(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845633
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月17日
(54)【発明の名称】グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 169/00 20060101AFI20210308BHJP
C10M 101/02 20060101ALN20210308BHJP
C10M 115/08 20060101ALN20210308BHJP
C10M 133/12 20060101ALN20210308BHJP
C10M 133/40 20060101ALN20210308BHJP
C10N 10/04 20060101ALN20210308BHJP
C10N 20/02 20060101ALN20210308BHJP
C10N 40/02 20060101ALN20210308BHJP
C10N 50/10 20060101ALN20210308BHJP
【FI】
C10M169/00
!C10M101/02
!C10M115/08
!C10M133/12
!C10M133/40
C10N10:04
C10N20:02
C10N40:02
C10N50:10
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-153750(P2016-153750)
(22)【出願日】2016年8月4日
(65)【公開番号】特開2018-21140(P2018-21140A)
(43)【公開日】2018年2月8日
【審査請求日】2019年5月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000162423
【氏名又は名称】協同油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100123766
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 七重
(72)【発明者】
【氏名】廣岡 岩樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 雄太
(72)【発明者】
【氏名】飯島 昌俊
【審査官】
宮地 慧
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許第103242942(CN,B)
【文献】
国際公開第2012/124815(WO,A1)
【文献】
特表2002−531632(JP,A)
【文献】
特開2012−087221(JP,A)
【文献】
特開2010−084142(JP,A)
【文献】
特開2017−036385(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M
C10N
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)
高精製鉱油を含む基油、
(b)ウレア系化合物からなる増ちょう剤、
(c)組成物の全質量を基準として、0.5〜5質量%のアミン系酸化防止剤、
(d)組成物の全質量を基準として、0.5〜5質量%のキノリン系酸化防止剤
、及び
(
e)グリース組成物の全質量を基準として、0.5〜10質量%の亜鉛系防錆剤、
を含有する、
モーターの回転子を支持するモーター用転がり軸受に使用するための、グリース組成物
であって、
前記(b)ウレア系化合物からなる増ちょう剤が、下記式(1)で表されるジウレア化合物である前記グリース組成物。
【化1】
(
式中、R2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基であり、R1及びR3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数6〜30の飽和又は不飽和アルキル基、又はシクロヘキシル基である。)
【請求項2】
前記(a)基油の40℃における動粘度が50〜150mm2/sである請求項1記載のグリース組成物。
【請求項3】
前記(c)アミン系酸化防止剤が、フェニルαナフチルアミン、アルキルフェニルαナフチルアミン、及びアルキルジフェニルアミンよりなる群から選択される少なくとも1種のアミン系酸化防止剤である請求項1又は2記載のグリース組成物。
【請求項4】
前記(d)キノリン系酸化防止剤が、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、2−メチル−2,4−ジエチル−1,2−ジヒドロキノリン、2,2,4,6−テトラメチル−1,2−ジヒドロキノリン、2,2,4,7−テトラメチル−1,2−ジヒドロキノリン及び6,6’−ビス(2,2,4−トリメチル-1,2−ジヒドロキノリン)及びそれらの誘導体又はそれらの高分子化物よりなる群から選択される少なくとも1種のキノリン系酸化防止剤である請求項1〜3のいずれか1項記載のグリース組成物。
【請求項5】
前記(c)アミン系酸化防止剤と前記(d)キノリン系酸化防止剤との質量比が、1:3〜3:1である請求項1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各産業で使用される電気機器や機械部品に用いられるモーター回転子を支える転がり軸受に好適に使用出来るグリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種産業機械で使用されるモーターは、寒冷地から自動車のエンジンルーム内のような高温雰囲気まで様々な環境で運転される為、モーターに使用される軸受には、広温度範囲でかつ長期間メンテナンスフリーで使用可能であることが求められ、耐久性に関する要求は高まる一方である。
機械部品等の潤滑剤として使用されるグリース組成物は、一般的に、増ちょう剤、基油及び添加剤の三つから構成されている。
高温で長寿命のグリースを得る手段としては、グリースの耐酸化性を向上させる必要がある。例えば、増ちょう剤にウレア化合物を、添加剤に特定量の過塩基性金属スルホネートを用いたグリースが、高温で使用される転がり軸受に使用し得るグリースとして提案されている(特許文献1)。高温・高速等の厳しい条件における焼付き寿命延長の為、増ちょう剤に脂環式脂肪族ジウレア化合物を、基油に高性能合成油であるペンタエリスリトールエステル油を用いたグリースもまた提案されている(特許文献2)。
近年の機械部品の高温・高速化により、転がり軸受の長寿命の要求は従来よりも更に高まっており、更には汎用的に使えるよう、基油の耐酸化性(種類)によらず、幅広い温度領域で性能を維持できることも求められている。
特許文献3では、酸化防止剤としてアミン系:N−フェニル−1−ナフチルアミンとキノリン系:ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)を用いた生分解性グリース組成物が提案されているが、あくまで生分解性を付与することに着目しており、軸受の耐久性能の指標である軸受潤滑寿命の評価は100℃環境下で実施している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−77320号公報
【特許文献2】特開2012−197401号公報
【特許文献3】特開平11−222597号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従って本発明の目的は、高温かつ高速環境下での耐久性に優れ、かつ低温性にも優れる、長寿命を有するグリース組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、下記のグリース組成物を提供する。
1.(a)基油、
(b)ウレア系化合物からなる増ちょう剤、
(c)組成物の全質量を基準として、0.5〜5質量%のアミン系酸化防止剤、及び
(d)組成物の全質量を基準として、0.5〜5質量%のキノリン系酸化防止剤
を含有する、グリース組成物。
2.前記(b)ウレア系化合物からなる増ちょう剤が、下記式(1)で表されるジウレア化合物である前記1項記載のグリース組成物。
【0006】
【化1】
【0007】
(式中、R
2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基であり、R
1及びR
3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数6〜30の飽和又は不飽和アルキル基、炭素数6又は7のアリール基、又はシクロヘキシル基である。)
3.前記(a)基油が鉱油及び炭化水素系合成油からなる群から選ばれる少なくとも一種を含む、前記1又は2項記載のグリース組成物。
4.前記(a)基油が高精製鉱油を含む、前記1又は2記載のグリース組成物。
5.前記(a)基油の40℃における動粘度が50〜150mm
2/sである前記1〜4のいずれか1項記載のグリース組成物。
6.前記(c)アミン系酸化防止剤が、フェニルαナフチルアミン、アルキルフェニルαナフチルアミン、及びアルキルジフェニルアミンよりなる群から選択される少なくとも1種のアミン系酸化防止剤である前記1〜5のいずれか1項記載のグリース組成物。
7.前記(d)キノリン系酸化防止剤が、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、2−メチル−2,4−ジエチル−1,2−ジヒドロキノリン、2,2,4,6−テトラメチル−1,2−ジヒドロキノリン、2,2,4,7−テトラメチル−1,2−ジヒドロキノリン及び6,6’−ビス(2,2,4−トリメチル-1,2−ジヒドロキノリン)及びそれらの誘導体又はそれらの高分子化物よりなる群から選択される少なくとも1種のキノリン系酸化防止剤である前記1〜6のいずれか1項記載のグリース組成物。
8.前記(c)アミン系酸化防止剤と前記(d)キノリン系酸化防止剤との質量比が、1:3〜3:1である前記1〜7のいずれか1項記載のグリース組成物。
9.さらに、(e)亜鉛系防錆剤を含み、該亜鉛系防錆剤の含有量が、グリース組成物の全質量を基準として、0.5〜10質量%である前記1〜8のいずれか1項記載のグリース組成物。
10.モーターの回転子を支持するモーター用転がり軸受に使用するための、前記1〜9のいずれか1項記載のグリース組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高温かつ高速環境下での耐久性に優れ、かつ低温性にも優れる、長寿命を有するグリース組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<基油>
本発明のグリース組成物に使用される基油は、特に限定されない。例えば、鉱油をはじめとする全ての基油が使用できる。基油が鉱油及び炭化水素系合成油からなる群から選ばれる少なくとも一種を含むのが好ましい。基油は、単独で用いてもよく、二種以上を併用してもよい。
鉱油としては、パラフィン系鉱油、ナフテン系鉱油、これらの混合物を使用することができる。高精製鉱油を含むことが好ましい。
高精製鉱油とは、脱ロウ処理によって低温時のワックス成分の析出を低減し、それによって、精製していない鉱油の流動点(−5℃〜−20℃位)よりも流動点を低くした鉱油をいう。流動点が−35℃以下の高精製鉱油を含むことにより、低温時の低トルク性に悪影響なく使用することができる。また耐蒸発性も問題なく使用することができる。なお、基油の流動点は、JIS K 2269に従って測定することができる。
高精製鉱油の含有割合は基油全量を100とした場合、5〜30質量%であることが好ましく、10〜20質量%であることがより好ましい。高精製鉱油をこのような割合で含むことにより、低温性に優れる。
【0010】
合成油としては、ジエステル、ポリオールエステルに代表されるエステル系合成油;ポリα オレフィン、ポリブテンに代表される合成炭化水素油;アルキルジフェニルエーテル、ポリプロピレングリコールに代表されるエーテル系合成油;シリコーン油、フッ素化油など各種合成油が使用できる。このうち、合成炭化水素油、エステル油、エーテル系合成油及びこれらの混合油が好ましい。合成炭化水素油、エステル油及びこれらの混合油がより好ましい。合成炭化水素油、及び合成炭化水素油とその他の油との混合油がさらにより好ましい。
本発明の基油としては、鉱油を単独で用いることがとりわけ好ましい。基油が高精製鉱油を含むのがより好ましい。
本発明における基油の動粘度は特に限定されない。必要に応じて基油動粘度を選定することができる。好ましくは40℃の基油動粘度で10〜200mm
2/s、より好ましくは50〜150mm
2/s、さらに好ましくは70〜100mm
2/sである。なお、基油の動粘度は、JIS K 2220 23.に従って測定することができる。
本発明のグリース組成物における基油の含有量は、70〜90質量%であるのが好ましく、80〜90質量%であるのがより好ましい。
【0011】
<増ちょう剤>
本発明のグリース組成物に使用される増ちょう剤は、ウレア系増ちょう剤である。ウレア系増ちょう剤の中では、下記式(1)で示されるジウレア化合物が好ましい。
【0013】
式中、R
2は炭素数6〜15の2価の芳香族炭化水素基であり、R
1及びR
3は、互いに同一でも異なっていてもよく、炭素数6〜30の飽和又は不飽和アルキル基、炭素数6又は7のアリール基、又はシクロヘキシル基である。
シクロヘキシルアミン及び脂肪族アミンと、ジイソシアネートとの反応生成物である脂環式脂肪族ジウレアがとりわけ好ましい。なかでも、R
1及びR
3のいずれかがシクロヘキシル基の場合、もう一方は炭素数12〜22の飽和アルキル基であるのが好ましく、炭素数16〜18の飽和アルキル基であるのがより好ましく、炭素数18の飽和アルキル基であるジウレア化合物を含むのがさらに好ましい。とりわけ、R
1及びR
3がシクロアルキルであるジウレア化合物と、R
1及びR
3が炭素数18の飽和アルキル基であるジウレア化合物と、R
1及びR
3の一方がシクロアルキルであり、他方が炭素数18の飽和アルキル基であるジウレア化合物との混合物が好ましい。脂環式脂肪族ジウレアにおけるシクロヘキシル基とアルキル基とのモル比は、10:90〜50:50であるのが好ましく、20:80〜40:60であるのがより好ましい。モル比がこのような範囲にあると、グリース中に含むことのできる基油の量をより多くでき、耐久性が良好となるので好ましい。
R
2としては、トリレンジイソシアネート又はジフェニルメタンジイソシアネート由来の基が好ましく、ジフェニルメタンジイソシアネート由来の基がより好ましく、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート由来の基がさらに好ましい。
【0014】
式(1)のジウレア化合物は、例えば、基油中で、所定のジイソシアネートと、所定のモノアミンとを反応させることにより得ることができる。ジイソシアネートの好ましい具体例は、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、トリレンジイソシアネートである。モノアミンとしては、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂環式アミン又はこれらの混合物が挙げられる。脂肪族アミンの具体例としては、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミン、トリデシルアミン、テトラデシルアミン、ペンタデシルアミン、ヘキサデシルアミン、ヘプタデシルアミン、オクタデシルアミン、ノニルデシルアミン、エイコデシルアミン及びオレイルアミン等が挙げられる。芳香族アミンの具体例としては、アニリン、p−トルイジン及びナフチルアミン等が挙げられる。脂環式アミンの具体例としては、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン等が挙げられる。
本発明のグリース組成物中の増ちょう剤の含有量は、増ちょう剤の種類により異なる。本発明のグリース組成物のちょう度は、200〜400が好適であり、より好ましくは200〜300、更に好ましくは240〜280である。増ちょう剤の含有量はこのちょう度を得ることができる量であるのが好ましい。本発明のグリース組成物中、増ちょう剤の含有量は、通常3〜30質量%、好ましくは5〜25質量%、更に好ましくは5〜15質量%である。
【0015】
<添加剤>
〔酸化防止剤〕
本発明に使用される酸化防止剤は、(c)アミン系酸化防止剤、(d)キノリン系酸化防止剤の少なくとも2種を必須成分として含有する。
(c)アミン系酸化防止剤と(d)キノリン系酸化防止剤との質量比は1:3〜3:1であるのが好ましい。
(c)アミン系酸化防止剤としては、フェニルαナフチルアミン、アルキルフェニルαナフチルアミン、アルキルジフェニルアミンであることが好ましく、アルキルジフェニルアミンであることがより好ましい。
【0016】
(d)キノリン系酸化防止剤としては、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン、2−メチル−2,4−ジエチル−1,2−ジヒドロキノリン、2,2,4,6−テトラメチル−1,2−ジヒドロキノリン、2,2,4,7−テトラメチル−1,2−ジヒドロキノリン及び6,6’−ビス(2,2,4−トリメチル-1,2−ジヒドロキノリン)及びそれらの誘導体又はそれらの高分子化物であることが好ましく、下記式(2)の構造を有する種々の化合物やその高分子化物があげられる。前記高分子化物は、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)〔JIS K6211「ゴム用老化防止剤」において規定された老化防止剤TMDQに相当するもの、比重1.08〜1.11、軟化点80〜110℃、灰分0.5%以下、加熱減量0.7%以下〕や、あるいは6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン〔上記JIS K6211「ゴム用老化防止剤」において規定された老化防止剤ETMDQに相当するもの〕などがあげられる。
中でも、ポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)が好ましい。なお、下記式(2) 中のnは、かかる化合物が、2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの単量体だけでなく、当該化合物の2量体以上の、種々の縮合物をも含む混合物(n=1の単量体も含みうる)であることを示しているが、その具体的な数値範囲は明らかでない。
【0018】
(c)アミン系酸化防止剤がアルキルジフェニルアミンであり、(d)キノリン系酸化防止剤がポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)であるのがとりわけ好ましい。
本発明のグリース組成物における前記(c)の含有量は、0.5〜5質量%であるのが好ましく、0.5〜2.5質量%であるのがより好ましい。前記(c)の含有量がこのような範囲にあると、基油への溶解性に優れる。
本発明のグリース組成物における前記(d)の含有量は、0.5〜5質量%であるのが好ましく、0.5〜2.5質量%であるのがより好ましい。前記(d)の含有量がこのような範囲にあると、基油への溶解性に優れる。
前記(c)と前記(d)との総量は、好ましくは組成物全量の1〜10質量%、より好ましくは2〜5質量%である。前記(c)と前記(d)との総量がこのような範囲にあると、十分な酸化防止効果を発揮して軸受潤滑寿命を延命するだけでなく、基油への溶解も良好であることから、グリースの基本性能の一つである軸受音響性能及び低温性に悪影響を与えることがない。
【0019】
〔任意の添加剤〕
本発明のグリース組成物は、必要に応じてグリース組成物に通常使用される種々の添加剤を含むことが出来る。このような添加剤の例としては、上記(c)及び(d)以外の酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、清浄分散剤、極圧添加剤、泡消剤、抗乳化剤、油性向上剤、耐摩耗剤、固体潤滑剤などが挙げられる。これらの添加量は通常0.01〜10質量%である。
防錆剤を含むのが好ましく、亜鉛系防錆剤を含むのがより好ましい。防錆剤がナフテン酸亜鉛であるのが特に好ましい。含有量は特に制限されないが、ナフテン酸亜鉛の場合、本発明の組成物の全質量を基準として、0.5〜10質量%であることが好ましい。このような量のナフテン酸亜鉛を含むことにより、Emcor防錆試験(IP220)のような過酷な条件を想定した試験でも錆の発生を防止することができる。
【0020】
本発明のグリース組成物は、各産業で使用される電気機器や機械部品に用いられるモーター回転子を支える転がり軸受に用いることができる。
【実施例】
【0021】
増ちょう剤として、芳香族ジウレア(実施例6)を含むグリース組成物は、下記表に示す基油中で、4.4'−ジフェニルメタンジイソシアネート1モルに対し原料アミン(p−トルイジン)2モルの比率で所定量を反応させ、アミン系酸化防止剤、キノリン系酸化防止剤及び亜鉛系防錆剤を所定量加え、3本ロールミルで規定のちょう度になるように調整することにより製造した。
増ちょう剤として、脂環式脂肪族ジウレア(実施例1〜5、7〜13、比較例4〜9)を含むグリース組成物は、原料アミンとして、p−トルイジンに代えてシクロヘキシルアミン及びステアリルアミンを使用したこと以外は、実施例6のグリース組成物と同様にして製造した。
増ちょう剤として、リチウムコンプレックス石けん(比較例1〜3)を含むグリース組成物は、基油にアゼライン酸及び12ヒドロキシステアリン酸を投入し、加温した後、水酸化リチウム水溶液を添加し、再度加熱した後、急冷し、アミン系酸化防止剤、キノリン系酸化防止剤及び亜鉛系防錆剤を所定量加え、3本ロールミルで規定のちょう度になるように調整することにより製造した。
なお、ちょう度(60回混和ちょう度)はすべて260に調整した(JIS K2220)。
【0022】
(a)基油
鉱油A:粘度指数:95以上、動粘度10.8mm
2/s@100℃、動粘度96.6mm
2/s@40℃
鉱油B:粘度指数:95以上、動粘度11.2mm
2/s@100℃、動粘度95.0mm
2/s@40℃
鉱油C:粘度指数:95以上、動粘度6.0mm
2/s@100℃、動粘度37.0mm
2/s@40℃
鉱油D:粘度指数:95以上、動粘度31.6mm
2/s@100℃、動粘度436mm
2/s@40℃
高精製鉱油A:粘度指数:120以上、動粘度7.80mm
2/s@100℃、動粘度46.0mm
2/s@40℃
(c)アミン系酸化防止剤
・アルキルジフェニルアミン
・フェニルαナフチルアミン
(d)キノリン系酸化防止剤
・2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンの高分子化物(前記式(2) で表されるポリ(2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン)〔比重1.08〜1.11、軟化点80〜110℃、灰分0.5%以下、加熱減量0.7%以下〕。)
・6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリン〔上記JIS K6211「ゴム用老化防止剤」において規定された老化防止剤ETMDQに相当するもの〕
(e)亜鉛系防錆剤
・ナフテン酸亜鉛
(f)フェノール系酸化防止剤
・オクタデシル-3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート
【0023】
<試験方法および判定>
〔耐久性(耐熱性、軸受潤滑寿命)〕
・評価方法
試験は、ASTM D3336に準拠した軸受潤滑寿命試験機を用いて行った。
試験条件を下記に示す。なお、モータが過電流(4アンペア以上)を生じるまでの時間、または軸受外輪温度が試験温度+15℃上昇するまでの時間のいずれか短い方の時間を焼付寿命とした。
軸受形式:6204金属シール
試験温度:160℃
回転数:10000rpm
グリース量:1.8g
試験荷重:アキシャル荷重66.7N ラジアル荷重66.7N
・判定
軸受潤滑寿命 1000h以上・・・○(合格)
1000h未満・・・×(不合格)
【0024】
〔低温性(低トルク性)〕
<試験方法>
低トルク性は、JIS K2220 18.に規定する低温トルク試験に準拠して行った。
軸受形式:6204
試験温度:−30℃
回転数 :1rpm
計測項目:
起動トルク(測定開始時の最大トルク)
回転トルク(回転10分間の最後の15秒間における平均トルク)
【0025】
評価基準
起動トルク(−30℃) 1000mNm未満:合格(○)
1000mNm以上:不合格(×)
回転トルク(−30℃) 100mNm未満:合格(○)
100mNm以上:不合格(×)
【0026】
〔総合判定〕
耐久性評価、低トルク性評価のいずれも合格:○(合格)
いずれか1つでも不合格:×(不合格)
【0027】
【表1】
【0028】
【表2】