(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
残存型枠は、従来の金属や木製の型枠に代えてこれを用いることにより、その内側へコンクリートを打設して建造物を形成することができ、更に、打設したコンクリートが固化した後も取り除かれることなく、そのまま建造物の表面部分となる建材である。この残存型枠は、通常、セメント系の硬化体からなるプレキャストパネル部材を用いて形成される。プレキャストパネルであることにより、現場での施工能率の向上やパネル表面の審美性も含めた品質安定性が高いという好ましい特徴を享受することができるからである(特許文献1及び2参照)。
【0003】
残存型枠には、一般的な型枠と同様に、コンクリート打設時の衝撃等に耐える十分な強度が求められる。そして、これに加えて、コンクリートの打設後も建造物内に残存することを前提とした長期に亘る耐久性も要求される。このような強度及び耐久性に係る要求に応えることを企図したものとして、補強繊維を添加することにより強度を向上させたコンクリート製の残存型枠も開発されている(特許文献3参照)。
【0004】
しかしながら、特許文献3に記載の型枠においては、基本的にアルカリ性であるコンクリート硬化体中でのガラス繊維の劣化を回避するために、高価な耐アルカリ性ガラス繊維を補強繊維として用いる必要がある。特許文献3に記載の型枠は、この耐アルカリ性ガラス繊維を用いることによって長期耐久性を担保することが可能となるが、耐アルカリ性ガラス繊維は高価であり材料コストが嵩むことになる。そのことが、このタイプの型枠の普及拡大の妨げになっている。
【0005】
一方、生産過程等におけるCO
2排出量が多いコンクリート製品全般に対して、環境への配慮から、CO
2の総排出量を低減することが近年強く求められている。この問題を解決することを企図したものとして、CO
2吸収プレキャストコンクリートの開発も進んでいる(特許文献4参照)。
【0006】
ここで、もし、このCO
2吸収プレキャストコンクリートを、残存型枠として用いることができれば、従来の金属や木製の型枠に代わるコンクリート製の残存型枠への移行に伴うCO
2総排出量の増大を回避しつつ、その普及を拡大することが可能となる。しかしながら、特許文献4に記載のCO
2吸収プレキャストコンクリートは、現状においては、例えば、特許文献3に記載の従来の型枠との比較においても、同等かそれ以上にコスト高であり、そのことが環境保全性において極めて優れたプレキャスト部材でありながら、型枠としての利用が広がらない要因となっていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、強度及び耐久性に優れる残存型枠であり、更には、CO
2の総排出量の増大も回避することができる残存型枠を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、特許文献4に開示されているCO
2吸収プレキャストコンクリートが炭酸化養生によってセメント硬化体中のアルカリ分が中和されているものであるため、強化繊維として安価なEガラス繊維を用いたとしても、高価な耐アルカリ性ガラス繊維を用いた場合と遜色のない強度と耐久性を維持できることに先ず着目した。そして、更には、従来のCO
2吸収プレキャストコンクリート用の組成物中に、適量のセピオライトを添加することにより、所謂、即時脱型による生産が可能となることを見出し、これにより、型枠用のプレキャストパネルの生産性を飛躍的に高めることに成功した。本発明者らは、これらの研究開発の過程を経て、本発明、即ち、強度及び耐久性に優れ、更には、CO
2総排出量も抑制可能でありながら、従来品よりも遙かに安価で製造することができる残存型枠用のプレキャストセメントパネルを完成するに至った。具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
(1) 一の面が建造物の仕上げ面となり、他の面がコンクリート打設側となる、残存型枠用のプレキャストセメントパネルであって、セメント材と、骨材と、ガラス繊維と、セピオライトと、を含有するセメント組成物を硬化及び炭酸化養生してなるセメント硬化体からなり、前記セメント材は、ポルトランドセメントとγ−C2Sとを含んでなり、前記セメント材中におけるγ−C2Sの割合が、5質量%以上50質量%以下であり、前記セメント硬化体中の前記セピオライトの含有量が、0.5質量%以上2質量%以下である、残存型枠用のプレキャストセメントパネル。
【0011】
(1)の発明によれば、強度及び耐久性に優れ、更には、CO
2の総排出量も抑制することができる残存型枠用のプレキャストセメントパネルを得ることができる。又、このプレキャストセメントパネルは、γ−C2Sの炭酸化により強度を向上させるものであるため、ガラス繊維として高価な耐アルカリ性ガラス繊維を用いることを必要としない。そして、セピオライトの適量添加により、即時脱型可能なセメント組成物からなるものとされている。以上より、(1)の発明にかかる残存型枠用のプレキャストセメントパネルは、従来よりも低コストで、且つ、従来よりも飛躍的に向上した高い生産性の下での大量生産が可能である。
【0012】
(2) 前記セメント硬化体のpHが、10.0以下であって、前記ガラス繊維がEガラス繊維である、(1)に記載のプレキャストセメントパネル。
【0013】
(2)の発明においては、一般的なコンクリート硬化体のpHが12〜13程度のアルカリ性であるのに対して、(1)の発明におけるセメント硬化体はのpHを10.0以下の弱アルカリ性とした。この程度にまでpHを下げたセメント硬化体中においては、安価なEガラス繊維を用いた場合であっても、ガラス繊維の劣化を確実に回避できる。これにより、(1)のプレキャストセメントパネルの経済性と品質安定性をより優れたものとすることができる。
【0014】
(3) 一の面が建造物の仕上げ面となり、他の面がコンクリート打設側となる、残存型枠用のプレキャストセメントパネルの製造方法であって、プレキャストセメントパネル成形用型枠への生セメントの打設及び締固め後に速やかに脱型する即時脱型により予備成形を行う予備成型工程と、該予備成型工程後の前記生セメントの半硬化体を炭酸化養生する炭酸化養生工程と、備え、前記生セメントは、水と、セメント材と、骨材と、ガラス繊維と、セピオライトと、を含んでなり、水とセメント材との比(W/P)が、25%以上50%以下であり、前記セメント材は、ポルトランドセメントとγ−C2Sとを含んでなり、該セメント材中におけるγ−C2Sの割合が、5質量%以上50質量%以下であり、前記セピオライトの水に対する含有量が、3質量%以上10質量%以下である、製造方法。
【0015】
(3)の発明によれば、強度及び耐久性に優れ、更には、CO
2の総排出量も抑制することができる残存型枠用のプレキャストセメントパネルを得ることができる。又、このプレキャストセメントパネルの製造方法は、γ−C2Sの炭酸化により強度を向上させることを主目的とした炭酸化養生を行う方法であり、養生中に硬化体のpHが一般的なコンクリートよりも低い範囲に下がるので、ガラス繊維として必ずしも、高価な耐アルカリ性ガラス繊維を用いることを必要としない。又、この製造方法は、セピオライトの適量添加により即時脱型による成型も可能とされている。以上より、(3)の発明にかかる残存型枠用のプレキャストセメントパネルの製造方法は、従来よりも低コストで、且つ、従来よりも飛躍的に向上した高い生産性の下での大量生産が可能な製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強度及び耐久性に優れる残存型枠であり、更には、CO
2の総排出量の増大も回避することができる残存型枠を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
<残存型枠>
残存型枠とは、コンクリート打設用の型枠であって、尚且つ、打設したコンクリートが固化した後も取り除かれることなく、そのまま建造物の表面部分を構成する型枠のことを言う。例えば、特許文献1の
図1〜8に開示されている型枠を、残残型枠の形態の具体例として挙げることができる。(尚、この型枠は、他の一般的な呼称として捨型枠とも称されるものである。)本発明の残存型枠用のプレキャストセメントパネルを、例えば、鋼材等で複数連結することにより、所望の形状及びサイズからなる残存型枠を形成することができる。
【0018】
残存型枠は一般的なコンクリート打設用の型枠と同様にその内側にコンクリートを打設することができる構造であり、又、打設時の振動等に耐える十分な強度を備えるものであることが求められる。この点については一般的なコンクリート打設用型枠に求められるところと同様である。
【0019】
但し、残存型枠は、建造物の一部として残存する建材であることから、一般的な型枠とは異なり、建造物に求められる耐久性と同等の長期耐久性が要求される。又、残存型枠は、少なくとも一方の表面について、これを用いる建造物の表面と同等の審美性も要求される。残存型枠は、これらの点において、一般的なコンクリート打設用の型枠とは異なる要求に応えられるものでなくてはならない。
【0020】
又、本発明に係る残存型枠は、従来の一般的な残存型枠が備える残存型枠としての基本的な機能に加えて、環境保全性に優れるCO
2吸収コンクリートとしての機能をも有するものである点に更なる特徴がある。
【0021】
このような様々な機能を有する本発明の残存型枠の適用箇所は従来の適用範囲と特段変わるところはなく、特に限定されるものではない。例えば、褄型枠、頂版下面型枠、中仕切り型枠、暗渠化用埋設型枠、構造物補修用型枠、側壁型枠、各種大型枠等として適宜用いることができる。
【0022】
<残存型枠用のプレキャストセメントパネル>
本発明のプレキャストセメントパネル(以下、単に「プレキャストセメントパネル」とも言う)は、炭酸化養生したセメント硬化体からなるパネル状の建材である。このセメント硬化体は、水と、ポルトランドセメントとγ−C2Sとを少なくとも含んでなるセメント材、骨材、ガラス繊維、及び適量のセピオライトを含有するセメント組成物(生セメント)を用いて製造することができる。
【0023】
上記のセメント組成物からなるプレキャストセメントパネルは、所謂、即時脱型による成型が可能なセメント硬化体である。これにより、本発明のプレキャストセメントパネルは、従来の残存型枠用のプレキャストパネルと比較して、生産性が飛躍的に向上している。
【0024】
又、プレキャストセメントパネルは炭酸化養生時にセメント硬化体中のアルカリ分が中和されることにより、一般的なコンクリート硬化体よりもpHが低くなることが想定されている。具体的にこのセメント硬化体のpHは10以下であることが好ましい。これにより、ガラス繊維の劣化をより顕著に抑制でき、プレキャストセメントパネルの経時劣化をより顕著に抑制できる。尚、本明細書中、セメント硬化体のpHは、「卓上型pH水質分析計(堀場製作所社製)」を用いて測定される値を示す。
【0025】
本発明のプレキャストセメントパネルの製造に用いるセメント組成物(以下、単に「セメント組成物」とも言う)に配合するセメント材としては、少なくともポルトランドセメントとγ−C2Sとを含有するセメント材を用いる。これらのうちγ−C2Sは、炭酸化養生において炭酸化反応に関わる物質であり、養生雰囲気から供給されるCO
2を消費(吸収)して炭酸カルシウムCaCO
3を生成し、セメント硬化体として必要な強度を担う。一方、ポルトランドセメントは、型枠に打設後、直ちに水和反応を開始して結合材として機能し、セピオライトの増粘性向上効果と併せて即時脱型可能であり、即時脱型後の固化体を炭酸化養生に供する際に所定のプレキャストコンクリートの形状を維持するに足る強度レベルを付与する。尚、ポルトランドセメントの一部を高炉スラグで代替することもできる。これにより、セメント製造段階でのCO
2排出量を低減させることができる。
【0026】
セメント組成物においては、セメント材中にγ−C2Sの割合が5質量%以上50質量%以下であればよく、25質量%以上であることが好ましい。この割合が5質量%未満であると、炭酸化養生におけるCO
2吸収量が少なくなり、コンクリート製品としてのCO
2の排出量の削減効果が発揮されない。一方、上記割合が50質量%を超えると、水セメント比を後述の範囲内で調整したとしても、ポルトランドセメントによる硬化への寄与が不足し、即時脱型可能な強度が得られにくい。
【0027】
ポルトランドセメントには、普通ポルトランドセメントの他、早強、超早強、中庸熱、低熱等の種類がある。セメント組成物においては、これら種々のポルトランドセメントの1種又は2種以上を配合するものを用いることができる。これらの中でも、普通ポルトランドセメント及び低熱ポルトランドセメントの1種又は2種を使用したものを用いることが好ましい。
【0028】
セメント組成物に用いるガラス繊維は特に限定されず、Eガラス繊維、ARガラス繊維等、従来公知のガラス繊維を適宜選択することができる。但し、本発明のプレキャストセメントパネルは、炭酸化養生によってセメント硬化体中のアルカリ分が中和されて一般的なコンクリート硬化体よりpHが低いものであるため、従来、長期耐久性を求められる残存型枠において広く採用されてきたアルカリ耐性に優れるARガラス繊維に替えて、相対的に安価なEガラスを選択することが可能であり、これにより、残存型枠の製造コストを大幅に低減させることができる。
【0029】
セメント組成物に用いるガラス繊維の繊維径は特に限定されない。例えば10μm以上20μ以下であることが好ましく、13μm以上18μm以下であることがより好ましい。これにより、プレキャストセメントパネルの各種強度が一層向上し、特に曲げ強度が顕著に向上する傾向がある。又、ガラス繊維の繊維長も特に限定されず、3mm以上35mm以下であることが好ましく、5mm以上30mm以下であることがより好ましい。これにより、プレキャストセメントパネルの各種強度が一層向上し、特に曲げ強度が顕著に向上する傾向がある。尚、ガラス繊維は、混練、型枠への充填等によってその一部が折れて繊維長が短くなる場合がある。よって、上述の好適な繊維長は、セメント硬化体中のガラス繊維の最大繊維長、又は、セメント組成物へ配合されるガラス繊維の繊維長を示す。
【0030】
セメント組成物におけるガラス繊維の含有量は、プレキャストセメントパネルの個別の要求特性に応じて、適宜調整することができる。ガラス繊維の含有量は、例えば、プレキャストセメントパネルの全体積基準で0.5体積%以上5.0体積%以下であることが好ましく、0.7体積%以上3.0体積%以下であることがより好ましい。ガラス繊維の含有量を上記範囲内において多くすることでプレキャストセメントパネルの各種強度が一層向上し、特に曲げ強度が顕著に向上する傾向があり、又、ガラス繊維の含有量を多くすることで即時脱型性が向上する傾向がある。ガラス繊維の含有量を上記範囲内に抑えることで材料コストの低減、流し込み成形の場合の製造性向上、繊維投入手間の軽減、圧縮強度低減の抑制といった効果を享受することができる。
【0031】
これらのガラス繊維は、セメント硬化体中に分散されており、これによりプレキャストセメントパネルは優れた強度を有するものとされる。又、プレキャストセメントパネルは、炭酸化養生によってセメント硬化体中のアルカリ分が中和されているため、ガラス繊維の腐食による強度劣化が十分に抑制されており、長期に亘って良好な耐久性を維持できる。このため、プレキャストセメントパネルは、初期強度及び長期信頼性の双方が要求される残存型枠用途に極めて好ましく用いることができる。
【0032】
セメント組成物は、その他の混和材を更に含有していてよい。その他の混和材としては、公知の混和材を特に制限無く使用してよい。混和材の量も特に限定されず、プレキャストセメントパネルの用途、要求特性等に応じて適宜調整できる。混和材としては、例えば、石炭灰、フライアッシュ、石灰石微粉末等が挙げられる。
【0033】
ここで、セメント組成物において、水とセメント材及びその他の混和材を含む粉体との配合比である水粉体比(W/P)は、25%以上50%以下であればよく、30%程度であることが好ましい。この水粉体比(W/P)が25%未満であると、練混ぜが困難となり、更には、締固めが不十分となる。又、単位セメント量が増大することに起因してセメント製造過程でのCO
2排出量を炭酸化養生でのCO
2吸収量によって相殺することが難しくなる。一方、水粉体比(W/P)が50%を超えると、即時脱型時に必要となる粘性を得ることが困難となる。尚、本明細書におけるセメント材とは、上記のポルトランドセメントとγ−C2Sとを少なくとも含有し、必要に応じて更に高炉スラグ及びその他の粉状の結合材を含有する粉体成分のことを言う。ガラス繊維及びセピオライトはこれに含まれないものとする。尚、本明細書において、セメント組成物の粉体(P)とは、上記のセメント材(C)及びその他の混和材として使用した粉体(石灰灰等)とを合せたものことを言い、この粉体(P)の量とは、これらの合計量のことを言い、水粉体比(W/P)とは、セメント組成物(生セメント)における、この粉体(P)の量に対する水(W)の量の割合のことを言う。
【0034】
本発明にかかるセメント組成物は、例えば、公知の細骨材を特に制限無く使用してよい。細骨材を配合することで、プレキャストセメントパネルをモルタル材として好適に使用できる。細骨材の種類及び配合量は、プレキャストセメントパネルの用途、要求特性等に応じて適宜調整してよい。
【0035】
細骨材とは、JIS A 5308、JIS A 5005、JIS A 5002及びJIS A 5011で定義される骨材であり、細骨材としては、例えば砕砂、砂、川砂、海砂、石灰砕砂、再生骨材、軽量骨材、重量骨材等が挙げられる。細骨材を配合する場合、その配合量は、例えば、セメント材100質量部に対して50質量部以上400質量部以下であることが好ましい。
【0036】
本発明にかかるセメント組成物は、一般的なセメント組成物同様、必要に応じて各種の混和剤を含有させてもよい。混和剤としては、例えば、減水剤、AE減水剤、高性能減水剤、高性能AE減水剤、AE剤、流動化剤等が挙げられる。混和剤の配合量は、例えば、セメント成分100質量部に対して0.001質量部以上3質量部以下であることが好ましい。
【0037】
セメント組成物は、例えば、型枠内に充填されて所定の形状に硬化された後、炭酸化養生される。セメント組成物は、炭酸化養生の前に完全に硬化されている必要はなく、例えば、自立可能に(型枠から外しても所定の形状を維持できる程度に)硬化されていればよい。尚、ガラス繊維は、型枠に充填する前にセメント組成物と混合してよく、型枠に充填後、硬化前にセメント組成物と混合してもよい。
【0038】
<プレキャストセメントパネルの製造方法>
本発明のプレキャストセメントパネルは、上述のセメント組成物を混錬してなる生セメントを型枠内で硬化(半硬化)させて即時脱型による予備成型を行う予備成型工程と、この硬化物を炭酸化養生する炭酸化養生工程と、を備える本発明の製造方法により製造することが好ましい。この製造方法で製造されるプレキャストセメントパネルは、ガラス繊維を含有して優れた強度を有する。又、セメント成分に由来するアルカリ分が炭酸化養生によって中和されているため、ガラス繊維の腐食による強度劣化が十分に抑制され、長期信頼性に優れるプレキャストセメントパネルが得られる。そして予備成型を即時脱型で行うために従来よりも飛躍的に向上した高い生産性の下でプレキャストセメントパネルの製造を行うことができる。以下、各工程について詳述する。
【0039】
[予備成型工程]
上記において材料組成の詳細を説明したセメント組成物を練り混ぜてなる生セメントを所定形状のプレキャストコンクリート用型枠に打設する。この練り混ぜは、ガラス繊維の折損が少なくなるように低〜中速(例えば100〜200rpm)で実施することが好ましい。
【0040】
打設後、上記型枠内の生セメントを、振動機等を用いて締固め、必要に応じて表面形状を整えたら即時に、その後長くても3分以内を目途に、半硬化体の状態で即時脱型する。このようにして得られたコンクリート固化体(半硬化体)を次工程である炭酸化養生工程養生に供する。
【0041】
この予備形成工程では、生セメントを完全に硬化させる必要はなく、例えば、要求される精度の範囲で形状を維持しつつ自立可能な程度にまで硬化すればよい。本発明のセメント組成物からなる生セメントは上述の通り、適量のセピオライトが添加されていることにより、上記のような即時脱型を行った場合における形状保持の精度が必要十分な程度にまで高められている。即時脱型時における必要十分な形状保持の精度は、個別の現場や用途毎において求められる各範囲内であればよいが、一般的には、製品の寸法において±2mm以内であることが、即時脱型によるセメント成型品としての質管理基準として求められる好ましい範囲である。本発明の製造方法によれば、そのような基準を十分にクリアすることが可能である。
【0042】
[炭酸化養生工程]
予備成型工程後、生セメントの半硬化体を炭酸化養生する工程を行う。この炭酸化養生は、例えば、上記の半硬化体を二酸化炭素含有ガスに曝すことで実施することができる。二酸化炭素含有ガスにおける二酸化炭素の含有割合は、例えば1%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましい。これにより炭酸化養生が迅速に実施され、セメント組成物中のガラス繊維のアルカリ分による劣化を抑制することができる。尚、炭酸化養生に使用するCO
2の供給源として、工場や施設から排出される燃焼排ガスを利用することができる。燃焼排ガスを炭酸化養生のチャンバー内に直接送り込んでもよいし、他のガスと混合したうえで送り込んでもよい。
【0043】
炭酸化養生時の温度は特に限定されないが、15℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましい。又、炭酸化養生時の温度は、例えば70℃以下であることが好ましい。
【0044】
炭酸化養生の養生期間は、養生対象物の形状、養生条件等に応じて適宜設定してよい。例えば、養生期間は1〜28日程度であればよい。炭酸化養生工程においては、未硬化成分の硬化反応が同時に進行してよい。上述の通り、即時脱型による予備成型工程においては硬化は完了していないことが想定されているため、未硬化成分については、炭酸化養生工程の実施中に十分に硬化するようにすればよい。
【0045】
上記製造方法によって得ることができる本発明のプレキャストセメントパネルは、そのまま残存型枠等の用途に供されてよく、必要に応じて成形、加工等を施されてから具体的な用途に供されてもよい。本発明のプレキャストセメントパネルは、残存型枠に極めて好適に用いることもできるが、それ以外の用途への転用も可能である。本発明のプレキャストセメントパネルの他の用途への転用の具体例としては、魚礁ブロック、護床ブロック、建材パネル、ケーブルトラフ、U字側溝、GC蓋、電柱等の用途等を例示することができる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明の残存型枠用のプレキャストセメントパネルについて、実施例を挙げて詳細に説明する。尚、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0047】
本発明の奏する特段の効果を確認するために、先ずは、以下に説明する各材料を用いて、各実施例及び比較例のプレキャストセメントパネル供試体の成形に用いる各々の生セメントを下記表1に示す各材料を用いて調合した。表2に各々の生セメントの配合を示す。但し、下記の使用材料のうち、混和剤(Sp)については、全ての生セメントにおいて、粉体(P)に対する配合比で、0.35質量%の割合で添加した。
【0048】
表3には、各実施例及び比較例の供試体の成形に用いる生セメントにおける、「水(W)とセメント材(C)との比(W/C)(%)」、「水(W)と粉体(P)との比(W/P)(%)」、及び「セピオライト(Sep)の水(W)に対する含有量(Sep/W)(%)」を、それぞれ示した。
【0049】
表4には、各実施例及び比較例の生セメントを硬化させて得た各々の硬化体中のセピオライトの含有量を、それぞれ示した。この硬化体中のセピオライトの含有量の測定は、下記の通り、即時脱型によって得た半硬化体の各プレキャストセメントパネル供試体について、脱型後、下記に記載の条件で炭酸化養生を行ない、硬化が完了した段階での各々の供試体について、硬化体4.5部に酸化マグネシウム0.5部を添加し、メノウ乳鉢で十分混合したのち、粉末X線回折測定を実施した。測定結果をSietronics社製定量ソフト「SIROQUANT」で解析し、各々の硬化体中のセピオライトの含有量を測定して得た数値である。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
[即時脱型時の形状保持精度試験]
(試験方法)
各実施例及び比較例の生セメントについて、内のりが、100mm×40mm×400mmの型枠に打ち込み、ランマで5秒締固めを行った後、ただちに側面の型枠を脱型(即時脱型)して半硬化体の供試体を得た。各実施例及び比較例の供試体について、上記型枠の内のり寸法と、供試体の長さ、幅、高さにおけるそれぞれの差(以下「ずれ幅」と言う)を測定した。この試験における評価基準は以下の通りとし、評価結果は「形状保持精度」として表3に記載する。
(評価基準)
○:供試体における、長さ、幅、高さのずれ幅が、いずれも2mm以下。
△:上記ずれ幅の最大値が2mmを超えて4mm以下。
×:上記ずれ幅の最大値が4mmを超える。
【0053】
[曲げ強度試験(初期)]
(試験方法)
上記の即時脱型で得た各実施例及び比較例の半硬化体の状態の各供試体について、50℃、40%RH、50%CO
2環境下で材齢14日まで炭酸化養生して、硬化を完了させ、プレキャストセメントパネル供試体を得た。このようにして得た各供試体について、JSCE G 552に準じて、3等分点載荷で試験を実施し、各供試体の曲げ強度を測定した。この試験における評価基準は以下の通りとし、評価結果は「曲げ強度(初期)」として表3に記載する。
(評価基準)
○:曲げ強度が4N/mm
2以上。
△:曲げ強度が3N/mm
2以上4N/mm
2未満。
×:曲げ強度が3N/mm
2未満。
【0054】
[耐久性試験]
(試験方法)
上記「曲げ強度試験(初期)」で用いた硬化を完了させたプレキャストセメントパネル供試体について、70℃の温水中に浸漬する劣化促進試験を行い、促進30日における曲げ強度の測定を行った。尚、曲げ強度試験は、上記「曲げ強度試験(初期)」と同じ方法で実施した。又、各供試体は、所定の促進日数(浸漬期間)で70℃の温水から引き上げ、室温まで徐冷した後に各試験に供した。この試験における評価基準は以下の通りとし、評価結果は「耐久性(促進試験後)」として表3に記載する。
(評価基準)
○:劣化促進試験後の曲げ強度が、初期強度の95%以上。
△:劣化促進試験後の曲げ強度が、初期強度の85%以上95%未満。
×:劣化促進試験後の曲げ強度が、初期強度の85%未満。
【0055】
[CO
2排出量抑制性能試験]
(試験方法)
硬化を完了させたプレキャストパネルについて、無機炭素分析により、CO2固定量を求め、材料製造時のCO2排出量から差し引いて求めた数値である。この試験における評価基準は以下の通りとし、評価結果は「CO
2吸収」として表3に記載する。
(評価基準)
○:CO
2排出量がマイナス。
△:CO
2排出量が0kg/m
3以上10kg/m
3未満。
×:CO
2排出量が10kg/m
3以上。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
以上の結果より、本発明にかかる残存型枠用のプレキャストセメントパネルは、即時脱型による高い生産性の下での生産が可能であり、尚且つ、強度及び耐久性に優れ、更には、CO
2の総排出量の増大も回避することができる残存型枠であることが分る。