(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845690
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】ナノ構造チタン合金および同合金を熱機械加工するための方法
(51)【国際特許分類】
C22C 14/00 20060101AFI20210315BHJP
B21J 1/02 20060101ALI20210315BHJP
B21J 5/00 20060101ALI20210315BHJP
C22F 1/18 20060101ALI20210315BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20210315BHJP
【FI】
C22C14/00 Z
B21J1/02 Z
B21J5/00 E
C22F1/18 H
!C22F1/00 604
!C22F1/00 624
!C22F1/00 630A
!C22F1/00 630G
!C22F1/00 630K
!C22F1/00 631A
!C22F1/00 673
!C22F1/00 675
!C22F1/00 683
!C22F1/00 694A
!C22F1/00 694B
!C22F1/00 694Z
【請求項の数】20
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-502729(P2016-502729)
(86)(22)【出願日】2014年3月14日
(65)【公表番号】特表2016-519713(P2016-519713A)
(43)【公表日】2016年7月7日
(86)【国際出願番号】US2014028197
(87)【国際公開番号】WO2014143983
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2017年3月6日
【審判番号】不服2019-8053(P2019-8053/J1)
【審判請求日】2019年6月18日
(31)【優先権主張番号】13/833,148
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515256590
【氏名又は名称】マンハッタン サイエンティフィックス インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Manhattan Scientifics Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100169904
【弁理士】
【氏名又は名称】村井 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100159916
【弁理士】
【氏名又は名称】石川 貴之
(72)【発明者】
【氏名】ジアン コロンボ
(72)【発明者】
【氏名】ヴェンカタ エヌ.アニュマラセッティ
(72)【発明者】
【氏名】グラハム マッキントッシュ
(72)【発明者】
【氏名】ユリヤ マーダケイヴァ
【合議体】
【審判長】
中澤 登
【審判官】
井上 猛
【審判官】
池渕 立
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−068955(JP,A)
【文献】
特表2012−506290(JP,A)
【文献】
特開2008−101234(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2006/0213592(US,A1)
【文献】
特開2012−111991(JP,A)
【文献】
特表2013−503970(JP,A)
【文献】
D.H.Shin et.al. Microstructure development during equal−channel angular pressing of titanium, Acta Materialia,2003年
【文献】
Juno Gallego et.al. Microstructural Characterization of Ti−6Al−7Nb Alloy After Severe Plastic Deformation,Materials Research,2012年
【文献】
Y.G.KO et.al. Low−Temperature Superplasticity of Ultra−Fine−Grained Ti−6Al−4V Processed by Equal−Channel Angular Pressing,METALLURGICAL AND MATERIALS TRANSACTIONS A,2006年 2月
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 14/00
C22F 1/00-3/02
B21J 1/00-13/14
B21J 17/00-31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
商用高純度チタン合金(Grades1−4)、Ti−6Al−4V、およびTi−6Al−4V ELIのいずれか1つからなり、
1.0ミクロン以下の大きさの結晶粒を面積分率で80%以上有し、
平均の前記結晶粒の大きさが100ナノメートル以下であり、
数分率で前記結晶粒の粒界の20〜40%が、15°以上の方位差角を有する高角粒界であり、
数分率で前記結晶粒の80%以上が、0.3〜0.7の範囲の結晶粒形状アスペクト比を有する、成長したチタン構造物を含む、ナノ構造チタン合金物品。
【請求項2】
前記成長したチタン構造物が、成長したα−チタン構造物である、請求項1に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項3】
前記結晶粒がα相結晶粒である、請求項1に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項4】
前記成長したチタン構造物が、1015m−2以上の転位密度を有する、請求項1に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項5】
前記成長したチタン構造物が、巨大ひずみ加工(SPD)プロセスタイプおよび巨大ひずみ加工(SPD)ではないタイプの熱機械加工工程の組合わせにより加工される、請求項1に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項6】
前記成長したチタン構造物の、極限引張強さが1200MPa以上である、請求項1に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項7】
前記極限引張強さが1400MPa以上である、請求項6に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項8】
前記成長したチタン構造物の、全引張伸びが10%以上である、請求項6に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項9】
前記成長したチタン構造物の、面積減少が25%以上である、請求項8に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項10】
前記成長したチタン構造物の、極限剪断強さが650MPa以上である、請求項9に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項11】
前記極限剪断強さが740MPa以上である、請求項10に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項12】
前記成長したチタン構造物の、107サイクルにおいて測定された軸方向疲労耐久限度が700MPa以上である、請求項10に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項13】
107サイクルにおいて測定された前記軸方向疲労耐久限度が950MPa以上である、請求項12に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項14】
前記成長したチタン構造物の、107サイクルにおいて測定された片持ち梁回転疲労耐久限度が650MPa以上である、請求項12に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項15】
107サイクルにおいて測定された前記片持ち梁回転疲労耐久限度が700MPa以上である、請求項14に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項16】
前記成長したチタン構造物が、β−チタン粒子を保持したα−チタン母材を含有する、請求項1に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項17】
前記成長したチタン構造物が、重量パーセントによる組成:
窒素(N)を最大0.07%、
炭素(C)を最大0.1%、
水素(H)を最大0.015%、
鉄(Fe)を最大0.50%、
酸素(O)を最大0.40%、
微量不純物を最大0.40%、および
チタン(Ti)の残余を有する、請求項1に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項18】
前記成長したチタン構造物が、重量パーセントによる組成:
アルミニウム(Al)を最大6.75%、および
バナジウム(V)を最大4.5%で有する、請求項17に記載のナノ構造チタン合金物品。
【請求項19】
商用高純度チタン合金(Grades1−4)の加工物を提供する工程と、
100〜300℃の温度において、チャネルの交点の角度がψ=75°〜ψ=135°の間に設定されたダイを有する等チャネル角プレシング−コンフォーム装置を使用して前記加工物に巨大ひずみ加工(SPD)を起こす工程と、
前記加工物を室温〜250℃の温度の熱機械加工に供して断面積の減少が35%以上である物品を作製する工程とを含む、ナノ構造チタン合金を製造するための方法。
【請求項20】
Ti−6Al−4V、およびTi−6Al−4V ELIのいずれか1つのチタン合金の加工物を提供する工程と、
500℃未満の温度において、チャネルの交点の角度がψ=75°〜ψ=135°の間に設定されたダイを有する等チャネル角プレシング−コンフォーム装置を使用して前記加工物に巨大ひずみ加工(SPD)を起こす工程と、
前記加工物を500℃未満の温度の熱機械加工に供して断面積の減少が35%以上である物品を作製する工程とを含む、ナノ構造チタン合金を製造するための方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノ構造材料に関し、より詳しくは、材料の性質が強化された成長したα−チタン構造物を有するナノ構造チタン合金に関する。
【背景技術】
【0002】
微細構造が機械的性質の達成に重要な役割を果たすことは公知である。加工方法に応じて、材料の構造を成長させ、材料の性質を強化することができる。例えば、機械的、または熱機械加工技術を使用して材料の結晶粒または結晶構造を変化させることが可能である。
【0003】
米国特許出願第2011/0179848号明細書には、医用用途の強化された性質を有する商用高純度チタン製品が開示されている。チタン製品は、機械的強度、耐疲労破壊性などの元の機械的性質、および医学的性質に関して強化された性質を提供する、ナノ結晶構造を有する。公知のチタン製品は、最初に、蓄積した全真歪みe≧4を有する450℃以下の温度において等チャネル角プレシング(ECAP)技術を使用して
巨大ひずみ加工(SPD)に供せられ、次いでその後、熱機械的処理を使用して40〜80%の歪み度で成長されることが開示される。特に、熱機械的処理は、T=450…350℃の範囲の温度および10
−2…10
−4s
−1の歪速度の漸減で行なわれる塑性変形を包含する。
【0004】
この公知の技術は、商用高純度チタンのより高いレベルの機械的性質を達成するが、限定されないが医用、エネルギー、高性能スポーツ用品、および航空宇宙用途などの様々な工学的用途のためにチタン合金の引張および/または剪断強さ、ならびに耐疲労性のレベルを増加させる必要がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これらの欠点を考慮して、本発明の目的は、とりわけ、チタン合金の強度および耐疲労性のレベルを増加させることである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
結果として、ナノ構造チタン合金物品が提供される。ナノ構造合金は、≦1.0ミクロンの大きさの結晶粒を少なくとも80%で有する成長したチタン構造物を含有する。
【0007】
本発明の典型的な実施形態が、添付した図面を参照して説明される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】電子後方散乱回折を使用して撮られた、公知の商用高純度チタン合金の顕微鏡写真である。
【
図2】電子後方散乱回折を使用して撮られた、本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金の顕微鏡写真である。
【
図3】公知の商用高純度チタン合金の粒度分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図4】本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金の粒度分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図5】公知の商用高純度チタン合金の方位差角分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図6】本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金の方位差角分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図7】本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金の縦断面の結晶粒形状アスペクト比の分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図8】本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金の
横断面の結晶粒形状アスペクト比の分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図9】透過型電子顕微鏡を使用して得られた、複数の等軸結晶粒を有する本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金の顕微鏡写真である。
【
図10】透過型電子顕微鏡を使用して得られた、高い転位密度を有する複数の結晶粒を有する本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金の顕微鏡写真である。
【
図11】透過型電子顕微鏡を使用して得られた、複数の亜結晶粒を示す本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金の顕微鏡写真である。
【
図12】電子後方散乱回折を使用して撮られた公知のチタン合金Ti6Al4Vの顕微鏡写真である。
【
図13】電子後方散乱回折を使用して撮られた、本発明によるナノ構造チタン合金Ti6Al4Vの顕微鏡写真である。
【
図14】本発明によるナノ構造チタン合金Ti6Al4Vの粒度分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図15】公知のチタン合金Ti6Al4Vの方位差角分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図16】本発明によるナノ構造チタン合金Ti6Al4Vの方位差角分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図17】電子後方散乱回折を使用して撮られた、公知のチタン合金Ti6Al4V ELIの顕微鏡写真である。
【
図18】電子後方散乱回折を使用して撮られた、本発明によるナノ構造チタン合金Ti6Al4V ELIの顕微鏡写真である。
【
図19】本発明によるナノ構造チタン合金Ti6Al4V ELIの粒度分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図20】公知のチタン合金Ti6Al4V ELIの方位差角分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【
図21】本発明によるナノ構造チタン合金Ti6Al4V ELIの方位差角分布を示す、電子後方散乱回折を使用して得られたグラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、例えば整形外科用インプラント、医用および航空宇宙用ファスナー、航空宇宙用構造部材、および高性能スポーツ用品などの様々な有用な物品の製造のために異なった産業において使用され得るナノ構造チタン合金である。本発明の典型的な実施形態において、保持されたβ−チタン粒子を含有する場合があるα−チタン母材を有する、商用高純度チタンの組成物を加工して、≦1ミクロンである結晶粒を少なくとも80%で有するナノ構造を達成する構造物を成長させる。結果として、ナノ構造チタン合金は、引張強さおよび/または剪断強さおよび/または疲労耐久限度の増加などの様々な材料の性質の変化を示す。特に、ナノ構造チタン合金構造物は、本発明によって熱機械加工工程の組合わせを使用して成長させられる。この方法は、超微細結晶粒および/またはナノ結晶構造が優勢な成長した微細構造を提供する。
【0010】
図1、12、および17は、それぞれ、出発商用高純度チタン合金、Ti6Al4V、およびTi6Al4V ELIの微細構造を示す。
図2、13、および18は、それぞれ、本発明による商用高純度ナノ構造チタン合金、Ti6Al4V、およびTi6Al4V ELIの得られた構造を示す。図を検討すると明らかに、出発チタン合金とナノ構造チタン合金の間の相違を示す。
【0011】
加工物は、本技術分野に公知の様々な市販のチタン合金、例えば商用高純度チタン合金(Gradesl−4)、Ti−6Al−4V、
Ti−6Al−4V ELI、Ti−6Al−7Nb、Ti−Zr、または他の公知のアルファ、近アルファ、およびアルファ−ベータ相チタン合金からなり得る。
【0012】
したがって、本発明の他の典型的な実施形態において、アルファ−ベータ相チタン合金を
巨大ひずみ加工プロセスタイプおよび
巨大ひずみ加工ではないタイプの熱機械加工工程の組合わせにより加工して、≦1ミクロンである結晶粒を少なくとも80%で有するナノ構造を成長させる。
【0013】
本発明の典型的な実施形態において、粗粒商用高純度チタン合金が加工物のために使用され、それは、以下の重量パーセントによる組成を有する:窒素(N)を最大0.07%、炭素(C)を最大0.1%、水素(H)を最大0.015%、鉄(Fe)を最大0.50%、酸素(O)を最大0.40%、他の微量不純物の合計が最大0.4%であり、残余がチタン(Ti)である。
【0014】
限定されないが他の商用高純度チタン合金、Ti−6Al−4V、
Ti−6Al−4V ELI、Ti−6Ai−7Nb、およびTi−Zrなど、他のチタン合金を使用してもよい。これらのチタン合金の標準化学組成を表1〜3に見ることができ、それらは、最大重量%による標準化学組成を同定する(チタンおよびチタン合金バーおよびビレットのためのASTM B348−11、標準規格、外科用移植材料用途の加工チタン−6アルミニウム−7ニオブ合金のためのASTM F1295−11標準規格、外科用移植材料用途の加工チタン−6アルミニウム−4バナジウム ELI(Extra Low Interstitial)合金のためのASTM F136−12a標準規格、およびチタン合金Ti−Zr、米国特許第8,168,012号明細書)。
【0018】
加工物、例えばロッドまたはバーを
巨大ひずみ加工(「SPD」)と熱機械加工に供する。組み合わせられた加工工程は、多数の高角粒界(≧15°の方位差角)と高い転位密度とを生じることによって初期構造をかなり改良する多くの剪断変形を引き起こす。
【0019】
特に、典型的な実施形態において、加工物は等チャネル角プレシング−コンフォーム(ECAP−C)装置を使用して加工され、それは、周溝を有する回転ホイールと、画定した角度において交わるチャネルを形成する2つの固定ダイとからなる。しかしながら、他の実施形態において、等チャネル角プレシング、等チャネル角押出、増分等チャネル角プレシング、平行なチャネルを有する等チャネル角プレシング、複数のチャネルを有する等チャネル角プレシング、静水圧等チャネル角プレシング、繰返し押出および圧縮、デュアル・ロール等チャネル角押出、静水圧押出+等チャネル角プレシング、等チャネル角プレシング+静水圧押出、連続した高圧捩り、捩り等チャネル角プレシング、等チャネル角圧延または等チャネル角延伸などの他の公知の方法のタイプを使用して加工物を
巨大ひずみ加工に供することもできる。
【0020】
第一に、ECAP−C装置を使用して、加工物がホイール溝内に押し込まれ、加工物とホイールとの間に発生した摩擦力によってチャネル中に圧入される。商用高純度チタン合金加工物は、500℃未満、好ましくは100〜300℃未満の温度においてECAP−C装置によって加工される。他のチタン合金:Ti6Al4V、Ti6Al4V ELI、およびTi6Al7Nbは、650℃未満、好ましくは400〜600℃の温度においてECAP−C装置によって加工される。加工物は1〜12回、好ましくは4〜8回、ECAP−C装置を通過する。ダイは、チャネルの交点の角度がψ=75°〜ψ=135°の間、90°〜120°、そして100°〜110°に設定される。同等の構造の発展を可能にするために、チャネルの交点の角度が小さくなると、より少ない送り回数および/またはより高い温度を必要とし、チャネルの交点の角度が大きくなると、より多い送り回数および/またはより低い温度を必要とする。加工物は、ECAP−C装置を通過する各送りの間に90°の角度でその軸線の周りに回転させられ、それは、成長した構造物の均質性を提供する。この回転方法は、ECAPルートB
cとして知られている。しかしながら、他の実施形態において、限定されないが公知のルートA、C、B
A、E、またはそれらの特定の組合わせなど、ECAPルートは変更されてもよい。
【0021】
加工物がECAP−C加工工程により
巨大ひずみ加工を使用して加工された後、次いで加工物は、SPDタイプでない金属成形技術を使用して付加的な熱機械加工に供せられる。特に、熱機械加工はさらに、ECAP−Cだけよりも、加工物の構造を発展させる。典型的な実施形態において、限定されないが延伸、圧延、押出、鍛造、スエージ加工、またはそれらの特定の組合わせなどの1つまたは複数の熱機械加工工程が実施されてもよい。典型的な実施形態において、商用高純度チタン合金の熱機械加工は、T≦500℃の温度、好ましくは室温〜250℃で実施される。チタン合金:Ti6Al4V、Ti6Al4V ELI、およびTi6Al7Nbの熱機械加工が、550℃以下、好ましくは400〜500℃の温度で実施される。熱機械加工は、≧35%、好ましくは≧65%の断面積の減少をもたらす。
【0022】
巨大ひずみ加工と熱機械加工との組合わせは、主にサブミクロンの粒度まで、保持されたβ−チタン粒子を含有する場合があるα−チタン母材からなる初期構造物を実質的に改良する。本発明の典型的な実施形態において、ECAP−C方法は、≦15°の低い方位差角を有する壁を有する転位セルを形成するように組織化する多数の双晶および転位を導入することによって出発結晶粒構造をばらばらに壊す。
【0023】
熱機械加工の間、転位密度が増加し、低角セル壁の一部は、高角亜粒界に生成し、工業的用途に使用可能な延性のレベルを保持したまま強度を高める。
【0024】
典型的な実施形態において、得られたナノ構造チタン合金は、保持されたβ−チタン粒子を含有する場合があるα−チタン母材を含有する。
【0025】
図3は、出発商用高純度チタン合金の粒度分布を示すヒストグラムである。
図4、14、および19は、それぞれ、本発明による、商用高純度ナノ構造チタン合金、ナノ構造Ti6Al4V、およびナノ構造Ti6Al4V ELIの粒度分布を示すヒストグラムである。ナノ構造チタン合金の平均粒度は、出発チタン合金から低減される。
図5は、出発商用高純度チタン合金が≧15°の方位差角を有する粒界を90%〜95%で有することを示すが、
図6は、商用高純度ナノ構造チタン合金が≧15°の方位差角を有する粒界を20%〜40%で保持することを示す。
図15および20は、出発チタン合金:Ti6Al4VおよびTi6Al4V ELIが≧15°の方位差角を有する粒界を40〜55%で有することを示し、
図16および21は、ナノ構造Ti6Al4VおよびTi6Al4V ELIが≧15°の方位差角を有する粒界を20〜40%で保持することを示す。これらの分布は、有用な延性レベルの保持に寄与する。
【0026】
図7および8は、商用高純度ナノ構造チタン合金の縦断面および
横断面の結晶粒アスペクト比の分布を示し、それは、
横断面に比べて縦断面の低い側の結晶粒形状アスペクト比の結晶粒の比率の増加を示す。同様なアスペクト比がナノ構造Ti6Al4VおよびTi6Al4V ELI合金において観察される。
【0027】
これらの転位セルおよび亜結晶粒の大きさは、限定されないが透過型電子顕微鏡(TEM)およびX線回折(XRD)、特にXRDに適用可能である拡張畳込みマルチ全プロファイルフィッティング法(extended−convolutional multi whole profile fitting procedure)などの様々な技術によって測定され得る。例えば、
図9〜11は、本発明による、商用高純度ナノ構造チタン合金において等軸結晶粒、高い転位密度、および多数の亜結晶粒を示すTEM顕微鏡写真である。
図9において、等軸結晶粒は、連続した線によって強調され、
図10において高転位密度領域が連続した線で強調される。
図11において、結晶粒は連続した線で強調され、亜結晶粒は点線で強調される。
【0028】
表4は、出発チタン合金と、構造の成長のために達成され得る本発明によるナノ構造チタン合金との典型的な室温での機械的性質のレベルを示す。
【0030】
表4は、得られたナノ構造チタン合金が、増加した引張強さおよび/または剪断強さおよび/または疲労耐久限度など、様々な材料の性質の変化を示すことを明らかに示す。特に、本発明の典型的な実施形態によるナノ構造チタン合金は、10%を超える全引張伸びおよび25%を超える面積減少がある。さらに、ナノ構造チタン合金は、≦1.0ミクロンの大きさを有する結晶粒を少なくとも80%で有し、全ての結晶粒の約20〜40%が高角粒界を有し、全ての結晶粒の≧80%が、0.3〜0.7の範囲の結晶粒形状アスペクト比を有する。さらに、ナノ構造チタン合金物品は、100ナノメートル未満の平均の微結晶の大きさおよび≧10
15m
−2の転位密度の結晶粒を有する。
【0031】
したがって、本発明は、
巨大ひずみ加工および熱機械加工の結果として、出発加工物から強化された性質を有するナノ結晶構造を提供する。
【0032】
本発明によって使用されてもよいチタン合金には、商用高純度チタン合金(Grades1−4)、Ti−6Al−4V、Ti−6Al−4V ELI、Ti−Zr、またはTi−6Al−7Nbなどが含まれる。本発明によるナノ構造チタン合金は、航空宇宙用ファスナー、航空宇宙用構造部材、高性能スポーツ用品、ならびに医用物品、例えば脊椎ロッド、スクリュー、髄内釘、骨プレートおよびその他の整形外科用インプラントなど、材料の性質が強化された有用な物品を製造するために使用され得る。例えば、本発明は、例えば1200MPa超の増加した極限引張強さ、および例えば650MPa超の増加した剪断強さを有するナノ構造Ti合金からなる航空宇宙用ファスナーを提供することができる。
【0033】
前述の説明は、本発明を実施するための可能性のいくつかを説明する。多くの他の実施形態が、本発明の範囲および趣旨の範囲内で可能である。したがって、前述の説明は限定のためではなく例示のためのものとみなされ、本発明の範囲は、それらの均等物の全範囲と共に添付の請求の範囲によって与えられるものとする。