(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態の例を詳細に説明する。
【0011】
<第1の実施形態>
(全体構成)
本発明のX線光学系基材の製造方法は、シリコン製の基板からなるX線光学系基材の製造方法であって、
所定厚みを有するシリコン製板材に所定形状で1又は複数の貫通孔を形成し、所定の貫通孔が形成された基板前駆体を製造する前駆体製造工程と、
得られた基板前駆体をそれぞれの基板前駆体に形成された貫通孔が連通するように複数枚積層し、各基板前駆体を接着する接着工程とを行うことにより実施することができる。
【0012】
まず、本発明の製造方法で得られる本発明のX線光学系基材について
図1及び2を用いて説明する。
本実施形態のX線光学系基材1は、シリコン製であり且つ所定形状の貫通孔が形成されてなる基板前駆体12をそれぞれの基板好悪衛材12の貫通孔が連通するように複数積層してなり、各基板前駆体間において接着層を介して接着されてなる基板からなる。そして本実施形態においてはこの接着層がシリコン原子同士を連結するように存在する酸素原子からなる酸素原子層である。
以下さらに詳述する。
本実施形態のX線光学系基材1における基板10は、
図1及び2に示すように、平板状で、複数の貫通穴20を、基板10の中心から放射線状に複数配設してなるものである。
【0013】
(基板)
本実施形態において用いられる基板10は、
図1に示すように、形状が円形で、平板状である。本実施形態のようにそりや湾曲のないフラットな板状体であるのが好ましい。基板10の大きさは、特に制限されないが、直径100 〜300 mm程度であるのが、宇宙での使用における移動重量の軽減、本発明のX線光学系基材を用いた装置の小型化が可能となるので好ましい。本実施形態における基板10は、後述するように微細な貫通孔の周方向外側の側壁を反射面として用いることで、光学性能を保持しながら小型化されている。なお、本実施形態において基板10の重量は、1 keV のX線に対する有効面積(鏡(基板の貫通穴の側壁部分)の表面積と反射率の乗算の、すべての鏡に対する積算値)1m
2あたりの重量で10kg程度であるのが好ましい。
基板10の形状は、特に制限されず、例えば、矩形状、六角形状などの形状であってもよい。本実施形態のように円形状であると、基板10の単位面積当たりにおける光学部材として機能する面積を大きくすることができ、光学部材として好ましい。
また、基板10の厚さは、特に制限はないが、重量、強度、加工性の観点から、100 〜 1000μm程度であるのが好ましい。
【0014】
(基板前駆体)
基板前駆体12は、本実施形態においては2〜10 枚程度、積層されており、いずれも同じ円盤状の形状であり且つ同じ直径である。また、いずれの基板前駆体12にも同じ個所に貫通穴が形成されている。各基板前駆体における貫通穴の形状は所望の基板10に形成されるべき貫通穴20の形状特に貫通穴の側壁の角度に準じた形状となる。たとえば、基板10における貫通穴20における側壁が垂直であれば、全ての基板前駆体における貫通穴の側壁の角度も垂直であり、全ての基板前駆体の貫通穴の形状が同形状である。また、貫通穴20の側壁が角度をつけてある場合には基板10における貫通穴20の形状に応じて各基板前駆体12における貫通穴の位置及び角度を設定してある。
基板前駆体12の厚みは50〜200 μm程度であるのが好ましい。この程度の厚みであれば、容易にエッチングなど後述する貫通孔形成手法により平滑な貫通穴側壁表面を有する基板前駆体とすることができる。
本実施形態における基板前駆体12の形成材料は、シリコン製板材、すなわちシリコンウェハである。シリコンウェハであることで、軽量で高強度であり、加工がしやすく、基板が比較的安価である。 また、本実施形態において、基板10の表面は、平滑化処理、薄膜形成処理が施されており、平滑で反射率が高くなるようになされている。なお、これらの処理の詳細については、後述する。尚原料であるシリコンウェハの厚みは上記の基板前駆体の厚みと同じである。
【0015】
(接着層:酸素原子層)
本実施形態において、接着層14は酸素原子層である。酸素原子層は、
図3に示す構造を有する。即ち、シリコンウェハにおけるSiに酸素が化学的に結合して、2つの層のSiを酸素が連結している。
酸素原子層の厚みは酸素原子のみにより構成される層であるためほぼ酸素原子の大きさに従い、10〜50nm程度である。
【0016】
(貫通穴)
本実施形態における貫通穴20は、
図1に示すように、基板10の厚さ方向に対して所定角度をもって基板10を貫通するように、且つ基板10の平面方向において同心円状となるように形成され、基板10の中心から放射線状に複数配設されている。具体的には、各貫通穴は、それぞれ線状の穴を円弧状に設けて形成されている。
【0017】
そして、本実施形態において、貫通穴20における、基板10の厚さ方向の軸と貫通穴20に形成される2つの壁面のうち上記中心からの距離が遠い壁面との角度は、
図6に示すように変形によって、中心から外方に向かうに従って大きくなるようにすることができる。
これにより、各貫通穴20に対する平行もしくは拡散入射光を、上記の壁面21aで反射させ、集光・結像させることができる。これにより、一体成形で構成が簡単で簡易且つ簡便な製造が可能になる。
本実施形態において、上記所定角度は上述のように上記中心から外方に向かうに従って大きくなるようになされていればよいが、中心からの距離が遠い壁面の距離をrとした場合における所定角度をθとした場合、反射角はθ、反射光は2θで反射するため、下記式を満たすものであるのがさらに好ましい。
式:Ltan2θ=r
(式中、Lは、焦点距離を、rは基板中心から穴までの距離を意味する。)
なお、上記所定角度は、反射材質とエネルギーによって決定されるため、これらの条件により適宜修正されうるものである。一般的には、反射材質を一定にし、エネルギーを変化させた場合、反射できる角度範囲はエネルギーにほぼ反比例する。
【0018】
本実施形態においては、貫通穴20と貫通穴20との間隔は、特に制限されないが、5 〜 20μm程度とするのが大面積化、軽量化、機械的強度の点で好ましい。なお、上記間隔とは、一つの貫通穴20と、該貫通穴20の隣に存在する貫通穴20との間隔dを意味する。また、本発明においては、この間隔dは、光学性能の観点から、基板の中心から外方に向かうにしたがって広くなるようになされているのが好ましい。
【0019】
本実施形態において、各貫通穴20の幅は、特に制限されないが、20μm程度とするのが結像をより正確に表示でき解像度に優れる点で好ましい。ここで、貫通穴20の幅wは、
図4に示すように基板の中心からの経線方向における貫通穴の内部空間の間隔である。また、上記幅は、光学性能の観点から、基板の中心から外方に向かうにしたがって広くなるようになされているのが好ましい。
また、各貫通穴20における幅wは、基板の厚みtや反射角θとの関係で最適な値を設定することができ、その一例としてθ≒tan(w/t)とすることもできるが、入射の状況に応じてこの式をさらに変更する必要も生じるなど入射及び反射の角度範囲に応じて種主設定することが可能である。また、各貫通穴においては、厚さ方向及び平面方向のいずれについてもほぼ一定であるのが好ましい。
【0020】
本実施形態においては、壁面21における二乗平均粗さ(RMS)が1nm以下であるのが好ましい。貫通穴20の壁面21の表面処理は、本実施形態のように平滑化処理がなされていると、反射面である壁面21の表面の凹凸により生じる反射角度のばらつきが抑制され、X線の全反射効率をより高くすることができる点、反射光の焦点ボケをより抑制することができる点などの光学性能を向上させる観点から、好ましい。なお、本実施形態における面粗さは、走査電子顕微鏡による観察により求めた値である。
また、壁面21の表面は、その他の処理を行ってもよい。その他の処理としては、例えば、重金属を含む反射膜を形成する処理、多層膜を形成させブラッグの法則に基づく多層光学系にする処理などの処理が挙げられる。中でも、重金属を含む反射膜を形成するのが好ましく、具体的には、特開2012−037440号公報に開示される原子層堆積法を用いて酸化ハフニウム及び酸化アルミニウムの反射膜を形成する処理であるのがより好ましい。これにより、平滑化、反射率及びエネルギー帯域が、より優れるものになる。
上記重金属の反射膜を形成する上記重金属としては、酸化物としては、酸化ハフニウム、酸化イリジウム、酸化タンタル、酸化チタニウム、酸化ランタン、酸化亜鉛等が挙げられ、窒化物としては、窒化チタン、窒化タンタル、窒化ハフニウム等が挙げられ、金属では、ルビジウム、銅、タングステン、モリブデン等が挙げられる。
上記反射膜は、単層膜でもよいが、多層膜であるのが好ましい。また、上記反射膜が多層膜である場合は、上記重金属からなる多層膜と軽金属から成る多層膜であるのがより好ましい。これにより、平滑化、反射率及びエネルギー帯域が、より優れるものになる。
上記反射膜を多層膜とする場合は、上述の重金属の以外の物質による膜を形成してもよく、例えば、酸化アルミニウムのような軽金属、また、酸化ケイ素等を用い、重金属からなる層と軽金属からなる層とからなる多層膜等とすることができる。
上記反射膜における膜厚は、特に制限されず、入射及び反射の状況に応じて上述の幅wと同様に種々設定できるが、例えば多層膜とする場合には特開2012−037440号公報の0033に記載されるような成分からなる膜を積層してなる多層膜とし、膜厚も当該公報記載の範囲(たとえば重金属からなる層5〜10nm、軽金属からなる層1〜5nm)とすることができる。
上記反射膜の形成は、上述の原子層堆積法などの方法により形成することができ、中でも、原子層堆積法であるのが好ましい。原子層体積法を用いる場合は、膜厚均一性、膜厚制御性、段差被覆性に優れた膜を作製することが可能である。
また、上記反射膜の形成のタイミングは、特に制限されないが、平滑化処理の後に行うのが好ましい。
なお、上記壁面の「平滑化処理」、「その他の処理」については、上記基板においても同様に施すことができる。
また、上述のその他の処理の前若しくは後に球面変形処理を行い、後述する実施形態の
図6(b)又は(c)に示すように、基板の中央から周縁に向かうにしたがって湾曲し、レンズ状の形状となるように処理を行ってもよい。この処理は、例えば、得られた基板を予め用意した球面状の型に入れ、アルゴンまたは水素雰囲気中で700〜1300度程度の高温とし、圧力をかける。このようにすることによって、基板は型に沿って、曲率半径が10cm〜10m程度の球面状に塑性変形し、その後、形状は安定する。もちろん、用途に応じて球面以外の曲面状とすることもできる。
【0021】
(特性)
本実施形態のX線光学系基材1における角度分解能は、原理的に20μmの穴幅であれば、1keVのX線に対して、15秒角以下とすることが可能であり、優れた光学性能を有する。
また、本実施形態のX線光学系基材1における焦点距離は、原理的に0.01 〜10 m程度が可能であり、優れた光学性能を有する。
一般的に、重量当たりの光学性能は、角度分解能(秒角)と基板の有効面積(基板におけるX線光学系としての有効面積)1m
2あたりの重量(kg)の二つで評価され、表すことができる。
本実施形態のX線光学系基材1において、上記の光学性能は、原理的に15(秒角)程度とすることが可能であり、同程度の角度分解能を有する過去のX線天文衛星XMM―Newton搭載の望遠鏡などに比べて、基板の単位有効面積当たりの質量効率が2桁程度良い。
【0022】
次に、本発明の製造方法により得られるX線光学系基材の他の実施形態について説明する。
なお、上述した
図1〜3に示す実施形態のX線光学系基材と同じ部分については特に詳述しない場合があり、その場合、上述した説明が適宜適用される。
本実施形態においては接着層が、接着剤により形成された接着剤層である。
ここで接着剤層を構成する接着剤としては、以下の接着剤を挙げることができる。
エポキシ系接着剤、ベンゾシクロブテン系接着材、シリコン系接着剤、紫外線硬化樹脂など。
また、接着剤層の厚さは、光学系基材の光学特性を実用に耐えるものとし、且つ十分な接着性を得るために、できるだけ薄くするのが好ましく、具体的には10〜100 nm 程度とするのが好ましい。
【0023】
次に本発明の製造方法について詳細に説明する。
本発明の製造方法は、上述のように前駆体製造工程と接着工程とを行うことで実施できる。即ち、
図4に示すように厚さの薄いシリコンウェハを所定形状に穿孔して貫通孔を形成(前駆体製造工程)し、得られた基板前駆体を重ねあわせて接着する(接着工程)。また、後述するビーム加工法により穿孔する場合には、
図5に示すようにあらかじめ薄いシリコンウェハを複数枚重ねあわせてビーム穿孔を行った(前駆体製造工程)後、そのうち貫通孔の壁面状態のいいものを選って、接着を行う(接着工程)ことで実施することができる。以下両工程について説明する。
<前駆体製造工程>
上記前駆体製造工程は、所定厚みを有するシリコン製板材(シリコンウェハ)に所定形状で1又は複数の貫通孔を形成する工程である。
基板前駆体及び用いる原料としてのシリコンウェハの厚みなどは上述した通りであり、本工程における上記の所定の貫通孔の形成は、エッチング、又はビーム加工法(レーザ加工法を用いる場合を含む)による穿孔により行われる。以下、それぞれについて説明する。
【0024】
(エッチング)
エッチング手法としては、従来のシリコンウェハに対するエッチング手法を特に制限なく用いることができ、具体的にはシリコンウェハ上に所定のレジスト材を塗工し、レジスト材上に上述の貫通穴を形成するためのマスクを載置しタ後露光してレジスト材を光硬化(光可溶化)する。ついで露光されていない部分(露光された部分)を溶剤により除去することで、貫通穴を形成する。ここで、上述の厚みを有するシリコンウェハに対して光学系基材として良好な表面平滑性を有するようにするためにはSF
6ガスによる等方エッチングと、C
4F
8ガスによる保護膜の堆積の2つのステップを交互に数秒毎に繰り返すことで、シリコンの深掘りを高速 (数 μm/min)かつ高アスペクト (10〜100程度) で実現する、いわゆる Bosch process を用いるのが好ましい。また、側壁の平滑度と垂直性を出来るだけ高めるためには、上記のサイクルにより側壁に生ずるスキャロップと呼ばれる周期的な凸凹を最小に抑える必要があり、典型的な上記の等方エッチングと保護膜の堆積との2つのステップ各々の施工時間は1〜3秒程度に抑えるのが好ましい。
また、上記エッチングにより貫通穴を形成する場合には、更にエッチングにより形成された貫通穴の壁面を平滑化するためにアニール処理を行うのが好ましい。 アニール処理は、エッチング終了後の基板を、アルゴン雰囲気中又は水素ガス若しくは水素を含む不活性ガス雰囲気中で熱処理することにより行うことができる。
このとき、アルゴンガス、または、アルゴンや水素混合ガスの圧力(全圧)は、全圧として常圧付近の10
5Pa(1気圧付近)以下とするのが好ましい。また、アニール工程における熱処理は900〜1500℃とするのが好ましい。
【0025】
(ビーム加工法)
本発明の製造方法で用いられる上記ビーム加工法は、単なる平板状の基材にビームを用いて所望の形状の貫通穴を形成する方法であり、例えば、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)、電子ビームなどのビームを用いる加工法を用いることができる。中でも、集束イオンビームによるビーム加工法は、集束イオンビームを数100nmから数nmまで絞ることができ、ナノメートル領域での加工が可能な点、ライン加工が可能である点、側壁が平坦・平滑である点などの点で好ましい。
上記ビーム加工法において、照射するビームは、集束イオンビームを用いる場合、例えば、ガリウム(Ga)イオンのビームなどのビームを用いることができる。
上記ビーム加工法は、公知のビーム照射装置等により実施することができ、例えば、上記収束イオンビームによる加工法は、集束イオン/電子ビーム加工観察装置(型名:NB5000、日立製作所社製)などにより行うことができる。
また、上記ビーム加工法における照射するビームの条件は、目的、基板の材料、使用するビーム照射装置などの条件により変わりうるものであり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、特に制限されるものではない。たとえば、上述の幅や基板の厚さ、基板の材質に応じてビームの強度や照射回数等を制御する必要があり、これらの制御は通常のビーム照射と素材ごとの穿孔程度との関係により適宜選択される。
また、ビーム加工法に代えてレーザー加工法を用いることもできる。
レーザー加工法としては、特開2009−142886号公報に記載の手法を用いることができ、具体的には、アブレーション作用により被加工物に穴開け可能な単一横モードのシングルパルスレーザーからの集光レーザービームを被加工物に入射させることで穴開けするに際して、少なくとも被加工物の集光レーザービーム入射側をカバー部材で覆ってから集光レーザービームを入射させることでカバー部材と共に被加工物に穴開けし、穴開け後にカバー部材を被加工物から分離するレーザー穴開け加工方法が用いられる。
この際用いることができるレーザー機器及び加工条件は、例えば以下の通りとすることができる。
波長 :266nm
パルス幅 :8nsec
繰り返し周波数 :30KHz
平均出力 :3W
ビームサイズ :φ0.9mm
M2値 :1.1(シングルモード)
使用光学系
集光レンズ :f=40mm
集光スポットサイズ:15μm
加工時間 :0.5sec/穴 以下 。
また、カバー部材は、基板の構成材料と同様にシリコンウェハとしてもよく、また他のレーザー加工に適した公知の部材を用いても良い。
【0026】
また、本発明においては、上述の手法により貫通穴を形成した後で、特開2010−085304号公報の〔0021〕〜〔0023〕に記載の方法による表面処理、特開2012−037440号公報の〔0029〕〜〔0030〕に記載の方法による重金属を含む反射膜を形成する処理を行ってもよい。
なお、本発明の製造方法は、上述の例で説明したが、上記ビーム加工法により貫通穴の形成がなされていれば、特に制限されず、例えば、形成する貫通穴の順番などは、任意である。また、上述の例では、ビームの照射角度を上記所定の角度で照射しているが、貫通穴が基板に対して上記所定の角度で形成されていれば、ビームの照射角度は特に制限されない。また、上記ビームの照射角度の制御、上記基板の回転の制御などは、公知の方法で実施できる。
【0027】
<接着工程>
上記接着工程は、得られた基板前駆体をそれぞれの基板前駆体に形成された貫通孔が連通するように複数枚積層し、各基板前駆体を接着する工程である。
重ねる基板前駆体の枚数と厚みとにより条件が異なるが、基板前駆体の厚みは上述の厚みとするのが好ましく、また、重ねる枚数は2〜10枚程度とするのが、貫通穴の製造の観点と接着性の観点から好ましい。
この際接着の手法としては、熱処理又は接着剤による接着を用いることができる。以下、両者について説明する。
(熱処理)
上記接着工程は、基板前駆体を積層した積層体を所定温度で熱処理することにより行うが、熱処理に先立って、酸などの化学薬品と純水とを用いてウェハの洗浄と表面処理を行う。この際用いることができる酸としては、バッファードフッ酸、熱リン酸等を挙げることができる。
また表面処理においては、酸にシリコンウェハを 1〜10分間浸漬した後、純水で洗浄することが好ましい。
このプロセスにより,ウェハの表面をわずかに酸化させて薄い酸化膜を形成し,同時に表面に多数の水酸基を付着させる。このように処理したシリコンウェハ表面は,水が非常に良くなじみ表面に広がる性質(親水性)を示す。
次に,親水化処理した表面同士を重ね合わせる。上述の表面処理されていることにより、各シリコンウェハの表面同士に弱い接合が生じるようにする。このように接合が生じるためには上述の表面処理により親水性基が生成していることと、シリコンウェハの表面が平滑なことが必要である。即ち、シリコンウェハの表面は算術平均粗さで10ナノメートル程度以下のレベルで平坦であるのが好ましい。
ついで、親水性となったウェハ表面の水酸基間の水素結合により形成される上記の接合をより強固なものとするために熱処理を行う。この際の加熱温度は、接合強度の観点からは200〜1000℃とするのが好ましい。また、この際の圧力は特に必要ない。
【0028】
(接着剤)
上記接着工程は、基板前駆体を積層するに際して所定の接着剤を介して複数枚積層する。
この際用いられる接着剤については上述の通りである。
接着剤の塗工厚さは、10〜100 nm程度とするのが好ましい。
また、接着条件は用いる接着剤により異なるが、以下の条件とするのが好ましい。
温度: 常温 〜 150 ℃
時間: 1時間 〜 10時間
【0029】
<他の工程>
本発明においては上述の工程の他に他の工程を行うこともでき、例えば、貫通穴20の壁面21は、特開2010−085304号公報に開示されるような磁性流体と研磨材とを用いる研磨処理、磁性流体による研磨処理の際に水素アニール処理を併せて行う処理による平滑化処理を行うこともできる。また、研磨処理、アニール処理、コーティング処理、酸化膜付けとエッチングの繰り返し等の方法や、特に上述の特開2010−085304号公報に開示されるような磁性流体と研磨材とを用いる研磨処理、磁性流体による研磨処理の際に水素アニール処理を併せて行う処理を行うことができる。
【0030】
本発明のX線光学系基材は、下記本発明の製造方法により、簡易、簡便且つ高精度に製造することができる。
以下、上述の第1の実施形態を例に説明した本発明のX線光学系基材の製造方法を説明する。
【0031】
(用途・使用方法)
本発明のX線光学系基材の製造方法により得られるX線光学系基材は、軽量で、光学性能が高いという特性を有し、宇宙等で用いるX線望遠鏡などX線光学系基材として好適に利用することができる。また、X線以外にも、中性子などの光学系基材としても用いることができ、この他、微量分析装置、レントゲン写真を必要とする地上装置(手荷物検査、歯の治療、医療全般)の光学系基材などに応用することができる。
そして、本発明のX線光学系基材の製造方法は、集光能力を高くするために基板の厚みを厚くしても壁面の粗さがなく、また壁面の垂直性や位置精度も良好なX線光学系基材を得ることができる。
【0032】
本発明は上述した実施形態に何ら制限されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形可能である。
例えば、上記貫通穴の形状は、特に制限されず、例えば、ドット状、直線状等種々形状にすることができる。
また、接着に際しては、上述の方法の他に、表面の酸化膜を取り去り、真空中・常温で圧力をかけることにより接着する方法も採用可能である。
【実施例】
【0033】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに制限されるものではない。
〔実施例1〕
上述の本発明の製造方法に従い、
図6(a)〜(c)に示すX線光学系を作製した。
図6(a)に示す例は、フラットなX線光学系基材1をそのまま用いた系である。この系においては、X線光学系基材1はフラットなままのものを用い、1枚のみでも複数枚積層してもよい。このX線光学系は、点源から出る拡散光を点に集光する光学系である。
図6(b)に示す例は、上述の球面変形により異なる曲率で球面状に変形された2枚のX線光学系基材1a、1bを重ねあわせてなる光学系であり、平行光を2回反射し集光する光学系 (Wolter I型)である。
図6(c)に示す例は、上述の球面変形により異なる曲率で球面状に変形された2枚のX線光学系基材1c、1dを重ねあわせてなる光学系を2セット用意し、各セットを湾曲成形された頂部が向き合うように並べて構成されたX線光学系であり、点源から出る拡散光を点に集光する光学系である。(a)に示す例にくらべ反射回数が多いため、反射によって光源から検出器までの距離を小さくできるというメリットがある。
(a)及び(c)に示す例は特に地上の微量分析用として、(b)に示す例は宇宙用途に適していると考えられる。また(b)に示す例は入射出射を逆にすると平行光源を作る装置として、地上でも利用可能である。