヤンセン(Janssen)によって開発中であり臨床研究中である(米国特許出願公開第2013/0236573号明細書(US2013/0236573A1)、シング(Singh)ら、不応性又は難治性うつ病の治療用のエスケタミン(Esketamine For The Treatment of Treatment−Refractory Or Treatment−Resistant Depression))。しかしながら、ケタミンの鼻腔内送達は、多数の課題を提示する。それは、ケタミンのIV投与が直面するのと同一の即時放出の多くの問題、すなわち最大濃度の迅速な開始(Tmax)、高いCmax、薬物毒性のような副作用のリスクの増加、及び治療的血漿中濃度を維持するための頻繁かつ反復した投与の必要性に悩まされる。鼻腔内ケタミンの頻繁な投与は、鼻上皮を刺激して傷つけるリスクを増大させ得、そして患者の服薬遵守を低下させ得る。また鼻腔内投与は、被験者間の吸収の変動性の高さと関連する(クービック(Kublik)ら、アドバンスドドラッグデリバリーレビュー(Adv.Drug Deliv.Rev.)29:157−77(1998))。さらに、鼻腔内投与後のケタミン血漿中濃度の急激な上昇は、薬物毒性などの有害な副作用を引き起こし得る。加えて、ケタミンの鼻腔内送達は、追加の予防手段なしでは、非常に乱用されやすい。ケタミンの非経口投与(例えば、皮下、筋肉内など)を含むケタミンの他の投与経路は、これらの同一の困難を多く抱えている。
【0011】
経口投与(すなわち錠剤又はカプセル)は、典型的には患者にとって便利であるが、ケタミンの代謝及び薬物動態特性により、経口投与はあまり適切ではない。ケタミンは、約19ml/分・kgの高い全身(主に肝臓)クリアランスを有し、それは肝血漿流量に近い。従ってケタミンは、シトクロムP450酵素(CYP450)などの代謝酵素によって、肝臓及び胃腸の壁において実質的な全身循環前の代謝(pre−systemic metabolism)又は初回通過効果(first−pass effect)にさらされる。それ故に、ヒトにおけるケタミンの絶対経口バイオアベイラビリティは、約10−20%に過ぎない。この初回通過効果により、CYP450を阻害又は誘発することができる薬物との薬物−薬物相互作用(DDI)のリスクが増大する(クレメンツ(Clements)ら,ジャーナルオブファーマセウティカルサイエンス(J Pharm Sci),71(5):539−42(1981);ファンタ(Fanta)ら,ヨーロピアンジャーナルオブクリニカルファーマコロジー(Eur.J.Clin.Pharmacol.),71:441−47(2015);ペルトニエミ(Peltoniemi)ら,ベーシック&クリニカルファーマコロジー&トキシコロジー(Basic&Clinical Pharmacology&Toxicology),111:325−332(2012))。さらに、ケタミン錠剤又はカプセルは容易に乱用される。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、ケタミン及びその製剤を含む経皮送達デバイスを対象とする。本発明はまた、大うつ病性障害(MDD)及び/又は痛みの治療用のケタミンを含む経皮送達デバイスを対象とする。MDDの治療及び痛みの治療に対して長年にわたるかつ満たされていない医学的ニーズがあるが、それは本発明によって達成される。本発明の経皮送達デバイスの、制御された、長期間の、そして安定したヒトへのケタミン曝露は、静脈内(IV)投与及び鼻腔内噴霧を含むがこれらに限定されないケタミン送達の他の経路と比較して、有害な副作用を低減することができる。ケタミンは高い乱用可能性を有するため、本発明はさらに、ケタミン及び乱用抑止剤を含む経皮送達デバイスを対象とする。
【0013】
本発明は多数の利点を有する。経皮送達デバイスの製剤は、優れたケタミン浸透性及び安定性を提供する。本発明者らは、ケタミンが優れた経皮浸透特性を有し、それが有効な臨床用途にとって非常に重要であることを、インビトロ実験により発見した。さらなるインビトロ実験は、例えば結晶化防止剤などを本発明の製剤に添加すると医薬品を製造する際に重要な非常に安定した経皮送達デバイスをもたらすこと、を実証した。
【0014】
さらに本発明は、IV及び鼻腔内投与などのケタミンを投与する他の方法と比較して、改善された薬物代謝及び薬物動態特性を提供する。第1に、経皮送達は前述の初回通過効果を回避する。第2に、それは前述のDDIリスクを低減する。第3に、それは持続的なインビトロ放出プロファイル、従ってより長期間にわたるより安定したインビボ血漿中濃度対時間プロファイルを提供する。言い換えれば、例えばIV注入の場合のように、ケタミンの治療的血漿中濃度を維持するために数日又は数週間にわたって頻繁に複数回投与する必要はない(コレルら,ペインメディシン,5(3):263−75(2004年9月))。代わりに、本発明は、望ましい長期の薬物吸収プロファイルを満たすことができる。例えば、本発明の1回の経皮送達デバイスの投与は、約7日間にわたり比較的一定のケタミン血漿中濃度を提供することができる。第4に、本発明は、より低い血漿中のケタミンのCmax値、並びにCmaxとCminとの間の最小変動を提供し、それによって毒性、精神作用効果、中毒可能性の増加、及び治療効果の欠如を含むがこれらに限定されない有害な副作用を減少させる。
【0015】
本発明の経皮送達デバイスは、最適化を可能にするため、投薬量、投薬放出速度、パッチサイズ、及び適用継続期間に柔軟性を提供する。本発明による経皮送達デバイスは、経皮及び皮膚パッチ、噴霧剤、クリーム剤、ゲル剤、ローション剤、包帯剤及び液体溶液などの局所皮膚適用剤、並びに当業者には既知の他の経皮送達システム及び剤形を含むが、これらに限定されない。例えば、これらの柔軟なパラメータは、有効性を最大にして有害な副作用を最小にする個々の患者のための最適なケタミン血漿中濃度−時間プロファイルを提供するように、処方者及び/又は臨床医によって調節され得る。従って、本発明のケタミン経皮送達デバイスは、MDD及び痛みの治療に特に有効である。
【0016】
さらに本発明は、ケタミンを投与する他の形態と比較して、利便性及び服薬順守を改善する。例えば、経皮送達デバイスの1週間に1回又は2回の投与は、例えば即時放出型ケタミンの1日複数回の投与よりも便利である。即時放出ケタミン又は即時放出ケタミン製剤は、延長(extend)、制御、遅延又は長続き(prolong)されないケタミン投与を意味する。等価投薬量(Dose equivalent with)とは、比較アイテム間で投与される薬物の総投薬量が同じであることを意味する。また本発明は、IV投与よりも侵襲性が低く、費用が安い。本発明は、鼻腔内投与よりも刺激が少なく、侵襲性が低い。さらに本発明は、即時放出型の薬物送達よりも薬物毒性を引き起こす可能性が低い。
【0017】
本発明はまた、乱用抑止に関して利点を有する。経皮送達デバイスはそれ自体、デバイスを噛んだり飲み込んだりするなど直接乱用することがより困難であるため、乱用抑止剤としての役割を果たし得る。具体的には、ケタミンは、皮膚浸透促進剤、保湿剤、可塑剤、緩衝剤、酸化防止剤、及びそれらの組み合わせを含むがこれらに限定されない他の賦形剤とともにポリマーマトリックス中に取り込まれ、それらはそれぞれ乱用のためのケタミン抽出を阻止し得る。それにも関わらず、乱用をさらに防止するために、特定の追加の乱用抑止剤が本発明の製剤に添加され得る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】乱用抑止特性を有しないケタミン送達デバイスである。
図2】乱用抑止特性を有するケタミンを含む経皮送達デバイスである。
図3】ケタミン及び乱用抑止剤を含む経皮送達デバイスの一代替実施形態である。
図4】ケタミン及び乱用抑止剤を含む経皮送達デバイスの一代替実施形態である。
図5】異なるサイズの経皮送達デバイスを用いた本発明の実施例2のヒトにおけるケタミン血漿中濃度対時間プロファイルである。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図6】異なるサイズの経皮送達デバイスを用いた本発明の実施例2のヒトにおけるケタミン血漿中濃度対時間プロファイルである。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図7】異なるサイズの経皮送達デバイスを用いた本発明の実施例2のヒトにおけるケタミン血漿中濃度対時間プロファイルである。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図8】実施例2による経皮送達デバイスにおける、フランツ拡散セルモデル(Franz Diffusion Cell model)でのケタミンのインビトロ皮膚浸透のグラフである。
図9】実施例5に従って調製された本発明の6ヶ月安定性グラフである。
図10】表2の経皮送達デバイスに対応する、ヒトにおけるケタミン血漿中濃度対時間プロファイルである。これらの経皮送達デバイスは、MDDの治療用である。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み(convolution)方法論によって予測される。
図11】表2の経皮送達デバイスに対応する、ヒトにおけるケタミン血漿中濃度対時間プロファイルである。これらの経皮送達デバイスは、MDDの治療用である。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図12】表2の経皮送達デバイスに対応する、ヒトにおけるケタミン血漿中濃度対時間プロファイルである。これらの経皮送達デバイスは、MDDの治療用である。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図13】表2の経皮送達デバイスに対応する、ヒトにおけるケタミン血漿中濃度対時間プロファイルである。これらの経皮送達デバイスは、MDDの治療用である。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図14】表3の経皮送達デバイスに対応する、薬物動態学的血漿中濃度対時間プロファイルのグラフである。これらの経皮送達デバイスは、痛みの治療用である。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図15】表3の経皮送達デバイスに対応する、薬物動態学的血漿中濃度対時間プロファイルのグラフである。これらの経皮送達デバイスは、痛みの治療用である。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図16】表3の経皮送達デバイスに対応する、薬物動態学的血漿中濃度対時間プロファイルのグラフである。これらの経皮送達デバイスは、痛みの治療用である。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
図17】表3の経皮送達デバイスに対応する、薬物動態学的血漿中濃度対時間プロファイルのグラフである。これらの経皮送達デバイスは、痛みの治療用である。これらの薬物動態学的プロファイルは、インビトロ経皮浸透データ及びインビボ静脈内血漿中濃度データを用いて既知の畳み込み方法論によって予測される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の経皮送達デバイス中の有効成分は、好ましくは、最終製剤の約1−35重量%(1−35重量パーセントとも呼ばれる)、最も好ましくは最終製剤の10−25重量%で使用される。最も好ましい有効成分はケタミンである。本発明で使用され得る追加の有効成分は、ケタミンの潜在的な有害作用を打ち消し、ケタミン依存の可能性を低下させ、かつ/あるいはケタミンの抗うつ効果及び/又は痛み管理効果を高める薬物から選択され得る。本開示において提供される全ての重量パーセントは、接着剤−薬物層(又は接着剤−薬物マトリックス)及び乱用抑止層(又は任意である乱用抑止マトリックス)を含む最終製剤の重量に基づくが、剥離ライナー又は裏張りフィルムは含まない。
【0020】
経皮送達デバイスのサイズ及び経皮送達デバイスの適用継続期間と組み合わせられた経皮浸透速度(mg/日)は、薬物の血漿中濃度を決定する。本発明のケタミン経皮送達デバイスの経皮浸透速度は、好ましくは経皮送達デバイスの約0.1−30mg/日/cm、最も好ましくは約0.5−5mg/日/cmであろう。経皮送達デバイスのサイズは、好ましくは約5−300cmであろう。経皮デバイスの適用継続期間は、好ましくは約8−168時間であろう。これらの好ましい範囲の組み合わせは、長期間わたる約0.4−3850ng/mlの範囲のケタミン血漿中濃度を提供する。ケタミン血漿中濃度は、投与後約8時間で定常状態近くに到達し、適用継続期間中持続するであろう。
【0021】
本発明の経皮送達デバイスに対する好ましい経皮浸透速度、経皮送達デバイスサイズ、及び適用継続期間を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
ケタミン血漿中濃度対時間は、ヒトにおけるケタミンの報告された薬物動態学的パラメータに基づいて計算される。ケタミンは、以下のような70−kgのヒトに対するパラメータを有する3コンパートメントモデルに従う:クリアランス=79.8(リットル/時);V1=133リットル;及びマイクロ定数k12=0.174時−1、k13=1.18時−1、k21=0.124時−1、k31=1.59時−1(ファンタら,ヨーロピアンジャーナルオブクリニカルファーマコロジー,71:441−447(2015))。ヒト集団と個体との間にはばらつきがあり、故に各ヒトの薬物動態は同じではなく、特定の集団や一部の個体については薬物動態が著しく逸脱し得る。本発明の経皮送達デバイスに対して任意の所定の投薬強度によって提供される血漿中濃度は、個体ごとに変動し得る。
【0024】
最小化された有害な副作用を有する抗うつ効果(すなわちMDDの治療)に対して、好ましいケタミン血漿中濃度範囲は約10−200ng/mlであり、最も好ましい血漿中濃度範囲は約10−100ng/mlである。
【0025】
表2は、最小化された有害な副作用を有する抗うつ効果(すなわちMDDの治療)用の経皮送達デバイスの最も好ましい経皮浸透速度、経皮送達デバイスサイズ、及び適用継続期間の範囲を提供する。これらの範囲は、約8−168時間にわたり約10−200ng/mlの範囲である、長期間にわたるケタミン血漿中濃度を提供するように選択されるが、最も好ましい血漿中濃度は約10−100ng/mlである。MDDの治療用に設計されたケタミンを含む経皮送達デバイスの変形物は、約8.3−200mgを含んで約8時間にわたり適用され、約25−600mgを含んで約24時間にわたり適用され、約87.5−2100mgを含んで約84時間にわたり適用され、そして約175−4200mgを含んで約168時間にわたり適用されるだろう。
【0026】
MDDの治療用の経皮送達デバイスは、約8.3−200mgの投薬強度で調製され、約8時間にわたり適用されるように設計され、約11−257ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供するだろう。MDDの治療用の本発明の一代替実施形態は、低減された有害な副作用を提供するように設計される。低減された有害な副作用は、約8.3−100mgのケタミン投与強度で調製され、8時間にわたり適用されるように設計され、約11−128ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供する、本発明による経皮送達デバイスによって提供される。
【0027】
本発明によるMDDの治療用の経皮送達デバイスは、約25−600mgの投薬強度で調製され、約24時間にわたり適用されるように設計され、約11−257ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供するだろう。MDDの治療用の本発明の一代替実施形態は、低減された有害な副作用を提供するように設計される。低減された有害な副作用は、約25−300mgのケタミン投与強度で調製され、24時間にわたり適用されるように設計され、約11−128ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供する、本発明による経皮送達デバイスによって提供される。
【0028】
本発明によるMDDの治療用の経皮送達デバイスは、約87.5−2100mgの投薬強度で調製され、約84時間にわたり適用されるように設計され、約11−257ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供するだろう。MDDの治療用の本発明の一代替実施形態は、低減された有害な副作用を提供するように設計される。低減された有害な副作用は、約87.5−1050mgのケタミン投与強度で調製され、約84時間にわたり適用されるように設計され、約11−128ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供する、本発明による経皮送達デバイスによって提供される。
【0029】
本発明によるMDDの治療用の経皮送達デバイスは、約175−4200mgの投薬強度で調製され、約168時間にわたり適用されるように設計され、約11−257ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供するだろう。MDDの治療用の本発明の一代替実施形態は、有害な副作用を低減するように設計される。低減された有害な副作用は、約175−2100mgのケタミン投与強度で調製され、約168時間にわたり適用されるように設計され、約11−128ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供する、本発明による経皮送達デバイスによって提供される。
【0030】
【表2】
【0031】
最小化された有害事象を伴う痛み管理のために、好ましいケタミン血漿中濃度範囲は約50−1000ng/mlであり、最も好ましい血漿中濃度は約500ng/mlである。
【0032】
表3は、痛み管理用の経皮送達デバイスの経皮浸透速度、経皮送達デバイスサイズ、及び適用継続期間の範囲を提供する。これらの範囲は、長期間、約8−168時間にわたり約50−1000ng/mlの範囲のケタミン血漿中濃度を提供するように選択されるが、最も好ましい血漿中濃度は約500ng/mlである。痛み管理用に設計されたケタミンを含む経皮送達デバイスは、約40−500mg含んで約8時間適用され、約120−1500mg含んで約24時間適用され、約420−5250mg含んで約84時間適用され、また約840−10500mg含んで約168時間適用されるだろう。
【0033】
本発明による痛みの治療用の経皮送達デバイスは、約40−500mgの投薬強度で調製され、約8時間にわたり適用されるように設計され、約51−642ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供するだろう。
【0034】
本発明による痛みの治療用の経皮送達デバイスは、約120−1500mgの投薬強度で調製され、約24時間にわたり適用されるように設計され、約51−642ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供するだろう。
【0035】
本発明による痛みの治療用の経皮送達デバイスは、約420−5250mgの投薬強度で調製され、約84時間にわたり適用されるように設計され、約51−642ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供するだろう。
【0036】
本発明による痛みの治療用の経皮送達デバイスは、約840−10,500mgの投薬強度で調製され、約168時間にわたり適用されるように設計され、約51−642ng/mlのケタミン血漿中濃度を提供するだろう。
【0037】
【表3】
【0038】
好ましくは、本発明の経皮送達デバイスは、1日1回、1週間に2回、又は1週間に1回投与されるだろう。本発明の投薬計画は、抗うつ効果及び痛み管理について表2及び3に提供された例に限定されない。患者の必要性に応じて、そして医師の決定に従って、投薬頻度、デバイスサイズ、及び/又は投薬強度は調整され得る。例えば、経皮送達デバイスの適用は、4時間などの8時間より短い継続期間にわたり得る。投与後約4時間でのケタミン血漿中濃度は、約8時間での血漿中濃度の約80%であろうが、それにより患者の必要性に応じた有効な抗うつ及び/又は痛み管理が提供され得る。
【0039】
表4及び図6−7に示された血漿中薬物濃度プロファイルは、本発明の血漿中プロファイルの例である。表2及び3並びに少なくとも図10−17に示された血漿中薬物濃度プロファイルは、本発明の血漿中プロファイルのさらなる例である。これらの血漿中プロファイルはゆっくりと上昇し、比較的一定のレベルで長期間維持される。対照的に、IV及び鼻腔内ケタミンは一般的に、(等価投薬量で)本発明の経皮送達デバイスによって提供されるCmaxよりおよそ3−10倍高いCmaxを提供するが、曲線下面積(AUC)は一定である(例えば図5)。さらに、本発明の経皮送達デバイスによって提供されるケタミンの長期かつ安定した投与は、ケタミンの複数回のIV投与又は鼻腔内投与と比較して、最小限の血漿中濃度の変動を示す。この血漿変動の減少又は最小化はそして、投薬が足りない又は多過ぎる結果生じる有害な副作用の発生を減少させる。それ故に、本発明によって提供される血漿中プロファイルは改善され、より良好な治療成果及びより高い患者の服薬順守をもたらし得る。
【0040】
本発明の経皮送達デバイスの構造及びパッケージングは、当業者に既知の方法及び技術に従って調製される。主成分は、裏張り層、接着剤−薬物層(又は接着剤−薬物マトリックス)、乱用抑止層(又は乱用抑止マトリックス)(任意)、及び剥離ライナーである。
【0041】
裏張り層は、接着剤薬物マトリックスを支持して周囲から経皮送達デバイスを保護するポリエステル(PET)又はポリエチレン(PE)フィルムなどのポリマーフィルムで構成され得る。裏張りフィルムの好ましい厚さの範囲は約2−5ミル(1ミルは1/1000インチに等しい)であり、裏張り層の最も好ましい厚さの範囲は約3−4ミル厚である。
【0042】
接着剤−薬物層中の接着剤は、感圧接着剤(PSA)であり得る(タン(Tan)ら,ファーマセウティカルサイエンス&テクノロジートゥデイ(Pharm Sci.& Tech Today),2:60−69(1999))。経皮送達システムにおける有用なPSAは、ポリイソブチレン(PIB)、シリコーンポリマー、及び例えばヘンケルアドヒーシブ(Henkel Adhesives)によって製造されたDuro−Tak 87−2516、87−2852及び87−2194を含むアクリル系感圧接着剤などのアクリルコポリマーを含むが、これらに限定されない。PIBは、一次ベースポリマー及び粘着付与剤の両方として、PSAに一般的に使用されるエラストマーポリマーである。PIBはイソブチレンのホモポリマーであり、規則的な構造の末端不飽和のみを有する炭素−水素骨格を特徴とする。PIBは、BASFによってOppanolの商品名で市販されている。シリコーンポリマーは、ポリマー鎖の末端に残留シラノール官能基(SiOH)を含む高分子量ポリジメチルシロキサンである。薬学的用途に使用するシリコーンPSAは、例えばBIO−PSAの商品名でダウコーニング社(Dow Corning Corporation)から入手可能である。PSAは、好ましくは最終製剤の約30−90重量%、最も好ましくは最終製剤の約40−60重量%で使用される。
【0043】
剥離ライナーは、本発明にとって望ましいサイズで製造され得る。剥離ライナーは、シリコーン又はフルオロポリマー被覆ポリエステルフィルムで構成され得る。剥離ライナーは、保存中に経皮的送達デバイスを保護し、その使用前に除去される。シリコーン被覆剥離ライナーは、マイラン社(Mylan Corporation)、ロパレックス社(Loparex Corporation)及び3Mドラッグデリバリーシステムズ(3M’s Drug Delivery Systems)によって製造されている。フルオロポリマー被覆剥離ライナーは、3Mドラッグデリバリーシステムズ及びロパレックスによって製造され、供給される。剥離ライナーの好ましい厚さは約2−10ミル、最も好ましくは約3−5ミルである。
【0044】
有害作用を打ち消し、かつ/あるいはケタミンの抗うつ又は痛み管理効果を高めるために、追加の薬物が経皮的送達デバイスに組み込まれ得る。抗うつ効果を高める例は、LY341495などのII群代謝調節型グルタミン酸受容体のアンタゴニストを含むが、これに限定されない(ポドコワ(Podkowa)ら,サイコファーマコロジー(ベルリン)(Psychopharmacology(Berl))(2016年6月11日))。ケタミンの副作用、特に精神錯視及び交感神経様作用を減少させる例は、クロニジンなどのα−2アゴニストの同時投与を含むが、これに限定されない(レンツ(Lenze),ザワールドジャーナルオブバイオロジカルサイキアトリー(World J Biol Psychiatry),17(3):230−8(2016))。追加の薬物が本発明において使用される場合、それは好ましくは最終製剤の約0.1−20重量%、最も好ましくは最終製剤の約1−5重量%で使用される。
【0045】
追加成分が本発明の経皮送達デバイスに添加され、それを最適化することができる。オレイルオレアートが、皮膚を通しての薬物の皮膚浸透性を高めるために使用される。本発明で使用され得る皮膚浸透促進剤は、スルホキシド(例えばジメチルスルホキシド、DMSOなど)、アゾン(例えばラウロカプラムなど)、ピロリドン(例えば2−ピロリドン、2Pなど)、アルコール及びアルカノール(エタノール又はデカノール)、グリコール(例えばプロピレングリコール(PG)など)、界面活性剤及びテルペンを含むが、これらに限定されない(ウィリアムズ(Williams)ら,アドバンスドドラッグデリバリーレビュー27;56(5):603−18(2004))。皮膚浸透促進剤は、好ましくは最終製剤の約1−20重量%、最も好ましくは最終製剤の約4−10重量%で使用される。
【0046】
保湿剤は、経皮送達デバイスを水和状態に保ち、及び/又は水分の損失を低減するために使用される。本発明で使用され得る保湿剤は、プロピレングリコール、グリセロール、尿素、ポリビニルピロリドン(PVP)、ビニルピロリドン−ビニルアセテートコポリマー、及びPVPのコポリマー(例えばBASFのKollidon K30、K12、Kollidon VA64、又はKollidon CL−Mなど)、ケイ酸マグネシウム、及びシリカを含むが、これらに限定されない。保湿剤は、好ましくは、最終製剤の約2−20重量%、最も好ましくは最終製剤の約5−10重量%で使用される。
【0047】
可塑剤は、フィルム形成特性及びフィルムの外観を改善させ、ポリマーのガラス転移温度を低下させ、フィルムの割れを防止し、かつフィルムの柔軟性を増大させるなど、所望の機械的特性を得るために、経皮薬物送達システムで使用される。本発明で使用され得る可塑剤は、フタル酸エステル、リン酸エステル、脂肪酸エステル、及びグリコール誘導体を含むが、これらに限定されない。可塑剤は、好ましくは最終製剤の約2−20重量%、最も好ましくは最終製剤の約5−10重量%で使用される(経皮用途のための薬物フリー経皮送達デバイスの設計及び特性(Designing and Characterization of Drug Free Transdermal delivery devices for Transdermal Application),インターナショナルジャーナルオブファーマセウティカルサイエンスアンドドラッグリサーチ(International Journal of Pharmaceutical Sciences and Drug Research),Vol.2,No.1,pp.35−39 バーラティア,M.(Bharkatiya,M.);ネマ,R.K.(Nema,R.K.)&バトネイガー,M.(Bhatnagar,M.)(2010)ウィピチ,G.(Wypch,G.)(2004)及び可塑剤ハンドブック(Handbook of Plasticizers),ケムテク社(Chem Tec),437−440,ISBN1−895198−29−1,オンタリオ,カナダ)。
【0048】
抗酸化剤は、酸化による薬物分解を防止するために使用される。本発明で使用され得る抗酸化剤は、ブチル化ヒドロキシアニソール(BHA)、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)、tert−ブチルヒドロキノン、アスコルビン酸、及びトコフェロールを含むが、これらに限定されない。抗酸化剤は、好ましくは最終製剤の約0.01−5重量%、最も好ましくは最終製剤の約0.1−1.0重量%で使用される。
【0049】
抗刺激剤は、皮膚刺激の緩和又は予防を提供し、かつ有効成分の放出を助けるために使用される。本発明で使用され得る抗刺激剤は、アロエ、アルニカ、カモミール、キュウリ、メントール、よもぎ(mugwort)、エンバク(oat)、酸化亜鉛、キトサンなどの薬物放出調節剤、セルロース系ポリマー、二酸化ケイ素、及びポリメタクリレートを含むが、これらに限定されない。
【0050】
経皮送達デバイスの調製に有用な他の適切な賦形剤は、当業者の知識の範囲内であり、医薬品賦形剤ハンドブック(Handbook of Pharmaceutical Excipients)(第7版、2012)で見つけることができ、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる 。
【0051】
図1は、裏張りフィルム(1)が剥離ライナー(3)によって支持されている接着剤薬物マトリックス(2)の上に固定されている、経皮送達デバイスの一実施形態である。接着剤薬物マトリックスは、薬物及び接着剤、並びに促進剤、保湿剤、可塑剤、抗酸化剤、pH調整剤、結晶化防止剤、及び皮膚を通しての薬物放出及び浸透並びに薬物安定性の維持を手助けする他の成分を含む。
【0052】
図2は、皮膚浸透性ではない乱用抑止剤(4)、接着剤−薬物マトリックス(2)に溶解された薬物(5)、経皮送達デバイスの裏張りフィルム(1)、及び剥離ライナー(3)を含む、経皮送達デバイスの一例である。
【0053】
図3は、裏張りフィルム(1)、乱用抑止層(6)、接着剤−薬物マトリックス(2)、及び剥離ライナー(3)を含む経皮送達デバイスである。乱用抑止層は、経皮的送達デバイスの改ざん時に乱用抑止剤を放出することができる。乱用抑止層がゲル形成剤を含む一実施形態では、ゲル形成剤は抽出時にゲル溶液を形成することができる。
【0054】
図4は、分離された乱用抑止層に乱用抑止剤を有する、例えば7日間などの長期使用経皮送達デバイスの一実施形態である。図4は、裏張りフィルム(1)、オーバーレイ接着層(7)、乱用抑止層(6)、接着剤−薬物層(2)及び剥離ライナー(3)を示す。オーバーレイ接着層は、薬物接着剤層(2)及び乱用防止層(6)の外縁を覆って延在し、長期使用のために皮膚への付加的接着を提供する。本発明の実施形態は、介在する乱用抑止層(6)を有して又は有さずに、オーバーレイ接着層(7)を用いて調製され得る。
【0055】
表4は、本発明に従って調製された経皮送達デバイスの推定血漿中濃度を提供する。血漿中濃度は、以下で詳細に説明される図5、6及び7に例示される。
【0056】
【表4】
【0057】
表5は、本発明の実施例2による経皮送達デバイスによって提供され図8に開示された、フランツ拡散細胞モデルでのヒトの皮膚を浸透するケタミンの累積量を提供する。実施例2の経皮送達デバイス中の薬物の総量は4.75mgである。従って、24時間以内の実施例2の経皮バイオアベイラビリティは約78%である。
【0058】
【表5】
【0059】
経皮送達デバイスは乱用され得る。乱用の1つの方法は、薬物をポリマーマトリックスから分離するための溶媒中にデバイスを配置し、続いて任意のさらなる成分から薬物を分離するものである。乱用を抑止するために、本発明はさらに、ケタミン及び乱用抑止剤を含む新規な経皮送達デバイスを対象とする。
【0060】
乱用抑止剤は、以下の特性の1つ以上:(1)口中のまずい苦味又は他の反発性味(すなわち苦味剤);(2)抽出溶媒と混合する際のゲルの形成(すなわちゲル形成剤);(3)注入時の重度の刺激(すなわち刺激剤);(4)憂うつ(例えばドロペリドールなど)又は他の顕著な中枢神経系(CNS)効果;(5)急性の胃腸、心臓又は呼吸器の影響;(6)激しい吐き気又は嘔吐;(7)指示通りに使用されない場合の嫌なにおい;(8)それによって乱用者が幸福感を見逃すか又は気付かないようにさせる睡眠誘発;及び/又は(9)抽出しようとした時の有効成分の失活又は分解(すなわち、強酸化剤(例えば過酸化水素など)、強酸又は強塩基、及び/又はアンタゴニスト)、を有するため使用される。乱用抑止剤は最終製剤の約0.01−10重量%、好ましくは約0.1−4重量%、最も好ましくは約0.1−0.5重量%で使用される。
【0061】
乱用抑止剤は、接着剤薬物マトリックス又は別個の乱用抑止層(乱用抑止マトリックスとも呼ばれる)に含まれ得る。乱用抑止層は、ポリマーと乱用抑止剤との組み合わせで構成され得る。さらに、記載されたポリマーの多くはゲル形成剤としても作用するため、乱用抑止層は乱用抑止剤そのものであり得る。適切なポリマーは、溶媒との接触時に粘度が増加するだろう1つ以上の薬学的に許容可能なポリマーを含むが、これに限定されない。好ましいポリマーは、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボマー(carbopol)、ポリビニルピロリドン(PVP)、及び/又は他のセルロースポリマーを含む。本発明の一実施形態では、ポリマーはポリエチレンオキシドを含む。ポリエチレンオキシドは、約300,000−5,000,000の範囲、より好ましくは約600,000−5,000,000の範囲、最も好ましくは少なくとも約5,000,000の平均分子量を有することができる。一実施形態では、ポリエチレンオキシドは、高分子量ポリエチレンオキシドである。適切な市販のポリエチレンオキシドポリマーの例には、ダウケミカル(Dow Chemical)から入手可能なPolyox(登録商標)、WSRN−1105及び/又はWSR凝固剤が含まれる。ポリマーの好ましい重量範囲は最終製剤の約1−40重量%であり、ポリマーの最も好ましい範囲は最終製剤の約2−10重量%である。
【0062】
苦味剤は、経鼻的(吸い込まれる)、経口的、口腔又は舌下に投与した場合に苦い味又は効果を生じて消費を困難にする薬学的に許容可能な苦味物質である。本発明で使用され得る苦味剤は、(アルコールの変性剤として使用される)スクロースオクタアセテート(例えばSD−40など)、デナトニウムサッカライド、安息香酸デナトニウム、カフェイン、キニーネ(又はキニーネ硫酸塩などのキニーネ塩)、苦いオレンジピール油、及び例えばコショウ抽出物(クベバ)、トウガラシなどの他の植物抽出成分を含むが、これらに限定されない。好ましい苦味剤は、低濃度であっても極めて苦味があり本質的に非毒性であるため、スクロースオクタアセテート、安息香酸デナトニウム(Bitrex)、及びデナトニウムサッカライド(安息香酸デナトニウムより4倍苦い)である。苦味剤は、最終製剤の約0.01−10重量%、好ましくは約0.1−4重量%、最も好ましくは約0.1−0.5重量%で使用される。
【0063】
ゲル形成剤は、抽出溶媒と混合した際にゲル構造を形成して故に乱用阻止特性を提供するため、使用される。具体的には、ゲル形成剤は、溶媒(例えば水又はアルコールなど)との接触時に溶媒を吸収して膨潤し、それにより粘性又は半粘性の物質を形成する化合物であるが、それは一定量の可溶化薬物を含むことができる遊離溶媒の量を著しく減少及び/又は最少化し、かつ注入(すなわちIV又は筋肉内)のために注射器内に引き込まれ得るものを最小限にする。ゲルはまた、薬物をゲルマトリックス中に閉じ込めることにより、溶媒で抽出可能な薬物の総量を減少させることができる。特定の実施形態では、ゲル形成剤は、接着剤薬物マトリックスにラミネートされた隔離された乱用阻止層に存在し得る。
【0064】
使用され得るゲル形成剤は、エチルセルロース、酢酸セルロース、酢酸プロピオン酸セルロース、酢酸酪酸セルロース、酢酸フタル酸セルロース、三酢酸セルロース、セルロースエーテル、セルロースエステル、セルロースエステルエーテル、アクリル酸及びメタクリル酸エステルから合成されたコポリマーを含むアクリル樹脂を含むが、これらに限定されず、アクリルポリマーは、アクリル酸及びメタクリル酸コポリマー、メチルメタクリレートコポリマー、エトキシエチルメタクリレート、シアノエチルメタクリレート、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、メタクリル酸アルキルアミドコポリマー、ポリメチルメタクリレート、ポリメタクリレート、ポリメチルメタクリレートコポリマー、ポリアクリルアミド、アミノアルキルメタクリレートコポリマー、ポリメタクリル酸無水物、グリシジルメタクリレートコポリマー、及びそれらの混合物からなる群から選択され得る。ゲル形成剤は、好ましくは最終製剤の約3−40重量%、最も好ましくは最終製剤の約5−20重量%で使用される。
【0065】
本発明の一実施形態において、ゲル形成剤は、約20,000−200,000の範囲の分子量、約1.19−1.31の範囲の比重、及び約4−65cpsの範囲の粘度を有するポリビニルアルコールを含む。製剤に使用されるポリビニルアルコールは、好ましくは、−(−CO−)−で表される水溶性合成ポリマーであり、nは約500−5,000の範囲であり得る。適切な市販のポリビニルアルコールポリマーの例は、スペクトラムケミカルマニュファクチャリング社(Spectrum Chemical Manufacturing Corporation),ニューブランズウィック,NJ 08901から入手可能なPVA、USPを含む。
【0066】
本発明の一実施形態において、ゲル形成剤は、約10,000−1,500,000、典型的には約5000−10,000(すなわち低分子量)の範囲の分子量を有するヒドロキシプロピルメチルセルロース(ヒプロメロース)を含む。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの比重は約1.19−1.31の範囲であり、約1.26の平均比重を有する。ヒドロキシプロピルメチルセルロースの粘度は約3600−5600cPsである。製剤に使用されるヒドロキシプロピルメチルセルロースは、水溶性合成ポリマーであり得る。適切な市販のヒドロキシプロピルメチルセルロースポリマーの例は、ダウケミカルから入手可能なMethocel K100LV及びMethocel K4Mを含む。
【0067】
本発明の他の実施形態において、ゲル形成剤は、改ざん時に剤形に粘度を提供するヒドロゲルなどの親水性ポリマーを含む。このような実施形態では、乱用者が剤形を溶媒(例えば水又は生理食塩水など)中で粉砕して溶解すると、粘性又は半粘性のゲルが形成される。
【0068】
本発明の特定の実施形態では、ゲル形成剤は、700,000−4,000,000の範囲の分子量及び約4000−39,400cPの範囲の粘度を有するカルボマーを含むことができる。カルボマーは本発明において、好ましくは最終製剤の約1−40重量%、最も好ましくは約2−10重量%で使用される。適切な市販のカルボマーの例は、ルーブリゾール(Lubrizol)から入手可能なcarbopol 934P NF、carbopol 974P NF、及びcarbopol 971P NFを含む。
【0069】
刺激剤は、身体の粘膜(すなわち鼻、口、眼、腸、尿路)への刺激を誘発する薬学的に不活性な化合物である。本発明で使用され得る刺激剤は、ラウリル硫酸ナトリウム(SLS)、ポロキサマー、ソルビタンモノエステル及びグリセリルモノオレエートなどの界面活性剤、並びにスパイシーな成分などを含むが、これらに限定されない。刺激物は、好ましくは最終製剤の約0.01−10重量%、好ましくは0.01−10重量%、最も好ましくは約0.1−5重量%で使用される。
【0070】
本発明の実施形態では、刺激剤は、経皮送達デバイスの改ざん時に乱用を阻止することができる。例えば、乱用者がケタミンを抽出して乾燥させると、刺激剤が露出され、吸入(例えば鼻からの吸い込みなど)が乱用者の粘膜及び/又は鼻の通路組織に痛み及び/又は刺激を誘導することにより、刺激剤と混合されたケタミンの吸入が妨げられる。
【0071】
経皮送達デバイスの調製に有用な他の適切な賦形剤は、当業者の知識の範囲内であり、医薬品賦形剤ハンドブック(第7版、2012)で見つけることができ、その全内容は参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例】
【0072】
[実施例1−5]
実施例1−5の製剤が以下の表6に開示される。
【0073】
【表6】
【0074】
実施例1、2及び4で使用された感圧接着剤(PSA)は、(ヘンケルアドヒーシブによって供給された)Duro−Tak 387−2052であった。実施例3で使用されたPSAは、Duro−Tak 87−2677(ヘンケルアドヒーシブ)であった。実施例5で使用されたPSAは、Duro−Tak 87−4098(ヘンケルアドヒーシブ)であった。当業者は、他の既知の感圧接着剤が本発明の経皮送達デバイスで容易に使用され得ることを理解するであろう。
【0075】
実施例4及び5で使用された皮膚浸透促進剤は、Transcutol Pの商品名で販売されているジエチレングリコールモノエチルエーテルであった。当業者は、他の既知の皮膚浸透促進剤が本発明の経皮送達デバイスで容易に使用され得ることを理解するであろう。
【0076】
実施例3及び4の結晶化防止剤は、Kollidon VA64(BASF社)の商品名で販売されているポリビニルピロリドンコビニルアセテートであった。実施例5で使用された結晶化防止剤は、plastoid B(エボニック(Evonik)社)の商品名で販売されているポリメタクリレート系ポリマーであった。当業者は、他の既知の結晶化防止促進剤が本発明の経皮送達デバイスで容易に使用され得ることを理解するであろう。
【0077】
図5は、以下:(1)40分間の1回のIV投与;及び(2)実施例2による本発明の24時間経皮送達デバイス(3.75mg/cmの浸透速度を有する9.4cmの経皮送達デバイス)の投与、のヒト被験体における0.5mg/kgのケタミン投与の血漿中濃度−時間プロファイルの比較である。畳み込み解析は、ファンタら,ヨーロピアンジャーナルオブクリニカルファーマコロジー,71:441−447(2015)に述べられるように、薬物動態学的パラメータに従って適用された。実施例2による経皮送達デバイスは、等量のIV投与でのCmaxよりも低いCmax、好ましくは等量のIV投与でのCmaxの約30%未満、より好ましくは約20%未満を示す。
【0078】
図6は、実施例2による本発明の3つのサイズ(10、100及び300cm)の1日1回投与の経皮送達デバイスのケタミン血漿中濃度−時間プロファイルを開示する。
【0079】
図7は、実施例2による本発明の3つのサイズ(10、100及び300cm)の1日3回投与の経皮送達デバイスのケタミン血漿中濃度−時間プロファイルを開示する。
【0080】
皮膚浸透促進剤は、十分なケタミンが皮膚を貫通できることを確実にするために、本発明の経皮送達デバイスに組み込まれる。皮膚浸透研究は、37℃に維持されたフランツ拡散セルを用いて、実施例1−5に従って調製された経皮送達デバイスで実施された。受容体媒体は、pH7.4のリン酸緩衝生理食塩水であり、受容体容量は12mlであり、浸透面積は1.767cmであった。ヒトの死体の皮膚が使用され、試験は3回実施された。皮膚上に付着された皮膚拡散細胞のドナー側に1×1インチの経皮送達デバイスが配置され、受容体媒体を連続的に混合して(600rpmで攪拌して)実験が開始された。受容体相の試料(1.5ml)が2、4、8、12、24、48及び72時間で得られた。薬物濃度はHPLCを用いて定量された。表6に示されるように、本発明の実施例1−5は全て、良好な皮膚浸透性を提供する。24時間後に浸透したケタミンの累積量が表7に示される。
【0081】
【表7】
【0082】
図8は、フランツ拡散セルモデルによって示される実施例2による本発明の経皮送達デバイスのインビトロ皮膚浸透性を示す。
【0083】
薬物結晶化は薬物放出及び皮膚浸透性を遅延させ、経皮送達デバイスの有効性を低下させる。薬物結晶は、貯蔵寿命に近い期間にわたって、すなわち約6ヶ月以上にわたって、経皮送達デバイス中に形成されるべきではない。実施例1及び2は不安定性を示した;すなわち、薬物結晶は、経皮送達デバイスの調製の4−7日後に接着剤マトリックス中に形成された。実施例3,4及び5では、少なくとも4週間にわたって安定であることが判明した;すなわち、この期間内に結晶は形成されなかった。実施例5では、25℃、60%RHの条件下で少なくとも6ヶ月間安定であることが判明した。
【0084】
表8は、実施例1−5に従って調製された経皮送達デバイスの安定性データを報告する。
【0085】
図9は、0ヶ月後及び6ヶ月後の実施例5による経皮送達デバイスにおけるケタミンの安定性を示す。
【0086】
【表8】
【0087】
[実施例6]
《分離されていない乱用防止剤を含む経皮送達デバイス》
実施例5は、接着剤薬物マトリックス中に5mgの安息香酸デナトニウム及び200mgのケタミンを含む経皮送達デバイスを調製するように変更された。インビトロ皮膚浸透試験では、(その分子量が大きく(447DA)、融点が高い(170℃)ため、)安息香酸デナトニウムは皮膚に浸透しなかったことが示された。それにも関わらず、ケタミンは優れた皮膚浸透性を示し(24時間で0.8mg/cm)、これは安息香酸デナトニウムなどの乱用抑止剤の取り込みがケタミンの皮膚浸透に影響を与えなかったことを示している。
【0088】
試行された薬物乱用のシミュレーションを行なうための抽出研究において、実施例6に従って調製された経皮送達デバイスは、100mlの3つの異なる媒体:(1)40%エタノール;(2)70%イソプロピルアルコール;(3)アセトン、に60分間浸漬された。全ての3つの媒体は、HPLCを用いてケタミン及び安息香酸デナトニウムについて分析された。元のケタミンの50%以上及び安息香酸デナトニウムの50%以上が媒体中に見出された(すなわち、抽出されたケタミン量に比例して苦味物質が抽出された)が、これは本発明における乱用抑止剤としての安息香酸デナトニウムの有効性を示す。
【0089】
[実施例7]
《分離層において乱用抑止剤を有する経皮送達デバイス》
実施例7は、分離層中に乱用抑止剤を有する経皮送達デバイスを含む。実施例7で使用される乱用抑止剤は、経皮送達デバイス中のケタミンを抽出及び乱用するのに使用される一般的な溶媒(例えば水及びアルコールなど)と反応するゲル化剤である。接着剤−薬物層及び乱用抑止層の厚さはともに、約2−約5ミルである。実施例7による経皮送達デバイスは、2段階プロセスで調製される。
【0090】
《ステップ1.乱用抑止層の準備》
PolyOx1105、プロピレングリコール及びPEG4000は、乱用防止層を形成するために混合された。3つの成分は水/エタノール溶媒に溶解され、続いて湿潤フィルムが例えば3Mのポリエチレンフィルム、Scotpak 1012などの裏張り層のシート上に直接成型された。湿潤フィルムは次いで、対流空気乾燥オーブンにおいて60℃で30分間乾燥された。乱用防止層のコーティングの厚さは約3ミルである。適切な乱用抑止層組成の例が表9に開示されている。
【0091】
【表9】
【0092】
Bitrex及びラウリル硫酸ナトリウム(SLS)などの乱用抑止剤は、好ましくは最終製剤の約0.01−5重量%、最も好ましくは最終製剤の約0.05−0.5重量%で、乱用抑止層内に組み込まれ得る。
【0093】
《ステップ2.接着剤薬物マトリックス層の調製》
接着剤薬物マトリックス層は、接着剤薬物マトリックス混合物を直接(ステップ1で調製された)乱用防止層上に流し込むことによって、又は剥離ライナー上に流し込み次いで乱用抑止層にラミネートされることによって調製される。
【0094】
DuroTak 87−4098は100mlのビーカー内で秤量され、次いで低速で混合される。次に、Kollidon VA 64及びケタミンがミキサーに添加される。全ての成分が溶解するまで、バッチは混合される。次いで、3Mの9744などの剥離ライナー上に、フィルムキャスティングアプリケータを使用して湿潤フィルムが3ミルの厚さで調製される。湿潤コーティングは1時間空気乾燥され、次いで60℃で10分間オーブン乾燥される。最後に、ラミネートが乱用抑止層上で乾燥されるが、それは続いて3Mの裏張りScotak 1012上にコーティングされる。
【0095】
ラミネートされたシートは、薬物の所望の投与量を得るために、10cm、20cm、100cm、300cmなどの様々なサイズの経皮送達デバイスに打ち抜かれ得る。
【0096】
接着剤薬物マトリックスの例示的な組成が表10に与えられる。
【0097】
【表10】
【0098】
[実施例8]
実施例7による経皮送達デバイスは、乱用防止層においてアポモルヒネ(嘔吐剤)を用いて調製される。乱用者による溶媒抽出の後、嘔吐剤は、注射、吸飲又は吸入された場合に重度の吐き気を引き起こす可能性がある。アポモルヒネは本発明において、好ましくは最終製剤の約0.05−5重量%、最も好ましくは約0.1−2重量%で使用される。
【0099】
[実施例9]
実施例9は、乱用抑止剤がカプサイシンであることを除いて、実施例7に従って調製された。乱用者によって溶媒に溶解された後、カプサイシンを含有するケタミン溶液は、吸飲又は吸入された場合に著しく痛みが強い灼熱感を引き起こし、それによって経皮薬物送達装置の乱用可能性を減少させる。
【0100】
[実施例10]
表11は、それによって乱用抑止剤を本発明の経皮送達デバイスで使用することができる追加の技術を提供する。
【0101】
【表11】
【0102】
[実施例11]
本発明の一実施形態は、実施例7に従って調製され、接着剤−薬物層は接着剤及び200mgのケタミンを含み、乱用抑止層は7mgのSLS及び5mgの安息香酸デナトニウムを含むゲル形成剤を含む。
【0103】
以上の説明及び実施例は、本発明を例示するためのみに記載されたものであり、本発明を限定することを意図しない。本発明の精神及び内容を組み込んだ記載された実施形態の変更は当業者には起こり得るため、本発明は、添付の特許請求の範囲及びその等価物を含むがこれに限定されない本出願の範囲内の全ての変形を含むと広く解釈されるべきである。
【符号の説明】
【0104】
1 裏張りフィルム(層)
2 接着剤薬物マトリックス
3 剥離ライナー
4 乱用抑止剤
5 薬物
6 乱用抑止層
7 オーバーレイ接着層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17