特許第6846142号(P6846142)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846142
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】電子線照射装置およびその使用方法
(51)【国際特許分類】
   G21K 5/00 20060101AFI20210315BHJP
   G21K 5/04 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   G21K5/00 D
   G21K5/04 E
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-173243(P2016-173243)
(22)【出願日】2016年9月6日
(65)【公開番号】特開2018-40602(P2018-40602A)
(43)【公開日】2018年3月15日
【審査請求日】2019年4月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 武史
(72)【発明者】
【氏名】楠 和憲
【審査官】 冨士 健太
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭52−037553(JP,A)
【文献】 特開2011−185500(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/175065(WO,A1)
【文献】 特開2009−058281(JP,A)
【文献】 特開昭53−119296(JP,A)
【文献】 特開平08−164322(JP,A)
【文献】 特開2000−176237(JP,A)
【文献】 特開2008−162651(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/34−53/85
53/92、53/96
G21K 1/00− 3/00
5/00− 7/00
H01J 37/30−37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に電子線発生器が配置された真空チャンバと、上記電子線発生器からの電子線を通過させて外部に出射する出射窓とを備え、この出射窓の冷却のための冷媒を導く冷媒路が形成された電子線照射装置であって、
上記冷媒路に導かれる冷媒の温度を、当該冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩の周囲において当該硝酸塩の潮解が抑制される相対湿度となるように調整する冷媒温度調整器を備え、
上記冷媒が水であることを特徴とする電子線照射装置。
【請求項2】
真空チャンバに連通して接続された真空ノズルを備え、
出射窓が、上記真空ノズルに設けられたものであり、
冷媒路が、上記真空ノズルに形成されたものであることを特徴とする請求項に記載の電子線照射装置。
【請求項3】
冷媒温度調整器で調整される冷媒の温度が、冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩の周囲において相対湿度が30%以下となるものであることを特徴とする請求項1または2に記載の電子線照射装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載の電子線照射装置の使用方法であって、
予め、冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩の周囲において当該硝酸塩の潮解が抑制される相対湿度となる、冷媒路に導かれる冷媒の温度を算出し、
この算出された温度に、冷媒路に導かれる冷媒の温度を冷媒温度調整器で調整した上で、当該冷媒を冷媒路に導くことを特徴とする電子線照射装置の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子線照射装置およびその使用方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
電子線照射装置は、電子線を照射する装置であるから、工業的に広い用途がある。特に、容器などに電子線を照射して滅菌する用途は、化学薬品を使用しないことから、化学薬品の残留を懸念することがなく、安全性が重視される先進諸国で注目を浴びている。
【0003】
一般に電子線照射装置は、照射した電子線が外部の大気と反応して硝酸ガスおよびオゾンガスなどの腐食性ガスを発生させることになる。このため、腐食を抑えることが電子線照射装置の重要な課題の1つとなる。特に、容器などに電子線を照射して滅菌する用途では、腐食により生じた腐食性物質が電子線照射装置から剥がれて容器などに落下すると、十分な滅菌がされていないことになる。このため、電子線照射装置の使用を度々中断して、腐食性物質を電子線照射装置から除去する必要がある。
【0004】
従来では、電子線照射装置に発生する結露を排出することにより、この結露が原因となる水分の滞留を防ぐことで、腐食を抑えようとする提案がされている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−156285号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に記載の電子線照射装置では、結露(相対湿度が100%で発生)による腐食を考慮していても、それ以外の原因による腐食を考慮していない。例えば、硝酸ガスにより電子線照射装置を構成する金属に硝酸塩が堆積し、この硝酸塩の周囲における相対湿度が100%に満たない場合であっても所定湿度を超えるのであれば、当該硝酸塩が周囲の気体から水分を吸収して水溶液になるという、所謂「潮解」が発生する。この水溶液は、極めて酸化力が強いので、接している金属の腐食を進行させることになる。したがって、上記特許文献1に記載の電子線照射装置には、腐食を十分に抑えられないという問題がある。
そこで、本発明は、腐食を十分に抑え得る電子線照射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、の発明に係る電子線照射装置は、内部に電子線発生器が配置された真空チャンバと、上記電子線発生器からの電子線を通過させて外部に出射する出射窓とを備え、この出射窓の冷却のための冷媒を導く冷媒路が形成された電子線照射装置であって、
上記冷媒路に導かれる冷媒の温度を、当該冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩の周囲において当該硝酸塩の潮解が抑制される相対湿度となるように調整する冷媒温度調整器を備え、
上記冷媒が水である。
【0009】
さらに、第の発明に係る電子線照射装置は、第の発明に係る電子線照射装置において、真空チャンバに連通して接続された真空ノズルを備え、
出射窓が、上記真空ノズルに設けられたものであり、
冷媒路が、上記真空ノズルに形成されたものである。
【0010】
加えて、第の発明に係る電子線照射装置は、第1または第2の発明に係る電子線照射装置において、冷媒温度調整器で調整される冷媒の温度が、冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩の周囲において相対湿度が30%以下となるものである。
【0011】
また、第の発明に係る電子線照射装置の使用方法は、第1または第2の発明に係る電子線照射装置の使用方法であって、
予め、冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩の周囲において当該硝酸塩の潮解が抑制される相対湿度となる、冷媒路に導かれる冷媒の温度を算出し、
この算出された温度に、冷媒路に導かれる冷媒の温度を冷媒温度調整器で調整した上で、当該冷媒を冷媒路に導くことである。
【発明の効果】
【0013】
上記電子線照射装置およびその使用方法によると、当該電子線照射装置が備える冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩が水溶液とならず、その結果、腐食を十分に抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施の形態に係る電子線照射装置の概略構成を示す縦断面図である。
図2】同電子線照射装置が備える真空ノズルを拡大して示す拡大縦断面図である。
図3】硝酸塩に潮解が発生する相対湿度を算出するための実験結果を示すグラフである。
図4】同真空ノズルに形成された冷媒路に供給される冷媒の温度と、真空ノズルの表面の周囲における相対湿度との関係を示すグラフである。
図5】本発明の実施例に係る電子線照射装置を連続使用した後の真空ノズルの写真である。
図6】比較例に係る図5に対応する写真である。
図7】本発明の他の実施の形態に係る電子線照射装置の概略構成を示す縦断面図である。
図8図7のD部を拡大して示す拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態に係る電子線照射装置について図面に基づき説明する。
【0016】
この電子線照射装置は、図1に示すように、内部に電子線発生器20が配置された真空チャンバ2と、この真空チャンバ2に連通して接続された真空ノズル3と、この真空ノズル3に設けられて上記電子線発生器20からの電子線Eを通過させて外部に出射する出射窓5とを備える。また、上記電子線照射装置1は、冷媒を導く冷媒路(図1では省略)が上記真空ノズル3に形成されたものである。
【0017】
上記真空チャンバ2は、上記真空ノズル3とともに、内部を電子線発生器20からの電子線Eの加速に適した真空度にされる。上記真空ノズル3は、上記真空チャンバ2との接続側(以下、基端側と言う)からその反対側(以下、先端側と言う)まで上記電子線Eを導くように配置される。すなわち、上記真空ノズル3は、その軸心が上記電子線Eの進行方向に沿うように配置される。上記出射窓5は、上記真空ノズル3の先端側に、当該真空ノズル3の内部を密封するように配置される。
【0018】
上記電子線照射装置1は、電子線Eの通過で高温となる出射窓5が破損しないようにするために、真空ノズル3に形成された冷媒路に冷媒を循環させる冷媒循環器6を備える。また、上記電子線照射装置1は、冷媒路に循環させる冷媒の温度を調整する冷媒温度調整器7を備える。冷媒を循環させる従来からの目的が「電子線Eの通過で高温となった出射窓5を、冷却することで破損しないようする」ことであるから、冷媒温度調整器7で調整される冷媒の温度上限は、この従来からの目的を達するように設定される。
【0019】
一般に電子線照射装置は、本発明の実施の形態に係る電子線照射装置1も同様に、図1に示すように、出射窓5から出射された電子線Eが外部の大気と反応して硝酸ガスGを発生させ、この硝酸ガスGにより硝酸塩Nが上記真空ノズル3などの表面に堆積する。なお、硝酸塩Nが表面に堆積するのは、上記真空ノズル3だけでなく、上記硝酸ガスGに曝されている電子線照射装置1の各機器にも想定されるが、本実施の形態では上記真空ノズル3の表面に堆積する硝酸塩Nが問題となるので、これに着目して説明および図示する。上記硝酸塩Nの種類は、上記硝酸ガスGに曝される上記真空ノズル3の材質によって異なる。例えば、その材質がステンレス(ニッケル、鉄およびクロムなどを含有する)および銅の場合、上記硝酸塩Nは、硝酸ニッケル、硝酸鉄、硝酸クロムおよび硝酸銅である。
【0020】
ところで、上記真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度が100%の場合、すなわち、上記真空ノズル3の表面で結露が発生する場合、当然ながら上記硝酸塩Nは結露による水滴を吸収して水溶液となる。このような水溶液は、極めて酸化力が強いので、接している金属の腐食を進行させる作用がある。ここで、上記硝酸塩Nが水溶液となるのは、上記真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度が100%の場合に限られず、すなわち、上記真空ノズル3の表面で結露が発生する場合に限られない。なぜなら、硝酸塩Nは、上記真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度が100%に満たない場合でも、当該相対湿度が所定湿度を超えるのであれば、周囲の気体から水分を吸収して水溶液となる、潮解という現象を発生させるからである。裏を返せば、上記真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度を上記所定湿度以下にすれば、潮解が抑制されるので、上記真空ノズル3の表面に堆積した硝酸塩Nは水溶液にならず、その結果、上記真空ノズル3の表面の腐食が抑えられる。ここで、ある空間における相対湿度と温度とは負の相関関係であることが知られているので、上記真空ノズル3の表面の周囲において、相対湿度を所定湿度以下にするには、温度を所定温度以上にすればよい。上記真空ノズル3の表面の周囲における温度が上記所定温度以上になるように、上記真空ノズル3の冷媒路に導かれる冷媒の温度を調整するのが、本発明の要旨である。このため、冷媒を循環させる本発明での目的が「真空ノズル3の表面に堆積した硝酸塩Nの潮解が抑制される相対湿度(所定湿度以下)となるような、真空ノズル3の表面の周囲における温度(所定温度以上)にする」ことであるから、冷媒温度調整器7で調整される冷媒の温度下限は、この本発明での目的を達するように設定される。
以下、上記電子線照射装置1における冷媒路およびその近傍の構成について図2に基づき詳細に説明する。
【0021】
上記真空ノズル3は、図2に示すように、外殻39および内殻38からなる2重殻構造である。これら外殻39と内殻38との間が、冷媒を基端側から先端側まで循環させる冷媒路41である。言い換えれば、上記冷媒路41は、外殻39と内殻38との間に形成された円筒形の空間である。また、上記真空ノズル3は、2重殻構造から先端側に接続されて出射窓5の熱を冷媒に効率よく伝えるための熱伝導率の高い部材からなる熱伝導部35を有する。上記出射窓5は、この熱伝導部35に取り付けられる。
【0022】
上記冷媒循環器6は、冷媒路41の基端側において、冷媒を冷媒路41に供給する機能と、冷媒路41から冷媒を回収する機能とを有する。上述の通り、上記冷媒路41は円筒形の空間であるが、この円筒形の空間における一方の縦半分が上記冷媒循環器6から冷媒の供給を受ける側(以下、冷媒供給側42と言う)であり、他方の縦半分が上記冷媒循環器6から冷媒の回収を受ける側(以下、冷媒回収側43と言う)である。上記冷媒路41では、一方の半円筒形の空間である冷媒供給側42と他方の半円筒形の空間である冷媒回収側43とが、先端側でのみ連通し、先端側以外は真空ノズル3を構成する仕切材(図示省略)により隔てられる。
【0023】
上記冷媒温度調整器7は、上記冷媒路41の冷媒供給側42に供給される冷媒の温度を、上述した温度下限〜温度上限の間にするものである。このため、上記冷媒温度調整器7は、冷媒の温度を温度下限以上とすることで硝酸塩Nの潮解を抑制し、冷媒の温度を温度上限以下とすることで出射窓5の破損を防ぐものとも言える。
次に、上記電子線照射装置1の使用方法について説明する。
【0024】
以下では説明を簡単にするために、上記電子線照射装置1が備える真空ノズル3において、2重殻構造の材質をステンレス、熱伝導部35の材質を銅とする。これにより、硝酸ガスGに曝される真空ノズル3の材質がステンレスおよび銅となるので、真空ノズル3の表面に堆積する硝酸塩Nは、硝酸ニッケル、硝酸鉄、硝酸クロムおよび硝酸銅となる。
【0025】
予め、真空ノズル3の表面に堆積する硝酸塩N(硝酸ニッケル、硝酸鉄、硝酸クロムおよび硝酸銅)に潮解が発生する相対湿度を、実験または既存の資料などから算出する。実験の場合、図3に示すように、相対湿度が30%を超えるのであれば、いずれかの硝酸塩Nの重量が増加(周囲の気体からの水の吸収による)しているので、いずれかの硝酸塩Nに潮解が発生していると言える。したがって、いずれの硝酸塩Nにも潮解が発生しない相対湿度は30%未満、つまり上記所定湿度は30%となる。その後、真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度を所定湿度にするために必要な、冷媒路41に供給される冷媒の温度も実験などにより算出する。ここで、真空ノズル3の表面の周囲においても相対湿度と温度とは負の相関関係であり、真空ノズル3の表面の周囲における温度と冷媒の温度とは正の相関関係であるから、真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度と冷媒の温度とは、例えば図4の符号Fに示すような負の相関関係である。このため、真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度を所定湿度(図4だと30%)にするために必要な、冷媒路41に供給される冷媒の温度(図4だと45℃)が算出されると、図4の符号Aでの領域に示すように、冷媒がこの温度(図4だと45℃)以上であれば、必然的に、真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度が所定湿度(図4だと30%)以下となる。したがって、算出された冷媒の温度(図4だと45℃)を冷媒温度調整器7に温度下限として入力(設定)する。
【0026】
一方で、出射窓5が破損しないための冷媒路41に供給される冷媒の最高温度を実験などにより算出する。この算出された最高温度を冷媒温度調整器7に温度上限として入力(設定)する。その後は、図1に示すように、電子線発生器20から電子線Eを発生させて、この電子線Eを出射窓5から外部に出射させる。一方で、図2に示すように、冷媒温度調整器7により温度下限〜温度上限のいずれかの温度に設定された冷媒を、冷媒循環器6により冷媒路41に循環させる。
【0027】
上述した構成および使用方法によると、冷媒路41に導かれる冷媒が上述した温度下限〜温度上限のいずれかの温度に設定されるので、出射窓5が冷媒で冷却されることで破損しない一方、真空ノズル3に堆積した硝酸塩Nの潮解が抑制される。
【0028】
このように、上記電子線照射装置1およびその使用方法によると、真空ノズル3に堆積した硝酸塩Nの潮解が抑制されるので、真空ノズル3の表面に堆積した硝酸塩Nが水溶液とならず、その結果、真空ノズル3の腐食を十分に抑えることができる。
【0029】
以下、上記実施の形態をより具体的に示した実施例に係る電子線照射装置1と、比較例に係る電子線照射装置とについて説明する。なお、以下の実施例および比較例では、いずれも、次の条件を満たすものとした。
(1)真空ノズル3において、外殻39および内殻38の材質をステンレス、熱伝導部35の材質を銅とした。また出射窓5の材質をチタンとした。冷媒には純水を用いた。
【0030】
(2)電子線照射装置1が配置される室内環境を、室温30℃および相対湿度40%以下とした。また、この室内では、上方から気体が供給されるとともに、下方から気体が回収され、これにより、室内において常に気体が交換されるようにした。
【実施例】
【0031】
本実施例では、冷媒の温度を上述した温度下限以上の60℃として、電子線照射装置1を使用した。
そして、電子線照射装置1により432時間にわたる電子線Eの照射を続けた後、真空ノズル3の先端部側面を撮影した。この撮影により得られた写真を図5に示す。電子線Eの照射が432時間の長時間であっても、図5に示すように、真空ノズル3の先端部に殆ど腐食が見られなかった。
[比較例]
【0032】
本比較例では、冷媒の温度を上述した温度下限未満の30℃として、電子線照射装置を使用した。
そして、電子線照射装置により91時間にわたる電子線Eの照射を続けた後、真空ノズル3の先端部側面を撮影した。この撮影により得られた写真を図6に示す。電子線Eの照射が91時間の短時間にもかかわらず、図6に示すように、真空ノズル3の先端部に顕著な腐食が見られた。
【0033】
上記実施例(図5)と比較例(図6)との比較から明らかなように、真空ノズル3の先端部側面において、冷媒路41に導かれる冷媒の温度が60℃(実施例:温度下限以上)だと腐食が発生せず、冷媒路41に導かれる冷媒の温度が従来の30℃(比較例:温度下限未満)だと腐食が発生した。
【0034】
このように、冷媒路41に導かれる冷媒の温度を従来の30℃から新たに60℃に変更することで、真空ノズル3の腐食を明らかに十分に抑えられることができた。
【0035】
ところで、上記実施の形態では、冷媒の温度を従来よりも上げることで腐食が抑えられ、その原因を「硝酸塩Nの潮解が抑制される」として説明した。しかしながら、その原因は、「硝酸塩Nの潮解が抑制される」ことに代えて、または「硝酸塩Nの潮解が抑制される」ことに加えて、「硝酸塩Nが熱により分解する」ことも考えられる。この考えであれば、上記実施の形態における「真空ノズル3の表面の周囲における相対湿度を所定湿度にするために必要な、冷媒路41に供給される冷媒の温度も実験などにより算出する。」に、「真空ノズル3の表面に堆積した硝酸塩Nを分解するために必要な、冷媒路41に供給される冷媒の最低温度も実験などにより算出する。」を置き換えまたは追加する。そして、この上記最低温度を冷媒温度調整器7に温度下限として入力(設定)する。この考えであれば、電子線照射装置の特徴とするところは、内部に電子線発生器が配置された真空チャンバと、上記電子線発生器からの電子線を通過させて外部に出射する出射窓とを備え、この出射窓の冷却のための冷媒を導く冷媒路が形成された電子線照射装置であって、上記冷媒路に導かれる冷媒の温度を、当該冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩が熱により分解する温度に調整する冷媒温度調整器を備えることである。この冷媒温度調整器は、さらに、冷媒路近傍の表面に堆積した硝酸塩の周囲において当該硝酸塩の潮解が抑制される相対湿度となるように調整するものであってもよい。
【0036】
また、上記実施の形態では、冷媒の種類について詳細に説明しなかったが、特に限定されるものではない。冷媒には、例えば、純水などの水、エチレングリコール水溶液、または窒素ガスなどの不活性ガスが用いられる。不活性ガスなどの気体が冷媒に用いられる場合には、このような気体の吹付け元から吹付け先(当該気体が吹付けられる部分)までが、「電子線照射装置に形成された冷媒路」に相当する。すなわち、「電子線照射装置に形成された冷媒路」とは、必ずしも部材に囲われた通路のみを意味するのではなく、冷媒の通路であれば部材に囲われていないものも含む概念である。
【0037】
さらに、上記実施の形態および実施例では、真空ノズル3を備える電子線照射装置1について説明したが、真空ノズル3を備えないものであってもよい。この場合、本発明の他の実施の形態として図7に示すように、電子線照射装置1は、内部に電子線発生器20が配置された真空チャンバ2と、この真空チャンバ2に設けられて上記電子線発生器20からの電子線Eを通過させて外部に出射する出射窓5とを備える。また、上記電子線照射装置1は、図7のD部を図8で拡大して示すように、冷媒を導く冷媒路41(図7では省略)が上記真空チャンバ2に形成されたものである。上記出射窓5は、上記真空チャンバ2の内部を密封するように配置される。また、本発明の他の実施の形態として、上記実施の形態と同一の構成については、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0038】
本発明の他の実施の形態に係る構成および使用方法によっても、冷媒路41に導かれる冷媒が上述した温度下限〜温度上限のいずれかの温度に設定されるので、出射窓5が冷媒で冷却されることで破損しない一方、真空チャンバ2に堆積した硝酸塩Nの潮解が抑制される。したがって、真空チャンバ2の表面に堆積した硝酸塩Nが水溶液とならず、その結果、真空チャンバ2の腐食を十分に抑えることができる。
【符号の説明】
【0039】
E 電子線
G 硝酸ガス
N 硝酸塩
1 電子線照射装置
2 真空チャンバ
3 真空ノズル
5 出射窓
6 冷媒循環器
7 冷媒温度調整器
20 電子線発生器
38 内殻
39 外殻
35 熱伝導部
41 冷媒路
42 冷媒供給側
43 冷媒回収側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8