特許第6846355号(P6846355)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846355
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】人工手用の指節の制御
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/54 20060101AFI20210315BHJP
   A61F 2/68 20060101ALI20210315BHJP
   B25J 11/00 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   A61F2/54
   A61F2/68
   B25J11/00 Z
【請求項の数】14
【全頁数】27
(21)【出願番号】特願2017-557106(P2017-557106)
(86)(22)【出願日】2016年4月29日
(65)【公表番号】特表2018-519867(P2018-519867A)
(43)【公表日】2018年7月26日
(86)【国際出願番号】EP2016059681
(87)【国際公開番号】WO2016174243
(87)【国際公開日】20161103
【審査請求日】2019年4月17日
(31)【優先権主張番号】1507397.6
(32)【優先日】2015年4月30日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】517376724
【氏名又は名称】ハイファイブプロ エーエス
(74)【代理人】
【識別番号】110001379
【氏名又は名称】特許業務法人 大島特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポイルテルス、ヨセフス・マルティノス・マリア
【審査官】 宮崎 敏長
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−325375(JP,A)
【文献】 特開2003−305681(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/072750(WO,A1)
【文献】 米国特許第05108140(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/54 − A61F 2/58
A61F 2/68 − A61F 2/74
B25J 11/00
B25J 15/08 − B25J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工手用の指節機構であって、
前記人工手の手の平ユニット(12)に回転可能に結合されるように構成された下側指節(44)と、
前記下側指節(44)に回転可能に結合された上側指節(48)と、
前記下側指節(44)を前記手の平ユニット(12)に対して回転させるために、前記下側指節(44)に対してモーメントを加えるための下側指節回転機構(34、46、52、58)と、
前記上側指節(48)を前記下側指節(44)に対して回転させるために、前記上側指節(48)に対してモーメントを加えるための上側指節回転機構(50、54、56)と、
受けている運動抵抗がより小さい指節に対して優先的に運動を提供するために、前記下側指節回転機構(34、46、52、58)及び前記上側指節回転機構(50、54、56)によって加えられるモーメントの大きさを、前記上側指節(48)及び/または前記下側指節(44)の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節するための力バランス調節機構(60)とを備え、
前記力バランス調節機構は、
前記上側指節及び前記下側指節のうちの制御される側の指節である第1の指節が受ける運動抵抗が、前記上側指節及び前記下側指節のうちの制御する側の指節である第2の指節が受ける運動抵抗よりも大きい場合には、前記第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、
前記第1の指節が受ける運動抵抗が、前記第2の指節が受ける運動抵抗よりも小さい場合には、前記第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させるように構成されており、
前記下側指節回転機構及び前記上側指節回転機構は、使用時には、前記手の平ユニット(12)に設けられた単一のアクチュエータから加えられる力によって機械的に駆動されるように構成され、
前記力バランス調節機構(60)は、前記第2の指節を回転させるための様々な量の力を伝達するためのクラッチ(58)を含み、
前記クラッチ(58)は、前記第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって、前記力の量を調節するように制御され、
前記力バランス調節機構(60)は、前記クラッチ(58)を制御するためのクラッチ制御装置(62)を含み、
前記クラッチ制御装置は、前記第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって動作する機械式デバイスを含むことを特徴とする指節機構。
【請求項2】
前記第1の指節が上側指節(48)であり、前記第2の指節が下側指節(44)であることを特徴とする請求項1に記載の指節機構。
【請求項3】
前記クラッチ(58)は、バンドブレーキを含む、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の指節機構。
【請求項4】
前記指節(44、48)が受ける運動抵抗に基づいて、前記各回転機構の機械的な力が増加し、前記機械的な力の増加によって、前記クラッチ制御装置(62)が直接的または間接的に動作するように構成され、
前記指節のための前記指節回転機構は、前記指節(44、48)の回転に対する抵抗が増加したときに張力が増加するケーブル(54)により駆動され、前記クラッチ制御装置(62)は、前記ケーブル(54)の張力にしたがって動作する機械的デバイスを含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の指節機構。
【請求項5】
前記力バランス調節機構(60)は、前記力のバランスを調節するための調節/較正機構を含むことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の指節機構。
【請求項6】
前記上側指節回転機構及び前記下側指節回転機構は、プーリ(52、56)・ケーブル(34、54)システムを含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の指節機構。
【請求項7】
前記プーリ・ケーブルシステムは、
前記手の平ユニット(12)に設けられたアクチュエータから張力を受けて、その張力を、前記下側指節(44)を回転させるように構成された下側プーリ(52)に伝達するためのメインケーブル(34)と、
前記下側プーリ(52)に接続され、前記下側プーリ(52)の回転運動を、前記上側指節(48)を回転させるように構成された上側プーリ(56)に伝達するように構成された第2のケーブル(54)とを含み、
以下の3つの条件の少なくとも1つ、即ち
(i)前記メインケーブル(34)及び前記第2のケーブル(54)は、前記下側プーリから個別に切り離すことができるように構成される、
(ii)前記力バランス調節機構(60)は、前記上側プーリ(56)の回転により回転する前記上側指節(48)が受ける運動抵抗にしたがって、前記下側プーリ(52)及び前記下側指節間(44)で伝達される力の量を調節するように構成される、及び
(iii)前記メインケーブル(34)及び前記第2のケーブル(54)に加わる張力は、前記両ケーブルの下側プーリ(52)に対する接続部により互いにリンクされ、
前記上側プーリ(56)は、前記上側指節(48)に結合され、前記上側プーリ(56)の回転により前記上側指節を前記上側プーリと同程度で回転させることができるように構成され、
前記下側プーリ(52)は、前記力バランス調節機構を介して下側指節(44)に接続され、前記力バランス調節機構(60)により前記下側プーリからの回転力の一部を前記下側指節に伝達するように構成される、
の3条件のうちの少なくとも1つが満たされることを特徴とする請求項6に記載の指節機構。
【請求項8】
上記の請求項1ないし7のいずれかに記載の指節機構(14、16、18、20)を複数備えた人工手であって、
前記指節機構は、該指節機構用のアクチュエータを含む手の平ユニット(12)に設置されており、
前記アクチュエータは、複数の油圧アクチュエータを含み、
前記複数の油圧アクチュエータは、前記各指節機構(14、16、18、20)の前記各アクチュエータの圧力を均一にするべく各アクチュエータ間で圧力が分配されるように互いに接続されている、
ことを特徴とする人工手。
【請求項9】
前記各指節機構(14、16、18、20)は、使用時に、前記各指節を開位置に向けて付勢するばね(30、42)のための取り付け部を有し、
前記ばねは、前記取り付け部と、それに対応する当該人工手の手の平ユニット(12)の取り付け部との間に配置されていることを特徴とする請求項8に記載の人工手。
【請求項10】
前記各指節機能(14、16、18、20)の前記下側指節(44)は、該下側指節を、当該人工手の手の平ユニット(12)のブラケットに取り付けるためのピボット構造を有することを特徴とする請求項8または9に記載の人工手。
【請求項11】
前記手の平ユニット(12)は、
手の平ユニット本体部(70)と、
前記手の平ユニット本体部により保持されたモータ(68)と、
前記手の平ユニット本体部により保持され、かつ前記モータによって同時に駆動される低圧油圧ポンプ(74)及び高圧油圧ポンプ(76)を含む油圧ポンプアセンブリ(72)と、
前記手の平ユニット本体部により保持され、前記低圧油圧ポンプ及び前記高圧油圧ポンプの両油圧ポンプに接続され、かつ前記指節機構を駆動するためのアクチュエータを含む油圧回路とを備え、
前記油圧回路は、
前記両油圧ポンプ(74、76)の各吐出側を、前記人工手用の1または複数の油圧アクチュエータに接続する低圧形態と、
前記低圧油圧ポンプ(74)の吐出側と前記油圧アクチュエータとの接続を遮断し、油圧流体を前記低圧油圧ポンプ(74)の吸込側に再循環させるとともに、前記高圧油圧ポンプ(76)の吐出側と前記油圧アクチュエータとの接続を維持する高圧形態とを有する、
ことを特徴とする請求項8ないし10のいずれかに記載の人工手。
【請求項12】
人工手の指節機構の制御方法であって、
前記指節機構が、
前記人工手の手の平ユニット(12)に回転可能に結合されるように構成された下側指節(44)と、
前記下側指節(44)に回転可能に結合された上側指節(48)と、
前記下側指節(44)を前記手の平ユニット(12)に対して回転させるために、前記下側指節(44)に対してモーメントを加えるための下側指節回転機構(34、46、52、58)と、
前記上側指節(48)を前記下側指節(44)に対して回転させるために、前記上側指節(48)に対してモーメントを加えるための上側指節回転機構(50、54、56)とを備えており、
当該方法が、
前記手の平ユニット(12)に設けられた単一のアクチュエータから加えられる力によって、前記下側指節回転機構(34、46、52、58)及び前記上側指節回転機構(50、54、56)を機械的に駆動するステップと、
受けている運動抵抗がより小さい指節に対して優先的に運動を提供するために、前記下側指節回転機構(34、46、52、58)及び/または前記上側指節回転機構(50、54、56)によって加えられるモーメントの大きさを、前記上側指節及び/または前記下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節するステップであって、前記上側指節及び前記下側指節のうちの制御される側の指節である第1の指節が受ける運動抵抗が、前記上側指節及び前記下側指節のうちの制御する側の指節である第2の指節が受ける運動抵抗よりも大きい場合には、前記第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、前記第1の指節が受ける運動抵抗が、前記第2の指節が受ける運動抵抗よりも小さい場合には、前記第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させるようにした、該機械的に調節するステップと、
前記下側指節回転機構(34、46、52、58)に含まれ、前記第2の指節を回転させるための様々な量の力を伝達するためのクラッチ(58)を、前記第2の指節を回転させるために加えられる前記力の量を調節するために使用するステップであって、前記クラッチ(58)を、前記第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって前記力の量を調節するように制御するべく、前記第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって動作する機械式デバイスを含むクラッチ制御装置(62)を用いる、該使用するステップとを有することを特徴とする方法。
【請求項13】
上記の請求項1ないし7のいずれかに記載の指節機構を使用することを特徴とする請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記第1の指節が上側指節(48)であり、前記第2の指節が下側指節(44)であることを特徴とする請求項12または13に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば失われた手の代わりに使用される義手などの人工手用の指節機構に関する。いくつかの例示的な実施形態では、この指節機構は、人工手を完成させるために、手の平ユニットと組み合わされる。
【背景技術】
【0002】
義手としての使用だけでなく、人間の手の細かい動作を模倣することができるロボット工学的装置及び自動ハンドリング装置に関連した、人工手(artificial hand)の改良についての継続的な需要が存在する。この数十年で、ユーザの残肢内の随意収縮筋からの筋電信号または電位を用いて手の動きを制御する筋電義手に関して大きな進歩が見られた。筋電信号を受信するために、1または複数のセンサが皮膚の表面に配置される。しばらく前に、ドイツ国ドゥーダーシュタット所在のオットーボック・ヘルスケア社(Otto Bock HealthCare Deutschland GmbH、www.ottobock-group.com)が、筋電義手の分野における標準となる手首コネクタを開発した。また、体の動きにより駆動される電気機械式スイッチを使用して、義手を制御する装置も存在する。
【0003】
擬人的な義手に関連する最新技術についてのレビューは、「Mechanical design and performance specifications of anthropomorphic prosthetic hand: A review, Joseph T. Belter et al, JRRD, volume 50, number 5, 2013, pages 599-618」に見ることができる。このレビューに記載されているように、多数の企業がこの分野で活動しており、市場に市販製品を提供している。これらの市販製品は、義手の各指を様々な程度の自由度で駆動するために、電動モータと機械的結合部品との様々な組み合わせを使用する。これらの市販の義手は、ある場合では、義手として使用するのに適切なレベルの細かい動作を提供することができるが、一般的に、過度の重量に起因してユーザが不快に感じるという問題や、装置構造が複雑で高価であるという問題があった。
【0004】
また、油圧駆動式の義手が提案されているが、現在まで、市販製品の存在は知られていない。「フルイドハンド(Fluidhand)」として知られている義手が、プロトタイプとしてカールスルーエ工科大学(Karlsruhe Institute of Technology)により開発されており、ドイツ国ハイデルベルクの整形外科大学病院でテストされている。この油圧駆動式の義手は、市販の電気機械式の義手とは別のタイプの自由度の高い指の動き(すなわち、細かい動き)を提供するべく、指の内部で小型の油圧系を使用している。しかしながら、この「フルイドハンド」は、比較的低い圧力(9〜10bar、すなわち900〜1000kPa)で動作するため、把持力が比較的低いという問題があった。また、この「フルイドハンド」は、ダメージに対して脆弱なホース(チューブ)及びカップリング(結合部品)を義手の外側に設置して使用するため、義手として毎日使用するのに十分な頑丈さを有していないという問題もある。また、油圧流体の漏出に関する重大なリスクがある。
【0005】
油圧系の使用についてのさらなる提案は、下記の特許文献に見ることができる。特許文献1には、高圧低容量油圧系を使用して各指関節を個々に駆動する、メソフルイディック(mesofluidic)駆動式の指が開示されている。しかし、この提案には、「フルイドハンド」と同様の問題が存在すると考えられる。
【0006】
特許文献2には、油圧系を機械式指関節とともに使用することが提案されている。指は、いくつかの市販されている電気機械式義手と同様の方法で、腱ケーブルにより駆動され、一対のメソフルイディック油圧ピストンによって、各指関節の動作を制御する。このシステムは、完全油圧式義手に関する問題のいくつかは解決するが、依然として問題は残る。生成可能な把持力は油圧システムの性質に起因して制限され、各指用に複数の油圧ピストンが必要となるために複雑さが非常に増加し、これにより、製造コスト及び油漏れのリスクが高くなる。
【0007】
油圧要素と機械要素との組み合わせの別の例は、特許文献3に見ることができる。特許文献3には、単一の油圧ピストンにより駆動される腱ケーブル駆動型の機械式指関節を指毎に有する義手が開示されている。指の素早い動きと高い把持力との両方を可能にするために、特許文献3では、油圧要素の高圧動作及び低圧動作の可能性を提供する2つの油圧ポンプを使用することを提案している。高圧油圧ポンプによる指の動きの制御を可能にするために、低圧油圧ポンプは、クラッチ及び遮断バルブによってモータ/油圧から切り離される。このシステムは、把持力が所定の閾値を超えた場合に、上記の切り離しを自動的に行うように構成されている。したがって、この義手は、まず、指を素早く動作させて低い把持力で物体と接触させ、その後、把持力を高めるために、ゆっくりとした高圧の動作に切り替える。加えて、各指を駆動する様々なピストンは全て互いに結合されており、各油圧ピストンの圧力は均一に維持される。これにより、被把持物体から各指が受ける抵抗に応じて、各指を互いに異なる程度で閉じることができる。また、全ての指が閉じて物体に接触するまで、被把持物体には最大把持力は加わらない。
【0008】
特許文献3に開示されている義手は、他の既知の油圧駆動式の義手と比べて大幅な進歩を示すと考えられるが、潜在的な問題が依然として存在する。特許文献3の義手は、比較的分厚くかつ複雑であり、また、依然として指の動きの制御における大幅な進歩をユーザに提供しない。したがって、このタイプの義手に関する改良が依然として求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許公開第2012/203358号明細書
【特許文献2】米国特許第8951303号明細書
【特許文献3】国際公開第WO 2011/072750号
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の態様から見れば、本発明は、人工手用の指節機構であって、人工手の手の平ユニットに回転可能に結合されるように構成された下側指節と、下側指節に回転可能に結合された上側指節と、下側指節を手の平ユニットに対して回転させるために、下側指節に対してモーメントを加えるための下側指節回転機構と、上側指節を下側指節に対して回転させるために、上側指節に対してモーメントを加えるための上側指節回転機構と、受けている運動抵抗がより小さい指節に対して優先的に運動を提供するために、下側指節回転機構及び上側指節回転機構によって加えられるモーメントの大きさを、上側指節及び/または下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節するための力バランス調節機構とを備え、力バランス調節機構は、同一の指における第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも大きい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも小さい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させるように構成されており、下側指節回転機構及び上側指節回転機構は、使用時には、手の平ユニットに設けられた単一のアクチュエータから加えられる力によって機械的に駆動されるように構成された指節機構を提供する。
【0011】
この構成により、手の平ユニットに設けられた単一のアクチュエータのみにより、指節機構に対して単一の力を加え、各指節を適応的把持のために制御することができる。ある指節が受ける抵抗が増加したとき、力バランス調節機構は、他の指節に、指節機構に提供される力のうちの大きな割合を提供し、より多く回転させるように、力の分布を調節する。このようにして、被把持物体が不規則な形状を有する場合でも、例えば人工手の指節を物体の周りに閉じて物体を把持するときに、両方の指節が動いて物体と接触することが可能となる。この指節機構は、指節の回転に対する抵抗が存在しない場合は、例えば指節機構を使用して手を閉じて挟み把持(pincer grip)の形態にするように、動きのデフォルトパターンが設定される。また、第1指節が被把持物体または運動に対する他の抵抗源と接触した場合、その指節に提供される力の割合を、残りの指節に提供される力の量と比べて減少させる。これにより、両方の指節を、それらが受ける運動抵抗に抗して、略同一の圧力で閉じることができる。したがって、指節機構は全ての指節を用いて把持を形成するので、人の手と同様な強固な把持を実現することができる。また、これは、上記の指節機構を使用して各指節の運動に対して選択的に抵抗を加えることにより、ユーザが非常に容易に、人工手の必要とされる把持パターンまたは形態を「形成」できることを意味する。
【0012】
本発明に係る指節機構は、適応機能を有する従来の指節機構とは異なり、複数のアクチュエータや複雑なマイクロプロセッサ制御を必要としない。その代わりに、単一のアクチュエータが使用される。加えて、単一のアクチュエータ入力及び腱式接続を使用する従来の指節機構とは対照的に、上側指節及び下側指節の運動の相対的程度は固定されておらず、ギア機構などによって変化させることができる。また、本発明に係る指節機構は、より頑丈な構造を可能にし、特に、ばね復帰式の構造を導入することを可能にする。したがって、この指節機構は、外力に応答して動作し、指節を閉方向に弾性的に動かすように構成される。これにより、指節機構及び人工手に組み込まれる他の要素が損傷するリスクを最小限に抑えることができる。
【0013】
本明細書で使用するとき、「上側指節」という用語は、人工指の遠位端側、すなわち指先側の指節を指し、「下側指節」という用語は、人工指の近位端側、すなわち手の平側の指節を指す。上側及び下側という用語は、指節機構の他の部品において同様に使用される。この指節機構は、人工手の各指の基礎をなす。
【0014】
指節機構の可動指節は2つだけであり得る。この場合、上側指節は遠位側指節であり、各指の先端とともに動く。なお、後述する回転機構及び力バランス制御機構を追加することにより、下側指節と上側指節との間にさらなる指節を設けて、3つの指節を有するように拡張することも可能である。この場合、指節機構は、下側指節と、下側指節の上端に回転可能に結合された第1の上側指節と、第1の指節の上端に回転可能に結合された第2の上側指節とを有する。また、指節機構は、第2の上側指節に対してモーメントを加える追加的な回転機構と、追加的な下側プーリと、下側プーリ及び下側プーリに設けられた第1のクラッチ機構と相互作用する第1の上側プーリと、第1の上側プーリに設けられ第2の上側プーリと相互作用する第2のクラッチ機構と、第2の上側指節の適応的運動のためのさらなるシステムを形成するための他の繰り返し要素とを有する。上記の構成により3つの指節が人の指のように動くことが可能となり、これにより、指のより自然な適応的運動が可能となる。
【0015】
必要とされる適応的把持を生成するために、力バランス制御機構は、下側指節回転機構及び上側指節回転機構によって加えられるモーメントの大きさを、上側指節及び/または下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節する。この結果、上記の2つの回転機構は、受けている運動抵抗がより小さい指節に対して、優先的に運動を提供する。このことは、同一の指における第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも大きい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも小さい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させることにより実現される。第1の指節は上側指節であり、第2の指節は下側指節であり得る。あるいは、その逆であってもよい。本明細書では、前者が例示的な実施形態として用いられる。人間の手の外観に類似した、人工手に必要とされる一般的な形状を有するため、遠位端には、機構を配置するためのより多くのスペースが存在する。また、一般的に、指節の回転させるために加えられる力の量を、指節の回転に抵抗する力の量に応じて調節するためには、より複雑な機構が必要とされるので、上記の第2の指節として下側指節を用いる構成により、人工手の外観に悪影響を及ぼすことなく、より容易に設計することが可能となる。したがって、指節機構をこのように構成することは、若干有利である。
【0016】
力バランス調節機構は、第2の指節を回転させるための様々な量の力を伝達するためのクラッチを含み、クラッチは、第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって、力の量を調節するように制御される。このような方法でクラッチを使用することにより、一方の指節を動かすのに使用される力の、他方の指節を動かすのに使用される力に対する割合を効果的に制御することが可能となる。クラッチを制御するために、力バランス調節機構は、クラッチ制御装置を含み得る。クラッチ制御装置は、第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって動作する機械式デバイスであることが好ましい。本発明に係る指節機構では、上側指節回転機構及び下側指節回転機構は機械的に駆動されるので、指節の動きに対する抵抗が増加すると、各回転機構の力も増加し、例えば、回転機構の要素のトルク、張力、圧縮、及び/または変形が増加する。クラッチ制御装置は、このタイプの力により動作されることが好ましい。一例では、第1の指節を回転させるための指節回転機構はケーブルにより駆動され、第1の指節の回転に対する抵抗が増加したときにケーブルの張力が増加するように構成される。この場合、クラッチ制御装置は、例えばケーブルがV字状に架け渡されたレバーなどの、ケーブルの張力にしたがって動作する機械式デバイスを含み得る。この構成により、レバーはケーブルの張力によって引っ張られるので、第1の指節の動きに対する抵抗にしたがってレバーを移動させることが可能となる。当然ながら、他の機構を使用することも可能である。
【0017】
力バランス調節機構は、例えば運動抵抗が存在しない場合に挟み把持を可能にするために、力のバランスを調節するための調節/較正機構を含む。クラッチは、第1の指節の回転に使用される力の量に対する、第2の指節の回転に使用される力の量を制御可能な任意の機構であり得る。クラッチは、調節/較正機構を有することが好ましい。当業者には、クラッチを実施することができる様々な方法が存在することは明らかであろう。好適な実施形態では、バンドブレーキが使用される。これにより、軽量で小型化が容易なクラッチを提供することが見出された。このことは重要な利点である。上述したように、人工手または義手にとっては、サイズ及び重量は重要だからである。バンドブレーキなどのクラッチは、クラッチ制御装置としての上述したレバー・ケーブル構造と組み合わされる。この場合、レバーは、ケーブルの張力の増加にしたがって、バンドブレーキを締め付けるのに使用される。これも、小型で軽量な解決策を提供するとともに、頑丈であり、人工指内への実装が容易な機構であることが見出された。バンドブレーキは、クラッチ制御装置(例えば、上述したレバー)により行われる調節とは独立的に、バンドブレーキの緊張を調節する例えばスクリュー式調節器などの、上述した調節/較正機構を含み得る。
【0018】
上側指節回転機構及び下側指節回転機構は、プーリ・ケーブルシステムを含み得る。1つの可能性は、手の平ユニットに設けられたアクチュエータから張力を受けて、その張力を、下側指節を回転させるように構成された下側プーリに伝達するためのメインケーブルと、下側プーリに接続され、下側プーリの回転運動を、上側指節を回転させるように構成された上側プーリに伝達するように構成された第2のケーブルとを含む。メインケーブル及び第2のケーブルは、下側プーリの周りに巻回されるか、または他の方法により下側プーリに結合される、単一のケーブルとして構成することもできる。しかしながら、メインケーブル及び第2のケーブルは、下側プーリから個別に切り離すことができるように、別々のケーブルを使用することが有利である。このようにすると、装置の組み立てが容易になり、また、メンテナンスなどのために、個々の部品を取り外すのが容易になるためである。ケーブル及びプーリをこのように使用すると、指節を閉位置に向けて自由に変位させることができ、機構を損傷させるリスクを伴わずにケーブルの緩みを形成することができるので有利である。これは、人工手を構成するために手の平ユニットにケーブル及びプーリを設置したときに、指節が衝撃に起因する損傷に対して耐性を有することを意味する。
【0019】
上記のようなプーリを使用することにより、力バランス調節機構は、下側プーリの回転により回転する下側指節が受ける運動抵抗にしたがって、上側プーリ及び上側指節間で伝達される力の量を調節するか、または、上側プーリの回転により回転する上側指節が受ける運動抵抗にしたがって、下側プーリ及び下側指節間で伝達される力の量を調節するように構成されている。上述したように、力バランス調節機構は指節機構の下側端部に配置することが有利であると考えられている。そのため、さらなる詳細は、下側プーリに焦点を合わせたシステムに関して説明する。逆の構成も可能であることを理解されたい。
【0020】
力バランス調節機構が、下側指節を回転させるために下側プーリから下側指節に伝達される力を調節するように構成されている場合、メインケーブル及び第2のケーブルの張力は、両ケーブルの下側プーリに対する接続部により互いにリンクされている。また、上側プーリは、上側指節に結合されており、上側指節とともに回転することができる。したがって、上側指節は、上側プーリの回転により駆動され、上側プーリと同じ程度で回転することができる。また、下側プーリは、力バランス調節装置のクラッチを介して下側指節に接続され、力バランス調節装置により下側プーリからの回転力の一部を下側指節に伝達するように構成されている。クラッチは、上述したとおりである。したがって、ある例では、クラッチ制御装置としてのレバーが設けられ、第2のケーブルが下側プーリ及び上側プーリ間でレバーにV字状に架け渡されており、上側指節が受ける運動抵抗が増加すると、第2のケーブルの張力が増加してレバーを引っ張り、クラッチによって下側プーリ及び下側指節間で伝達される力を増加させるように構成されている。この場合、力バランス調節機構は、下側プーリ及び下側指節間で伝達される力の量を制御するように構成された、クラッチとしてのバンドブレーキと、バンドブレーキを締め付けるためのレバーとを含み得る。有利なことに、バンドブレーキ及び下側プーリは、下側指節の下側端部に位置する比較的大きな「指関節」内に収容することができる。また、レバー及びV字状ケーブルは、上側プーリに向かって延びる下側指節内に配置され、上側プーリは、下側指節と上側指節とを連結する比較的小さな「指関節」内に収容される。この指節機構は、従来の人工手と比べて大型化することなく、上記の構成要素を含むことができる。すなわち、患者の手の指節のサイズに概ね一致させることができる。
【0021】
指節は、中空の指節様の形状に形成されたハウジング要素を含み得る。好適な例では、3D印刷された金属合金、例えば3D印刷されたチタンを使用して指節が形成される。これにより、必要とされる構造強度が得られるだけでなく、複雑な形状を形成することが可能となり、指節機構の製造、及び様々な機械部品を一体化するときの追加的な加工の必要性を最小限に抑えることができる。
【0022】
本発明は、上記の複数の指節機構が手の平ユニットに設置された人工手にさらに拡張される。この人工手は、義手であり得、そのため、装飾手袋を含み得る。手の平ユニットは、指節機構用のアクチュエータを有しており、このアクチュエータは、例えば指節機構のメインケーブルに張力を加えるか、または他の方法で指節を回転させるように構成されている。手の平ユニットは、潜在的に電気機械式のアクチュエータを使用し得るが、これは、重量が非常に重くなり、また、義手による完全な適応的把持を実施することは困難だと考えられる。したがって、指節機構は、手の平ユニット内に配置された油圧式アクチュエータにより駆動することが好ましい。複数の上記の指節機構が、手の平ユニットに取り付けられる。機械式の人工指と、油圧式の手の平ユニットとの組み合わせは、サイズ及び重量を最小化するための最適な構成を提供する。油圧式要素と機械式要素とのこのような組み合わせを用いた人工手は、現在市販されていない。
【0023】
各指節機構は、使用時に、各指節を開位置に向けて付勢するばねのための取り付け部を有することが好ましい。ばねは、取り付け部と、それに対応する人工手の手の平ユニットの取り付け部との間に配置され得る。ばねは、指節を閉位置に向けて弾性的に付勢し、指節に対して加えられる力が解放されたときに、指節を開位置に復帰させることを可能にする。したがって、指節は、衝撃または他の外力に応じて自由に閉じることができ、その後に外力が取り除かれたときに、開位置(または関連するアクチュエータにより設定された位置)に戻るように構成されている。
【0024】
下側指節は、該下側指節を人工手の手の平ユニットのブラケットに取り付けるためのピボット構造を有し得る。ピボット構造は、下側指節回転機構の構成要素、例えば上述した下側プーリ及びクラッチと同一の回転軸に沿って形成されることが好ましい。指節機構は、ピボット機構の結合部を介して、手の平ユニットのブラケットに取り付けられる。有利なことに、各指用の複数の指節機構が、同一の回転軸に沿って配列されたブラケットに取り付けられる。これにより、単一のピンまたはシャフトで手の平ユニットの全ての指に固定することが可能となる。
【0025】
手の平ユニットは、複数の油圧アクチュエータを使用し、複数のアクチュエータは、各アクチュエータ間で圧力が分配されるように、互いに接続されていることが好ましい。これにより、各指節機構が受ける運動抵抗の差異、及び、各指節機構の各指節が受ける運動抵抗の差異に応じた適応的把持が可能となる。
【0026】
手の平ユニットの可能な構造は、手の平ユニット本体部と、手の平ユニット本体部により保持されたモータと、手の平ユニット本体部により保持され、かつモータによって同時に駆動される低圧油圧ポンプ及び高圧油圧ポンプを含む油圧ポンプアセンブリと、手の平ユニット本体部により保持され、かつ低圧油圧ポンプ及び高圧油圧ポンプの両油圧ポンプに接続された油圧回路とを備える。
【0027】
油圧回路は、好ましいことに、両油圧ポンプの各吐出側を、人工手用の1または複数の油圧アクチュエータに接続する低圧形態と、低圧油圧ポンプの吐出側と油圧アクチュエータとの接続を遮断し、油圧流体を低圧油圧ポンプの吸込側に再循環させるとともに、高圧油圧ポンプの吐出側と油圧アクチュエータとの接続を維持する高圧形態とを有する。油圧回路は、有利なことに、指を閉じる把持動作中に、油圧系内の圧力が増加して予め定められた閾値を超えたときに、低圧形態から高圧形態に自動的に切り替えるように構成されている。
【0028】
上記の構成は、素早い低圧動作とゆっくりとした高圧動作との両方を効率的に制御することができる手の平ユニットを提供する。この手の平ユニットは、本システム内での圧力増加に応答して低い把持力から高い把持力に自動的に切り替えることができる。すなわち、本システムは、有利なことに、人工手が物体を把持したときにその物体から受ける抵抗に対して自動的に応答することができる。
【0029】
本システム内の圧力が増加して予め定められた閾値を超えたときに、低圧形態から高圧形態に切り替えるために、油圧回路は、圧力制御機構を含んでいる。圧力制御機構は、例えば、手を閉じる動作中に、本システム内の圧力が増加して予め定められた閾値を超えたときに開くように構成された圧力制御バルブであり得る。閾値は、例えば、10〜15bar、すなわち1000〜1500kPaであり得る。
【0030】
ある例では、低圧油圧ポンプの吐出側は、低圧油圧ポンプから高圧油圧ポンプに向かう流れを許す一方向バルブを介して、高圧油圧ポンプの吐出側に接続されており、低圧油圧ポンプの吐出側は、圧力調節バルブを介して、低圧油圧ポンプの吸込側に接続されている。この構成により、低圧ポンプの吐出側の圧力が増加して閾値を超えたときには、圧力制御バルブが開いて、油圧流体が低圧ポンプの吐出側から低圧ポンプの吸込側に再循環することを可能にするとともに、高圧ポンプの吐出側の圧力が高くなることに起因して一方向バルブは閉じる。これは、必要であれば高圧ポンプの吐出側と油圧アクチュエータとの接続は維持されるが、低圧ポンプは再循環モードの動作に切り替えられることを意味する。
【0031】
一方向バルブは、例えば指を開く動作中に油圧流体が油圧回路を逆方向に流れることを可能にするために、開状態に維持できるように構成されていることが好ましい。一方向バルブは、電磁制御バルブであり得る。手の平ユニットは、電磁制御バルブを制御するための、例えばマイクロプロセッサなどの制御装置を含み得る。この制御装置は、例えば指を開く動作を行うために油圧流体が油圧回路を逆方向に流れることを必要とするときに、電磁制御バルブを開状態に保持するのに使用することができる。
【0032】
モータは、可変速モータであり得る。これにより、単一のセンサ入力のみに基づいて、油圧ポンプから送り出される油圧流体の量を制御することが可能となる。したがって、複数のセンサ及び/または複雑なマイクロプロセッサルーチンを必要とすることなく、人工手の各指の動作速度を完全に制御することができる。
【0033】
また、モータとして可逆モータを使用することができ、これにより、油圧ポンプを順方向または逆方向に動作させて手の開閉動作を制御することが可能となる。モータは、可変速及び可逆の両方の機能を有することが好ましい。
【0034】
通常は、例えば親指と他の1本以上の指の制御を可能にするために、手の平ユニットは、複数の油圧アクチュエータを備えている。油圧回路は、複数の油圧アクチュエータ内、好ましくは全てのアクチュエータ内の油圧流体の圧力を均一にするために、各油圧アクチュエータの圧力側及び吸込側が互いに接続されるように構成されていることが好ましい。これにより、人工手の各指の適応的な動作が可能となる。人工手の各指で物体を把持するとき、物体から抵抗を受けた指は動作を停止するが、他の指は物体から抵抗を受けるまで、すなわち把持が完成するまで動作を継続するためである。
【0035】
好適な実施形態では、油圧アクチュエータの数は、人工手の指の数よりも少ない。当然ながら、人工手は、一般的には、1本の親指と、4本の他の指とを有するように構成されている。手の平ユニットは、小指専用の油圧アクチュエータを備えておらず、かつ、任意選択で薬指専用の油圧アクチュエータも備えていないことが好ましい。いくつかの例では、専用の油圧アクチュエータを有していない指は、それに隣接し、かつ専用の油圧アクチュエータを有している指に弾性的に結合されている。例えば、小指及び薬指が、専用の油圧アクチュエータを有している中指に弾性的に結合されている。好適な構成では、手の平ユニットは、親指、人差し指、及び中指の各指用の3つの油圧アクチュエータを含む。この構成は、各指が専用の油圧アクチュエータを有している特許文献3に開示されている従来技術とは対照的である。小指及び任意選択で薬指が専用の油圧アクチュエータを有していなくても、把持パターンに関しては大きく不利な点はなく、人工手のサイズ、重量、及び複雑さの低減という利点を上回る不利な点はないことが見出された。油圧アクチュエータは、油圧シリンダであり得る。
【0036】
好適な実施形態では、手の平ユニットは、親指用の油圧シリンダと、他の指用の複数の油圧シリンダとを有しており、親指用の油圧シリンダのボアサイズは、他の指用の複数の油圧シリンダのボアサイズよりも大きい。各ボアサイズは、親指から加えられる力と、他の指から加えられる力とのバランスが取られるように設定されることが好ましい。これは、人工手の各指を閉じて物体を把持するときに、親指から加えられる力と、他の指から加えられる力とのバランスを取ることができることを意味する。
【0037】
高圧ポンプは、比較的低容量で動作するように構成され、低圧ポンプは、比較的高容量で動作するように構成され得る。これにより、物体を把持するときの人間の手の自然な動きを模倣した、素早いかつ低把持力の動作と、ゆっくりとしたかつ高把持力の動作とが可能となる。
【0038】
油圧ポンプアセンブリは、高圧油圧ポンプ及び低圧油圧ポンプの両油圧ポンプを含む単一ユニットとして形成され得る。油圧ポンプアセンブリは、角柱状形状を有し、その角柱状形状に対応する形状を有するポンプチャンバ内に収容されるように構成され得る。好適な構成では、製造及び組み立てを容易にし、かつシール性を高めるために、円筒状形状が用いられる。
【0039】
油圧ポンプアセンブリは、手の平ユニット内で、外部環境からシール(密封)されていることが好ましい。油圧ポンプアセンブリは、その一方の端部に、シール、またはシールを保持するための溝を有する。これにより、手の平ユニットのポンプチャンバ内で油圧ポンプアセンブリを完全に密封することができる。シールは、例えば、Oリング型シールであり得る。手の平ユニットのポンプチャンバ内で油圧ポンプアセンブリを完全に密封することにより、ポンプアセンブリの2つの部分(低圧ポンプ及び高圧ポンプ)の間で必要とされるシールを省略することが可能となる。油漏れは内部でしか生じないので、問題が生じないためである。ポンプの小型化及び軽量化の利点は、内部で油漏れが生じる恐れがあるという不利な点を上回る。上述したように、ポンプの小型化及び軽量化は、人工手において最も重要である。ある例では、油圧ポンプアセンブリは、両油圧ポンプ間にシャフト用の油圧軸シールを有しており、両油圧ポンプのポンププレート間にはシールを有していない。両油圧ポンプは、モータにより駆動される単一のポンプ駆動シャフトによって駆動されることが好ましい。駆動シャフトアセンブリは、油圧ポンプアセンブリの軸に沿って延在するシャフトを含む。したがって、モータにより駆動されるシャフトは、両油圧ポンプの一方のポンプを貫通して他方のポンプに達している。このシャフトは、低圧油圧ポンプを駆動する低圧部分と、高圧油圧ポンプを駆動する高圧部分との2つの部分に分割されており、2つの部分間に軸方向遊びが設けられている。この構成は、油圧ポンプの機械要素を軸方向に互いに分離できるという利点を有する。
【0040】
好適な実施形態では、油圧ポンプアセンブリは、複数のポンププレートを互いに組み合わせ、組み合わせた複数のポンププレートを油圧ポンプアセンブリの長さ方向に貫通させたボルトで固定することにより組み立てられる。なお、シャフトは、油圧ポンプアセンブリの長さに沿って、組み合わせた複数のポンププレートを貫通していることが好ましい。油圧ポンプアセンブリは、略円筒状形状を有し、手の平ユニット内に設けられた円筒状形状を有するポンプ内に挿入して密封できるように構成され得る。油圧ポンプアセンブリと外部環境との間の密封は、Oリング型シールまたは同様のシールによって提供され得る。
【0041】
手の平ユニット本体部は、油圧回路及び油圧ポンプアセンブリを収容するための密封された筐体を形成し得る。モータも、手の平ユニット内に収容することが好ましい。手の平ユニット本体部は、単一部材から形成されることが好ましく、好ましい例では、3D印刷により作製される。油圧回路のための全ての油圧接続は、手の平ユニット本体部を構成する単一部材内に設けられた流路により形成されることが好ましい。この油圧接続は、油圧ポンプ及び油圧アクチュエータ間の接続、並びに上記した様々なバルブ(存在する場合)のための接続を含む。この構成は、3D印刷と組み合わせた場合に特に有効である。3D印刷を使用すると、非常に複雑な形状を様々な内部特徴とともに形成することが可能になるからである。手の平ユニット内の様々な部品間の油圧接続を保つことにより、全ての油圧要素を完全に密封することが容易となる。これにより、この油圧系を頑丈にすることができ、損傷及び油漏れのリスクをなくすことができる。
【0042】
油圧回路は、モータの停止時に油圧アクチュエータ内の油圧を保持するためのロックバルブを含み得る。有利なことに、このことにより、手の平ユニットが、モータを継続的に駆動する必要なく、人工指の各指を固定された把持位置に維持することが可能となる。
【0043】
手の平ユニットは、EMGセンサなどの筋電センサからの入力に基づいて動作するように構成されることが好ましい。好適な実施形態では、ユーザの筋肉における張力の大きさが、モータ速度の制御に使用される。これは、単一のセンサによって、人工手の把持を十分に制御できることを意味する。これにより、複雑なプログラマブルマイクロプロセッサが必要となるのを避けることができる。ある好適な例では、手の平ユニットは、一方は手を開くのに用いられ、他方は手を閉じるのに用いられる2つのEMGセンサからの入力に基づいて動作するように構成される。
【0044】
手の平ユニットは、手首コネクタを含み得る。特に、迅速接続型手首コネクタを使用することが好ましい。オットーボック社製の迅速接続型手首コネクタが使用され得る。このタイプの標準型コネクタは、既存の義手ユーザが、本発明の人工手を試すのを容易にすることができる。
【0045】
第2の態様から見ると、本発明は、人工手の指節機構の制御方法であって、指節機構が、人工手の手の平ユニットに回転可能に結合されるように構成された下側指節と、下側指節に回転可能に結合された上側指節と、下側指節を手の平ユニットに対して回転させるために、下側指節に対してモーメントを加えるための下側指節回転機構と、上側指節を下側指節に対して回転させるために、上側指節に対してモーメントを加えるための上側指節回転機構とを備えており、当該方法が、手の平ユニットに設けられた単一のアクチュエータから加えられる力によって、下側指節回転機構及び上側指節回転機構を機械的に駆動するステップと、受けている運動抵抗がより小さい指節に対して優先的に運動を提供するために、下側指節回転機構及び上側指節回転機構によって加えられるモーメントの大きさを、上側指節及び/または下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節するステップとを有し、同一の指における第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも大きい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも小さい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させるようにした方法を提供する。
【0046】
上述した指節機構と同様に、この方法は、手の平ユニットに設けられた単一のアクチュエータにより指節機構に単一の力を加えることによって、適応的把持のために指節を制御することを可能にする。この方法は、第1の態様及びその好適な/任意選択の特徴に関して上述した上記の特徴のいずれかまたは全てを含み得る。
【0047】
必要とされる適応的把持を生成するために、力バランス制御機構は、下側指節回転機構及び上側指節回転機構によって加えられるモーメントの大きさを、上側指節及び/または下側指節の回転に抵抗する外力の大きさにしたがって機械的に調節する。この結果、上記の2つの回転機構は、受けている運動抵抗がより小さい指節に対して、優先的に運動を提供する。このことは、同一の指における第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも大きい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を増加させ、第1の指節が受ける運動抵抗が、第2の指節よりも小さい場合には、第2の指節を回転させるために加えられる力を減少させることにより実現される。第1の指節は上側指節であり、第2の指節は下側指節であり得る。あるいは、その逆であってもよい。
【0048】
上記の制御方法は、第2の指節を回転させるための様々な量の力を伝達するためのクラッチを使用し、クラッチを、第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって、力の量を調節するように制御するステップを含み得る。
【0049】
クラッチを制御するステップは、第1の指節が受ける運動抵抗の大きさにしたがって動作する機械式装置、例えばレバー装置を使用して行われ、好ましくはクラッチとして使用されるバンドブレーキと組み合わせて行われる。
【0050】
本発明の各態様の好適な特徴は、適用可能または適切である限り、本発明の他の態様、及び任意選択で他の態様の好適な特徴と組み合わせることができる。
【0051】
以下、本発明のいくつかの好適な実施形態を、添付図面を参照して、例としてのみ説明する。
【図面の簡単な説明】
【0052】
図1】義手の構成を示す斜視図であり、装飾手袋を除去した状態を示す。また、一本の指は、その内部の詳細が見えるように、部分的に透過的に示されている。
図2図1に示した義手の部分切り取り図であり、中指及び親指用の油圧シリンダを通る断面を示している。
図3】指機構をより詳細に示す図であり、指の適応的動作を生成するためのクラッチシステムを示している。
図4】クラッチシステムの動作の基本原理を示す模式図。
図5】手の平ユニットの斜視図であり、その内部のモータ及び油圧ポンプの詳細が見えるように、外側ハウジングは透過的に示されている。
図6】手の平ユニットを通る部分断面図であり、高圧油圧ポンプ、低圧油圧ポンプ、及び親指用の油圧シリンダに隣接するイコライザを示している。
図7】別の角度から見た、図6と同様の断面図であり、油圧ポンプの圧力チャンネル及び吸込チャンネルが見えるように、油圧ポンプの図示は省略している。
図8】手の平ユニットの油圧アセンブリと、親指以外の指の上側部分及び親指の下側部分とを示す斜視図であり、緊急油圧バルブの位置も示している。
図9】緊急バルブをより詳細に示す図であり、分かり易くするために、油圧サブアセンブリの外側部分は透過的に示されている。
図10】油圧回路図。
図11】人差し指及び中指用の油圧シリンダの断面図。
図12】人差し指及び中指用の油圧シリンダの斜視図。
図13】親指用の油圧シリンダの断面図。
図14】親指用の油圧シリンダの斜視図。
図15】緊急バルブの断面図。
図16】緊急バルブの斜視図。
図17図5及び6に示したイコライザの断面図。
図18図5及び6に示したイコライザの斜視図。
図19図5及び6に示した高圧油圧ポンプ及び低圧油圧ポンプの断面図。
図20図5及び6に示した高圧油圧ポンプ及び低圧油圧ポンプの斜視図。
図21】低圧動作から高圧動作に切り替えるために油流れの方向を変更するための圧力制御バルブの断面図。
図22図21に示した圧力制御バルブの斜視図。
図23】油圧回路内で使用される電磁制御バルブの断面図。
図24図23の電磁制御バルブの斜視図。
図25図8に示した油圧サブアセンブリのための3D印刷された本体部分を示す図。
図26図25に示した本体部分の切り取り図であり、いくつかの油圧接続を示す。
【発明を実施するための形態】
【0053】
好適な実施形態として、添付図面は、本発明に係る義手と、その指を動作させるために使用される機構の様々な特徴を示す。しかしながら、これと同一の機構が、例えば遠隔操作やロボット用途などの他の目的のために、同様に良好に使用できることを理解されたい。加えて、添付図面に示すように、この義手の様々な特徴を組み合わせると特定の利益が得られるが、この義手の様々な要素は単独でも利益が得られることに留意されたい。例えば、本明細書で説明した義指(人工指)の構造、本発明に係る手の平ユニットの特定の構造を有する油圧駆動機構だけでなく、別の駆動機構とともに使用した場合でも利益を提供するであろう。同様に、本明細書で説明した手の平ユニット及び/または油圧回路は、別の指機構とともに使用した場合でも利益を提供するであろう。
【0054】
以下、添付図面をより詳細に参照すると、図1は、手の平ユニット12、親指機構14、人差し指機構16、中指機構18、及び薬指/小指機構18の各指機構(指節機構)を含む義手の斜視図である。図2は、親指14の線に沿って人差し指16及び中指18間で切断した部分断面図である。
【0055】
この例では、義手は、バッテリ及び1または2つの筋電図(EMG)センサとの接続を可能にする、オットーボック(Otto Bock)社製の標準的な迅速連結型の手首ジョイント22を備えている。筋電図(EMG)センサは一般的に、ユーザの脇の下に配置される。当然ながら、必要であれば、別の手首連結システムを使用してもよい。有利なことに、手首ジョイント22のための連結部(継手)は、3D印刷される。この標準的な迅速連結型システム22は、既存の電動義手ユーザが、この義手を試すのを極めて容易にすることができる。
【0056】
人差し指機構16及び中指機構18は非常に類似しており、概して、指のサイズのみが異なる。親指機構14は、人差し指機構16及び中指機構18と類似しているが、親指14が他の指16、18、20に対して90°の角度をなして開くことを可能にする角度でメインケーブル34の方を向いているプーリ/ガイド24をさらに有している。また、当然ながら、親指機構14は、一般的な親指のサイズ及び寸法を正確に模倣するように構成されている。薬指/小指機構20は、中指機構18の第1指節用の機構に弾性的に結合されており、該機構の動作に効率的に従動する。この例では、コイルばねが使用されており、このコイルばねは、手を開くときの薬指及び小指に対する所定の限度内でのばね付勢動作、及び手を閉じる方向への自由な動き(コイルばねの抵抗を受けるが、移動量は制限されない)を可能にするためのブッシングに好適に取り付けられる。
【0057】
ユーザのEMGセンサからの信号を受信するために、マイクロプロセッサ制御装置及びソフトウェアを備えている。これらの制御装置は、手の平ユニット12内の手首ジョイント22の裏側(すなわち、図2では手の平ユニット12の右側)に配置されている。このように構成された義手は、必要であれば単一のセンサ入力だけでも動作可能であり、センサ信号の「強度」だけに基づいて、ユーザにより制御された非常に適応的な把持を実現できることを理解することが重要である(詳細については後述する)。物体の把持に関するユーザのより直感的な動作を可能にする第2のEMGセンサを使用することが好ましい。この場合、一方のセンサは手を閉じる動作を制御するのに使用され、他方のセンサで手を開く動作を制御する。しかしながら、必要であれば、単一のセンサを、事前に決められた信号ととともに使用して、例えば、「ダブルクリック」式の動作によって、手を閉じる動作から手を開く動作に切り替えるようにしてもよい。各指機構14、16、18の構造及び動作のさらなる詳細を、図3及び4を参照して説明する。なお、図3及び4に関連する参照番号は、見やすいように、図1及び2では示していない。図1及び2には、手の平ユニット12の基本部品がさらに詳細に示されている。手の平ユニット12の基本部品には、モータ68を油圧ポンプ(特に図5及び6に詳細に示す)に接続するベルト28、指機構の基部に連結されており手を開形態になるように付勢する指戻しばね30、指メインケーブル34を指油圧シリンダ36に連結する指ピストンコネクタ32、中指用の中指油圧シリンダ36(図2にその断面を示す)、親指用の親指油圧シリンダ38(図2にその断面を示す)、親指ピストンコネクタ40、及び親指戻しばね42が含まれる。これらの様々な部品の動作及び相互作用は、添付図面を参照して下記に詳細に説明する。
【0058】
図3及び4を参照して、指機構(指節機構)について詳細に説明する。まず、人差し指機構16及び中指機構18の両機構と、親指機構14とに、同一の基本機能部品が使用されていることに留意されたい。なお、各指の指機構の基本機能部品の寸法は、各指に求められる寸法を実現するために適切に調節されている。したがって、指及び指関節に関する以下の説明は、各指及び各指関節に等しく当てはまるものとする。
【0059】
以下の説明では、上側指節は、各指の遠位端側(指先側)の指節であり、下側指節は、各指の近位端側(手の平側)の指節である。上側及び下側という用語は、各指機構の他の部品において同様に使用される。この例では、親指機構14、人差し指機構16、及び中指機構18の各々は、2つの指節を有している。なお、以下に説明する指機構を繰り返すことにより、3つの指節を有するように拡張し、これによってより自然な指の動きを実現することも可能である。しかしながら、これは、複雑さが増加するだけで、実現されるユーザビリティ及び把持パターンについては大きな利益は得られないと考えられる。
【0060】
図3は、外側ハウジングを有する指機構を詳細に示す。外側ハウジングは、その内側の指機構を示すために、透過的に示されている。図4は、指機構の一部を模式的に示す。図3及び4において、同一の部品には、同一の参照符号が付されている。
【0061】
下側指節44は、下側回転軸46に沿って設けられたピボットによって、手の平ユニット12(図3及び4では図示しない)に連結されている。指戻しばね30は、下側指節44を開位置に向けて後退(変位)させるために、下側指節44を、下側回転軸46を中心にして回転させるように配置されている。下側指節44の遠位端部は上側指節48に連結されており、上側指節48は、上側回転軸50に沿って設けられたピボットによって、下側指節44に対して回転することができる。指メインケーブル34は、下側回転軸46に設けられた下側プーリ52に結合されている。したがって、指メインケーブル34に張力を加えることにより、下側プーリ52を回転させることができ、これにより、指を閉位置に向けて回転させて、後述する適応的把持(adaptive grip)を実現することができる。図3及び4では、指の回転方向は、反時計方向である。
【0062】
上側指節48及び下側指節44の両方の回転を可能にすることが重要である。有利なことに、このことは、下側指節44及び上側指節48のいずれか一方に加えられた圧力に応答することができる適応的把持を提供するようにして行われる。これは、指機構の各指節間の機械的関係が固定されている従来の様々な構造とは対照的に、上側指節が、下側指節の回転に応じて回転することを必要とする。本発明に係る指機構では、指メインケーブル34は、駆動機構(この例では、指油圧シリンダのピストンコネクタ)により引っ張られたときに下側プーリ52を回転させ、下側プーリ52の回転によって上側プーリ56に接続された第2のケーブル54に張力を加える。上側プーリ56は、上側回転軸50に設けられており、上側プーリ56の回転によって、上側指節48を回転させ(繰り返すが、図中では回転方向は反時計方向である)、閉位置に向けて引っ張ることができるように構成されている。
【0063】
必要とされる適応的把持を実現するために、本発明に係る指機構は、ブレーキ/クラッチ構造体58を使用して、第2のケーブル54に加えられた張力にしたがって、下側プーリ52から下側指節44に伝達される回転力を調節する。ブレーキ/クラッチ構造体58は、一方の指節の動作を停止させて、他方の指節を回転させることができるように、本システム内でのある程度の滑りを許容する。ブレーキ/クラッチ構造体58を介して加えられる力の強さは、各指節に加わる力のバランスに応じて変化する。したがって、上側指節48の閉動作に対する抵抗が小さい場合には、下側指節44を閉じる力を減少させ、上側指節48の閉動作に対する抵抗が大きい場合には、下側指節44を閉じる力を増加させる。ブレーキ/クラッチ構造体58及び各プーリは、上側指節48または下側指節44の閉動作に対する抵抗が存在しない場合には、両指節を同程度の回転運動により引っ張って閉じて、挟み把持(pincer grip)パターンを実現するように構成されている。しかしながら、指機構の一方の指節が抵抗を受けている場合、すなわち一方の指節が被把持物体と接触している場合、一方の指節は動作を停止し、指機構の他方の指節に力が優先的に伝達され、他方の指は同様の抵抗を受けるまで回転を続ける。全ての指節が物体と接触すると圧力は増加し、これにより、把持力が増加する。したがって、本発明に係る指機構は、メインケーブル34に対する張力という形態の単一の駆動入力しか必要としないにも関わらず、上側指節48及び下側指節44間のトルクのバランスを取ることにより、各指機構16、18(同様に、親指機構14)に対して直感的な適応的把持を提供するとともに、フレキシブルさが高い把持パターンを実現することが可能となる。
【0064】
この例では、ブレーキ/クラッチ構造体58は、バンドブレーキである。しかしながら、ブレーキ/クラッチ構造体58として、バンドブレーキの代わりに、クラッチプレートを使用したシステムなどの別の構造を用いてもよいことは明らかであろう。ブレーキ/クラッチ構造体58は、トルクバランス調節機構60に接続されている。このトルクバランス調節機構60は、第2のケーブル54に加わる張力が増加したときに、ブレーキ/クラッチ構造体58によって、下側プーリ52及び下側指節44間で伝達される力を増加させるように構成されている。この例では、トルクバランス調節機構60は、下側回転軸46と下側指節44の本体部とに対して固定されたピボット64に取り付けられたレバーアーム62を含む。このことは、図4に模式的に示されている。レバーアーム62の端部は第2のケーブル54と当接しており、第2のケーブル54は、レバーアーム62の端部のガイド面の周りで向きが変わるようにして、レバーアーム62に架け渡されている。したがって、第2のケーブル54の張力によって、レバーアーム62の端部を押す力が生成される。
【0065】
下側プーリ52がメインケーブル34(図4では図示しない)により引っ張られて反時計方向に回転すると、第2のケーブル54に沿って張力が加えられ、これにより、上側プーリ56も反時計方向に回転にする。上述したように、この回転運動に対する抵抗(運動抵抗)が存在しない場合、ブレーキ/クラッチ構造体58は、下側指節44及び上側指節48の両方を挟み把持パターンが形成されるように回転させる。例えば指先に対してA方向に加えられた接触力によって、上側指節48の動きに対する抵抗が存在する場合、第2のケーブル54の張力は増加する。図4から理解されるように、この張力の増加によってレバーアーム62の端部はB方向に大きな力で押圧され、これにより、レバーアーム62のピボット64の周りにモーメントが加えられる。
【0066】
図3は、レバーアーム62と、ブレーキ/クラッチ構造体58(この例ではバンドブレーキ)との間の接続をさらに詳細に示す。レバーアーム62の動きは、バンドブレーキに加わる力を増加させ、これにより、下側プーリ52及び下側指節44間で伝達される力が増加し、下側指節44が上側指節48に優先して閉じる傾向が生成される。下側指節44の運動に対する抵抗(運動抵抗)も存在する場合、この抵抗が増加すると、メインケーブル34を介して圧力を増加させて最終的には力のバランスを取る。これにより、両指節に圧力を加え、両指節が物体と完全に接触したときの把持力を増加させる。下側指節44の動きに対する抵抗が、上側指節48の動きに対する抵抗よりも小さい場合、ブレーキ/クラッチ構造体58が高い度合いで滑って下側プーリ52及び下側指節44間で比較的低い力が伝達されることにより下側指節44は回転を停止し、一方、上側指節48は回転を継続する。このように、上記した機構は、各指機構14、16、18に対して、必要とされる直感的なかつ適応的な動作を提供する。
【0067】
さらに、この義手により提供される把持パターンの適応性は、例えば図2の断面図及び図10の油圧回路図に示すように、2つの指油圧シリンダ36及び親指油圧シリンダ38が互いに等圧で接続されていることに起因する。この結果、個々の指節が受ける抵抗が個々の指機構の閉じるパターンに影響を与えるだけでなく、個々の指機構14、16、18、20間で抵抗が異なることにより、あらゆる形状の物体を把持するときに、自然な動きで手を閉じることが可能となる。最初の指が(その全ての指節で)物体と接触すると動き及び油圧相互接続が停止する。これは、油圧が増加することなく、油圧流体により、全ての指機構の全ての指節が受ける抵抗が同じになるまで、他の指の指節の動きが継続されることを意味する。全ての指機構の全ての指節が受ける抵抗が同じになると、油圧は増加し、手全体の把持力も増加する。
【0068】
上述したように、指の動きは、本システムの油圧ポンプを駆動する可変速モータを制御する1または2つのEMGセンサにより制御される。油圧回路及びそれの可変速モータとの相互作用の詳細は後述する。各指による把持に関しては、重要なのは、ユーザが、義手を開閉するタイミングを選択することができ、かつ各指の指節が上述したように適応的に把持できることである。そのため、ユーザは、所望の把持を実現するために指の動きを止めることができる。また、ユーザは、各指の動きに抵抗するために、義手を物体に対して配置するかまたは自分の他方の手を使用することができ、これにより、各指で必要とされる把持パターンを形成して義手を閉じることができる。従来のシステムの多くとは異なり、義手で所望の把持パターンを形成するために、EMGセンサの一連の「クリック」を必要とする複雑なコードシステムを必要としない。その代わりに、あらゆる物体を適応的に把持することができ、また、必要に応じて、指節の動きに対して選択的に抵抗を加えることにより、ユーザは義手で所望の把持パターンを形成することができる。
【0069】
各指の動きの速度及び方向は、電動モータの回転速度及び回転方向により制御される。加えられる圧力は、後述するように2つの油圧ポンプ、及び、低圧高容量形態と高圧低容量形態とを自動的に切り替える油圧回路によって制御される。電動モータの回転速度及び回転方向による指の制御は、単一方向に一定速度で回転する電動モータを使用して油圧流体の流れの速度及び方向を制御する「通常(従来)」の油圧系とは異なる。電動モータで油圧アクチュエータの速度及び方向の両方を制御することにより、必要とされるバルブの数を最小限に抑えることができる。これによって油圧システムをよりシンプルにすることができ、この結果、油圧回路を、「通常」の油圧系とは大幅に異なる方法で駆動することが可能となる。このタイプのシステムは、義手に適したシステムである、圧力及び油圧流体の量が比較的低い油圧システムにおいてのみ実現可能であり、油圧が使用される他の分野には適用できないであろう。
【0070】
各指は、油圧系によりロバストに駆動され、かつばね復帰されるので、各指機構を損傷させるリスクを伴うことなく、各指をそれらのニュートラルな位置から変位させることができる。特に、各指はその指機構を損傷させるリスクを伴うことなく、油圧及びばねに抗して動くことにより、ノック及び故意または不慮の衝撃を吸収することができる。これは、指がノックしたときに壊れやすいリードスクリューやウォームギアなどを使用するいくつかの従来技術と比べると非常に有利である。
【0071】
必要とされる強度及び軽さを提供するととともに、必要とされる複雑な形状を実現するために、本デバイスの製造には3D印刷が用いられる。各指の上側指節、下側指節、及び指機構14、16、18のための外側ボディは、手の平ユニット12の構造端部プレートのように、チタンから3D印刷される。手の平ユニット12の本体部分(詳細については後述する)は、この例では、プラスチックから3D印刷される、しかし、手の平ユニット12の本体部分は、アルミニウムやチタンから3D印刷した後に、重量を最大限に削減するべく、調節治具を用いて再加工してもよい(例えば、ハニカム型構造のような空隙を形成することにより)。様々なケーブルは、この例では、鉄鋼製である。
【0072】
図1の義手は、上述した各指の指機構14、16、18の構造から得られる利益を提供するだけでなく、手の平ユニット12及びその内部部品の構造に関する重要かつ有利な特徴をさらに有する。図5−9は、これらの部品のさらなる詳細を示す(詳細については後述する)。図10は、手の平ユニット12の油圧回路図であり、高圧油圧ポンプ及び低圧油圧ポンプの構造と、(とりわけ、「フルイドハンド」型などの完全油圧式の従来のシステムと比べたときの)油圧回路の単純さを示している。図11−16は、本システムの様々な構成要素の詳細を示す。
【0073】
図5に示すように、全ての油圧部品及び電動モータ68は、手の平ユニット12内に完全に内蔵されており、手の平ユニット本体部70内に収容されている(詳細については後述する)。他の部品を収容していない状態の手の平ユニット本体部70が図25に示されており、その手の平ユニット本体部70の切り取り内部図が図26に示されている。上述したように、手の平ユニット本体部70は、プラスチックから3D印刷される。図5では、様々な接続がより詳細に分かるように、手の平ユニット12の構造端部プレート66の図示は省略している。また、同じ理由で、手の平ユニット本体部70は、透過的に示されている。
【0074】
電動モータ68は、手の平ユニット12に沿って(すなわち、手首から指先に向かって)延在するモータ軸を有しており、このモータ軸は、油圧ポンプアセンブリ72を駆動するポンプ駆動シャフトのシャフト軸と平行に延在している。電動モータ68は、手の平ユニット12の手の平ユニット本体部70の外側に配置されたベルト28を介して、油圧ポンプアセンブリ72に接続されており、これにより、組み立て及びメンテナンスのためのアクセスが容易になる。電動モータ68及び油圧ポンプアセンブリ72は、手の平ユニット12における親指の反対側に配置されている。指ピストンコネクタ32及び親指ピストンコネクタ40は油圧シリンダ36、38から延出しており、手の平ユニット本体部70の端部から外側に向かって延びている。油圧シリンダ36、38は、手の平ユニット本体部70の端部から手の平ユニット本体部70の内側に向かって延びており、手の平ユニット12の長さに沿って、モータ軸と平行に延在している。また、図5には、2つの電磁制御バルブ90の端部が示されている。これらの電磁制御バルブ90の詳細については、図10、23、24を参照して後述する。
【0075】
手の平ユニット12の詳細、とりわけ、油圧ポンプアセンブリ72について、またさらに油圧接続通路及び親指油圧シリンダ38の一部については、図6及び7の断面図に見ることができる。油圧ポンプアセンブリ72は、低圧高容量油圧ポンプ74及び高圧低容量油圧ポンプ76の両方を含み、この2つの油圧ポンプ74、76は、電動モータ68で生成された駆動力を同一のシャフト78を介して受け取る。この2つの油圧ポンプ74、76と油圧回路との相互作用は、図10を参照して後述する。シャフト78は、高圧低容量油圧ポンプ76を貫通して低圧高容量油圧ポンプ74まで延在しており、油圧ポンプ74、76の両方を同時に駆動する。油圧ポンプ74、76は機能的には互いに異なるが、製造及び組み立てを容易にするために、共通のシャフトを有する単一のアセンブリとして構成されている。これにより、軽量化及び小型化を実現することができ、この結果、2つの油圧ポンプ74、76を、手の平ユニット本体部70に設けられた単一のポンプチャンバ80内に設置することが可能となる。低圧高容量油圧ポンプ74における、高圧低容量油圧ポンプ76の反対側にはイコライザ92が配置されている。このイコライザ92は、2つの油圧ポンプ74、76ととともに、手の平ユニット本体部70のポンプチャンバ80内に収容される。図17及び18は、イコライザ92の拡大図である。イコライザ92は、ばねにより駆動されて、低圧油圧ポンプ74及び高圧油圧ポンプ76の各吸込側に正の油圧を生成する。イコライザ92は、油圧ポンプ74、76におけるキャビテーションを防止する役割を果たす。また、イコライザ92は、本システムの容量を変化させる恐れがある各指の油圧シリンダ36、38用のシリンダロッドの動きを補償するために、ポンプチャンバ80の利用可能な容量を調節する役割を果たす。
【0076】
図25及び26を再び参照して、手の平ユニット本体部70は、油圧ポンプ及びイコライザを収容するポンプチャンバ80に加えて、親指機構及び他の2つの指機構のための油圧シリンダ36、38を形成する3つの油圧チャンバ36´、38´と、2つの電磁制御バルブ90を受容するための2つの電磁バルブ開口部82と、圧力制御バルブ86(図5では図示しない。詳細については、図21及び22を参照して後述する)を受容するための圧力バルブ開口部84と、電動モータ68を保持するためのモータチャンバ88とを含む。とりわけ、図26の部分切り取り図に、油圧回路が、手の平ユニット本体部70の一体部分としてどのように形成されているかの一例が示されている。様々な油圧チャンバ間の全ての必要とされる相互接続は、単一ユニット内のチャンバ間の通路として形成される。手の平ユニット本体部70を3D印刷で作製することにより、過度の費用をかけずに、この複雑な形状を形成することができる。手の平ユニットでは全ての大きな力は軸方向に作用するので、比較的柔らかいプラスチック材料を使用することができ、また、様々な軸方向要素の間の部分は比較的薄く形成することができる。シリンダ内の油圧流体の圧力は半径方向の力を生成するが、これらの力は略対称的に作用するので、比較的脆弱なプラスチック材料でこれらの力に耐えるためには、円形形状を用いることが効果的である。また、薄く形成された部分は、半径方向の力が存在しない場合でも屈曲に対して脆弱であり得るが、これは、本システムについての特別なリスクではない。また、上記の構成は、全ての油圧回路を単一のハウジング(手の平ユニット本体部)70内に収容することができ、そのため完全な密封が容易であるという利益を提供する。したがって、本発明に係る手の平ユニット12は、油圧駆動を用いる従来の義手と比べて頑丈さが向上するとともに、油漏れのリスクを最小限に抑えることが可能となる。
【0077】
2つの油圧ポンプ74、76の吸込側及び加圧側の両方は、手の平ユニット12の内部に位置し、図10に示す油圧回路を形成する手の平ユニット本体部70を通じて、様々な流路に接続されている。したがって、油(または別の作動流体)は、手の平ユニット本体部70の外部を通ることなく、油圧ポンプ74、76から上記各バルブに送達される。油圧ポンプ74、76の吸込側及び加圧側は、Oリングシールを使用して、外部環境及び全ての油圧系から隔離されている。油圧ポンプ74、76は、このようにして外部環境から隔離されているので、油圧ポンププレート間での油圧シールは必要としない。これは、油漏れは内部だけで生じ、ある程度は無視できるからである。油圧ポンププレートシールの使用が不要となるので小型化することができ、これにより、油圧ポンプアセンブリ72のより迅速かつより安価な製造が可能となる。
【0078】
同様にして、他の油圧部品も、Oリングシールまたは同様のシールによって、外部環境から容易に隔離することができる。これにより、油圧システム全体が非常に頑丈になるととともに、油圧システムの組み立て及び維持が容易になる。油圧シリンダ36、38は、手の平ユニット本体部70の一部として形成されているので、可動部品とともに移動または回転することはない。したがって、油圧シリンダ36、38は、手の平ユニット本体部70内に設けられた固定流路から、油圧流体を受け取ることができる。各油圧部品は、メンテナンスや修理のために、個別に取り外したり交換したりことができる。また、手の平ユニット本体部70により形成された、容易に隔離されたサブアセンブリが存在し、該サブアセンブリは、様々な油圧部品を収容し、任意選択で構造端部プレート66を含む。整形外科の作業場は、院内でメンテナンスすることを選択するか、または、指または手首コネクタを電動モータとともに取り外し、油圧サブアセンブリをメンテナンスまたは修理のために工場に送り返すことを選択することができる。油圧サブアセンブリは、図8に示されている。すでに説明した様々な部品だけでなく、油圧サブアセンブリはまた、緊急バルブを含むことができる。緊急バルブは、図9に詳細に示されており、また、図15及び16に単独で示されている。
【0079】
緊急バルブ94は、ユーザによって制御される機械式バルブであり、何らかの機械的、油圧的、または電気的故障が発生した場合に、本システム内の油圧を開放するために開かれる。この緊急バルブ94は、電磁制御バルブ90をバイパスして、親指シリンダ36及び指シリンダ38の加圧側をイコライザ92に直接的に接続する。戻しばねが存在するため、本発明に係る義手は、緊急バルブが開かれて油圧流体が本システムから放出されたときに、手が開いた形態に自動的に変化することができる。図15及び16は、緊急バルブの詳細を示す。設置及びシールリング100は、手の平ユニット本体部70内の所定の位置に固定され、緊急バルブのメインシャフトは、ユーザが所望したときに本システムから圧力を逃がすために、これらのリング100に対して摺動することができる。
【0080】
図10は、本システムの油圧回路図である。基本的な接続は、上記の説明から明らかであろう。電動モータ68は、高容量の低圧油圧ポンプ74及び低容量の高圧油圧ポンプ76に動力を提供する。これらの油圧ポンプ74、76は、人差し指シリンダ36、中指シリンダ36、及び親指シリンダ38に油圧流体を供給する。人差し指シリンダ36及び中指シリンダ36は各々、ピストン96及びピストンコネクタ32を有する。ピストンコネクタ32は、図面を参照して上述したように、指機構のためのメインケーブル34に結合されている。親指シリンダ38は、ピストン98及びピストンコネクタ40を有する。このピストンコネクタ40も、図面を参照して上述したように、指機構のためのメインケーブル34に結合されている。図11−14は、ピストン98、98及びピストンコネクタ32、40の拡大断面図及び拡大斜視図である。親指のピストン98(及びシリンダ38)の直径は、人差し指・中指のピストン96(及びシリンダ36)の直径よりも若干大きいことに留意されたい。これは、親指と人差し指・中指の2本の指との指先が、挟み把持の形に近づいたときに、親指と人差し指・中指との間の力のバランスを取るためである。シリンダ36、38は、油圧が開放されたときに、すなわち、シリンダの吸込側及び加圧側間でのピストンに加わる油圧差がなくなったときに、本システムが手を開いたときの静止形態(at rest configuration)に戻るように、ばね復帰する。イコライザ92は、上述した機能を有し、油圧ポンプ74、76の吸込側に接続されている。
【0081】
油圧ポンプアセンブリ72の構造が、図19及び20に詳細に示されている。この例では、高圧油圧ポンプ76は、ストレートギアを使用したよりギアポンプであり、低圧油圧ポンプ74は、ヘリカルギアを使用したギアポンプである。ヘリカルギアは、低圧油圧ポンプ74にとって問題となるおそれがある、油圧ポンプから出る音を吸音する。まず、高圧油圧ポンプ76を組み立て、次に、高圧油圧ポンプ76に低圧油圧ポンプ74の軸を連結し、その後、低圧油圧ポンプ74を組み立てる。低圧油圧ポンプ74の軸は高圧油圧ポンプ76の軸に軸方向遊びを有して連結され、これにより、両油圧ポンプに駆動力を伝達する単一のシャフト(駆動シャフトアセンブリ)78が形成される。軸方向遊びは、各油圧ポンプにおける各シャフト部分のギアを軸方向において互いに独立的に保ち、使用中に油圧ポンプアセンブリの高圧部分及び低圧部分が相互作用しないようにするために設けられる。
【0082】
全ての油圧ポンププレートは、大きめの寸法(サイズ)で、例えば、最終的な寸法よりも1mm大きい寸法で製造される。油圧ポンププレートは、油圧ポンプアセンブリ72を形成するために、軸ボルト102で互いに連結される。ギア及びプレート間の公差を最小限に抑えるために、軸ボルト102を固く締め、ギア及びプレートを回転させる。これにより、ギア及びプレート間の遊びを最小限に抑え、内部での油漏れを最小限に抑えることができる。また、これにより、油圧ポンプがシールされていないという事実にも関わらず、油漏れがほとんど生じないことを可能にする。組み立ての完了後、油圧ポンプアセンブリ72は、必要とされる最終サイズに加工され、その後、必要とされるOリングシールが取り付けられる。この製造方法により、油圧ポンプアセンブリ72を常に、手の平ユニット12内のチャンバ80に適合する寸法を有するようにすることができる。これにより、安価で迅速な、かつ油圧ポンプ及び外部環境間の高品質のシールを保証する油圧ポンプの製造方法が提供される。
【0083】
図21及び22は、後述する高圧動作と低圧動作とを切り替えるのに使用される圧力制御バルブ86を示す。一般的に、切り替え圧力は、10〜15bar(バール)、すなわち1000〜1500kPa(キロパスカル)に設定される。切り替え圧力は、スクリュー104によって調節することができる。予め設定された圧力に達すると、圧力制御バルブ86の位置が切り替わり、低圧油圧ポンプ74からの油圧流体は方向が変更される(詳細については後述する)。
【0084】
本システムの他の2つのバルブは、図23及び24に示す電磁制御バルブ90である。これらのバルブ90は、一方向バルブとして動作し、電磁石によって開位置に保持することができる。第1の電磁制御バルブ90は、油圧ポンプ74、76と、人差し指・中指または親指の駆動シリンダ36、38との間に接続され、人差し指・中指または親指が所望の位置に位置しているときに、油圧流体が各指の駆動シリンダ36、38から流出するのを妨げる機能を有する。したがって、この電磁制御バルブは、指ロックバルブ90としての役割を果たし、各指が所望の位置から移動するリスクを伴わずに、電動モータ68を停止させることを可能にする。一方向油圧バルブをこのように使用することにより、電池の寿命を節約することができ、また、所望の指位置または物体把持形態を達成したときに義手からノイズが生じることがない。
【0085】
第2の電磁制御バルブ90は、油圧系の圧力が予め設定された閾値を超えて増加し、圧力制御バルブ86が開いたときに、低圧油圧ポンプ74及び高圧油圧ポンプ76間の流路を閉じる役割を果たす。したがって、この電磁制御バルブ90は、圧力保持バルブ90としての役割を果たす。図10を参照すれば、低圧動作中は、両油圧ポンプ74、76がシリンダ36、38に接続され、これにより、例えば各指が物体の把持を開始して抵抗が生じるまで、低圧高容量油圧ポンプ74によってピストン96、98の素早い動作が実施されることが理解できるであろう。上述したように、適応的把持を提供するための各油圧シリンダの相互接続及び各指の構造は、指節及び指がそれらの各部分の動きに対する抵抗が生じるまで適応的に動くことを意味する。各部分の動きに対する抵抗が生じた場合には、油圧系の圧力が増加し、これにより、手の把持力が増加する。予め定められた閾値に達すると、圧力制御バルブ86が開き、第2の電磁制御バルブ90が閉じる。このとき、高圧油圧ポンプ76が引き継ぎ、把持力をさらに増加させるために、油圧系の圧力は上記の閾値を超えて、例えば、50barすなわち1500kPaまで増加する。低圧動作及び高圧動作のこの組み合わせは、最初に指を低把持力で素早く動作させ、その後に高圧油圧ポンプ76を使用して指の把持力を大幅に増加させることを可能にする。圧力制御バルブ86が開かれた後も、低圧油圧ポンプ74は継続的に動作し、圧力制御バルブ86を通じて油圧流体を単純に再循環させて、低圧油圧ポンプ74の吸込側に戻す。
【0086】
低圧油圧ポンプ74からの油圧流体のこの再循環は、図10を参照することにより容易に理解できるであろう。圧力制御バルブ86が開かれ、第2の電磁制御バルブ90が閉じると、低圧油圧ポンプ74は、図10に示すシステムの下側ループにおいて、圧力を発生させることなく油圧流体を再循環させる。このとき、高圧油圧ポンプ76は、少量・高圧の油圧流体をシリンダ38、36に供給し、これにより、把持力を増加させることができる。
【0087】
また、図10に示すように、緊急バルブ94は、油圧ポンプ74、76の吸込側と、シリンダ36、38との間に配置されている。これにより、何らかの油圧的故障、電気的故障、または他のシステム故障が生じた場合に、シリンダ36、38から圧力を逃がすことが可能となる。
【0088】
上述したように、電動モータ68は、EMGセンサからの信号にしたがって回転速度を変えて駆動することができる。指を開くためには、電動モータ68を逆回転させる。したがって、ユーザは、手を開くときも閉じるときも、指の動きの速度を容易に制御することができる。また、指を開く動作は、シリンダ36、38内に設けられたばね、及び、各指と手の平ユニット12との間に配置された戻しばね30、42によって自然な動きで行われる。指ロックバルブの役割を果たす電磁制御バルブ90の駆動により、指は所定の位置でロックされるので、(上述したようにユーザにより制御された開動作によって)指を開くためには、まず、指のロックを解除し、その後に、指ロックバルブを開状態に保つための小型マイクロプロセッサのルーチンを行う必要がある。まず、高圧油圧ポンプを順方向に駆動して指ロックバルブ90を開き、開いた指ロックバルブ90を電磁石によって開状態に維持する。次に、油圧ポンプを停止させ、その後、高圧動作時に圧力保持バルブとして機能する第2の電磁制御バルブ90を開くために、低圧で再び加圧する。開いた第2の電磁制御バルブ90は、電磁石によって開状態に維持する。両方の電磁制御バルブ90を開いた状態で、手を開くべく、逆方向に回転させた電動モータにより油圧ポンプを制御する。このロック解除動作は、1秒足らずで実施することができ、ユーザが手を開こうとしていることを示すEMGセンサからの信号に応答して、マイクロプロセッサにより制御することができる。基本的に、このプロセスは、ユーザからは見えない。
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