(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1は、実施形態の機械加工装置1の概略構成を示す。機械加工装置1は、被削材6に対して切削工具10の刃先10aを接触させて旋削加工する切削装置である。なお機械加工装置1は、平削り加工する切削装置であってもよい。切削工具10の刃先10aは、隣り合う切れ刃の先端の間隔が等しい複数の切れ刃を有し、複数の切れ刃で同時に被削材6を切削する。機械加工装置1はベッド5上に、被削材6を回転可能に支持する主軸台2および心押し台3と、切削工具10を支持する刃物台4とを備える。
【0012】
回転機構8は主軸台2の内部に設けられて、被削材6が取り付けられた主軸2aを回転させる。送り機構7は、ベッド5上に設けられて、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させる。この機械加工装置1では、送り機構7が刃物台4をX軸、Y軸、Z軸方向に移動させることで、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させる。ここでX軸方向は、水平方向であって且つ被削材6の軸方向に直交する切込み方向、Y軸方向は鉛直方向である切削方向、Z軸方向は、被削材6の軸方向に平行な送り方向である。
【0013】
制御部20は、回転機構8による主軸2aの回転を制御する回転制御部21と、主軸2aの回転中に送り機構7により刃先10aを被削材6に接触させて、切削工具10による加工を行わせる移動制御部22とを備える。回転機構8および送り機構7は、それぞれモータなどの駆動部を有して構成され、回転制御部21および移動制御部22は、それぞれ駆動部への供給電力を調整して、回転機構8および送り機構7のそれぞれの挙動を制御する。
【0014】
切削条件生成装置30は、オペレータから入力された情報等にもとづいて制御部20で使用する切削条件を生成する。切削条件生成装置30は、切削に関する情報を取得する取得部31と、取得した情報をもとに切削条件を決定する決定部32とを備える。取得部31は、オペレータから入力された情報を取得し、また工具に関する仕様を工具マスタテーブル等から取得する。機械加工装置1はNC工作機械であってよく、切削条件生成装置30は、NC工作機械で利用するNCデータを生成して制御部20に提供してよい。切削条件生成装置30は、機械加工装置1の一部であってよく、または別装置として存在してもよい。
【0015】
なお実施形態の機械加工装置1では被削材6が主軸2aに取り付けられて、回転機構8により回転させられるが、別の例では、切削工具10が主軸2aに取り付けられて、回転機構8により回転させられてもよい。また送り機構7は、被削材6に対して切削工具10を相対的に移動させればよく、切削工具10または被削材6の少なくとも一方を移動させる機構を有していればよい。
【0016】
図2は、切削工具10の刃先10aの構造を示す。刃先10aには、複数の切れ刃A、B、C、Dが形成されており、隣り合う切れ刃の先端の間隔は等しく設定されている。以下、切れ刃先端の間隔を“p”、刃数を“N”とする。切れ刃先端は、たとえばダイヤモンドコーティング層、単結晶ダイヤモンド、CBN、多結晶ダイヤモンド、ナノ多結晶ダイヤモンドなどで形成されてよい。被削材6の表面は、送り方向に直線的な形状を有する面、すなわち平面、紙面と垂直な切削方向に曲率を有する円筒面や円錐面、その他の曲面、または送り方向に直線に近い形状を有する曲面であってよい。
【0017】
実施形態の機械加工装置1は、複数の切れ刃A〜Dにより被削材6の表面を切削する切削工程と、切削工具10を被削材6に対して所定の送り量で相対移動させる送り工程を実施して、被削材6の表面に複数の溝を形成する。以下に説明するように、機械加工装置1は、切れ刃先端の間隔pよりも狭い溝ピッチΔpで複数の溝を形成する。
【0018】
図3は、複数の切れ刃が並ぶ切削工具による周期微細構造の加工手順を示す。移動制御部22は送り機構7を制御して切削工具10を被削材6に対して相対移動させる。移動制御部22は、1以上の切れ刃A〜Dを被削材6に切り込ませて被削材表面を切削する切削工程(S1)と、切削方向(X軸方向)に直交する送り方向(Z軸方向)に所定の送り量(ピックフィード)で切削工具10を被削材6に対して相対移動させる送り工程(S2)とを交互に繰り返すことで、被削材6の表面に平行な複数の溝を形成する。なお送り方向は、必ずしも切削方向に直交してなくてよく、また複数の溝の平行度は、周期微細構造を実現する目的を逸脱しない範囲で実質的に平行な形態を含んでよい。
【0019】
切削工程において移動制御部22は、被削材6に対して切れ刃A〜Dを徐々に切り込ませて所定の深さで停止し、その状態で被削材6が1回転以上回転するまで切れ刃A〜Dを静止させた後、切れ刃A〜Dを被削材6から引き抜く。その後、移動制御部22は、送り工程を実施して所定のピックフィードで切削工具10を被削材6に対して相対移動させ、再度、切削工程を実施する。送り工程の間、被削材6の回転は継続していてよく、また停止してもよい。
【0020】
切削工程(S1)と送り工程(S2)は、複数の溝がミクロンオーダー以下の溝ピッチΔpで周期的に並べられた溝構造が形成されるまで(S3のN)繰り返し実行され、微細周期構造が形成されると(S3のY)、切削工具10による切削加工は終了する。移動制御部22による移動制御は、切削条件生成装置30において生成された切削条件にもとづいて実行される。
【0021】
加工開始前、オペレータは切削条件生成装置30に、被削材6の表面に形成する溝ピッチΔpを入力する。取得部31は溝ピッチΔpを取得すると、溝ピッチΔpの形成を可能とする切削工具の仕様情報を工具DB(図示せず)から取得する。被削材6に微細周期構造を形成するために、取得部31は、溝ピッチΔpのq倍(qは2以上の整数)の切れ刃先端の間隔pをもつ切削工具を、溝ピッチΔpを形成可能な切削工具として特定する。たとえば工具DBは、切削工具ごとに、形成可能な溝ピッチの候補を保持しておき、取得部31は候補情報を参照して、溝ピッチΔpを形成可能な切削工具を特定してもよい。取得部31は切削工具を特定すると、少なくとも切れ刃先端の間隔p、刃数Nを含む仕様情報を読み出す。決定部32は、切れ刃先端の間隔p、刃数N、間隔pよりも狭い溝ピッチΔpにもとづいて、送り量であるピックフィードfを決定する。
【0022】
ピックフィードが切れ刃先端の間隔pの整数倍であるとき、溝ピッチΔpは、間隔pの整数倍(1倍)となり、間隔pより狭くならない。そこで決定部32は、ピックフィードfを、間隔pの整数倍とは異なる長さに設定する。つまり決定部32は、
ピックフィードf ≠ 切れ刃間隔p×S(Sは整数)
が成立するように、ピックフィードfを決定する。
【0023】
また決定部32は、ピックフィードfを一定とする切削加工で溝ピッチΔpの微細周期構造を被削材6に転写するために、ピックフィードfを溝ピッチΔpのm倍(mは2以上の整数)に設定する。したがって、
ピックフィードf = m×Δp
ここでp=q×Δpであり、ピックフィードfは間隔pの整数倍ではない長さに設定されるため、mはqの整数倍ではない値となる。なお後述するが、刃数Nはm以上であることが好ましい。
【0024】
以下、切削条件を、
刃数N=4
溝ピッチΔp=p/3 (q=3)
ピックフィードf=4×Δp (m=4)
と設定したときの加工手順について説明する。
【0025】
図4(a)〜(i)は、被削材6の表面の加工状態を説明するための図である。この説明図は、被削材表面の右側の位置REから左側の位置LEの間の切削範囲に、溝ピッチΔpで複数の溝を形成する過程を示す。
図4では、切れ刃A、B、C、Dが左側から順に並ぶ切削工具10を用いて、被削材6に溝を形成する。切れ刃の間隔pは3Δpである。黒丸は、切削された溝の位置を、黒丸の上のA〜Dは、切削した切れ刃を示す。
【0026】
図4(a)は、切削範囲の右端となる位置REを切れ刃Aが加工した状態を示す。
図4(b)は、ピックフィードfだけ切削工具10を−Z方向に動かした後に、切れ刃A、Bが被削材6を加工した状態を示す。上記したように、ピックフィードfは4Δpであり、切れ刃先端の間隔pは3Δpである。仮にピックフィードfを間隔pの整数倍に設定すると、溝ピッチは間隔pと等しくなり、間隔pより狭いΔp(=p/3)を実現できない。そこで決定部32は、ピックフィードfを、切れ刃先端の間隔pの整数倍とは異なる長さに決定し、間隔pより狭い溝ピッチΔpを実現する。mとqの関係でいえば、mはqの整数倍ではない2以上の整数に設定される。
【0027】
図4(c)は、さらにピックフィードfだけ切削工具10を−Z方向に動かした後に、切れ刃A、B、Cが被削材6を加工した状態を示す。
図4(d)は、さらにピックフィードfだけ切削工具10を−Z方向に動かした後に、切れ刃A、B、C、Dが被削材6を加工した状態を示す。この状態で、全ての切れ刃A〜Dが、被削材6の切削範囲を加工するようになる。
図4(e)〜(g)は、切れ刃A〜Dが被削材6を加工した状態を示す。
図4(g)において、切れ刃Aが、切削範囲の左端となる位置LEを加工している。
図4(h)は、切れ刃C、Dが被削材6を加工した状態を示し、
図4(i)は、切れ刃Dが被削材6を加工した状態を示す。
機械加工装置1は
図4(a)〜(i)に示すように、所定のピックフィードfだけ切削工具10を移動させることで、溝ピッチΔpの微細周期構造を被削材6の表面に形成する。
【0028】
実施形態では、刃数Nがm以上となる切削工具10を使用する。
図4に示す例では、刃数Nはmと等しい。仮に刃数Nがm未満である場合、
図4に示すように、(N−m)個分の切れ刃による溝が形成されないことになる。たとえば刃数Nが3つであり、切れ刃Dが存在しない場合、
図4において、切れ刃Dにより加工された溝が存在しないことになり、周期構造が形成されない。そこで刃数Nはm以上である必要がある。
【0029】
一方で、刃数Nがmより多い場合には、
図4を参照して、既に形成された溝を、別の切れ刃が加工することになる。たとえば
図4の例で、5つ目の切れ刃Eが存在する場合、切れ刃Eは、切れ刃Aが加工した溝を再度加工し、新たな溝を形成しない。そこで刃数Nがmに等しければ、複数の切れ刃が同じ位置を重複して切削せず、効率よい加工ができる。
【0030】
本開示者がmとqの関係について考察した結果、mとqを互いに素の関係とすることで、溝ピッチΔpをもつ微細周期構造を実現できることが判明した。仮にmとqが1以外の公約数CFをもつ場合、結果として周期構造における溝ピッチは、CF×Δpとなる。そこで決定部32は、qと素となるmを決定することで、溝ピッチΔpを実現するためのピックフィードfを設定できる。
【0031】
上記した例では、送り方向に直線形状または直線に近い形状を有する面に微細周期構造を形成するため、複数の切れ刃A〜Dの先端を結ぶ線は直線状であることが好ましい。一方で、目的とする加工面が送り方向に曲率を有する場合、複数の切れ刃先端を結ぶ線が円弧状となる切削工具10が使用されてよい。たとえば自由曲面上に微細溝表面を形成する場合、移動制御部22は、切削方向周りに切削工具10を回転して、切削する自由曲面に対して複数の切れ刃先端を結ぶ線が略平行になるように姿勢制御し、目的とする加工面に沿ってピックフィードfを与える。この場合、複数の切れ刃先端を結ぶ線の曲率に加工面の曲率が近く、刃幅wに対して切込み深さ方向のずれが、形成する溝深さに比べて小さい必要がある。Rtを、複数の切れ刃先端を結ぶ円弧の半径、Rwを、目的とする自由曲面の加工位置での曲率半径とすると、ずれεは、近似的に以下の式により導出される。
【数1】
【0032】
たとえばp=5μm、Δp=250nm、f=5.25μm(m=21)、N=21、w=N×Δp、Rt=1mm、Rw=100mmとすると、
ε=0.0034μm
と算出される。このずれは、サブミクロンオーダーの超微細溝形状に対して十分小さい。また、従来の単一切れ刃の加工方法(ピックフィードfがΔpに等しく250nm)に比べて、5.25μm/250nm=21倍の加工能率を実現し得る。
【0033】
上記した自由曲面の加工法では切削工具10の姿勢を制御したが、以下の加工法では切削工具10の姿勢を変化させずに微細溝を形成する。
図5は、切削工具10が自由曲面上に微細溝を形成する様子を示す。この加工法では、無数の微細切れ刃が間隔pで円弧上に周期的に形成された切削工具10を用いる。移動制御部22は、切削工具10の回転角度(姿勢)を変化させず、ピックフィードfを上述したm×Δpとして、ピックフィード方向を仕上げ面生成領域の自由曲面接線方向に合わせる。これにより仕上げ面生成領域の加工が、
図4に関して説明した加工と同様となり、ピッチΔpの超微細溝生成が実現される。この加工法では、Rt≦RwとなるようにRtを設計する。
【0034】
上記した実施形態では、機械加工装置1が、複数の切れ刃により被削材6の表面を切削する切削工程と、切削工具10を被削材6に対して所定のピックフィードで相対移動させる送り工程とを交互に繰り返す加工法を採用している。つまり機械加工装置1は間欠的に切削工程を実施しており、その意味においてピックフィードは、間欠的に実施される切削工程の間の送り量である。
【0035】
別の手法として、機械加工装置1は、複数の切れ刃により被削材6の表面を切削する切削工程と、切削工具10を被削材6に対して所定の送り量で相対移動させる送り工程とを同時に実施する加工法を採用してもよい。
図1を参照して、機械加工装置1は、複数の切れ刃により被削材6の円筒面を切削しながら、同時に送り方向に切削工具10を被削材6に対して所定の送り量で相対移動させる。この加工法によると、切削工程は連続的に実施され、被削材6の表面には、螺旋状につながった複数の溝が形成される。
図2に示すように4つの切れ刃A〜Dをもつ切削工具10を使用すると、被削材6の表面には4条の平行な螺旋溝が形成されることになる。
【0036】
この加工法を採用する場合にも、連続的に実施される切削工程における送り量は、1回転当たりの送り量(μm/rev)として定義され、実施形態においてピックフィードとして算出した値fに設定されればよい。旋削加工の場合、1回転当たりの送り量を値fに設定することで、周期微細構造を連続加工により高能率に作成できる。なお直径が一定の円筒面上に螺旋状の複数溝を連続加工する旋削加工に限らず、円錐面、球面、球面に近い非球面、端面(平面)、その他の軸対称曲面上に直径が徐々に変化する螺旋状の複数溝を連続加工する旋削加工においても、1回転当たりの送り量が値fに設定されればよい。
【0037】
以上、本開示を実施形態をもとに説明した。この実施形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本開示の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0038】
たとえば切削方向にも微細形状が必要な場合には、切削方向を変えて、上記した手順で同じ箇所に微細溝加工を行ってもよく、また特開2017−217720号公報に開示される微細加工方法を組み合わせてもよい。
【0039】
本開示の態様の概要は、次の通りである。本開示のある態様は、隣り合う切れ刃の先端の間隔が等しい複数の切れ刃を有する切削工具で被削材を加工する方法であって、複数の切れ刃により被削材表面を切削する切削工程と、切削工具を被削材に対して所定の送り量で相対移動させる送り工程を実施して、被削材の表面に複数の溝を形成する。所定の送り量は、切れ刃先端の間隔の整数倍とは異なる長さに設定される。所定の送り量を、切れ刃先端の間隔の整数倍とは異なる長さに設定することで、形成する溝の間隔を、切れ刃先端の間隔よりも狭くできる。
【0040】
この加工方法は、被削材の表面に平行な溝を、切れ刃先端の間隔pの1/q倍(qは2以上の整数)である溝ピッチΔpで形成してよい。これにより切削工具に複数の切れ刃をΔpのピッチで形成できなくても、被削材に複数の溝をΔpのピッチで形成できる。
【0041】
この加工方法では、所定の送り量を、溝ピッチΔpのm倍(mは2以上の整数)に設定してよい。このときmはqの整数倍ではないようにする。mとqを、互いに素となるように設定することで、所定のピックフィードで周期的な溝を加工できる。刃数Nがm以上である切削工具を使用することが好ましく、刃数Nはmと等しくてよい。所定の送り量は、間欠的に実施される切削工程の間の送り量であってよく、または連続的に実施される切削工程における送り量であってよい。
【0042】
本発明の別の態様は、機械加工装置である。この装置は、隣り合う切れ刃の先端の間隔が等しい複数の切れ刃を有する切削工具を被削材に対して相対的に送り、被削材の表面を加工する機械加工装置であって、複数の切れ刃により被削材表面を切削する切削工程と、切削工具を被削材に対して所定の送り量で相対移動させる送り工程を実施して、被削材の表面に複数の溝を形成する。所定の送り量は、切れ刃先端の間隔の整数倍とは異なる長さに設定されてよい。
【0043】
本発明のさらに別の態様は、隣り合う切れ刃の先端の間隔が等しい複数の切れ刃を有する切削工具の送り量を演算する切削条件生成装置である。この装置は、切削工具の切れ刃先端の間隔p、切削工具の刃数N、被削材の表面に形成する溝ピッチΔpを取得する取得部と、間隔p、刃数N、間隔pよりも狭い溝ピッチΔpにもとづいて、送り量を決定する決定部とを備える。