【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様から見れば、本発明は、人工手用の指節機構であって、人工手の手の平ユニットに回転可能に結合されるように構成された下側指節と、下側指節に回転可能に結合された上側指節と、下側指節を手の平ユニットに対して回転させるために、下側指節に対してモーメントを加えるための下側指節回転機構と、上側指節を下側指節に対して回転させるために、上側指節に対してモーメントを加えるための上側指節回転機構と、受けている運動抵抗がより小さい指節に対して優先的に運動を提供するために、下側指節回転機構及び上側指節回転機構によって加えられるモーメントの大きさを、上側指節及び/または下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節するための力バランス調節機構とを備え、力バランス調節機構は、同一の指における第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも大きい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも小さい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させるように構成されており、下側指節回転機構及び上側指節回転機構は、使用時には、手の平ユニットに設けられた単一のアクチュエータから加えられる力によって機械的に駆動されるように構成された指節機構を提供する。
【0011】
この構成により、手の平ユニットに設けられた単一のアクチュエータのみにより、指節機構に対して単一の力を加え、各指節を適応的把持のために制御することができる。ある指節が受ける抵抗が増加したとき、力バランス調節機構は、他の指節に、指節機構に提供される力のうちの大きな割合を提供し、より多く回転させるように、力の分布を調節する。このようにして、被把持物体が不規則な形状を有する場合でも、例えば人工手の指節を物体の周りに閉じて物体を把持するときに、両方の指節が動いて物体と接触することが可能となる。この指節機構は、指節の回転に対する抵抗が存在しない場合は、例えば指節機構を使用して手を閉じて挟み把持(pincer grip)の形態にするように、動きのデフォルトパターンが設定される。また、第1指節が被把持物体または運動に対する他の抵抗源と接触した場合、その指節に提供される力の割合を、残りの指節に提供される力の量と比べて減少させる。これにより、両方の指節を、それらが受ける運動抵抗に抗して、略同一の圧力で閉じることができる。したがって、指節機構は全ての指節を用いて把持を形成するので、人の手と同様な強固な把持を実現することができる。また、これは、上記の指節機構を使用して各指節の運動に対して選択的に抵抗を加えることにより、ユーザが非常に容易に、人工手の必要とされる把持パターンまたは形態を「形成」できることを意味する。
【0012】
本発明に係る指節機構は、適応機能を有する従来の指節機構とは異なり、複数のアクチュエータや複雑なマイクロプロセッサ制御を必要としない。その代わりに、単一のアクチュエータが使用される。加えて、単一のアクチュエータ入力及び腱式接続を使用する従来の指節機構とは対照的に、上側指節及び下側指節の運動の相対的程度は固定されておらず、ギア機構などによって変化させることができる。また、本発明に係る指節機構は、より頑丈な構造を可能にし、特に、ばね復帰式の構造を導入することを可能にする。したがって、この指節機構は、外力に応答して動作し、指節を閉方向に弾性的に動かすように構成される。これにより、指節機構及び人工手に組み込まれる他の要素が損傷するリスクを最小限に抑えることができる。
【0013】
本明細書で使用するとき、「上側指節」という用語は、人工指の遠位端側、すなわち指先側の指節を指し、「下側指節」という用語は、人工指の近位端側、すなわち手の平側の指節を指す。上側及び下側という用語は、指節機構の他の部品において同様に使用される。この指節機構は、人工手の各指の基礎をなす。
【0014】
指節機構の可動指節は2つだけであり得る。この場合、上側指節は遠位側指節であり、各指の先端とともに動く。なお、後述する回転機構及び力バランス制御機構を追加することにより、下側指節と上側指節との間にさらなる指節を設けて、3つの指節を有するように拡張することも可能である。この場合、指節機構は、下側指節と、下側指節の上端に回転可能に結合された第1の上側指節と、第1の指節の上端に回転可能に結合された第2の上側指節とを有する。また、指節機構は、第2の上側指節に対してモーメントを加える追加的な回転機構と、追加的な下側プーリと、下側プーリ及び下側プーリに設けられた第1のクラッチ機構と相互作用する第1の上側プーリと、第1の上側プーリに設けられ第2の上側プーリと相互作用する第2のクラッチ機構と、第2の上側指節の適応的運動のためのさらなるシステムを形成するための他の繰り返し要素とを有する。上記の構成により3つの指節が人の指のように動くことが可能となり、これにより、指のより自然な適応的運動が可能となる。
【0015】
必要とされる適応的把持を生成するために、力バランス制御機構は、下側指節回転機構及び上側指節回転機構によって加えられるモーメントの大きさを、上側指節及び/または下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節する。この結果、上記の2つの回転機構は、受けている運動抵抗がより小さい指節に対して、優先的に運動を提供する。このことは、同一の指における第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも大きい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも小さい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させることにより実現される。第1の指節は上側指節であり、第2の指節は下側指節であり得る。あるいは、その逆であってもよい。本明細書では、前者が例示的な実施形態として用いられる。人間の手の外観に類似した、人工手に必要とされる一般的な形状を有するため、遠位端には、機構を配置するためのより多くのスペースが存在する。また、一般的に、指節の回転させるために加えられる力の量を、指節の回転に抵抗する力の量に応じて調節するためには、より複雑な機構が必要とされるので、上記の第2の指節として下側指節を用いる構成により、人工手の外観に悪影響を及ぼすことなく、より容易に設計することが可能となる。したがって、指節機構をこのように構成することは、若干有利である。
【0016】
力バランス調節機構は、第2の指節を回転させるための様々な量の力を伝達するためのクラッチを含み、クラッチは、第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって、力の量を調節するように制御される。このような方法でクラッチを使用することにより、一方の指節を動かすのに使用される力の、他方の指節を動かすのに使用される力に対する割合を効果的に制御することが可能となる。クラッチを制御するために、力バランス調節機構は、クラッチ制御装置を含み得る。クラッチ制御装置は、第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって動作する機械式デバイスであることが好ましい。本発明に係る指節機構では、上側指節回転機構及び下側指節回転機構は機械的に駆動されるので、指節の動きに対する抵抗が増加すると、各回転機構の力も増加し、例えば、回転機構の要素のトルク、張力、圧縮、及び/または変形が増加する。クラッチ制御装置は、このタイプの力により動作されることが好ましい。一例では、第1の指節を回転させるための指節回転機構はケーブルにより駆動され、第1の指節の回転に対する抵抗が増加したときにケーブルの張力が増加するように構成される。この場合、クラッチ制御装置は、例えばケーブルがV字状に架け渡されたレバーなどの、ケーブルの張力にしたがって動作する機械式デバイスを含み得る。この構成により、レバーはケーブルの張力によって引っ張られるので、第1の指節の動きに対する抵抗にしたがってレバーを移動させることが可能となる。当然ながら、他の機構を使用することも可能である。
【0017】
力バランス調節機構は、例えば運動抵抗が存在しない場合に挟み把持を可能にするために、力のバランスを調節するための調節/較正機構を含む。クラッチは、第1の指節の回転に使用される力の量に対する、第2の指節の回転に使用される力の量を制御可能な任意の機構であり得る。クラッチは、調節/較正機構を有することが好ましい。当業者には、クラッチを実施することができる様々な方法が存在することは明らかであろう。好適な実施形態では、バンドブレーキが使用される。これにより、軽量で小型化が容易なクラッチを提供することが見出された。このことは重要な利点である。上述したように、人工手または義手にとっては、サイズ及び重量は重要だからである。バンドブレーキなどのクラッチは、クラッチ制御装置としての上述したレバー・ケーブル構造と組み合わされる。この場合、レバーは、ケーブルの張力の増加にしたがって、バンドブレーキを締め付けるのに使用される。これも、小型で軽量な解決策を提供するとともに、頑丈であり、人工指内への実装が容易な機構であることが見出された。バンドブレーキは、クラッチ制御装置(例えば、上述したレバー)により行われる調節とは独立的に、バンドブレーキの緊張を調節する例えばスクリュー式調節器などの、上述した調節/較正機構を含み得る。
【0018】
上側指節回転機構及び下側指節回転機構は、プーリ・ケーブルシステムを含み得る。1つの可能性は、手の平ユニットに設けられたアクチュエータから張力を受けて、その張力を、下側指節を回転させるように構成された下側プーリに伝達するためのメインケーブルと、下側プーリに接続され、下側プーリの回転運動を、上側指節を回転させるように構成された上側プーリに伝達するように構成された第2のケーブルとを含む。メインケーブル及び第2のケーブルは、下側プーリの周りに巻回されるか、または他の方法により下側プーリに結合される、単一のケーブルとして構成することもできる。しかしながら、メインケーブル及び第2のケーブルは、下側プーリから個別に切り離すことができるように、別々のケーブルを使用することが有利である。このようにすると、装置の組み立てが容易になり、また、メンテナンスなどのために、個々の部品を取り外すのが容易になるためである。ケーブル及びプーリをこのように使用すると、指節を閉位置に向けて自由に変位させることができ、機構を損傷させるリスクを伴わずにケーブルの緩みを形成することができるので有利である。これは、人工手を構成するために手の平ユニットにケーブル及びプーリを設置したときに、指節が衝撃に起因する損傷に対して耐性を有することを意味する。
【0019】
上記のようなプーリを使用することにより、力バランス調節機構は、下側プーリの回転により回転する下側指節が受ける運動抵抗にしたがって、上側プーリ及び上側指節間で伝達される力の量を調節するか、または、上側プーリの回転により回転する上側指節が受ける運動抵抗にしたがって、下側プーリ及び下側指節間で伝達される力の量を調節するように構成されている。上述したように、力バランス調節機構は指節機構の下側端部に配置することが有利であると考えられている。そのため、さらなる詳細は、下側プーリに焦点を合わせたシステムに関して説明する。逆の構成も可能であることを理解されたい。
【0020】
力バランス調節機構が、下側指節を回転させるために下側プーリから下側指節に伝達される力を調節するように構成されている場合、メインケーブル及び第2のケーブルの張力は、両ケーブルの下側プーリに対する接続部により互いにリンクされている。また、上側プーリは、上側指節に結合されており、上側指節とともに回転することができる。したがって、上側指節は、上側プーリの回転により駆動され、上側プーリと同じ程度で回転することができる。また、下側プーリは、力バランス調節装置のクラッチを介して下側指節に接続され、力バランス調節装置により下側プーリからの回転力の一部を下側指節に伝達するように構成されている。クラッチは、上述したとおりである。したがって、ある例では、クラッチ制御装置としてのレバーが設けられ、第2のケーブルが下側プーリ及び上側プーリ間でレバーにV字状に架け渡されており、上側指節が受ける運動抵抗が増加すると、第2のケーブルの張力が増加してレバーを引っ張り、クラッチによって下側プーリ及び下側指節間で伝達される力を増加させるように構成されている。この場合、力バランス調節機構は、下側プーリ及び下側指節間で伝達される力の量を制御するように構成された、クラッチとしてのバンドブレーキと、バンドブレーキを締め付けるためのレバーとを含み得る。有利なことに、バンドブレーキ及び下側プーリは、下側指節の下側端部に位置する比較的大きな「指関節」内に収容することができる。また、レバー及びV字状ケーブルは、上側プーリに向かって延びる下側指節内に配置され、上側プーリは、下側指節と上側指節とを連結する比較的小さな「指関節」内に収容される。この指節機構は、従来の人工手と比べて大型化することなく、上記の構成要素を含むことができる。すなわち、患者の手の指節のサイズに概ね一致させることができる。
【0021】
指節は、中空の指節様の形状に形成されたハウジング要素を含み得る。好適な例では、3D印刷された金属合金、例えば3D印刷されたチタンを使用して指節が形成される。これにより、必要とされる構造強度が得られるだけでなく、複雑な形状を形成することが可能となり、指節機構の製造、及び様々な機械部品を一体化するときの追加的な加工の必要性を最小限に抑えることができる。
【0022】
本発明は、上記の複数の指節機構が手の平ユニットに設置された人工手にさらに拡張される。この人工手は、義手であり得、そのため、装飾手袋を含み得る。手の平ユニットは、指節機構用のアクチュエータを有しており、このアクチュエータは、例えば指節機構のメインケーブルに張力を加えるか、または他の方法で指節を回転させるように構成されている。手の平ユニットは、潜在的に電気機械式のアクチュエータを使用し得るが、これは、重量が非常に重くなり、また、義手による完全な適応的把持を実施することは困難だと考えられる。したがって、指節機構は、手の平ユニット内に配置された油圧式アクチュエータにより駆動することが好ましい。複数の上記の指節機構が、手の平ユニットに取り付けられる。機械式の人工指と、油圧式の手の平ユニットとの組み合わせは、サイズ及び重量を最小化するための最適な構成を提供する。油圧式要素と機械式要素とのこのような組み合わせを用いた人工手は、現在市販されていない。
【0023】
各指節機構は、使用時に、各指節を開位置に向けて付勢するばねのための取り付け部を有することが好ましい。ばねは、取り付け部と、それに対応する人工手の手の平ユニットの取り付け部との間に配置され得る。ばねは、指節を閉位置に向けて弾性的に付勢し、指節に対して加えられる力が解放されたときに、指節を開位置に復帰させることを可能にする。したがって、指節は、衝撃または他の外力に応じて自由に閉じることができ、その後に外力が取り除かれたときに、開位置(または関連するアクチュエータにより設定された位置)に戻るように構成されている。
【0024】
下側指節は、該下側指節を人工手の手の平ユニットのブラケットに取り付けるためのピボット構造を有し得る。ピボット構造は、下側指節回転機構の構成要素、例えば上述した下側プーリ及びクラッチと同一の回転軸に沿って形成されることが好ましい。指節機構は、ピボット機構の結合部を介して、手の平ユニットのブラケットに取り付けられる。有利なことに、各指用の複数の指節機構が、同一の回転軸に沿って配列されたブラケットに取り付けられる。これにより、単一のピンまたはシャフトで手の平ユニットの全ての指に固定することが可能となる。
【0025】
手の平ユニットは、複数の油圧アクチュエータを使用し、複数のアクチュエータは、各アクチュエータ間で圧力が分配されるように、互いに接続されていることが好ましい。これにより、各指節機構が受ける運動抵抗の差異、及び、各指節機構の各指節が受ける運動抵抗の差異に応じた適応的把持が可能となる。
【0026】
手の平ユニットの可能な構造は、手の平ユニット本体部と、手の平ユニット本体部により保持されたモータと、手の平ユニット本体部により保持され、かつモータによって同時に駆動される低圧油圧ポンプ及び高圧油圧ポンプを含む油圧ポンプアセンブリと、手の平ユニット本体部により保持され、かつ低圧油圧ポンプ及び高圧油圧ポンプの両油圧ポンプに接続された油圧回路とを備える。
【0027】
油圧回路は、好ましいことに、両油圧ポンプの各吐出側を、人工手用の1または複数の油圧アクチュエータに接続する低圧形態と、低圧油圧ポンプの吐出側と油圧アクチュエータとの接続を遮断し、油圧流体を低圧油圧ポンプの吸込側に再循環させるとともに、高圧油圧ポンプの吐出側と油圧アクチュエータとの接続を維持する高圧形態とを有する。油圧回路は、有利なことに、指を閉じる把持動作中に、油圧系内の圧力が増加して予め定められた閾値を超えたときに、低圧形態から高圧形態に自動的に切り替えるように構成されている。
【0028】
上記の構成は、素早い低圧動作とゆっくりとした高圧動作との両方を効率的に制御することができる手の平ユニットを提供する。この手の平ユニットは、本システム内での圧力増加に応答して低い把持力から高い把持力に自動的に切り替えることができる。すなわち、本システムは、有利なことに、人工手が物体を把持したときにその物体から受ける抵抗に対して自動的に応答することができる。
【0029】
本システム内の圧力が増加して予め定められた閾値を超えたときに、低圧形態から高圧形態に切り替えるために、油圧回路は、圧力制御機構を含んでいる。圧力制御機構は、例えば、手を閉じる動作中に、本システム内の圧力が増加して予め定められた閾値を超えたときに開くように構成された圧力制御バルブであり得る。閾値は、例えば、10〜15bar、すなわち1000〜1500kPaであり得る。
【0030】
ある例では、低圧油圧ポンプの吐出側は、低圧油圧ポンプから高圧油圧ポンプに向かう流れを許す一方向バルブを介して、高圧油圧ポンプの吐出側に接続されており、低圧油圧ポンプの吐出側は、圧力調節バルブを介して、低圧油圧ポンプの吸込側に接続されている。この構成により、低圧ポンプの吐出側の圧力が増加して閾値を超えたときには、圧力制御バルブが開いて、油圧流体が低圧ポンプの吐出側から低圧ポンプの吸込側に再循環することを可能にするとともに、高圧ポンプの吐出側の圧力が高くなることに起因して一方向バルブは閉じる。これは、必要であれば高圧ポンプの吐出側と油圧アクチュエータとの接続は維持されるが、低圧ポンプは再循環モードの動作に切り替えられることを意味する。
【0031】
一方向バルブは、例えば指を開く動作中に油圧流体が油圧回路を逆方向に流れることを可能にするために、開状態に維持できるように構成されていることが好ましい。一方向バルブは、電磁制御バルブであり得る。手の平ユニットは、電磁制御バルブを制御するための、例えばマイクロプロセッサなどの制御装置を含み得る。この制御装置は、例えば指を開く動作を行うために油圧流体が油圧回路を逆方向に流れることを必要とするときに、電磁制御バルブを開状態に保持するのに使用することができる。
【0032】
モータは、可変速モータであり得る。これにより、単一のセンサ入力のみに基づいて、油圧ポンプから送り出される油圧流体の量を制御することが可能となる。したがって、複数のセンサ及び/または複雑なマイクロプロセッサルーチンを必要とすることなく、人工手の各指の動作速度を完全に制御することができる。
【0033】
また、モータとして可逆モータを使用することができ、これにより、油圧ポンプを順方向または逆方向に動作させて手の開閉動作を制御することが可能となる。モータは、可変速及び可逆の両方の機能を有することが好ましい。
【0034】
通常は、例えば親指と他の1本以上の指の制御を可能にするために、手の平ユニットは、複数の油圧アクチュエータを備えている。油圧回路は、複数の油圧アクチュエータ内、好ましくは全てのアクチュエータ内の油圧流体の圧力を均一にするために、各油圧アクチュエータの圧力側及び吸込側が互いに接続されるように構成されていることが好ましい。これにより、人工手の各指の適応的な動作が可能となる。人工手の各指で物体を把持するとき、物体から抵抗を受けた指は動作を停止するが、他の指は物体から抵抗を受けるまで、すなわち把持が完成するまで動作を継続するためである。
【0035】
好適な実施形態では、油圧アクチュエータの数は、人工手の指の数よりも少ない。当然ながら、人工手は、一般的には、1本の親指と、4本の他の指とを有するように構成されている。手の平ユニットは、小指専用の油圧アクチュエータを備えておらず、かつ、任意選択で薬指専用の油圧アクチュエータも備えていないことが好ましい。いくつかの例では、専用の油圧アクチュエータを有していない指は、それに隣接し、かつ専用の油圧アクチュエータを有している指に弾性的に結合されている。例えば、小指及び薬指が、専用の油圧アクチュエータを有している中指に弾性的に結合されている。好適な構成では、手の平ユニットは、親指、人差し指、及び中指の各指用の3つの油圧アクチュエータを含む。この構成は、各指が専用の油圧アクチュエータを有している特許文献3に開示されている従来技術とは対照的である。小指及び任意選択で薬指が専用の油圧アクチュエータを有していなくても、把持パターンに関しては大きく不利な点はなく、人工手のサイズ、重量、及び複雑さの低減という利点を上回る不利な点はないことが見出された。油圧アクチュエータは、油圧シリンダであり得る。
【0036】
好適な実施形態では、手の平ユニットは、親指用の油圧シリンダと、他の指用の複数の油圧シリンダとを有しており、親指用の油圧シリンダのボアサイズは、他の指用の複数の油圧シリンダのボアサイズよりも大きい。各ボアサイズは、親指から加えられる力と、他の指から加えられる力とのバランスが取られるように設定されることが好ましい。これは、人工手の各指を閉じて物体を把持するときに、親指から加えられる力と、他の指から加えられる力とのバランスを取ることができることを意味する。
【0037】
高圧ポンプは、比較的低容量で動作するように構成され、低圧ポンプは、比較的高容量で動作するように構成され得る。これにより、物体を把持するときの人間の手の自然な動きを模倣した、素早いかつ低把持力の動作と、ゆっくりとしたかつ高把持力の動作とが可能となる。
【0038】
油圧ポンプアセンブリは、高圧油圧ポンプ及び低圧油圧ポンプの両油圧ポンプを含む単一ユニットとして形成され得る。油圧ポンプアセンブリは、角柱状形状を有し、その角柱状形状に対応する形状を有するポンプチャンバ内に収容されるように構成され得る。好適な構成では、製造及び組み立てを容易にし、かつシール性を高めるために、円筒状形状が用いられる。
【0039】
油圧ポンプアセンブリは、手の平ユニット内で、外部環境からシール(密封)されていることが好ましい。油圧ポンプアセンブリは、その一方の端部に、シール、またはシールを保持するための溝を有する。これにより、手の平ユニットのポンプチャンバ内で油圧ポンプアセンブリを完全に密封することができる。シールは、例えば、Oリング型シールであり得る。手の平ユニットのポンプチャンバ内で油圧ポンプアセンブリを完全に密封することにより、ポンプアセンブリの2つの部分(低圧ポンプ及び高圧ポンプ)の間で必要とされるシールを省略することが可能となる。油漏れは内部でしか生じないので、問題が生じないためである。ポンプの小型化及び軽量化の利点は、内部で油漏れが生じる恐れがあるという不利な点を上回る。上述したように、ポンプの小型化及び軽量化は、人工手において最も重要である。ある例では、油圧ポンプアセンブリは、両油圧ポンプ間にシャフト用の油圧軸シールを有しており、両油圧ポンプのポンププレート間にはシールを有していない。両油圧ポンプは、モータにより駆動される単一のポンプ駆動シャフトによって駆動されることが好ましい。駆動シャフトアセンブリは、油圧ポンプアセンブリの軸に沿って延在するシャフトを含む。したがって、モータにより駆動されるシャフトは、両油圧ポンプの一方のポンプを貫通して他方のポンプに達している。このシャフトは、低圧油圧ポンプを駆動する低圧部分と、高圧油圧ポンプを駆動する高圧部分との2つの部分に分割されており、2つの部分間に軸方向遊びが設けられている。この構成は、油圧ポンプの機械要素を軸方向に互いに分離できるという利点を有する。
【0040】
好適な実施形態では、油圧ポンプアセンブリは、複数のポンププレートを互いに組み合わせ、組み合わせた複数のポンププレートを油圧ポンプアセンブリの長さ方向に貫通させたボルトで固定することにより組み立てられる。なお、シャフトは、油圧ポンプアセンブリの長さに沿って、組み合わせた複数のポンププレートを貫通していることが好ましい。油圧ポンプアセンブリは、略円筒状形状を有し、手の平ユニット内に設けられた円筒状形状を有するポンプ内に挿入して密封できるように構成され得る。油圧ポンプアセンブリと外部環境との間の密封は、Oリング型シールまたは同様のシールによって提供され得る。
【0041】
手の平ユニット本体部は、油圧回路及び油圧ポンプアセンブリを収容するための密封された筐体を形成し得る。モータも、手の平ユニット内に収容することが好ましい。手の平ユニット本体部は、単一部材から形成されることが好ましく、好ましい例では、3D印刷により作製される。油圧回路のための全ての油圧接続は、手の平ユニット本体部を構成する単一部材内に設けられた流路により形成されることが好ましい。この油圧接続は、油圧ポンプ及び油圧アクチュエータ間の接続、並びに上記した様々なバルブ(存在する場合)のための接続を含む。この構成は、3D印刷と組み合わせた場合に特に有効である。3D印刷を使用すると、非常に複雑な形状を様々な内部特徴とともに形成することが可能になるからである。手の平ユニット内の様々な部品間の油圧接続を保つことにより、全ての油圧要素を完全に密封することが容易となる。これにより、この油圧系を頑丈にすることができ、損傷及び油漏れのリスクをなくすことができる。
【0042】
油圧回路は、モータの停止時に油圧アクチュエータ内の油圧を保持するためのロックバルブを含み得る。有利なことに、このことにより、手の平ユニットが、モータを継続的に駆動する必要なく、人工指の各指を固定された把持位置に維持することが可能となる。
【0043】
手の平ユニットは、EMGセンサなどの筋電センサからの入力に基づいて動作するように構成されることが好ましい。好適な実施形態では、ユーザの筋肉における張力の大きさが、モータ速度の制御に使用される。これは、単一のセンサによって、人工手の把持を十分に制御できることを意味する。これにより、複雑なプログラマブルマイクロプロセッサが必要となるのを避けることができる。ある好適な例では、手の平ユニットは、一方は手を開くのに用いられ、他方は手を閉じるのに用いられる2つのEMGセンサからの入力に基づいて動作するように構成される。
【0044】
手の平ユニットは、手首コネクタを含み得る。特に、迅速接続型手首コネクタを使用することが好ましい。オットーボック社製の迅速接続型手首コネクタが使用され得る。このタイプの標準型コネクタは、既存の義手ユーザが、本発明の人工手を試すのを容易にすることができる。
【0045】
第2の態様から見ると、本発明は、人工手の指節機構の制御方法であって、指節機構が、人工手の手の平ユニットに回転可能に結合されるように構成された下側指節と、下側指節に回転可能に結合された上側指節と、下側指節を手の平ユニットに対して回転させるために、下側指節に対してモーメントを加えるための下側指節回転機構と、上側指節を下側指節に対して回転させるために、上側指節に対してモーメントを加えるための上側指節回転機構とを備えており、当該方法が、手の平ユニットに設けられた単一のアクチュエータから加えられる力によって、下側指節回転機構及び上側指節回転機構を機械的に駆動するステップと、受けている運動抵抗がより小さい指節に対して優先的に運動を提供するために、下側指節回転機構及び上側指節回転機構によって加えられるモーメントの大きさを、上側指節及び/または下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節するステップとを有し、同一の指における第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも大きい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも小さい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させるようにした方法を提供する。
【0046】
上述した指節機構と同様に、この方法は、手の平ユニットに設けられた単一のアクチュエータにより指節機構に単一の力を加えることによって、適応的把持のために指節を制御することを可能にする。この方法は、第1の態様及びその好適な/任意選択の特徴に関して上述した上記の特徴のいずれかまたは全てを含み得る。
【0047】
必要とされる適応的把持を生成するために、力バランス制御機構は、下側指節回転機構及び上側指節回転機構によって加えられるモーメントの大きさを、上側指節及び/または下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節する。この結果、上記の2つの回転機構は、受けている運動抵抗がより小さい指節に対して、優先的に運動を提供する。このことは、同一の指における第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも大きい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも小さい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させることにより実現される。第1の指節は上側指節であり、第2の指節は下側指節であり得る。あるいは、その逆であってもよい。
【0048】
上記の制御方法は、第2の指節を回転させるための様々な量の力を伝達するためのクラッチを使用し、クラッチを、第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって、力の量を調節するように制御するステップを含み得る。
【0049】
クラッチを制御するステップは、第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって動作する機械式装置、例えばレバー装置を使用して行われ、好ましくはクラッチとして使用されるバンドブレーキと組み合わせて行われる。
【0050】
本発明の各態様の好適な特徴は、適用可能または適切である限り、本発明の他の態様、及び任意選択で他の態様の好適な特徴と組み合わせることができる。
【0051】
以下、本発明のいくつかの好適な実施形態を、添付図面を参照して、例としてのみ説明する。