(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845859
(24)【登録日】2021年3月2日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】プレス硬化部品を製造するための部分放射加熱方法およびこのような製造のための装置
(51)【国際特許分類】
C21D 9/00 20060101AFI20210315BHJP
C21D 1/34 20060101ALI20210315BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20210315BHJP
C21D 1/673 20060101ALI20210315BHJP
C21D 1/70 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
C21D9/00 A
C21D1/34 R
C21D1/18 C
C21D1/673
C21D1/70 E
【請求項の数】17
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-538938(P2018-538938)
(86)(22)【出願日】2016年10月14日
(65)【公表番号】特表2018-534436(P2018-534436A)
(43)【公表日】2018年11月22日
(86)【国際出願番号】EP2016074770
(87)【国際公開番号】WO2017064281
(87)【国際公開日】20170420
【審査請求日】2019年9月30日
(31)【優先権主張番号】15189940.8
(32)【優先日】2015年10月15日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】518129765
【氏名又は名称】オートメーション,プレス アンド ツーリング,アーペー アンド テー アーべー
(74)【代理人】
【識別番号】100131451
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 理
(74)【代理人】
【識別番号】100106840
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 耕司
(74)【代理人】
【識別番号】100167933
【弁理士】
【氏名又は名称】松野 知紘
(74)【代理人】
【識別番号】100174137
【弁理士】
【氏名又は名称】酒谷 誠一
(74)【代理人】
【識別番号】100184181
【弁理士】
【氏名又は名称】野本 裕史
(72)【発明者】
【氏名】コロシェッツ,クリスチャン
(72)【発明者】
【氏名】スクリケルッド,マーティン
(72)【発明者】
【氏名】エリックソン,ケント
【審査官】
鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2014−147963(JP,A)
【文献】
特開2010−044875(JP,A)
【文献】
特開2011−101889(JP,A)
【文献】
特開平11−302723(JP,A)
【文献】
特開2014−148726(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0091758(US,A1)
【文献】
韓国公開特許第10−2012−0110963(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02−1/84
C21D 9/00−9/44,9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブランクが処理される前に前記ブランク(2)を部分的に加熱することによって異なる構造のゾーン(2a、2b)を有する熱処理材料のプレス硬化部品を製造する方法(100)であって、
前記ブランクをオーステナイト相にするために、前記ブランクを前記ブランクの前記材料のオーステナイト化温度以上の温度に加熱(104)するために前記ブランクを炉(10)内に配置するステップ(102)と、
前記加熱されたブランクを、前記ブランクの上面に向けてIR放射(24)を供給するように構成されたIR源(22)を備える赤外線(IR)加熱ステーション(20)内に配置するステップであって、前記ブランクはIR放射から前記ブランクの底面の遮蔽を提供する支持体の上に設けられるステップと、
前記ブランクの少なくとも1つの第1ゾーン(2a)の外側にIR放射(24)が到達するのを阻止するために、前記IR源(22)と前記ブランク(2)との間にマスク(26)を配置するステップ(105)と、
前記ブランクの前記少なくとも1つの第1ゾーン(2a)をIR放射(24)によって部分的に加熱し(106)、これにより前記ブランクの前記少なくとも1つの第1ゾーンをオーステナイト相に保ち、前記少なくとも1つの第1ゾーンの外側にある、前記ブランクの第2ゾーンを、前記オーステナイト化温度未満に冷却するステップと、
前記ブランクをプレス硬化部品(2’)に成形および焼入れするために処理ユニット(30)に前記ブランクを配置するステップ(108)と、
を特徴とする方法。
【請求項2】
前記マスク(26)は、前記放射加熱ステーション(20)内の前記ブランク(2)と平行に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記マスク(26)には、放射(24)が通過して前記ブランク(2)に到達するための1つ以上の開口部または凹部(26a)が設けられている、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記マスク(26)は、前記ブランク(2)と直接接触して配置される、請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記ブランク(2)の平坦な上面は、前記マスク(26)の平坦な底面に接して配置される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記赤外線放射が、0.7から3μmのスペクトル範囲にある、請求項1から5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
前記赤外線放射は、0.8から1.5μmの波長を有する近赤外線(NIR)スペクトル内である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記ブランク(2)は8から100秒の間、前記IR加熱ステーションに保持され、前記ブランクの前記第2ゾーンを冷却速度に応じて550から750℃の間で冷却する、請求項1から7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記マスク(26)は、アルミニウムまたはステンレス鋼で作られている、請求項1から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
前記マスク(26)は、クロム層が設けられている、請求項1から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
異なる構造のゾーン(2a’、2b’)を有する熱処理材料のプレス硬化部品(2’)を製造するための装置(1)であって、
ブランク(2)を受け取るように構成され、前記ブランクをオーステナイト相にするために前記ブランクの前記材料のオーステナイト化温度以上の温度に前記ブランクを加熱する、炉(10)と、
前記加熱されたブランクを受け入れるように構成され、前記ブランクの上面に向けてIR放射(24)を供給するように構成されたIR源(22)を備える赤外線(IR)加熱ステーション(20)であって、当該赤外線(IR)加熱ステーションの中に受け入れたブランクはIR放射から前記ブランクの底面の遮蔽を提供する支持体の上に設けられており、前記IR加熱ステーション(20)はIR源(22)と前記ブランク(2)との間に配置されたマスク(26)を備え、前記マスクはIR放射(24)が前記ブランクの少なくとも1つの第1ゾーン(2a)の外側に到達するのを阻止するように構成されており、前記IR加熱ステーションはIR放射(24)によって前記ブランクの前記少なくとも1つの第1ゾーン(2a)を部分的に加熱し、これによって前記ブランクの前記第1ゾーンをオーステナイト相に維持し、前記少なくとも1つの第1ゾーンの外側である、前記ブランクの第2ゾーンを前記オーステナイト化温度未満に冷却させる、赤外線(IR)加熱ステーション(20)と、
前記部分的に加熱されたブランク(2)を受け取り、前記ブランクをプレス硬化部品(2’)に成形および焼入れするように構成された、処理ユニット(30)と
を備える装置。
【請求項12】
前記マスク(26)は、前記IR加熱ステーション(20)に受け取られる前記ブランクと平行に配置される、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記マスク(26)には、放射が通過して前記ブランク(2)に到達するための1つ以上の開口部または凹部(26a)が設けられている、請求項11から12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記マスク(26)は、前記ブランク(2)と直接接触して配置される、請求項11から13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記マスク(26)の平坦な底面は、前記IR加熱ステーションに受け取られる前記ブランクの平坦な上面と直接接触するように構成されている、請求項14に記載の装置。
【請求項16】
前記マスク(26)は、ステンレス鋼またはアルミニウムで作られている、請求項11から15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記マスク(26)は、クロム層が設けられている、請求項11から16のいずれかに記載の装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、成形された構成要素の製造、特に異なる微細構造のゾーンを有するプレス硬化部品の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
通常、プレス硬化部品は均一な強度分布を示す。特に、衝突性能に関する要求が高い安全関連部品の場合、この均一な強度分布は問題を引き起こす可能性がある。衝突時には、Bピラーはたとえば、下部が比較的可撓性の場合にはより多くのエネルギーを吸収し、車室内への侵入を防止するためには中間部と上部が高張力でなければならない。プレス硬化部品内の特性を調整するための、既知の方法がある。たとえば、テーラードロールドブランク、テーラード溶接ブランク、プレス硬化工具のテーラードテンパリング、およびテーラード加熱の方法である。これらの方法は、プレス硬化部品内に軟質/硬質ゾーンを作り出すために使用される。
【0003】
これらの方法のすべての短所は、大きな領域でしか特性を調整できないことである。さらに、テーラード溶接ブランクおよびテーラードロールドブランクの不都合は、製造に費用がかかるため部品価格を上昇させ、良好な接触圧を必要とするため高価な工具を必要とし、プロセスウィンドウが厳しいために高度なプロセス制御を必要とすることである。
【0004】
工具のテーラードテンパリングは、部品の廃棄後に部品の歪みを引き起こし、工具の摩耗を大きくし、工具コストを高くする不都合を有する。
【0005】
テーラード加熱の既存の技術は、軟質/硬質ゾーン間の大きな遷移ゾーン、再現性の困難、高いプロセスコストの欠点を有し、大きな領域(たとえば、Bピラーの1/3)にのみ適している。
【0006】
その結果、費用効果が高く、高度なプロセス制御を必要とせず、部品のより小さい領域の特性を調整することができる、プレス硬化部品の特性を調整する方法が必要である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、現在の解決策に伴う上述の不都合を緩和する、改善された解決策を提供することである。さらに、部分放射加熱を用いてプレス硬化部品を製造するための方法および装置を提供することが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様によれば、これは、ブランクが処理される前にブランクを部分的に加熱することによって異なる構造のゾーンを有する熱処理材料のプレス硬化部品を製造する方法によって、提供される。方法は、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンを放射によって部分的に加熱する放射加熱ステーション内で、ブランクをオーステナイト相にするためにブランクの材料のオーステナイト化温度以上の温度までブランクを加熱するために炉内にブランクを配置し、これによりブランクの少なくとも1つの第1ゾーンをオーステナイト相に保つステップと、ブランクをプレス硬化部品に成形および焼入れするための処理ユニットにブランクを配置するステップと、を備える。
【0009】
プレス硬化部品の成形中、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンは、オーステナイト相にあってもよい。ブランクは、前記少なくとも1つの第1ゾーンの外側にあり、前記放射に曝されない、少なくとも1つの第2ゾーンをさらに備えてもよい。放射加熱を用いてブランクを部分的に加熱することにより、成形および焼入れ時にオーステナイト相になるブランクの少なくとも1つの第1ゾーンに対応するプレス硬化部品の1つ以上のゾーンが、前記少なくとも1つの第2ゾーン内のブランクの部品とは異なる構造を有するようになる。ブランクの部分的に加熱された少なくとも1つの第1ゾーンは、処理ユニット内で成形および焼入れされると硬化することがある。すなわち、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンは、成形および焼入れされるとマルテンサイト相に入ることができる。少なくとも1つの第2ゾーンにおいて、ブランクは、成形および焼入れされたときに硬化され得ないか、または少なくとも1つの第1ゾーンとは異なる内部構造を少なくとも備えられ得る。少なくとも1つの第2ゾーンは、たとえば、成形および焼入れされたときにフェライトおよびパーライト相に入ることができる。異なる内部構造は、異なる内部微細構造であってもよい。
【0010】
放射加熱ステーションにおいて、放射源は、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンに放射を提供するように配置されてもよい。放射源の配置は、少なくとも1つの第1ゾーンのみに放射を提供するように設計されてもよい。あるいは、放射加熱ステーションは、ブランク全体を覆う配置の放射源を備え、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンに放射を提供する放射源のみが、少なくとも1つの第1ゾーンを加熱するために作動してもよい。たとえば、放射源はマトリクス状に配置されてもよく、放射源を用いてブランクを加熱する際に、特定の放射源は、特定のパターンでブランクを加熱するために作動するように制御されてもよい。
【0011】
ブランクを炉とは別個の放射加熱ステーションに配置することにより、ブランクの部分加熱を正確に制御することができる。炉は、通常、ブランクの周囲の加熱を提供し、いくつかの方向からブランクに熱を提供する。オーステナイト化に必要な比較的高い温度までの時間効率のよいブランクの加熱が提供可能である。したがって、部分加熱のための個別の放射加熱ステーションを有することがエネルギー効率的であり、この加熱ステーションは少なくとも1つの第1ゾーンにおいてオーステナイト相を維持する。
【0012】
ブランク全体がオーステナイト相まで加熱され、その後少なくとも1つの第1ゾーンがオーステナイト相に維持されて少なくとも1つの第2ゾーンがオーステナイト相から冷却されたままにされる方法を用いることにより、ブランクの成形および焼入れ時の第1および第2ゾーンの温度を制御することができる。これにより、プレス硬化部品における第1ゾーンおよび第2ゾーンの内部構造を制御することができる。さらに、第1および第2ゾーンの両方をオーステナイト相まで加熱することによって、ブランクを成形および焼入れする際に少なくとも1つの第2ゾーンが存在する相を制御することが容易になる。たとえば、ブランクの成形および焼入れの際に、フェライト、パーライトまたはベイナイト相、またはこれらの混合物、またはこの相とオーステナイトとの混合物中に少なくとも1つの第2ゾーンを有することが、望ましい場合がある。これは、ブランクのすべてのゾーンの良好な成形性を提供し得る。このような相混合は、少なくとも1つの第2ゾーンにおけるブランクの材料の強度レベルを制御するためにさらに求められ得る。
【0013】
ブランクの第2ゾーンもオーステナイト相に加熱しない場合、成形および焼入れ時に少なくとも1つの第2ゾーンがどの温度であるかを制御することが困難な場合がある。ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンと少なくとも1つの第2ゾーンとの間に、少なくとも1つの第1および第2ゾーンの温度が異なるときに遷移ゾーンが作り出されてもよい。そのような遷移ゾーンにおいて、ブランクは、フェライト、パーライト、ベイナイトおよび/またはオーステナイトの混合相であってもよい。
【0014】
さらに、成形および焼入れに到達するときに、第1ゾーンと第2ゾーンとの間の温度差が大きすぎることがあり、すなわち第2ゾーンは冷たすぎる可能性がある。ブランクがAlSiコーティングのような被覆材料で作られている場合、ブランクのコーティングと基材との間に必要な反応を提供するために、少なくとも1つの第2ゾーン、すなわち硬化されないブランクの部分もまたオーステナイト相に加熱する必要があり得る。ブランクは、鋼ブランクであってもよい。
【0015】
ブランクは、オーステナイト化温度以上の温度に加熱され、ブランクの材料がオーステナイト相に入るまでの時間その温度に保たれる。
【0016】
炉内のオーステナイト化の後のテーラード加熱のための解決策としての部分放射加熱では、特性が異なる非常に広い領域と、異なる強度/特性を有する非常に正確に画定された領域の両方を作り出すことが可能である。プレス硬化部品の製造中にも、高強度は問題を引き起こす。硬化プロセス後にトリミングが行われると、工具の耐久性が制限される。軟質ゾーン、すなわち前記少なくとも1つの第1ゾーンの外側のブランクのゾーンは、切削工具の摩耗を低減し、必要とされる機械力を低減し、処理ユニットの寿命を延ばすことができる。
【0017】
部分放射加熱を用いる本方法は、既存のプレス硬化ラインに統合することができる。基材は変更する必要がない可能性がある。部品内の特性が非常に局所的に調整されることが可能であるため、衝突負荷経路に関して新しい考え方が可能である。部分放射加熱を用いる方法は、ブランクの非常に局所的な加熱および大きな領域の加熱の両方を可能にすることができる。これは、選択された少なくとも1つの第1ゾーン内の温度を維持するための放射の使用に起因する。放射は、特定の経路または特定の領域の、ブランクの特定のゾーンにのみ提供されてもよい。少なくとも1つの第1ゾーンにおけるブランクの温度は、これにより制御可能である。次いでブランクが工具によって成形されるため処理ユニット内に配置されると、放射加熱によってオーステナイト相に維持される少なくとも1つの第1ゾーンが硬化され、その一方でオーステナイトから冷却されたブランクの他方のゾーンは硬化しないことがある。
【0018】
ブランク全体は、処理ユニット内で成形および焼入れされてもよい。すなわち、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンおよびブランクの残部の両方が、成形および焼入れされてもよい。
【0019】
本発明による方法では、2つ以上のブランクが同時に炉内で加熱され、および/または放射加熱ステーションで部分的に加熱されてもよい。炉は、各々がブランクを受け取るように構成された、複数の加熱チャンバを含むことができる。放射加熱ステーションは、部分放射加熱のために1つ以上のブランクを同時に受け取るように構成されてもよい。製造工程における有効性は、これにより高めることができる。
【0020】
一実施形態によれば、放射加熱ステーションは赤外線加熱ステーションであってもよく、少なくとも1つの第1ゾーンを部分的に加熱するステップは赤外線放射によって行われてもよい。赤外線放射は、少なくとも1つの第1ゾーンを加熱する効果的な方法であり得る。赤外線加熱ステーションには、少なくとも1つの第1ゾーンを放射するために使用される複数の赤外線光源が設けられてもよい。赤外線放射とは、一実施形態では、主として0.7μmから1mmの間の波長を有する電磁放射を意味する。好ましくは、主に0.8μmから3μmの間の波長を有する赤外線が使用されてよい。より好ましくは、主として0.8μmから1.5μmの波長を有する、いわゆる近赤外線(NIRまたはIR−A)スペクトルの赤外線放射が使用され得る。NIRスペクトルの赤外線放射は高エネルギー密度に到達し、これによってブランクの放射加熱に有効となり得る。1つの代替策としては、1.4から3μmの波長を有する短波長赤外(SWIRまたはIR−B)スペクトルの赤外線であってもよい。また、短波長赤外線は、ブランク放射加熱に有効とする高エネルギー密度を有する赤外線放射を提供し得る。これは、さらに高いエネルギー密度を提供するために、3μm未満、好ましくは2μm未満、または好ましくはブランクの最も効果的な加熱が生じる範囲の0.7から2μmの波長を有する赤外線として、要約することができる。最も好ましくは、特定の金属材料に対して最も効率的であるために、0.8μmにそのピークを有する波長スペクトルが使用されてもよい。
【0021】
さらに、放射加熱ステーションにおける部分加熱のステップは、放射がブランクの前記少なくとも1つの第1ゾーンの外側に到達するのを阻止するために、放射源とブランクとの間にマスクを配置するステップを備えてもよい。マスクは、少なくとも1つの第1ゾーンの所望の形態を提供するために、特定のパターンで形成されてもよい。マスクのパターンは、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンの所望の形状に対応することができる。マスクは、放射が通過して前記少なくとも1つの第1ゾーン内のブランクに到達する、少なくとも1つの開口部を有するシート状の放射マスクとして形成されてもよい。放射加熱ステーションには、放射をブランクの片側、たとえば上面に向けて提供する放射源が設けられてもよいマスクは、放射源とブランクの上面との間に配置されてもよい。ブランクの底面は、放射加熱ステーションにおける放射線曝露が実質的にない。ブランクは、放射からの底面の遮蔽を提供する支持体上に載置されてもよい。
【0022】
このような方法をマスクの配置と共に使用して、既知の方法で可能であるものと比較して、放射によって加熱されたブランクの少なくとも1つのゾーンの非常に細かく複雑なパターンを提供することができる。これにより、プレス硬化部品の構造を、相応に細かく複雑なやり方で調整することができる。放射線がブランクの所望の領域または経路の外側に到達するのを阻止するためにマスクを使用する場合、特定の放射源の制御は必要とされないことがある。すべての放射源が有効であっても、マスクは、放射が意図したブランクの少なくとも1つの第1ゾーンにのみ到達することを確実にする。マスクは、ブランクまで通過する放射線量を制御するために、高反射性材料で提供されてもよい。そのような材料は、場合により研磨された、アルミニウムまたはステンレス鋼であってもよい。さらに、マスクの材料にクロム層が設けられてもよい。一実施形態において、マスクは、赤外線放射がブランクの少なくとも1つの第1ゾーンの外側に到達するのを阻止するように構成されてもよい。さらに、マスクは、ブランクと直接接触して配置されてもよい。ブランクの平坦な上面は、マスクの平坦な底面に接触してもよい。
【0023】
一実施形態において、マスクは放射加熱ステーションのブランクと略平行に、または放射の方向に対して略直角に、配置されてもよい。次いで放射線は、オーステナイト相に維持するために、ブランクの所望の領域の外側に、すなわち少なくとも1つの第1ゾーンの外側に到達するのを効果的に阻止されてもよい。
【0024】
さらなる実施形態において、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンに到達する放射線を提供するための開口部および/または凹部を有するブランクの外側境界を覆うように、マスクが配置されてもよい。これにより、ブランク全体の加熱は、所望の加熱パターンを提供するように調整され得る。
【0025】
別の実施形態において、マスクはブランクと直接接触して配置されてもよい。これにより、ブランクの第1ゾーンの外側に放射が逃げにくい、改良されたIR加熱を提供することができる。さらなる実施形態において、ブランクの平坦な上面は、マスクの平坦な底面と接触して配置されてもよい。これにより、ブランクとマスクは互いに直接接触して平行に配置されてもよい。マスクの外側境界は、ブランクの外側境界の外側に延在してもよい。ブランクとマスクの平面間の直接接触は、細かく制御される少なくとも第1ゾーンにおいてIR加熱を提供することができ、第1および第2ゾーンの高解像度パターンを可能にする。
【0026】
一実施形態において、ブランクは、8秒から100秒の間赤外線加熱ステーションに保持されてもよく、冷却速度に応じて550℃〜750℃の間でのブランクの第2ゾーンの冷却を提供する。ブランクがIRステーション内に保持される時間は、IRステーションで実現可能な冷却速度に応じて選択することができる。ブランクが約8秒間保持されたときの急速冷却は、約550℃の第2ゾーンの温度を必要とするだろう。この冷却速度では、ブランクの材料において必要とされる変態が約550℃で起こる。ブランクがより長い時間、たとえばより低い冷却速度で約100秒間IRステーションに保持される場合には、同じ変態が既に約750℃で起こるので、第2ゾーンのより高い温度が許容される。
【0027】
本発明の第2の態様によれば、異なる構造のゾーンを有する熱処理材料のプレス硬化部品を製造するための装置が提供されてもよい。装置は、ブランクを受け取るように構成され、ブランクをオーステナイト相にするためにブランクの材料のオーステナイト化温度以上の温度にブランクを加熱する炉と、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンを放射によって部分的に加熱しこれによりブランクの前記第一ゾーンをオーステナイト相に維持するように構成された放射加熱ステーションと、部分的に加熱されたブランクを受け取り、ブランクをプレス硬化部品に成形および焼入れするように構成された処理ユニットと、を備える。装置は、プレス硬化部品を製造する上記方法を実施するように構成されてもよい。装置は、上記の方法で提示されたのと同様の特性および利点を有することができる。
【0028】
装置は、ブランクを炉、放射加熱ステーション、および処理ユニットの間で搬送するように構成された、搬送ユニットを含むことができる。搬送ユニットは、ブランクの熱損失ができるだけ低くなるようにブランクを搬送するように構成されてもよい。上記の方法に関して論じたのと同様に、装置は、炉内での加熱および/または放射線加熱ステーション内での部分加熱のために、同時に1つ以上のブランクを受け取ることができる。
【0029】
一実施形態において、放射加熱ステーションは、赤外線放射を用いてブランクを部分的に加熱するように構成された赤外線加熱ステーションであってもよい。赤外線放射は、少なくとも1つの第1ゾーンを加熱する効果的な方法であり得る。赤外線加熱ステーションには、少なくとも1つの第1ゾーンを放射するために使用される複数の赤外線光源が設けられてもよい。赤外線放射に加えて、ブランクの少なくとも1つの第1ゾーンをオーステナイト相温度まで加熱するのに適した任意のタイプの放射が使用されてもよい。このような他の種類の放射は、抵抗熱放射または放射熱放射であってもよい。
【0030】
一実施形態において、放射加熱ステーションは、放射源とブランクとの間に配置されたマスクを備え、マスクは、ブランクの前記少なくとも1つの第1ゾーンの外側に放射が到達するのを阻止するように構成される。このような配置のマスクは、少なくとも1つのゾーンの、および上述したような最終プレス硬化部品の構造の、特定の所望のパターンまたは経路を作り出すために、使用されてもよい。
【0031】
マスクは、一実施形態において、放射線加熱ステーション内のブランクと平行に配置されてもよい。マスクはこれにより、ブランクに到達することができるすべての放射を制御することができる。マスクには、少なくとも1つの開口部または凹部がさらに設けられてもよい。開口部または凹部の設計は、ブランクに到達することができる放射の所望のパターンまたは経路、したがってブランクの少なくとも1つの第1ゾーンのパターンまたは経路を、提供することができる。
【0032】
マスクは、上述のようにブランクと直接接触するようにさらに配置されてもよい。さらに、マスクの平坦な底面は、上記でさらに論じられたように、IR加熱ステーションに受け入れられるブランクの平坦な上面と直接接触するように構成されてもよい。
【0033】
以下、添付の図面を参照して、本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】本発明の一実施形態による方法のフローチャートである。
【
図2】本発明の一実施形態による方法のフローチャートである。
【
図3】本発明の一実施形態による方法プロセス中のブランクの内部構造の概略図である。
【
図4a】本発明の実施形態による装置の概略ブロック図である。
【
図4b】本発明の実施形態による装置の一部の概略ブロック図である。
【
図5a】本発明の実施形態による装置の概略ブロック図である。
【
図5b】本発明の実施形態による装置の一部の概略ブロック図である。
【
図6】本発明の一実施形態による装置の一部の概略斜視図である。
【
図7】本発明の一実施形態による装置の一部の概略斜視図である。
【
図8】本発明の一実施形態による装置の一部の概略斜視図である。
【
図9】本発明の一実施形態による装置の一部の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本発明は、本発明の好適な実施形態が示されている添付の図面を参照して、以下により完全に説明される。しかしながら、本発明は、多くの異なる形態で実施されてもよく、本明細書に明記される実施形態に限定されるものと解釈すべきではない。むしろ、これらの実施形態は、本開示が徹底的かつ完全となり、本発明の範囲を当業者に完全に伝えるように、提供される。図中、類似の番号は類似の要素を示す。
【0036】
図1は、本発明の一実施形態によるプレス硬化部品を製造するための方法100を示す。方法100は、ブランクを炉内に配置するステップ102を備える。炉内で、ブランクは、ブランクの材料のオーステナイト化温度以上の温度に加熱される104。そのような加熱は、ブランクをオーステナイト相にする。ブランク全体が炉内で加熱されてもよいし、ブランクの一部が炉内で加熱されてもよい。たとえば、ブランクの第1の部分は加熱のために炉に挿入され、ブランクの第2の部分は加熱中に炉の外側に延在してもよい。ブランクは、ブランクを第2の部分に保持する器具によって炉内の定位置に保持されてもよい。
【0037】
方法100は、放射加熱を用いてブランクの少なくとも1つの第1ゾーンをオーステナイト相の温度に保つステップ106を、さらに備える。同時に、前記少なくとも1つの第1ゾーンの外側のブランクの部分は、オーステナイト相を出る温度まで冷却される。
【0038】
少なくとも1つの第1ゾーンの放射加熱のステップ106の後、ブランクは、プレス硬化部品に成形および焼入れされるために処理ユニット内に配置108される。ブランクが成形されるとき、少なくとも1つの第1ゾーンはオーステナイト相にある。さらに、処理ユニット内で成形されるとき、ブランクは冷却され、オーステナイト相にあるブランクの少なくとも1つの第1ゾーンが硬化される。
【0039】
方法100は、第1ゾーンをオーステナイト相に保つために放射加熱として、赤外線加熱を使用することができる。
【0040】
図2は、
図1の方法100の別の実施形態を示し、放射加熱ステーション内の放射源とブランクとの間にマスクを配置するステップ105をさらに備える。マスクおよびその使用については、以下でさらに論じられる。
【0041】
上記の方法100は、第1ゾーンをオーステナイト相に保つために放射加熱として、赤外線加熱を使用することができる。
【0042】
図3は、本発明による方法を用いて異なるゾーンにおいて鋼ブランクの内部構造がどのように変化し得るかを示す。図では、少なくとも1つの第1ゾーンの外側のブランク2の第2ゾーン2bの温度、およびブランク2の少なくとも1つの第1ゾーン2aの温度が示されている。第1段階210では、ブランク全体が炉内でオーステナイト相に加熱される。これは、ブランクをブランクのAC
3温度以上の温度に加熱し、ブランクをこの温度に所定時間維持することを含む。第2段階220では、ブランクは、少なくとも1つの第1ゾーン2aがオーステナイト相を維持する温度に保たれている放射加熱ステーションに移動させられている。このような温度は、AC
3温度を上回ってもよい。第2ゾーン2bは、フェライト、パーライトおよびベイナイト相に到達する冷却である。第3段階230では、ブランク2が処理ユニット内で成形および焼入れされる。少なくとも1つの第1ゾーン2aがオーステナイト相から急速に冷却されると、マルテンサイト相に到達する。第2ゾーン2bが焼入れされると、以前に冷却されたときに到達したパーライト相にとどまる。しかしながら、第2ゾーン2bは、焼入れされる前に、フェライト、パーライト、ベイナイトおよび/またはオーステナイトの混合物を有していてもよい。焼入れ前の第2ゾーン2bにおける相の組成に応じて、内部構造および材料強度レベルが異なってくる。
【0043】
図4aは、本発明の一実施形態による装置1を示し、
図4bは、同じ実施形態による赤外線加熱ステーション20の詳細図を示す。装置1は、ブランク2またはいくつかのブランクを一度に受け取るように構成された炉10を備える。ブランク2は、ブランク2の材料のオーステナイト化温度以上の温度まで炉10内で加熱される。ブランク2の材料はこれにより、材料のオーステナイト相に入る。
【0044】
装置1は、炉内部12にブランク2を受け入れるように構成された赤外線加熱ステーション20をさらに備える。以下では、赤外線加熱ステーションを備えて赤外線加熱を使用する装置1の実施形態について論じられる。しかしながら、以下に述べることは、ブランクの部分加熱のための他の種類の放射および放射加熱ステーションを使用する実施形態にも適用されてよい。
【0045】
炉10内で加熱されたブランク2は、赤外線加熱ステーション20まで移動される。赤外線加熱ステーション20において、少なくとも1つの第1ゾーン2aは、赤外線光源22からの赤外線24に曝される。少なくとも1つの第1ゾーンは、この実施形態では、IR加熱ゾーンとも称されてよい。これにより、IR加熱ゾーン2aは加熱されてオーステナイト相に保たれる。赤外線24に曝されていないブランク2の1つ以上の第2ゾーン2bは、オーステナイト化温度未満の温度まで冷却され、さらにオーステナイト相から冷却される。
【0046】
赤外線加熱ステーションは、複数の赤外線放射源を備える。ブランクを放射に曝すとき、第1ゾーン2aに放射を提供するように赤外線放射源が制御されてもよい。少なくとも1つの第1ゾーン2aの所望のパターンを生成するために、特定の放射源は所望のパターンで作動することが可能である。
【0047】
さらに、装置1は、加熱されたブランク2を受け取るように構成された処理ユニット30を備える。部分的に加熱されたブランク2は、赤外線加熱ステーション20から処理ユニット30へ、好ましくは迅速に移動させられる。処理ユニット30において、ブランク2は工具32内に配置される。押圧力Fで押圧され焼入れされることにより、ブランク2はプレス硬化部品2’に成形される。プレス硬化部品2’は、ブランク2上のIR加熱ゾーン2aに対応する硬化ゾーン2a’を有する。
【0048】
例示的な実施形態において、ブランク2は、炉10内で約930℃の温度に加熱され、ブランクをオーステナイト相にするためにそのまま保持される。ブランク2のオーステナイト化温度は、典型的に約850℃であり得る。赤外線加熱を使用して、ブランクのIR加熱ゾーン2aはオーステナイト相に保たれ、成形および焼入れのために処理ユニット30に到達するときには約780℃の温度に到達し、すなわち依然としてオーステナイト相のままである。
【0049】
図5aは、赤外線加熱ステーション20が放射マスク26をさらに備える、本発明の別の実施形態による装置1を示す。
図5bは、同じ実施形態による赤外線加熱ステーション20の詳細図をさらに示す。放射マスク26は、赤外線光源22とブランク2との間に配置される。放射マスク26には、1つ以上の開口部または凹部26aが設けられている。放射マスク26はこれにより、赤外線24がブランク2に達する開口部26aを除いて、ブランク2に赤外線24が到達するのを阻止する。
【0050】
放射マスク26の開口部26aは、形成および焼入れ時に硬化するように放射線24に曝されることが望まれるブランク2の1つ以上の特定の第1ゾーン2aに対応するパターンで、設計されてもよい。これにより、ブランク2の第1ゾーン2aは加熱され、第1ゾーン2aの外側の第2ゾーン2bは加熱されない。その後ブランク2を処理ユニット30に移動させてプレス硬化部品2’を形成すると、ブランク2の異なるゾーン2a、2bにおける異なる温度により、異なるゾーン2a、2bに異なる構造が実現される。異なる温度は、オーステナイト相にあってもなくても、ゾーン2a、2bの材料に関連し得る。ブランク2の異なる構造化ゾーン2a、2bは、プレス硬化部品2’上に異なる構造化ゾーンまたは異なる硬化ゾーン2a’、2b’をもたらす。
【0051】
これは、赤外線光源22からの赤外線24が意図されるIR加熱ゾーン2aでブランク2に到達できるようにし、放射線24が意図されるIR加熱ゾーン2aの外側(2b)に到達するのを阻害するための、開口部/凹部26aをマスク26が有する、
図6および
図7にさらに示されている。マスク26は、ブランク2と平行な平面内に配置されている。マスク26のサイズは、ブランク2全体のテーラード加熱を可能にするために、ブランク2のサイズよりも大きい。マスク26には、ブランク2上の1つ以上のIR加熱ゾーン2aの詳細な調整を提供するために小さくてよい開口部および凹部26aが設けられている。しかしながら、いくつかの実施形態において、開口部および凹部26aは大きくてもよく、すなわち、ブランク2の大部分の領域がマスク26によって覆われず、冷却された軟質ゾーンを提供するために小さな領域のみが覆われてもよい。
【0052】
図8に示すように、本発明の実施形態は、放射源22がブランク2の一部のみに延在する放射加熱ステーション20を備えることができる。これにより放射線24は、硬化されるブランク2の第1ゾーン2aにのみ到達することになる。随意により、放射線24が意図された第1ゾーン2aの外側に到達するのを阻止するために、シールド29が使用されてもよい。これにより第2ゾーン2bは、放射線曝露から保護され、放射線24によって加熱されることはない。
【0053】
図9の実施形態に示すように、放射加熱ステーション20は、ブランク2と平面的かつ平行に直接接触するマスク26を備える。これにより、開口部26aは、放射源22からブランク2の第1ゾーン2aへの放射の広がりを非常に詳細に制御する。マスク26はさらに、放射源22と平面的に直接接触していてもよい。
【0054】
図面および明細書において、本発明の好ましい実施形態および例が開示されており、特定の用語が使用されているものの、これらは限定のためではなく一般的かつ説明的な意味でのみ使用され、本発明の範囲は以下の請求項に明記されている。