特許第6845621号(P6845621)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6845621加水分解可能なヒドリドゲルからの制御された水素製造
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845621
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】加水分解可能なヒドリドゲルからの制御された水素製造
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/06 20060101AFI20210308BHJP
   H01M 8/0606 20160101ALI20210308BHJP
【FI】
   C01B3/06
   H01M8/0606
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-104626(P2016-104626)
(22)【出願日】2016年5月25日
(65)【公開番号】特開2017-1939(P2017-1939A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】14/738,136
(32)【優先日】2015年6月12日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504407000
【氏名又は名称】パロ アルト リサーチ センター インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100109335
【弁理士】
【氏名又は名称】上杉 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120525
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 直樹
(74)【代理人】
【識別番号】100139712
【弁理士】
【氏名又は名称】那須 威夫
(72)【発明者】
【氏名】ガブリエル・イフタイム
(72)【発明者】
【氏名】ジェシカ・ルイ・ベイカー・リヴェスト
(72)【発明者】
【氏名】ショーン・アール・ガーナー
(72)【発明者】
【氏名】マーティン・ジェイ・シュリダン
(72)【発明者】
【氏名】サロージ・クマール・サフ
【審査官】 中田 光祐
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第02/030810(WO,A1)
【文献】 特開2009−001432(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0194273(US,A1)
【文献】 特開2002−324560(JP,A)
【文献】 特開2010−215487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 3/02−3/48
H01M 8/00−8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素製造システムであって、
化学的に結合させた疎水性モノマーと親水性モノマーとを含むポリマー材料に分散した複数の少なくとも1種類の加水分解可能なヒドリド粒子を含む、加水分解可能なヒドリドゲル材料であって、前記複数の加水分解可能なヒドリド粒子の少なくとも一部の反応のタイミングを制御するように、前記複数の加水分解可能なヒドリド粒子の少なくとも一部が、疎水性モノマーおよび親水性モノマーに対し、所定の位置に配置されるように調整された材料である、ヒドリドゲル材料と;
前記加水分解可能なゲル材料を保持する、加水分解可能なヒドリドゲルカートリッジと;
入口と出口を有し、入口が、水および水蒸気のうち少なくとも1つを受け入れるように構成され、出口が、水素ガスが出て行くように構成される加水分解機とを備える、水素製造システム。
【請求項2】
一体化された発電システムであって、
水素製造システムと;
水素ガスを受け入れるように構成された燃料セルと;
燃料セル操作によって作られる水および水蒸気のうち少なくとも1つを、水素製造に使用するための加水分解機の入口に戻して再利用するように構成された再利用システムとを備え、
前記水素製造システムが、
化学的に結合させた疎水性モノマーと親水性モノマーとを含むポリマー材料に分散した複数の少なくとも1種類の加水分解可能なヒドリド粒子を含む、加水分解可能なヒドリドゲル材料であって、前記複数の加水分解可能なヒドリド粒子の少なくとも一部の反応のタイミングを制御するように、前記複数の加水分解可能なヒドリド粒子の少なくとも一部が、疎水性モノマーおよび親水性モノマーに対し、所定の位置に配置されるように調整された材料である、ヒドリドゲル材料と;
前記加水分解可能なヒドリドゲル材料を保持する、加水分解可能なヒドリドゲルカートリッジと;
入口と出口を有し、入口が、水および水蒸気のうち少なくとも1つを受け入れるように構成され、出口が、水素ガスが出て行くように構成される前記加水分解機とを備える、一体化された発電システム。
【請求項3】
水蒸気が燃料セルに加えられるのを止めるために配置された水蒸気分離機をさらに備える、請求項に記載の一体化された発電システム。
【請求項4】
燃料セルの操作によって発生する水および水蒸気のうち少なくとも1つを受け入れ、水および水蒸気のうち少なくとも1つを操作時に前記加水分解機と接触するように移動させ、前記加水分解機を冷却するように構成された冷却システムをさらに備える、請求項に記載の一体化された発電システム。
【請求項5】
前記冷却システムが、前記加水分解機と物理的に接触する熱交換器をさらに備える、請求項に記載の一体化された発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、エネルギー製造に関し、さらに具体的には、制御された水素製造に関する。
【背景技術】
【0002】
エネルギーを必要とする装置(特に、携帯用装置、例えば、無人航空機(UAV)、通信機器、測位機器、センサおよび観察機器を含む)は、電力のために電池または化石燃料に依存する。一般的に、電池は、ゼロエミッションであり、静かであり、一般的に爆発の危険性が低いため、現時点で化石燃料より好ましい。残念ながら、電池の技術状況(例えば、Liイオン)は、化石燃料と比較すると、エネルギー密度がかなり低い。例えば、Liイオン電池1kgのエネルギー量は、わずか0.15kWhであり、これは、ガソリン1kgのエネルギー量の〜70分の1の低さである。電池の重量および大きさも、有用性を制限している。
【0003】
水素ガスは、有害な廃棄物を生成することなく、燃料として使用することができ、理論的に、最もエネルギー密度が高く、効率的な燃料源である(33kWh/Kg)。しかし、圧縮された水素には、顕著な体積に関する欠点があり、電源として実施するには安全性や充填の課題がある。
【0004】
水素燃料の別の形態は、ヒドリドの使用によって作られる。第1の手法において、化学ヒドリドは、熱によって活性化される化学分解反応によって水素ガスを生成する。アンモニアボランのようなヒドリドを組み込んだシステムは、最近報告されており、例えば、米国特許出願公開第2014/0178292号(Stephen Benningtonら)で報告されている。しかし、これらのシステムは、水素製造を活性化するために熱を与える必要があるため、欠点がある。この材料に貯蔵されるすべての水素を放出することは非常に困難である。特に、最後の水素分子の放出は、400℃(摂氏)を超える非常に高い温度を必要とする。このシステムの設計は、さらに、さらなる加熱ユニットを提供する必要があり、システムの複雑さが高まるという欠点がある。80℃未満の低温でさえ水素ガスをゆっくりと放出し、ユーザに爆発および発火の危険性を与えるため、アンモニアボランに関する安全性の問題もある。
【0005】
第2の手法において、水素ガスは、金属ヒドリドと水とを反応させることによって作られる。水と反応するとき、金属ヒドリドの水素発生能力は際だっている。このシステムは、化学ヒドリド方法と比較すると、水素ガスの半分が金属ヒドリドから得られ、一方、他の半分が、ヒドリドと反応する水から得られるため、有益である。水は、一般的に、金属ヒドリドと比較すると、容易に入手でき、安価である。しかし、単に金属ヒドリドに水を加えるのは、水との極端な反応性によって爆発および発火が生じ得るため、安全ではないだろう。従って、水素放出材料として直接的に使用することはできない。また、湿度感受性および他の問題に起因して、取り扱うのも安全ではない。安定化された金属ヒドリド系への成功した手法の1つは、水素化ホウ素ナトリウム系を用いて示されている。この安定化された系は、水に溶解した濃度が約20%までの水素化ホウ素ナトリウムの溶液として与えられ、約3%の水酸化ナトリウムによって安定化されている。水素化ホウ素ナトリウムは、水酸化物によって可能な塩基性pHでは水と反応しない。この系は、触媒によって活性化されると、水素を発生する。残念ながら、ヒドリドの実施は、貯蔵密度が非常に小さく、特に、燃料全体の重量の大部分が水であるという事実に起因して、最良でも数重量%の範囲に入っている。この大量の水の必要性は、他の必要な装置と共に、システムの重量を増やし、このことも、水素化ホウ素ナトリウム系のエネルギー密度が低い理由の1つとなる。
【0006】
限定されないが、携帯型の装置を含め、エネルギーを必要とする装置と共に使用可能な軽量かつ安全な燃料が必要とされる。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
今日、エネルギーを必要とする装置は、一般的に、電力のための電池に依存している。電池の過剰な重さおよび大きさは、その性能をひどく制限する。本明細書には、水素系のエネルギー発生機への水素ガスの供給に使用するための、超高容量の加水分解可能なヒドリドゲルカートリッジを含む軽量の携帯可能なエネルギーシステムが記載される。生成した水素ガスの流れは、カートリッジのポリマーゲル封入剤中の親水性および疎水性の内容物の量を調整することによって、加水分解可能なヒドリドと水との反応性を制御することによって達成される。従来の水系水素化ホウ素ナトリウムシステムとは異なり、本発明の実施形態は、完全な加水分解にちょうど必要な量またはこれよりわずかに多い量の水を使用する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1A図1Aは、本発明の概念にかかる水素製造システムを組み込んだ完全に一体化された電力システムを示す。
図1B図1Bは、本発明の概念にかかる水素製造システムおよび燃料セルを組み込んだ完全に一体化された電力システムを示す。
図2図2は、本出願の概念にかかる水素製造システムの一実施形態である。
図3図3は、燃料セルを供給する水素製造システムの本発明の概念のさらなる実施形態を示す。
図4A図4Aは、本発明の概念の移動型の実施形態の前面図を示す。
図4B図4Bは、本発明の概念の移動型の実施形態の側面図を示す。
図4C図4Cは、本発明の概念の移動型の実施形態の分解図を示す。
図5A図5Aは、本発明の概念の移動型の実施形態の水平方向の実施を示す。
図5B図5Bは、本発明の概念の移動型の実施形態の水平方向の実施を示す。
図6図6は、本発明の概念の移動型の実施形態の外形に沿った態様を示す。
図7図7は、種々の水素燃料のエネルギー密度の特徴を示す図である。
図8図8は、本発明の概念に従う制御されたゲルの膨潤を示す。
図9図9は、操作中の加水分解機と加水分解可能なヒドリドゲルカートリッジベース部材の切断図を示す。
図10図10は、加水分解可能なヒドリドゲルカートリッジベース部材の構造の代替的な図を示す。
図11図11は、型の使用によって作られる加水分解可能なヒドリドゲルの一実施形態を示す。
図12図12は、孔および/または経路を含む加水分解可能なヒドリドゲルの一部を示す。
図13図13は、型の使用によって経路を有するように作られた加水分解可能なヒドリドゲルの一部を示す。
図14図14は、加水分解可能なヒドリド材料を用いて作られた平板を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
既存のエネルギーを必要とする装置、特に、このような携帯用装置は、電池および電力のための他の燃料に依存している。欠点の中で、特に、電池の過剰な重量および大きさは、その性能をひどく制限する。他の燃料は、高い燃焼性および爆発の問題を有するガソリンのように、それ自体が欠点を有する。
【0010】
従って、本出願は、水素を水素エネルギー発生機(限定されないが、燃料セルおよび水素系の内燃機関)に供給するように設計された軽量の加水分解可能なヒドリド系燃料生成システムを開示し、上述の装置に電力を供給する。
【0011】
水素製造システムにおける加水分解可能なヒドリドの反応性は、親水性と疎水性の内容物を用いることによって制御され、この内容物は、ポリマーゲル(例えば、硬化した)封入剤中で調整されている。本明細書で使用される場合、調整とは、親水性材料と疎水性材料の比率が、特定の実施に依存して特定の量で含まれることを意味することを意図している。
【0012】
本出願のシステムおよび方法は、電力を製造するための水素に適合性のシステムと組み合わせて使用される水素ガスを製造するための水および/または水蒸気と合わせて、加水分解可能なヒドリドゲル材料の使用を組み込む。一実施形態において、加水分解可能なヒドリドゲルは、懸濁物材料に分散した加水分解可能なヒドリド粒子からなる。加水分解可能なヒドリド粒子は、限定されないが、金属ヒドリドおよび/または金属水素化ホウ素粒子であってもよく、懸濁物材料は、限定されないが、ポリマー材料であってもよい。加水分解可能なヒドリドゲルがシステムに組み込まれ、水および/または水蒸気の添加に対し、反応における水素の制御された流れを作り出す。
【0013】
図1Aおよび1Bを見ると、本出願にかかる一体化された電力システムの変形例100、150が示される。図1Aに注目すると、水素製造ユニット(または加水分解機)102からなるシステム100が示され、その中に、加水分解可能なヒドリドゲルカートリッジ104が入っている。水素製造ユニット102は、流量制御弁110、水圧センサ112によって検知される水監視弁112によって、重量または体積によって制御された流量によって計量されるか、または圧力勾配によって流される液圧アキュムレータ106からの水(液相または蒸気相)を与える入口102aを備えている。水素製造ユニット102の中で、加水分解可能なヒドリドゲル材料が水と反応し、水素ガスが生成する。水素ガスは、水素製造ユニット102を出て、水分制御膜116および水素監視弁118を介し、水素バッファーまたは蓄積タンク114に移動する。水素バッファーまたは蓄積タンク114から、水素圧力センサ128によって検知される水素制御弁122、水素圧制御器124および水素流量制御器126を介し、水素ガスが制御可能な様式で燃料セル120に供給される。従って、水素ガスの圧力および流れは、水素製造ユニット(加水分解機)102に加えられる水の速度を制御する制御ループによって、燃料セル120に投入される。
【0014】
図1Aは、さらに、燃料セル120の操作によって生成する水の出口として作用する水(水蒸気)出口130と、液圧アキュムレータの気体入口132とを示す。液圧アキュムレータ106は、袋部106Aに水(水蒸気)を蓄えるように設計されることを注記しておく。この構造は、スタートアップ時に、所定体積の水が袋部106Aに加えられ、気体の背圧が実質的にゼロになるように設計される。次いで、液圧アキュムレータ106の気体側が、外側の気体圧力源(図示せず)から加圧される。通常の操作中、この水圧は、水素製造ユニット102で発生する圧力より高いだろう。一実施形態において、適切な圧力バランスを確保するために、水圧センサ112によって液圧アキュムレータの出口で圧力が測定される。液圧アキュムレータ106が加圧された袋部配置として示されているが、限定されないが、水を供給するためにポンプまたは重力を使用する水貯蔵部を含め、水供給のための他の構造が考慮されることが理解されるべきである。
【0015】
図1Bに移り、別の一体化された電力システム150の実施形態が示され、これは、図1Aに類似しているだけではなく、燃料セルからの水(水蒸気)を再利用するように構成された水再利用システムと、水素製造ユニット(加水分解機)を冷却するために水(水蒸気)を使用する冷却システムとを備えている。
【0016】
引き続き図1Bに注目し、燃料セルの操作から燃料セル120によって生成する水は、出口130から捕捉され、フィードバックまたはリサイクルライン152に運ばれる。このフィードバックまたはリサイクルライン152は、水(水蒸気)をポンプ154に運び、戻り水熱交換器156を通って水が移動し、製造ユニット(加水分解機)102と操作によって接触し、および/または物理的に接触する。一実施形態において、熱交換器156は、製造ユニット(加水分解機)102の外側表面に接続した一連の管である。燃料セル120からの水は、一般的に、製造ユニット(加水分解機)102によって発生する熱より温度が低い。水(水蒸気)を熱交換器156を通して移動することによって、製造ユニット(加水分解機)102の温度を下げることができる。本実施形態に示される熱交換器は、単なる一例であり、他の熱交換器の形状を使用してもよいことが理解されるべきである。
【0017】
引き続き図1Bに注目し、次いで、熱交換器156からの水が、フィードバックまたはリサイクルライン152のさらなる部分に運ばれ、水流量制御弁108によって水素製造ユニット(加水分解機)106に向かう。代替的な実施形態において、フィードバックまたはリサイクルライン152は、流量制御弁108に直接向かい、熱交換器は実装されていないか、または実装されている場合に、再生された水(水蒸気)を使用しないことが理解されるべきである。さらに、水流量制御弁108に向かう代わりに、再生された水(水蒸気)は、水素製造ユニット102に注入する準備ができるまで、液圧アキュムレータ106中に貯蔵されていてもよい。
【0018】
図2に移り、本出願の教示にかかる加水分解可能なヒドリドゲル系システム200の一実施形態が示される。最初に、図2において、種々の段階で示される使い捨ての加水分解可能なヒドリドカートリッジ202が示される。カートリッジ202は、キャップまたは上部分204と、カートリッジ本体またはベース部材206とを備えている。カートリッジ202は、カートリッジベース部材206が使用されるとき、カートリッジベース部材206から取り外し可能なキャップ204を有するように構成される。その他の方法で、キャップ204は、カートリッジベース部材206の中にみられる加水分解可能なヒドリドゲル208の貯蔵一貫性を与えるように接続し、維持される。加水分解可能なヒドリドゲルに関するさらなる記載を以下に示す。
【0019】
操作中、カートリッジベース部材206は、加水分解ユニット210に接続する。この実施形態において、密に接続するためのねじ状の雄/雌配置を有する加水分解機およびベース部材が示される。しかし、密に係合させるための任意の他の既知の様式、例えば、限定されないが、要素206と210を保持するクランプ、スナップなどが適切な場合があることが理解されるべきである。図2の実施形態において、カートリッジ202は、カートリッジベース部材206を加水分解機210から取り外し、他のカートリッジを接続してもよいため、使い捨てであると考えられてもよいことが理解されるべきである。しかし、このことは、加水分解機およびカートリッジベース部材206が単一のユニットとして作られるという教示を除外しない。
【0020】
加水分解機210に引き続き注目すると、入口212、214および出口216が提供される。2個の入口が示されており、1個の出口が示されているが、これに限定する意図はなく、加水分解機は、特定の実施のために適切な場合、さらなる入口および/または出口を有していてもよいことが理解されるべきである。
【0021】
図2に引き続き注目すると、カートリッジ本体206と加水分解機210の組み合わせがシステム内に配置され、貯蔵部218、220からの水が、制御部226、228の制御下、ポンプ222、224によって圧送され、入口212、214を通って加水分解機210の内側を流れる水流が制御される。水の供給は、水と、加水分解可能なヒドリドゲル208との化学反応を開始させ、出口216を介して出て行く水素ガス230を発生し、これが水素系のエネルギー発生機232に受け入れられ、この水素を操作に使用する。「水」という用語が本明細書で使用される場合、「水蒸気」を含むことも意図していることを理解すべきである。
【0022】
水素系のエネルギー発生機232は、多くの特定のシステムの1つであってもよく、例えば、特に、水素系燃料セル、水素内燃機関であってもよいことを注記しておく。
【0023】
図3に移り、さらに具体的なシステム300が示され、システム300は、水素燃料セル(例えば、PEM−H)302として実装される図2の水素系のエネルギー発生機232を備えている。この実施形態において、燃料セル302は、空気または酸素を受け入れるための入口304と、既に記載したプロセスによって作られる水素ガス230を受け入れるための第2の入口306とを備えている。燃料セル302は、水蒸気、空気および熱のための出口308も備えている。DC力の形態で燃料セル302によって発生する電気エネルギーは、DC出力端子310によって出力される。
【0024】
図3の代替的な実施形態において、燃料セルの仕様に依存して、燃料セルの操作のために乾燥した水素が必要となる場合がある。この状況において、燃料セル302に到達する前に、水素透過性膜(しかし、水蒸気遮蔽特性を有する)312が、場合により、水素ガスの経路に配置されてもよい。
【0025】
図2および3の制御部は、特に、工業用制御部、コンピュータに基づく制御システムを含む多くの制御システムのいずれかであってもよいことを理解すべきである。制御部226、228は、既に示した加水分解機の入口(212、214)に運ぶために水がポンプ222、224によって貯蔵部218、220から移動する速度を決定するように作用する。貯蔵部、ポンプ、制御部が別個のシステムとして示されているが、これらが単一のシステムに一体化されていてもよく、または、種々の組み合わせで、または個々に与えられる複数の個々の要素を有していてもよいことが理解されるべきである。
【0026】
カートリッジベース部材206と加水分解機210を組み合わせた図2および3の構造は、固定型および移動型の実施形態を両方とも表すと理解される。例えば、固定型の実施形態において、貯蔵部218、220、ポンプ222、224および制御部226、228の少なくとも1つが外部に配置され(すなわち、カートリッジベース部材206と加水分解機210を組み合わせた配置と一体化されていない)、一方、移動型の実施形態において、水貯蔵部218、220の少なくとも1つが、当該技術分野で知られているように必要な任意の必要な弁、ポンプおよび/または制御部と共に、カートリッジベース部材206と加水分解機210を組み合わせた配置と一体化されている。
【0027】
移動型の実施形態のさらに具体的な実施例を図4A、4Bおよび4Cの配置400によって示す。図4Aおよび4Bに注目すると、加水分解機404と、この実施例では加水分解機404の上部に配置される一体化された水貯蔵部または供給部406と組み合わせた状態で、カートリッジベース部材402が示される。加水分解機404および水貯蔵部または供給部406は、固定された接続関係で与えられ、単一の永久的なユニットとして部品を形成することによって、または、脱着可能な構造(例えば、スナップ接続部、接続部のねじまたは他の既知の配置)を含むように構築された部品を有することによって達成されてもよい。
【0028】
図4Aおよび4Bには、一体化された制御配置408も示され、水を移動し、および/または水の移動を制御するために必要となり得る任意の弁、ポンプ、制御部分および配置を含むことが理解される。この実施形態において、カートリッジベース部材402は、図2および3に関連して記載したものと同様の加水分解可能なヒドリドゲル410(切断された状態で示される)を含む。カートリッジベース部材402に対し、加水分解ユニット404の片側に沿って下側に水輸送管412に接続し、水貯蔵部または供給部406からの水を運ぶ水貯蔵部または供給部406が示される。この実施形態において、図4Cにもっと明確に示されるように、カートリッジベース部材402および管412は、両方とも、開口部414、416を有し、これらの開口部は、管412からの水がカートリッジベース部材402の内側を通るように互いに整列している。水が入ると、水と、加水分解可能なヒドリドゲル410との反応が制御された様式で開始する。この実施形態において、開口部416を開口部414の方に移動し、あり得る水漏れを減らす。
【0029】
この実施形態からもわかるように(特に、図4Aおよび4B)、開口部414、416は、カートリッジベース部材402の水平方向および垂直方向の両方にみられ、側面に沿って、カートリッジベース部材402の底部から上側に、水がカートリッジベース部材402に入る。開口部が、示されている以外の他の位置に配置されていてもよいことを理解すべきである。さらに、開口部は、カートリッジベース部材402への望ましい流れを与えるような様式で、互いに大きさが異なっていてもよい。例えば、カートリッジベース部材402の底部(水平位置に)の近くの管412に配置される開口部の対414および416は、一実施形態において、管412の垂直部分にある開口部の対414、416よりも小さい。言い換えると、開口部の大きさおよび位置は、特定の実施のためにカートリッジベース部材402への望ましい流れを作り出すように調整されるべきである。図4A、4Bおよび4Cは、1つの実施形態に関するものであり、移動型の実施形態が変形例を含んでいてもよいことが理解される。
【0030】
非限定的な例として、図4A、4Bおよび4Cの管412のように、水の移動のために使用される水輸送管は、カートリッジベース部材402および/または加水分解機404の内側に配置されていてもよい。さらに、図4A、4Bおよび4Cの配置は、完全に、または少なくとも部分的に水の流れを与えるために重力の使用を含む。しかし、図2および3に記載されるようなポンプ、弁、制御部の実装によって、水の流れが与えられてもよく、および/または制御されてもよく、移動型の実施形態の一部として一体化される。
【0031】
図4Aおよび4Bにおいて、水素燃料出口418が示されることを注記しておく。これにより、発生した水素ガスが、水素燃料系の発生機または図2および3と関連して既に記載したような他のデバイスを通過する。上の記載および図面は、特定の位置にある水の入口および燃料の出口を示しているが、これらの入口および出口は、特定の位置に配置されており、特に、特定の実施に最も適した数で配置されていることが理解され、上述のことは、いかなる様式にも限定することを意図していない。
【0032】
図5Aに最初に注目すると、水平方向の水素製造システム500は、カートリッジベース部材502を備えるように構成され、カートリッジベース部材502は、加水分解機504との関係で使い捨てであってもよく、使い捨てでなくてもよい。水貯蔵部または供給部506は、カートリッジベース部材502に対し、使い捨ての関係で、または使い捨てではない関係で接続された状態で示される。一体化されたポンプ508および制御部510も含まれる。水貯蔵部または供給部506からの水が、水輸送管512に圧送される。この実施形態で並べられるように、管512は、カートリッジベース部材の開口部516と合う開口部514を有する(上の図4Cと関連して記載したものと同様の様式で)。水は、管512を通って圧送され、上の実施形態に記載されるように、水が、加水分解可能なヒドリドゲル518(切断された状態で)との反応を開始するように、カートリッジベース部材502の内側に分散する。水素ガスが加水分解機504で作られ、出口520を介して適切な様式で出て行く。管512への流れを制御するために、弁522が与えられる。
【0033】
この水平方向の構造は、固定型および移動型または携帯型の機械に接続するのに有用である。しかし、その設計が低いプロフィールを与えるため、携帯型の機械(例えば、ドローンまたは他の移動車両)にとって特に有用性がある。
【0034】
図5Bに移り、水平方向の水素燃料発生システム550の代替的な実施形態が示される。この実施形態において、同様の構造の水平方向のプロフィールを有するカートリッジベース部材552および加水分解機554が存在する。しかし、この実施形態において、水貯蔵部または供給部556は、カートリッジベース部材552および加水分解機554の上に配置される。これにより、重力によって水の移動に影響が及ぼされる。しかし、これに代えて、水の移動を補助するために、ポンプ558および制御部560が与えられてもよいことも示される。上述の図と同様に、水輸送管562は、水貯蔵部または供給部556に接続する。この管は、カートリッジベース部材552の開口部566に対応する開口部564を有する。水がカートリッジベース部材552へと移動するにつれて、加水分解可能なヒドリドゲル568との反応が起こる。水素燃料出口570は、加水分解機554で発生した水素燃料の流れを、移動型のシステムの外側に移動する。管562への水の流れを制御する弁572を備えるシステム550も示される。水の流れを制御するために、このような弁の配置が図5Aに含まれていてもよく、開口部514、516および564、566と共にさらなる弁が与えられてもよいことも理解すべきである。
【0035】
さらに、以前の実施形態と共に記載されるように、上述の実施形態を種々の様式で改変してもよく、本発明の意図の範囲内に留まることを注記しておく。非限定的な例において、管512、562が、システムのカートリッジベース部材502、552の内部に実装される。
【0036】
図6に移り、本出願の教示にかかる水素発生システム600の別の実施形態が示される。ここで、このシステムも、図5Aおよび5Bと関連して記載されるような水平方向のプロフィールで示される。しかし、実質的にまっすぐである代わりに、この実施形態は、本発明のシステムを、デバイスの周囲を包むように、またはヒトを包むように(すなわち、ベルト構造の形態で)、外形に沿った形状で開発してもよいことを示す。従って、この実施形態において、カートリッジベース部材602および加水分解機604は、円弧形態で示され、例えば、水貯蔵部または供給部606が、カートリッジベース部材602に接続し、特定の実施形態において、ポンプ608および制御部610が場合により提供される。水貯蔵部または供給部606からの水は、水輸送管612(カートリッジベース部材602の内側に作られる)を介し、カートリッジベース部材602に移動する。上の実施形態で同様に記載されるように、輸送管は、開口部614を備える(しかし、管612が内部にあるため、カートリッジベース部材602の開口部と合うことは必要ではない)。水がカートリッジベース部材602の内側に入るにつれて、加水分解可能なヒドリドゲル618と相互作用する。これらの反応によって、加水分解機604で水素ガスが生成する。発生した水素ガスは、出口620を介して出て行ってもよい。上述の実施形態と共に述べたように、当業者の技術に従って、この特定の実施形態に対する変形が行われてもよい。
【0037】
上に示すシステムによれば、一般的に示されるのは、加水分解ユニットに接続する軽量の使い捨てまたは使い捨てではないカートリッジに含まれる加水分解可能なヒドリドゲルである。水と接触すると、加水分解可能なヒドリドゲルが反応し、水素ガスを発生し、次いで、この水素ガスが、水素系のエネルギー発生機(例えば、燃料セルまたは内燃機関)に供給され、電力が発生する。図に記載される特定の成分は、加水分解可能なヒドリドゲルカートリッジ中に保持される加水分解可能なヒドリド材料(粒子および平板など)で構成される加水分解可能なヒドリドゲルと、加水分解ユニットおよびこのユニットのための付随する制御部と、発生する水素ガスを消費する水素系のエネルギー発生機とを含む。
【0038】
少なくとも図1Bと関連して記載されるように、図3、4A、4B、4C、5A、5Bおよび6のそれぞれの実施形態およびこれらの実施形態の変形例が、再利用するフィードバックおよび冷却ループを実装することも理解すべきである。
【0039】
(a)加水分解可能なヒドリドゲル
加水分解可能なヒドリドゲルは、懸濁物マトリックス(例えば、限定されないが、ポリマーマトリックス)に分散した加水分解可能なヒドリド粒子からなる。
【0040】
本明細書で使用される場合、「粒子」は、限定されないが、粉末、平板などを含め、加水分解可能なヒドリド材料が見いだされ得る任意の形態を含むことが理解される。
【0041】
(a.1.)金属ヒドリド
特定の種類の加水分解可能なヒドリドとして、金属ヒドリドが含まれる。水と反応するとき、金属ヒドリドの水素発生能力は際だっている。水素ガスの半分が金属ヒドリドから生じ、一方、他の半分は、ヒドリドと反応する水から得られる。例えば、1kgの水素化ホウ素リチウム(LiBH)は、0.37kgの水素を生成し、この値は、同じ体積の高圧水素タンクを用いて可能な密度よりも約15倍高い。他のヒドリド候補物質としては、限定されないが、水素化カルシウム(CaH)、水素化ナトリウム(NaH)および水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)が挙げられ、その特徴は、図7の表700に示され、圧縮された水素ガスと比較して、種々の金属ヒドリドの水素ガス発生効率を示す。さらに一般的に、加水分解可能なヒドリドは、標準的または従来の金属ヒドリドまたは金属水素化ホウ素物を含むことも理解されるだろう。ある種の特定の適切な従来の金属ヒドリドとしては、水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム、水素化ベリリウム、水素化マグネシウム、水素化カルシウム、水素化リチウムアルミニウム、水素化ナトリウムアルミニウムが挙げられる。
【0042】
特定の金属水素化ホウ素物としては、水素化ホウ素リチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、水素化ホウ素マグネシウム、水素化ホウ素ベリリウム、水素化ホウ素カルシウム、水素化ホウ素アルミニウム、水素化ホウ素チタン、水素化ホウ素亜鉛、水素化ホウ素マンガン、水素化ホウ素アンモニウム、水素化ホウ素リチウムアンモニウム塩、水素化ホウ素リチウム二アンモニウム塩、水素化ホウ素マグネシウム二アンモニウム塩、水素化ホウ素マグネシウム六アンモニウム塩が挙げられる。
【0043】
本出願の反応によって作られる水素の流れを制御するための特定のパラメータは、加水分解可能なヒドリドの粒径および形状である。粒径および形状の変化によって、ヒドリドの正の表面積と体積の比率を調整することができ、従って、粒子の反応性を調整することができる。水と反応したら、粒子表面は、不溶性反応生成物によってゆっくりと不動態化される。加水分解可能なヒドリドを覆うこの層が十分に厚い場合、粒子コアへのさらなる水の接近を遮断することによって、反応を遅らせるか、または悪化させるか、または完全に止めると予想される。しかし、特定の実施のために適切に粒子を成形し、大きさを変えることによって、加水分解可能なヒドリド粒子が不動態化される前に、加水分解可能なヒドリド燃料を完全に消費することができる。複数のパラメータを使用し、粒径および保護コーティングの構造を用い、反応速度を制御してもよい。限定されないが、特定の実施形態において、加水分解可能なヒドリド粒子の形状は、ほぼ球形であってもよく、いくらか長細く、線状であってもよく、多段階の表面を有していてもよく、有していなくてもよい。特定の実施形態において、粒径に対する表面積の比率は、加水分解可能なヒドリドが可能な限り多く反応するように、可能な限り大きい。特定の実施形態について、粒子の粒径は、その主要な軸に沿って、以下の範囲から選択されてもよい。10ナノメートル〜5ミリメートル、または100ミクロン〜3mm、または150ミクロン〜2ミリメートル。さらに特定の実施形態において、限定されないが、ゲルカートリッジの中の進行しつつある水から、反応する粒子を分離する、ゲル内の加水分解可能なヒドリドを覆う保護層(例えば、ポリマー)の厚みは、以下の範囲であってもよい。1ナノメートル〜10ミクロン、10ナノメートル〜1マイクロメートル、50nm〜1マイクロメートル。ゲル構造の中の隣接する加水分解可能なヒドリド粒子が、互いに接触するとき、好ましいコーティングの厚みは、外側の粒子の上にある層の厚みを指す。これに加え、保護コーティングの厚みの組成および空隙率は、反応率を制御するために変えてもよい。粒子は、粒径および形状において単分散の分布を有していてもよい。または、粒子は、粒径および形状において多峰性の分布を有していてもよく、または非常に広い分布を有していてもよい。
【0044】
(a.2.)ポリマー材料
限定されないが、金属ヒドリドおよび金属水素化ホウ素物を含め、特定の種類の加水分解可能なヒドリドに水を直接加えることは、水との激しい反応性のため、爆発および発火の可能性が高いため、安全ではないだろう。本出願のポリマー材料の導入は、反応を調整し、安定かつ制御された水素ガスの流れを作り出し、安全な取り扱いを可能にする。
【0045】
徐々に膨潤していくゲルに水が浸透するにつれて、水素ガスを発生しつつ、特定の加水分解可能なヒドリド粒子が反応し、消費される。析出する反応生成物(例えば、限定されないが、金属水酸化物および金属メタホウ酸塩)は、初期の加水分解可能なヒドリド粒子と置き換わる粒子として、実際に、ゲル構造内の所定の位置に留まる。従って、ポリマーゲルは、粒子が、未反応の加水分解可能なヒドリド粒子を水が通過するのをさらに妨げ得る上部の不溶性不浸透性の層として沈殿するのを防ぐ。ポリマーゲルマトリックスコンポジットの膨潤によって、さらなる水分子が、カートリッジの深さ方向に次の粒子に接近しやすくなる。比較のために、液体の水素化ホウ素ナトリウム系において、その析出するナトリウムメタホウ酸塩反応生成物が蓄積し、溶液が反応場所にさらに接近するのを妨げ、水素の流れをゆっくりにする効果を有する。従って、加水分解可能なヒドリドゲル材料は、水が接近する制御材料であり、複数の加水分解可能なヒドリド粒子への接近を制御する。
【0046】
ポリマー材料のための特定の配合要求は、選択される加水分解可能なヒドリドの存在下、反応性をもたないことを必要とすることである。従って、高度に反応性のプロトン基(例えば、アルコール(−OH)または酸(−COOHまたは−SOH))を組み込んだポリマー材料は、水と同じ様式で加水分解可能なヒドリド(例えば、限定されないが、金属ヒドリドおよび金属水素化ホウ素物)と強く反応するため、除外される。
【0047】
加水分解速度を制御するための本出願の手法は、一実施形態において、両親媒性(親水性−疎水性)コポリマーを含む配合物を使用することである。疎水性材料の内容物の使用が多いほど、加水分解可能なヒドリド粒子への水の接近が制限される。従って、疎水性材料の内容物を使用し、発生する水素の流れを制御する。特定の実施のための性能は、親水性ポリマーと疎水性ポリマーの網目構造の鎖を調整することによって、最適の安定性および出力を達成するために細かく調整される。言い換えると、疎水性親水性材料の使用によって、水と、加水分解可能な水和物粒子とを制御された(例えば、時間制御された)様式で相互作用させ、長時間、水素反応を継続させる。親水性成分は、特定の実施形態において、限定されないが、水混和性の材料群、例えば、ポリエーテル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルピロリドン、ある種のポリウレタンなどから選択することができる。疎水性成分は、限定されないが、水と不混和性の炭化水素内容物を多く組み込んだ材料群から選択することができる。適切な疎水性成分としては、ポリエチレン、ポリアクリル酸アルキル、ポリメタクリル酸アルキル、芳香族置換されたポリマー、例えば、スチレンおよび置換スチレン基などが挙げられる。
【0048】
ポリマーの種類および方法
これに限定されないが、ポリマー材料を提供することが可能ないくつかの形態を以下に記載する。第1に、ゲル材料は、両親媒性コポリマー、すなわち、2種類以上の異なる繰り返し構造単位からなり、この単位が、親水性材料と疎水性材料の混合物であるポリマーであってもよい。この場合に、このようなあらかじめ製造したコポリマーを、適切な溶媒に溶液として加える。溶媒を蒸発させ、固体のゲル材料を得る。多くの両親媒性コポリマーが市販されている。上に開示される設計規則に基づき、コロイド化学に使用される固体状態の材料である界面活性剤および分散剤のほとんどが、種々の含有量の親水性/疎水性成分を含有するため、ゲル製造に使用することもできる。適切な両親媒性ポリマー、例えば、ポリエチレン−ブロック−ポリ(エチレングリコール)およびポリ(エチレングリコール)−ブロック−ポリ(ε−カプロラクトン)メチルエーテルが市販されている。親水性ポリマー成分と疎水性ポリマー成分の種類および長さを調整し、親水性/疎水性内容物を変え、粒子−ポリマー界面に影響を与え、従って、水中のゲルの膨潤挙動を制御することによって、特定的に選択される加水分解可能なヒドリドの反応性を制御することができる。
【0049】
第2に、異なるポリマー前駆体(親水性および疎水性)、すなわち、後で加水分解可能なヒドリドゲルと共に硬化させ、重合させてコンポジット材料を調製するモノマーを混合することによって、ポリマー材料を製造することができる。開始剤を添加することによって重合を行うことができ、開始剤は、特に、例えば、熱開始剤、例えば、過酸化ベンゾイルおよびAIBNであってもよく、または光開始剤、例えば、BASF/CIBAから入手可能なIrgacureシリーズであってもよい。モノマーは、広範囲の材料から選択されてもよい。図8の絵800によって示されるモノマー混合物の重合によって、例えば、適切な両親媒性コポリマーを生成する。モノマーは、単官能または多官能(1個より多い重合可能な基を含む)であってもよい。モノマーは、図8に示されるもののように、純粋に疎水性または親水性であってもよく、または両親媒性(親水性/疎水性基を両方とも含む)であってもよい。最終的な結果は、両親媒性の固体ポリマーコンポジット材料である。
【0050】
適切な親水性モノマーとしては、限定されないが、ポリエチレングリコールジアクリレート、N,N−ジメチルアクリルアミド、1−ビニル−2−ピロリドン、高度にエトキシル化されたビスフェノールAジアクリレートが挙げられる。適切な疎水性モノマーとしては、限定されないが、ポリウレタン、炭化水素、ポリエーテルおよびポリエステルの多官能アクリレート、例えば、モノ−、ジ−、トリ−、テトラ−、ペンタ−またはヘキサ−アクリレートが挙げられる。多くの単官能モノマーおよび多官能モノマーは、例えば、Sartomer−Arkema Groupから市販される。
【0051】
一実施形態において、ポリマー材料は、水中で膨潤するような様式で選択される。水が入り込むポリマー材料の部分(「ポリマーのこのセグメントは溶解する」)が存在するが、不溶性の別のセグメントも存在する。全体として、この系は膨潤するが、真の意味では溶解しない。これは、水素の流れの生成を制御するのに有用な独特の特徴である。特に、すべてのポリマーが溶解する場合、すべての不溶性の加水分解可能なヒドリド加水分解生成物が沈降し、未反応の加水分解可能なヒドリド粒子への水のさらなる接近を遮断し、反応をゆっくりにし、これは望ましい結果ではない。
【0052】
ゲルの調製
これに限定されないが、ゲルの調製手法は、あらかじめ作られた型に複数の加水分解可能なヒドリド粒子を入れることを含む。ポリマー材料、例えば、ポリマー前駆体または液体(必要な両親媒性の配合物を含み、加水分解可能なヒドリドゲルを調整する)を型に吹き込む。次いで、加水分解可能なヒドリド粒子とポリマー材料を混合し、ある実施形態において、粒子間のギャップを埋める。一般的な攪拌装置(例えば、オーバーヘッドスターラー)および当業者が知っていると思われる他の攪拌装置を用い、混合を行う。その後、硬化操作を行い、ポリマー材料を硬化させ、固体のポリマーコンポジット材料を製造する。加熱によって、または硬化光を照射することによって、多くの既知のデバイスおよび方法によって硬化を行ってもよい。上の記載において、吹き込む工程と、入れる工程は少なくとも逆にしてもよい。
【0053】
別の手法において、加水分解可能なヒドリド粒子を型の中の特定の位置に入れ、維持し(当業者に知られているように)、その後、(必要な両親媒性配合物を含む)液体ポリマーまたはポリマー前駆体を、粒子を覆うのに十分な量になるまで注入する。この場合に、加水分解可能な粒子が型の中の元々の位置から移動する混合は行われない。また、液体ポリマーまたはポリマー前駆体は、ポリマーの親水性成分および疎水性成分の少なくとも一部の位置が、加水分解可能なヒドリド粒子の少なくとも一部に対して所定の位置にあるような制御された様式で型に注入される。このプロセスによって、加水分解可能なヒドリドゲルをさらに調整する(図13を参照)。硬化によって、使用する準備ができた最終的な固体状態のゲルが得られる。
【0054】
(c)加水分解ユニットおよびカートリッジ
加水分解機は、水素の製造が起こる場所である。図9に示される加水分解ユニット210とカートリッジベース部材206の組み合わせ900は、加水分解ユニットの概念的な実施形態を表す。しかし、望ましい結果を達成するために、多くの異なる設計を使用してもよいことを理解すべきである。加水分解ユニット210は、使い捨てのカートリッジ(または単一の加水分解機−カートリッジの組み合わせとして構成される)206に接続し、水を加え、水素系のエネルギー発生機への気体の流れを制御し、気体の流れの経路を定め、反応によって発生する熱を管理するために、単純なでこぼこした安全なデザインを含む。燃料セルと共に使用されるとき、1つの設計選択肢は、図3に示されるように、加水分解ユニット210に反応剤が供給されるにつれて、燃料セルによって生成した水蒸気を再利用することを含む。この解決策によって、エネルギー密度が増加する。
【0055】
図9のスナップ接続部を有する加水分解機のゲルカートリッジの組み合わせ900を有する模式的な構造の加水分解ユニットは、図2の加水分解可能なヒドリドゲル208を含むカートリッジベース部材のさらに詳細な図を含む。
【0056】
図9を引き続き参照すると、画像の切断のため、図2の第2の投入口は示されていないことを注記しておく。図9に示されるように、加水分解可能なヒドリドゲル208は、既に記載したカートリッジベース部材206の中に配置される。図9において、水902は、加水分解機210の水部分904の中にある加水分解可能なヒドリドゲル208の上部に配置されるか、または与えられることが示されているが、これは単なる1つの選択肢であり、代替的な実施形態において、加水分解機の底部および側面を含む他の位置に水が与えられ、複数の接近点によって与えられてもよいことが理解されるべきである。この水領域904は、加水分解機210への水の供給を制御するシステムの水貯蔵部とは別個の概念であることも理解すべきである。
【0057】
水と、加水分解可能なヒドリドゲルとの相互作用に起因して反応が起こるため、水素ガス(泡として示される)906は、加水分解機210の上側部分に向かって移動し、次いで、既に記載したように、出口216から外に移動する。図9の絵も、入口212(214は図示せず)および出口216に関連する任意の態様を示していることを理解すべきである。例えば、加水分解機210の上側部分に浸透する水素ガスが、入口212(214)から出ないように止める監視弁の配置910が、入口と共に含まれていてもよい。例えば、これは、一方向の監視弁908または他の逆流制御器であってもよい。出口216の場合と同様に、弁910は、発生する水素ガスおよび水素エネルギー発生機の必要性に依存して開閉するように操作してもよい。弁は、オン−オフ弁、または出て行く水素ガスの量を制限するために特定の割合まで開放する弁であってもよい。これらの弁は、特定の実施形態において、手動で制御されるか、または、当該技術分野で十分に理解されるように、制御部224、226のような自動化された制御部によって制御される。
【0058】
上述のように、図9に示される加水分解機と加水分解可能なヒドリドゲルカートリッジベース部材の組み合わせ900は、本明細書に記載される制御された水素を発生するシステムの単純な1つの構造である。他の設計を使用してもよいことが理解される。
【0059】
特定の場合に、図10に注目し、示されるカートリッジベース部材1000は、カートリッジベース部材の壁に経路1002、1004、1006を有するように設計される。ゲルがカートリッジベース部材の側壁に密に接しているため、水が、実質的にその上側表面で単に加水分解可能なヒドリドゲルと接触する図9に示される実施形態とは対照的に、これらの経路は、生成する加水分解可能なヒドリドゲル構造の間に空間を与え、生成したゲルの側面に沿って加水分解可能なヒドリドゲルに水が接近する。
【0060】
一方、図10のカートリッジベース部材1000において、接続した加水分解機(例えば、210)に水が導入されると、水は、(カートリッジベース部材1000の内側にある)経路1002、1004、1006に入る。この経路は、特定の実施形態において、添加される水の量を考慮して大きさが定められ、その結果、水は、最初は、少なくとも部分的に水を用いて経路を満たす。この構造および操作によって、ゲル材料(例えば、208)の側面および底部に接近する。
【0061】
この観点で代替的な概念は、図11の加水分解可能なヒドリドゲル材料1100によって示され、型1108を使用することによってゲル材料が作られ、ゲル自体が経路1102、1104、1106を有するゲルが得られる。この実施形態において、この場合も、水が、加水分解機、すなわち、カートリッジベース部材の組み合わせ(型に入ったゲル1100を含むカートリッジベース部材と、平坦な壁を有する、例えば、ベース部材202などのベース部材との)に導入されると、水は、単に上部表面ではなく、ゲル配合物の複数の部分または領域に接近するだろう。特定の実施形態において、ゲルの型1100が、カートリッジベース部材1000の内側に配置されてもよいことを理解すべきである。さらに、上述のものは、ある具体的な型に入ったゲル1100を示し、代替的な型の形態も実施することができる。
【0062】
図12に移り、孔1202、1204を含むように構築されたゲル配合物1200の一部が示されている(ここに黒色の塗りつぶした点として示されているすべての孔は、観察および理解を容易にするために番号付けされていない)。孔の粒径、深さおよび位置を制御することで、加水分解反応の速度を制御する際の設計の自由度を与える。一実施形態において、孔1202は、実際に、水が、(粒径に依存して)加水分解可能なヒドリド粒子(例えば、1206、1208)に迅速に接近するような経路として設計されてもよい(観察および理解を明確にするために、すべての加水分解可能なヒドリド粒子に番号は付けられていない)。従って、作られる孔または経路の大きさに依存して、加水分解可能なヒドリド粒子に水が接近する速度を制御することができ、小さな経路または孔は、プロセスを遅らせ、大きな経路または孔は、プロセスの速度を上げることが理解される。
【0063】
図13に移ると、成型プロセスを使用することによって作られた、加水分解可能なヒドリドゲル1300の一部が示されている。理解のために、要素1302A、1302B、1302Cは、整列した加水分解可能なヒドリド粒子であり、コーティングされていてもよく、またはコーティングされていなくてもよい(コーティングについては、以下の図14と関連する記載を参照)。いずれかの場合において、これらの粒子は、型の中の特定の位置に配置され、その後、型は、空隙または経路1304、1306、1308を生成する構造を含む。これらの経路は、もっと疎水性が高い材料で構成される1310および1312のような経路ではない領域とは対照的に、非常に親水性の高い材料で満たされる。
【0064】
この種の構造によって、水と、加水分解可能なヒドリド粒子との間の相互作用を調整し、タイミングをはかることができる。一例において、経路1304は、経路1306が最も近い粒子1302Bに対するよりも粒子1302Aにさらに近いことを注記しておく。この理解において、経路1304に近い粒子の反応は、経路1306に近い粒子1302Bの反応が起こる前に起こるだろう。さらに、経路1308は、水と、加水分解可能なヒドリド材料との間の反応が起こる時間を細かく調整するための経路の代替的な構造が可能であることを単に強調するために、別個の配置として示されている。
【0065】
加水分解反応が起こると、顕著な熱が発生することも理解すべきである。上述のように、水は、燃料セルの操作に使用される場合、さらなる反応のために再生され、再利用されてもよい。例えば、水は、水素の連続した変換のための連続的な操作のために再生される。これを元々使用されていた同じカートリッジに使用してもよく、または、元々のカートリッジを使い切ったとき、新しいカートリッジを所定場所に移動したときに、この水を反応に使用し、連続的な再利用操作が得られる。
【0066】
燃料セルから得られる水の代替的な使用において、この水は、冷却目的のために加水分解機に戻るように供給される。図1Bに示されるように、水は、加水分解機の外側にある経路に移動し、水冷却ジャケットまたは熱交換器を与え、水素製造反応によって発生する熱を減らしてもよい。
【0067】
水蒸気分離膜
完全に一体化されたシステムは、水分離膜を組み込み(図1Bおよび3を参照)、水素製造反応によって発生する熱によって生じ得る水蒸気が水素貯蔵ユニットに入り込むのを防ぐ。水素供給中の過剰な湿度は、燃料セルの性能を下げるだろう。適切な蒸気相脱水膜は、水蒸気を気体の流れから選択的に分離することができる中空の繊維膜からなる。PEEK−SEP(商標)膜は、PoroGen(ウーバン、MA)から市販されている。
【0068】
ほんのわずかな量の水を一度に使用することも注記しておく。従って、例えば、元々の操作で1リットルの水が使用される場合、この1リットルは、水素燃料セルから出て再生されるだろう。次いで、この1リットルが、さらなる加水分解操作のため、または冷却操作のために、加水分解機に戻り、これは実質的に同じリットル数の水である。従って、元々使用した水の90%より多く、さらに具体的には、95%より多くが、加水分解機に再び供給されてもよい。次いで、いずれかの状況について、必要な場合に実質的に連続的に供給する水の再循環が存在する。
【実施例】
【0069】
実施例1
平板形状のポリマーコンポジット材料を以下のように調製した。4gのSR 9038液体モノマー(Sartomer製の高度にエトキシル化されたビスフェノールAジアクリレート)を、1gの水素化カルシウム粉末および0.2gの光開始剤(PL−WHT)と室温で5分間混合した。標準的なドクターブレード手順を用い、コーティングを製造した。UV光を3分間照射することによって、コーティングされた膜を硬化させた。図14を見ると、絵1400は、水素のゆっくりとした放出を示すために、水中に入れられた平板形状のポリマー/水素化カルシウムコンポジット材料を示す。図14に示されるように、この材料は、安全に取り扱われ、水中に入れられると、水素のゆっくりとした流れを生成する。
【0070】
実施例2
0.5gの水素化カルシウム粉末をガラスバイアルに入れた。別個の容器中、10gのアクリレートモノマー(Sartomer製のSR 9003B)および200mgの過酸化ベンゾイル(Sigma Aldrich製の熱ラジカル重合開始剤)を混合し、超音波処理することによって、硬化可能なプレポリマー混合物を調製した。水素化カルシウム粒子を吹き込んだ後に完全に覆うように、この液体混合物0.70gを第1のバイアルに加えた。このバイアルを減圧下、80℃に加熱し、硬化させる。最終的な生成物は、固体ポリマー/水素化カルシウムゲルコンポジットペレットである。この材料の少量を切り出し、水に入れる。このゲルは、15秒間、制御されたゆっくりとした速度で水素の泡を生成した。比較のために、同じ量の純粋な水素化カルシウム粉末を水に入れると、全量の水素がすぐに発生する(加水分解の完了まで1〜2秒)。
【0071】
上述のシステムおよび方法は、多くの状況、例えば、軽量であることが有用な状況、例えば、UAV(ドローン)の電力のための電力溶液を与える。小荷物の配達、防災用品の輸送、土壌の品質、灌漑効率または植物の成長を監視するための農業用センサ、交通制御、または同様の用途のような用途のために、商業的なドローンが開発されている。他の用途としては、バックアップ発電機のための電力、軍事用電力、遠征用電力およびロボットシステムのための電力が挙げられる。特に、完全に一体化されたシステムは、今日使用されるLiイオン電源と比較すると、ドローンの飛行のために他に例をみない性能の利益を有するだろう。ドローン運搬用途のために、Liイオン電池の代わりに提案された加水分解可能なヒドリドゲルシステムを使用すると、ドローンの有効加重を4倍、飛行範囲を約2倍増加させることができ、これは、エネルギー節約が可能なドローンの重量減少によって達成される。
【0072】
上述のシステムの態様は、以下を含む。(i)Liイオン電池、水または熱によって加水分解可能なヒドリドと比べて、比(質量)エネルギー密度が高い体積密度の利点を有し、(ii)圧縮された水素よりも高い体積密度、(iii)ガソリンまたは水素と比較したとき、火および爆発に安全であり、(iv)軽量であることが重要な用途のための理想的な電源であり、(v)音響シグネチャが低い。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14