(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846034
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】人工浮島
(51)【国際特許分類】
B63B 35/44 20060101AFI20210315BHJP
B63B 35/00 20200101ALI20210315BHJP
B63B 21/29 20060101ALI20210315BHJP
F03B 13/26 20060101ALI20210315BHJP
E02D 27/06 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
B63B35/44 Z
B63B35/00 T
B63B21/29
F03B13/26
E02D27/06
【請求項の数】9
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2017-12116(P2017-12116)
(22)【出願日】2017年1月26日
(65)【公開番号】特開2017-137048(P2017-137048A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2019年9月30日
(31)【優先権主張番号】特願2016-19076(P2016-19076)
(32)【優先日】2016年2月3日
(33)【優先権主張国】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2015年8月7日日本大学において開催された社団法人日本船舶海洋工学会/日本海洋工学会第25回海洋工学シンポジウムで発表
(73)【特許権者】
【識別番号】512214960
【氏名又は名称】株式会社 エンチ
(74)【代理人】
【識別番号】100091498
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100118500
【弁理士】
【氏名又は名称】廣澤 哲也
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 和男
(72)【発明者】
【氏名】吉田 光盛
【審査官】
福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−113190(JP,A)
【文献】
実開昭59−111795(JP,U)
【文献】
実開昭54−179688(JP,U)
【文献】
中国特許出願公開第102849186(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第102381450(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 35/44
B63B 21/29
B63B 35/00
E02D 27/06
F03B 13/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
海上または水上に浮かべられる人工浮島であって、
発泡体の上面を樹脂で覆うことにより形成された上部発泡体ブロックであって、人工浮島の上面を構成する上部発泡体ブロックと、
下端が開口され上端が閉塞されて垂直方向に延びている中空パイプであって、互いに間隔をあけて前記上部発泡体ブロックの下面に接続されている複数の中空パイプとを備え、
前記中空パイプ内には加圧空気が注入され、前記中空パイプ内に下端の開口から侵入する海水または水によって前記加圧空気が圧縮されることにより、前記上部発泡体ブロックに浮力を与えることを特徴とする人工浮島。
【請求項2】
前記上部発泡体ブロックの下方に、発泡体の上面を樹脂で覆うことにより形成された発泡体ブロックを設け、前記複数の中空パイプは前記発泡体ブロックに差し込まれていることを特徴とする請求項1記載の人工浮島。
【請求項3】
前記上部発泡体ブロックの上面は、屋根および/または地盤を構成することを特徴とする請求項1または2記載の人工浮島。
【請求項4】
前記発泡体ブロックの上面は、地盤を構成することを特徴とする請求項2記載の人工浮島。
【請求項5】
前記上部発泡体ブロックの下面と前記発泡体ブロックの上面との間の空間は、都市空間を構成することを特徴とする請求項4記載の人工浮島。
【請求項6】
前記発泡体ブロックから吊り下げた柱に海流の力を受ける海中凧を取り付けたことを特徴とする請求項2,4および5のいずれか1項に記載の人工浮島。
【請求項7】
前記海中凧を前記柱に沿って上下に移動させることにより、前記海中凧に加わる海流の力を制御するようにしたことを特徴とする請求項6記載の人工浮島。
【請求項8】
前記発泡体ブロックに加わる上層海流による力を前記上層海流の真下を逆方向に流れている赤道潜流により前記海中凧に加わる力により相殺することにより、前記発泡体ブロックを所定位置に留めるようにしたことを特徴とする請求項6または7記載の人工浮島。
【請求項9】
前記中空パイプ内の加圧空気の内圧を制御することにより、前記上部発泡体ブロックおよび前記発泡体ブロックに積載される荷重に対応可能とすることを特徴とする請求項2,4乃至8のいずれか1項に記載の人工浮島。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工浮島に係り、特に人工浮島の上面を構成する上部発泡体ブロックと加圧空気が注入された複数の中空パイプとを備えた人工浮島に関するものである。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化に伴い南極の氷が溶けだし海面水位が上昇するにつれ、外洋に点在する都市国家の陸地が減少し、人間が住めない状況に陥る可能性が高くなってきている。国連気候変動枠組条約第21回締約会議(COP21)では、2030年までに産業革命時からの温度上昇を2度未満に抑えると決めているが、現時点での0.86℃の温度上昇でも地球温暖化現象が世界的に地球破壊を増進している。更に1.14℃の温度上昇を考えると地球にどの様な影響を与えるのか恐ろしくなる。
本発明者らは、この様な現象を引き起こしている根本原因は膨張し続ける巨大な都市から排出されるCO
2に起因していると考え、大都市の在り方を見直す方法として、自然界と人間圏が恒久的に共存できる浮島未来都市の必要性に着目したものである。浮島の規模は自由に拡大が可能であるが、1島20km
2で10万人が住むことを前提とした商業性のあるレベルでの実用化が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−136983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来提案されている洋上人工浮島は、巨大なキノコ形状の高層棟(海面から千m程度)と、高層棟を受け止める広範囲の低層のフロートと、高層棟の荷重を直接受け止める浮力を得る為に海中深くに沈められた構造体とを備えたシステムになっている。このシステムは、定点制御についてはDPS(ダイナミックポジショニングシステム)を採用していて、数億トンの島を定点に制御するか、またはある程度の範囲で動き回ることを許容しているが、いずれにしても所定の場所に維持するためには常時大きなエネルギーの消費が想定されている。また、基礎は浮力を使うため、低コストで賄えるが、地上1000mもある構造体を支える上部構造は巨額の費用が掛かり、事業採算性に疑問がある。さらに、それらを海上が静かな赤道直下に建設する場合を考えると、深海まで伸びる浮力体が表層流と逆方向の流れるのある赤道潜流の影響を受け、コントロールが困難になる。
【0005】
本発明は、上述の事情に鑑みなされたもので、人工島を定点制御するための大きなエネルギーを消費することなく、浮島を支える構造体は簡易な構造であり、かつ赤道直下に設置する場合においても赤道潜流の影響を受けることがない人工浮島を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するため、本発明の人工浮島は、海上または水上に浮かべられる人工浮島であって、発泡体の上面を樹脂で覆うことにより形成された上部発泡体ブロックであって、人工浮島の上面を構成する上部発泡体ブロックと、下端が開口され上端が閉塞されて垂直方向に延びている中空パイプであって、互いに間隔をあけて前記上部発泡体ブロックの下面に接続されている複数の中空パイプとを備え、前記中空パイプ内には加圧空気が注入され、前記中空パイプ内に下端の開口から侵入する海水または水によって前記加圧空気が圧縮されることにより、前記上部発泡体ブロックに浮力を与えることを特徴とする。
【0007】
今までに存在する人工浮島の構造は木製・鋼製・コンクリート製の複合体で構築しているものであり、木製は規模と耐用年数から判断して、実現性に疑問を感じる。先行するグリーンフロート計画の鋼製部はタンカー又は航空母艦の延長上の考えであり、剛構造を基本としているために、自在性や規模拡大において高度な技術が必要になる。コンクリート製に関しては質量の増加とコストおよび工期に問題が残る。
この様な課題を解消するため、本発明は、超大型発泡体ブロックに高強度の樹脂コーティングを施したものを樹脂接着で拡大して人工島の主要構造物としたものである。更に人工島としての変動荷重(雨や樹木の生長等)に対する対策として、発泡体の人工大地に円形の穴を空け、樹脂でコーティングされた薄肉大型鋼管からなる中空パイプを差し込み合体させ、中空パイプの上部を閉鎖し、下部を開放させ海中に差し込む。中空パイプの中の可変加圧空気をコントロールすることで、自在な浮力が発生し、変動荷重の対応が可能になる。人工大地の上部都市空間の屋根部分を含む外部側も超大型発泡ブロック構造で覆い、さらにその上部に自然林を植え付けることで、内部空間は陸上の地下都市空間と類似した環境になる。構造体が発泡体と薄肉大型鋼管からなる中空パイプで構成される為、接続拡大が容易であり、超軽量・低コストの海上人工都市の構築が可能になる。
【0008】
本発明の好ましい態様は、前記上部発泡体ブロックの下方に、発泡体の上面を樹脂で覆うことにより形成された発泡体ブロックを設け、前記複数の中空パイプは前記発泡体ブロックに差し込まれていることを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記上部発泡体ブロックの上面は、屋根および/または地盤を構成することを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記発泡体ブロックの上面は、地盤を構成することを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記上部発泡体ブロックの下面と前記発泡体ブロックの上面との間の空間は、都市空間を構成することを特徴とする。
【0009】
本発明の好ましい態様は、前記発泡体ブロックから吊り下げた柱に海流の力を受ける海中凧を取り付けたことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記海中凧を前記柱に沿って上下に移動させることにより、前記海中凧に加わる海流の力を制御するようにしたことを特徴とする。
【0010】
本発明の好ましい態様は、前記発泡体ブロックに加わる上層海流による力を前記上層海流の真下を逆方向に流れている赤道潜流により前記海中凧に加わる力により相殺することにより、前記発泡体ブロックを所定位置に留めるようにしたことを特徴とする。
本発明の好ましい態様は、前記中空パイプ内の加圧空気の内圧を制御することにより、前記上部発泡体ブロックおよび前記発泡体ブロックに積載される荷重に対応可能とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、以下に列挙する効果を奏する。
(1)人工島を定点制御するための大きなエネルギーを消費することなく、浮島を支える構造体は簡易な構造であり、かつ赤道直下に設置する場合においても赤道潜流の影響を受けることがない人工浮島を提供することができる。
(2)大型ブロック軽量構造(発泡体樹脂コーティングブロックと円筒形パイプの合体構造)の全体構造から、海中または水中に浮力を求めて沈める部分を深く伸ばすことを必要とせず、海流または水流の影響を受けない水深50m程度の深さにフロート基礎を納めることができる。
(3)従来の海上人工浮島都市は大容量の鉄とコンクリートを基軸の構造体としているが、本発明は、発泡体を高強度の耐久性のある樹脂で覆っている上部発泡体ブロックと、底部が開放され上部を閉鎖している中空パイプを垂直に立てて間隔をあけ、上部発泡体ブロックに接続させてあるもので、上部は数十メートルから百数十メートルまで伸ばし、下部は海面下または水面下最長50mまで沈めることにより、中空パイプの管内に加圧空気を注入制御することで島の最上部に位置する自然環境等の変動荷重を自在にコントロールすることができる。
(4)人工浮島を一定の場所(キリバス共和国排他経済水域付近)に留めるエネルギーは、赤道直下の上層部南赤道海流とその数十メートルから百数十メートル以下数百メートルの範囲で全く逆方向に表層流の3倍程度の速さで流れる直下層の赤道潜流のエネルギーを利用して、人工浮島から海中に伸ばした柱に取り付けた海中凧を上下させることで、浮島の移動を抑制して浮島を定点制御することができる。
(5)本発明の構造体は、発泡体・樹脂コーティング・中空パイプの合体構造であり、従来技術と比較して、鉄とコンクリートの使用が僅かであり、内圧が掛かった薄肉の大型パイプは上層部の構造を支える強度を有する。従ってコストに関しても、少ない質量とそれに伴う建設費の低減により、大幅に低減される。陸上の大都市(東京)と比較しても低コストで構築できる可能性が高い。
(6)従来の浮島における既存のフロート構造は、溶接工法を採用しているポンツーン式構造で船の基準に従った剛構造を基盤としている為、高価なものになっていたが、本発明によれば、発泡体・樹脂コーティング・中空パイプからなる構造は、全てが柔軟な構造で成立していることから、浮島の拡大縮小は短時間で自由に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明に係る人工浮島の全体構成を示す縦断面図である。
【
図2】
図2は、上部発泡体ブロックと中空パイプと発泡体ブロックとの関係を示す断面図である。
【
図4】
図4は、本発明の人工浮島を海に浮かべて海底からアンカーをとることで、人工浮島を一定の場所に留まらせるようにした実施形態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係る人工浮島の実施形態を
図1乃至4を参照して説明する。
図1乃至4において、同一または相当する構成要素には、同一の符号を付して重複した説明を省略する。
図1は、本発明に係る人工浮島の全体構成を示す縦断面図である。
図1に示すように、人工浮島1は、発泡体2の上下面を高強度の耐久性のあるポリウレア等の樹脂3で覆うことにより形成された上部発泡体ブロック4と、下端が開放され上端が閉塞されている多数の中空パイプ5とを備えている。多数の中空パイプ5は、互いに間隔をあけて上部発泡体ブロック4の下面に接続されている。これら中空パイプ5は上部発泡体ブロック4の下面に樹脂で接着されている。中空パイプ5の上端は、予め蓋をして閉塞した後に上部発泡体ブロック4と接着してもよく、また接着時に上部発泡体ブロック4により閉塞してもよい。中空パイプ5内には加圧空気が注入されている。上部発泡体ブロック4の上面は、人工浮島1の上面になっており、屋根兼地盤を構成している。したがって、上部発泡体ブロック4の上面に土等を盛ることにより、木や草花等の植物を生育することができる。
【0014】
上部発泡体ブロック4の下方には、発泡体6の上下面を高強度の耐久性のあるポリウレア等の樹脂7で覆うことにより形成された発泡体ブロック8が設けられている。発泡体ブロック8には多数の孔が形成されており、各孔に各中空パイプ5が差し込まれている。発泡体ブロック8は平板状になっており、発泡体ブロック8の上面は人工地盤を構成している。発泡体ブロック8の上面と上部発泡体ブロック4の下面との間は、都市空間になっており、都市空間には、道路、住居、商業施設、工場等が設置できるようになっている。
【0015】
発泡体ブロック8は、大型の発泡体6を高強度の樹脂(ポリウレアを代表とする樹脂)6で覆った巨大ブロックを樹脂接着材で合体させた部材で、厚さ数m程度のブロック(地耐力はブロックの厚さと発泡体密度で自由に設定が可能)の孔に補強リングを先行して取り付けたものである。発泡体ブロック8の孔には、大口径の薄肉の中空パイプ5を垂直に立てて間隔をあけてはめ込む。中空パイプ5の上端は蓋をし、圧縮空気が漏れないようにする。中空パイプ5の下端は海中に差し込み蓋は付けない。そして中空パイプ5の中に加圧空気を入れて海水面を押し下げることで、パイプ内に均等な圧力が発生する力を利用して高さ百mを超える上部(屋根・中間床・屋上自然林)までの荷重を支えることが可能になる。中空パイプ5の内圧をコントロールすることにより、人工浮島1の上部の変動積載荷重(雨水及び樹木の生長)に対し柔軟に対応できるシステムとなる。
【0016】
都市規模(20km
2、10万人程度)の浮体構造物を構築するための条件としては、巨大な湖を除き、気象海象の影響を大きく受ける外洋では技術面とコスト面から現実的ではない。しかし、限定的場所として、気象海象の穏やかな太平洋の中心部に位置する赤道直下の水深4〜5千mの広大な海域ではアンカー等の海底からの構造的な支持は困難であるが、DPSにより制御することは可能である。しかし、制御し続けるためのエネルギーは膨大なもので、事業としては疑問が残る。ところが上層海流と逆方向に流れる赤道潜流がある範囲では、無尽蔵の赤道潜流のエネルギーを使って低コストで浮島の位置をコントロールすることが可能である。
【0017】
本発明の人工浮島を赤道直下に設置する場合には、上層海流と逆方向に流れる赤道潜流を使うことから、設置場所は太平洋の赤道直下の幅200km×長さ2000〜3000km程度の範囲に限定する。その場所では転向力が発生しないため、台風の発生もなく強風が吹かない。常時3〜11m程度の貿易風が東方向から西方向へ常に吹いている。水深は4千メートル〜5千メートルと深く、太平洋プレートのほぼ中心に位置していて、日付変更線の西に広がる広大な範囲を適正地としている。気温は一年中25℃〜31℃程度で安定している。年間降水量も1700mm程度で動植物の生存環境に適している。
【0018】
太平洋の赤道直下の赤道潜流は上部の南赤道海流の約3倍の速さで上層海流の真下を逆方向に流れている。
図1に示すように、複数の海中凧10を、人工浮島1から吊り下げた柱11に取り付け、柱11が曲がって折れるのを防止するため、人工浮島1からワイヤー12で数か所補強を取っている。更に海中凧10の力を制御するために、上層流と下層流の中間は流速がゼロになる原理を利用し、柱11に沿って海中凧10を上下に移動する装置を取り付けることで、複数の海中凧10が受ける海流抵抗を変化させることによって人工浮島1を留める力を自在に制御することができる。海流発電は海中凧10の中心部に穴を空けることにより、海中凧10が受けた流速を増速することが可能になる。流速が増速された部分にブレード式発電装置を設けることで、海流発電ができる。海中凧10とブレード面積を調整することで、海流がブレードを通過するときの速度を増すことが可能になり、赤道潜流の流速が2ノット程度であっても4〜5ノット程度に増速が出来、発電量は流速の3乗で変化するため、大きな発電量を得ることができる。
【0019】
図2は、上部発泡体ブロック4と中空パイプ5と発泡体ブロック8との関係を示す断面図である。
図3は、
図2のIII−III線断面図である。
図2および
図3に示すように、発泡体6をポリウレアを代表とする樹脂7で包んだ発泡体ブロック8に補強リング9を先行して取り付け、薄肉の中空パイプ5を垂直に立てて隣接する中空パイプ5間に間隔をあけて補強リング9にはめ込む。中空パイプ5の上端は、発泡体2の上下面を高強度の耐久性のあるポリウレア等の樹脂3で覆うことにより形成された上部発泡体ブロック4に接続されている。中空パイプ5の上端は蓋をし、圧縮空気が漏れないようにする。中空パイプ5の下端は海中に差し込み蓋は付けないで開口している。そして、中空パイプ5の中に加圧空気を入れ、海水面を押し下げることで、中空パイプ5内に均等な圧力が発生する力を利用して上部の構造体を支える。中空パイプ5の内圧のコントロールにより、上部の変動積載荷重(雨水及び樹木の生長)に対し柔軟に対応できるシステムとなる。
【0020】
次に、人工浮島1を定点に留めることについて説明する。巨大な人工浮島が一定の場所に留まらず動きまわることを許容すると、数億トンの浮島は気象・海象の膨大なエネルギーの前で位置コントロールが不能になり、島に激突することもある。また、公海を移動することから船の国際基準を守ることを義務付けられ、膨大な生産コストが発生する。これらのことから、巨大な浮島は一定の場所に留まることが絶対条件となる。
【0021】
図4は、本発明の人工浮島1を海に浮かべて海底からアンカーをとることで、人工浮島1を一定の場所に留まらせるようにした実施形態を示す模式図である。
図4に示すように、チェーン14と重錘15とからなるアンカーによって人工浮島1を海底に固定することにより、人工浮島1を一定の場所に留まらせることができる。
図4に示す人工浮島1は、
図1に示す人工浮島1と同様の構成であるが、
図4に示す人工浮島1は、発泡体ブロック8の位置に海面がある。
【0022】
次に、本発明の人工浮島1のその他の特徴について説明する。
1)自然エネルギーの活用
人工浮島1において、膨大な自然エネルギー(太陽光発電・風力発電・温度差発電・海流発電)を安価で作り出すことが可能になり、このエネルギーを使うことと、太平洋赤道直下の静かな海域特性から、ロケット発射場などの宇宙センター・精密機械加工拠点・水産資源研究等多岐にわたる生産拠点としての価値を生み出す。
2)浮島の室温コントロールシステム
浮島は海面上の発泡体の人工大地と上部構造も含めた屋根材の発泡体とその上に覆う自然林により、陸上の地下空間と同様な条件を作り出すことで、外気・海中からの熱負荷を最小限に抑えられる。しかし内部空間で人間圏が発生するエネルギーによる温度上昇もまた遮断され、蓄熱される。その解決方法として、直下の海水のエネルギーを有効に利用する。深海においては3℃〜4℃程度で、海面近くは29℃〜30℃程度であり、これらの熱エネルギーを海中にパイプを挿入し汲み上げることで、温度差発電を最高の効率で実現できると共に、温度差発電の使用済み深層水の10℃前後に上昇した冷水を使い、自在に浮島の内部温度調整が安価で可能になる。
3)空気清浄システム
屋内の汚れた空気の浄化方法として、海中に汚れた空気を通すことで容易に空気の浄化が可能になる。
4)海洋牧場の生産及び研究拠点となる
サンゴ礁の生育に必要な綺麗な海水と多量の海洋深層水とを、海水温をベースに発電した電気を用いて安価に供給できる環境から、海洋牧場の生産拠点として、人類の食糧事情の改善を見込める。
5)数百年の耐久性がある人工浮島
構造体を酸化させないことと、太陽光による劣化防止が重要になる。浮島は太陽光を森林帯で100%防いでいる。酸化に関しては水分と酸素の供給を防ぐ必要があり、水分は多いが酸素が少ない海中の条件で、また海中は発泡体樹脂コーティングによりブロックされ、かつ海水の撹拌が起こらないから、酸化が起こりにくい。海上においては外気に面さない人工地下空間となっている為、陸上の室内空間と同様な条件となっていて、発泡体を沿岸地域外気面での耐候性の強い樹脂コーティングにより保護されていることから、数百年のメンテナンスフリーを実現させることができる。
【0023】
これまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されず、その技術思想の範囲内において、種々の異なる形態で実施されてよいことは勿論である。
【符号の説明】
【0024】
1 浮島
2 発泡体
3 樹脂
4 上部発泡体ブロック
5 中空パイプ
7 樹脂
8 発泡体ブロック
9 補強リング
10 海中凧
11 柱
12 ワイヤー
14 チェーン
15 重錘