(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記上部構造体の最下端梁は、当該最下端梁の直上に位置する上部梁より高い梁せい、または高強度コンクリート、或いは高強度鋼材で形成されていることを特徴とする請求項1に記載の建物免震構造。
【背景技術】
【0002】
近年、地震の振動が建物に伝わるのを防ぐために、積層ゴム支承などの免震装置を備えた建物が広く施工されている。免震装置による建物免震構造は、建物に作用する地震荷重を、その建物が有する保有耐力より小さくすることで、建物の安全性を確保する。
特許文献1には、
図5に示されるような、免震建物の基礎構造が開示されている。本構造においては、各柱104の下部には、杭が設けられており、免震装置は、杭の上部に設けられている。
特許文献2には、
図6に示されるような、免震機構114として、積層ゴム支承式免震装置114a、粘性体ダンパー114b、及びオイルダンパー114cを備えた免震建物が開示されている。
特許文献1、2に開示されるように、通常、免震装置は、全ての柱に対応して、あるいは、平面視したときに略均等の間隔を空けて位置するように、設けられる場合が多い。
【0003】
また、特許文献3には、
図7に示されるような中間階免震構造物120が開示されている。中間層免震構造物120は、複数の下階柱121と、複数の下階柱121に免震装置122を介して支持され、上階を形成する上階躯体123と、上階躯体123に吊り下げられ、二階F2の下にエントランスホール124を形成する吊下げ部125とを備えている。
中間階免震構造物120においては、大梁126の交差部から外側へ跳ね出す跳出し大梁127等によって二階F2に張出し部128が設けられている。
【0004】
ところで、中高層建物では、地震時には多方向から繰り返し水平地震荷重が作用するために、建物頭部では大変形量が生じ、下層階の柱においては、交互に圧縮力と引張力が作用することになる。その際、圧縮力に対しては、柱断面のコンクリートが負担し、引張力は柱主筋が負担することになる。
例えば、特許文献1、2の免震建物においては、免震装置は、全ての柱に対応して、あるいは、平面視したときに略均等の間隔を空けて位置するように、設けられているため、建物外周の、2つの壁が水平方向外向きに出あってできる角の部分である出隅部に位置する外周柱においては、その負担する鉛直荷重は、例えば内部柱が負担する支配床面積に相当する4本の柱で支持された床面積上の固定荷重、及び積載荷重に対して1/4程度となる。特に、地震時には、建物外周柱においては、常時作用している鉛直荷重に加えて、水平地震荷重によって生じる負担軸圧縮力、及び建物の上向き方向への浮き上がり力に対応して負担軸引張力が作用することになる。
この引張力に抵抗するため、特許文献1、2に開示されているような中高層の免震建物においては、建物外周の出隅部に、例えば直動転がり支承等のような、引張力に十分に抵抗可能な免震装置が設けられる場合がある。直動転がり支承は、レールと、鋼球を介してレールに嵌合して設けられているブロックを備え、鋼球の転動によりブロックがレールに沿って水平方向に移動することにより、水平方向に作用する地震力に対応するものである。このような、直動転がり支承等の、引張力に十分に抵抗可能な免震装置は、積層ゴム支承等の一般に多用されている免震装置に比べると、上記のように複雑な構造を備えたものが多い。
また、特許文献1、2の免震建物においては、上記のように、免震装置が、全ての柱に対応して、あるいは、平面視したときに略均等の間隔を空けて位置するように、多数設けられているため、工期が長期化し、施工費用が高額となり、建物計画上の制約が多くなることがある。
【0005】
特許文献3の中間階免震構造物では、二階F2の床面積を一階F1の床面積より広げるために、張出し部128を設けて、その張出し部128の先端部分に外周柱129が設けられ、かつ一階F1の柱頭部に免震装置122が配置された。しかしながら、特許文献3の免震構造物では、張出し部128を支持するために跳出し大梁127の中間部分の下方に免震装置122を設ける必要があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、中高層建物に用いる建物免震構造を対象として、建物計画上、制約を及ぼす事が少なく、かつ複雑な構造の免震装置を必要としない、免震層を備えた建物免震構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、建物基礎下、または建物中間階に免震装置を備えた建物免震構造として、免震装置を、免震層の全ての柱直下に配置するのではなく、建物外周柱を構成する出隅部の柱と隣接する柱直下には設けず、少なくとも出隅部の柱を含む一部の柱直下のみに設けることで、個々の免震装置には常時荷重として高い軸圧縮力が作用するために、地震時に建物に生じる浮き上がり力を抑制できる点に着眼し、構造安全性能に優れた建物免震構造を発明した。
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を採用する。すなわち、本発明は、免震層の上部に上部構造体を設けた建物免震構造であって、前記免震層においては、当該免震層の直上階の前記上部構造体を平面視したときに、少なくとも出隅部の柱直下には免震装置が設けられ、かつ前記出隅部に隣接する柱直下には絶縁空間が設けられることを特徴とする建物免震構造を提供する。
免震装置が設けられる免震層は、建物を支持する杭体の杭頭部と建物基礎との間、または建物中間階の上層階柱と下層階柱の間、或いは建物中間階の柱中間部に設けられても良い。
上記のような構成によれば、少なくとも出隅部の柱直下には免震装置が設けられ、かつ出隅部に隣接する柱直下には免震装置が設けられておらず絶縁空間となっているため、出隅部の柱の下に設けられた免震装置には、出隅部の柱が負担する鉛直荷重に加えて、出隅部に隣接する柱が負担する鉛直荷重が作用することになる。これにより、出隅部の柱直下に設けられた免震装置には、常時、高い圧縮軸力が加わる免震構造となり、地震時に水平地震荷重が作用し、建物に回転変形が生じた場合であっても、常時荷重としての圧縮荷重が大きいことで、柱直下に作用する浮き上がり力を抑制し、免震装置に引張力が作用するのを抑制できる。したがって、出隅部の柱直下に、直動転がり支承のような、複雑な構造の免震装置を使用せずに、出隅部の柱に作用する引張力に十分に抵抗可能で、高い減衰性能を備えた建物免震構造を実現できる。
また、出隅部に隣接する柱直下には免震装置が設けられず、絶縁空間となっているため、免震装置の数を低減することが可能となり、これにより、工期や施工費用を抑制し、建物計画上の制約を低減することができる。
【0009】
本発明の一態様においては、前記上部構造体の最下端梁は、当該最下端梁の直上に位置する上部梁より高い梁せい、または高強度コンクリート、或いは高強度鋼材で形成されていることを特徴とする。
上記のような構成によれば、上部構造体の最下端梁が高い剛性を備えているため、出隅部に隣接する柱直下に免震装置が設けられず、絶縁空間であったとしても、出隅部に隣接する柱に作用する軸力を確実に、出隅部の柱直下を含む他の柱下部分に設けられた免震装置へと伝達することができる。また、この絶縁空間に上部構造体を支持する支持体を別途設けることなく、上部構造体を支持することができる。
【0010】
本発明の別の態様においては、前記上部構造体は、高剛性のメガトラス梁を有するメガトラス階と前記メガトラス梁に吊り下げ支持された吊下げ部を備えていることを特徴とする。
上記のような構成によれば、上部構造体は、高剛性のメガトラス梁を備えており、例えば、出隅部の柱がメガトラス階及び上部構造体を支持し、出隅部に隣接する柱が吊下げ部を構成する柱としてメガトラス梁に吊り下げ支持されるように、構築することが可能である。すなわち、上部構造体のメガトラス階より下は、メガトラス階により荷重が吊り下げられる吊構造により構築されているため、吊構造以外の通常の構造により構築した場合に比べると、建物内側に設けられる内周柱の数を減らし、大空間を実現可能である。この、減らされた分の内周柱が本来負担すべき荷重に関しても、その一部が出隅部の柱の下に設けられた免震装置に作用する。これにより、出隅部の柱直下に設けられた免震装置には、常時、高軸力が加わる構造となっているため、水平方向に地震力が作用した場合の、出隅部の柱直下に設けられた免震装置に作用する引張力を抑制することができる。したがって、出隅部の柱直下に、直動転がり支承のような、複雑な構造の免震装置を使用せずに、出隅部の柱に作用する引張力に十分に抵抗可能で、高い減衰性能を備えた建物免震構造を実現できる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、中高層建物に用いる建物免震構造を対象として、建物計画上、制約を及ぼす事が少なく、かつ複雑な免震装置を必要としない、免震層を備えた建物免震構造を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、建物基礎下、または建物中間階に免震装置を備えた建物免震構造として、免震装置の直上に高剛性の梁部材を設置し、その梁部材上に設置された出隅部に隣接する柱直下に免震装置を設置するのではなく、少なくとも出隅部の柱を含む一部の柱直下のみに免震装置が設置された建物免震構造である。具体的には、免震装置を出隅部の外周柱、及び出隅部の柱と隣接されていない外周柱、または一部の内周柱の直下のみに設け、かつ免震装置が設けられていない、床部下または梁部下に減衰装置を配置させた建物免震構造(
図1〜
図4)である。
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0014】
図1は、本実施形態における建物免震構造を備えた建物1の縦断面図である。
建物1は、下部構造体2、免震層4、及び、上部構造体3を備えている。
本実施形態においては、下部構造体2は、地盤面GLより下に位置する地下階FLGと、一階FL1、及び、二階FL2を構成しており、基礎5に立設された柱6と、柱6間に架設された梁7を備えている。下部構造体2の柱6や梁7は、地下階FLGにおいては鉄筋コンクリート造と鉄骨鉄筋コンクリート造が組み合わされて構成されており、一階FL1と二階FL2においては、基本的には鉄骨造により、部分的にコンクリート充填鋼管が用いられて構成されている。
下部構造体2の上方には、免震装置8が設けられて、免震層4が形成されている。
上部構造体3は、免震層4の上方に構築されている。本実施形態においては、上部構造体3は、三階FL3以上を構成しており、中間部に後述するメガトラス階FLMを備えている。上部構造体3は、柱20と、柱20間に架設された梁15を備えている。上部構造体3の柱20や梁15は、メガトラス階FLMを含む、メガトラス階FLM以下の階層である、第1上部構造体3Aにおいては、基本的には鉄骨造により、部分的にコンクリート充填鋼管が用いられて構成されており、メガトラス階FLMより上の階層である、第2上部構造体3Bにおいては、鉄筋コンクリート造により構成されている。
このように、本実施形態における建物免震構造は、免震層4の上部に上部構造体3が設けられた構成となっている。
【0015】
メガトラス階FLMは、鉄骨造で構成されており、高剛性のメガトラス梁を有している。すなわち、メガトラス階FLMは、
図1に示すように上弦材15Dと下弦材15C、及びこれら上弦材15Dと下弦材15Cとの間を斜材16で連結させた階高さを有する巨大なメガトラス梁で構成されたものであり、上部構造体3のある特定階に配置されている。メガトラス梁は、建物1の内部を横断するように、上部構造体3の一方の側面3aに設けられた、後述する外周柱21から、反対側の側面3bに設けられた外周柱21まで架設され、高剛性を有する建物階が実現されている。
【0016】
図2は、
図1に示す建物免震構造における免震装置8が配置された免震層4の平断面図(A−A部分)である。
図2のB−B部分を縦断面視したものが、
図1に相当する。また、
図3は、
図1、
図2の各々の、C−C部分を示す建物免震構造を備えた建物1の縦断面図である。
図2に示されるように、建物1の上部構造体3は、平面視したときに、複数の出隅部10と、複数の入隅部11を備えた形状を成している。出隅部10は、2つの外壁9が水平方向外向きに出あってできる角の部分であり、入隅部11は、2つの外壁9が水平方向内向きに出あってできる角の部分である。
図2には、免震装置8と、免震層4の上に設けられている上部構造体3の柱20が、対応する位置に示されている。上部構造体3の柱20は、建物1の上部構造体3の外壁9に接する建物1の最外縁の柱である外周柱21と、外周柱21よりも建物1の内側に設けられている内周柱26を備えている。
外周柱21は、出隅部10に位置する出隅部外周柱(出隅部の柱)22と、出隅部外周柱22に隣接する柱である出隅部隣接外周柱(出隅部に隣接する柱)23、及び、それ以外の柱、すなわち、連続した平面を形成するように設けられた外壁9の中間の、出隅部外周柱22との間に少なくとも出隅部隣接外周柱23を挟んだ位置に、出隅部外周柱22とは隣接せずに設けられている柱である壁部外周柱25を備えている。
図2においては、出隅部隣接外周柱23は破線で示されている。
【0017】
図2においては、免震装置8は、白抜きの丸で示されている。本実施形態においては、免震装置8は全て、積層ゴム支承である。
免震装置8は、上部構造体3の一部の柱20の下に、柱20に作用する軸力を支持するように設けられている。より具体的には、免震装置8は、出隅部外周柱22、壁部外周柱25、及び、内周柱26の下に設けられている。他方、免震装置8は、出隅部隣接外周柱23の下には設けられていない。
すなわち、免震層4においては、免震層4の直上階である三階FL3の上部構造体3を平面視したときに、少なくとも出隅部10の柱である出隅部外周柱22直下には免震装置8が設けられ、かつ出隅部10に隣接する柱である出隅部隣接外周柱23直下には、下部構造体2と上部構造体3が絶縁された、
図1、
図3に示される絶縁空間Sが設けられる構成となっている。
【0018】
図1、
図3に示されるメガトラス階FLMを支持する出隅部外周柱22、または壁部外周柱25は、上部構造体3の最下端である出隅部外周柱22、または壁部外周柱25の直下に免震装置8が設けられて、当該免震装置8を介して軸力が下部構造体2に伝達され、このようにして、出隅部外周柱22、壁部外周柱25、及び、内周柱26によって支持されている。メガトラス階FLMは、上記のように高剛性に形成されており、メガトラス階FLMより上に位置する第2上部構造体3Bの軸力を支持し、なおかつ、この軸力を、第1上部構造体3Aにおいてメガトラス階FLMを支持する出隅部外周柱22、壁部外周柱25、及び、内周柱26へと伝達するように構成されている。このようにして、上部構造体3の荷重は、出隅部外周柱22、壁部外周柱25、及び、内周柱26により支持されている。
他方、直下に免震装置8が設けられておらず、下部構造体2との間に絶縁空間Sが形成されている出隅部隣接外周柱23においては、メガトラス階FLMに吊り下げられるように支持されている。第1上部構造体3Aの各階に設けられた図示されない床スラブは、出隅部外周柱22、壁部外周柱25、及び、内周柱26に支持されるとともに、出隅部隣接外周柱23によって吊り下げ支持されている。
上部構造体3は、上記のように、メガトラス階FLMによって吊り下げ支持された吊下げ部を備える吊構造物として構築されている。これにより、第1上部構造体3Aの、メガトラス階FLMより下に位置する階層においては、多くの内周柱26を必要とせず、柱20スパンを長くして、大空間が実現されている。
【0019】
図4は、
図3のD矢視部分の拡大図であり、免震層4の構造を説明するものである。免震層4は、下部構造体2と上部構造体3の間に、より詳細には、下部構造体2の最も上に設けられた最上端梁7Aと、上部構造体3の最も下に設けられた最下端梁15Aの間に設けられている。
上部構造体3の最下端梁15Aは、
図1、
図3等に示される、最下端梁15Aの直上に位置する上部梁15Bより高い梁せい、または高強度コンクリート、或いは高強度鋼材で形成されている。
【0020】
下部構造体2の最上端梁7Aと各柱6の接合部のうち、上部構造体3の壁部外周柱25、及び、内周柱26の下に位置する接合部においては、接合部を囲うように鉄筋コンクリート造の下部フーチング12が、略直方体状に形成されている。出隅部外周柱22においても、
図1、
図3に示されるように、その下に位置する接合部においては、下部フーチング12が形成されている。
上部構造体3の最下端梁15Aと、壁部外周柱25、及び、内周柱26との接合部においては、接合部を囲うように鉄筋コンクリート造の上部フーチング13が、略直方体状に形成されている。出隅部外周柱22においても、
図1、
図3に示されるように、最下端梁15Aとの接合部においては、上部フーチング13が形成されている。
免震装置8は、複数の鋼板がゴムを挟んで積層された積層ゴム部8aが、下フランジ8bと上フランジ8cによって挟まれた構造を成しており、下フランジ8bが下部フーチング12の上面に、上フランジ8cが上部フーチング13の下面に、それぞれ対向するように設けられて、下部フーチング12、上部フーチング13に固定されている。
【0021】
下部構造体2の最上端梁7Aと、上部構造体3の最下端梁15Aは、免震装置8に加えて、ダンパー17を介して接合されている。ダンパー17は、
図2に示す免震層の平断面図、及び
図3、
図4に示す縦断面図において、下部構造体2とメガトラス階FLMを有する弟1上部構造体3Aとの間の免震層4において、内周柱26が設けられていない床部下、または梁部下に配置されている。
また、第1上部構造体3Aでは、外周柱21で支持されたメガトラス梁より吊り下げ支持されていることで、内周柱26を介して下部構造体2に伝達する鉛直荷重が少ないために、
図2、及び
図4に示すように、下部構造体2、または第2上部構造体3Bにて内周柱26が設置されている位置には、第1上部構造体3Aにおいては、内周柱26が設けられておらず、柱20部材間が長スパン化されて壁部外周柱25や出隅部外周柱22で柱梁架構が形成されている。具体的には、
図4において、二点鎖線で示されている内周柱26Bは、第1上部構造体3Aよりも上に位置する第2上部構造体3Bにおける内周柱26の位置を示すものであり、第1上部構造体3Aにおいてはこの位置には実際には内周柱26は設けられていない。
下部構造体2の最上端梁7Aは、その上面7bに、上面7bに対して垂直になるように形成された接続面7dを有するダンパー支持部7aを備えている。また、上部構造体3の最下端梁15Aは、その下面15cに、下面15cに対して垂直になるように形成された接続面15dを有するダンパー支持部15aを備えている。
最上端梁7Aのダンパー支持部7aの接続面7dと、最下端梁15Aのダンパー支持部15aの接続面15dは、互いに対向するように設けられており、ダンパー17は、その一端17aがダンパー支持部7aの接続面7dに、他端17bが、ダンパー支持部15aの接続面15dに、それぞれ接合されて設けられている。
【0022】
次に、上記の建物免震構造の作用、効果について説明する。
【0023】
上記のような構成によれば、少なくとも出隅部外周柱22直下には免震装置8が設けられ、かつ出隅部隣接外周柱23直下には免震装置8が設けられておらず絶縁空間Sとなっているため、出隅部外周柱22の下に設けられた免震装置8には、出隅部外周柱22が負担する鉛直荷重に加えて、隣接する出隅部隣接外周柱23が負担する鉛直荷重の一部が作用する。
また、上部構造体3は、高剛性のメガトラス梁FLMを備えており、出隅部外周柱22がメガトラス階FLM及び上部構造体3を支持し、出隅部隣接外周柱23が吊下げ部を構成する柱としてメガトラス梁に吊り下げ支持されている。すなわち、上部構造体3のメガトラス階FLMより下は、メガトラス梁により荷重が吊り下げられる吊構造により構築されているため、吊構造以外の通常の構造により構築した場合に比べると、内周柱26の数を減らし、大空間を実現可能である。この、減らされた分の内周柱26が本来負担すべき鉛直荷重に関しても、その一部が出隅部外周柱22の下に設けられた免震装置8に作用する。
以上の効果が相乗し、出隅部外周柱22直下に設けられた免震装置8には、常時、高い圧縮軸力が加わる免震構造となり、地震時に水平地震荷重が作用し、建物1に回転変形が生じた場合であっても、常時荷重としての圧縮荷重が大きいことで、柱20直下に作用する浮き上がり力を抑制し、免震装置8に引張力が作用するのを抑制できる。したがって、出隅部外周柱22直下に、直動転がり支承のような、複雑な構造の免震装置を使用せずに、出隅部外周柱22に作用する引張力に十分に抵抗可能で、高い減衰性能を備えた建物免震構造を実現できる。
【0024】
また、出隅部隣接外周柱23直下には免震装置8が設けられず、絶縁空間Sとなっているため、免震装置8の数を低減することが可能となり、これにより、工期や施工費用を抑制し、建物計画上の制約を低減することができる。
【0025】
また、上部構造体3の最下端梁15Aは、最下端梁15Aの直上に位置する上部梁15Bより高い梁せい、または高強度コンクリート、或いは高強度鋼材で形成されており、高い剛性を備えているため、出隅部隣接外周柱23直下に免震装置8が設けられず、絶縁空間Sであったとしても、出隅部隣接外周柱23に作用する軸力を確実に、出隅部外周柱22等の、他の部分に設けられた免震装置8へと伝達することができる。また、この絶縁空間Sに上部構造体3を支持する支持体を別途設けることなく、上部構造体3を支持することができる。
また、免震層4に設けるダンパー17は、出隅部10の外周柱22に隣接する外周柱23、または内周柱26が設けられていない床部下、または梁部下に配置することで、出隅部10の柱22直下の免震装置8に作用する水平変形量に対して、減衰効果を発揮させることができる。また、ダンパー17は、免震装置8を配置しない床部下や梁部下に設けることで、市場製品等のダンパ−装置であっても、配置上の制約を受けることなく容易に配置できる。
【0026】
なお、本発明の建物免震構造は、図面を参照して説明した上述の実施形態に限定されるものではなく、その技術的範囲において他の様々な変形例が考えられる。例えば、上記実施形態においては、建物1は、免震層4が二階FL2の上に設けられた中間階免震構造を備えていたが、これに限られず、建物基礎下、または基礎上に免震層を備えた基礎免震構造であってもよい。また、中間階免震構造であっても、免震層4は、上記実施形態のように建物中間階の上層階柱と下層階柱の間に設けられる替わりに、建物中間階の柱中間部に設けられても構わない。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることが可能である。