【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名 第27回代用臓器・再生医学研究会事務局 刊行物名 第27回代用臓器・再生医学研究会プログラム・抄録集 頒布日 平成27年2月9日 集会名 第27回代用臓器・再生医学研究会 開催日 平成27年2月28日 ウェブサイトの掲載アドレス https://kaken.nii.ac.jp/d/p/15K05554.ja.html 掲載日 平成27年4月23日
【文献】
Natural Polymers and Composites (Proceedings from the Third International Symposium on Natural Polymers and Composites - ISNaPol/2000 and the Workshop on Progress in Production and Processing of Cellulosic Fibers and Natural Polymers),2000年,p.119-126
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記リン酸化キチンを含む溶液に接触させたチタン基材を、石灰化溶液に浸漬する工程を含む、請求項1に記載のリン酸化キチンとチタンとの複合体を製造する方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、特許文献3などの方法で得られるキトサンは、キチンとは異なり、免疫原性(抗原性)が強いことが明らかになっている。そのため、キトサンの医学的な応用(たとえば、生体内に埋植する材料への応用)には、限界がある。また、特許文献4などの方法で可溶化されたコラーゲンは、化学的修飾等によって、その性質が変わっていることも多く、そのまま医学的に用いることができるか否かは不明である。
【0011】
これに対し、特許文献1および特許文献2にも記載のような、リン酸化した生体高分子は、水溶性であり、かつ、もとの生体高分子の性質を損なうことなく有することが多いため、医学的への応用が期待できる化合物である。特許文献1では、生体内でリン酸化したタンパク質を抽出して、リン酸化した生体高分子を得ている。これに対し、より多様な生体高分子を医学的に応用するため、生体高分子を人工的にリン酸化して可溶化する技術の開発が望まれている。特許文献2では、水溶性のプルランを水に溶解させてリン酸化することで、リン酸化プルランを得ている。これに対し、水溶性の化合物のみならず、不溶性の生体高分子も、リン酸化して可溶化する技術の開発が望まれている。
【0012】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、不溶性の生体高分子、特にはキチンおよびコラーゲン、をリン酸化して可溶化する方法を提供することをその目的とする。また、本発明は、リン酸化して可溶化した上記不溶性の生体高分子を、チタンとの複合体や、ポリウレタン発泡体などに応用し、医学的、産業的に広い用途を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、以下の可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法、リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンとチタンとの複合体を製造する方法、ポリウレタン発泡体を製造する方法、リン酸化コラーゲンを製造する方法およびリン酸化コラーゲンとチタンとの複合体を製造する方法に関する。
【0014】
[1]非プロトン性溶媒の中にキチンまたは不溶性のコラーゲンを分散させる工程と、触媒の存在下で、分散した前記キチンまたは分散した前記不溶性のコラーゲンをリン酸化する工程と、リン酸化した前記キチンまたはリン酸化した前記不溶性のコラーゲンを分離する工程とを含む、可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[2]前記非プロトン性溶媒はヘキサンの単一溶媒である、[1]に記載の可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[3]前記非プロトン性溶媒はヘキサンとジメチルホルムアミドとの混合溶媒であり、前記混合溶媒におけるヘキサンとジメチルホルムアミドとの体積比(ヘキサン:ジメチルホルムアミド)は、25:75〜100:0の範囲内(ただし、100:0を含まない)である、[1]に記載の可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[4]前記分離する工程は、水に対する透析および遠心分離をこの順に行う、[1]〜[3]のいずれかに記載の可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[5]前記分離する工程において、前記透析の後に、透析内液に残った水に不溶性の成分を有機溶媒に溶解させ、さらに、アルコールを加えて水に対する透析を行う、[4]に記載の可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[6]上記リン酸化する工程を、不溶性のコラーゲンが分散した分散液の液温を40℃以上50℃以下にして行い、さらに、前記分離する工程の後に、残存した不溶性のコラーゲンを再分散させる工程と、触媒の存在下で、再分散した前記不溶性のコラーゲンを含む分散液の液温を60℃以上90℃以下にして、前記再分散した不溶性のコラーゲンをリン酸化させ、リン酸化ゼラチンとする工程と、前記リン酸化ゼラチンを分離する工程を行う、[1]〜[5]のいずれかに記載の可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[7]さらに、前記分離する工程の後に、前記リン酸化したキチンまたは前記リン酸化した不溶性のコラーゲンをその性質ごとに分離する工程を含む、[1]〜[6]のいずれかに記載の可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[8]前記リン酸化したキチンまたは前記リン酸化した不溶性のコラーゲンをその性質ごとに分離する工程は、チタンビーズを固定相とするアフィニティクロマトグラフィーを行う工程である、[7]に記載の可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[9][1]〜[8]のいずれかに記載の方法で製造した可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを含む溶液と、チタン基材と、を接触させる工程を含む、リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンとチタンとの複合体を製造する方法。
[10]さらに、前記可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを含む溶液に接触させたチタン基材を、石灰化溶液に浸漬する工程を含む、[9]に記載のリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンとチタンとの複合体を製造する方法。
[11]チタンまたはチタン合金からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を被覆するリン酸化キチン含有層またはリン酸化コラーゲン含有層とを有する、複合体。
[12]前記リン酸化キチン含有層またはリン酸化コラーゲン含有層はヒドロキシアパタイトを含む、[11]に記載の複合体。
[13][1]〜[8]のいずれかに記載の方法で製造した可溶性のリン酸化キチン、ポリオール類およびポリイソシアネート類を含有する混合液を調製する工程と、前記混合液に発泡剤を混和して撹拌および混合する工程とを含む、ポリウレタン発泡体を製造する方法。
[14]ポリオール類とポリイソシアネート類とを反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを製造する工程と、[1]〜[8]のいずれかに記載の方法で製造した可溶性のリン酸化キチン、前記プレポリマー、過剰の水およびポリオール類を含有する混合液を調製する工程と、前記混合液に発泡剤を混和して撹拌および混合する工程とを含む、ポリウレタン発泡体を製造する方法。
[15]濃度が0.5mol/L以上1.0mol/L以下であるリン酸緩衝液の中に可溶性のコラーゲンを分散させる工程と、触媒の存在下で、分散した前記可溶性のコラーゲンをリン酸化する工程と、リン酸化した前記可溶性のコラーゲンを分離する工程とを含む、リン酸化コラーゲンを製造する方法。
[16]さらに、前記分離する工程の後に、前記リン酸化した可溶性のコラーゲンをその性質ごとに分離する工程を含む、[15]に記載のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[17]前記リン酸化した可溶性のコラーゲンをその性質ごとに分離する工程は、チタンビーズを固定相とするアフィニティクロマトグラフィーを行う工程である、[16]に記載のリン酸化コラーゲンを製造する方法。
[18][15]〜[17]のいずれかに記載の方法で製造した可溶性のリン酸化コラーゲンを含む溶液と、チタン基材と、を接触させる工程を含む、リン酸化コラーゲンとチタンとの複合体を製造する方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、不溶性の生体高分子、特にはキチンおよびコラーゲン、をリン酸化して可溶化することが可能となる。また、本発明によれば、リン酸化して可溶化した上記不溶性の生体高分子を、チタンとの複合体や、ポリウレタン発泡体などに応用し、医学的、産業的に広い用途を提供するが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
[第1の実施形態]
本発明の第1の実施形態は、可溶性のリン酸化キチンおよび可溶性のリン酸化コラーゲンを製造する方法に係る。本実施形態は、特定の分散媒の中にキチンまたはコラーゲンを分散させる工程と、触媒の存在下で、前記分散したキチンまたはコラーゲンをリン酸化する工程と、リン酸化したキチンまたはコラーゲンを分離する工程と、を含む。本実施形態は、さらに、リン酸化したキチンまたはコラーゲンを、その性質ごとに分離する工程を含んでもよい。なお、可溶性とは、水または有機溶媒への溶解度が生体由来のキチンまたはコラーゲンよりも高くなった状態を意味する。本実施形態は、分散したキチンまたはコラーゲンを触媒の存在下で少なくとも部分的にリン酸化することで、可溶性のリン酸化したキチンまたはコラーゲンを製造するものである。なお、リン酸化コラーゲンとは、グリシンが3塩基ごとに繰り返すいわゆるコラーゲン配列を有する3本のペプチド鎖がらせん構造を形成しているタンパク質が、少なくとも部分的にリン酸化しているものを意味する。この限りにおいて、リン酸化コラーゲンを構成するコラーゲンは、ゼラチン等に変性してもよい。
【0018】
(特定の分散媒の中にキチンを分散させる工程)
本工程では、特定の分散媒の中にキチンまたはコラーゲンを分散させる。上記特定の分散媒とは、キチンまたは不溶性のコラーゲンの場合は非プロトン性溶媒であり、可溶性のコラーゲンの場合は濃度が0.5mol/L以上1.0mol/L以下であるリン酸緩衝液である。
【0019】
キチンまたは不溶性のコラーゲンを分散させるために用いる、上記非プロトン性溶媒とは、プロトン供与性を持たない溶媒を意味する。非プロトン性溶媒の例には、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ペンタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2−ジクロロエタン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、アセトンおよびテトラヒドロフランが含まれる。
【0020】
これらのうち、非プロトン性溶媒は、ヘキサンの単一溶媒であるか、またはヘキサンとジメチルホルムアミドとの混合溶媒であることが好ましい。非プロトン性溶媒が、ヘキサンとジメチルホルムアミドとの混合溶媒であるとき、混合溶媒におけるヘキサンとジメチルホルムアミドとの体積比(ヘキサン:ジメチルホルムアミド)は、25:75〜100:0の範囲内(ただし、100:0を含まない)であることが好ましい。
【0021】
非プロトン性溶媒は、得ようとするリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンの性質に応じて選択することができる。たとえば、非プロトン性溶媒がヘキサンの単一溶媒であるとき、得られるリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンの大部分は水溶性の性質を示す。一方で、非プロトン性溶媒がヘキサンとジメチルホルムアミドとの混合溶媒であり、上記ヘキサンとジメチルホルムアミドとの体積比が25:75〜50:50の範囲内であるとき、得られるリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンは、水溶性の性質を示すものと、水には不溶だが有機溶媒(たとえば、ジメチルホルムアミド)に可溶な性質を示すものと、の混合物となる。
【0022】
可溶性のコラーゲンを分散させるために用いる、上記濃度が0.5mol/L以上1.0mol/L以下であるリン酸緩衝液は、たとえば、リン酸二水素ナトリウムとリン酸水素二ナトリウムとで調製したリン酸緩衝液、またはリン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素カリウムとで調製したリン酸緩衝液とすることができる。このとき、リン酸緩衝液のpHは7未満であることが好ましく、pHの調整を容易にする観点からは、リン酸水素二ナトリウムとリン酸二水素カリウムとで調製したリン酸緩衝液が好ましい。
【0023】
分散は、公知の方法で行うことができる。たとえば、乾燥したキチンまたはコラーゲンの粉末と上記特定の分散媒とを密閉容器内に入れて、撹拌または振とうすることで、キチンまたはコラーゲンを分散させることができる。このとき、キチンまたはコラーゲンの分散による濁りが非プロトン性溶媒に生じたことが、目視で確認できれば、キチンまたはコラーゲンが十分に分散したと判断してよい。
【0024】
(触媒の存在下で、分散したキチンまたはコラーゲンをリン酸化する工程)
生体内で高分子をリン酸化する方法として知られているリン酸化酵素(キナーゼ)を触媒とする方法は、この種の酵素の特異性が高いために一般に困難である。そのため非酵素的触媒を用いた化学的なリン酸化法が追究されているが、いまだに十分有効な方法が開発されていない。
【0025】
これに対し、本発明における分散したキチンまたはコラーゲンのリン酸化は、生体高分子をリン酸化する方法として知られている、公知の触媒を用いる方法で行うことができる。生体高分子をリン酸化する公知の方法には、上記触媒として酵素を用いる酵素的方法、ならびにリン酸化試薬およびそれによるリン酸化に適した触媒を用いる化学的方法が含まれる。
【0026】
キチンまたはコラーゲンのリン酸化の可能性あるリン酸化酵素の例には、特異性の広いサイクリックAMP依存性タンパク質キナーゼ(EC2.7.1.37)などが含まれる。
【0027】
上記酵素的方法における撹拌時の温度は、上記酵素の活性温度近辺とすることが好ましい。
【0028】
化学的方法の例には、公知のリン酸化試薬およびそれによるリン酸化に用いることができる触媒を前記分散液に投入し、撹拌する方法が含まれる。
【0029】
キチンまたはコラーゲンのリン酸化に用いることができるリン酸化試薬は、5酸化リンが好ましい。そのほかの上記リン酸化試薬の例には、第一リン酸ナトリウム(リン酸二水素ナトリウム)、第二リン酸ナトリウム(リン酸水素二ナトリウム)、第三リン酸ナトリウム(リン酸三ナトリウム)、トリポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム(リン酸二水素カリウム)、第二リン酸カリウム(リン酸水素二カリウム)、第三リン酸カリウム(リン酸三カリウム)、トリポリリン酸カリウム、トリメタリン酸カリウム、およびオキシ塩化リンが含まれる。
【0030】
上記リン酸化試薬の量は、得られるリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンに所望する性質に応じて適宜調整すればよい。キチンまたはコラーゲンを十分に可溶化し、かつ、生体への影響を少なくする観点からは、上記リン酸化試薬は、キチンまたはコラーゲンに対するリン酸イオンの量が、10質量%以上200質量%以下となる量で投入されることが好ましい。
【0031】
上記化学的方法によるキチンまたはコラーゲンのリン酸化に用いることができる触媒の例には、メタンスルフォン酸が含まれる。
【0032】
上記化学的方法における撹拌時の温度は、キチンまたはコラーゲンの変性等が生じず、かつ、キチンまたはコラーゲンのリン酸化が十分に生じる温度とすればよい。キチンまたはコラーゲンを十分にリン酸化して可溶化する観点からは、上記撹拌時の温度は、40℃以上50℃以下であることが好ましい。
【0033】
不溶性のコラーゲンをリン酸化するときは、上記温度ではすべてのコラーゲンが可溶化せず、一部のコラーゲンが不溶性のまま残存することがある。この可溶化しなかったコラーゲンは、さらに上記方法により非プロトン性溶媒に分散(再分散)させ、上記方法により60℃以上90℃以下、好ましくは70℃でリン酸化させてリン酸化ゼラチンにして、さらに後述する方法により分離することで、リン酸化したゼラチンとして回収することができる。
【0034】
上記化学的方法における撹拌時間は、キチンまたはコラーゲンのリン酸化が十分に生じる時間とすればよく、たとえば、2時間以上5時間以下とすることができる。
【0035】
(リン酸化したキチンまたはコラーゲンを分離する工程)
上記方法でリン酸化したキチンまたはコラーゲンは、水または有機溶媒に可溶である。そのため、上記方法でリン酸化したキチンまたはコラーゲンを、水または有機溶媒に分離することで、可溶性のリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンを含む溶液を得ることができる。
【0036】
分離は、公知の方法で行うことができる。分離方法の例には、透析および遠心分離が含まれ、水(たとえば、蒸留水)に対する透析および遠心分離を、この順に行うことが好ましい。分離の精度を高める観点からは、透析は、透析後の外液の電気伝導度に変化がなくなるまで、複数回行うことが好ましい。
【0037】
分離の精度をさらに高める観点からは、透析の後に得られた沈渣を有機溶媒(たとえば、ジメチルホルムアミド)に溶解させ、その後、アルコールを加えてさらに水に対する透析を行うことが好ましい。上記アルコールの例には、メタノールおよびエタノールが含まれる。
【0038】
(リン酸化したキチンまたはコラーゲンを、その性質ごとに分離する工程)
上記方法でリン酸化したキチンまたはコラーゲンには、おそらくはリン酸基の結合量やリン酸基間の距離などの違いによる、様々な性質を有するキチン誘導体またはコラーゲン誘導体が含まれる。本実施形態は、これらの性質の異なるリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンを、その性質ごとに分離する工程を含んでもよい。たとえば、アフィニティクロマトグラフィーを行うことで、前記リン酸化したキチンまたはリン酸化したコラーゲンから、カラムの固定相に結合または吸着する化合物を分離することができる。
【0039】
上記カラムの固定相には、得ようとする性質を有するリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンが結合または吸着する物質を用いればよい。たとえば、固定相をチタンビーズとすることで、チタン結合性の性質を有するリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンを分離して得ることができる。
【0040】
リン酸化した生体高分子には、チタンへの結合能を有するものがあることが知られている(たとえば、特許文献1および特許文献2を参照。)。また、チタンは、骨の再建材料として人工骨、人工関節の軸または人工歯根に用いられている。そのため、本実施形態に係る方法によって分離された、チタンに結合または吸着する性質を有するリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンは、チタンに結合させて、骨の再建材料に応用することができる(後述する第2の実施形態および第3の実施形態を参照。)。
【0041】
(効果)
このようにして製造した、可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンは、水または有機溶媒に可溶であるため、他の物質との混合または反応、および生体への投与等を容易に行うことが可能であり、工業的、医学的な応用に適している。また、この可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンは、もとのキチンまたはコラーゲンの性質を損なうことなく有しているため、生体への悪影響が少なく、医学的な応用に適している。
【0042】
[第2の実施形態]
本発明の第2の実施形態は、リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンとチタンとの複合体、およびこのような複合体を製造する方法に係る。本実施形態に係る方法は、前記第1の実施形態に係る方法で製造した可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを含む溶液と、チタン基材と、を接触させる工程を含む。本実施形態に係る方法によって製造されるリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンとチタンとの複合体は、チタンまたはチタン合金からなる基材と、前記基材の表面の少なくとも一部を被覆するリン酸化キチン含有層またはリン酸化コラーゲン含有層とを有する。
【0043】
リン酸化キチン含有層またはリン酸化コラーゲン含有層にチタン基材をより十分に被覆させる観点からは、前記可溶性のリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンは、チタンに結合または吸着する性質を有するもののみを分離したものであることが好ましい。
【0044】
チタン基材は、チタンまたはチタン合金を少なくともその表面に有する基材であればよい。基材の形状は、前記複合体の用途に応じて適宜選択することができる。たとえば、本実施形態で製造される複合体を生体インプラントに適用する場合、基材の形状の例には、柱状(ロッド状)、板状、シート状、ブロック状、ワイヤ状、繊維状、粉末状などが含まれる。また、本実施形態で製造される複合体を細胞培養基材に適用する場合、基材の形状の例には、メッシュ状(不織布(titanic web:TW)を含む)、平板状などが含まれる。
【0045】
前記可溶性のリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンを含む溶液は、第1の実施形態におけるリン酸化したキチンまたはリン酸化したコラーゲンを分離する工程で得られた溶液をそのまま、または濃縮もしくは希釈して用いてもよいし、前記分離する工程で得られた溶液を乾燥させて得られたリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンを、別の溶媒に溶解させたものを用いてもよい。
【0046】
前記接触させる工程は、公知の方法で行い得る。たとえば、前記可溶性のリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンを含む溶液にチタン基材を浸漬してもよいし、前記可溶性のリン酸化キチンまたは可溶性のリン酸化コラーゲンを含む溶液をチタン基材の表面に塗布してもよい。
【0047】
前記接触させる工程は、たとえば、以下の工程によって行うことができる。なお、以下の工程における操作は、すべて無菌条件下のクリーンベンチ内で行われる。終濃度が0.1〜1.0%となるように前記可溶性のリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンを生理的緩衝液(例えば、ダルベッコ生理的緩衝液)に溶解させた後、無菌ろ過して、リン酸化キチン溶液またはリン酸化コラーゲン溶液を調製する。基材の表面に前記リン酸化キチン溶液またはリン酸化コラーゲン溶液を塗布するか、基材を前記リン酸化キチン溶液またはリン酸化コラーゲン溶液に浸漬して、基材の表面に前記リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンを吸着させる。次いで、過剰量の液体を吸引除去した後、基材の表面を乾燥させる。前記リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンが吸着した基材(チタン−リン酸化キチン複合体またはチタン−リン酸化コラーゲン複合体)は、無菌容器内において、乾燥状態かつ10℃以下で保存される。
【0048】
リン酸化キチン含有層またはリン酸化コラーゲン含有層は、リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンに加え、用途に応じて他の成分を含んでいてもよい。この場合、リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンによる骨への結合性をより十分に発揮させるためには、リン酸化キチン含有層中のリン酸化キチンの量またはリン酸化コラーゲン含有層中のリン酸化コラーゲンの量は、80質量%以上であることが好ましい。
【0049】
(効果)
このようにして製造した複合体は、チタン基材の表面がチタンおよび骨に含まれる各種細胞の両方に対して親和性が高いリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンで被覆されている。したがって、本実施形態に係る方法で製造された複合体を生体インプラント(例えば、人工骨や人工歯根など)として使用した場合には、短期間でかつ強固に骨と結合させることができる。また、本実施形態に係る方法で製造された複合体を細胞培養基材として使用した場合には、骨に含まれる各種細胞を好適に培養することができる。
【0050】
[第3の実施形態]
本発明の第3の実施形態は、リン酸化キチンとチタンとの複合体またはリン酸化コラーゲンとチタンとの複合体、およびこのような複合体を製造する別の方法に係る。本実施形態は、前記第2の実施形態に係る方法において、前記リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンに、細胞接着性のタンパク質またはその部分ペプチドを結合させる工程を含む。
【0051】
上記細胞接着性のタンパク質の例には、細胞接着に関与するRGD配列を分子表面に有するタンパク質、および同配列を含む合成ペプチドが含まれる。RGD配列は、Arg−Gly−Aspの3残基よりなる配列であり、細胞のα
Vβ
3インテグリンにより認識され、特異的に結合する。RGD配列を分子表面に有するタンパク質の例には、オステオポンチン(osteopontin:OPN)、骨シアロタンパク質(bone sialoprotein:BSP)および象牙質マトリックスタンパク質−1(dentin matrix protein 1:DMP1)が含まれる。
【0052】
上記細胞接着性のタンパク質は、公知のタンパク質架橋剤によって、前記リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンに結合させることができる。たとえば、タンパク質架橋剤を適切に選択すれば、前記リン酸化キチンが有する、脱アセチル化して露出したアミノ基と、上記細胞接着性のタンパク質のカルボキシル基とを、結合させることができる。また、タンパク質架橋剤を適切に選択すれば、前記リン酸化コラーゲンの分断等によって生じたアミノ基と、上記細胞接着性のタンパク質のカルボキシル基とを、結合させることができる。
【0053】
結合は、公知の方法で行うことができる。たとえば、前記リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンと上記細胞接着性のタンパク質とを、タンパク質架橋剤で架橋させればよい。
【0054】
タンパク質架橋剤としては、開発されている多種多様な試薬を、目的に応じて用いることができる(たとえばフナコシ株式会社のカタログを参照)。その中で2分子間の異なった反応基、たとえばアミノ基とスルヒドリル基を架橋する試薬の例には、マレイミド−プロピルオキシ−スクシニイミドなどが含まれる。
【0055】
(効果)
このようにして製造した複合体は、チタン基材の表面を被覆する前記リン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンが、さらに上記細胞接着性のタンパク質と結合している。そのため、細胞接着性のタンパク質がチタン基材と骨との間での骨形成をさらに促進して、チタン基材をさらに短期間で、かつ強固に、骨に結合させることができる。本発明者らの知見によれば、本実施形態に係る方法で製造した複合体は、前記複合体を形成しないチタン基材と比較して、100倍近い速さで、骨に結合することができる。
【0056】
[第4の実施形態]
本発明の第4の実施形態は、表面にヒドロキシアパタイトが析出したリン酸化キチンとチタンとの複合体、およびこのような複合体を製造する方法に係る。本実施形態は、前記第2の実施形態または第3の実施形態に係る方法で可溶性のリン酸化キチンを含む溶液に接触させたチタン基材を、石灰化溶液に浸漬する工程を含む。この工程により、前記複合体の表面を被覆するリン酸化キチンまたはリン酸化コラーゲンにヒドロキシアパタイトが結合し、ヒドロキシアパタイトを析出させることができる。
【0057】
石灰化溶液は、リン酸イオンおよびカルシウムイオンを準安定濃度に含む溶液とすることができ、たとえば、15mM/Lのカルシウムイオンおよび9mM/Lのリン酸イオンを含有する、久保木ら(非特許文献1)に記載の溶液とすることができる。
【0058】
前記石灰化溶液に浸漬する工程は、たとえば、非特許文献1に記載の、以下の工程によって行うことができる。15mM/Lの塩化カルシウム(CaCl
2)、9mM/Lのリン酸二カリウム(K
2HPO4)、0.7M/Lの塩化ナトリウム(NaCl)および0.02M/Lの炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)を含有する石灰化溶液を用意する。二酸化炭素ガスのバブリングによりpHを6.01〜6.05、好ましくは6.01に調整した上記石灰化溶液に、前記第2の実施形態または第3の実施形態に係る方法で得られた複合体を浸漬し、20℃〜50℃、好ましくは37℃で、12時間〜48時間、好ましくは48時間インキュベートする。その後、チタン基材を取り出して脱塩水で洗浄し、凍結乾燥させる。凍結乾燥したチタン基材を、新しい上記石灰化溶液に再び浸漬し、1日おきに石灰化溶液を交換しつつ、1〜2週間インキュベートする。その後、チタン基材を取り出して脱塩水で洗浄し、凍結乾燥させる。このようにして得られたヒドロキシアパタイトが析出したチタン基材は、無菌容器内において、乾燥状態かつ10℃以下で保存される。
【0059】
(効果)
このようにして製造した、表面にヒドロキシアパタイトが析出したチタン基材は、生体に対して親和性の高いヒドロキシアパタイトが均等に析出している。そのため、ヒドロキシアパタイトがチタン基材と骨との間で骨形成をさらに促進して、チタン基材をさらに短期間で、かつ強固に、骨に結合させることができる。
【0060】
[第5の実施形態]
本発明の第5の実施形態は、発泡材料の製造方法に係る。本実施形態は、前記第1の実施形態で得られた可溶性のリン酸化キチンを含有するポリウレタン発泡体を製造する工程と、発泡材料を製造する工程とを含む。本実施形態は、さらに、上記ポリウレタン発泡体を石灰化溶液に浸漬する工程を含んでもよい。
【0061】
(リン酸化キチンを含有するポリウレタン発泡体を製造する工程)
上記リン酸化キチンを含有するポリウレタン発泡体を製造する工程では、ワンショット法およびプレポリマー法を含む、従来の方法により、ポリウレタン発泡体を製造することができる。
【0062】
ワンショット法は、上記リン酸化キチン、ポリオール類およびポリイソシアネート類を含有する混合液を調製する工程と、この混合液に発泡剤を混和して撹拌および混合する工程とを含む。上記撹拌および混合する工程において、上記原料がウレタン化反応および架橋反応などによって反応してウレタン化し、かつ、泡化反応によって発泡する。このとき、たとえば、上記混合液を調製する工程において、予めポリオール類に前記リン酸化キチンを添加し、撹拌して、リン酸化キチンが分散したポリオール類を調製し、このリン酸化キチンが分散したポリオール類とポリイソシアネート類とを混和すればよい。
【0063】
プレポリマー法は、ポリオール類とポリイソシアネート類とを反応させて末端にイソシアネート基を有するプレポリマーを製造する工程と、上記リン酸化キチン、前記プレポリマー、過剰の水およびポリオール類を含有する混合液を調製する工程と、この混合液に発泡剤を混和して撹拌および混合する工程とを含む。上記撹拌および混合する工程において、上記プレポリマーとポリオール類とがウレタン化反応および架橋反応などによって反応してウレタン化し、かつ、泡化反応によって発泡する。このとき、たとえば、上記混合液を調製する工程において、上記過剰の水および上記ポリオール類に前記リン酸化キチンを添加し、撹拌して、リン酸化キチンが分散したポリオール類を調製し、このリン酸化キチンが分散したポリオール類と上記プレポリマーとを混和すればよい。
【0064】
上記ポリオールの例には、ポリオキシエチレンジオール、ポリオキシエチレントリオール、ポリオキシエチレンテトロール、ポリオキシエチレンヘキソールおよびポリオキシエチレンオクトールなどのポリエーテル系ポリオール、ポリ(ブチレンアジペート)ジオールなどのアジペート系ポリオールおよびポリ−ε−カプロラクトンジオールなどのカプロラクトン系ポリオールを含むポリエステル系ポリオール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールおよびグリセリンのプロピレンオキシド付加物などのポリオキシアルキレンポリオール、ならびにポリ(ヘキサメチレンカーボネート)ジオールなどのポリカーボネート系ポリオール等が含まれる。これらのポリオールは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
上記ポリイソシアネートの例には、トルエンジイソシアネート(TDI)、トリフェニル−メタン−4,4’,4”−トリイソシアネート、ベンゼン−1,3,5−トリイソシアネート、トルエン−2,4,6−トリイソシアネート、ジフェニル−2,4,4’−トリイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、キシレンジイソシアネート、クロロフェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート、ナフタレン−1,5−ジイソシアネート、キシレン−α,α’ジイソシアネート、3,3’−ジメチル−4,4’−ビフェニレン−ジイソシアネート、3,3’−ジメトキシ−4,4’−スルホニルビス(フェニルイソシアネート)、4,4’−メチレンジオール−トリイソシアネート、エチレンジイソシアネート、エチレンジイソチオシアネート、トリメチレンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン−4,4’−ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、および2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジイソシアネートが含まれる。これらのポリイソシアネートは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
上記発泡剤の例には、水のほかジクロロメタン(塩化メチレン)、ペンタン、シクロペンタン、ヘキサン、シクロヘキサンおよび炭酸ガスが含まれる。これらの発泡剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0067】
本工程は、触媒の存在下で行ってもよい。上記触媒の例には、トリエチレンジアミン、N,N−ジメチルアミノエタノール、N,N’,N’−トリメチルアミノエチルピペラジンなどの第3級アミン(アミン触媒)、オクチル酸スズ(スズオクトエート)およびラウリン酸ジブチルスズ(ジブチルスズジラウレート)などの有機金属化合物(金属触媒)、酢酸塩、ならびにアルカリ金属アルコラート等が挙げられる。これらの触媒は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。触媒の効果を高める観点からは、触媒は、アミン触媒と金属触媒との組み合わせであることが好ましい。
【0068】
本工程は、整泡剤とともに行ってもよい。上記整泡剤の例には、シリコーン化合物、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムおよびラウリル硫酸ナトリウムなどのアニオン系界面活性剤、ポリエーテルシロキサン、ならびにフェノール系化合物等が含まれる。これらの整泡剤は、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0069】
(ポリウレタン発泡体を石灰化溶液に浸漬する工程)
石灰化溶液は、前記第4の実施形態と同様のものを用いることができる。浸漬も、前記第4の実施形態と同様に行い得る。
【0070】
(効果)
このようにして製造したポリウレタン発泡体は、従来のポリウレタン発泡体よりもヒドロキシアパタイトの付着率が高い。そのため、ヒドロキシアパタイトがポリウレタン発泡体と骨との間で骨形成をさらに促進して、ポリウレタン発泡体を従来よりも短期間で、かつ強固に、骨に結合させることができる。また、このようにして製造したポリウレタン発泡体は、従来のポリウレタン発泡体よりもより多くのヒドロキシアパタイトを析出させることができる。また、ポリウレタン発泡体にキチン由来の官能基を付与することにより、環境汚染物質の吸着材としても、従来の吸着材よりも高い吸着能を有することが期待される。
【実施例】
【0071】
以下、実施例を参照して本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されない。
【0072】
[実施例1]可溶性のリン酸化キチンの製造
乾燥粉末状のキチン10gを、100mLのヘキサンとジメチルフォルムアミド(DMF)の比が体積比で50/50である混合液の中に分散させた。分散による分散媒の濁りが目視で認められた後、分散液を25℃にて撹拌しつつ、1gのメタンスルフォン酸を触媒として加え、10分間隔で、エタノールに溶解させた5gの5酸化リンを3回にわたり加えて、2時間、反応させた。その後、反応液に蒸留水を加えて、1M NaOHを加えてpHを中性にしてから蒸留水に対する透析を繰り返した。透析後の外液の電気伝導度に変化がなくなるまで透析を行った後、内液を凍結乾燥した。
【0073】
図1は、上記方法を行った後の内液から得た、リン酸化を行って可溶化したキチン試料について測定した赤外吸収スペクトルである。900〜1150cm
−1付近の、有機リン酸基に特徴的なピーク(図中、矢印部分)が観察された。
【0074】
図2は、上記方法を行った後の内液から得た、リン酸化を行って可溶化した2種類のキチン試料と、上記方法を行わず、リン酸化していないキチン試料について測定した赤外吸収スペクトルである。非プロトン性溶媒を利用してリン酸化を行った試料は、いずれも
図2に示すように、900〜1150cm
−1付近の、有機リン酸基に特徴的なピークが明瞭に見られたが、リン酸化していないキチンには、上記特徴的なピークは明瞭には見られなかった。
【0075】
リン酸化前後キチン10mgをケルダール・フラスコにとり、濃硫酸1.5mlと過塩素酸0.5mlを加えて透明化するまで加熱した。試料を定量的に蒸留水の希釈したのち、遊離したリン酸をモリブデン青比色法によって測定した。この結果、リン酸化前のキチン試料にはリンは含まれていないこと、並びに、リン酸化時に、均一のリン酸化が進行したと仮定すれば、キチンのNアセチル・グルコサミン単位の約0.5%程度がリン酸化されていることがわかった。
【0076】
この結果から、本発明に係る方法によって、キチンがリン酸化し、水またはDMFに可溶化することがわかった。
【0077】
[実施例2]可溶性のリン酸化コラーゲンの製造
ウシ皮膚由来のコラーゲン1gを300mLの1Mリン酸カリウム緩衝液(pH3)に溶解し、昇温を避けるため氷冷または循環冷却装置を利用し(25℃以下)撹拌しつつ、1gのメタンスルフォン酸を触媒として加えた後、10分間隔で、1gの5酸化リンを3回にわたり加えて3時間、反応させた。その後も、反応物を冷却しつつ、pHが7になるまで1M NaOHを添加した。その後、反応液に蒸留水を加えて、蒸留水に対する透析を行って反応試薬を除去したのち凍結乾燥した。
【0078】
[実施例3]不溶性コラーゲンとゼラチンのリン酸化と可溶化法
不溶性コラーゲンが大部分を成すコラーゲン、たとえば、ウシ骨コラーゲン、成牛の皮膚コラーゲンのリン酸化は、キチンのリン酸化法を大部分そのまま用いる必要がある。すなわち、1〜5gの不溶性コラーゲンを、300mLのヘキサンとジメチルフォルムアミド(DMF)の比が、体積比で50/50である混合液の中に分散させた。分散液を25℃以下にて撹拌しつつ、1gのメタンスルフォン酸を触媒として加えた後、10分間隔で、エタノールに溶解させた5gの5酸化リンを3回にわたり加えて、2時間、反応させた。溶解した成分を不溶性成分と遠心分離し、上清には、反応液に蒸留水を加えて、1M NaOHを加えてpHを中性にしてから蒸留水に対する透析を行った。透析後の外液の電気伝導度に変化がなくなるまで透析を行った後、内液を凍結乾燥した。
【0079】
不溶性の成分は、再び上記の溶媒とリン酸化試試薬、触媒を用いて、ただし温度を60℃にして、可溶化・リン酸化を行った。この操作によって、不溶性コラーゲンの大部分が可溶化され、リン酸化ゼラチンとして回収することができた。リン酸化ゼラチンも蒸留水に対して透析後、凍結乾燥した。
【0080】
図3は、本実施例において得られた2種類のリン酸化コラーゲン試料、およびリン酸化を行わなかったウシ皮膚由来のコラーゲン試料、の赤外吸収スペクトルである。
図3に示すように、本発明の方法でリン酸化したウシ由来コラーゲンに、有機リン酸基に特徴的な、900〜1150cm
−1付近のピーク(図中、矢印部分)が、リン酸化を行わなかったウシ由来コラーゲンよりも顕著に見られた。本発明の方法によってリン酸化を行わなかったウシ由来コラーゲンでは、上記ピークは顕著には見られなかった。
【0081】
この結果から、本発明に係る方法によって、コラーゲンがリン酸化し、水に可溶化することがわかった。
【0082】
[実施例4]チタンに結合するリン酸化キチンの分離
実施例1で製造したリン酸化キチンを水に溶解した水溶液を用意した。直径45μmのチタン粒子(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ)を詰めたカラム(内径16mm×高さ5cm)を準備した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)で平衡化したカラムに50mLの上記水溶液を添加した後、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)を添加して非吸着成分を溶出させた。次いで、25mM水酸化ナトリウム水溶液を添加して、吸着成分(リン酸化キチン)を溶出させた。
図4は、本実施例における溶出パターンを示すクロマトグラムである。
図4中の矢印は、左からそれぞれ、上記水溶液、PBS、水酸化ナトリウム水溶液および洗浄用のPBSを添加したタイミングを示す。上記クロマトグラムの面積比から測定した、チタンへの非吸着成分(水溶液の添加後、水酸化ナトリウム水溶液の添加の直前まで)と吸着成分(水酸化ナトリウム水溶液の添加後、2回目のPBSの添加の直前まで)との量比は、50:50だった。
【0083】
この結果から、実施例1で製造したリン酸化キチンのうち、50%がチタンに結合する性質を有することがわかった。
【0084】
[実施例5]チタンに結合するリン酸化コラーゲンの分離
実施例2および実施例3で製造したリン酸化コラーゲンを水に溶解した水溶液を用意した。直径45μmのチタン粒子(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ)を詰めたカラム(内径16mm×高さ5cm)を準備した。リン酸緩衝生理食塩水(PBS)(pH7.4)で平衡化したカラムに4mgの上記水溶液を添加した後、塩酸(pH4.0)を添加して非吸着成分を溶出させた。次いで、25mM水酸化ナトリウム水溶液を添加して、吸着成分(リン酸化キチン)を溶出させた。同様に、本発明の方法でリン酸化しなかったコラーゲンについて、同様の操作を行った。
図5は、リン酸化を行ったコラーゲンにおける溶出パターンを示すクロマトグラムである。
図6は、リン酸化を行わなかったコラーゲンにおける溶出パターンを示すクロマトグラムである。
図5および
図6中の矢印は、それぞれ、上記水溶液および水酸化ナトリウム水溶液を添加したタイミングを示す。上記クロマトグラムの面積比から測定した、チタンへの非吸着成分(水溶液の添加後、水酸化ナトリウム水溶液の添加の直前まで)と吸着成分(水酸化ナトリウム水溶液の添加後)との量比は、
図5で60:40であり、
図6で85:15だった。
【0085】
この結果から、実施例2および実施例3で製造したリン酸化コラーゲンは、リン酸化処理を行わなかったコラーゲンよりもチタンへの親和性が強いことがわかった。
【0086】
[実施例6]リン酸化キチンとチタンとの複合体の製造および生体内への埋植
直径50μmのチタン細繊維からなるチタン製不織布を、直径2mm、高さ3mmの円盤状に切り出した。また、リン酸化キチン(実施例4のクロマトグラフィーにおける吸着成分)をPBSに溶解させて、0.1%リン酸化キチン溶液を調製した。チタン製不織布の成形体をリン酸化キチン溶液に一定時間浸漬した後、乾燥させて、各チタン細繊維の表面をリン酸化キチンでコーティングして、実施例の生体インプラントである、リン酸化キチンとチタンとの複合体を製造した。一方、比較例の生体インプラントとして、リン酸化キチンでコーティングしていないチタン製不織布の成形体も準備した。
【0087】
生後8週齢のウイスター系ラットに8%抱水クロラールを腹腔内投与して麻酔した。歯科用ドリルを用いて脛骨に直径2.8mmの穴をあけ、実施例および比較例のインプラントを埋植した。埋植2週間後および6週間後に、インプラントおよびその周辺部を摘出した。得られたサンプルの切片を作製し、Villanueva Osteochrome染色法で骨組織を染色し、インプラント周囲の骨の形成量を比較した。
【0088】
図7Aおよび
図7Bは、実施例のインプラントを埋植したラットからの組織標本である。
図7Bは
図7Aを部分的に拡大している。
図7Cおよび
図7Dは、比較例のインプラントを埋植したラットからの組織標本である。
図7Dは
図7Cを部分的に拡大している。
図7Aおよび
図7Bでは、染色された骨組織の基質と骨細胞の旺盛な増殖(濃い色の部分)が観察された。
図7Cおよび
図7Dでは、一部に細胞の集合はあるものの、全体として
図7Aおよび
図7Bのような旺盛な骨形成は見られなかった。チタン不織布内の新生骨の面積を比較すると、実施例と比較例とでは4.4倍の差があった。
【0089】
この結果から、本発明の方法で製造したリン酸化キチンとチタンとの複合体は、体内に埋植したときに骨形成を促進することがわかった。そのため、この複合体は、チタン基材と骨との間で骨形成をさらに促進して、チタン基材をさらに短期間で、かつ強固に、骨に結合させることができると考えられる。
【0090】
[実施例7]リン酸化キチンとチタンとの複合体の表面へのヒドロキシアパタイトの析出
15mM/Lの塩化カルシウム(CaCl
2)、9mM/Lのリン酸二カリウム(K
2HPO4)、0.7M/Lの塩化ナトリウム(NaCl)および0.02M/Lの炭酸水素ナトリウム(NaHCO
3)を含有する石灰化溶液を用意した。二酸化炭素ガスのバブリングによりpHを6.01に調整した上記石灰化溶液に、前記実施例6で得られたリン酸化キチンとチタンとの複合体を浸漬し、37℃で48時間インキュベートした。その後、チタン基材を取り出して脱塩水で洗浄し、凍結乾燥させた。凍結乾燥したチタン基材を、新しい上記石灰化溶液に再び浸漬し、1日おきに石灰化溶液を交換しつつ、2週間インキュベートした。その後、チタン基材を取り出して脱塩水で洗浄し、凍結乾燥させた。このようにして得られたヒドロキシアパタイトが析出したチタン基材を、無菌容器内において、乾燥状態かつ10℃以下で保存した。
【0091】
図8Aおよび
図8Bは、上記処理を行う前の複合体の表面の走査型電子顕微鏡(SEM)による写真である。
図8Bは
図8Aを部分的に拡大している。
図8Cおよび
図8Dは、上記処理によりヒドロキシアパタイトが析出したチタン基材の表面のSEMによる写真である。
図8Dは
図8Cを部分的に拡大している。
【0092】
この結果から、本発明の方法で製造したリン酸化キチンとチタンとの複合体は、表面にヒドロキシアパタイトが均一に析出することがわかった。そのため、この複合体は、ヒドロキシアパタイトがチタン基材と骨との間で骨形成をさらに促進して、チタン基材をさらに短期間で、かつ強固に、骨に結合させることができると考えられる。
【0093】
[実施例8−1]ポリウレタン発泡体の製造(ワンショット法)
以下の成分を用いて、ポリウレタン発泡体を製造した。
【0094】
(ポリオール類)
ポリエーテルポリオール、Mw3000、水酸基価56mgKOH/g、官能基数3、品番:サンニックス GP−3050NS、三洋化成工業株式会社(「サンニックス」は同社の登録商標)
(イソシアネート類)
トルエンジイソシアネート(TDI)、2−4TDI/2−6TDIの混合物。比率は2−4TDI/2−6TDI=80/20、品番:コスモネート T−80、三井化学株式会社(「コスモネート」は同社の登録商標)
(リン酸化キチン)
実施例1で製造されたものを使用。
(触媒)
アミン触媒、品番:DABCO 33−LV、エアープロダクツジャパン株式会社(「DABCO」は同社の登録商標)
金属(スズ)触媒、品番:MRH−110、城北化学株式会社
(整泡剤)
シリコーン整泡剤、軟質用シリコーン整泡剤、品番:SZ−1136、東レ・ダウコーニング株式会社
【0095】
(混合液の調製)
100質量部の上記ポリオール類に対し、1質量部の上記リン酸化キチンを添加および撹拌して、ポリオール類にリン酸化キチンが分散した混合液1を調製した。上記リン酸化キチンの量を3質量部、5質量部に変更した以外は同様にして、それぞれ、混合液2および混合液3を調製した。
【0096】
(ポリウレタン発泡体の製造)
101質量部の上記混合液1に、4.4質量部の水(発泡剤)、1.0質量部のアミン触媒、1.5質量部の整泡剤および0.3質量部の金属(スズ)触媒を添加して、撹拌し、さらにイソシアネート52.8質量部を加えて、混合撹拌し、ポリウレタン発泡体1を製造した。混合液1を、103質量部の上記混合液2、105質量部の上記混合液3に変更した以外は同様にして、それぞれ、ポリウレタン発泡体2およびポリウレタン発泡体3を製造した。混合液1を、リン酸化キチンを添加しない上記ポリオール類に変更した以外は同様にして、ポリウレタン発泡体4を製造した。
【0097】
ポリウレタン発泡体1〜4の製造に用いた材料およびその質量部、ならびにポリウレタン発泡体1〜4中のリン酸化キチンの含有率を、表1に示す。なお、上記リン酸化キチンの含有率は、材料として用いたリン酸化キチンの質量を、すべての材料の質量で除算して求めた値である。
【0098】
【表1】
【0099】
[実施例8−2]ポリウレタン発泡体の製造(プレポリマー法)
以下の成分を用いて、ポリウレタン発泡体を製造した。
【0100】
(ポリオール類)
ポリエチレングリコール、品番:PEG#1000、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社
(イソシアネート類)
トルエンジイソシアネート(TDI)、2−4TDI/2−6TDIの混合物。比率は2−4TDI/2−6TDI=80/20、品番:コスモネート T−80、三井化学株式会社
(発泡剤)
精製水
(整泡剤)
アデカプルロニックL61、株式会社ADEKA製
(その他)
精製グリセリン、花王株式会社製
【0101】
(プレポリマーの製造)
開始剤をエチレングリコールとし、上記ポリオール類を61.69質量部とグリセリンを3.32質量部配合し、上記イソシアネート類の35質量部とを反応容器に入れ、100℃で4時間混合反応させて、反応性イソシアネート基含有量8.58質量%のウレタンプレポリマーを得た。
【0102】
(混合液の調製)
100質量部の発泡剤に対し、5質量部の上記リン酸化キチンおよび1質量部の上記整泡剤を添加および撹拌して、水にリン酸化キチンが分散した混合液4を調製した。上記リン酸化キチンの量を10質量部に変更した以外は同様にして、混合液5を調製した。
【0103】
(ポリウレタン発泡体の製造)
100質量部の上記ウレタンプレポリマーに対して、106質量部の上記混合液4を、液温25℃で混合および撹拌し、その後、発泡容器へ注ぎ込んで、発泡体を得た。得られた発泡体をマイクロ波により1.5kWで10分間乾燥させて、ポリウレタン発泡体5を製造した。混合液4を、111質量部の上記混合液5に変更した以外は同様にして、ポリウレタン発泡体6を製造した。混合液4を、リン酸化キチンを添加しない発泡剤および上記界面活性剤の混合液に変更した以外は同様にして、ポリウレタン発泡体7を製造した。
【0104】
ポリウレタン発泡体5〜7の製造に用いた材料およびその質量部、ならびにポリウレタン発泡体5〜7中のリン酸化キチンの含有率を、表2に示す。なお、上記発泡剤としての精製水は、乾燥により除去されるため、上記リン酸化キチンの含有率は、材料として用いたリン酸化キチンの質量を、精製水を除いたすべての材料(表中、「固形分」と表す。)の質量で除算して求めた値である。
【0105】
【表2】
【0106】
[実施例9]ポリウレタン発泡体の石灰化
実施例8−1におけるリン酸化キチンを含有しないポリウレタン発泡体4を試験片1、ポリウレタン発泡体4に実施例6方法の方法に準じてリン酸化キチンをコーティングしたポリウレタン発泡体4’を試験片2、実施例8−1における1.84%のリン酸化キチンを含有するポリウレタン発泡体2を試験片3とした。それぞれの試験片に対して、実施例7と同じ方法で、ヒドロキシアパタイトを析出させた。
【0107】
図9は、ヒドロキシアパタイトを析出させる前のそれぞれのポリウレタン発泡体の平均質量(図中、「元試料」と示す。)、ならびに、それぞれヒドロキシアパタイトを析出させた後の、試験片1、試験片2および試験片3の質量を示すグラフである。上記平均質量(7.6mg)に対して、試験片1の質量は1.5倍、試験片2の質量は1.7倍、試験片3の質量は2.3倍、それぞれ増加していた。
【0108】
この結果から、リン酸化キチンをコーティングしたポリウレタン発泡体は、リン酸化キチンをコーティングしないポリウレタン発泡体よりも、より多くのヒドロキシアパタイトを析出させ、リン酸化キチンを混合して製造したポリウレタン発泡体は、さらに多くのヒドロキシアパタイトを析出させることがわかった。