(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接合部材は、前記複数の第1の板材の強度が前記接合部材の高さ方向の中心軸に対して対称になるように、前記複数の第1の板材が積層された構造を有する、請求項2に記載の接合構造体。
前記第1の木製パネルおよび前記第2の木製パネルの幅方向の長さはそれぞれ、約300mm〜約800mmである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の接合構造体。
前記接合部材の大きさは、高さ方向の長さが約150mm〜約270mm、幅方向の長さが約150mm〜約270mm、厚みが約90mm〜約270mm、側面表面間の最短の長さが約75mm〜約135mmである、請求項1〜11のいずれか一項に記載の接合構造体。
【発明を実施するための形態】
【0008】
(定義)
以下、本明細書において用いられる用語を定義する。
【0009】
本明細書中で「約」とは、後に続く数値の±10%の範囲内をいう。
【0010】
本明細書中で、降伏荷重とは、降伏開始時に印加されている荷重をいう。
【0011】
本明細書中で、許容耐力とは、最大荷重の2/3と降伏荷重とのうちの小さい方の荷重の大きさをいう。
【0012】
本明細書中で、終局耐力とは、少なくとも部分的に崩壊し始める時に印加されている荷重の大きさをいう。
【0013】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明する。なお、本明細書全体を通して、同一の構成要素には同一の参照数字が使用されている。
【0014】
(接合構造体)
図1は、本発明の接合構造体の一例を示す。
図1aは、接合状態の接合構造体100の構造の一例を示し、
図1bは、
図1aに示される接合構造体100の分解図である。
【0015】
図1aおよび
図1bに示される実施形態では、接合構造体100は、木製パネル110と、木製パネル120と、木製パネル110と木製パネル120と接合するための千切り状の接合部材130とを含む。ここで、本発明では、木製パネル110の比較的大きい表面積を有する面を木製パネル110の主面111とし、木製パネル120の比較的大きい表面積を有する面を木製パネル120の主面121とする。
図1aおよび
図1bに示される実施形態では、木製パネル110および木製パネル120は、相互に略直交するように配置されている(すなわち、木製パネル110の主面111と木製パネル120の主面121とが略直交する)。
【0016】
図1bに示されるように、接合部材130の一方の半体を嵌め込むために接合部材130の一方の半体の形状に対応している蟻溝140
1(すなわち、略等脚台形状の第1の開口部)が、木製パネル110の接合部の所定の位置に形成されている。また、接合部材130の他方の半体を嵌め込むために接合部材130の他方の半体の形状に対応している蟻溝140
2(すなわち、第1の開口部の上底に沿った軸に対して第1の開口部と線対称である略等脚台形状の第2の開口部)が、木製パネル120の接合部の所定の位置に形成されている。
図1aおよび
図1bに示される実施形態では、木製パネル110の主面111上に表れる蟻溝140
1の開口部の形状は長方形であり、木製パネル120の主面121上に表れる蟻溝140
2の形状は略等脚台形である。木製パネル110と木製パネル120との間のこの差異は、
図1bに示されるように木製パネル110と木製パネル120と直交するように配置されていることに起因するものである。蟻溝140
1、140
2の形状は、略等脚台形に限られず、略凸形状(例えば、略等脚台形の下方に四角形が組み合わさった形状)であってもよい。好ましい実施形態において、蟻溝の形状は略等脚台形である。
【0017】
木製パネル110の蟻溝140
1と木製パネル120の蟻溝140
2とを位置合わせすることによって、接合部材130の全体形状に対応する断面蟻形の空間150(すなわち、蟻溝140
1と蟻溝140
2とを組み合わせることによって作り上げられる千切り状の凹部)が形成される。木製パネル110の蟻溝140
1と木製パネル120の蟻溝140
2とが位置合わせされた状態で、接合部材130を断面蟻形の空間150に挿入することによって、木製パネル110および木製パネル120は、接合部材130によって固定され、相互に接合される。
【0018】
本明細書において、以下、接合構造体の許容耐力または終局耐力の好ましい数値を記載するが、これらの数値は、木製パネル2枚を1つの接合部材で接続した接合構造体に関するものである点に留意されたい。
【0019】
本発明の接合構造体100は、少なくとも約10kN以上の許容耐力、好ましくは、約12kN以上の許容耐力を有し、より好ましくは、約14kN以上の許容耐力を有する。1つの実施形態において、本発明の接合構造体100は、約10kN〜約25kN、約10kN〜約25kN、約12kN〜約25kN、約14kN〜約25kNの許容耐力を有する。このように、接合構造体100が約10kN以上の許容耐力、好ましくは約12kN以上の許容耐力を有することにより、これらの接合構造体を用いて建築される、家屋などの建築物において十分な強度を達成し得る。特に、接合構造体100が接合用金具を用いることなく上記の許容耐力を達成し得ることは予想外であった。
【0020】
本発明の接合構造体100は、少なくとも約18kN以上の終局耐力、好ましくは、約20kN以上の終局耐力を有し、より好ましくは、約22kN以上の終局耐力を有し、最も好ましくは、約25kN以上の終局耐力を有する。1つの実施形態において、本発明の接合構造体100は、約18kN〜約35kN、約20kN〜約35kN、約22kN〜約35kN、約25kN〜約35kNの終局耐力を有する。このように、接合構造体100が約18kN以上の終局耐力を有することにより、これらの接合構造体を用いて建築される、家屋などの建築物において十分な強度を達成し得る。また、接合構造体100が約18kN以上、好ましくは約20kN以上の終局耐力を有することにより、地震によって倒壊するリスクが低い。特に、接合構造体100が接合用金具を用いることなく上記の終局耐力を達成し得ることは予想外であった。
【0021】
より具体的には、
図1aおよび
図1bに示される実施形態では、接合構造体100は、接合部材130を用いて木製パネル110と木製パネル120とを相互に直交して接続するように構成されており、接合構造体100は、好ましくは、幅方向のせん断力に対して約12kN以上の許容耐力を有し、より好ましくは、幅方向のせん断力に対して約13kN以上の許容耐力を有し、最も好ましくは、幅方向のせん断力に対して約14kN以上の許容耐力を有する。
【0022】
また、
図1aおよび
図1bに示される実施形態では、接合構造体100は、好ましくは、幅方向のせん断力に対して約16kN以上の終局耐力を有し、より好ましくは、幅方向のせん断力に対して約18kN以上の終局耐力を有し、最も好ましくは、幅方向のせん断力に対して約20kN以上の終局耐力を有する。
【0023】
図1aおよび
図1bに示される実施形態では、木製パネル110および木製パネル120のそれぞれの幅方向の長さ(すなわち、蟻溝のテーパー状内側面上の対向する頂部間の最短距離方向に沿った辺の長さ)は、好ましくは、約300mm〜約800mmであり、より好ましくは、約400mm〜約700mmであり、最も好ましくは、約500mm〜約600mmである。
【0024】
図2は、本発明の接合構造体の他の一例を示す。
図2aは、接合状態の接合構造体100’の構造の一例を示し、
図2bは、
図2aに示される接合構造体100’の分解図である。
【0025】
図2aおよび
図2bに示される実施形態では、接合構造体100’は、木製パネル110’と、木製パネル120と、木製パネル110’と木製パネル120と接合するための千切り状の接合部材130とを含む。ここで、本発明では、木製パネル110’の比較的大きい表面積を有する面を木製パネル110’の主面111’とし、木製パネル120の比較的大きい表面積を有する面を木製パネル120の主面121とする。
図2aおよび
図2bに示される実施形態では、木製パネル110’および木製パネル120は、相互に略平行に略面一になるように隣接して配置されている(すなわち、木製パネル110’の主面111’と木製パネル120の主面121とが略平行かつ略面一である)。
【0026】
図2bに示されるように、接合部材130の一方の半体を嵌め込むために接合部材130の一方の半体の形状に対応している蟻溝140
3が、木製パネル110’の接合部の所定の位置に形成されている。また、
図2bに示される実施形態と同様に、接合部材130の他方の半体を嵌め込むために接合部材130の他方の半体の形状に対応している蟻溝140
2が、木製パネル120の接合部の所定の位置に形成されている。
図2aおよび
図2bに示される実施形態では、木製パネル110’の主面111’上に表れる蟻溝140
3の形状は略等脚台形であり、木製パネル120の主面121上に表れる蟻溝140
2の形状もまた略等脚台形である。
【0027】
木製パネル110’の蟻溝140
3と木製パネル120の蟻溝140
2とを位置合わせすることによって、接合部材130の全体形状に対応する断面蟻形の空間150’(すなわち、蟻溝140
3と蟻溝140
2とを組み合わせることによって作り上げられる千切り状の凹部)が形成される。木製パネル110’の蟻溝140
3と木製パネル120の蟻溝140
2とが位置合わせされた状態で、接合部材130を断面蟻形の空間150’に挿入することによって、木製パネル110’および木製パネル120は、接合部材130によって固定され、相互に接合される。
【0028】
図2aおよび
図2bに示される実施形態では、接合構造体100’は、接合部材130を用いて木製パネル110’と木製パネル120とを相互に並列して接続するように構成されており、接合構造体100’は、好ましくは、幅方向のせん断力に対して約15kN以上の許容耐力を有し、より好ましくは、幅方向のせん断力に対して約16kN以上の許容耐力を有し、最も好ましくは、幅方向のせん断力に対して約18kN以上の許容耐力を有する。
【0029】
また、
図2aおよび
図2bに示される実施形態では、接合構造体100’は、好ましくは、幅方向のせん断力に対して約25kN以上の終局耐力を有し、より好ましくは、幅方向のせん断力に対して約27kN以上の終局耐力を有し、最も好ましくは、幅方向のせん断力に対して約29kN以上の終局耐力を有する。
【0030】
さらに、
図2aおよび
図2bに示される実施形態では、接合構造体100’は、接合部材130を用いて木製パネル110’と木製パネル120とを相互に並列して接続するように構成されており、接合構造体100’は、好ましくは、高さ方向の引張力に対して約11kN以上の許容耐力を有し、より好ましくは、高さ方向の引張力に対して約12kN以上の許容耐力を有し、最も好ましくは、高さ方向の引張力に対して約12.5kN以上の許容耐力を有する。
【0031】
また、
図2aおよび
図2bに示される実施形態では、接合構造体100’は、好ましくは、高さ方向の引張力に対して約20kN以上の終局耐力を有し、より好ましくは、高さ方向の引張力に対して約23以上の終局耐力を有し、最も好ましくは、高さ方向の引張力に対して約25kN以上の終局耐力を有する。
【0032】
図1に示される実施形態において、接合構造体100は、木製パネル110と木製パネル120とを接合するための金具(例えば、カスガイ、タイプレート)を備えていなくてもよい。これにより、木材のみで十分な強度の建築物を建築することができ、環境面においても優れている。好ましい実施形態においては、本発明の接合構造体は、接合のための金具を有さない。好ましくは、接合構造体100は、木製パネル110と木製パネル120とを接合するために木材のみを備え得る。
図2に示される接合構造体100’についても同様である。
【0033】
本発明の接合構造体における接合部材および木製パネルの厚さは、それぞれ独立して、80mm〜100mmであり得、好ましくは、約90mmであり得る。典型的な実施形態において、接合部材と木製パネルとは同じ厚さを有し得る。
【0034】
実施例に記載されるように、本発明者らは、バタフライジョイントに使用される接合部材が、無垢材(すなわち、丸太からそのまま成形された木材)から作製される場合には、十分な強度を得ることができないことを見出した。また、バタフライジョイントに使用される接合部材が、繊維方向を揃えて複数の単板を積層した単板積層材(LVL;Laminated Veneer Lumber)である場合には、接合部材によって接合されたCLTパネルに応力が印加されると、CLTパネルの強度と比較して接合部材の強度が強すぎCLTパネルが容易に割れてしまうため、接合構造体としては十分な強度を達成しにくかった。なお、本明細書中でCLTパネルとは、「直交集成材」(CLT;Cross Laminated Timber)を指す。
【0035】
すなわち、接合構造体として十分な強度を達成するためには、木製パネルの強度と接合部材の強度とのバランスが重要なのであり、いずれかを突出して強度を高くしたとしても接合構造体として本発明で意図される強度は達成されないことが明らかになった。一般的に、2枚の木製パネルを接合部材で接続した接合構造体においては、特に接合部材の強度を上げることが接合構造体の強度につながると予想されるところ、必ずしもそうではなかった点は本発明者らにも予想外であった。
【0036】
好ましい実施形態において、木製パネルの強度(曲げ強度):接合部材の強度(曲げ強度)は、1:2.2〜1:3.6、好ましくは1:2.4〜1:3.3、より好ましくは1:2.6〜1:3.0であり得る。
【0037】
例えば、一つの実施形態において、木製パネルは強度(面内方向強軸の曲げ強度)10.8N/mm
2のCLTパネル(等級S60−3−3)であって、接合部材は曲げ強度30.0N/mm
2のオウシュウアカマツの集成材である。
【0038】
(接合部材)
図3は、
図1および
図2に示される接合部材130の構造の一例を示す。
【0039】
図3に示される実施形態では、接合部材130は、接合部材130の側面131が中央部132において内向きに折れた形状(いわゆる、千切り状形状)を有する。ここで、本発明では、
図3に示されるように、中央部132間を最短で辿った方向を接合部材130の幅方向とし、接合部材130の千切り状平面上の方向のうち軸方向と直交する方向を接合部材130の高さ方向とする。
【0040】
図3に示される実施形態では、接合部材130は、アール加工が施された8個の角部133を備える。アール加工が施された角部133のR値は、好ましくは、R6〜R15である。
図1および
図2に示される接合構造体の木製パネルの蟻溝は、接合部材の角部に対応する凹形状を有し得る。
【0041】
なお、
図3に示される実施形態では、接合部材130の側面131が中央部132を谷としたV字型である例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、接合部材130の側面131は、内向きに丸みを帯びた円弧型であってもよい。また、側面131(中央部およびR部を除いて)全ての部分が接合部材130の上面および下面に対して90°未満で傾斜している形状(接合部材130の上下半分の形状が略等脚台形)であってもよいし、側面131のうち、接合部材130の上面と接続される部分および/または下面と接続される部分に、接合部材130の上面および下面と直交する部分を有する形状(接合部材130の上下半分の形状が略凸形状)であってもよい。好ましい実施形態において、側面131(中央部およびR部を除いて)全ての部分が接合部材130の上面および下面に対して90°未満で傾斜している。
【0042】
接合部材130の高さ方向の長さは、好ましくは、約150mm〜約270mmであり、より好ましくは、約170mm〜約240mmであり、最も好ましくは、約180mm〜約220mmである。
【0043】
接合部材130の幅方向の長さは、好ましくは、約150mm〜約270mmであり、より好ましくは、約170mm〜約240mmであり、最も好ましくは、約180mm〜約220mmである。
【0044】
接合部材130の厚みは、好ましくは、約90mm〜約270mmであり、より好ましくは、約90mm〜約180mmであり、最も好ましくは、約90mm〜約100mmである。
【0045】
接合部材130の一方の側面131の表面と他方の側面131の表面との間の最短の長さ(すなわち、
図3に示される実施形態では、側面131の中央部132間の最短距離)は、好ましくは、約75mm〜約135mmであり、より好ましくは、約80mm〜約110mmであり、最も好ましくは、約90mm〜約100mmである。
【0046】
なお、接合部材130は、2つの木製パネルを接合するための十分な強度を有する限りにおいて、中実材であってもよいし、中空材であってもよいし、中空材と1つ以上の筋交いとの組み合わせによって構成されていてもよい。
【0047】
図4は、接合部材130の構造の一例を示す。
図4に示される実施形態では、接合部材130は、複数の板材が積層された集成材である。
【0048】
図4aおよび
図4bは、第1の繊維方向を有する第1の板材134と、第1の繊維方向とは異なる第2の繊維方向を有する第2の板材135とを備える接合部材130の構造の一例を示す。
【0049】
図4aおよび
図4bに示される実施形態では、第1の板材134と第2の板材135とが、交互に積層されている。すなわち、
図4aおよび
図4bに示される接合部材130は、隣接する層間で繊維方向が直交するように(すなわち、繊維方向が互い違いになるように)複数のひき板を積層した「直交集成材」(CLT;Cross Laminated Timber)で作製されている。それ故、第1の板材134の第1の繊維方向は、第2の板材135の繊維方向に対して略直交している。なお、
図4aおよび
図4bに示される実施形態では、接合部材130の高さ方向は、第1の板材134の第1の繊維方向と略同一である。
【0050】
図4aに示される実施形態では、第1の板材134、第2の板材135、第1の板材134、第2の板材135、第1の板材134、第2の板材135の順に、第1の板材134および第2の板材135が3層ずつ交互に積層されており、第1の板材134および第2の板材135の各層の厚さは、略同一である。これにより、接合部材130の強度を、接合部材130の幅方向の中心点を通る高さ方向中心軸に対して対称にすることが可能である。このように、接合部材130の強度を、接合部材130の高さ方向中心軸に対して対称にすることによって、そうでない場合と比較して接合構造体の強度が増加され得る。
【0051】
図4bに示される実施形態では、第1の板材134、第2の板材135、第1の板材134、第2の板材135、第1の板材134の順に、3層の第1の板材134および2層の第2の板材135を含む計5層の板材が積層されている。具体的には、接合部材130の高さ方向中心軸周りに中央の第1の板材134が配置され、中央の第1の板材134を挟むように2つの第2の板材135が配置され、中央の第1の板材134および2つの第2の板材135をさらに挟むように2つの第1の板材134が配置されている。それ故、接合部材130の強度を、接合部材130の幅方向の中心点を通る高さ方向中心軸に対して対称にすることが可能である。
図4bに示される実施形態では、接合部材130は、接合部材130の高さ方向に沿った第1の繊維方向を有する第1の板材134の総体積が、第2の繊維方向を有する第2の板材135の総体積より大きいように構成され得る。これにより、そうでない場合と比較して接合構造体の強度が増加され得る。
【0052】
図4aおよび
図4bに示される直交集成材製の接合部材130と同様に、
図1および
図2に示される木製パネル110(木製パネル110’)および木製パネル120もまた、直交集成材で作製されていてもよい。
【0053】
図4cおよび
図4dは、第1の繊維方向を有する第1の板材134のみを備える接合部材130の構造の一例を示す。すなわち、
図4cおよび
図4dに示される接合部材130は、隣接する層間で繊維方向が平行になるように複数のひき板を積層した「平行集成材」で作製されている。なお、
図4cおよび
図4dに示される実施形態では、接合部材130の高さ方向は、第1の板材134の第1の繊維方向と略同一である。
【0054】
図4cに示される実施形態では、6層の第1の板材134が積層されており、第1の板材134の各層の厚さは、略同一である。それ故、接合部材130の強度を、接合部材130の幅方向の中心点を通る高さ方向中心軸に対して対称にすることが可能である。このように、接合部材130の強度を、接合部材130の高さ方向中心軸に対して対称にすることによって、そうでない場合と比較して接合構造体の強度が増加され得る。
【0055】
図4dに示される実施形態では、5層の第1の板材134が積層されている。具体的には、接合部材130の高さ方向中心軸周りに中央の第1の板材134が配置され、中央の第1の板材134を挟むように2つの第1の板材134がさらに配置され、中央の第1の板材134および2つの第1の板材134をさらに挟むように2つの第1の板材134が配置されている。それ故、接合部材130の強度を、接合部材130の幅方向の中心点を通る高さ方向中心軸に対して対称にすることが可能である。
【0056】
なお、
図4に示される実施形態では、接合部材130の複数の層の間の接触面が接合部材130の高さ方向と平行である例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、接合部材130の複数の層の間の接触面は、接合部材130の高さ方向に対して垂直に延在していてもよい(すなわち、接合部材130の幅方向に沿って延在していてもよい)。
【0057】
また、
図4aおよび
図4cに示される実施形態では、直交集成材で作製されている接合部材130が6層に構成されている例を説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、隣接する層間で繊維方向が直交する限りにおいて、直交集成材で作製されている接合部材130の層の数は、2以上の任意の整数であり得る。
【0058】
また、
図4bおよび
図4dに示される実施形態では、平行集成材で作製されている接合部材130が5層に構成されている例を説明したが、本発明はこれに限定されない。本発明では、隣接する層間で繊維方向が平行になる限りにおいて、平行集成材で作製されている接合部材130の層の数は、2以上の任意の整数であり得る。
【0059】
好ましい実施形態において、本発明の接合部材は木材のみから構成され、接合部材内に接合部材の強度向上用の金具を含まない。このように金具を含まない、木材のみから構成された接合部材であっても、本発明者らは、本明細書中で検討された形状、使用される板材の積層方法、角部のアール加工などを鋭意検討し、接合構造体として好ましい許容耐力、終局耐力を達成できることを見出した。
【0060】
また、
図4に示される実施形態では、接合部材130が直交集成材または平行集成材で作製されている例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、接合部材130は、樹脂で作製されていてもよい。接合部材130が樹脂製である場合、接合部材130は、例えば、3Dプリンタを用いて製造されてもよい。
【0061】
(接合構造体100を備える建築物)
図5は、建築物の一例を示す。
図5aに示される実施形態では、建築物200は、
図1〜
図4に示される接合構造体100を備え、従って、建築物200は、接合部材130を備える。
図1〜
図2に示される木製パネル110(木製パネル110’)および木製パネル120は、建築物200の天板パネル210、側面パネル220、および/または、底板パネル230に相当し得る。
図5aに示されるように、接合部材130は、建築物200の天板パネル210と側面パネル220とを接合するように、および、建築物200の側面パネル220と側面パネル220とを接合するように、配置されている。
【0062】
図5bに示されるように、複数の建築物200が、例えば接合部材130を用いて、相互に連結され、並列して設置されることにより、より大きな建築物を構築することも可能である。
【0063】
複数の建築物200が、例えば接合部材130を用いて、相互に連結され、積層して設置されることにより、複数階建ての建築物を構築してもよい。この場合、2階以上における接合部材の数は、1階における接合部材の数より少なくてもよい。これにより、建築物のコストを低減することが可能である。
【0064】
なお、
図1bに示される実施形態では、接合部材130の一方の半体の形状に対応する形状を有する蟻溝140
1が、第1の木製パネル110に形成され、かつ、接合部材130の他方の半体の形状に対応する形状を有する蟻溝140
2が、第2の木製パネル120に形成されている例を説明したが、本発明はこれに限定されない。接合部材130によって第1の木製パネル110と第2の木製パネル120とが十分な強度で接合される限りにおいて、接合部材130の任意の一部の形状に対応する形状を有する第1の凹部が、第1の木製パネル110の接合面に形成され、かつ、接合部材130の残りの一部の形状に対応する形状を有する第2の凹部が、第2の木製パネル120の接合面に形成され得る。
図2b、
図4、
図5に示される実施形態においても同様である。
【0065】
なお、
図5bに示される例では、建築物200が並列して設置される例を説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、建築物200の底板パネル230が(例えば接合部材130を用いて)天板パネル210の上に接合されることにより、一方の建築物200が他方の建築物200の上に重ねられ、複数階建て構造の建築物を構築するようにしてもよい。
【0066】
以上のように、本発明の好ましい実施形態を用いて本発明を例示してきたが、本発明は、この実施形態に限定して解釈されるべきものではない。本発明は、特許請求の範囲によってのみその範囲が解釈されるべきであることが理解される。当業者は、本発明の具体的な好ましい実施形態の記載から、本発明の記載および技術常識に基づいて等価な範囲を実施することができることが理解される。
【実施例】
【0067】
(実施例1.木製の接合部材の強度試験)
図1〜5に示す接合部材130と同様の外形の接合部材を、すぎ(例えば、曲げ強度約22.2N/mm
2)の無垢材から製造した。具体的には、すぎの無垢材から2つの略台形状の部材を切り出し、それを中央で、ボルトで留めることによって、外形上は接合部材130と同一の接合部材(試験例1)を作製した。
【0068】
接合部材(試験例1)で2枚のCLTパネル(等級S60−3−3:面内方向強軸の曲げ強度が約10.8N/mm
2)を、
図1に示すように直交させ、または
図2に示すように並行して接続し、接合構造体を作製した。
【0069】
直交させて接続した接合構造体についてせん断試験を、並行して接続した接合構造体についてせん断試験および引張試験をそれぞれ行った。これらの試験においては、試験体が破壊に至るまで一方向の荷重を連続的に加えた。加力装置としては200kN自動コントロール式アクチュエータ(最大ストローク:500mm)およびロードセル(容量:200kNおよび100kN)を用い、電子式変位計(感度:100×10
−6/mm)およびデジタルひずみ測定装置を用いて測定を行った。加力の間、荷重及び変位の測定を行うと共に、目視による観察を行った。
【0070】
その結果、無垢材から切り出した2つの部材をボルトで留めた接合部材は各試験で十分な強度を得ることができなかった。
【0071】
(実施例2.木製の集成材から作製された接合部材の強度試験)
以下の各接合部材の試験例を作製した。
・試験例2:ボルトで留めることなく平行集成材(オウシュウアカマツ)を積層することによって作製した集成材一体型接合部材
・試験例3:平行集成材(オウシュウアカマツ)で2つの略台形状の部材を作製し、それを中央で、ボルトで留めることによって外形上接合部材130と同一にした集成材分割型接合部材
・試験例4:LVLを積層することによって作製したLVL一体型接合部材
・試験例5:LVLで2つの略台形状の部材を作製し、それを中央で、ボルトで留めることによって外形上接合部材130と同一にしたLVL分割型接合部材
【0072】
試験例2および3で使用した接合部材の強度(曲げ強度)は約30N/mm
2であり、試験例4および5で使用したLVLの強度(曲げ強度)は約39N/mm
2であった。
【0073】
試験例2〜5の接合部材で、2枚のCLTパネル(等級S60−3−3:面内方向強軸の曲げ強度が約10.8N/mm
2)を、
図1に示すように直交させ、または
図2に示すように並行して接続し、それぞれ接合構造体を作製した。実施例1と同様に、直交させて接続した接合構造体についてせん断試験を、並行して接続した接合構造体についてせん断試験、曲げ試験および引張試験をそれぞれ行った。
【0074】
試験例2と試験例3との比較から、接合構造体において、ボルトで留めない集成材一体型接合部材が集成材分割型接合部材と同等の強度を達成することが分かった。製造の手間やコスト、無駄な金具を使用しないことなどを考えると、集成材一体型接合部材が好ましい。試験例4と試験例5との比較でも同様の傾向が観察された。また、分割型接合部材を用いた場合は、一体型接合部材を用いた場合と比較して、初期に荷重低下が発生する頻度が高かった。
【0075】
試験例2の接合部材よりも試験例4の接合部材の方が、強度が高いため、試験例4の方が試験例2よりも接合構造体の強度が高いことが予想された。しかしながら、実際には、試験例4の接合構造体を用いた各試験においては、CLTパネルが破損し、接合構造体としての強度は十分とは言えなかった。この結果から、接合構造体として十分な強度を達成するためには、木製パネルの強度と接合部材の強度とのバランスが重要なのであり、いずれかを突出して強度を高くしたとしても接合構造体として本発明で意図される強度は達成されないことが分かった。なお、詳細な試験結果は割愛するが、種々の試験を行った結果から、木材パネルの曲げ強度に対して接合部材の曲げ強度が2.2〜3.6倍である場合に、木製パネルの強度と接合部材の強度とのバランスが良好とあることを発明者は見出した。
【0076】
(実施例3.接合部材の形状の検討)
本実施例では、接合部材の形状を検討した。
図1〜5に示される接合部材130の形状(すなわち、上下半分の形状が略等脚台形)の接合部材(表1左)と、接合部材130において上下半分の形状が略凸形状の接合部材(表1右)とを用意した。
【表1】
【0077】
2つの接合部材でそれぞれ、2枚のCLTパネルを直交するように接続し、曲げ試験を行った。曲げ試験は、見掛けの変形角で1/450、1/300、1/200、1/150、1/100、1/75、1/50、1/30radの正負交番繰返し加力を1回行い、1/30rad以降は一方向の荷重を試験体が破壊に至るまで連続的に加えた。加力装置としては油圧ジャッキ(最大ストローク:500mm)およびロードセル(容量:200kNおよび100kN)を用い、電子式変位計(感度:100および33×10
−6/mm)およびデジタルひずみ測定装置を用いて測定を行った。加力の間、荷重及び変位の測定を行うと共に、目視による観察を行った。
【0078】
その結果、表1左の接合部材の方が好ましいことが分かった。
【0079】
(実施例4.接合構造体の強度の測定)
実施例1〜4から、2枚のCLTパネルを、平行集成材を積層した一体型接合部材で接続する接合構造体が好ましい強度を有していることが示唆された。そこで、本発明の接合構造体が建築物のために十分な強度を有しているか、測定および計算を行った。
2枚のCLTパネル(等級S60−3−3)(厚さ90mm)を使用した。接合部材として、対象異等級構成集成材(オウシュウアカマツ)を、集成材における各板材の繊維方向が接合部材の高さ方向に沿うように切り出して作製した。接合部材の形状は
図1〜5に示される接合部材130の形状(すなわち、上下半分の形状が略等脚台形)であり、角部のR値は8、一体型でボルトなどは含まなかった。
【0080】
接合部材で2枚のCLTパネルを、
図1に示すように直交させ、または
図2に示すように並行して接続し、接合構造体を作製した。各試験体について6体ずつ行ったことを除いて、実施例1と同様に、直交させて接続した接合構造体についてせん断試験を、並行して接続した接合構造体についてせん断試験および引張試験をそれぞれ行った。
【0081】
その結果、以下の許容耐力および終局耐力を得た。
・2枚のCLTパネルを並行して接続した接合構造体のせん断試験について、許容耐力は、18.04kNであり、終局耐力は、29.17kNであった。
・2枚のCLTパネルを直交して接続した接合構造体のせん断試験について、許容耐力は、14.25kNであり、終局耐力は、20.95kNであった。
・2枚のCLTパネルを並行して接続した接合構造体の引張試験について、許容耐力は、12.62kNであり、終局耐力は、25.10kNであった。
【0082】
以上の結果から、本発明の接合構造体は、建築物において十分に使用可能な許容耐力および終局耐力を有していることが分かった。
【0083】
なお、以上の実施例1〜4については、180mm四方サイズの接合部材を用いて試験を行った結果であるが、220mm四方サイズの接合部材を用いた場合にも、接合構造体の剛性および耐力に大きな差はなかった。
【0084】
許容耐力Pa=min(P
y,2/3P
max)および終局耐力P
uを求めるための完全弾塑性モデルの作成方法は、以下のとおりである。以下のグラフに完全弾塑性モデルによる特性値の求め方を示す。
a) 包絡線上の0.1P
maxと0.4P
maxとを結ぶ第I直線を引く。
b) 包絡線上の0.4P
maxと0.9P
maxとを結ぶ第II直線を引く。
c) 包絡線に接するまで第II直線を平行移動し、これを第III直線とする。
d) 第I直線と第III直線との交点の荷重を降伏荷重P
yとし、この点からX軸に平行に第IV直線を引く。
e) 第IV直線と包絡線との交点の変位を降伏変位δ
yとする。
f) 原点と(δ
y,P
y)を結ぶ直線を第V直線とし、その勾配を初期剛性Kと定める。
g) 最大荷重後の0.8P
max荷重低下域の包絡線上の変位を終局変位δ
uと定める。試験終了まで0.8P
maxまで荷重が低下していない場合は、試験終了時の変位をδ
uとする。
h) 包絡線とX軸およびx=δ
uの直線で囲まれる面積をSとする。
i) 第V直線とx=δ
uの直線とX軸およびX軸に平行な直線で囲まれる台形の面積がSと等しくなるようにX軸に平行な第VI直線を引く。
j) 第V直線と第VI直線との交点の荷重を完全弾塑性モデルの終局耐力P
uと定め、その時の変位を完全弾塑性モデルの降伏点変位δ
vとする。
k) 塑性率μ=δ
u/δ
vとする。
【表2】
【解決手段】本発明の接合構造体は、第1の木製パネルと、第2の木製パネルと、第1の木製パネルと第2の木製パネルとを接合する千切り状の接合部材とを含み、接合構造体は、約10kN以上の許容耐力を有する。1つの実施形態では、接合構造体における木製パネルの曲げ強度:前記接合部材の曲げ強度は、1:2.2〜1:3.6である。