特許第6845979号(P6845979)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6845979カールフィッシャー試薬を使用した水分測定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6845979
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】カールフィッシャー試薬を使用した水分測定装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/44 20060101AFI20210315BHJP
【FI】
   G01N27/44 301
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-82383(P2017-82383)
(22)【出願日】2017年3月31日
(65)【公開番号】特開2018-173396(P2018-173396A)
(43)【公開日】2018年11月8日
【審査請求日】2019年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000240042
【氏名又は名称】株式会社HIRANUMA
(72)【発明者】
【氏名】高階 明子
(72)【発明者】
【氏名】萩原 正東
(72)【発明者】
【氏名】北中 宏司
(72)【発明者】
【氏名】高橋 健一郎
【審査官】 倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−179057(JP,A)
【文献】 特開平08−082615(JP,A)
【文献】 特開2004−333413(JP,A)
【文献】 特開2006−242629(JP,A)
【文献】 米国特許第06131442(US,A)
【文献】 米国特許第02928782(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/44,
G01N 31/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出電極を有する反応容器内で試料中の水分とカールフィッシャー試薬を反応させて水分測定を行うカールフィッシャー水分測定法を用いた水分測定装置であって、電気分解によって前記反応容器内のカールフィッシャー試薬中にヨウ素を生成することのできる装置であり、前記水分測定法において、前記反応容器内に試料を添加したことによる前記検出電極の電極信号の変化量により試料中の水分を測定し、前記検出電極は先端の検出部分が対向する二本の白金線から成る電極であり、前記反応容器内の溶媒に浸す先端検出部分の白金一本あたりのそれぞれの表面積が25〜110mmであって、なおかつ検出電極先端の検出部分の二本の白金線の両方の形状が輪状に湾曲しており、白金線の両端が電極支持体に固定されている検出電極を用いることを特徴とする水分測定装置。
【請求項2】
検出電極を有する反応容器内で試料中の水分とカールフィッシャー試薬を反応させて水分測定を行うカールフィッシャー水分測定法を用いた水分測定装置であって、電気分解によって前記反応容器内のカールフィッシャー試薬中にヨウ素を生成することのできる装置であり、前記水分測定法において、前記反応容器内に試料を添加したことによる前記検出電極の電極信号の変化量により試料中の水分を測定し、前記検出電極は先端の検出部分が対向する二本の白金線から成る電極であり、前記反応容器内の溶媒に浸す先端検出部分の白金一本あたりのそれぞれの表面積が25〜110mmであって、なおかつ検出電極先端の検出部分の二本の白金線の両方の形状が折れ線状となっている検出電極を用いることを特徴とする水分測定装置。
【請求項3】
検出電極を有する反応容器内で試料中の水分とカールフィッシャー試薬を反応させて水分測定を行うカールフィッシャー水分測定法を用いた水分測定装置であって、電気分解によって前記反応容器内のカールフィッシャー試薬中にヨウ素を生成することのできる装置であり、前記水分測定法において、前記反応容器内に試料を添加したことによる前記検出電極の電極信号の変化量により試料中の水分を測定し、前記検出電極は先端の検出部分が対向する二本の白金線から成る電極であり、前記反応容器内の溶媒に浸す先端検出部分の白金一本あたりのそれぞれの表面積が25〜110mmであって、なおかつ検出電極先端の検出部分の二本の白金線の両方の形状が渦状となっている検出電極を用いることを特徴とする水分測定装置。
【請求項4】
上記請求項1〜3のいずれかに記載の水分測定装置において、ヨウ素量に比例する電流信号により水分量を検出することを特徴とするカールフィッシャー水分測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカールフィッシャー試薬を使用した水分測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カールフィッシャー水分測定法は公知の技術であり、二酸化硫黄、ヨウ素、塩基を主成分とするカールフィッシャー試薬を使用した水分測定方法である。ヨウ素を含んでいるカールフィッシャー試薬を滴定することで試料の水分量を求める容量滴定法と、ヨウ化物イオンを含むカールフィッシャー試薬より電解によってヨウ素を生成し、要した電量から水分量を換算する電量滴定法とがある。
【0003】
容量滴定法ではヨウ素を含むカールフィッシャー試薬を滴定剤として用いる。試料中の水分を抽出する滴定溶媒へビュレットによって滴定液を滴加し、溶媒中の水分とカールフィッシャー試薬を反応させる。カールフィッシャー試薬1mLに対して反応できる水の量(力価[mg/mL])を事前に標定し、滴定の際に消費したカールフィッシャー試薬の容量と力価から換算して試料中の水分量を求める。
【0004】
一方、電量滴定法ではヨウ化物イオンを含有するカールフィッシャー試薬から、電気分解によって化学量論的に対応する量のヨウ素を発生させる。このとき発生したヨウ素は試料溶媒中の水分と反応するため、電解によってカールフィッシャー試薬中のヨウ化物イオンからヨウ素を生成する際に要した電気量により水分量を換算する。
【0005】
容量滴定法および電量滴定法におけるカールフィッシャー水分測定装置の構造は、先行特許文献1に記載の通りである。
【0006】
容量滴定法と電量滴定法とでは、反応容器にヨウ素を加える手段が異なるが、測定原理として水とヨウ素との反応における物質量の比が1:1であることは両測定とも同様である。従って、試料の水分量を判定する検出電極には両測定法において同じ電極が用いられる。図6にカールフィッシャー水分測定装置に従来用いられる検出電極、および電極先端部の形状の一例を示す。基本的には電極支持体(図6、1,4)の先端部より表面積の等しい二本の白金線(図6、2,3,5,6)が突出している構造となっている。既存のカールフィッシャー水分測定装置に用いられる検出電極は、公開されている情報の限りでは検出電極の白金線の径は約0.7〜0.8mm、長さは約4〜5mmであり、白金線一本あたりの表面積は約9〜13mmである。水とカールフィッシャー試薬との反応の終点は、検出電極に一定の電流を流して二本の白金線の間に生じる電圧を検出する定電流分極電位差検出方式と一定の電圧を印加して二本の白金線の間に流れる電流を検出する定電圧分極電流検出方式によって判定することができる。電圧または電流の変化から、二本の白金線間のヨウ素およびヨウ化物イオンの濃度変化による電極反応の変化を得ることが出来る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2015−179057号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
容量滴定法と電量滴定法の他に、特許文献1では、定電圧交流分極電流検出によってヨウ素濃度に比例した電流値を検出し、検出信号の変化量によって水分量を求める水分測定方法が提案されている。従来のカールフィッシャー水分測定法においては、10μg以下の水分測定の際に正確に測定を行うことが困難であった。水分量がppmオーダーの試料の場合は電量滴定法が適しているが、例えば10ppm以下の試料の場合、正確な測定のためには検出水分量が10μg以上となるよう一回の測定に多量の試料量を必要とする。しかし、試料量が多いと電量法における従来の反応溶媒の量に対して数回しか測定できない、または測定困難という問題点があった。特許文献1の水分測定方法では、試料を多量に必要とせず、10μg以下の水分測定が複数回可能となると考えられる。しかし、この検出方法において従来の検出電極を用いて測定を行ったところ、10μg以下の水分を測定するには検出信号のS/N比が不十分であることが判明した。特許文献1の水分測定方法において、10μg以下の水分を精度良く測定するためには、検出信号検出感度を向上し、検出信号のS/N比を向上させる必要がある。
【0009】
本発明の目的は、特許文献1の水分測定方法において、水分量10ppm以下の試料の水分量、もしくは10μg以下の水分をより正確に測定するために、検出信号検出感度を向上し、検出信号のS/N比を向上させたカールフィッシャー水分測定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的は、検出電極を有する反応容器内で試料とカールフィッシャー試薬を反応させて水分測定を行う水分測定装置において、反応容器内のヨウ素量の変化による電極信号量と水分を加えて変化した信号量と比較して水分を測定する水分測定方法を用い、前記検出電極は先端の検出部分が対向する二本の白金線から成る電極であり、前記反応容器内の溶媒に浸す先端検出部分の白金一本あたりの表面積を従来品よりも拡大した検出電極を用い、ヨウ素量に比例する電流信号により水分量を検出することを特徴とする水分測定装置によって達成される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特許文献1の技術を用いたカールフィッシャー水分測定装置の水分量判定における検出信号検出感度を向上し、検出信号のS/N比を向上させることができる。このことにより、特許文献1の技術において10μg以下の水分測定が可能となり、測定精度も向上させることができる。また、従来の水分測定装置よりも測定試薬や試料量を削減でき、複数回の測定も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明における検出電極検出部表面積を従来品よりも拡大した形状(輪状)の一例
図2】本発明における検出電極検出部表面積を従来品よりも拡大した形状(折れ線状)の一例
図3】本発明における検出電極検出部表面積を従来品よりも拡大した形状(渦状)の一例
図4】本発明における検出信号のS/N比評価方法説明図
図5】検出電極検出部表面積の拡大に伴いS/N比が向上することを示す検出信号例
図6】従来の検出電極および電極先端部(検出部)形状の一例
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0013】
以下本発明の実施例について説明する。
【0014】
本発明では検出電極の先端検出部分の表面積を従来品よりも拡大した検出電極を用いる。検出電極先端部の白金線検出部分の表面積をできるだけ拡大する方法としては、白金線部分を太くする、長さを長くする、板・網状にする、渦・らせん状にする等の方法が挙げられる。図1〜3は検出電極検出部の表面積を拡大するための形状の例を示している。
【0015】
図1の1は検出電極の電極支持体であり、検出信号を検出する白金線を固定している。2,3は検出信号検出部分となる白金線であり、白金線の太さを従来品と同等の径とし、白金線の長さを従来品よりも長くすることで表面積を拡大している例である。白金線の形状は、直線のままだと反応容器の底部に接触してしまうため、接触を防ぐために輪状に湾曲させており、二本の白金線同士の接触を防ぎ、強度を上げるために白金線の先端を電極支持体に固定している。
【0016】
図2の1と2,3は図1と同様にそれぞれ電極支持体、白金線であり、2,3の白金線の太さを従来品と同等の径とし、白金線長さを従来品よりも長くすることで表面積を拡大している例である。白金線が反応容器の底部に接触するのを防ぐために、白金線の電極支持体付近と中央部付近で折れ線上に屈曲させている。
【0017】
図3の1と2,3も図1と同様にそれぞれ電極支持体、白金線であり、2,3の白金線の太さは従来品と同等の径のもので、白金線の長さを従来品よりも長くすることで表面積を拡大し、反応容器の底部に接触するのを防ぐため形状を渦状にしている。
【0018】
さらに、検出電極検出電極を並列に複数本接続することで、表面積を拡大することが可能となる(図示せず)。例えば、図3の検出電極の白金線の長さを従来品の6倍とすれば表面積も約6倍となる。この検出電極を二本並列に接続することで、表面積を従来品の約12倍とすることが可能となる。
【0019】
本発明は、特許文献1に記載の公知のカールフィッシャー水分測定装置の装置構成において、特許文献1の技術(水分測定方法)を用いており、上記の実施例を含む検出部表面積を従来品よりも拡大した検出電極を用いた水分測定装置に関するものである。
【0020】
本発明の実施例について更に詳細に説明する。
【0021】
検出電極は従来用いられている検出電極(TPT1)、検出部表面積が従来の電極の約3倍である検出電極(TPT2)、表面積が約4倍である検出電極(TPT3)、表面積が約6倍の検出電極(TPT4)、表面積が約9倍の検出電極(TPT5)、および表面積が約12倍の検出電極(TPT6)を用い、それぞれの電極におけるS/N比について評価を行った。従来品である検出電極TPT1は図6の形状のものを、TPT2〜TPT6の検出電極先端部白金線の形状は、各表面積となるよう図1の輪状、または図2の折れ線状のものを用いた。各表面積使用試薬、装置、測定手順については以下の通りである。
【0022】
測定の際には、電解セルは対極室をもつ構造のものを用い、発生液(反応溶媒)には市販のアクアライトRS−A(関東化学株式会社製)、対極液には市販のアクアライトCN(関東化学株式会社製)を用いる。検出方法は定電圧分極電流検出法を用いる。装置は電解電流および電解時間等の制御を行う制御装置と、検出電極に一定電圧を印加し信号を検出する検出装置を用いて測定を行う。測定の手順としては、始めに測定の前に反応溶媒中に存在する水分を除去するために、電解によってヨウ素を生成させる。特許文献1で示された実施例より、ヨウ素の濃度に依存して検出信号が得られるため、反応溶媒中の水分が無くなりヨウ素が過剰となるのを目標として電解を行う。目標値付近ではバックグラウンドとして外気から混入する水分に見合ったヨウ素を生成させ、検出電極信号が各電極でほぼ同一の一定電流値となるようバックグラウンド補正電解電流を調節することで制御する。
【0023】
検出信号のS/N比の評価方法については、図5の説明図を用いて説明する。バックグラウンドが安定した後、約10秒静置して検出信号の標準偏差(以下ノイズ(N)とする)を求める。次に、一度の電解において水5μgと反応するヨウ素を発生極より生成させるのに相当する電流を流し、電解後静置した後に再度電解を行う。電解前後の静置時間におけるそれぞれの検出電流平均値(aおよびb)の差(b−a)を求め、水1μg相当の電解電流あたりの検出電流変化量(以下検出感度(S)とする)を数1より算出する。
【数1】
【0024】
数1より求めた検出感度をノイズで割った値(以下S/N比とする)によって評価を行う。
【0025】
本測定では前述の各検出電極を用いて、それぞれの測定において電解を3回行い、検出感度Sの平均値を用いてS/N比を求める。S/N比を比較したとき、より高い値を示すほど検出信号の定量性が向上していることを確認できる。各電極におけるS/N比を表1にまとめる。
【表1】
【0026】
表1に示すように、検出電極表面積が広くなるほどS/N比は向上しているため、検出信号の定量性も向上していると考えられる。図では本測定にける各検出電極の検出信号を、同一ヨウ素量の変化による信号変化を同一スケール上で比較している。
本図からも検出電極検出部表面積の拡大に伴いS/N比が向上していることが分かる。
【0027】
本装置において、検出限界であるS/N比3以上となるのに必要な検出電極表面積は、前述のS/N比評価の結果、25mm以上であることが判明した。電極の表面積は110mmまで検討し、表面積の拡大に伴いS/N比が向上することを確認できた。
【0028】
以上の理由から、検出部表面積を従来品よりも拡大した検出電極を用い、反応容器内の反応溶媒の容量を少量化したカールフィッシャー水分測定装置を提供する。本装置により、水分測定における検出信号検出感度を向上し、検出信号のS/N比を向上させることが可能となる。検出信号の定量性も向上するため、結果として水分測定における測定精度が向上する。本装置を用いれば、特許文献1の技術において10μg以下の水分測定が可能となり、従来の水分測定装置よりも測定試薬や試料量を削減でき、複数回の測定も可能となる。
【符号の説明】
【0029】
1,4 電極支持体
2,3,5,6 白金線
図1
図2
図3
図4
図5
図6