(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
稼働に伴い排熱を生じる機器と、該機器を収容するラックにより構成されたラック列と、該ラック列が配置される機器室と、前記機器から生じる排熱を含んだ暖気を冷却し、冷気として送り出す冷却コイルを内蔵する空調コイルユニットとを備え、暖気が流通するホットアイルと、冷気が流通するコールドアイルとが前記ラック列を挟んで隣接するホットアイル・コールドアイル式の空調システムであって、
前記空調コイルユニットはファンを備えない空調コイルユニットであり、
前記空調コイルユニットの冷却コイルを、表面及び裏面が開口するケーシングに収納し、該ケーシングを、前記コールドアイルに面した前記ラック列の上端付近から、前記コールドアイルの中央の上方に向かって前記ケーシングの裏面が上向きとなり表面が下向きとなるよう斜めに設置し、
前記ホットアイルの暖気と、前記コールドアイルの冷気との密度差により、前記ホットアイルの暖気が前記ホットアイル内を浮上し、ラック列の上方を超えて前記ケーシングの裏面側から表面側へ抜ける間に冷却され冷気になり、前記冷却コイルからの冷気が自重により前記冷却コイル下方の前記コールドアイルへ供給されるよう構成したことを特徴とする空調システム。
前記空調コイルユニットは、直方体状のケーシングに、前記冷却コイルと、該冷却コイルに冷媒を供給する冷媒管を収納して構成されることを特徴とする請求項1に記載の空調システム。
前記空調コイルユニットは前記機器室の天井から吊り下げるように設置され、前記空調コイルユニットの下端と前記ラック列の上端との間には、空気の通過を遮る充填材が備えられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の空調システム。
【背景技術】
【0002】
サーバや通信機器といった機器類を収めた機器室では、前記機器類の稼働に伴い排熱が生じるため、前記機器室に空調設備を備えて前記機器室内の空気を冷却する必要がある。近年、こうした機器室の空調のための仕組みとして、ホットアイル・コールドアイル式と呼ばれる空調システムが提案されており、実用化が進められている。小型高密度化が進む前記機器類を冷却するにあたっては、前記機器類に対し前面から背面への空気の流れが要求されるため、その流れをラック等を用いて統一した形のシステムである。
【0003】
図12は従来におけるこの種の空調システムの一例を示しており、機器室1内に機器2を収めた複数のラック3が列をなして設置され、該複数のラック3のなす列(ラック列4と称する)同士の間には通路5が形成されている。ここでは、ラック3の列が機器室1内に計6列形成され(ラック列4a〜4f)、該ラック列4a〜4fの前後及び間に通路5が計7本(通路5a〜通路5g)形成されている場合を例示している。
【0004】
各ラック3は、機器2を収めた収容部3aの背面3bに備えたファン6により、前面3cから背面3bへと水平方向に沿って空気が抜け出るよう構成されている(尚、ファン6は、機器2に内蔵される場合もある)。また、各ラック列4a〜4fにおいては、複数のラック3が、空気の吸入側である前面3cと、排出側である背面3bとが同じ向きを向くように並べられている。そして、ラック列4a〜4fは、該各ラック列4a〜4fを構成するラック3が、互いに前面3c同士又は背面3b同士を向かい合わせるように配置されている。
【0005】
すなわち、図中、ラック列4a,4c,4eはラック3の前面3cが右に、背面3bが左に向くように並べられ、ラック列4b,4d,4fはラック3の前面3cが左に、背面3bが右に向くように並べられており、通路5のうち、通路5a,5c,5e,5gには各ラック3の背面3bが、通路5b,5d,5fには各ラック3の前面3cが、それぞれ面するようになっている。
【0006】
各ラック列4の上方には、空調機7が備えられている。空調機7は、例えば内部を冷媒が流通する冷却コイル7aに対しファン7bによって空気を送り込むことで冷気A1を作り出す仕組みであり、ラック3の上方に設置したケーシング7c内に、垂直方向に沿って配置された冷却コイル7aと、該冷却コイル7aに送風するファン7bとを備えて構成される。空調機7にて発生させた冷気A1は、ファン7bの駆動により各空調機7から各通路5b,5d,5fに送り出される。また、通路5b,5d,5fに送り込まれた冷気A1は、各ラック3に備えたファン6の駆動により、各通路5b,5d,5fに面したラック3の前面3cから収容部3aへ吸い込まれ、該収容部3aを通過する間に機器2から発生する熱を受け取って暖気A2となる。暖気A2は、各ラック3の背面3bから、該背面3bの面する通路5a,5c,5e,5gへ送り込まれる。
【0007】
通路5a,5c,5e,5gへ送り込まれた暖気A2は、各ラック列4の上方に回って空調機7にて冷却され、再度冷気A1として通路5b,5d,5fに送り込まれる。
【0008】
このように、機器室1では、暖気A2の流通するホットアイルとして設定された通路5a,5c,5e,5gと、冷気A1の流通するコールドアイルとして設定された通路5b,5d,5fとを、各ラック列4を挟んで隣接するよう交互に配置し、前記ホットアイル5a,5c,5e,5gと前記コールドアイル5b,5d,5fの間に位置する各ラック3を通して前記コールドアイル5b,5d,5fから前記ホットアイル5a,5c,5e,5gへ空気を流通させ、各ラック3に収容された機器2の排熱を回収するようにしている。
【0009】
尚、ここではコールドアイル5b,5d,5fの上方に空調機7を備え、ホットアイル5a,5c,5e,5gの暖気をラック列4の上方から空調機7へ送り込むよう構成した場合を例に説明したが、ホットアイル・コールドアイル式の空調システムとしては、この他に例えば機器室の床下を空気の流路として利用する型式や、空調機をラック列の側方に設け、該ラック列の側方からコールドアイルへ冷気を送り込む型式等、種々の型式が存在する。
【0010】
この種の空調システムに関する技術を記載した文献としては、例えば、下記の特許文献1等がある。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0023】
図1〜
図3は本発明の実施による空調システムの形態の一例を示すものであって、図中、
図12と同一の符号を付した部分は同一物を表し、機器2等の基本的な構成は
図12に示す従来例と同様である。
【0024】
本実施例の場合、
図1に示す如く、機器室1内に機器2を収めた複数のラック3が列をなして配置され、且つラック列4(ラック列4a〜4f)の前後及び間に形成した通路5のうち通路5a,5c,5e,5gをホットアイルに、通路5b,5d,5fをコールドアイルに設定した点は上述の従来例と共通しているが、ホットアイル5a,5c,5e,5gと、コールドアイル5b,5d,5fとの間の空気の循環を、冷気A1と暖気A2の密度差による自然対流で賄うよう構成した点に特徴がある。すなわち、本実施例では、上述の従来例(
図12参照)の如きファン6やファン7bを設置しておらず、上記従来例の空調機7に相当する部分を、ファン7bを備えない空調コイルユニット8として構成している。
【0025】
本実施例の空調システムに設置される空調コイルユニット8の形態を
図2、
図3に示す。空調コイルユニット8は、
図2に示す如く扁平な直方体状のケーシング8a内に、冷媒の流通するチューブを板状のフィンに沿って配した構成の冷却コイル8bを収納してなり、扁平な形状をなすケーシング8aの表面8c及び裏面8dは開口し、裏面8dから空気がケーシング8a内を通って表面8cへ抜け出せるようになっている。裏面8dの上下には吊りフランジ8eが張り出しており、
図3に示す如く、該吊りフランジ8eをねじ棒等の吊具9の一端に取り付け、該吊具9の他端を機器室1の天井(
図1参照)に固定することで、ケーシング8aの全体を機器室1内の所定の位置に保持することができるようになっている。
【0026】
ケーシング8aの内部空間には、コイル収納部8fと配管収納部8gが画成されており、冷却コイル8bはコイル収納部8fに収納されている。配管収納部8gには、冷却コイル8bへ冷媒を供給し、また冷却コイル8bから冷媒を回収するための冷媒管8hが収納される。冷媒管8hは、ケーシング8aの上面8iから配管収納部8g内部へ通じ、さらに該配管収納部8gに隣接するコイル収納部8fへと導かれて冷却コイル8bに接続されている。こうして、冷却コイル8bには、冷媒管8hを介して冷水やフロン冷媒等の各種冷媒が流通し、冷却コイル8bにて間接的に空気が冷却されるようになっている。
【0027】
このような構成の空調コイルユニット8が、
図3に示す如く、ケーシング8aの裏面8dを斜め上方に、表面8cを斜め下方に向ける形で、機器室1(
図1参照)の天井から斜めに吊り下げるようにして固定される。
図1に示す如く、機器室1内における空調コイルユニット8の設置位置はコールドアイル5b,5d,5f上であり、表面8cの下端がラック3の前面3cの上端付近に、裏面8dの上端が機器室1内の天井付近に、それぞれ位置するように設置される。
【0028】
また、空調コイルユニット8は、
図2に一点鎖線にて示す如く、複数の空調コイルユニット8が表面8c及び裏面8dを同じ側に向けるように列をなして配置される。この際、各空調コイルユニット8では、上述の如くコイル収納部8fに隣接して冷媒管8hを収納した配管収納部8gが設置されており、コイル収納部8fと配管収納部8gとが一体となって直方体状のケーシング8aを形成している。したがって、複数の空調コイルユニット8を隣接させて空調コイルユニット8の列を形成するにあたり、直方体状のケーシング8a同士が互いに接するように配置することができ、複数の空調コイルユニット8同士の間に隙間を形成されにくくして、該空調コイルユニット8同士の間を通って空気が抜けることをなるべく防止し得るようになっている。
【0029】
空調コイルユニット8の列は、
図1に示す如く、各ラック列4毎に、ラック3の前面3cの上方に一列ずつ設置される。すなわち、各コールドアイル5b,5d,5f毎に空調コイルユニット8の列が2列ずつ、互いに表面8cが向かい合うように斜めに吊り下げられた形であり、該2列の空調コイルユニット8は、表面8cの上端同士が近接して配置される。各空調コイルユニット8の表面8cの下端は上述の如くラック3の前面3cの上端付近に位置しているが、空調コイルユニット8の表面8cの下端と、ラック3の前面3cの上端との間の隙間にはビニールシート等の充填材10が貼り込まれており、空調コイルユニット8の表面8cの下端と、ラック3の前面3cの上端との間の空気の通過を遮るようにしている。こうして、暖気A2が空調コイルユニット8内部を通らずに空調コイルユニット8とラック列4との隙間からコールドアイル5b,5d,5fに漏れてしまうことを防止し、空気の冷却の効率化を図っている。
【0030】
次に、上記した本実施例の作動を説明する。
【0031】
図4は本実施例の空調システムにおける空気の流れを説明する模式図であり、
図1に示した空調システムのうち、ラック列4a,4bの周辺を抜き出して図示している。すなわち、
図4では本実施例の空調システムのうち、ホットアイルとコールドアイルを備えてなる一ユニットを図示しており、他のラック列4c,4d及びラック列4e,4f周辺においても空気の流れは同様であるので、ここではラック列4a,4b周辺を代表として説明する。
【0032】
コールドアイルに設定された通路5bの上方には空調コイルユニット8が設置されており、該空調コイルユニット8内の冷却コイル8bによって冷却された空気が、冷気A1としてコールドアイル5b内に供給される。冷却コイル8bで冷却された冷気A1は比重が大きいので、コールドアイル5b内を自重によって下降する。
【0033】
本実施例の空調システムの場合、機器室1の床には空気の流通する穴等を備えていない。このため、コールドアイル5bを下降した冷気A1は、コールドアイル5bに面した二列のラック列4a,4bを構成するラック3の前面3cから、収容部3aを通って背面3b側へ、空調コイルユニット8から次々に下降してくる冷気A1に押し出されて移動し、ホットアイルとして設定された通路5a,5cへと抜け出ていく。冷気A1は、収容部3aを通る間に、該収容部3aに収容された機器2から生じる排熱を受け取り、暖気A2となってホットアイル5a,5cに排出される。暖気A2は比重が小さいので、ホットアイル5a,5cを上に向かって流れ、ラック列4a,4bの上方を回り込んで空調コイルユニット8まで還流し、該空調コイルユニット8の冷却コイル8bを通過することで冷却され、再び冷気A1としてコールドアイル5bへ上方から供給される。
【0034】
この際の気流分布は、コールドアイル5bにおいては上方の冷却コイル8bの直下が最も速い。暖気A2が冷却コイル8bを通る間に短い距離で冷熱を授与され、急激に温度を低下させて冷気A1となって密度を増し、沈降力により駆動するからである。続いて、冷気A1は、ラック列4a,4bを構成するラック3の収容部3aに対し、上方から下方にかけて順次進入する。こうして、下降する冷気A1は、少しずつ横方向へ分岐して体積が減少するので、下方へ向かうに従い徐々に減速していく。
【0035】
ホットアイル5a,5cにおいては、コールドアイル5bにおける冷気A1の流れとはちょうど逆に、ラック収容部3aから流出する暖気A2が上方へ向かうに従って次々と合流し、コールドアイル5b側との温度差を増して加速しながら上昇していく。したがって、暖気A2の流速は、下方の床面付近が最も遅く、上方へ向かうに従って大きくなる。
【0036】
このように、本実施例の空調システムでは、ラック列4a,4b及び空調コイルユニット8を介して互いに隣接するホットアイル5a,5cの暖気A2とコールドアイル5bの冷気A1とが、密度差によって互いに浮上し又は沈み込もうとする力を利用して空気を循環させ、さらにその動きに従って空調コイルユニット8にて空気を冷却し、冷気A1をラック3にて機器2に接触させて排熱を回収するようにしている。ここで、本実施例の場合、上述の如くコールドアイル5bに面するラック3の上端付近から、コールドアイル5b上方の機器室1の天井に向かって斜めに渡された冷却コイル8bを通して空気を流すようにしており、この配置によって効率良く空気を冷却しながら、冷気A1を自重によって効率良く下方のコールドアイル5bへ送り込むことができるようになっている。
【0037】
すなわち、例えば仮に、冷却コイル8bを
図5に参考例として示す如く鉛直方向に沿って配すると、冷却コイル8bで冷却された空気は、自重により冷却コイル8b下方の狭い範囲に向かって降りて行くことになってしまう。しかも、冷気A1が冷却コイル8bの両面どちら側にも無差別に流れる結果、
図5中におけるラック列4の上部からホットアイル側に至る流れが形成されてしまい、この流れがホットアイルからコールドアイルへの暖気の流れを妨げることにもなる。このように、冷却コイル8bを鉛直方向に沿って配置した場合、ファンによる送風を行うことなく冷気A1をコールドアイル5bに満遍なく行き渡らせることは難しい。
【0038】
一方、仮に
図6に別の参考例として示す如く、冷却コイル8bをコールドアイル5bの上側を覆うようにラック列4aの上端からラック列4bの上端まで水平方向に配置すれば、冷却コイル8bからコールドアイル5b全体に冷気A1を供給することは可能と考えられるが、この場合は、
図4に示す如く斜めに冷却コイル8bを設置した構成と比較して空気の流路における冷却コイル8bの設置面積が小さくなり、その分だけ冷却の効率が低下してしまう。また、冷却コイル8bと機器室1の天井との間に距離があることで、前記天井付近に軽い暖気A2が滞留し、空気の循環に影響を与えてしまう虞がある。また、
図6に示す参考例の場合は、冷却コイル8bの下面の高さがラック列4a,4bの上端と同レベルであるため、温度差による空気の浮力ないし沈降力によって空気を駆動するにあたり、床からラック列4a,4b上縁までの高さしか生かせない。空気の循環にあたって駆動力となるのは冷気A1と暖気A2の圧力差、すなわち高低差に密度差を乗じた値であるが、このうちの高低差を大きく稼げないことを意味している。
【0039】
その点、
図4に示す如き本実施例であれば、機器室1の天井とラック3との間の空間を最大限に利用し、空気の流路における冷却コイル8bの面積をなるべく大きく確保すると共に、ラック3の上端よりも上方に位置する暖気A2をも冷却し、冷気A1として下方のコールドアイル5bに送り込み、円滑に空気を循環させることができる。
【0040】
上述の如き構成を備えた本実施例の空調システムにより、機器2の排熱を処理するのに十分な冷却効率が得られることを、本発明の発明者らは計算により実証している。以下、説明する。
(I)空気の流速の計算
【0041】
まず、ラック3と冷却コイル8bとの間を循環する空気の流速を算出した。ここで、ラック3の高さH1を2,000mm、機器室1の床面から天井までの高さH2を3,000mm、ラック列4a,4bの幅W1をそれぞれ1,100mm、コールドアイル5bの幅を二等分した幅W2を600mm、ホットアイル5aの幅、及びホットアイル5cの幅を二等分した幅W3を700mmと仮定した(
図4参照)。ラック列4の奥行きは、ラック列4a,4bとも3,000mmと仮定した(一台分の奥行きが600mmのラック3を奥行方向に五台並べた場合を想定している)。また、ラック3を通過して冷却コイル8bへ向かう暖気A2の温度を35℃と仮定した。
【0042】
冷気A1と暖気A2が互いに対して沈み込み、又は浮上しようとする動きは、互いの密度差を原因として生じる圧力差により駆動される。この圧力差は、重力加速度と、冷気A1及び暖気A2の占める空間の高さと、冷気A1と暖気A2との密度差の積として表され、また、冷気A1及び暖気A2の密度はそれぞれ絶対温度に反比例して決まる。
図4に示す空調システムでは、空間の高さが3,000mmであり、また、空気の密度ρは353/絶対温度であるので、暖気A2の温度を35℃と仮定した場合、冷気A1と暖気A2の間の圧力差は、冷気A1の温度に対して
図7の如き関係を示す。すなわち、圧力差(駆動圧力)は冷気A1の温度(給気温度)が低いほど、つまり冷気A1と暖気A2の間の温度差が大きいほど大きく、冷気A1の温度が15℃であれば2.3Pa程度となる。この圧力差を駆動圧力として、暖気A2は冷気A1に対して浮上しようとし、冷気A1は暖気A2を押し退けるように沈み込もうとする(
図4参照)。
【0043】
ここで、冷却コイル8b(
図4参照)は、上述の如く冷媒の流通するチューブを板状のフィンに沿って配した構成であり、冷却コイル8bを空気が通過するにあたっては圧力損失が発生する。この圧力損失は空気の流速によって決まり、また逆に、圧力損失に応じて冷却コイル8bに対する空気の流速が決定する。
【0044】
空気の流速と圧力損失との関係は、冷却コイル8b自体の仕様によって左右されるが、一例として、1フィートあたり144枚のフィンピッチを有するある製品では
図8のような関係を示す。すなわち、圧力損失をΔP、空気の流速をvとすると、次の関係式に近似される。
[数1]
ΔP=5.43v
1.56
【0045】
この圧力損失ΔPを、上述の駆動圧力として算出した値が少しでも上回れば、
図4に示す如き空気の自然循環が作動することになる。
【0046】
ここで、上の[数1]は、冷却コイル8bを構成するコイル一列あたりについて成り立つ関係式である。一般に、冷却コイルでは、2列から高々8列までの偶数列のコイルを備えることが通常であるので、上記[数1]左辺のΔPに上述の駆動圧力の値(2.3Pa)をそのまま代入することはできない。そこで、2列、4列、6列、8列の各列数のコイルを有すると仮定した冷却コイル8bについて、最終的な圧力損失ΔPが2.3Paとなるよう、冷却コイル8bを通過する空気の流速vの計算を行った。その結果、各列数のコイル列を有すると仮定した冷却コイル8bにおける空気の流速vは、それぞれ下記[表1]に示す通りとなった。すなわち、最終的な圧力損失すなわち駆動圧力ΔPが等しい(2.3Pa)場合、冷却コイル8bを通過する空気の流速vはコイルの列数Rが多いほど小さくなり、例えば列数Rが2列の場合は空気の流速vは0.370m/sであるのに対し、列数Rが4列の場合は空気の流速vは0.237m/sである。
【表1】
(II)要求される冷却能力の計算
【0047】
次に、冷却コイル8bに対して上記[表1]に示す風量で送り込まれる空気を、所定の温度まで冷却するのに必要な冷却能力の算出を行った。冷却コイル8bに還流する暖気A2(
図4参照)の温度は、上述の如く35℃とした。また、冷却コイル8bから送り出される冷気A1(
図4参照)の温度は15℃と仮定とした。さらに、冷却コイル8bに冷媒として送り込まれる冷水の温度は、入口で10℃、出口で15℃と仮定した。ここで設定した冷水の入口温度(10℃)は、居室としての室内環境(22℃で45%)程度の露点温度を上回っており、冷却コイル8bの表面における結露の心配が無い温度である。冷却コイル8bに供給される冷媒と、冷却コイル8bを通過する空気との対数平均温度差ΔTlmは、冷媒の流れる向きと空気の流れる向きとが互いに逆向きをなす対向流とした場合、10.8℃である。
【0048】
また、
図4に示す空調コイルユニット8の幅W4を1,000mmとし、且つ空調コイルユニット8の1台あたりの奥行き(
図4の紙面に直交する方向の長さ)を3,000mmと仮定すると、1台の空調コイルユニット8が空気の流路に対して有する面積は3m
2である。ただし、
図2に示す如く、空調コイルユニット8の外郭を構成するケーシング8aにおいて、冷却コイル8bが収納されて空気との熱交換を行う部分はコイル収納部8fのみであり、空調コイルユニット8は空気の流路に対する断面全域で空気を冷却するわけではない。ここでは、コイル収納部8fのケーシング8aに占める割合を8割と仮定する。つまり、1台の空調コイルユニット8あたりのコイル面積は、3×0.8=2.4m
2である。
図4では2台の空調コイルユニット8を図示しているので、合計のコイル面積A
cは2.4×2=4.8m
2と仮定することができる。
【0049】
図4に図示された2台の空調コイルユニット8を通過する空気の風量V
cは、空気の流速vとコイル面積A
cの積として求められ、下記[表2]に示す如く、例えばコイル列数Rが2列の場合は6389m
3/h、コイル列数Rが4列の場合は4097m
3/hである。
【表2】
【0050】
冷却コイル8bでは、上記の風量で流入する空気を35℃から15℃まで冷却する。つまり、単位時間毎に上記の風量分だけ冷却コイル8bを通過する空気から、35℃と15℃との温度差(20℃)分に相当する熱量を奪う必要がある。この単位時間あたりに空気から奪うべき熱量、すなわち冷却コイル8bにおける要求冷却能力Qdは、風量V
cや空気の密度、さらにコイル列数R(空気のコイル通過寸法は、コイル列数Rに比例する)に応じた空気と冷却コイル8bとの接触時間等によって決定される。上記[表2]に示す如く、例えばコイル列数Rが2列の場合は42.6kW、コイル列数Rが4列の場合は27.3kWである。
【0051】
さらに、上記要求冷却能力Qdに応じ、単位時間あたりに冷却コイル8b内を流通させるべき冷媒の量が決定される。上記[表2]に示す如く、例えばコイル列数Rが2列の場合、冷却コイル8bにおける要求冷却能力Qdは42.6kWであり、冷媒である水の温度を上述の如く空調コイルユニット8の入口で10℃、出口で15℃と仮定した場合、単位時間あたりに空調コイルユニット8に供給すべき水量(要求水量)は122L/minである。
【0052】
冷媒である水について、単位時間あたりの所定の供給量を満足するための流速は、冷却コイル8bとして実際に採用される製品によって異なるが、上述の要求水量に比例して決まる。例えば要求水量が122L/minである場合、冷却コイル8bにおける水の流速は0.34m/sである。
(III)要求される冷却能力の実現の検証
【0053】
続いて、上述の温度(35℃)の空気を上述の流速v(例えば、コイル列数Rが2列の場合は0.370m/s、コイル列数Rが4列の場合は0.237m/s)にて冷却コイル8bに供給し、且つ上述の温度(入口で10℃、出口で15℃)の水を上述の流速(例えば、コイル列数Rが2列の場合は0.34m/s、コイル列数Rが4列の場合は0.22m/s)にて冷却コイル8bのチューブに供給した場合に、冷却コイル8bの冷却能力Qcoilが、要求冷却能力Qd(例えば、コイル列数Rが2列の場合は42.6kW、コイル列数Rが4列の場合は27.3kW)を満足し得るか否かを検証した。
【0054】
図9は、冷却コイル8bのある製品に関し、冷却コイル8bを通過する空気の流速vと、冷却コイル8bのチューブに冷媒として供給される水の流速と、冷却コイル8bにおける伝熱係数Kfとの関係を説明するグラフである。伝熱係数Kfとは、冷却コイル8bにおける熱交換の効率を表す量であり、コイル面積A
cあたり、対数平均温度差ΔTlmあたり、コイル列数Rあたりの熱交換量である。
図9中、縦軸下方が空気の流速v、縦軸上方が伝熱係数Kfであり、空気の流速vと冷却コイル8bのチューブにおける水の流速とに基づき、伝熱係数Kfを求めることができるようになっている。
【0055】
図9を参照して説明すると、例えばコイル列数Rが2列の場合、空気の流速vは0.370m/sであり([表1]参照)、冷却コイル8bのチューブに供給すべき水の流速は0.34m/sである([表2]参照)。この場合、
図9の縦軸下方におけるv=0.370m/sの位置から、水の流速が0.34m/sの場合に対応する曲線L1に向けて横方向に直線を伸ばす。該横方向の直線と曲線L1の交点から、次に伝熱係数Kfを表す曲線L2に向けて縦方向に直線を伸ばす。該縦方向の直線と、直線L2との交点における縦軸の値が、その条件(空気の流速vが0.370m/s、水の流速が0.34m/s)における伝熱係数Kfである。
【0056】
同様の手順に従って算出した各条件における伝熱係数Kfを[表3]に示す。伝熱係数Kfに、コイル列数R(2列、4列、6列、8列)、コイル面積A
c(4.8m
2)、対数平均温度差ΔTlm(10.8℃)を乗じると、冷却コイル8bにおける実際の冷却能力Qcoilが算出される。
【表3】
【0057】
コイル列数Rが2列の場合は冷却能力Qcoilが34.3kWとなり、要求冷却能力Qd(42.6kW)を下回るため採用できないが([表2]及び[表3]参照)、列数Rが4列以上であれば冷却能力Qcoilが要求冷却能力Qdを上回っており、必要な空気の冷却を実際に行うことが可能である。コイル列数Rは、多すぎれば冷却コイル8bの冷却能力が無駄に大きくなる虞がある。一方、コイル列数Rを増やすと、空気抵抗が大きくなる結果、駆動圧力を同じとした場合に風量が小さくなり、冷却コイル8bの冷却能力が小さくなってしまうという逆のデメリットを生じる可能性も考えられる。また無論、冷却コイル8bの製造にかかる費用もそれだけ余計にかかってしまう。いずれにしろ、少なくとも上に検証した範囲に関する限り、冷却コイル8bに装備するコイルの列数としては、4列が適当であると言える。
(IV)冷却コイル内を通過する空気の温度変化に関する検証
【0058】
さらに、冷却コイル8bを4列のコイルにより構成すると仮定し、該冷却コイル8b内における空気の温度変化を検証した。
【0059】
図4に示す冷却コイル8bの裏面8dから表面8cまでの距離、すなわち空気の流路内における冷却コイル8bの厚みTを、簡単のため237mmと仮定する。4列のコイルにより構成した冷却コイル8bにおける空気の流速は0.237m/sであるので([表1]参照)、空気が冷却コイル8bを通過する時間はちょうど1秒である。
【0060】
また、
図10に示す如く、冷却コイル8bにおけるフィン8j同士の距離Dは、1フィートあたり144枚のフィン8jが設置される冷却コイル8bの場合、2.12mmである。したがって、1枚のフィン8jの片面が処理する空気の容積V
fは、
図10中の奥行き1,000mmあたり、237×(2.12/2)×1,000×10
−9=0.251×10
−3m
3、すなわち251mlである。本実施例の条件では、冷却コイル8bにおいて、空気の流速v、空気の移動する距離(すなわち冷却コイル8bの厚み)T、さらに空気の動粘度νによって決まるレイノルズ数Reは3511と求められる。また、動粘度νを温度拡散率で除した値であるプラントル数Prは0.8である。レイノルズ数Reが10の5乗に満たないので、熱伝導の行われやすさを表すヌッセルト数Nuは、フィン8jとの熱交換の対象を層流とした場合の下記計算式を適用し、36.5と求めることができる。
[数2]
Nu=0.664Re
1/2・Pr
1/3=36.5
【0061】
そして、
図10に示す如く、チューブ8kにおける冷媒の流れが空気の流れに向かい合う対向流をなすよう冷却コイル8bが構成されている場合、熱伝達率α
cは、下記[数3]により求めることができる。ここで、λは空気の熱伝導率であり、この場合は0.026W/m・Kである。
[数3]
Nu=α
c・T/λ
【0062】
上記[数3]より、熱伝達率α
c=4.01W/m
2・Kと求められる。この熱伝達率α
cの値に基づき、空気温度θ
aを時間tに対する関数θ
a(t)として求める。
【0063】
微小時間dtあたりの空気温度の変化量dθは、空気がフィン8jの間を通過するのに伴い、該フィン8jから冷熱を受け取ることにより生じるので、以下の式が成り立つ。
[数4]
cρV
f(dθ/dt)=α
cA
fΔθ
【0064】
ここで、cは空気の比熱(1.0kJ/kg・K)であり、ρは空気の密度(1.2kg/m
3)である。A
fは1枚のフィン8jの奥行き1,000mmあたりの面積であり、冷却コイル8bの厚みT(0.237)に1mを乗じた値(0.237m
2)である。Δθは、空気温度θ
a(t)とフィン8jの表面温度θ
sとの差である。
【0065】
上記[数4]を整理して、以下の[数5]が得られる。
【数5】
【0066】
上記[数5]を不定積分して、以下の[数6]が得られる。尚、ここでeは自然対数の底、θ
0は空気温度θ
a(t)の初期値(この場合は35℃)である。
【数6】
【0067】
上記[数6]の関係を
図11にグラフとして示す。35℃の空気が1秒間かけてフィン8jの間を通過すると、フィン8jが10℃であれば空気は約11.1℃まで冷却され、フィン8jが15℃であれば空気は約15.9℃まで冷却される。すなわち、
図4に示す如き空調システムにおいて、ホットアイル5a,5cの暖気A2を、コールドアイル5bの冷気A1との密度差により駆動させて冷却コイル8bを通し循環させる際、冷却コイル8bは、通過する空気を35℃の暖気A2を15℃まで冷却するのに十分な性能を現に備えることが可能である。この際、冷却コイル8bを通過する空気の流れに対し、チューブ8k(
図10参照)における冷媒の流れを対向流に設定しておくとより確実である。
【0068】
こうして、本実施例では、上述の従来例(
図12参照)の如きファン6やファン7bによらず、ホットアイル5a,5c,5e,5gとコールドアイル5b,5d,5f(
図1参照)の間での空気の密度差を駆動力として空気を循環させ、その際、暖気A2を十分に冷却し、冷気A1としてコールドアイル5b,5d,5fに供給することができる。
【0069】
ただし、上述の計算は、あくまで想定され得る一つの条件下において本発明が十分に実施可能であることを検証したものであり、例えば機器室1の寸法や各ラック3の配置、機器2からの排熱の量、あるいはラック3を空気が通過する際の圧力損失の大きさ等の条件によっては、空気を循環させる駆動力として密度差だけでは不足する場合もあり得る。その場合には、必要に応じて例えばラック3や空調コイルユニット8にさらにファンを追加し、空気の循環に必要な駆動力を補助しても良い。このようにしても、例えば
図12に示す如き従来例と比較すれば、ファンに係る材料費やエネルギー、メンテナンスの手間や費用等は小さく済む。
【0070】
以上のように、上記本実施例は、稼働に伴い排熱を生じる機器2と、該機器2を収容するラック3により構成されたラック列4(4a,4b,4c,4d,4e,4f)と、該ラック列4が配置される機器室1と、機器2から生じる排熱を含んだ暖気A2を冷却し、冷気A1として送り出す空調コイルユニット8とを備え、暖気A2が流通するホットアイル5a,5c,5e,5gと、冷気A1が流通するコールドアイル5b,5d,5fとが前記ラック列4a,4b,4c,4d,4e,4fを挟んで隣接するホットアイル・コールドアイル式の空調システムであって、空調コイルユニット8の冷却コイル8bを、コールドアイル5b,5d,5fに面したラック列4a,4b,4c,4d,4e,4fの上端付近から、コールドアイル5b,5d,5fの上方に向かって斜めに設置し、ホットアイル5a,5c,5e,5gの暖気A2と、コールドアイル5b,5d,5fの冷気A2との密度差により、ホットアイル5a,5c,5e,5gの暖気A2がホットアイルa,5c,5e,5g内を浮上し、冷却コイル8bからの冷気A1が自重により冷却コイル8b下方のコールドアイル5b,5d,5fへ供給されるよう構成しているので、ファンによらずにホットアイル5a,5c,5e,5gとコールドアイル5b,5d,5fの間での空気の密度差を駆動力として空気を循環させ、その際、暖気A2を十分に冷却し、冷気A1としてコールドアイル5b,5d,5fに供給することができる。
【0071】
また、本実施例において、空調コイルユニット8は、直方体状のケーシング8aに、冷却コイル8bと、該冷却コイル8bに冷媒を供給する冷媒管8hを収納して構成されるので、複数の空調コイルユニット8を隣接させて列を形成するにあたり、直方体状のケーシング8a同士が互いに接するように配置することができ、複数の空調コイルユニット8同士の間に隙間を形成されにくくして、空調コイルユニット8同士の間を通って空気が抜けることを防止することができる。
【0072】
また、本実施例において、空調コイルユニット8は機器室1の天井から吊り下げるように設置され、空調コイルユニット8の下端とラック列4の上端との間には、空気の通過を遮る充填材10が備えられているので、暖気A2が空調コイルユニット8内部を通らずに空調コイルユニット8とラック列4との隙間からコールドアイル5b,5d,5fに漏れてしまうことを防止し、空気の冷却を一層効率化することができる。
【0073】
また、本実施例においては、前記冷却コイルに供給される冷媒の入口温度を、前記機器室内の空気の露点温度以上の温度に設定すれば、冷却コイル8bの表面における結露を防止することができる。
【0074】
したがって、上記本実施例によれば、ファンの設置を削減し、省エネルギーと共に省コストや省メンテナンスを図りつつ、機器室内の空気を好適に冷却し得る。
【0075】
尚、本発明の空調システムは、上述の実施例にのみ限定されるものではない。機器室内におけるラック列の数や、各ラック列を構成するラックの数、ラック列や通路同士の配置、ラックや通路、空調コイルユニットの寸法等は適宜変更し得ること、その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。