(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
一方向炭素繊維シート(A1)に熱硬化性樹脂組成物(B)が含浸された層(「A1B層」と略す。)とランダムに配向した短繊維束(A2)に熱硬化性樹脂組成物(B)が含浸された層(「A2B層」と略す。)とがA1B層、A2B層及びA1B層の順に積層されたものであって、2つのA1B層の一方向炭素繊維シート(A1)の繊維の方向が同一であり、一方向炭素繊維シート(A1)の目付重量が50〜200g/m2である熱硬化性シート状成形材料。
【背景技術】
【0002】
補強材として炭素繊維を用いた炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRPと略すことがある)は、低比重、高強度、高弾性率などの優れた特性があることから、航空機、自動車、スポーツ用品など多くの産業用途において注目され、その需要は年々高まりつつある。
【0003】
CFRPの製造方法としては、連続炭素繊維束にマトリックス樹脂を含浸せしめた半硬化状態の中間基材(プリプレグ)を用いたオートクレーブ成形法や、予め型内で成形部材の形状に賦形した未含浸の連続炭素繊維束基材にマトリックス樹脂を注入して含浸させた後、硬化させるRTM(レジントランスファーモールディング)成形法が一般的である。これらの成形法により得られた炭素繊維強化プラスチックは、繊維束が連続した炭素繊維であるために優れた強度特性を有すると共に、そのバラつきが少ないという利点がある。
【0004】
しかしながら、これらのプリプレグを用いたオートクレーブ成形法やRTM成形法のように連続炭素繊維を用いた場合、全ての繊維束が連続した炭素繊維であるが故に基材の流動性が乏しく、三次元形状などの複雑形状を有する繊維強化プラスチックを成形することは難しい。そのため、これらの成形法は、製品形状が平面に近い部材に限定される。
【0005】
三次元形状などの複雑形状を有する部材に適した成形方法として、熱硬化性シート状成形材料を用いるシートモールディングコンパウンド(以下、SMCと略することがある)成形法がある。SMC成形法は、通常、12〜25mm程度の長さに機械的に切断された短繊維束に熱硬化性樹脂を含浸させ半硬化状態とした熱硬化性シート状成形材料を金型内に配置し、加熱・圧縮成形することにより所定の製品形状に成形を行うものである。SMCは、短繊維束を使用しているため、金型内での流動性に優れ、三次元形状などの複雑形状にも追従が可能である。
【0006】
しかしながら、SMCは、そのシート化工程において切断された繊維束を分散する際に、その繊維束の分布量ムラや配向ムラが生じてしまうため、連続繊維を用いた繊維強化プラスチックと比べて、得られる繊維強化プラスチックの強度特性が低下すると共にそのバラつきが大きくなる欠点があった。
【0007】
複雑形状への追従性を有し、かつ優れた力学特性を発現する繊維強化プラスチックを得る方法として、連続した炭素繊維の繊維方向を横切る方向に断続的に有限長の切り込みを入れたプリプレグ基材を複数層積層してなるプリプレグ基材積層体と、その最表層の少なくとも片側に配設された切り込みを入れていないプリプレグ基材とで構成されたシート状プリプレグを用いることが開示されている(例えば、特許文献1を参照)。また、高強度でかつ意匠性に優れた繊維強化プラスチックを圧縮成形法を用いて短時間に製造するために、実質的に連続した強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたものと、その少なくとも片側表面にあり、短繊維状の強化繊維に熱硬化性樹脂を含浸させたもの(SMC)とを重ね合せた成形材料を用いることが開示されている(例えば、特許文献2を参照)。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[熱硬化性シート状成形材料の積層形態]
本発明に係る熱硬化性シート状成形材料は、一方向炭素繊維シート(A1)に熱硬化性樹脂組成物(B)が含浸された層(A1B層)とランダムに配向した短繊維束(A2)に熱硬化性樹脂組成物(B)が含浸された層(A2B層)とがA1B層、A2B層及びA1B層の順に積層され、2つのA1B層の一方向炭素繊維シート(A1)の繊維の方向が略同一であるものである。
【0016】
本発明に係る熱硬化性シート状成形材料の具体的な積層形態としては、例えば、
図1に示されるA1B層/A2B層/A1B層、
図2に示されるA1B層/A2B層/A2B層/A1B層、A1B層/A1B層/A2B層/A2B層/A1B層/A1B層、A1B層/A2B層/A1B層/A1B層/A2B層/A1B層などが挙げられる。即ち、A1B層が積層方向の両側の最外に位置する積層形態であれば、A1B層10及びA2B層11をそれぞれ単層としてもよいし、複層としてもよい。複層とする場合、含浸される熱硬化性樹脂組成物(B)の組成は同じであってもよいし、異なってもよい。また、A1B層とA2B層との間には、熱硬化性樹脂組成物(B)を硬化させてなる樹脂層が存在してもよい。この樹脂層を構成する熱硬化性樹脂組成物(B)は、一方向炭素繊維シート(A1)及び短繊維束(A2)に含浸させた熱硬化性樹脂組成物の組成と同じであってもよいし、異なってもよい。
【0017】
[熱硬化性シート状成形材料の製造方法]
本発明の熱硬化性シート状成形材料は、一般的なSMC製造装置を用いて製造することができる。後述の原材料を混合して熱硬化性樹脂組成物(B)を得た後、その熱硬化性樹脂組成物(B)を一方向炭素繊維シート(A1)及び/又は短繊維束(A2)に含浸してシート化し、それをA1B層、A2B層及びA1B層の順に積層することで製造することができる。例えば、A1B層からなるシートとA2B層からなるシートとをそれぞれ製造し、それらをA1B層、A2B層及びA1B層の順に積層することで本発明の熱硬化性シート状成形材料を得ることができる。また、一方向炭素繊維シート(A1)、短繊維束(A2)及び一方向炭素繊維シート(A1)の順に積層したところに熱硬化性樹脂組成物(B)を一度に含浸させることで本発明の熱硬化性シート状成形材料を得ることもできる。A1B層のみ、及びA2B層のみを先にシート化してから積層する方法で
図1の熱硬化性シート状成形材料を得る方法を例に、以下に、本発明の熱硬化性シート状成形材料を製造する具体的な方法を説明する。
【0018】
まず、熱硬化性樹脂組成物(B)の各原材料をミキサーなどで混合する。材料を混合する順番や攪拌機に特に制限は無いが、混合時の温度は20〜45℃であることが好ましい。次に、この混合した熱硬化性樹脂組成物(B)をSMC製造装置の上下に設置されたキャリアフィルムに均一な厚さになるように塗布する。キャリアフィルムとしては、一般に用いられているものであれば特に制限は無いが、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルムなどを用いることができる。続いて、熱硬化性樹脂組成物(B)を塗布した上下キャリアフィルムの片方又は両方に一方向炭素繊維シート(A1)を配置する。この時、一方向炭素繊維シート(A1)の繊維の方向はキャリアフィルムの繰出し方向と同一方向である。その後、上下のキャリアフィルムを挟み込み、全体に圧力を加えながら含浸ロールの間を通し、一方向炭素繊維シート(A1)に熱硬化性樹脂組成物(B)を含浸してシート化する。同様の方法で、短繊維束(A2)に熱硬化性樹脂組成物(B)を含浸してシート化したものも作製する。
【0019】
得られたシートは、室温〜60℃の温度で1〜240時間加温して熟成することが好ましい。室温〜60℃で1〜240時間熟成させることで、キャリアフィルムの剥離が容易となるとともに、キャリアフィルムを剥がした際にベタツキの少ないシートを得ることができる。
【0020】
得られたシートをA1B層、A2B層及びA1B層の順に積層することで、
図1に示される熱硬化性シート状成形材料を得ることができる。
【0021】
[(A1)一方向炭素繊維シート]
一方向炭素繊維シート(A1)は、緯糸を含まない形態であり、例えば、予め炭素繊維を一方向に引き揃えてシート状にした一方向炭素繊維基材や、シート状にした一方向炭素繊維基材をマトリックス樹脂や集束剤で含浸し固定したプリプレグ状シートを用いることができる。
【0022】
一方向炭素繊維シート(A1)の目付重量は、熱硬化性シート状成形材料の成形時に良好な流動性を有し、繊維強化プラスチックが優れた強度を発現するために、50〜200g/m
2であることが好ましく、75〜200g/m
2であることがより好ましく、100〜200g/m
2であることが最も好ましい。
【0023】
一方向炭素繊維シート(A1)は、熱硬化性シート状成形材料100質量部に対して、3〜13質量部含まれることが好ましく、4〜12質量部含まれることがより好ましく、5〜10質量部含まれることが最も好ましい。一方向炭素繊維シート(A1)の含有量が3質量部以上であると、短繊維束(A2)のみを用いた従来のSMCと比較して良好な強度特性が発現する。一方、一方向炭素繊維シート(A1)の含有量が13質量部以下であると、成形時の流動性が良好となる。
【0024】
[(A2)ランダムに配向した短繊維束]
短繊維束(A2)に用いる繊維の種類には特に制限は無く、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、ガラス繊維などが例示できる。これらの繊維束は、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を用いてもよい。これらの中でも、炭素繊維は比強度及び比弾性に優れるので好ましく、ガラス繊維はこれらの繊維束の中で比較的安価で強度も優れるので好ましい。短繊維束(A2)の繊維長は、SMCにおいて通常用いられる長さであればよく、具体的には12〜25mmである。
【0025】
一方向炭素繊維シート(A1)及び短繊維束(A2)の合計量は、繊維強化プラスチックに要求される強度によって異なるが、熱硬化性シート状成形材料100質量部(一方向炭素繊維シート(A1)、短繊維束(A2)及び熱硬化性樹脂組成物(B)の合計100質量部)に対して、30〜60質量部であることが好ましく、35〜55質量部であることがより好ましく、40〜50質量部であることが最も好ましい。一方向炭素繊維シート(A1)及び短繊維束(A2)の合計量が30質量部以上であれば繊維強化プラスチックの強度が十分に高くなる。一方、一方向炭素繊維シート(A1)及び短繊維束(A2)の合計量が60質量部以下であれば成形時の流動性が良好となる。
【0026】
[(B)熱硬化性樹脂組成物]
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物(B)は、加熱により硬化可能であり、一方向炭素繊維シート(A1)及び短繊維束(A2)に含浸できるものであれば特に制限は無い。
【0027】
[(B1)熱硬化性樹脂]
熱硬化性樹脂組成物(B)は、主成分として、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱硬化性樹脂(B1)を含むことが好ましい。
【0028】
エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールタイプのエポキシ樹脂、ノボラックタイプのエポキシ樹脂又はこれらの混合物が挙げられる。
【0029】
不飽和ポリエステル樹脂は、例えば多価アルコールと多塩基酸を重縮合(エステル化)させることで得られる。多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンタンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールA及びグリセリンなどが挙げられる。多塩基酸としては、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ヘット酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、テトラクロロ無水フタル酸、テトラブロモ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸などの飽和又は不飽和多塩基酸が挙げられる。
【0030】
ビニルエステル樹脂は、例えば、エポキシ樹脂と不飽和一塩基酸とをエステル化触媒の存在下で反応することで得られたものである。エポキシ樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、1,6−ヘキサンジオールグリシジルエーテルなどのエポキシ樹脂又はそれらのエポキシ樹脂を併用した混合樹脂が挙げられる。
【0031】
不飽和一塩基酸としては、例えば、アクリル酸、メタアクリル酸、桂皮酸、クロトン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノプロピル、マレイン酸モノ(2ーエチルヘキシル)、ソルビン酸などが挙げられる。
【0032】
中でも、ビニルエステル樹脂は、成形時に短時間で硬化できるため成形サイクルに優れると共に、室温での保存安定性及び繊維強化プラスチックの強度も比較的良好であることから、好適に用いることができる。熱硬化性樹脂(B1)は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、15〜90質量部含まれることが好ましく、35〜85質量部含まれることがより好ましく、50〜80質量部含まれることが最も好ましい。熱硬化性樹脂(B1)の含有量が上記範囲内であると、成形時の流動性及び繊維強化プラスチックの強度の両立が容易である。
【0033】
[(B2)重合性モノマー]
熱硬化性樹脂組成物(B)は、重合性モノマー(B2)を含むことが好ましい。特に、熱硬化性樹脂(B1)としてビニルエステル樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂を用いた場合、重合性モノマー(B2)を熱硬化性樹脂(B1)の適切な希釈溶媒として用いることができる。重合性モノマー(B2)は、熱硬化性樹脂(B1)と重合可能なエチレン性不飽和結合を有しているものであれば適宜なものを用いることができる。重合性モノマー(B2)としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルトルエン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレートプレポリマー、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチルなどが挙げられる。
【0034】
重合性モノマー(B2)は、熱硬化性樹脂(B1)100質量部に対して、5〜80質量部含まれることが好ましく、25〜75質量部含まれることがより好ましく、35〜70質量部含まれることが最も好ましい。重合性モノマー(B2)の含有量が上記範囲内であると、成形時の流動性及び繊維強化プラスチックの強度の両立が容易である。
【0035】
[(B3)ポリイソシアネート]
熱硬化性樹脂組成物(B)は、ポリイソシアネート(B3)を含むことが好ましい。ポリイソシアネート(B3)は、一分子中に少なくとも二つのイソシアナト基を有するものであれば特に限定されない。ポリイソシアネート(B3)としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)、水素添加4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(H12MDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリエンジイソシアネート(TMXDI)、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)などが挙げられる。これらのポリイソシアネート(B3)は、単独で用いてもよいし、二種以上を併用してもよい。
【0036】
ポリイソシアネート(B3)は、熱硬化性樹脂組成物(B)に対して、3〜15質量%含まれることが好ましく、4〜12質量%含まれることがより好ましく、5〜10質量%含まれることが最も好ましい。ポリイソシアネート(B3)の含有量が上記範囲内であると、増粘が好適に進行しシートの取扱い性が良好となると共に、増粘が進行し過ぎることがなく、成形時の流動性が確保される。
【0037】
[(B4)硬化剤]
熱硬化性樹脂組成物(B)を加熱硬化させるための硬化剤には特に制限はなく、選定した熱硬化性樹脂(B1)及び重合性モノマー(B2)に適した公知のものを使用することができる。熱硬化性樹脂(B1)としてエポキシ樹脂を使用する場合の硬化剤としては、例えば、アミン、酸無水物、フェノール樹脂、メルカプタン、ルイス酸アミン錯体、オニウム塩、イミダゾールなどが挙げられる。エポキシ樹脂の硬化剤は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、3〜10質量部の範囲で添加することが好ましい。
【0038】
熱硬化性樹脂(B1)としてビニルエステル樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂を使用する場合の硬化剤としては、例えば、t−ブチルパーオキシオクトエート、ベンゾイルパーオキサイド、1,1,ジ−t−ブチルパーオキシ3,3,5,トリメチルシクロヘキサン、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドなどの過酸化物が挙げられる。これらの硬化剤は、単独で使用してもよいし、又は二種類以上を用いてもよい。ビニルエステル樹脂又は不飽和ポリエステル樹脂の硬化剤は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、5質量部以下の範囲で添加することが好ましい。
【0039】
上記した(B1)〜(B4)成分は、熱硬化性樹脂組成物(B)に対して、合計で60〜100質量%含まれることが好ましく、65〜100質量%含まれることがより好ましく、70〜100質量%含まれることが最も好ましい。(B1)〜(B4)成分の含有量が上記範囲内であると、一方向炭素繊維シート(A1)及び短繊維束(A2)への含浸性を確保することができると共に、成形時の流動性及び繊維強化プラスチックの強度の両立が容易である。
【0040】
[(B5)添加剤]
本発明で用いる熱硬化性樹脂組成物(B)には、本発明の効果を損なわない範囲で、内部離型剤、無機充填材、低収縮化剤、重合禁止剤、着色剤などの添加剤を添加してもよい。
【0041】
内部離型剤としては、例えば、ステアリン酸亜鉛、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、カルナバワックスなどが挙げられる。これらの内部離型剤は、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を用いてもよい。内部離型剤は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、15質量部以下の範囲で添加することができる。
【0042】
無機充填材としては、例えば、シリカ、アルミナ、マイカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、石こう、硫酸バリウム、クレー、タルクなどの無機粉末が挙げられる。これらの無機充填材は、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を用いてもよい。無機充填材は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、45質量部以下の範囲で添加することができる。
【0043】
低収縮化剤としては、既存のシートモールディングコンパウンドにおいて一般に使用されているものを使用することができ、例えば、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリ酢酸ビニル、飽和ポリエステル、ポリカプロラクトンなどが挙げられる。これらの低収縮化剤は、単独で用いてもよいし、又は二種類以上を用いてもよい。低収縮化剤は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、20質量部以下の範囲で添加することができる。
【0044】
重合禁止剤としては、例えば、ハイドロキノン、トリメチルハイドロキノン、p−ベンゾキノン、ナフトキノン、t−ブチルハイドロキノン、カテコール、p−t−ブチルカテコール、2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノールなどが挙げられる。これらの重合禁止剤は、単独で使用してもよいし、又は二種以上を併用してもよい。重合禁止剤は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、0.3質量部以下の範囲で添加することができる。重合禁止剤は、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルトルエン、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレートプレポリマー、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸メチルなどの重合性モノマーに、溶解させて用いることができる。
【0045】
着色剤は、成形品を着色する必要のある場合に用いるものであり、シートモールディングコンパウンドにおいて通常使用されている各種の無機顔料や有機顔料を使用することができる。着色剤は、熱硬化性樹脂組成物(B)100質量部に対して、10質量部以下の範囲で添加することができる。
【0046】
[繊維強化プラスチック]
本発明に係る繊維強化プラスチックは、上述した熱硬化性シート状成形材料を加熱・加圧により硬化させたものである。
【0047】
本発明において、熱硬化性シート状成形材料の成形方法は、熱硬化性シート状成形材料を加熱・加圧して硬化できるものであればよく、例えば、オートクレーブ成形法、真空バック成形法、圧縮成形法などの成形方法を挙げることができる。中でも、圧縮成形法は、他の成形方法と比較して高圧で成形することができるため、複雑形状の繊維強化プラスチックを短時間で製造することができ、生産性にも優れているため好ましい。具体的には、
図1及び2に示されるように、下金型14上に熱硬化性シート状成形材料12を配置した後、熱硬化性シート状成形材料12を上金型13と下金型14とで加熱、加圧すればよい。こうして得られる繊維強化プラスチックの両表面には、一方向炭素繊維シート(A1)に熱硬化性樹脂組成物(B)が含浸硬化された層が配置されているので、所望の方向に対して優れた強度特性を発現することができる。圧縮成形法における好ましい硬化条件はシートや金型の形状によるが、例えば金型温度100〜180℃、成形圧力5〜20MPa、成形時間60〜600秒とすることができる。
【0048】
本発明の製造方法に従って得られる繊維強化プラスチックは、広範囲に使用することができ、特に強度、剛性、軽量化が要求される自動車部品や機械部品に好適である。
【実施例】
【0049】
以下、実施例及び比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は、特にこれらに限定されるものではない。
【0050】
<一方向炭素繊維シート(A1)の作製>
連続した炭素繊維トウ(東レ株式会社製トレカ(登録商標)T700−12K)から、長さ1mの炭素繊維トウを複数本切出し、それらを一方向に引き揃えて目付重量が100g/m
2となるように並べ、その長さ方向の両端部を粘着テープで固定することで、一方向炭素繊維シートを得た。
【0051】
<熱硬化性樹脂組成物(B)の作製>
下記表1に示す組成となるように以下の材料(B1)〜(B5)を25℃で混合し、熱硬化性樹脂組成物Baを得た。
(B1)ビニルエステル樹脂、(B2)重合性モノマー(スチレン)
昭和電工株式会社製リポキシ(登録商標)R−804。ビスフェノールA型ビニルエステル樹脂のスチレン溶解品。スチレン含有率40質量%。
(B3)ポリイソシアネート
日本ポリウレタン工業株式会社製、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート。
(B4)硬化剤
日油株式会社製、t−ブチルパーオキシベンゾエート
(B5)内部離型剤
日油株式会社製、ステアリン酸亜鉛。
(B5)無機充填材
昭和電工株式会製ハイジライト(登録商標)H−42、水酸化アルミニウム。
(B5)重合禁止剤
精工化学株式会社製p−ベンゾキノンを三井化学株式会社製メチルメタアクリレートに5質量%の濃度で溶解したもの。
【0052】
【表1】
【0053】
<熱硬化性シート状成形材料の作製−1>
〔実施例1−1〕
SMC製造装置を用いて、熱硬化性樹脂組成物Baを上下キャリアフィルム(ポリプロピレン)に厚さが均一になるよう塗布した。
次いで、下側のキャリアフィルムにのみ一方向炭素繊維シート(目付重量100g/m
2)1枚を配置した。その一方向炭素繊維シート上に短繊維束(A2)として25mmの長さに機械的に切断された炭素繊維トウを散布し、上側のキャリアフィルムで挟み込んで熱硬化性樹脂組成物を含浸させた。40℃で24時間熟成させた後、280×280mmの大きさに2枚切り出し、2枚の一方向炭素繊維シートの繊維の配向方向が同一になるようにA2B層同士を対向させて重ね合せて、
図2に示されるような熱硬化性シート状成形材料(A1B層が積層方向の両側の最外に位置する)として実施例1−1の熱硬化性シート状成形材料を得た。実施例1−1の熱硬化性シート状成形材料は、一方向炭素繊維シート(A1)、短繊維束(A2)及び熱硬化性樹脂組成物Baの含有量が、熱硬化性シート状成形材料100質量部に対して、それぞれ5質量部、45質量部及び50質量部となるような条件で作製した。また、単位面積当たりのシート重量は約4kg/m
2であった。
【0054】
〔実施例2−1〕
一方向炭素繊維シート(目付重量100g/m
2)2枚を同一方向に重ねて目付重量を200g/m
2とした一方向炭素繊維シートを下側のキャリアフィルムにのみ配置したこと以外は、実施例1−1と同様にして、実施例2−1の熱硬化性シート状成形材料を得た。実施例2−1の熱硬化性シート状成形材料は、一方向炭素繊維シート(A1)、短繊維束(A2)及び熱硬化性樹脂組成物Baの含有量が、熱硬化性シート状成形材料100質量部に対して、それぞれ10質量部、40質量部及び50質量部となるような条件で作製した。
【0055】
〔比較例1−1〕
一方向炭素繊維シート(A1)を使用せず、短繊維束(A2)及び熱硬化性樹脂組成物Baの含有量を、熱硬化性シート状成形材料100質量部に対して、それぞれ50質量部及び50質量部とした以外は、実施例1−1と同様にして、比較例1−1の熱硬化性シート状成形材料(A2B層のみからなる)を得た。
【0056】
〔比較例2−1〕
A2B層ではなくA1B層を対向させて重ね合せたこと以外は、実施例1−1と同様にして、比較例2−1の熱硬化性シート状成形材料(A2B層が積層方向の両側の最外に位置する)を得た。
【0057】
<繊維強化プラスチックの製造及び機械的強度の評価>
実施例1−1、2−1及び比較例1−1、2−1で得られた熱硬化性シート状成形材料を成形品寸法が300mm×300mmとなる金型に置き、金型温度140℃、成形圧力15MPa及び成形時間180秒の条件で加熱・加圧して硬化させ、それぞれ厚さ2mm×300mm×300mmの平板形状の繊維強化プラスチックを得た。
【0058】
得られた平板形状の繊維強化プラスチックから長さ100mm及び幅15mmの試験片を切出した。ここでは、試験片の長さ方向と、一方向炭素繊維シートの繊維の配向方向とが同一になるように試験片を切出した。得られた試験片を、オートグラフAG−Xplus(株式会社島津製作所製)を用いてJIS K 7074に準じ、試験速度5mm/分、支点間距離80mmの条件で、23℃の温度条件下で試験を実施した。試験片の数はn=10とし、曲げ強さ及び曲げ弾性率の平均値を算出した。実施例及び比較例それぞれの結果を表2に示す。
【0059】
<熱硬化性シート状成形材料の作製−2>
〔実施例1−2〕
SMC製造装置を用いて、熱硬化性樹脂組成物Baを上下キャリアフィルム(ポリプロピレン)に厚さが均一になるよう塗布した。
次いで、下側のキャリアフィルムにのみ一方向炭素繊維シート(目付重量100g/m
2)1枚を配置した。その一方向炭素繊維シート上に短繊維束(A2)として25mmの長さに機械的に切断された炭素繊維トウを散布し、上側のキャリアフィルムで挟み込んで熱硬化性樹脂組成物を含浸させた。40℃で24時間熟成させた後、160×140mmの大きさの成形材料を2枚切り出し、2枚の熱硬化性シート状成形材料の一方向炭素繊維シートの繊維の配向方向が同一になるようにA2B層同士を対向させて重ね合せて、
図2に示されるような熱硬化性シート状成形材料(A1B層が積層方向の両側の最外に位置する)として実施例1−2の熱硬化性シート状成形材料を得た。
【0060】
〔実施例2−2〕
一方向炭素繊維シート(目付重量100g/m
2)2枚を同一方向に重ねて目付重量を200g/m
2とした一方向炭素繊維シートを下側のキャリアフィルムにのみ配置したこと以外は、実施例1−2と同様にして、実施例2−2の熱硬化性シート状成形材料を得た。実施例2−1の熱硬化性シート状成形材料は、一方向炭素繊維シート(A1)、短繊維束(A2)及び熱硬化性樹脂組成物Baの含有量が、熱硬化性シート状成形材料100質量部に対して、それぞれ10質量部、40質量部及び50質量部となるような条件で作製した。
【0061】
〔比較例1−2〕
一方向炭素繊維シート(A1)を使用せず、短繊維束(A2)及び熱硬化性樹脂組成物Baの含有量を、熱硬化性シート状成形材料100質量部に対して、それぞれ50質量部及び50質量部とした以外は、実施例1−2と同様にして、比較例1−2の熱硬化性シート状成形材料(A2B層のみからなる)を得た。
【0062】
〔比較例2−2〕
A2B層ではなくA1B層を対向させて重ね合せたこと以外は、実施例1−2と同様にして、比較例2−2の熱硬化性シート状成形材料(A2B層が積層方向の両側の最外に位置する)を得た。
【0063】
<繊維強化プラスチックの製造及び成形性の評価>
実施例1−2、2−2及び比較例1−2、2−2で得られた熱硬化性シート状成形材料を、成形品形状が170×150mmの曲面板形状にリブ及びボスが設けられたものとなる金型に置き、金型温度140℃、成形圧力15MPa及び成形時間180秒の条件で加熱・加圧して硬化させ、それぞれ繊維強化プラスチックを得た。
【0064】
得られた繊維強化プラスチックのリブ及びボスに欠肉が無い場合を成形性良好(○)とし、欠肉がある場合を不良(×)とした。ここで、リブの形状は、長さ80mm、最大高さ17mm、リブ根本の幅3mm、リブ先端の幅2mmであり、ボスの形状は、ボス根本の直径12mm、ボス先端の直径8mm、高さ7mmである。実施例及び比較例それぞれの結果を表2に示す。
【0065】
【表2】
【0066】
上記表2から、実施例1及び2は、比較例1及び2と比較して、曲げ強さ及び曲げ弾性率が大幅に向上しており、また、リブやボスなどの三次元構造を有する複雑形状にも対応していることがわかる。