特許第6846861号(P6846861)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6846861-ピストンポンプ 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6846861
(24)【登録日】2021年3月4日
(45)【発行日】2021年3月24日
(54)【発明の名称】ピストンポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04B 53/14 20060101AFI20210315BHJP
【FI】
   F04B53/14 Z
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2015-203523(P2015-203523)
(22)【出願日】2015年10月15日
(65)【公開番号】特開2016-79978(P2016-79978A)
(43)【公開日】2016年5月16日
【審査請求日】2018年9月27日
(31)【優先権主張番号】10 2014 221 097.6
(32)【優先日】2014年10月17日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】591245473
【氏名又は名称】ロベルト・ボッシュ・ゲゼルシャフト・ミト・ベシュレンクテル・ハフツング
【氏名又は名称原語表記】ROBERT BOSCH GMBH
(74)【代理人】
【識別番号】100177839
【弁理士】
【氏名又は名称】大場 玲児
(74)【代理人】
【識別番号】100172340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 始
(72)【発明者】
【氏名】ゲルトナー,オリバー
【審査官】 松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】 特表2001−501273(JP,A)
【文献】 特表2001−508854(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102006052775(DE,A1)
【文献】 米国特許第03112705(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 53/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液圧式車両ブレーキ装置用ピストンポンプにおいて、
流体が流入するポンプ室(4)と、
行程運動のために駆動可能であり、搬送行程において前記ポンプ室(4)の容積を縮小させて前記流体を搬送するためのポンプピストン(2)と、
前記ポンプピストン(2)の前記行程運動の方向において該ポンプピストン(2)に対して可動であり、前記搬送行程において前記ポンプピストン(2)とともに前記ポンプ室(4)の容積を縮小させることが可能な第2のピストン(28)と、
を備え、
前記ポンプピストン(2)は、一端側がピストンポンプ(1)の偏心体(7)により当接される大径部と、該大径部の他端側に設けられた小径部とが設けられているとともに、前記大径部と前記小径部とを接続する環状段部(31)が設けられており、
前記第2のピストン(28)は、前記搬送行程において弾性要素(30)を介して前記環状段部(31)で支持される
ことを特徴とするピストンポンプ。
【請求項2】
前記ピストンポンプ(1)は、前記ポンプピストン(2)に対する前記第2のピストン(28)用の距離制限部(32)を有し、該距離制限部(32)が前記搬送行程での前記ポンプピストン(2)に対する前記第2のピストン(28)の可動距離を制限することを特徴とする、請求項1に記載のピストンポンプ。
【請求項3】
前記第2のピストン(28)は、前記ポンプピストン(2)上に変位可能に配置されるリングピストンであることを特徴とする、請求項1に記載のピストンポンプ。
【請求項4】
前記弾性要素(30)は、皿ばねまたは皿ばねアッセンブリを有していることを特徴とする、請求項1に記載のピストンポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の前文の構成を備えた液圧式車両ブレーキ装置用ピストンポンプに関するものである。ピストンポンプは、特に、スリップコントロール型液圧式車両ブレーキ装置において、ブレーキ圧を生成するため、または、ブレーキ液をブレーキマスタシリンダの方向へ逆送するために設けられ、この場合このようなポンプは逆送ポンプとも呼ばれ、或いは、電動液圧式の、すなわち外力式の車両ブレーキ装置においてブレーキ圧を生成するために設けられる。後者のケースでは、ピストンポンプはスリップコントロールに対しても使用することができる。ピストンポンプは1つのピストンポンプの、特にマルチピストンポンプのポンプ構成要素と見なすこともできる。
【背景技術】
【0002】
この種のピストンポンプは公知であり、通常はポンプピストンとポンプ室とを有し、ポンプ室の横断面はポンプピストンの横断面に対し合同であり、すなわち通常は円形である。ポンプピストンはポンプ室内で軸線方向に(または一般的には長手方向に)変位可能であり、且つ(通常は偏心体を用いて)ポンプ室の長手方向で往復動する行程運動のために駆動可能である。行程運動により、それ自体公知の態様で、吸込み行程時に流体が、液圧式車両ブレーキ装置のケースではブレーキ液が吸込まれ、搬送行程時にポンプ室から排出され、すなわち流体はピストンポンプによって搬送される。ピストンポンプの貫流方向は吸込み弁と吐出し弁とによって制御され、吸込み弁と吐出し弁とは通常逆止弁である。ポンプ室はしばしば筒体または筒孔とも呼ばれ、たとえば、ソレノイド弁のようなスリップコントロールの他の液圧構成部材を受容している液圧ブロックの孔に圧入されているライナーブシュの内部空間であってよく、或いは、ポンプ室はこのような液圧ブロック内の孔によって直接形成される。ポンプ室はピストンポンプの筒体内またはポンプケース内に形成されていてもよい。列挙したものは代表的なものであり、これがすべてではない。このようなピストンポンプの一例を特許文献1が開示している。
【0003】
種々のスリップコントロールにとっては、特にアンチスピンプロテクションコントロール/ドライビングダイナミックスコントロール、或いは、先行車両または停止車両またはその他の障害物または人に対する衝突を回避するための自動ブレーキにとっては、車両の1つの車輪ブレーキまたは複数の車輪ブレーキまたはすべての車輪ブレーキの非常に迅速な応答が重要であり、このことは大きな搬送容積をもったポンプを必要とする。搬送圧が上昇すると、すなわちピストンポンプの吐出し部での圧力が上昇すると、ピストンポンプの駆動トルクと駆動出力とが上昇する。搬送圧が上昇したときにピストンポンプが停止しないようにするには、ピストンポンプは、対応的に高いトルクと大きな駆動出力とを備えた駆動モータを、通常は電動機を必要とし、すなわち大型の重いモータを必要とする。さらに、電子制御器はこのような駆動モータの大きな電力消費量に対して構成されていなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】独国特許出願公開第19902018A1号明細書
【発明の概要】
【0005】
請求項1の構成を備えた本発明によるピストンポンプは、行程運動のために駆動可能なポンプピストンと、第2のピストンとを有し、該第2のピストンは、行程方向において前記ポンプピストンに対し可動であり、且つ搬送行程の方向において弾性要素を介してポンプピストンで支持されている。搬送圧が低い場合、第2のピストンは、ポンプピストンでの弾性要素を用いたその支持によりポンプピストンと一緒に移動し、すなわち両方のピストンが搬送または排出を行なう。搬送圧が上昇すると、弾性要素が収縮し、その結果第2のピストンはポンプピストンと一緒に移動するが、しかしながらより短い行程で移動する。ピストンポンプの搬送圧が大きければ大きいほど、弾性要素は搬送行程中により大きく収縮し、且つ副ピストンの行程はより短くなる。搬送圧が高ければ、第2のピストンは停止することができ、すなわちもはやポンプピストンと一緒に移動しない。ピストンポンプの構成の要点は、どの程度の搬送圧まで第2のピストンがポンプピストンと一緒に移動するか、搬送圧が上昇した場合に第2のピストンの行程がどの程度短縮するか、場合によってはどの搬送圧から第2のピストンが停止してもはやポンプピストンと一緒に移動しないかということにある。構成パラメータはとりわけ両ピストンのピストン面積、弾性要素の弾性剛性と弾性特性曲線であり、および弾性要素の種類もそうである。
【0006】
搬送圧上昇時の第2のピストンの行程の短縮は、結果的に、第2のピストンの搬送体積を減少させ、よって総じてピストンポンプの搬送体積も減少させる。搬送圧上昇時に減少する搬送体積は、ポンプピストンの駆動に必要な駆動力の上昇を減少させ、これと同時に本発明によるピストンポンプのポンプピストンの駆動エネルギーおよび駆動出力の上昇も減少する。本発明によるピストンポンプには、搬送圧が低いときの大きな搬送体積、および、搬送圧が上昇するときの駆動力、駆動エネルギー、駆動出力の低下という利点があり、これによって、与えられたモータ出力でより高い搬送圧が可能である。
【0007】
従属請求項は、請求項1に記載した発明の有利な構成および更なる構成を対象としている。
【0008】
次に、本発明を、図面に図示した1実施形態を用いて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明によるピストンポンプの部分図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図面に図示した本発明によるピストンポンプ1はポンプピストン2を有し、ポンプピストン2は軸線方向に変位可能にライナーブシュ3の内部空間内に受容され、ライナーブシュ3はポンプ室とも見なすことができ、ここでは筒孔4と記すことにする。ライナーブシュ3は液圧ブロック6の受容孔5内に圧入され、液圧ブロック6のうち、図面には、ピストンポンプ1を取り囲んでいる部分が図示されている。液圧ブロック6とピストンポンプ1とは、液圧式車両ブレーキ装置のスリップコントロールに用いられる液圧アッセンブリ(残りの部分は図示せず)の構成部材である。車両ブレーキ装置のスリップコントロール用のこのような液圧アッセンブリおよび液圧ブロック6は公知である。液圧ブロック6内にはソレノイド弁、逆止弁、ハイドロアキュムレータ、ダンパー室のような他の図示していない液圧構成要素が組み込まれ、液圧ブロック6の穿設部によって互いに液圧的に接続されている。このようなスリップコントロールはそれ自体常にブレーキアンチロックコントロールを含んでおり、今日ではほとんどの場合、さらにトラクションスリップコントロールおよび一般にはアンチスピンプロテクションコントロールとも呼ばれるドライビングダイナミックスコントロールをも含んでいる。これらのコントロールに対しては略語としてABS,ASR,FDR,ESPが一般に使用されている。このような液圧アッセンブリを用いて可能な他のブレーキコントロールは、たとえば、先行車両に対する車間距離のコントロールのための自動ブレーキ、障害物または人に対する衝突を回避するための自動ブレーキである。液圧アッセンブリは各ブレーキ回路に対し1つまたは複数のピストンポンプ1を有している。
【0011】
ポンプピストン2を駆動するため、ピストンポンプ1は偏心体7を有し、偏心体7はポンプピストン2の端面に配置され、その周部にポンプピストン2がその端面でもって当接している。偏心体7の回転軸線は半径方向においてポンプピストン2の軸線と交差している。偏心体7は図示していない電動機を用いて回転駆動可能であり、電動機は、液圧ブロック6の外面に偏心体7の回転軸線と同軸に装着されている。この電動機はポンプモータと呼ぶこともでき、電動機と偏心体7との間には伝動装置が配置されていてよい。偏心体7を該偏心体7に対して偏心しているその回転軸線のまわりに回転駆動することにより、ポンプピストン2は筒孔4内で往復行程運動を実施する。ポンプピストン2の、偏心体7とは逆の側で、筒孔4内に配置されているピストンスプリング8は、ポンプピストン2をその端面でもって偏心体7の周部のほうへ付勢する。ピストンスプリング8は、ライナーブシュ3の底部9で支持されている。本実施形態では、ピストンスプリングはコイル圧縮ばねであるが、これは本発明にとって必ずしも強制的なものではない。スプリングなしでもポンプピストン2の行程運動自体は可能である。
【0012】
ピストンポンプ1を用いて搬送される流体(すなわち本実施形態ではブレーキ液)を吸込むため、ポンプピストン2は互いに交差する複数のラジアルボア10を有し、これらラジアルボア10は、軸線方向の袋穴11とその閉じた端部付近で交差している。袋穴11は、ポンプピストン2の、偏心体7から遠い端面において、筒孔4に開口している。ライナーブシュ3内の筒孔4内にある、偏心体7から遠い端面に、ポンプピストン2は吸込み弁12を有している。図示してここで説明している本発明の実施形態では、吸込み弁12はばね付勢される逆止弁であり、筒孔4の方向に貫流可能である。逆止弁/吸込み弁12は遮断体13として球体を有し、球体は弁ばね14によって弁座15に対し押圧され、弁座15はポンプピストン2の軸線方向の袋穴11の開口部に形成されている。弁ばね14は弁箱16の底部で支持され、弁箱16内には弁ばね14と遮断体13とが受容され、弁箱16は、ポンプピストン2の、偏心体7から遠い、筒孔4内にある端部に配置されている。弁箱16はラジアルフランジ17を有し、ピストンスプリング8がこれを押圧している。
【0013】
ピストンポンプ1は、吐出し弁18として、遮断体19としての球体と弁ばね20としてのコイル圧縮ばねとを用いて同様にばね付勢される逆止弁を有し、弁ばね20は遮断体19を弁座21に対し押圧させ、弁座21は中央孔22にしてライナーブシュ3の底部9の外面に形成されている。弁ばね20と吐出し弁18の遮断体19とは閉鎖部24の軸線方向の袋穴23内に配置され、閉鎖部24は液圧ブロック6内の受容孔5の開口部に圧入されてかしめられている。閉鎖部24は受容孔5を圧力が漏れないように閉鎖し、受容孔5内でライナーブシュ3を保持している。閉鎖部24とライナーブシュ3の底部9との間には隙間25があり、隙間25は環状室16に開口し、環状室16は液圧ブロック6内に設けた受容孔5内でライナーブシュ3をその底部9付近で取り囲み、該環状室16には、液圧ブロック6内に設けた吐出し孔27が開口している。
【0014】
逆止弁は本発明にとって必ずしも強制的なものではなく、吸込み弁および/または吐出し弁12,18として他の弁も可能であり、同様にこれら弁の他の配置も可能である。
【0015】
ピストンポンプ1は第2のピストン28を有し、第2のピストン28は、ここで説明し図示した本発明の実施形態ではリングピストンとして実施されて、軸線方向に、すなわち行程方向にポンプピストン2上を変位可能である。第2のピストン28は、ライナーブシュ3内に設けたパッキンリング29により密封されている。ポンプピストン2で第2のピストン28を密封するための他のパッキンを設けてよい(図示せず)。第2のピストン28は、弾性要素30を介して、ポンプピストン2の環状段部31で搬送行程の方向に支持されている。搬送行程は、偏心体7から離間する方向にしてライナーブシュ3の底部9の方向に方向づけられている。搬送行程でポンプピストン2と第2のピストン28とは筒孔4の容積を縮小させて、ブレーキ液を吐出し弁18を通じて排出させる。搬送行程の方向において、ポンプピストン2上での第2のピストン28の変位距離は距離制限部32によって制限され、距離制限部32は吸込み弁12の弁箱16のラジアルフランジ17によって形成される。第2のピストン28の弾性要素30は、図示しここで説明している本発明の実施形態では皿ばねアッセンブリによって形成されるが、他の種類のばねも可能である。
【0016】
搬送圧が低い場合、または、ポンプ吐出し部内の圧力が低い場合、弾性要素30は第2のピストン28をポンプピストン2で堅固に支持し、その結果第2のピストン28はポンプピストン2と一緒に移動し、ピストンポンプ1はポンプピストン2および第2のピストン28の横断面全体でもって搬送を行なう。これによってブレーキ圧の迅速な生成が可能である。
【0017】
搬送圧またはポンプ吐出し部内の圧力が上昇すると、ポンプピストン2の行程運動の間に弾性要素30が弾性変形し、その結果第2のピストン28の行程が短縮する。搬送圧が上昇して第2のピストン28の行程が短縮することで、第2のピストン28の搬送体積が、よってピストンポンプ1の搬送体積が減少する。これにより、ポンプピストン2の行程運動に対し与えられた最大駆動力においてピストンポンプ1のより高い搬送圧が達成される。第2のピストン28の行程の短縮は該第2のピストン28の停止まで実施され得る。すなわち第2のピストン28はポンプピストン2と一緒に移動せずに、ライナーブシュ3内で停止する。
【符号の説明】
【0018】
1 ピストンポンプ
2 ポンプピストン
28 リングピストン(第2のピストン)
30 皿ばねアッセンブリ(弾性要素)
32 距離制限部
図1