特許第6845554号(P6845554)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845554
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】ヘッドホン
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/10 20060101AFI20210308BHJP
【FI】
   H04R1/10 101Z
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-200623(P2016-200623)
(22)【出願日】2016年10月12日
(65)【公開番号】特開2018-64163(P2018-64163A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000128566
【氏名又は名称】株式会社オーディオテクニカ
(74)【代理人】
【識別番号】100141173
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 啓一
(72)【発明者】
【氏名】小澤 博道
【審査官】 五貫 昭一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−251660(JP,A)
【文献】 特開2008−211617(JP,A)
【文献】 特開2002−281579(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04R 1/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッフル板と、
前記バッフル板に固定されるドライバユニットと、
前記ドライバユニットを前記バッフル板に固定する固定部材と、
前記固定部材と前記バッフル板とを締結する締結部材と、
を有してなり、
前記固定部材は、
前記ドライバユニットの外縁に当接される板状の当接部と、
前記当接部の外縁に隣接して配置され、断面視においてL字状に構成される複数の固定部と、
を備え
前記当接部と前記固定部とは、弾性を有し、
前記固定部は、前記締結部材により前記バッフル板に固定される、
ことを特徴とするヘッドホン。
【請求項2】
前記ドライバユニットは、前記バッフル板と前記固定部材とに挟持される、
請求項1記載のヘッドホン。
【請求項3】
前記当接部は、枠状であり、
前記固定部材は、
前記ドライバユニットのうち、前記当接部に当接する前記ドライバユニットの外縁以外の部分が挿通される挿通孔、
を備える、
請求項1記載のヘッドホン。
【請求項4】
前記固定部は、
前記締結部材が挿通される締結孔を備える、
請求項記載のヘッドホン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘッドホンに関する。
【背景技術】
【0002】
ヘッドホンのうち、例えば、耳覆い型のヘッドホンは、ヘッドホンの使用者の頭部に装着されて、使用者が楽音再生機などの音源からの楽音を聞くために使用される。ヘッドホンは、一対の放音ユニット(イヤピース)と、両放音ユニットを連結する連結部材と、を有してなる。
【0003】
各放音ユニットは、ドライバユニットと、バッフル板と、音響抵抗材と、ハウジングと、を備える。ドライバユニットは、例えば、楽音再生機などの音源からの電気信号(音声信号)を音波に変換して出力する。ドライバユニットは、振動板と、磁気回路と、ユニットケースと、を備えるダイナミック型のドライバユニットである。ユニットケースは、磁気回路の磁気と干渉しない合成樹脂製である。
【0004】
ドライバユニットは、バッフル板に保持されてハウジングに収納される。音響抵抗材は、ドライバユニットの後方(ドライバユニットが音波を出力する方向の反対の方向)に配置される。
【0005】
近年、ヘッドホンは、放音ユニットを連結部材に対して回転させる構造や、放音ユニットを連結部材に向けて折り畳む構造、を備えていて、カバンなどにコンパクトに収納可能である。一方で、ヘッドホンを収納したカバンが何かに衝突すると、ヘッドホンは、カバンの中で強い衝撃を受ける。ヘッドホンが強い衝撃を受けると、ドライバユニットがバッフル板から外れて、ヘッドホンが故障する場合がある。そのため、ドライバユニットは、バッフル板に確実に固定されなければならない。
【0006】
ドライバユニットをバッフル板に固定する方法として、例えば、ドライバユニットがバッフル板に接着剤で固定される方法(例えば、特許文献1参照)や、バッフル板に設けられた周壁にドライバユニットが嵌め込まれる方法(例えば、特許文献2参照)、バッフル板に立設された爪部材によりドライバユニットが固定される方法(例えば、特許文献3参照)、円筒状の固定部材でドライバユニットが固定される方法(例えば、特許文献4参照)など、が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2014−127730号公報
【特許文献2】特開2011−87048号公報
【特許文献3】実開平5−80090号公報
【特許文献4】特開2016−100647号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に開示の方法は、ドライバユニットの交換を困難にするなど、メンテナンス性が悪い。また、開放型のヘッドホンでは、接着剤がヘッドホンの外部から視認できる場合があり、ヘッドホンの意匠性を損なう可能性がある。さらに、経年劣化により接着剤が変質し、ドライバユニットの周波数特性が影響を受ける可能性がある。
【0009】
特許文献2−4に開示の方法は、ドライバユニットの交換が可能であり、メンテナンス性が良い。また、接着剤による固定と比較して経年劣化し難く、意匠性も良い。
【0010】
しかし、特許文献2−4に開示の方法は、構造が複雑になり易く、ドライバユニットの大きさに合わせて個別の設計をする必要がある。また、特許文献2−4に開示の方法は、ドライバユニットをバッフル板に固定する周壁や爪部材、固定部材(以下「固定部材」という。)などにより、ドライバユニットと、ドライバユニットの後方に配置される音響抵抗材と、の間に隙間を生じ得る。この隙間は、音響的な容量を持ち、ローパスフィルタとして機能する。その結果、ヘッドホンの高域側の周波数特性が悪化する。
【0011】
合成樹脂製であるユニットケースは、ドライバユニットがバッフル板に固定されるときに歪み、ドライバユニットと固定部材との間に隙間が生じ得る。また、ドライバユニットやバッフル板の寸法精度によっては、ドライバユニットとバッフル板との間に隙間が生じ得る。その結果、ドライバユニットのバッフル板への固定が不確実となり、音波を出力中にドライバユニットが振動する可能性がある。
【0012】
本発明は、以上のような従来技術の問題点を解消するためになされたもので、簡易な構造でドライバユニットがバッフル板に確実に固定されると共に、低域側と高域側との周波数特性が良好なヘッドホンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、ヘッドホンであって、バッフル板と、バッフル板に固定されるドライバユニットと、ドライバユニットをバッフル板に固定する固定部材と、を有してなり、固定部材は、ドライバユニットの外縁に当接される板状の当接部、を備える、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、簡易な構造でドライバユニットがバッフル板に確実に固定されると共に、低域側と高域側との周波数特性が良好なヘッドホンを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明にかかるヘッドホンの実施の形態を示す斜視図である。
図2図1のヘッドホンの右側面図である。
図3図2のヘッドホンが備える左放音ユニットのAA線断面図である。
図4図1のヘッドホンが備える左組立体の右側面図である。
図5図4左組立体の分解斜視図である。
図6】本発明にかかるヘッドホンと、従来のヘッドホンと、の周波数特性を比較した周波数特性グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照しながら、本発明にかかるヘッドホンの実施の形態について説明する。
【0017】
●ヘッドホンの構成
図1は、本発明にかかるヘッドホンの実施の形態を示す斜視図である。
【0018】
ヘッドホン1は、ヘッドホン1の使用者の頭部に装着されて、例えば、携帯型音楽再生機などの音源(不図示)からの音声信号に応じた音波を使用者の鼓膜に向けて出力する。ヘッドホン1は、例えば、無線通信回線を介して音源から音声信号を受信する無線式のヘッドホンである。
【0019】
なお、本発明にかかるヘッドホンは、例えば、ケーブルを介して音源から音声信号を受信する有線式のヘッドホンでもよい。
【0020】
以下の説明において、ヘッドホン1に対する上下左右前後の各方向は、ヘッドホン1が使用者の頭部に装着された状態(以下「ヘッドホン装着状態」という。)における使用者に対する上下左右前後の方向と同じである。すなわち、例えば、後述する左放音ユニット10は、使用者の左耳に装着される。
【0021】
ヘッドホン1は、左放音ユニット(左イヤピース)10と、左ハンガー20と、右放音ユニット(右イヤピース)30と、右ハンガー40と、連結部材50と、信号線(不図示)と、を有してなる。
【0022】
図2は、ヘッドホン1の側面図である。
図3は、左放音ユニット10の図2のAA線断面図である。
【0023】
左放音ユニット10は、使用者の左耳の周囲に装着されて、音源からの音声信号に応じた音波を出力する。左放音ユニット10は、回路基板11と、左ドライバユニット12と、左バッフル板13と、左フレーム14と、左ユニット固定部材15と、左プロテクタ16と、左イヤパッド17と、左第1ハウジング18と、左第2ハウジング19と、左第1音響抵抗材R1と、左第2音響抵抗材R2と、複数(3つ)の固定ねじTと、を備える。左ドライバユニット12と、左バッフル板13と、左フレーム14と、左ユニット固定部材15と、左第1音響抵抗材R1と、固定ねじTとは、左組立体Lを構成する。
【0024】
回路基板11は、受信回路(不図示)と、信号処理回路(不図示)と、を備える。受信回路は、例えば、無線通信回線を介して音源からの音声信号を受信する。受信回路が受信する音声信号は、デジタル信号である。信号処理回路は、受信回路が受信した音声信号をデジタル信号の状態で処理(必要な信号の選別、抽出、合成など)し、処理された信号を左ドライバユニット12と、後述する右ドライバユニットと、に伝送する。信号処理回路が処理した後の信号(以下「処理信号」という。)は、例えば、音声信号にパルス変調処理が施されたデジタル信号である。
【0025】
なお、本発明にかかるヘッドホンが有線式のヘッドホンであれば、受信回路は、例えば、USB(Universal Serial Bus)端子やケーブル端子などの端子を備え、ケーブルを介して音源からの音声信号を受信する。
【0026】
図4は、左組立体Lの右側面図である。
図5は、左組立体Lの分解斜視図である。
【0027】
左ドライバユニット12は、処理信号を音波に変換して出力する。左ドライバユニット12は、図3に示されるように、ユニットケース121と、駆動部122と、振動板123と、を備える。
【0028】
ユニットケース121は、駆動部122と振動板123とを収納する。ユニットケース121は、例えば、合成樹脂製である。ユニットケース121は、平面視において円形のハット状である。ユニットケース121は、本体部121aと鍔部121bとを備える。本体部121aは、有底円筒状である。鍔部121bは、リング状である。鍔部121bは、本体部121aの開口端の外周面に配置される。鍔部121bは、本発明におけるドライバユニットの外縁の例である。鍔部121bは、凹部121b1を備える。凹部121b1は、鍔部121bの側(図5の紙面側)の面の外縁部に配置される。
【0029】
駆動部122は、処理信号に応じて駆動(振動)することで振動板123を駆動(振動)させる。駆動部122は、図3に示されるように、磁気回路122aと、複数(例えば、4つ)のボイスコイル122bと、を備える。磁気回路122aは、磁気ギャップを備え、磁気ギャップ内に磁束を発生させる。ボイスコイル122bは、処理信号に応じて駆動する。処理信号は、各ボイスコイル122bそれぞれに個別に印加される。
【0030】
振動板123は、ボイスコイル122bの駆動(振動)に応じて駆動(振動)して、音波を発生させる。振動板123は、鍔部121bに振動可能に取り付けられる。
【0031】
ボイスコイル122bは、振動板123に取り付けられる。ボイスコイル122bは、磁気回路122aに生じる磁束を横切るように磁気ギャップ内に配置される。ボイスコイル122bに印加される処理信号により発生する電磁力により、ボイスコイル122bは、磁気回路122aに対して振動する。
【0032】
なお、本発明にかかるヘッドホンのボイスコイルの数は、「4」に限定されない。
【0033】
左バッフル板13は、左ドライバユニット12と、左イヤパッド17と、を保持する。左バッフル板13は、例えば、合成樹脂製である。左バッフル板13は、平面視において楕円形のハット状である。左バッフル板13は、底面部131と、周面部132と、鍔部133と、3つのボス部134と、を備える。
【0034】
底面部131は、楕円のリング板状である。周面部132は、楕円の筒状である。鍔部133は、楕円のリング板状である。底面部131は、周面部132の左側(図5の紙面上側)の開口端に連結される。鍔部133は、周面部132の右側(図5の紙面下側)の開口端の外周面に連結される。
【0035】
底面部131は、ユニット取付孔131h1と、複数の音孔131h2と、受部131aと、を備える。
【0036】
ユニット取付孔131h1は、左ドライバユニット12を保持する。ユニット取付孔131h1は、円形である。ユニット取付孔131h1は、底面部131の中央に配置される。
【0037】
音孔131h2は、左バッフル板13の左方と右方とを連通させる。複数の音孔131h2は、底面部131のユニット取付孔131h1の周囲に均等の間隔で配置される。
【0038】
受部131aは、左ユニット固定部材15と共に、左ドライバユニット12を固定する。受部131aは、ユニット取付孔131h1の右側(図5の紙面下側)の開口端の内周面に、リング状に配置される。
【0039】
ボス部134は、左ユニット固定部材15が固定される部位である。ボス部134は、底面部131から左方(図5の紙面上方)に突出することで、底面部131と一体に構成される。ボス部134は、底面部131のユニット取付孔131h1の周囲に均等の間隔で3箇所に配置される。ボス部134は、ねじ孔134hを備える。
【0040】
なお、本発明におけるボス部の数は、「3」に限定されない。
【0041】
左フレーム14は、左第1音響抵抗材R1を保持する。左フレーム14は、例えば、合成樹脂製である。左フレーム14は、平面視において楕円のリング板状である。左フレーム14は、複数の音孔14hを備える。
【0042】
音孔14hは、左フレーム14の左方と右方とを連通させる。複数の音孔14hは、左フレーム14に均等の間隔で配置される。音孔14hの形状と左フレーム14における位置とは、音孔131h2の形状と左バッフル板13における位置と同じである。
【0043】
左ユニット固定部材15は、左ドライバユニット12を左バッフル板13に固定する。左ユニット固定部材15は、例えば、ステンレスなどの弾性を有する金属製である。左ユニット固定部材15は、平面視においてリング板状である。左ユニット固定部材15は、当接部151と、3つの固定部152と、ユニット挿通孔15hと、を備える。
【0044】
当接部151は、左バッフル板13の受部131aと共に、左ドライバユニット12を左バッフル板13に固定する。当接部151は、円形のリング板状(枠状)である。当接部151の厚みは、図3に示されるように、ユニットケース121の凹部121b1の深さよりも薄い。
【0045】
なお、当接部の厚みは、ユニットケース121の凹部121b1の深さと同じでもよい。
【0046】
ユニット挿通孔15hは、左ドライバユニット12のうち、ユニットケース121の本体部121aが挿通される孔である。ユニット挿通孔15hは、リング板状の当接部151の中央に配置される孔である。
【0047】
固定部152は、当接部151を左バッフル板13に固定する。固定部152は、当接部151の外縁に隣接して、均等の間隔で3箇所に配置される。固定部152は、当接部151と一体に構成される。固定部152は、壁部152aと、張出部152bと、締結孔152hと、を備える。壁部152aは、当接部151の外縁から左方(図5の紙面上方)に直立する。張出部152bは、壁部152aの左端から当接部151の径方向外方に張り出す。張出部152bは、当接部151と平行である。すなわち、固定部152は、断面視(図3参照)において、L字状に構成される。
【0048】
締結孔152hは、固定ねじTが挿通される孔である。締結孔152hは、固定部152の張出部152bの中央に配置される。
【0049】
なお、本発明における固定部の数は、左バッフル板のボス部の数と同じであればよく、「3」に限定されない。
【0050】
左プロテクタ16は、左ドライバユニット12の振動板123を物理的な衝撃から保護する。左プロテクタ16は、略円板状である。左プロテクタ16の中央部は、右方(図5の紙面下方)に突出する。左プロテクタ16は、複数の音孔16hを備える。
【0051】
図3に戻る。
左イヤパッド17は、左バッフル板13と使用者の頭部との間の緩衝材である。左イヤパッド17は、平面視において楕円のリングである。
【0052】
左第1ハウジング18は、左ドライバユニット12を収納する。左第1ハウジング18は、平面視において楕円形の椀状である。左第1ハウジング18は、底面部181と突出部182とを備える。突出部182は、底面部181の中央が左方(図3の紙面右方)に突出することで、底面部181と一体に構成される。突出部182は、左右方向(図3の紙面左右方向)に扁平な有底円筒状である。
【0053】
左第2ハウジング19は、回路基板11を収納する。左第2ハウジング19は、平面視において円形の有底筒状である。左第2ハウジング19は、2つの軸孔(不図示)を備える。軸孔は、左第2ハウジング19の周壁の前部と後部とに1つずつ配置される。
【0054】
左第1音響抵抗材R1と左第2音響抵抗材R2とは、ヘッドホン1の周波数特性を調整する音響抵抗であり、振動板123制動材として機能する。左第1音響抵抗材R1と左第2音響抵抗材R2とは、例えば、フェルトや発泡ウレタンなどから構成される。
【0055】
固定ねじTは、左バッフル板13と左ユニット固定部材15とを締結する。固定ねじTは、本発明における締結部材の例である。
【0056】
次に、左ハンガー20と、右放音ユニット30と、右ハンガー40と、連結部材50と、信号線(不図示)と、について、図1を参照しながら説明する。
【0057】
左ハンガー20は、左放音ユニット10を揺動可能に支持する。左ハンガー20は、中空で、下部が前後方向に二股に分かれた逆Yの字状である。左ハンガー20は、2つの軸部(不図示)を備える。軸部は、左ハンガー20の下端(二股に分かれた部分の先端)に同軸上に配置される。
【0058】
右放音ユニット30は、使用者の右耳の周囲に装着されて、音源からの音声信号に応じた音波を出力する。右放音ユニット30の構成は、受信回路と、信号処理回路と、を備えない点を除いて、左放音ユニット10の構成と同じである。すなわち、右放音ユニット30は、右ドライバユニット(不図示)と、右バッフル板(不図示)と、右フレーム(不図示)と、右ユニット固定部材(不図示)と、右プロテクタ36と、右イヤパッド37と、右第1ハウジング38と、右第2ハウジング39と、右第1音響抵抗材(不図示)と、右第2音響抵抗材(不図示)と、固定ねじ(不図示)と、を備える。
【0059】
右ハンガー40は、右放音ユニット30を揺動可能に支持する。右ハンガー40の構成は、左ハンガー20の構成と同じである。すなわち、右ハンガー40は、中空で、一対の軸部(不図示)と、を備える。
【0060】
連結部材50は、一対の放音ユニット(左放音ユニット10と右放音ユニット30)を連結する。連結部材50は、使用者の頭部の形状に沿うアーチ状である。連結部材50は、左スライド機構51と、ヘッドバンド52と、右スライド機構53と、を備える。
【0061】
左スライド機構51は、連結部材50の長手方向に沿ってスライドすることにより、左放音ユニット10とヘッドバンド52との間の距離を変更する。左スライド機構51が動作することで、左放音ユニット10の位置は、使用者の左耳の位置に調節される。
【0062】
ヘッドバンド52は、左スライド機構51と右スライド機構53とを連結する。ヘッドバンド52は、例えば、所定の剛性と弾性とを有する合成樹脂製である。ヘッドバンド52は、弾性部材(不図示)を備える。弾性部材は、例えば、板ばねである。弾性部材は、ヘッドバンド52の内部に配置される。弾性部材の復元力により、左放音ユニット10と右放音ユニット30とは、互いに近づく方向に付勢される。
【0063】
右スライド機構53は、連結部材50の長手方向に沿ってスライドすることにより、右放音ユニット30とヘッドバンド52との間の距離を変更する。右スライド機構53が動作することで、右放音ユニット30の位置は、使用者の右耳の位置に調節される。
【0064】
信号線は、左放音ユニット10の信号処理回路からの処理信号を右放音ユニット30の右ドライバユニットに伝送する。信号線は、左放音ユニット10と右放音ユニット30との間に配線される「渡りコード」である。
【0065】
●左放音ユニットの組立
次に、左放音ユニット10の組立について、図3図5を参照しながら説明する。
【0066】
先ず、左組立体Lが、左ドライバユニット12と、左バッフル板13と、左フレーム14と、左ユニット固定部材15と、左プロテクタ16と、左第1音響抵抗材R1と、固定ねじTと、により組み立てられる。
【0067】
左ドライバユニット12は、左バッフル板13のユニット取付孔131h1に嵌め込まれる。ユニットケース121の鍔部121bは、左バッフル板13の受部131aに当接する。
【0068】
左ドライバユニット12の本体部121aは、左ユニット固定部材15のユニット挿通孔15hに右方(図5の紙面下方)から挿通される。換言すれば、左ドライバユニット12の外縁(鍔部121b)以外の部分は、ユニット挿通孔15hに挿通される。当接部151は、ユニットケース121の外縁の凹部121b1に当接する。固定部152の張出部152bは、左バッフル板13のボス部134に左方(図5の紙面上方)から重ねられる。固定ねじTは、張出部152bの締結孔152hに挿通されて、ボス部134のねじ孔134hに嵌められる。すなわち、固定部152は、固定ねじTにより左バッフル板13に固定される。その結果、左ドライバユニット12は、左バッフル板13の受部131aと、左ユニット固定部材15の当接部151と、に挟持される。すなわち、左ドライバユニット12は、左ユニット固定部材15により、左バッフル板13に固定される。
【0069】
前述のとおり、左ユニット固定部材15は、弾性を有する金属製で、板状である。そのため、左ドライバユニット12は、左ユニット固定部材15の弾性により左バッフル板13に向けて押される。その結果、本発明におけるユニット固定部材は、従来の合成樹脂製の固定部材と比較して、ドライバユニット(左ドライバユニット12)をバッフル板(左バッフル板13)に確実に固定する。また、左ドライバユニット12を弾性材(左ユニット固定部材15)で固定するため、仮に左ドライバユニット12が振動しても、その振動は、左ユニット固定部材15の弾性により抑制(吸収)される。
【0070】
左第1音響抵抗材R1は、左フレーム14に取り付けられる。左フレーム14は、左バッフル板13の右側面(図3の紙面左側の面)に取り付けられる。左フレーム14の音孔14hは、左バッフル板13の音孔131h2と重なる。そのため、左バッフル板13の左方の空間は、2つの音孔131h2、14hを介して、左フレーム14の右方の空間と連通する。
【0071】
左プロテクタ16は、ユニットケース121の鍔部121bに取り付けられる。
【0072】
次いで、左イヤパッド17は、左バッフル板13の鍔部133に取り付けられる。左イヤパッド17は、左バッフル板13の鍔部133を右方(図3の紙面左方)から覆う。
【0073】
次いで、左第1ハウジング18が、左第2音響抵抗材R2を収納した状態で、左バッフル板13に左方(図3の紙面右方)から取り付けられる。左第1ハウジング18は、左ドライバユニット12と左ユニット固定部材15とを左方から覆う。
【0074】
左第1ハウジング18は、左ドライバユニット12と左バッフル板13と左ユニット固定部材15と共に、第1空気室A1を形成する。第1空気室A1は、左ドライバユニット12と左バッフル板13と左ユニット固定部材15それぞれの左方に配置される。前述のとおり、左ユニット固定部材15の当接部151の厚さは、ユニットケース121の凹部121b1の深さよりも薄い。そのため、左ユニット固定部材15は、固定部152を除き、ユニットケース121の鍔部121bよりも第1空気室A1側に突出しない。すなわち、左ユニット固定部材15は、第1空気室A1内に、左ユニット固定部材15により囲れた空間(音響的な容量を持つ空間)を形成しない。つまり、本発明における第1空気室A1の容積は、ドライバユニットを固定する固定部材が第1空気室内に突出する場合と比較して、大きい。
【0075】
左第2音響抵抗材R2は、左第1ハウジング18の底面部181と、左ドライバユニット12の本体部121aと、に挟持される。左第2音響抵抗材R2は、左ドライバユニット12に当接する。すなわち、第1空気室A1内において、左ドライバユニット12と左第2音響抵抗材R2との間には、隙間、つまり、音響的な容量を持つ空間が形成されない。
【0076】
次いで、回路基板11が左第2ハウジング19の内面に取り付けられる。左第2ハウジング19は、左第1ハウジング18に左方から取り付けられる。左第2ハウジング19は、左第1ハウジング18の突出部182を左方から覆う。左第1ハウジング18と左第2ハウジング19とは、第2空気室A2を形成する。第2空気室A2は、左第1ハウジング18の左方に配置される。
【0077】
●ヘッドホン1の組立
次にヘッドホン1の組立について、図1を参照しながら説明する。
【0078】
左ハンガー20は、左放音ユニット10に、左第2ハウジング19の上半部の周壁を跨ぐように取り付けられる。左ハンガー20の軸部は、左第2ハウジング19の軸孔に回転可能に取り付けられる。その結果、左放音ユニット10は、左ハンガー20に揺動可能に支持される。
【0079】
右ハンガー40は、左ハンガー20と同様に、右放音ユニット30に取り付けられる。その結果、右放音ユニット30は、右ハンガー40に揺動可能に支持される。
【0080】
連結部材50は、左ハンガー20の上端部と、右ハンガー40の上端部とに取り付けられる。
【0081】
信号線は、左放音ユニット10の信号処理回路と、右放音ユニット30の右ドライバユニットと、に接続される。信号線は、左第2ハウジング19(第2空気室A2)、左ハンガー20、連結部材50、右ハンガー40、右第2ハウジング39、右第1ハウジング38それぞれの内部に配線される。
【0082】
●ヘッドホン1の動作
次に、ヘッドホン1の動作について、説明する。
【0083】
図6は、本発明にかかるヘッドホンと、従来のヘッドホンと、の周波数応答を比較した周波数応答グラフである。
【0084】
同図は、本発明にかかるヘッドホンの周波数特性を実線で、従来のヘッドホンの周波数特性を破線で、それぞれ示す。ここで、従来のヘッドホンのドライバユニットは、合成樹脂製の円筒状の固定部材でバッフル板に固定される。従来のヘッドホンの構成は、固定部材により、ドライバユニットと音響抵抗材との間と、ドライバユニットの周囲と、に音響的な容量を持つ空間(隙間)が形成される点を除き、本発明にかかるヘッドホンの構成と同じである。
【0085】
同図は、第1空気室A1内において、左ドライバユニット12と左第2音響抵抗材R2とを当接させることにより、3kHz−20kHzの帯域(高域)において、共振ディップ(波形の落ち込み)が改善されていることを示す。また、同図は、第1空気室A1の容積を大きくすることにより、300Hz以下の帯域(低域)の周波数応答が向上していることを示す。
【0086】
●まとめ
以上説明した実施の形態によれば、左ドライバユニット12は、リング板状の左ユニット固定部材15により、左バッフル板13に固定される。左ドライバユニット12は、ユニットケース121の鍔部121b以外の部分(本体部121a)が左ドライバユニット12のユニット挿通孔15hに挿通される。すなわち、左ユニット固定部材15は、固定部152を除き、ユニットケース121の鍔部121bよりも第1空気室A1側(方)に突出しない。そのため、左第2音響抵抗材R2は、左ドライバユニット12に当接した状態で第1空気室A1に配置される。つまり、左ドライバユニット12と左第2音響抵抗材R2との間に、音響的な容量を持つ空間(隙間)は形成されない。その結果、本発明にかかるヘッドホンは、円筒状の固定部材などでドライバユニットを固定する従来のヘッドホンと比較して、高域の周波数特性が優れる。
【0087】
また、以上説明した実施の形態によれば、左ユニット固定部材15の当接部151は、弾性を有する金属製である。そのため、左ドライバユニット12は、左ユニット固定部材15の弾性により左バッフル板13に向けて押される。その結果、本発明におけるユニット固定部材は、従来の合成樹脂製の固定部材と比較して、左ドライバユニット12を左バッフル板13に確実に固定することができる。また、左ドライバユニット12を弾性材(左ユニット固定部材15)で固定するため、仮に左ドライバユニット12が振動しても、その振動は、左ユニット固定部材15の弾性により抑制(吸収)される。
【0088】
さらに、以上説明した実施の形態によれば、左ユニット固定部材15は、第1空気室A1内に、音響的な容量を持つ空間を形成しない。そのため、本発明にかかるヘッドホンは、従来のヘッドホンと比較して、空気室(第1空気室A1)の容積を大きくすることができ、低域の周波数特性を向上させることができる。
【0089】
このように、本発明にかかるヘッドホンは、従来のヘッドホンと比較して、簡易な構造でドライバユニットがバッフル板に確実に固定されると共に、低域側と高域側との周波数特性が良好となる。
【0090】
なお、以上説明した実施の形態は、均等に配置されたボス部134に左ユニット固定部材15が締結される構成であったが、左ユニット固定部材は、例えば、左バッフル板の内周面(ユニット取付孔を形成する面)に設けられたアンダーカットに嵌め込まれる構成でもよい。この場合、アンダーカットにより左ユニット固定部材の一部が固定される。そのため、ボス部の数を減じて、第1空気室A1の容積を増加させることができる。
【0091】
また、左ユニット固定部材の材質をアルミニウムやチタンなどそれぞれ光沢の異なる金属とすることで、開放型のヘッドホンにおいて、左ユニット固定部材の美感(意匠性)を向上させることができる。
【0092】
さらに、以上説明した実施の形態は、左右ドライバユニットがデジタル信号を音波に変換する構成であったが、左右ドライバユニットは、音声信号(アナログ信号)を音波に変換する構成でもよい。この場合、処理部は、受信部が受信した音声信号をデジタル信号からアナログ信号へ変換(D/A変換)してもよい。
【0093】
さらにまた、以上説明した実施の形態は、当接部151と固定部152とが一体の構成であったが、当接部と固定部とは別体で構成されてもよい。
【符号の説明】
【0094】
1 ヘッドホン
10 左放音ユニット
12 左ドライバユニット
121b 鍔部(ドライバユニットの外縁)
13 左バッフル板
15 左ユニット固定部材(固定部材)
151 当接部
152 固定部
152h 締結孔
18 左第1ハウジング
19 左第2ハウジング
A1 第1空気室
T 固定ねじ(締結部材)


図1
図2
図3
図4
図5
図6