特許第6846474号(P6846474)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6846474低圧酸素化を用いた心肺バイパスのためのシステムおよび方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846474
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】低圧酸素化を用いた心肺バイパスのためのシステムおよび方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/36 20060101AFI20210315BHJP
   A61M 1/18 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   A61M1/36 185
   A61M1/18 525
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-139851(P2019-139851)
(22)【出願日】2019年7月30日
(62)【分割の表示】特願2016-517509(P2016-517509)の分割
【原出願日】2014年9月22日
(65)【公開番号】特開2019-177293(P2019-177293A)
(43)【公開日】2019年10月17日
【審査請求日】2019年8月19日
(31)【優先権主張番号】61/881,684
(32)【優先日】2013年9月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】516086495
【氏名又は名称】ギプソン、キース
【氏名又は名称原語表記】GIPSON,Keith
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(74)【代理人】
【識別番号】100142907
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 淳
(72)【発明者】
【氏名】ギプソン、キース
【審査官】 寺川 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−509238(JP,A)
【文献】 米国特許第05591399(US,A)
【文献】 特開2001−346871(JP,A)
【文献】 特表2012−501797(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/36
A61M 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
心肺バイパスのためのシステムであって、
酸素圧力を調節するように構成された圧力調整器を備えた酸素供給源と、
スイープガス入口を介して前記酸素供給源の前記圧力調整器に流体接続された人工肺であって、前記スイープガス入口は前記人工肺に直接接続されるとともに、大気圧より低い圧力を有するように構成され、前記人工肺は血液を酸素化するように構成されている、前記人工肺と、
スイープガス出口を介して前記人工肺に流体接続され、前記大気圧より低い圧力を提供するように構成された真空調圧器と、
前記スイープガス入口に直接接続され、前記酸素供給源から前記人工肺への圧力降下を可能にするように構成された流量制限器と、を備える、システム。
【請求項2】
前記酸素供給源を受容するように構成された流量制御装置をさらに備える、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記流量制御装置と流体連通した気化器をさらに備える、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記気化器は大気圧で動作するように構成されている、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
該システムは、
心肺バイパス貯留槽と、
該システムに圧力を提供するように構成され、前記心肺バイパス貯留槽と流体連通したポンプと、
前記人工肺の血液出口に流体接続され、血液をろ過するように構成された動脈フィルタと、
前記動脈フィルタと前記心肺バイパス貯留槽とに流体接続された患者インターフェースと、をさらに備える、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項6】
前記動脈フィルタはパージラインを介して前記心肺バイパス貯留槽に流体接続される、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記人工肺の血液入口と流体連通した第1EDACサイトと、動脈フィルタ出口と流体連通した第2EDACサイトと、患者インターフェース入口と流体連通した第3EDACサイトとをさらに含む、請求項5または請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記スイープガス出口に流体接続された正圧リリーフ弁をさらに備える、請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項9】
前記流量制限器はニードル弁流量計である、請求項1〜請求項8のいずれか一項に記載のシステム。
【請求項10】
前記人工肺は、密封されたハウジングを備えた膜型人工肺である、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して心肺バイパスのためのシステムおよび方法に関し、より詳細には、ガス状微小塞栓を排除するために低圧酸素化(hypobaric oxygenation)を用いた心肺バイパスのためのシステムおよび方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主に心臓の手術中に、心臓および肺の機能を人工的手段によって一時的に置き換える必要がある。また、より多くの慢性病の状態において、例えば、重篤な肺不全、心不全、または腎不全の間に、移植用臓器が利用可能となるまで、様々な人工的手段によって生命の維持を支えることができる。多くの臨床的状況において、人工臓器が組み込まれた体外循環血液回路が必要である。
【0003】
血液が異物から形成された表面に接触することにより、必然的に血液凝固および血塊の形成が開始される。これは血液凝固阻止薬の使用によって制御される。また、血液中では気泡が形成され易く、その気泡は体外循環中に生物の血液循環内に押し出される。この現象は、キャビテーション、温度勾配、自身の血液と入来する血液との間における溶存ガスの量の差による。心臓手術の場合には、体外循環血液回路は、酸素化だけでなく二酸化炭素の廃棄にも用いられるガス交換装置、すなわち人工肺(oxygenator)を含む。人工肺内における血液とガスとの間の緊密な接触は、不注意による循環血中への気泡の侵入の危険性をさらに高める。
【0004】
現在、心臓手術中に気泡形成を回避するためには、気泡型人工肺(bubble−oxygenators)の代わりに、膜型人工肺(membrane−type oxygenators)を用いて、高い温度勾配を避け、術野での吸引の使用を制御する。人工心肺(Heart−lung machines)は、かん流技師(perfusionist)、すなわち人工心肺を操作する人に対して小さな気泡の出現を警告し、より大きな気泡が出現した場合には主要ポンプを直ちに停止する気泡センサーを含んでいる。典型的には、気泡センサーは、約0.3mmの直径を有する気泡を認識することができ、3〜5mmの直径を有する気泡が認識された場合には主要ポンプを停止する。
【0005】
心臓手術は、しばしば、機能的能力および生活の質を低下させるとともに、医療費を増大させる術後の神経認知機能障害を合併する。この重要な公衆衛生問題の多元的な原因として、ガス状微小塞栓(GME)が含まれる可能性がある。動脈循環は、膜型人工肺および動脈ろ過(arterial filtration)の使用にもかかわらず、心肺バイパス術(CPB)中に何千もの10〜40μmのGMEを受容する。血管閉塞性GMEは組織虚血を引き起こし、脳および他の末端器官において内皮を剥離させ、血管拡張、透過性の増大、血小板および凝固カスケードの活性化、ならびに炎症の補体および細胞メディエータの漸増(recruitment)をもたらす。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
既に形成された気泡を循環から分離するために、多数の技術的解決法が従来技術において存在する。現在のかん流の実施は、一般に、CPB中において軽度に高酸素の血液ガス(mildly hyperoxic blood gases)を目標とする。この目標は、空気による希釈によって人工肺スイープガス中の酸素分圧を低下させることにより達成され、それにより血液中に窒素を溶解させるという不必要な副作用を生ずる。よって溶存ガスで飽和した血液は、GMEとして気泡の形で存在するガスをほとんど溶解させることができない。
【0007】
しかしながら、気泡の発生、すなわち、例えば心臓手術中における気泡の形成を低減する必要もある。血液の気泡において、液気界面には、例えばガスなどの異物との直接接触により変性する、約40〜100オングストローム(すなわち4〜10ナノメートル)のリポタンパク質の深層が存在する。同様に、ポストポンプ期において手術創からの出血を防止するために切実に必要とされる凝固および凝固を促進する因子の付随する不都合な消費(concomitant adverse consumption)を開始するハーゲマン因子が活性化される。
【0008】
従って、体外循環の間に窒素不在下において血液中における気泡形成を抑制することができるシステムおよび方法は望ましいであろう。
【課題を解決するための手段】
【0009】
希釈せずに純酸素スイープガスの圧力を低下させ、それにより窒素不在下において軽度に高酸素の血液ガスを得る低圧酸素化の方法および装置を開示する。このアプローチは、溶存ガスの分圧の合計を大気圧より低いレベル(subatmospheric levels)に低下させ、それによりGMEの水相中への再吸収のために強力な勾配を形成した。インビトロおよびインビボの双方のアプローチを用いて、低圧酸素化を用いたCPB回路からのGMEの排除を特徴づける。前記低圧酸素化はブタにおける拡張した脳毛細血管の低減を伴った。
【0010】
一実施形態において、心肺バイパス用システムは、血液を貯蔵するように構成された心肺バイパス貯留槽と、該システムに圧力を提供するように構成され、前記心肺バイパス貯留槽と流体が流れるように連通(以下「流体連通」と記載)したポンプと、酸素圧力を調節するように構成された圧力調整器を備えた酸素供給源と、スイープガス入口を介して前記酸素供給源の圧力調整器に流体が流れるように接続(以下「流体接続」と記載)された人工肺であって、前記スイープガス入口は大気圧より低い圧力(subatmospheric pressure)を有するように構成され、前記人工肺は血液を酸素化するように構成されている、前記人工肺と、スイープガス出口を介して前記人工肺に流体接続され、大気圧より低い圧力を提供するように構成された真空調圧器と、前記スイープガス入口に流体接続され、前記酸素供給源から前記人工肺への圧力降下を可能にするように構成された流量制限器と、前記人工肺の血液出口と前記心肺バイパス貯留槽とに流体接続された動脈フィルタとを備える。
【0011】
心肺バイパス用システムは、酸素圧力を調節するように構成された圧力調整器を備えた酸素供給源と、スイープガス入口を介して前記酸素供給源の圧力調整器に流体接続された人工肺であって、前記スイープガス入口は大気圧より低い圧力を有するように構成され、前記人工肺は血液を酸素化するように構成されている、前記人工肺と、スイープガス出口を介して前記人工肺に流体接続され、前記大気圧より低い圧力を提供するように構成された真空調圧器と、前記スイープガス入口に流体接続され、前記酸素供給源から前記人工肺への圧力降下を可能にするように構成された流量制限器とを備える。
【0012】
心肺バイパス用システムは、心肺バイパス貯留槽と、該システムに圧力を提供するように構成され、前記心肺バイパス貯留槽と流体連通したポンプと、酸素圧力を調節するように構成された圧力調整器を備えた酸素供給源と、スイープガス入口を介して前記酸素供給源の圧力調整器に流体接続された人工肺であって、前記スイープガス入口は大気圧より低い圧力を有するように構成され、前記人工肺は血液を酸素化するように構成されている、前記人工肺と、スイープガス出口を介して前記人工肺に流体接続され、前記大気圧より低い圧力を提供するように構成された真空調圧器と、前記スイープガス入口に流体接続され、酸素供給源から人工肺への圧力降下を可能にするように構成された流量制限器と、前記血液をろ過するように構成され、前記人工肺の血液出口に流体接続された動脈フィルタと、前記動脈フィルタと前記心肺バイパス貯留槽とに流体接続された患者インターフェースとを備える。
【0013】
心肺バイパス用システムは、酸素圧力を調節するように構成された圧力調整器を備えた酸素供給源と、空気供給源と、前記酸素供給源および空気供給源を受容するように構成された流量制御装置と、前記流量制御装置と流体連通した気化器(vaporizer)と、前記気化器と流体連通しているスイープガス貯留槽と、スイープガス入口を介して前記スイープガス貯留槽の圧力調整器に流体接続された人工肺であって、前記スイープガス入口は大気圧より低い圧力を有するように構成され、前記人工肺は血液を酸素化するように構成されている、前記人工肺と、スイープガス出口を介して前記人工肺に流体接続され、前記大気圧より低い圧力を提供するように構成された真空調圧器と、前記スイープガス入口に流体接続され、前記酸素供給源から前記人工肺への圧力降下を可能にするように構成された流量制限器とを備える。
【0014】
心肺バイパスのための方法であって、真空調圧器を介して人工肺内に大気圧より低い圧力を提供することと、圧力調整器および流量制限器を介して前記人工肺に前記大気圧より低い圧力の酸素を導入することと、前記大気圧より低い圧力の酸素に、酸素化されるべき血液を導入することとを含む。
【0015】
心肺バイパス用システムは、心肺バイパス貯留槽と、該システムに圧力を提供するように構成され、前記心肺バイパス貯留槽と流体連通したポンプと、酸素圧力を調節するように構成された圧力調整器を備えた酸素供給源と、スイープガス入口を介して前記酸素供給源の圧力調整器に流体接続され、前記心肺バイパス貯留槽から血液を受容するように構成された人工肺であって、前記スイープガス入口は大気圧より低い圧力を有するように構成され、前記人工肺は前記血液を酸素化するように構成されている、前記人工肺と、前記人工肺の血液出口と流体連通している患者側貯留槽と、該システムに圧力を付加的に提供するように構成され、前記患者側貯留槽と流体連通した第2ポンプと、前記血液中に二酸化炭素を導入し、かつ前記血液から酸素を除去するように構成され、前記心肺バイパス貯留槽に流体接続されている患者模擬装置とを備える。
【0016】
本明細書に組み込まれ、その一部を形成する添付図面は、本開示のいくつかの態様を具体化し、発明の説明と共に、本開示の原理について説明する役目を果たす。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A】低圧酸素化装置の実施形態の概略図。
図1B】インビトロのガス交換回路の実施形態の概略図。
図1C】酸素化とスイープガス圧力との関係を示す、O分圧(ミリメートル水銀柱、mmHg)対スイープガス圧力(気圧、ata)のチャートを示す図。
図1D】二酸化炭素除去とスイープガス圧力との関係を示す、CO分圧(ミリメートル水銀柱、mmHg)対スイープガス圧力(全周囲圧力、ata)のチャートを示す図。
図2A】単一人工肺CPB回路構成の実施形態の概略図。
図2B】スイープガス圧力が変更された場合のドップラー信号と時間との関係を示すドップラー信号(任意単位)対時間(秒)のチャートを示す図。
図2C】スイープガス圧力が変更された場合の動脈フィルタの上流におけるドップラー信号と時間との関係を示すドップラー信号(任意単位)対時間(秒)のチャートを示す図。
図2D】スイープガス圧力が変更された場合の動脈フィルタの下流におけるドップラー信号と時間との関係を示すドップラー信号(任意単位)対時間(秒)のチャートを示す図。
図3A】塞栓検知および分類(EDAC)監視装置、並びにドップラー監視装置を備えたCPB回路の実施形態の概略図。
図3B】EDACのGME計数を示す、1分間当たりのガス状微小塞栓対ガス状微小塞栓の大きさ(マイクロメートル)の一連のヒストグラムを示す図。
図4A】厚さ4μmのヘマトキシリン・エオシンの10倍顕微鏡写真。
図4B】拡張毛細血管と低圧酸素化との関係を示す拡張毛細血管のチャートを示す図。
図4C】毛細血管面積と低圧酸素化との関係を示す、毛細血管面積(平方マイクロメートル)のチャートを示す図。
図4D】毛細血管の直径に対する拡張毛細血管と低圧酸素化との関係を示す拡張毛細血管対毛細血管径(マイクロメートル、μm)のチャートを示す図。
図5A】CPBの開始前(ベースライン)、次いで低圧酸素化によるCPBの2時間後および4時間後に得られた血液の顕微鏡写真標本を示す図。
図5B】ヘマトキシリン・エオシン染色し、パラフィン埋設した大脳皮質に由来する厚さ4μmの切片の顕微鏡写真標本を示す図。
図5C】海馬領域CA1の顕微鏡写真標本を示す図。
図5D】腎皮質の顕微鏡写真標本を示す図。
図6】例示的な実施形態による低圧酸素化の方法の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下の開示は、心肺バイパスのための方法およびシステムを提供する特定の実施形態について詳述する。本願において用いる機構および方法の概要を提供する。
低圧酸素化は、窒素を用いることなく、所望の血液ガスを得るために、人工肺のガス対血液Oの拡散勾配を制御する。結果として生じた溶解した血液ガスの減少は、GMEの水溶性の再吸収(aqueous reabsorption)を支持し、CPB回路の全体にわたって観察されるGMEの除去の向上をもたらす。GMEに対して観察された効果の大きさは、不飽和水溶液中における空気微粒子の公開されている動力学と一致していると思われる。注目すべきことに、血液ガスの不飽和は脱窒素のみよりも重要である。インビトロのデータは、脱窒素された基準気圧の酸素制御条件と、脱窒素された低圧酸素化条件または不飽和状態の低圧酸素化条件との間に差異を示す。人工肺の中空糸内における大気中より低い圧力の付加的な物理効果は、より遠位部位におけるGME除去ではなく、人工肺のGME除去に寄与し得る。
【0019】
低圧酸素化のGMEに対する有益な効果は患者内へ血液が流れるときにも継続するので、付加的な利点は、開胸処置中に術野から動脈循環内に混入される空気に対して実現され得る。低圧酸素化はまた、拍動流、遠心ポンプキャビテーション、および真空支援静脈ドレナージ中のガス放出、または急速な温度変化によるガス放出によるGMEの送達の増大についての懸念を改善するはずである。
【0020】
低圧酸素化によって管理された動物における脳微小血管の損傷の低減は、CPB後の末端器官機能の向上を示唆する。低圧酸素化は実際にGMEの送達を排除したが、毛細血管の拡張はある程度だけ低減された。動物のヘマトクリットを維持するために用いられる、再利用された縦隔流出血(mediastinal shed blood)はまた、脂質塞栓(lipid embolization)を増大することがあり、低圧条件において見られる残留微小血管損傷の原因となることがある。
【0021】
低圧酸素化は、CPB回路のプライミングボリューム、物質組成、または使い易さを変えることはない。かん流技師は、スイープガス酸素含有量の調整ではなく、純酸素スイープガスの圧力を調整することによってPaOを制御し、一方、PaCOは依然としてスイープガス流量の変更により調整される。麻酔薬蒸気の分圧もスイープガス圧力に比例して低減されるので、十分な麻酔を保証するためには麻酔濃度の調整が必要となるであろう。人工肺ハウジングは大気中より低い圧力を印加するために密閉されなければならないので、スイープガス出口の閉塞または真空障害の場合に、著しい空気塞栓を防止するために適当な圧力リリーフシステムが存在しなければならない。過度に負圧のスイープガス圧力の適用はヘモグロビンの不飽和化を生じることがあり、その解決策は、スイープガス圧力を増大するか、真空供給源を遮断することであろう。低圧酸素化は、CPB回路において、動脈ろ過の代わりではなく、動脈ろ過とともに使用されるべきである。他の利点の中でもとりわけ、動脈ろ過は、GMEの大きさを縮小することにより、表面積対体積比(surface−to−volume ratio)を増大させ、低圧酸素化の条件下で急速な再吸収を促進する。
【0022】
ここで図面を参照すると、開示の全体にわたって同一の要素を参照するために同一の参照番号を用いている。
図1A図1Dはインビトロの低圧酸素化に関する。図1Aは低圧酸素化装置(hypobaric oxygenation apparatus)を表している。密封されたハウジングを有する標準的な中空糸微孔性膜型人工肺(hollow fiber microporous membrane oxygenator)のスイープガス入口には純酸素が供給される。これに代わって、人工肺は微小孔を含まなくてもよい。人工肺のハウジングは、通気口をエポキシパテで物理的に閉塞することを含む、市販の人工肺ハウジングの通気口を物理的に閉塞することにより密閉され得る。同様に、密封された人工肺用ハウジングを得るために、いかなる適当な方法を用いてもよい。スイープガス出口にある調節された真空供給源は、血液の酸素化のために分圧勾配を調節するために、使用者により決定される圧力であって変更可能な大気圧より低い圧力をスイープガス隔室に印加する。真空計は適用される圧力を測定し、一方、正圧リリーフ弁(PPR)は正圧の生成を防止する。スイープガス入口にある流量計、例えばニードル弁流量計は、周囲圧から大気圧より低い圧力への圧力降下を可能にするとともに、スイープガス流量を調節し、よってCO除去を調節する。
【0023】
図1Bはインビトロのガス交換回路を指す。CPB貯留槽からのヒト赤血球(RBC)、新鮮凍結血漿(FFP)および最小限の晶質(Hct、〜30%)の混合物は、CPB人工肺(37°C)にポンプ輸送される(3.5リットル/分)。CPB人工肺では変更可能な大気圧より低い圧力で純酸素スイープガスによって酸素化が行われる。次に、前記血液は、貯留槽、ポンプ、および人工肺からなる患者模擬装置内に入る。前記人工肺は、Oを除去し、純COスイープガスを非常に低圧(1リットル/分、0.1ata)で用いてCOを付加する。血液ガスをCPB人工肺(動脈)および患者模擬装置(静脈、1条件当たりn=3試料)の下流で試料採取した。模擬患者は正常な静脈血ガス値を生じた。
【0024】
人工肺出口における血圧に対するスイープガス圧力の効果を評価するために、周囲圧力、0.5気圧(ata)および0.1ata(1条件当たりn=14回試験)のスイープガス圧力においてペア測定を実施した。血圧は、復調器(バリダイン コーポレーション(Validyne Corporation)、カリフォルニア州ノースリッジ)に接続された圧力変換器(アイシーユー メディカル(ICU Medical)、カリフォルニア州サンクレメンテ)を用いて測定した。前記復調器の電圧出力は、水柱に対して較正し、デジタル化して(DI−145)、ウィンダック(Windaq)ソフトウェア(データキュー インスツルメンツ(DATAQ Instruments)、オハイオ州アクロン)を用いて記録した。
【0025】
図1Cおよび図1Dは、CPB人工肺において大気圧より低いスイープガス圧力を適用したことにより、動脈の酸素化が、CO除去とは無関係に、予測された直線的な様で低減されたことを示している。
【0026】
図2A図2Dは、さらにインビトロの低圧酸素化に関する。具体的には、低圧酸素化はインビトロにおけるGMEの除去を非常に高める。図2Aは、動脈フィルタおよび貯留槽に戻るパージラインを備えた単一人工肺CPB回路構成を示している。空気の導入およびドップラーGME監視の位置が示されている。矢印は、血流の方向を示す(5リットル/分、37°C)。ドップラー信号は、カスタムアナログ包絡線検波器を介して処理され、次いでデジタル化され、上記のように記録された。
【0027】
図2Bは、大気圧より低い圧力のスイープガスの関係および有効性を示すチャートである。10mLの血液中において(2つの12mLシリンジと1つの三方活栓を用いて)手で撹拌した小さな(〜20μl)気泡を人工肺の上流に注入した。塞栓は人工肺を横断し、動脈フィルタの近位で検出された。わずかに大気圧より低いスイープガス圧力の適用は、GMEドップラー信号を強く減衰させた。データは1条件当たり9〜10回試験の平均である。
【0028】
図2Cおよび図2Dは、さらに動脈フィルタの前後における大気圧より低い圧力のスイープガスの関係および有効性を示している。貯留槽入口の静脈ライン中への空気の連続的な混入(entrainment)(ルアーコネクターを介して500mL/分)は、大きく連続的な塞栓の問題を模擬した。周囲スイープガス圧力では、動脈フィルタの上流および下流において強力なドップラー信号が観察された。低圧酸素化は、双方の位置においてドップラー信号の大幅な用量依存性の低下をもたらした。データは、列記した圧力レベルのそれぞれについて2分間のステップを用いた、3回の連続した試験の平均である。
【0029】
図3Aおよび図3Bはインビボにおける低圧酸素化に関する。具体的には、低圧酸素化はインビボにおいてGMEの送達をほとんど排除する。図3Aは、EDAC監視装置およびドップラー監視装置と静脈空気混入サイト(200mL/分)とを備えたCPB回路を示す。
【0030】
図3Bは、対照条件(周囲圧力のO/空気スイープガス)および低圧条件(大気圧より低い圧力のOスイープガス)の双方のための4つの監視サイトにおけるEDACのGME計数および大きさを表すヒストグラムを示している。対照条件下では、〜4500GME/分が患者に送達された。低圧条件下では、GME計数および体積は、人工肺の前(preoxygenator)の位置では対照と同様であったが、それらがCPB回路を通り抜けるにつれ、漸進的に排除され、この大きな塞栓の投入量(embolic load)の間にGMEの送達はわずか2/分に低減した。
【0031】
図4A図4Dは、低圧酸素化によって管理された動物に関する。具体的には、低圧酸素化によって管理された動物は、大脳白質における微小血管損傷の低減を示す。
図4Aは、厚さ4μmのヘマトキシリン・エオシン染色した脳室周囲白質の切片の10倍(10X)の顕微鏡写真を示す。拡張した毛細血管は、内皮細胞の単一層によって取り囲まれた空隙(白)として見える。スケールバー=100μm。
【0032】
図4Bおよび図4Cは、低圧酸素化を用いて管理された動物において、拡張した毛細血管が数および面積でわずかだったことを示している(対照:n=30 10倍視野(10X−fields)、N=3匹の動物。低圧:n=51 視野、N=5匹の動物。*=p<0.001)。
【0033】
さらに、図4Dは、結果が測定基準のアーチファクトではないことを保証するために、条件間における拡張した毛細血管の数の差が、検討したすべての大きさにおいて存在したことを示している。
【0034】
図6は、CPBシステムの他の実施形態の概略図を表している。酸素および空気の少なくとも一方は、例えば、吸気酸素(F)の体積分率を制御するために、供給される酸素の圧力を制御するように構成された圧力調整器を装備した酸素供給源から、ガスブレンダ1を備えた入口において導入され得る。流れは流量制御装置2によって制御される。流量制御装置は、例えばニードル弁流量調整器とすることができる。気化器3、負圧警報器4、スイープガス貯留槽5、圧力計6、および圧力リリーフ7はすべて、周囲圧力またはその近傍の圧力で動作する。圧力リリーフ7は、圧力が50mmHgを超えた場合に、スイープガス貯留槽5の圧力を解放するように構成されていてもよい。スイープガス貯留槽5は、酸素化プロセスにおいて用いられるスイープガスを周囲圧力で貯蔵する。スイープガス貯留槽5は弾性を有してもよい。流量制限器8は、スイープガス(酸素)の人工肺9への流れを制限する。真空供給源14によって与えられた真空により、人工肺9は低圧を経験する。真空供給源14は真空調圧器13によって調節され、真空計11によって測定される。障害の場合には、手動開放弁12が用いられてもよい。大気圧より低い圧力が得られない場合には、正圧リリーフ10および正圧警報器が用いられてもよい。圧力リリーフ10は、圧力が0〜15mmHgの所与の範囲を超える場合に、圧力を解放してもよい。流量制限器8、人工肺9、圧力リリーフ10、真空計11、手動開放部12、真空調圧器13、および真空供給源14は、大気圧より低い圧力に保持される。
【0035】
さらに、コントロールパネルは、F、スイープ流量、真空レベル、および所望の麻酔濃度を制御するために用いられてもよい。さらに、コントロールパネルは、実測値(actual values)、警報、ブレンダ制御および流量制御の少なくとも一方、および麻酔補償(anesthetic compensation)を出力することができる。スイープ流量は、流量制御装置2を所望の流量に開放し、次いでスイープガス貯留槽5内の定圧を維持するように流量制限器8を調整する。好ましくは、この圧力は、少なくとも一実施形態において、わずかに大気圧より高くてもよく、20mmHgであってもよい。コントロールパネルは圧力計6を監視することができる。コントロールパネルは、真空計11を監視し、それに応じて真空調圧器13を調節することによって、真空レベルを調節することができる。
【0036】
さらに、システムにおける所望の麻酔濃度を、様々な動作モードおよび制御方法により制御することができる。本願ではいくつかの方法が企図されるが、所望の麻酔濃度は、いかなる適当な方法によって得られてもよい。第1に、前記調節は、各種の真空レベルについて、気化器3上の気化器ノブを割り出しすることによって行われてもよい。前記気化器ノブにおいて、かん流技師はレベルを適切に調節する。第2に、前記調節は、真空計11の読取り値に基づいて行われてもよく、よって気化器3のバイパス比を調節する。第3に、スイープガス貯留槽5および気化器3は、気化器のアウトプットを増大するために、大気圧より低い圧力に晒されてもよく、前記大気圧より低い圧力は真空計11の読取り値に基づいて調節されてもよい。最後に、気化器は、好ましくは4〜8%の範囲にわたるが、これに限定されない特定の所定アウトプットに設定されてもよい。その場合、アウトプットは気化器3とスイープガス貯留槽5との間で新鮮なO供給源と混合される。
【実施例】
【0037】
8頭の若いブタを検討した。麻酔の導入は、筋肉中にアセプロマジン(1.1mg/kg)、グリコピロレート(0.01mg/kg)およびケタミン(33mg/kg)を用い、その後、心電図の記録およびパルス酸素測定を行いながら、3%イソフルラン吸入を行った。フェンタニル(5mLの通常生理食塩溶液中に50mcg)を20ゲージのマルチオリフィスカテーテルによって腰椎髄液中に投与した。気管挿管および耳静脈カニューレ挿入後に、70%のO/30%のNのイソフルランによる維持を行い、そして血行動態によって保証される場合には、50mcgの脊椎へのフェンタニルの追加を行った。胸骨正中切開後、中心動脈圧カテーテルを配置し、ACT>350秒(ヘモクロン レスポンス、インターナショナル テクニジン コーポレーション(International Technidyne Corporation)、ニュージャージー州エジソン)を達成して維持するために、ヘパリンを静脈投与した(administered IV)。20フレンチの大動脈CPBカニューレおよび28〜30フレンチの両大静脈(bicaval)CPBカニューレ(メドトロニック インコーポレーテッド(Medtronic Incorporated)、ミネソタ州ミネアポリス)を配置した。
【0038】
動物を対照または単一人工肺のろ過CPB回路(図3A)を用いた低圧酸素化にアプリオリに割り当てた。M3検出器(スペクトラム メディカル(Spectrum Medical)、英国チェルテナム)は、流量および動脈/静脈のO飽和度(SaO/SvO)を連続的に監視した。PaOは、スイープガス酸素/空気混合物(対照条件、N=3頭の動物)を変更することにより、または100%Oスイープガス(低圧酸素化、N=5頭の動物)に変更可能な大気圧より低い圧力を印加することにより、調節した(目標=200mmHg)。PaCO(目標=45mmHg)は、各条件においてスイープガス流量を変更することにより調節した。低圧条件において、イソフルランの予測分圧は、気化器のダイアル設定を所望の濃度およびスイープガス圧力の少なくとも一方と等しくなるように増大することにより維持した(例えば、1%のイソフルランが周囲圧力で用いられた場合、等しい催眠効果を得るためには、前記設定は、0.66絶対気圧(ata)では1.5%に、0.5ataでは2%に増大される必要があるであろう)。CPB流量は、SvO>60%を維持するように調節され、フェニレフリンの間欠投与(intermittent phenylephrine)により、動脈圧(MAP)>50mmHgを維持した。貯留槽の容積は250〜500mlであった。動物の低い開始ヘマトクリットを保つために、縦隔流出血は、1/4インチのローラポンプ回路を介して貯留槽の吸引回路(cardiotomy section)に戻した。真空支援静脈ドレナージを用いた(−10mmHg)。受動的冷却は34°Cになった。
【0039】
CPBの実施全体にわたって空気を(貯留槽入口の静脈ラインのルアーコネクターを介して)連続的に混入した(200mL/分、図3A)。単一サイトドップラーは、8つの実験すべてにおいてGMEを半定量的に監視した。テルモのFDAによって承認された塞栓検知および分類(Emboli Detection and Classification:EDAC(商標))は、人工肺の前、フィルタの直後(immediately postfilter)、および人工肺の後(N=3頭の動物)またはフィルタの6フィート後(N=3)の位置における、同時に3サイトでの超音波後方散乱によるGMEの定量化(simultaneous 3−site ultrasound backscatter GME quantification)のための8つの実験中6つにおいて利用可能であった。GMEデータは、CPBの条件(例えば流量、貯留槽体積、スイープガス組成または圧力)の変化によって分離された10〜120分の継続時間の試験において取得された。低圧酸素化の簡易試験を、対照条件で別様に管理された3頭の動物のうちの2頭において実施した。よって、低圧データは、ドップラーについてN=7/8頭の動物、およびEDACについてN=5/6頭の動物に由来し、一方、すべての対照データはN=3頭の動物(結果に記載した試験の数(n))に由来する。CPBパラメータは、おそらくCPB回路の下流の動物よりも、微小塞栓のより大きな決定因子であり、GMEデータ試験は統計分析のための独立観測であると見なされた。
【0040】
血液試料をCPBの前に採取し、次にその試料をCPBの2時間後および4時間後に、RBC形態学および血漿ヘモグロビンについて分析した。末端器官は、摘出する前にCPB回路を介して中性緩衝ホルマリン(10%、3リットル、5分間)で固定した。
【0041】
パラフィンに埋設した、前頭葉、視床、後部せん体(caudal lobe)、中脳、小脳、髄質、および腎皮質からの4μmのヘマトキシリン・エオシン切片を獣医病理学者が細胞構築完全性について微視的に評価した。次に、拡張した毛細血管(>10μm直径)の盲目定量化を側脳室および上衣下層に隣接した白質(脳室周囲白質、動物当たり 〜10 10倍視野(〜10 10X fields per animal))において実施した。組織効果の予想される異種混合の性質および事後の微小血管解析の調査の性質により、発明者らは微小血管損傷に関して各視野を独立したデータポイントとして扱った。
【0042】
データは平均±標準誤差(SEM)として示される。連続変数を両側スチューデントのt検定(two−tailed Student’s t−tests)(P<0.05で有意)を用いて比較した。線形適合はプリズム(グラフパッド ソフトウェア(GraphPad Software)、カリフォルニア州ラ・ホーヤ)を用いて実施した。量依存性はスピアマンの順位相関係数(Spearman’s Rank Correlation Coefficient)を用いて評価した。GMEデータ試験および組織標本は、統計分析のための独立した観測として扱われた。
【0043】
インビトロのガス交換:血中溶存ガスの低減
【0044】
【表1】
低圧酸素化(図1A)をCPB(図1B)において模擬患者と共に用いて、窒素不在下における酸素化および血液からのCO除去に対する大気圧より低いスイープガス圧力の効果を評価した。予想通りに、純酸素スイープガスの圧力を低下させることにより、PaOが滑らかな直線状で低下した(表1、図1C、R2=0.99)。対照的に、PaCOは、スイープガス圧力が低下するのに伴って概して安定しており、印加した最低圧力ではCO除去の効率はおそらく増大した(表1、図1D)。実際、CO除去は、実験では、スイープガス流量を調節することにより、酸素化とは独立して容易に管理された。低圧酸素化は、質量分光法を用いて、血液中溶存窒素を85.4±0.7%低減することが確認された(n=3回試験、p<0.001、脱窒素は過小評価された可能性あり、補足情報を参照されたい)。人工肺またはガス交換における有害作用はいかなる実験においても観察されなかった。模擬した真空障害の間に、正圧リリーフ弁は成功裡に空気塞栓を防止した(データ図示せず)。全体として、これらのデータは、低圧酸素化が、溶存ガスの分圧の合計を大気圧より低いレベルに低下させる、CPB中のガス交換を管理するための信頼できる効率的な方法であることを示している。
【0045】
インビトロにおけるGME:用量依存的除去
次に、低圧酸素化がCPB回路におけるGMEの除去を改善するかについて試験した。まず、人工肺の上流にGMEボーラスを注入した(図2A)。人工肺が周囲圧力で100%酸素スイープガスを用いた場合には、強い下流ドップラー信号が観察された(図2B)。スイープガス圧力を0.9ataにわずかに低下させると、ドップラー信号は対照から94.8±1.0%低下し(曲線下面積、範囲90.9〜98.3%、n=9回試験、p<0.001)、一方、0.8ataでは、前記信号は辛うじて識別可能であった(対照から99.6±0.07%低下、範囲99.3〜99.8%、n=10回試験、p<0.001)。次に、空気混入は大きな進行中の塞栓の送入を模擬した。スイープガス圧力を低下させることにより、再び、動脈フィルタの前で測定したドップラー信号の大幅な用量依存的低下が生じた(図2C、スイープガス圧力が0.9ataであった場合には26±3%低下、0.8ataでは66±2%、0.7ataでは83±2%、0.6ataでは91±0.2%、0.5ataでは95±2%、0.4ataでは98±1%低下、スピアマンの順位相関係数ρ=1.0、n=3回連続試験)。ドップラーを動脈フィルタの下流に移動した場合には、実質的な塞栓信号は、動脈ろ過(前置ろ過器ベースライン信号、図2Dの81±3%)を使用したにもかかわらず、基準気圧条件下で存続した。下流信号は、スイープガス圧力の低減によって、さらに効率的に低下した(0.9ataではフィルタ後のベースラインの53±4%、0.8ataでは83±2%、0.7ataでは94±1%、0.6ataでは99±0.3%、0.5ataでは99.5±0.1%、および0.4ataでは99.7±0.1%低下、ρ=1.0、n=3回連続試験)。全体として、これらのデータは、低圧酸素化の使用により、CPB回路の循環血からGMEを除去する能力が用量依存的に高められることを示している。
【0046】
ブタCPB:大動物の安全性の維持
【0047】
【表2】
動物、人工肺またはCPBの回路において注意される悪影響を有さず、安定し、容易に調整可能なガス交換パラメータによって、低圧酸素化を用いた40kgのブタにおけるCPBを特徴づけた。動物の特性およびCPB管理データは表2に記載する。とりわけ、窒素による希釈を用いる(F=68.3±1.7%で制御)か、または真空(低圧条件において圧力=0.66±0.03ata)を用いて、スイープガス中の酸素分圧を低下させることにより、同様のPaO値が生じ、これは低圧酸素化が人工肺のガス交換効率を保つことを示唆している。対照動物におけるCO分圧のわずかな増大は、真空不在下でのわずかに低いスイープガス流量によるものであった。全体として、低圧酸素化は、CPB中に大動物を管理するための信頼できる実用的方法であった。
【0048】
ブタGME:CPBの回路における漸進的な排除
連続した空気混入の間に、単一部位の半定量的ドップラーおよび多部位の定量的EDACは、CPB回路(図3A)内のGMEを検知した。データは、総数N=8頭のブタにおいて、CPBパラメータの変化によって分けられたれた個々の試験(n)において収集された。低圧酸素化は、大動脈カニューレ付近におけるドップラー信号を、対照(n=7、N=3)と比較して、99.1±0.3%(範囲95.8〜100%、n=16回試験、N=7頭のブタ)低下させた。低圧(N=5頭のブタ)条件および対照(N=3)条件からのEDACデータを図3Bに示す。人工肺の近位側では、EDACのGME計数および体積は、低圧(n=10回試験およびp>0.29)と対照(n=7)とでは同様であった。人工肺より下流では、低圧条件のGME数は、対照と比較して、大幅に低減され、人工肺後の位置では68.4±14.1%(範囲13.1〜91.3%、n=5、p<0.05)、動脈フィルタ後の位置では92.6±4.2%(範囲57.8〜99.8%、n=10、p<0.01)、患者に進入する位置では99.96±0.02%(範囲99.87〜99.99%、n=5、p<0.001)低減された。GME体積もまた、人工肺後の位置では80.5±5.6%(62.2〜95.6%、n=5、p<0.05)、フィルタ後の位置では94.9±2.9%(範囲74.3〜99.8%、n=10、p<0.01)、患者に進入する位置では99.97±0.01%(範囲99.94〜100%、n=5、p<0.001)減少した。対照試験は、これらの各位置において、n=3、7、および4であった。これらのデータは、低圧酸素化がインビボにおけるCPB回路からのGMEの除去を強力に高めることを示している。さらに、前記データは、GMEの除去が高められた部位が、血液が患者に向かって流れるにつれ、人工肺から動脈フィルタ、そして血液自体へと漸進的に広がっていることを示している。重要なことには、患者に最も接近して取得されたデータは、上流における塞栓の送入量が大きいにもかかわらず、動脈ろ過および低圧酸素化の併用によりCPB回路からのGMEの送達のほぼ完全な排除を示している。
【0049】
ブタ組織解析:低減された微小血管損傷を有した正常組織学
図5A図5Dは、低圧酸素化によって管理された動物からの末梢血、脳および腎臓の顕微鏡による評価を示す(スケールバー=100μm)。具体的には、これらの図は正常な細胞構造を示した。
【0050】
当業者は、窒素を含有しないスイープガスを任意の圧力で用いた人工肺はN除去のために最大の勾配を生じ、それによりたとえ血液中の残留OおよびCOの分圧の合計が周囲圧力未満となったとしても、前記人工肺を通って流れる血液を脱窒素すると期待するであろう。しかしながら、気泡を血液相中へ再吸収させるための提唱されている機構は、溶存ガスの分圧の合計を低減させることに極めて依存するので、N分圧が低圧酸素化中に実際に低減されることを実験的に確認することが最適であった。N分圧は標準的な血液ガス分析によって測定されないので、質量分析法を用いた。分析は、O気泡を流れている血流に注入し、次いでその血液とガス交換させ、次に気泡トラップで再収集して、試料採取することができる単一人工肺CPB回路を用いた。適切には、血液中の溶存Nは、それらの通過中にO気泡中に蓄積し、次いで質量分析によって検出されるであろう。酸素(20〜30mL)は血液中で撹拌され、人工肺の下流で前記回路にゆっくりと注入され、そこで血液とのガスの交換を高めるために、動脈フィルタの細孔を介して流れさせられ、次に気泡トラップにおいて収集され、100μLのガスロックシリンジ(スペルコアナリティカル(Supelco Analytical))を用いて、周囲圧力で試料採取された。質量分析法(アジレント(Agilent)5975C GC−MS)を用いて、100%Oおよび室内気の対照試料を分析し、次いで試験サンプルガスを20〜100μLの量で導入した。ガス混合物を注入し、1mL/分で制御したヘリウムガス流によってHP−5MSカラムに通過させた。質量分析計イオン源、カラムおよび四極子は50°Cで維持した。質量分析計は電子衝撃モードで用いられ、イオン取得のための質量範囲は14〜200原子質量単位(原子質量単位)であった。OおよびNの分子イオンを、それらの質量電荷比(m/z)32およびm/z28の各分子イオンによって監視した。m/z28(N)およびm/z32(O)amuに対するピークイオン存在量(peak ion abundances)を測定し、O/N画分をOおよび空気キャリブレーション試料間の補間によって計算した。
【0051】
血液を単一人工肺回路内において周囲圧力にて50%O/50%Nのスイープガス混合物を用いて酸素化し、溶存Nを含有する血液を生成した。この血液にO気泡を通過させ、次いで収集し、分析すると、それらのO気泡は41.7+/−2.3質量%のNを蓄積していた(n=7回試験)。同一の血液を0.5絶対気圧(ata)において100%Oのスイープガスで酸素化して、N不在下において同様の中程度の酸素化を生じた。この血液を通過したO気泡は有意に少ないNを蓄積していた(6.1+/−0.3%、n=3回試験、p<0.001)。注入、試料採取および測定のプロセスの間に室内気によるOサンプルの汚染の機会がいくつかあったので、脱窒素の大きさは、これらのデータによって少なく見積もられている可能性がある。前記データは、低圧酸素化中のN分圧の明らかな低下を示しており、血液中の溶存ガスの分圧の合計の低減によるGMEの再吸収の提唱機構と一致している。
【0052】
図5Aは、CPBの開始前(ベースライン)、次に低圧酸素化によるCPBの2時間後および4時間後に採取された試料から形成された末梢血塗布標本を示している。1000倍の倍率において、塗布標本は、円鋸歯状の外観(crenated appearance)を有する棘状赤血球(red blood cell echinocytes)を表しており、これはブタに典型的であるが、細胞の損傷または溶血の証拠ではない。図5Bは、明らかな異常を有さない大脳皮質に由来する、ヘマトキシリン・エオシン染色してパラフィン埋設した厚さ4μmの切片を示す。図5Cは、明らかな異常を有さない海馬領域CA1を示す。図5Dは、明らかな異常を有さない腎皮質を示す。
【0053】
ヒト肺によく似た中空糸微孔性膜型人工肺は、スイープガス流量が適切な場合、スイープガスと血液との間におけるOおよびCOの交換において非常に効率的である。ヒト肺は、より低い血液溶解度を有するガスまたは蒸気(例えば麻酔薬蒸気)の分圧を、より大きな血液溶解度のそれと比較してより急速に平衡させる。同様に、人工肺によるNの付加または除去は、Nの血液中における溶解度が低いために、OまたはCOの交換よりも、より効率的になると思われる。当業において知られているように、スイープガスがNを含有していない場合、人工肺を退出する血液中のNの分圧はゼロに接近し、表1におけるOおよびCOならびに表2の低圧の列におけるOおよびCOの測定された分圧の単純な合計は、実験における溶存ガスの分圧の合計の合理的見積りを提供するはずである。表2の対照の列については、スイープガス中のNの分圧も溶存ガスの分圧の合計を見積もるために追加される必要があるであろう。
【0054】
身体からのNの流失は、脂肪中にゆっくり集められたNの蓄積により、多少延長されるので、実験中のブタは静脈血中のNの供給源として作用することが予想される。血液中に溶解したNの測定は困難であり、臨床的状況では実現困難であるため、当業者は、ブタからのNの排除の推定値を提供するであろう。CPB開始前の麻酔された患者は、しばしば60〜100%範囲の吸気Oに晒され、したがってCPBの前に部分的に脱窒素される。公開されたヒト脱窒素の時間的経過に基づいて、当業者は、ブタは、発明者らの低圧実験において、麻酔導入からCPBの開始までの176+/−8分間の間に、70%O/30%Nの人工呼吸器ガスに対して60%平衡したと推定するであろう。予め空気呼吸に平衡させられた37kgのブタからの公開された4時間のN排除の時間的経過を修正するためにこの推定を用いると、42.3kgのブタからのNの排除は、Nを含まないスイープガスを用いたCPBの最初の7分間では4.8mL/分であり、1時間では1.9mL/分、4時間では0.5mL/分であると推定される。血液100mL当たり1.27mLのNの体温におけるヒト血液中の公開されたN溶解度および4リットル/分の平均CPB流量を用いると、排除された窒素は、PCBの最初の7分間では68mmHg、1時間では23mmHg、4時間では8mmHgという動物からの溶存Nの静脈分圧を占める。
【0055】
円柱状の中空糸微孔性人工肺膜は、スイープガス隔室から血液相中へ圧力を伝えることは期待されないので、血液細胞が低圧の圧力を経験することは期待されない。実際、大気圧より低いスイープガス圧力は、人工肺出口において動脈ライン血圧に影響を与えなかった(対照との差は0.5ataでは−0.8〜+0.6mmHgにわたり(n=14回試験、p>0.9)、0.1ataでは−0.6〜+0.5mmHgにわたった(n=14回試験、p>0.4))。さらに、血漿ヘモグロビンまたは溶血の形態学的証拠は、ブタにおける低圧酸素化の前およびその最中に得られた血液試料では観察されなかった(図5A)。
【0056】
経験を積んだ獣医病理学者により、6つの脳領域および腎皮質(図5B図5D)に由来する固定死後組織において、細胞構築学的異常または動物間における明らかな差異は概して発見されなかった。しかしながら、いくつかの白質領域の異常な拡張毛細血管の存在が示された。小さな毛細血管および小動脈の拡張は、微小塞栓症に対する既知の反応である。脳室周囲白質における盲目事後解析は、低圧酸素化中のGMEの低減が、対照と比較した場合に、拡張した毛細血管の数および面積の35.8±5.5%および48.7±5.7%の低下をそれぞれ伴ったことを明らかにした(図4、p<0.001)。検討したすべての毛細血管の直径において同様の発見が観測された(図4D)。総体として、これらのデータは、GMEの排除は、低圧酸素化を用いて維持された動物において微小血管の損傷の低減を伴うことを示唆している。
【0057】
本願に引用された刊行物、特許出願、および特許を含むすべての参考文献は、これによりあたかも各参考文献が参照により援用されるように個々にかつ具体的に示され、その全容が本願に述べられるのと同程度に、参照によって援用される。
【0058】
本発明を記載する文脈において(とりわけ以下の特許請求の範囲の文脈において)、用語「1つの(a)」、「1つの(an)」、「その(the)」および同様の指示対象の使用は、本願において別段の指示がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、単数および複数の双方を含むものと解釈されるべきである。「備える(comprising)」、「有する(having)」、「含む(including)」、「含有する(containing)」という用語は、別段の指示がない限り、非制限用語(すなわち、「含むが、これらに限定されるものではない」ことを意味する)として解釈されるべきである。本願における値の範囲の詳説は、別段の指示がない限り、単にその範囲内にあるそれぞれの独立した値を個々に指す簡単な方法として機能するように意図し、それぞれの独立した値は、あたかもその値が個々に本願に列挙されるかのように、本明細書に組み込まれる。本願に記載したすべての方法は、本願において別段の指示がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、任意の適当な順序で実施することができる。本願に提供される全ての例または例示的用語(例えば、「のような」)の使用は、単に、本発明をより明らかにするように意図し、他に権利請求されない限り、本発明の範囲に対して限定をもたらさない。明細書中の言葉は、任意の権利請求していない要素を、本発明の実施にとって必須のものとして示すものと解釈されるべきでない。
【0059】
本発明の例示的な実施形態は、本発明を実施するために発明者らが知っている最良のモードを含んで、本願に記載されている。それらの実施形態の変形例は、前述の説明を読むことで、当業者には明らかになる。発明者らは、当業者が必要に応じてそのような変形例を用いることを予期し、また発明者らは、本発明が本願に具体的に記載した以外に実施されることを意図する。従って、この発明は、適用法によって許されるように、本願に添付された特許請求の範囲に挙げられた主題の別例および均等物をすべて含む。さらに、すべての可能な変形例中における上述の要素のいかなる組み合わせも、本願において別段の指示がない限り、または文脈に明らかに矛盾しない限り、本発明によって包含される。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図5C
図5D
図6