特許第6845771号(P6845771)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6845771鏡面仕上げ用砥石及び鏡面仕上げ用砥石の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845771
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】鏡面仕上げ用砥石及び鏡面仕上げ用砥石の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B24D 3/00 20060101AFI20210315BHJP
   B24D 3/32 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   B24D3/00 340
   B24D3/32
   B24D3/00 320A
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-170671(P2017-170671)
(22)【出願日】2017年9月5日
(65)【公開番号】特開2019-42894(P2019-42894A)
(43)【公開日】2019年3月22日
【審査請求日】2020年2月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】595073432
【氏名又は名称】信濃電気製錬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】西條 直樹
(72)【発明者】
【氏名】清水 強
(72)【発明者】
【氏名】大崎 浩美
【審査官】 山村 和人
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−181536(JP,A)
【文献】 特開平4−256581(JP,A)
【文献】 特開2005−246584(JP,A)
【文献】 特許第2694705(JP,B2)
【文献】 特開平10−264035(JP,A)
【文献】 特開平02−190244(JP,A)
【文献】 特開2000−024935(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 3/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも砥粒、ポリビニルアルコール、熱硬化性樹脂、気孔生成剤、及びアルデヒドを混合する工程と、前記ポリビニルアルコールを前記アルデヒドでアセタール化する工程とを含む鏡面仕上げ用砥石の製造方法であって、
前記砥粒として、平均粒子径が3〜6μmであるものを用い、
前記砥粒の配合量を、前記砥粒と前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の70〜80質量%とし、
前記ポリビニルアルコールの配合量を、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の50〜80質量%とし、
前記気孔生成剤として、平均粒子径が30〜60μmであるものを用い、
前記気孔生成剤の配合量を、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の40〜50質量%とすることを特徴とする鏡面仕上げ用砥石の製造方法。
【請求項2】
前記砥粒として、炭化ケイ素から成るものを用いることを特徴とする請求項1に記載の鏡面仕上げ用砥石の製造方法。
【請求項3】
前記熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂を用いることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の鏡面仕上げ用砥石の製造方法。
【請求項4】
前記気孔生成剤として、デンプン類から成るものを用いることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の鏡面仕上げ用砥石の製造方法。
【請求項5】
砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂と気孔生成剤とアルデヒドとを混合して、前記ポリビニルアルコールを前記アルデヒドでアセタール化することによって得られる鏡面仕上げ用砥石であって、
前記砥粒の平均粒子径は3〜6μmであり、
前記砥粒の配合量は、前記砥粒と前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の70〜80質量%であり、
前記ポリビニルアルコールの配合量は、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の50〜80質量%であり、
前記気孔生成剤の平均粒子径は30〜60μmであり、
前記気孔生成剤の配合量は、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の40〜50質量%であることを特徴とする鏡面仕上げ用砥石。
【請求項6】
前記砥粒は、炭化ケイ素から成るものであることを特徴とする請求項5に記載の鏡面仕上げ用砥石。
【請求項7】
前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂であることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の鏡面仕上げ用砥石。
【請求項8】
前記気孔生成剤は、デンプン類から成るものであることを特徴とする請求項5から請求項7のいずれか一項に記載の鏡面仕上げ用砥石。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鏡面仕上げ用砥石及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結合剤としてポリビニルアセタール樹脂を含む多孔質砥石は、様々な用途で用いられており(特許文献1、2)、特にグラビア製版ロールの表面を平坦化するための砥石として用いられている。しかしながら、グラビア製版ロールの表面には、軟質金属である銅がメッキされているため、このような砥石では鏡面仕上げまで行うことは困難であった。
【0003】
従来、グラビア製版ロール表面の鏡面仕上げは、ポリビニルアセタール多孔質砥石による研磨後、バフ研磨を施すことによって行われている。バフ研磨では、砥粒はバフに固着又は遊離しており、研磨中に砥粒は露出した状態となる。また、バフの繊維の大きな空間によって被加工体(ワーク)への当たりがソフトとなる。そのため、砥粒をワークに軽く当てて練り込むように磨くことで鏡面仕上げが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6−1967号公報
【特許文献2】特開平10−264035号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バフ研磨は、ワークへの当たりがソフトであるという特性上、砥石研磨と比較してワークにうねりが発生しやすくなるという問題がある。また、砥粒、バフ屑、油分等がワークに残留して汚染の原因となる場合もある。
【0006】
バフ研磨中、騒音やホコリが発生するために生じる労働環境上の問題、砥石研磨後にバフ研磨を行う際、グラビア製版ロールを砥石研磨機から外してバフ研磨設備に装着し直す必要があるという問題、バフ研磨時の発塵によって砥石研磨時のキズの要因となることを避けるために隔離したエリアを設ける必要があるという問題等もある。
【0007】
更に、バフ研磨ではワークが発熱するために、銅メッキのように熱の影響を受けやすい材質のワークでは、研磨後の冷却で変形してしまう可能性がある。
【0008】
このようなバフ研磨における問題点は、砥石研磨によってバフ研磨並みの鏡面仕上げと表面粗さが得られれば解決されるが、従来のポリビニルアセタール多孔質砥石は、砥粒が結合剤に包まれた構造であり、砥石自体を脱落させながら研磨するために、砥粒の粒径を小さくすることによって表面粗さを小さくすることは可能であるが、鏡面仕上げをすることは難しい。
【0009】
砥石研磨で、バフ研磨のように練り込むように磨くためには、砥石の脱落量を抑える必要があるが、砥石が脱落しないと目詰まりが起こりワーク面の研磨軌跡を悪化させてしまう。
【0010】
そこで本発明は上記事情に鑑み、銅メッキのような軟質金属を鏡面研磨することができる鏡面仕上げ用砥石及びその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明では、
少なくとも砥粒、ポリビニルアルコール、熱硬化性樹脂、気孔生成剤、及びアルデヒドを混合する工程と、前記ポリビニルアルコールを前記アルデヒドでアセタール化する工程とを含む鏡面仕上げ用砥石の製造方法であって、
前記砥粒として、平均粒子径が3〜6μmであるものを用い、
前記砥粒の配合量を、前記砥粒と前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の70〜80質量%とし、
前記ポリビニルアルコールの配合量を、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の50〜80質量%とし、
前記気孔生成剤として、平均粒子径が30〜60μmであるものを用い、
前記気孔生成剤の配合量を、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の40〜50質量%とする鏡面仕上げ用砥石の製造方法を提供する。
【0012】
本発明のような鏡面仕上げ用砥石の製造方法であれば、銅メッキのような軟質金属を鏡面研磨することができる砥石を製造することができる。
【0013】
また、前記砥粒として、炭化ケイ素から成るものを用いることが好ましい。
【0014】
このような炭化ケイ素から成る砥粒は、硬度が高く、また、切削能力に優れているため、本発明の鏡面仕上げ用砥石の製造方法に好適に用いることができる。
【0015】
また、前記熱硬化性樹脂として、フェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0016】
このような熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いた製造方法であれば、得られる砥石の硬度、弾性、消耗度、切削性等がよりよいものとなる。
【0017】
また、前記気孔生成剤として、デンプン類から成るものを用いることが好ましい。
【0018】
このようなデンプン類から成る気孔生成剤を用いた製造方法であれば、より好適な気孔が形成された砥石を製造することができる。
【0019】
また、本発明では、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂と気孔生成剤とアルデヒドとを混合して、前記ポリビニルアルコールを前記アルデヒドでアセタール化することによって得られる鏡面仕上げ用砥石であって、
前記砥粒の平均粒子径は3〜6μmであり、
前記砥粒の配合量は、前記砥粒と前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の70〜80質量%であり、
前記ポリビニルアルコールの配合量は、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の50〜80質量%であり、
前記気孔生成剤の平均粒子径は30〜60μmであり、
前記気孔生成剤の配合量は、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の40〜50質量%である鏡面仕上げ用砥石を提供する。
【0020】
本発明の鏡面仕上げ用砥石であれば、銅メッキのような軟質金属を鏡面研磨することができる。
【0021】
また、前記砥粒は、炭化ケイ素から成るものであることが好ましい。
【0022】
このような炭化ケイ素から成る砥粒であれば、硬度が高く、また、切削能力に優れているため、本発明の鏡面仕上げ用砥石に好適に用いることができる。
【0023】
また、前記熱硬化性樹脂は、フェノール樹脂であることが好ましい。
【0024】
このような熱硬化性樹脂がフェノール樹脂であれば、得られる砥石の硬度、弾性、消耗度、切削性等がよりよいものとなる。
【0025】
また、前記気孔生成剤は、デンプン類から成るものであることが好ましい。
【0026】
このようなデンプン類から成る気孔生成剤を用いることにより、より好適な気孔が形成された鏡面仕上げ用砥石となる。
【発明の効果】
【0027】
本発明のような鏡面仕上げ用砥石であれば、銅メッキのような軟質金属を鏡面研磨することができる。特に、湿式研磨で、銅などの軟質金属表面に鏡面仕上げを施すために用いられることが好ましく、グラビア製版ロールの表面にメッキされた銅を鏡面研磨するのに好適である。グラビア製版ロールの表面にメッキされた銅を鏡面研磨する際、砥石研磨機において砥石を交換するのみで鏡面仕上げを行うことができるため、従来のようにバフ研磨を行う必要がない。そのため、バフ研磨による作業性や労働環境上の問題を解決することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0028】
上記のように、銅メッキのような軟質金属を鏡面研磨することができる砥石及びその製造方法の開発が求められていた。
【0029】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、砥粒、結合剤、気孔生成剤の配合量や、砥粒、気孔生成剤の平均粒径を特定範囲とすることによって、鏡面研磨が可能な砥石の脱落量を維持しつつ、気孔から研磨屑を排出することによって目詰まりの発生を抑えられ、銅メッキのような軟質金属表面を鏡面研磨できることを見出し、本発明を完成させた。
【0030】
すなわち、本発明の砥石は、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂と気孔生成剤とアルデヒドとを混合して、前記ポリビニルアルコールを前記アルデヒドでアセタール化することによって得られる鏡面仕上げ用砥石であって、
前記砥粒の平均粒子径は3〜6μmであり、
前記砥粒の配合量は、前記砥粒と前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の70〜80質量%であり、
前記ポリビニルアルコールの配合量は、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の50〜80質量%であり、
前記気孔生成剤の平均粒子径は30〜60μmであり、
前記気孔生成剤の配合量は、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の40〜50質量%であることを特徴とする鏡面仕上げ用砥石である。
【0031】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0032】
<鏡面仕上げ用砥石>
本発明の鏡面仕上げ用砥石は、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂と気孔生成剤とアルデヒドとを混合して、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化することによって得ることができるものであり、砥粒、ポリビニルアルコールをアルデヒドでアセタール化したポリビニルアセタール樹脂、及び熱硬化性樹脂を含み、気孔生成剤によって気孔が形成されている。本発明の鏡面仕上げ用砥石の材料について、以下詳細に説明する。
【0033】
(砥粒)
本発明の鏡面仕上げ用砥石に含まれる砥粒の平均粒子径は、3〜6μmである。砥粒の平均粒子径が6μmより大きいと、砥石の研削力が大きすぎて鏡面研磨ができなくなる。また、砥粒の平均粒子径が3μm未満であると、製造した砥石の研削力が小さすぎて鏡面研磨ができなくなる。ここで、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積平均粒子径のことである。
【0034】
砥粒の材質としては、炭化ケイ素、アルミナ、酸化クロム、酸化セリウム、酸化ジルコニウム、ジルコンサンド等が挙げられ、これらを単独又は二種以上を併せて用いることができる。なかでも炭化ケイ素から成る砥粒は、硬度が高く、他の材質に比べて切削能力に優れているため好ましい。
【0035】
砥粒の配合量は、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の70〜80質量%である。また、ポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の配合量は、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の20〜30質量%である。
【0036】
砥石の原料中の砥粒配合量を高くすると、砥粒にかかる研磨荷重が分散するため、切削性は低下するもののワークの表面粗さを小さくすることができる。しかしながら、砥粒の配合量が砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の80質量%を超え、砥石の砥粒配合率が高くなりすぎた場合、砥石の研磨面で目詰まりが発生し、逆にワークの表面粗さを悪化させてしまうために鏡面研磨ができなくなる。
【0037】
また、砥石の原料中の砥粒配合量が砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の70質量%未満であると、砥石中のポリビニルアセタール樹脂と熱硬化性樹脂の含有量が相対的に増えるため、砥石が硬くなって砥粒の自己脱落が生じにくくなる。その結果、砥粒の切れ味が低下すると共に、砥石が目詰まりを起こしやすくなり、ワークの表面粗さを悪化させて鏡面研磨ができなくなる。
【0038】
(ポリビニルアルコール)
本発明の鏡面仕上げ用砥石には、砥石の弾性が損なわれないように、ポリビニルアルコールを用いる。ポリビニルアルコールは、後述するアルデヒドによってアセタール化し、ポリビニルアセタール樹脂となる。砥石の原料中のポリビニルアルコールの配合量は、ポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の50〜80質量%であり、好ましくは60〜70質量%である。ポリビニルアルコールの配合量が80質量%より多いと、湿式研磨では砥石が膨潤し、本来の性能を発揮できなくなる。また、配合量が50質量%より少ないと、砥石中のポリビニルアセタール樹脂の含有量が少なくなって弾性が損なわれるために鏡面研磨ができない。
【0039】
ポリビニルアルコールは完全ケン化物でも部分ケン化物でもよいが、ケン化度が98mol%以上の完全ケン化物を用いることが好ましい。ケン化度の高い方が、高い耐水性と強度が得られるため好ましい。
【0040】
(熱硬化性樹脂)
一般に、ポリビニルアセタール樹脂を含有する砥石は、水によって膨潤してしまう。従って、砥石の形状維持性を付与するために、ポリビニルアセタール樹脂以外の熱硬化性樹脂を混合する。熱硬化性樹脂としては、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、尿素系樹脂、アクリル系樹脂、メタクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂等が挙げられ、これらを単独又は二種以上を併せて用いることができる。得られる砥石の硬度、弾性、消耗度、切削性等の観点から、熱硬化性樹脂としてフェノール樹脂を用いることが好ましい。
【0041】
(気孔生成剤)
気孔生成剤は、砥石に気孔を形成するために添加するものである。気孔は砥石の弾性を高めると共に、研磨中に発生する研磨屑の排出を促して目詰まりを抑制する。気孔生成剤としては、デンプン類が好ましく、コーンスターチ、米粉、馬鈴薯等が挙げられ、これらを単独又は二種以上を併せて用いることができる。
【0042】
気孔生成剤によって砥石に形成される気孔の大きさは、気孔生成剤の粒子径によって調整できる。気孔径が大きいほど、砥石の弾性と研磨屑の排出性を高めることができるが、大きすぎると砥石のワークへの接触面積が小さくなり切削性が低下する。そのため、気孔生成剤の平均粒子径は30〜60μmである。ここで、平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積平均粒子径のことである。
【0043】
気孔生成剤の配合量は、ポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の40〜50質量%である。40質量%未満では、砥石の弾性と目詰まりの抑制が十分でなく、鏡面研磨ができなくなる。また、50質量%を超えると、砥粒の脱落量が増えて、研削力が増大するため、鏡面研磨ができない。
【0044】
(アルデヒド)
ポリビニルアルコールをアセタール化するために添加するアルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、ブチルアルデヒド等を用いることができる。ポリビニルアルコールをホルムアルデヒドでアセタール化するとポリビニルホルマール樹脂が、ブチルアルデヒドでアセタール化するとポリビニルブチラール樹脂が得られる。ここでは、アルデヒドとして、ホルムアルデヒドを用いることが好ましい。ホルムアルデヒドは、その水溶液をホルマリンとして安価かつ安定的に入手することができるため生産性に優れる。また、ポリビニルホルマール樹脂は、他のポリビニルアセタール樹脂に比べて、通水性に優れ、硬度も低いため、弾性砥石としての性能に優れる。
【0045】
アルデヒドは、ポリビニルアルコールのヒドロキシ基に対して、1/2当量以上用いられることが好ましい。
【0046】
(酸触媒)
また、アセタール化は、通常、酸の存在下で行われるため、酸触媒を用いることが好ましい。酸触媒としては、塩酸、硫酸等を用いることができる。使用する酸触媒の量としては、特に限定されず、触媒量であればよい。
【0047】
このような本発明の鏡面仕上げ用砥石であれば、銅メッキのような軟質金属を鏡面研磨することができる。特に、湿式研磨で、銅などの軟質金属表面に鏡面仕上げを施すために用いられることが好ましく、グラビア製版ロールの表面にメッキされた銅を鏡面研磨するのに好適である。グラビア製版ロールの表面にメッキされた銅を鏡面研磨する際、砥石研磨機において砥石を交換するのみで鏡面仕上げを行うことができるため、従来のようにバフ研磨を行う必要がない。そのため、バフ研磨による作業性や労働環境上の問題を解決することが可能となる。
【0048】
<鏡面仕上げ用砥石の製造方法>
また、本発明では、少なくとも砥粒、ポリビニルアルコール、熱硬化性樹脂、気孔生成剤、及びアルデヒドを混合する工程と、前記ポリビニルアルコールを前記アルデヒドでアセタール化する工程とを含む鏡面仕上げ用砥石の製造方法であって、
前記砥粒として、平均粒子径が3〜6μmであるものを用い、
前記砥粒の配合量を、前記砥粒と前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の70〜80質量%とし、
前記ポリビニルアルコールの配合量を、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の50〜80質量%とし、
前記気孔生成剤として、平均粒子径が30〜60μmであるものを用い、
前記気孔生成剤の配合量を、前記ポリビニルアルコールと前記熱硬化性樹脂の合計量の40〜50質量%とする鏡面仕上げ用砥石の製造方法を提供する。以下、各工程について詳しく説明する。
【0049】
[混合工程]
本発明の鏡面仕上げ用砥石の製造方法では、まず、ポリビニルアルコールを水に溶解させて水溶液とする。該水溶液に熱硬化性樹脂、砥粒、気孔生成剤、及びアルデヒドを混合しスラリーとする。これらの混合は、ゲージ圧が−0.095MPa以下の減圧下で行うことが好ましい。このようにすれば、混合時に発生する気泡が残り、砥石に大きな気孔が形成されることを抑制することができる。酸触媒を添加するタイミングとしては、特に限定されないが、均一なスラリーを調製した後に添加するのが好ましい。なお、混合する材料であるポリビニルアルコール、熱硬化性樹脂、砥粒、気孔生成剤、アルデヒド、酸触媒については、上述の鏡面仕上げ用砥石の説明で挙げたものと同様のものを使用することができる。
【0050】
[アセタール化工程]
次に、作製したスラリーを所望の形状の型に入れて、アルデヒドによるポリビニルアルコールのアセタール化を進行させて固化させる。このとき、十分にアセタール化反応を進行させるために、50℃以上で15時間以上おくことが好ましい。
【0051】
[熱処理工程]
その後、型から取出して、未反応のアルデヒドと酸触媒を取り除くために水洗を行い、乾燥させることができる。乾燥後、更に熱処理を施すことが好ましい。熱処理の条件としては、110℃〜160℃で15〜30時間であることが好ましい。160℃以下、及び30時間以下の熱処理であれば、砥石の弾性が低下する恐れがない。
【0052】
[寸法出し加工工程]
熱処理を施した後、寸法出し加工によって所望のサイズに加工された砥石を得ることができる。砥石の形状は、円盤状でもサイコロ状でもよく、その他の形状でもよく、装着研磨機の条件によって任意に選ばれる。
【0053】
このような本発明の鏡面仕上げ用砥石の製造方法であれば、銅メッキのような軟質金属を鏡面研磨することができる鏡面仕上げ用砥石を製造できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0055】
[実施例1]
まず、ポリビニルアルコールの完全ケン化物(ケン化度98mol%)1.5kgを水に加熱溶解させて、6500mlの23wt%水溶液を得た。該水溶液に、フェノール樹脂0.75kgを水溶液としたものを加え、更に気孔生成剤として馬鈴薯デンプン1kg(平均粒子径45μm)を加えた。
【0056】
次に、37%ホルムアルデヒド水溶液を1000ml加えた後、炭化ケイ素から成る砥粒(GC#3000、平均粒子径4μm)を7kg加えて混合し、均一なスラリーを調製した。続いて、該スラリーに酸触媒として70%濃硫酸水溶液を1000ml加えた。なお、これらの混合調製は、ゲージ圧が−0.09MPaの減圧下で行った。
【0057】
調製したスラリーを型枠に注入して、60℃で24時間保持し、アセタール化反応を進行させて固化させた。固化したものを型枠から取り出して水洗し、未反応のホルムアルデヒドと硫酸を除去した。その後、乾燥させて、更に120℃で20時間の熱処理を行った。熱処理を施したものを所望の形状に加工して砥石を完成させた。
【0058】
作製した砥石を用いて、円周600mm、長さ1100mm、ビッカース硬度220HVの銅がメッキされたグラビア製版ロールに湿式研磨を行った。研磨前後の表面粗さと光沢度を測定して砥石の研磨性能を評価した。ここでは、(株)ミツトヨ製SV−3100を用いて、JIS B 0601:1994の表面粗さ規格に基づいて算術平均粗さRaを測定した。また、コニカミノルタ(株)製MULTI GLOSS 268を用いて、JIS Z 8741:1997の鏡面光沢度‐測定方法に基づいて測定角度60°の鏡面光沢度を測定した。
【0059】
評価結果を表1に示す。研磨前のワークの表面粗さRaが0.148μmであったのに対し、研磨後の表面粗さRaは0.017μmであった。また、光沢度は、研磨前が150であったのに対して、研磨後は580であった。
【0060】
なお、表1には、参考としてバフ研磨前後の表面粗さと光沢度を併せて示す(比較例11)。この結果から、本発明の砥石を用いれば、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0061】
[実施例2]
実施例2では、気孔生成剤としてコーンスターチ(平均粒子径45μm)を用いた以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0062】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例2の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0063】
[実施例3]
実施例3では、砥粒としてGC#4000、平均粒子径3μmの炭化ケイ素粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作成した。
【0064】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例3の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0065】
[実施例4]
実施例4では、砥粒としてGC#2500、平均粒子径6μmの炭化ケイ素粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作成した。
【0066】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例4の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0067】
[実施例5]
実施例5では、砥粒の配合量を、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の70質量%とし、ポリビニルアルコールとフェノール樹脂の配合量を30質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作成した。
【0068】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例5の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0069】
[実施例6]
実施例6では、砥粒の配合量を、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の80質量%とし、ポリビニルアルコールとフェノール樹脂の配合量を20質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作成した。
【0070】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例6の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0071】
[実施例7]
実施例7では、ポリビニルアルコールの配合量を、ポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の50質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作成した。
【0072】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例7の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0073】
[実施例8]
実施例8では、ポリビニルアルコールの配合量を、ポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の80質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作成した。
【0074】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例8の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0075】
[実施例9]
実施例9では、気孔生成剤の平均粒子径を30μmとした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0076】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例9の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0077】
[実施例10]
実施例10では、気孔生成剤の平均粒子径を60μmとした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0078】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例10の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
[実施例11]
実施例11では、気孔生成剤の配合量をポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の40質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0079】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例11の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0080】
[実施例12]
実施例12では、気孔生成剤の配合量をポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の50質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0081】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。実施例12の砥石も、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかった。
【0082】
[比較例1]
比較例1では、砥粒としてGC#1500、平均粒子径7μmの炭化ケイ素粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0083】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例1の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、砥粒の粒子径が大きく、鏡面研磨を行うには研削力が強すぎるためと考えらえる。
【0084】
[比較例2]
比較例2では、砥粒としてGC#6000、平均粒子径2μmの炭化ケイ素粉末を用いた以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0085】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例2の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、砥粒の粒子径が小さく、鏡面研磨を行うには研削力が弱すぎるためと考えらえる。
【0086】
[比較例3]
比較例3では、砥粒の配合量を、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の85質量%とし、ポリビニルアルコールとフェノール樹脂の配合量を15質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0087】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例3の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、砥石の砥粒配合率が高すぎて砥石の研磨面で目詰まりが発生したためと考えらえる。
【0088】
[比較例4]
比較例4では、砥粒の配合量を、砥粒とポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の60質量%とし、ポリビニルアルコールとフェノール樹脂の配合量を40質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0089】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例4の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、ポリビニルアセタール樹脂と熱硬化性樹脂の含有量が増えて砥粒の自己脱落が生じにくくなり、砥石の研磨面で目詰まりが発生したためと考えらえる。
【0090】
[比較例5]
比較例5では、ポリビニルアルコールの配合量を、ポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の42質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0091】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例5の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、ポリビニルアセタール樹脂の含有量が減り、砥石の弾性が低下したためと考えられる。
【0092】
[比較例6]
比較例6では、ポリビニルアルコールの配合量を、ポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の92質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0093】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例6の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、ポリビニルアセタール樹脂の含有量が増えて耐水性が低下し、研磨中に膨潤して目詰まりが発生したためであると考えらえる。
【0094】
[比較例7]
比較例7では、気孔生成剤の平均粒子径を15μmとした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0095】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例7の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、気孔径が小さく弾性や研磨屑の排出性が低いためであると考えられる。
【0096】
[比較例8]
比較例8では、気孔生成剤の平均粒子径を70μmとした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0097】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例8の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、気孔径が大きくなり鏡面研磨を行うには研削力が弱すぎるためと考えらえる。
【0098】
[比較例9]
比較例9では、気孔生成剤の配合量をポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の30質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0099】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例9の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、気孔が少ないため弾性が十分でなく、かつ目詰まりも発生したためであると考えらえる。
【0100】
[比較例10]
比較例10では、気孔生成剤の配合量をポリビニルアルコールと熱硬化性樹脂の合計量の60質量%とした以外は、実施例1と同様の方法で砥石を作製した。
【0101】
作製した砥石について、実施例1と同様の評価を行った。その結果を表1に示す。比較例10の砥石では、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。これは、気孔が多くて鏡面研磨を行うには研削力が強すぎるためと考えらえる。
【0102】
【表1】
【0103】
表1に示されるように、実施例1〜12で作製した鏡面仕上げ用砥石は、バフ研磨と同等の鏡面研磨が可能であることがわかる。また、本発明の範囲を超えた材料を用いて作製した比較例1〜10は、研磨後の表面粗さRaが大きく、光沢度も低い値となり、鏡面研磨はできなかった。
【0104】
以上のことから、本発明であれば、銅メッキのような軟質金属を鏡面研磨することができる砥石を製造できることが明らかになった。
【0105】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。