特許第6845568号(P6845568)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845568
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】グラフェン基板、及びこの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/3205 20060101AFI20210308BHJP
   H01L 21/768 20060101ALI20210308BHJP
   C01B 32/184 20170101ALI20210308BHJP
   H01L 21/285 20060101ALI20210308BHJP
   H01L 23/532 20060101ALI20210308BHJP
【FI】
   H01L21/88 B
   C01B32/184
   H01L21/285 P
   H01L21/88 M
【請求項の数】11
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2017-73383(P2017-73383)
(22)【出願日】2017年4月3日
(65)【公開番号】特開2018-181863(P2018-181863A)
(43)【公開日】2018年11月15日
【審査請求日】2020年1月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】599002043
【氏名又は名称】学校法人 名城大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000497
【氏名又は名称】特許業務法人グランダム特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】成塚 重弥
(72)【発明者】
【氏名】山田 純平
【審査官】 佐藤 靖史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−203929(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0334498(US,A1)
【文献】 特開2015−176959(JP,A)
【文献】 特開2014−096411(JP,A)
【文献】 特開2012−025653(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/3205
C01B 32/184
H01L 21/285
H01L 21/768
H01L 23/532
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔が形成されたグラフェンと、
アモルファスカーボン又は絶縁体によって形成され、前記貫通孔に設けられ、前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部と、
を備えていることを特徴とするグラフェン基板。
【請求項2】
前記固定部は、前記グラフェンの表面に係止する係止部を有していることを特徴とする請求項1に記載のグラフェン基板。
【請求項3】
前記固定部は、前記貫通孔内に設けられ、前記グラフェンの表面に接触していないことを特徴とする請求項1に記載のグラフェン基板。
【請求項4】
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を順次積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記第1金属層、及び前記第2金属層に厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第3工程と、
前記第3工程後に熱処理して、前記基板と前記第1金属層との間に位置する前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第4工程と、
前記第4工程後に冷却して前記基板と前記第1金属層との間に前記第3工程で前記第1金属層、及び前記第2金属層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させ、前記グラフェンの前記貫通孔内に前記炭素層を残して前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第5工程と、
前記第1金属層と前記第2金属層とを除去する第6工程と、
を備えていることを特徴とするグラフェン基板の製造方法。
【請求項5】
前記第5工程で前記グラフェンの前記貫通孔内に残された前記炭素層を除去する第7工程と、
前記炭素層が除去された前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第8工程と、
を備えていることを特徴とする請求項4に記載のグラフェン基板の製造方法。
【請求項6】
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層を形成する第1工程と、
前記炭素層に厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第2工程と、
前記炭素層、及び前記第2工程で前記炭素層が除去された前記基板の表面側に、グラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を積層して形成する第3工程と、
前記第1金属層の表面側に、前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第4工程と、
前記第4工程後に熱処理して、前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第5工程と、
前記第5工程後に冷却して、前記基板と前記第1金属層との間に前記第2工程で前記炭素層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第6工程と、
前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に位置する前記第1金属層、及び前記第2金属層の少なくとも一方を残して前記第1金属層、及び前記第2金属層を除去し、前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に位置する前記第1金属層、及び前記第2金属層の少なくとも一方で前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第7工程と、
を備えていることを特徴とするグラフェン基板の製造方法。
【請求項7】
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層を形成する第1工程と、
前記炭素層に厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第2工程と、
前記炭素層、及び前記第2工程で前記炭素層が除去された前記基板の表面側に、グラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を積層して形成する第3工程と、
前記第1金属層の表面側に、前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第4工程と、
前記第4工程後に熱処理して、前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第5工程と、
前記第5工程後に冷却して、前記基板と前記第1金属層との間に前記第2工程で前記炭素層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第6工程と、
前記第1金属、及び前記第2金属を除去する第7工程と、
前記第7工程で露出した前記基板の表面側であって前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第8工程と、
を備えていることを特徴とするグラフェン基板の製造方法。
【請求項8】
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を所望の順に積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記第2工程後に熱処理して前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第3工程と、
前記第3工程後に冷却して前記基板と前記第1金属層との間にグラフェンを形成させる第4工程と、
前記第1金属層と前記第2金属層とを除去する第5工程と、
前記グラフェンに厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第6工程と、
前記第6工程で前記グラフェンに形成した前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第7工程と、
を備えていることを特徴とするグラフェン基板の製造方法。
【請求項9】
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を所望の順に積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記第2金属層に貫通した貫通孔をパターニングする第3工程と、
前記第3工程後に熱処理して、前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第4工程と、
前記第4工程後に冷却して、前記基板と、前記第2金属層が積層された前記第1金属層との間に前記第3工程で前記第2金属層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第5工程と、
前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に位置する前記第1金属層を残して前記第1金属層、及び前記第2金属層を除去し、前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に位置する前記第1金属層で前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第6工程と、
を備えていることを特徴とするグラフェン基板の製造方法。
【請求項10】
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を所望の順に積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記第2金属層に貫通した貫通孔をパターニングする第3工程と、
前記第3工程後に熱処理して、前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第4工程と、
前記第4工程後に冷却して、前記基板と、前記第2金属層が積層された前記第1金属層との間に前記第3工程で前記第2金属層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第5工程と、
前記第1金属層と前記第2金属層とを除去する第6工程と、
前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第7工程と、
を備えていることを特徴とするグラフェン基板の製造方法。
【請求項11】
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を所望の順に積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記炭素層、前記第1金属層、及び前記第2金属層に厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第3工程と、
前記第3工程後に熱処理して前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第4工程と、
前記第4工程後に冷却して前記基板と前記第1金属層との間に前記第3工程で前記炭素層、前記第1金属層、及び前記第2金属層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第5工程と、
前記第1金属層と前記第2金属層とを除去する第6工程と、
前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第7工程と、
を備えていることを特徴とするグラフェン基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はグラフェン基板、及びこの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、その優れた電気的特性や光学的特性から配線材料や透明電極等、様々な応用が期待される。基板の表面に複数の層又は単層で形成されたグラフェンをデバイスに応用する場合、基板からのグラフェンの剥離を抑える必要がある。
例えば、特許文献1には、基板上に形成された絶縁膜にグラフェン膜、及びコンタクト電極が積層して形成され、電極剥離防止層がコンタクト電極の少なくとも一部を覆い、且つ絶縁膜と直接接合している電子デバイスが開示されている。これにより、特許文献1の電子デバイスは、絶縁膜からグラフェン膜の端が剥離することを抑えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014―86592号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、この電子デバイスは、電極剥離防止層と絶縁膜とでグラフェン膜の端を挟んでいるのみである。このため、この電子デバイスはグラフェン膜が複数の層であっても単層であっても電極剥離防止層と絶縁膜との間から外れるおそれがある。また、電極剥離防止層と絶縁膜とで挟まれていないグラフェン膜の中央部が、絶縁膜から浮き上がるおそれもある。
【0005】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、基板に良好に固定されたグラフェンを備えたグラフェン基板、及びこのグラフェン基板の製造方法を提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明のグラフェン基板は、
基板と、
前記基板の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔が形成されたグラフェンと、
アモルファスカーボン又は絶縁体によって形成され、前記貫通孔に設けられ、前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部と、
を備えていることを特徴とする。
【0007】
第1発明のグラフェン基板はグラフェンに形成された貫通孔に固定部を設けることによって、グラフェンを基板に固定することができる。このため、このグラフェン基板は、基板の表面に対してグラフェンの位置がずれることなくグラフェンを基板に対して固定することができる。
【0008】
第2発明のグラフェン基板の製造方法は、
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を順次積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記第1金属層、及び前記第2金属層に厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第3工程と、
前記第3工程後に熱処理して、前記基板と前記第1金属層との間に位置する前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第4工程と、
前記第4工程後に冷却して前記基板と前記第1金属層との間に前記第3工程で前記第1金属層、及び前記第2金属層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させ、前記グラフェンの前記貫通孔内に前記炭素層を残して前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第5工程と、
前記第1金属層と前記第2金属層とを除去する第6工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0009】
第2発明のグラフェン基板の製造方法は、グラフェンに形成された貫通孔に固定部を設けることによって、グラフェンを基板に固定することができる。このため、このグラフェン基板の製造方法は、基板の表面に対してグラフェンの位置がずれることなくグラフェンを基板に対して固定することができる。また、このグラフェン基板の製造方法は、グラフェンを形成する工程において、固定部を形成することができる。つまり、このグラフェン基板の製造方法は、固定部を形成するための工程を新たに設ける必要がなく、容易に固定部を形成することができる。
【0010】
第3発明のグラフェン基板の製造方法は、
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層を形成する第1工程と、
前記炭素層に厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第2工程と、
前記炭素層、及び前記第2工程で前記炭素層が除去された前記基板の表面側に、グラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を積層して形成する第3工程と、
前記第1金属層の表面側に、前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第4工程と、
前記第4工程後に熱処理して、前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第5工程と、
前記第5工程後に冷却して、前記基板と前記第1金属層との間に前記第2工程で前記炭素層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第6工程と、
前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に位置する前記第1金属層、及び前記第2金属層の少なくとも一方を残して前記第1金属層、及び前記第2金属層を除去し、前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に位置する前記第1金属層、及び前記第2金属層の少なくとも一方で前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第7工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0011】
第3発明のグラフェン基板の製造方法は、グラフェンに形成された貫通孔に固定部を設けることによって、グラフェンを基板に固定することができる。このため、このグラフェン基板の製造方法は、基板の表面に対してグラフェンの位置がずれることなくグラフェンを基板に対して固定することができる。また、このグラフェン基板の製造方法は、グラフェンを形成する際に用いる第1金属層、及び第2金属層で固定部を形成することができる。これにより、このグラフェン基板の製造方法は、固定部を形成するための工程を新たに設ける必要がなく、容易に固定部を形成することができる。
【0012】
第4発明のグラフェン基板の製造方法は、
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層を形成する第1工程と、
前記炭素層に厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第2工程と、
前記炭素層、及び前記第2工程で前記炭素層が除去された前記基板の表面側に、グラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を積層して形成する第3工程と、
前記第1金属層の表面側に、前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第4工程と、
前記第4工程後に熱処理して、前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第5工程と、
前記第5工程後に冷却して、前記基板と前記第1金属層との間に前記第2工程で前記炭素層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第6工程と、
前記第1金属、及び前記第2金属を除去する第7工程と、
前記第7工程で露出した前記基板の表面側であって前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第8工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0013】
第4発明のグラフェン基板の製造方法は、グラフェンに形成された貫通孔に固定部を設けることによって、グラフェンを基板に固定することができる。このため、このグラフェン基板の製造方法は、基板の表面に対してグラフェンの位置がずれることなくグラフェンを基板に対して固定することができる。また、このグラフェン基板の製造方法は、固定部を所望の材料で形成することができる。
【0014】
第5発明のグラフェン基板の製造方法は、
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を所望の順に積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記第2工程後に熱処理して前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第3工程と、
前記第3工程後に冷却して前記基板と前記第1金属層との間にグラフェンを形成させる第4工程と、
前記第1金属層と前記第2金属層とを除去する第5工程と、
前記グラフェンに厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第6工程と、
前記第6工程で前記グラフェンに形成した前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第7工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0015】
第5発明のグラフェン基板の製造方法は、グラフェンに形成された貫通孔に固定部を設けることによって、グラフェンを基板に固定することができる。このため、このグラフェン基板の製造方法は、基板の表面に対してグラフェンの位置がずれることなくグラフェンを基板に対して固定することができる。また、このグラフェン基板の製造方法は、固定部を所望の材料で形成することができる。
【0016】
第6発明のグラフェン基板の製造方法は、
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を所望の順に積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記第2金属層に貫通した貫通孔をパターニングする第3工程と、
前記第3工程後に熱処理して、前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第4工程と、
前記第4工程後に冷却して、前記基板と、前記第2金属層が積層された前記第1金属層との間に前記第3工程で前記第2金属層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第5工程と、
前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に位置する前記第1金属層を残して前記第1金属層、及び前記第2金属層を除去し、前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に位置する前記第1金属層で前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第6工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0017】
第6発明のグラフェン基板の製造方法は、グラフェンに形成された貫通孔に固定部を設けることによって、グラフェンを基板に固定することができる。このため、このグラフェン基板の製造方法は、基板の表面に対してグラフェンの位置がずれることなくグラフェンを基板に対して固定することができる。また、このグラフェン基板の製造方法は、グラフェンを形成する際に用いる第1金属層で固定部を形成することができる。これにより、このグラフェン基板の製造方法は、固定部を形成するための工程を新たに設ける必要がなく、容易に固定部を形成することができる。
【0018】
第7発明のグラフェン基板の製造方法は、
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を所望の順に積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記第2金属層に貫通した貫通孔をパターニングする第3工程と、
前記第3工程後に熱処理して、前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第4工程と、
前記第4工程後に冷却して、前記基板と、前記第2金属層が積層された前記第1金属層との間に前記第3工程で前記第2金属層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第5工程と、
前記第1金属層と前記第2金属層とを除去する第6工程と、
前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第7工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0019】
第7発明のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン形成された貫通孔に固定部を設けることによって、グラフェンを基板に固定することができる。このため、このグラフェン基板の製造方法は、基板の表面に対してグラフェンの位置がずれることなくグラフェンを基板に対して固定することができる。また、このグラフェン基板の製造方法は、固定部を所望の材料で形成することができる。
【0020】
第8発明のグラフェン基板の製造方法は、
基板の表面側に、C(炭素)を含む炭素層、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である第1金属を含む第1金属層を所望の順に積層する第1工程と、
前記第1工程後に前記Cを前記第1金属層の表面側に析出させない第2金属を含む第2金属層を積層して形成する第2工程と、
前記炭素層、前記第1金属層、及び前記第2金属層に厚み方向に貫通した貫通孔をパターニングする第3工程と、
前記第3工程後に熱処理して前記炭素層を前記第1金属層に溶解させる第4工程と、
前記第4工程後に冷却して前記基板と前記第1金属層との間に前記第3工程で前記炭素層、前記第1金属層、及び前記第2金属層にパターニングされた前記貫通孔の形状を有したグラフェンを形成させる第5工程と、
前記第1金属層と前記第2金属層とを除去する第6工程と、
前記グラフェンの前記貫通孔、及び前記グラフェンの前記貫通孔の周囲に前記グラフェンを前記基板の表面に固定する固定部を形成する第7工程と、
を備えていることを特徴とする。
【0021】
第8発明のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン形成された貫通孔に固定部を設けることによって、グラフェンを基板に固定することができる。このため、このグラフェン基板の製造方法は、基板の表面に対してグラフェンの位置がずれることなくグラフェンを基板に対して固定することができる。また、このグラフェン基板の製造方法は、炭素層、第1金属層、及び第2金属層をパターニングする。つまり、炭素層、第1金属層、及び第2金属層の全てをパターニングするため、このグラフェン基板の製造方法はどの層までエッチングするのかを精密に制御する必要がなく、基板の表面までパターニングすることができる。また、このグラフェン基板の製造方法は固定部を所望の材料で形成することができる。
【0022】
したがって、本発明のグラフェン基板は基板に良好に固定されたグラフェンを備え、本発明のグラフェン基板の製造方法は、基板に良好に固定されたグラフェンを備えたグラフェン基板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施例1のグラフェン基板の製造方法を示す概略図である。
図2】実施例2のグラフェン基板の製造方法を示す概略図である。
図3】実施例3〜5のグラフェン基板の製造方法を示す概略図である。
図4】実施例6のグラフェン基板の製造方法を示す概略図である。
図5】実施例7のサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を示すグラフである。
図6】実施例8、9のグラフェン基板の製造方法を示す概略図である。
図7】実施例10のサンプルの第1金属層及び第2金属層を王水でエッチングして除去する前の表面の状態、及びラマン散乱分光法で評価した結果であって、(A)はサンプルの表面の状態を示し、(B)は第1金属層の表面に第2金属層が積層されていない領域の表面を評価した結果であり、(C)は第1金属層の表面に第2金属層が積層されている領域の表面を評価した結果である。
図8】実施例10のサンプルの第1金属層及び第2金属層を王水でエッチングして除去した後の表面の状態、及びラマン散乱分光法で評価した結果であって、(A)はサンプルの表面の状態を示し、(B)は第1金属層の表面に第2金属層が積層されていなかった領域の表面を評価した結果であり、(C)は第1金属層の表面に第2金属層が積層されていた領域の表面を評価した結果である。
図9】実施例11のグラフェン基板の製造方法を示す概略図である。
図10】実施例12、13のサンプルを示す概略図である。
図11】実施例14のサンプルを示す概略図である。
図12】実施例15〜18のサンプルを示す概略図である。
図13】実施例19、20のサンプルを示す概略図である。
図14】実施例21、22のサンプルを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明における好ましい実施の形態を説明する。
【0025】
第1発明の固定部は、グラフェンの表面に係止する係止部を有し得る。この場合、基板の表面に形成されたグラフェンが係止部によって係止されているため、グラフェンを確実に基板に固定することができる。
【0026】
第2発明のグラフェン基板の製造方法は、
第5工程でグラフェンの貫通孔内に残された炭素層を除去する第7工程と、炭素層が除去されたグラフェンの貫通孔、及びグラフェンの貫通孔の周囲にグラフェンを基板の表面に固定する固定部を形成する第8工程とを備え得る。この場合、所望の材料で固定部を形成することができる。
【0027】
次に、本発明のグラフェン基板、及びこの製造方法を具体化した実施例1〜22について、図面を参照しつつ説明する。
【0028】
<実施例1>
実施例1のグラフェン基板の製造方法は、先ず、図1(A)に示すように、基板であるサファイア基板10を用意する。そして、サファイア基板10を真空蒸着装置のチャンバー内にセットする(図示せず。)。サファイア基板10は(0001)面が表面(表は図1における上側である。以下同じ)である。この真空蒸着装置は電子ビーム蒸着を実行することができる。
【0029】
次に、図1(B)に示すように、サファイア基板10の表面にC(炭素)を含む炭素層11を蒸着して積層する。具体的には、炭素層11はアモルファスカーボンで形成されている。炭素層11の層厚は所望するグラフェンの厚みに応じて変化させることができ、炭素層11の層厚が大きくなると、形成されるグラフェンの層厚が大きくなる。炭素層11の層厚は、例えば、5nmとする。次に、図1(C)に示すように、炭素層11の表面に触媒金属であり第1金属であるNi(ニッケル)を蒸着して第1金属層12を積層する。第1金属層12の層厚はおよそ300nmが好ましい。こうして、サファイア基板10の表面側に、C(炭素)を含む炭素層11、及びグラフェンの形成に利用する触媒金属である(ニッケル)を含む第1金属層12を順次積層する(第1工程)。
【0030】
次に、図1(D)に示すように、サファイア基板10の表面に積層された第1金属層12の表面に第2金属であるW(タングステン)を含む、又はW(タングステン)で形成された第2金属層13を蒸着して積層する。第2金属層13の層厚はおよそ20nmが好ましい。こうして、第1工程後にW(タングステン)を含む第2金属層13を積層して形成する(第2工程)。
【0031】
次に、図1(E)に示すように、サファイア基板10を真空蒸着装置のチャンバーから取り出して、第2金属層13の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。
【0032】
次に、図1(F)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、レジストRをパターニングする。このとき、レジストRは貫通孔R1が形成されるようにパターニングされる。また、レジストRが除去された領域は第2金属層13の表面が露出する。なお、レジストRは場合によってポジ型、又はネガ型を選択して用いることができる。
【0033】
次に、図1(G)に示すように、サファイア基板10に積層された第1金属層12、第2金属層13を王水でエッチングしてパターニングする。なお、王水でのエッチングの代わりにRIE等のドライエッチングを用いてもよい。この場合、炭素層11まで除去されないように、エッチングの深さが深くなり過ぎないようにしなければならない。こうして、第1金属層12、及び第2金属層13に厚み方向に貫通した貫通孔14をパターニングする(第3工程)。そして、図1(H)に示すように、サファイア基板10の第2金属層13の表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。こうして、第1金属層12、及び第2金属層13に貫通孔14を形成することができる。
【0034】
次に、図1(J)に示すように、サファイア基板10に熱処理を施す。詳しくは、炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13が積層されたサファイア基板10を熱処理装置内にセットする(図示せず。)。熱処理装置は赤外線ランプアニール装置である。そして、このサファイア基板10をセットした状態で熱処理装置内を真空状態、又は熱処理装置内に不活性ガスを供給した状態にする。そして、このサファイア基板10の温度を所定の温度まで上昇させる。所定の温度はおよそ500℃〜1000℃であり、好ましくは700℃〜900℃である。また、所定の温度に昇温する度合いはおよそ100℃/分である。そして、このサファイア基板10に対して所定の時間の熱処理を施す。所定の時間はおよそ1分以上であり、好ましくはおよそ15分〜30分である。このとき、第1金属層12が積層した領域の炭素層11のC(炭素)が第1金属層12に溶解する。また、第1金属層12に溶解して第1金属層12の表面側に拡散したC(炭素)と第2金属層13のW(タングステン)とが結合して、第1金属層12の表面にタングステンカーバイド層13Aが形成される。タングステンカーバイド層13Aは第1金属層12の表面に緻密に形成される。また、このとき、第1金属層12と第2金属層13とが除去された領域に位置する炭素層11はアモルファスカーボンとしてサファイア基板10の表面に形成された状態を維持している。こうして、第3工程後に熱処理して、サファイア基板10と第1金属層12との間に位置する炭素層11を第1金属層12に溶解させる(第4工程)。
【0035】
次に、図1(K)に示すように、熱処理装置内にサファイア基板10をセットした状態で、サファイア基板10の温度を急激に下げる。すると、第1金属層12に溶解した炭素層11のC(炭素)がサファイア基板10の表面にグラフェン11Aとして析出して形成される。これは、タングステンカーバイド層13Aが第1金属層12の表面に緻密に形成されているため、第1金属層12に溶解したC(炭素)が第1金属層12の表面に析出して形成されることが阻止されるためと考えられる。つまり、W(タングステン)を含む第2金属層13はC(炭素)を第1金属層12の表面側に析出して形成させない。また、このとき、第1金属層12と第2金属層13とが除去された領域に位置する炭素層11はアモルファスカーボンとしてサファイア基板10の表面に形成された状態を維持している。つまり、第1金属層12と第2金属層13とが積層されたサファイア基板10の表面にのみグラフェン11Aが析出して形成される。また、サファイア基板10を冷却する際、サファイア基板10の温度を徐々に下げると、より結晶品質の良いグラフェン11Aを析出して形成させることができると考えられる。こうして、第4工程後に冷却してサファイア基板10と第1金属層12との間に第3工程で第1金属層12、及び第2金属層13にパターニングされた貫通孔14の形状を有したグラフェン11Aを形成させ、グラフェン11Aの貫通孔11B内に炭素層11を残してグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部11Cを形成する(第5工程)。
【0036】
次に、図1(L)に示すように、サファイア基板10を熱処理装置内から取り出し、サファイア基板10に積層された第1金属層12、タングステンカーバイド層13A、及び第2金属層13を王水でエッチングして除去する。エッチングの時間は24時間以上である。また、このとき、第1金属層12と第2金属層13とが除去された領域に位置する炭素層11はアモルファスカーボンとしてサファイア基板10の表面に形成された状態を維持している。こうして、第1金属層12と第2金属層13とを除去する(第6工程)。以上が、実施例1のグラフェン基板の製造方法である。
【0037】
こうして形成されたグラフェン基板1はグラフェン11Aの貫通孔11Bに炭素層11(すなわち、アモルファスカーボン)が配置されている。アモルファスカーボンの構造は、不規則に複数の炭素原子が連結された構造である。このため、グラフェン基板1は、グラフェン11Aの貫通孔11Bに配置された炭素層11によって、グラフェン11Aがサファイア基板10から剥離することを抑えることができる。こうして得られたグラフェン基板1は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部11Cとを備えている。
【0038】
このように、実施例1のグラフェン基板1は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部11Cを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、このグラフェン基板1は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
また、実施例1のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部11Cを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、このグラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。また、このグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aを形成する工程において、固定部11Cを形成することができる。つまり、このグラフェン基板の製造方法は、固定部11Cを形成するための工程を新たに設ける必要がなく、容易に固定部11Cを形成することができる。
【0039】
したがって、実施例1のグラフェン基板1はサファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備え、本発明のグラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備えたグラフェン基板1を製造することができる。
【0040】
<実施例2>
実施例2のグラフェン基板の製造方法は、実施例1において、固定部11Cとしてグラフェン11Aの貫通孔11Bに形成された状態を維持している炭素層11を除去した後、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲に所望の材料50を蒸着して積層し固定部50Aを形成する点等が実施例1と異なる。他の工程は実施例1と同様であり、同一の構成は同一の符号を付し、同一の工程は詳細な説明を省略する。
【0041】
実施例2のグラフェン基板の製造方法は、図2(A)に示すように、実施例1において固定部11Cとしてグラフェン11Aの貫通孔11Bに形成された状態を維持している炭素層11を除去する。具体的には、およそ300℃の酸素雰囲気でサファイア基板10に熱処理を施して、サファイア基板10の表面に形成された固定部11Cである炭素層11のみを選択的に除去することができる。これにより、第1金属層12、及び第2金属層13に形成された貫通孔14の形状を有したグラフェン11Aのみがサファイア基板10の表面に形成された状態になる。こうして、実施例1の第5工程でグラフェン11Aの貫通孔11B内に残された炭素層11を除去する(第7工程)。
【0042】
次に、図2(B)に示すように、露出したグラフェン11Aの表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。そして、図2(C)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、炭素層11が除去されたグラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲の領域のレジストRをパターニングして除去する。
【0043】
そして、図2(D)に示すように、サファイア基板10を真空蒸着装置のチャンバー内にセットして、所望の材料50を蒸着して積層する。所望の材料50は、例えば、Au(金)、Cr(クロム)、Ti(チタン)等の金属や、SiO2(2酸化ケイ素)、Al23(酸化アルミニウム)等の絶縁体である。なお、所望に応じてこれらの材料を層状に蒸着して積層することもできる。
【0044】
そして、図2(E)に示すように、サファイア基板10のグラフェン11Aの表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。このとき、レジストRの表面に蒸着して積層された所望の材料50も、レジストRと共に除去される(リフトオフする。)。こうして、グラフェン11Aの貫通孔11Bと、グラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲にグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aを形成することができる。また、グラフェン11Aの表面から突出した固定部50Aには、グラフェン11Aの貫通孔11Bの大きさより大きい外形の係止部50Bが形成される。これにより、このグラフェン基板2はグラフェン11Aの表面に係止部50Bが係止する。こうして、炭素層11が除去されたグラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲にグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aを形成する(第8工程)。以上が、実施例2のグラフェン基板の製造方法である。また、こうして得られたグラフェン基板2は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aとを備えている。また、固定部50Aはグラフェン11Aの表面に係止する係止部50Bを有している。
【0045】
このように、実施例2のグラフェン基板2は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例2のグラフェン基板2は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
また、実施例2のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例2のグラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
【0046】
したがって、実施例2のグラフェン基板2もサファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備え、実施例2のグラフェン基板の製造方法も、サファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備えたグラフェン基板2を製造することができる。
【0047】
また、実施例2のグラフェン基板2の固定部50Aは、グラフェン11Aの表面に係止する係止部50Bを有している。このため、実施例2のグラフェン基板2は、サファイア基板10の表面に形成されたグラフェン11Aが係止部50Bによって係止されているため、グラフェン11Aを確実にサファイア基板10に固定することができる。
【0048】
また、実施例2グラフェン基板の製造方法は、実施例1の第5工程でグラフェン11Aの貫通孔11B内に残された炭素層11を除去する第7工程と、炭素層11が除去されたグラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲にグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aを形成する第8工程とを備えている。このため、実施例2のグラフェン基板の製造方法は、所望の材料50で固定部50Aを形成することができる。
【0049】
<実施例3〜5>
実施例3〜5のグラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10に形成された炭素層11のみをパターニングする点等が実施例1及び2と異なる。他の工程は実施例1及び2と同様であり、同一の構成は同一の符号を付し、同一の工程は詳細な説明を省略する。
【0050】
実施例3〜5のグラフェン基板の製造方法は、図3(A)に示すように、サファイア基板10の表面に炭素層11を蒸着して積層して形成する(第1工程)。そして、炭素層11の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。そして、図3(B)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、レジストRをパターニングする。このとき、レジストRは貫通孔R1が形成されるようにパターニングされる。また、レジストRが除去された領域は炭素層11の表面が露出する。
【0051】
次に、図3(C)に示すように、RIE等のドライエッチングを用いて、レジストRが除去された領域の炭素層11をパターニングして除去する。炭素層11が除去された領域はサファイア基板10の表面が露出する。このとき、炭素層11にはレジストRに形成された貫通孔R1の形状が貫通孔11Bとして形成される。つまり、炭素層11には厚み方向に貫通した貫通孔11Bがパターニングされる(第2工程)。また、炭素層11に貫通孔11Bが形成された領域はサファイア基板10の表面が露出する。
【0052】
そして、図3(D)に示すように、サファイア基板10の炭素層11の表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。
【0053】
次に、図3(E)に示すように、炭素層11、及び露出したサファイア基板10の表面に第1金属であるNi(ニッケル)を含む第1金属層12を蒸着して積層する(第3工程)。そして、第1金属層12の表面に第2金属であるW(タングステン)を含む第2金属層13を蒸着して積層する(第4工程)。そして、熱処理装置を用いた熱処理によってサファイア基板10に積層された炭素層11を第1金属層12に溶解させる(第5工程)。そして、サファイア基板10を冷却すると、第1金属層12に溶解した炭素層11のC(炭素)がサファイア基板10と第1金属層12との間にグラフェン11Aとして析出して形成される。このとき、グラフェン11Aの外形は、パターニングされた炭素層11の外形と同じである。つまり、第2工程で炭素層11にパターニングされた貫通孔10Aの形状を有したグラフェン11Aが形成される(第6工程)。こうして、グラフェン11Aには貫通孔11Bが形成される。また、第1金属層12の表面にはタングステンカーバイド層13Aが形成される。
【0054】
次に、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定する固定部を形成する。ここで、実施例3〜5のそれぞれで固定部を形成する工程が異なるため、それぞれの工程について説明する。
【0055】
実施例3の場合、図3(F)に示すように、第6工程を実行した後、レジストRを第2金属層13の表面にスピンコート法を用いて塗布する。そして、図3(G)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、レジストRをパターニングする。このとき、レジストRが残される領域はグラフェン11Aの貫通孔11Bの直上、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲の領域である。
【0056】
次に、図3(H)に示すように、サファイア基板10に積層され、レジストRに覆われていない領域の第1金属層12、タングステンカーバイド層13A、及び第2金属層13を王水でエッチングして除去する。そして、図3(J)に示すように、サファイア基板10の第2金属層13の表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。こうして、第1金属層12、タングステンカーバイド層13A、及び第2金属層13でグラフェン11Aをサファイア基板10に固定する固定部15を形成することができる。つまり、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲に位置する第1金属層12、及び第2金属層13を残して第1金属層12、及び第2金属層13を除去し、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲に位置する第1金属層12、及び第2金属層13でグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部15を形成する(第7工程)。以上が、実施例3のグラフェン基板の製造方法である。こうして得られたグラフェン基板3は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部15とを備えている。また、固定部15はグラフェンの表面に係止する係止部15Aを有している。
【0057】
実施例4の場合、図3(K)に示すように、第6工程を実行した後、プラズマを用いたドライエッチングによってタングステンカーバイド層13A、及び第2金属層13を除去して、第1金属層12の表面を露出させる。そして、図3(L)に示すように、露出した第1金属層12の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布し、フォトリソグラフィを用いて、レジストRをパターニングする。このとき、レジストRが残される領域はグラフェン11Aの貫通孔11Bの直上、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲の領域である。
【0058】
次に、図3(M)に示すように、サファイア基板10に積層され、レジストRに覆われていない領域の第1金属層12を王水でエッチングして除去する。そして、図3(N)に示すように、サファイア基板10の第1金属層12の表面に外形に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。こうして、第1金属層12でグラフェン11Aをサファイア基板10に固定する固定部16を形成する。なお、第5工程における熱処理の温度を700℃以上にした場合、第1金属層12と第2金属層13とが合金化するため、第2金属層13のみを除去することが困難になる。このため、第1金属層12で固定部16を形成する場合、第5工程における熱処理の温度が700℃以下であることが好ましい。こうして、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲に位置する第1金属層12を残して第1金属層12、及び第2金属層13を除去し、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲に位置する第1金属層12でグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部16を形成する(第7工程)。以上が、実施例4のグラフェン基板の製造方法である。こうして得られたグラフェン基板4は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部16とを備えている。また、固定部16はグラフェン11Aの表面に係止する係止部16Aを有している。
【0059】
実施例5の場合、図3(P)に示すように、第6工程を実行した後、サファイア基板10に積層された第1金属層12、タングステンカーバイド層13A、及び第2金属層13を王水でエッチングして除去する(第7工程)。こうして、サファイア基板10の表面に形成されたグラフェン11A、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bに位置するサファイア基板10の表面が露出する。
【0060】
次に、図3(Q)に示すように、グラフェン11A、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bに位置するサファイア基板10の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。次に、図3(R)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲の領域に塗布されたレジストRをパターニングして除去する。
【0061】
そして、図3(S)に示すように、サファイア基板10を真空蒸着装置のチャンバー内にセットして、所望の材料50を蒸着して積層する。そして、図3(T)に示すように、サファイア基板10のグラフェン11Aの表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。このとき、レジストRの表面に蒸着して積層された所望の材料50も、レジストRと共に除去される(リフトオフする。)。こうして、第7工程で露出したサファイア基板10の表面側であってグラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲にグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aを形成する(第8工程)。以上が、実施例5のグラフェン基板の製造方法である。こうして得られたグラフェン基板5は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aとを備えている。また、固定部50Aはグラフェンの表面に係止する係止部50Bを有している。
【0062】
このように、実施例3〜5のグラフェン基板3,4,5は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部15,16,50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例3〜5のグラフェン基板3,4,5、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
また、実施例3〜5のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部15,16,50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例3〜5のグラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
また、実施例3、4のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aを形成する際に用いる第1金属層12、及び第2金属層13の少なくとも一方で固定部15,16を形成することができる。これにより、実施例3、4のグラフェン基板の製造方法は、固定部15,16を形成するための工程を新たに設ける必要がなく、容易に固定部15,16を形成することができる。
また、実施例5のグラフェン基板の製造方法は、固定部50Aを所望の材料50で形成することができる。
【0063】
したがって、実施例3〜5のグラフェン基板3,4,5もサファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備え、実施例3〜5のグラフェン基板の製造方法も、サファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備えたグラフェン基板3,4,5を製造することができる。
【0064】
<実施例6、7>
実施例6のグラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10上に形成されたグラフェンをパターニングする点等が実施例1〜5と異なる。他の工程は実施例1〜5と同様であり、同一の構成は同一の符号を付し、同一の工程は詳細な説明を省略する。
【0065】
実施例6のグラフェン基板の製造方法は、図4(A)に示すように、サファイア基板10の表面に炭素層11と第1金属層12とを所望の順に蒸着して積層する(第1工程)。なお、実施例6では、炭素層11を積層した後、第1金属層12を積層する。そして、第1金属層12の表面に第2金属層13を蒸着して積層する(第2工程)。そして、熱処理装置を用いた熱処理によってサファイア基板10に積層された炭素層11を第1金属層12に溶解させる(第3工程)。そして、サファイア基板10を冷却すると、図4(B)に示すように、第1金属層12に溶解した炭素層11のC(炭素)がサファイア基板10の表面にグラフェン11Aとして析出して形成される。こうして、第3工程後に冷却してサファイア基板10と第1金属層12との間にグラフェン11Aを形成させる(第4工程)。また、第1金属層12の表面にはタングステンカーバイド層13Aが形成される。このとき、グラフェン11Aは、炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13が積層された領域のサファイア基板10の表面の全体に亘り形成される。
【0066】
次に、図4(C)に示すように、サファイア基板10に積層された第1金属層12、タングステンカーバイド層13A、及び第2金属層13を王水でエッチングして除去する(第5工程)。こうして、サファイア基板10の表面に形成されたグラフェン11Aの表面が露出する。
【0067】
次に、図4(D)に示すように、露出したグラフェン11Aの表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。そして、図4(E)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、レジストRをパターニングする。このとき、レジストRは貫通孔R1が形成されるようにパターニングされる。次に、図4(F)に示すように、サファイア基板10に積層されて、レジストRが除去された領域のグラフェン11AをRIE等のドライエッチングを施して除去する。このとき、パターニングされたレジストRの貫通孔R1が位置する領域のグラフェン11Aが除去される。こうして、グラフェン11Aに厚み方向に貫通した貫通孔11Bをパターニングする(第6工程)。そして、図4(G)に示すように、サファイア基板10のグラフェン11Aの表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。
【0068】
次に、図4(H)に示すように、グラフェン11A、及び露出したサファイア基板10の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。そして、図4(J)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲の領域に塗布されたレジストRをパターニングして除去する。
【0069】
そして、図4(K)に示すように、サファイア基板10を真空蒸着装置のチャンバー内にセットして、所望の材料50を蒸着して積層する。そして、図4(L)に示すように、サファイア基板10のグラフェン11Aの表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。このとき、レジストRの表面に蒸着して積層された所望の材料50も、レジストRと共に除去される(リフトオフする。)。こうして、第6工程でグラフェン11Aに形成した貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲にグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aを形成する(第7工程)。以上が、実施例6のグラフェン基板の製造方法である。こうして得られたグラフェン基板6は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aとを備えている。また、固定部50Aはグラフェン11Aの表面に係止する係止部50Bを有している。
【0070】
ここで、実施例6のグラフェン基板の製造方法の第1工程〜第5工程を実行して実施例7のサンプルを用意した。実施例7のサンプルはサファイア基板の表面に5nmの厚みの炭素層、300nmの厚みの第1金属層、及び25nmの厚みの第2金属層をこの順番で蒸着して積層している。このサンプルは真空度が10-5〜10-6Torrの真空雰囲気で900℃で30分間の熱処理が施された後、温度が急激に下げられている。また、このサンプルは王水でエッチングが施されている。
【0071】
実施例7のサンプルをラマン散乱分光法で評価した結果を図5に示す。ラマン散乱分光法はグラフェンの評価において一般的に用いられている。グラフェンはDピーク、Gピーク、及びG’ピークの3種類のラマンピークを基にして評価することができる。Dピークはグラフェンの構造欠陥、及びグラフェンのエッジに由来するピークである。Gピークはグラフェンの面内振動、及びsp2結合に由来するピークである。G’ピークはグラフェン層構造の評価に利用することができるピークである。なお、ラマン散乱分光法を用いてグラフェンを評価した結果において、Gピーク及びG’ピークが出現している場合、グラフェンが形成されていることを示す。また、Gピーク及びG’ピークのそれぞれのピークの大きさを比べることによって形成されたグラフェンの積層された層数が分かる。実施例7のサンプルはグラフェン由来のピークであるGピーク及びG’ピークが現れている。これにより、実施例7のサンプルはサファイア基板の表面に直接グラフェンが形成されていることが分かった。
【0072】
このように、実施例6のグラフェン基板6は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例6のグラフェン基板6は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
また、実施例6のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例6のグラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。また、実施例6のグラフェン基板の製造方法は、固定部50Aを所望の材料50で形成することができる。
【0073】
したがって、実施例6のグラフェン基板6もサファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備え、実施例6のグラフェン基板の製造方法も、サファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備えたグラフェン基板6を製造することができる。
【0074】
<実施例8〜10>
実施例8、9のグラフェン基板の製造方法は、第2金属層のみをパターニングする点等が実施例1〜7と異なる。他の工程は実施例1〜7と同様であり、同一の構成は同一の符号を付し、同一の工程は詳細な説明を省略する。
【0075】
実施例8、9のグラフェン基板の製造方法は、図6(A)に示すように、サファイア基板10の表面に炭素層11と第1金属層12とを所望の順に蒸着して積層する(第1工程)。なお、実施例8、9では、炭素層11を積層した後、第1金属層12を積層する。そして、第1金属層12の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。そして、図6(B)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、レジストRパターニングする。このとき、レジストRが残される領域の外形は後述するグラフェン11Aに形成される貫通孔11Bの外形を有している。また、レジストRが除去された領域は第1金属層12の表面が露出する。そして、図6(C)に示すように、レジストRの表面、及び露出した第1金属層12の表面に第2金属層13を蒸着して積層する。こうして、第1工程後に第2金属であるW(タングステン)を含む第2金属層13を積層して形成する(第2工程)。
【0076】
そして、図6(D)に示すように、サファイア基板10の第1金属層12の表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。このとき、レジストRの表面に蒸着して積層された第2金属層13も、レジストRと共に除去される(リフトオフする。)。こうして、第1金属層12の表面に積層された第2金属層13に貫通した貫通孔13Bをパターニングする(第3工程)。これにより、第1金属層12の表面に形成されたレジストRの外形が第2金属層13に反映されて、第2金属層13に貫通孔13Bが形成される。
【0077】
そして、熱処理装置を用いた熱処理によってサファイア基板10に積層された炭素層11を第1金属層12に溶解させる(第4工程)。そして、サファイア基板10を冷却すると、図6(E)に示すように、第2金属層13が積層された領域であり、サファイア基板10の表面と第1金属層12との間にはグラフェン11Aが析出して形成される。また、第2金属層13が積層されていない領域(すなわち、第1金属層の表面が露出した領域)であり、第1金属層12の表面にはグラフェン11Dが析出して形成される。第2金属層13が積層された領域の第1金属層12の表面にはタングステンカーバイド層13Aが形成される。こうして、第4工程後に冷却して、サファイア基板10と、第2金属層13が積層された第1金属層12との間に第3工程で第2金属層13にパターニングされた貫通孔13Bの形状を有したグラフェン11Aが形成される(第5工程)。こうして、グラフェン11Aには貫通孔11Bが形成される。つまり、サファイア基板10の表面に析出して形成されたグラフェン11Aの外形は、パターニングされた第2金属層13の外形と同じ外形になる。
【0078】
次に、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定する固定部を形成する。ここで、実施例8、9のそれぞれで固定部を形成する工程が異なるため、それぞれの工程について説明する。
【0079】
実施例8の場合、図6(F)に示すように、第5工程を実行した後、タングステンカーバイド層13A、第1金属層12の表面に形成されたグラフェン11D、及び第2金属層13を王水でエッチングして除去して、第1金属層12の表面を露出させて、レジストRを露出した第1金属層12の表面にスピンコート法を用いて塗布する。そして、図6(G)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、レジストRをパターニングする。このとき、レジストRが残される領域はグラフェン11Aの貫通孔11Bの直上、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲の領域である。
【0080】
次に、図6(H)に示すように、サファイア基板10に積層されて、レジストRに覆われていない領域の第1金属層12を王水でエッチングして除去する。そして、図6(J)に示すように、サファイア基板10の第2金属層12の表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。こうして、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲に位置する第1金属層12を残して第1金属層12、及び第2金属層13を除去し、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲に位置する第1金属層12でグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部16を形成する(第6工程)。以上が、実施例8のグラフェン基板の製造方法である。こうして得られたグラフェン基板7は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部16とを備えている。また、固定部16はグラフェン11Aの表面に係止する係止部16Aを有している。
【0081】
実施例9の場合、図6(K)に示すように、第5工程を実行した後、サファイア基板10に積層された第1金属層12、タングステンカーバイド層13A、第1金属層12の表面に形成されたグラフェン11D、及び第2金属層13を王水でエッチングして除去する(第6工程)。こうして、サファイア基板10の表面に形成されたグラフェン11A、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bに位置するサファイア基板10の表面が露出する。
【0082】
次に、図6(L)に示すように、グラフェン11A、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bに位置するサファイア基板10の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。次に、図6(M)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲の領域に塗布されたレジストRをパターニングして除去する。
【0083】
そして、図6(N)に示すように、サファイア基板10を真空蒸着装置のチャンバー内にセットして、所望の材料50を蒸着して積層する。そして、図6(P)に示すように、サファイア基板10のグラフェン11Aの表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。このとき、レジストRの表面に蒸着して積層された所望の材料50も、レジストRと共に除去される(リフトオフする。)。こうして、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲にグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aを形成する(第7工程)。以上が、実施例9のグラフェン基板の製造方法である。こうして得られたグラフェン基板8は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aとを備えている。また、固定部50Aはグラフェン11Aの表面に係止する係止部50Bを有している。
【0084】
ここで、実施例8、9のグラフェン基板の製造方法の第1工程〜第5工程を実行して実施例10のサンプルを用意した。実施例10のサンプルはサファイア基板10の表面に5nmの厚みの炭素層、300nmの厚みの第1金属層12、及び25nmの厚みの第2金属層13をこの順番で蒸着して積層している。また、このサンプルはフォトリソグラフィを用いて、第1金属層12の表面に複数の第2金属層13のパターンを形成している。詳しくは、図7(A)に示すように、これら第2金属層13は上方からの平面視においてそれぞれが帯状をなしている。これら第2金属層13は帯状の左右方向の幅の寸法M1がおよそ24μmである。また左右方向に隣り合う帯状の第2金属層13の間の寸法M2はおよそ6μmである。つまり、これら帯状の第2金属層13は第1金属層12の表面に等間隔の縞状に配置して形成されている。このサンプルは真空度が10-5〜10-6Torrである真空雰囲気で900℃で30分間の熱処理が施された後、冷却されている。
【0085】
図7(B)、(C)に、実施例10のサンプルの第1金属層12及び第2金属層13のそれぞれの表面をラマン散乱分光法で評価した結果を示す。第1金属層12の表面に第2金属層13が積層された領域の表面ではグラフェン由来のピークであるGピーク及びG’ピークが現れなかった(図7(C)参照。)。これに対し、第1金属層12の表面に第2金属層13が積層されていない領域の表面ではグラフェン由来のピークであるGピーク及びG’ピークが現れた(図7(B)参照。)。つまり、第1金属層12の表面に第2金属層13が積層されていない領域の表面にはグラフェン11Dが形成されることがわかった。
【0086】
次に、実施例10のサンプルを王水でエッチングした。これにより、実施例10のサンプルは第1金属層12及び第2金属層13が除去される。図8(B)、(C)に、王水でエッチングした後の実施例10のサンプルの表面をラマン散乱分光法で評価した結果を示す。第1金属層12の表面に第2金属層13が積層されていた領域の表面ではグラフェン由来のピークであるGピーク及びG’ピークが現れた(図8(C)参照。)。これに対し、第1金属層12の表面に第2金属層13が積層されていなかった領域の表面ではグラフェン由来のピークであるGピーク及びG’ピークが現れなかった(図8(B)参照。)。これらのことから、第2金属層13を所定の回路パターンに形成することによって、第2金属層13の所定の回路パターンを反映したグラフェン11Aを直接サファイア基板10の表面に形成できることがわかった。
【0087】
このように、実施例8、9のグラフェン基板7,8は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部16,50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例8、9のグラフェン基板7,8は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
また、実施例8、9のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部16,50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例8、9グラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
また、実施例8のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aを形成する際に用いる第1金属層12で固定部16を形成することができる。これにより、このグラフェン基板の製造方法は、固定部16を形成するための工程を新たに設ける必要がなく、容易に固定部16を形成することができる。
また、実施例9のグラフェン基板の製造方法は、固定部50Aを所望の材料50で形成することができる。
【0088】
したがって、実施例8、9のグラフェン基板7,8もサファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備え、実施例8、9のグラフェン基板の製造方法も、サファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備えたグラフェン基板7,8を製造することができる。
【0089】
<実施例11>
実施例11のグラフェン基板の製造方法は、炭素層、第1金属層、及び第2金属層をパターニングする点等が実施例1〜10と異なる。他の工程は実施例1〜10と同様であり、同一の構成は同一の符号を付し、同一の工程は詳細な説明を省略する。
【0090】
実施例11のグラフェン基板の製造方法は、図9(A)に示すように、サファイア基板10の表面に炭素層11と第1金属層12とを所望の順に蒸着して積層する(第1工程)。なお、実施例11では、炭素層11を積層した後、第1金属層12を積層する。そして、第1金属層12の表面に第2金属層13を蒸着して積層する(第2工程)。
【0091】
次に、図9(B)に示すように、第2金属層13の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。そして、図9(C)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、レジストRをパターニングする。このとき、レジストRは貫通孔R1が形成されるようにパターニングされる。また、レジストRが除去された領域は第2金属層13の表面が露出する。
【0092】
次に、図9(D)に示すように、サファイア基板10に積層されて、レジストRが除去された領域の炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13をRIE等のドライエッチングを施して除去する。こうして、炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13に厚み方向に貫通した貫通孔17をパターニングする(第3工程)。そして、図9(E)に示すように、サファイア基板10の第2金属層13の表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。
【0093】
そして、熱処理装置を用いた熱処理によってサファイア基板10に積層された炭素層11を第1金属層12に溶解させる(第4工程)。そして、サファイア基板10を冷却すると、図9(F)に示すように、炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13が積層された領域のサファイア基板10の表面にはグラフェン11Aが析出して形成される。また、炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13が積層されていない領域(すなわち、サファイア基板10の表面が露出した領域)にはグラフェンが析出して形成されることがない。また、第1金属層12の表面にはタングステンカーバイド層13Aが形成される。こうして、第4工程後に冷却してサファイア基板10と第1金属層12との間に第3工程で炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13にパターニングされた貫通孔17の形状を有したグラフェンを形成させる(第5工程)。こうして、グラフェン11Aには貫通孔11Bが形成される。
【0094】
次に、図9(G)に示すように、サファイア基板10に積層された第1金属層12、タングステンカーバイド層13A、及び第2金属層13を王水でエッチングして除去する(第6工程)。こうして、サファイア基板10の表面に形成されたグラフェン11Aの表面が露出する。
【0095】
次に、図9(H)に示すように、露出したグラフェン11Aの表面、及びサファイア基板10の表面にスピンコート法を用いてレジストRを塗布する。次に、図9(J)に示すように、フォトリソグラフィを用いて、グラフェン11Aの貫通孔11Bと、グラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲の領域とに塗布されたレジストRをパターニングして除去する。
【0096】
そして、図9(K)に示すように、サファイア基板10を真空蒸着装置のチャンバー内にセットして、所望の材料50を蒸着して積層する。そして、図9(L)に示すように、サファイア基板10のグラフェン11Aの表面に形成されたレジストRをアセトン等の有機溶剤を用いて除去する。このとき、レジストRの表面に蒸着して積層された所望の材料50も、レジストRと共に除去される(リフトオフする。)。こうして、グラフェン11Aの貫通孔11B、及びグラフェン11Aの貫通孔11Bの周囲にグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aを形成する(第7工程)。以上が、実施例11のグラフェン基板の製造方法である。こうして得られたグラフェン基板9は、サファイア基板10と、サファイア基板10の表面側に積層され、厚み方向に貫通した貫通孔11Bが形成されたグラフェン11Aと、貫通孔11Bに設けられ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定する固定部50Aとを備えている。また、固定部50Aはグラフェン11Aの表面に係止する係止部50Bを有している。
【0097】
このように、実施例11のグラフェン基板9は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例11のグラフェン基板9は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。
また、実施例11のグラフェン基板の製造方法は、グラフェン11Aに形成された貫通孔11Bに固定部50Aを設けることによって、グラフェン11Aをサファイア基板10に固定することができる。このため、実施例11のグラフェン基板の製造方法は、サファイア基板10の表面に対してグラフェン11Aの位置がずれることなくグラフェン11Aをサファイア基板10に対して固定することができる。また、実施例11のグラフェン基板の製造方法は、炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13をパターニングする。つまり、炭素層11、第1金属層12、及び第2金属層13の全てをパターニングするため、実施例11のグラフェン基板の製造方法はどの層までエッチングするのかを精密に制御する必要がなく、サファイア基板10の表面までパターニングすることができる。また、実施例11のグラフェン基板の製造方法は固定部50Aを所望の材料50で形成することができる。
【0098】
したがって、実施例11のグラフェン基板9もサファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備え、実施例11のグラフェン基板の製造方法も、サファイア基板10に良好に固定されたグラフェン11Aを備えたグラフェン基板9を製造することができる。
【0099】
<実施例12〜22>
次に、実施例1〜11のグラフェン基板の製造方法を用いて作製した実施例12〜22のグラフェン基板について図10〜14を参照しつつ説明する。
【0100】
実施例12のグラフェン基板101は、図10(A)に示すように、サファイア基板10の表面に拡がり形成されたグラフェン11Aの外周縁に沿ってアモルファスカーボンである炭素層11が固定部11Cとして形成されている。これにより、このグラフェン基板101はグラフェン11Aの外周がサファイア基板10から剥離することを抑えることができる。
【0101】
実施例13のグラフェン基板102は、図10(B)に示すように、サファイア基板10の表面に一方向に伸びるグラフェン11Aが設けられている。また、グラフェン11Aの長手方向の中間部には所望の数の炭素層11(アモルファスカーボン)が固定部11Cとして一方向に伸びるグラフェン11Aを分断して設けられている。アモルファスカーボンはグラフェンに比べて電気抵抗が大きい。これにより、炭素層11を設ける数を変えたり、炭素層11の寸法を変更して炭素層11によって分断されるグラフェン11Aの間の寸法を変更したりすることによって、一方向に伸びるグラフェン11Aの両端の間の電気抵抗の大きさを所望の大きさにすることができる。つまり、グラフェン基板102は所望の大きさの電気抵抗値を有した回路をサファイア基板10の表面に形成している。
【0102】
実施例14のグラフェン基板103は、図11に示すように、サファイア基板10の表面に互いの間に所定の隙間を有して対向する一対のグラフェン11Aが形成されている。一対のグラフェン11Aのそれぞれには、複数の貫通孔11Bが形成されている。一対のグラフェン11Aは貫通孔11Bに設けられた固定部115によってサファイア基板10の表面に固定されている。これにより、このグラフェン基板103は一対のグラフェン11Aの間に所定の電圧を付与することによって、一対のグラフェン11Aの一方に正の電荷を蓄え、他方に負の電荷を蓄えることができる。また、一対のグラフェン11Aの互いの間の所定の隙間の寸法を変更したり、対向する長さを変更したりすることによって、蓄える電荷の量を所望の量にすることができる。つまり、グラフェン基板103は所望の大きさの電荷を蓄えることができるコンデンサをサファイア基板10の表面に形成している。
【0103】
実施例15のグラフェン基板104は、図12(A)に示すように、サファイア基板10の表面にコ字状にグラフェン11Aが形成されている。このグラフェン基板104は、このグラフェン11Aの各角部には貫通孔11Bが設けられている。コ字状に形成されたグラフェン11Aが各角部の貫通孔11Bに設けられた固定部115によってサファイア基板10の表面に固定されている。これら固定部115の外形は所望の外形にすることができる。また、固定部215のように、グラフェン11Aの両側から食み出して形成され、固定部215の食み出した部分と貫通孔11Bとでグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定してもよい。なお、固定部215の食み出した部分はグラフェン11Aの両側に形成してもよく、片側に形成してもよい。これにより、このグラフェン基板104はグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に効率よく固定することができる。また、固定部115にNi(ニッケル)、Au(金)、Cr(クロム)、Ti(チタン)等の金属を用いることによって、固定部115を電極として用いることができる。
【0104】
実施例16のグラフェン基板105は、図12(B)に示すように、サファイア基板10の表面に拡がるようにグラフェン11Aが形成されている。このグラフェン基板105は、グラフェン11Aの外周の角部の近傍、及び中央部に貫通孔(図示せず)が設けられている。このグラフェン基板105は、グラフェン11Aの外周の角部の近傍、及び中央部の貫通孔11Bに設けられた固定部115によってサファイア基板10の表面に固定されている。これにより、このグラフェン基板105はグラフェン11Aにしわが生じたり、グラフェン11Aの中央部がサファイア基板10の表面から浮き上がったりすることを抑えつつグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定することができる。
【0105】
実施例17のグラフェン基板106は、図12(C)に示すように、グラフェン11Aの外周部に固定部115が形成されている。グラフェン11Aの外周部には複数の貫通孔11Bが形成されており、固定部115は貫通孔11Bを介してグラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定している。これにより、このグラフェン基板106はグラフェン11Aの外周がサファイア基板10から剥離することを抑えつつ、グラフェン11Aをサファイア基板10の表面に固定することができる。
【0106】
実施例18のグラフェン基板107は、図12(D)に示すように、サファイア基板10に一方向に伸びるグラフェン11Aが形成されている。また、このグラフェン基板107は、グラフェン11Aが伸びる方向に並んで設けられた複数の貫通孔(図示せず)のそれぞれに固定部115が形成され、グラフェン11Aがサファイア基板10の表面に固定されている。これにより、このグラフェン基板107はグラフェン11Aをサファイア基板10の表面により強固に固定することができる。
【0107】
実施例19のグラフェン基板108は、図13(A)に示すように、サファイア基板に代えて、SiO2(2酸化ケイ素)やSi(ケイ素)で形成された基板20に複数の電気素子21が設けられている。また、このグラフェン基板108は基板20の表面に形成されたグラフェン11Aによってこれら電気素子21同士が電気的に接続されている。グラフェン11Aは各角部に設けられた貫通孔(図示せず)に固定部115が形成され、グラフェン11Aが基板20の表面に固定されている。つまり、このグラフェン基板108は基板20の表面に電気回路を形成している。
【0108】
実施例20のグラフェン基板109は、図13(B)に示すように、電気素子21に接続していないグラフェン11Aの縁に沿って固定部115が形成されている。グラフェン11Aの外周部には複数の貫通孔(図示せず)が形成されており、固定部115は貫通孔を介してグラフェン11Aを基板20の表面に固定している。これにより、このグラフェン基板109はグラフェン11Aの外周が基板20から剥離することを抑えつつ、グラフェン11Aを基板20の表面に固定することができる。
【0109】
実施例21、22のグラフェン基板201,202は、図14(A)〜(D)に示すように、サファイア基板に代えてデバイス構造であるLED素子を形成したGaN(窒化ガリウム)等の基板30の表面にグラフェン11Aを形成している。グラフェン11Aの外形は、上方からの平面視において、L字状をなしている。グラフェン基板201,202はグラフェン11Aを透明電極として用いる。
【0110】
グラフェン基板201は、図14(A)、(B)に示すように、L字状をなしたグラフェン11AにL字状をなした固定部115が積層して形成されている。また、固定部115のL字状をなした2辺が接する角部は円形状に形成されており、この部分に位置するグラフェン11Aに貫通孔11Bが形成されている。なお、固定部にNi(ニッケル)、Au(金)、Cr(クロム)、Ti(チタン)等の金属を用いることによって、固定部を電極として用いることができる。
【0111】
グラフェン基板202は、図14(C)、(D)に示すように、グラフェン11Aの外形に沿うように固定部115が形成されている。また、グラフェン11AのL字状をなした2辺が接する突出した角部に位置する固定部115は、グラフェン11Aを覆うように突出して形成されており、この部分に位置するグラフェン11Aに貫通孔11Bが形成されている。
【0112】
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施例1〜22に限定されるものではなく、例えば次のような実施例も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)実施例1〜11では、王水を用いてエッチングしているが、これに限らず、硝酸、硫酸、塩酸、過酸化水素水、及びこれらの酸の混合液を用いてエッチングしても良い。
(2)実施例1〜11では、(0001)面を表面にしたサファイア基板を用いているが、これに限らず、他の面を表面にしたサファイア基板を用いてもよい。
(3)実施例1〜18ではサファイア基板を用い、実施例19、20ではSi(ケイ素)、SiO2(2酸化ケイ素)で形成された基板を用い、実施例21、22ではLED素子を形成したGaN(窒化ガリウム)を基板として用いているが、これに限らず、ZnO(酸化亜鉛)等の他の材料を基板として用いても良い。
(4)実施例1〜11では、炭素層及び第1金属層をそれぞれ1層ずつ積層しているが、これに限らず、炭素層及び第1金属層のそれぞれをより薄くして複数積層しても良い。これにより、より低温で、より短時間で熱処理することができる。
(5)実施例1〜11では、炭素層及び第1金属層を積層しているが、これに限らず、炭素層及び第1金属層を混合した層であっても良い。
(6)実施例1〜11では、第1金属層にNi(ニッケル)を用いているが、これに限らず、熱処理によって炭素層のC(炭素)が溶解できれば良く、Fe(鉄)、Cu(銅)、Co(コバルト)、Ru(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、及びSi(ケイ素)等の他の材料を用いても良い。
(7)実施例1〜11は第2金属層としてW(タングステン)を用いているが、これに限らず、カーバイド層を形成できれば良く、第2金属層としてMo(モリブデン)、Ti(チタン)、及びSi(ケイ素)等の他の材料を用いても良い。また、カーバイド層に限らず、C(炭素)の拡散を抑えるその他の層を形成することができる材料を用いても良い。
(8)貫通孔の外形は、円形に限らず、楕円形、長孔、スリット状、又は多角形状等であってもよい。
(9)実施例1では、炭素層の層厚を変化させることによって、得られるグラフェンの層厚が変えられることを開示しているが、グラフェンを複数の層で形成してもよく、1つの層で形成してもよい。
(10)実施例21、22では、グラフェンの外形形状がL字状をなしているがグラフェンの外形形状を円形状、楕円形状、四角形状等にしてもよい。
【符号の説明】
【0113】
10…サファイア基板(基板)
10A…炭素層にパターニングされた貫通孔
11…炭素層
11A…グラフェン
11B…グラフェンの貫通孔
11C,15,16,50A,115,215…固定部
12…第1金属層
13…第2金属層
13B…第2金属層にパターニングされた貫通孔
14…第1金属層、及び第2金属層にパターニングされた貫通孔
15A,16A,50B…係止部
17…炭素層、第1金属層、及び第2金属層にパターニングされた貫通孔
20,30…基板
図1
図2
図3
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図5
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図7
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図10
図11
図12
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図14