(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845328
(24)【登録日】2021年3月1日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】レーザピーニング加工装置
(51)【国際特許分類】
B23K 26/356 20140101AFI20210308BHJP
B23K 26/16 20060101ALI20210308BHJP
B23K 26/00 20140101ALI20210308BHJP
【FI】
B23K26/356
B23K26/16
B23K26/00 N
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2019-532370(P2019-532370)
(86)(22)【出願日】2018年4月4日
(86)【国際出願番号】JP2018014453
(87)【国際公開番号】WO2019021539
(87)【国際公開日】20190131
【審査請求日】2019年10月29日
(31)【優先権主張番号】特願2017-145914(P2017-145914)
(32)【優先日】2017年7月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100136504
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 毅彦
(72)【発明者】
【氏名】中野 麻由
(72)【発明者】
【氏名】足立 隆史
【審査官】
柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−093284(JP,A)
【文献】
特表2016−538421(JP,A)
【文献】
特開2004−160463(JP,A)
【文献】
特開2010−247213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/356
B23K 26/00
B23K 26/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザ光を発振するレーザ発振器と、
レンズで前記レーザ光を集光して被加工物に照射する照射系とを備え、
前記照射系は、液体を介さずに大気中に露出された状態で前記被加工物に前記レーザ光を照射するように構成され、かつ
前記照射系は、
一方の開口端が前記レーザ発振器と連結され、前記レーザ光の散乱光を遮蔽するための遮光材で構成された筒状のノズルと、
前記ノズルの他方の開口端に取付けられ、前記被加工物の表面に接触させながら滑らせるための弾性体と、
を有するレーザピーニング加工装置。
【請求項2】
前記弾性体の前記被加工物との接触状態を検知するセンサと、
前記接触状態に応じて前記レーザ発振器の電源を制御することによって前記レーザ光の発振を停止させる制御装置と、
を更に備える請求項1記載のレーザピーニング加工装置。
【請求項3】
前記レーザ光の照射によって前記ノズル内に生じる前記被加工物の屑を回収するための集塵機と、
前記集塵機と前記ノズル内を連結する連結チューブとを更に備え、
前記連結チューブの前記ノズル側を、リング状の前記弾性体の前記被加工物側に形成された溝又は前記弾性体に形成された貫通孔と連結した請求項1又は2記載のレーザピーニング加工装置。
【請求項4】
前記屑を回収するためのエアを前記ノズル内に取込むためのエア取込口であって、前記レーザ光の散乱光が前記ノズルの外部に漏れない構造を有するエア取込口を前記ノズルに形成した請求項3記載のレーザピーニング加工装置。
【請求項5】
請求項1乃至4記載のレーザピーニング加工装置を用いて前記被加工物のレーザピーニング加工を行うことによって製品又は半製品を製造するレーザピーニング加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーザピーニング加工装置及びレーザピーニング加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、物体の表面に残留応力を与えて改質する方法としてレーザピーニング加工が知られている。典型的なレーザピーニング加工は、液体で覆われた状態で被加工物の被加工面にレーザビームを集光照射することによって行われる。液体で覆われた被加工物の被加工面にレーザビームが集光照射されると、レーザビームの照射によって発生するプラズマを液体中に閉じ込めることができる。この結果、衝撃波の圧力が被加工面に付与される。これにより、被加工物内部に生じた圧縮応力を残留応力として残留させることができる。
【0003】
具体例として、被加工物を水中に浸漬せずにレーザピーニング加工を行うことができるように、直径が40mmで長さ200mmの筒状体に水を供給することが可能なハンディタイプのレーザピーニング装置が提案されている(例えば特許文献1参照)。また、液体を使用せずにレーザピーニング加工を行うことができるように、固体の透明層を有する被覆部材をスライドさせながら被覆部材を介してレーザをパルス照射する装置も提案されている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−247213号公報
【特許文献2】特開2014−176870号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、レーザピーニング加工を行うために要求される作業環境上の制約を軽減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の実施形態に係るレーザピーニング加工装置は、レーザ光を発振するレーザ発振器と、レンズで前記レーザ光を集光して被加工物に照射する照射系とを備え、前記照射系は、液体を介さずに大気中に露出された状態で前記被加工物に前記レーザ光を照射するように構成され
、かつ前記照射系は、一方の開口端が前記レーザ発振器と連結され、前記レーザ光の散乱光を遮蔽するための遮光材で構成された筒状のノズルと、前記ノズルの他方の開口端に取付けられ、前記被加工物の表面に接触させながら滑らせるための弾性体とを有するものである。
【0007】
また、本発明の実施形態に係るレーザピーニング加工方法は、上述したレーザピーニング加工装置を用いて前記被加工物のレーザピーニング加工を行うことによって製品又は半製品を製造するものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態に係るレーザピーニング加工装置の構成図。
【
図2】
図1に示すノズルの先端部分における拡大断面図。
【
図5】
図1に示すエア取込口の構造を示す拡大断面図。
【0009】
本発明の実施形態に係るレーザピーニング加工装置及びレーザピーニング加工方法について添付図面を参照して説明する。
【0010】
(構成及び機能)
図1は本発明の実施形態に係るレーザピーニング加工装置の構成図である。
【0011】
レーザピーニング加工装置1は、液体を介さずに大気中に露出された状態で被加工物Wのレーザピーニング加工を行う装置である。そのために、レーザピーニング加工装置1は、レーザ光Lを発振するレーザ発振器2、被加工物Wにレーザ光Lを照射する照射系3、レーザ発振器2に電力を供給する電源4、電源4を制御するための制御装置5及びレーザピーニング加工によって生じる被加工物Wの屑を回収するための集塵機6を有する。
【0012】
照射系3は、液体を介さずに大気中に露出された状態で被加工物Wにレーザ光Lを照射するように構成される。このため、照射系3は、レンズ7をノズル8の内部に配置した単純な構成とすることができる。レンズ7は、レーザ発振器2で発振されたレーザ光Lを集光して被加工物Wに照射するための光学素子である。
【0013】
大気中に露出された状態で被加工物Wのレーザピーニング加工を行うためには、レーザ光Lが十分な強度を有していることが条件となる。パルスレーザの強度Iは、パルスエネルギをE、パルスレーザが照射されるビームスポットの面積をS、パルス幅をtとすると、I=E/(S・t)で表される。従って、パルスエネルギEが一定であっても、パルス幅tが小さくなれば、パルスレーザの強度Iは大きくなる。
【0014】
パルス幅tが数ピコ秒以下であるピコ秒レーザやフェムト秒レーザは、超短パルスと呼ばれる。超短パルスのうち特にパルス幅tがフェムト秒(1000兆分の1秒)オーダであるフェムト秒レーザは、Nd:YAGレーザ等のナノ秒レーザとは異なり、水等の液体を介さずに大気中で被加工物Wのレーザピーニング加工を行うために十分な強度Iを有する。
【0015】
そこで、レーザ発振器2を、レーザ光Lとしてフェムト秒レーザを発振するフェムト秒レーザ発振器で構成することが実用的である。但し、レーザピーニング加工に要求されるパルスレーザの強度Iが小さい場合には、ピコ秒レーザ発振器でレーザ発振器2を構成してもよい。レーザピーニング加工の対象は、アルミニウム、鉄、チタン等の塑性変形する金属となる。このため、レーザピーニング加工の対象となる材質によって、レーザピーニング加工に要求されるパルスレーザの強度Iが決定される。以降では、主としてフェムト秒レーザ発振器でレーザ発振器2を構成する場合について説明する。
【0016】
Nd:YAGレーザ等を発振する従来のナノ秒レーザ発振器は、長さが1m程度で重さが約50kg程度もある大型の発振器である。このため、ナノ秒レーザ発振器を用いてレーザピーニング加工を行う場合には、ナノ秒レーザ発振器を固定し、被加工物をロボット等で保持しながら移動させることが実用的となる。
【0017】
これに対して、長さが600mm程度のフェムト秒レーザ発振器を用いれば、レーザピーニング加工装置1を、作業者による手持ち式の装置とすることができる。すなわち、レンズ7及びノズル8を含む照射系3を連結したレーザ発振器2を作業者が手で移動させながら被加工物Wのレーザピーニング加工を行うことが現実的となる。或いは、照射系3を連結したレーザ発振器2をロボットのアームに取付けて照射系3を移動させながらレーザピーニング加工を行うことも現実的となる。
【0018】
このため、被加工物Wが航空機構造体のように大型であっても、容易にノズル8を被加工物Wに向けてレーザピーニング加工を行うことができる。すなわち、被加工物Wを固定した状態でレーザピーニング加工を行うことが容易となる。
【0019】
しかも、上述したように、レーザ発振器2をフェムト秒レーザ発振器等で構成すれば、レーザピーニング加工を行うために水等の液体やコーティングが不要となる。このため、ナノ秒レーザ発振器を用いてレーザピーニング加工を行う場合に必要であった、液体を供給するための設備が不要となる。
【0020】
その反面、フェムト秒レーザ発振器等で構成されるレーザピーニング加工装置1の場合には、レーザ光Lの強度が大きいため、安全性を確保することが重要となる。すなわち、レーザ光Lを遮蔽し、レーザ光Lはもちろん、レーザ光Lの散乱光が作業者の目に入らないようにすることが重要である。特に、レーザピーニング加工装置1をポータブルタイプとする場合には、ノズル8の先端が様々な方向に向けられる可能性がある。このため、レーザ光Lが直接人の目に入らないようにすることが必要不可欠である。
【0021】
そこで、レーザ光Lの散乱光を遮蔽するために、ノズル8を筒状の遮光材で構成することができる。遮光材の例としては、軽量なアルミニウムが挙げられる。そして、ノズル8の一方の開口端をレーザ発振器2と連結することができる。また、ノズル8の他方の開口端には、被加工物Wの表面に接触させながら滑らせるための弾性体9を取付けることができる。
【0022】
これにより、レーザピーニング加工の施工ポイントも含めてレーザ光Lの光路を完全にノズル8で塞ぐことができる。その結果、レーザ光Lはもちろん、レーザ光Lの散乱光が作業者の目に入る事故を防止することができる。しかも、ノズル8の被加工物Wにおける先端には弾性体9が取付けられるため、被加工物Wの損傷を回避することができる。すなわち、被加工物Wを損傷させることなく、レーザ光L、反射光及び散乱光をノズル8内に密閉することができる。
【0023】
但し、被加工物Wと弾性体9との間に隙間が生じた状態でレーザ光Lが照射されると、隙間からレーザ光Lの散乱光又は反射光が漏れる恐れがある。そこで、弾性体9の被加工物Wとの接触状態を検知するセンサ10をレーザピーニング加工装置1に設けることができる。
【0024】
弾性体9と被加工物Wとの間における接触状態を検知するセンサ10の実用的な例としては、圧力センサや光学式の位置センサが挙げられる。例えば、光学式の位置センサを用いる場合であれば、被加工物Wの表面から弾性体9までの距離を検出することによって、弾性体9が被加工物Wの表面に密着しているか否かを検出することができる。一方、図示されるように圧力センサ10Aを用いれば、被加工物Wの表面から弾性体9に負荷される圧力を検出することによって、弾性体9が被加工物Wの表面に密着しているか否かを検出することができる。
【0025】
ノズル8は筒状であるため、被加工物Wとの間における隙間の発生を完全に抑止するために好適な弾性体9の構造はOリング状となる。そこで、Oリング状の弾性体9と、ノズル8の先端との間に、Oリング状の圧力センサ10Aを介在させることができる。これにより、弾性体9が被加工物Wに接触している場合において被加工物Wから弾性体9に負荷される圧力を、圧力センサ10Aで検出することができる。
【0026】
圧力センサ10Aを簡易に構成することを重視する場合には、レーザ光Lの光軸方向における環状領域の圧力を、単一の成分として出力する圧力センサ10Aを、ノズル8の先端に取付けることができる。この場合、圧力センサ10Aから出力される圧力の測定値に対する閾値処理によって、弾性体9が被加工物Wの表面に接触しているか否かを検出することができる。
【0027】
一方、リング状の弾性体9が被加工物Wの表面に確実に密着しているか否かを検出することを重視する場合には、弾性体9の少なくとも異なる3点における圧力を検出する圧力センサ10Aをノズル8の先端に取付けることができる。この場合、少なくとも3点における圧力の測定値に対する閾値処理によって、弾性体9が被加工物Wの表面に完全に密着しているか否かを検出すること可能となる。すなわち、弾性体9の少なくとも3点における圧力の測定値がいずれも閾値以上又は閾値を超えた場合に限り、弾性体9が被加工物Wの表面に完全に密着していると判定することができる。
【0028】
従って、弾性体9には、被加工物Wとの間における潤滑性及び被加工物Wの表面に密着させるための弾性の他、圧力センサ10Aに圧力を伝達する特性が要求されることになる。特に、レーザピーニング加工前において被加工物Wの表面は洗浄されるため、被加工物Wとの間において潤滑性を確保することが重要である。
【0029】
上述のような要求を満たす弾性体9の材質の例としては、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリアミド樹脂(ナイロン)及びポリアセタール樹脂が挙げられる。弾性体9は、単一の材質で構成せずに、複数の材質で構成するようにしてもよい。すなわち、複数の材料を重ね合せたラミネート材で弾性体9を構成することもできる。従って、弾性体9を、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド樹脂及びポリアセタール樹脂の少なくとも1つで構成することができる。
【0030】
圧力センサ10A等のセンサ10の出力側は、電源4を制御するための制御装置5と接続することができる。そうすると、制御装置5において、弾性体9が被加工物Wと接触しているか否か、又はリング状の弾性体9が被加工物Wの表面に完全に密着しているか否かといった弾性体9と被加工物Wとの間における接触状態を制御装置5において自動判定することができる。
【0031】
そして、弾性体9と被加工物Wとの間における接触状態に応じてレーザ発振器2の電源4を制御することによってレーザ光Lの発振を停止させることができる。すなわち、弾性体9が被加工物Wと接触していないと判定された場合又は弾性体9が被加工物Wの表面に完全に密着していないと判定された場合には、レーザ光Lの反射光又は散乱光が弾性体9と被加工物Wとの間における隙間から漏れないようにレーザ発振器2の電源4を自動的にオフに切換えることができる。
【0032】
その場合には、センサ10から出力された検出信号に基づいて弾性体9と被加工物Wとの間における接触状態を判定し、かつ判定結果に応じてレーザ発振器2の電源4をオフに切換えるための制御信号を生成する信号処理プログラムを読込ませた電子回路によって制御装置5を構成することができる。
【0033】
別の例として、ノズル8がロボットアームで保持されている場合のように、弾性体9と被加工物Wとの間に隙間が生じても直ぐに事故が起こる可能性が低い場合には、弾性体9と被加工物Wとの間における接触状態の判定結果を表示装置に表示させたり、或いは音声やランプでレーザピーニング加工装置1のユーザに通知するのみとしてもよい。
【0034】
このようなセンサ10を用いた安全対策によって、レーザ光Lはもちろん、レーザ光Lの反射光又は散乱光が人の目に入る事故を一層確実に防止することができる。
【0035】
レーザ光Lを被加工物Wに照射することによって被加工物Wのレーザピーニング加工を行うと、被加工物Wの一部が屑として生じる。従来のように液体中においてレーザピーニング加工を行う場合には、被加工物の屑が液体の流れに乗って除去されるが、液体を使用しないレーザピーニング加工の場合には被加工物Wの屑を除去することが重要である。特に、ノズル8でレーザ光Lの光路を密閉する場合には、ノズル8内において施工ポイントに被加工物Wの屑が滞留してレーザ光Lを遮らないようにすることが重要である。
【0036】
そこで、レーザ光Lの照射によってノズル8内に生じる被加工物Wの屑を集塵機6で回収することが適切である。集塵機6とノズル8内は、連結チューブ11で連結することができる。連結チューブ11は、金属製又はゴム製のチューブで構成することができる。
【0037】
図2は
図1に示すノズル8の先端部分における拡大断面図であり、
図3は
図2に示す弾性体9の下面図である。
【0038】
ノズル8内では、レーザ光Lの障害物となり得る被加工物Wの屑が舞い上がらないようにすることが、適切な強度のレーザ光Lを被加工物Wの表面に照射する観点から好ましい。そこで、連結チューブ11を、できるだけ被加工物Wの表面に近い弾性体9と連結することができる。そのために、弾性体9の被加工物W側に、ノズル8内から被加工物Wの屑を吸引するための溝9Aを形成することができる。弾性体9に形成される溝9Aは、ノズル8内外を連通することを目的とするため、溝9Aの長さ方向は弾性体9の半径方向となる。
【0039】
そして、連結チューブ11のノズル8側を、リング状の弾性体9の被加工物W側に形成された溝9Aと連結することができる。連結チューブ11がゴム製であれば、例えば接着剤で連結チューブ11の先端を弾性体9に接着することができる。また、連結チューブ11が金属製であれば、例えばねじ等を利用した止め具で連結チューブ11の先端を弾性体9に連結することができる。
【0040】
図示された例では、レーザ光Lの照射点を挟んで両側に2つの溝9Aが弾性体9に形成されている。このため、2本の連結チューブ11で、弾性体9の2つの溝9Aと集塵機6が連結されている。このように少なくとも2つの溝9Aを等間隔で弾性体9に設けることが、レーザピーニング加工の施工ポイント付近において被加工物Wの屑を通過させないようにする観点から好ましい。そして、弾性体9の溝9A及び連結チューブ11の数を増やせば、被加工物Wの屑の集塵効果を向上させることができる。すなわち、レーザピーニング加工の施工ポイントにおいて発生した被加工物Wの屑を、レーザ光Lの光路に干渉しないように、集塵機6で弾性体9の各溝9Aから放射状に吸引することができる。
【0041】
図4は
図1乃至
図3に示す弾性体9の別の構造例を示す正面図である。
【0042】
弾性体9には、溝9Aに代えて貫通孔9Bを形成してもよい。例えば、
図4に例示されるように弾性に富んだリング状の弾性層9Cに溝を形成し、潤滑性に富んだリング状の潤滑層9Dを重ねることによって貫通孔9Bを有する弾性体9を製作することができる。そして、弾性体9に形成された貫通孔9Bと連結チューブ11を連結することができる。もちん、
図4に示す例に限らず、単層の弾性体9に貫通孔9Bを形成しても良い。
【0043】
レーザピーニング加工の施工ポイント付近に被加工物Wの屑を滞留させないためには、被加工物Wの屑を回収するための集塵用エアの排出口のみならず、集塵用エアの取込口についても適切な位置に設けることが望ましい。具体的には、ノズル8内において施工ポイントを横切らずに連結チューブ11に向かう集塵用エアの層流が形成されることが望ましい。
【0044】
そこで、ノズル8のレンズ7よりも被加工物W側に、集塵用エアをノズル8内に取込むためのエア取込口8Aを形成することが適切である。但し、レーザ光Lの散乱光がノズル8の外部に漏れない構造を有するエア取込口8Aをノズル8に形成することが事故防止の観点から好ましい。
【0045】
図5は
図1に示すエア取込口8Aの構造を示す拡大断面図であり、
図6は
図4に示すエア取込口8Aの右側面図である。
【0046】
例えば、
図5及び
図6に示すように、エア取込口8Aの構造を、レーザ光Lとノズル8の外部とをエア取込口8Aを介して直線的に結ぶことができないような構造とすることができる。具体的には、レーザ光Lの光軸に対して垂直な方向に隙間を空けて配置された2重構造を有する壁面によって、エア取込口8Aを形成することができる。
図5及び
図6に示す例の他、レーザ光Lの光軸に対して傾斜する2枚の壁面でエア取込口8Aを形成することもできる。
【0047】
また、ノズル8を円筒状とし、ノズル8の中心軸をレーザ光Lの光軸からシフトさせるようにしてもよい。つまり、ノズル8を偏心させてもよい。そうすると、ノズル8において集塵用エアの渦を形成し、かつ渦の中心をレーザピーニング加工の施工ポイントからシフトさせることができる。これにより、被加工物Wの屑を、レーザピーニング加工の施工ポイントに滞留させることなく、弾性体9に形成された各溝9A又は各貫通孔9Bから集塵機6で吸引することができる。
【0048】
そして、以上のような構成を有するレーザピーニング加工装置1を用いて被加工物Wのレーザピーニング加工を行うことによって、製品又は半製品を製造することができる。
【0049】
(効果)
以上のようなレーザピーニング加工装置1及びレーザピーニング加工方法は、フェムト秒レーザ等の超短パルスレーザを用いることによって液体やコーティング等の媒体を不要にしたものである。このため、レーザピーニング加工装置1及びレーザピーニング加工方法によれば、ナノ秒レーザを使用する場合に比べて、レーザ発振器2のサイズを飛躍的に小さくすることができる。その結果、レーザピーニング加工装置1のポータブル化が可能となる。
【0050】
また、レーザピーニング加工装置1及びレーザピーニング加工方法は、超短パルスレーザの使用や液体を使用しないことによる弊害として考えられる強度の高い光の漏れや被加工物Wの屑の滞留を回避するために、レーザ光Lの遮蔽と、被加工物Wの屑の集塵を行うことができるようにしたものである。特に、ノズル8の先端に弾性体9を取付けることによって、被加工物Wの損傷を回避しつつ、レーザ光L、散乱光及び反射光の漏れを抑止することができる。しかも、弾性体9に形成した溝9A又は貫通孔9Bから被加工物Wの屑を集塵することができる。その結果、レーザ光Lが屑で遮られることを回避し、良好な条件で被加工物Wのレーザピーニング加工を行うことができる。
【0051】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。