特許第6846277号(P6846277)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 芦森工業株式会社の特許一覧

特許6846277シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置
<>
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000002
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000003
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000004
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000005
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000006
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000007
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000008
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000009
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000010
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000011
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000012
  • 特許6846277-シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846277
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】シートベルト用ロッキングタングおよびシートベルト装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 22/185 20060101AFI20210315BHJP
   A44B 11/25 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   B60R22/185 105
   A44B11/25
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-90010(P2017-90010)
(22)【出願日】2017年4月28日
(65)【公開番号】特開2018-187968(P2018-187968A)
(43)【公開日】2018年11月29日
【審査請求日】2020年3月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000117135
【氏名又は名称】芦森工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角中 智
【審査官】 神田 泰貴
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−060457(JP,A)
【文献】 特開2016−060458(JP,A)
【文献】 特開2014−043233(JP,A)
【文献】 特開2014−111422(JP,A)
【文献】 特開2014−108762(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/099590(WO,A1)
【文献】 特表2014−513011(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0068520(US,A1)
【文献】 特開2014−019294(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 22/00 − 22/48
A44B 11/00 − 11/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートベルトが挿通されるシートベルト挿通孔を有し、通常時にはシートベルトの通過を許容するとともに、車両の衝突時にはシートベルトの一方向への通過を阻止するシートベルト用ロッキングタングであって、
前記シートベルト挿通孔が形成された主壁であって、前記シートベルト挿通孔の内部に設けられた、前記シートベルトの厚さ方向に互いに対向する挟持部および当接部を有する主壁、および前記シートベルトの幅方向において前記シートベルト挿通孔の両側に位置し、前記主壁の一方の面から突出する一対の側壁、を含むタング本体と、
前記シートベルトが前記シートベルト挿通孔を通る肩ベルトと腰ベルトとに折り返されるように巻き掛けられ、前記シートベルトの張力によって作動して前記主壁の前記挟持部との間で前記シートベルトを挟持するロック部材であって、前記シートベルト挿通孔内で前記主壁の前記当接部に当接する爪部を有し、前記爪部と前記挟持部との間に前記シートベルトの厚みよりも大きな隙間が形成される待機位置と、前記待機位置よりも前記シートベルト挿通孔内への前記爪部の侵入量が増大する作動位置との間で移動可能に、かつ、前記爪部が前記当接部と当接する第1状態と、前記爪部が前記挟持部へ向かって前記当接部から離間する第2状態との間で回転可能に、前記一対の側壁に支持されたロック部材と、
前記ロック部材を前記作動位置から前記待機位置に移動する方向に付勢するとともに、前記ロック部材を前記第2状態から前記第1状態へ回転する方向に付勢する付勢部材と、を備え、
前記付勢部材が前記ロック部材を前記第2状態から前記第1状態へ回転する方向に付勢する付勢力は、前記ロック部材を前記作動位置から前記待機位置に移動する方向に付勢する付勢力よりも大きい、シートベルト用ロッキングタング。
【請求項2】
前記ロック部材は、前記爪部が設けられたロックバーと、前記ロックバーを貫通するシャフトを含み、
前記一対の側壁には、前記シャフトの両端部を前記待機位置と前記作動位置との間でガイドする、一定の幅の長穴が形成されている、請求項1に記載のシートベルト用ロッキングタング。
【請求項3】
前記当接部は、前記長穴の延在方向に対して、前記ロック部材から遠ざかる方向に向かって前記挟持部に近づくように傾斜している、請求項2に記載のシートベルト用ロッキングタング。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項に記載のシートベルト用ロッキングタングと、
前記ロッキングタングが係合する、車両に固定されたバックルと、
前記ロッキングタングのシートベルト挿通孔に挿通されて、一端が前記車両に固定されるシートベルトと、
前記シートベルトの他端側を引き出し可能に収容するリトラクタと、
を備える、シートベルト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートベルト用ロッキングタングおよびそのロッキングタングを含むシートベルト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に搭載されるシートベルト装置では、シートベルト装着時に、シートベルトがタングを支点として肩ベルトと腰ベルトとに折り返される。車両の衝突時には、慣性力で乗員が前方へ移動することに伴って、肩ベルトが腰ベルト側に引き込まれることがある。そこで、乗員の前方への移動を抑制するには、衝突時にタングでシートベルトをロックして肩ベルトが腰ベルト側に引き込まれる(通過する)のを阻止することが望まれる。
【0003】
例えば、特許文献1には、衝突時にシートベルトをロックすることが可能なシートベルト用ロッキングタングが開示されている。このロッキングタングは、シートベルト挿通孔が形成されたタング本体と、タング本体に支持されたロック部材を含む。シートベルト装着時、ロック部材には、シートベルトが、タング本体のシートベルト挿通孔を通る肩ベルトと腰ベルトとに折り返されるように巻き掛けられる。
【0004】
ロック部材は、通常は、付勢部材の付勢力により、タング本体におけるシートベルト挿通孔に沿って延びる挟持部との間に、シートベルトの厚みよりも大きな隙間が形成される状態に維持される。これにより、ロッキングタングに対するシートベルトの摺動性が確保され、シートベルトを装着する際の操作性やシートベルト装着中の快適性が確保される。
【0005】
一方、肩ベルトが腰ベルト側に引き込まれると、ロック部材は、それに伴って90度回転する。これにより、ロック部材は、それ以上の回転が阻止されるとともに、挟持部に向かって移動可能となる。その状態で、さらに腰ベルトが引っ張られると、ロック部材が挟持部に向かって移動し、ロック部材と挟持部との間にシートベルトが挟持される。これにより、肩ベルトの腰ベルト側への引き込み(通過)が停止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2016−60457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したように、特許文献1に開示されたロッキングタングでは、肩ベルトが腰ベルト側に引き込まれ始めてからその引き込みが停止されるまでに、まずはロック部材が90度回転し、その後にロック部材が挟持部に向かって移動する。従って、肩ベルトが腰ベルト側に引き込まれ始めてからそれが停止されるまでにある程度の時間がかかる。
【0008】
そこで、本発明は、肩ベルトの腰ベルト側への引き込み(通過)を極めて短い時間で停止することができるロッキングタングを提供すること、およびそのロッキングタングを含むシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、本発明のシートベルト用ロッキングタングは、シートベルトが挿通されるシートベルト挿通孔を有し、通常時にはシートベルトの通過を許容するとともに、車両の衝突時にはシートベルトの一方向への通過を阻止するシートベルト用ロッキングタングであって、前記シートベルト挿通孔が形成された主壁であって、前記シートベルト挿通孔の内部に設けられた、前記シートベルトの厚さ方向に互いに対向する挟持部および当接部を有する主壁、および前記シートベルトの幅方向において前記シートベルト挿通孔の両側に位置し、前記主壁の一方の面から突出する一対の側壁、を含むタング本体と、前記シートベルトが前記シートベルト挿通孔を通る肩ベルトと腰ベルトとに折り返されるように巻き掛けられ、前記シートベルトの張力によって作動して前記主壁の前記挟持部との間で前記シートベルトを挟持するロック部材であって、前記シートベルト挿通孔内で前記主壁の前記当接部に当接する爪部を有し、前記爪部と前記挟持部との間に前記シートベルトの厚みよりも大きな隙間が形成される待機位置と、前記待機位置よりも前記シートベルト挿通孔内への前記爪部の侵入量が増大する作動位置との間で移動可能に、かつ、前記爪部が前記当接部と当接する第1状態と、前記爪部が前記挟持部へ向かって前記当接部から離間する第2状態との間で回転可能に、前記一対の側壁に支持されたロック部材と、前記ロック部材を前記作動位置から前記待機位置に移動する方向に付勢するとともに、前記ロック部材を前記第2状態から前記第1状態へ回転する方向に付勢する付勢部材と、を備え、前記付勢部材が前記ロック部材を前記第2状態から前記第1状態へ回転する方向に付勢する付勢力は、前記ロック部材を前記作動位置から前記待機位置に移動する方向に付勢する付勢力よりも大きい、ことを特徴とする。
【0010】
上記の構成によれば、通常は、ロック部材は、付勢部材の付勢力によって、爪部が当接部に当接する第1状態で待機位置に維持される。このため、ロッキングタングに対するシートベルトの摺動性が確保され、シートベルトを装着する際の操作性や装着時の快適性が確保される。一方、車両の衝突時などにシートベルトの張力が大きくなったときには、付勢部材の2つの付勢力の大小関係により、爪部が当接部に当接する第1状態が維持されたままで、ロック部材が待機位置から作動位置に移動する。さらに、ロック部材が作動位置に移動した後は、肩ベルトが腰ベルト側に引き込まれるときのシートベルトの張力により、ロック部材が第1状態から第2状態に回転し、爪部と挟持部との間にシートベルトが挟持される。これにより、肩ベルトの腰ベルト側への引き込みが停止される。このように、本発明では、ロック部材がまずは待機位置から作動位置に移動し、その後にロック部材が僅かに回転するだけでシートベルトがロックされるため、肩ベルトの腰ベルト側への引き込み(通過)を極めて短い時間で停止することができる。
【0011】
前記ロック部材は、前記爪部が設けられたロックバーと、前記ロックバーを貫通するシャフトを含み、前記一対の側壁には、前記シャフトの両端部を前記待機位置と前記作動位置との間でガイドする、一定の幅の長穴が形成されていてもよい。この構成によれば、待機位置と作動位置の間で移動するロック部材をスムーズにガイドすることができる。
【0012】
前記当接部は、前記長穴の延在方向に対して、前記ロック部材から遠ざかる方向に向かって前記挟持部に近づくように傾斜していてもよい。この構成によれば、ロック部材が待機位置から作動位置まで移動する際に、ロック部材を第1状態に維持したままで爪部が挟持部に近づくように回転させることができる。従って、当接部が長穴の延在方向と平行な場合に比べて、より短い時間で肩ベルトの腰ベルト側への引き込み(通過)を停止することができる。
【0013】
また、本発明のシートベルト装置は、上記のシートベルト用ロッキングタングと、前記ロッキングタングが係合する、車両に固定されたバックルと、前記ロッキングタングのシートベルト挿通孔に挿通されて、一端が前記車両に固定されるシートベルトと、前記シートベルトの他端側を引き出し可能に収容するリトラクタと、を備える、ことを特徴とする。この構成によれば、衝突時に肩ベルトの腰ベルト側への引き込み(通過)が極めて短い時間で停止されるため、乗員の安全性を向上したシートベルト装置を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、肩ベルトの腰ベルト側への引き込み(通過)を極めて短い時間で停止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係るシートベルト用ロッキングタングを含むシートベルト装置の概略構成図である。
図2】前記ロッキングタングを表側から見た斜視図である。
図3】前記ロッキングタングを裏側から見た斜視図である。
図4】前記ロッキングタングの分解斜視図である。
図5】ロック部材のシャフトの斜視図である。
図6】シートベルト非装着時のロッキングタングの部分的な断面図である。
図7】(a)はシートベルト装着時に待機位置に位置するロッキングタングの部分的な断面図、(b)は同ロッキングタングの部分的な側面図である。
図8】(a)は作動位置に移動したロッキングタングの部分的な断面図、(b)は同ロッキングタングの部分的な側面図である。
図9】(a)は作動位置で第1状態から第2状態に回転したロッキングタングの部分的な断面図、(b)は同ロッキングタングの部分的な側面図である。
図10】(a)は変形例のロッキングタングが待機位置に位置するときの部分的な断面図、(b)は同ロッキングタングが作動位置に移動したときの部分的な断面図である。
図11】(a)は別の変形例のロッキングタングが待機位置に位置するときの部分的な側面図、(b)は同ロッキングタングが作動位置に移動したときの部分的な側面図である。
図12】さらに別の変形例のロッキングタングの部分的な側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1に、本発明の一実施形態に係るシートベルト用ロッキングタング2を含むシートベルト装置1を示す。このシートベルト装置1は、車両10に搭載されるものであり、ロッキングタング2の他に、シートベルト11、リトラクタ12およびバックル14を含む。
【0017】
シートベルト11は、ロッキングタング2の後述するシートベルト挿通孔32に挿通される。シートベルト11の一端は、ベルトアンカー15を介して車両10に固定されている。
【0018】
リトラクタ12は、シートベルト11の他端側を引き出し可能に収容する。また、リトラクタ12は、車両10の緊急時(シートベルト11が急激に引き出されたとき、または車両10の加速度が大きく変化したとき)に、シートベルト11の引き出しをロックする。シートベルト11は、リトラクタ12の上方に配置されたショルダーアンカー13に摺動自在に掛け回されている。
【0019】
図示は省略するが、シートベルト非装着時、シートベルト11は、リトラクタ12の巻き取り力により、ショルダーアンカー13からベルトアンカー15までストレートとなる。シートベルト装着時、ロッキングタング2が車両10に固定されたバックル14に係合されることにより、シートベルト11がロッキングタング2を支点として肩ベルト11aと腰ベルト11bとに折り返される。
【0020】
ロッキングタング2は、通常時にはシートベルト11の通過を許容するとともに、車両10の衝突時にはシートベルト11の一方向への通過を阻止するものである。具体的に、ロッキングタング2は、図2図4に示すように、タング本体3と、タング本体3に支持されたロック部材4を含む。
【0021】
タング本体3は、シートベルト11の幅方向に延びるスリット状のシートベルト挿通孔32が形成された主壁31と、主壁31の一方の面から突出する一対の側壁35を含む。主壁31は、シートベルト挿通孔32の内部に設けられた、シートベルト11の厚さ方向に互いに対向する挟持部33および当接部34を有している。側壁35は、シートベルト11の幅方向においてシートベルト挿通孔32の両側に位置している。また、タング本体3は、主壁31の一辺(シートベルト挿通孔32から見て挟持部33側の辺)の中央から突出してバックル14に挿入される差込部30を含む。差込部30には、バックル14との係合用の係合穴30aが形成されている。
【0022】
タング本体3は、金属製のタングプレート3Aと、タングプレート3Aを部分的に覆う樹脂製のモールド部3Bとで構成されている。差込部30はタングプレート3Aのみで構成され、主壁31および側壁35はタングプレート3Aとモールド部3Bとで構成されている。
【0023】
ロック部材4は、タング本体3の側壁35を橋架するように延びている。シートベルト装着時、ロック部材4には、シートベルト11が、シートベルト挿通孔32を通る肩ベルト11aと腰ベルト11bとに折り返されるように巻き掛けられる(図7(a)参照)。
【0024】
ロック部材4は、通常は後述する付勢部材5の付勢力により図7(a)に示す状態に維持されるが、腰ベルト11bが大きな引張力で引っ張られると、シートベルト11の張力によって図9(a)に示す状態となるように作動して主壁31におけるシートベルト挿通孔32に沿って延びる挟持部33との間でシートベルト11を挟持する。
【0025】
具体的に、ロック部材4は、ロックバー41と、ロックバー41を貫通するシャフト44を含む。ロックバー41およびシャフト44は、共に金属からなる。ロックバー41には、その長手方向に延びる貫通穴42が設けられている。一方、シャフト44には、シャフト44から露出する両端部よりも内側にローレット部45が設けられている。このローレット部45が貫通穴42に圧入されることにより、シャフト44とロックバー41の相対回転が不能となっている。
【0026】
ロックバー41には、シートベルト挿通孔32内で主壁31におけるシートベルト挿通孔32に沿って延びる当接部34に当接する爪部43が設けられている。ロック部材4は、図7(a)に示す待機位置と図8(a)に示す作動位置との間で移動可能に、かつ、図7(a)および図8(a)に示す第1状態と図9(a)に示す第2状態との間で回転可能に側壁35に支持されている。
【0027】
図7(a)に示す待機位置では、爪部43と挟持部33との間にシートベルト11の厚みよりも大きな隙間が形成される。図8(a)に示す作動位置は、待機位置よりもシートベルト挿通孔32内への爪部43の侵入量が増大する位置である。図7(a)および図8(a)に示す第1状態は、爪部43が当接部34と当接する状態であり、図9(a)に示す第2状態は、爪部43が挟持部33へ向かって当接部34から離間する状態である。
【0028】
双方の側壁35には、シャフト44の両端部が嵌め込まれる長穴36が形成されている。各長穴36は、一定の幅を有し、主壁31の厚さ方向に対して、肩ベルト11aから腰ベルト11bに向かって差込部30に近づくように傾斜する方向に延びている(図7(a)参照)。例えば、主壁31の厚さ方向と長穴36の延在方向とがなす角度は、20〜60度である。
【0029】
各長穴36は、シャフト44の端部を待機位置と作動位置との間でガイドする。つまり、シャフト44の端部が長穴36の一端(シートベルト挿通孔32から遠い側)に位置するときが待機位置であり、シャフト44の端部が長穴36の他端(シートベルト挿通孔32に近い側)に位置するときが作動位置である。
【0030】
シャフト44の両端部は、双方の側壁35よりも外側に張り出している。また、双方の側壁35の外側には、ロック部材4を付勢する一対の付勢部材5が配置されている。本実施形態では、各側壁35の外側面に窪みが形成されており、この窪み内に付勢部材5が収容されている。その窪みは、カバー6により閉塞される。
【0031】
付勢部材5は、ロック部材4を、作動位置から待機位置に移動する方向に付勢するとともに、第2状態から第1状態へ回転する方向に付勢する。本実施形態では、付勢部材5が、円錐状のコイル部53と、コイル部53から外向きに延びる第1端51と、コイル部53から内向きに延びる第2端52を含むねじりバネ5Aである。
【0032】
具体的に、シャフト44の両端部には、図5に示すように、切欠き46が形成されており、ねじりバネ5Aの第2端52が切欠き46に係合している(図7(b)参照)。なお、図7(b)では、ねじりバネ5Aの状態を示すために、カバー6を省略している(後述する図8(b)および図9(b)でも同様)。また、各側壁35には、ねじりバネ5Aの第1端51が挿入される取付孔37が形成されている。
【0033】
付勢部材5がロック部材4を第2状態から第1状態へ回転する方向に付勢する付勢力F2は、ロック部材4を作動位置から待機位置に移動する方向に付勢する付勢力F1よりも大きい。本実施形態では、ねじりバネ5Aの円錐状のコイル部53がねじられるよりも径方向に弾性変形し易いことがその要因である。なお、コイル部53は、径が一定の筒状であってもよい。この場合、ねじりバネ5Aのコイル部53がねじられるよりも、第1端51が径方向に弾性変形し易い。
【0034】
次に、図7(a)〜図9(b)を参照して、シートベルト装着時におけるロッキングタング2の動作を説明する。なお、シートベルト非装着時には、図6に示すように、ロッキングタング2はストレートなシートベルト11に対して斜めになる。
【0035】
図7(a)および(b)に示すように、通常は、ロック部材4は、付勢部材5(ねじりバネ5A)の付勢力F1,F2によって、爪部43が当接部34に当接する第1状態で待機位置に維持される。このため、ロッキングタング2に対するシートベルト11の摺動性が確保され、シートベルト11を装着する際の操作性や装着時の快適性が確保される。
【0036】
一方、車両の衝突時などにシートベルト11の張力が大きくなったときには、付勢部材5の2つの付勢力F1,F2の大小関係により、図8(a)および(b)に示すように、ねじりバネ5Aのコイル部53が付勢力F1に抗して主に径方向に弾性変形することにより、爪部43が当接部34に当接する第1状態が維持されたままで、ロック部材4が待機位置から作動位置に移動する。
【0037】
なお、シートベルト11の張力が大きくなることの要因は、衝突時の乗員の前方への移動により腰ベルト11bが引っ張られることであってもよいし、リトラクタ12がプリテンショナー機能を有する場合は、衝突時に腰ベルト11bが引っ張られる前にリトラクタ12のプリテンショナー機能が作動することによって肩ベルト11aが引っ張られることであってもよい。
【0038】
本実施形態では、当接部34が、長穴36の延在方向に対して、ロック部材4から遠ざかる方向に向かって挟持部33に近づくように傾斜している。このため、ロック部材4が待機位置から作動位置まで移動する際に、ロック部材4が第1状態に維持されたままで爪部43が挟持部33に近づくように回転させられる。つまり、ねじりバネ5Aのコイル部53は、径方向に弾性変形するだけでなく、付勢力F2に抗して僅かにねじられる。
【0039】
なお、ロック部材4が作動位置に移動してもまだシートベルト11がロックされるわけではないので、リトラクタ12がプリテンショナー機能を有する場合は、リトラクタ12の巻き取り力によって、ロック部材4が待機位置から作動位置へ移動する間だけでなく作動位置への移動が完了したときも、腰ベルト11bを肩ベルト11a側に引き込むことができる。
【0040】
ロック部材4が作動位置に移動した後は、乗員の前方への移動に伴う肩ベルト111aが腰ベルト11b側に引き込まれるときのシートベルト11の張力により、図9(a)および(b)に示すように、ロック部材4が付勢力F2に抗して第1状態から第2状態に回転し、爪部43と挟持部33との間にシートベルト11が挟持される。これにより、肩ベルト11aの腰ベルト11b側への引き込み(通過)が停止される。
【0041】
以上説明したように、本実施形態のロッキングタング2では、ロック部材4がまずは待機位置から作動位置に移動し、その後にロック部材4が僅かに回転するだけでシートベルト11がロックされるため、肩ベルト11aの腰ベルト11b側への引き込み(通過)を極めて短い時間で停止することができる。そして、このようなロッキングタング2を含むシートベルト装置1であれば、乗員の安全性を向上させることができる。
【0042】
特に、リトラクタ12がプリテンショナー機能を有する場合は、ロック部材4が待機位置から作動位置へ移動する間だけでなく作動位置への移動が完了したときも、腰ベルト11bを肩ベルト11a側に引き込むことができる。従って、衝突時に腰ベルト11bを予め短くすることができ、乗員の前方への移動量を小さく抑えることができる。
【0043】
また、本実施形態では、ロック部材4のシャフト44の両端部が嵌まり込む長穴36が一定の幅を有しているので、待機位置と作動位置の間で移動するロック部材4をスムーズにガイドすることができる。
【0044】
(変形例)
本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変形が可能である。
【0045】
例えば、図10(a)に示すように、当接部34は、長穴36の延在方向と平行であってもよい。この構成であれば、図10(b)に示すように、ロック部材4が待機位置から作動位置まで回転することなく移動する。ただし、前記実施形態のように当接部34が長穴36の延在方向に対して傾斜していれば、ロック部材4が待機位置から作動位置まで移動する際に、ロック部材4を第1状態に維持したままで爪部が挟持部に近づくように回転させることができる。従って、当接部34が長穴36の延在方向と平行な場合に比べて、より短い時間で肩ベルト11aの腰ベルト11b側への引き込み(通過)を停止することができる。
【0046】
また、前記実施形態では、ねじりバネ5Aの第1端51が挿入される取付孔37が円形であったが、図11(a)および(b)に示すように取付孔37を長穴とすることにより、ロック部材4が待機位置から作動位置に移動するときに、第1端51が取付孔37内で移動することによって、ねじりバネ5Aのコイル部53がねじられてもよい。この場合、ねじりバネ5Aの第2端52の方が第1端51よりも短いので、コイル部53のねじれにより第2端52に作用する付勢力が、第1端51に作用する付勢力よりも大きいために、付勢部材5がロック部材4を第2状態から第1状態へ回転する方向に付勢する付勢力F2は、ロック部材4を作動位置から待機位置に移動する方向に付勢する付勢力F1よりも大きくなる。
【0047】
また、付勢部材5としては、様々な構成のものを採用することができる。例えば、図12に示すように、付勢部材5は、付勢力F1を生じさせる第1コイル部55と付勢力F2を生じさせる第2コイル部56とがアーム57で連結されたねじりバネ5Bであってもよい。あるいは、付勢部材5は、必ずしも単一の部材である必要はなく、例えば、圧縮コイルバネとねじりバネの2つのバネで構成されてもよい。
【符号の説明】
【0048】
1 シートベルト装置
10 車両
11 シートベルト
11a 肩ベルト
11b 腰ベルト
12 リトラクタ
14 バックル
2 ロッキングタング
3 タング本体
31 主壁
32 シートベルト挿通孔
33 挟持部
34 当接部
35 側壁
36 長穴
4 ロック部材
41 ロックバー
43 爪部
44 シャフト
5 付勢部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12