特許第6845259号(P6845259)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6845259炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845259
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 32/159 20170101AFI20210308BHJP
   C01B 32/162 20170101ALI20210308BHJP
   B01J 31/22 20060101ALI20210308BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20210308BHJP
   B82Y 40/00 20110101ALI20210308BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20210308BHJP
   H01B 13/00 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   C01B32/159
   C01B32/162
   B01J31/22 M
   B82Y30/00
   B82Y40/00
   H01B5/14 A
   H01B13/00 503B
【請求項の数】1
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-564954(P2018-564954)
(86)(22)【出願日】2017年6月6日
(65)【公表番号】特表2019-521943(P2019-521943A)
(43)【公表日】2019年8月8日
(86)【国際出願番号】CN2017087254
(87)【国際公開番号】WO2017219853
(87)【国際公開日】20171228
【審査請求日】2019年1月30日
(31)【優先権主張番号】201610459221.4
(32)【優先日】2016年6月22日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】513194997
【氏名又は名称】中国科学院金属研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】侯 鵬翔
(72)【発明者】
【氏名】蒋 松
(72)【発明者】
【氏名】劉 暢
(72)【発明者】
【氏名】成 会明
【審査官】 ▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−020939(JP,A)
【文献】 Electrochimica Acta,2015年,178,p.732-738
【文献】 Journal of Physical Chemistry C,2010年,114 ,p.14008-14012
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 32/00−32/991
B01J 31/22
B82Y 30/00
B82Y 40/00
H01B 5/14
H01B 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単層カーボンナノチューブの接合部に結晶性の高いグラフェンspカーボンアイランドを設計及び被覆し、グラフェンspカーボンアイランドを単一単層カーボンナノチューブ間の交点に溶接し、spカーボンアイランドの溶接構造を備えた単層カーボンナノチューブ薄膜を形成し;単層カーボンナノチューブ網目において、単一カーボンナノチューブの割合が80〜88%であり、炭素溶接構造を通じて単一カーボンナノチューブの接合部を密結合する炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製方法であって、
揮発しやすい有機金属化合物であるフェロセンを触媒前駆体とし、硫黄を含む有機化合物であるチオフェンを成長促進剤とし、炭化水素化合物であるエチレン及びトルエンを炭素源とし、水素をキャリヤーガスとし、反応炉の温度1100℃下でカーボンナノチューブを成長し、また反応炉管の末端部に高品質の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムをin situで収集する構成において、
アルゴンガス雰囲気において、まず反応炉の温度を1100±50℃まで上昇させてからキャリヤーガスとなる水素及び主要炭素源となるエチレンを導入する工程(1)と、
キャリヤーガスによる運びにおいて、シリンジポンプで供給する溶液(補助炭素源となるトルエン、触媒前駆体となるフェロセン及び成長促進剤となるチオフェンを含む)が揮発して1100±50℃の高温領域に入り;フェロセン及びチオフェンがクラッキングして触媒粒子を形成し、触媒作用においてエチレン及びトルエンのクラッキングにより炭素原子を生成し、触媒粒子上に核生成が起きて、単層カーボンナノチューブを生成する工程(2)と、
カーボンナノチューブは、気流に伴って炉管の末端部に流れ、最後に末端部に配置されたろ過用多孔質膜でろ過されて巨視的な2次元カーボンナノチューブ薄膜を形成する工程(3)と、
を含み、
浮遊触媒化学気相成長法による単層カーボンナノチューブ成長過程において、触媒と炭素源の濃度及び定温領域における滞留時間を減少することによって、触媒に分解された炭素源の一部がspカーボンアイランドを形成し、単一単層カーボンナノチューブ間の交点に溶接され、最終的にspカーボンアイランド溶接構造を備えた単層カーボンナノチューブ薄膜を形成し;調製前後のアルゴンガス流量は、180〜220ml/分間、調製中の水素流量が4500〜8000ml/分間、エチレン流量が2〜20ml/分間、溶液の供給速度が0.1〜0.24ml/時間、溶液の配合比率がトルエン:フェロセン:チオフェン=10g:(0.05〜0.6)g:(0.025〜0.9)gであることを特徴とする、
炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高性能フレキシブル透明導電性フィルムの調製分野に関し、特に、炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルム及びその調製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電性フィルムは、タッチパネル、フラットディスプレイ、太陽電池、有機発光ダイオード等の電子機器の重要な構成素子である。現在、酸化インジウムスズ(ITO)は、商業的利用の最も成熟した透明導電性フィルムであるが、希少金属であるインジウムが日増しに減少していることにより、ITOのコストが徐々に増加され;そのほかに、フレキシブルな電子機器の台頭に伴い、ITOの脆性により将来の応用の需要を満たすことができない。良好な光電的性質、構造の安定性、フレキシブル性等の特性により、単層カーボンナノチューブを織り交ぜてから成る二次元網目状透明導電性フィルムは、その高い透明導電性及び優れた靭性等の特性により、資源が希少で、脆性の酸化インジウムスズを代替して新世代の透明導電性フィルムとなって幅広く活用されると見込まれている。
【0003】
現在、単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製方法は、主に2種類ある。1種は、ウェット法(溶液法)であり、すなわち、先に単層カーボンナノチューブを溶液内に分散させてからろ過、スプレー塗布、スピンコーティング或いは印刷等の方法で単層カーボンナノチューブをフレキシブル基材上に堆積させる。その方法の制限性は、単層カーボンナノチューブを分散する物理・化学過程でカーボンナノチューブの本質的な構造を破壊し、界面活性剤等の汚染物質を混入することで、得られた透明導電性フィルムの性能を低下させることである。もう1種類がドライ法であり、すなわち、単層カーボンナノチューブを成長する反応システムの末端部に収集装置を取り付け、成長した単層カーボンナノチューブを多孔質基材上に直接収集し、更にインプリント工程を経てカーボンナノチューブをフレキシブル基材上に転写して透明導電性フィルムを形成させる(非特許文献1)。その方法の利点は、カーボンナノチューブの本質的な構造を保持すると共に汚染物質を混入させず、かつ低消耗、簡単、量産化しやすいことである。よって、ドライ法でカーボンナノチューブ透明導電性フィルムを調製する研究は、一連の進歩を遂げ、例えばバンドルのサイズを減らし、接触抵抗の低減、パターン化等である(非特許文献2、非特許文献3)である。
【0004】
報告されたドライ法の転写で得られた単層カーボンナノチューブ透明導電性フィルムの光電的性質(シート抵抗が200Ω/□(オーム/sq)@90%レベルの光透過率)を上回るため、ITO(50Ω/□@90%レベルの光透過率を下回る)に匹敵できず、かつ人々の単一単層カーボンナノチューブに基づく予測値より遥かに低い。その主な原因として通常製造された単層カーボンナノチューブは、チューブ間の強いファンデルワールス力により直径が10〜数10ナノメートルのバンドルとして凝集し、バンドル内の単層カーボンナノチューブがフィルムの導電性に寄与することはないのに、光を大量に吸収することにより、フィルムの光電的性質を低下させる(非特許文献4)。Kauppinen等は、触媒供給量の減少を通じてカーボンナノチューブの生産量を低下させて単体率が50%を超える単層カーボンナノチューブが得られ、調整した透明導電性フィルムの最適な光電的性質が310Ω/□@90%レベルの光透過率である(非特許文献2)。また、単層カーボンナノチューブのナノメートル寸法により、チューブ間の接触抵抗が膜抵抗の主に寄与するものと認定されている。研究者は、通常硝酸ドープ等の方法により、カーボンナノチューブ間の接触抵抗を低減する(非特許文献5)。しかしながら、このような化学ドープ効果は安定しないことにより、フィルムの抵抗が徐々に上昇するに至る。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Kaskela A,Nasibulin A G,Timmermans M Y,et al.Aerosol−synthesized SWCNT networks with tunable conductivity and transparency by a dry transfer technique[J].Nano letters,2010,10(11):4349−4355.
【非特許文献2】Mustonen K,Laiho P,Kaskela A,et al.Uncovering the ultimate performance of single−walled carbon nanotube films as transparent conductors[J].Applied Physics Letters,2015, 107(14): 143113.
【非特許文献3】Fukaya N,Kim D Y,Kishimoto S, et al.One−step sub−10μm patterning of carbon−nanotube thin films for transparent conductor applications[J].ACS nano,2014,8(4): 3285−3293.
【非特許文献4】Radosavljevic M,Lefebvre J,Johnson A T.High−field electrical transport and breakdown in bundles of single−wall carbon nanotubes[J].Physical Review B,2001,64(24):241307.
【非特許文献5】Jackson R,Domercq B,Jain R,et al.Stability of doped transparent carbon nanotube electrodes[J].Advanced Functional Materials,2008,18(17):2548−2554.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、単層カーボンナノチューブ同士が凝集して束になることによる大量の光吸収及びチューブ間の接触抵抗低減等の重要問題を解決することで、性能がフレキシブルなITOに匹敵でき、かつ高い安定性を持つ単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムを得る炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルム及びその調製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムは、単層カーボンナノチューブの接合部に結晶性の高いグラフェンspカーボンアイランドを設計及び被覆し、グラフェンspカーボンアイランドを単一単層カーボンナノチューブ間の交点に溶接し、spカーボンアイランドの溶接構造を備えた単層カーボンナノチューブ薄膜を形成し;単層カーボンナノチューブ網目において、単一カーボンナノチューブの割合が80〜88%であり、炭素溶接構造を通じて単一カーボンナノチューブの接合部を密結合する。
【0008】
前記炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムによれば、炭素溶接構造内のグラフェンカーボンアイランド及び単層カーボンナノチューブの結晶性I/Iは、150〜180で、spC−C結合の占める割合が97〜99%、耐酸化温度が750〜800℃を超える。
【0009】
前記炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムによれば、単層カーボンナノチューブの長さは、10〜200μm、直径が1.4〜2.4nmである。
【0010】
前記炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製方法は、揮発しやすい有機金属化合物であるフェロセンを触媒前駆体とし、硫黄を含む有機化合物であるチオフェンを成長促進剤とし、炭化水素化合物であるエチレン及びトルエンを炭素源とし、水素をキャリヤーガスとし、反応炉の温度1100℃下でカーボンナノチューブを成長し、また反応炉管の末端部に高品質の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムをin situで収集する。
【0011】
前記炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製方法は、
アルゴンガス雰囲気において、まず反応炉の温度を1100±50℃まで上昇させてからキャリヤーガスとなる水素及び主要炭素源となるエチレンを導入する工程(1)と、
キャリヤーガスによる運びにおいて、シリンジポンプで供給する溶液(補助炭素源となるトルエン、触媒前駆体となるフェロセン及び成長促進剤となるチオフェンを含む)が揮発して1100±50℃の高温領域に入り;フェロセン及びチオフェンがクラッキングして触媒粒子を形成し、触媒作用においてエチレン及びトルエンのクラッキングにより炭素原子を生成し、触媒粒子上に核生成が起きて、単層カーボンナノチューブを生成する工程(2)と、
カーボンナノチューブは、気流に伴って炉管の末端部に流れ、最後に末端部に配置されたろ過用多孔質膜でろ過されて巨視的な2次元カーボンナノチューブ薄膜を形成する工程(3)と、
を含む。
【0012】
前記炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製方法によれば、浮遊触媒化学気相成長法による単層カーボンナノチューブ成長過程において、触媒と炭素源の濃度及び定温領域における滞留時間を減少することによって、触媒に分解された炭素源の一部がspカーボンアイランドを形成し、単一単層カーボンナノチューブ間の交点に溶接され、最終的にspカーボンアイランド溶接構造を備えた単層カーボンナノチューブ薄膜を形成し;調製前後のアルゴンガス流量は、180〜220ml/分間、調製中の水素流量が4500〜8000ml/分間、エチレン流量が2〜20ml/分間、溶液の供給速度が0.1〜0.24ml/時間、溶液の配合比率がトルエン:フェロセン:チオフェン=10g:(0.05〜0.6)g:(0.025〜0.9)gである。
【0013】
前記炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムは、インプリント法を用いてカーボンナノチューブ薄膜をフレキシブル基材上に転写してフレキシブル透明導電性フィルムを構築する。
【0014】
前記炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムによれば、フレキシブル基材はポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート或いはポリカーボネートである。
【0015】
前記炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムによれば、単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムは、優れた均一性を持ち、光透過率の誤差が±0.4%、シート抵抗の誤差が±4.3%である。
【0016】
本発明の設計思想
本発明は、気相炭素源と液相炭素源の分解温度差を利用して反応システム内の中高温領域から高温領域間の炭素源の分解を実現することで、触媒粒子が合体して肥大化してしまうこと或いは炭素を過量で吸着して中毒することを抑制し;極めて低い炭素源及び触媒の濃度を選択してカーボンナノチューブの核生成数量を減らすことで、カーボンナノチューブ間の接触によりバンドルを形成するチャンスを減少し;高いキャリヤーガス流速を選択して触媒及び炭素源の成長領域における滞留時間を減少し、一部の炭素原子がカーボンナノチューブの成長に参加できないようにすることで結晶性の高いグラフェンカーボンアイランドを形成させる。熱運動及びファンデルワールス力の総合的な作用において、一部グラフェンカーボンアイランドはカーボンナノチューブの表面に吸着することで、バンドルの形成を抑制する。ろ過用多孔質膜のろ過作用により、カーボンナノチューブが堆積すると共に互いにろ過膜の表面に接合する。反応の進行に伴い、気流内のグラフェンカーボンアイランドがチューブとチューブ間の接合部に堆積され、最終的にグラフェンアイランド溶接構造を形成する。グラフェンアイランド溶接の高性能のフレキシブル単層カーボンナノチューブ薄膜において、グラフェンアイランド溶接構造の働きの一つは、カーボンナノチューブ間の接触抵抗を低減し、もう一つの働きとしてチューブ同士が凝集して束になることによる大量の光吸収の問題を抑制する。
【発明の効果】
【0017】
本発明の利点及び有利な効果として、次の通りとなる。
【0018】
1、本発明は、炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムを初めて設計されると共に調製し、従来の単層カーボンナノチューブ薄膜におけるチューブ間の接触抵抗が大きい問題及びバンドルが光を大量に吸収する問題を効果的に解決した。
【0019】
2、本発明で得られた炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムは、90%レベルの光透過率(550nm可視光)にて、シート抵抗がわずか41Ω/□であり;同じ光透過率にて、シート抵抗は、現在報告されていた未ドープのカーボンナノチューブ透明導電性フィルムの最小のシート抵抗より5.5倍低く;かつフレキシブル基材ITO透明導電性フィルムの最も優れた性能と同等のレベルにある。
【0020】
3、本発明で開発した炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製技術は、製造工程が簡単で、量産化しやすい等の特性を持つことで、現在カーボンナノチューブ透明導電性フィルムの安定性に劣り、複雑な製造工程等といった重要な科学及び技術的な課題を解決し;タッチパネル、液晶ディスプレイ、有機発光ディスプレイ等の分野において大きな役割を果たすと見込まれる。
【0021】
4、本発明は、浮遊触媒化学気相成長法による単層カーボンナノチューブ成長過程において、触媒と炭素源の濃度及び定温領域における滞留時間を減少することによって、触媒に分解された炭素源の一部がspカーボンアイランドを形成し、単一単層カーボンナノチューブ間の交点に溶接され、最終的にspカーボンアイランド溶接の高性能の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムを形成させる。
【0022】
5、本発明は、炭素溶接構造で結び付けた単一カーボンナノチューブの設計・調製を通じてカーボンナノチューブ間の接触抵抗を低減し、バンドルの形成及び大量の光吸収を抑制し、高性能のフレキシブル透明導電性フィルムを得て、カーボンナノチューブ薄膜の高性能光電子デバイス分野における応用にとって、重要な意味を持っている。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】単層カーボンナノチューブ薄膜の調製システムである。
図2】1#試料のSEMキャラクタリゼーション結果である[(a)乃至(b)は各々試料の高倍率及び低倍率の走査電子顕微鏡写真であり;(c)は試料内のカーボンナノチューブの長さ統計図である。]。
図3】1#試料のTEM、ラマンスペクトル、XPS及び熱処理キャラクタリゼーション結果である[(a)は試料の低倍率及び高倍率の透過電子顕微鏡写真であり;(b)は試料における1つのバンドルに含める単一カーボンナノチューブの数量統計図であり;(c)は試料におけるカーボンナノチューブの透過電子顕微鏡の直径統計図であり;(d)は、試料のラマンスペクトルGモード及びDモード図であり;(e)は試料のX線光電子分光図であり;(f)は空気雰囲気において700℃で30分間熱処理後の透過電子顕微鏡写真である。]。
図4】1#試料の均一性のキャラクタリゼーション結果である[(a)は透明フレキシブル基材に転写したしるしのシート抵抗と光透過率のカーボンナノチューブ透明導電性フィルムの光学写真であり;(b)は図(a)の均一性を示す模式図である]。
図5】1#試料の性能安定性試験結果である[(a)は硝酸ドープの有無のカーボンナノチューブ薄膜の空気中における性能安定性図であり;(b)は単層カーボンナノチューブ薄膜と商業的なITO(基材がPET)の繰り返し屈曲性試験(屈曲角度が70°)の結果比較図であり;(c)はオリジナル試料と商業的なITO(基材がPET)の1回の大きな角度における屈曲性試験(屈曲角度が180°)の結果比較図である。]。
図6】2#試料のTEM写真であるである[(a)乃至(b)は各々試料の低倍率及び高倍率TEM写真である。]。
【発明を実施するための形態】
【0024】
図1に示すように、単層カーボンナノチューブ薄膜の調製システムは、主に反応炉1、高精度シリンジポンプ2及び温度コントローラ3等を含み、反応炉1が高精度シリンジポンプ2に連通し、高精度シリンジポンプ2が原料のトルエン、フェロセン、チオフェンを反応炉1に送液し、同時に水素とエチレンの混合ガスがパイプラインを通じて反応炉1に導入され、前記パイプラインの外側に温度コントローラ3が設けられる。
【0025】
具体的実施過程において、本発明は、注入浮遊触媒CVD法を用いて炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムの調製を制御し、揮発しやすい有機金属化合物であるフェロセンを触媒前駆体とし、硫黄を含む有機化合物であるチオフェンを成長促進剤とし、炭化水素化合物であるエチレン及びトルエンを炭素源とし、水素をキャリヤーガスとし、反応炉1の温度1100℃下でカーボンナノチューブを成長し、また反応炉管の末端部に高品質の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムをin situで収集し、その具体的工程が次の通りである。
【0026】
工程(1):アルゴンガス雰囲気において、まず反応炉1の温度を1100℃まで上昇させてからキャリヤーガスとなる水素及び主要炭素源となるエチレンを導入する。
【0027】
工程(2):キャリヤーガスによる運びにおいて、シリンジポンプ2で供給する溶液(補助炭素源となるトルエン、触媒前駆体となるフェロセン及び成長促進剤となるチオフェンを含む)が迅速に揮発して高温領域(1100℃)に入り;フェロセン及びチオフェンがクラッキングして触媒粒子を形成し、触媒作用においてエチレン及びトルエンのクラッキングにより炭素原子を生成し、触媒粒子上に核生成が起きて、単層カーボンナノチューブを生成する。
【0028】
工程(3)カーボンナノチューブは、気流に伴って炉管の末端部に流れ、最後に末端部に配置されたろ過用多孔質膜でろ過されて巨視的な2次元カーボンナノチューブ薄膜を形成し、多孔質基材によるカーボンナノチューブ薄膜のin situ気相収集を実現し;収集時間が違いの場合、得られる薄膜の厚さも異なる。
【0029】
工程(4)調製が終了した時、反応炉1及び温度コントローラ3が降温し始め、シリンジポンプ2の動作が停止され、水素、エチレンの供給も停止し、そしてアルゴンガスを吹き込んで反応炉管内のガスを排出する。
【0030】
調製前後のアルゴンガス流量は、200ml/分間、調製中の水素流量が4500〜8000ml/分間、エチレン流量が2〜20ml/分間、溶液の供給速度が0.1〜0.24ml/時間、溶液の配合比率がトルエン:フェロセン:チオフェン=10g:(0.05〜0.6)g:(0.025〜0.9)gである。
【0031】
本発明で得られる高性能の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムは、単層カーボンナノチューブの接合部に結晶性の高いグラフェンカーボンアイランドを設計及び被覆する。このようなカーボンアイランド構造は、ファンデルワールス力により単層カーボンナノチューブ同士が凝集して束になることによる大量の光吸収及びカーボンナノチューブ間の接触抵抗が大きいという問題を解決し、最終的に高性能の単層カーボンナノチューブフレキシブル透明導電性フィルムを得る。単層カーボンナノチューブ網目において、単一カーボンナノチューブの割合が85%以上に達し、これは、従来の単層カーボンナノチューブ網目内のバンドル(通常バンドルサイズが数十ナノメートル)が光を大量に吸収するのにバンドル内部のカーボンナノチューブが導電性に貢献することはないという問題を避ける。炭素溶接構造は、カーボンチューブ間の接合部を密結合することで、チューブ間の接触抵抗を大幅に低減し、カーボンナノチューブの接合抵抗という難題を解決した。炭素溶接構造内のカーボンアイランド及び単層カーボンナノチューブの結晶性が非常に高(I/Iが175で、spC−C結合の割合が98.8%で、耐酸化温度が700℃を超える)く、カーボンナノチューブの長さが長(10〜200μm)く、直径も大きい(1.4〜2.4nm)。炉管の末端部に多孔質基材を取り付けてカーボンナノチューブ薄膜をin situで収集し、煩雑な溶液後分散成膜工程及び不純物の導入を免じるだけではなく、かつカーボンナノチューブの本質的な構造の完全性も確保する。
【0032】
本発明は、簡単なインプリント法を通じて、カーボンナノチューブ薄膜をフレキシブル基材上(例えばポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、ポリカーボネート(PC)等)に転写してフレキシブル透明導電性フィルムを構築でき、90%レベルの光透過率(550nm可視光)にて前記薄膜のシート抵抗がわずか41Ω/□である。同様の光透過率において、未ドープのオリジナルカーボンナノチューブ透明導電性フィルムのシート抵抗は、現在の純カーボンナノチューブ透明導電性フィルムの最低報告値より5.5倍低く、商業的なITOフレキシブル薄膜レベルに達する。得られた単層カーボンナノチューブ薄膜は、優れた均一性(光透過率の誤差が±0.4%で、シート抵抗の誤差が±4.3%)、空気の安定性、高温高湿の安定性を持ち、かつ数回の繰り返し屈曲性試験及び1回の大きな角度における屈曲性試験を経ても優れた性能安定性を示している。
【0033】
本発明の方法を用いて得られた製品内で、単層カーボンナノチューブ透明導電性フィルムの高性能を評価するキャラクタリゼーション技術は、光学性能試験、空気安定性試験、加速劣化試験、繰り返し屈曲性試験及び1回の屈曲性試験である。
【0034】
以下、実施例及び添付図面を通じて本発明を詳細に説明する。
【実施例1】
【0035】
本実施例において、200ml/分間のアルゴンガス雰囲気下で、まず反応炉1の温度を1100℃まで上昇してから8060ml/分間の水素、炭素源、触媒前駆体となるフェロセン、成長促進剤となるチオフェンを導入する。気相炭素源となるエチレンの反応システムにおける体積濃度は、
で、トルエンの反応システムにおける体積濃度が
で、触媒前駆体となるフェロセンの反応システムにおける体積濃度が
で、成長促進剤となるチオフェンの反応システムにおける体積濃度が
であった。成長したカーボンナノチューブは、気流に伴って炉管の末端部に流れ、最後に末端部に配置されたろ過用多孔質膜上に巨視的な2次元カーボンナノチューブ薄膜を形成した。収集時間の制御を通じて、光透過率の異なる薄膜を得ることができる。
【0036】
上記で調製された単層カーボンナノチューブ薄膜の試料(1#と記す)に対し透過電子顕微鏡、ラマンスペクトル、X線光電子分光、走査電子顕微鏡、シート抵抗、光透過率等のキャラクタリゼーションを行い、また高温熱処理、空気安定性、加速劣化、繰り返し屈曲性及び1回の大きな角度における屈曲等の試験を行った。
【0037】
走査電子顕微鏡(図2)で観察したところ、カーボンナノチューブの長さが比較的長くかつ真っすぐなもので、平均長さが62μmであることが判明した。透過電子顕微鏡写真(図3)では、薄膜内のカーボンナノチューブの接合部をグラフェンアイランドで被覆し、グラフェンアイランド溶接の単層カーボンナノチューブ網目構造を形成したことを示し;85%の単層カーボンナノチューブが1本で、他の15%が2本或いは3本の小さなバンドルであり、より多い本数のバンドルが発見されることなく;単層カーボンナノチューブの直径は、1.4〜2.4nm(図3)である。単層カーボンナノチューブ薄膜のラマンスペクトル(図3)は、極めて高い強度のGモードと極めて低い強度のDモード(I/Iが175で、通常文献で報告されたI/Iが50を下回る)を持ち、薄膜内の単層カーボンナノチューブとグラフェンアイランドの結晶性が非常に高いことを示し;同時にX線光電子分光(図3)は、spC−C結合の割合が98.8%であることを示し、薄膜の結晶性が高いことを証明した。炭素溶接構造の薄膜は、空気雰囲気において700℃で30分間酸化処理後、更に透過電子顕微鏡によるキャラクタリゼーションを行った結果(図3)において炭素溶接構造及び単層カーボンナノチューブ構造がほぼ何の変化も起きないことが判明したことで、得られた薄膜の結晶性が高いことを更に証明した。
【0038】
収集された炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブ薄膜をインプリントによりフレキシブルPET基材に転写し、90%レベルの光透過率(550nm可視光)にて薄膜のシート抵抗がわずか41Ω/□であると測定し;かつ薄膜が優れた均一性を持ち、寸法が8×8cm薄膜の均一性についてテスト(図4)したところ、薄膜の光透過率の誤差が±0.4%、シート抵抗の誤差が±4.3%であった。薄膜は、良好な安定性も持ち、空気中に60日以上置かれた後、そのシート抵抗値の変化が2%(図5)未満で、硝酸ドープ後の薄膜とはっきりと対照を成し;250時間の加速劣化試験の処理を経た後、シート抵抗値の変化が5%(表1)を下回り;10000回の70°屈曲性試験又は1回0〜180°の屈曲性試験を経た後、シート抵抗の変化は、15%(図5)を下回り、フレキシブル基材上のITO性能とはっきりと対照を成した。
【0039】
表1.1#試料の加速劣化試験結果(試験条件が250時間@60℃&90%の相対湿度)
【表1】
【実施例2】
【0040】
本実施例において、200ml/分間のアルゴンガス雰囲気下で、まず反応炉1の温度を1100℃まで上昇してから6530ml/分間の水素、炭素源、触媒前駆体となるフェロセン、成長促進剤となるチオフェンを導入する。気相炭素源となるエチレンの反応システムにおける体積濃度は、
で、トルエンの反応システムにおける体積濃度が
で、触媒前駆体となるフェロセンの反応システムにおける体積濃度が
で、成長促進剤となるチオフェンの反応システムにおける体積濃度が
であった。成長したカーボンナノチューブは、気流に伴って炉管の末端部に流れ、最後に末端部に配置されたろ過用多孔質膜上に巨視的な2次元カーボンナノチューブ薄膜を形成した。収集時間の制御を通じて、光透過率の異なる薄膜を得ることができる。
【0041】
上記で調製された単層カーボンナノチューブ薄膜の試料に対し透過電子顕微鏡、シート抵抗、光透過率等のキャラクタリゼーションを行った。透過電子顕微鏡によるキャラクタリゼーションでは、薄膜内のカーボンナノチューブの接合部をグラフェンアイランドで被覆し、グラフェンアイランド溶接の単層カーボンナノチューブ網目構造を形成したことを示している。収集された炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブ薄膜をインプリントによりフレキシブルPET基材に転写し、90%レベルの光透過率(550nm可視光)にて薄膜のシート抵抗が50Ω/□であると測定した。
【比較例】
【0042】
200ml/分間のアルゴンガス雰囲気下で、まず反応炉1の温度を1100℃まで上昇してから4560ml/分間の水素、炭素源、触媒前駆体となるフェロセン、成長促進剤となるチオフェンを導入する。気相炭素源となるエチレンの反応システムにおける体積濃度は、
で、トルエンの反応システムにおける体積濃度が
で、触媒前駆体となるフェロセンの反応システムにおける体積濃度が
で、成長促進剤となるチオフェンの反応システムにおける体積濃度が
であった。成長したカーボンナノチューブは、気流に伴って炉管の末端部に流れ、最後に末端部に配置されたろ過用多孔質膜上に巨視的な2次元カーボンナノチューブ薄膜を形成した。収集時間の制御を通じて、光透過率の異なる薄膜を得ることができる。
【0043】
上記で調製された単層カーボンナノチューブ薄膜の試料(2#と記す)に対し透過電子顕微鏡、シート抵抗、光透過率のキャラクタリゼーションを行った。透過電子顕微鏡写真は、図6に示す通りとし、試料は、5nm〜40nmのバンドルで構成され、バンドル間に炭素溶接構造がないことが分かる。収集された炭素溶接構造の単層カーボンナノチューブ薄膜をインプリントによりフレキシブルPET基材に転写し、90%レベルの光透過率(550nm可視光)にて薄膜のシート抵抗が270Ω/□であると測定した。
【0044】
実施例と比較例の結果は、本発明で設計及び調製したグラフェンアイランド溶接の高性能単層カーボンナノチューブ網目薄膜における単層カーボンナノチューブの品質が高く、単体率が高く、長さが長く、直径が大きく、調製した透明導電性フィルムは、初めてフレキシブル基材上ITO薄膜の最高報告レベルに達させ、現在報告された処理を経ていないカーボンナノチューブ薄膜の最高性能の5.5倍となる。前記透明導電性フィルムは、優れた化学的安定性及びフレキシブル性も持つ。本発明は、高性能の単層カーボンナノチューブ透明導電性フィルムの調製を実現し、現在カーボンナノチューブ透明導電性フィルムの光電的性質に劣り、複雑な製造工程等の重要な科学及び技術的課題を解決した。
【符号の説明】
【0045】
1 反応炉
2 高精度シリンジポンプ
3 温度コントローラ

図1
図2
図3
図4
図5
図6