特許第6846522号(P6846522)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6846522降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及びこれらの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846522
(24)【登録日】2021年3月3日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20210315BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20210315BHJP
   C21D 9/46 20060101ALI20210315BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C38/60
   C21D9/46 J
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2019-531765(P2019-531765)
(86)(22)【出願日】2017年11月29日
(65)【公表番号】特表2020-509177(P2020-509177A)
(43)【公表日】2020年3月26日
(86)【国際出願番号】KR2017013762
(87)【国際公開番号】WO2018110867
(87)【国際公開日】20180621
【審査請求日】2019年8月5日
(31)【優先権主張番号】10-2016-0173006
(32)【優先日】2016年12月16日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】592000691
【氏名又は名称】ポスコ
【氏名又は名称原語表記】POSCO
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】カク、 ジェ−ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】チョ、 ハン−シク
【審査官】 浅野 裕之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2016−216808(JP,A)
【文献】 特表2011−508085(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/115059(WO,A1)
【文献】 特表2017−524820(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2010−0076409(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00〜38/60
C21D 9/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、炭素(C):0.06〜0.2%、マンガン(Mn):1.5〜3.0%、ケイ素(Si):0.3〜2.5%、アルミニウム(Al):0.01〜0.2%、ニッケル(Ni):0.01〜3.0%、モリブデン(Mo):0.2%以下、チタン(Ti):0.01〜0.05、アンチモン(Sb):0.02〜0.05、ホウ素(B):0.0005〜0.003、窒素(N):0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物を含み、
その微細組織が、面積分率で、ベイナイト50%以上、焼戻しマルテンサイト(TM)10%以上、フレッシュマルテンサイト(FM)10%以下、残留オーステナイト20%以下、及びフェライト5%以下からなる、降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
【請求項2】
前記TM/FMの比が2を超える、請求項1に記載の降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっき処理された、溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の冷延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき処理された、合金化溶融亜鉛めっき鋼板。
【請求項5】
重量%で、炭素(C):0.06〜0.2%、マンガン(Mn):1.5〜3.0%、ケイ素(Si):0.3〜2.5%、アルミニウム(Al):0.01〜0.2%、ニッケル(Ni):0.01〜3.0%、モリブデン(Mo):0.2%以下、チタン(Ti):0.01〜0.05、アンチモン(Sb):0.02〜0.05、ホウ素(B):0.0005〜0.003、窒素(N):0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物を含む鋼スラブを再加熱し、次いで、熱間圧延した後、巻取る工程と、
前記巻取られた熱延鋼板を冷間圧延した後、Q&P連続焼鈍する工程と、を含み、
前記Q&P連続焼鈍する工程は、
前記製造された冷延鋼板をAc3以上の温度で30秒以上均熱し、次いで、5〜20℃/秒の冷却速度で下記関係式1で定義される焼入れ温度(QT)±10℃まで冷却する工程と、
前記冷却された鋼板を下記関係式2で定義されるベイナイト温度(PT)±10℃で再加熱し、次いで、PT−100℃以上でありPT以下の温度範囲内で100秒以上保持した後、冷却する工程と、を含み、
前記Q&P連続焼鈍が完了した鋼板は、その微細組織が、面積分率で、ベイナイト50%以上、焼戻しマルテンサイト(TM)10%以上、フレッシュマルテンサイト(FM)10%以下、残留オーステナイト20%以下、及びフェライト5%以下からなる、降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
[関係式1]
QT=493.497+36.2874×Al−394.0×C−45.0×Mn−11.4332×Mo−20.8772×Ni−13.0438×Si−12.8×Cr
[関係式2]
PT=599.088+11.5214×Al−225.2×C−35.0×Mn−19.9474×Ni−24.9385×Si−56.718×Mo−22.1×Cr
【請求項6】
前記TM/FMの比が2を超える、請求項に記載の降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の高強度冷延鋼板の製造方法にしたがって得られるQ&P連続焼鈍された冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっき処理する工程をさらに含む、降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の高強度冷延鋼板の製造方法にしたがって得られるQ&P連続焼鈍された冷延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき処理する工程をさらに含む、降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車車体に用いられる高強度鋼板に関し、より詳細には、高強度であるとともに、降伏強度及び成形性に優れ、プレス成形性に優れた高強度冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建材、自動車、汽車などの輸送手段の構造部材に適用される鋼板の厚さを下げることで、軽量化を達成するために、従来の鋼材の強度を向上させようとする試みが多くなされている。しかし、このように強度を高める場合、降伏強度が比較的低くなり、延性及び穴拡げ性も低下するという欠点が発見された。
【0003】
そこで、強度と延性の間の関係を向上するための研究が多く行われ、その結果、低温組織であるマルテンサイト、ベイナイトに加えて、残留オーステナイト相を活用する変態組織鋼が開発され、適用されているのが実情である。
【0004】
変態組織鋼は、いわゆる、DP(Dual Phase)鋼、TRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼、CP(Complex Phase)鋼などに区別され、これらそれぞれの鋼は、母相と第2相の種類及び分率に応じて、機械的性質、すなわち、引張強度及び伸びのレベルが異なり、特に残留オーステナイトを含有するTRIP鋼の場合には、引張強度と伸びのバランス(TS×El)が最も高い値を示す。
【0005】
上記のような変態組織鋼のうち、CP鋼は、他の鋼に比べて伸びが低く、ロール成形などの単純加工に限って用いられ、高延性のDP鋼及びTRIP鋼は冷間プレス成形などに適用される。
【0006】
そこで、最近では、上記変態組織鋼であるDP鋼及びTRIP鋼よりも延性及び穴拡げ性能を高めることで、深絞り性、及びフランジ部のクラックを抑制しようとする技術が提案されている。一例として、特許文献2には、主組織として残留オーステナイト及びマルテンサイトを形成させる方法(Quenching and Partitioning Process、Q&P)が開示されているが、これを活用したレポート(非特許文献1)によれば、炭素が0.2%レベルと低い場合には、降伏強度が400MPa前後と低くなるという欠点があり、そして、最終製品で得られる伸びは、従来のTRIP鋼のようなレベルだけが得られることが確認できる。Q&P方法での要旨は、マルテンサイト変態開始温度(Ms)と仕上げ温度(Mf)の間で焼入れしてから再加熱することにより、マルテンサイトとオーステナイトの界面で炭素拡散が起こり、オーステナイトを安定化させることで延性を確保するものである。しかし、焼入れ及びパーティショニング温度に応じて安定化しないオーステナイトが相当量存在し、フレッシュマルテンサイト(FM)が最終冷却段階で形成されるようになる。フレッシュマルテンサイトは、炭素含有量が高く、穴拡げ性を阻害する(特許文献3)。
【0007】
他の方法としては、マルテンサイト組織を再び熱処理し、二相域において熱処理することにより延性及び穴拡げ性を確保する方法が挙げられるが、これは熱処理を2回行うため経済的ではない(特許文献4)。
【0008】
最後に、一般の焼鈍方法で熱処理し、且つベイナイト形成区間まで急冷してから長時間恒温保持することでベイナイト組織を得る方法が開発されたが、恒温保持時間が非常に長く、十分に変態しないベイナイトは、最終冷却時にマルテンサイトを形成するため、穴拡げ性に優れない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国公開特許第1994−0002370号公報
【特許文献2】米国公開特許第2006−0011274号公報
【特許文献3】特開平14−177278号公報
【特許文献4】特開平13−300503号公報
【特許文献5】特開平26−018431号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】ISIJ International,Vol.51,2011,p.137−144
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上述した従来技術の限界を解決するために提案されたものであって、従来のTWIP鋼に比べて少ない合金コストを実現し、従来のTBF(Trip aided Bainitic Ferrite)、Q&P(Quenching and Partitioning)熱処理工程を適用した場合に比べてさらに優れた延性及び穴拡げ性を有するベイナイト主相の冷延鋼板、これを用いて製造した溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、及びこれらの製造方法を提供することをその目的とする。
【0012】
また、本発明の課題は、上述した内容に限定されない。本発明の課題は、本明細書の内容全般から理解されることができ、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の追加的な課題を明確に理解するものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための本発明は、重量%で、炭素(C):0.06〜0.2%、マンガン(Mn):1.5〜3.0%、ケイ素(Si):0.3〜2.5%、アルミニウム(Al):0.01〜0.2%、ニッケル(Ni):0.01〜3.0%、モリブデン(Mo):0.2%以下、チタン(Ti):0.01〜0.05、アンチモン(Sb):0.02〜0.05、ホウ素(B):0.0005〜0.003、窒素(N):0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物を含み、その微細組織が、面積分率で、ベイナイト50%以上、焼戻しマルテンサイト(TM)10%以上、フレッシュマルテンサイト(FM)10%以下、残留オーステナイト20%以下、及びフェライト5%以下を含む降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板に関する。
【0014】
上記TM/FMの比は2を超えることが好ましい。
【0015】
また、本発明は、上記冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっき処理された溶融亜鉛めっき鋼板、及び合金化溶融亜鉛めっき処理された合金化溶融亜鉛めっき鋼板に関する。
【0016】
また、本発明は、重量%で、炭素(C):0.06〜0.2%、マンガン(Mn):1.5〜3.0%、ケイ素(Si):0.3〜2.5%、アルミニウム(Al):0.01〜0.2%、ニッケル(Ni):0.01〜3.0%、モリブデン(Mo):0.2%以下、チタン(Ti):0.01〜0.05、アンチモン(Sb):0.02〜0.05、ホウ素(B):0.0005〜0.003、窒素(N):0.01%以下(0%は除く)、残部Fe及び不可避不純物を含む鋼スラブを再加熱し、次いで、熱間圧延した後、巻取る工程と、上記巻取られた熱延鋼板を冷間圧延した後、Q&P連続焼鈍する工程と、を含み、上記Q&P連続焼鈍する工程は、上記製造された冷延鋼板をAc3以上の温度で30秒以上均熱し、次いで、5〜20℃/秒の冷却速度で下記関係式1で定義される焼入れ温度(QT)±10℃まで冷却する工程と、上記冷却された鋼板を下記関係式2で定義されるベイナイト温度(PT)±10℃で再加熱し、次いで、PT−100℃以上でありPT以下の温度範囲内で100秒以上保持した後、冷却する工程と、を含むことを特徴とする、降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高強度冷延鋼板の製造方法に関する。
[関係式1]
QT=493.497+36.2874×Al−394.0×C−45.0×Mn−11.4332×Mo−20.8772×Ni−13.0438×Si−12.8×Cr
[関係式2]
PT=599.088+11.5214×Al−225.2×C−35.0×Mn−19.9474×Ni−24.9385×Si−56.718×Mo−22.1×Cr
【0017】
上記Q&P連続焼鈍が完了した鋼板は、その微細組織が、面積分率で、ベイナイト50%以上、焼戻しマルテンサイト(TM)10%以上、フレッシュマルテンサイト(FM)10%以下、残留オーステナイト20%以下、及びフェライト5%以下を含むことができる。
【0018】
上記TM/FMの比が2を超えることが好ましい。
【0019】
また、本発明は、上記Q&P連続焼鈍された冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっき処理する工程をさらに含む、溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法、及び上記Q&P連続焼鈍された冷延鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき処理する工程をさらに含む、合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0020】
上述した構成の本発明によると、従来のDP鋼やTRIP鋼のような高延性変態組織鋼、及び従来のQ&P(Quenching&Partitioning)熱処理を経たQ&P鋼に比べて、正確なTM量及びベイナイトを確保することができるため、降伏強度及び延性ならびに穴拡げ性に優れた引張強度980MPa以上の高強度冷延鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、及び合金化溶融亜鉛めっき鋼板を効果的に提供することができるようになる。
【0021】
これにより、本発明の冷延鋼板などは、建築部材、自動車鋼板などの産業分野において、活用可能性が高いという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明による焼鈍工程の一例を示すものである(図1に示された熱処理線のうち、点線は溶融合金化めっき時の熱履歴を示すものである)。
図2図2は、TBF法及び本発明による方法の低温変態挙動を示すものである。
図3図3は、本発明により製造された発明例(F)鋼の微細組織を観察した写真である。
図4図4は、本発明により製造された冷延鋼板の焼戻しマルテンサイト中の炭化物を観察した結果である。
図5図5は、比較例(E)鋼の微細組織を観察した写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明者らは、従来のQ&P(Quenching&Partitioning)熱処理により製造される高強度鋼の低い延性を向上させる方法について深く研究した結果、Q&P熱処理時に、従来技術よりもさらに細かい特定の温度区間でベイナイト変態が促進され、FMが著しく減少する熱処理条件を見つけた。焼入れによるマルテンサイト形成量及びベイナイト変態促進区間によってQT及びPTを制御することにより、最終的なQ&P熱処理後の組織微細化、及び最終製品の物性向上が可能であることを確認し、本発明を提示した。
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
まず、本発明で提供される冷延鋼板などの合金成分組成及びその含有量を制限する理由について詳細に説明する。このとき、各成分の含有量は、特に記載しない限り、重量%を意味する。
【0026】
C:0.06〜0.2%、
炭素(C)は、鋼を強化させるのに有効な元素であり、本発明では、残留オーステナイトの安定化及び強度確保のために添加される重要元素である。上述した効果を得るために、0.06%以上添加することが好ましいが、その含有量が0.06%未満である場合には、オーステナイト単相温度が非常に高くなって高温焼鈍が避けられず、強度及び延性の確保が難しくなりうる。また、0.2%を超えると、Msが低下して焼入れ温度が低くなり、精巧な熱処理が難しくなる。また、溶接性も大きく低下するという問題がある。したがって、本発明において、C含有量は、0.06〜0.2%に制限することが好ましい。
【0027】
Mn:1.5〜3.0%
マンガン(Mn)は、フェライトの変態を制御するとともに、残留オーステナイトの形成及び安定化に有効な元素である。かかるMn含有量が1.5%未満である場合には、フェライト変態が大量に発生し、目標とする強度の確保が難しくなるという問題がある。これに対し、3.0%を超えると、本発明の二次焼鈍熱処理段階における相変態が遅すぎるようになってマルテンサイトが大量に形成されるため、意図する延性の確保が難しくなるという問題がある。したがって、本発明において、Mn含有量は、1.5〜3.0%に制限することが好ましい。
【0028】
Si:0.3〜2.5%
ケイ素(Si)は、フェライト内において炭化物の析出を抑制するとともに、フェライト内の炭素がオーステナイトに拡散することを助長し、結果として、ベイナイトの形成及び残留オーステナイトの安定化に寄与する元素である。上述した効果を得るために、0.3%以上添加することが好ましいが、その含有量が2.5%を超えると、熱間及び冷間圧延性が非常に悪くなり、鋼の表面に酸化物を形成してめっき性を阻害するという問題がある。したがって、本発明において、Si含有量は、0.3〜2.5%に制限することが好ましい。
【0029】
Al:0.01〜0.2%
アルミニウム(Al)は、鋼中の酸素と結合して脱酸作用をする元素であり、このため、その含有量を0.01%以上に保持することが好ましい。また、Alは、上記Siと同様に、フェライト内において炭化物の生成抑制を介して残留オーステナイトの安定化に寄与し、ベイナイト形成温度を高める。しかし、かかるAl含有量が0.2%を超えると、A3温度が増加するようになって、高温焼鈍が避けられないだけでなく、鋳造時のモールドプラスとの反応を介して健全なスラブの製造が難しくなり、さらには、表面酸化物を形成してめっき性を阻害するという問題がある。したがって、本発明において、Al含有量は、0.01〜0.2%に制限することが好ましい。
【0030】
ニッケル(Ni):0.01〜3.0%
ニッケル(Ni)は、固溶強化により強度を確保するとともに、オーステナイトを安定化する元素であって、0.01%以上を保持することが好ましい。しかし、ベイナイト変態を遅延させる効果が大きく、添加しすぎると、ベイナイト変態が完全に行われずFMが形成されるため、上限を3%に制限することが好ましい。
【0031】
モリブデン(Mo):0.2%以下
モリブデン(Mo)も、固溶強化により強度を強化し、TiMo炭化物を形成してベイナイト組織を微細化するために添加するが、合金鉄の価格が高く、コストが上昇するという問題があるため、上限を0.2%に制限することが好ましい。
【0032】
チタン(Ti):0.01〜0.05
チタン(Ti)は、TiNを優先的に形成するため、固溶ホウ素の添加による焼入性を向上させるためには必ず必要とする。本発明では、BNよりも優先してTiNが形成されるように、その下限を0.01%とし、多くなりすぎると、TiNが晶出して連続鋳造におけるノズル詰まりを引き起こす可能性があるため、その上限を0.05%に制限することが好ましい。
【0033】
アンチモン(Sb):0.02〜0.05
アンチモン(Sb)は、粒界偏析物質として粒界酸化物を形成し、粒界を通じた脱炭を抑制するとともに、Mn、Siなどの表面濃化による亜鉛めっき性の低下を抑制するための手段として0.02%以上添加することが好ましい。しかし、多すぎると、粒界偏析が増加し、鋼の脆性を引き起こす可能性があるため、上限を0.05%に制限する。
【0034】
ホウ素(B):0.0005〜0.003
ホウ素(B)は、焼入れによる強度確保が簡単な安価の合金元素であるため、合金総量を減らすという効果を奏し、溶接性や高温脆性の抑制に有利な元素であるため、下限を0.005%にし得る。しかし、多くなりすぎると、TiNよりもBN形成温度が高くなり、鋼の高温脆性を引き起こす可能性があるため、上限を0.003%に制限することが好ましい。
【0035】
窒素(N):0.01%以下
窒素(N)は、BN、TiNの形成により、合金元素の合金効率を低減させるため、通常制御できる範囲である0.01%以下に制限することが好ましい。
【0036】
本発明の他の成分は鉄(Fe)である。但し、通常の製造過程では、原料や周囲の環境から意図しない不純物が必然的に混入される可能性があるため、これを排除することはできない。これらの不純物は、通常の製造過程における技術者であれば誰でも分かるものであるため、そのすべての内容を具体的に言及することはしない。
【0037】
一方、上述した鋼組成成分を満たす本発明の冷延鋼板は、面積分率で、ベイナイト50%以上、焼戻しマルテンサイト(TM)10%以上、フレッシュマルテンサイト(FM)10%以下、残留オーステナイト20%以下、及びフェライト5%以下を含む微細組織を有する。ここで、上記ベイナイトは、マルテンサイトの次に強度が高く、フェライトとマルテンサイトの中間特性を有する。さらに、微細な残留オーステナイトをベイナイト相の内部に分布させると、鋼の強度、延性バランスが非常に高くなる。
【0038】
上述した微細組織を満たす本発明の冷延鋼板によると、引張強度が980MPa以上であり、従来のQ&P熱処理により製造された鋼板に比べて優れた降伏強度を有し、プレス成形性、延性、穴拡げ性に優れた高成形ギガ級高強度鋼板を提供することができる。
【0039】
また、本発明によると、上記冷延鋼板の表面に溶融亜鉛めっき処理した溶融亜鉛めっき鋼板、及びその溶融亜鉛めっき鋼板を合金化熱処理した合金化溶融亜鉛めっき鋼板を提供することもできる。
【0040】
次に、本発明の冷延鋼板などの製造方法について詳細に説明する。
【0041】
本発明による冷延鋼板は、上述した鋼成分組成を満たす鋼スラブを再加熱−熱間圧延−巻取り−冷間圧延−焼鈍工程を経ることにより製造することができる。これについての詳細な説明は下記のとおりである。
【0042】
(鋼スラブ再加熱工程)
本発明では、熱間圧延を行う前に、鋼スラブを再加熱して均質化処理する工程を経ることが好ましい。これは、1000〜1300℃の温度範囲で行うことがより好ましい。
上記再加熱時の温度が1000℃未満である場合には、圧延荷重が急激に増加するという問題が発生する。これに対し、その温度が1300℃を超えると、エネルギーコストが増加するだけでなく、表面スケールの量が多くなりすぎるという問題が発生する。したがって、本発明において、再加熱工程は、1000〜1300℃で行うことが好ましい。
【0043】
(熱間圧延工程)
上記再加熱された鋼スラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する。このとき、熱間仕上げ圧延は、800〜950℃で行うことが好ましい。
上記熱間仕上げ圧延時の圧延温度が800℃未満である場合には、圧延荷重が多く増加し、圧延が難しくなるという問題がある。これに対し、熱間仕上げ圧延温度が950℃を超えると、圧延ロールの熱疲労が多く増え、寿命短縮の原因となる。したがって、本発明では、熱間圧延時の熱間仕上げ圧延温度を800〜950℃に制限することが好ましい。
【0044】
(巻取り工程)
次に、上記によって製造された熱延鋼板を巻取る。このとき、巻取り温度は750℃以下であることが好ましい。
巻取り時の巻取り温度が高すぎると、熱延鋼板の表面にスケールが大量に発生して表面欠陥を誘発し、めっき性を劣化させる原因となる。したがって、巻取り工程は、750℃以下で行うことが好ましい。このとき、巻取り温度の下限は特に限定しないが、マルテンサイトの形成による熱延板の強度が高くなりすぎることに伴う、後続の冷間圧延工程の難しさを考慮して、Ms(マルテンサイト変態開始温度)〜750℃で行うことがより好ましい。
【0045】
(冷間圧延工程)
上記巻取られた熱延鋼板を酸洗処理して酸化層を除去した後、鋼板の形状及び厚さを合わせるために冷間圧延を行い、冷延鋼板を製造する。
一般に、冷間圧延は、顧客が要求する厚さを確保するために行う。このとき、圧下率の制限はないが、後続の焼鈍工程における再結晶時の粗大なフェライト結晶粒の生成を抑制するために、30%以上の冷間圧下率で行うことが好ましい。
【0046】
(Q&P連続焼鈍工程)
本発明では、最終的な微細組織が、ベイナイト50%以上、焼戻しマルテンサイト(TM)10% 以上、フレッシュマルテンサイト(FM)10%以下、残留オーステナイト20%以下、及びフェライト5%以下を含む冷延鋼板を製造するために、後続の焼鈍工程の制御が重要である。特に、本発明では、焼鈍時の炭素、マンガンなどの元素の再分配(partitioning)から目標とする微細組織を確保するために、一般の冷間圧延後のQ&P連続焼鈍工程を採用する。但し、後述のように、QT、PTを合金元素に応じて制御することを特徴とする。
均熱及び急冷
まず、上記製造された冷延鋼板をAc3以上の温度で30秒以上均熱した後、5〜20℃/秒の冷却速度で下記関係式1で定義される焼入れ温度(QT)±10℃まで冷却することが好ましい(図1参照)。
これは、穴拡げ性に不利なフェライト組織を5%以内に得るためのものであり、本発明のフェライト未形成冷却速度は、5〜20℃になるように設計した。冷却速度がこれより高くても問題はないが、冷却速度が遅いほどねじれがなく、板状が優れるため、さらに高める必要はない。
QTは、20〜50%のマルテンサイトが形成される温度まで冷却する。Q&Pにおける焼入れ中に形成されるマルテンサイトは、PTまで再加熱し、パーティショニング処理すると、焼戻しを起こし、強度がさらに低下するだけでなく、ベイナイトの形成を促進する役割をもたらす。図2に示すように、同一の温度でパーティショニング処理しても、ベイナイト域の温度まで急冷して恒温保持するTBFは、600秒経過してもベイナイト析出が完全に行われず、FMが形成されるのに対し、十分なマルテンサイトを形成させると、短い時間でベイナイト変態が完全に行われてFMが形成されないことが分かる。このように、本発明において、FMを最小限にする理由は、ベイナイト変態過程で残るオーステナイトに炭素、マンガンのような元素が濃化し、オーステナイトとして残らず、最終的な冷却中に変態するFMには、合金元素量が非常に高いマルテンサイトが残り、強度が非常に高く、穴拡げ中に界面分離を起こし、簡単に亀裂が生じて穴拡げ性を大幅に低下させるためである。
本発明では、このような特性を新たに発見し、これにより、ベイナイト主相を有する高成形性高強度鋼を新たに開発し、ベイナイトの形成を促進するとともに、ベイナイト面積率が最大となるQTを以下のように実験を介して求めた。
[関係式1]
QT=493.497+36.2874×Al−394.0×C−45.0×Mn−11.4332×Mo−20.8772×Ni−13.0438×Si−12.8×Cr
パーティショニング熱処理
続いて、本発明では、上記冷却された鋼板を、下記関係式2で定義されるベイナイト温度(PT)±10℃で再加熱し、次いで、PT−100℃以上でありPT以下の温度範囲内で100秒以上保持した後、冷却する。
上述した焼入れ後に、ベイナイト温度(PT)で再加熱し、恒温保持するにあたり、ベイナイトが最も早く形成される温度を、実験を介して求めた。これよりも温度が高いと、ベイナイトの形成量が少なく、残留オーステナイトの安定化が不十分であり、FMの形成が逆に増加するため、PTは必ずPT±10℃まで加熱する必要がある。
[関係式2]
PT=599.088+11.5214×Al−225.2×C−35.0×Mn−19.9474×Ni−24.9385×Si−56.718×Mo−22.1×Cr
従来技術とは異なり、本発明では、恒温保持を一定の温度に保持する必要がない。恒温保持は、PT−100℃以上でありPT以下の温度範囲内で、100秒以上保持してから冷却すれば十分であるため、加熱保持装置がない恒温炉を有する設備への適用が簡単であるという利点を有する。
このようにQ&P熱処理すると、ベイナイト50%以上、焼戻しマルテンサイト(TM)10%以上、フレッシュマルテンサイト(FM)10%以下、残留オーステナイト20%以下、及びフェライト5%以下を含む鋼を製造することができ、強度差が大きいフェライト及びFMを最小限に抑えることにより、従来のQ&P熱処理により製造された鋼板に比べて、優れた降伏強度、延性、及び穴拡げ性に優れた高成形ギガ級高強度鋼板を製造することができる。
【0047】
(めっき)
上記1次及び2次焼鈍熱処理された冷延鋼板をめっき処理することで、めっき鋼板を製造することができる。このとき、めっき処理は、溶融めっき法または合金化溶融めっき法を用いて行うことが好ましく、これによって形成されためっき層は亜鉛系であることが好ましい。
上記溶融めっき法を用いる場合には、亜鉛めっき浴に浸漬することで溶融めっき鋼板を製造することができ、合金化溶融めっき法の場合にも、一般の合金化溶融めっき処理を行うことで、合金化溶融めっき鋼板を製造することができる。
【実施例】
【0048】
以下、本発明の実施例について詳細に説明する。
【0049】
(実施例)
下記表1に示された成分組成を有する溶融金属で、真空溶解を介して、厚さ90mm、幅175mmのインゴットを製造した。次に、これを1200℃で1時間再加熱して均質化処理した後、Ar3以上の温度である900℃以上で熱間仕上げ圧延して、熱延鋼板を製造した。その後、上記熱延鋼板を冷却した後、予め600℃に加熱された炉に装入し、1時間保持した後、炉冷させることで、熱延巻取りを模写した。このように熱間圧延された板材を50〜60%の冷間圧下率で冷間圧延した後、下記表2の条件で焼鈍熱処理を行い、最終的な冷延鋼板を製造した。
上記のように製造されたそれぞれの冷延鋼板に対して、組織分率、降伏強度、引張強度、伸び、及びHERを測定し、その結果も表2に示した。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
*上記表2において、Bはベイナイト、TMは焼戻しマルテンサイト、FMはフレッシュマルテンサイト、Aは残留オーステナイト、Fはフェライトを示す。
【0052】
上記表1に示すように、鋼組成成分だけでなく、製造工程が本発明の範囲を満たす発明例(A―G)はすべて、優れた降伏強度、延性、及び穴拡げ性を示すことが分かる。
【0053】
図3は、本発明により製造された発明例(F)鋼の微細組織を観察した写真である。表2に示すように、発明例(F)鋼は、ベイナイトが75%と主相であり、TM、FMがそれぞれ14%、5%とTM/FMが2を超え、Fが5%未満のベイナイト鋼を製造することができることが分かる。この点が本発明の技術的特徴であり、従来では、Q&P熱処理を通じてフェライト基地のTRIP鋼を製造するか、焼戻しマルテンサイト鋼を製造することを主力としたが、本発明のように鋼組成成分及びQT、PTを特定すると、ベイナイト基地組織をTBF熱処理方法よりも簡単に実現することができる。
【0054】
一方、図4図3の組織のうちTMをAPTで観察したものである。遷移炭化物と粗大なセメンタイトが混ざっていることから、焼戻しマルテンサイトであることが分かる。
【0055】
これに対し、鋼組成成分や製造工程が本発明の範囲を外れる比較例(H−L、B、E、G)はすべて、本発明に比べて降伏強度、延性、及び穴拡げ性がよくないことが分かる。
【0056】
特に、上記表2に示すように、鋼組成成分は本発明の範囲を満たしているが、製造工程が本発明によらない比較例(B、E、G)はすべて、必要な物性が得られないことが分かる。
【0057】
図5は比較例(E)鋼の組織であって、成分は同一であるが、二相域焼鈍及びTBF熱処理により、フェライトとFMが形成され、強度及びHERが低いことが確認できる。
【0058】
上記の結果をみると、本発明により製造される冷延鋼板は、980MPa以上の降伏強度、優れた伸び、及びHERを確保することができるとともに、従来のQ&P熱処理工程を経て製造された鋼材に比べて、構造部材に適用するための冷間成形を簡単に行うことができるという長所がある。
【0059】
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の範囲はこれに限定されず、特許請求の範囲に記載された本発明の技術的思想から外れない範囲内で多様な修正及び変形が可能であるということは、当技術分野の通常の知識を有する者には明らかである。
図1
図2
図3
図4
図5