(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に示すフローチャートを参照しながら、本実施形態の発泡成形体の製造方法について説明する。
【0023】
[発泡成形体の製造装置]
まず、本実施形態で用いる発泡成形体を製造する製造装置について説明する。本実施形態では、
図2に示す製造装置(射出成形装置)1000を用いて発泡成形体を製造する。製造装置1000は、主に、スクリュ20が内設された可塑化シリンダ210と、物理発泡剤を可塑化シリンダ210に供給する物理発泡剤供給機構であるボンベ100と、金型が設けられた型締めユニット(不図示)と、可塑化シリンダ210及び型締めユニットを動作制御するための制御装置(不図示)を備える。可塑化シリンダ210内において可塑化溶融された溶融樹脂は、
図2における右手から左手に向かって流動する。したがって本実施形態の可塑化シリンダ210内部においては
図2における右手を「上流」または「後方」、左手を「下流」または「前方」と定義する。
【0024】
可塑化シリンダは、熱可塑性樹脂が可塑化溶融されて溶融樹脂となる可塑化ゾーン21と、可塑化ゾーン21の下流側に、溶融樹脂が飢餓状態となる飢餓ゾーン23とを有する。「飢餓状態」とは、溶融樹脂が飢餓ゾーン23内に充満せずに未充満となる状態である。したがって、飢餓ゾーン23内には、溶融樹脂の占有部分以外の空間が存在する。また、飢餓ゾーン23に物理発泡剤を導入するための導入口202が形成されており、導入口202には、導入速度調整容器300が接続している。ボンベ100は、導入速度調整容器300を介して可塑化シリンダ210に物理発泡剤を供給する。また、飢餓ゾーン23内には、増圧部25が設けられる。
【0025】
尚、製造装置1000は、飢餓ゾーン23を1つしか有していないが、本実施形態に用いられる製造装置は、これに限定されない。例えば、溶融樹脂への物理発泡剤の浸透を促進するために、飢餓ゾーン23及びそこに形成される導入口202を複数有し、複数の導入口202から物理発泡剤を可塑化シリンダ210に導入する構造であってもよい。また、製造装置1000は射出成形装置であるが、本実施形態に用いられる製造装置は、これに限定されず、例えば、押出成形装置であってもよい。
【0026】
[発泡成形体の製造方法]
(1)熱可塑性樹脂の可塑化溶融
まず、可塑化シリンダ210の可塑化ゾーン21において、熱可塑性樹脂を可塑化溶融して溶融樹脂とする(
図1のステップS1)。熱可塑性樹脂としては、目的とする成形体の種類に応じて種々の樹脂を使用できる。具体的には、例えば、ポリプロピレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド、ポリカーボネート、アモルファスポリオレフィン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ABS樹脂(アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合樹脂)、ポリフェニレンスルファイド、ポリアミドイミド、ポリ乳酸、ポリカプロラクトンなどの熱可塑性樹脂、及びこれらの複合材料を用いることができる。これらの熱可塑性樹脂は、単独で用いても、二種類以上を混合して用いてもよい。また、これらの熱可塑性樹脂にガラス繊維、タルク、カーボン繊維などの各種無機フィラーを混練したものを用いることもできる。熱可塑性樹脂には、発泡核剤として機能する無機フィラーや溶融張力を高める添加剤を混合することが好ましい。これらを混合することで、発泡セルを微細化できる。本実施形態の熱可塑性樹脂は、必要に応じてその他の汎用の各種添加剤を含んでもよい。
【0027】
本実施形態では、
図2に示すスクリュ20が内設された可塑化シリンダ210内で熱可塑性樹脂の可塑化溶融を行う。可塑化シリンダ210の外壁面にはバンドヒータ(図示せず)が配設されており、これにより可塑化シリンダ210が加熱され、更にスクリュ20の回転による剪断発熱も加わり、熱可塑性樹脂が可塑化溶融される。
【0028】
(2)物理発泡剤の導入
次に、飢餓ゾーン23に一定圧力(Pc)の物理発泡剤を導入する(
図1のステップS2)。
【0029】
物理発泡剤としては、加圧流体を用いる。本実施形態において「流体」とは、液体、気体、超臨界流体のいずれかを意味する。また、物理発泡剤は、コストや環境負荷の観点から、二酸化炭素、窒素等が好ましい。本実施形態の物理発泡剤の圧力は比較的低圧であるため、例えば、窒素ボンベ、二酸化炭素ボンベ、空気ボンベ等の流体が貯蔵されたボンベから、減圧弁により一定圧力に減圧して取り出した流体を用いることができる。この場合、昇圧装置が不要となるので、製造装置全体のコストを低減できる。また、必要であれば所定の圧力まで昇圧した流体を物理発泡剤として用いてもよい。例えば、物理発泡剤として窒素を使用する場合、以下の方法で物理発泡剤を生成できる。まず、大気中の空気をコンプレッサーで圧縮しながら窒素分離膜を通して窒素を精製する。次に、精製した窒素をブースターポンプやシリンジポンプ等を用いて所定圧力まで昇圧し、物理発泡剤を生成する。また、圧縮空気を物理発泡剤として利用してもよい。本実施形態では、物理発泡剤と溶融樹脂の強制的な剪断混錬を行わない。このため、物理発泡剤として圧縮空気を用いても、溶融樹脂に対して溶解性の低い酸素は溶融樹脂に溶解し難く、溶融樹脂の酸化劣化を抑制できる。
【0030】
飢餓ゾーン23に導入する物理発泡剤の圧力(Pc)は一定である。この物発泡剤の圧力(Pc)は、1MPa〜20MPaが好ましく、1MPa〜15MPaがより好ましく、2MPa〜8MPaが更により好ましい。溶融樹脂の種類により最適な圧力は異なるが、物理発泡剤の圧力を1MPa以上とすることで、発泡させるのに必要な量の物理発泡剤を溶融樹脂内に浸透させることができ、20MPa以下とすることで、装置負荷を低減できる。
【0031】
また、本実施形態では、飢餓ゾーン23に物理発泡剤のみを導入するが、本発明の効果に影響を与えない程度に、物理発泡剤以外の他の加圧流体を同時に飢餓ゾーン23に導入してもよい。この場合、飢餓ゾーン23に導入される物理発泡剤を含む加圧流体は、上述の一定圧力を有する。
【0032】
本実施形態では、
図2に示すように、ボンベ100から導入速度調整容器300を介し、導入口202から飢餓ゾーン23へ物理発泡剤を供給する。物理発泡剤は、減圧弁151を用いて所定の圧力に減圧した後、昇圧装置等を経ることなく、導入口202から飢餓ゾーン23へ導入される。本実施形態では、可塑化シリンダ210に導入する物理発泡剤の導入量、導入時間等を制御しない。そのため、それらを制御する機構、例えば、逆止弁や電磁弁等を用いた駆動弁は減圧弁151から導入口202の区間内に不要である。本実施形態でも減圧弁151から導入口202の区間内に、駆動弁を有さず、常に開放されている。減圧弁151から導入口202の区間内に逆止弁や電磁弁を設けてもよいが、連続する成形サイクルの期間は常に解放されるものとする。また、スクリュ20の進退に伴い、飢餓ゾーン23は可塑化シリンダ210内を前後方向に移動するが、導入口202は、常に飢餓ゾーン23に位置するように設けられる。
【0033】
物理発泡剤の導入口202は、従来の製造装置の物理発泡剤の導入口と比較して内径D1が大きい。このため、比較的低圧の物理発泡剤であっても、可塑化シリンダ210内に効率良く導入できる。また、溶融樹脂の一部が導入口202に接触して固化した場合であっても、内径D1が大きいため、完全に塞がることなく導入口として機能できる。例えば、可塑化シリンダ210の内径DCが大きい場合、即ち、可塑化シリンダの外径が大きい場合に、導入口202の内径D1を大きくし易い。一方、導入口202の内径D1が大き過ぎると、溶融樹脂の滞留が発生して成形不良の原因となり、また、導入口202に接続する導入速度調整容器300が大型化して装置全体のコストが上昇する。具体的には、導入口202の内径D1は、可塑化シリンダ210の内径DCの20%〜100%が好ましく、30%〜80%がより好ましい。または、可塑化シリンダ210の内径DCに依存せず、導入口202の内径D1は、3mm〜150mmが好ましく、5mm〜100mmがより好ましい。ここで、導入口202の内径D1とは、
図3に示す、可塑化シリンダ210の内壁210a上における開口部の内径を意味する。また、導入口202の形状、即ち、可塑化シリンダ210の内壁210a上における開口部の形状は、真円に限られず、楕円や多角形であってもよい。導入口202の形状が楕円や多角形である場合には、導入口202の面積と同じ面積の真円におけるその直径を「導入口202の内径D1」と定義する。
【0034】
<導入速度調整容器>
導入口202に接続する導入速度調整容器300について説明する。導入口202に接続する導入速度調整容器300は、一定以上の容積を有することで、可塑化シリンダ210へ導入される物理発泡剤の流速を緩やかにし、導入速度調整容器300内に物理発泡剤が滞留できる時間を確保できる。導入速度調整容器300は、周囲に配置されたバンドヒーター(図示せず)により加熱された可塑化シリンダ210に直接接続されることにより、可塑化シリンダ210の熱が導入速度調整容器300に伝導される。これにより、導入速度調整容器300内部の物理発泡剤は加温され、物理発泡剤と溶融樹脂との温度差が小さくなり、物理発泡剤が接触する溶融樹脂の温度を極度に低下させることを抑制し、物理発泡剤の溶融樹脂への溶解量(浸透量)を安定化できる。即ち、導入速度調整容器300は、物理発泡剤の加温機能を有するバッファー容器として機能する。一方で、導入速度調整容器300は、その容積が大きすぎると、物理発泡剤を適切な温度にまで加温できず、また装置全体のコストが上昇する。導入速度調整容器300の容積は、飢餓ゾーン23に存在する溶融樹脂の量にも依存するが、5mL〜20Lが好ましく、10mL〜2Lがより好ましく、10mL〜1Lが更により好ましい。導入速度調整容器300の容積をこの範囲とすることで、コストを考慮しながら物理発泡剤が滞留できる時間を確保できる。
【0035】
また、後述するように物理発泡剤は溶融樹脂に接触して浸透することにより、可塑化シリンダ210内で消費され、消費された分の物理発泡剤が導入速度調整容器300から飢餓ゾーン23へ導入される。導入速度調整容器300の容積が小さすぎると、物理発泡剤の置換頻度が高くなるため、物理発泡剤の温度が不安定となり、その結果、物理発泡剤の供給が不安定になる虞がある。したがって、導入速度調整容器300は、1〜10分間に可塑化シリンダにおいて消費される量の物理発泡剤が滞留できる容積を有することが好ましい。また、例えば、導入速度調整容器300の容積は、当該導入速度調整容器300が接続される飢餓ゾーン23の容積の0.1倍〜5倍が好ましく、0.5倍〜2倍がより好ましい。本実施形態では、飢餓ゾーン23の容積は、溶融樹脂を含まない空の可塑化シリンダ210において、
図2に示すスクリュ20のシール部26の下流から後述する溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる再圧縮ゾーン24の上流までの部分が位置する領域(23)の容積を意味する。飢餓ゾーン23では、増圧部25以外の部分において、スクリュ20の軸の直径DS
3及びスクリュフライトの深さが一定である。
【0036】
本実施形態で用いる導入速度調整容器300は、
図3に示すように、筒状の容器本体310と、容器本体310を可塑化シリンダ210に連結する連結部材320と、容器本体310の蓋330から主に構成される。筒状の容器本体310の一方の端部は、連結部材320を介して導入口202に接続し、導入口202を介して、可塑化シリンダ210の飢餓ゾーン23と、内部空間312が連通する。また、筒状の容器本体の他方の端部(導入口202と反対側の端部)には、蓋330が開閉可能に設けられる。そして、容器本体310には、内部空間312に物理発泡剤を供給するための配管154が接続する。
【0037】
また、導入速度調整容器300の内部空間312の形状に着目した場合、導入速度調整容器300は、導入口202に接続し、その内径が変化しない筒状の第1ストレート部31と、第1ストレート部31に隣接して設けられ、導入口202から離れるに従って、その内径が大きくなるテーパー部32と、テーパー部32に隣接して設けられ、その内径が変化しない筒状の第2ストレート部33とを有する。即ち、導入速度調整容器300は、
図3に示すように、小さい内径D1を有する円筒である第1ストレート部31と、大きい内径D2を有する円筒である第2ストレート部33とを、それぞれの中心軸が同一の直線m上に並ぶように配置し、第1ストレート部31と第2ストレート部32とをテーパー部32のテーパー面で結合した構造を有する。本実施形態では、第1ストレート部31及び第2ストレート部33の中心軸と一致する直線mの延在方向は、筒状である速度調整容器300の延在方向と一致する。本実施形態においては、第1ストレート部31は連結部材320によって構成され、テーパー部32及び第2ストレート部33は、容器本体310によって構成される。
【0038】
導入速度調整容器300の内径の最大値D2は、導入口の内径D1より大きい(D2>D1)。ここで、導入速度調整容器300の内径の最大値D2とは、筒状である速度調整容器300の延在方向(直線m)と直交する、内部空間312の断面において、最大の面積を有する断面(以下、「最大断面」と記載する)の内径を意味する。また、最大断面の形状は、真円に限られず、楕円や多角形であってもよい。この場合には、最大断面と同じ面積の真円におけるその直径を「導入速度調整容器300の内径の最大値D2」と定義する。本実施形態では、導入口の内径D1は、第1ストレート部31の内径、即ち連結部材320の内径に等しく、導入速度調整容器300の内径の最大値D2は、容器本体310の第2ストレート部33の内径に等しい。この特徴(D2>D1)を有する導入速度調整容器300は、例えば、以下の効果を奏する。
【0039】
例えば、導入速度調整容器300は、導入口202の内径D1を有する第1ストレート部31がテーパー部32に接続されることにより、内径がD1から次第に大きくなってD2となっているため、物理発泡剤の流通路が確保し易い。飢餓ゾーン23において溶融樹脂は飢餓状態で存在するが、それでも、溶融樹脂が導入口202から導入速度調整容器300内部へ侵入又は膨出する場合がある。この場合、溶融樹脂は導入速度調整容器300により熱を奪われ、粘度が上昇して流動性が低下し、更に温度が低下すると固化する。固化により、溶融樹脂の導入速度調整容器300内部へ侵入を阻止できるが、固化した溶融樹脂によって、物理発泡剤の流通路が完全に塞がれると、物理発泡剤を飢餓ゾーン23に供給できないという問題が生じる。そこで、本実施形態の導入速度調整容器300は、導入口202の内径D1を有する第1ストレート部31がテーパー部32に接続されることにより、導入口202から離れるにつれて内径がD1から次第に大きくなってD2となっている。導入口202から離れるほど、侵入した溶融樹脂は熱を奪われ固化し易くなるが、本実施形態の導入速度調整容器300は、導入口202から離れるにつれて容器内部が広くなっている。このため、導入口202から離れるにつれて容器壁面に接触した溶融樹脂が固化したとしても、物理発泡剤の導入路が、完全に固化した溶融樹脂によって塞がれることを抑制できる。例えば、物理発泡剤の導入路の壁面に接触した溶融樹脂が固化しても、壁面から離れた物理発泡剤の導入路の中心付近では、溶融樹脂は流動性を有する溶融状態を維持できる。これにより、導入速度調整容器300の物理発泡剤の流通路を確保できる。尚、第1ストレート部31の末端にテーパー部32が接続されていることは必ずしも必要でなく、第1ストレート部31の末端から内径が拡大するように構成されていれば、物理発泡剤の流通路は確保される。
【0040】
更に、導入速度調整容器300の内径の最大値D2を導入口202の内径D1より大きくすることにより(D2>D1)、可塑化シリンダ210からの熱伝導により導入速度調整容器300の内の物理発泡剤の加温を促進できる。上述したように、導入速度調整容器300内で物理発泡剤が加温されることで、物理発泡剤と溶融樹脂との温度差が小さくなり、物理発泡剤の溶融樹脂への溶解量(浸透量)が安定化する。本実施形態の導入速度調整容器300は、容器内部が導入口202よりも広がった形状(D2>D1)を有するため、容器内部が導入口202と同面積の形状(D2=D1)と比較して、導入速度調整容器300の下部に、即ち、可塑化シリンダ210に近い部分に、より多量の物理発泡剤を滞留させることができる。容器の下部は可塑化シリンダ210に近いため、より多量の物理発泡剤を効率的に加温できる。特に、溶融樹脂の可塑化計量開始時は、多量の物理発泡剤が導入速度調整容器300から飢餓ゾーン23に導入される。このような場合であっても、本実施形態の導入速度調整容器300は、多量の加温された物理発泡剤を飢餓ゾーン23に導入できる。尚、本実施形態では、
図3に示すように、直線mを含む導入速度調整容器300の断面において、速度調整容器300の延在方向(直線m)に対するテーパー部32の内壁の角度は、45度となっているが、20度以上90度以下が、上述した効果を奏するうえで好ましい範囲として規定され、25度以上65度以下の場合が最も効果的である。尚、ここでテーパー部32の内壁の角度が90度の場合とは、第1ストレート部31と第2ストレート部33が、直線mに垂直な平面によって接続される場合をいう。
【0041】
導入速度調整容器300の内径の最大値D2は、導入口202の内径D1より大きいため(D2>D1)、導入口の内径(D1)に対する、導入速度調整容器の内径の最大値(D2)の比率(D2/D1)は、1より大きい。上述の効果を更に促進する観点からは、上記比率(D2/D1)は、2以上が好ましい。一方、装置コスト抑制の観点からは、導入調製容器300は小さい方が好ましく、上記比率(D2/D1)は、例えば、20以下であり、10以下が好ましい。
【0042】
導入口202の内径D1が比較的大きい場合、例えば、導入口202の内径D1が60mm以上、好ましくは80mm以上である場合には、上述した溶融樹脂の膨出により導入口202が塞がれる虞が低下するため、上述の比率(D2/D1)は、比較的小さくてもよい。この場合、導入口の内径(D1)に対する、導入速度調整容器の内径の最大値(D2)の比率(D2/D1)は、例えば、1を超えて3以下であり、好ましくは、1を超えて2以下である。
【0043】
また、導入口202の内径D1が比較的大きい場合、導入速度調整容器300の容積も大きくなる。それに伴い、可塑化シリンダ210からの熱伝導により導入速度調整容器300内で加温される物理発泡剤の温度勾配が大きくなる虞がある。この温度勾配を小さくするために、導入速度調整容器300内に攪拌機を設け、導入速度調整容器300内の物理発泡剤を攪拌してもよい。攪拌機は、可塑化シリンダ210に近い、導入速度調整容器300内の下部、例えば、本実施形態のテーパー部31に設けることが好ましい。または、他の方法としては、多孔性又は網目状の金属板を導入速度調整容器300内の下部に設けてもよい。本実施形態においては大容積の物理発泡剤を加温するため、導入速度調整容器300の底部(第2ストレート部33の可塑化シリンダ210側の端部)に、多数の穴があいたSUS製の板(厚み5mm)311を容器本体310に連結して設置する。容器本体310からの熱伝導によって加温された金属板311により物理発泡剤の加温が促進され、導入速度調整容器300内下部における、物理発泡剤の温度勾配を小さくできる。導入速度調整容器300内下部における温度勾配を小さくすることにより、飢餓ゾーン23に導入する物理発泡剤の温度をより均一化できる。
【0044】
本実施形態の導入速度調整容器300は、
図3に示すように、導入口202から離れるに従って、導入速度調整容器300の内径が大きくなるテーパー部32を有することが好ましい。このようなテーパー部32を導入速度調整容器300の下部、即ち可塑化シリンダ210に近い部分に設けることにより、配管154から供給された物理発泡剤が、導入口202に近づくにつれて熱を供給するテーパー部32に近接し次第に加温される。これにより、飢餓ゾーン23に導入する物理発泡剤の温度をより均一化できる。
【0045】
導入速度調整容器300において、筒状の第1ストレート部31の延在方向(直線m)(
図3中の直線m)における長さ(高さ)hは、可塑化シリンダ210の側壁の厚みdの2倍以下が好ましく、1倍以下がより好ましい。第1ストレート部31の長さhが上記範囲内であれば、固化した溶融樹脂により、導入速度調整容器300内の物理発泡剤の流通路が塞がれる虞が更に低下する。筒状の第1ストレート部31の長さ(高さ)hの下限値は、特に限定されず、実質的には、例えば、可塑化シリンダ210の側壁の厚みdの0.1倍以上であり、好ましくは、0.3倍以上である。
【0046】
蓋330は、容器本体310の第2ストレート部33に開閉可能に設けられる。蓋330は、特別な工具を用いずに、作業者の手により開閉可能であることが好ましい。発泡成形体の成形においては、事前に成形条件の設定を行う場合がある(条件出し)。成形条件の設定においては、フィーダースクリュ212やスクリュ20の回転数等の最適化を行い、飢餓ゾーン23において、飢餓状態が安定に作れているか確認する。これと同時に、導入速度調整容器300内部に導入口202から溶融樹脂が膨出しないかも確認する。このため、蓋330の開閉は、ボルトを用いず、簡便な方法で開閉可能とし、導入速度調整容器300内に侵入した樹脂を取り除けることが好ましい。蓋330を作業者の手により開閉可能とすることで、成形条件の設定の作業効率が向上する。蓋330のシール機構は任意であるが、バネを内蔵したシール機構、又はクラッチ式の高圧シール機構等を用いることができる。本実施形態では、バネを内蔵したポリイミドのシール部材331を用いる。このシール部材331は、内部空間312内に滞留する物理発泡剤のガス圧により膨張し、シール性が高まる。
【0047】
導入速度調整容器300を構成する材料は、加圧流体を収容する観点から耐圧性であることが好ましいく、壁面での溶融樹脂の固化を促進して、容器内部への溶融樹脂の侵入を抑制する観点から、熱容量が大きく、温度が上昇しにくく、付着した樹脂から熱を奪いやすいことが好ましい。また、物理発泡剤を加温するという観点からは熱伝導率が高く、容器本体310からの熱が伝わりやすいことが好ましい。これらの観点から、導入速度調整容器300は、例えば、ステンレス鋼(SUS)等の金属で構成されることが好ましい。連結部材320も同様である。
【0048】
導入速度調整容器300の内壁、即ち、内部空間312を区画する内壁には、テフロン(登録商標)(ポリテトラフルオロエチレン、PTFE)含有メッキ膜が形成されていることが好ましい。テフロン含有メッキ膜は、導入速度調整容器300の内壁全面に形成されていてもよいし、一部のみに形成されていてもよい。特に、溶融樹脂との接触の虞のある、導入速度調整容器300内の下部、例えば、第1ストレート部31及び/又はテーパー部32の内壁に形成されることが好ましい。発泡成形体の成形中に、樹脂が内壁に付着した状態で長時間経過すると、樹脂は炭化して固着し、後に剥離して、成形不良の原因となる。導入速度調整容器300の内壁にテフロン含有メッキ膜を形成することで、この溶融樹脂の固着を抑制できる。テフロン含有メッキ膜、中でも、テフロン含有無電解ニッケルリンメッキ膜は、高い耐熱性及び耐
擦傷性を有し、高硬度であり、更に、複雑形状の被メッキ体への被覆性にも優れる。また、導入速度調整容器300の内壁に撥水性又は発油性を付与でき、且つ耐熱性にも優れる他の表面処理方法としては、エキシマレーザーを使った表面処理が挙げられる。しかし、導入速度調整容器300の内壁に対して、エキシマレーザーを使った表面処理を行うことは非常に困難であるため、テフロン含有メッキ膜を形成する方が好ましい。無電解メッキ膜中のテフロンの含有量は、メッキ膜の安定性と、付着する溶融樹脂の剥離性との兼ね合いから、10〜50重量%が好ましい。
【0049】
以上、本実施形態で用いる導入速度調整容器300について説明したが、本実施形態で用いる導入速度調整容器は、この構成に限定されない。例えば、第1の変形例としては、導入速度調整容器が、テーパー部32を有さない構成が挙げられる。即ち、第1ストレート部31と、第2ストレート部33とが、テーパー面の代わりに、筒状である速度調整容器300の延在方向(直線m)と直交する面により連結されてもよい。また、第2の変形例としては、導入速度調整容器が、第1ストレート部31を有さない構成が挙げられる。この場合、可塑化シリンダ210の内壁
210a上における開口部である導入口202に、テーパー部32が連結する。即ち、可塑化シリンダ210の側壁内においても、内壁210aから離れるにしたがって、導入速度調整容器300の内径が広がる構造となる。
【0050】
尚、導入速度調整容器300は、可塑化シリンダ210と別個体の容器であってもよいし、可塑化シリンダ210と一体に形成され、可塑化シリンダ210の一部を構成してもよい。
【0051】
(3)溶融樹脂を飢餓状態とする
次に、溶融樹脂を飢餓ゾーン23へ流動させ、飢餓ゾーン23において溶融樹脂を飢餓状態とする(
図1のステップS3)。飢餓状態は、飢餓ゾーン23の上流から飢餓ゾーン23への溶融樹脂の送り量と、飢餓ゾーン23からその下流への溶融樹脂の送り量とのバランスで決定され、前者の方が少ないと飢餓状態となる。
【0052】
本実施形態では、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる圧縮ゾーン22を飢餓ゾーン23の上流に設けることにより、飢餓ゾーン23において溶融樹脂を飢餓状態とする。圧縮ゾーン22には、上流側に位置する可塑化ゾーン21よりもスクリュ20の軸の直径を大きく(太く)し、スクリュフライトを段階的に浅くした大径部分20Aを設け、更に、大径部分20Aの下流側に隣接してシール部26を設ける。シール部26は、大径部分20Aと同様にスクリュ20の軸の直径が大きく(太く)、更に、スクリュフライトが設けられておらず、スクリュフライトの代わりにスクリュ20の軸に浅い溝が複数形成されている。大径部分20A及びシール部26は、スクリュ20の軸の直径を大きくすることにより、可塑化シリンダ210の内壁とスクリュ20のクリアランスを縮小し、下流に送る樹脂供給量を低減できるため、溶融樹脂の流動抵抗を高められる。したがって、本実施形態において、大径部分20A及びシール部26は、溶融樹脂の流動抵抗を高める機構である。尚、シール部26は、物理発泡剤の逆流、即ち、シール部26の下流側から上流側への物理発泡剤の移動を抑制する効果も奏する。
【0053】
大径部分20A及びシール部26の存在により圧縮ゾーン22から飢餓ゾーン23に供給される樹脂流量が低下し、上流側の圧縮ゾーン22においては溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まり、下流側の飢餓ゾーン23においては、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となる。溶融樹脂の飢餓状態を促進するために、スクリュ20は、圧縮ゾーン22に位置する部分と比較して、飢餓ゾーン23に位置する部分の軸の直径が小さく(細く)、且つスクリュフライトが深い構造を有する。
【0054】
圧縮ゾーン22に設けられる溶融樹脂の流動抵抗を高める機構は、圧縮ゾーン22から飢餓ゾーン23へ供給される樹脂流量を制限するために一時的に溶融樹脂が通過する流路面積を縮小させる機構であれば、特に制限されない。本実施形態では、スクリュの大径部分20A及びシール部26の両方を用いたが、片方のみ用いてもよい。スクリュの大径部分20A、シール部26以外の流動抵抗を高める機構としては、スクリュフライトが他の部分とは逆向きに設けられた構造、スクリュ上に設けられたラビリンス構造等が挙げられる。
【0055】
溶融樹脂の流動抵抗を高める機構は、スクリュとは別部材のリング等としてスクリュに設けてもよいし、スクリュの構造の一部としてスクリュと一体に設けてもよい。溶融樹脂の流動抵抗を高める機構は、スクリュとは別部材のリング等として設けると、リングを変更することにより溶融樹脂の流路であるクリアランス部の大きさを変更できるので、容易に溶融樹脂の流動抵抗の大きさを変更できるという利点がある。
【0056】
また、融樹脂の流動抵抗を高める機構以外に、飢餓ゾーン23から上流の圧縮ゾーン22へ溶融樹脂の逆流を防止する逆流防止機構(シール機構)を圧縮ゾーン22の飢餓ゾーン23との間に設けることによっても、飢餓ゾーン23において溶融樹脂を飢餓状態にできる。例えば、物理発泡剤の圧力により上流側に移動可能なリング、鋼球等のシール機構が挙げられる。但し、逆流防止機構は駆動部を必要とするため、樹脂滞留の虞がある。このため、駆動部を有さない流動抵抗を高める機構の方が好ましい。
【0057】
本実施形態では、飢餓ゾーン23における溶融樹脂の飢餓状態を安定化させるために、可塑化シリンダ210へ供給する熱可塑性樹脂の供給量を制御してもよい。熱可塑性樹脂の供給量が多すぎると飢餓状態を維持することが困難となるからである。本実施形態では、汎用のフィーダースクリュ212を用いて、熱可塑性樹脂の供給量を制御する。熱可塑性樹脂の供給量が制限されることにより、飢餓ゾーン23における溶融樹脂の計量速度が、圧縮ゾーン22での可塑化速度よりも大きくなる。この結果、飢餓ゾーン23における溶融樹脂の密度が安定に低下し、溶融樹脂への物理発泡剤の浸透が促進される。
【0058】
本実施形態において、溶融樹脂の流動方向における飢餓ゾーン23の長さは、溶融樹脂と物理発泡剤との接触面積や接触時間を確保するために長いほうが好ましいが、長すぎると成形サイクルやスクリュ長さが長くなる弊害生じる。このため、飢餓ゾーン23の長さは、可塑化シリンダ210の内径DCの2倍〜12倍が好ましく、4倍〜10倍がより好ましい。また、飢餓ゾーン23の長さは、射出成形における計量ストーロークの全範囲を賄うことが好ましい。即ち、溶融樹脂の流動方向における飢餓ゾーン23の長さは、射出成形における計量ストーロークの長さ以上であることが好ましい。溶融樹脂の可塑化計量及び射出に伴ってスクリュ20は前方及び後方に移動するが、飢餓ゾーン23の長さを計量ストーロークの長さ以上とすることで、発泡成形体の製造中、常に、導入口202を飢餓ゾーン23内に配置する(形成する)ことができる。換言すれば、発泡成形体の製造中にスクリュ20が前方及び後方に動いても、飢餓ゾーン23以外のゾーンが、導入口202の位置に来ることはない。これにより、導入口202から導入される物理発泡剤は、発泡成形体の製造中、常に、飢餓ゾーン23に導入される。本実施形態の飢餓ゾーン23の長さは、
図2に示すように、スクリュ20において、シール部26の下流から、後述する溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる再圧縮ゾーン24の上流まで長さである。飢餓ゾーン23では、後述する増圧部25以外の部分において、スクリュ20の軸の直径DS
3及びスクリュフライトの深さが一定である。
【0059】
(4)溶融樹脂と物理発泡剤との接触
次に、飢餓ゾーン23において飢餓状態の溶融樹脂と一定圧力の前記物理発泡剤とを接触させる(
図1のステップS4)。即ち、飢餓ゾーン23において、溶融樹脂を物理発泡剤により一定圧力で加圧する。飢餓ゾーン23は溶融樹脂が未充満(飢餓状態)であり物理発泡剤が存在できる空間があるため、物理発泡剤と溶融樹脂とを効率的に接触させることができる。溶融樹脂に接触した物理発泡剤は、溶融樹脂に浸透して消費される。物理発泡剤が消費されると、導入速度調整容器300中に滞留している物理発泡剤が飢餓ゾーン23に供給され、溶融樹脂は一定圧力の物理発泡剤に接触し続ける。
【0060】
従来の物理発泡剤を用いた発泡成形では、可塑化シリンダに所定量の高圧の物理発泡剤を所定時間内に強制的に導入していた。したがって、物理発泡剤を高圧力に昇圧し、溶融樹脂への導入量、導入時間等を正確に制御する必要があり、物理発泡剤が溶融樹脂に接触するのは、短い導入時間のみであった。これに対して本実施形態では、可塑化シリンダ210に物理発泡剤を強制的に導入するのではなく、一定圧力の物理発泡剤を連続的に可塑化シリンダ内に供給し、連続的に物理発泡剤を溶融樹脂に接触させる。これにより、温度及び圧力により決定される溶融樹脂への物理発泡剤の溶解量(浸透量)が、安定化する。また、本実施形態の物理発泡剤は、常に溶融樹脂に接触しているため、必要十分な量の物理発泡剤が溶融樹脂内に浸透できる。これにより、本実施形態で製造する発泡成形体は、従来の物理発泡剤を用いた成形方法と比較して低圧の物理発泡剤を用いているのにもかかわらず、発泡セルが微細である。
【0061】
また、本実施形態の製造方法は、物理発泡剤の導入量、導入時間等を制御する必要が無いため、逆止弁や電磁弁等の駆動弁、更にこれらを制御する制御機構が不要となり、装置コストを抑えられる。また、本実施形態で用いる物理発泡剤は従来の物理発泡剤よりも低圧であるため装置負荷も小さい。
【0062】
本実施形態では、可塑化シリンダ内で消費された物理発泡剤を補うために、前記一定圧力の物理発泡剤を連続的に供給しながら、発泡成形体の製造方法の全ての工程が実施される。また、本実施形態では、例えば、連続で複数ショットの射出成形を行う場合、射出工程、成形体の冷却工程及び成形体の取出工程が行われている間も、次のショット分の溶融樹脂が可塑化シリンダ内で準備されており、次のショット分の溶融樹脂が物理発泡剤により一定圧力で加圧される。つまり、連続で行う複数ショットの射出成形では、可塑化シリンダ内に、溶融樹脂と一定圧力の物理発泡剤が常に存在して接触している状態、つまり、可塑化シリンダ内で溶融樹脂が物理発泡剤により一定圧力で常時、加圧された状態で、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む、射出成形の1サイクルが行われる。同様に、押出成形等の連続成形を行う場合にも、可塑化シリンダ内に、溶融樹脂と一定圧力の物理発泡剤が常に存在して接触している状態、つまり、可塑化シリンダ内で溶融樹脂が物理発泡剤により一定圧力で常時、加圧された状態で成形が行われる。
【0063】
更に、本実施形態では、飢餓ゾーン23内に増圧部25が設けられる。以下に、増圧部25について説明する。
【0064】
<飢餓ゾーン内の増圧部>
増圧部25は、可塑化スクリュ20の一部分によって形成される。増圧部25は、その上流部分及び下流部分と比較して、スクリュ20の軸の直径(スクリュ径)が大きく、スクリュフライトの深さが浅い。即ち、飢餓ゾーン23において、増圧部25のスクリュ20の軸の直径は、増圧部25以外の部分のスクリュ20の軸の直径DS
3より大きい。尚、本実施形態の飢餓ゾーン23では、増圧部25以外の部分のスクリュの軸の直径DS
3は一定である。本実施形態では、増圧部25により、溶融樹脂に対する物理発泡剤の浸透が促進され、溶融樹脂からの物理発泡剤の分離も抑制される。このメカニズムは、以下のように推察される。増圧部25は、スクリュ20の軸の直径を大きくすることにより、可塑化シリンダ210の内壁とスクリュ20のクリアランスを縮小し、そこを通過する溶融樹脂を圧縮する。このため、溶融樹脂は、増圧部25を通過するときのみ、一時的に樹脂密度が上昇する。これにより、弱いミキシング効果(混合効果)が生じ、溶融樹脂への物理発泡剤の浸透が促進され、溶融樹脂からの物理発泡剤の分離も抑制されると推測される。ただし、このメカニズムは推定であり、本発明はこれに限定されない。尚、増圧部25は樹脂密度が、その周囲(飢餓ゾーン23の増圧部25以外の部分)に比べて高くなるため、高樹脂密度部でもある。
【0065】
増圧部25のスクリュ20の軸の直径の最大値DS
1は、圧縮ゾーン22におけるスクリュ20の軸の直径の最大値DS
2より小さいことが好ましい。DS
1をDS
2より小さくすることで、溶融樹脂が物理発泡剤の導入口202から膨出する現象、所謂、ベントアップを抑制できる。また、増圧部25のスクリュ20の軸の直径の最大値DS
1は、下記の式(1)を満たすことがより好ましい。DS
1を0.5DS
2より大きくすることで、溶融樹脂と物理発泡剤との混合がより促進され、DS
1を0.95DS
2より小さくすることで、ベントアップをより抑制できる。
0.5DS
2<DS
1<0.95DS
2 (1)
DS
1:増圧部25のスクリュ20の軸の直径の最大値
DS
2:圧縮ゾーン22におけるスクリュ20の軸の直径の最大値
【0066】
増圧部25は、飢餓ゾーン23内に1個のみ設けてもよいし、複数設けてもよい。しかし、増圧部25の数が多すぎるとベントアップのリスクが高まるため、増圧部の数は、1〜3個が好ましい。また、スクリュ20の延在方向(溶融樹脂の流動方向)における増圧部25の長さLは、下記式(2)を満たすことが好ましい。増圧部25の長さLを0.5DC以上とすることで、溶融樹脂と物理発泡剤との混合がより促進され、増圧部25の長さLを2DC以下とすることで、ベントアップを抑制できる。
0.5DC≦L≦2DC (2)
L :スクリュ20の延在方向における増圧部25の長さ
DC:可塑化シリンダ210の内径
【0067】
本実施形態の増圧部25は、スクリュ20、可塑化シリンダ210の全体の構成に基づいて、その位置や大きさを最適化できる。
【0068】
増圧部25は、可塑化シリンダ210の大きさの大小にかかわらず、上述の効果を奏するが、比較的大型の可塑化シリンダにおいて特に有効に機能する。比較的大型の可塑化シリンダとは、例えば、可塑化シリンダ210の内径DCが60mm以上、又は、80mm以上の場合である。大型の可塑化シリンダでは、飢餓ゾーン23内に存在する溶融樹脂の量が増加し、物理発泡剤との接触面積が減少するため、溶融樹脂へ十分な量の物理発泡剤を浸透させることが難しくなる虞があり、溶融樹脂からの物理発泡剤の分離が発生する虞も高まる。このような場合であっても、飢餓ゾーン23内に増圧部25を設けることで、溶融樹脂への物理発泡剤の浸透を促進できる。また、増圧部25において、一時的に圧縮して溶融樹脂と物理発泡剤を混練することにより、スクリュフライトの深さ方向における、溶融樹脂への物理発泡剤の溶解量(浸透量)を均一化できる。これにより、溶融樹脂中の物理発泡剤の濃度が向上し、下流の再圧縮ゾーン24において、溶融樹脂から分離した物理発泡剤を再度、溶融樹脂が巻き込むという、成形不良の原因となる現象を抑制できる。
【0069】
導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc)が比較的低い場合、例えば、6MPa未満、又は4MPa以下である場合、増圧部25を除く飢餓ゾーン23の圧力は導入される物理発泡剤と同一の一定圧力(Pc)に保持され、増圧部25における溶融樹脂の圧力は、導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc)より高くなる傾向にある。ベントアップを抑制する観点から、増圧部25における溶融樹脂の圧力の最大値(Pmax)と上述の一定圧力(Pc)との差の絶対値(圧力変動幅:ΔP=Pmax−Pc)は、4MPa以下であることが好ましく、2MPa以下であることがより好ましい。本実施形態において、圧力が「一定である」とは、所定圧力に対する圧力の変動幅が、好ましくは±20%以内、より好ましくは±10%以内であることを意味する。増圧部25以外の飢餓ゾーン23の圧力が一定圧力(Pc)に保持されることにより、温度及び圧力により決定される溶融樹脂への物理発泡剤の溶解量(浸透量)が、安定化する。
【0070】
飢餓ゾーン23の圧力は、例えば、可塑化シリンダ210の飢餓ゾーン23内に設けられた圧力センサ27により測定される。尚、スクリュ20の進退に伴い、飢餓ゾーン23は可塑化シリンダ210内を前後方向に移動するが、
図2に示す圧力センサ27は、飢餓ゾーン23の最前進位置及び最後退位置において、常に飢餓ゾーン23内に存在する位置に設けられる。また、本実施形態では、スクリュ20の最前進位置において(
図2)、圧力センサ27は増圧部25の真下に設ける。これにより、圧力センサ27は増圧部25における溶融樹脂の圧力も測定でき、製造する発泡成形体の種類や樹脂材料等が変更された場合の成形条件出しが容易となる。
【0071】
導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc)が比較的低い場合、圧力センサ27で測定される圧力は、溶融樹脂の可塑化計量の開始直後は、一時的に一定圧力(Pc)より高い値を示すが、その後すぐに低下して、一定圧力(Pc)に保持される。溶融樹脂の可塑化計量の開始直後に圧力センサ27が測定する圧力は、増圧部25における溶融樹脂の密度上昇に影響されたものと推測される。このため、一定圧力(Pc)より高い値を示す。その後、スクリュ20が溶融樹脂の可塑化計量に伴い後退し、圧力センサ27と増圧部25とが離れ、圧力センサ27は飢餓ゾーン23における増圧部25以外の部分の圧力を測定する。このため、圧力センサ27が測定する圧力が一定圧力(Pc)まで低下し、その後、一定に保持されると推測される。
【0072】
一方、導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc)が比較的高い場合、例えば、6MPa以上、又は8MPa以上である場合、増圧部25を除く飢餓ゾーン23の圧力は、導入される物理発泡剤と同一の一定圧力(Pc)に保持される。一方、増圧部25における溶融樹脂の圧力は、周囲の飢餓ゾーン23における溶融樹脂の圧力が十分高いため、比較的、増圧部25の構造の影響を受け難いと考えられる。そのため、圧力センサ27により測定される、増圧部25における圧力上昇量は僅かであり、観測が困難な場合もある。したがって、飢餓ゾーン23の圧力は、増圧部25も含めて、導入される物理発泡剤と同一の一定圧力(Pc)に保持される。圧力センサ27で測定される圧力は、一定圧力(Pc)に保持される傾向にある。但し、このような物理発泡剤の圧力が十分高い場合であっても、増圧部25における圧力上昇を極めて大きくするような増圧部構造を有する場合には、増圧部25での十分な圧力上昇が認められる場合もある。
【0073】
このように、増圧部25により樹脂密度は高くなるものの、可塑化シリンダ210へ導入される物理発泡剤の圧力や増圧部25の構造により、増圧部25での圧力上昇が認められる場合もあるし、成形サイクル中は圧力が一定と認められる場合もある。しかし、例えば、可塑化シリンダ210へ物理発泡剤を導入しない状態で成形(無発泡成形)を行った際には、いずれの場合であっても、増圧部25における圧力は一定圧力ではなく、上昇が確認可能である。このように、飢餓ゾーン23内において、その周囲(飢餓ゾーン23の増圧部25以外の部分)に対して溶融樹脂の圧力上昇をもたらす構造を有する部分が増圧部25と定義される。
【0074】
以上説明したように、本実施形態において増圧部25は、
図2に示すように、可塑化スクリュ20の一部分によって形成され、飢餓ゾーン23において、スクリュ20の軸の直径が、直径DS
3より大きい部分である。しかし、増圧部はこの形態に限定されない。増圧部を通過する溶融樹脂を圧縮して、樹脂密度を上昇させることができる様々な形態を用いることができる。例えば、スクリュ20とは別部材のリング等を増圧部25として用いることができる。または、
スクリュ20におけるスクリュフライトの巻方向を逆にした部分等を増圧部25として用いることができる。スクリュフライトの巻方向を逆にすることで、熱可塑性樹脂の可塑化速度を一時的に遅くして混練時間を長くすることにより、樹脂密度を高くすることができる。
【0075】
(5)発泡成形
次に、物理発泡剤を接触させた溶融樹脂を発泡成形体に成形する(
図1のステップS5)。本実施形態で用いる可塑化シリンダ210は、飢餓ゾーン23の下流に、飢餓ゾーン23に隣接して配置され、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる再圧縮ゾーン24を有する。まず、可塑化スクリュ20の回転により、飢餓ゾーン23の溶融樹脂を再圧縮ゾーン24に流動させる。物理発泡剤を含む溶融樹脂は、再圧縮ゾーン24において圧力調整され、可塑化スクリュ20の前方に押し出されて計量される。このとき、可塑化スクリュ20の前方に押し出された溶融樹脂の内圧は、可塑化スクリュ20の後方に接続する油圧モータ又は電動モータ(不図示)により、スクリュ背圧として制御される。本実施形態では、溶融樹脂から物理発泡剤を分離させずに均一相溶させ、樹脂密度を安定化させるため、可塑化スクリュ20の前方に押し出された溶融樹脂の内圧、即ち、スクリュ背圧は、一定に保持されている飢餓ゾーン23の圧力よりも1〜6MPa程度高く制御することが好ましい。尚、本実施形態では、スクリュ20前方の圧縮された樹脂が上流側に逆流しないように、スクリュ20の先端にチェックリング50が設けられる。これにより、計量時、飢餓ゾーン23の圧力は、スクリュ20前方の樹脂圧力に影響されない。
【0076】
発泡成形体の成形方法は、特に限定されず、例えば、射出発泡成形、押出発泡成形、発泡ブロー成形等により成形体を成形できる。本実施形態では、
図2に示す可塑化シリンダ210から、金型内のキャビティ(不図示)に、計量した溶融樹脂を射出充填して射出発泡成形を行う。射出発泡成形としては、金型キャビティ内に、金型キャビティ容積の75%〜95%の充填容量の溶融樹脂を充填して、気泡が拡大しながら金型キャビティを充填するショートショット法を用いてもよいし、また、金型キャビティ容積100%の充填量の溶融樹脂を充填した後、キャビティ容積を拡大させて発泡させるコアバック法を用いてもよい。得られる発泡成形体は内部に発泡セルを有するため、熱可塑性樹脂の冷却時の収縮が抑制されてヒケやソリが軽減され、低比重の成形体を得られる。
【0077】
以上説明した本実施形態の製造方法では、物理発泡剤の溶融樹脂への導入量、導入時間等を制御する必要がないため、複雑な制御装置を省略又は簡略化でき、装置コストを削減できる。また、本実施形態の発泡成形体の製造方法は、飢餓ゾーン23において、飢餓状態の溶融樹脂と前記一定圧力の物理発泡剤とを接触させる。これにより、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)を単純な機構により安定化できる。
【実施例】
【0078】
以下、本発明について実施例及び比較例を用いて更に説明する。但し、本発明は、以下に説明する実施例及び比較例に限定されるものではない。
【0079】
[実施例1]
本実施例では、熱可塑性樹脂としてミネラル強化ポリアミド6(PA6)を用い、物理発泡剤として窒素を利用して発泡成形体を製造した。
【0080】
(1)製造装置
本実施例では、上述した実施形態で用いた
図2に示す製造装置1000を用いた。製造装置1000の詳細について説明する。上述のように、製造装置1000は射出成形装置であり、可塑化シリンダ210と、物理発泡剤を可塑化シリンダ210に供給する物理発泡剤供給機構であるボンベ100と、金型が設けられた型締めユニット(不図示)と、可塑化シリンダ210及び型締めユニットを動作制御するための制御装置(不図示)を備える。
【0081】
可塑化シリンダ210のノズル先端29には、エアシリンダの駆動により開閉するシャットオフバルブ28が設けられ、可塑化シリンダ210の内部を高圧に保持できる。ノズル先端29には金型(不図示)が密着し、金型が形成するキャビティ内にノズル先端29から溶融樹脂が射出充填される。可塑化シリンダ210の上部側面には、上流側から順に、熱可塑性樹脂を可塑化シリンダ210に供給するための樹脂供給口201及び物理発泡剤を可塑化シリンダ210内に導入するための導入口202が形成される。これらの樹脂供給口201及び導入口202にはそれぞれ、樹脂供給用ホッパ211及びフィーダースクリュ212、導入速度調整容器300が配設される。導入速度調整容器300には、ボンベ100が、減圧弁151、圧力計152、開放弁153を介して、配管154により接続する。導入速度調整容器300の容器本体310及び連結部材320の内壁には、テフロン含有無電解ニッケルリンメッキ膜を形成した。メッキ膜の膜厚は20μm、メッキ膜中のテフロンの含有量は、約30重量%とした。また、可塑化シリンダ210の飢餓ゾーン23内には、飢餓ゾーン23の圧力をモニターするセンサ27が設けられている。
【0082】
スクリュ20は、熱可塑性樹脂の可塑化溶融を促進し、溶融樹脂の計量及び射出を行うため、可塑化シリンダ210内において回転及び進退自在に配設されている。スクリュ20には、上述したように、溶融樹脂の流動抵抗を高める機構として、シール部26及びスクリュ20の大径部分20Aが設けられている。
【0083】
可塑化シリンダ210では、樹脂供給口201から可塑化シリンダ210内に熱可塑性樹脂が供給され、熱可塑性樹脂がバンドヒータ(不図示)によって可塑化されて溶融樹脂となり、スクリュ20が正回転することにより下流に送られる。スクリュ20に設けられたシール部26及び大径部分20Aの存在により、シール部26の上流側では、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まり、シール部26の下流の飢餓ゾーン23では、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となる。更に下流に送られた溶融樹脂は、射出前に可塑化シリンダ210の先端付近において再圧縮されて計量される。
【0084】
これにより、可塑化シリンダ210内では、上流側から順に、熱可塑性樹脂が可塑化溶融される可塑化ゾーン21、溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まる圧縮ゾーン22、溶融樹脂が未充満となる飢餓ゾーン23、飢餓ゾーンにおいて減圧された溶融樹脂が再度圧縮される再圧縮ゾーン24が形成される。
【0085】
製造装置1000の減圧ゾーン23に、増圧部25を1個設けた。飢餓ゾーン23では、増圧部25以外の部分のスクリュの軸の直径DS
3は一定で、35mmとした。増圧部25のスクリュ20の軸の直径はDS
3より大きく、その最大値DS
1は、60mmとした。圧縮ゾーン22におけるスクリュ20の軸の直径の最大値(大径部20A)DS
2は、77mmとした。したがって、DS
1≒0.8DS
2であり、式(1):0.5DS
2<DS
1<0.95DS
2を満たした。また、スクリュ20の延在方向における増圧部25の長さL及び可塑化シリンダ210の内径DCを共に80mmとした。したがって、L=1.0DCであり、式(2):0.5DC≦L≦2DCを満たした。
【0086】
また、導入口202の内径D1は32mmとした。したがって、導入口202の内径D1は、可塑化シリンダ210の内径DC(80mm)の約40%であった。導入速度調整容器300の内径の最大値D2は100mmとした。したがって、導入速度調整容器300の内径の最大値D2は、導入口の内径D1より大きく(D2>D1)、比率(D2/D1)は、約3.1であった。また、導入速度調整容器300の第1ストレート部31の長さhは、20mmとし、可塑化シリンダ210の側壁の厚みdは、40mmとした。したがって、第1ストレート部31の長さhは、可塑化シリンダ210の側壁の厚みdの0.5倍であった。また、導入速度調整容器300の容積は約2Lとし、飢餓ゾーン23の容積は、250mLとした。したがって、導入速度調整容器300の容積は、飢餓ゾーン23の容積の約8倍であった。また、本実施例では、キャビティの大きさが500mm×800mm×3mmである金型を用いた。
【0087】
(2)発泡成形体の製造
本実施例では、複数本のボンベ100として、窒素が14.5MPaで充填された容積47Lの窒素ボンベを用いた。まず、減圧弁151の値を4MPaに設定し、ボンベ100を開放し、減圧弁151、圧力計152、更に導入速度調整容器300を介して、可塑化シリンダ210の導入口202から、飢餓ゾーン23へ4MPaの窒素を供給した。成形体の製造中、ボンベ100は常時、開放した状態とした。
【0088】
可塑化シリンダ210において、バンドヒータ(不図示)により、可塑化ゾーン21を220℃、圧縮ゾーン22を240℃、飢餓ゾーン23を220℃、再圧縮ゾーン24を240℃に調整した。そして、樹脂供給用ホッパ211から、フィーダースクリュ212を30rpmの回転数で回転させながら、熱可塑性樹脂の樹脂ペレット(東洋紡製、グラマイドT777−02)を可塑化シリンダ210に供給し、スクリュ20を正回転させた。これにより、可塑化ゾーン21において、熱可塑性樹脂を加熱、混練し、溶融樹脂とした。
【0089】
フィーダースクリュ212の回転数は、事前にソリッド成形体(無発泡成形体)の成形により、本実施例の成形条件の設定(条件出し)を行い、樹脂ペレットが飢餓供給される回転数に決定した。ここで、樹脂ペレットの飢餓供給とは、可塑化ゾーン21において、樹脂ペレットの供給中、可塑化シリンダ内に樹脂ペレット又はその溶融樹脂が充満しない状態が維持され、供給した樹脂ペレット又はその溶融樹脂からスクリュ20のフライトが露出している状態を意味する。樹脂ペレットの飢餓供給の確認は、例えば、赤外線センサ又は可視化カメラにてスクリュ20上の樹脂ペレット又は溶融樹脂の有無を確認する方法が挙げられる。本実施例では、用いたフィーダースクリュ212に透明窓が設けられており、透明窓を介して樹脂供給口201直下の可塑化ゾーン21の状態を視認して確認した。
【0090】
スクリュ20を背圧7MPa、回転数100rpmにて正回転することにより、溶融樹脂を可塑化ゾーン21から圧縮ゾーン22に流動させ、更に飢餓ゾーン23に流動させた。
【0091】
溶融樹脂は、スクリュ大径部分20A及びシール部26と、可塑化シリンダ210の内壁との隙間から、飢餓ゾーン23へ流動するため、飢餓ゾーン23への溶融樹脂の供給量が制限された。これにより、圧縮ゾーン22においては溶融樹脂が圧縮されて圧力が高まり、下流側の飢餓ゾーン23においては、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)となった。飢餓ゾーン23では、溶融樹脂が未充満(飢餓状態)であるため、溶融樹脂が存在しない空間に導入口202から導入された物理発泡剤(窒素)が存在し、その物理発泡剤により溶融樹脂は加圧された。更に、溶融樹脂は、増圧部25を通過するとき、圧縮され、一時的に樹脂密度が上昇した。これにより、溶融樹脂に対する物理発泡剤の浸透が促進されたと推測される。
【0092】
更に、溶融樹脂は再圧縮ゾーン24に送られて再圧縮され、可塑化シリンダ210の先端部において1ショット分の溶融樹脂が計量された。その後、シャットオブバルブ28を開放して、キャビティ内に、キャビティの容積の90%の充填率となる様に溶融樹脂を射出充填して平板形状の発泡成形体を成形した(ショートショット法)。成形後、発泡成形体が冷却するのを待って、金型内から発泡成形体を取り出した。冷却時間は、50秒とした。成形サイクルは60秒であり、ソリッド成形体(無発泡の成形体)の成形サイクルと同等の値であった。
【0093】
以上説明した成形体の射出成形を連続して1000ショット行い、1000個の発泡成形体を得た。1000個の発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ27により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、圧力センサ27の測定値は、毎サイクル、以下のように変化した。まず、溶融樹脂の可塑化計量の開始直前は4MPaであったが、溶融樹脂の可塑化計量の開始直後に、スクリュ20が後退し始めたタイミングで、4.5〜5.5MPaまで上昇した。その後すぐに低下して、再び4MPaを保持した。圧力が4MPa以上に上昇した時間は、2〜3秒であった。本実施例の1ショットの成形における計量時間が30秒であったので、圧力が4MPa以上に上昇した時間は、1ショットの成形における計量時間の1割程度(10%程度)であった。ここで、1ショットの成形における計量時間とは、スクリュ20が最前進位置において正回転を開始してから、後退しながら所定量の溶融樹脂を計量し、正回転を停止するまでの時間である。
【0094】
溶融樹脂の可塑化計量の開始直後に圧力センサ27が測定した圧力、4.5〜5.5MPaは、増圧部25における溶融樹脂の圧力だと推測される。本実施例では、導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc)が4MPaと比較的低かった。このため、増圧部25における溶融樹脂の圧力は、導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc=4MPa)より高い、4.5〜5.5MPaまで上昇したと推測される。一方で、圧力センサ27の測定値がPc(4MPa)を超えていた時間が2〜3秒と短く、その後、再び、Pc(4MPa)であったことから、増圧部25以外の飢餓ゾーン23の圧力は、Pc(4MPa)に保持されたと推測される。したがって、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、一定圧力(Pc=4MPa)の窒素が、溶融樹脂に常時接触しており、1000個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、一定圧力の窒素が溶融樹脂に常時接触していたと推測される。
【0095】
増圧部25における溶融樹脂の圧力の最大値(Pmax=5.5MPa)と上述の一定圧力(Pc=4MPa)との差の絶対値(圧力変動幅:ΔP)は、1.5MPaであった。導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc)に対する、圧力変動幅(ΔP)の割合は、1.5/4=37.5%と比較的大きい。しかし、圧力変動幅(ΔP)が4MPa以内であったため、本実施例ではベントアップは観察されなかった。
【0096】
1000個の発泡成形体の重量ばらつきを標準偏差(σ)を重量平均値(ave.)で割った値(相対標準偏差値:σ/ave.(%))で評価した。その結果、(σ/ave.)=0.21%であった。同様の評価をソリッド成形体(無発泡の成形体)で行ったところ、(σ/ave.)=0.18%で、本実施例と同等の値であった。この結果から、本実施例の発泡成形体の重量安定性は、ソリッド成形体と同等であることがわかった。
【0097】
本実施例では、ソリッド成形体と比較して比重が約10%程度軽く、ソリが矯正された発泡成形体を連続的に安定して製造できた。比重低減率は、物理発泡剤の溶解量(浸透量)に影響を受けると考えられる。この結果から、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)が安定化していたことがわかった。また、分離したガスが成形体表面にて転写して表面性を悪化させるスワールマークは、僅かな発生にとどまっていた。更に、得られた発泡成形体断面の発泡セルを観察した。この結果、発泡セルの平均セル径は28μmと微細であり、破泡は確認されなかった。
【0098】
1000ショット連続成形後、導入速度調整容器300への窒素の導入を止め、可塑化シリンダ210内の溶融樹脂をパージにて追い出した。その後、開放弁153を開いて圧力計152の表示がゼロ(大気圧)になるまで導入速度調整容器300内の残圧を開放した。次に、蓋330のシール部材331の膨潤が元に戻るまで、約5分間待った。その後、蓋330を作業者が手で開放したところスムーズに開けることができた。導入速度調整容器300下部の第1ストレート部31付近に堆積した樹脂はわずかであり、ピンセットで完全に取り出せた。即ち、導入速度調整容器300の内壁に固着した樹脂は確認されなかった。
【0099】
導入口202より取り出した樹脂は、内壁面に接する部分は固化していたが、内壁面から離れた部分は固化していなかった。これにより、第1ストレート部31に滞留樹脂は存在していたが、物理発泡剤の飢餓ゾーン23への供給は可能であったことが確認できた。
【0100】
本実施例に用いた導入速度調整容器300に代えて、内壁にテフロン含有メッキ膜が形成されていない耐圧容器を用いた場合には、ポリアミドのような金属と相性が良い樹脂材料の成形を行うと、耐圧容器の内壁に樹脂が固着して残存し、この残存樹脂が、例えば、樹脂材料を替えて発泡成形を行う際に、コンタミとなることが分かっている。導入速度調整容器300の内壁に固着した樹脂が確認されなかったことから、本実施例において、テフロン含有メッキ膜の有効性が確認された。
【0101】
[実施例2]
本実施例では、熱可塑性樹脂として、無機フィラーを含むポリプロピレン(PP)樹脂を用いた。また、減圧弁151の値を10MPaに設定し、発泡体成形方法としてコアバック法を用いた。それ以外は、実施例1と同様の方法により、発泡成形体を製造した。尚、製造する発泡成形体の発泡倍率等は、物理発泡剤の圧力で制御できる。熱可塑性樹脂の種類にもよるが、コアバック法で2倍以上の発泡倍率の発泡成形体を得る場合、物理発泡剤の圧力は、例えば、6MPa以上であり、好ましくは8MPa以上である。本実施例では、3倍の発泡倍率の発泡成形体を得るため、物理発泡剤の圧力を10MPaと比較的高くした。
【0102】
無機フィラーなどの強化材を含まないPP樹脂ペレット(プライムポリマー製、プライムポリプロ J105G)と、無機フィラーとしてタルクを80重量%含むマスターバッチペレット(出光ライオンコンポジット製、MP480)とを重量比率が80:20となるように混合した。実施例1と同様に、樹脂供給用ホッパ211から混合した樹脂材料をフィーダスクリュ10を介して、樹可塑化シリンダ210内へ供給し、可塑化シリンダ210内で樹脂材料の可塑化計量を行った。シャットオブバルブ36を開放して、キャビティ(不図示)内にキャビティの容積の100%の充填率となる様に溶融樹脂を射出充填し、その3秒後に、型締めユニット(不図示)を後退駆動させてキャビティ容積が100%から300%に拡大するように金型を開いて発泡成形体を成形した(コアバック法、3倍発泡)。
【0103】
成形後、発泡成形体が冷却するのを待って、金型内から発泡成形体を取り出した。冷却時間は、80秒とした。尚、本実施例ではコアバック法を用いたため、ショートショット法を用いた実施例1と比較して、成形体の肉厚が増え断熱効果が高くなるため、冷却時間を実施例1より長くした。
【0104】
以上説明した成形体の射出成形を連続して50ショット行い、50個の発泡成形体を得た。発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ27により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、飢餓ゾーン27の圧力は、常に10MPaで可塑化開始時の圧力変動は1MPa以下であった。
【0105】
本実施例では、導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc)が10MPaと比較的高かった。このため、飢餓ゾーン23の圧力は、増圧部の圧力上昇の影響を受けず、導入される物理発泡剤と同一の一定圧力(Pc)に保持されたと推測される。したがって、可塑化計量工程、射出工程、成形体の冷却工程、取り出し工程等を含む射出成形の1サイクルを通して、飢餓ゾーン23において、一定圧力(Pc=10MPa)の窒素が、溶融樹脂に常時接触しており、50個の成形体の連続成形の間、飢餓ゾーン23において、一定圧力の窒素が溶融樹脂に常時接触していたと推測される。
【0106】
本実施例では、ソリッド成形体と比較して、比重が約70%程度軽く、ソリが矯正された発泡成形体を連続的に安定して製造できた。この結果から、物理発泡剤の溶融樹脂に対する溶解量(浸透量)が安定化していたことがわかった。また、得られた発泡成形体の表面状態を観察した。分離したガスが成形体表面に転写して表面性を悪化させるスワールマークは、僅かな発生にとどまっていた。更に、得られた発泡成形体断面の発泡セルを観察した。発泡セルの平均セル径は38μmと微細であり、破泡は確認されなかった。
【0107】
本実施例の結果から、物理発泡剤の導入圧力(Pc)が6MPa以上、好ましくは8MPa以上と比較的、高い場合、増圧部25の樹脂密度変化の影響を殆ど受けることなく、飢餓ゾーン23の圧力保持を簡便な方法に安定に行うことができ、実施例1と同様の効果を得られることが分かった。
【0108】
[実施例3]
本実施例では、増圧部25のスクリュ20の軸の直径の最大値DS
1が、圧縮ゾーン22におけるスクリュ20の軸の直径の最大値(大径部20A)DS
2と同じ77mmであるスクリュを有し(DS
1=DS
2=77mm)、それ以外は、実施例1で用いたものと同様の構成の製造装置を用いた。そして、実施例1と同様の材料を用いて、同様の方法により発泡成形体を製造した。
【0109】
本実施例では、圧力センサ27の測定値は、毎サイクル、以下のように変化した。まず、溶融樹脂の可塑化計量の開始直前は4MPaであったが、溶融樹脂の可塑化計量の開始直後に、スクリュ20が後退し始めたタイミングで、8.5MPaまで上昇した。その後すぐに低下して、再び4MPaを保持した。したがって、増圧部25における溶融樹脂の圧力の最大値(Pmax=8.5MPa)と導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc=4MPa)との差の絶対値(圧力変動幅:ΔP)は、4.5MPaであった。
【0110】
成形体の射出成形を連続して100ショット行い、100個の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体断面の発泡セルを観察した。この結果、発泡セルの平均セル径は30μmと微細でありセルの破泡も確認されなかった。しかし、更に連続成形の回数を増やし、500ショットの連続成形を行ったところ、ベントアップが発生した。
【0111】
[実施例4]
本実施例では、スクリュ20の延在方向における増圧部25の長さLが200mmであるスクリュを有し(L=2.5DC)、それ以外は、実施例1で用いたものと同様の構成の製造装置を用いた。そして、実施例1と同様の材料を用いて、同様の方法により発泡成形体を製造した。
【0112】
本実施例では、圧力センサ27の測定値は、毎サイクル、以下のように変化した。まず、溶融樹脂の可塑化計量の開始直前は4MPaであったが、溶融樹脂の可塑化計量の開始直後に、スクリュ20が後退し始めたタイミングで、9MPaまで上昇した。その後すぐに低下して、再び4MPaを保持した。したがって、増圧部25における溶融樹脂の圧力の最大値(Pmax=9MPa)と導入される物理発泡剤の一定圧力(Pc=4MPa)との差の絶対値(圧力変動幅:ΔP)は、5MPaであった。
【0113】
成形体の射出成形を連続して100ショット行い、100個の発泡成形体を得た。得られた発泡成形体断面の発泡セルを観察した。この結果、発泡セルの平均セル径は35μmと微細でありセルの破泡も確認されなかった。しかし、更に連続成形の回数を増やし、300ショットの連続成形を行ったところ、ベントアップが発生した。
【0114】
[比較例1]
比較例では、増圧部25が存在しないスクリュを有し、それ以外は、実施例1で用いたものと同様の構成の製造装置を用いた。そして、実施例1と同様の材料を用いて、同様の方法により発泡成形体を製造した。
【0115】
以上説明した成形体の射出成形を連続して100ショット行い、100個の発泡成形体を得た。発泡成形体の製造中、常時、圧力センサ27により可塑化シリンダ210内の飢餓ゾーン23の圧力を計測した。その結果、飢餓ゾーン27の圧力は、常に4MPaで一定であった。ベントアップは発生しなかった。得られた発泡成形体断面の発泡セルを観察した。この結果、発泡セルの平均セル径は50μmと微細であったが、実施例1(発泡セルの平均セル径は28μm)よりも拡大した。また、局所的に破泡しているセルを有する成形体が散見された。この結果から、成形中に溶融樹脂と物理発泡剤との分離が生じたと推定される。
【0116】
実施例1〜4と、比較例1との比較から、飢餓ゾーン23内に増圧部25を設けることにより、溶融樹脂への物理発泡剤の浸透が促進され、溶融樹脂からの物理発泡剤の分離が抑制されることが確認できた。実施例1〜4及び比較例1では、スクリュ径DCが60mmである比較的大型の可塑化シリンダを用いた。大型の可塑化シリンダでは、溶融樹脂へ十分な量の物理発泡剤を浸透させることが難しく、溶融樹脂から物理発泡剤が分離する虞がある。実施例1〜4では、このような大型の可塑化シリンダにおいて、溶融樹脂へ十分な量の物理発泡剤を浸透させることができ、溶融樹脂からの物理発泡剤の分離を抑制できた。