(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1パラメータは、前記酸素化ヘモグロビン濃度の時間的相対変化量あるいは絶対値であり、前記第2パラメータは、前記脱酸素化ヘモグロビン濃度の時間的相対変化量あるいは絶対値である、請求項1に記載の血糖値測定装置。
前記第1パラメータは、前記酸素化ヘモグロビン濃度を少なくとも1回時間微分して得られる第1微分値であり、前記第2パラメータは、前記脱酸素化ヘモグロビン濃度を少なくとも1回時間微分して得られる第2微分値である、請求項1に記載の血糖値測定装置。
前記演算部は、前記第1パラメータの時間的変化において周期的に繰り返し出現する第1特徴点と、前記第2パラメータの時間的変化において周期的に繰り返し出現する、前記第1特徴点に対応する第2特徴点とを求め、前記第1特徴点と前記第2特徴点との時間差に基づいて前記時間ずれを求める、請求項1〜3のいずれか一項に記載の血糖値測定装置。
前記演算部は、所定の期間において、前記第1パラメータの関数と前記第2パラメータの関数との内積の値を求め、前記内積の値に基づいて前記時間ずれを求める、請求項1〜3のいずれか一項に記載の血糖値測定装置。
前記演算部は、所定の期間において、前記第1パラメータの時間的変化における第1重心位置を求め、前記第2パラメータの時間的変化における第2重心位置を求め、前記第1重心位置と前記第2重心位置との時間差に基づいて前記時間ずれを求める、請求項1〜3のいずれか一項に記載の血糖値測定装置。
前記第1パラメータは、前記酸素化ヘモグロビン濃度の時間的相対変化量あるいは絶対値であり、前記第2パラメータは、前記脱酸素化ヘモグロビン濃度の時間的相対変化量あるいは絶対値である、請求項10に記載の血糖値算出方法。
前記第1パラメータは、前記酸素化ヘモグロビン濃度を少なくとも1回時間微分して得られる第1微分値であり、前記第2パラメータは、前記脱酸素化ヘモグロビン濃度を少なくとも1回時間微分して得られる第2微分値である、請求項10に記載の血糖値算出方法。
前記第1パラメータは、前記酸素化ヘモグロビン濃度の時間的相対変化量あるいは絶対値であり、前記第2パラメータは、前記脱酸素化ヘモグロビン濃度の時間的相対変化量あるいは絶対値である、請求項14に記載の血糖値算出プログラム。
前記第1パラメータは、前記酸素化ヘモグロビン濃度を少なくとも1回時間微分して得られる第1微分値であり、前記第2パラメータは、前記脱酸素化ヘモグロビン濃度を少なくとも1回時間微分して得られる第2微分値である、請求項14に記載の血糖値算出プログラム。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、添付図面を参照しながら本発明による血糖値測定装置(血糖値算出装置)、血糖値算出方法(血糖値測定方法)及び血糖値算出プログラム(血糖値測定プログラム)の実施の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
図1は、本実施形態による血糖値測定装置1の概念図である。血糖値測定装置1は、光計測器(プローブ)10と、本体部30とを備える。本体部30は、光計測器10によって生体50から検出された光の強度に基づいて、酸素化ヘモグロビン(O
2Hb)濃度に関するパラメータ(第1パラメータ)の時間的変化と脱酸素化ヘモグロビン(HHb)濃度に関するパラメータ(第2パラメータ)の時間的変化とを求める。O
2Hb濃度に関するパラメータとは、例えば、初期量からのO
2Hb濃度の時間的な変動(時間的相対変化量(ΔO
2Hb))、あるいは、ある時刻におけるO
2Hb濃度の絶対値(O
2Hb)、それらのO
2Hb濃度を時間微分した値などである。また、HHb濃度に関するパラメータとは、初期量からの時間的なHHb濃度の変動(時間的相対変化量(ΔHHb))、あるいは、或る時刻におけるHHb濃度の絶対値(HHb)、それらのHHb濃度を時間微分した値などである。また、O
2Hb濃度に関するパラメータの時間的変化及びHHb濃度に関するパラメータの時間的変化は、例えば、それらのパラメータの時系列データである。本体部30は、これらの時間ずれに基づいて血糖値を算出し、血糖値を被検者に知らせる。本体部30は、例えばスマートフォンあるいはタブレット端末などのスマートデバイス等のコンピュータによって構成される。
【0023】
図2は、本実施形態による光計測器10の概念図である。光計測器10は、光源(光出力部)11と光検出器(光検出部)12とを有する。光源11は、生体50の皮膚51の表面における所定の光入力位置に入力され、所定の波長成分(λ
1、λ
2、λ
3)を含む測定光L1を出力する。この測定光L1は、生体50の内部を伝播し、生体50の皮膚51の表面から出力される。光検出器12は、生体50の皮膚51の表面における所定の光検出位置から出力される測定光L1を検出し、検出された測定光L1の強度に応じた検出信号を生成する。血糖値測定装置1は、光検出器12から出力された検出信号に基づき、O
2Hb及びHHbによる測定光L1への吸収あるいは散乱などの影響を考慮して、O
2Hb濃度及びHHb濃度を算出する。なお、所定の波長成分は、例えば可視光の赤波長域から近赤外領域(670nm〜2500nm)に含まれる。一例では、λ
1、λ
2、λ
3はそれぞれ735nm、810nm、及び850nmである。但し、測定光L1はこれらの波長成分を含んでいればよく、測定光L1自体は白色光であってもよい。
【0024】
図3(a)は、光計測器10の構成を示す平面図である。また、
図3(b)は、
図3(a)のIII―III線に沿った側面断面図である。光源11と光検出器12とは、互いに例えば5cmの間隔を空けて配置され、柔軟な黒色のシリコンゴム製のホルダー13によって一体化されている。なお、この間隔は、3cm〜4cmであってもよい。
【0025】
光源11は、例えば発光ダイオード(LED)あるいはレーザダイオード(LD)、スーパールミネッセントダイオード(SLD)などの光源である。光源11から出力された測定光L1は、生体50の皮膚51の表面に対してほぼ垂直に入力される。光検出器12は、N個(Nは1以上の整数)の光検出素子16及びプリアンプ17を有する。光検出器12は、生体50の内部を伝搬した測定光を検出し、測定光の強度に応じた検出信号を生成する。各光検出素子16は、例えば、光源から出力される測定光の中心波長を含む波長域に受光感度を有するフォトダイオードあるいはアバランシェフォトダイオードなどのポイントセンサ、またはCCDイメージセンサやCMOSイメージセンサなどのイメージセンサである。光検出器12は、例えば光源11からの距離方向にアレイ状に並べられたN個の光検出素子16を有する。プリアンプ17は、光検出素子16から出力される光電流を積分し、増幅する。光検出器12は、プリアンプ17を介して、微弱な信号を感度良く検出して検出信号を生成し、この信号を本体部30へケーブル18を介して伝送する。なお、光計測器10は、例えば、指又は耳といった生体50を挟んでもよく、頭部といった生体50に対して伸縮性のバンドにより固定されてもよい。
【0026】
図4は、血糖値測定装置1の構成例を示すブロック図である。本体部30は、CPU24と、ディスプレイ(表示部)25と、ROM26と、RAM27と、データバス28と、コントローラ29と、入力装置(入力部)31とを有するコンピュータである。コントローラ29は、光源制御部21と、サンプルホールド回路22と、A/D変換回路23とを含む。コントローラ29は、光計測器10への光出力を制御する。コントローラ29は、例えば測定光の出力間隔や測定光の強度を制御する。
【0027】
光源制御部21は、光計測器10の光源11に電気的に接続されている。光源制御部21は、データバス28に電気的に接続されており、同じくデータバス28に電気的に接続されているCPU24から光源11の駆動を指示するための指示信号を受ける。指示信号には、光源11から出力される測定光の光強度や波長(例えば波長λ
1、λ
2、λ
3のうちいずれかの波長)などの情報が含まれている。光源制御部21は、CPU24から受けた指示信号に基づいて光源11を駆動する。光源制御部21は、ケーブル18を介して光計測器10へ駆動信号を出力する。
【0028】
サンプルホールド回路22及びA/D変換回路23は、光計測器10からケーブル18を介して伝送される検出信号を入力してこれを保持し、デジタル信号化を行ってCPU24に出力する。サンプルホールド回路22は、データバス28に電気的に接続されており、検出信号を保持するタイミングを示すサンプル信号をCPU24からデータバス28を介して受け取る。サンプルホールド回路22は、サンプル信号を受けると、光計測器10から入力されたN個の検出信号を保持する。サンプルホールド回路22は、A/D変換回路23に電気的に接続されており、保持したN個の検出信号それぞれをA/D変換回路23へ出力する。
【0029】
CPU24は、本実施形態における演算部である。CPU24は、A/D変換回路23から受けた検出信号に基づいて、生体50の内部に含まれるO
2Hb濃度とHHb濃度とを演算する。CPU24は、算出したO
2Hb濃度の時間変化とHHb濃度の時間変化との時間ずれを演算し、その時間ずれに基づいて血糖値を演算し、データバス28を介して血糖値をディスプレイ25へ送る。なお、検出信号に基づくO
2Hb濃度及びHHb濃度の演算方法、時間ずれの演算方法、及び血糖値の演算方法については後述する。ディスプレイ25は、データバス28に電気的に接続されており、データバス28を介してCPU24から送られた結果を表示する。なお、ディスプレイ25及び入力装置31は、例えば、タッチパネルディスプレイによって構成されてもよい。
【0030】
次に、血糖値測定装置1の動作を説明する。併せて、本実施形態による血糖値算出方法について説明する。この血糖値算出方法は、例えばROM26などの非一時的記憶媒体に記憶されたプログラムをCPU24が読み出し実行することによって好適に実施される。
図5は、本実施形態による血糖値算出方法を示すフローチャートである。まず、光源制御部21は、CPU24からの指示信号に基づいて、波長λ
1〜λ
3の測定光を順次出力する。測定光は、光入力位置から生体50の内部へ入力する(光入力ステップ、S11)。内部に入力された測定光は、生体50の内部において散乱するとともに被測定成分に吸収されながら伝搬し、一部の光が生体50の光検出位置に達する。光検出位置に達した測定光は、N個の光検出素子16によって検出される(光検出ステップ、S12)。各光検出素子16は、検出した測定光の強度に応じた光電流を生成する。光電流は、プリアンプ17によって検出信号に変換される。検出信号は本体部30のサンプルホールド回路22に送られて保持されたのち、A/D変換回路23によってデジタル信号に変換される。
【0031】
ここで、
図6(a)は、波長λ
1〜λ
3の測定光の入力タイミングを示す図であり、
図6(b)は、A/D変換回路23からのデジタル信号の出力タイミングを示す図である。
図6(a)及び
図6(b)に示されるように、波長λ
1のレーザ光が入力すると、N個の光検出素子16に対応するN個のデジタル信号D
1(1)〜D
1(N)が順次得られる。続いて、波長λ
2の測定光が入力すると、N個の光検出素子16に対応するN個のデジタル信号D
2(1)〜D
2(N)が順次得られる。このようにして、A/D変換回路23からは(3×N)個のデジタル信号D
1(1)〜D
3(N)が出力される。
【0032】
続いて、CPU24が、デジタル信号D
1(1)〜D
3(N)の中から少なくとも1つのデジタル信号を用いて、O
2Hb濃度とHHb濃度とを演算する(第1演算ステップ、S13)。
【0033】
ここで、ステップS13における、CPU24による演算について、O
2Hb濃度の時間的相対変化量(ΔO
2Hb)及びHHb濃度の時間的相対変化量(ΔHHb)を例に、詳細に説明する。或る光検出位置において、時刻T
0における測定光波長λ
1〜λ
3それぞれに応じた検出信号の値をD
λ1(T
0)〜D
λ3(T
0)、同じく時刻T
1における値をD
λ1(T
1)〜D
λ3(T
1)とすると、時刻T
0〜T
1における検出光強度の変化量は、次の(1)〜(3)式のように表される。
【数2】
【数3】
【数4】
ただし、(1)〜(3)式において、ΔOD
1(T
1)は波長λ
1の検出光強度の時間的変化量、ΔOD
2(T
1)は波長λ
2の検出光強度の変化量、ΔOD
3(T
1)は波長λ
3の検出光強度の時間的変化量である。また、時刻T
0から時刻T
1までの間におけるO
2Hb及びHHbの濃度の時間的相対変化量をそれぞれΔO
2Hb(T
1)及びΔHHb(T
1)とすると、これらは次の(4)式によって求めることができる。
【数5】
ただし、(4)式において、係数a
11〜a
23は、波長λ
1、λ
2、及びλ
3の光に対するO
2Hb及びHHbの吸光係数から求まる定数である。CPU24は、N個の光検出位置の中の1つの検出信号について上記の演算を行い、ΔO
2HbとΔHHbとを算出する。これらの算出周期は例えば16ミリ秒である。
【0034】
続いて、CPU24は、ΔO
2Hb及びΔHHbの各時系列データに対して一回以上の時間微分を行うことにより、ΔO
2Hbの微分値(第1微分値)と、ΔHHbの微分値(第2微分値)とを求める(第1演算ステップ、S14)。ΔO
2Hb及びΔHHbは、呼吸や体内の生理的作用によるうねり成分を含む。うねり成分は、自発心拍に起因する周波数よりも小さい周波数成分であり、演算精度の低下を生じさせるおそれがある。そこで、本実施形態では、ΔO
2Hb及びΔHHbに対して、自発心拍に起因する周波数よりも小さい周波数成分を低減(若しくは除去)する補正を行う。すなわち、ΔO
2Hb及びΔHHbに対して一回微分または二回微分を行うことにより、小さな周波数成分が低減された第1微分値及び第2微分値を求める。なお、このような方法に代えて、自発心拍の周波数よりも小さい周波数成分(例えば0.5Hz以下の成分)をフィルタ処理により除去してもよい。
【0035】
図7(a)は、ΔO
2Hb及びΔHHbの実測値の時系列データを示すグラフである。グラフG10は、ΔO
2Hbの時系列データ(O
2Hb濃度の時間変化)を示す。グラフG11は、ΔHHbの時系列データ(HHb濃度の時間変化)を示す。
図7(b)は、ΔO
2Hbの実測値の時系列データを一回微分して得られたデータと、ΔHHbの実測値の時系列データを一回微分して得られたデータとを示すグラフである。グラフG12は、ΔO
2Hbを一回微分した値の時系列データ(O
2Hb濃度の一回微分値の時間変化)を示す。グラフG13は、ΔHHbを一回微分した値の時系列データ(HHb濃度の一回微分値の時間変化)を示す。
図7(c)は、ΔO
2Hbの実測値の時系列データを二回微分して得られたデータと、ΔHHbの実測値の時系列データを二回微分して得られたデータとを示すグラフである。グラフG14は、ΔO
2Hbを二回微分した値の時系列データ(O
2Hb濃度の二回微分値の時間変化)を示す。グラフG15は、ΔHHbを二回微分した値の時系列データ(HHb濃度の二回微分値の時間変化)を示す。
【0036】
図7(a)を参照すると、グラフG10及びG11において、周期的に繰り返し出現するピーク値及びボトム値が、各周期ごとに大きく変動している。ピーク値は、心拍周期における最大値を示し、ボトム値は、心拍周期における心拍の始まりの点を示す。これは、ΔO
2HbとΔHHbとに、呼吸や体内の生理的作用によるうねり成分が含まれていることを示している。これに対し、
図7(b)及び
図7(c)を参照すると、グラフG12〜G15において、周期的に繰り返し出現するピーク値及びボトム値の各周期ごとの変動が小さくなっている。すなわち、ΔO
2Hb及びΔHHbのうねり成分(低周波成分)が相対的に抑えられている。なお、ΔO
2Hb及びΔHHbに対して行われる補正(うねり成分の抑制)の方法は、このような方法に限られず、例えばΔO
2Hb及びΔHHbから所定周波数より小さい周波数成分を除去する処理を行ってもよい。
【0037】
再び
図5を参照すると、本実施形態による血糖値測定装置1は、次の動作を行う。すなわち、上述した方法によって算出されたO
2Hb濃度及びHHb濃度から、CPU24によって、O
2Hb濃度とHHb濃度との時間ずれが算出される(第1演算ステップ、S15)。次に、この時間ずれに基づいて、CPU24によって血糖値が算出される(第2演算ステップ、S16)。本実施形態による血糖値算出方法及び血糖値算出プログラムでは、上述したステップS11〜S16が繰り返される。以下、時間ずれの算出方法及び血糖値の算出方法について、O
2Hb濃度の時間的相対変化量(ΔO
2Hb)及びHHb濃度の時間的相対変化量(ΔHHb)を例に、詳細に説明する。
【0038】
ΔO
2HbとΔHHbとの時間ずれは、例えば以下の第1、第2または第3の方法によって好適に算出される。まず、第1の方法は、特徴点抽出による算出方法である。第1の方法では、CPU24は、ΔO
2Hbにおいて周期的に繰り返し出現する第1特徴点と、ΔHHbにおいて周期的に繰り返し出現する、第1特徴点に対応する第2特徴点とを求め、第1特徴点と第2特徴点との時間差に基づいて時間ずれを求める。或いは、CPU24は、ΔO
2HbのM回微分値(Mは1以上の整数)において周期的に繰り返し出現する第1特徴点と、ΔHHbのM回微分値において周期的に繰り返し出現する、第1特徴点に対応する第2特徴点とを求め、第1特徴点と第2特徴点との時間差に基づいて時間ずれを求める。
【0039】
一例として、
図8(a)は、ΔO
2Hb及びΔHHbの一回微分値における特徴点抽出により時間ずれを算出する方法を説明するためのグラフである。グラフG20は、ΔO
2Hbの一回微分値を示す。グラフG21は、ΔHHbの一回微分値を示す。これらのグラフは、例えば、ピーク点、ボトム点、又はノッチ点といったいくつかの特徴的な点を含む。ノッチ点は、その時系列データにおいて局所的な落ち込みを示す点である。CPU24は、その特徴的な点を複数個所で抽出する。例えば
図8(a)を参照すると、ΔO
2Hbにおいて周期的に繰り返し出現するピーク点P1〜P3及びボトム点B1〜B3と、ΔHHbにおいて周期的に繰り返し出現するピーク点P4〜P6及びボトム点B4〜B6とが抽出されている。CPU24は、それぞれ対応するピーク点同士の時間ずれΔt1〜Δt3及びボトム点同士の時間ずれΔt4〜Δt6を求める。例えばこれらの時間ずれΔt1〜Δt6の平均値を、ΔO
2HbとΔHHbとの時間ずれとしてもよい。
【0040】
第2の方法は、内積の値による算出方法である。第2の方法では、CPU24は、所定の期間におけるΔO
2Hbの関数とΔHHbの関数との内積の値に基づいて、時間ずれを求める。或いは、CPU24は、所定の期間におけるΔO
2HbのM回微分値の関数とΔHHbのM回微分値の関数との内積の値に基づいて、時間ずれを求めてもよい。一例として、
図8(b)は、ΔO
2Hbの一回微分値とΔHHbの一回微分値との関数の内積により時間ずれを算出する方法を説明するためのグラフである。ベクトルと同様に、関数同士にも内積を適用することができる。そして、ΔO
2Hbの関数とΔHHbの関数とを規格化して内積を演算すると、その内積の値はcos(Δθ)の値と等しくなる。ΔθはΔO
2HbとΔHHbとの位相ずれである。この関係から、位相ずれ(Δθ)を求めることができ、時間ずれは次の式(5)によって算出される。但し、Tは心拍周期である。
【数6】
【0041】
第3の方法は、重心位置の比較による算出方法である。第3の方法では、CPU24は、所定の期間において、ΔO
2Hbにおける重心位置(第1重心位置)を求め、ΔHHbにおける重心位置(第2重心位置)を求め、これらの重心位置の時間差に基づいて時間ずれを求める。或いは、CPU24は、所定の期間において、ΔO
2HbのM回微分値における重心位置(第1重心位置)を求め、ΔHHbのM回微分値における重心位置(第2重心位置)を求め、これらの重心位置の時間差に基づいて時間ずれを求めてもよい。重心位置の比較による算出方法では、重心位置はノイズの影響を受けて変動しにくいので、精度良く時間ずれを求めることができる。
【0042】
図8(c)は、ΔO
2Hb及びΔHHbの一回微分値の時系列データに基づいて、重心位置抽出により時間ずれを算出する方法を説明するためのグラフである。
図8(c)に示されるように、CPU24は、ΔO
2HbとΔHHbとの所定の期間において第1重心位置G
1と第2重心位置G
2とを求め、これらの重心位置G
1,G
2に基づいて時間ずれΔtを算出する。時間ずれΔtは、例えば重心位置G
1,G
2の時間差として求められる。所定の期間は、例えば、前述した第1及び第2の方法のいずれかによって算出されるΔO
2HbとΔHHbとの時間ずれ及びこれらの周期に基づいて定められてもよい。
【0043】
続いて、CPU24は、上述した第1、第2または第3の方法によって算出された時間ずれに基づいて血糖値を算出する。
図9(a)は、被検者が高血糖状態であるときの、ΔO
2Hb及びΔHHbの一回微分値の時系列データの一例を示すグラフである。
図9(b)は、被検者が低血糖状態であるときの、ΔO
2Hb及びΔHHbの一回微分値の時系列データの一例を示すグラフである。
図9(a)及び
図9(b)において、グラフG30及びG32は、ΔO
2Hbの一回微分値の時系列データを示している。グラフG31及びG33は、ΔHHbの一回微分値の時系列データを示している。
【0044】
図9(a)及び
図9(b)を参照すると、ΔO
2Hbに対するΔHHbの時間ずれは、被検者が高血糖状態のときには小さく、被検者が低血糖状態のときには大きい。すなわち、血糖値と時間ずれとの間には有意な相関があることが理解される。さらに本発明者は、後述する実施例から、血糖値と時間ずれとの関係が次の数式のように表されることを見出した。Gは血糖値であり、Δtは時間ずれである。第1係数α及び第2係数βは、糖代謝能力の高さ及び測定部位に応じて定められる係数である。
【数7】
第1係数α及び第2係数βは、耳たぶ、指又は額といった測定部位に依存する係数である。また、第1係数α及び第2係数βは、糖代謝能力にも依存する。したがって、被検者の糖代謝能力の高さを考慮した上で、測定部位ごとに第1係数α及び第2係数βを定めることによって、(6)式を用いて正確に血糖値を求めることができる。
【0045】
本実施形態による血糖値測定装置、血糖値算出方法及び血糖値算出プログラムは、外部からの第1係数α及び第2係数βの入力を受け付ける入力装置31(
図4参照)を更に備えてもよい。例えば、定期検査において従来手法により得られた血糖値と、(6)式によって算出された血糖値との比較により第1係数α及び第2係数βの値が定められる場合、第1係数α及び第2係数βの値が入力装置31により入力されて、蓄積部としてのROM26(
図4参照)に保存されてもよい。また、例えば、被検者の年齢や性別、定期検査の際の血糖値のパラメータがROM26に統計的に保存され、被検者の個人情報が入力装置31に入力された場合に、適切な第1係数α及び第2係数βが選択されてもよい。
【0046】
以上の構成を備える本実施形態による血糖値測定装置1、血糖値算出方法及び血糖値算出プログラムによる効果について、以下に説明する。本実施形態では、O
2Hb濃度に関するパラメータ(たとえば、O
2Hb濃度あるいはO
2Hb濃度のM回微分値)とHHb濃度に関するパラメータ(たとえば、HHb濃度あるいはHHb濃度のM回微分値)との時間ずれに基づいて、血糖値が算出されている。従来、自発心拍に応じたO
2Hb濃度の時間的変化とHHb濃度の時間的変化とは互いに同期すると考えられていた。しかしながら本発明者は、O
2Hb濃度の時間的変化とHHb濃度の時間的変化とに時間ずれが生じる場合があり、その時間ずれの大きさが血中のグルコース濃度(血糖値)に依存することを見出した。時間ずれの大きさは、健常者の場合で例えば0.1秒〜0.2秒である。
【0047】
ヘモグロビンの吸収波長域は、水、脂質、及びたんぱく質といった成分の吸収波長域と殆ど重ならない。加えて、血液中におけるヘモグロビンの重量比率は、グルコースの重量比率よりも格段に大きい。従って、O
2Hb濃度の時間的変化とHHb濃度の時間的変化との時間ずれに基づいて血糖値を測定することにより、血糖値を精度良く測定することができる。また、O
2Hb濃度の時間的変化とHHb濃度の時間的変化との時間ずれ量は、これらのM回微分値の時間的変化の時間ずれ量と等価である。従って、O
2Hb濃度のM回微分値の時間的変化と、HHb濃度のM回微分値の時間的変化との時間ずれに基づいて血糖値を測定することでも、同様に血糖値を精度良く測定することができる。
【0048】
また、本実施形態のように、時間ずれの算出に用いられるO
2Hb濃度、HHb濃度の各微分値は、それぞれO
2Hb濃度、HHb濃度の時系列データに対して少なくとも1回以上の時間微分が行われることによって、自発心拍に起因する周波数よりも小さい周波数成分が除去された値であってもよい。これにより、自発心拍に起因する周波数よりも小さい周波成分が演算結果に与える影響を抑えることができ、時間ずれをより正確に求めることができる。
【0049】
また、本実施形態のように、CPU24は、O
2Hb濃度に関するパラメータの時間的変化において周期的に繰り返し出現する特徴点と、HHb濃度に関するパラメータの時間的変化において周期的に繰り返し出現する特徴点との時間差に基づいて時間ずれを求めてもよい。これにより、それらのパラメータにおける時間ずれを容易に求めることができる。
【0050】
また、本実施形態のように、CPU24は、所定の期間において求められる、O
2Hb濃度に関するパラメータの関数とHHb濃度に関するパラメータの関数との内積の値に基づいて、それらのパラメータの時間的変化の時間ずれを求めてもよい。これにより、それらのパラメータにおける時間ずれを容易に求めることができる。
【0051】
また、本実施形態のように、CPU24は、所定の期間において求められる、O
2Hb濃度に関するパラメータの時間的変化における重心位置と、HHb濃度に関するパラメータの時間的変化における重心位置との時間差に基づいて、それらのパラメータの時間的変化の時間ずれを求めてもよい。これにより、それらのパラメータにおける時間ずれを容易に求めることができる。
【0052】
また、本実施形態のように、CPU24は、血糖値がO
2Hb濃度の時間的変化とO
2Hb濃度の時間的変化との時間ずれに反比例することに基づいて、血糖値を求めてもよい。これにより、血糖値を精度良く求めることができる。特に、CPU24が前述した式(6)を用いて血糖値を求めることにより、血糖値を更に精度良く求めることができる。
【0053】
(実施例)
図10は、座位状態の被検者Aが炭酸飲料(コカコーラ(登録商標))を摂取した後において、侵襲式血糖計を用いて得られた被検者Aの血糖値と、上記実施形態による血糖値測定装置1を用いて被検者Aの耳たぶで測定されたΔO
2Hb,ΔHHbの時間ずれΔtとの相関関係を示す散布図である。
図10において、横軸は時間ずれΔt(単位:秒)を表し、縦軸は血糖値(単位:mg/dl)を表している。これらの血糖値及び時間ずれΔtは、被検者Aが炭酸飲料を摂取した後、11日間にわたって所定の時間間隔で測定された。当該炭酸飲料は糖を多く含むので、当該炭酸飲料を摂取すると被検者Aの血糖値は高くなる。これにより、血糖値と時間ずれΔtとの相関関係を見出すことができる。
【0054】
図10を参照すると、血糖値が低いほど時間ずれΔtが大きくなり、血糖値が高いほど時間ずれΔtが小さくなるとともに、これらの相関がおおよそ線形であることが確認できる。言い換えれば、上記実施形態の血糖値測定装置1により測定された時間ずれΔtと、侵襲式血糖計を用いて得られた血糖値との間にはほぼ反比例の相関関係があることが確認できる。
図10に示される全ての測定点において、被検者Aは同じ条件下(摂取物、測定装置、測定部位及び姿勢)にて測定された。従って、上記実施形態による血糖値測定装置1を用いた測定には再現性があることがわかる。
【0055】
図11(a)は、仰臥位状態の被検者Aが上記炭酸飲料を摂取した後において、侵襲式血糖計を用いて得られた被検者Aの血糖値と、上記実施形態による血糖値測定装置1を用いて被検者Aの耳たぶで測定された時間ずれΔtとの相関関係を示す散布図である。
図11(b)は、仰臥位状態の被検者Bが菓子パンを摂取した後において、侵襲式血糖計を用いて得られた被検者Bの血糖値と、上記実施形態の血糖値測定装置1を用いて被検者Bの耳たぶで測定された時間ずれΔtとの相関関係を示す散布図である。
図12(a)は、仰臥位状態の被検者Cが菓子パンを摂取した後において、侵襲式血糖計を用いて得られた被検者Cの血糖値と、上記実施形態の血糖値測定装置1を用いて被検者Cの耳たぶで測定された時間ずれΔtとの相関関係を示す散布図である。
図12(b)は、
図11(a)、
図11(b)及び
図12(a)の各散布図を1つにまとめた図である。これらの図において、横軸は時間ずれΔt(単位:秒)を表し、縦軸は血糖値(単位:mg/dl)を表している。グラフG40〜G43は、これらの散布図の累乗近似曲線である。炭酸飲料及び菓子パンは糖を多く含む食品であるので、被検者A〜Cの血糖値は、これらを摂取した後において大きく上昇する。
【0056】
図11(a)、
図11(b)、
図12(a)及び
図12(b)を参照すると、被検者A〜Cにおいて、血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれΔtと侵襲式血糖計を用いて得られた血糖値との間にほぼ反比例の相関関係があることが確認できる。したがって、血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれΔtは、侵襲式血糖計を用いて得られた血糖値との間に反比例の相関関係を有し、この相関関係において、被検者の違い(個人差)による影響は小さいことが示された。
【0057】
図13(a)、
図13(b)、
図14(a)、及び
図14(b)は、それぞれ
図11(a)、
図11(b)、
図12(a)、及び
図12(b)の横軸を時間ずれの逆数(1/Δt、単位:Hz)とした場合の散布図である。グラフG44〜G47は、これらの散布図の累乗近似曲線である。なお、これらの図において縦軸は血糖値(単位:mg/dl)を表している。
図13(a)、
図13(b)、
図14(a)、及び
図14(b)を参照すると、侵襲式血糖計を用いて測定された血糖値は、血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt)にほぼ比例することが確認できる。
【0058】
以上に説明した本実施例の測定結果から、血糖値(G)と時間ずれの逆数(1/Δt)との関係は次の数式のように表される。
【数8】
本実施例においては、複数の被検者A〜Cに対して上の(7)式が共通の関係式として導かれた。これは、被検者A〜Cが比較的健常であり、同じ測定部位(耳たぶ)で測定したためと考えられる。糖代謝能力及び測定部位が異なる場合には、(7)式における各係数、すなわち(6)式の係数α,βを調整することが望ましい。これにより、血糖値をより正確に求めることができる。なお、本発明者の実験によれば、同一人物の同一部位の測定においては、係数α,βは長期(半年)にわたって不変であった。
【0059】
図15(a)〜
図15(c)は、侵襲式血糖計によって測定された被検者A〜Cの血糖値の時間変化(グラフG53〜55)と、血糖値測定装置1を用いて被検者Aの耳たぶで測定された時間ずれの逆数(1/Δt)の時間変化(グラフG50〜52)とを重ねて示すグラフであって、それぞれ
図11(a)、
図11(b)、及び
図12(a)に対応している。なお、これらの図において横軸は時間(単位:分)を表し、左縦軸は侵襲式血糖計による血糖値(単位:mg/dl)を表し、右縦軸は血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt、単位:Hz)を表している。
図15(a)〜
図15(c)を参照すると、血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt)は、個人差に大きく依存することなく、侵襲式血糖計を用いて得られた血糖値に追従していることが確認できる。
【0060】
なお、
図15(a)〜
図15(c)において、血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt)と侵襲式血糖計を用いて得られた血糖値との相関係数R
2は、
図15(a)では−0.74、
図15(b)では−0.93、
図15(c)では−0.83となり、いずれも高い相関となっている。したがって、上記実施形態による血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt)と、侵襲式血糖計を用いて得られた血糖値との間には、深い相関関係があることが確認できる。相関係数R
2の算出方法については後述する。
【0061】
図16(a)は、座位状態の被検者Aがゼリー状栄養補助食品(ウィダーインゼリー(登録商標))を摂取した後における、侵襲式血糖計により得られた被検者Aの血糖値の時間変化(グラフG60)と、血糖値測定装置1を用いて被検者Aの前額で測定された時間ずれの逆数(1/Δt)の時間変化(グラフG63)とを重ねて示すグラフである。
図16(b)は、座位状態の被検者Aが鶏肉(ささみ)を摂取した後における、侵襲式血糖計により得られた被検者Aの血糖値の時間変化(グラフG61)と、血糖値測定装置1を用いて被検者Aの前額で測定された時間ずれの逆数(1/Δt)の時間変化(グラフG64)とを重ねて示すグラフである。なお、これらの図において、横軸は経過時間(単位:分)を表し、左縦軸は侵襲式血糖計により得られた血糖値(単位:mg/dl)を表し、右縦軸は血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt、単位:Hz)を表している。ゼリー状栄養補助食品は糖を多く含むので、
図16(a)のグラフG60に示されるように、被検者Aの血糖値は、該食品を摂取した後上昇し、その後下降する。これに対し、ささみはタンパク質を主成分としており糖をほとんど含まないので、
図16(b)のグラフG61に示されるように、被検者Aの血糖値は、ささみを摂取した後においてはほとんど変化しない。
【0062】
図16(a)を参照すると、被検者Aがゼリー状栄養補助食品を摂取した後においては、血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt)が時間経過とともに上昇し、その後下降しており、侵襲式血糖計により得られた血糖値の時間変化に良く追従していることが確認できる。また、
図16(b)を参照すると、被検者Aがささみを摂取した後においては、血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt)が、時間経過によらずほとんど変化していないことが確認できる。これらの結果から、上記実施形態による血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt)は、血糖値の時間変化に好適に追従できることが示された。
【0063】
なお、
図16(a)及び
図16(b)において、血糖値測定装置1を用いて測定された時間ずれの逆数(1/Δt)と侵襲式血糖計により得られた血糖値との相関係数R
2は、
図16(a)では0.82、
図16(b)では0.96となった。一般的に生体計測の分野では、相関係数R
2が0.8以上あれば高い相関を示していると言われているため、これらの結果は、高い相関を示しているといえる。したがって、上記実施形態による血糖値測定装置1を用いて測定される時間ずれの逆数(1/Δt)と、侵襲式血糖計により得られる血糖値との間には、深い相関関係があることが確認できる。
【0064】
ここで、x,yを変数とする散布図において、相関係数R
2は、次の式(8)によって求めることができる。
【数9】
但し、Sxはxの分散であり、Syはyの分散であり、Sxyはxとyの共分散である。なお、分散Sx及びSy、並びに共分散Sxyは、それぞれ次の数式(9)〜(11)によって求められる。但し、x
0及びy
0は、それぞれx及びyの平均値である。また、nはサンプル数である。
【数10】
【数11】
【数12】
【0065】
なお、演算処理の高速化のため、以下に示す方法によって分散Sx及びSy並びに共分散Sxyを求めてもよい。すなわち、分散Sx及びSy、並びに共分散Sxyは、それぞれ次の数式(12)〜(14)によっても好適に求められる。
【数13】
【数14】
【数15】
したがって、例えば一定時間(例えば5秒間)に得られたΔO
2Hbの時系列データをx
1〜x
nとし、ΔHHbの時系列データをy
1〜y
nとして、分散Sx及びSy並びに共分散Sxyと、平均値x
0及びy
0とを求めるとよい。そして、これらを上述した数式(8)に代入することによって、相関係数R
2を求めることができる。
【0066】
本発明による血糖値測定装置、血糖値算出方法及び血糖値算出プログラムは、上述した実施形態及び実施例に限られるものではなく、他に様々な変形が可能である。例えば、上述した実施形態に係る血糖値測定装置1、血糖値算出方法及び血糖値算出プログラムは、ΔO
2Hb及びΔHHbの時間ずれに基づいて算出された血糖値を被検者に提示するものであるが、本発明による血糖値測定装置、血糖値算出方法及び血糖値算出プログラムは、算出された血糖値を判断材料として、被検者に糖尿病であるか否かを提示する糖尿病診断装置、糖尿病診断方法及び糖尿病診断プログラムとして応用されてもよい。
【0067】
なお、本発明者は、上述した時間ずれΔtと血糖値との間の反比例の相関関係について次のように推測している。生体の代謝には酸素代謝と解糖系とが存在し、この解糖系におけるグルコースをエネルギーに変換する過程では、2、3−BPGと呼ばれる物質が生成される。2、3−BPGは、ヘモグロビンの酸素を乖離させる特性を有する。それゆえ、酸素化ヘモグロビンは、2、3−BPGによって脱酸素化ヘモグロビンに変換される。2、3−BPGは血糖値が高くなるほど多くなるので、2、3−BPGによってヘモグロビンの脱酸素化が促進する。したがって、血糖値が高いほど酸素化ヘモグロビン濃度の時間変化に対する脱酸素化ヘモグロビン濃度の時間変化の遅れが小さくなる。すなわち、時間ずれΔtと血糖値との間には反比例の相関関係が成立する。
【0068】
また、上記実施形態では演算部(CPU24)がスマートデバイス等の本体部30に内蔵されている例を示したが、演算部は、例えばクラウドサーバーあるいはパーソナルコンピュータなど、本体部とは別に設けられてもよい。その場合、演算部は、本体部と無線あるいはインターネットなどのネットワークにより接続されてもよい。また、上記実施形態では一つの演算部がΔO
2Hb及びΔHHbの算出とこれらの時間ずれの算出とを行っているが、演算部のうちΔO
2Hb及びΔHHbを算出する部分と、これらの時間ずれを算出する部分とが別個に設けられてもよい。
【0069】
また、上記実施形態ではΔO
2Hb及びΔHHbを算出する方法としてMBL法(モディファイド・ベア・ランバート法)を示したが、SRS法(空間分解分光法)など他の近赤外分光法を用いてもよい。また、O
2Hb濃度の絶対値及びHHb濃度の絶対値は、TRS法(時間分解分光法)あるいはPMS法(位相変調分光法)などの近赤外分光法を用いて求めることができる。