(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846439
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】アタッチメントを備える電気モータ
(51)【国際特許分類】
H02K 5/24 20060101AFI20210315BHJP
B60T 13/74 20060101ALI20210315BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
H02K5/24 A
B60T13/74 G
F16F15/04 A
【請求項の数】7
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2018-557304(P2018-557304)
(86)(22)【出願日】2017年5月2日
(65)【公表番号】特表2019-520015(P2019-520015A)
(43)【公表日】2019年7月11日
(86)【国際出願番号】FR2017051046
(87)【国際公開番号】WO2017191406
(87)【国際公開日】20171109
【審査請求日】2018年12月18日
(31)【優先権主張番号】1654014
(32)【優先日】2016年5月3日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】518382784
【氏名又は名称】フォンダシオン ブレークス フランス エスアーエス
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【弁理士】
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】ブルロン フィリップ
【審査官】
三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
実開平06−031354(JP,U)
【文献】
特開2006−246577(JP,A)
【文献】
特開2009−014146(JP,A)
【文献】
特開2015−044424(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/24
B60T 13/74
F16F 15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒形ケーシング(17)と、ケーシングの周りに伸びるアタッチメント(18)とを備える電気モータ(10)であって、アタッチメントは、円筒形壁部を有し、壁部は、ケーシング(17)から一定の距離をおいて位置する少なくとも1つの金属板(21)を備え、壁部は、更に、壁部の一端から他端へと伸び且つこれら両端のそれぞれにおいて開口しているスロット(19)を備えており、
前記金属板(21)は、第1金属板であり、アタッチメント(18)は、更に、第2金属板(23)を備え、第2金属板(23)は、ケーシング(17)と第1金属板(21;24)との間に位置し、第2金属板(23)は、ケーシング(17)に接触し、且つ、第1金属板(21)から一定の距離をおいて位置しており、
第1(21)及び第2(23)金属板は、材料層(22)によって隔てられ、材料層は、第1(21)及び第2(23)金属板と接触していることを特徴とする電気モータ(10)。
【請求項2】
材料層(22)は、粘弾性物質を備える、請求項1に記載の電気モータ(10)。
【請求項3】
材料層(22)は、エラストマー材を備える、請求項1に記載の電気モータ(10)。
【請求項4】
材料層(22)は、プラスチック材を備える、請求項1に記載の電気モータ(10)。
【請求項5】
金属板(21、23)は、磁性鋼を備える、請求項1に記載の電気モータ(10)。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の電気モータ(10)を備える、自動車用電気ブレーキ装置。
【請求項7】
電気モータ(10)のためのアタッチメント(18)であって、アタッチメント(18)は、円筒形壁部を備え、壁部は、壁部の一端から他端へと伸びるスロット(19)を有し、壁部は、互いに一定の距離をおいて位置する外側金属板(21)と内側金属板(23)とを備え、外側(21)及び内側(23)金属板は、材料層(22)によって隔てられ、材料層は、外側(21)及び内側(23)金属板と接触していることを特徴とするアタッチメント(18)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のブレーキ装置としては2種類のものが知られている。ディスクブレーキ装置においては、自動車の車輪に取り付けられたディスクは、2つのブレーキパッドの間に位置する。使用者がブレーキペダルを押すと、ピストンの作動によって、両側のブレーキパッドがディスクの両面にそれぞれ近づくように動き、これによりディスクに圧力がかかる。その結果、ディスクの回転速度が低減し、それ故、車輪の回転速度が低減する。ドラムブレーキ装置においては、車輪の軸の両側に位置するブレーキシューが互いに遠ざかるように動き、これにより、車輪に取り付けられ且つ車輪と共に回転するドラムの内周部分に圧力がかかる。これらの装置は、手動ブレーキ(「ハンドブレーキ」)又は緊急ブレーキにも使用される。
【0003】
いずれの場合においても、自動車用ブレーキ装置は全て、ブレーキをかける際に作動が必要である。これは、機械的であってもよいが、電気的であってもよく、或いは電気的手段によって支援されるものであってもよい。本発明は、最後の2つのケースに関連する。すなわち、ブレーキをかける際に電気モータの介入を必要とする場合である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
磁気損失を制限するため、及びブレーキ装置用電気モータのケーシングの厚さを増大させるために、スロット付きの金属板が、ケーシングの周りに加えられている。これが無いと、実際、磁気損失により、特にブレーキ装置の他の構成部品に外乱が生じることがある。
【0005】
ブレーキが作動する際に、ブレーキ装置用電気モータから振動が生じ、これによりノイズが生じる。この振動は、取り付けられた金属板に伝達し、次いで、更なるノイズが生じる。ノイズは、自動車の運転者にとって耳障りなものになり得、また、自動車の運転者に自動車ブレーキシステムの信頼性について心配させることにもなりかねない。
【0006】
本発明の目的は、自動車の電気ブレーキ装置のノイズを低減させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のために、本発明は、円筒形ケーシングと、ケーシングの周りに伸びるアタッチメントとを備える電気モータを提供する。アタッチメントは、円筒形壁部を有する。壁部は、ケーシングから一定の距離をおいて位置する少なくとも1つの金属板を備える。
【0008】
このように、この金属板は、ケーシングに対して接触していない。ケーシングと金属板との間のスペースにより、モータからの振動が減衰されており、これにより、発生するノイズが低減されている。加えて、金属板は、磁気損失を低減するという機能を果たし続けている。このように、本発明は、モータから発せられるノイズを低減しながら、磁気損失を低減している。
【0009】
有利には、金属板とケーシングは、空のスペースによって隔てられている。
【0010】
従って、その集合体の重量は、維持されている。
【0011】
好ましくは、アタッチメントは更に、ケーシングと金属板との間に位置する材料(material)層を備える。
【0012】
従って、振動は、ケーシングと金属板との間に位置する材料層の存在によって減衰させられる。
【0013】
有利には、材料層は、金属板と接触している。
【0014】
好ましくは、材料層は、粘弾性物質を備える。
【0015】
従って、振動が更に減衰させられる。
【0016】
有利には、材料層は、エラストマー材を備える。
【0017】
エラストマーは、実際、振動を吸収するのに適している。
【0018】
或いは、材料層は、プラスチック材を備える。
【0019】
一実施形態において、この層に、モータによって発生させられた磁界を伝導するための強磁性粒子が充填される。
【0020】
好ましくは、金属板は第1金属板であり、アタッチメントは更に第2金属板を備える。第2金属板は、ケーシングと第1金属板との間に位置する。第2金属板はケーシングに接触し、第1金属板から一定の距離をおいて位置している。
【0021】
このように、アタッチメントは2つの別個の金属板を備える。これら2つの金属板の間に、スペース又は材料層が存在する。この「サンドイッチ」又は「3層」配置により、モータからの振動が更に良好に吸収され、且つ、モータの運転中、モータによって発せられるノイズが低減させられている。
【0022】
好ましくは、第1及び第2金属板は、材料層によって隔てられ、材料層は、第1及び第2金属板と接触している。
【0023】
このように、上記配置は3つの層を備えている。3つの層とは、ケーシングと接触する金属板、材料層、及びアタッチメントの外側壁部を形成する新たな金属板である。このような配置により、磁気損失を低減し続けながら、振動をかなり減衰させている。加えて、アタッチメントの全厚は、ノイズを明確には低減しない程度の、通常のケーシングに取り付けられた従来のアタッチメントの全厚と同様であってよい。
【0024】
或いは、第1及び第2金属板は、スペースによってのみ隔てられている。
【0025】
有利には、アタッチメントの壁部は、壁部の一端から他端へと伸びるスロットを備える。
【0026】
従ってアタッチメントは、開口しており、そのためアタッチメントは、比較的弾性を持たせて取りつけることによって、電気モータのケーシングのサイズに、ある程度、適合可能である。
【0027】
好ましくは、金属板(単数又は複数)は、磁性鋼を備える。金属板は、軟鉄を備えてもよい。
【0028】
本発明はまた、自動車用の電気ブレーキ装置を提供する。電気ブレーキ装置は、上記モータを備える。
【0029】
最後に、本発明は、電気モータ用のアタッチメントを提供する。アタッチメントは、円筒形壁部を備える。壁部は、壁部の一端から他端へと伸びるスロットを有する。壁部は、互いに一定の距離をおいて位置する外側金属板と内側金属板とを備える。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態による電気モータの斜視図である。
【
図5】
図5は、本発明の第1の実施形態を示す図である。
【
図6】
図6は、本発明の第2の実施形態を示す図である。
【
図7】
図7は、本発明の第3の実施形態を示す図である。
【
図8】
図8は、本発明の第4の実施形態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以降、添付の図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。これらは、例示の為にのみ用いられるべきで、如何なる意味合いにおいても本発明を制限するものではない。
【0032】
図1〜4は、本発明の第1実施形態による自動車用電気ブレーキ装置のための電気モータ10を示している。
【0033】
電気モータ10は、外側ケーシング17と、エンドカバー11と、ステータ構成部品Sと、ロータ構成部品Rとを有する。
【0034】
ステータSは、ピン14と2つの磁石15とを備える。磁石15は、ピン14によって互いに隔てられている円形の断面を有する半円筒形状であり、。ロータRは、回転部材13とブッシュ16とを備える。これらの構成部品は、磁石15の内部に位置する。ロータRは、回転軸Xを中心に回転する。アタッチメント18は、ケーシング17に取り付けられている。以下に、このアタッチメント18と、ケーシング17に対する配置とについて説明する。これらの構成部品は、アタッチメント18を除き、全て、従来知られているものである。この実施形態において、モータ10は、ブラシ、整流子および巻線型回転子を有する12Vの直流電流で動作するモータである。
【0035】
アタッチメント18は、モータの回転軸Xに垂直な平面において円形の外郭を有する、略円筒形状のものである。その外側表面は滑らかである。それは、完全な円筒形ではない。なぜなら、それは、アタッチメントの長手方向の一端から他端に伸びる真っ直ぐなスロット19を有しているからである。このスロットは、アタッチメント18の半径に対し、在る程度の自由度を与えている。アタッチメント18は、実際、モータのケーシング17の周りに伸びている。ケーシングの直径にもよるが、アタッチメント18は、ある程度ケーシングに適合され得る。適合は、このように、より大きいか或いは、より小さい幅のスロット19を用いることで可能となる。
【0036】
図4から分かるように、アタッチメント18は、モータ10のケーシング17に対して押圧されている。
図5は、アタッチメント18・ケーシング17間の配置の模式図である。
【0037】
アタッチメント18は、本実施形態において、3層を備える。従って、アタッチメント18は、第一に、磁性鋼の外側層21を備える。この層は、「金属板」と呼ばれることもある。第二に、エラストマー材の層22がある。最後に、第2の金属板23、すなわち、磁性鋼の別の層があり、今回は内側の層となる。これら3層は、互いに押圧されて、径方向にこの順序で互いに積層されており、その結果、エラストマー層22は、内側23及び外側21の2つの金属板の間に挟まれている。加えて、第2金属板は、ケーシング17上に配置されている為、ケーシング17に接触している。
【0038】
従って、アタッチメント18は、円筒形壁部を有し、特に、ケーシング17から一定の距離をおいて位置する金属板21を備えていることが分かる。
【0039】
従って、モータが作動している時、ケーシング17の内部で発せられる振動は、ケーシング17から金属板23へと伝達される。金属板23は振動の一部を吸収し、残りの振動をエラストマー層22へと伝達する。エラストマー層22は、残りの振動の大部分を吸収する。その後、未だ吸収されていない振動が、外側金属板21へと伝達されて、その大部分が外側金属板21によって吸収される。このようにして、モータによって発せられケーシング17から伝達されたノイズは、大部分が、アタッチメント18及びその3層配置によって抑制される。加えて、このアタッチメント18はまた、磁気損失を低減する。これは、ある意味、ケーシングの厚さを、磁性鋼の2つの層23及び21で増加させることによって成される。これの配置が無いと、磁気損失によって、ブレーキ装置の他の構成部品、又は自動車の他の構成部品に外乱が生じることがある。この点に関しては、スロット19のおかげで、アタッチメントの弾性により、本実施形態の場合、内側金属板23とケーシング17との間に強固な接触がもたらされている。この接触により、ケーシング17からアタッチメント18へと磁界が導かれている。ケーシングとアタッチメントとの間の接触が強いほど、より強い磁界が導かれることとなり、磁気損失がより低減されることとなる。従って、スロット19によって、アタッチメント18が、ケーシング17に対して可能な限り強い力で押圧されることが可能になり、これにより磁気損失が低減させられる。
【0040】
アタッチメント18は、従って、2つの機能を果たしており、すなわち、磁気損失を低減させ且つモータからのノイズを低減させている。
【0041】
以降、本発明の他の実施形態について説明する。これらは、
図6〜
図8に模式的に図示されている。
【0042】
図6のモータ20は、第2の実施形態を成し、回転軸X’を中心にして伸び、且つケーシング17上にアタッチメント28を有する。アタッチメント28は、第1実施形態と同様、2つの金属板24及び25を備える。この実施形態において、これらの金属板は、材料層によってではなく、空のスペース(空気で満たされている)によって隔てられている。これが、第1実施形態との違いである。2つの金属板24及び25は、第1実施形態の金属板21及び23と同様であり、スペーサを形成するリング29によって互いに接合されている。スペース26は、金属板25が、モータ20からの振動を、直接的且つ全体的に金属板24へと伝達することを妨げている。アタッチメントはまた、磁気損失を制限する。
【0043】
図7に示された第3実施形態において、モータ30は、回転軸X’’を中心に伸び、3層ではなく2層の配置を有するアタッチメント38を有する。このように、金属板34は、ケーシング17から一定の距離をおいて位置している。第3実施形態において、金属板34は、スペーサを形成し且つケーシングに直接対向するリング39によってケーシング17に接合されている。この点に関し、第2実施形態のリング29、及びリング39は、2つの円筒形表面間をそれぞれ接合する他の接合手段によって置き換えられてもよい。
【0044】
第4実施形態において、回転軸X’’’を中心に伸びるモータ40に取り付けられたアタッチメント48が、
図8に示されている。アタッチメント48は、2層のみ、すなわち、金属板44とエラストマー材の層42とを備える。エラストマー材の層42は、径方向に、金属板44とケーシングとの間に介在し、金属板44及びケーシングと接触している。再び、アタッチメントは、磁気損失とノイズの両方を低減する。
【0045】
2層のアタッチメント38及び48は、3層のアタッチメント18及び28より、薄く、それ故にモータ環境を妨害することが少ないという点で有利である。しかし、3層のアタッチメント18及び28は、ノイズ低減性能の観点から、信頼度がより高い。
【0046】
いずれの実施形態においても、磁性鋼の代わりに他の材料を用いてもよく、例えば、軟鉄を用いてもよい。エラストマー層は、プラスチック材、ボール紙で代替可能であり、或いはグリースでさえ代替可能である。実際、ノイズを低減させるために、幾つかのタイプの減衰が使用可能である。例として、クーロン減衰及び粘性減衰などが挙げられる。
【0047】
当然ながら、本発明の範囲を逸脱することなく、数多くの変更がなされ得る。
【0048】
従って、3層を越える層を有するアタッチメントが設計可能である。第4実施形態を示す
図8において、アタッチメント48とケーシングとの間にスペースを配置して、新たな3層、すなわち、金属板、材料層、及びスペース(ケーシングに隣接する)の配置を作ることが可能である。従って一般的に、金属板、エラストマー、他の材料、及び空のスペースを用いて、数多くの組合せが可能である。
【0049】
更に、スロット19は、必ずしも真っ直ぐである必要はなく、それは、あらゆる他の形状であってもよい。同様に、本発明によるアタッチメントは、円形以外の外郭を有していてもよく、且つ、滑らかでない表面を有していてもよい。
【0050】
最後に、本発明によるアタッチメントは、あらゆる電気モータで使用可能であり、電気ブレーキ装置のモータの使用に限られるものではない。