(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
(B)エステルが、炭素数9以上20以下のアルキル基を有する脂肪族アルコールと、炭素数4以上12以下のジカルボン酸とのエステルである、請求項1記載のポリ乳酸樹脂組成物。
(B)エステルが、炭素数9以上15以下のアルキル基を有する脂肪族アルコールと、炭素数4以上8以下のジカルボン酸とのエステルである、請求項1又は2に記載のポリ乳酸樹脂組成物。
(B)エステルの含有量が、(A)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.5質量部以上5.0質量部以下である、請求項1〜3のいずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物。
(C)有機結晶核剤の含有量が、(A)ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上0.6質量部以下である、請求項1〜4のいずれか記載のポリ乳酸樹脂組成物。
【発明を実施するための形態】
【0009】
ポリ乳酸樹脂組成物の製造においては、従来、ポリ乳酸樹脂の末端封止剤として、カルボジイミド化合物を配合することが知られている。しかしながら、そのような組成のポリ乳酸樹脂組成物を成形すると、成形時にカルボジイミド化合物由来の異臭及び異物が発生したりすることがある。そこで、可塑剤として、より疎水性の高い特定構造を有するエステル化合物を用いたところ、カルボジイミド化合物を用いなくても耐加水分解性が向上し、また、異臭及び異物の発生も抑制できるポリ乳酸樹脂組成物が得られることが判明した。これは、疎水的な可塑剤を用いることで樹脂マトリックス内に水が浸入するのを防ぎ、ポリ乳酸の耐加水分解性を向上しているためであると考えられる。ただし、これらの推測は、本発明を限定するものではない。
【0010】
〔ポリ乳酸樹脂組成物〕
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、ポリ乳酸樹脂、特定構造のエステル、及び有機結晶核剤を含有する。
【0011】
[(A)ポリ乳酸樹脂]
ポリ乳酸樹脂としては、市販されているポリ乳酸樹脂、例えば、Nature Works社製:Nature Works PLA/NW3001D、NW4032D(N−4000)、2500HPや、トヨタ自動車社製:エコプラスチックU'z S−09、S−12、S−17等の他、乳酸やラクチドから合成したポリ乳酸樹脂が挙げられる。これらは単独で又は2種以上組み合わせて用いることができる。
【0012】
ポリ乳酸樹脂の光学純度としては、成形速度及び原料の入手性の観点から、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、更に好ましくは98%以上であり、好ましくは100%以下、より好ましくは実質的に100%以下、更に好ましくは99%以下である。ここで、実質的に100%とは不可避的に微量の不純物を含む場合を言う。なお、ポリ乳酸樹脂の光学純度は、「ポリオレフィン等合成樹脂製食品容器包装等に関する自主基準 第3版改訂版 2004年6月追補 第3部 衛生試験法 P12-13」記載のD体含有量の測定方法に従って求めることができる。具体的には、後述の実施例に記載の方法により測定される。
【0013】
ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、耐加水分解性を向上させる観点から、好ましくは10万以上、より好ましくは15万以上であり、同様の観点から、好ましくは40万以下、より好ましくは35万以下である。なお、ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、溶媒にクロロホルム、カラムに東ソー社製、高温SECカラム(GMHHR−Hシリーズ)、流量1.0mL/min、カラム温度40℃、検出器に示差屈折率検出器(RI)、リファレンスとして既知の分子量を有するポリスチレンを用いて換算して求めることができる。
【0014】
また、本発明において、ポリ乳酸樹脂として、ポリ乳酸樹脂組成物の強度や透明性の観点から、異なる異性体を主成分とする乳酸成分を用いて得られた2種類のポリ乳酸からなるステレオコンプレックスポリ乳酸樹脂を用いてもよい。
【0015】
また、本発明におけるポリ乳酸樹脂は、ポリ乳酸樹脂以外の生分解性ポリエステル樹脂やポリプロピレン等の非生分解性樹脂がポリ乳酸樹脂とのブレンドによるポリマーアロイとして含有されていてもよい。なお、本明細書において「生分解性」とは、自然界において微生物によって低分子化合物に分解され得る性質のことであり、具体的には、JIS K6953(ISO14855)「制御された好気的コンポスト条件の好気的かつ究極的な生分解度及び崩壊度試験」に基づいた生分解性のことを意味する。
【0016】
ポリ乳酸樹脂の含有量は、ポリ乳酸樹脂組成物中、剥離性、透明性、生分解性の観点から、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、90質量%以上が更に好ましい。また、成形性の観点から、好ましくは99.5質量%以下、より好ましくは99質量%以下である。
【0017】
[(B)エステル]
本発明において用いられるエステルは、炭素数9以上30以下のアルキル基を有する脂肪族アルコールと、炭素数4以上12以下のジカルボン酸とのエステル化合物であることに特徴を有する。
【0018】
脂肪族アルコールは、炭素数9以上30以下のアルキル基を有する。アルキル基としては、直鎖又は分岐鎖のものであってもよいが、耐加水分解性の観点から、分岐鎖のものが好ましい。アルキル基の炭素数としては、耐加水分解性の観点から、9以上、好ましくは10以上、より好ましくは11以上、更に好ましくは12以上であり、樹脂との相溶性の観点から、30以下、好ましくは20以下、より好ましくは15以下、更に好ましくは10以下である。脂肪族アルコールのアルキル基の炭素数としては、耐加水分解性の観点及び樹脂との相溶性の観点から、9以上30以下であり、好ましくは9以上20以下であり、より好ましくは9以上15以下であり、更に好ましくは9以上10以下である。
【0019】
炭素数9以上30以下のアルキル鎖を有する脂肪族アルコールとしては、具体的には、イソノニルアルコール、デカノール、ラウリルアルコール、セチルアルコール、イソトリデカノール、ヘキシルデカノール、ステアリルアルコール、オクチルドデカノール、イソデシルアルコール、ウンデカノール、イソステアリルアルコールなどが挙げられる。
【0020】
ジカルボン酸は、飽和又は不飽和のものが挙げられるが、耐熱性の観点から、飽和のものが好ましい。ジカルボン酸の総炭素数としては、耐加水分解性の観点から、4以上、好ましくは5以上であり、樹脂との相溶性の観点から、12以下、好ましくは8以下、より好ましくは7以下である。
【0021】
炭素数4以上12以下のジカルボン酸としては、具体的には、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸などが挙げられる。
【0022】
脂肪族アルコールとジカルボン酸の組み合わせとしては、前記した化合物を用いれば特に限定はなく、例えば、炭素数9以上20以下のアルキル基を有する脂肪族アルコールと炭素数4以上12以下のジカルボン酸の組み合わせ、炭素数9以上15以下のアルキル基を有する脂肪族アルコールと炭素数4以上8以下のジカルボン酸の組み合わせが例示される。
【0023】
エステルの具体例としては、炭素数9以上20以下のアルキル基を有する脂肪族アルコールと、炭素数4以上12以下のジカルボン酸とのジエステルが例示される。これらの化合物は、市販品であっても公知の製造方法に従って合成したものを用いてもよい。なお、前記エステルは、本発明の効果を損なわない範囲内で、炭素数9以上20以下のアルキル基を有する脂肪族アルコールと、炭素数4以上12以下のジカルボン酸とのジエステルの他に、他のエステルが含まれるエステル混合物であってもよい。
【0024】
エステルの含有量は、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、耐加水分解性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上が更に好ましく、1.2質量部以上がより更に好ましい。また、樹脂との相溶性、透明性の観点から、5.0質量部以下が好ましく、4.0質量部以下がより好ましく、3.0質量部以下が更に好ましく、2.0質量部以下がより更に好ましい。なお、本発明において、エステルの含有量とは、前記したエステル混合物の場合には、混合物の含有量のことを意味する。
【0025】
また、ポリ乳酸樹脂組成物中のエステルの含有量は、耐加水分解性の観点から、0.5質量%以上が好ましく、0.7質量%以上がより好ましく、1.0質量%以上が更に好ましく、1.2質量%以上がより更に好ましく、樹脂との相溶性、透明性の観点から、5.0質量%以下が好ましく、4.0質量%以下がより好ましく、3.0質量%以下が更に好ましく、2.0質量%以下がより更に好ましい。
【0026】
[(C)有機結晶核剤]
本発明における有機結晶核剤は、特に限定されず、一般の生分解性樹脂に用いられる有機結晶核剤を用いることができる。なかでも、透明性及び熱成形性の観点から、有機結晶核剤分子中に、エステル基、水酸基、及びアミド基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の基を2つ以上有する脂肪族化合物が好ましく、水酸基及びアミド基からなる群より選ばれる1種又は2種の基を2つ以上有する脂肪族化合物が好ましい。かかる脂肪族化合物としては、例えば、エステル基を2つ以上有する脂肪族化合物、水酸基を2つ以上有する脂肪族化合物、アミド基を2つ以上有する脂肪族化合物、エステル基と水酸基を各1つ有する脂肪族化合物、エステル基とアミド基を各1つ有する脂肪族化合物、水酸基とアミド基を各1つ有する脂肪族化合物、エステル基を1つ以上有し、かつ、アミド基を2つ以上有する脂肪族化合物、水酸基を1つ以上有し、かつ、アミド基を2つ以上有する脂肪族化合物、エステル基を1つ以上有し、かつ、水酸基を2つ以上有する脂肪族化合物、アミド基を1つ以上有し、かつ、水酸基を2つ以上有する脂肪族化合物、水酸基を1つ以上有し、かつ、エステル基を2つ以上有する脂肪族化合物、アミド基を1つ以上有し、かつ、エステル基を2つ以上有する脂肪族化合物が挙げられる。
【0027】
具体的には、例えば、アルキレンビス脂肪酸アミド、アルキレンビスヒドロキシ脂肪酸アミド等が例示され、12−ヒドロキシステアリン酸モノエタノールアミド等のヒドロキシ脂肪酸モノアミド;メチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、エチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド、ヘキサメチレンビス12−ヒドロキシステアリン酸アミド等のヒドロキシ脂肪酸ビスアミド;エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド等の脂肪酸ビスアミドが挙げられる。
【0028】
有機結晶核剤の含有量は、成形速度及び透明性の観点から、ポリ乳酸樹脂100質量部に対して、0.2質量部以上が好ましく、0.3質量部以上がより好ましく、0.4質量部以上が更に好ましい。また、同様の観点から、0.6質量部以下が好ましく、0.5質量部以下がより好ましい。
【0029】
ポリ乳酸樹脂組成物中の有機結晶核剤の含有量は、成形速度及び透明性の観点から、0.2質量%以上が好ましく、0.3質量%以上がより好ましく、0.4質量%以上が更に好ましく、同様の観点から、1.0質量%以下が好ましく、0.7質量%以下がより好ましく、0.5質量%以下が更に好ましい。
【0030】
また、エステルと有機結晶核剤の含有質量比(エステル/有機結晶核剤)は、成形速度及び透明性の観点から、好ましくは1以上、より好ましくは1.5以上、更に好ましくは2.0以上、より更に好ましくは3.0以上であり、同様の観点から、好ましくは10以下、より好ましくは6以下、更に好ましくは4以下である。
【0031】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、前記以外の他の成分として、(B)エステル以外の公知の可塑剤;無機結晶核剤;充填剤(無機充填剤、有機充填剤);加水分解抑制剤;難燃剤;酸化防止剤;炭化水素系ワックス類やアニオン型界面活性剤である滑剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;防曇剤;光安定剤;顔料;防カビ剤;抗菌剤;発泡剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レべリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で含有することができる。また、本発明の効果を阻害しない範囲内で他の高分子材料や他の樹脂組成物を添加することも可能である。任意の添加剤の含有割合としては、本発明の効果が損なわれない範囲で適宜含有されても良いが、例えば、樹脂組成物中20質量%以下が好ましく、10質量%程度以下がより好ましく、5質量%程度以下が更に好ましい。
【0032】
本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、前記ポリ乳酸樹脂、特定のエステル、有機結晶核剤を含有するものであれば特に限定なく調製することができ、例えば、前記した3成分の他、さらに必要により各種添加剤を含有する原料を、密閉式ニーダー、1軸もしくは2軸の押出機、オープンロール型混練機等の公知の混練機を用いて溶融混練して調製することができる。原料は、予めヘンシェルミキサー、スーパーミキサー等を用いて均一に混合した後に、溶融混練に供することも可能である。なお、ポリ乳酸樹脂組成物を調製する際にポリ乳酸樹脂の可塑性を促進させるため、超臨界ガスを存在させて溶融混合させてもよい。溶融混練後は、公知の方法に従って、溶融混練物を乾燥させてもよい。
【0033】
溶融混練温度は、ポリ乳酸樹脂組成物の成形性及び劣化防止を向上する観点から、好ましくは170℃以上、より好ましくは175℃以上、更に好ましくは180℃以上であり、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下、更に好ましくは210℃以下である。溶融混練時間は、溶融混練温度、混練機の種類によって一概には決定できないが、15秒間以上900秒間以下が好ましい。
【0034】
かくして得られた本発明のポリ乳酸樹脂組成物は、透明性及び熱成形性に優れることから、ポリ乳酸樹脂組成物からなる一次加工品、即ち、本発明の熱成形用シートに成形することができる。
【0035】
〔熱成形用シート〕
本発明の熱成形用シートは、前記ポリ乳酸樹脂組成物を用いるのであれば特に調製方法に限定はなく、押出成形、射出成形、又はプレス成形することによって調製することができる。
【0036】
押出成形は、具体的には、加熱した押出機に充填された前記ポリ乳酸樹脂組成物を溶融させた後にTダイから押出すことにより、シート状の成形品(シート成形品ともいう)を得ることができる。このシート成形品を直ぐに冷却ロールに接触させて冷却して、該冷却ロールから引き離した後、巻取ロールにて巻き取ることにより、本発明の熱成形用シートを得ることができる。なお、押出機に充填する際に、前記ポリ乳酸樹脂組成物を構成する原料、例えば、ポリ乳酸樹脂、特定のエステル、及び有機結晶核剤、さらに必要により各種添加剤を含有する原料をそのまま充填して溶融混練してもよく、予め溶融混練したものを押出機に充填してもよい。
【0037】
押出機の温度は、ポリ乳酸樹脂組成物を均一に混合し、且つポリ乳酸樹脂の劣化を防止する観点から、好ましくは170℃以上であり、好ましくは240℃以下、より好ましくは220℃以下である。なお、本発明において、押出機の温度とは押出機のバレル設定温度を意味する。また、押出機における滞留時間は、シートの厚さや幅、巻き取り速度に依存するため一概には規定できないが、熱による劣化を避ける観点から、30秒から数分程度が好ましい。
【0038】
冷却ロールの温度は、非晶状態又は半結晶状態のシートを得る観点から、ポリ乳酸樹脂組成物のTg未満に設定することが好ましく、具体的には、40℃未満が好ましく、30℃以下がより好ましく、20℃以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、非晶状態及び半結晶状態とは、以下の式により求めた相対結晶化度が60%未満となる場合を非晶状態、相対結晶化度が60%以上、80%未満となる場合を半結晶状態とする。よって、非晶状態又は半結晶状態のシートとは、相対結晶化度が80%未満のシートを意味する。
相対結晶化度(%)={(ΔHm−ΔHcc)/ΔHm}×100
具体的には、相対結晶化度は、DSC装置(パーキンエルマー社製ダイアモンドDSC)を用い、1stRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から200℃まで昇温し、200℃で5分間保持した後、降温速度−20℃/分で200℃から20℃まで降温し、20℃で1分間保持した後、さらに2ndRUNとして、昇温速度20℃/分で20℃から200℃まで昇温し、1stRUNに観測されるポリ乳酸樹脂の冷結晶化エンタルピーの絶対値ΔHcc、2ndRUNに観測される結晶融解エンタルピーΔHmを用いて求めることができる。
【0039】
冷却ロールに接する時間としては、冷却ロールの設定温度や冷却ロールの個数、押出速度、シート巻取速度によって異なるため必ずしも規定されるものではないが、例えば効率よく非晶状態又は半結晶状態のシートを得る観点から、好ましくは0.1秒以上、より好ましくは0.5秒以上、さらに好ましくは0.8秒以上であり、好ましくは50秒以下、より好ましくは10秒以下、さらに好ましくは5秒以下である。また、シート巻取速度としては、同様の観点から、好ましくは0.1m/分以上、より好ましくは0.5m/分以上、さらに好ましくは1m/分以上であり、好ましくは50m/分以下、より好ましくは30m/分以下、さらに好ましくは20m/分以下である。
【0040】
射出成形で本発明の熱成形用シートを成形する場合は、具体的には、均一混合及び分子量抑制の観点から、前記ポリ乳酸樹脂組成物を、シリンダー温度を好ましくは180℃以上であり、好ましくは220℃以下、より好ましくは210℃以下に設定した射出成形機を用いて、所望の形状を有する金型内に充填し、シート状に成形することができる。
【0041】
プレス成形で本発明の熱成形用シートを成形する場合は、具体的には、所望のシート形状を有する枠で前記ポリ乳酸樹脂組成物を囲みプレス成形して、本発明の熱成形用シートを得ることができる。
【0042】
プレス成形の温度と圧力としては、均一混合及び分子量抑制の観点から、好ましくは170〜240℃、5〜30MPaの条件下、より好ましくは175〜220℃、10〜25MPaの条件下、さらに好ましくは180〜210℃、10〜20MPaの条件下でプレスすることが好ましい。プレス時間は、プレスの温度と圧力によって一概には決定することができないが、均一混合の観点から、好ましくは1分間以上であり、好ましくは10分間以下、より好ましくは7分間以下、さらに好ましくは5分間以下である。
【0043】
また前記条件でプレスした後直ぐに、好ましくは0〜40℃、0.1〜20MPaの条件下、より好ましくは10〜30℃、0.1〜10MPaの条件下、さらに好ましくは10〜20℃、0.1〜5MPaの条件下でプレスして冷却することが好ましい。この温度条件によるプレスにより、本発明のポリ乳酸樹脂組成物をそのTg未満に冷却して、非晶状態又は半結晶状態を維持することができる。プレス時間は、プレスの温度と圧力によって一概には決定することができないが、冷却効率と生産性の観点から、好ましくは1分間以上であり、好ましくは10分間以下、より好ましくは7分間以下、さらに好ましくは5分間以下である。
【0044】
かくして本発明の熱成形用シートが得られる。本発明の熱成形用シートは、カルボジイミド化合物を用いずに、特定のエステル化合物を用いることにより、加水分解を抑制しながら、製造時の異臭や異物の発生が抑制されるものである。
【0045】
また、特定構造のエステル化合物を含有することから、本発明の熱成形用シートの結晶化速度が向上することで、成形速度が向上して熱成形性が向上し、ひいては、透明性に優れる成形体が得られることになる。
【0046】
また、本発明の熱成形用シートは、その結晶性については特に限定はないが、前記成形時に冷却することで非晶状態又は半結晶状態のシートとすることが好ましい。冷却されて得られた本発明の熱成形用シートは、前記式により算出される相対結晶化度が、好ましくは80%未満、より好ましくは60%未満、さらに好ましくは50%未満である。下限は特に設定されないが、0%以上であればよい。
【0047】
本発明の熱成形用シートの厚さは、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.2mm以上であり、好ましくは1.5mm以下、より好ましくは1.4mm以下、さらに好ましくは1.2mm以下である。
【0048】
かくして得られた本発明の熱成形用シートは、熱成形性が良好であることから、各種用途、例えば、日用品、化粧品、家電製品などの包装材として、ブリスターパックやトレイ、お弁当の蓋等の食品容器、工業部品の輸送や保護に用いる工業用トレイ等に熱成形することができる。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。例中の部は、特記しない限り質量部である。なお、「常圧」とは101.3kPaを、「常温(室温)」とは25℃を示す。
【0050】
〔ポリ乳酸樹脂の光学純度〕
ポリ乳酸樹脂の光学純度は、「ポリオレフィン等合成樹脂製食品容器包装等に関する自主基準 第3版改訂版 2004年6月追補 第3部 衛生試験法 P12-13」記載のD体含有量の測定方法に従って求めることができる。
【0051】
まず、精秤したポリ乳酸に水酸化ナトリウム/メタノールを加え、65℃に設定した水浴振とう器にセットして、樹脂分が均一溶液になるまで加水分解を行い、さらに加水分解が完了したアルカリ溶液に希塩酸を加え中和し、その分解溶液を純水にて定溶した後、一定容量をメスフラスコに分液して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)移動相溶液により希釈し、pHが3〜7の範囲になるように調整してメスフラスコを定量、メンブレンフィルター(0.45μm)によりろ過する。この調整溶液を下記に示す測定条件下のHPLCにてD−乳酸、L−乳酸を定量することによってポリ乳酸樹脂の光学純度を求める。
<測定条件>
カラム :スミキラルOA6100(46mmφ×150mm、5μm)、住化分析センター社製
プレカラム:スミキラルQA6100(4mmφ×10mm、5μm)、住化分析センター社製
カラム温度:25℃
移動相 :2.5%メタノール含有 1.5mM硫酸銅水溶液
移動相流量:1.0mL/分
検出器 :紫外線検出器(UV254nm)
注入量 :20μL
【0052】
〔ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量〕
ポリ乳酸樹脂の重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用い、溶媒にクロロホルム、カラムに東ソー社製、高温SECカラム(GMHHR−Hシリーズ)、流量1.0mL/min、カラム温度40℃、検出器に示差屈折率検出器(RI)、リファレンスとして既知の分子量を有するポリスチレンを用いて換算して求める。
【0053】
可塑剤の製造例1(メチルトリグリコールコハク酸ジエステル)
4ツ口フラスコ(攪拌機、温度計、滴下漏斗、蒸留管、窒素吹き込み管付き)にジエチレングリコール363g(3.42モル)及び触媒として28質量%ナトリウムメトキシド含有メタノール溶液6.6g(ナトリウムメトキシド0.034モル)を入れ、常圧、120℃で0.5時間攪拌しながらメタノールを留去した。その後、コハク酸ジメチル(和光純薬工業社製)1000g(6.84モル)を3時間かけて滴下し、常圧、120℃で、反応により生じるメタノールを留去した。次に、75℃に冷却し、圧力を1.5時間かけて常圧から6.7kPaまで徐々に下げてメタノールを留去した後、常圧にもどし、さらに、触媒として28質量%ナトリウムメトキシド含有メタノール溶液5.8g(ナトリウムメトキシド0.030モル)を添加して、100℃で、圧力を2時間かけて常圧から2.9kPaまで徐々に下げてメタノールを留出させた。その後、80℃に冷却してキョーワード600S(協和化学工業社製)18gを添加し、圧力4.0kPa、80℃で1時間攪拌した後、減圧ろ過を行った。ろ液を圧力0.3kPaで、温度を1時間かけて70℃から190℃に上げて残存コハク酸ジメチルを留去し、常温黄色の液体を得た。なお、触媒の使用量は、ジカルボン酸エステル100モルに対して0.94モルであった。
【0054】
実施例1〜11及び比較例1〜8
ポリ乳酸樹脂組成物として、表1〜2に示す組成物原料を、二軸押出機(Perker社製、HK25D、シリンダー直径25.2mm、回転数100rpm、吐出量8kg/h)を使用して、溶融混練温度180〜190℃で1分間溶融混練し、ストランドカットを行い、ポリ乳酸樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットは、110℃減圧下で2時間乾燥し、水分量を500ppm以下とした。
【0055】
熱成形用シートの調製
得られたペレットをT−ダイ押出機(プラスチック工学研究所社製、500mmT−ダイ)を用いて、下記の条件にて幅400mmのシート成形を行った。
<押出成形条件>
二軸混練部のシリンダー温度:180℃
Tダイ(出口)温度:180℃
押出し速度:8kg/h (冷却ロール接触時間が34秒となる速度)
冷却ロール表面温度:25℃
シート厚み:0.4mm
【0056】
熱成形体の調製
単発真空圧空成形機「FVS−500P WAKITEC」(脇坂製作所社製)を用いて、得られた熱成形用シートをガイドに取り付け、ヒーターを用いて80℃に加熱した。その後、加熱した熱成形用シートを115℃に設定した上金型を用いて真空成形を行い、その後装置付属のノズルから空気を成形体に吹きかけ成形体を冷却後、サンプルを得た。
【0057】
得られたポリ乳酸樹脂組成物、熱成形用シート、及び熱成形体の特性を、下記試験例1〜5に従って評価を行った。結果を表1〜2に示す。
【0058】
試験例1<耐加水分解性>
熱成形用シート(70mm×20mm×0.25mm)3枚を60℃/75%RHの恒温恒湿機(プラチナKシリーズPL−3KPH、エスペック社製)内に入れて保管後、24時間毎に、熱成形用シートの70mmの辺の中央(端から35mm)を、20mmの辺と平行に屈曲させ、20mmの辺を互いに接するまで近づけたとき、3枚のうち1枚以上に割れが発生するまでの日数を計測し、日数が長いほど耐久性に優れることを示し、7日以上で合格と判断した。
【0059】
試験例2<コンパウンド製造時の異臭>
樹脂組成物において、200℃で5分間溶融混練したとき、専門パネラー1名による官能評価により、測定者がイソシアネート臭を感じるかどうかで判定した。イソシアネート臭を感じないときを「無」、イソシアネート臭を感じるときを「有」とした。
【0060】
試験例3<シートの異物>
シート成形開始時から30分経過後のシートを400×1500mmのサイズに切り出し、光学顕微鏡(VHX−1000キーエンス社製)を用いてシート中に含まれる異物(ヤケ物)の個数を計測した。ヤケ物の個数が少ない方が優れており、5個以下であれば合格と評価した。
【0061】
試験例4<生産速度>
成形体を調製する際に、成形体の標準品と同等のサンプルを得るのに必要な金型保持時間と冷却時間を合わせた時間を生産速度として計算した。生産速度は13秒以下が好ましいと評価した。
【0062】
試験例5<透明性>
成形体ついて、JIS−K7105規定の積分球式光線透過率測定装置(HM−150 村上色彩技術研究所)を用い、Haze値を測定した。Haze値の値が小さいと透明性が良好であることを示し、7%以下が合格と判断した。
【0063】
なお、表1〜2における原料は以下の通りである。
<ポリ乳酸>
N−4000:ネイチャーワークス社製、ポリ−L−乳酸 NatureWorks 4032D、光学純度98.6%、重量平均分子量180000
2500HP:ネイチャーワークス社製、ポリ−L−乳酸 NatureWorks 2500HP、光学純度99.5%以上、重量平均分子量190000
<可塑剤>
DINA:イソノニルアジペート、田岡化学社製
610A:アジピン酸ジn−アルキル(アルキル:n−C
6H
13,n−C
8H
17,n−C
10H
21)、田岡化学社製
A−1010:可塑剤の製造例1で調製した化合物
DAIFATTY−101:アジピン酸とベンジルアルコールおよびメチルジグリコールとのエステル、大八化学工業社製
ATBC:アセチルクエン酸トリブチル、田岡化学社製
<有機結晶核剤>
スリパックスH:12−ヒドロキシステアリン酸エチレンビスアミド、日本化成社製
KAOWAX EB−FF:ステアリン酸エチレンビスアミド、花王社製
<加水分解抑制剤>
LA−1:脂肪族ポリカルボジイミド化合物、日清紡ケミカル社製
【0064】
【表1】
【0065】
【表2】
【0066】
表1及び2より、実施例のポリ乳酸樹脂組成物は、カルボジイミド化合物を配合していなくとも耐加水分解性が良好であり、調製時の異臭や異物の発生が抑制されるという効果も得られるものである。また、特定のエステル化合物を用いることにより、熱成形性が向上して、生産速度が向上し、かつ、透明性にも優れる成形体が得られることが分かる。