(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被験体の長寿性を増加させ、ならびに/あるいは腫瘍の発生または腫瘍の転移を阻害または減少させる方法において使用するための、長期造血幹細胞(LT−HSC)を含む組成物であって、該LT−HSCは、以下:
(a)野生型ヒトEKLFの54位に相当するリシン(K)残基のアルギニン(R)による置換、または野生型マウスEKLFの74位に相当するリシン(K)残基のアルギニン(R)による置換を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変赤血球クルッペル様因子(Eklf)遺伝子を有するように胚性幹細胞(ESC)、人工多能性細胞(iPSC)および/または臍帯血幹細胞(CBSC)を遺伝的に操作する工程、
(b)該遺伝的に操作されたESC、iPSCおよび/またはCSBCを分化させ、該LT−HSCを得る工程
の工程から調製されたものであり、
該LT−HSCは、Lin−、CD117+、Sca−1+、Thy1.1lo、Flk2−、CD34−として同定され、
該腫瘍が、メラノーマである、組成物。
前記細胞が、前記改変EKLFポリペプチドをコードするウイルスベクターの使用により、前記改変EKLFポリペプチドを発現するように形質導入されている、請求項1に記載の組成物。
前記ウイルスベクターが、ヘルペスウイルス、レトロウイルス、ワクチニアウイルス、弱毒化ワクチニアウイルス、カナリア痘ウイルス、アデノウイルス、またはアデノ随伴ウイルスに由来する、請求項3に記載の組成物。
前記細胞が、クラスター化等間隔短鎖回文リピート(CRISPR)およびCRISPR関連タンパク質(Cas)系の使用により、前記改変EKLFポリペプチドを発現するように形質導入されている、請求項1に記載の組成物。
前記EKLFがLT−HSC内で比較的高いレベルで発現され、そして、EKLFの枯渇が異なる型の造血/血液細胞の集団変化を引き起こす、請求項1に記載の組成物。
受取被験体の長寿性を増加させ、ならびに/あるいは腫瘍の発生または腫瘍の転移を阻害または減少させる方法において使用するための、骨髄単核細胞(BMMNC)を含む組成物であって、該BMMNCは、以下:(a)野生型ヒトEKLFの54位に相当するリシン(K)残基のアルギニン(R)による置換、または野生型マウスEKLFの74位に相当するリシン(K)残基のアルギニン(R)による置換を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変EKLF遺伝子を含むドナー被験体から骨髄を回収する工程、ならびに(b)該1つまたは複数の改変eklf遺伝子を持つ長期造血幹細胞(LT−HSC)を含む骨髄単核細胞(BMMNC)を単離する工程、の工程から調製されたものであり、該LT−HSCは、Lin−、CD117+、Sca−1+、Thy1.1lo、Flk2−、CD34−として同定され、該腫瘍が、メラノーマである、組成物。
前記造血前駆細胞が、多能性前駆細胞(MPP)、骨髄系共通前駆細胞(CMP)、顆粒球/マクロファージ前駆細胞(GMP)または骨髄系/赤血球系前駆細胞(MEP)である、請求項8または12に記載の組成物。
野生型のEKLFポリペプチドと比較して少なくとも1つのアミノ酸の改変を含むEKLFポリペプチドをコードする遺伝子を有する長期造血幹細胞(LT−HSC)であって、該1つまたは複数のアミノ酸の改変が、全長野生型ヒトEKLFの54位または全長野生型マウスEKLFポリペプチドの74位に相当するアミノ酸の改変を含み、そして54位または74位に相当する該アミノ酸の該改変が、Lysの、Argによる(K54RもしくはK74R)置換である、LT−HSC。
1つまたは複数の改変EKLF遺伝子を持ち、そして発現する、長期造血幹細胞(LT−HSC)を得るためのin vitroの方法であって、(a)野生型ヒトEKLFの54位に相当するリシン(K)残基のアルギニン(R)による置換、または野生型マウスEKLFの74位に相当するリシン(K)残基のアルギニン(R)による置換を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変EKLF遺伝子を有するようにESC、iPSC、および/またはCBSCを遺伝的に操作すること、ならびに(b)該遺伝的に操作されたESC、iPSC、および/またはCSBCを分化させ、該1つまたは複数の改変EKLF遺伝子を持ち、そして発現するLT−HSCを得ることを含み、ここで、該LT−HSCは健康な長寿性および/または腫瘍抵抗性もしくは転移抵抗性を与え、該腫瘍が、メラノーマである、方法。
腫瘍抵抗性および健康な長寿性の性質を有する1つまたは複数の改変赤血球クルッペル様因子(eklf)遺伝子を発現する長期造血幹細胞(LT−HSC)を得るためのin vitroの方法であって、(a)野生型ヒトEKLFの54位に相当するリシン(K)残基のアルギニン(R)による置換、または野生型マウスEKLFの74位に相当するリシン(K)残基のアルギニン(R)による置換を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つもしくは複数の改変EKLF遺伝子を有するように骨髄単核細胞(BMMNC)を遺伝的に操作すること、ならびに(b)該1つまたは複数の改変EKLF遺伝子を持つLT−HSCを単離することを含み、該腫瘍が、メラノーマである、方法。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の詳細な説明
利便性のため、本開示の文章中で用いられる特定の用語はここに集められる。他で定義されない限り、この中で用いられるすべての技術的および科学的な用語は、本発明が属する分野の当業者による一般的な理解と同じ意味を有する。
【0023】
ここでは、単数型「a」、「and」および「the」は、文章が明確に他を指示しない限り複数の参照物を含むために用いられる。
【0024】
定義
本明細書で用いられる場合、用語「発現」は、条件が合ったときの遺伝子の転写であって、結果としてmRNAおよび通常コードされたタンパク質を生じる転写を指すことを意図する。発現は、細胞によって(すなわち、人工的な介入なしに)自然に達成もしくは実施され得、または人工的に(すなわち、例えば化学的な試薬を用いて調節されるプロモーターの使用のような人工的な介入の中で)達成もしくは実施され得る。発現は、例えばCre媒介組み換えのような、部位特異的リコンビナーゼが誘発する組み換えイベントによっても始められ得る。発現は遺伝子から転写されたmRNAの測定により、または遺伝子によってコードされたタンパク質の測定により測定され得る。
【0025】
本明細書で用いられる場合、用語「核酸」は、例えばデオキシリボ核酸(DNA)、および適切な場所ではリボ核酸(RNA)のようなポリヌクレオチドを指す。核酸は1本鎖ポリヌクレオチドおよび2本鎖ポリヌクレオチドを含むが、これらに限られない。例示的。
【0026】
本明細書で用いられる場合、用語「ベクター」は、核酸分子であって、その核酸分子に連結された他の核酸を輸送できる核酸分子を指す。用語「発現ベクター」は、作動可能に連結された核酸を発現できる様式で、作動可能に核酸に連結された(linker)プロモーターを含むベクターを指す。したがって、本明細書で用いられる場合、ベクターまたは発現ベクターは、ベクターに持たれるそれぞれの組み換え遺伝子によってコードされる対象のタンパク質を合成できるプラスミドまたはファージを含む。ベクターまたは発現ベクターは、例えば哺乳動物細胞のような細胞に核酸を導入できる、ウイルスを基にしたベクターも含む。特定のベクターは自己複製、および/またはそのベクターに連結された核酸を発現できる。
【0027】
本明細書で用いられる場合、用語「アレル」は、細胞内または集団内の遺伝子のある特定の形であって、遺伝子の配列の中の少なくとも1つの、そしてしばしば1つより多くの変異部位の配列において、同じ遺伝子の他の形と異なり得る特定の形を指す。異なるアレル間で異なるこれらの変異部位での配列は、「バリアンス」、「多型」または「変異」と呼ばれる。被験体がある遺伝子の2つの同一なアレルを持つとき、その被験体はその遺伝子またはアレルについてホモ接合であると言われる。被験体がある遺伝子の2つの異なるアレルを持つとき、その被験体はその遺伝子についてヘテロ接合であると言われる。ある特定の遺伝子のアレルは、1つのヌクレオチドまたはいくつかのヌクレオチドにおいて互いに異なり得、そしてヌクレオチドの置換、欠失および挿入を含み得る。ある遺伝子のあるアレルはまた、変異を含む遺伝子の形でもあり得る。
【0028】
用語「野生型」は、天然の供給源から単離されたときのその遺伝子または遺伝子産物の性質を持つ遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型遺伝子または遺伝子産物(例えば、ポリペプチド)は、集団内でもっとも頻繁に観察され、そして、そのために恣意的にその遺伝子の「正常な」または「野生型の」形として設計されるものである。
【0029】
本明細書で用いられる場合、用語「トランスフェクション」は、核酸に媒介される遺伝子の輸送による、レシピエント細胞への、例えば発現ベクターのような核酸の導入を指す。「形質転換」は、外因性DNAまたはR Aの細胞取り込みの結果として細胞の遺伝子型が変えられる過程を指し、そして形質転換された細胞は所望される異種性タンパク質を発現する。
【0030】
本明細書で用いられる場合、用語「ノックイン(Kin)」は、結果としてトランスジーンの発現を引き起こす、宿主細胞ゲノム内へのトランスジーンの標的化挿入を指す。「ノックイン」トランスジェニクスは、トランスジーンのヘテロ接合ノックインを含み得る。特定の実施形態では、「ノックイン」は、外因性遺伝子(またはその一部)による内因性遺伝子(またはその一部)の置き換えを引き起こし、例えば1つまたは両方のアレルの標的化変異を引き起こす。「ノックイン」は、かかる発現を促進する物質に動物を暴露することによる、標的化挿入の部位(例えばCre−lox系におけるCre)で組み換えを促進する酵素を導入することによる、または他の方法によるトランスジーンの発現も包含する。「ホモ接合」状態は、相同染色体上の相当する遺伝子座に同一アレルがあるときに存在する遺伝状態を意味する。一方で、「ヘテロ接合」状態は、相同染色体上の相当する遺伝子座に異なるアレルがあるときに存在する遺伝状態を意味する。
【0031】
本明細書で用いられる場合、用語「CRISPR」、「CRISPR系」または「CRISPRヌクレアーゼ系」、ならびにこれらの文法的等価物は、DNAと結合する非コードRNA分子(例えばガイドRNA)およびヌクレアーゼ機能性(例えば2つのヌクレアーゼドメイン)を持つCasタンパク質(例えばCas9)を含み得る。
【0032】
本明細書で用いられる場合、用語「ノックアウト」(略語:KO)は生物の遺伝子の1つを無効にする遺伝的技術である(生物の「knocked out」)。
【0033】
本明細書で用いられる場合、用語「トランスジーン」は、トランスジーンを導入されるトランスジェニック動物もしくは細胞に対して部分的もしくは全体的に異種性である、すなわち外来の核酸配列、またはトランスジーンの導入されるトランスジェニック動物もしくは細胞の内因性遺伝子と相同な核酸配列であるが、トランスジーンが挿入される細胞のゲノムが変更されるような方法で動物のゲノムへと挿入されるように設計される、または挿入される核酸配列を指す。トランスジーンは、1つまたは複数の転写調節配列、ならびに例えばイントロンのような、選択された核酸の最適な発現に必要であり得る他の任意の核酸と作動可能に連結され得る。したがって、本明細書では用語「トランスジェニック」は、トランスジーンを持つ動物またはコンストラクトの特性を説明するための形容詞として用いられる。例えば、「トランスジェニック動物」は非ヒト動物、好ましくは非ヒト哺乳動物、さらに好ましくは齧歯類であって、その動物の1つまたは複数の細胞が、例えば、遺伝子ノックイン技術を含むこの分野において周知されたトランスジェニック技術のような人間の介入する方法によって導入された異種性の核酸を含む動物である。例えば、マイクロインジェクションまたは組み換えウイルスの感染によるような意図的な遺伝子操作を経由した細胞の前駆体への導入により、核酸は直接的または間接的に細胞に導入される。トランスジェニック動物はノックイン動物を含むが、これに限られない。
【0034】
本明細書で用いられる場合、用語「発現」は、条件が合ったときの遺伝子の転写であって、結果としてmRNAおよび通常コードされたタンパク質を生じる転写を指すことを意図する。発現は、細胞によって(すなわち、人工的な介入なしに)自然に達成もしくは実施され得、または人工的に(すなわち、例えば化学的な試薬を用いて調節されるプロモーターの使用のような人工的な介入の中で)達成もしくは実施され得る。発現は、例えばCre媒介組み換えのような、部位特異的リコンビナーゼが誘発する組み換えイベントによっても始められ得る。発現は遺伝子から転写されたmRNAの測定により、または遺伝子によってコードされたタンパク質の測定により測定され得る。
【0035】
本明細書で用いられる場合、用語「野生型」は、天然の供給源から単離されたときのその遺伝子または遺伝子産物の性質を持つ遺伝子または遺伝子産物を指す。野生型遺伝子は、集団内でもっとも頻繁に観察され、そして、そのために恣意的にその遺伝子の「正常な」または「野生型の」形として設計されるものである。一方で、用語「改変」、「変異体」、「多型」および「バリアント」は、野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較されたときに、配列および/または機能的な特性に改変(すなわち、変更された性質)を示す遺伝子または遺伝子産物を指す。天然の変異体が単離され得、これらが野生型の遺伝子または遺伝子産物と比較されたときに変更された性質を持つという事実により、この天然の変異体が同定されることも着目される。
【0036】
本明細書で用いられる場合、用語「ポリペプチド」、「ペプチド」および「タンパク質」は、本明細書で互換的にアミノ酸残基のポリマーを指すように用いられる。
【0037】
本明細書で用いられる場合、用語「哺乳動物」はヒト、霊長類、例えばウサギ、ブタ、ヒツジおよびウシのような飼育動物ならびに家畜、動物園、スポーツまたはペット動物、ならびに例えばマウスまたはラットのような齧歯類を含む哺乳綱のすべてのメンバーを指す。用語「非ヒト哺乳動物」はヒトを除く哺乳綱のすべてのメンバーを指す。
【0038】
本明細書で用いられる場合、用語「被験体」は、本発明の方法から利益を受け得るヒト種を含む動物を指す。用語「被験体」は、ある性が特別に指示されない限り、雄性および雌性の両方を指すことを意図する。したがって、用語「被験体」は本開示の処理方法から利益を受け得るあらゆる哺乳動物を含む。
【0039】
本明細書で用いられる場合、用語「調整」は効果または結果を変更する能力に関する。
【0040】
本明細書で用いられる場合、用語「移植」およびそのバリエーションは、レシピエントへの移植組織片(移植片とも呼ばれる)の挿入を指し、その移植がシンジェニック(ドナーおよびレシピエントが遺伝的に同一な場合)であるか、アロジェニック(ドナーおよびレシピエントが異なる遺伝子の起源を持つが同種である場合)であるか、またはゼノジェニック(ドナーおよびレシピエントが異なる種である場合)であるかを問わない。
【0041】
本明細書で用いられる場合、用語「ドナー」は、骨髄細胞の天然の供給源である動物、好ましくは哺乳動物、を指す。ドナーは、健康な哺乳動物、すなわちいかなる明らかな疾患にも罹患していない哺乳動物であり得る。代わりに、ドナーは、疾患(例えば、がん)に罹患している哺乳動物であり得る。レシピエントは、ドナーからの骨髄細胞を受け取る動物、好ましくは哺乳動物である。レシピエントは、健康な哺乳動物、すなわちいかなる明らかな疾患にも罹患していない哺乳動物であり得る。代わりに、レシピエントは、疾患(例えば、がん)に罹患している哺乳動物であり得る。本開示の実施形態によれば、ドナーおよびレシピエントは同じ哺乳動物であり得る。
【0042】
本明細書で用いられる場合、用語「有効量」は、本明細書で用いられる場合、疾患の処置に関して所望される結果を達成するための、投薬量において、および必要な時間の期間について有効な量を指す。例えば、がんの処置に関して、がんの任意の症状を減らすか、防ぐか、遅らせるか、または抑制するか、または阻止する薬剤(すなわち、化合物、ポリペプチド、治療的ポリペプチドをコードするポリ核酸、または治療的ポリペプチドを発現するよう操作された細胞)は、有効である。有効量の薬剤は、疾患または状態を治癒することを必要とされないが、疾患もしくは状態の発症が遅れるか、妨げられるか、もしくは阻止されるように、または疾患もしくは状態の症状が軽減されるように、疾患または状態に対する処置を提供する。指示された時間の期間に渡って1、2、またはそれを超えた回数で投与されるに適した形で、有効量は1、2、またはそれを超える用量に分割され得る。
【0043】
本明細書で用いられる場合、用語「処置」は、本明細書で用いられる場合、例えばがんの発生、成長、もしくは移転の遅延もしくは阻害、または臓器への損傷の軽減のような、所望される薬理学的および/または生理的効果を得ることを意味することを意図する。その効果は、完全または部分的に疾患またはその症状の発生を防止、または阻害するという点において予防的であり得、ならびに/あるいは、疾患および/または疾患に起因すると思われる有害な効果に対する、部分的または完全な治癒という点において治療的であり得る。「処置」は、本明細書で用いられる場合、哺乳動物、とくにヒトにおける疾患の、予防に寄与する(例えば、予防的)処置、治癒用の処置、または緩和的処置を含み、そして、(1)その疾患に罹患しやすくあり得るが、その疾患を持っているとまだ診断されていない個体に起こる疾患または状態(例えば、がんもしくは心不全)の、予防に寄与する(例えば、予防的)処置、治癒用の処置、または緩和的処置、(2)疾患の阻害(例えば、疾患の発達を阻止することによって)、または(3)疾患をやわらげること(例えば、疾患に関連する症状の減少)を含む。
【0044】
本明細書で用いられる場合、用語「投与される」、「投与する」、または「投与」は互換的に、本明細書では、本発明の薬剤(例えば、化合物もしくは合成物)の静脈内投与、筋肉内投与、腹膜内投与、動脈内投与、頭蓋内投与または皮下投与を制限なしに含む送達の様式を指すために用いられる。
【0045】
本明細書で用いられる場合、用語「有効量」は、本明細書で用いられる場合、疾患、または例えば加齢のような状態の処置に関して所望される結果を達成するための、投薬量において、および必要な時間の期間について有効な量を指す。例えば、がんの処置に関して、がんの任意の症状を減らすか、阻害するか、防ぐか、遅らせるか、または抑制するか、または阻止する薬剤(すなわち、化合物、ポリペプチド、または治療的ポリペプチドをコードするポリ核酸)は、有効である。有効量の薬剤は、疾患または状態を治癒することを必要とされないが、疾患もしくは状態の発症が遅れるか、妨げられるか、もしくは阻止されるように、または疾患もしくは状態の症状が軽減されるように、疾患または状態に対する処置を提供する。指示された時間の期間に渡って1、2、またはそれを超えた回数で投与されるに適した形で、有効量は1、2、またはそれを超える用量に分割され得る。
【0046】
本明細書で用いられる場合、用語「細胞表面マーカー」は、対象細胞がその細胞原形質膜に、抗体に結合できる、および/または酵素基質を消化できる、タンパク質、酵素、または炭水化物を持つということを意味する。細胞表面マーカーは、特定の型の細胞の性質を同定するのに役立つと本分野において認識される。
【0047】
本明細書で用いられる場合、用語「造血幹細胞」は、被験体の骨髄または血液に由来する幹細胞を指す。これらの幹細胞は多能性であり、したがって任意の他の型の血液細胞または免疫細胞へと転換される能力を有する。血液における造血幹細胞の役割は、毎日血液細胞が置き換えられなければならないため、絶えず体に血液細胞を補充し続けることである。長期および短期の、2つの異なる型の造血幹細胞が存在する。2つの型の細胞間の違いは、長期は無限に再生し得るが、短期幹細胞は長い時間の期間に渡って自身を再生できないことである。この長期幹細胞は、自己再生する能力を有するが、短期幹細胞は約6か月間しか生存しない。
【0048】
本明細書で用いられる場合、用語「長寿性の増強」、「長命性の増加」、および「寿命延長」は本明細書で互換的に用いられ、そして正常な加齢過程の遅延、および/または、動物、例えば生命を脅かす障害(例えば、がんまたは腫瘍)を罹患した動物の寿命を延ばすことを指す。好ましくは、その長寿性は、未成熟な生活相の延長とは対照的な、成熟した生活相の延長によるものであり、そして本方法による処置をなされることから生じるものである。
【0049】
本明細書で用いられる場合、用語「健康寿命の増強」は、加齢に関連する身体の劣化、疾患、または障害の発症または重篤性の遅延を指す。増強された健康寿命は、例えば特定の年齢での、加齢に通常関連する身体の劣化、疾患、または障害の減少または減少量も指す。
【0050】
本明細書で用いられる場合、用語「アレル」は、細胞内または集団内の遺伝子のある特定の形であって、遺伝子の配列の中の少なくとも1つの、そしてしばしば1つより多くの変異部位の配列において、同じ遺伝子の他の形と異なり得る特定の形を指す。異なるアレル間で異なるこれらの変異部位での配列は、「バリアンス」、「多型」または「変異」と呼ばれる。被験体がある遺伝子の2つの同一なアレルを持つとき、その被験体はその遺伝子またはアレルについてホモ接合であると言われる。被験体がある遺伝子の2つの異なるアレルを持つとき、その被験体はその遺伝子についてヘテロ接合であると言われる。
【0051】
用いられる場合、用語「自家性」は、生物材料であって、その材料が後に再導入される同じ個体に由来する生物材料を指す。
【0052】
用いられる場合、用語「異種性」は、生物材料であって、その材料が後に再導入される異なる個体に由来する生物材料を指す。
【0053】
用いられる場合、用語「アロジェニック」は、生物材料であって、その材料が導入される個体と同種の、遺伝的に異なる個体に由来する生物材料を指す。
【0054】
長寿性を増加させ、ならびに/あるいは腫瘍の発生または腫瘍の転移を阻害または減少させる方法
1つの側面では、本発明は、被験体の長寿性を増加させ、ならびに/あるいは腫瘍の発生または腫瘍の転移を阻害または減少させる方法であって、(a)野生型のEKLFポリペプチドと比較して1つまたは複数のアミノ酸の改変を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変赤血球クルッペル様因子(Eklf)遺伝子を有するように胚性幹細胞(ESC)、人工多能性細胞(iPSC)および/または臍帯血幹細胞(CSBC)を遺伝的に操作すること、(b)遺伝的に操作されたESC、iPSCおよび/またはCSBCを分化させ、造血幹細胞(HSC)ならびに/あるいは造血幹および前駆細胞(HSPC)を得ること、ならびに(c)HSCおよび/またはHSPCを被験体に移植することを含み、これにより、移植されたHSCおよび/またはHSPCは、健康な長寿性ならびに/あるいは腫瘍抵抗性または転移への抵抗性を被験体に与える、方法を提供する。本発明は、1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を持ち、そして発現する、HSCおよび/または/HSPCを得るためのin vitroの方法であって、野生型のEKLFポリペプチドと比較して1つまたは複数のアミノ酸の改変を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を有するようにESC、iPSC、および/またはCBSCを遺伝的に操作すること、ならびに(b)遺伝的に操作されたESC、iPSC、および/またはCSBCを分化させ、1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を持ち、そして発現するHSCおよび/またはHSPCを得ることを含み、ここで、HSCおよび/またはHSPCは健康な長寿性および/または腫瘍抵抗性もしくは転移抵抗性を与える、方法も提供する。あるいは、本発明は、被験体の長寿性を増加させ、および/または腫瘍の発生もしくは腫瘍の移転を阻害または減少させるための医薬の製造における、ESC、iPSC、CSBC HSC、および/またはHSPCの使用であって、ここで、ESC、iPSC、CBSC HSC、および/またはHSPCは、野生型のEKLFポリペプチドと比較して1つまたは複数のアミノ酸の改変を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を持ち、そして発現する、使用を提供する。
【0055】
別の側面では、本発明は、受取被験体において長寿性を増加させ、ならびに/あるいは腫瘍の発生または腫瘍の転移を阻害または減少させる方法であって、(a)野生型のEKLFポリペプチドと比較して1つまたは複数のアミノ酸の改変を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を含むドナー被験体から骨髄を回収すること、(b)1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を持つ、HSCおよび/またはHSPC HSCおよび/またはHSPCを含む骨髄単核細胞(BMMNC)を単離すること、ならびに(c)受取被験体にBMMNCを移植することを含み、これにより、受取被験体は腫瘍抵抗性および/または健康な長寿性を与えられる、方法を提供する。あるいは、本発明は、腫瘍抵抗性および健康な長寿性の性質を有する1つまたは複数のEklf遺伝子を発現するHSCおよび/またはHSPCを得るためのin vitroの方法であって、(a)野生型のEKLFポリペプチドと比較して1つまたは複数のアミノ酸の改変を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つもしくは複数の改変Eklf遺伝子を有するようにBMMNCを遺伝的に操作すること、ならびに1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を持つHSCおよび/またはHSPCを単離することを含む方法を提供する。本発明は、被験者の長寿性を増加させ、および/または腫瘍の発生もしくは腫瘍の転移を阻害もしくは減少させるための医薬の製造における、BMMNCの遺伝的な操作の使用であって、ここで、BMMNCは、野生型のEKLFポリペプチドと比較して1つまたは複数のアミノ酸の改変を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を持つ、使用も提供する。
【0056】
したがって、本発明は、野生型のEKLFポリペプチドと比較して少なくとも1つのアミノ酸の改変を含むEKLFポリペプチドをコードする遺伝子により操作された細胞であって、当該細胞は、ESC、iPSC、CBSC、HSC、HSPCまたはBMMNCである、細胞を提供する。
【0057】
特定の実施形態は、野生型のEKLFポリペプチドと比較して1つまたは複数のアミノ酸の改変を含む改変EKLFポリペプチドをコードする、1つまたは複数の改変Eklf遺伝子を有するESC、iPSC、CBSC、またはBMMCを指向する。いくつかの実施形態では、細胞は、1つまたは両方のEKLF遺伝子座に改変EKLFポリペプチドをコードするDNAを含む。いくつかの実施形態では、細胞は、1つのEKLF遺伝子座に改変EKLFポリペプチドをコードするDNAを含む。特定の実施形態では、細胞は、両方のEKLF遺伝子座に改変EKLFポリペプチドをコードするDNAを含む。特定の実施形態では、細胞は改変EKLFポリペプチドを発現する。
【0058】
いくつかの実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸の改変は全長の野生型のマウスEKLFポリペプチドにおいて74位に相当するアミノ酸の改変を含む。マウス以外の動物に関する特定の実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸の改変は、マウスのEKLFポリペプチド内のこのアミノ酸残基に相当するSUMO化可能アミノ酸残基の改変を含むが、これは異なる位置にあり得る。例えば、ヒトのEKLFポリペプチドにおいて、マウスのEKLFポリペプチド内の74位に相当するSUMO化部位はアミノ酸残基54にある。特定の実施形態では、このアミノ酸残基はLys残基である。特定の実施形態では、74位に相当するアミノ酸の改変は、LysをArg(K74R)または腫瘍抵抗性および健康な長寿性を与える他のアミノ酸に置換するものである。他の実施形態では、「他のアミノ酸」はHisである。マウスおよびヒト以外の脊椎動物においては、改変脊椎動物EKLFポリペプチドは、マウスEKLFのK74およびヒトEKLFのK54にオーソロガスなSUMO化可能部位に相当するリシン(K)残基の、アルギニン(R)または腫瘍抵抗性および健康な長寿性を与える他のアミノ酸による置換を含む。
【0059】
特定の実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸の改変は、全長の野生型のヒトEKLFポリペプチドの54位に相当するアミノ酸の改変を含む。ある実施形態では、54位のアミノ酸の改変は、Lysの、Arg(K54R)または腫瘍抵抗性および健康な長寿性を与える他のアミノ酸による置換である。他の実施形態では、「他のアミノ酸」はHisである。特定の実施形態では、1つまたは複数のアミノ酸の改変は、例えば、ヒトEKLFポリペプチドにおいて、リン酸化されるアミノ酸、例えば限定されるものではないが、全長の野生型のマウスEKLFポリペプチドの68位に相当するリン酸化アミノ酸の改変を含む。
【0060】
所望されるEKLF変異アレル産物(すなわち、少なくとも1つのアミノ酸の改変を有するEKLF)をコードするポリヌクレオチドは、関連分野の任意の既知の方法により、自然のEKLF配列から改変されるか、またはde novoで製造され得、そして、適した発現ベクターへとクローニングされ得る。典型的には、所望されるEKLF変異アレルを持つポリヌクレオチドは、所望されるEKLF変異ポリペプチドの細胞内での発現に影響できる適した制御配列と作動可能に連結される。特定の実施形態では、EKLFポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、マウスEKLFタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、そして特定の実施形態では、改変コドンは74位アミノ酸での改変をコードする。特定の実施形態では、EKLFポリペプチドをコードするポリヌクレオチドは、ヒトEKLFタンパク質をコードするポリヌクレオチドであり、そして特定の実施形態では、改変コドンは54位アミノ酸での改変をコードする。特定の実施形態は、EKLFポリペプチドが、マウスにおける74位のリシンか、ヒトにおける54位のリシンか、または相当するSUMO化部位でSUMO化されることを意図する。特定の実施形態は、ヒトEKLFポリペプチドが54位のリシンでSUMO化されることを意図する。特定の実施形態では、マウスEKLFポリペプチドの74位のリシンに相当するSUMO化部位は、ヒトEKLFポリペプチドの54位のリシンに相当する。いくつかの実施形態は、アルギニン、腫瘍抵抗性および健康な長寿性を与える他のアミノ酸によるマウスEKLFポリペプチド内のリシン74の改変、アルギニンもしくは腫瘍抵抗性および健康な長寿性を与える他のアミノ酸によるヒトEKLFポリペプチド内のリシン54の改変、または他のEKLFポリペプチド内のSUMO化部位に相当する改変が、EKLFポリペプチドのSUMO化を防ぐことを意図する。哺乳動物におけるEKLFポリペプチドのSUMO化部位の改変は、哺乳動物の長寿性の増加、寿命の増加、および健康寿命の増加、ならびに哺乳動物における腫瘍形成性の減少および腫瘍の転移の減少を引き起こす。加えて、がん性の細胞に対するEKLFのK74R(またはEKLFのK54R)の改変の役割が担メラノーママウスで試験された。驚くべきことに、EKLFのK74R(またはEKLFのK54R)アレルの発現は、がん性メラノーマ細胞が転移することを防ぎ、そして、長寿性を増加させる。
【0061】
特定の実施形態では、所望されるEKLF変異ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが、ベクター、例えば、DNAプラスミド、ウイルス、または他の適したレプリコンに挿入される。好ましくは、所望されるEKLF変異ポリペプチドをコードする核酸配列は、例えば高度に純化されたHSCの集団のような骨髄細胞へと後に導入される、ウイルスのゲノムに統合される。本開示での使用に適したウイルスベクターとしては、レトロウイルス、アデノウイルス、パルボウイルス(例えば、アデノ随伴ウイルス)、コロナウイルス(corcoavirus)、例えばオルトミクソウイルス(例えば、インフルエンザウイルス)のようなマイナス鎖RNAウイルス、パラミクソウイルス(例えば、麻疹およびセンダイ)、ラブドウイルス(例えば、狂犬病および水疱性口内炎ウイルス)、例えばピコルナウイルスおよびアルファウイルスのようなプラス鎖RNAウイルス、ならびにアデノウイルス、ヘルペスウイルス(例えば、1型および2型単純ヘルペスウイルス、エプスタイン・バールウイルス、サイトメガロウイルス)、およびポックスウイルス(例えば、ワクチニア、鶏痘およびカナリア痘)を含む2本鎖DNAウイルスが挙げられるが、これらに限られない。他のウイルスとしては、ノーウォークウイルス、トガウイルス、フラビウイルス、レオウイルス、パポバウイルス、ヘパドナウイルス、および肝炎ウイルスが挙げられる。レトロウイルスの例としては、トリ白血病・肉腫、哺乳動物C型、B型ウイルス、D型ウイルス、HTLV−BLVグループ、レンチウイルス、スプマウイルスが挙げられるが、これらに限られない。他の例としては、ネズミ白血病ウイルス、ネズミ肉腫ウイルス、マウス乳腫瘍ウイルス、ウシ白血病ウイルス、ネコ白血病ウイルス、ネコ肉腫ウイルス、トリ白血病ウイルス、ヒトT細胞白血病ウイルス、ヒヒ内在性ウイルス、テナガザル白血病ウイルス、Mason Pfizerサルウイルス、サル免疫不全ウイルス、サル肉腫ウイルス、ラウス肉腫ウイルス、およびレンチウイルスが挙げられる。
【0062】
あるいは、Cas酵素と、ゲノム遺伝子座内の改変Eklf遺伝子産物をコードする核酸の標的化配列にハイブリダイズするRNAとをそれぞれ細胞内に運搬する、少なくとも2つのベクターが用いられるような、クラスター化等間隔短鎖回文リピート(CRISPR)およびCRISPR関連タンパク質(Cas)系を用いて、細胞は、改変EKLFポリペプチドを発現するように形質導入される。Cas酵素は後に、ゲノム遺伝子座上の標的化配列にハイブリダイズするRNAによりリクルートされ、発現された改変Eklf遺伝子産物を切断する。いくつかの実施形態では、Cas酵素はII型CRISPR系酵素である。いくつかの実施形態では、II型CRISPR系酵素はCas9酵素である。いくつかの実施形態では、Cas9酵素はS.pneumoniae、S.pyogenes、またはS.thermophilusのCas9であり、そして、これらの生物に由来する変異型Cas9を含み得る。この酵素は、Cas9のホモログまたはオーソログであり得る。いくつかの実施形態では、CRISPR酵素は、真核生物細胞内での発現についてコドン最適化される。いくつかの実施形態では、CRISPR酵素は標的EKLF配列の位置で、1本また2本鎖の切断を指揮する。
【0063】
パッケージング細胞株は、所望される遺伝子産物(例えば、ELKFのK54RまたはEKLFのK74Rポリペプチド)をコードするポリヌクレオチドを含む組み換えゲノムを含む組み換えウイルスベクターを生み出すためにも用いられ得る。パッケージング細胞株の使用は、産された組み換えビリオン(viron)の感染の効率とスペクトルの両方を増加させ得る。所望される遺伝子産物(例えば、少なくとも1つのアミノ酸改変を有する本EKLF)をコードする核酸を含む組み換えゲノムを含む組み換えウイルスベクターを生み出すために有用なパッケージング細胞株は、宿主細胞、例えば哺乳動物の宿主細胞を、ウイルスのゲノムへと統合された所望される遺伝子産物をコードする核酸を有するウイルスベクターでトランスフェクトすることで産される。細胞株を生み出すために適した宿主細胞としては、ヒト(例えば、Hela細胞)、雌ウシ、ブタ、マウス(例えば、胚性幹細胞)、ウサギ、およびサル(例えば、COS1細胞)の細胞が挙げられる。細胞株を生み出すために適した宿主細胞は、胚性細胞、骨髄幹細胞、または他の前駆細胞であり得る。
【0064】
細胞を形質導入または形質転換するために適した方法の例としては、感染、リン酸カルシウム沈殿、エレクトロポレーション、マイクロインジェクション、リポフェクション、および直接取り込みが挙げられるが、これらに限られない。かかる方法は、この分野で周知である。所望されるEKLF変異アレル産物をコードする核酸を含む組み換えゲノムを含む、組み換えウイルスベクターからなるウイルスのストックは、ウイルス産出に適した条件下(例えば、適切な成長培地内、および適切な時間の期間)で、形質導入された細胞を維持することで産される。こういった条件は本開示にとって重要ではなく、そして関連する分野で一般に知られている。
【0065】
所望される核酸の産物をコードし、そして細胞内で所望される核酸の産物の発現に影響できる統制配列に作動可能に連結された組み換え遺伝子は、目的の特定の細胞に入るウイルスのゲノムに組み入れられ得る。細胞は、所望される核酸の産物をコードする安定的に組み込まれた組み換え遺伝子を含むように、遺伝的に変更または形質転換される。このような方法で遺伝的に変更または形質転換された細胞は、次いで、哺乳動物(例えば、レシピエント)への投与に先立って、組み換え遺伝子の発現を検査され得る。例えば、発現される所望される遺伝子産物(例えば、EKLFのK54RまたはEKLFのK74Rポリペプチド)の量は、標準的な方法にしたがって(例えば、ウェスタンブロットによって)測定され得る。このような様式で、哺乳動物への投与に先立って、形質転換された細胞内で所望される核酸の産物が適したレベルで発現されているかどうかが、in vitroで決定され得る。
【0066】
適したレベルで所望される核酸の産物を発現する遺伝的に変更された細胞は、レシピエント被験体に導入または注入される前に、特定の数まで拡張(成長)され得る。細胞の拡張法は関連分野において周知である。
【0067】
多能性幹細胞の培養に適する任意の培地が、本発明に従って用いられ得、そしていくつかのそういった培地は本分野で知られている。例えば、多能性幹細胞の培養のための培地は、ノックアウトDMEM、20%ノックアウト血清代替品、非必須アミノ酸、2.5%FBS、グルタマックス、ベータメルカプトエタノール、10ng/マイクロリットルbFGF、および抗生物質を含み得る。使用される培地は、例えば、2.5%FBSを含まない、またはより高い%もしくはより低い%のノックアウト血清代替品を含む、または抗生物質を含まないような、培地のバリエーションであり得る。使用される培地は、未分化な状態のヒト多能性幹細胞の成長を支援するために適した任意の他の培地であり得、例えばmTeSR(STEMCELL Technologiesから入手可能)、またはNutristem(Stemgentから入手可能)、またはES培地、または本分野で知られる任意の他の適する培地であり得る。凍結保護剤を用いて、または凍結保護剤を用いずに凍結されていた組織試料から成長させられた細胞集団から、多能性幹細胞を生み出す/得るための他の典型的な方法。
【0068】
遺伝的に操作されたESC、iPSC、および/またはCSBCは、HSCおよび/またはHSPCを得るために分化され得る。例えば、様々な分化因子の使用によるような、多能性幹細胞の指向された分化、または自発的な分化のための方法が、本分野で知られている。多能性幹細胞の分化は、本分野で知られる様々な方法によってモニターされ得る。幹細胞と分化因子で処置された細胞との間のパラメーターの変化は、処置された細胞が分化していることを示し得る。分化の間の細胞の形態を直接的にモニターするため、顕微鏡が使われ得る。
【0069】
いくつかの例では、細胞はヒトHSCであって、Lin、Sca−1、CD7、CD27、CD34、CD38、CD43、CD45RO、CD45RA、CD59、CD90、CD90.1、CD93、CD105、CD109、CD110、CD111、CD117、CD123、CD131、CD133、CD135(Flt3)、CD150、CD166、CD173、CD174、CD184、CD202b、CD243、CD271、CD309、CD338、GATA−2、GATA−3、c−myb、Aiolos、TdT、Ikaros、PU.1、HLA DR、およびMHCクラスIからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーで陽性に染色される細胞である。他の例では、細胞はマウスHSCであって、Lin、Sca−1、CD27、CD34、CD38、CD43、CD59、CD90.1、CD117、CD123、CD127、CD135、CD150、GATA−2、GATA−3、TdT、Ikaros、PU.1、Aiolos、c−myb、およびMHCクラスIからなる群から選択される少なくとも1つのマーカーで陽性に染色される細胞である。
【0070】
驚くべきことに、本発明は、EKLFが比較的高いレベルでLT−HSC内で発現され、そしてEKLFの枯渇が異なる型の造血/血液細胞の集団の変化を引き起こすことを見出した。さらに、EKLFは、LT−HSCおよび造血前駆細胞(例えばMPP、CMP、GMPおよびMEP)内のコロニー刺激因子2受容体サブユニットCsf2rbの発現を負に調節する。結果として、LT−HSCは、EKLFの枯渇および結果としてCsf2rbの増加により、分化能力の増加を獲得する。LT−HSCから始まり、そして骨髄単球系列に渡るEKLF−CSF2RB軸、およびEKLFによる造血の調節は、部分的には、LT−HSCが下流の造血前駆細胞へと過剰に分化することを防ぐことにより、LT−HSCの恒常性を維持する。ある実施形態では、EKLFの枯渇はLT−HSC内のCsf2rbの発現を増加させる。他の実施形態では、EKLFの発現は造血幹細胞/前駆細胞内のCsf2rbの発現を減少させる。EKLFは、余分なCsf2rbの発現および結果としてLT−HSCの分化を防ぐリプレッサーとして働く。
【0071】
前掲のように、本発明は、EKLF発現の枯渇が、予想外に長期造血幹細胞(LT−HSC)を含む異なる型の造血細胞の集団を大きく変えることを示す。興味深い相関として、EKLFは、多能性前駆細胞(MPP)と同様にLT−HSC内でも、比較的高いレベルで発現される。さらに、EKLFは、LT−HSC、MPP、GMPおよびCMP内で、IL−3、GM−CSFおよびIL−5に対する受容体の共通サブユニットとして知られるコロニー刺激因子2受容体アルファサブユニット(CSF2RB)の発現を抑制するようである。結果として、LT−HSCは、EKLFの枯渇および結果としてのCSF2RBの増加により、増加した分化能を得る。これらの結果は共に、LT−HSCから始まり、そして骨髄単球系列に渡るEKLF−CSF2RB軸による造血の調節を実証する。
【0072】
本発明の特定の実施形態によれば、細胞は、本明細書に記載された改変Eklf遺伝子、改変EKLFポリペプチド、および形質導入(またはトランスフェクション)の方法に従い、in vitroで遺伝的に操作される。胚性幹細胞(ESC)は霊長類種のメンバーの胚盤胞から単離され得る。ヒト胚性幹(hES)細胞は、Thomsonら(Science 282:1145、1998;Curr.Top.Dev.Biol.38:133ff.、1998)、およびReubinoffらNature Biotech.18:399、2000によって記載された技術を用いて、ヒト胚盤胞細胞から調製され得る。iPSCは一般に、hESC様の形態であって、高い核−細胞質比、はっきりとした境界、そして目立った核を有し、平らなコロニーとして成長するという形態を有する。加えて、iPSCは一般に、本分野の当業者に知られる1つまたは複数の鍵となる多能性マーカーであって、アルカリフォスファターゼ、SSEA3、SSEA4、Sox2、Oct3/4、Nanog、TRA160、TRA181、TDGF1、Dnmt3b、FoxD3、GDF3、Cyp26a1、TERT、およびzfp42を含むがこれらに限られないマーカーを発現する。例示的なiPSCは、Oct−4、Sox−2、c−MycおよびKlf遺伝子を形質導入された細胞である。他の典型的なiPSCは、OCT4、SOX2、NANOG、およびLIN28を形質導入された細胞である。当業者は、例えば、OCT4、SOX2、KLF4、MYC、Nanog、およびLin28からなる群から選択される因子のような、様々な異なるリプログラミング因子のカクテルがiPSCを産するために用いられ得ることを知る。臍帯血幹細胞は、多能性であり、異なる幹細胞の型を形成する能力を有すると考えられており、そして、臍帯血幹細胞は、分娩後の胎盤および付着していた臍帯に残る臍帯血から単離され得る。
【0073】
本発明の特定の実施形態によれば、細胞は、例えば、EKLFのK74R(またはEKLFのK54R)ポリペプチドを発現するノックイン(Kin)マウスのような、所望される核酸の産物を発現するように遺伝的に変更された動物から得られる。こういった実施形態では、所望されるEKLFのK74R変異アレルを持つトランスジェニックKinマウスは、Cre−loxP組み換え系を用いて、または、例えば部位指向的組み換え系のような本分野で周知の任意の他の方法を用いて作り出される。目的の形質を有するこれらの動物を選び出すために、トランスジェニック動物はスクリーニングされ、そして評価される。最初のスクリーニングは、例えば、サザンブロット解析またはPCR技術を用いて動物の組織を解析し、トランスジーンの組み入れが起きたということを確認するために行われ得る。トランスジェニック動物の組織内におけるトランスジーンmRNAの発現レベルも、限定されるものではないが、動物から得られた組織試料のノーザンブロット解析、in situハイブリダイゼーション解析、および逆転写酵素−PCR(RT−PCT)を含む技術を用いて評定され得る。適した組織の試料は、トランスジーンに特異的な抗体を用いて、免疫細胞化学的に評価され得る。トランスジーンの存在を評価するための代替的な、または追加の方法として、例えば、酵素および/または免疫学的なアッセイ、特定のマーカーまたは酵素の活性についての組織染色、フローサイトメトリー解析などのような、適した生化学的アッセイが挙げられるが、これらに限られない。血液の解析も、血液中のトランスジーン産物の存在を検出するために有用であり得る。
【0074】
本開示の他の実施形態によれば、細胞は、正常で健康なドナー哺乳動物から単離され、その後、所望される核酸の産物(すなわち、ヒトEKLFのK54Rポリペプチド)を発現するように遺伝的に変更され、これらの遺伝的に変更された細胞は、その後、拡張され、そしてレシピエント哺乳動物に投与される。
【0075】
本開示のさらなる実施形態によれば、細胞は、処置を必要とする哺乳動物から単離され、細胞はその後、所望される核酸の産物(すなわち、EKLFのK54Rポリペプチド)を発現するように遺伝的に変更され、拡張され、そして移植によって同じ哺乳動物に戻される。
【0076】
細胞の移植
好ましくは、受取被験体(例えばヒト)への細胞の移植の様式は、点滴および/またはボーラス注入を含む静脈内投与、あるいは注入による腹膜内投与である。例えば、非経口投与、粘膜投与、埋め込み投与、筋肉内投与、皮内投与、経皮投与のような他の様式も用いられ得る。好ましくは、骨髄細胞は、哺乳動物への投与の特定の様式および経路に適した媒体、例えば、リン酸緩衝生理食塩水の中で投与される。
【0077】
本発明は、驚くべきことに、改変EKLFポリペプチドをコードする遺伝子を持ち、そして発現するBMMC、HSC、またはHPSCの受取被験体への移植の後に、レシピエント被験体が、腫瘍細胞の成長および/または転移を抑制して、より長い寿命を満喫し得るということを見出した。したがって、この結果は、移植を介した、EKLF変異アレル遺伝子産物を発現するよう操作された自家性または異種性の細胞の送達が、被験体の寿命の延長、および/またはがんの処置のための新しい道筋を提供し得る、ということを示唆する。
【0078】
本発明によって抑制される腫瘍障害は、肝臓がん、大腸がん、乳がん、前立腺がん、肝細胞がん、メラノーマ、肺がん、神経芽細胞腫、脳腫瘍、造血器悪性腫瘍、網膜芽細胞腫、腎細胞がん、頭部および頸部がん、子宮頸がん、すい臓がん、食道がん、または扁平上皮がんのいずれかであり得る。ある好ましい例では、細胞増殖性障害はメラノーマである。
【0079】
さらなる記述なしに、当業者は、先の記述および次の典型的な例示を用い、本発明の化合物を製造および利用し、そして請求される方法を実践できると考えられる。したがって、次の実施例は、本発明の好ましい実施形態を特に明らかにするものであり、そして、いかなる方法によっても本開示の他の部分を制限するものとは解釈されない。
【実施例】
【0080】
材料と方法
Eklf−KOマウスの産出
【0081】
研究に渡って、C57BL16またはB6マウス(Jackson Laboratory)を用いた。Academia SinicaのIMBのTransgenic Core Facility(TCF)にて、標準的な手順に従い、Eklf遺伝子のヘテロ接合およびホモ接合ノックアウトを有するB6マウス系列の産出を行った。このEklf−KOマウスの産出には、遺伝的に操作されたEklf遺伝子座(さらなる詳細には、
図1Aの説明を参照のこと)を含むBACコンストラクトおよびE2A−Creマウスを用いた。
【0082】
EKLF(K74R)ノックインマウスの産出
【0083】
C57B/6JのES細胞由来のマウスのゲノムDNAをテンプレートとして用い、EKLFエキソン2の一部を含む断片をPCRで増幅し、そして標的ベクターを構築するために用いた。テンプレート標的化ベクターへのクローニングに先立ち、エキソン2にコードされるコドン74を標準的な突然変異誘発技術を用いて変異させ、アルギニン(K74R)をコードさせた。カナマイシン抵抗性をE.coliで発現する原核生物プロモーター(gb2)と、ネオマイシン抵抗性を哺乳動物細胞で発現する真核生物プロモーター(PGK)とを連結するネオマイシン/カナマイシン抵抗性遺伝子をPGK−gb2−neoテンプレートがコードするネオマイシンカセットも、標的ベクター内に構築した。さらに、この改変WT DNAに、その除去を促進する「loxP」部位を隣接させた。その後、標的コンストラクトをC57B/6JのES細胞にエレクトロポレーションし、そしてネオマイシン抵抗性について選択した。5’および3’サザンブロットで、適切に標的化されたESクローンを同定した。neoカセットの除去、およびEKLFのK74Rをコードする改変ゲノム領域の構造物の確認に続き、ESクローンを胚盤胞(blastocyte)に注入してキメラマウスを産出した。ノックインアレルを含むヘテロ接合マウスを得るため、全身でCreリコンビナーゼを発現するEIIa−Creマウスと生殖系列伝達F1系列とをかけ合わせた。点変異を含む1つのアレルを有するeklfヘテロ接合体を相互交雑し、ホモ接合のeklf(K74R)ノックインマウスを達成した。
【0084】
TaqMan遺伝子発現アッセイ
【0085】
標準的な手順に従って、TRIzol試薬(Invitrogen)を用いてRNAを調製し、そしてoligo−dTプライマーおよびSuperScript III逆転写酵素(RT)(Invitrogen)を用いてRNAを逆転写した。検証済みのTaqManアッセイを用いて、定量的PCR(qPCR)をApplied Biosystems 7500 リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)装置上で、デフォルトのサイクリング条件下(50℃で2分、95℃で10分、95℃で15秒、そして60℃で1分を40サイクル)で行った。段階希釈したcDNA試料の標準曲線から相対的なEKLF(Mm04208330_g1およびMm00516096_m1;Applied Biosystems)の発現レベルを決定し、そして、その後、β−アクチン(Actb:Mm00607939_s1;Applied Biosystems)またはGapdh(Mm99999915_g1;Applied Biosystems)の発現レベルに対して標準化した。
【0086】
骨髄移植(BMT)
【0087】
27Gニードル/シリンジおよび19Gニードル/シリンジを用いて、CD45.2/EKLF(K74R)ドナーマウス(8〜10週齢)の大腿骨、脛骨、および上腕骨からマウスの骨髄を抽出し、集め、そしてストレーナーに通し、そしてその後、Liouら(2014)に記載された方法に従って、造血幹細胞(HSC)のプールを単離した。8〜10週齢のレシピエントCD45.1/WT C57BL/6マウスに、致死量(10Gy)または致死量の半量(5Gy)のX線を照射した。単離された骨髄HSC混合物を、X線照射されたレシピエントマウスの尾静脈に注入した。フローサイトメトリー解析により、各レシピエントマウスでのBMTの成功を確認した。そして、BMTの8〜9週後に、下記に記載する肺コロニーアッセイにより抗腫瘍形成性を評価した。
【0088】
寿命の測定
【0089】
これは、標準的な手順に従った。Specific−pathogen−free(SPF)の動物施設で、EKLF(K74R)ノックインマウスの寿命を追跡調査した。
【0090】
腫瘍形成に対する抵抗性のアッセイ
【0091】
EKLF(K74R)Kinマウスおよび野生型マウス(グループあたり3匹)のそれぞれの尾静脈に、静脈内投与(i.v.注入)で、ネズミの転移性メラノーマ細胞B16−F10(10
6細胞/0.2mL)を注入し、これらの細胞からの腫瘍形成および転移の可能性を検査した。B16−F10細胞はC57BL/6マウスに由来し、そしてC57BL/6マウス(野生型およびEKLF(K74R)ノックインマウス)と免疫学的に適合するため、この細胞を試験に選んだ。2週間後、マウスをCO
2で窒息死させ、そして肺を取り出し、さらに検査した。肺表面上の転移性結節を、画像解析ソフトウェア(Image Inc.)を用いて測定した。各マウスの腫瘍数の測定は、注入から14日後に行った。肺のコロニゼーションアッセイを成功させる1つの重要な秘訣は、注入に際して適切な数のがん細胞を用いることである。一般に、多くの場合、2〜3の異なる量のがん細胞が注入に用いられる。そして、注入から2〜6週間後に肺の腫瘍コロニーを定量し、そして比較した。
【0092】
フローサイトメトリー解析およびセルソーティング
【0093】
E14.5ネズミ胎児の肝臓細胞を40mmナイロンセルストレーナー(BD Biosciences)に通してろ過し、単細胞の懸濁液を得た。補足表1でリストするように、細胞表面マーカーに対する次の抗体、抗Lin、抗Sca−1、抗c−Kit(CD117)、抗CD34、抗Thy1.1、抗Flk2、抗CD16/32、CD11b、抗CD11c、抗Ter119、抗CD42d、抗CD41、抗Gr−1、抗F4/80、および抗33D1(BD Biosciences and Bioscience)、の異なる組み合わせを用いて、異なる型の造血細胞を同定した。抗体による免疫染色後、LSRII(BD Biosciences)およびFlowJoソフトウェア(Tree Star)を用いて細胞を解析するか、あるいはFACSAriaII SORP(BD Biosciences)を用いてソートした。
【表S1】
【0094】
RNA解析
【0095】
TRIzol試薬(Invitrogen)を用いて、E14.5ネズミ胎児の肝臓から全RNAを抽出した。RNAqueous−Micro Kit(Ambion)を用いて、純化された細胞のミクロスケールのRNAを単離した。その後、RT−qPCR解析をするために、SuperScript II逆転写酵素(RT)(Invitrogen)を用いてcDNAを合成した。cDNAの定量的リアルタイムPCR(qPCR)解析は、LightCycler(登録商標) 480 SYBR Green I Master(Roche Life Science)を用いて行い、そしてRoche LightCycler LC480 Real−time PCR装置を用いて、産物を検出した。qPCR解析に用いたプライマーの配列は、補足表2に示されるホームデザインしたものであるか、オンラインのデータベースであるPrimerBank:http://pga.mgh.harvard.edu/primerbankからダウンロードしたものである。
【表S2】
【0096】
免疫蛍光染色解析
【0097】
上記のフローソーティングによって純化されたLSK(Lin
−、Sca−1
+、およびc−Kit
+)−CD34
−−Flk2
−のLT−HSCを懸濁し、そして、4ウェルのカルチャースライド(Millipore Millicell EZ SLIDE)上で、1%パラホルムアルデヒドで固定し、0.1%(vol/vol)Triton X−100で透過処理を施し、そしてマウス抗マウスCSF2RB(Gene Tex)またはホームメイドのウサギ抗マウスEKLF(AEK、Shyuら、2006)で染色した。抗マウスおよび抗ウサギの2次抗体には、それぞれAlexa Fluor 488および543を接合した。49−6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI)(Invitrogen)を、核の染色に用いた。LSM710およびLSM510を用いて、蛍光の励起および画像の表出を達成した。画像データはImageJソフトウェアを用いて解析した。
【0098】
メチルセルロースコロニー形成アッセイ
【0099】
MillerおよびLai(2005)による記述に従って、このアッセイを行った。マウス胎児の肝臓から蛍光活性セルソーター(FACS)を用いて純化されたLT−HSCを、幹細胞用の培地(無血清拡張培地、STEMCELL)で培養した。rmSCF、rhIL−6、rmIL−3を含むがrhEPOを含まない培地(GF M2534、STEMCELL)にLT−HSCを再播種し、そして播種から14日後に、形成されたコロニーの数を数えた。
【0100】
統計
【0101】
両側Studentのt検定(Microsoft Excel)を用いて有意差を求めた。0.05以下のp値を有意とみなした。
【0102】
実施例1 EKLFの枯渇による造血細胞の恒常性の乱れ
赤血球系列に対する巨核球系列の分化以外の、造血系の恒常性におけるEKLFの調節効果を検査するために、本発明者らはまず、遺伝子標的化戦略を用いてEklf遺伝子ノックアウト(KO)を有するモデルマウスを産出した(
図1A)。ホモ接合型Eklf
−/−マウスはE14.5日で胎生致死であり、そして変異型の胚は貧血で、部分的にグロビン遺伝子の発現の欠如によるアルビノ様の形質を示した(
図1B)。その後、本発明者らは、Eklf
+/+(WT)マウスおよびEklf
−/−(KO)マウスからE14.5胎児肝臓をそれぞれ調製し、そして異なる組み合わせの抗体で染色した後に、フローサイトメーターを用いて細胞をソートした。先行研究(Fronteloら、2007)から予想されるように、EKLFの不在は、KOマウスのE14.5胎児肝臓において、赤血球の大きな減少と、そして同時に、巨核球の増加を引き起こした(
図1C)。
【0103】
驚くべきことに、本発明者らは、WTのE14.5胎児肝臓と比較してKOのE14.5胎児肝臓においては、MPP、CMP、GMP、MEP、単球、および樹状細胞を含む多くの型の造血細胞の数も増えていることを見出した。一方で、CLPおよび顆粒球の数は変わらなかったが、LT−HSCとマクロファージの数は減少した(
図2および表1)。
【表1】
【0104】
上記データは、EKLFが、造血系の恒常性を幅広く調節することを実証する。特に、この因子の存在は、骨髄単球系統のすべての前駆細胞を増やし得る。同様に、EKLFはLT−HSCの恒常性も調節するようである(下記を参照のこと)。
【0105】
実施例2 造血幹細胞および前駆細胞における、EklfおよびCsf2rbの発現パターン
EKLFの造血系に対する調節効果の分子的な基盤を解明するために、本発明者らはまず、LT−HSCおよび異なる造血前駆細胞における、EklfのmRNAのレベルを解析、そして比較した。WTのE14.5胎児肝臓におけるmRNAのRT−qPCR解析が示すように、MEP内のEklfのmRNAのレベルは、マウスの赤白血病(MEL)細胞でのレベルと同等であり、一方で、CMPおよびGMPにおけるレベルは非常に低かった(
図3A、左の棒グラフ)。このEklfの発現パターンは、成体マウスの骨髄から単離されたMEP、CMP、およびGMPの解析に由来する発現パターン(Fronteloら、2007)と類似した。しかし、驚くべきことに、E14.5胎児肝臓のMPPおよびLT−HSCにおけるEklfのmRNAのレベルは比較的高く、MEPにおけるレベルのおよそ50%であった(
図3A、左の棒グラフの右の2つの棒)。LT−HSCおよびMPPで例示するように(
図3A、右の棒グラフ)、KOマウスのE14.5胎児肝臓の上記の型の細胞においては、予想通りEklfのmRNAは存在しなかった。
【0106】
造血系の恒常性は、LT−HSCの自己再生と、様々なサイトカインおよびシグナル伝達経路によって分化能を調整される異なる造血前駆細胞の増殖とのバランスに、部分的に依存する(Ghiaurら、2013;Kentら、2013;Wangら、2013)。KOマウスのE14.5胎児肝臓における造血細胞の集団の変化(
図1)という点から、本発明者らは、造血幹細胞および前駆細胞の増殖、自己再生、および/または維持に関与することが知られているCsf2rb、Stat1、およびStat2の3遺伝子(AnamおよびDavis、2013)の発現について、定量的RT−qPCR解析を行った。
図3Bに示すように、Eklfのノックアウトにより、CMPおよびGMPにおいてStat1のmRNAおよびStat2のmRNAのレベルは変わらないままであったが、これらのmRNAのレベルはMEPにおいて増加した。一方で、IL−3/IL−5/GM−CSFの受容体の共通サブユニットCSF2RBをコードするCsf2rbのmRNAのレベルは、MPPと同様にこれら3つの前駆細胞において、大幅に増加した(
図3B)。
【0107】
本発明者らはさらに、LT−HSCにおけるCsf2rbのmRNAの発現レベルについて解析した。
図4Aに示すように、LT−HSCにおいても、EKLFの枯渇によりCsf2rbのmRNAは増加した。蛍光免疫共染色により、KOマウスのE14.5胎児肝臓のLT−HSCにおいて、CSF2RBタンパク質のレベルも上昇することを示した(
図4B)。興味深いことに、EKLFは主にLT−HSCの細胞質に存在しており(
図4B)、これは赤血球前駆細胞において以前から観察されていた分布パターンに類似した(Shyuら、2014)。
【0108】
実施例3 LT−HSCの複数系列への分化決定の、EKLFによる負の調節
Eklf
−/−マウスのE14.5胎児肝臓におけるLT−HSC数の減少の基盤について、さらに理解するために、本発明者らは、MillerおよびLai(2005)によって記載されるように、ソートされたLT−HSCのコロニー形成アッセイを行った。予想されるように、プレート上のサイトカインを含まないメチルセルロース培地で、Eklf
+/+またはEklf
−/−どちらかのE14.5胎児肝臓からソートして純化したLT−HSCを培養したときには、コロニーは形成されなかった(データは示さない)。しかし、サイトカイン/因子rmSCF、rhIL−6、およびrmIL−3を用い、rhEPOを用いずにインキュベートしたとき、10
3個のWTのLT−HSCの内、およそ150個がコロニーを形成した(
図4C、棒グラフの左の棒)。さらに、Eklf
−/−のE14.5胎児肝臓からのLT−HSCは、サイトカイン/因子による刺激に関して、より頑強な分化能を獲得し、これはコロニー数の2.5倍の増加に反映された(
図4C、棒グラフの右の棒)。
図4Cのデータは、EKLFが、部分的には、LT−HSCが下流の造血前駆細胞へと過剰に分化することを防ぐことにより、通常の条件下でLT−HSCの恒常性を維持するということを示す。
【0109】
実施例4 EKLF(K74R)マウスの骨髄の、WTマウスへの移植が、WTマウスに腫瘍抵抗性を与える
EKLFのK74R変異アレルを持つトランスジェニックマウスを、国際公開第0367272016号に記載される手順に従って産出した。
【0110】
本実施例において、CD45.1/野生型マウス(レシピエント)に、CD45.2/EKLF(K74R)マウス(ドナー)の骨髄を移植し、その後、上述の腫瘍コロニーアッセイを用いて、各レシピエントマウスの腫瘍抵抗性を評価した。
【0111】
図5Aに示すように、EKLF(K74R)マウスからの骨髄HSC細胞の移植の後、WTマウスは、メラノーマ細胞の静脈内注入によって誘導される肺病巣の数の有意な減少(約3倍低い)によって立証されるように(
図5B)、はるかに強い腫瘍抵抗性を有するようになった。このデータは、骨髄移植によって他のマウスに移され得る、遺伝的に操作された造血/血液系によって、EKLFのK74Rマウスの腫瘍抵抗能力が与えられるということを示す。