(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845213
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】静止誘導機器用鉄心及び静止誘導機器
(51)【国際特許分類】
H01F 27/245 20060101AFI20210308BHJP
H01F 41/02 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
H01F27/245 150
H01F27/245 155
H01F41/02 A
H01F41/02 B
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2018-233410(P2018-233410)
(22)【出願日】2018年12月13日
(65)【公開番号】特開2020-96100(P2020-96100A)
(43)【公開日】2020年6月18日
【審査請求日】2020年4月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】518443937
【氏名又は名称】榎園 正人
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】特許業務法人 サトー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】増田 剛
(72)【発明者】
【氏名】霜村 英二
(72)【発明者】
【氏名】榎園 正人
【審査官】
久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2018/131613(WO,A1)
【文献】
特公平03−062007(JP,B2)
【文献】
特開2015−106631(JP,A)
【文献】
実公平01−038898(JP,Y2)
【文献】
特開平7−283036(JP,A)
【文献】
特開2017−022189(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 1/147、1/16−1/18、27/245、41/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁鋼板を複数枚積層して構成される静止誘導機器用の鉄心であって、
前記各電磁鋼板は、該電磁鋼板の端部同士が突き合わされる接合部を、ずらして配置しながら積層されると共に、
前記各電磁鋼板の端部表面における他の電磁鋼板の接合部とのラップしている部分に位置して、歪みにより磁区微細分化がなされた磁区微細分化処理部が設けられており、
前記磁区微細分化処理部は、前記電磁鋼板の表面に対し、互いに交差する二方向に格子状に延びて複数本の線状痕を形成することにより構成されていると共に、
前記磁区微細分化処理部は、前記電磁鋼板の端部表面のうち少なくとも一方の面に、前記接合部の片側又は両側に位置して、重なり合う別の電磁鋼板に対し磁束が渡る範囲であって該接合部のずれピッチpの2倍の長さ寸法の範囲に部分的に設けられている静止誘導機器用鉄心。
【請求項2】
前記磁区微細分化処理部は、前記電磁鋼板の表面に対し、レーザ照射やプラズマ照射、焼き鏝による刻印により熱的ストレスを与えること、或いは、ギアやプレスにより機械的ストレスを与えることにより設けられる請求項1記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項3】
前記磁区微細分化処理部の線状痕の間隔は、2.0mm以下とされている請求項1又は2記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項4】
前記磁区微細分化処理部は、前記電磁鋼板の圧延方向に対してほぼ直交する幅方向全体又は一部に位置して設けられている請求項1から3のいずれか一項に記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項5】
帯板状の電磁鋼板を、一巻きごとに少なくとも1箇所の接合部を設けながら複数枚巻き重ねて構成される巻鉄心である請求項1から4のいずれか一項に記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項6】
前記電磁鋼板を複数枚積層して継鉄部及び脚部を夫々形成し、それらを接合部で突き合せて構成される積鉄心である請求項1から4のいずれか一項に記載の静止誘導機器用鉄心。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の静止誘導機器用鉄心を備えている静止誘導機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、静止誘導機器用鉄心及び静止誘導機器に関する。
【背景技術】
【0002】
静止誘導機器例えば変圧器の鉄心においては、ケイ素鋼板等の電磁鋼板を複数枚積層して構成されるいわゆる積鉄心が知られている。例えば三相変圧器用の積鉄心にあっては、3本の脚部と上下の継鉄部とが接合されるが、特に中央の脚部と継鉄部との間の接合部分において、電磁鋼板の圧延方向とは異なる方向の回転磁束が生ずるため、損失(鉄損)が大きくなることが指摘されている。そこで、特許文献1においては、積鉄心を構成する電磁鋼板の表面に対し、その圧延方向に関して縦横方向に格子状にレーザ照射を行う磁区微細分化処理を施すことにより、磁区微細分化制御を行い、損失の低減を図ることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2015−106631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、変圧器の鉄心には、帯板状の電磁鋼板を、一巻きごとに少なくとも1箇所の突合せ接合部を設けながら複数枚巻き重ねて構成される、いわゆるワンターンカット型の巻鉄心と称されるものがある。このものでは、例えば下部の継鉄部に位置して突合せ接合部を設け、その接合部において、電磁鋼板を階段状にずらしていきながら巻き重ねることが行われる。このとき、例えば、接合部に非磁性のシート部材が配置され、一定の幅のエアギャップが設けられる。
【0005】
ところが、このように階段状にずれながら設けられた接合部ひいてはエアギャップを有する鉄心にあっては、鉄心を流れる磁束が、エアギャップ部分で積層方向に隣り合う電磁鋼板に渡るようにしながら流れることになる。そのため、接合部で磁気抵抗が大きくなって損失が生ずる問題がある。この場合、巻鉄心だけでなく、電磁鋼板を複数枚積層して継鉄部及び脚部を夫々形成し、それらを接合部で額縁状に突き合せて構成される積鉄心においても、継鉄部と脚部との突合せ接合部分を、積層方向に階段状にずれていくステップラップ接合部としたものがあり、同様に接合部で損失が発生する問題がある。
【0006】
そこで、電磁鋼板を複数枚積層して構成され、電磁鋼板の端部同士が突き合わされる接合部をずらして配置しながら積層されるものにあって、接合部部分の磁気抵抗に起因する損失を小さく抑えることができる静止誘導機器用鉄心及び静止誘導機器を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
実施形態に係る静止誘導機器用鉄心は、電磁鋼板を複数枚積層して構成されるものであって、前記各電磁鋼板は、該電磁鋼板の端部同士が突き合わされる接合部を、ずらして配置しながら積層されると共に、前記各電磁鋼板の端部表面における他の電磁鋼板の接合部とのラップしている部分に位置して、歪みにより磁区微細分化がなされた磁区微細分化処理部が設けられており、前記磁区微細分化処理部は、前記電磁鋼板の表面に対し、
互いに交差する二方向に
格子状に延びて複数本の線状痕を形成することにより構成されていると共に、前記磁区微細分化処理部は、前記電磁鋼板の端部表面のうち少なくとも一方の面に、前記接合部の片側又は両側に位置して、重なり合う別の電磁鋼板に対し磁束が渡る範囲
であって該接合部のずれピッチpの2倍の長さ寸法の範囲に部分的に設けられている。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】第1の実施形態を示すもので、巻鉄心の全体構成を概略的に示す正面図
【
図5】第2の実施形態を示すもので、積層鉄心の全体構成を概略的に示す正面図
【
図6】
図5のA−A線に沿う接合部部分の拡大横断面図
【
図8】第3の実施形態を示すもので、接合部部分の拡大正面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
(1)第1の実施形態
以下、静止誘導機器としての単相の変圧器を構成する巻鉄心に適用した第1の実施形態について、
図1から
図4を参照しながら説明する。
図1は、本実施形態に係る静止誘導機器用鉄心としての変圧器用の巻鉄心1の全体構成を示している。この巻鉄心1は、図で上下方向に延びる2本の脚部2、2と、それら脚部2、2の上端部同士、下端部同士を左右につなぐ継鉄部3、3とを有した、コーナー部が丸みを帯びた矩形環状に構成されている。各脚部2、2には、夫々巻線4(想像線で示す)が装着される。尚、以下の説明で方向を言う場合には、
図1の状態を正面図として説明する。
【0010】
図2にも示すように、この巻鉄心1は、帯状の電磁鋼板例えばケイ素鋼板からなる帯板材5を、一巻きごとの所要寸法に切断し、それら1枚1枚の帯板材5を、端部同士が突き合わされる接合部6を設けながら、内外周方向に複数枚巻き重ねて構成される、いわゆるワンターンカット型のものとされている。各帯板材5には方向性電磁鋼板が用いられ、長手方向(巻回方向)が圧延方向とされている。
【0011】
本実施形態では、前記接合部6は、下部の継鉄部3の中央部分に来るように構成されると共に、接合部6を、帯板材5の巻き重ね方向(径方向)に階段状に一定のピッチpでずらしてラップさせながら積層するように構成される。この場合、巻鉄心1の下部の継鉄部3において、接合部6を、内周側から外周側に向けて図で右側に順にずらして配置していくことが行われる。また、継鉄部3は、巻き重ね方向に複数個のブロック、図では2つのブロックに分けられ、接合部6が階段状に配置されることが繰返される。図示はしないが、前記各接合部6には、シート状の磁気的絶縁物が配置されて所定寸法のエアギャップが設けられる。
【0012】
さて、本実施形態では、
図2及び
図3に示すように、前記各帯板材5の端部表面における他の帯板材5の接合部6とラップしている部分に位置して、歪みにより磁区微細分化がなされた磁区微細分化処理部7が設けられている。
図2に便宜上細かいギザギザな線で示すように、磁区微細分化処理部7は、帯板材5のうち、端部の一方の面である図で下面側の、接合部6の片側この場合右側に位置して、一定の範囲、例えば帯板材5の幅方向全体に渡り、接合部6のずれのピッチpの2倍程度の長さ寸法の範囲で設けられている。この範囲は、帯板材5の端部の表面のうち、重なり合う別の帯板材5に対し磁束Φ(上の4枚の帯板材5にのみ細線で示す)が渡る範囲とされている。
【0013】
より具体的には、
図3に示すように、磁区微細分化処理部7は、帯板材5の端部下面に対し、連続した線状に延びるレーザ照射処理を、互いに交差する二方向に格子状に施して構成される。これにより、帯板材5の端部下面には、レーザ照射による線状痕L1、L2が形成されている。そのうち線状痕L1は、帯板材5の圧延方向に延びて、所定の間隔sを有して多数本が平行に形成されている。これに対し、線状痕L2は線状痕L1に交差する方向、この場合帯板材5の圧延方向と直交する方向に延びて、やはり所定の間隔sを有して多数本が平行に形成されている。
【0014】
この場合、線状痕L1、L2が形成される間隔sは、例えば2.0mm以下とされている。尚、電磁鋼板(帯板材5)に対するレーザ照射処理は、周知の一般的なレーザ照射装置により行うことができる。このときのレーザ照射処理の条件等については、例えば特開2015−106631号公報(段落[0023]、
図8)等で公知であり、ここでの説明は省略する。
【0015】
次に、上記構成の巻鉄心1の作用・効果について、
図4も参照して述べる。まず、上記巻鉄心1の組立手順について簡単に述べる。即ち、巻鉄心1を組立てるにあたっては、所定幅の帯板材5を所要の長さ寸法に裁断し、裁断した帯板材5の端部の表面(下面となる側)にレーザ照射処理を施し磁区微細分化処理部7を形成する。そして、磁区微細分化処理部7を設けた帯板材5を、例えば内周側のものから順に、端部を下部の継鉄部3に位置させるようにしながら、帯板材5を四角形の環状に巻くように折曲げる。この場合、内周側の帯板材5から外周側に向けて1枚ずつ密着させながら巻き重ねていく。
【0016】
この巻き重ね時においては、帯板材5の両端部が接近するようにして、接合部6が形成されるのであるが、上記のように、接合部6が階段状に配置されるように、位置決めしながら巻き重ねる。これにて、帯板材5の巻き重ね方向に接合部6が階段状にずれた状態の巻鉄心1が構成される。このとき、
図2に示すように、接合部6の上面に位置する帯板材5の下面の磁区微細分化処理部7がその接合部6にラップするように配置される。
【0017】
上記構成の巻鉄心1においては、
図2に示すように、下部の継鉄部3に帯板材5の端部同士が突き合わされる接合部6が設けられているので、上半分のみ示すように、接合部6部分で磁束Φは、積層方向に隣り合う帯板材5に渡るようにしながら流れる。そのため、その接合部6部分で磁気抵抗が大きくなって損失(鉄損)が大きくなる虞がある。ところが、本実施形態では、帯板材5の端部表面には、接合部6にラップする部分に位置して、磁区微細分化処理部7が設けられている。この磁区微細分化処理部7は、帯板材5の表面に対し、磁区微細分化処理を施して歪みにより磁区微細分化がなされたものであり、この部分における磁気抵抗を減少させることができる。ひいては、巻鉄心1全体として損失を少なく済ませることができる。
【0018】
図4は、帯板材5に磁区微細分化処理部7を設けた本実施形態の巻鉄心1と、磁区微細分化処理部を設けない巻鉄心とにおける損失を調べた試験結果を示している。ここでは、処理のない巻鉄心の損失を基準(100%)として、各磁束密度において、実施形態の巻鉄心1の損失がどの程度低下しているかをプロットしている。この試験結果から明らかなように、本実施形態の巻鉄心1では、磁区微細分化処理部を設けないものと比べて損失を低減することができ、また、磁束密度が大きいほど損失が小さくなる結果が得られた。
【0019】
このように、本実施形態によれば、帯板材5を複数枚積層して構成され、帯板材5の端部同士が突き合わされる接合部6を、ずらして配置しながら帯板材5を巻き重ねるものにあって、接合部6の磁気抵抗に起因する損失を小さく抑えることができるという優れた効果を得ることができる。
【0020】
特に本実施形態では、帯板材5に、交差(直交)する二方向に2.0mm以下の間隔で平行に格子状のレーザ照射処理を施して、連続した線状の線状痕L1、L2を設けることにより、磁区微細分化処理部7を形成した。レーザ照射処理によって、磁区微細分化処理部7を確実に形成することができる。このとき、線状痕L1、L2を二方向に格子状に形成し、その際の線状のレーザ処理の間隔を、2.0mm以下とすることにより、損失の低減率を大きくすることができることも明らかになっている。より好ましくは0.5mm以下である。この場合、2.0mmを越えた間隔とすると、損失低減効果に劣るようになる。
【0021】
そして、特に本実施形態では、磁区微細分化処理部7を、帯板材5の端部表面のうち一方の面である下面側に、接合部6の片側に位置して、重なり合う別の帯板材5に対し磁束Φが渡る範囲に設けるようにした。また、磁区微細分化処理部7を、帯板材5の圧延方向に対してほぼ直交する幅方向全体に位置して設けるようにした。これにより、必要以上に処理を行うことなく済ませながら、十分な効果が得られる範囲、つまり必要且つ十分な範囲に、磁区微細分化処理部7を設けることができる。
【0022】
(2)第2の実施形態
次に、第2の実施形態について、
図5〜
図7を参照して述べる。この第2の実施形態では、積鉄心に適用している。
図5は、本実施形態に係る変圧器用の積鉄心11の全体構成を示している。この積鉄心11は、図で左右方向に延びる上部、下部の継鉄部12、12、上下方向に延びそれら継鉄部12、12間を上下に繋ぐ左右の脚部13、13、並びに中央脚部14を備えている。各脚部13、13、14には、夫々巻線(図示せず)が装着される。尚、以下の説明で方向を言う場合には、
図5の状態を正面図として説明する。
【0023】
積鉄心11を構成する継鉄部2、2及び各脚部3、3、4は、例えばケイ素鋼板からなる電磁鋼板16を、図で前後方向に複数枚積層して構成される。そして、後述するように、それら継鉄部12、12及び各脚部13、13、14が突合せ接合されることにより、積鉄心11全体が構成される。尚、継鉄部12、12を構成する電磁鋼板16としては、方向性電磁鋼板が用いられ、圧延方向が図で左右方向とされている。各脚部13、13、14を構成する電磁鋼板16としては、やはり方向性電磁鋼板が用いられ、圧延方向が図で上下方向とされている。
【0024】
積鉄心11においては、突合せ部分のうち、継鉄部12、12の左右の両端部と左右の脚部13、13の上下端部とが接合される上下左右の4つの角部が、斜めほぼ45度に切込まれたいわゆる額縁状の突合せ形態とされる。このとき、
図6にも示すように、継鉄部12、12と脚部13、13とが突き合わされる接合部17においては、双方の接合面が、電磁鋼板16の積層方向(図で前後方向)に、順に階段状にずれていくステップラップ接合部とされている。
【0025】
また、前記中央脚部14は、一定の幅の板を上下両端部において、中心部分が頂点をなし、そこから左右両側に斜め45度の角度で切断したV字状の凸形態に構成されている。前記継鉄部12、12の内側を向く辺部の中央部には、前記中央脚部14に対応して、角度90度のV字状の切欠き(凹部)が形成されている。詳しく図示はしないが、継鉄部12、12の内側を向く辺部の中央部と中央脚部14の上下端部とが接合される接合部18についても、双方の接合面が、電磁鋼板16の積層方向(図で前後方向)に、順に階段状にずれていくステップラップ接合部とされている。
【0026】
さて、本実施形態では、
図6及び
図7に示すように、前記継鉄部12、12を構成する電磁鋼板16の端部表面(前面)における接合部17、18を構成する部分、つまり重なり合う他の電磁鋼板16とラップしている部分に位置して、歪みにより磁区微細分化がなされた磁区微細分化処理部19が設けられている。
図6は、
図5のA−A線に沿う断面を、便宜上ハッチングを省略して示している、
図6に便宜上細かいギザギザの線で示すように、磁区微細分化処理部19は、継鉄部12、12を構成する電磁鋼板16のうち、端部の一方の面である図で前面側に位置して、一定の範囲、例えば電磁鋼板16の幅方向全体に渡り、接合部17、18におけるずれのピッチpの2倍程度の長さ寸法の範囲で設けられている。この範囲は、電磁鋼板16の端部の前面のうち、重なり合う別の電磁鋼板16に対し磁束Φが渡る範囲とされている。
【0027】
このとき、
図7に一部を示すように、磁区微細分化処理部19は、電磁鋼板16の表面側の接合部17、18構成部分に対し、連続した線状に延びるレーザ照射処理を、互いに交差する二方向に格子状に施して構成される。これにより、電磁鋼板16の表面には、レーザ照射による線状痕L1、L2が形成されている。そのうち線状痕L1は、電磁鋼板16の圧延方向に延びて、所定の間隔sを有して多数本が平行に形成されている。これに対し、線状痕L2は線状痕L1に交差する方向、この場合電磁鋼板16の圧延方向と直交する方向に延びて、やはり所定の間隔sを有して多数本が平行に形成されている。この場合、線状痕L1、L2が形成される間隔sは、やはり2.0mm以下とされている。
【0028】
次に、上記構成の積鉄心11の作用・効果について述べる。まず、上記積鉄心111の組立手順について簡単に述べる。即ち、積鉄心11を組立てるにあたっては、上下の継鉄部12、12、左右の脚部13、13、中央脚部14は、夫々、予め必要形状に裁断された複数枚の電磁鋼板16が積層され、例えば接着により固着一体化されてブロックとされる。尚、上下の継鉄部12、12は同等のものが共用化でき、左右の脚部13、13についても同等のものが共用化できる。
【0029】
このとき、上下の継鉄部12、12に関しては、予め、電磁鋼板16のうち、接合部17、18構成部分に対しレーザ照射処理を施し磁区微細分化処理部19を形成しておき、磁区微細分化処理部19を設けた電磁鋼板16が積層されて構成される。積鉄心11の組立にあたっては、まず、例えば下部の継鉄部12に対し、ブロック状とされた左右の脚部13、13及び中央脚部14が、各接合部17、18において接合(ステップラップ接合)される。この際の接合は、例えばクランプ部材や締結部材を用いた周知の方法を採用することができる。この後、各脚部13、13、14に対して夫々図示しない巻線が装着される。その上で、各脚部13、13、14の上端に対し、ブロック状とされた上部の継鉄部12が、各接合部17、18において接合(ステップラップ接合)される。
【0030】
これにて、
図5に示すように、上下の継鉄部12、12と、左右の脚部13、13及び中央脚部41とが突合せ接合された積鉄心11が得られる。
図6は、積鉄心11のうち、
図5で左下部の下部の継鉄部12と左側の脚部13との接合部17の横断面形状を、代表させて示している。脚部13を構成する電磁鋼板16と、継鉄部12を構成する電磁鋼板16と両端部が接近して突き合せられ、接合部17が形成されるのであるが、接合部17が階段状に配置される。このとき、
図6に示すように、接合部17の後面側に位置する電磁鋼板16の前面の磁区微細分化処理部19がその接合部17にラップするように配置される。
【0031】
上記構成の積鉄心11においては、
図6に示すように、継鉄部12、12と脚部13、13、14とが突き合わされる接合部17、18が設けられているので、接合部17、18部分では磁束Φは、積層方向に隣り合う電磁鋼板16に渡るようにしながら流れる。そのため、その接合部17、18部分で磁気抵抗が大きくなって損失が大きくなる虞がある。ところが、本実施形態では、継鉄部12、12を構成する電磁鋼板16には、接合部17、18にラップする部分に位置して、磁区微細分化処理部19が設けられている。この磁区微細分化処理部19により、電磁鋼板16間を磁束Φが渡る際の磁気抵抗を減少させることができる。ひいては、積鉄心11全体として損失を少なく済ませることができる。
【0032】
このように本実施形態によれば、上記第1の実施形態と同様に、電磁鋼板16を複数枚積層して構成され、電磁鋼板16の端部同士が突き合わされる接合部17、18をずらして配置しながら積層されるものにあって、磁区微細分化処理部19を設けたことにより、接合部17、18部分の磁気抵抗に起因する損失を小さく抑えることができる等の優れた効果を得ることができる。また、特に本実施形態では、上下部の継鉄部12、12のみに磁区微細分化処理部19を設ける構成としたことにより、十分な損失低減効果を得ながらも、簡単な構成で済ませることができ、磁区微細分化処理(レーザ照射処理)も容易になる。
【0033】
(3)第3の実施形態、その他の実施形態
図8は、第3の実施形態を示すものであり、巻鉄心31の接合部32部分の構成を示している。この巻鉄心31においても、電磁鋼板からなる帯板材33を、端部同士が突き合わされる接合部32を設けながら、内外周方向に複数枚巻き重ねて構成される。この第3の実施形態が上記第1の実施形態と異なる点は、磁区微細分化処理部34を、帯板材33の端部のうち、図で上下両面に、接合部32の両側に位置して設けた構成にある。
【0034】
この場合も、磁区微細分化処理部34は、レーザ照射処理により、格子状に線状痕を設けてなり、各帯板材33の端部の両面における他の帯板材33の接合部32とラップしている部分に位置して、一定の範囲即ち重なり合う別の帯板材33に対し磁束Φが渡る範囲に、帯板材33の幅方向全体に設けられている。この第3の実施形態においても、上記第1の実施形態と同様に、接合部32部分の磁気抵抗に起因する損失を小さく抑えることができる等の優れた効果を得ることができる。
【0035】
尚、上記した各実施形態では、電磁鋼板の表面に対するレーザ照射処理によって磁区微細分化処理部を設けるようにしたが、それ以外にも、プラズマ照射や焼き鏝による刻印により熱的ストレスを与えること、或いは、ギアやプレスにより機械的ストレスを与えることにより磁区微細分化処理部を設けるようにしても良い。磁区微細分化処理部の線状痕は、格子状(交差する二方向)に限定されず、様々な方向に延びるように形成することができる。電磁鋼板の圧延方向に対し斜め方向に傾斜する形態で設けても良い。線状痕を形成する間隔sについては、0.5mm以下とすることがより好ましい。
【0036】
その他、磁区微細分化処理部は、電磁鋼板の圧延方向に対してほぼ直交する幅方向に対して一部のみ設けた場合でも、損失低減の効果が得られることが確認されている。以上説明した実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0037】
図面中、1、31は巻鉄心、2は脚部、3は継鉄部、4は巻線、5、33は帯板材(電磁鋼板)、6、32は接合部、7、19、34は磁区微細分化処理部、11は積鉄心、12は継鉄部、13は脚部、14は中央脚部、16は電磁鋼板、17、18は接合部、19はスクラッ処理部、Φは磁束、L1、L2は線状痕を示す。